特許第6982452号(P6982452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982452遺伝的に操作された微生物による1,5−ペンタンジオールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982452
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】遺伝的に操作された微生物による1,5−ペンタンジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20211206BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20211206BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20211206BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20211206BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P13/00
   C12P7/18
   !C12N15/52 Z
   !C12N15/53
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-190540(P2017-190540)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-62788(P2019-62788A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】宮武 令
(72)【発明者】
【氏名】井阪 光二
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−511912(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0361464(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12P 1/00〜41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
,5−ペンタンジオール生産能を有する組換微生物であって、少なくともL−リジンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.18)、プトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)及びアルデヒドレダクターゼ(EC:1.1.1.2)の3種の酵素をコードする外来性遺伝子が導入され、且つ前記プトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)をコードする外来性遺伝子がygjG及びspuCの2種であることを特徴とする、前記組換微生物。
【請求項2】
前記宿主微生物が、リジン産生能を向上させるための突然変異または遺伝子組換を更に有することを特徴とする、請求項記載の組換微生物。
【請求項3】
前記突然変異または遺伝子組換により、アスパルトキナーゼIII(EC:2.7.2.4)または4−ヒドロキシ−テトラヒドロジピコリン酸シンターゼ(EC:4.3.3.7)またはその両方に対するリジンによるフィードバック阻害が解除される、請求項記載の組換微生物。
【請求項4】
前記宿主微生物が、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である請求項1乃至のいずれか1項に記載の組換微生物。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の組換微生物を用いることを特徴とする,5−ペンタンジオールの製造方法。
【請求項6】
前記組換微生物の宿主微生物が、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である請求項記載の製造方法。
【請求項7】
炭素構成成分となる原料の一部または全部に植物由来の炭素を含む化合物を用いることによる請求項5または6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業上有用な化合物である5−アミノ−1−ペンタノール及び1,5−ペンタンジオール生産能を発現し得るように人為的に改変された微生物、並びに当該微生物を利用した5−アミノ−1−ペンタノール及び1,5−ペンタンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−アミノ−1−ペンタノール(CAS No.2508−29−4)は有機合成用原料、医薬中間体原料として有用な化合物であるが、安価に、安定して製造する方法は確立されていない。
【0003】
1,5−ペンタンジオール(CAS No.111−29−5)はポリウレタン原料、ポリエステル原料、可塑剤原料、香料原料、合成潤滑油原料、分散染料原料、医薬中間体原料に使用される有用な化合物である。工業的には石化原料であるシクロヘキサンからのカプロラクタム生産時の副産物が利用されており、ポリウレタンの需要が高まると共に1,5−ペンタンジオールのみを安価に、安定に目的生産できる技術が求められている。
【0004】
微生物、あるいは遺伝的に操作された微生物を使用する1,5−ペンタンジオールを目的生産する技術として、特許文献1に記載されたものが知られているが、1,5−ペンタンジオールの原料には5−ヒドロキシ吉草酸を使用しており、より安価なバイオマス由来原料からの直接生産技術が求められている。また、微生物を使用する5−アミノペンタノールに関する直接生産技術の報告は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5770099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安価かつ安定な原料である糖、主にグルコースから、遺伝的に操作された微生物を使用し、5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオールを生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオールを生産できる、遺伝的に操作された微生物を利用する。すなわち、
(1)5−アミノ−1−ペンタノールまたは1,5−ペンタンジオール生産能を有する組換微生物。
【0008】

(2)前記組換微生物が、L−リジンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.18)、プトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)及びアルデヒドレダクターゼ(EC:1.1.1.2)からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の過剰生産を誘導するための1つ以上の遺伝子的操作であって、宿主微生物に該酵素をコードする外来性遺伝子を導入すること、宿主微生物内の該酵素の内因性遺伝子のコピー数を増加させること、宿主微生物内の該酵素の内因性遺伝子の発現調整領域に変異を導入すること、宿主微生物内の該酵素の内因性遺伝子の発現調整領域を高発現可能な外来調整領域で置換すること及び宿主微生物内の該酵素の内因性遺伝子の調整領域を欠失させることからなる群から選択される遺伝子的操作を有することを特徴とする、上記(1)の組換微生物。
(2−1)前記操作の対象となる酵素の遺伝子が、L−リジンデカルボキシラーゼ遺伝子、1又は2個のプトレシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子及び1又は2個のアルデヒドレダクターゼ遺伝子である、上記(2)の組換微生物。
(2−2)前記操作の対象となる酵素の遺伝子が、L−リジンデカルボキシラーゼ遺伝子、1個のプトレシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子及び1個のアルデヒドレダクターゼ遺伝子である、上記(2)の組換微生物。
(2−3)前記操作の対象となる酵素の遺伝子が、L−リジンデカルボキシラーゼ遺伝子、2個のプトレシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子及び1個のアルデヒドレダクターゼ遺伝子である、上記(2)の組換微生物。
(2−4)主に、5−アミノ−1−ペンタノールを生産する、上記(2−2)の組換微生物。
(2−5)主に、1,5−ペンタンジオールを生産するする、上記(2−3)の組換微生物。
(2−6)前記遺伝子的操作が、宿主微生物にL−リジンデカルボキシラーゼ、1又は2種類のプトレシンアミノトランスフェラーゼ及び1又は2種類のアルデヒドレダクターゼ遺伝子をコードする外来性遺伝子を導入することである、上記(2−1)の組換微生物。
(2−7)前記遺伝子的操作が、宿主微生物にL−リジンデカルボキシラーゼ、1種類のプトレシンアミノトランスフェラーゼ及び1種類のアルデヒドレダクターゼ遺伝子をコードする外来性遺伝子を導入することである、上記(2−2)の組換微生物。
(2−8)前記遺伝子的操作が、宿主微生物にL−リジンデカルボキシラーゼ、2種類のプトレシンアミノトランスフェラーゼ及び1種類のアルデヒドレダクターゼ遺伝子をコードする外来性遺伝子を導入することである、上記(2−3)の組換微生物。
(2−9)主に、5−アミノ−1−ペンタノールを生産する、上記(2−7)の組換微生物。
(2−10)主に、1,5−ペンタンジオールを生産するする、上記(2−8)の組換微生物。
【0009】
(3)前記宿主微生物が、リジン産生能を向上させるための突然変異または遺伝子組換を更に有することを特徴とする、上記(2)及び(2−1)乃至(2−10)のいずれかの組換微生物。
(4)前記突然変異または遺伝子組換により、アスパルトキナーゼIII(EC:2.7.2.4)または4−ヒドロキシ−テトラヒドロジピコリン酸シンターゼ(EC:4.3.3.7)またはその両方に対するリジンによるフィードバック阻害が解除される、上記(3)の組換微生物。
(4−1)更に、内因性のN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊されていることを特徴とする、上記(2)、(2−1)乃至(2−10)、(3)及び(4)のいずれかの組換微生物。
(5)前記宿主微生物が、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である上記(1)、(2)、(2−1)乃至(2−10)、(3)、(4)及び(4−1)のいずれかの組換微生物。
【0010】
(6)上記(1)、(2)、(2−1)乃至(2−10)、(3)、(4)、(4−1)及び(5)のいずれかの組換微生物を用いることを特徴とする5−アミノ−1−ペンタノールまたは1,5−ペンタンジオールの製造方法。
(6−1)前記組換微生物を、糖(好ましくはグルコース)及び/または糖を含有するバイオマスとともに、該組換微生物の生育に適した条件下で培養し、得られた培養物から5−アミノ−1−ペンタノールまたは1,5−ペンタンジオール或いはその双方を分離することを特徴とする上記(6)の製造方法。
(7)前記組換微生物の宿主微生物が、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である上記(6)または(6−1)の製造方法。
(8)炭素構成成分となる原料の一部または全部に植物由来の炭素を含む化合物を用いることによる5−アミノ−1−ペンタノール、または1,5−ペンタンジオールの製造方法。
(9)炭素構成成分となる原料の一部または全部に植物由来の炭素を含む5−アミノ−1−ペンタノール、または1,5−ペンタンジオール。
(9−1)上記(8)の方法により製造される5−アミノ−1−ペンタノール、または1,5−ペンタンジオール。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安価かつ安定な原料である糖、特にグルコースなどから、5−アミノペンタノールや1,5−ペンタンジオールを生産する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明によってグルコースから5−アミノペンタノール及び/または1,5−ペンタンジオールを合成するための、本発明の組換微生物細胞内での代謝経路を示す。図1中の反応(1)はL−リジンデカルボキシラーゼにより触媒される。反応(2)及び(2’)はプトレシンアミノトランスフェラーゼにより触媒される。反応(3)及び(3’)はアルデヒドレダクターゼにより触媒される。
図2図2は、大腸菌W3110株由来のCadA酵素のアミノ酸配列を示す(配列番号1)。
図3図3は、大腸菌W3110株由来のYgjG酵素のアミノ酸配列を示す(配列番号2)。
図4図4は、Pseudomonas putida F−126株由来のSpuC酵素のアミノ酸配列を示す(配列番号3)。
図5図5は、大腸菌W3110株由来のYjgB酵素のアミノ酸配列を示す(配列番号4)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、5−アミノ−1−ペンタノールまたは1,5−ペンタンジオール生産能を有する遺伝子組換微生物により、それらの化合物が発酵生産される。当該組換微生物の宿主として利用できる細胞株は、通常の意味での野生型であってよく、或いは、栄養要求性変異株、抗生物質耐性変異株であってもよい。更に、本発明の宿主細胞として利用できる細胞株は、上記のような変異に関する各種マーカー遺伝子を有するように既に形質転換されていてもよい。これらの変異や遺伝子は、本発明の組換微生物の作製・維持・管理に有益な性質を提供できる。
【0014】
特に本発明で使用され得る宿主は、L−リジン生産能を持つ微生物であることが好ましい。そのような微生物について、下記の通り例示する。
【0015】
(1)培養条件を最適化することで、変異処理、遺伝的操作を施さずとも、元来L−リジンを生産できる微生物。
(2)人為的な変異処理、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)やエタンスルホン酸メチル(EMS)などの化合物による変異処理、高熱処理、UV照射処理などにより人為的な方法で突然変異を誘発し、L−リジン生産能を付与された微生物。このような微生物のスクリーニング方法としては、リジンの構造アナログである、S−(2−アミノエチル)システイン(AEC)に対し耐性を示す変異株を取得する方法などが挙げられる。
(3)遺伝子組換操作により、L−リジン生産能を付与された微生物。例えば、L−リジンによるフィードバック阻害が解除された変異型アスパルトキバーゼ、変異型ジヒドロジピコリン酸シンターゼを細胞内で発現させた微生物、及び/またはL−リジン代謝経路に関わる各酵素、例えばアスパルトキナーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、スクシニル−アミノ−ケトピメレートトランスアミナーゼ、スクシニル−ジアミノ−ピメレートデスクシニラーゼ、ジアミノピメレートエピメラーゼ、ジアミノピメレートデヒドロゲナーゼ、アルギニル−tRNAシンテターゼ、ジアミノピメレートデカルボキシラーゼなどを高発現させた微生物等が挙げられる。それらの酵素高発現は、自身の染色体上に存在する内在性の遺伝子上流のプロモーターを発現量が最適化されるように置換することや、該当遺伝子を最適に発現できるプラスミドを細胞内に導入することで達成され得る。
【0016】
なお、本明細書において、「内因性」ないし「内在性」という用語は、形質転換前の宿主微生物が、言及された遺伝子を、それによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)が当該宿細胞内で有意な生化学的反応を進行させ得る程度に機能的に発現しているかどうかに関わらず、有していることを意味する。
【0017】
一方、本明細書において、「外来」ないし「外来性」という用語は、形質転換前の宿主微生物が、言及された遺伝子を有していない場合、またはその遺伝子によりコードされる酵素を実質的に発現しない場合、または異なる遺伝子により当該酵素のアミノ酸配列をコードしているが、形質転換後に匹敵する内因性酵素活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子配列を宿主に導入することを意味する。例えば、本発明に必要なL−リジンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.18)、プトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)、またはアルデヒドレダクターゼ(EC:1.1.1.2)遺伝子のうちの少なくとも1つを有していない場合、またはその遺伝子によりコードされる酵素を実質的に発現しない場合、または異なる遺伝子により当該酵素のアミノ酸配列をコードしているが、形質転換後に匹敵する内因性酵素活性を発現しない場合において、当該酵素の遺伝子配列を宿主に導入することを意味する。
【0018】
本発明の宿主微生物には、細菌、酵母、真菌などの、発酵プロセスに使用できる様々な微生物が含まれるが、その非限定的な例としては、大腸菌、バチルス属、コリネバクテリウム属、クレブシエラ属、クロストリジウム属、グルコノバクター属、ザイモモナス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、シュードモナス属、ストレプトマイセス属の細菌等が挙げられる。本発明の宿主微生物は、好ましくは、コリネバクテリウム属の細菌であり、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)であり得る。
【0019】
本発明の好ましい態様では、宿主細胞において新たな5−アミノペンタノールまたは1,5−ペンタンジオール生合成経路を構築するために、L−リジンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.18)、1つ以上のプトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)、及びアルデヒドレダクターゼ(EC:1.1.1.2)酵素遺伝子の少なくとも1つを上記宿主微生物の細胞に導入する。典型的には、それら3種類の酵素をコードする遺伝子が宿主微生物細胞内に導入される。
【0020】
L−リジンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.18)は、L−リジンを脱炭酸し、1,5−ペンタンジアミンを生成する反応を触媒する。遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のcadA、ldcCが挙げられる。大腸菌CadA酵素のアミノ酸配列を図2(配列番号1)に示した。また、大腸菌cadAの塩基配列情報は、例えばGenBank(GeneID:948643)からも利用可能である。
【0021】
プトレシンアミノトランスフェラーゼ(EC:2.6.1.82)は、ドナー化合物とアクセプター化合物間のアミノ基転移反応を触媒する。本酵素は、基質としてドナー化合物:1,5−ペンタンジアミン、アクセプター化合物:α−ケトグルタル酸またはピルビン酸を使用し、生成物として5−アミノペンタナール、L−グルタミン酸またはL−アラニンを生成する。また、本酵素は本発明の代謝経路の後段反応も触媒する。即ち、基質としてドナー化合物:5−アミノペンタノール、アクセプター化合物:α−ケトグルタル酸またはピルビン酸を使用し、生成物として1,5−ペンタンジオールセミアルデヒド、L−グルタミン酸またはL−アラニンを生成する。遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のygjGや、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)のspuCが挙げられる。大腸菌YgjG酵素のアミノ酸配列を図3(配列番号2)に、P.putida SpuC酵素のアミノ酸配列を図4(配列番号3)に示した。また、大腸菌ygjGの塩基配列情報は、例えばKegg(No:JW5510)からも利用可能である。シュードモナス・プチダspuCの塩基配列は、後記実施例に示す。
【0022】
アルデヒドレダクターゼ(EC:1.1.1.2)は、アルデヒドを還元してアルコールを生成する反応を触媒する。本発明においては、5−アミノペンタナールを還元して5−アミノペンタノールを、および1,5−ペンタンジオールセミアルデヒドを還元して1,5−ペンタンジオールを生成する。遺伝子配列として代表的なものは、大腸菌(Escherichia coli)のyjgBやyqhDが挙げられる。大腸菌YjgB酵素のアミノ酸配列を図5(配列番号4)に示した。また、大腸菌yjgBの塩基配列情報は、例えばKegg(No:JW5761)からも利用可能である。
【0023】
但し、本発明に利用できる上記の酵素をコードする遺伝子は、例示された微生物以外に由来するものであっても、または人工的に合成したものであってもよく、前記宿主微生物細胞内で実質的な酵素活性を発現できるものであればよい。
【0024】
また、本発明の目的に利用できる上記酵素遺伝子は、前記宿主微生物細胞内で実質的な酵素活性を発現できるものであれば、自然界で発生し得るすべての変異や、人工的に導入された変異及び修飾を有していてもよい。例えば、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドンが存在することが知られている。そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。そのセットの唯一のメンバーだけが天然型酵素の遺伝子配列に同一であるが、ミスマッチのあるDNAオリゴヌクレオチドでさえ適切な緊縮条件下(例えば、3xSSC、68℃でハイブリダイズし、2xSSC、0.1%SDS及び68℃で洗浄)で天然型配列にハイブリダイズでき、天然型配列をコードするDNAを同定、単離でき、更にそのような遺伝子も本発明において利用できる。特に、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61−72、1991等)、宿主微生物に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
【0025】
本発明において、上記の5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオール合成酵素遺伝子群が「発現カセット」として宿主微生物細胞内に導入されることで、より安定的で高レベルの酵素活性を得ることができる。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写および翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主微生物に導入される。
【0026】
プロモーターとは、構成発現型プロモーターであるか誘導発現型プロモーターであるかに拘わらず、RNAポリメラーゼをDNAに結合させ、RNA合成を開始させるDNA配列と定義される。強いプロモーターとはmRNA合成を高頻度で開始させるプロモーターであり、本発明においても好適に使用される。大腸菌ではlac系、trp系、tacまたはtrc系、λファージの主要オペレーター及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、解糖系酵素(例えば、3−ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸脱水素酵素)、グルタミン酸デカルボキシラーゼA、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼに対するプロモーター等が利用可能である。コリネバクテリウム・グルタミクムではHCE(high−level constitutive expression)プロモーター、cspBプロモーター、sodAプロモーター、伸長因子(EF−Tu)プロモーターなどが利用可能である。ターミネーターとしては、rrnBT1T2ターミネーター、lacターミネーターなどが利用可能である。プロモーターおよびターミネーター配列のほかに、他の調節エレメントの例として挙げられ得るのは、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などである。好適な調節配列については、例えば、”Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185”、Academic Press (1990)に記載されている。
【0027】
上記で説明した発現カセットは、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、または線状もしくは環状のDNA等から成るベクターに組み入れて、宿主微生物中に挿入される。本発明ではプラスミドおよびファージが好ましい。これらのベクターは、宿主微生物中で自律複製されるものでもよいし、また染色体に挿入され複製されてもよい。好適なプラスミドは、例えば、大腸菌ではpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pHSG298、pHSG398、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223−3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN−III113−B1、λgt11またはpBdCIなどが挙げられる。バチルス属などの桿菌ではpUB110、pC194またはpBD214などが挙げられる。コリネバクテリウム属ではpSA77またはpAJ667などが挙げられる。これらの他にも使用可能なプラスミド等は、”Cloning Vectors”、Elsevier、1985に記載されている。ベクターへの発現カセットの導入は、PCRによる断片増幅、適当な制限酵素による切り出し、クローニング、及び種々のライゲーションを含む慣用の方法によって可能である。
【0028】
上記ようにして本発明の発現カセットを有するベクターが構築された後、該ベクターを宿主微生物に導入する際に適用できる手法として、例えば、共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどの慣用のクローニング法およびトランスフェクション法が使用される。それらの例は、「分子生物学の最新プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、F. Ausubelら、Publ.Wiley Interscience、New York、1997、またはSambrookら、「分子クローニング:実験室マニュアル」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されている。
【0029】
上記のようにして得られる形質転換体、例えば、外来L−リジンデカルボキシラーゼ、プトレシンアミノトランスフェラーゼ、及びアルデヒドレダクターゼ遺伝子の発現カセットを有するベクター(各々の発現カセットは、別個のまたは同じベクター上に配置されてよい。)により形質転換された遺伝子組換体は、本発明の5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオール生産のために、前記形質転換体の生育及び/または維持に適した条件下で培養及び維持される。各種の宿主微生物細胞に由来する形質転換体のための好適な培地組成、培養条件、培養時間は当業者により容易に設定できる。
【0030】
培地は、1つ以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン、及び場合により微量元素ないしビタミン等の微量成分を含む天然、半合成、合成培地であってよい。しかし、使用する培地は、培養すべき形質転換体の栄養要求を適切に満たさなければならないことは言うまでもない。
【0031】
炭素源は、D−グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖密、油脂(例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヤシ油など)、脂肪酸(例えばパルミチン酸、リノール酸、リノレン酸など)、アルコール(例えばグリセロール、エタノールなど)有機酸(例えば酢酸、乳酸、コハク酸など)が挙げられる。更にD−グルコースを含有するバイオマスであり得る。好適なバイオマスとしては、トウモロコシ分解液やセルロース分解液を例示できる。これらの炭素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0032】
バイオマス由来の原料を用いた場合、製品である5−アミノ−1−ペンタノール、または1,5−ペンタンジオールについて、ISO16620−2またはASTM D6866に規定される14C法によるバイオベース炭素含有率の測定により他の原料と明確に区別できる。ここで言う他の原料とは、例えば石油、天然ガス、石炭などが挙げられる。
【0033】
窒素源は、含窒素有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、コーンスティープリカー、大豆粉および尿素など)、または無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなど)が挙げられる。これらの窒素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0034】
また、培地は、形質転換体が有用な付加的形質を発現する場合、例えば抗生物質への耐性マーカーを有する場合、対応する抗生物質を含んでいてよい。それにより、発酵中の雑菌による汚染リスクが低減される。抗生物質としては、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
上記、セルロースや多糖類などの炭素源を宿主微生物が資化できない場合は、当該宿主微生物に外来遺伝子を導入するなどの公知の遺伝子工学的手法を施すことで、これら炭素源を使用した5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオール生産に適応させることができる。外来遺伝子としては、例えば、セルラーゼ遺伝子やアミラーゼ遺伝子などを挙げることができる。
【0036】
培養は、バッチ式であっても連続式であってもよい。また、いずれの場合にも、培養の適切な時点で追加の前記炭素源等を補給する形式であってもよい。更に、培養は、好適な温度、酸素濃度、pH等を維持しながら継続されるべきである。一般的な微生物宿主細胞に由来する形質転換体の好適な培養温度は、通常15℃〜45℃、好ましくは25℃〜37℃の範囲である。宿主微生物が好気性の場合、発酵中の適切な酸素濃度を確保するために振盪(フラスコ培養等)、攪拌/通気(ジャー・ファーメンター培養等)を行う必要がある。それらの培養条件は、当業者にとって容易に設定可能である。
【0037】
上記の培養物から5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオールを精製する方法は当業者に公知である。原核微生物宿主細胞の形質転換体の場合、5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオールは培養上清中または菌体内に存在するが、必要であれば培養菌体から抽出してもよい。培養菌体から抽出する場合、例えば、培養物を遠心分離して上清と菌体を分離し、ホモジナイザーを利用しつつ、界面活性剤、有機溶媒、酵素等により菌体を破壊し得る。培養上清、及び場合により菌体抽出液から精製する方法としては、pH調整等によるタンパク質沈澱を利用した除タンパク処理、活性炭を利用した不純物の吸着による除去、イオン交換樹脂等を利用したイオン性物質の吸着による除去を実施した後に、公知の溶媒を使用した抽出、蒸留等で精製される。勿論、製品により目的とされる純度に応じて一部の工程を削除したり、或いはクロマトグラフィーなどの追加の精製工程を実施したりしてもよいことは言うまでもない。
【0038】
以上の説明を与えられた当業者は、本発明を十分に実施できる。以下、更なる説明の目的として実施例を与え、従って、本発明は当該実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’から3’方向に向けて記載される。
【実施例】
【0039】
本実施例に示す全てのPCRは、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(製品名、タカラバイオ製)を用いて実施した。コリネバクテリウム・グルタミクムの形質転換は、エレクトロポレーション法を用いた。エレクトロポレーション法では、2μlのプラスミドDNAを60μlのコンピテントセルと共に入れた幅0.2cmのキュベットをgene pulsar(Bio−Rad製)に装着して、電圧2.5kV・抵抗200Ω・キャパシタンス25μFのパルスをキュベットに負荷した。
【0040】
1.コリネバクテリウム・グルタミクム用発現用ベクターの構築
コリネバクテリウム・グルタミクム株(NBRC12168)をLB培地中(2ml)で30℃にて振盪培養した。培養終了後、培養液から菌体を回収し、Nucleo Spin Tissue(製品名、MACHEREY−NAGEL社製)を使用してゲノムDNAを抽出した。コリネバクテリウム・グルタミクムの伸長因子プロモーター(EF−tuf)領域を、配列番号5、配列番号6記載のプライマーセットによりPCR増幅した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。大腸菌とコリネバクテリウム・グルタミクムのシャトルベクターであるpCHのHCEプロモーター配列を削除するために、配列番号7、配列番号8記載のプライマーセットによりインバースPCRした。pCHのPCR増幅断片をベクター断片、EF−tufプロモーター増幅断片をインサート断片とし、infuion HD cloning kit(製品名、タカラバイオ製)にてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、コリネバクテリウム・グルタミクム用発現用ベクターとしてpCHP(tuf)を取得した。
【化1】
【0041】
2.L−リジンデカルボキシラーゼ遺伝子、プトレシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子、及びアルデヒドレダクターゼ遺伝子のクローニング
大腸菌株W3110(NBRC12713)をLB培地中(2ml)で37℃にて振盪培養した。培養終了後、培養液から菌体を回収し、Nucleo Spin Tissueを使用してゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型にPCR増幅した。cadA遺伝子増幅のためには配列番号9、10記載のプライマーセットを使用した。ygjG遺伝子増幅のためには配列番号11、12記載のプライマーセットを使用した。yjgB遺伝子増幅のためには配列番号13、14記載のプライマーセットを使用した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。以上より、cadA、ygjG、ygjB遺伝子断片を取得した。pCHを配列番号15、配列番号16記載のプライマーセットによりインバースPCRした。pCHのPCR増幅断片をベクター断片、各遺伝子配列をインサート断片とし、infuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、ygjG発現プラスミドとしてpCCD01、cadA発現プラスミドとしてpCCD02、yjgB発現プラスミドとしてpCCD03を取得した。
【化2】
【0042】
シュードモナス・プチダF−126株(NBRC14796)をLB培地中(2ml)で37℃にて振盪培養した。培養終了後、培養液から菌体を回収し、Nucleo Spin Tissueを使用してゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型に用い、配列番号17、配列番号18記載のプライマーセットによりPCR増幅した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。以上より、spuC遺伝子断片を取得した。pCHP(tuf)を配列番号19、配列番号20記載のプライマーセットによりインバースPCRした。pCHP(tuf)のPCR増幅断片をベクター断片、spuC遺伝子配列をインサート断片とし、infuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、spuC発現プラスミドとしてpCCD04を取得した。
【化3】
【0043】
3.L−リジンデカルボキシラーゼ遺伝子、プトレシンアミノトランスフェラーゼ遺伝子、及びアルデヒドレダクターゼ遺伝子共発現プラスミドの作製
ygjG遺伝子とcadA遺伝子を同時に発現させるための共発現プラスミドを構築した。即ち、pCCD02プラスミドを鋳型とし、構造遺伝子の20bp上流領域を含む断片を配列番号21、配列番号22記載のプライマーセットによりPCR増幅した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCCD01プラスミドを鋳型とし、配列番号23、配列番号24記載のプライマーセットによりインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min30sec),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、ygjG−cadA発現プラスミドとしてpCCD05を取得した。
【化4】
【0044】
ygjG遺伝子、cadA遺伝子とyjgB遺伝子を同時に発現させるための共発現プラスミドを構築した。即ち、pCCD03プラスミドを鋳型とし、構造遺伝子の20bp上流領域を含む断片を配列番号25、配列番号26記載のプライマーセットによりPCR増幅した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCCD05プラスミドを鋳型とし、配列番号27、配列番号28記載のプライマーセットによりインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min30sec),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、ygjG−cadA−yjgB発現プラスミドとしてpCCD06を取得した。
【化5】
【0045】
ygjG遺伝子、cadA遺伝子、yjgB遺伝子とspuC遺伝子を同時に発現させるための共発現プラスミドを構築した。即ち、pCCD04プラスミドを鋳型とし、構造遺伝子の20bp上流領域を含む断片を配列番号29、配列番号30記載のプライマーセットによりPCR増幅した。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCCD06プラスミドを鋳型とし、配列番号31、配列番号32記載のプライマーセットによりインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min30sec),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、ygjG−cadA−yjgB−spuC発現プラスミドとしてpCCD07を取得した。
【化6】
【0046】
4.リジン生産能を持つコリネバクテリウム・グルタミクム株の構築
コリネバクテリウム・グルタミクム株(NBRC12168)からリジン生産株を構築するため、染色体DNA上のアスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)への点変異T311Iの導入を薬剤耐性マーカー遺伝子とカウンターマーカー(sacB遺伝子)を使用して実施した。すなわち、pCHプラスミドを鋳型とし、配列番号33、34記載のプライマーセットにてインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。得られたPCR断片をMighty Cloning Reagent Set(Takara社製)にてリン酸化、ライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、温度感受性プラスミドとしてpCHTSを取得した。Bacillus subcilis由来染色体DNAを鋳型とし、配列番号35、36記載のプライマーセットにてPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCHTSプラスミドを鋳型とし、配列番号37、38記載のプライマーセットにてPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、pCHTSsacBを取得した。コリネバクテリウム・グルタミクム株(NBRC12168)染色体DNAを鋳型とし、配列番号39、40記載のプライマーセットにてPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCHTSsacBプラスミドを鋳型とし、配列番号41、42記載のプライマーセットにてインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、pCHD01を取得した。pCHD01プラスミドを鋳型とし、配列番号43、44記載のプライマーセットにてインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。得られたPCR断片をMighty Cloning Reagent Setにてリン酸化、ライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、pCHD02を取得した。NBRC12168株にpCHD02を形質転換し、カナマイシンを含む平板培地にて30℃培養しコロニーを取得した。得られたコロニーを液体培地に稙菌し、44℃にて一晩培養した。培養液を10%スクロースを含む平板培地に塗布して30℃培養し、複数のコロニーを取得した。複数のコロニーのlysC遺伝子配列を解析し、lysC遺伝子上に正しく変異が導入された株としてAKC102株を取得した。LysCアミノ酸配列の311番目のスレオニンがイソロイシンに置換された変異型LysCはリジンによるフィードバック阻害が解除されている。
【化7】
【0047】
5.カダベリン生産能を持つコリネバクテリウム・グルタミクム株の構築
AKC102株からカダベリン生産株を構築するため、染色体DNA上のN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子を破壊しつつ、pCCD02由来のcadA発現カセットを挿入した株を構築した。すなわち、コリネバクテリウム・グルタミクム株(NBRC12168)染色体DNAを鋳型とし、配列番号45、46記載のプライマーセットにてPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。pCHTSsacBプラスミドを鋳型とし、配列番号41、42記載のプライマーセットにてインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。上記2つの断片をinfuion HD cloning kitにてライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、pCHD03を取得した。pCHD03プラスミドを鋳型とし、配列番号47、48記載のプライマーセットにてインバースPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(1min),30cycleとした。一方、pCCD02プラスミドを鋳型とし、配列番号49、50記載のプライマーセットにてPCRした。反応条件は98℃(10sec),55℃(5sec),72℃(30sec),30cycleとした。上記2つのPCR断片をMighty Cloning Reagent Setにてリン酸化、ライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。出現コロニーからプラスミドを抽出し、pCHD04を取得した。AKC102株にpCHD04を形質転換し、カナマイシンを含む平板培地にて30℃培養しコロニーを取得した。得られたコロニーを液体培地に稙菌し、44℃にて一晩培養した。培養液を10%スクロースを含む平板培地に塗布して30℃培養し、複数のコロニーを取得した。複数のコロニーのN−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子周辺配列を解析し、N−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子を分断する形で、pCCD02に由来するcadA遺伝子発現カセット配列が正しく変異が導入された株としてAKC103株を取得した。
【化8】
【0048】
6.5−1アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオール生産能を持つコリネバクテリウム・グルタミクム株の構築
上記AKC103株にygjG−cadA−yjgB発現プラスミドであるpCCD06を形質転換し、AKC103/pCCD06株を取得した。また、AKC103株にygjG−cadA−yjgB−spuC発現プラスミドであるpCCD07を形質転換し、AKC103/pCCD07株を取得した。なお、spuCのコード化領域の塩基配列を以下に示す。
【化9】
【0049】
7.本発明株による5−アミノペンタノール、1,5−ペンタンジオール生産の確認
前培養として、形質転換体から1コロニーを90mLの改変LSS1培地(500mL容三角フラスコ)に植菌し、30℃、振とう速度180rpmで24時間培養した。改変LSS1培地組成を表1に示す。
【表1】
【0050】
本培養として、前培養液90mLを3Lの改変GMMYE培地(10L容ジャー)に植菌し、30℃、撹拌速度700rpm、通気速度3L/minで所定時間培養した。改変GMMYE培地組成を表2に示す。70%グルコース水溶液を速度10g/L/hとなるように連続フィードした。28%アンモニア水により、pH7.0になるようにコントロールした。
【表2】
【0051】
所定時間経過後に培養液をサンプリングし、濁度(OD600値)を測定した。また、サンプリングした培養液を遠心分離し、培養上清を取得した。培養上清に含まれるリジン、カダベリン、5−アミノペンタノールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。分析条件は下記の通りである。
【表3】
【0052】
培養上清に含まれる1,5−ペンタンジオールを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。分析条件は下記の通りである。
【表4】
【0053】
分析結果を表5に示す。対照株(1)であるAKC102株ではL−リジンのみを、対照株(2)であるAKC103株ではカダベリン(Cad)のみを生産するのに対し、発明株(1)であるAKC103/pCCD06株では5−アミノペンタノール(5AP)を2.9g/L生産することを確認した。また、発明株(2)であるAKC103/pCCD07株では5−アミノペンタノールを4.3g/L生産し、かつ1,5−ペンタンジオール(1,5PDO)を0.1g/L生産することを確認した。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば有機合成用原料又は医薬中間体原料として有用な5−アミノ−1−ペンタノール、及び例えばポリウレタン原料、ポリエステル原料、可塑剤原料、香料原料、合成潤滑油原料、分散染料原料又は医薬中間体原料として有用な1,5−ペンタンジオールの製造技術に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]