(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982314
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート
(51)【国際特許分類】
B32B 9/02 20060101AFI20211206BHJP
D04H 1/4266 20120101ALI20211206BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20211206BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
B32B9/02
D04H1/4266
B32B5/02 A
B32B5/26
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-34218(P2018-34218)
(22)【出願日】2018年2月28日
(65)【公開番号】特開2019-147322(P2019-147322A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2020年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】南 知宏
(72)【発明者】
【氏名】信藤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷 悦郎
【審査官】
南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−321484(JP,A)
【文献】
特開2015−227440(JP,A)
【文献】
特開2015−139603(JP,A)
【文献】
特開2010−196175(JP,A)
【文献】
特開2010−094962(JP,A)
【文献】
Collids and Surfaces B: Biointerfaces,NL,2012年,89,254-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D04H 1/00−18/04
D01F 1/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートと、形態安定性に優れ且つ熱融着成分を含む基材とが、該熱融着成分によって接合されてなるポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項2】
基材が、不織布、織物、編物、フィルム及びネットよりなる群から選ばれたものである請求項1記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項3】
基材が不織布、織物又は編物であって、構成繊維として熱融着成分である熱融着性繊維を含んでいる請求項2記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項4】
熱融着性繊維が芯鞘型複合繊維であって、鞘成分が熱融着成分である請求項3記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項5】
鞘成分がポリエチレンであり、芯成分がポリエチレンテレフタレートである芯鞘型複合繊維を用いる請求項4記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項6】
基材がフィルム又はネットであって、ナノファイバーシートと当接している面に熱融着成分が存在する請求項2記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項7】
一分子中に複数個のNCN基を持つと共に、該NCN基が親水性基で結合されてなるカルボジイミド化合物によって架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを用いる請求項1記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項8】
基材の引張強度が4N以上である請求項1記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【請求項9】
架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートの基材側と対向する表面に担持体が積層されてなる請求項1記載のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性、吸水性及び保水性に優れたポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートに関し、大気中で収縮しにくく、取り扱い性に優れたポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリグルタミン酸は、納豆をかき混ぜたときに生成する糸の主成分であることは周知である。また、ポリグルタミン酸を含むゲルや繊維等は、生分解性、生体適合性、吸水性及び保水性に優れているため、人体に適用する化粧品や医療品として用いるのに好ましいことも知られている。さらに、ポリグルタミン酸は大気中の湿分を吸水して溶解しやすいため、ポリグルタミン酸をカルボジイミド化合物によって架橋して、溶解しにくいようにすることも知られている。これらの事項は、特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2015−227440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件出願人は、特許文献1の出願人から実施許諾を受け、ポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを製造することを試みていたところ、このシートは大気中で収縮しやすく取り扱いにくいことを発見した。したがって、本発明の課題は、ポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートの収縮を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを特定の基材と接合させることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートと、形態安定性に優れ且つ熱融着成分を含む基材とが、該熱融着成分によって接合されてなるポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートに関するものである。
【0006】
本発明で用いるナノファイバーシートは、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーが集積されてなるものである。ポリグルタミン酸を架橋剤で架橋することにより、架橋されたポリグルタミン酸が得られる。用いる架橋剤は任意であるが、本発明においては、特定のカルボジイミド化合物を用いるのが好ましい。すなわち、一分子中に複数個のNCN基を持つと共に、このNCN基が親水性基で結合されてなるカルボジイミド化合物を用いるのが好ましい。NCN基はポリグルタミン酸のカルボニル基に結合するもので、このNCN基によって架橋される。したがって、NCN基が多い方が架橋密度が高くなり、架橋されたポリグルタミン酸が湿分を吸水して溶解しにくくなるので、NCN基が一分子中に複数存在するのが好ましい。また、NCN基を親水性基で結合することによって、架橋されたポリグルタミン酸の保水性や吸水性が低下しにくくなる。
【0007】
架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを製造するには、一般的に、以下の製造方法によるのが好ましい。すなわち、ポリグルタミン酸と架橋剤を水等の溶媒に溶解させて紡糸溶液を得た後、公知のエレクトロスピニング法により、担持体にポリグルタミン酸よりなるナノファイバーをシート状に集積させ、その後、加熱等の手段によって架橋剤でポリグルタミン酸を架橋させて製造するのが好ましい。担持体としては、従来公知のものが採用されるが、最終的には取り除かれるものであるので、ナノファイバーシートに強固に接着しないものを採用するのが好ましい。具体的には、金属箔、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレート繊維で構成された不織布、織物又は編物等が用いられる。なお、ナノファイバーシートの目付は0.1〜20g/m
2程度である。
【0008】
ナノファイバーシートは、特定の基材と接合されている。特定の基材としては、形態安定性に優れ且つ熱融着成分を含む基材が挙げられる。ここで、形態安定性に優れるという意味は、ナノファイバーシートの収縮力によって形態が変化しないということである。一応の目安としては、いずれの方向においても、引張強度が4N以上であればよい。なお、基材の引張強度は、幅10mmの短冊状の試験片を採取し、この試験片の上下端をチャックで把持し、チャック間距離10mmで引張速度100mm/minで引張試験を行った際に、試験片が破断するときの強度である。
【0009】
基材としては、シート状のものであれば、どのようなものでも使用しうる。たとえば、不織布、織物、編物、フィルム又はネット等を使用することができる。そして、これらの基材中、特に基材表面には熱融着成分が含まれている。熱融着成分は、加熱によって軟化又は溶融し、このときに他材料を圧接し、冷却すると熱融着成分が固化して、他材料を接着させるものである。熱融着成分としては、一般的に熱可塑性樹脂が用いられ、特に、比較的低温度で軟化又は溶融するポリオレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。
【0010】
不織布、織物及び編物等の繊維系基材の場合には、熱融着成分として熱融着性繊維を用いるのが好ましい。熱融着性繊維としては、ポリオレフィン系繊維が用いられる。特に、熱融着性繊維として芯鞘型複合繊維が用いられる。かかる芯鞘型複合繊維としては、芯成分がポリエチレンテレフタレートで鞘成分がポリエチレンであるものや、芯成分がポリエチレンテレフタレートで鞘成分が共重合ポリエステルであるものが用いられる。芯鞘型複合繊維は、鞘成分が熱融着成分となるもので、芯成分は鞘成分が軟化又は溶融してもその影響を受けずに当初の繊維形態を維持するものである。したがって、熱融着成分として芯鞘型複合繊維を含む繊維系基材は、鞘成分が熱融着成分として機能する際にも、その形態が殆ど変化しないため、本発明で用いる基材として好適である。
【0011】
また、フィルム及びネットの如き非繊維系基材は、その表面にのみ熱融着成分が存在するものを用いるのが好ましい。全体に熱融着成分が存在すると、加熱時にフィルム又はネットが収縮しやすくなるからである。具体的には、低融点の熱可塑性樹脂と高融点の熱可塑性樹脂とを共押出加工して得られた二層積層フィルム又は二層積層ネットが用いられ、低融点の熱可塑性樹脂側に、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートが当接されるものである。用いる熱可塑性樹脂の具体例としては、低融点の熱可塑性樹脂にポリオレフィン、高融点の熱可塑性樹脂にエチレン・ビニルアルコール共重合体を挙げることができる。
【0012】
基材を用いた場合のポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートの製造方法は、たとえば、以下のとおりである。まず、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートと基材とを積層して積層体を得る。具体的には、上述した公知のエレクトロスピニング法によって、担持体上にナノファイバーシートを形成した後に、基材をナノファイバーシート上に積層し、三層積層体を得る。この三層積層体を加熱及び加圧することにより、基材中の熱融着成分を軟化又は溶融せしめ、その後冷却することにより、ナノファイバーシートと基材とが固化した熱融着成分によって接合され、本発明に係るポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートが得られる。なお、基材中に含まれている熱融着成分を、ナノファイバーシートとの積層面に存在させておくことは当然である。
【0015】
以上のようにして、基材と架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートとが接合されたポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートが得られる。一般的に、この複合シートには、ナノファイバーシートの基材側と対向する表面に担持体が積層付加されている。人体に適用する医療品や化粧品として使用する際には、担持体を取り除いて、ナノファイバーシートを人体に当接する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートは、ナノファイバーシートと基材とが熱融着成分により、強固に接合している。したがって、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを製造した後の搬送中や取扱中に、ナノファイバーシートが収縮しにくくなっている。また、担持体を取り外して、ナノファイバーシートを人体に使用する際にも、当初の形態を維持しており、使用しやすいという効果を奏する。
【実施例】
【0017】
実施例1
11.58重量部のポリグルタミン酸(味丹社製、HM−NaFORM)、5.1重量部の架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライトSV−02)及び2.09重量部の1N水酸化ナトリウム水溶液を、46.3重量部の精製水と34.92重量部のエタノールとからなる混合溶媒中に投入し、混合攪拌して紡糸溶液を調製した。
【0018】
担持体として、ポリエチレンテレフタレート長繊維よりなるスパンボンド不織布(目付15g/m
2)を用い、電極と担持体間の距離を180mmとし電圧100kVの条件で、公知のエレクトロスピニング法により、担持体上にポリグルタミン酸よりなるナノファイバーをシート状に集積した。これを、減圧オーブン中に導入し、温度180℃で1時間加熱して、ナノファイバー中のポリグルタミン酸を架橋剤で架橋した。以上のようにして、担持体上に目付5g/m
2の架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを形成した。
【0019】
基材として、鞘成分がポリエチレンで芯成分がポリエチレンテレフタレートよりなる芯鞘型複合短繊維25重量%と、レーヨン短繊維55重量%及びコットン繊維20重量%が均一に混合されてなる水流交絡不織布(30g/m
2)を準備した。この基材を、ナノファイバーシートに当接して積層した後、130℃に加熱されてなる金属ロールとゴムロールよりなる加圧ロール間に通して、鞘成分を溶融又は軟化せしめた後冷却して、基材とナノファイバーシートとを熱融着により接合した。以上のようにして、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを得た。
【0020】
実施例2
基材として、水流交絡不織布に代えて、デルネット(AET社製、X540E、坪量18g/m
2)を使用した他は、実施例1と同様にして、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを得た。デルネットとは、ポリエチレン層とエチレン・ビニルアルコール共重合体層とが積層されてなる二層構造のネットである。なお、ポリエチレン層とナノファイバーシートとを当接し積層するものである。
【0022】
比較例1
ポリフッ化ビニリデンを、0.05重量%の電気伝導度調整剤を含むジメチルホルムアミド溶媒に溶解させて、濃度10重量%のポリフッ化ビニリデン溶液を基材用紡糸溶液として調製した。この基材用紡糸溶液を用いて、公知のエレクトロスピニング法にて、実施例1で用いた担持体上にポリフッ化ビニリデンよりなるナノファイバーがシート状に集積されてなる基材を得た。この基材上に、実施例1と同様の方法で、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを形成して、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを得た。
【0023】
比較例2
ナイロン6を酢酸と蟻酸の混合溶媒に溶解させて、濃度15重量%のナイロン6溶液を基材用紡糸溶液として調製した。この基材用紡糸溶液を用いて、公知のエレクトロスピニング法にて、ポリプロピレン長繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布(目付60g/m
2)で形成した担持体上に、ナイロン6よりなるナノファイバーがシート状に集積されてなる基材を得た。この基材上に、実施例1と同様の方法で、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを形成して、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを得た。
【0024】
比較例3
キトサンを、1重量%のポリエチレングリコールを含む酢酸と水の混合溶媒に溶解させて、濃度8重量%のキトサン溶液を基材用紡糸溶液として調製した。この基材用紡糸溶液を用いて、公知のエレクトロスピニング法にて、実施例1で用いた担持体上にキトサンよりなるナノファイバーがシート状に集積されてなる基材を得た。この基材上に、実施例1と同様の方法で、架橋されたポリグルタミン酸よりなるナノファイバーシートを形成して、ポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートを得た。
【0025】
実施例1
、2及び比較例1〜3で得られたポリグルタミン酸ナノファイバー複合シートから、担持体を取り外して、温度40℃で湿度60%RHの条件下で24時間放置した。この結果、実施例1
及び2で得られたナノファイバーシートは収縮しなかった。一方、比較例1で得られたナノファイバーシートは、当初の面積の76.3%に収縮した。比較例2で得られたナノファイバーシートは、当初の面積の11.0%に収縮した。比較例3で得られたナノファイバーシートは、当初の面積の11.4%に収縮した。この結果から、実施例1
及び2で得られたポリグルタミン酸ナノファイバー複合シート中のナノファイバーシートの収縮が抑制されていることが分かる。