(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982319
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】微生物ペプチドの検出
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20211206BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20211206BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
C12Q1/04
G01N33/483 C
G01N33/68
【請求項の数】28
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-516011(P2018-516011)
(86)(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公表番号】特表2018-537070(P2018-537070A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】SE2016050919
(87)【国際公開番号】WO2017058085
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月27日
(31)【優先権主張番号】1551259-3
(32)【優先日】2015年10月1日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】514326616
【氏名又は名称】リヒター ライフ サイエンス ディヴェロップメント アクチエボラグ
【氏名又は名称原語表記】Richter Life Science Development AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】リヒター ダールフォース,アグネッタ
(72)【発明者】
【氏名】リベルトン,アンドリュー ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ベック,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】レッフラー,スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】シラニ ビダバディ ハミド
(72)【発明者】
【氏名】チュン,シャンケン
(72)【発明者】
【氏名】アンティパス,ハラランポス
【審査官】
玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/138919(WO,A1)
【文献】
特表2013−519668(JP,A)
【文献】
特表2015−524552(JP,A)
【文献】
Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 2014, Vol.115, pp.51-60
【文献】
ACS Appl. Mater. Interfaces, 2013, Vol.5, pp.4544-4548
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の微生物ペプチドをインビトロで検出、同定、及び/又は定量する方法であって、以下の:
(a)対象体、物質、又は試料を発光性共役オリゴチオフェン(LCO)と接触させるステップであって、前記LCOが、四量体〜十五量体LCOであるステップ;
(b)(a)の前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)の少なくとも1つの信号を検出するステップ;及び
(c)(b)における少なくとも1つの検出信号に基づいて、前記対象体上又は前記物質若しくは試料中の前記1つ以上の微生物ペプチドの有無、アイデンティティー、及び/又は量を決定するステップ
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
1つ以上の微生物ペプチドを生じる感染症をインビトロで同定する方法であって、以下の:
(a’)対象体、物質、又は試料を発光性共役オリゴチオフェン(LCO)と接触させるステップであって、前記LCOが、四量体〜十五量体LCOであるステップ;
(b’)(a’)の前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)の少なくとも1つの信号を検出するステップ;及び
(c’)(b’)において得られた少なくとも1つの検出信号をデータベースと比較するステップであって、前記データベースが、微生物ペプチドの既知試料の検出信号のデータを含むステップ
を備えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、微生物ペプチドに結合しているか、微生物ペプチドと接触しており、LCOの結合又は接触が、感染症の同定のためにデータベースと比較できる独自の信号を生じさせることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の方法において、前記データベースが、少なくとも1つの微生物ペプチドの以前に得られた試料のデータを含み、前記データが、少なくとも1つの微生物ペプチドの前記以前に得られた試料の検出信号を含み、前記データが、複数の以前に得られた試料の平均又は単一試料のデータであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、以下の:
(a’’)前記対象体、物質、又は試料の前記少なくとも1つの検出信号を既知試料の検出信号のデータを含むデータベースと比較するステップ;
(b’’)前記少なくとも1つの検出信号を前記データベースの以前の試料のデータに関連させて統計分析するステップ;及び
(c’’)ステップ(b’’)から得られた結果に基づいて同定及び/又は定量するステップ
をさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、五量体又は七量体発光性共役オリゴチオフェン(LCO)であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、チオフェン単量体及び/又は1つ以上の官能基若しくは側鎖を有するチオフェン単量体を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記官能基又は側鎖が、カルボン酸、酢酸、プロピオン酸、アミノ酸、アミノ酸誘導体、神経伝達物質、単糖類、多糖類、核酸及び誘導体、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、少なくとも1つのチオフェン−構成単位を含み、前記チオフェン−構成単位が、インドール、セレノフェン、チアゾール、フェニルエン、フルオレン、ピロール、キノキサリン、又はベンゾジチアゾールからなる群から選択される他の複素環構成単位と交換されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法において、前記少なくとも1つの検出信号が、光信号、電気信号、電気化学信号、又は磁気信号であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法において、細菌、ウイルス、藻類、又は真菌類の微生物ペプチドを検出、同定、及び/又は定量するためのものであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、少なくとも2つの相異なる微生物、微生物ペプチド、微生物由来化合物、細菌、ウイルス、藻類、又は真菌類を区別することができることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、グラム陽性菌とグラム陰性菌を区別することができることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、フィルミクテス門(Firmicutes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、クラミジア門(Chlamydiae)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、及びスピロヘータ門(Spirochaetes)のうち少なくとも1つを検出、同定、及び/又は定量することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、フィルミクテス門(Firmicutes)とプロテオバクテリア門(Proteobacteria)を区別することができることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、前記方法が、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、カンピロバクター属(Campylobacter)、エシェリヒア属(Escherichia)、フランシセラ属(Francisella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、レジオネラ属(Legionella)、レプトスピラ属(Leptospira)、ナイセリア属(Neisseria)、シュードモーナス属(Pseudomonas)、リケッチア属(Rickettsia)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、シェワネラ属(Shewanella)、ウレアプラズマ属(Ureaplasma)、トレポネーマ属(Treponema)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、クラミジア属(Chlamydia)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、カンジダ属(Candida)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、又はマイコプラズマ属(Mycoplasma)からなる群から選択される属の細菌を検出、同定、及び/又は定量することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、前記方法が、ボルデテラ・パーツシス(Bordetella pertussis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)、ブルセラ・カニス(Brucella canis)、ブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レプトスピラ・インタロガンス(Leptospira interrogans)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)、シュードモーナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、リケッチア・リケッチイ(Rickettsia rickettsii)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、トレポネーマ・パリズム(Treponema pallidum)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecum)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・シッタシ(Chlamydia psittaci)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、マイコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、及びマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)からなる群から選択される細菌を検出、同定、及び/又は定量することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法において、前記方法が、連続的に実行されうることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される1つ以上からさらに構成される少なくとも1つのスペーサーを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法において、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)が、金属、半導体材料、及びポリマー化合物からなる群から選択される1つ以上から構成される少なくとも1つの有機又は無機材料に結合していることを特徴とする方法。
【請求項21】
処理能力を有する装置によって実行されたときに請求項5のステップ(b’’)の前記分析を行うように適合された命令を有するコンピューター可読記録媒体を含むコンピュータープログラム製品。
【請求項22】
請求項21に記載のコンピュータープログラム製品において、前記コンピュータープログラム製品が、得られた結果について比率分析又は多変量解析又は機械学習を行うように適合されたことを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【請求項23】
請求項22に記載のコンピュータープログラム製品において、前記多変量解析が、主成分分析(PCA)、及び階層的クラスタリングからなる群から選択される、及び/又は、前記機械学習が、回帰法であることを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【請求項24】
請求項23に記載のコンピュータープログラム製品において、前記機械学習が、線形判別分析であることを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【請求項25】
請求項21〜24のいずれか一項に記載のコンピュータープログラム製品において、発光性共役オリゴチオフェン(LCO)と接触した試料から集められた検出信号のアルゴリズム変換/数学的変換/統計的変換を実行する及び/又は発光性共役オリゴチオフェン(LCO)と接触した試料からの検出信号をユーザーに提示するように適合された命令を有するコンピューター可読記録媒体を含むことを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【請求項26】
請求項25に記載のコンピュータープログラム製品において、
a’’)データエクスポート機能;
b’’)先行請求項のいずれかに記載の発光性共役オリゴチオフェン(LCO)相互作用のデータが入っているデータベースとのデータ比較機能;及び
c’’)グラフ描画及び/又はデータ提示のための機能
を含むことを特徴とするコンピュータープログラム製品。
【請求項27】
請求項1〜20のいずれか一項に言及された前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)並びに1つ以上の微生物ペプチドの検出、同定、及び/又は定量にその発光性共役オリゴチオフェンを使用するための取扱説明書を含むキット。
【請求項28】
1つ以上の微生物ペプチドをインビトロで検出、同定、及び/又は定量するための少なくとも1つの発光性共役オリゴチオフェン(LCO)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物を検出、同定、及び定量し、感染症の診断学及び診断を可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子は、タンパク質、炭水化物、核酸、及び脂質のクラスに分類される。各クラスは化学的及び構造的に異なり、生命に不可欠な独自の機能を果たす。タンパク質はアミノ酸から構成され、ペプチド(アミド)結合を介して互いに結合してポリマー鎖を形成する。一次配列は、第二、三次、及び最終的に四次構造をもたらすより高いレベルの複雑さで編成され、互いに関連する凝集タンパク質サブユニットの数及び配列を指す。ペプチド結合によって連結されたアミノ酸モノマーの短鎖はペプチドと呼ばれる。微生物によって産生されるペプチドは微生物ペプチドと呼ばれる。炭水化物は、主に炭素、水素及び酸素原子から構成される。それらの重合の度合いに基づいて、炭水化物は、糖、オリゴ糖及び多糖に分類することができる。DNAやRNAなどの核酸は、それぞれが糖、リン酸基、及び窒素塩基からなるヌクレオチドモノマーから構成される。脂質は、上記の高分子とは対照的に、有機溶媒に可溶な分子である。脂質は、細胞を包む細胞膜などの生体膜の主要な構成要素である。
【0003】
微生物は上記のすべてのクラスの分子を産生することができる。微生物の同定を目的とした方法の標的となるものもある。抗体はタンパク質組成に基づいて微生物を識別し、レクチンは炭水化物を識別する。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び次世代シーケンシングを含む方法は、核酸の配列に基づいて微生物を同定することができる。各分子クラスの化学組成及び構造の相違のため、これらの方法論は重複しない。
【0004】
微生物は、さまざまな機能のために外表面に広範囲の分子を発現する。これらの分子は、安定性、コロニー形成又は表面接着、酵素反応、免疫回避、分子輸送などのための構造構成要素として機能しうる。微生物によって引き起こされる疾患の診断及び疾患におけるその同定は、典型的に、伝統的な微生物学的方法で少なくとも2〜3日かかる(
図7B)。感染症の診断には、患者の病歴、患者の診察、及び検査データに基づいた所見を繋ぎ合わせることが必要とされる。診断のための臨床試料から微生物を単離することは困難な作業である。微生物を単離して十分な量まで増幅できる場合、微生物は広範囲にわたる一連の生化学検査に供される。結果の排除及び除外が最終的に病原体の同定につながる。よく使用される生化学検査は、周知の病原体を示す特有の酵素の有無に関する。しかし、検査は決定的ではないことが多い。医師は画一的なプロトコール及び広域スペクトルの作用薬で患者を治療することを余儀なくされ、それは抗生物質耐性の発生を促し、他の合併症を引き起こす可能性がある。研究から、これは非常に有害なアプローチであることが示されている。診断のための多くの方法は培養可能な生物にのみ有用であり、時間がかかり且つ高価である。時間を短縮し、診断の精度を向上し、間接的に治療コストを制御する方法及び技術が必要とされている。その方法は簡易で且つ迅速である必要がある。
【0005】
発光性共役オリゴチオフェン(LCO)は、標的と相互作用する際に分子幾何学的構造が変化する蛍光分子群です。標的結合は、蛍光信号の変化を誘発し、標的に独自の光学的特徴を生み出す。ある場合には、この光信号はオン/オフのいずれかであり、他の場合には、信号は励起及び/若しくは発光スペクトル又は信号強度の変化でありうる。LCOはさまざまな異なる領域で使用されている又は使用されるよう提案されている。ほとんどの取り組みは、LCOをマーカーと造影剤として使用するよう行われている。Klingstedtら(Klingstedt T,Blechschmidt C,Nogalska A,Prokop S,Haggqvist B,Danielsson 0,Engel WK,Askanas V,Heppner FL,Nilsson KP.Chembiochem.2013;14(5):607−16.doi:10.1002/cbic.201200731)には封入体タンパク質の検出のためのLCOの使用が記載される一方で、Klingstedt及びNilsson(Klingstedt T,Nilsson KP.Biochem Soc Trans.2012;40(4):704−10.doi:10.1042/BST20120009)には、タンパク質凝集体のイメージングのための発光性共役ポリチオフェン及びオリゴチオフェンの使用が例示されている。Nilssonら(Nilsson KP, Lindgren M,Hammarstrom P.Methods Mol Biol.2012;849:425−34.doi:10.1007/978−1−61779−551−0_29)は、タンパク質凝集体染色用のアニオン性プローブとして五量体LCOを使用している。
【0006】
米国特許出願公開第20140273000号は、タンパク質凝集体(β−アミロイド、α−シヌクレイン、ハンチンチン、タウタンパク質、過剰リン酸化タウタンパク質(pTau)、プリオンタンパク質、αB−クリスタリン(CRYAB)、デスミン、セレノプロテイン、アクチン、及び/又はミオシン)に結合するであろうp−FTAA又は発光性共役ポリチオフェン(LCP)又はp−FTAAに関連するLCOを用いる、異常タンパク質凝集に関連する疾患を検出する方法を提供し、それに対して、国際公開第2014125321号は、ミスフォールドタンパク質の検出のための磁性ナノ粒子に結合させたLCO(q−FTAA)のイメージング用のマルチモーダル剤に関する。国際公開第2013036196号は、生存する患者におけるアミロイド沈着物及び凝集タンパク質のイメージングに用いるチオフェン化合物に関し、米国特許出願公開第2014135322号は、ミスフォールド又は凝集タンパク質によって引き起こされる疾患を治療するための治療用組成物としてのチオフェン化合物に関する。明らかにわかるように、上記刊行物及び特許出願は、ミスフォールドタンパク質又は凝集タンパク質の同定又は治療に関する。
【0007】
米国特許第6841669号は、タンパク質、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体又は両抗体及びそれらの断片、核酸、オリゴヌクレオチド、ホルモン、医薬品、薬物、並びに非プロテイン化学的神経伝達物質の蛍光マーカーとして機能化チオフェンオリゴマーを提供する。Bjorkらは、DNAや抗体抗原相互作を検出するための、両性イオンペプチド様側鎖をもつ水溶性ポリチオフェンPOVVTに基づいたバイオセンサーを開発した(Bjork P,Persson NK,Nilsson KPR,Asberg P,Inganas O.Biosens Bioelectron.2005;20(9):1764−71)。同様に、国際公開第2011102789号は、神経幹細胞及び神経がん幹細胞に特異的に結合するオリゴチオフェン誘導体を記載しているが、該特許出願はオリゴチオフェンが結合する構成要素について詳細に述べていない。
【0008】
国際公開第2010044744号は、生存する患者におけるアミロイド沈着物及び凝集タンパク質のイメージングに有用な新規置換チオフェン誘導体に関する。それはまた、酵母プリオン(Sup35)、ポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)プリオン(Het−s)、エシェリキア・コリ(E.coli)タンパク質(カーリン)、マラリアコートタンパク質、クモの糸、哺乳類メラノソーム(pMel)、組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、カルシトニン、並びにアミロイドを作るように遺伝子操作されたタンパク質及びペプチドなどの生体天然アミロイドであるいくつかの非疾患アミロイドにも拡張される。国際公開第2014007730号は、LCOで炭水化物を検出する方法を開示しているが、国際公開第2014007730号は感染症診断の方法を何も提供していない。上記刊行物又は特許出願のいずれも、微生物ペプチドの同定又は微生物ペプチド若しくは炭水化物ベースの構造に基づいた診断のための解決策を提供していない。
【0009】
本発明は、迅速かつ容易な方法を通して微生物標的を正確に検出及び定量するための特定のLCOを使用することによって上記の欠点を克服することを意図している。LCOがアミロイドタンパク質のみを標的とする国際公開第2010044744号では明らかにされていない知識の新たなギャップを本発明は埋める。非アミロイド標的に対するLCOの使用は些細なことではなく、本発明で特定された新規領域である。国際公開第2014007730号はLCOで炭水化物を検出する方法を開示しているが、国際公開第2014007730号は、微生物のタンパク質又はペプチドの検出について言及していない。アミノ酸含有タンパク質/ペプチド及び糖含有炭水化物の明らかに異なる化学組成及び構造のため、LCOがタンパク質/ペプチドに適用可能であることは予想外である。さらに、微生物因子を検出する試験の数日間にわたって微生物因子が一定して発現することに依存する従来の方法に対して、本発明による方法は診断及び治療に関連するコストを減らすことになる。本発明による方法はまた、特定の細菌構成要素を検出するために使用できる新規の結合標的を提示する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の1つの目的は、微生物ペプチド、微生物、又は微生物由来化合物を検出する方法を提供することである。本発明の別の目的は、微生物ペプチド、微生物、又は微生物由来化合物を同定する方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、任意の試料から微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物を診断する方法を提供することである。本発明のいっそう別の目的は、微生物ペプチド、微生物、又は微生物由来化合物を定量する方法を提供することである。本発明の別の目的は、微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物の検出、又は同定、又は診断、又は定量を可能にするインターフェースを提供することである。
【0011】
上記目的は、1つ以上の微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物を検出、同定、及び/又は定量する方法によって達成され、その方法は、以下のステップ:
(a)対象体、物質、又は試料をLCOと接触させること;
(b)a)のLCOの少なくとも1つの信号を検出すること;及び
(c)b)における前記検出信号に基づいて、塩基、前記対象体上又は前記試料中の1つ以上の微生物ペプチド又は微生物の有無、アイデンティティー、及び/又は量を決定することを含む。
【0012】
本発明にはいくつかの利点があり、それらのなかでも、微生物ペプチド及び微生物の簡単な同定を可能にし、検出及び診断の時間を短縮し、培養不可能な細菌を同定する方法を提供し、且つ診断の主観的な見方を減らす分析方法をさらに提供する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1:LCOプローブh−HTA−Gluを用いた微生物ペプチドの検出及びスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)の2つの微生物ペプチドの区別。
【
図2】
図2:LCOプローブh−HTA−Gluを用いた微生物ペプチドグリカンの検出及び2つのグラム陽性微生物種のペプチドグリカンの区別。
【
図3】
図3:LCOプローブh−HTA−Gluを用いたグラム陰性菌のペプチドグリカンからの微生物ペプチドの検出。
【
図4】
図4:LCOプローブp−HTEAを用いた真菌類の検出。
【
図5】
図5:LCOプローブh−HTA−Gluを用いた複数の細菌種の検出及び同定。
【
図6】
図6:LCOプローブh−FTAAを用いたサルモネラ・エンテリティディス(S.enteritidis))の1つの細菌株のバリアントの検出。
【
図7】
図7:プロファイリング、予測、及び診断のためのLCO方法(
図7A)並びに伝統的な診断方法(
図7B)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の具体的な実施形態を記載する。1つの実施形態では、本発明は、その方法は以下のステップ:
(a)対象体、物質、又は試料をLCOと接触させること;
(b)a)のLCOの少なくとも1つの信号を検出すること;及び
(c)b)における前記検出された少なくとも1つの信号に基づいて、前記対象体上又は前記物質若しくは試料中の1つ以上の微生物ペプチド、微生物、又は微生物由来化合物の有無、アイデンティティー、及び/又は量を決定することを含む、1つ以上の微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物を検出、同定、及び/又は定量する方法である。
【0015】
1つの実施形態では、上記の方法はまた、微生物及び微生物ペプチドの同定並びに感染症の診断法に使用することができる。別の態様では、そのための本発明は、以下のステップ:
(a’)対象体、物質、又は試料をLCOと接触させること;
(b’)a’)のLCOの少なくとも1つの信号を検出すること;及び
(c’)b’)において得られた前記検出された少なくとも1つの信号を、微生物ペプチドの既知試料の検出信号のデータを含むデータベースと比較することを含む、1つ以上の微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物を生じる感染症を診断する且つ原因微生物を同定する方法である。
【0016】
1つの実施形態では、本発明は、微生物ペプチドを検出、同定、及び/又は定量する方法である。1つの実施形態では、本発明は、微生物を検出、同定、及び/又は定量する方法である。1つの実施形態では、前記発光性共役オリゴチオフェン(LCO)は、微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物に結合している又は微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物と接触しており、LCO結合又は接触が、同定及び診断のためにデータベースと比較できる独自の信号を生じさせる。1つの実施形態では、独自の生成信号はLCO結合に起因して生じる。別の実施形態では、発光性共役オリゴチオフェン(LCO)は、微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物に結合している又は微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物と接触しており、感染症の同定及び診断のためにデータベースと比較できる独自の信号を生じさせる。
【0017】
1つの実施形態では、データベースは、少なくとも1つの微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物の以前に得られた試料のデータを含み、前記データは、少なくとも1つの微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物の前記以前に得られた試料の検出信号を含む。1つの実施形態では、微生物由来化合物は微生物炭水化物でありうる。好ましくは、前記データは、複数の以前に得られた試料の平均又は単一試料のデータである。前記データは、複数の以前に得られた試料を編集したもの又は単一試料のデータであってもよい。別の実施形態では、データベースは、体系的比較や保管のために整理及び/又は提示されている未加工の形と分析した形の両方のデータを含む。データは、比率分析又は多変量解析、例えば、クラスタリング分析や、主成分分析(PCA)、因子分析、階層的クラスタリングを用いて図示又は分析することができる。データはまた、線形判別分析などのより複雑な機械学習手法を用いて図示又は分析することができる。別の実施形態では、本発明の方法は、以下のステップ:
(a’’)対象体、物質、又は試料の前記少なくとも1つの検出信号を既知試料の検出信号のデータを含むデータベースと比較すること;
(b’’)前記検出信号を前記データベースの以前の試料のデータに関連させて統計分析すること;並びに
(c’’)ステップ(b’’)から得られた結果に基づいて同定及び/又は定量することをさらに含む。
【0018】
前記方法のいずれのステップも、インビトロ、生体内、又はインサイチュで行うことができ、逐次的又は連続的に行うことができる。これらのステップは手動でも自動でもよい。1つの実施形態では、少なくともステップa)、及び/又はステップb)は、生体内、インビトロ、又はインサイチュで行われる。別の実施形態では、少なくともステップa’)、及び/又はステップb’)は、生体内、インビトロ、又はインサイチュで行われる。別の実施形態では、少なくともステップa”)、及び/又はステップb’’)は、生体内、インビトロ、又はインサイチュで行われる。そしてさらに別の実施形態では、少なくとも1つ又はすべてのステップは、生体内、インビトロ、又はインサイチュで行われる。
【0019】
前記方法では、対象体、物質又は試料は、ヒト、動物、若しくは環境に由来することができ、又は「独立型(stand−alone)」でありうる対象体又はヒト、動物、生物、若しくは環境由来の対象と相互作用している対掌体から入手することができ、溶液中で新鮮に入手可能な又は若しくは表面に結合するLCOとさらに接触する。1つの実施形態では、前記対象体、物質、又は以前に得られた試料/複数の試料は、ヒト、動物、生物、若しくは環境由来である。別の実施形態では、前記対象体、物質、又は以前に得られた試料/複数の試料は、対象体に由来し、好ましくは、前記対象体は「独立型」でありうる又はヒト、動物、生物、若しくは環境由来の対象と相互作用している。例えば、試料はインプラントなどの体内の対象体に由来しうる。試料、物質、又は対象体は、結合LCOを収集又は除去するようにさらに加工されてもよい。
【0020】
本発明に従って使用されるLCOは、長さが四量体から十二量体の範囲にあり、好ましくは、長さが五量体又は七量体である。1つの実施形態では、前記LCOは四量体から十二量体のLCOである。別の実施形態では、前記LCOは四量体〜十五量体のLCOである。別の実施形態では、前記LCOは五量体又は七量体のLCOである。1つの実施形態はさまざまな長さの混合物を含む。
【0021】
LCOは、本発明によれば、限定されないが、カルボン酸、酢酸、プロピオン酸、アミノ酸、アミノ酸誘導体、神経伝達物質、単糖類、多糖類、核酸及び誘導体、並びにそれらの組み合わせなどから構成される群から選択される側鎖で改変することができる。1つの実施形態では、前記LCOは、チオフェン単量体及び/又は1つ以上の官能基若しくは側鎖を有するチオフェン単量体を含む。別の実施形態では、前記官能基又は側鎖は、カルボン酸、酢酸、プロピオン酸、アミノ酸、アミノ酸誘導体、神経伝達物質、単糖類、多糖類、核酸及び誘導体並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される。本発明はこれらの官能基又は側鎖によって限定されると見なされるべきでなく、他のバリアントも可能性がある。別の実施形態では、前記LCOは、少なくとも1つのチオフェン−構成単位を含み、前記チオフェン−構成単位は、インドール、セレノフェン、チアゾール、フェニルエン、フルオレン、ピロール、キノキサリン、又はベンゾジチアゾールからなる群から選択される他の複素環構成単位と交換される。
【0022】
前記LCOの改変は、LCOの末端又は主鎖/骨格のいずれかに施すことができる。七量体LCOの例は、h−FTAA、h−HTAA、及びh−HTA−Gluであり、前記五量体LCOは、p−HTA−His、p−HTA−Lys、p−HTEA、p−HTIm、p−HTA−Tyr、p−HTA−Arg、p−HTA−Asp、及びp−HTA−Gluのいずれかである。1つの実施形態では、前記七量体LCOは、h−FTAA、h−HTAA、及びh−HTA−Gluであり、前記五量体LCOは、p−HTA−His、p−HTA−Lys、p−HTEA、p−HTIm、p−HTA−Tyr、p−HTA−Arg、p−HTA−Asp、及びp−HTA−Gluのいずれかである。
【0023】
本発明において、信号はLCOと標的の相互作用について検出され、その標的は、分泌されうる、細胞内に位置しうる、又は微生物の膜又は細胞壁に局在しうる微生物ペプチド、微生物、又は微生物由来化合物である。さらに前記方法は、微生物由来の炭水化物とペプチドの組み合わせも検出する。信号はさまざまな方法を用いて評価することができる。1つの実施形態では、前記少なくとも1つの検出信号は、光信号、電気信号、電気化学信号、又は磁気信号である。1つの実施形態では、検出信号は、光信号、電気信号、電気化学信号、及び磁気信号からなる群のうち少なくとも2つの信号の組み合わせである。別の実施形態では、前記検出信号は、蛍光信号や発色信号などの光信号;伝導率や、抵抗率、誘電率などの電気的性質に基づいた検出を伴う電気信号;電荷蓄積容量や、インピーダンス、酸化還元電位などの電気化学的性質に基づいた検出を伴う電気化学信号;又はホール効果に基づいた磁気検出器やコイルに基づいた磁気検出器で検出されるような磁気信号、又はそれらの組み合わせである。いったん少なくとも1つの信号が得られると、その信号はさらに分析され、標的とLCOの以前の相互作用の以前に得られた信号と比較されうる。これらの信号は、遠隔でアクセスできるデータベースとして保管されることがある。しかし、比較データベースのデータがどのように収集されたかに関係なく本発明は正しく機能する。前記方法は強固であり、微生物ペプチド間で区別すること、微生物由来化合物間で区別すること、及び1つの微生物を他の微生物から区別することを可能にする。本発明の方法を用いて検出できる微生物、微生物由来化合物、又は微生物ペプチドは、細菌、ウイルス、藻類、又は真菌類である。1つの実施形態では、細菌、ウイルス、藻類、又は真菌類の微生物ペプチドを検出、同定、及び/又は定量する方法が記載される。別の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも2つの相異なる微生物、微生物ペプチド、微生物由来化合物、細菌、ウイルス、藻類、又は真菌類を区別することができる。前記方法は、グラム陰性菌とグラム陽性菌を区別する機会をもたらす。1つの実施形態では、前記方法はグラム陽性菌とグラム陰性菌を区別する。1つの実施形態では、前記方法は、フィルミクテス門(Firmicutes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、クラミジア門(Chlamydiae)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、及びスピロヘータ門(Spirochaetes)のうち少なくとも1つを検出、同定、及び/又は定量する。1つの実施形態では、前記方法は、ウイルスタンパク質の断片をペプチドとして検出、同定、及び/又は定量する。別の実施形態では、本発明の方法は、フィルミクテス門(Firmicutes)とプロテオバクテリア門(Proteobacteria)を区別することができる。前記方法が微生物又は微生物ペプチドを検出、同定、及び/又は定量しうる場合、目的のペプチドは、ステムペプチド及びリンカーペプチド又は架橋ペプチドなどの構造ペプチド、バクテリオシンなどの抗微生物ペプチド、クオラムセンシング分子、例えば、ブドウ球菌クオラムセンシングペプチド自己誘導ペプチド(AIP)などのシグナリングペプチドである。この場合、シグナリングペプチドは調節及び/又は分泌されうる。
【0024】
1つの実施形態では、前記方法は、ボルデテラ属(Bordetella)、ボレリア属(Borrelia)、ブルセラ属(Brucella)、カンピロバクター属(Campylobacter)、エシェリヒア属(Escherichia)、フランシセラ属(Francisella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、レジオネラ属(Legionella)、レプトスピラLeptospira)、ナイセリアNeisseria)、シュードモーナスPseudomonas)、リケッチア属(Rickettsia)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、シェワネラ属(Shewanella))、ウレアプラズマ属(Ureaplasma))、トレポネーマ属(Treponema)、ビブリオ属(Vibrio)、エルシニア属(Yersinia)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、クラミジア属(Chlamydia)、クロストリジウム属(Clostridium)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、カンジダ属(Candida)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、又はマイコプラズマ属(Mycoplasma)からなる群から選択される属の細菌を検出、同定、及び/又は定量する。しかし、本発明はこれらの細菌によって限定されると見なされるべきでなく、他のものも考えられる。好ましくは、前記方法は、ボルデテラ・パーツシス(Bordetella pertussis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)、ブルセラ・カニス(Brucella canis)、ブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レプトスピラ・インタロガンス(Leptospira interrogans)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)、シュードモーナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、リケッチア・リケッチイ(Rickettsia rickettsii)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、シゲラ・ソネイ(Shigella sonnei)、トレポネーマ・パリズム(Treponema pallidum)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)、エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecum)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(Staphylococcus saprophyticus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・シッタシ(Chlamydia psittaci)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、マイコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、及びマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)からなる群から選択される細菌を検出、同定、定量、又は診断する。
【0025】
別の実施形態では、本発明で使用されるLCOは、固定フォーマットである。LCOと、前記対象体、試料、又は物質との相互作用は、液体:液体、液体:固体、固体:液体、及び/又は固体:固体相互作用の形態でありうる。1つの実施形態では、本発明の方法は連続的に実行されうる。1つの実施形態では、LCOは表面上に固定した方法で配置され、前記試料、対象体、若しくは物質は、連続した流れで通過してLCOと反応することが可能であり、又は前記試料は、表面上に固定した方法で配置され、LCOは連続した流れで通過して試料と接触することが可能である。LCOが表面上に固定した方法で配置され、前記試料、対象体、又は物質が連続した流れで通過してLCOと接触することが可能である本発明の方法の一例は、カテーテルチューブにありうる。別の代替的な配置は、前記試料、対象体、又は物質が表面上に固定した方法で配置され、LCOが連続した流れで通過して試料、対象体、又は物質と接触することができるものでありうる。試料、対象体、又は物質がLCOと接触することが可能になる場合、限定されないが、ファンデルワールス結合、水素結合、疎水性及び静電的相互作用、並びに共有結合相互作用などのいずれかのタイプの化学的相互作用が考えられる。
【0026】
1つの実施形態では、LCOは少なくとも1つのスペーサーを含む。別の実施形態では、スペーサーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される。LCOは、1つの実施形態では、少なくとも1つのスペーサーを通して表面に付いている。しかし、本発明はこれらのスペーサーによって限定されると見なされるべきでなく、他のものも可能性がある。
【0027】
1つの実施形態では、LCOは、金属、半導体材料、及びポリマー化合物からなる群から選択される1つ以上から構成される少なくとも1つの有機又は無機材料に結合する。1つの実施形態では、LCOは、金属、半導体材料、及びポリマー化合物からなる群から選択される1つ以上から構成されるナノ粒子に結合する。
【0028】
1つの実施形態では、本発明による方法は、試料又は対象体からすべての前述の形態のLCOを収集又は除去するためでありうる。1つの実施形態では、本発明の方法は、プローブを除去又は収集するために適合される。1つの考えられる関心領域は、LCOが担体又はナノ粒子に結合された場合の試料収集/試料濃縮である。
【0029】
本発明の1つの態様は、前述のLCOと、1つ以上の微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物の検出、同定、及び/又は定量並びに感染症の診断にそれを使用するための取扱説明書を含むキットである。1つの実施形態では、キットは、限定されないが、エマルション、例えば、クリーム、ローション、軟膏、又は繊維製品、例えば、絆創膏、パッド、衣類、又は表面結合、例えば、チューブ、ディッシュ、フラスコ、若しくは同様の手段で固定される、マルチウェルプレートに固定される、金属表面に固定される、又は溶液中、例えばスプレー、バイアル、液体などの形態でありうる。さらに別の実施形態では、本発明は、LCOの既知の結合標的とともに微生物ペプチド及び微生物を検出、同定、又は定量するためのLCO並びにパッケージ内容物を較正の目的で検査基準として使用するための取扱説明書を含むキット又は商用パッケージを提供する。さらにキットは、限定されないが、教育や訓練を含むさまざまな目的でも使用することができる。
【0030】
いっそう別の実施形態では、本発明は、LCOから集められた信号のアルゴリズム変換/数学的変換/統計的変換を編成及び/若しくは実行し、且つ/又はLCOからの信号をユーザーに提示するためのユーザーインターフェースを提供する。前記ユーザーインターフェースは、データエクスポート機能及びデータ比較機能をさらに含んでもよい。前記データエクスポート機能及びデータ比較機能は、集められたデータをエクスポートし、次いで、LCO相互作用の情報が入った前記データベース内の既知のデータと比較することを可能にしうる。インターフェースはデータベースを保管する又は遠隔でデータベースにアクセスする。
【0031】
本発明の別の態様は、処理能力を有する装置によって実行されたときに、前述の分析、好ましくは、統計分析、好ましくは、比率分析又は多変量解析、例えば、クラスタリング分析、主成分分析(PCA)、因子分析、及び階層的クラスタリングを行うように適合された命令を有するコンピューター可読記録媒体を含むコンピュータープログラム製品に関する。別の実施形態では、前記コンピュータープログラム製品は、得られた結果について比率分析又は多変量解析を実行するように適合される。
【0032】
別の実施形態では、前記多変量解析は、PCA及び階層的クラスタリングからなる群から選択される。1つの実施形態では、分析は機械学習の形態でありうる。1つの実施形態では、機械学習は、回帰法、好ましくは、線形判別分析である。別の実施形態では、コンピュータープログラム製品は、LCOと接触した試料から集められた検出信号のアルゴリズム変換/数学的変換/統計的変換を実行する且つ/又はLCOと接触した試料からの検出信号をユーザーに提示するように適合された命令を有するコンピューター可読記録媒体を含み、前記コンピュータープログラム製品は、好ましくは、
a’’’)データエクスポート機能
b’’’)本発明によるLCO相互作用のデータが入っているデータベースとのデータ比較機能;並びに
c’’’)グラフ描画及び/又はデータ提示のための機能を含む。
【0033】
本発明の別の態様は、1つ以上の微生物、微生物ペプチド、又は微生物由来化合物の検出、同定、及び/又は定量並びに感染症の診断のための少なくとも1つのLCOの使用に関する。
【実施例】
【0034】
実施例1:微生物ペプチドの検出
a.微生物ペプチドの検出及び2つの微生物ペプチドの区別
1mlのi)スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)ステムペプチド(シグマ、30%体積/体積アセトニトリル/PBS中2mM);ii)スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)ペンタグリシンペプチド(シグマ、100%体積/体積ギ酸/PBS中2mM);iii)PBS中のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)8325−4株の細胞(Novick,R.1967 Virology.33:1,p155−66)(トリプチックソイブロス(TSB)中での一晩培養物を1ml遠心分離することによって調製);及びiv)PBS、pH7.4が入ったチューブを調製した。
図1は、抽出ステムペプチド(…・)、抽出ペンタグリシンペプチド(……)、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)細胞(−−)、及びPBS(−−−−)にh−HTA−Glu(最終濃度3μM)を加えた後に記録した励起スペクトル(300〜550nm)を示す。PBS対照と比較して、ステムペプチド、ペンタグリシンペプチド、及び完全なスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)細胞はすべて、光学的特徴の変化を示し、その変化は異なる微生物ペプチドを区別するのに用いることができる。RFU=相対蛍光単位。
【0035】
b.微生物ペプチドグリカンの検出及び2つのグラム陽性微生物種のペプチドグリカンの区別
スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)(シグマ)及びミクロコッカス・ルテウス(M.luteus)(シグマ)から抽出されたペプチドグリカンの1mlの懸濁液(1mg/ml)が入った、凍結されたチューブを解凍した。h−HTA−Glu(最終濃度3μM)を加えた後に、チューブをインキュベーションし(37℃、1時間)、その後励起スペクトル(300〜550nm)を記録した(
図2A)。スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)(−−−−)と混ぜたh−HTA−Gluと、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)(ミクロコッカス・ルテウス(M.luteus))(……)のペプチドグリカンと混ぜたh−HTA−GluのピークRFUは明らかに互いに異なり、且つ陰性対照(蒸留水中3μM h−HTA−Glu)(−−)と異なった。正規化したスペクトルをプロットし、各スペクトルの最大値を1.0の設定することによって、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)及びミクロコッカス・ルテウス(M.luteus)のペプチドグリカンのスペクトルの性質の変化は、陰性対照と比較して明白であった(
図2B)。したがって、蛍光スペクトルは相異なる種のペプチドグリカンを区別する方法を提供する。
【0036】
c.グラム陰性菌の微生物ペプチドの検出
グラム陽性菌の細胞壁はペプチドグリカンペプチドの抽出に優れた供給源として役立つ一方で、グラム陰性菌のペリプラズムの薄いペプチドグリカン層は容易に精製のために利用できない。市販のグラム陰性菌のペプチドグリカンの非存在下において、ペプチドグリカンペプチド架橋結合に対するアンピシリンの効果のため、アンピシリンでの処理を、ペプチドグリカン構造を変えるのに用いることができる。この実験では、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(エシェリキア・コリ(E.coli))細菌を利用し、正常なペプチドグリカン構造や変化したペプチドグリカン構造を表すようにさまざまな濃度のアンピシリンで処理せずに又は処理して、h−HTA−Gluがi)グラム陰性菌やii)グラム陰性菌のペプチドグリカンペプチドに結合するかどうか分析した。100μg/mlアンピシリン(シグマ)から始まる段階希釈(100μl LB培地で1:1)を96ウェルプレートで調製した。各ウェルに、6μM h−HTA−Gluを含有するLBに1:50体積/体積希釈したエシェリキア・コリ(E.coli)分離株番号12(カロリンスカ大学病院の腎盂腎炎の小児から入手、Kai−Larsen et al.2010 PLoS Pathogens 6:7,e1001010で論文報告)の一晩培養物を100μl加えた。96ウェルプレートでのアンピシリンに対する添加エシェリキア・コリ(E.coli)の希釈効果により、最大アンピシリン濃度は50pg/mlであった。ブランク(3μM h−HTA−Glu含有LB中100μg/mlアンピシリン、細菌なし)も含めた。37℃で20時間インキュベーションした後、励起スペクトル(300〜550nm)を記録した。
図3Aは、50pg/ml(−−−−−)、25pg/ml(− −)、12.5pg/ml(−− −−)、6.25pg/ml(−−−−)、及び3.13pg/ml(…・)アンピシリンに供したエシェリキア・コリ(E.coli)細胞と混ぜたh− HTA−Glu及びブランク(……)の正規化した励起スペクトルを示す。励起ピークのより長い波長へのシフトは、h−HTA−Gluがエシェリキア・コリ(E.coli)細菌に結合できることを示す。
【0037】
詳細な情報を得るために、シフトの変化をブランクの対応する位置で割った正規化スペクトルの各位置をプロットすることによって定量した(
図3B)。変換したプロットは、さまざまな濃度のアンピシリンに暴露したエシェリキア・コリ(E.coli)細菌の正規化RFU比を示し、12.5pg/mlで最大信号がもたらされた。ペプチドグリカン構造がアンピシリンによって変えられ、正規化RFU比がさまざまなアンピシリン濃度で変化するので、この実験は、h−HTA−Gluがエシェリキア・コリ(E.coli)ペプチドグリカンに結合することを示す。
【0038】
アンピシリンの致死効果を
図3Cに示す。細菌増殖(……)をアンピシリンの漸増濃度に対してプロットした。細菌増殖が可能なように十分に低い抗生物質濃度にて、(B)の各曲線の最大正規化RFU比を対応するアンピシリン濃度に対してプロットすることによって得られるピーク正規化RFU比(− −)は、ブランクと比べて2.5倍高かった。これはh−HTA−Gluのエシェリキア・コリ(E.coli)細菌への結合を裏付ける。興味深いことに、光学密度が下がるにつれて12.5pg/mlにおいて増加が起こる。これは、ペプチドグリカンが抗生物質によって大きく変えられるが、細菌を死滅させるのに十分ではない中間の状態を表す。まとめると、これらの実験はグラム陰性菌のペプチドグリカンペプチドに対するLCOの結合能を例証する。RFU=相対蛍光単位、OD=光学密度、エラーバー=3回の実験の標準偏差。
図3Cのx軸は対数目盛である。
【0039】
d.真菌類の検出
真菌類の検出のためのLCOの使用を分析するために、p−HTEA(最終濃度3μM)を、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(カンジダ・アルビカンス(C.albicans))、ATCC株MYA−2876)の一晩培養物の1%体積/体積接種菌を含有する2mlの酵母ポテトデキストロース(YPD)培地に加えた。ボルテックスした後、200μlアリコートを、陰性対照(3μM p−HTEA含有YPD、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)なし)とともに96ウェルプレートに移した。プレートを加湿雰囲気で37℃にて48時間インキュベーションし、励起スペクトル(300〜500nm)を記録した。
図4Aは、真菌類を含まないYPD(……)と比較して、YPD(−−−−−)中のカンジダ・アルビカンス(C.albicans)と混合したp−HTEAの小さいがはっきりとしたスペクトルのシフトを示す。次いで、真菌類細胞層を乱さないように培地を注意深く各ウェルから除去し、陽性対照を除いて、ウェルあたり200μlのヒト血液を加えた。陽性対照には新鮮なYPD培地を加えた。再度励起スペクトルを記録した。
図4Bは、血液中のカンジダ・アルビカンス(C.albicans)(−−−−−)と混合したp−HTEAからの顕著な信号に対して、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)を含まない血中p−HTEA(……)からの信号は非常に低かったことを示す。まとめると、これは、実験室条件下及びヒト試料を用いた酵母カンジダ・アルビカンス(C.albicans)を検出するためのLCO p−HTEAの使用を実証する。
【0040】
実施例2:診断法のための複数の細胞腫の検出及び同定
細菌株の検出及び同定のためのLCOの使用は、近縁のスタフィロコッカス属(Staphylococci)の種の分離株を用いて示した。カロリンスカ大学病院から入手したスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)(HY−886株、HY−836/91株、HY−686株、HY−834株、HY−842株)及びスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)(スタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis))、HY−840株、HY−822/1株、HY−839/91株、HY−844/1株、HY−842/1株、HY−829株、HY−832/10株)の臨床分離株のトリプチックソイブロス(TSB、シグマ)中での一晩培養物から100μlを10ml TSBで希釈し、次いでチューブに分注して1mlアリコートとし、h−HTA−Gluを2μMの最終濃度で加えた。混合した後に、200μlの各培養物を3連で96ウェルプレートに加え、37℃で18〜24時間インキュベーションした後、励起スペクトル(300〜550nm)を記録した。
図5Aは、励起スペクトルのヒートマップ表示及びブレイ・カーティス階層的クラスタリング分析を示し、後者は、スタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)株を左方向に(……)、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)株を右方向(−−−−)にクラスタリング化し、2つのスタフィロコッカス属(Staphylococci)の種はっきりと区別する。
図5Bは、励起スペクトルの主成分分析(PCA)を示し、グラフの上部にスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)(○)株の、下部にスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)(●)株のクラスタリングを示している。したがって、階層的クラスタリング分析及びPCAは、2つの独立したLCOに基づく細菌種区別のための分析方法を表す。
図5Cは、機械学習が入院患者から分離された未知の細菌株の同定を予測するのに使用することができることを示す。機械学習プロセス・方法由来線形判別予測が、既知のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)株及び既知のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)株について示されている。未知の株の機械学習プロセス由来線形判別予測をスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)及びCNSと同じグラフに追加した際、我々は、CNS株として分類された陽性線形判別予想をもつ未知の株及びスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)として分類された陰性線形判別予想をもつ株を見出した。
【0041】
混合試料中の細菌株の同定のためのLCOの使用を示すために、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)HY−834株及びスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)HY−840株の一晩培養物を、100:0(●)、75:25(■)、
、25:75(□)、及び0:100(○)の比で混ぜ、h−HTA−Glu(最終濃度3μM)を加えた。37℃で30分間インキュベーションした後、200μlの各試料を96ウェルプレートに移した。励起スペクトル(300〜550nm)を記録し、PCA分析を行った。
図5Dは、PCAグラフの底部に位置する、純粋なスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を含む試料を示す。混合培養中でスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)の量を増加させていくと、位置が予測可能なパターンでPC2軸に沿って上に移動し、純粋なスタフィロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)試料の一番上の位置に達する。これは、h−HTA−Gluが混合試料に存在する細菌を同定し、且つそれら細菌の相対濃度を決定する実現可能性を明らかに示す。
【0042】
実施例3:1つの細菌株のバリアントの検出
遺伝的なばらつきに起因して、1つの細菌株のバリアントが多数存在する。特定遺伝子の明らかな変異を除いて同一の遺伝子型を有するこれらの株は、感染症の病態生理に大きな影響を及ぼしうる、タンパク質、微生物化合物、及び病原性因子の異なる発現パターンを示す。
図6Aは、28℃でインキュベーションした、塩を含まない、コンゴーレッド含有LB寒天プレート上で見られたサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)(S.enteritidis)3934株(Solano et al.1998 J Clin Microbiol.36(3):674−8)の赤く、乾いて、粗い(rdar)コロニーを示す。これは、カーリ及びセルロースを発現する細菌の特徴的な形態である。カーリを発現できない変異株(3934ΔcsgA)、セルロースを発現できない変異株(3934ΔbcsA)、又は両方を発現できない変異株(3934ΔcsgD)(Laiasa ei al 2005 Mol Microbiol.58(5):1322−39)は、明らかに異なるコロニー形態を示す。
【0043】
4つの異なる株の同定にLCOが使用できるかどうかを調べるために、28℃で48時間、塩を含まないルリア・ベルターニ(LB)寒天プレート上で増殖させた各株のコロニーを、滅菌ループを用いて採取し、0.5mlのPBS、pH7.4に再懸濁した。懸濁液を超音波処理し、次いでPBS中で約OD600=0.2に希釈した。各懸濁液の180μlアリコートを96ウェルプレートに移し、20μlのh−FTAA(最終濃度1μM)を各ウェルに加えた。陰性対照(h−FTAAを含むPBS、細菌なし)も含めた。励起スペクトル(300〜600nm)を記録し、450〜520nm間隔で集めたデータをPCA分析に供した。
図6Bは、セルロース産生を欠く株(3934ΔbcsA(■)、3934ΔcsgD(●))がグラフの下部にクラスター化する一方で、セルロース産生株(3934(○)、及び3934ΔcsgA(□))はグラフの上部に位置することを示す。まとめると、これは、同じ種の株を表現型的に区別し、タンパク質、微生物化合物、及び病原性因子発現を予測/定義するためのLCOの使用を実証する。