【文献】
日本食品分析センターWEBサイト,2015年11月05日,https://web.archive.org/web/20151105141812/http://www.mac.or.jp/mail/100601/04.shtml
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/SCISEARCH/TOXICENTER/WPIDS(STN)
【背景技術】
【0002】
HDMFは、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、あるいは2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンという体系名を持ち、フラネオール(フィルメニッヒ社の登録商標)という名前で香料として販売されている。HDMFは、1967年にパイナップル、ストロベリーから発見され、その後、ラズベリー、コーヒー、ポップコーン、ローストアーモンド、ローストビーフからも見出されている。HDMFは、ストロベリーフラノンの別名を持っている。またHDMFは、醤油、味噌、ビール、ワイン、チーズ、ヨーグルトといった発酵食品中に広く分布していることも明らかになっている。例えば、市販ワインのHDMF含量としては、最大で2.1〜2.3mg/Lとの報告がある(非特許文献1)。
【0003】
HDMFは、強くフルーティーでカラメル香を有し、ジャムあるいは調理されたパイナップルを想起させる香気が特徴である。HDMFは、パイナップルフレーバー、ストロベリーフレーバー、ラズベリーフレーバー、あるいはシュガータイプフレーバーとして有用なものである。
【0004】
酒類や飲料の分野における、HDMFを高生産、高含有させる取り組みとしては、例えば、特許文献1〜3に開示されたものがある。特許文献1には、HDMFを単独でより高生産する乳酸菌を取得し、その乳酸菌により生成したHDMFを含む培養醪、及びその培養醪を含有させた酒類又は食品の製造方法が開示されている。そして特許文献1では、HDMF含量が1.4mg/Lであるみりんが得られている。
特許文献2には、発酵原液の少なくとも一部を加熱処理して発酵原液中にマルトール及びフラネオールを生成させ、得られた発酵原液に少なくとも酵母を加えて発酵させることを含む方法により得られる、味の厚みや香ばしさを有するビールテイスト飲料が開示されている。そして特許文献2では、マルトール含量が1.3〜17mg/L、HDMF含量が0.5〜2.8mg/Lであるビールテイスト飲料が得られている。
特許文献3には、複数種の酵母を利用して、果汁を発酵させることによりHDMFを増強する方法、及びHDMFが増強された果実酒又は甘味果実酒の製造方法が開示されている。そして特許文献3では、HDMF含量が9.0〜18.0mg/Lであるブドウ果汁やイチゴ果汁の発酵液が得られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、蒸留酒類や清酒の分野において、HDMFの甘い香りに着目した商品設計はあまりされておらず、高いHDMF含量を有する蒸留酒類や清酒を生産する技術についても十分検討されていない。そこで本発明は、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた蒸留酒類、甲類焼酎、清酒、香料不使用の果汁含有アルコール飲料、並びに、蒸留酒類又は清酒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の蒸留酒類、清酒、果汁含有アルコール飲料と比べて、パイナップルやイチゴを想起させる甘い香りが増強された蒸留酒類、清酒、香料不使用の果汁含有アルコール飲料を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、原料の少なくとも一部に加熱処理された麹を用いることにより、HDMFを特定量以上含有し、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた新規の蒸留酒類、清酒、香料不使用の果汁含有アルコール飲料を得ることに成功した。
【0009】
上記した知見に基づいて提供される
関連の発明は、原料の少なくとも一部
に加熱処
理された麹を用いた蒸留酒類であって、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が3.0mg/L以上であることを特徴とする蒸留酒類である。
【0010】
本発明の蒸留酒類は、原料の少なくとも一部に
「加熱処
理された麹」を用いたものであり、かつHDMFの含量が特定量以上である。本発明の蒸留酒類は、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFの含量が特定量以上であるので、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質となる。
【0011】
ここで「蒸留酒類」とは酒税法上の蒸留酒類であり、焼酎、スピリッツ等が例として挙げられる。焼酎、スピリッツの原料に特に限定はなく、また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定は無い。焼酎には、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と乙類焼酎(単式蒸留焼酎)の両方が含まれる。
【0012】
関連の発明は、前記蒸留酒類が、乙類焼酎であることを特徴とする
上記の蒸留酒類である。
【0013】
本発明の蒸留酒類は、乙類の風味を残しつつ、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を備えたものとなる。
【0014】
関連の発明は、
上記の蒸留酒類を含有する甲類焼酎であって、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が0.1〜5.0mg/Lであることを特徴とする甲類焼酎である。
【0015】
本発明の甲類焼酎は、すっきりとしていながら、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を備えたものとなる。
【0016】
関連の発明は、原料の少なくとも一部
に加熱処
理された米麹を用いた清酒であって、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が3.0mg/L以上であることを特徴とする清酒である。
【0017】
本発明の清酒は、原料の少なくとも一部に
「加熱処
理された米麹」を用いたものであり、かつHDMFの含量が特定量以上である。本発明の清酒は、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFの含量が特定量以上であるので、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質となる。
【0018】
本発明における「清酒」とは、酒税法でいう醸造酒類の中の清酒のことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が22度(22v/v%)未満のものである。
(1)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(2)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(3)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
【0019】
関連の発明は、
上記の蒸留酒類を含有する果汁含有アルコール飲料であって、香料を含有せず、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が0.1〜5.0mg/Lであることを特徴とする果汁含有アルコール飲料である。
【0020】
本発明の果汁含有アルコール飲料は、上記の蒸留酒類を含有するものであり、香料を含有せず、かつHDMF含量が特定量以上のものである。本発明の果汁含有アルコール飲料は、香料を使用しなくても、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を備えたものとなる。
【0021】
前記果汁含有アルコール飲料のアルコール濃度が1〜9v/v%であることが好まし
い。
【0022】
前記果汁含有アルコール飲料は発泡性であることが好まし
い。
【0023】
関連の発明は、原料の少なくとも一部
に加熱処
理をされた麹を用い、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が3.0mg/L以上である蒸留酒類又は清酒を得ることを特徴とする蒸留酒類又は清酒の製造方法である。
【0024】
本発明は蒸留酒類又は清酒の製造方法に係るものであり、原料の少なくとも一部に
「加熱処
理された麹」を用い、HDMF含量が特定量以上の蒸留酒類又は清酒を得ることを特徴とする。本発明によれば、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質の蒸留酒類又は清酒を得ることができる。
【0025】
請求項1に記載の発明は、蒸留酒類の製造方法であって、
麹を焙炒法、焼成処理、又はエクストルーダー法によって100℃以上の温度で加熱処理し、原料の少なくとも一部に加熱処理された
前記麹を用い
、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が3.0mg/L以上である蒸留酒類を得ることを特徴とする蒸留酒類の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、前記蒸留酒類が、乙類焼酎であることを特徴とする請求項1に記載の蒸留酒類の製造方法である。
請求項3に記載の発明は、甲類焼酎の製造方法であって、請求項1又は2に記載の方法で
蒸留酒類を製造し、前記蒸留酒類を含有させて、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が0.1〜5.0mg/Lである甲類焼酎を得ることを特徴とする甲類焼酎の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、清酒の製造方法であって、
米麹を焙炒法、焼成処理、又はエクストルーダー法によって100℃以上の温度で加熱処理し、原料の少なくとも一部に加熱処理された
前記米麹を用い
、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が3.0mg/L以上である清酒を得ることを特徴とする清酒の製造方法である。
請求項5に記載の発明は、果汁含有アルコール飲料の製造方法であって、請求項1又は2に記載の方法で
蒸留酒類を製造し、前記蒸留酒類を含有させて、香料を含有せず、アルコール濃度25v/v%換算で、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン含量が0.1〜5.0mg/Lである果汁含有アルコール飲料を得ることを特徴とする果汁含有アルコール飲料の製造方法である。
請求項6に記載の発明は、前記果汁含有アルコール飲料のアルコール濃度が1〜9v/v%であることを特徴とする請求項5に記載の果汁含有アルコール飲料の製造方法である。
請求項7に記載の発明は、前記果汁含有アルコール飲料が発泡性を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の果汁含有アルコール飲料の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明
で製造される蒸留酒類、甲類焼酎、清酒、及び果実含有アルコール飲料は、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFを特定量以上含有しており、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を有する。また本発明
で製造される果実含有アルコール飲料は、香料不使用でありながら高いHDMF含量を有している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、HDMF含量の値は全てアルコール濃度25v/v%換算での値である。ここで「アルコール濃度」とはエチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。
【0028】
本発明の蒸留酒類は、原料の少なくとも一部に加熱処理された麹を用いたものであり、かつアルコール濃度25v/v%換算で、HDMF含量が3.0mg/L以上のものである。
本発明の蒸留酒類におけるHDMF含量は3.0mg/L以上(アルコール濃度25v/v%換算)である。HDMF含量は、好ましくは5.0mg/L以上、より好ましくは10.0mg/L以上である。
HDMF含量の上限は特になく、HDMF含量が多くなっても品質を大きく損なうことはない。ただし、官能的に好ましい上限値は、例えば70.0mg/Lである。
【0029】
上述したように、本発明でいう「蒸留酒類」とは、酒税法上の蒸留酒類であり、焼酎、スピリッツ等が例として挙げられる。焼酎、スピリッツの原料に特に限定はなく、また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定は無い。焼酎には、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と乙類焼酎(単式蒸留焼酎)の両方が含まれる。
【0030】
本発明の蒸留酒類で用いる麹原料としては、米、大麦、裸麦、ライ麦、とうもろこし等が挙げられる。なお、麹原料を米とすると、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFの含量を顕著に増加させることができ、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた蒸留酒類が得られ、特に好適である。
【0031】
本発明の蒸留酒類で用いる掛原料としては、米、大麦、裸麦、ライ麦、とうもろこし等、あるいはそれら穀類の麹が挙げられる。なお、掛原料を米麹とすると、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFをよく感じることができ、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた蒸留酒類が得られ、特に好適である。
【0032】
好ましい実施形態では、前記した蒸留酒類が、乙類焼酎である。すなわち、この好ましい実施形態に係る蒸留酒類は、原料の少なくとも一部に加熱処理された麹を用いた蒸留酒類であって、HDMF含量が3.0mg/L以上(アルコール濃度25v/v%換算)である乙類焼酎である。上述のように、HDMF含量が3.0mg/L以上、好ましくは5.0mg/L以上、より好ましくは10.0mg/L以上であれば、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を達成できる。なお、乙類焼酎では、HDMF含量が3.0mg/L未満であると、甘い香りに欠ける酒質となる。
本実施形態においてもHDMF含量の上限は特になく、HDMF含量が多くなっても品質を大きく損なうことはない。ただし、官能的に好ましい上限値は、例えば70.0mg/Lである。
【0033】
次に、本発明の蒸留酒類を製造する方法について、焼酎を例として説明する。焼酎を製造する方法については特に限定はなく、焼酎の一般的な製法を基礎として行うことができる。一般に、焼酎の製造工程は、原料処理、仕込、発酵(糖化・発酵)、蒸留工程及び精製工程よりなる。なお、原料処理には、製麹工程、原料液化、液化・糖化工程も含むものとする。通常、焼酎の製造において、一次醪は穀類麹を水と混合して仕込み、酵母を添加して増殖させて得ることができる。次に、得られた一次醪に、例えば蒸きょうした掛原料を添加して二次醪とする。
【0034】
本発明では、原料の少なくとも一部に加熱処理された麹を用いる。加熱処理には、焙炒法等の乾燥熱風による直接加熱法、熱源から隔壁を通して加熱する間接加熱法、加圧して加熱する加圧加熱法、等がある。直接加熱法の例としては焙炒法以外に気流乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。間接加熱法の例としてはドラム乾燥が挙げられる。加圧加熱法の例としては圧力式焼成釜を用いる方法や押出成形に用いるエクストルーダー法が挙げられる。
なお、本発明における加熱処理は乾熱的な処理(例えば、乾燥を伴う熱処理)を指しており、例えば、通常の蒸気による蒸きょう処理は含まれない。ただし、通常の蒸気による蒸きょう処理以外で、原料の水分が減少する処理は含まれる。たとえば、乾き飽和水蒸気を更に加熱して飽和蒸気温度を超える温度に上昇させた状態の水蒸気である過熱蒸気を用いる過熱蒸気処理も採用できる。加熱処理条件は、被処理物の種類、形態及び加熱処理方法により適宜選択されるが、例えば、温度は100〜350℃の範囲から、時間は0.1秒〜数時間の範囲から適宜選択すればよい。
【0035】
蒸留工程についても特に限定はなく、通常の焼酎の製造で採用されている方法をそのまま適用することができる。例えば、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)を得るための連続蒸留法、乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を得るための単式蒸留法のいずれもが採用可能である。また、醪を通常の大気圧下で蒸留する常圧蒸留法、真空ポンプで醪を大気圧より低くして蒸留する減圧蒸留法のいずれもが採用可能である。HDMF回収率を上げるために、遠心式薄膜真空蒸発装置を用いてもよい。
【0036】
ここで、本発明者らが詳細に検討した結果、蒸留工程において、焦げつきが少なくなるような蒸留を行うと、本発明の蒸留酒類を効率的に製造することができることがわかった。不快な焦げ臭がないようにするためには、減圧蒸留法を採用し、醪の焦げつきを抑える条件を選択することが好ましい。減圧蒸留の条件としては、例えば30Torr(mmHg)以下の圧力、換言すれば、大気圧(760Torr)に対して−730mmHg以下で行えばよい。これにより、不快な焦げ臭がなくまた着色もない、HDMFを特定量以上含有する蒸留酒類を得ることができ、さらに甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を達成できる。
【0037】
蒸留工程における加熱温度としては、焦げつきが少なくなるような温度を採用し、好ましくは60℃以上の温度を採用する。これにより、HDMFを十分に回収することができ、不快な焦げ臭がなく、さらに甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた蒸留酒類を効率よく得ることができる。なお、還流操作を行う蒸留により、HDMF含量として100.0mg/Lまで濃縮可能であることは確認済みである。
【0038】
本発明の甲類焼酎は、上記した本発明の乙類焼酎を含有するものであり、かつアルコール濃度25v/v%換算で、HDMF含量が0.1〜5.0mg/Lのものである。HDMF含量を0.1〜5.0mg/Lとすることにより、すっきりとしていながら、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を備えたものとなる。なお、甲類焼酎の場合は、HDMF含量が0.1mg/L以上(アルコール濃度25v/v%換算)であれば上記した酒質が得られる。HDMF含量は、好ましくは0.5〜5.0mg/L、より好ましくは2.0〜5.0mg/Lである。
本発明の甲類焼酎は、例えば、上記の乙類焼酎と原料用アルコールとを混和して製造することができる。その他、連続蒸留法によって本発明の甲類焼酎を製造することができる。
【0039】
本発明の清酒は、原料の少なくとも一部に加熱処理された米麹を用いたものであり、アルコール濃度25v/v%換算で、HDMF含量が3.0mg/L以上のものである。
【0040】
上述したように、本発明における「清酒」とは、酒税法でいう醸造酒類の中の清酒のことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が22度(22v/v%)未満のものである。
(1)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(2)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(3)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
【0041】
本発明の清酒におけるHDMF含量は3.0mg/L以上(アルコール濃度25v/v%換算)である。HDMF含量は、好ましくは5.0mg/L以上、より好ましくは10.0mg/L以上である。
HDMF含量の上限は特になく、HDMF含量が多くなっても品質を大きく損なうことはない。ただし、官能的に好ましい上限値は、例えば70.0mg/Lである。
【0042】
次に、本発明の清酒を製造する方法について説明する。本発明の清酒を製造する方法については特に限定はなく、通常の清酒の製造方法をそのまま適用することができる。一般に、清酒の製造工程は、原料処理、仕込、糖化・発酵、上槽、精製の各工程よりなり、さらに清酒の精製は、活性炭処理・ろ過、火入れ、貯蔵、おり下げ・ろ過、調合・割水、火入れ等の工程よりなる。清酒醸造の原料の一般的処理は、精白、洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう(蒸煮)、放冷の工程があるが、前記した原料処理は、掛原料の液化及び/又は糖化並びに麹原料の処理、製麹工程も含んでいる。
【0043】
本発明では、原料の少なくとも一部に加熱処理された米麹を用いる。加熱処理は、前記と同様の処理を行えばよい。このようにして、HDMFを特定量以上含有する清酒を得ることができ、さらに甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を達成できる。
【0044】
本発明の果汁含有アルコール飲料は、上記した蒸留酒類を含有するものであり、香料を含有せず、アルコール濃度25v/v%換算で、HDMF含量が0.1〜5.0mg/Lのものである。HDMF含量を0.1〜5.0mg/Lとすることにより、香料不使用でありながら、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質を備えたものとなる。HDMF含量は、好ましくは0.1〜4.0mg/L、より好ましくは0.1〜3.0mg/Lである。本発明の果汁含有アルコール飲料は、例えば、パイナップル風味やイチゴ風味のチューハイとして有用である。
【0045】
本発明の果実含有アルコール飲料の製造方法としては、通常の果汁含有アルコール飲料の製造方法をそのまま適用することができる。例えば、醸造アルコールやスピリッツ等からなる原料アルコールに、果汁及び上記した本発明の蒸留酒類を添加し、必要に応じて水、糖類、酸味料等の香料以外の食品添加物を添加することにより得ることができる。
【0046】
上記スピリッツとして、原料果実をマイクロ波蒸留又はスピニングコーンカラムを用いた連続蒸留に供して得られる蒸留液を含有するスピリッツである「果実スピリッツ」を使用することができる。
また上記果汁として、原料果実の全果摩砕物及び/又は加熱処理物を主成分として含有する「呈味強化果汁」を使用することができる。例えば、原料果実の全果摩砕物や原料果実の加熱処理物そのもの、或いはこれらの希釈物若しくは濃縮物を、呈味強化果汁とすることができる。原料果実の全果摩砕物と原料果実の加熱処理物については、いずれか一方のみを用いてもよいし、両方を用いてもよい。
果実スピリッツと呈味強化果汁を用いることにより、所謂「糖質ゼロ」の果汁含有アルコール飲料とすることができる。
【0047】
本発明の果汁含有アルコール飲料におけるアルコール濃度としては、1〜9v/v%であることが好ましい。これにより、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れたソフトアルコール飲料(低アルコール飲料)とすることができる。さらに、本発明の果汁含有アルコール飲料は発泡性であることが好ましい。例えば、炭酸ガスによるカーボネーションを施すことにより、発泡性の果汁含有アルコール飲料を得ることができる。この際のガスボリュームとしては、例えば、1.5〜3.5の範囲とすることができる。
【0048】
なお、本発明において、加熱処理した麹を用いることによって高いHDMF含量が得られるメカニズムとしては、特許文献3に記載のハイドロキシ・ジメチル・フラノン(HDMF)配糖体(HDMFグルコシド)が酵母によって発酵してHDMFを生成するメカニズムとは異なり、詳細は不明であるが、糖とアミノ酸からメイラード反応によりHDMFの前駆体を生成し、酵母による発酵を経て、HDMFが多く生成するものと推察される。
【0049】
以下に、実施例をもって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
麹原料として蒸し米、掛原料として米麹の加熱処理物を用いて、米焼酎の製造を行った。仕込配合を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
一次仕込みとして、120kgの白米を、常法により水浸漬吸水後、水切り、蒸きょう、放冷した後、得られた蒸し米に種麹菌として市販の黒麹NK菌〔(株)河内源一郎商店製〕を接種し、米麹を得た。この麹に汲水120L及び酵母を加え、25℃で7日間発酵させ、一次醪とした。酵母は焼酎酵母協会2号を用いた。
【0053】
一次醪に、掛原料として米麹の加熱処理物を加えて二次仕込みを行い、25〜30℃で14日間発酵させた。なお、米麹の加熱処理は、焙炒機で150℃、15分(実施例1−1)、もしくは250℃、5分(実施例1−2)の条件で行った。
【0054】
得られた発酵醪を蒸留した。蒸留は、常法により単式蒸留機を用いて60Torrでの減圧蒸留(中留カットアルコール度数10v/v%)により行った。得られた蒸留液に冷却ろ過を実施し、アルコール濃度25v/v%となるように割水して、米焼酎を得た。
得られた米焼酎のHDMF含量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。その結果、実施例1−1の米焼酎では10.2mg/L、実施例1−2の米焼酎では9.6mg/Lであった(いずれもアルコール濃度25v/v%換算)。
【実施例2】
【0055】
米麹の加熱処理方法として、焼成処理を採用し、掛原料に米麹の焼成処理物を用いて米焼酎の製造を行った。焼成処理は、加熱調理用の金属板の上で行い、焼成温度を150℃とし、処理時間は10分(実施例2−1)又は15分(実施例2−2)とした。対照として、焼成処理を行っていない米麹を掛原料に用いた米焼酎を製造した(比較例2)。仕込配合や発酵条件などの他の試験方法は、実施例1と同様の方法で行った。
その結果、実施例2−1(処理時間10分)の蒸留液中のHDMF含量は3.0mg/Lであり、実施例2−2(処理時間15分)の蒸留液中のHDMF含量は10.0mg/Lであった(いずれもアルコール濃度25v/v%換算)。
一方、比較例2(焼成処理なし)の蒸留液中のHDMF含量は、検出限界(0.1mg/L)以下であった。
【0056】
本実施例で得られた米焼酎の官能評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
すなわち、米麹の焼成処理物を掛原料とする米焼酎(実施例2−1、実施例2−2)は、パイナップルやイチゴを想起させ、甘い香りが感じられる、あるいは甘い香りが増強されているといった評価であった。一方、焼成処理しない、通常の米麹を掛原料に用いた米焼酎(比較例2)では、甘い香りはほとんどないとの評価であった。
【実施例3】
【0059】
米麹の加熱処理方法として、加圧加熱法を採用し、掛原料に米麹の加圧加熱処理物を用いて米焼酎の製造を行った(実施例3)。加圧加熱処理は、エクストルーダー(処理能力:15kg/時間)を用いて、温度150℃、圧力1MPaの条件で行った。対照として、焼成処理を行っていない米麹を掛原料に用いた米焼酎を製造した(比較例3)。仕込配合は実施例1の1/10スケールとし、発酵条件などの他の試験方法は、実施例1と同様の方法で行った。得られた発酵醪のHDMF含量は167.0mg/L(アルコール濃度25v/v%換算)であった。
【0060】
得られた発酵醪を、遠心式薄膜真空蒸発装置を用いて蒸留した。得られた蒸留液に冷却ろ過を実施し、アルコール濃度18v/v%となるように割水して、米焼酎を得た。得られた米焼酎のHDMF含量は94.0mg/L(アルコール濃度25v/v%換算)であった。
【0061】
官能評価試験の結果を表3に示す。すなわち、米麹の加圧加熱処理物を掛原料とする米焼酎(実施例3)は、パイナップルやイチゴを想起させ、甘い香りが顕著に増強されているといった評価であった。一方、加圧加熱処理しない通常の米麹を掛原料に用いた米焼酎(比較例3)では、甘い香りはほとんどないとの評価であった。
【0062】
【表3】
【実施例4】
【0063】
実施例3で得られた米麹の加圧加熱処理物を掛原料とする米焼酎を、原料用アルコールと混和して、HDMF含量が4.5mg/L(アルコール濃度25v/v%換算)の甲類焼酎を調製した。この甲類焼酎は、すっきりとしていながら、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質であった。
【実施例5】
【0064】
掛原料として精米歩合70w/w%の精白米を用い、常法に従って洗米、浸漬、水切り、蒸きょうして蒸米を得た。麹米は精米歩合70w/w%の精白米を用い、製麹して得た米麹を実施例3と同様の方法で加圧加熱処理し、酵母及び乳酸はそれぞれ協会701号及び醸造用乳酸を用いて、清酒の製造を行った。留後16日目に醪を圧搾して上槽し、アルコール濃度18.6v/v%の清酒を得た。アルコール濃度15.0v/v%となるように割水し、本実施例の清酒を得た。得られた清酒のHDMF含量は3.6mg/L(アルコール濃度25v/v%換算)であった。この清酒は、清酒らしさに加えて、甘い香りが増強され香味良好で風味に優れた酒質であった。
【実施例6】
【0065】
実施例3で得られた米麹の加圧加熱処理物を掛原料とする米焼酎を用いて、以下の手順により、香料不使用の果汁含有アルコール飲料の製造を行った。
表4の実施例6に示す配合により、パイナップル果実スピリッツ、呈味強化果汁、実施例3の焼酎に水を加え、調合液を調製した。この調合液を冷却し、常法によりカーボネーターを用いて炭酸ガスを圧入して吸収させた後、壜に密封後、加熱殺菌処理を行い、糖質濃度が0.5g/100mL未満である、いわゆる糖質ゼロの果汁含有アルコール飲料を調製した(実施例6)。なお、HDMF含量は0.2mg/Lであった。
上記パイナップル果汁スピリッツとして、パイナップル果実をマイクロ波蒸留に供して得られた蒸留液を含有するスピリッツ(アルコール濃度50v/v%)を用いた。上記呈味強化果汁として、パイナップル果汁の加熱処理物(元の果汁に対して色度が4.0倍となったもの)を用いた。
比較例として、表4の比較例6に示す配合により、50v/v%醸造アルコール、パイナップル果汁に水を加えて調製した調合液を用い、実施例6と同様の手順で通常の果汁含有アルコール飲料を調製した(比較例6)。
【0066】
【表4】
【0067】
得られた香料不使用で糖質ゼロの果汁含有アルコール飲料(実施例6)について、10名の専門のパネラーにより官能評価試験を行った。その結果、10名とも、果実の味わいと果実感がとても強く感じられるという高い評価であった。果実感については、実施例6は、比較例6のおよそ10倍増強されていた。なお、実施例6の糖質は100mLあたり0.5g未満(0.30g)であり、糖質ゼロと表示できる果実含有アルコール飲料であった。
【0068】
(参考例)
市販されている甲類焼酎2種、乙類焼酎6種(麦焼酎2種、芋焼酎2種、米焼酎2種)、清酒3種について、HDMF含量を測定した。その結果、いずれの焼酎、清酒でも痕跡程度(検出限界0.1mg/L以下)であり、パイナップルやイチゴを想起させるHDMFの甘い香りは感じられなかった。