(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施形態について説明する。
実施形態のエンジン制御装置は、例えば乗用車等の自動車に、走行用動力源として搭載される直噴ターボ過給ガソリンエンジンに設けられるものである。
図1は、実施形態のエンジン制御装置を有するエンジンの構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、エンジン1は、本体部10、吸気装置20、排気装置30、ターボチャージャ40、燃料供給装置50、蒸発燃料処理装置60、EGR装置70、エンジン制御ユニット(ECU)100等を有して構成されている。
【0013】
本体部10は、エンジン1の主機部分であって、例えば、水平対向4気筒の4ストロークDOHCガソリン直噴エンジンである。
本体部10は、クランクシャフト11、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15、点火栓16等を有して構成されている。
【0014】
クランクシャフト11は、エンジン1の出力軸であって、図示しない各気筒のピストンがコネクティングロッド(コンロッド)を介して連結されている。
シリンダブロック12は、各気筒のシリンダを有するブロック状の部材であって、クランクシャフト11を挟んで左右二分割されている。
シリンダブロック12における右半部(ここでいう左右は、縦置きでの車載状態における車体左右を指すものとする。)には、車両前方側から順に第1、第3気筒が設けられ、左半部には、第2、第4気筒が設けられている。
【0015】
シリンダブロック12の左右各半部の接合部には、クランクシャフト11が収容されるクランクケース部が設けられている。
クランクシャフト11は、シリンダブロック12に設けられたメインベアリングによって、回転可能に支持されている。
シリンダブロック12には、クランクシャフト11の角度位置を検出する図示しないクランク角センサが設けられている。
【0016】
シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の左右両端部にそれぞれ設けられている。
シリンダヘッド13は、燃焼室、吸気ポート、排気ポート、吸気バルブ、排気バルブ等を有して構成されている。
燃焼室は、図示しないピストンの冠面と対向して設けられた凹部であって、ピストンにより圧縮された混合気が燃焼する空間部の一部を構成するものである。
吸気ポートは、燃焼室内に燃焼用空気(新気)を導入する流路である。
排気ポートは、燃焼室から既燃ガス(排ガス)を排出する流路である。
吸気バルブ、排気バルブは、吸気ポート及び排気ポートをそれぞれ所定のバルブタイミングで開閉するものである。
【0017】
吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15は、例えばクランクシャフト11の端部に設けられたクランクスプロケットから図示しないタイミングチェーンを介して駆動されるカムスプロケット、及び、カムスプロケットにより駆動されるカムシャフト等をそれぞれ有して構成されている。
また、吸気バルブ駆動系14、排気バルブ駆動系15は、油圧アクチュエータによってカムスプロケットとカムシャフトとを回転中心軸回りに相対回動させるバルブタイミング可変機構を備えている。
【0018】
点火栓16は、ECU100が発信する点火信号に応じて、所定の点火時期において燃焼室内で電気的なスパークを発生させ、混合気に点火するものである。
【0019】
吸気装置20は、外気を吸入し、燃焼用空気としてシリンダヘッド13の吸気ポートに導入するものである。
吸気装置20は、インテークダクト21、エアクリーナ22、エアフローメータ23、エアバイパスバルブ24、インタークーラ25、スロットル26、インテークマニホールド27、タンブルジェネレータバルブ28等を有して構成されている。
【0020】
インテークダクト21は、外部から吸入された燃焼用空気が搬送される管路である。
インテークダクト21の中間部には、後述するようにターボチャージャ40のコンプレッサ41が設けられている。
【0021】
エアクリーナ22は、インテークダクト21の入口付近に設けられ、ダスト等の異物を濾過するエアクリーナエレメント、及び、これを収容するエアクリーナケース等を備えている。
エアフローメータ23は、エアクリーナ22の出口部に設けられ、通過する空気流量を測定するセンサである。
エアフローメータ23の出力は、ECU100に伝達され、燃料噴射量等の制御や、負荷状態の推定等に利用される。
【0022】
エアバイパスバルブ24は、インテークダクト21内を流れる空気の一部を、コンプレッサ41の上流側と下流側との間でバイパスさせるバイパス流路を開閉するものである。
エアバイパスバルブ24の開度(バイパスされる空気量)は、ECU100からの指令に応じて変更可能となっている。エアバイパスバルブ24は、例えば、その開度を全閉と全開とで切り替えるバルブであってもよいし、全閉と全開の間の任意の開度に制御可能なバルブであってもよい。
過給時においては、エアバイパスバルブ24を開くことによって、コンプレッサ41の下流側におけるインテークダクト21内の過給された新気の一部は、コンプレッサ41の上流側に還流される。
これによって、コンプレッサ41の上流側と下流側との差圧を低減することができる。
エアバイパスバルブ24は、例えば減速時におけるタービン42のブレード保護や、パージバルブ66の開固着故障時におけるパージガス流量抑制等のために開弁されるとともに、通常時には閉弁されている。
【0023】
インタークーラ25は、コンプレッサ41において圧縮された空気を、例えば走行風(車両の走行により車体に対して発生する気流)との熱交換によって冷却するものである。
スロットル26は、エンジン1の出力調整のため、吸入空気量を調整するスロットルバルブを備えている。
スロットルバルブは、ECU100からの指令に応じて電動アクチュエータによって所定の開度となるように開閉駆動される電動式のバタフライバルブである。
スロットル26は、インタークーラ25の出口に隣接して配置されている。
スロットル26の入口側(上流側)には、吸気管圧力を検出する圧力センサ26aが設けられている。
圧力センサ26aの出力は、ECU100に伝達される。
【0024】
インテークマニホールド27はスロットル26から出た空気を、各気筒の吸気ポートに配分する分岐管である。
インテークマニホールド27には、スロットル26よりも下流側における吸気管圧力を検出する圧力センサ27aが設けられている。
圧力センサ27aの出力は、ECU100に伝達される。
【0025】
タンブルジェネレータバルブ(TGV)28は、インテークマニホールド27の流路内に設けられ、インテークマニホールド27から吸気ポートに至る空気流路の状態を切り替えることによって、シリンダ内で形成されるタンブル流の状態を制御するガス流動制御弁である。
【0026】
インテークマニホールド27内における流路は、下流側(吸気ポート側)の一部の領域において、図示しない隔壁により流路断面が二分割されている。
TGV28は、隔壁の一方側の流路を実質的に閉塞する閉状態と、これを開放する開状態との間で推移する。
TGV28は、閉状態である場合に、シリンダ内のタンブル流を開状態に対して促進する機能を有する。
TGV28は、例えばエンジン1が比較的低回転かつ低負荷の領域において、閉状態とされることによってシリンダ内のタンブル流を強化し、燃焼速度を向上して等容度を改善し、熱効率、トルクを向上させる。
一方、エンジン1が比較的高回転かつ高負荷の領域においては、シリンダ内のガス流動は元来活発であり、TGV28は充填効率を優先するために開かれる。
TGV28は、ECU100からの指令に応じて切り替えられる。
ECU100によるTGV28の制御については、後に詳しく説明する。
【0027】
排気装置30は、シリンダヘッド13の排気ポートから既燃ガス(排ガス)を排出するものである。
排気装置30は、エキゾーストマニホールド31、エキゾーストパイプ32、フロント触媒33、リア触媒34、サイレンサ35等を有して構成されている。
【0028】
エキゾーストマニホールド31は、各気筒の排気ポートから出た排ガスを集合させ、ターボチャージャ40のタービン42に導入する排ガス流路(管路)である。
【0029】
エキゾーストパイプ32は、ターボチャージャ40のタービン42から出た排ガスを外部に排出する排ガス流路(管路)である。
エキゾーストマニホールド31の途中には、タービン42側からフロント触媒33、リア触媒34が順次設けられている。
【0030】
フロント触媒33、リア触媒34は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させ、HC、CO、NOxの低減処理を行う三元触媒である。
フロント触媒33の入口部、出口部には、排ガスの性状に基づいて空燃比(A/F)を検出するフロントA/Fセンサ33a、リアA/Fセンサ33bがそれぞれ設けられている。
フロントA/Fセンサ33a、リアA/Fセンサ33bの出力は、ECU100に伝達され、燃料噴射量の空燃比フィードバック制御や、フロント触媒33の劣化診断等に用いられる。
【0031】
サイレンサ35は、エキゾーストパイプ32の出口部に隣接して配置され、排ガスの音響エネルギを低減させて排気騒音を抑制するものである。
エキゾーストパイプ32は、出口部付近において例えば2本に分岐しており、サイレンサ35は分岐箇所よりも下流側の部分にそれぞれ設けられている。
【0032】
ターボチャージャ40は、排ガスのエネルギを利用して新気を圧縮する排気タービン過給機である。
ターボチャージャ40は、コンプレッサ41、タービン42、ベアリングハウジング43、ウェイストゲートバルブ44等を有して構成されている。
【0033】
コンプレッサ41は、燃焼用空気を圧縮する遠心式圧縮機である。
タービン42は、排ガスのエネルギを利用してコンプレッサ41を駆動するものである。
ベアリングハウジング43は、コンプレッサ41とタービン42との間に設けられている。
ベアリングハウジング43は、コンプレッサ41とタービン42のハウジング間を連結するとともに、コンプレッサホイルとタービンホイルとを連結するシャフトを回転可能に支持するベアリング及び潤滑装置等を有する。
【0034】
ウェイストゲートバルブ44は、タービン42の入口側から出口側に排ガスの一部をバイパスさせるウェイストゲート流路を開閉するものである。
ウェイストゲートバルブ44は、開閉駆動用の電動アクチュエータ、及び、開度位置検出用の図示しない開度センサを有し、ECU100によって開度を制御されている。
【0035】
燃料供給装置50は、エンジン1の各気筒に燃料を供給するものである。
燃料供給装置50は、燃料タンク51、フィードポンプ52、フィードライン53、高圧ポンプ54、高圧燃料ライン55、インジェクタ56等を有して構成されている。
【0036】
燃料タンク51は、燃料であるガソリンが貯留される容器である。
フィードポンプ52は、燃料タンク51内の燃料を吐出し、高圧ポンプ54に搬送するものである。
フィードライン53は、フィードポンプ52が吐出した燃料を、高圧ポンプ54に搬送する燃料流路である。
【0037】
高圧ポンプ54は、シリンダヘッド13に取り付けられ、カムシャフトを介して駆動され、燃料圧力を昇圧させるものである。
高圧ポンプ54は、カムシャフトの回転と連動してシリンダ内を往復し燃料を加圧するプランジャ、及び、電磁調量弁を備え、ECU100によって電磁調量弁のデューティ比を制御することによって、高圧燃料ライン55内の燃料圧力を調節可能となっている。
高圧燃料ライン55は、高圧ポンプ54により昇圧後の燃料を、各気筒にそれぞれ設けられたインジェクタ56に搬送する燃料流路である。
インジェクタ56は、高圧燃料ライン55から供給される燃料を、ECU100からの噴射信号に応じて、各気筒の燃焼室内に筒内噴射する噴射弁である。
【0038】
蒸発燃料処理装置60は、燃料タンク51内で燃料(ガソリン)が蒸発して発生する燃料蒸発ガス(エバポ)を、キャニスタ61で一時的に貯留するとともに、エンジン1の運転時にパージガスとしてインテークダクト21内に導入(キャニスタパージ)し、燃焼室内で燃焼処理するものである。
蒸発燃料処理装置60は、キャニスタ61、エバポリークチェックモジュール62、パージライン63,64,65、パージバルブ66、圧力センサ67、エジェクタ68等を有して構成されている。
【0039】
キャニスタ61は、燃料蒸発ガスを吸着可能な活性炭をケース内に収容して構成されたチャコールキャニスタである。
キャニスタ61は、配管61aを介して燃料タンク51から燃料蒸発ガスが導入される。
配管61aの燃料タンク50側の端部には、液相燃料の流入を防止するフューエルカットバルブ61bが設けられている。
【0040】
エバポリークチェックモジュール(ELCM)62は、キャニスタ61に隣接して設けられ、蒸発燃料処理装置60からの燃料蒸発ガスのリークを自動的に検出するものである。
【0041】
パージライン63,64,65は、キャニスタ61に貯留された燃料蒸発ガスを、エンジン1の運転時に、吸気装置20のインテークダクト21内にパージガスとして導入する管路である。
パージライン63は、上流側の端部がキャニスタ61に接続され、下流側の端部がパージバルブ66の入側に接続されている。
パージライン64は、上流側の端部がパージバルブ66の出側に接続され、下流側の端部がインテークマニホールド27に接続されている。
パージライン64の中間部には、チェックバルブ64aが設けられている。
チェックバルブ64aは、インテークマニホールド27側からパージバルブ66側へのパージガスの逆流を防止する逆止弁である。
【0042】
パージライン65は、パージバルブ66からパージライン64へ流出したパージガスの一部を、エジェクタ68に導入するものである。
パージライン65は、パージライン64におけるパージバルブ66とチェックバルブ64aとの間の領域から分岐するとともに、下流側の端部はエジェクタ68におけるノズル68bよりも下流側の領域に接続されている。
パージライン65の中間部には、チェックバルブ65aが設けられている。
チェックバルブ65aは、エジェクタ68側からパージバルブ66側へのパージガスの逆流を防止する逆止弁である。
【0043】
パージバルブ66は、パージライン63からパージライン64,65へパージガスが通過可能な開状態と、パージライン63とパージライン64とが遮断される閉状態とを切替え可能な電磁弁である。
パージバルブ66は、ECU100からの開指令、閉指令に応じて開閉される。
【0044】
圧力センサ67は、パージライン63の途中に設けられ、パージライン63内のパージガスの圧力を検出するものである。
圧力センサ67の出力は、ECU100に伝達される。
【0045】
エジェクタ68は、ターボチャージャ40のコンプレッサ41の上流側と下流側との差圧を利用してパージガスを吸引し、インテークダクト21内に導入する負圧発生装置である。
エジェクタ68は、筒型容器状に形成され、導入管路68a、ノズル68b、吐出口68c等を有して構成されている。
導入管路68aは、エジェクタ68の上流側の端部に、インテークダクト21のコンプレッサ41よりも下流側の領域から抽出された空気を導入する管路である。
ノズル68bは、導入管路68aから導入されエジェクタ68内を流れる空気流を絞って流速を高め、ベンチュリ効果によって負圧を発生させるものである。
【0046】
パージライン65の下流側の端部は、エジェクタ68におけるノズル68bよりも下流側の領域に接続され、パージガスはノズル68bが発生させた負圧によってエジェクタ68内に吸引され、空気流と合流するようになっている。
吐出口68cは、エジェクタ68の下流側の端部に設けられ、合流後の空気及びパージガスを、エジェクタ68の内部からインテークダクト21におけるコンプレッサ41よりも上流側の領域に導入する連通箇所である。
【0047】
EGR装置70は、エキゾーストマニホールド31から排ガスの一部をEGRガスとして抽出し、インテークマニホールド27内に導入する排ガス再循環(EGR)を行うものである。
EGR装置70は、EGR流路71、EGRクーラ72、EGRバルブ73等を備えている。
【0048】
EGR流路71は、エキゾーストマニホールド31からインテークマニホールド27に排ガス(EGRガス)を導入する管路である。
EGRクーラ72は、EGR流路71の途中に設けられ、EGR流路71を流れるEGRガスを、エンジン1の冷却水との熱交換によって冷却し、クールドEGRを可能とするものである。
【0049】
EGRバルブ73は、EGR流路71におけるEGRクーラ72の下流側に設けられ、EGR流路71内を通過するEGRガスの流量を調節する調量弁である。
EGRバルブ73は、ソレノイド等の電動アクチュエータによって駆動される弁体を有する。
EGRバルブ73は、定常時には、ECU100によって、所定の目標EGR率(EGRガス流量/吸気流量)に基づいて設定された開度マップを用いて開度を制御される。
開度マップは、エンジン1のクランクシャフト10の回転数(回転速度)、及び、全負荷に対する負荷率から、EGRバルブ73の目標開度が読みだされるよう構成されている。
開度マップは、エンジン1の各運転領域における燃焼速度(あるいは筒内の平均有効圧力)、耐ノッキング性能が適切となるように設定されている。
EGRバルブ73は、定常運転時においては、ECU100から与えられる開度指示値に応じて、開閉及び開弁時における開弁率を制御される。
【0050】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン1及びその補機類を統括的に制御するエンジン制御装置である。
なお、
図1においては、ECU100はTGV28、EGRバルブ73との接続のみ破線により図示されているが、実際には各センサ類やデバイス等とそれぞれ直接あるいは車載LAN等を介して通信可能に接続されている。
ECU100は、例えばCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
ECU100には、エンジン1に設けられた各センサの出力がそれぞれ伝送されるとともに、エンジン1に設けられた各アクチュエータ、バルブ類、点火栓、インジェクタ等の制御対象に対して制御信号を出力可能となっている。
【0051】
ECU100は、図示しないアクセルペダルの操作量(踏込量)等に基づいて、ドライバ要求トルクを算出し、エンジン1が実際に発生するトルク(実トルク)がドライバ要求トルクに近づくよう、スロットル26の開度や、バルブタイミング、過給圧、点火時期、燃料噴射量及び噴射時期等を制御して、エンジン1の出力(トルク)調節を行う。
【0052】
また、ECU100は、EGRバルブ73と協働して、エンジン1における燃焼速度が所定の目標燃焼速度に近付くよう、シリンダ内のEGR率を制御するEGR量制御部として機能する。
目標燃焼速度は、エンジン回転数(クランクシャフト回転速度)、負荷等の運転領域毎に設定される。目標EGR率は、この目標燃焼速度に応じて設定され、上述した開度マップは、定常運転時における実際のEGR率が目標EGR率と実質的に一致するよう設定される。
さらに、ECU100は、エンジンの回転数及び負荷が所定の範囲内にあるときに、TGV28を閉状態とし、その他の場合にはTGV28を開状態とするガス流動制御弁制御部としても機能する。
【0053】
以下、実施形態のエンジン制御装置におけるTGV28の開閉時の動作について説明する。
TGV28を動作させた際、特にその動作初期において、シリンダ内のガス流動が急激に変化して燃焼速度が変化し、トルクが急変することが問題となり得る。
例えば、TGV28が閉状態から開状態へ推移する場合には、シリンダ内のタンブル流が弱まり、燃焼速度が低下する傾向であるため、燃焼速度を維持してトルク変動を抑制するためにはEGRを抑制する必要がある。
しかし、EGRバルブ73の開度を変化させた後、シリンダ内のEGR率が変化するまでの蓄圧遅れが存在することから、TGV28とEGRバルブ73とを同時に作動させた場合、一時的にEGRが過多となり燃焼速度が低下することが懸念される。
そこで、実施形態においては、以下説明する制御を行っている。
図2は、実施形態のエンジン制御装置におけるTGVの閉状態から開状態への推移時の動作を示すフローチャートである。
図2に示す処理は、TGV28が閉状態であることを前提として開始される。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0054】
<ステップS01:エンジン回転数・負荷取得>
ECU100は、クランク角センサからエンジン回転数(クランクシャフトの回転速度)に関する情報を取得するとともに、アクセルペダルセンサ、エアフローメータ23等からエンジンの負荷(全開時のトルクを100%としたときの%)に関する情報を取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0055】
<ステップS02:TGV閉→開予測成立判断>
ECU100は、ステップS01において取得したエンジン回転数及び負荷の現在値及び直前値からの変化に基づいて、TGV28が今後所定期間内(例えば数百msec以内)に閉状態から開状態へ推移するか否かを判別する。
例えば、エンジン回転数及び負荷からTGV28の開閉状態が設定されるマップ上において、開領域と閉領域との境界領域に所定の切替え準備領域を設けて、現在の運転状態が切替え準備領域内にある場合に推移が予測される構成としてもよい。
TGV28の開状態への推移が予測される場合はステップS03に進み、その他の場合はステップS01に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0056】
<ステップS03:EGRバルブ開度減少>
ECU100は、EGRバルブ73の目標開度を低下させ、EGRバルブ73の開度を所定量減少させる。
EGRバルブ73の開度は、例えば、シリンダ内のEGR率がTGV28を開いた直後の目標EGR率と実質的に一致するように設定される。
その後、ステップS04に進む。
【0057】
<ステップS04:負荷変化速度判断>
ECU100は、エンジン1の負荷の変化速度(単位時間あたり変化)が所定値以上であるか否かを判別する。
例えば、ドライバ要求トルクの変化速度が予め設定された所定の閾値以上である場合はステップS08に進み、閾値未満である場合はステップS05に進む。
【0058】
<ステップS05:TGV遅延時間算出>
ECU100は、ステップS03においてEGRバルブ73を駆動してから、TGV28の駆動を開始するまでの遅延時間(TGV遅延時間)を算出する。
TGV遅延時間は、EGRバルブ73の開度が変化してからシリンダ内の実際のEGR率が変化するまでの蓄圧遅れを考慮して、EGRバルブ73の動作後、エンジン1において所望の目標EGR率、すなわち目標燃焼速度が得られるまでの遅延時間として設定される。
TGV遅延時間は、例えば、インテークマニホールド27の内部容積、シリンダの内部容積を考慮し、EGRバルブ73を動作させた後のEGR率が蓄圧遅れによりどのように変化していくか、一次遅れ要素の過渡応答として求めることが可能である。
また、エンジン1における実際の燃焼速度を、例えば筒内圧センサにより検出される平均有効圧力や、燃焼行程におけるクランクシャフト11の角速度、角加速度等から推定し、推定された燃焼速度が所望の目標燃焼速度と実質的に一致する時期をTGV遅延時間の終期としてもよい。
また、簡易に本発明の制御を適用する場合には、エンジン回転数−負荷から読み出されるマップ値として、予めTGV遅延時間を設定しておいてもよい。
その後、ステップS06に進む。
【0059】
<ステップS06:TGV遅延時間経過判断>
ECU100は、ステップS03においてEGRバルブ73を所定の開度まで駆動した後の経過時間が、ステップS05において設定したTGV遅延時間を経過しているか(TGV遅延時間以上となっているか)判断する。
経過時間がTGV遅延時間を経過している場合はステップS07に進み、経過していない場合はステップS06を繰り返す。
【0060】
<ステップS07:TGV閉状態から開状態へ推移>
ECU100は、TGV28を閉状態から開状態へ推移させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0061】
<ステップS08:点火時期進角>
ECU100は、点火栓16の点火時期をノッキングが問題とならない範囲内で一時的に進角させ、燃焼速度の向上を図る。
ここで、点火時期を進角させる時間は、上述したTGV遅延時間と実質的に同等とすることができる。
これにより、TGV28を開状態とした後に一時的に外部EGR量が多くなり、実際のEGR率が目標EGR率よりも高くなって燃焼が緩慢となることを防止する。
その後、ステップS07に進む。
【0062】
図3は、実施形態のエンジン制御装置におけるTGVの開状態から閉状態への推移時の動作を示すフローチャートである。
図3に示す処理は、TGVが開状態であることを前提として開始される。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0063】
<ステップS11:エンジン回転数・負荷取得>
ECU100は、ステップS01と同様に、エンジン回転数、負荷に関する情報を取得する。
その後、ステップS12に進む。
【0064】
<ステップS12:TGV開→閉予測成立判断>
ECU100は、ステップS11において取得したエンジン回転数及び負荷の現在値及び直前値からの変化に基づいて、TGV28が今後所定期間内(例えば数百msec以内)に開状態から閉状態へ推移するか否かを判別する。
TGV28の閉状態への推移が予測される場合はステップS13に進み、その他の場合はステップS11に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0065】
<ステップS13:EGRバルブ開度増加>
ECU100は、EGRバルブ73の目標開度を向上させ、EGRバルブ73の開度を所定量増加させる。
EGRバルブ73の開度は、例えば、シリンダ内のEGR率がTGV28を閉じた直後の目標EGR率と実質的に一致するように設定される。
その後、ステップS14に進む。
【0066】
<ステップS14:負荷変化速度判断>
ECU100は、エンジン1の負荷の変化速度(単位時間あたり変化)が所定値以上であるか否かを判別する。
例えば、ドライバ要求トルクの変化速度が予め設定された所定の閾値以上である場合はステップS18に進み、閾値未満である場合はステップS15に進む。
【0067】
<ステップS15:TGV遅延時間算出>
ECU100は、ステップS13においてEGRバルブ73を駆動してから、TGV28の駆動を開始するまでの遅延時間(TGV遅延時間)を、上述したステップS05と実質的に同様にして算出する。
その後、ステップS16に進む。
【0068】
<ステップS16:TGV遅延時間経過判断>
ECU100は、ステップS13においてEGRバルブ73を所定の開度まで駆動した後の経過時間が、ステップS15において設定したTGV遅延時間を経過しているか(TGV遅延時間以上となっているか)判断する。
経過時間がTGV遅延時間を経過している場合はステップS17に進み、経過していない場合はステップS16を繰り返す。
【0069】
<ステップS17:TGV閉状態から開状態へ推移>
ECU100は、TGV28を開状態から閉状態へ推移させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0070】
<ステップS18:点火時期遅角>
ECU100は、点火栓16の点火時期を一時的に遅角させ、ノッキングの抑制を図る。
ここで、点火時期を遅角させる時間は、上述したTGV遅延時間と実質的に同等とすることができる。
これにより、TGV28を閉状態とした後に一時的に外部EGR量が低くなり、実際のEGR率が目標EGR率よりも低くなってノッキングが発生することを防止する。
その後、ステップS17に進む。
【0071】
以上説明した実施形態によれば、以下説明する効果を得ることができる。
(1)EGR率を抑制するためEGRバルブ73の開度低下を行った後、所定のTGV遅延時間の経過後にTGV28を開くことによって、EGRの蓄圧遅れがある場合であってもTGV28の動作時にシリンダ内の実際のEGR率を目標EGR率に近づけておくことが可能となり、一時的にEGR率が過大となって燃焼が緩慢となることに起因するトルク低下を抑制し、車体にショックが発生することを防止できる。
(2)TGV28を開く際の負荷変化が急激な場合にはEGRバルブ73の開動作が開始された後、遅延時間の経過を待たずにエンジンの点火時期を進角させて燃焼速度の向上を図ることにより、早期にTGV28を開状態へ推移させることができ、エンジンの出力トルクの時間応答遅れを改善することができる。
(3)EGR率を増加するためEGRバルブ73の開度増加を行った後、所定のTGV遅延時間の経過後にTGV28を閉じることによって、EGRの蓄圧遅れがある場合であってもTGV28の動作時にシリンダ内の実際のEGR率を目標EGR率に近づけておくことが可能となり、一時的にEGR率が過少となってノッキングが発生したり、ノッキングへの対応として点火時期を遅角させることに起因するトルク低下を抑制し、車体にショックが発生することを防止できる。
(4)TGV28を閉じる際の負荷変化が急激な場合にはEGRバルブ73の開動作が開始された、後遅延時間の経過を待たずにエンジンの点火時期を遅角させてノッキングの予防を図ることにより、早期にTGV28を閉状態へ推移させることができ、エンジンの出力トルクの時間応答遅れを改善することができる。
【0072】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン制御装置及びエンジンの構成は、上述した実施形態に限定されることなく適宜変更することができる。
例えば、エンジンのシリンダレイアウト、気筒数、燃焼噴射方式、動弁駆動方式、過給機の有無及び種類等は、実施形態の構成に限定されず適宜変更することができる。
(2)実施形態は予混合火花点火式のガソリンエンジンに係るものであったが、本発明は圧縮着火式のディーゼルエンジンにも適用することができる。この場合、燃料噴射時期を進角、遅角させることによって、点火時期(着火時期)を進角、遅角させ、火花点火式のエンジンにおける点火時期制御と実質的に同様の効果を得ることができる。
(3)実施形態においては、EGR率の制御を、エンジンの外部に流路を有するEGR装置を用いた外部EGRによって行っているが、可変バルブタイミング機構を用いてバルブタイミングを変更することにより、筒内に残留する排ガスを用いた内部EGR量を調節することによってEGR率を制御してもよい。
(4)実施形態において、ガス流動制御弁は、シリンダ内のタンブル流を強化する機能を有するタンブルジェネレータバルブ(TGV)であったが、本発明のガス流動制御弁として、スワールを強化するものや、タンブル、スワール以外のガス流動(ガス乱れ)を強化するものを用いることもできる。