特許第6982410号(P6982410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アンビック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6982410-低伸縮生地 図000003
  • 特許6982410-低伸縮生地 図000004
  • 特許6982410-低伸縮生地 図000005
  • 特許6982410-低伸縮生地 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982410
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】低伸縮生地
(51)【国際特許分類】
   B65G 15/34 20060101AFI20211206BHJP
   B32B 5/06 20060101ALI20211206BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   B65G15/34
   B32B5/06 A
   B32B5/26
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-112586(P2017-112586)
(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公開番号】特開2018-203497(P2018-203497A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229863
【氏名又は名称】アンビック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩城 史典
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 茂樹
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−274627(JP,A)
【文献】 特開2005−171419(JP,A)
【文献】 特開昭63−074807(JP,A)
【文献】 特開平05−008821(JP,A)
【文献】 実用新案登録第2567268(JP,Y2)
【文献】 特開平11−301824(JP,A)
【文献】 特開2007−137993(JP,A)
【文献】 特開2008−133551(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/169465(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 15/34
B32B 5/06
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層と下層がニードルパンチにより絡合一体化された低伸縮生地であって、
前記上層は合成樹脂繊維の不織布のみで構成され、
前記下層は連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる織物である基布で構成され、前記基布の組織が、経二重破れ織、又は、平二重織であることを特徴とする低伸縮生地。
【請求項2】
前記下層が、前記基布に加えて、基布の上部に積層された合成樹脂繊維の不織布である上部層、及び基布の下部に積層された合成樹脂繊維の不織布である下部層で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の低伸縮生地。
【請求項3】
前記下層が、ニードルパンチにより絡合一体化されている
ことを特徴とする請求項2に記載の低伸縮生地。
【請求項4】
前記織物の経糸が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリ−パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、又はガラス繊維からなり、
前記織物の緯糸が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ガラス繊維、又は耐熱性を有する樹脂を含浸若しくは塗布したポリエステル繊維若しくはナイロン繊維からなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低伸縮生地。
【請求項5】
前記織物の経糸及び/又は緯糸が、熱融着繊維又は未延伸繊維を含む糸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低伸縮生地。
【請求項6】
前記基布の上部層及び/または下部層を構成する合成樹脂繊維が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、PEI(ポリエーテルイミド)繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、メラミン繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、又は炭素繊維であることを特徴とする請求項2又は3に記載の低伸縮生地。
【請求項7】
目付けが2500〜6000g/mであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の低伸縮生地。
【請求項8】
厚さが7〜15mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の低伸縮生地。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の低伸縮生地からなる搬送用耐熱ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形直後のアルミ形材等の高温製品を載せて搬送する搬送用耐熱ベルトに用いられる低伸縮生地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、押出成形直後の高温(550〜600℃)のアルミ成形品等の、高温の成形品を載せて搬送するコンベアベルトは、その材質に高い耐熱性を備えたカーボンブロック等が用いられていた。しかし、カーボン等の硬く熱伝導率が良い材料は、搬送時にアルミ成形品等を傷付けたり、急激な温度変化により結晶構造が異なることにより「曇り」と呼ばれる現象が生じるなどの問題があった。
【0003】
前述の問題を解消するために、柔らかくクッション性があり熱伝導率の低い耐熱性繊維、例えば、メタ系アラミド繊維等からなるフェルトベルトや、柔軟で伸度の小さい高強度繊維からなる基布に、耐熱性の繊維バットを重ねて針打ちにより絡合一体化したベルトが開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、経糸及び緯糸に高強力・低伸度の糸を用いた織物を複数層積層するか、又は、高強力・低伸度の糸を用いた糸層を複数層積層した基材部と、該基材部の上に配置した耐熱繊維を用いたフェルト部とからなる搬送用耐熱ベルトが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2567268号公報
【特許文献2】特開2001−48329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示されたベルトは、フェルトと帆布の使用中の剥がれ防止や丈伸び防止のために寸法安定性を考慮したものである。このベルトを有端状のベルトとして製作する場合、両端部の帆布に金属製フックを打ち込んで無端状のコンベアベルトとなるように接合するが、該方法により製作されたコンベアベルトは、高温下での使用中に張力や熱によって帆布の緯糸がほつれ、緯糸とともにフックが抜け落ちるという問題を有している。
【0007】
また、前記特許文献2に記載の搬送用耐熱ベルトは、経糸に高強力・低伸度の糸を用いた平織の織物を複数層積層した基材部と、該基材部の上に配置した耐熱繊維を用いたフェルト部とから構成されている。しかしながら、基材部を複数枚重ねると、不織布を作製する際に重ね合わせた状態でテンションを張ることは難しく、伸びの原因となる弛みが発生し易い。また、平織等の一重織繊維は、経糸と緯糸の交点が多いため伸びの原因となっている。そのため、これを使用したニードルパンチ不織布は、低伸度でのモジュラスが低く、搬送用ベルトとして用いると搬送ローラーの空転を生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、押出成形直後のアルミ形材等の高温製品を載せて搬送する搬送用耐熱ベルト等に最適に用いることができる、耐熱性を有する低伸縮生地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上層と下層がニードルパンチにより絡合一体化された低伸縮生地であって、前記上層は合成樹脂繊維の不織布のみで構成され、前記下層は連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる織物である基布で構成されていることを特徴とする低伸縮生地に関する。
【0010】
前記下層が、前記基布に加えて、基布の上部に積層された合成樹脂繊維の不織布である上部層、及び基布の下部に積層された合成樹脂繊維の不織布である下部層で構成されていることが好ましい。
【0011】
前記下層が、ニードルパンチにより絡合一体化されていることが好ましい。
【0012】
前記織物の経糸が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリ−パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、又はガラス繊維からなり、前記織物の緯糸が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ガラス繊維、又は耐熱性を有する樹脂を含浸若しくは塗布したポリエステル繊維若しくはナイロン繊維からなることが好ましい。
【0013】
前記織物の経糸及び/又は緯糸が、熱融着繊維又は未延伸繊維を含む糸であることが好ましい。
【0014】
前記基布の上部層及び/または下部層を構成する合成樹脂繊維が、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、PEI(ポリエーテルイミド)繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、メラミン繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、又は炭素繊維であることが好ましい。
【0015】
目付けが2500〜6000g/mであることが好ましい。
【0016】
厚さが7〜15mmであることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記低伸縮生地からなる搬送用耐熱ベルトに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の低伸縮生地は、経糸と緯糸の交差数を減らした織物で構成された基布を含むので、従来品に比べて低伸度であり、搬送ローラーの空転を抑制でき、搬送用ベルト材として好適に用いることができる。また、基布及び/又は該基布の上層及び下層に用いる合成樹脂繊維として、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、PEI繊維、PPS繊維、PTFE繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、メラミン繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、炭素繊維などの高強度・低伸度繊維の糸を用いると、耐熱性と低伸度を併せ持つ搬送用ベルト材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る低伸縮生地の実施形態の一例を示す部分断面図である。
図2】基布の実施形態の一例を示す経糸と緯糸の部分断面図である。
図3】基布の実施形態の一例を示す組織図であり、(a)は経二重破れ織、(b)は経二重ピケ織、(c)はピケ織、(d)は平二重織である。
図4】本発明に係る低伸縮生地の両端部の接合処理手順を示す説明図であり、(a)は基布を含む下層と上層間に切込を入れた状態、(b)は下層にレーシング金具を挟み付けた状態、(c)はレーシング金具を重ね合わせた状態、(d)はピンを挿入した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の低伸縮生地は、上層と下層がニードルパンチにより絡合一体化された低伸縮生地である。前記上層は基布を含まず、合成樹脂繊維の不織布のみで構成されている。前記下層は、織物である基布で構成される。
【0021】
上層と下層を絡合一体化するためのニードルパンチの密度は、200〜3000本/cmが好ましく、500〜2000本/cmがより好ましい。
【0022】
上層は、合成樹脂繊維のみで構成されており、合成樹脂繊維のみで構成される不織布であることが好ましい。合成樹脂繊維は、高強度かつ低伸度の繊維であることが好ましい。このような繊維としては、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、PEI繊維、PPS繊維、PTFE繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、メラミン繊維、又はガラス繊維、バサルト繊維、炭素繊維などが挙げられる。合成樹脂繊維のみで構成される不織布は、ニードルパンチ法、サーマルボンディング法、メルトブロー法、水流交絡法等の通常の方法により作製できる。ポリエステル繊維としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、PEN(ポリエチレンナフタレート)繊維、PBT(ポリブチレンテレフタレート)繊維、PTT(ポリトリブチレン)繊維、LCP(液晶ポリエステル)繊維、ポリアリレート繊維などが挙げられる。
【0023】
合成樹脂繊維の太さは、0.1〜15.0dtexが好ましく、1.5〜10.0dtexがより好ましく、2.0〜6.0dtexがさらに好ましい。0.1dtex未満では生地にネップが発生する傾向があり、15.0dtexを超えると生地を高密度(ここでは0.15g/cm以上とする)に調整できなくなる傾向がある。
【0024】
上層の目付けは、500〜4200g/mが好ましく、1000〜3000g/mがより好ましい。500g/m未満では下層が熱劣化する傾向があり、4200g/mを超えると生地の柔軟性が失われる傾向がある。
【0025】
下層の基布を構成する織物は、連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる。織物が、連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなることにより、経糸と緯糸の交差数を減らし、低伸度とすることができる。
【0026】
経糸が跨ぐ、又は潜る、連続した緯糸の数は、3本以上であるが、さらに、5本以上であることが好ましく、7本以上であることがより好ましい。3本未満では、経糸と緯糸の交点が多くなるため低伸度でのモジュラスが低下する傾向がある。
【0027】
経糸が跨ぐ、又は潜る、連続した緯糸の数は、15本以下であることが好ましく、12本以下であることがより好ましく、10本以下であることがさらに好ましい。15本を超えると、生地作製時、合成樹脂繊維との交絡の際に、衝撃により基布がたるむ等の基材の変形が起こりやすい傾向がある。
【0028】
基布を構成する織物の具体的な組織として、3/1組織(経糸が連続した3本の緯糸を跨いだ後、1本の緯糸を潜る組織)、1/3組織(経糸が1本の緯糸を跨いだ後、連続した3本の緯糸を潜る組織)、5/1組織(経糸が連続した5本の緯糸を跨いだ後、1本の緯糸を潜る組織)、1/5組織(経糸が1本の緯糸を跨いだ後、連続した5本の緯糸を潜る組織)、及び経二重組織等が挙げられる。組織の具体例として、ピケ織、平二重織が挙げられる。
【0029】
基布を構成する織物として経二重組織を用いる場合、二層の織物層のうちの少なくとも一方の織物は、連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる織物である。このような経二重組織としては、例えば、第1層が3/1組織であり第2層が1/3組織である経二重組織、第1層が5/1組織であり第2層が1/5組織である経二重組織、第1層が3/1組織であり第2層が1/1組織である経二重組織、第1層が5/1組織であり第2層が1/1組織である経二重組織が挙げられる。経二重組織の具体例として、経二重破れ織、経二重ピケ織が挙げられる。基布を構成する織物として、これらの組織を複数積層したものを使用することもできる。
【0030】
基布を構成する織物の経糸は、耐熱性を有し、高強度かつ低伸度の繊維からなることが好ましい。このような繊維としては、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、PEI繊維、PPS繊維、PTFE繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、メラミン繊維、又はガラス繊維、バサルト繊維、炭素繊維などが挙げられる。ポリエステル繊維としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、PEN(ポリエチレンナフタレート)繊維、PBT(ポリブチレンテレフタレート)繊維、PTT(ポリトリブチレン)繊維、LCP(液晶ポリエステル)繊維、ポリアリレート繊維などが挙げられる。
【0031】
基布を構成する織物の緯糸は、経糸と同様に、耐熱性を有し、高強度かつ低伸度の繊維からなることが好ましい。このような繊維としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ガラス繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維又はパラ系アラミド繊維のいずれも用いることができる。また、緯糸はポリエステル、ナイロン等の汎用繊維からなるものであってもよい。低伸縮生地に耐熱性が求められる場合には、緯糸はポリエステル、ナイロン等の汎用繊維からなるものであってもよいが、耐熱性樹脂を含浸又は塗布した繊維であることが好ましい。耐熱性樹脂としては、シリコーン樹脂、フッ素ゴム樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。ポリエステル繊維としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、PEN(ポリエチレンナフタレート)繊維、PBT(ポリブチレンテレフタレート)繊維、PTT(ポリトリブチレン)繊維、LCP(液晶ポリエステル)繊維、ポリアリレート繊維などが挙げられる。
【0032】
基布を構成する織物の経糸または緯糸に、前述の成分からなる芯材と、低融点の共重合成分からなる外周材からなる2成分で構成されたポリエステル等の熱融着繊維を用いることもできる。熱融着繊維からなる経糸又は緯糸を用いて作製した基布に熱処理を施すと、経糸と緯糸が熱融着し基布の強度を向上させることができる。また、熱融着繊維からなる経糸又は緯糸を用いて作製した基布に、後述のように合成樹脂繊維の不織布からなる層を積層してから熱処理を施すと、基布の経糸と緯糸に加えて、合成樹脂繊維も巻き込んで固定されるため、基布を含む下層の強度を向上させることができる。低融点の共重合成分としては、低融点ポリエステルが挙げられる。熱処理する場合、処理温度は160〜250℃が好ましく、170〜190℃がより好ましい。熱処理時間は5〜20分が好ましく、7〜10分がより好ましい。下層の熱処理は、例えば、下層を両側から処理温度に加熱した乾燥機に入れることにより行える。
【0033】
また、経糸または緯糸には、延伸を十分に行っていない非晶配向をもつポリエステル等の未延伸繊維を混合することもできる。この場合にも、作製した基布に熱処理を施し、非晶質部分を非晶質部分の融点以上で溶融することにより、経糸と緯糸が熱融着し基布の強度を向上させることができる。
【0034】
経糸および緯糸の太さは、250〜3000dtexが好ましく、500〜2500dtexがより好ましく、750〜2000dtexがさらに好ましい。250dtex未満では低伸度でのモジュラスが低下する傾向があり、3000dtexを超えると剥離が発生する傾向がある。上記範囲内のものであれば、スパン糸、フィラメント糸のいずれも用いることができる。
【0035】
基布の目付けは、125〜1500g/mが好ましく、400〜900g/mがより好ましく、500〜750g/mがさらに好ましい。基布の目付けは低伸縮生地全体の目付の5〜25%が好ましく、10〜20%がより好ましい。基布の厚さは、0.25〜3.0mmが好ましく、0.5〜2.0mmがより好ましい。基布の厚さは低伸縮生地全体の厚さの2〜20%が好ましく、4〜10%がより好ましい。
【0036】
下層は基布のみで構成されていてもよいが、合成樹脂繊維の不織布からなる層と組み合わせて多層構造とすることもできる。基布と合成樹脂繊維の不織布からなる層を組み合わせる場合には、合成樹脂繊維の不織布からなる層と基布の二層構造としてもよい。また、基布、基布の上部に積層された合成樹脂繊維の不織布の上部層、及び基布の下部に積層された合成樹脂繊維の不織布の下部層からなる三層構造としてもよい。下層はニードルパンチにより絡合一体化されていてもよい。
【0037】
下層をニードルパンチにより絡合一体化する場合、そのパンチ密度は200〜2500本/cmが好ましく、400〜2000本/cmがより好ましい。
【0038】
本発明の低伸縮生地の目付けは、2500〜6000g/mであることが好ましく、3000〜5000g/mであることがより好ましい。低伸縮生地の厚さは、7〜15mmであることが好ましく、10〜12mmであることがより好ましい。
【0039】
有端状の低伸縮生地を無端状に加工してから、耐熱性搬送ベルトとして使用できる。耐熱性搬送ベルトとして使用する場合、加工前の有端状の低伸縮生地の長さは特に限定されないが、例えば8〜9mである。無端状への加工方法としては、レーシング加工、樹脂接着加工、縫製加工等が挙げられる。耐熱性搬送ベルトは、耐熱性、高強度、低伸縮性を併せ持ち、押出成形直後のアルミ形材、溶融鍍金処理等の高温製品の搬送に好適に使用できる。本発明の低伸縮生地は、耐熱性搬送ベルトの他に、乾燥用コンベア、コンベアの駆動材である丸ベルトや平ベルト等の用途に用いることもできる。
【0040】
以下、本発明の低伸縮生地の実施形態を、図面に基づいて説明する。図1において、低伸縮生地1は、合成繊維のみで構成された上層3と、基布2を含む合成樹脂繊維の下層4で構成されニードルパンチにより絡合一体化して形成されている。下層4は基布2を境界として上部層5及び下部層6に積層された合成樹脂繊維層がニードルパンチにより絡合一体化して形成されている。
【0041】
図2は、3/1組織で構成される場合の基布2の緯糸方向の断面模式図である。3/1組織にすることで、経糸21と緯糸22の交差数を減少し、低伸度の織布を得ることができる。
【0042】
図3(a)〜(d)は、基布2の組織図である。図3(a)は経二重破れ織、図3(b)は経二重ピケ織、図3(c)はピケ織、図3(d)は平二重織を示す。連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は、連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる織物であれば、経二重破れ織又は経二重ピケ織に限定されず、他の組織とすることが可能である。
【0043】
経二重織は、1組の緯糸に表経と裏経が組織し、経糸を二重に用いて緯糸を一本織った表裏のある織物のことであり、両面織物で地厚の織物である。即ち、一重の織物の裏にも、一つ余分の経糸が織付いたものである。経二十織としては、ピケ織がある。また、破れ織とは、例えば、綾目をある数毎に途中で反対方向の綾目にし、その境界が丁度綾目が破れたようになっている破れ斜文がある。
【0044】
前記基布2を構成する織物の経糸21および緯糸22のどちらか、又は両方に熱融着繊維又は未延伸繊維を混合してもよい。熱融着繊維が混合された糸の場合には共重合成分を融点以上で溶かすことにより、経糸と緯糸の交点を固定できる。未延伸繊維が混合された糸の場合には非晶質部分を非晶質部分の融点以上で溶融することにより、経糸と緯糸の交点を固定できる。これにより経糸と緯糸のズレを防ぎ、低伸度でのモジュラスを向上できる。
【0045】
前記基布2において、低伸縮生地1の縦方向(搬送用耐熱ベルトの進行方向)に高強度を付与するため、少なくとも経糸21には高強度・低伸度繊維の糸を用いることが好ましい。緯糸22にも高強度・低伸度の繊維を用いてもよいが、高温でない製品を搬送する場所に使用する場合、ポリエステル、ナイロン等の汎用繊維を用いた方がコストダウンを図ることができる。
【0046】
図1において、基布2の上層3、上部層5及び下部層6はアラミド繊維層であってもよい。上層3は、例えば、押出成形直後の高温(550〜600℃)のアルミ成形品を載せて搬送する部分であるから、8〜13mmの厚さが必要である。一方、前記下層4は200℃程度の耐熱性があれば良く、上層3と同じアラミド繊維層である必要はなく、変性ウレタン樹脂、変性シリコーン樹脂、アクリル樹脂等を使用してもよい。
【0047】
前記上層3は、耐熱ベルトとして高い耐熱性を要求されない工程で使用されるときは、ポリエステル繊維などの汎用繊維でも十分であり、目付けとしては1000〜6000g/mが好ましく、1000〜3000g/mがより好ましい。また、基布の材質として、メタ系アラミド繊維の糸を使用できるが、高い耐熱性が要求されない場合にはポリエステル繊維等の汎用繊維も使用できる。
【0048】
図4は、有端状に形成された低伸縮生地1を耐熱性搬送ベルトとして用いるために、無端状に加工する手順を示したものである。まず、(a)のように、帯状に形成された低伸縮生地1の長さ方向の両端部を、基布2を含む下層4と、上層3間に切込を入れて開口する。次に、(b)のように、前記両端部の基布2を含む下層4の幅方向に、下層4の幅より若干短幅のレーシング金具7を挟着して、一方の面から該レーシング金具7に設けられた全ての爪8をハンマー等で打設した後、前記低伸縮生地1を反転させて他方の面も同様に打設し、該レーシング金具7を基布2と下層4に固定する。次に、(c)のように、前記両端部に固定したレーシング金具7のリング9を重ね合わせ、これにより形成された共通孔に接続ピン10を挿入する。次に、(d)に示すように、前記基布2を含む下層4と、上層3間の開口を、接着剤で貼着する。これにより、前記低伸縮生地1から無端状の耐熱性搬送ベルトを作製できる。
【実施例】
【0049】
(1)実施例1
経糸及び緯糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)を用いて、600g/mの経二重破れ織の基布を作成した。この基布にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)を4200g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断して試験片とした。
【0050】
(2)実施例2
経糸及び緯糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)を用いて、600g/mの経二重ピケ織の基布を作成した。この基布の上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0051】
(3)実施例3
経糸及び緯糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)を用いて、600g/mのピケ織の基布を作成した。この基布の上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0052】
(4)実施例4
経糸及び緯糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)を用いて600g/mの平二重織の基布を作成した。この基布の上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0053】
(5)実施例5
経糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)、緯糸に1670dtexの熱融着ポリエステル糸(ユニチカ製 1670T192−CM27)を用いて、600g/mの平二重織の基布を作成した。この基布の上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、170℃で10分間の熱処理を施した後、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0054】
(6)比較例1
経糸及び緯糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)を用いて300g/mの平織の基布を作成した。前記平織の基布を3枚重ねた後、上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付5100g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0055】
(7)実施例6
経糸に1670dtexのポリエステル糸(南亜製 1500d192 強力糸 SDY)、緯糸に1670dtexの熱融着ポリエステル糸(ユニチカ製 1670T192−CM27)を用いて、600g/mの平二重織の基布を作成した。前記基布を170℃で10分間熱処理した後、基布の上下にアラミド繊維(2.25dtex×51mm 東レ・デュポン製 Kevlar(R)29)をそれぞれ1050g/m積層し、さらにその上層に同様のアラミド繊維を2100g/m積層し、パンチ密度1600本/cmのニードルパンチングで絡合一体化して、厚さ12mm、目付4800g/mの低伸縮生地を作成した。前記低伸縮生地を幅2cm、長さ20cmに裁断し試験片とした。
【0056】
(8)伸縮試験
実施例1〜6、及び比較例1の幅2cm、長さ20cmの試験片を採取して、定速伸張型引張試験機(オリエンテック製、テンシロン)を用いて、試験片をつかみ間隔100mmで固定した後、1mm(=1%)伸長(つかみ間隔:101mm)した際のモジュラス、及び破断強度を測定した。なお、測定値は1cm幅当たりの1%モジュラス値である。測定は引張速度30mm/分の条件で行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(9)試験結果
比較例1では平織の基布を3枚用いた結果、破断強度は高いものの、経糸と緯糸の交点が多いため伸びの原因となる伸びしろが多く、1cm幅当りの1%モジュラスの値は低い。実施例1〜6については、経糸と緯糸を3/1組織で織った基布を用いているので経糸と緯糸の交点が少なく、伸びの原因となる伸びしろが少なく、1cm幅当りの1%モジュラスの値は60N/cm以上と高い値となった。
【0059】
また、下層を作製途中に熱処理をした実施例5の1cm幅当りの1%モジュラスの値は90N/cm以上であり、実施例の中で最大値となった。これに対し、実施例4と実施例6を比較すると同等であり、下層作製前に熱処理をした実施例6では熱処理による有意な効果はみられない。実施例5は、経糸と緯糸の交点のみならず周りのある繊維(この場合アラミド繊維)も巻き込んで固定されたため、1cm幅当りの1%モジュラスの値が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の低伸縮生地は、連続した3本以上の緯糸を跨ぐ経糸、又は連続した3本以上の緯糸を潜る経糸からなる織物で構成される基布を用いているので、長期間使用しても伸びが少ない。したがって、アルミ形材に限定されることなく、類似の高温製品等を載せて搬送する搬送用耐熱ベルト用材料として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 低伸縮生地
2 基布
21 経糸
22 緯糸
3 上層
4 下層
5 上部層
6 下部層
7 レーシング金具
8 爪
9 リング
10 接続ピン
図1
図2
図3
図4