(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6982354
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】水害避難用簡易シェルター
(51)【国際特許分類】
B63C 9/06 20060101AFI20211206BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20211206BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
B63C9/06 100
E04H9/02 301
E04H9/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2021-106251(P2021-106251)
(22)【出願日】2021年6月28日
【審査請求日】2021年6月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517435711
【氏名又は名称】株式会社日本耐震設計
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】特許業務法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 明洋
【審査官】
福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−201874(JP,A)
【文献】
特開2012−224160(JP,A)
【文献】
特開2019−094041(JP,A)
【文献】
特開2014−061737(JP,A)
【文献】
特開2013−086789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/06
E04H 9/02
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状をなし内部に人を収容する収容空間を画定する浮揚体であって、側面の一部に形成された人が出入りするための第1の出入口と、長手方向の両端部にそれぞれ設けられた人が出入りするための第2及び第3の出入口とを有する、合成樹脂製の浮揚体と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第1の出入口を開閉可能に閉鎖する扉と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第2および第3の出入口をそれぞれ開閉可能に閉鎖する蓋体と、を有し、
前記浮揚体は、使用時には、当該浮揚体の長手方向を横方向にした横倒し状態で使用され、かつ、浸水状態において、中心軸線回りに回転自在となっており、当該浮揚体に復元性をもたせていない、水害避難用簡易シェルター。
【請求項2】
前記第2および第3の出入口には、外方に突出するように円筒部が形成され、
前記円筒部の外周面にはネジが形成され、
前記蓋体は、前記ネジに螺合することにより、前記出入口を開閉可能に閉鎖するキャップ状に形成されている、請求項1に記載の水害避難用簡易シェルター。
【請求項3】
前記浮揚体の長手方向の両端部の間で延在しかつ互いに離間して並設された2本のベルトからなる安全ベルトであって、前記浮揚体の内周面と前記2本のベルトとの間に避難者の身体を配置することで、当該避難者の転倒を防ぐための安全ベルトを備える、請求項1又は2に記載の水害避難用簡易シェルター。
【請求項4】
円筒状をなし内部に人を収容する収容空間を画定する浮揚体であって、側面の一部に形成された人が出入りするための第1の出入口と、長手方向の両端部にそれぞれ設けられた人が出入りするための第2及び第3の出入口とを有する、合成樹脂製の浮揚体と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第1の出入口を開閉可能に閉鎖する扉と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第2および第3の出入口をそれぞれ開閉可能に閉鎖する蓋体と、を有し、
前記浮揚体の両端部には、当該浮揚体の外径と同様の外径を有し、前記蓋体を包囲するように設けられ、内部に密閉された空洞を有する合成樹脂製の環状の保護部材が設けられており、前記空洞は、前記収容空間とは独立している、水害避難用簡易シェルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や洪水等の水害発生の際に緊急避難用に使用する水害避難用簡易シェルターに関する。
【背景技術】
【0002】
日本は地震国家であり、近い将来巨大地震が発生すると予想されており、巨大地震の発生で来襲する大きな津波に備えておく必要がある。また、地震に限らず、河川氾濫、洪水等の水害が発生しやすい場所でも、これに備えておく必要がある。
例えば、特許文献1は、六面体からなる容器を用いた箱状避難シェルターを開示している。この箱状避難シェルターは、六面体からなる容器の一側面に出入り口が形成され、これを開閉する扉が設けられている。また、この箱状避難シェルターの容器の天井部には、ハッチが設けられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−38309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の箱状避難シェルターは、天井部を上にした姿勢で浮遊することを前提に設計されているが、津波や洪水の激流やこれに流される瓦礫の中で天井部を上にした姿勢を保つことは困難である。このため、シェルターが横転したり上下逆転したりすることも十分に想定される。シェルターが横転したり、上下逆転したりした状態では、シェルター上部に設けられたハッチを開けることができず、シェルターから外部の状況を把握することや、シェルターから脱出することが困難となる。
特許文献1の箱状避難シェルターの容器は、六面体からなっているので、容器の角部に津波や洪水に流される瓦礫等が衝突すると、容易に破損する可能性が高い。
さらに、シェルターの姿勢が安定的に保持されることを前提に安全ベルトで避難者をシェルター内に固定すると、シェルターが横転したり上下逆転したりするようなことが発生した場合には、避難者は適切な行動が取れず、逆に、危険な状態に陥る可能性もある。
【0005】
本発明の目的の一つは、津波や洪水の激流やこれに流される瓦礫の中であっても、避難者の安全性をより高めることが可能な水害避難用簡易シェルターを提供することである。
本発明の他の目的は、より軽量化され、より低コスト化された水害避難用簡易シェルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水害避難用簡易シェルターは、円筒状をなし内部に人を収容する収容空間を画定する浮揚体であって、側面の一部に形成された人が出入りするための第1の出入口と、長手方向の両端部にそれぞれ設けられた人が出入りするための第2及び第3の出入口とを有する、合成樹脂製の浮揚体と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第1の出入口を開閉可能に閉鎖する扉と、
外部からの水の侵入を防ぎつつ前記浮揚体の第2および第3の出入口を開閉可能に閉鎖する蓋体と、を有し、前記浮揚体は、浸水時には、当該浮揚体の長手方向を横方向にした横倒し状態で使用される。
この構成によれば、人を収容する収容空間を画定する浮揚体を円筒状としたことにより、浮揚体が損傷しにくくなり、なおかつ、3つの出入口を設けたことで、3つの出入口のうち2つの出入口が浸水したような状態であっても、残りの出入り口から脱出することができる。
【0007】
好適には、前記第2および第3の出入口には、外方に突出するように円筒部が形成され、
前記円筒部の外周面にはネジが形成され、前記蓋体は、前記ネジに螺合することにより、前記出入り口を開閉可能に閉鎖するキャップ状に形成されている、構成を採用できる。
この構成によれば、安価に蓋体を形成できる。
【0008】
好適には、前記浮揚体の両端部には、当該浮揚体の外径と同様に外径を有し、前記蓋体を包囲するように設けられ、内部に密閉された空洞を有する合成樹脂製の環状の保護部材が設けられており、前記空洞は、前記収容空間とは独立している。
この構成によれば、浮揚体の両端部は、瓦礫等の流体物に衝突して破損しやすいが、保護部材を設けることでこれを抑制できる。保護部材は、フロートの役目も果たすが、保護部材は収容空間とは独立しているので、保護部材が破損したとしても、浮揚体に影響を及ぼさない。
【0009】
前記浮揚体は、使用時には、当該浮揚体の長手方向を横方向にした横倒し状態で使用される。
この構成によれば、浮揚体は円筒状の縦長であるため、浸水時に縦方向に姿勢を保つことが困難であるが、横倒し状態で使用することで、激流中にあっても浮揚体が上下逆転するような危険な状態の発生を抑制できる。
【0010】
好適には、前記浮揚体の長手方向の両端部の間で延在しかつ互いに離間して並設された2本のベルトからなる安全ベルトであって、前記浮揚体の内周面と前記2本のベルトとの間に避難者の身体を配置することで、当該避難者の転倒を防ぐための安全ベルトを備える。
この構成によれば、避難者は、これら2本のベルトと浮揚体の内周面との間に入り込むだけで転倒を防ぐことができ、他の操作を必要としない。避難者はシェルター外に脱出する際にも安全ベルトの解除操作の必要がない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、津波や洪水等の水害における激流やこれに流される瓦礫の中であっても、避難者の安全性を高めることが可能な水害避難用簡易シェルターが提供される。
また、本発明によれば、軽量化され、低コスト化された水害避難用簡易シェルターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水害避難用簡易シェルターの外観斜視図。
【
図2】
図1の水害避難用簡易シェルターの縦断面図であって、蓋体を外した状態を示す図。
【
図3】水害避難用簡易シェルターの使用状態を示す図。
【
図6】ロック機構を作動させて扉を閉鎖した状態を示す部分拡大図。
【
図7】(a)は空気孔を閉塞栓で閉塞した状態を示す断面図であり、(b)は空気孔から閉塞栓を抜きとった状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1および
図2に本発明の一実施形態に係る水害避難用簡易シェルター(以下、シェルターと呼ぶ。)1の基本的構造を示す。
図1および
図2に示すように、シェルター1は、円筒状をなし内部に人を収容する収容空間SPを画定する浮揚体10を有する。
浮揚体10は、比較的軽量で強度が高く耐久性もある塩化ビニル等の合成樹脂で形成され、側面の一部に収容空間SPに人が出入りするための出入口11が形成されている。
【0014】
浮揚体10の長手方向(
図2では上下方向)の端部には、端部壁10e1が形成されており、それぞれの端部壁10e1の中央部に人が出入りするための円形状の出入口12が形成されている。出入口12の周囲には、外方に向けて円筒部13が形成されている。円筒部13も浮揚体10と同様の材料で形成されている。
【0015】
円筒部13の外周面にはそれぞれねじ13aが形成されている。
円筒部13に形成されたねじ13aには、キャップ状に形成されたポリエチレン等の合成樹脂製の蓋体30の内周に形成されたねじ30aが螺合することにより、出入口12を開閉可能に閉鎖する。これにより、出入口12から水が収容空間SPに浸入するのを防ぐことができる。なお、
図2においては、蓋体30をねじ13aから取り外した状態を示している。
蓋体30には、外側と内側の両側に蓋体30を回転させるための取手31が設けられている。これにより、浮揚体10の外部および内部の両方から蓋体30を回転させることができる
【0016】
扉20は、
図1に示すように、出入口11を覆うのに十分な大きさを有しており、浮揚体10の周面と合致する曲率で湾曲するように形成されている。
図1に示すように、扉20の外側面には扉20を開閉するための取手21が設けられている。扉20も浮揚体10と同様の材料で形成される。扉20は、ヒンジHGを介して浮揚体10に連結されており、出入口11に対して外側に開放可能になっている。
ここで、
図4に扉20を開放した状態を示す。浮揚体10に形成された出入口11の周囲には、ゴム系材料からなる2本のシール部材SL1,SL2が所定の間隔を置いて設けられている。
一方、扉20の内側面には、2本のシール部材SL1,SL2の間に嵌るゴム系材料からなる1本のシール部材SL3が設けられている。加えて、扉20の内側面には、複数(3個)のロック機構50が設けられている。
【0017】
ロック機構50は、出入口11を閉じた扉20が開かないように扉20をロックするために設けられている。
図5に示すように、ロック機構50は、扉20に設けられた軸53を中心に旋回可能に支持部材54に支持された操作レバー51と、操作レバー51の先端部に設けられた係止部材52とを備えている。
ロック機構50は、操作レバー51を手動操作して、
図4に実線で示す操作レバー51の係止部材52が浮揚体10の出入口11の周囲の係合部10tに係合しない位置に位置付けておくことにより、扉20は開閉自在となる。
【0018】
図6に示すように、扉20を閉じると、2本のシール部材SL1,SL2の間にシール部材SL3が嵌り、浮揚体10と扉20との間はシールされる。そして、操作レバー51を手動操作して、操作レバー51の係止部材52を出入口11の周囲の係合部10tに係合させることで、出入口11を閉じた扉20が開かないように扉20をロックすることができる。なお、
図6は、ロック機構50を収容空間SP側から見た図である。
【0019】
図1および
図2に示すように、浮揚体10の上下の両端部の端部壁10e1には、環状の保護部材40が設けられている。保護部材40は、断面が矩形状で、内部に密封された空洞41を有する。空洞41は、浮揚体10の収容空間SPとは分離されており、収容空間SPからは独立している。保護部材40も浮揚体10と同様の材料で形成される。
保護部材40の外径は、浮揚体10の外径と同様であり、内周側で蓋体30を包囲している。保護部材40の高さは、蓋体30の高さよりも高くなるように形成されている。
浮揚体10の両端部は水害の激流で流される瓦礫等が衝突しやすい。このため、保護部材40は、この衝突による蓋部30を含む浮揚体10の損傷を抑制するために設けられている。仮に、保護部材40が損傷して内部の空洞41に水等が浸入したとしても、浮揚体10には影響がない。
また、保護部材40は、浮力を発生させるフロートとしての役割も果たす。
【0020】
シェルター1は、保管時には、設置面積を節約する観点から、
図1に示したように、長手方向を上下にした縦置きとすることが好ましい。
使用時には、
図3に示すように、浮揚体10の長手方向を横方向にした横倒し状態で使用される。
シェルター1内に人EHが入るときは、先ず、シェルター1を横倒しにし、扉20を開放して収容空間SP内に入る。シェルター1を横倒しにすることにより、扉20の位置が縦置き状態と比べて低くなり、子供や老人等でもシェルター1の収容空間SP内に容易に入ることができる。
【0021】
浮揚体10内には、
図3に示すように、浮揚体10の長手方向の両端部の間で延在しかつ互いに離間して並設された可撓性を有する2本のベルトからなる安全ベルト60が設けられている。浮揚体10の内周面10cと2本のベルト61,62との間に人EHの身体を配置することで、当該人EHの転倒を防ぐ。人EHは、これら2本のベルト61,62と浮揚体10の内周面10cとの間に入り込み、ベルト61,62を掴むだけで転倒を防ぐことができ、他の操作を必要としない。当該人EHはシェルター1の外部に脱出する際にも安全ベルト60の解除操作の必要がない。
【0022】
図3に示すように、浮揚体10の側面には、透明な樹脂材料で形成された窓70が埋め込まれている。窓70を設けることにより、シェルター1内に避難した人EHは、外部の状況を把握可能となる。
【0023】
シェルター1の使用時には、浮揚体10の側面の出入口11と両端部の2つの出入口12は、それぞれ扉20および蓋体30で密封されている。このため、浮揚体10の内部に必要に応じて空気を取り入れる必要があり、空気孔AHが扉20および蓋体30にそれぞれ形成されている。なお、空気孔AHはこれ以外の箇所にも設けることができる。
【0024】
図7に空気孔AHおよびこの空気孔AHを閉塞するための閉塞栓80を示す。空気孔AHは、先細りテーパ状に形成された孔であり、
図7(a)に示すように、空気孔AHに先細りテーパ状に形成された閉塞栓80を挿し込むことで、水の侵入を確実に防ぐことができる。シェルター1の収容空間SP内に空気を取り込む必要がある場合には、複数(この場合には3個)の閉塞栓80のうち、水没していない空気孔AHの閉塞栓80を手動操作で抜くことで、
図7(b)に示すように、空気孔AHを通じて空気を取り込むことができる。なお、閉塞栓80は紛失しないようにチェーン81で扉20又は蓋体30に接続されている。
【0025】
本実施形態によれば、人を収容する収容空間SPを画定する浮揚体10を円筒状としたことにより、浮揚体10が損傷しにくくなり、なおかつ、3つの出入口11,12,12を設けたことで、3つの出入口のうち2つの出入口が浸水したような状態であっても、残りの出入口から脱出することができる。
また、本実施形態によれば、浮揚体10の両端部に保護部材40を設けることで、浮揚体10が瓦礫等と衝突して損傷するのを抑制できる。
さらに、本実施形態によれば、浮揚体10は円筒状の縦長であるため、浸水時に縦方向に姿勢を保つことが困難であるが、横倒し状態で使用することで、激流中にあっても浮揚体10が上下逆転するような危険な状態になるのを抑制できる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 水害避難用簡易シェルター
10 浮揚体
11 第1の出入口
12 出入口(第2および第3の出入口)
20 扉
30 蓋体
40 保護部材
50 ロック機構
60 安全ベルト
61,62 ベルト
70 窓
80 閉塞栓
81 チェーン
AH 空気孔
SP 収容空間
EH 人
【要約】
【課題】津波や洪水の激流やこれに流される瓦礫の中であっても、避難者の安全性をより高め、より軽量化され、より低コスト化された水害避難用簡易シェルターを提供する。
【解決手段】円筒状をなし内部に人を収容する収容空間SPを画定する浮揚体10であって、側面の一部に形成された人が出入りするための出入口11と、長手方向の両端部にそれぞれ設けられた人が出入りするための出入口12,12とを有する、合成樹脂製の浮揚体10と、外部からの水の侵入を防ぎつつ浮揚体10の出入口11を開閉可能に閉鎖する扉20と、外部からの水の侵入を防ぎつつ浮揚体の出入口12,12をそれぞれ開閉可能に閉鎖する蓋体30,30とを有する。
【選択図】
図1