(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の補助転舵機能付ハブユニットにおいて、前記ハブユニット本体の前記ナックルに対する補助転舵の角度を規制するストッパを有し、このストッパで規制される前記ハブユニット本体の補助転舵可能角度が±5度以下である補助転舵機能付ハブユニット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車輪にスムースに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかし、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力とつり合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいため、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。
【0006】
前述したように一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪のタイヤ横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化及びタイヤの早期摩耗の原因となり、また内外輪を効率的に利用できないことによって、コーナリングのスムースさが損なわれるといった課題がある。
【0007】
特許文献1,2の提案によると、ステアリングジオメトリを変更させることができるが次の課題がある。
特許文献1では、前述のようにナックルアームとジョイント位置を相対的に変化させてステアリングジオメトリを変化させているが、このような部分で車両のジオメトリを変化させるほどの大きな力を得るモータアクチュエータを備えることは、空間の制約上、非常に困難である。また、この位置での変化によるタイヤ角の変化が小さく、大きな効果を得るためには、大きく変化させる、つまり大きく動かす必要がある。
特許文献2では、モータを2個使っているため、モータ個数の増大によるコスト増が生じるうえ、制御が複雑になる。
特許文献3は、4輪独立転舵の車両にしか適用出来ず、また転舵軸に対しハブベアリングを片持ち支持しているため、剛性が低下し、過大な走行Gの発生によってステアリングジオメトリが変化してしまう可能性がある。
また、転舵軸上に減速機を設けた場合、大きな動力が必要となる。このため、モータを大きくするが、モータを大きくすると車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。また、減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0008】
上記のように従来の補助的な転舵機能を備えた機構は、車両においてタイヤのトー角度やキャンバー角度を任意に変更することを目的としているため、複雑な構成となっている。また、剛性を確保することが困難であり、剛性を確保するためには大型とする必要があり重くなる。
【0009】
この発明の目的は、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、走行状況に応じた車輪個別の補助的な転舵が行えて、車両の運動性能を向上させ、走行の安定・安全性の向上と燃費の改善が可能となり、また構成が簡素でかつ堅固な補助転舵機能付ハブユニットおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の補助転舵機能付ハブユニットは、運転者のハンドル操作によって車輪の転舵角度を変化させるステアリング装置に、懸架装置のナックルを介して接続されるハブユニットであって、
前記車輪の取付用のハブベアリングを有するハブユニット本体と、前記ナックルと連結されまたはナックルの一部として構成されたユニット支持部材と、補助転舵用アクチュエータとを備え、
前記ハブユニット本体は、上下方向に延びる補助転舵軸心回りに回転自在なように上下2箇所でそれぞれ回転許容支持部品を介して前記ユニット支持部材に支持され、前記補助転舵用アクチュエータの駆動により前記補助転舵軸心回りに回転させられる。
【0011】
この構成によると、ステアリング装置により運転者のハンドル操作で、ハブベアリングの方向がハブユニット本体と共に変わり、転舵が行われるが、この転舵に付加して補助転舵軸心回りの僅かな角度の補助転舵が、車輪個別に行える。
この場合に、前記補助転舵用アクチュエータにより、ハブユニット本体が補助転舵軸心回りに自由に回転させることができ、車両の走行状況に応じて、例えばタイヤのトー角を任意に変更することができる。また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば高速域の旋回においてはパラレルジオメトリとし、低速域ではアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中にタイヤ角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。旋回走行時における左右の操舵輪の転舵角度を適切に変えることで、車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。
【0012】
この発明の補助転舵機能付ハブユニットにおいて、前記補助転舵軸心は前記懸架装置のキングピン軸と異なる方向であってもよい。
キングピン軸でハブユニット本体を補助転舵させるとキャンパー角が大きく変化し、走行抵抗が増す。補助転舵軸心をキングピン軸と別に設定することで、この補助転舵によるキャンパー角の変化を抑え、走行抵抗の増大を抑えることができる。
また、キングピン軸と補助転舵軸が一致する場合は、構成要素部品がハブユニット本体の車体側に配置されるために全体のサイズが大きくなり重くなるが、前記補助転舵軸心が前記懸架装置のキングピン軸と異なる方向であると、装置全体のサイズを抑え、軽量化することができる。
【0013】
前記補助転舵軸心は鉛直方向であってもよい。
補助転舵軸心が鉛直方向であると、補助転舵によるキャンパー角の変化をより良好に抑え、走行抵抗の増大をさらに抑えることができる。
また、前記補助転舵軸心は、上下方向に延びた軸心であればよく、多少は傾斜していてもよいが、鉛直方向であると、限られたタイヤハウスの空間等において、前記ユニット支持部材の配置空間が確保し易い。
【0014】
この発明の補助転舵機能付ハブユニットにおいて、前記ハブユニット本体の前記ナックルに対する補助転舵の角度を規制するストッパを有し、このストッパで規制される前記ハブユニット本体の補助転舵可能角度が±5度以下であってもよい。
補助転舵による車両の運動性能の向上、走行の安定・安全性向上は、僅かな角度で足り、補助転舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助転舵の角度は補助転舵用アクチュエータの制御により行えるが、前記ストッパが設けられていると、万一、補助転舵機能付ハブユニットが電源系の失陥等で故障した場合にも、直進性が保たれ、旋回時にも大きな影響が生じることが防止される。そのため、ハンドル操作によって安全な場所まで車両を寄せることができる。
【0015】
この発明の車両は、この発明の上記いずれかの構成の補助転舵機能付ハブユニットを装備する。そのため、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、走行状況に応じた車輪個別の補助的な転舵が行えて、車両の運動性能が向上し、走行の安定・安全性の向上と燃費の改善が可能となり、また補助転舵機能付ハブユニットの構成が簡素でかつ堅固なものとなる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の補助転舵機能付ハブユニットは、運転者のハンドル操作によって車輪の転舵角度を変化させるステアリング装置に、懸架装置のナックルを介して接続されるハブユニットであって、前記車輪の取付用のハブベアリングを有するハブユニット本体と、前記ナックルと連結されまたはナックルの一部として構成されたユニット支持部材と、補助転舵用アクチュエータとを備え、前記ハブユニット本体は、上下方向に延びる補助転舵軸心回りに回転自在なように上下2箇所でそれぞれ回転許容支持部品を介して前記ユニット支持部材に支持され、前記補助転舵用アクチュエータの駆動により前記補助転舵軸心回りに回転させられるため、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、走行状況に応じた車輪個別の補助的な転舵が行えて、車両の運動性能を向上させ、走行の安定・安全性の向上と燃費の改善が可能となり、また構成が簡素でかつ堅固という効果が得られる。
【0017】
この発明の車両は、この発明の補助転舵機能付ハブユニットを装備するため、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、走行状況に応じた車輪個別の補助的な転舵が行えて、車両の運動性能が向上し、走行の安定・安全性の向上と燃費の改善が可能となり、また補助転舵機能付ハブユニットの構成が簡素でかつ堅固なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態を図面と共に説明する。
図1において、この補助転舵機能付ハブユニット1は、車輪2の支持用のハブベアリング3を有するハブユニット本体4と、ユニット支持部材5と、補助転舵用アクチュエータ6とを備える。ハブユニット本体4は、上下方向に延びる補助転舵軸心A回りに回転自在なように、上下2箇所で回転許容支持部品7,7を介してユニット支持部材5に支持されている。補助転舵軸心Aは、車輪2の回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な転舵を行うキングピン軸Kとも異なっている。車輪2は、ホイール8とタイヤ9とでなる。
【0020】
この補助転舵機能付ハブユニット1は、この実施形態では転舵輪、具体的には
図15に示すように、車両10の前輪2
Fのステアリング装置25による転舵に付加して左右輪個別に微小角転舵させる機構としてナックル22に設置される。ステアリング装置25は、ハンドル(図示せず)の操作に応じて車輪2
F,2
Fを転舵させる装置である。この補助転舵機能付ハブユニット1は、この他に、前輪転舵に対する補助として後輪2
Rの転舵を行う機構として用いてもよい。
【0021】
図1において、ユニット支持部材5は、車体10A(
図15参照)に設置された懸架装置21のナックル22に取付けられている。ユニット支持部材5は、ナックル22と一体として、つまりナックル22の一部として設けられていてもよい。懸架装置21は、この例ではダブルウイッシュボーン式であり、ショックアブソーバ(図示せず)を介して接続されたアッパーアーム23とロアアーム24とを有し、これらアッパーアーム23とロアアーム24の先端間で傾斜したキングピン軸K回りに回動自在なように前記ナックル22が設置されている。懸架装置21は、この他に独立懸架式など、他の種々の形式が採用できる。ナックル22は、
図2に示すようにアーム状に突出したステアリング装置連結部22aが、ステアリング装置25のタイロッド26に回転可能に連結されている。
【0022】
図3に示すように、ハブベアリング3は、内輪12と外輪11とこれら内外輪間に介在したボール等の転動体13とで構成されており、車体側の部材と車輪2とを繋ぐ役目をしている。ハブベアリング3は、図示の例では、外輪11が固定輪、内輪12が回転輪となり、転動体13が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪12は、ハブフランジ12aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部12aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部12bとの二つの部品で構成されている。前記ハブフランジ12aaに、
図2のように車輪2のホイール8がブレーキロータ14aと重なり状態でボルト固定されている。内輪12は、回転軸心O回りに回転する。
【0023】
ブレーキロータ14aは、ブレーキキャリパ14bとでブレーキ14を構成する。ブレーキキャリパ14bは、
図4,
図5に示す外輪11(
図3参照)に一体にアーム状に突出して形成された上下2箇所のブレーキキャリパ取付部36に取付けられる。
【0024】
図3において、ハブユニット本体4は、この補助転舵機能付ハブユニット1における補助転舵軸心A周りに回転する部分であり、ハブベアリング3と、前記回転許容支持部品7の回転側部品15と、補助転舵力受け部18(
図2、
図4参照)とを備える。
回転許容支持部品7は、この実施形態では球面滑り軸受からなり、凹球面座15aを有する回転側部品15と、前記凹球面座15aに任意方向に回転自在に嵌合する球面部16aを軸部16bの先端に有する固定側部品16とで主に構成される。凹球面座15aは、前記軸部16bの外周を覆う蛇腹状で可撓性のブーツ17で覆われている。
上下の各回転許容支持部品7の回転側部品15は、ハブベアリング3の外輪11における外周面の上下2箇所に取付用部として突出して設けられた底付き円筒状等の取付座部19,19にそれぞれ嵌合状態に取付けられている。
回転許容支持部品7の固定側部品16は、ユニット支持部材5に、予圧調整手段48により回転許容支持部品7の予圧調整が可能なように取り付けられている。具体的には、ユニット支持部材5が、ナックル22に固定された支持部材本体5aと、この支持部材本体5aに対して補助転舵軸心Aに沿う方向に位置調整可能な支持部材分割体5bとに分割され、支持部材分割体5bが調整ボルト49の締め付け回転により位置調整可能とされている。この分割構造と調整ボルト49とで前記与圧調整手段48が構成される。
この明細書において、前記「球面滑り軸受」は、球面ブッシュおよびピボット軸受を含む意味である。
【0025】
なお、この実施形態では、上記のようにハブベアリング3の外輪11に取付座部19が一体に形成されて回転許容支持部品7の回転側部品15が外輪11に直接に取付けられているが、外輪11の外周に軸箱等の取付用部品(図示せず)を設け、この取付用部品に前記回転許容支持部品7の回転側部品15を取付けてもよい。
【0026】
図1に示すように、ハブユニット本体4の補助転舵軸心Aは、上下方向に延びるが、キングピン軸Kとは異なる方向であり、例えば鉛直方向である。この実施形態では、補助転舵軸心Aは、キングピン軸Kの延長線と路面Sとの交点位置P
Kと、補助転舵軸心Aの延長線と路面Sとの交点位置P
Aが、共にタイヤ接地面9a内に位置するように設計されている。さらに、これらの交点位置P
K,P
Aは、互いに一致していることが、タイヤのすべりを最小となるため最適である。なお、前記「タイヤ接地面」は、運転席に1名(55kg相当)が乗車した状態において、タイヤ9が路面Sに接地している場所を言う。
【0027】
図2、
図4に示す前記補助転舵力受け部18は、ハブベアリング3の外輪11に補助転舵力を与える作用点となる部位であり、ハブベアリング3の外輪11の外周の一部に一体に突出したアーム部として設けられている。補助転舵力受け部18は、後に
図13と共に説明するようにジョイント57を介して前記補助転舵用アクチュエータ6の直動出力部6aに回転自在に連結されている。これにより、補助転舵用アクチュエータ6の直動出力部6aが進退することで、ハブユニット本体4が前記補助軸心A回りに回転、つまり補助転舵させられる。
【0028】
補助転舵用アクチュエータ6は、モータ27(
図3参照)と、このモータ27の回転を減速する
図2の減速機28と、この減速機28の正逆の回転出力を前記直動出力部6aの往復直線動作に変換する直動機構29とで構成される。モータ27は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
減速機28は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができ、
図2の例ではベルト伝達機構が用いられている。
直動機構29は、滑りねじまたはボールねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等用いることができ、この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。
【0029】
なお、本実施形態では、補助転舵用アクチュエータ6が、減速機28を備えている例を示したが、補助転舵用アクチュエータ6は、減速機28を備えておらず、モータ27の駆動力を、直接直動機構29へ伝達する構成であってもよい。
また、補助転舵用アクチュエータ6は、モータ27を備えていなくてもよい。そのような場合には、補助転舵用アクチュエータ6は、例えば油圧により駆動するアクチュエータであってもよい。
【0030】
前記ハブユニット本体4のナックル22に対する補助転舵の角度θ(
図6、
図7参照)は、ストッパ35により規制される。
図6は、主な転舵が直進状態で補助転舵が内側に行われた状態を示し、
図7は主な転舵が左側を向き、かつ補助転舵が内側に行われた状態を示す。ストッパ35は、例えば、ユニット支持部材5におけるハブユニット本体4と軸方向に対向する面、例えば、ハブベアリング3の外輪11の端面に対向する面に設けられ、その外輪端面が当接することで、ハブユニット本体4の補助転舵の角度θが規制される。ハブユニット本体4の補助転舵可能角度の許容範囲は、僅かな角度でよく、ストッパ35による補助転舵可能角度の許容範囲は、例えば±5度以下とされる。
【0031】
なお、この実施形態では、ハブベアリング3の外輪11に前記回転許容支持部品7を取付ける取付座部19(
図3、
図4)と、前記補助転舵力受け部18(
図2、
図4)と、前記ブレーキキャリパ取付部36とが一体に形成されているが、これら取付座部19、補助転舵力受け部18、およびブレーキキャリパ取付部36は、いずれも、ハブユニット本体4に設けられていればよく、前記外輪11に前記軸箱等の取付用部品(図示せず)を設ける場合は、その取付用部品に設けられていてもよい。
【0032】
上記構成の動作および作用を説明する。この補助転舵機能付ハブユニット1は、ハブベアリング3およびブレーキキャリパ14b(
図2参照)を有するハブユニット本体4が、
図1のナックル22に設けられたユニット支持部材5に対し補助転舵軸心Aを中心として回転自在であり、作用点となるアーム状の補助転舵力受け部18(
図2)に力を与えることで、ハブユニット本体4が回転可能である。ハブユニット本体4は、ユニット支持部材5に設置された補助転舵用アクチュエータ6の直動出力部6aをモータ27の駆動により進退させることで、直動出力部6aに連結された補助転舵力受け部18を介して回転させられる。
この回転は、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、すなわちステアリング装置25によるキングピン軸K(
図1)回りのナックル22の回転に付加して、補助的な転舵として行われ、また1輪の独立転舵が行える。左右の車輪2,2の補助転舵の角度を異ならせることで、左右の車輪2,2間のトー角を任意に変更することができる。
【0033】
車両10の走行条件に応じて、走行中に左右輪独立してタイヤ角度を任意に変更することができるため、車両10の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。また、適切なタイヤ角度を設定することで燃費を改善することも可能となる。
この補助転舵機能付ハブユニット1を非転舵輪となる後輪2
R(
図15)に用いた場合は、低速走行時における最小回転半径の低減を図ることができる。
また、この補助転舵機能付ハブユニット1は、補助転舵軸心A回りの回転自在な支持を上下2箇所でそれぞれ回転許容支持部品7,7により行うため、両端支持となって剛性が確保され、かつ構成が簡単である。
このように、剛性を確保したまま、簡単な構造で、走行状況に応じた補助的な転舵が左右輪独立して行えて、車輪2のトー角を任意に変更することができ、ステアリングジオメトリを変更することができるため、車両10の運動性能を向上させ、走行の安定・安全性の向上と燃費の改善が可能となる。
【0034】
上記の走行速度に応じた左右輪の舵角差の制御例につき説明する。上記のように、一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このような舵角課題等により内外輪のタイヤ横力配分に不要な偏りが生じると、走行抵抗の悪化による燃費悪化及びタイヤの早期摩耗の原因となり、また内外輪を効率的に利用できないことによって、コーナリングのスムースさが損なわれる。
【0035】
この実施形態の補助転舵機能付ハブユニット1は、左右の車輪2を個別に制御できるため、車速や旋回Gに応じて車輪2の転舵角、いわゆる切れ角を変更し、低速域ではアッカーマンジオメトリ(各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定)を、高速域ではパラレルジオメトリ(左右輪の転舵角が同じ)を任意に選択することで、走行抵抗を増大させることがなく、また低速でのスムースな旋回性と高速でのコーナリング性能とを両立させることが可能となる。
【0036】
前記補助転舵軸心Aは、上下方向に延びた軸心であればよく、多少は傾斜していてもよいが、この実施形態では鉛直方向であり、補助転舵によるキャンパー角の変化をより良好に抑え、走行抵抗の増大をさらに抑えることができる。キングピン軸Kと補助転舵軸心Aとが一致している場合、キングピン軸Kでブユニット本体4を補助転舵させるとキャンパー角が大きく変化し、走行抵抗が増す。しかし、補助転舵軸心Aをキングピン軸Kと別に設定することで、この補助転舵によるキャンパー角の変化を抑え、走行抵抗の増大を抑えることができる。
また、キングピン軸Kと補助転舵軸Aが一致する場合は、構成要素部品がハブユニット本体4の車体側に配置されるために全体のサイズが大きくなり重くなるが、補助転舵軸心Aが懸架装置21のキングピン軸Kと異なる方向であると、装置全体のサイズを抑え、軽量化することができる。
【0037】
さらに、懸架装置21のキングピン軸Kの延長線と路面Sとの交点位置P
Kと、補助転舵軸心Aの延長線と路面との交点位置P
Aが、共にタイヤ接地面9a内に位置するため、主な転舵および補助転舵が共に安定して効率よく行える。
キングピン軸Kと補助転舵軸Aが異なる場合に、両方の軸の延長上とタイヤ9の接地位置が異なっていると、両方が同時に動く場合に滑りが生じ、非効率であるとともに、車両挙動が乱れる恐れがある。そのため、キングピン軸Kの延長線と路面Sとの交点位置P
Kと、補助転舵軸心Aの延長線と路面Sとの交点位置P
Aとが互いに近傍に配置されることが望ましい。理想的には上記2点P
A、P
Kは一致することが好ましく、これにより、主な転舵と補助転舵とが同時に行われても、滑りが生じず効率的に主な転舵および補助転舵が行え、安定して車両を操作することができる。
【0038】
補助転舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定・安全性向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助転舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助転舵の角度は補助転舵用アクチュエータ6の制御により行うが、ストッパ35を設けて規制しているため、万一、この補助転舵機能付ハブユニット1が電源系の失陥等で故障した場合にも、大きな影響が生じることが防止される。そのため、ハンドル操作によって安全な場所まで車両を寄せることができる。
【0039】
前記回転許容支持部品7は、この実施形態では球面滑り軸受であるため、その球面中心回りの任意方向に回転可能であり、回転許容支持部品7の中心軸が補助転舵軸心Aに対して傾いていてもその吸収が行える。そのため、補助転舵軸心Aとは異なる方向で固定することができて、取り付け位置の自由度が増えると共に、機械加工が容易になる。また、球面滑り軸受であると、取り付け時の締め付け等によって軸受の固定側部品16と可動側部品15の間に予圧を付与し、剛性を高めることが可能となる。
【0040】
図8ないし
図12は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、
図1の球面滑り軸受からなる回転許容支持部品7に代えて、テーパころ軸受からなる回転許容支持部品7Aを用いている。
図10に示すように、このテーパころ軸受からなる回転許容支持部品7Aは、ハブベアリング3の外輪11に取付用部として上下に突出して設けられたトラニオン軸状の取付軸部19Aの外周に内輪15Aが嵌合し、外輪16Aは、ユニット支持部材5Aに設けられた嵌合孔38内に嵌合している。上側の回転許容支持部品7Aについては、前記取付軸部19Aの先端に雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部に螺合するナット39により、前記内輪15Aが軸方向に押し付けられている。下側の回転許容支持部品7Aについては、ユニット支持部材5Aの嵌合孔38に押さえ部材41が嵌合し、前記取付軸部19Aの先端に設けられたねじ孔に螺合するボルト42により、外輪16Aの端面を押し付けている。前記ナット39およびボルト42による押し付けにより、テーパころ軸受からなる上下の回転許容支持部品7Aにそれぞれ予圧を与えている。ユニット支持部材5Aは、一つのユニット支持部材主部材5Aaと、各回転許容支持部品7A、7Aに対して設けられたユニット支持部材分割体5Abとに分割され、ボルト44で相互に結合されている。ユニット支持部材5Aは、ユニット支持部材分割体5Abの箇所で、
図8に示すようにナックル22にボルト43で取付けられている。この分割構成とボルト43とにより、予圧手段48Aが構成される。
なお、上下の回転許容支持部品7A、7Aのユニット支持部材5Aに対する取り付け構造は互いに同じ構成でよく、例えば、
図10における上側の回転許容支持部品7Aのユニット支持部材5Aおよびハブベアリング3の外輪11に対する固定の構造を下側の回転許容支持部品7Aに対して適用しても、また下側の回転許容支持部品7Aの固定の構造を上側の回転許容支持部品7Aの固定に適用してもよい。
【0041】
このようにテーパころ軸受からなる回転許容支持部品7Aを設けた場合も、回転許容支持部品7Aに予圧を与え、剛性を高めることができる。なお、回転許容支持部品7Aは、テーパころ軸受に代えてアンギュラ玉軸受または4点接触玉軸受を用いてもよい。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
この実施形態におけるその他の構成、効果は、第1の実施形態と同様であり、対応部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
図13は、前記補助転舵用アクチュエータ6の具体例を示す。この補助転舵用アクチュエータ6は、前記第1および第2の実施形態のいずれに適用してもよい。モータ27の駆動力は、モータ軸27aに結合されたドライブプーリ51に伝達され、モータ軸27aと平行に配置されたドリブンプーリ52へベルト53によって伝達される。前記各プーリ51,52とベルト53とで、巻き掛け式の減速機28が構成される。
【0043】
ドリブンプーリ52の内周のナット55に、送りねじ機構からなる直動機構29におけるねじ軸54が螺合状態に配置されている。これらナット55およびねじ軸54は、滑りねじ、具体的にはセルフロック機能を持つ台形ねじのねじ部58を構成するねじ溝およびねじ山を有している。ドリブンプーリ52と一体に回転するナット55が回転することで、ねじ軸54が回り止め部56で回り止めされているため、ねじ軸54が前後に直動運動する。
【0044】
ねじ軸54の先端の直動出力部29aには、ハブベアリング3の外輪11に設けられたアーム状の補助転舵力被伝達部18が、ジョイント57を介して連結されている。ジョイント57は、2本のピン57aで、補助転舵力被伝達部18および直動出力部29aにそれぞれ回転自在に連結されている。このため、ねじ軸54の前後移動によって、ユニット支持部材5(5A)に対して、ハブベアリング3を含むハブユニット本体4の全体が補助転舵軸心Aを中心に回転することができる。
なお、この実施形態では、ドリブンプーリ52と直動機構29のナット55とは、別体として製作されたものを結合しているが、これらドリブンプーリ52とナット55とは、互いに一体に製作された部品の一部であってもよい。
【0045】
このように直動機構29にセルフロック機能を備える滑りねじを使用した場合、タイヤからの逆入力が防止され、モータ27が失陥した場合も、セルフロック機能があることでタイヤ9がふらつくことなく、ハンドル操作によって安全な場所まで車両を寄せることができ、安全性が確保される。また、直動機構29にセルフロック機能があると、補助転舵を行わない場合や高速走行時等において、一定の補助転舵の角度を持ち続けることができ、一定角を維持するためのモータ27の駆動が不要で、モータ電力を削減できる。
【0046】
図14は、前記補助転舵用アクチュエータ6の他の具体例を示す。同図の補助転舵用アクチュエータ6においても、前記第1および第2の実施形態のいずれに適用してもよい。モータ27の駆動力は、モータ軸27aに結合されたドライブギヤ59に伝達され、モータ軸27aと平行に配置されたドリブンギヤ60へ伝達される。前記各ドライブギヤ59とドリブンギヤ60とで、前記減速機28となるギヤ列が構成される。
【0047】
ドリブンギヤ60の中心に設けられたナット55Aに、送りねじ機構からなる直動機構29におけるねじ軸54が螺合状態に配置されている。直動機構29の構成、およびこの直動機構29とハブユニット本体4との連結については、
図13に示す例と同様である。すなわち、前記ナット55Aおよびねじ軸54のねじ部58は滑りねじであり、具体的にはセルフロック機能を持つ台形ねじとされている。ドリブンプーリ52と一体に回転するナット55が回転することで、ねじ軸54が回り止め部56で回り止めされているため、ねじ軸54が前後に直動運動する。
【0048】
ねじ軸54の先端の直動出力部29aには、ハブベアリング3の外輪11に設けられたアーム状の補助転舵力被伝達部18が、ジョイント57を介して連結されている。ジョイント57は、2本のピン57aで、補助転舵力被伝達部18および直動出力部29aにそれぞれ回転自在に連結されている。このため、ねじ軸54の前後移動によって、ユニット支持部材5に対して、ハブベアリング3を含むハブユニット本体4の全体が補助転舵軸心Aを回りに回転することができる。
なお、この実施形態では、ドリブンギヤ60と直動機構29のナット55とは、一体に製作されたものとしているが、これらドリブンギヤ60とナット55とは、互いに一体に製作されて相互に結合されたものであってもよい。
【0049】
この実施形態の場合も、
図13の実施形態と同様に、直動機構29にセルフロック機能を備える滑りねじが使用されているため、そのセルフロック機能による前述の各効果が得られる。また、この実施形態の場合、減速機28がギヤ列からなるため、剛性が高く、応答性の高い駆動伝達が可能となる。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。