特許第6982454号(P6982454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982454蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982454
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20211206BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20211206BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20211206BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20211206BHJP
   H01M 50/536 20210101ALI20211206BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M4/38 Z
   H01M4/66 A
   H01M4/1395
   H01M50/534
   H01M50/536
   H01M10/0566
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-195156(P2017-195156)
(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公開番号】特開2019-67730(P2019-67730A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】守屋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 伸也
【審査官】 菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−101919(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/104028(WO,A1)
【文献】 特開2015−222419(JP,A)
【文献】 特開平05−255814(JP,A)
【文献】 特開2008−034356(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/082153(WO,A1)
【文献】 特開2013−051113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64−4/84
H01M 4/00−4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と引出部とからなる集電板と、
前記集電板の本体部に配置された電極部と、
前記集電板の引出部に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極であって、
前記引出部及び前記本体部は、同質のステンレス鋼により形成されており、
前記ステンレス鋼は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、
前記電極部は、活物質としてシリコンを含み、
前記引出部を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であり、
前記本体部を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であることを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
前記集電板を厚さ方向に沿って切断する断面において、マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在している請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
前記リード線は、前記集電板より弾性率が小さい請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記リード線は、ニッケル、銅、アルミニウム及び黄銅からなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
前記リード線は、ニッケル、金、銀、亜鉛及びクロムからなる群から選択される少なくとも1種によりめっきされている請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
前記活物質は、シリコンのみからなる請求項1〜5のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
前記蓄電デバイス用電極は、電解液に金属イオンを供給する金属イオン供給極である請求項1〜6のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項9】
本体部と引出部とからなる集電板と、
前記集電板の本体部に配置された電極部と、
前記集電板の引出部に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極の製造方法であって、
前記引出部と前記リード線とを超音波溶接により接続する超音波接続工程を含み、
前記集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されており、
前記電極部は、活物質としてシリコンを含み、
前記引出部を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であり、
前記本体部を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であることを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどイオン化傾向の大きな金属を用いた蓄電デバイスは、大容量のエネルギーを蓄えられるため、多くの分野で利用されている。
このような蓄電デバイスの製造方法として、特許文献1には、貫通孔を有する正極集電板上に形成された、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を正極活物質として含む正極と、貫通孔を有する負極集電板上に形成された、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を負極活物質として含む負極と、リチウム塩を含む非水電解液と、を有する蓄電デバイスの製造方法であって、蓄電デバイス用セル内に、セパレータを介して前記正極および負極を積層してなる積層体とリチウムイオン供給源とを配置すると共に、前記非水電解液を注入する蓄電デバイス用セル作製工程と、正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行う充放電工程と、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い、負極にリチウムイオンを吸蔵させる吸蔵工程と、を含むことを特徴とする蓄電デバイスの製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の蓄電デバイスの製造方法では、リチウムイオン供給源として、金属リチウムが用いられている。このようなリチウムイオン供給源を用いて、正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行い、さらに、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い負極にリチウムイオンを吸蔵させている。
【0004】
このような特許文献1に記載された方法で蓄電デバイスを製造すると、蓄電デバイス内にリチウムイオン供給源である金属リチウムが残ることになる。
リチウムイオン供給源に含まれる金属リチウムは、発火しやすく危険な素材である。そのため、金属リチウムは、蓄電デバイス内に残らないことが望ましい。
【0005】
特許文献2には、このようなリチウムイオン供給源として、リチウムイオンのプレドープが施された炭素質材料を用いることが記載されている。
すなわち、集電板に炭素質材料を固定し、インターカレーションにより炭素質材料の層間にリチウムイオンを吸蔵し、これをリチウム含有極として用いることが記載されている。
このようなリチウムイオン含有極を用いることにより、リチウム金属を用いることなく正極とリチウムイオン供給源との間で充放電を行うことができ、さらに、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い負極にリチウムイオンを吸蔵させることができる。
【0006】
しかしながら、インターカレーションによりリチウムイオンを炭素質材料に吸蔵する場合、リチウムイオンの吸蔵量には372mAh/gという理論的な上限値があり、これを超えることができない。このため、炭素質材料よりも多くのリチウムイオンを吸蔵できる材料の検討が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−211950号公報
【特許文献2】特開2016−103609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリコンは、リチウムイオンと合金化し、リチウムイオンを吸蔵することができる物質として知られている。シリコンを用いてリチウムイオンを吸蔵する場合、理論的に4000mAh/g以上のリチウムイオンを吸蔵できるといわれている。
つまり、シリコンを用いてリチウムイオンを吸蔵する場合、単位体積あたりのリチウムイオンの吸蔵放出量が多く、蓄電デバイスを高容量にすることができる。
しかし、リチウムイオンが吸蔵放出される際に活物質自体の膨張収縮が大きくなるという問題があった。
そのため、シリコンを集電板に固定し、電極として用いた場合、集電板に大きな歪が発生し、集電板に反りやシワが発生するという問題があった。このような問題があるので、シリコンを活物質として使用した場合、集電板が蓄電デバイス内で変形したり、接続信頼性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明では、活物質としてシリコンを含む電極部が配置された集電板を用いても、高い接続信頼性が確保された、強度の高い蓄電デバイス用電極及びその製造方法を提供すること、並びに、当該蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の蓄電デバイス用電極は、
本体部と引出部とからなる集電板と、
上記集電板の本体部に配置された電極部と、
上記集電板の引出部に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極であって、
上記引出部及び上記本体部は、同質のステンレス鋼により形成されており、
上記ステンレス鋼は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、
上記電極部は、活物質としてシリコンを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されている。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、集電板が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されていると、集電板を硬く高強度にすることができる。そのため、集電板に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
従って、電極部の活物質に金属イオンが吸蔵されたり、電極部の活物質に吸蔵されていた金属イオンが放出され、活物質の体積が変化したとしても、集電板に反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【0012】
本発明の蓄電デバイス用電極では、リード線と接続している引出部、及び、本体部は、同質のステンレス鋼により形成されている。
すなわち、リード線と、集電板とを接続する際に、熱を加えず集電板は変質しない方法で接続されている。
そのため、リード線と接続している引出部の強度が充分に強くなり、集電板の機能も低下しにくくなる。
【0013】
また本発明の蓄電デバイス用電極は、次の態様であることが望ましい。
【0014】
(2)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記集電板を厚さ方向に沿って切断する断面において、マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在していることが望ましい。
マルテンサイト組織がオーステナイト組織の中に島状に点在しているということは、マルテンサイト組織の含有量(質量)よりもオーステナイト組織の含有量(質量)の方が多いといえる。
オーステナイト組織は化学的に安定であるので、このような構成の集電板は、腐食や溶出されにくい。
【0015】
(3)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記リード線は、上記集電板より弾性率が小さいことが望ましい。
リード線が集電板より弾性率が小さいと、外力や、振動を受けた場合にリード線が外力や振動を吸収する。そのため、リード線と集電板との接続部分に強い力が加わりにくくなり、リード線と集電板との接続部分が破損しにくくなる。
【0016】
(4)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記リード線は、ニッケル、銅、アルミニウム及び黄銅からなる群から選択される少なくとも1種からなることが望ましい。
これら物質は電気伝導率が高く、リード線の材料として優れた物質である。
また、これら物質は、超音波溶接によりステンレス鋼と強固に接続させることができる。そのため、リード線と集電板との接続強度を充分に高くすることができる。
【0017】
(5)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記リード線は、ニッケル、金、銀、亜鉛及びクロムからなる群から選択される少なくとも1種によりめっきされていてもよい。
これら物質は、超音波溶接によりステンレス鋼と強固に接続させることができる。そのため、これら物質がめっきされたリード線と集電板との接続強度を充分に高くすることができる。
また、リード線の芯材として弾性率が低い材料を使用することができ、リード線全体の弾性率を低くすることができる。
【0018】
(6)本発明の蓄電デバイス用電極では、上記活物質は、シリコンのみからなることが望ましい。
シリコンは、金属イオンと合金化することにより金属イオンを吸蔵することができる。
そのため、例えば、炭素のように金属イオンをインターカレーションにより吸蔵する物質に比べ、多くの金属イオンを吸蔵することができる。特に、リチウムイオンであれば、4000mAh/g以上を吸蔵することができる。
そのため、電気容量が充分に大きくなる。
このように、シリコンが大量の金属イオンを吸蔵したり、シリコンから大量の金属イオンが放出されたりすると、活物質であるシリコンの体積が大きく変化する。このようにシリコンの体積が変化した場合、集電板にシワや反りが発生しやすくなる。
しかし、本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されている。そのため、シリコンの体積が変化した場合であっても、集電板に反りやシワが発生しにくい。
【0019】
(7)本発明の蓄電デバイス用電極は、電解液に金属イオンを供給する金属イオン供給極として使用されてもよい。
本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの正極又は負極のみならず、金属イオン供給極としても使用することができる。
【0020】
(8)本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする。
そのため、本発明の蓄電デバイスでは、蓄電デバイス用電極の集電板にシワや反りが発生しにくい。
【0021】
(9)本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法は、
本体部と引出部とからなる集電板と、
上記集電板の本体部に配置された電極部と、
上記集電板の引出部に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極の製造方法であって、
上記引出部と上記リード線とを超音波溶接により接続する超音波接続工程を含み、
上記集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されており、
上記電極部は、活物質としてシリコンを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法では、集電板とリード線とを超音波溶接により接続する。
抵抗溶接等、熱により集電板の一部やリード線の一部を溶融させて集電板とリード線とを接続すると、集電板を形成するステンレス鋼が熱により変質してしまう。このような変質が生じると、部分的な熱歪みが生じ集電板の機能が低下するという問題がある。
一方、超音波溶接は、熱を発生させずに金属同士を接続することができる方法である。そのため、超音波溶接を用いると、集電板を変質させずに、集電板とリード線とを接続することができる。従って、リード線と接続している引出部の強度が充分に強くなり、集電板の機能も低下しにくくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蓄電デバイス用電極では、リード線と接続している引出部、及び、本体部は、同質のステンレス鋼により形成されている。
すなわち、リード線と、集電板とを接続する際に、集電板は変質していない。
そのため、部分的な熱歪みが生じにくく、リード線と接続している引出部の強度が充分に強くなり、集電板の機能も低下しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板を厚さ方向に沿って切断する断面の一例を模式的に示す断面図である。
【0025】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の蓄電デバイス用電極について図面を用いながら説明するが、本発明の蓄電デバイス用電極は以下の記載に限定されない。
【0026】
図1は、本発明の蓄電デバイス用電極の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、蓄電デバイス用電極10は、集電板20と、集電板20の両面に形成された電極部30と、集電板20の端部に接続されたリード線40とからなる。
【0027】
また、引出部21、及び、本体部22は、同質のステンレス鋼により形成されている。
【0028】
また、集電板20を形成するステンレス鋼は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼である。
また、電極部30は、活物質としてシリコンを含む。
【0029】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されている。
マルテンサイト組織は硬度が高い。そのため、集電板20が、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されていると、集電板20を硬く高強度にすることができる。そのため、集電板20に、反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
従って、電極部30の活物質に金属イオンが吸蔵されたり、電極部の活物質に吸蔵されていた金属イオンが放出され、活物質の体積が変化したとしても、集電板20に反りやシワが発生することを防止しやすくなる。
【0030】
蓄電デバイス用電極10では、引出部21、及び、本体部22は、同質のステンレス鋼により形成されている。
詳しくは後述するが、リード線40と、集電板20とを接続する際に集電板20は変質していない。
そのため、部分的な熱歪みが生じにくく、本体部22は充分な強度を有する。
【0031】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20を厚さ方向に沿って切断する断面において、マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在していることが望ましい。
マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在している状態を以下に図面を用いて説明する。
【0032】
図2は、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板を厚さ方向に沿って切断する断面の一例を模式的に示す断面図である。
図2において、符号26はマルテンサイト組織を示し、符号27はオーステナイト組織を示している。
本明細書において「マルテンサイト組織が、オーステナイト組織の中に島状に点在している状態」とは、図2に示すように、マルテンサイト組織26が一箇所に偏在せず、オーステナイト組織内に斑に存在することを意味する。
【0033】
マルテンサイト組織がオーステナイト組織の中に島状に点在しているということは、マルテンサイト組織の含有量(質量)よりもオーステナイト組織の含有量(質量)の方が多いといえる。
オーステナイト組織は化学的に安定であるので、このような構成の集電板は、腐食や溶出されにくい。
【0034】
なお、マルテンサイト組織及びオーステナイト組織の存在は、以下の条件の電子後方散乱回折図測定法(EBSD法)により分析することができる。
【0035】
(EBSD法の条件)
<分析装置>
EF−SEM:日本電子株式会社製JSM−7000F/EBSDD:TSL Solution
<分析条件>
範囲 :14×36μm
ステップ :0.05μm/step
測定ポイント :233376
倍率 :5000倍
phase :γ−鉄、α−鉄
【0036】
なお、本明細書において、「引出部、及び、本体部は、同質のステンレス鋼により形成されている」とは、引出部と本体部とを構成する組織が連続した組織であって、上記EBSD法による測定を行い、以下のような結果になる場合を意味する。
すなわち、「引出部及び本体部は、同質のステンレス鋼により形成されている」とは、
引出部21と本体部22とを構成する組織が連続した組織であって、これらの間に界面は存在しておらず、かつ、引出部21を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積が断面全体の5〜20%となり、かつ、本体部22を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積が断面全体の5〜20%となる場合を意味する。
【0037】
また、引出部21を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であることが望ましい。
また、本体部22を厚さ方向に沿って切断する断面においてマルテンサイト組織の面積は、断面全体の5〜20%であることが望ましい。
引出部21を厚さ方向に沿って切断する断面のマルテンサイト組織の面積、及び、本体部22を厚さ方向に沿って切断する断面のマルテンサイト組織の面積が上記範囲であると、集電板は腐食しにくくなり、また、高強度になる。
また、上記断面において、マルテンサイト組織が占める面積が5%未満であると、マルテンサイト組織を含有することによる集電板の強度向上効果が得られにくくなる。
また上記断面において、マルテンサイト組織が占める面積が20%を超えると、マルテンサイト組織が表面に露出しやすくなる上に、内部に存在するマルテンサイト組織まで連続的につながり、集電板全体が腐食しやすくなる。また、マルテンサイト組織の割合が大きくなるので、集電板の靱性が低下しやすくなる、その結果、集電板が折れやすくなる。
【0038】
蓄電デバイス用電極10では、集電板20の厚さは、5〜50μmであることが望ましい。
集電板の厚さが5μm未満であると、薄すぎるので集電板が破れやすくなる。
集電板の厚さが50μmを超えると、厚すぎるので、このような厚さの集電板を含む蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスのサイズが大きくなりやすくなる。
【0039】
集電板20の引張強度は特に限定されないが、300〜1500MPaであることが望ましい。
【0040】
蓄電デバイス用電極10では、リード線40は、集電板20より弾性率が小さいことが望ましい。
リード線40が集電板20より弾性率が小さいと、外力や、振動を受けた場合にリード線40が外力や振動を吸収する。そのため、リード線40と集電板20との接続部分に強い力が加わりにくくなり、リード線40と集電板20との接続部分が破損しにくくなる。
【0041】
蓄電デバイス用電極10では、リード線40の弾性率は、50〜150GPaであることが望ましい。
蓄電デバイス用電極10では、集電板20の弾性率は、150〜250GPaであることが望ましい。
また、蓄電デバイス用電極10では、集電板20のビッカース硬度は300〜500であることが望ましい。
【0042】
蓄電デバイス用電極10では、リード線40は、ニッケル、銅、アルミニウム及び黄銅からなる群から選択される少なくとも1種からなることが望ましい。
これら物質は電気伝導率が高く、リード線の材料として優れた物質である。
また、これら物質は、超音波溶接によりステンレス鋼と強固に接続させることができる。そのため、リード線と集電板との接続強度を充分に高くすることができる。
【0043】
蓄電デバイス用電極10では、リード線40は、ニッケル、金、銀、亜鉛及びクロムからなる群から選択される少なくとも1種によりめっきされていてもよい。
これら物質は、超音波溶接によりステンレス鋼と強固に接続させることができる。そのため、これら物質がめっきされたリード線と集電板との接続強度を充分に高くすることができる。
また、リード線の芯材として弾性率が低い材料を使用することができ、リード線全体の弾性率を低くすることができる。
さらに、リード線の断面形状は特に限定されない。円形、長方形、板状などどのような形状でも利用することができる。
【0044】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30は、活物質及びバインダからなることが望ましい。
【0045】
活物質は、シリコンを含めば、他にカーボン等を含んでいてもよい。
【0046】
活物質の平均粒子径は、特に限定されないが1〜10μmであることが望ましい。
活物質の平均粒子径が1μm以上であれば、活物質の平均粒子径を容易に調整することができる。
活物質の平均粒子径が10μm以下であれば、比表面積が充分に大きくなるので、ドープに要する時間を短くすることができる。
【0047】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30の活物質は、シリコンのみからなることが望ましい。
シリコンは、金属イオンと合金化することにより金属イオンを吸蔵することができる。
そのため、例えば、炭素のように金属イオンをインターカレーションにより吸蔵する物質に比べ、多くの金属イオンを吸蔵することができる。特に、リチウムイオンであれば、4000mAh/g以上を吸蔵することができる。
そのため、活物質がシリコンのみからなると、電気容量が充分に大きくなる。
このようにシリコンが大量の金属イオンを吸蔵したり、シリコンから大量の金属イオンが放出されたりすると、活物質であるシリコンの体積が大きく変化する。このようにシリコンの体積が変化した場合、集電板にシワや反りが発生しやすくなる。
しかし、本発明の蓄電デバイス用電極では、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されている。そのため、シリコンの体積が変化した場合であっても、集電板に反りやシワが発生しにくい。
【0048】
電極部30のバインダの材料は、特に限定されないが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を挙げることができる。これらの中では、ポリイミド樹脂であることが望ましい。
ポリイミド樹脂は、耐熱性があり、強度がある化合物である。そのため、活物質がポリイミド樹脂からなるバインダで結合されていると、金属イオンの吸蔵放出により活物質の体積が変化したとしても、電極部30を集電板20から剥離しにくくすることができる。
【0049】
電極部30における活物質と、バインダとの重量割合は、活物質:バインダ=70:30〜90:10であることが望ましい。
【0050】
また、電極部30のバインダには、導電助剤が含まれていてもよい。
導電助剤の材料は、特に限定されないが、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらの中では、カーボンブラックからなることが望ましい。
バインダが導電助剤を含有していると、蓄電デバイス用電極10の導電性を高くすることができる。そのため、効率よく集電することができる。
特に、カーボンブラックは、少量で導電性を確保することができる。そのため、カーボンブラックが導電助剤であると、蓄電デバイス用電極10の導電性をより向上させることができる。
【0051】
導電助剤がカーボンブラックからなる場合、その平均粒子径は、3〜500nmであることが望ましい。
電極部30において、バインダに占める導電助剤の重量割合は、20〜50%であることが望ましい。
【0052】
蓄電デバイス用電極10において、電極部30の厚さは、特に限定されないが、5〜50μmであることが望ましい。
電極部の厚さが5μm未満であると、集電板に比べて活物質の量が少なくなるので電気容量が低下しやすくなる。
電極部の厚さが50μmを超えると、蓄電デバイス用電極を用いて製造された蓄電デバイスのサイズが大きくなる。また、金属イオンが電極部を移動する距離が長くなり、充放電に時間がかかる。
【0053】
片面の電極部30の面密度は、特に限定されないが、0.1〜10mg/cmであることが望ましい。
【0054】
本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの正極、負極又は電解液に金属イオンをドープするための金属イオン供給極として使用することができる。
【0055】
次に、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法について説明する。
本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法は、本体部と引出部とからなる集電板と、集電板に配置された電極部と、集電板に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極の製造方法であって、集電板とリード線とを超音波溶接により接続する超音波接続工程を含む。
また、集電板は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成されており、電極部は、活物質としてシリコンを含むことを特徴とする。
【0056】
このような本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法の一例について以下に詳述する。
【0057】
(1)集電板の作製工程
まず、オーステナイト系ステンレス鋼から形成された金属板を準備する。
次に、金属板を延展加工することにより集電板を作製する。この延展加工により、オーステナイト組織の一部がマルテンサイト組織に変質する。
延展加工は、厚さが元の厚さの60〜80%となるよう冷間加工することが望ましい。
このようにして、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼から形成された集電板を作製することができる。
【0058】
(2)活物質スラリーの作製工程
シリコンとバインダとを混合し、活物質スラリーを作製する。
活物質とバインダとの重量割合は、特に限定されないが、活物質:バインダ=70:30〜90:10となるように調製することが望ましい。
【0059】
バインダとしては、特に限定されず、ポリイミド樹脂前駆体、ポリアミドイミド樹脂前駆体等があげられる。これらの中では、ポリイミド樹脂前駆体が望ましい。
【0060】
塗工性の観点から、活物質スラリーの粘度は、1〜10Pa・sであることが望ましい。なお、スラリーの粘度はB型粘度計を用い、1〜10rpmとなる条件で測定する。
活物質とバインダの割合を調整することにより活物質スラリーの粘度を調整することができる。また、必要に応じて増粘剤等により粘度を調整してもよい。
【0061】
(3)活物質スラリーの塗工工程
集電板に活物質スラリーを塗工する。
塗工する活物質スラリーの量は、特に限定されないが、加熱乾燥後に0.1〜10mg/cmであることが望ましい。
【0062】
(4)プレス加工工程
次に、活物質スラリーが塗工された集電板をプレス加工する。
プレス加工の圧力は、特に限定されないが、活物質が平坦になるように押さえることができれば充分である。
【0063】
(5)加熱工程
次に、活物質スラリーが塗工された集電板を加熱し、活物質スラリーに含まれるバインダを硬化させる。
加熱条件は、使用するバインダの種類に応じて決定することが望ましい。
バインダがポリイミド樹脂前駆体を含む場合、加熱温度は、250〜350℃であることが望ましい。また、加熱時の雰囲気は、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが望ましい。
【0064】
(6)超音波溶接工程
次に、集電板とリード線とを超音波溶接により接続する。
抵抗溶接等、熱により集電板の一部やリード線の一部を溶融させて集電板とリード線とを接続すると、集電板を形成するステンレス鋼が熱により変質してしまう。このような変質が生じると、集電板の機能が低下するという問題がある。
一方、超音波溶接は、熱を発生させずに金属同士を接続することができる方法である。そのため、超音波溶接を用いると、集電板を変質させずに、集電板とリード線とを接続することができる。従って、熱歪みが発生せず引出部の強度が充分に強くなり、集電板の機能も低下しにくくなる。
なお、集電板とリード線とを超音波溶接により接続する時期は、集電板に活物質を配置する前であってもよい。
【0065】
なお、超音波溶接は、例えば、超音波溶接機(日本エマソン株式会社ブランソン事業本部製2000Xea40:0.8型)を用い、出力:100〜500W、溶接時間:50〜500ミリ秒、超音波ホーンの圧力:5〜25MPaの条件で行うことができる。
【0066】
なお、リード線の望ましい構成は、既に説明しているのでここでの説明は省略する。
【0067】
次に、本発明の蓄電デバイス用電極を用いた蓄電デバイスについて説明する。
なお、本発明の蓄電デバイス用電極が用いられた蓄電デバイスは、本発明の蓄電デバイスでもある。
【0068】
本発明の蓄電デバイスは、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極とを分離するセパレータと、
上記正極、上記負極及び上記セパレータを収容する蓄電パッケージと、
上記蓄電パッケージに封入された電解液とから構成されており、
正極又は負極が、上記本発明の蓄電デバイス用電極であってもよい。
【0069】
本発明の蓄電デバイスにおいて、上記本発明の蓄電デバイス用電極のリード線は、他の電極と接続する為に用いられていてもよく、他の電気部品と接続する為に用いられていてもよい。
【0070】
なお、上記本発明の蓄電デバイスでは、負極が本発明の蓄電デバイス用電極であることが望ましい。
以下、負極が本発明の蓄電デバイス用電極である本発明の蓄電デバイスについて説明する。
負極は、上記本発明の蓄電デバイス用電極である。
すなわち、負極は、本体部と引出部とからなる集電板と、
集電板の本体部に配置された電極部と、
集電板の引出部に接続されたリード線とからなる蓄電デバイス用電極であって、
引出部及び本体部は、同質のステンレス鋼により形成されており、
ステンレス鋼は、マルテンサイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼であり、
電極部は、活物質としてシリコンを含む。
なお、以下の説明において、本発明の蓄電デバイス用電極の集電板及びシリコンを、ぞれぞれ、負極集電板及び負極活物質とも記載する。
【0071】
本発明の蓄電デバイス用電極では、正極は、正極集電板と、正極集電板に備えられた正極活物質とから構成されていることが望ましい。
正極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金からなることが望ましい。
正極活物質は、特に限定されないが、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiO又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;LiFePO等のオリビン構造を有するもの等があげられる。
また、これらの金属酸化物に、アルミニウム、鉄、リン、チタン、ケイ素、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、ジルコニウム、亜鉛、ランタン等により一部置換した材料も使用することができる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が望ましい。
正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記本発明の蓄電デバイスにおいて、セパレータは、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。また、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、ガラス繊維を用いることもできる。また、それらの繊維を束ねて糸状にし、織物とした織物セパレータを用いることもできる。
【0073】
上記本発明の蓄電デバイスにおいて、電解液は、特に限定されないが、溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
金属塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることができる。
金属塩として、リチウム塩を用いる場合、リチウム塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、0.5〜1.5mol/Lであることが望ましい。
電解質濃度が0.5mol/L未満であれば、電解液の電気伝導率を充分にしにくくなる。
電解質濃度が1.5mol/Lを超えると、電解液の密度及び粘度が増加しやすくなる。
【0076】
このような態様の本発明の蓄電デバイスを製造する方法の一例について説明する。
まず、負極活物質が配置された負極集電板を準備し、正極活物質が配置された正極集電板を準備し、セパレータを準備する。
【0077】
そして、負極集電板と正極集電板とが接触しないように、負極集電板と正極集電板との間にセパレータを挟んで負極集電板と正極集電板とを積層し積層体とする。この際、各負極集電板の引出部が積層体からはみ出るよう配置する。
【0078】
次に、負極集電板の引出部を、超音波溶接によりリード線と接続する。超音波溶接で接続するので、引出部は熱により変質せず、一様な組織のままである。
負極集電板は、マルテンサイト組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼からなり、超音波溶接により、リード線と接続する部分を変質させることなく互いを接続することができる。
また、正極集電板もリード線と電気的に接続されるようにする。正極集電板とリード線とを電気的に接続する方法は特に限定されず、例えば、抵抗溶接、超音波溶接により接続させてもよい。
【0079】
次に、積層体を蓄電パッケージに収納して、電解質を溶解した電解液とともに封入することで本発明の蓄電デバイスを製造することができる。
【0080】
次に、本発明の蓄電デバイスの別の態様について説明する。
【0081】
本発明の蓄電デバイスは、
正極と、
負極と、
上記正極と上記負極とを分離するセパレータと、
上記正極及び/又は上記負極に金属イオンをドープするための金属イオン供給極と、
上記正極、上記負極、上記セパレータ及び上記金属イオン供給極を収容する蓄電パッケージと、
上記蓄電パッケージに封入された電解液とから構成されており、
正極、負極又は金属イオン供給極が、上記本発明の蓄電デバイス用電極であってもよい。
【0082】
以下、本発明の蓄電デバイス用電極が、金属イオン供給極として用いられる場合について説明する。
【0083】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイス用電極に金属イオンをドープする必要がある。
まず、本発明の蓄電デバイス用電極に金属イオンをドープする方法について説明する。
【0084】
(1)有機電解液塗布工程
まず、本発明の蓄電デバイス用電極における集電板の電極部に有機電解液を塗布する。
有機電解液は、特に限定されないが、有機溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、金属イオン源としてリチウムを用いる場合、有機電解液は、リチウムイオン導電性を有することが望ましい。
(2)加熱工程
次に、有機電解液が塗布された、電極部と金属イオン源とを接触させて、加熱することにより金属イオンをドープする。
金属イオン源としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等があげられる。これらの中では、リチウムであることが望ましい。
加熱の条件は、特に限定されないが、250〜300℃、10〜120分間加熱することが望ましい。
【0085】
(3)乾燥工程
ドープ後の蓄電デバイス用電極を溶媒で洗浄し自然乾燥させることによりドープが完了する。溶媒としてはDMC(ジメチルカーボネート)などが好適に利用できる。
【0086】
なお、ドープの方法はこのような金属イオン源に接触させる方法に限定されず、他の方法も利用できる。例えば、金属イオン源と蓄電デバイス用電極とをそれぞれ外部回路につなぎ、電気的にドープすることもできる。
また、本発明の蓄電デバイス用電極は、集電板の引出部とリード線とが超音波溶接により接続されることにより製造されるが、ドープは、超音波溶接の前に行ってもよく、超音波溶接の後に行ってもよい。
【0087】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイスにおける正極は、以下の構成であることが望ましい。
すなわち、正極は、正極集電板と、正極集電板に備えられた正極活物質とから構成されていることが望ましい。
正極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金からなることが望ましい。
正極活物質は、特に限定されないが、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiO又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;LiFePO等のオリビン構造を有するもの等があげられる。
また、これらの金属酸化物に、アルミニウム、鉄、リン、チタン、ケイ素、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、ジルコニウム、亜鉛、ランタン等により一部置換した材料も使用することができる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が望ましい。
正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、本発明の蓄電デバイスにおける負極は、以下の構成であることが望ましい。
すなわち、負極は、負極集電板と、負極集電板に備えられた電極部とからなり、電極部には負極活物質が含まれていることが望ましい。
負極集電板は、特に限定されないが、アルミニウム、ニッケル、銅、銀及びこれらの合金等からなることが望ましい。
負極活物質は、特に限定されないが、シリコン、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、炭素等からなることが望ましい。
【0089】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、上記本発明の蓄電デバイスにおいて、セパレータは、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布を用いることができる。また、セパレータとしては、それらを積層したものを用いることもできる。また、耐熱性の高い、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セルロース、ガラス繊維を用いることもできる。また、それらの繊維を束ねて糸状にし、織物とした織物セパレータを用いることもできる。
【0090】
本発明の蓄電デバイス用電極を金属イオン供給極として用いる場合、上記本発明の蓄電デバイスにおいて、電解液は、特に限定されないが、溶媒に電解質として金属塩を溶解させた溶液を用いることができる。
溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0091】
金属塩としては、特に限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いることができる。
金属塩として、リチウム塩を用いる場合、リチウム塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等があげられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、0.5〜1.5mol/Lであることが望ましい。
電解質濃度が0.5mol/L未満であれば、電解液の電気伝導率を充分にしにくくなる。
電解質濃度が1.5mol/Lを超えると、電解液の密度及び粘度が増加しやすくなる。
【0093】
このような態様の本発明の蓄電デバイスを製造する方法の一例について説明する。
まず、正極、負極及びセパレータを準備する。
次に、正極と負極とが接触しないように正極と負極との間にセパレータを挟み、正極と負極とを積層し積層体とする。
これとは別に、金属イオンがドープされた本発明の蓄電デバイス用電極、すなわち金属イオン供給極を準備する。金属イオン供給極の引出部は、あらかじめニッケルメッキ銅からなるリード線と超音波溶接により接続されている。
【0094】
次に、金属イオン供給極を積層体の外側に配置し、これらを、蓄電パッケージに収納し、電解質を溶解した電解液とともに封入することで本発明の蓄電デバイスを製造することができる。
また、金属イオン供給極と正極又は負極とを外部回路でつなぐことにより、充放電に必要な金属イオンを正極又は負極に供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の蓄電デバイス用電極は、蓄電デバイスの正極、負極、又は、金属イオンをドープするため金属イオン供給極として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
10 蓄電デバイス用電極
20 集電板
21 引出部
22 本体部
26 マルテンサイト組織
27 オーステナイト組織
30 電極部
40 リード線
図1
図2