(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数種のカバーは、その底面に前記内方部材のインナー側端部の形状に沿った形状の凹凸部がそれぞれ異なる形状に形成され、前記凹凸部の形状によって前記密閉空間を所望の大きさにするように構成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
前記複数種のうち少なくとも一種のカバーは、前記ハブ輪のインナー側端部に形成されている凹みに底面が入り込むように形成されている請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、
図1と
図2とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0017】
図1と
図2とに示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a(
図2参照)、アウター側ボール列5b(
図2参照)、カバー6、カバー6に設けられている円環状のインナー側シール部材7(
図2参照)、アウター側シール部材8(
図2参照)を具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0018】
図2に示すように、外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成されている。外輪2は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2のインナー側開口部2aは、カバー6が嵌合可能に開口され、インナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとが形成されている。外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側転走面2dと、アウター側の外側転走面2eとが周方向に互いに平行になるように形成されている。インナー側の外側転走面2dとアウター側の外側転走面2eとには、例えば高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材(ナックル)に取り付けるための車体取り付けフランジ2fが一体に形成されている。外輪2のアウター側開口部2gには、アウター側シール部材8が嵌合可能に形成されている。
【0019】
外輪2のインナー側開口部2aには、インナー側シール嵌合部2bとカバー嵌合部2cとが同一軸心上に形成されている。インナー側シール嵌合部2bは、インナー側シール部材7が嵌合される孔である。カバー嵌合部2cは、カバー6が嵌合される孔である。カバー嵌合部2cは、インナー側シール嵌合部2bのシール嵌合径よりも小さい所定の外径でインナー側シール嵌合部2bのアウター側端から所定の軸方向長さの孔として形成されている。つまり、外輪2のインナー側開口部2aの内周には、外側(インナー側)から順に大径側のインナー側シール嵌合部2bと小径側のカバー嵌合部2cとが形成されている。
【0020】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、円柱状に形成されている。ハブ輪3は、例えばS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側転走面2eに対向するようにアウター側の内側転走面3cが形成されている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材8のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3には、小径段部3aに内輪4が加締加工により固定されている。ハブ輪3のインナー側端には、径方向外側に拡大するように塑性変形された加締部3fおよび加締加工用の工具を挿入する凹みである工具挿入穴3gが形成されている。
【0021】
内輪4は、転動列であって車載時に車体側に配置されるインナー側ボール列5aと車載時に車輪側に配置されるアウター側ボール列5bとに予圧を与えるものである。内輪4は、円筒状に形成されている。内輪4は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4の内側転走面4aが外輪2のインナー側の外側転走面2dに対向し、アウター側の内側転走面3cが外輪2のアウター側の外側転走面2eに対向するように配置されている。
【0022】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボールが保持器によって環状に保持されている。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から構成され、ズブ焼入れにより芯部まで62〜67HRCの範囲で硬化処理されている。インナー側ボール列5aは、内輪4の内側転走面4aと、外輪2のインナー側の外側転走面2dとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3の内側転走面3cと、外輪2のアウター側の外側転走面2eとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。
【0023】
車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているが、複列円錐ころ軸受等の軸受で構成されていてもよい。
【0024】
カバー6は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで外部から泥水や砂塵等の異物の入り込みを防止するとともに、環境に応じて軸受内部の圧力を所望の大きさに設定するものである。ここで、車輪用軸受装置1における「環境に応じた軸受内部の圧力」とは、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気圧と車輪用軸受装置1が使用される地域の大気圧が異なる場合に、軸受内部の圧力と使用される地域の圧力との圧力差によってアウター側シール部材8のシール性が低下したり、ハブ輪3(内輪4)の回転抵抗が増大したりしないように軸受内部の圧力を調整することを言う。また、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域と使用される地域との大気圧に差がなくても組み立てられる地域の温度と使用される地域の温度との温度差によって軸受内部の圧力を調整することも含む。
【0025】
カバー6は、プレス加工によって底面を有する円筒状に形成されている。カバー6は、例えばフェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。カバー6は、嵌合部6a、シール支持部6b、底部6cが一体に形成されている。シール支持部6bには、環状のインナー側シール部材7が設けられている。
【0026】
カバー6の円筒部分には、円筒状の嵌合部6aとシール支持部6bとが同一軸心上に形成されている。嵌合部6aは、外輪2のカバー嵌合部2cに嵌合される部分である。嵌合部6aは、カバー6の開口側端部に円筒状に形成されている。嵌合部6aは、インナー側開口部2aのインナー側シール嵌合部2bよりも小さく、カバー嵌合部2cに圧入嵌合可能な外径および軸方向長さの円筒である。つまり、嵌合部6aは、インナー側シール嵌合部2bに接触することなく、カバー嵌合部2cに圧入嵌合可能な外径および軸方向長さの円筒である。
【0027】
シール支持部6bは、インナー側シール部材7を支持する部分である。シール支持部6bは、嵌合部6aと隣接する位置に径方向内側に延びる段部を介して円筒状に形成されている。つまり、シール支持部6bは、カバー6の外周面のうち任意の位置から軸方向で底部6c側を嵌合部6aよりも小さい外径に形成した円筒である。これにより、シール支持部6bは、カバー嵌合部2cの内周面との間にインナー側シール部材7を配置可能な空間を構成している。
【0028】
カバー6の底面である底部6cは、外輪2のインナー側開口部2aを覆う部分である。底部6cは、シール支持部6bと隣接する位置に円盤状に形成されている。つまり、底部6cは、円筒状に形成されているカバー6の一方を塞ぐ底面を構成している。底部6cには、軸受内部の容積を調整する凹凸部として、カバー6の軸心を中心として円筒状に突出した凸部6dと、凸部6dの外径よりも小さい内径でカバー6の軸心を中心として円筒状に凹んだ凹部6eとが形成されている。つまり、底部6cには、所定の幅を有する円環状の凸部6dとその内側に円筒状の凹部6eとが形成されている。なお、本実施形態において、底部6cには、凹凸部である凸部6dと凹部6eとがそれぞれ一つ形成されているが、凹凸部として凸部6dと凹部6eとのうち少なくとも一つが形成されていればよく、複数の凸部6dと凹部6eとがそれぞれ形成されていてもよい。
【0029】
環状のインナー側シール部材7は、外輪2とカバー6との間の隙間を塞ぐものである。インナー側シール部材7は、カバー6のシール支持部6bの外周面に加硫接着されている。つまり、インナー側シール部材7は、嵌合部6aと隣接するようにして設けられている。インナー側シール部材7は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0030】
このようにして、カバー6は、外輪2のインナー側開口部2aのカバー嵌合部2cに嵌合部6aが嵌合されることで外輪2に固定されるとともにインナー側開口部2aを密封している。また、カバー6に設けられているインナー側シール部材7は、インナー側シール嵌合部2bに密着されることで外輪2とカバー6との間の隙間を塞いでいる。
【0031】
アウター側シール部材8は、主に外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材8は、略円筒状に形成された芯金に、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。アウター側シール部材8は、外輪2のアウター側開口部2gに円筒部分が嵌合され、ハブ輪3のリップ摺動面3dに複数のシールリップが油膜を介して接触または近接することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。これにより、アウター側シール部材8は、外輪2のアウター側開口部2gからの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の異物の入り込みを防止する。なお、アウター側シール部材8は、様々な仕様が存在しており、本実施形態の仕様に限定するものではない。また、インナー側シール部材7とアウター側シール部材8とは、芯金等にリップ等が加硫接着されているがそれ以外の接着方法でもよい。
【0032】
このように構成される車輪用軸受装置1には、ハブ輪3と内輪4とがインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとを介して外輪2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間がカバー6で塞がれ、外輪2のアウター側開口部2gとハブ輪3との隙間がアウター側シール部材8で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、内部からの潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止しつつ外輪2に支持されているハブ輪3と内輪4とが回転する。
【0033】
次に、
図3から
図6を用いて、車輪用軸受装置1にカバー6を嵌合することによる軸受内部の圧力について説明する。車輪用軸受装置1は、カバー6の底部6cに形成されている凸部6dと凹部6eとの形状が異なる常圧用のカバー6Lと高圧用のカバー6Hとのうちいずれか一方が選択されて外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されるものとする。カバー6Lとカバー6Hとの嵌合部であるインナー側開口部2aは、カバー6Lとカバー6Hとに対して共通する嵌合部として形成されている。カバー6Lとカバー6Hとは、インナー側開口部2aに対して同一の嵌合長さFlで嵌合されている。すなわち、カバー6Lとカバー6Hとは、車輪用軸受装置1に対して同一の位置関係で嵌合されている。嵌合長さFlは、カバー6がインナー側開口部2aを密閉している初期の状態である初期嵌合位置P1からインナー側開口部2aへの圧入が完了した位置である最終嵌合位置P2までの長さを言う(
図3から
図6参照)。
【0034】
図3に示すように、常圧用のカバー6Lは、嵌合によって上昇する車輪用軸受装置1の軸受内部の圧力を外部の大気圧に近似する所定値(以下、単に「常圧基準値」と記す)以下に設定するものである。カバー6Lは、最終嵌合位置P2に嵌合されている状態において、底部6cに形成されている凸部6dがハブ輪3の加締部3fの形状に沿うように形成されている。一方、カバー6Lは、底部6cに凹部6e(
図2参照)が形成されていない。つまり、カバー6Lは、底部6cに円筒状に突出した凸部6dのみが形成されている。カバー6Lは、凸部6dの内部(軸受内部側)に加締部3fが配置されている。凸部6dのアウター側面と加締部3fのインナー側面との間には、幅WLfの隙間が構成されている。凸部6dのアウター側面と工具挿入穴3gのインナー側面との間には、幅WLgの隙間が構成されている。
【0035】
図4に示すように、高圧用のカバー6Hは、嵌合によって上昇する車輪用軸受装置1の軸受内部の圧力を外部の大気圧よりも高い所定値の範囲(以下、単に「高圧下限値から高圧上限値」と記す)の範囲に設定するものである。カバー6Hは、最終嵌合位置P2に嵌合されている状態において、底部6cに形成されている凸部6dと凹部6eとがハブ輪3の加締部3fと工具挿入穴3gの形状に沿うように形成されている。カバー6Hは、凸部6dの内部(軸受内部側)に加締部3fが配置されている。凸部6dのアウター側面と加締部3fのインナー側面との間には、互いに接触しない程度(例えば2mm程度)の幅WHfの隙間が構成されている。また、カバー6Hは、凹部6eが工具挿入穴3gの内部に入り込むように配置されている。凹部6eのアウター側面と工具挿入穴3gのインナー側面との間には、互いに接触しない程度(例えば1mm程度)の幅WHgの隙間が構成されている。
【0036】
図5と
図6とに示すように、車輪用軸受装置1は、初期嵌合位置P1にカバー6Lとカバー6Hとのうちいずれか一方が選択的に嵌合されることで、カバー6L、外輪2、ハブ輪3、内輪4およびアウター側シール部材8で囲まれている空間である密閉空間SLと(
図5薄墨部分参照)、カバー6H、外輪2、ハブ輪3、内輪4およびアウター側シール部材8で囲まれている空間である密閉空間SH(
図6薄墨部分参照)の容積が変更される。
図6に示すように、車輪用軸受装置1にカバー6Hが嵌合されている場合の密閉空間SHの容積は、車輪用軸受装置1にカバー6Lが嵌合されている場合の密閉空間SLの容積に比べて、カバー6Hの凸部6dの軸方向視での投影面積と凸部6dの隙間の差(幅WLf−幅WHf)の積と、カバー6Hの凹部6eの軸方向視での投影面積と凹部6eの隙間の差(幅WLg−幅WHg)との合計値だけ小さい。
【0037】
車輪用軸受装置1は、カバー6Lまたはカバー6Hが最終嵌合位置P2まで嵌合されることで密閉空間SHまたは密閉空間SLが同じ容積分だけ圧縮される。車輪用軸受装置1の最終嵌合位置P2にカバー6Hまたはカバー6Hが嵌合されている場合の軸受内部の圧力は、ボイルの法則より、密閉空間SHにまたは密閉空間SLに対する圧縮された容積の割合が大きいほど高くなる。つまり、車輪用軸受装置1の最終嵌合位置P2にカバー6Hが嵌合されている場合の軸受内部の圧力は、車輪用軸受装置1の最終嵌合位置P2に終嵌合位置にカバー6Lが嵌合されている場合の軸受内部の圧力よりも高くなる。このように、車輪用軸受装置1は、密閉空間SHにまたは密閉空間SLを構成するカバー6の凸部6dと凹部6eとの形状を変更することで、カバー6Hとカバー6Lとが軸受内部の密閉空間SHにまたは密閉空間SLの圧力をそれぞれ異なる圧力に設定する複数種のカバーとして構成される。また、車輪用軸受装置1は、カバー6Hとカバー6Lとから一のカバーを選択して嵌合することで軸受内部の圧力を所望の圧力に設定することができる。なお、本実施形態において、複数種のカバーは、カバー6Hとカバー6Lとから構成されているが、凸部6dと凹部6eとの形状が異なる3つ以上のカバーから構成されていてもよい。
【0038】
次に、
図7から
図9を用いて、例えば大気圧が略1気圧である標高(例えば標高100m未満)の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合と、例えば大気圧が1気圧よりも低い標高(例えば標高3000m)の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合におけるカバー6Hまたはカバー6Lによる軸受内部の圧力の設定について具体的に説明する。本実施形態において、車輪用軸受装置1は、例えば大気圧が略1気圧である標高(例えば標高100m未満)の地域で使用されるものとする。すなわち、車輪用軸受装置1は、軸受内部の圧力が使用される地域の大気圧と同じ略1気圧になるように組み立てることで、使用時にアウター側シール部材8のシールリップを摺動面に押さえつける力や、摺動面から離間させる力の発生を抑制することができる。
【0039】
図7に示すように、車輪用軸受装置1は、大気圧が略1気圧である標高の地域(低地)で組み立てられる場合に低地用のカバー6Lが用いられ、大気圧が1気圧よりも低い標高の地域(高地)で組み立てられる場合に高地用のカバー6Hが用いられる。また、車輪用軸受装置1は、使用される地域の温度よりも低い温度の地域で組み立てられる場合に低温用のカバー6Lが用いられ、使用される地域の温度よりも高い温度の地域で組み立てられる場合に高温用のカバー6Hが用いられる。さらに、車輪用軸受装置1は、使用される地域と組み立てられる地域が同一の地域環境において、組み立て時の温度が平均気温よりも低い温度(例えば冬季)の場合に低温用のカバー6Lが用いられ、組み立て時の温度が平均気温よりも高い温度(例えば夏季)の場合に高温用のカバー6Hが用いられる。
【0040】
図8に示すように、大気圧が略1気圧(黒塗矢印参照)である標高の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域と使用される地域との大気圧が略同一であるため、車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合によって軸受内部の圧力が大きく高まらないように組み立てを行う必要がある。従って、大気圧が略1気圧である標高の地域で組み立てられる車輪用軸受装置1には、嵌合による軸受内部の圧力上昇が常圧基準値以下になるカバー6Lが選択される。
【0041】
さらに、使用される地域の温度よりも低い温度の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気密度が使用される地域の大気密度よりも高い。または、使用される地域と組み立てられる地域が同一の地域環境において、組み立て時の温度が平均気温よりも低い温度の場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる時期の大気密度が他の時期の大気密度よりも高い。車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合によって軸受内部の圧力が大きく高まらないように組み立てを行う必要がある。従って、使用される地域の温度よりも低い温度の地域または低い温度の時期に組み立てられる車輪用軸受装置1には、嵌合による軸受内部の圧力上昇が常圧基準値以下になるカバー6Lが選択される。
【0042】
車輪用軸受装置1は、カバー6Lの嵌合部6aがインナー側シール嵌合部2bの内周面に接触することなく外輪2のカバー嵌合部2cに向かって軸方向に移動される(白塗矢印参照)。カバー6Lは、嵌合部6aの端部が外輪2のカバー嵌合部2cのインナー側端に到達すると、初期嵌合位置P1であるカバー嵌合部2cのインナー側端に嵌合され、密閉空間SLを構成する(
図5参照)。更にカバー6Lは、軸方向アウター側に向かって嵌合長さFlだけ挿入され、最終嵌合位置P2に到達する。車輪用軸受装置1は、カバー6Lが最終嵌合位置P2に嵌合されることで軸受内部(薄墨部分参照)の圧力が上昇するが、凸部6dの形状より軸受内部の圧力が常圧基準値以下に設定されている(濃い薄墨矢印参照)。
【0043】
図9に示すように、大気圧が1気圧よりも低い(黒塗矢印参照)標高(例えば標高3000m)の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気圧が使用される地域の大気圧よりも低いため、車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合によって軸受内部の圧力が所定の範囲内まで高くなるように組み立てを行う必要がある。従って、大気圧が1気圧よりも低い標高の地域で組み立てられる車輪用軸受装置1には、嵌合による軸受内部の圧力上昇が高圧下限値以上、高圧上限値以下になるカバー6Hが選択される。
【0044】
さらに、使用される地域の温度よりも高い温度の地域で車輪用軸受装置1が組み立てられる場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる地域の大気密度が使用される地域の大気密度よりも低い。または、使用される地域と組み立てられる地域が同一の地域環境において、組み立て時の温度が平均気温よりも高い温度の場合、車輪用軸受装置1が組み立てられる時期の大気密度が他の時期の大気密度よりも低い。車輪用軸受装置1は、カバー6の嵌合によって軸受内部の圧力が所定の範囲内まで高くなるように組み立てを行う必要がある。従って、使用される地域の温度よりも高い温度の地域または高い温度の時期に組み立てられる車輪用軸受装置1には、嵌合による軸受内部の圧力上昇が高圧下限値以上、高圧上限値以下になるカバー6Hが選択される。
【0045】
車輪用軸受装置1は、カバー6Hの嵌合部6aがインナー側シール嵌合部2bの内周面に接触することなく外輪2のカバー嵌合部2cに向かって軸方向に移動される(白塗矢印参照)。カバー6Hは、嵌合部6aの端部が外輪2のカバー嵌合部2cのインナー側端に到達すると、初期嵌合位置P1であるカバー嵌合部2cのインナー側端に嵌合され、密閉空間SHを構成する(
図6参照)。更にカバー6Lは、軸方向アウター側に向かって嵌合長さFlだけ挿入され、最終嵌合位置P2に到達する。車輪用軸受装置1は、カバー6Hが最終嵌合位置P2に嵌合されることで軸受内部(薄墨部分参照)の圧力が上昇するが、凸部6dの形状より軸受内部の圧力が高圧下限値以上、高圧上限値以下に設定されている(濃い薄墨矢印参照)。これにより、車輪用軸受装置1は、使用地域の大気圧に応じて、カバー6Lまたはカバー6Hを選択的に嵌合されることで軸受内部の圧力と使用地域での大気圧との圧力差が許容値内に収まり、シール部材のシールリップを摺動面に押さえつける力や、摺動面から離間させる力によるシールリップの摩耗や回転トルクの上昇が抑制される。
【0046】
このように構成することで、車輪用軸受装置1は、組立てが行われる環境に応じて所定の形状に形成されたカバー6Lまたはカバー6Hを選択して外輪2に嵌合させることで、初期嵌合位置P1での軸受内部の密閉空間SL・SHの容積と最終嵌合位置P2での軸受内部の容積とが管理される。つまり、車輪用軸受装置1の全体の大きさやカバー6が嵌合される外輪2の形状を変更することなく軸受内部の密閉空間SL・SHの容積が管理される。カバー6Lまたはカバー6Hは、車輪用軸受装置1の内部空間に配置されているハブ輪3等の構造物の形状を考慮して形成されているので効率的に軸受内部の密閉空間SL・SHの容積が管理される。これにより、簡単な構造で軸受内部の圧力を所望の大きさに設定することができる。
【0047】
なお、車輪用軸受装置1は、ハブ輪3等の形状に沿ってカバー6が形成されているが、カバー6L・6Hの形状に沿ってハブ輪3を形成してもよい。つまり、車輪用軸受装置1は、カバー6L・6Hの形状およびカバー6L・6Hの最終嵌合位置P2を一定として、ハブ輪3のインナー側の形状を変更して軸受内部の容積を調整することで軸受内部を所望の圧力に設定してもよい。
【0048】
次に、
図10と
図11とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置9について説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置9は、
図1から
図9に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0049】
図10を用いて、車輪用軸受装置9にカバー6を嵌合することによる軸受内部の圧力について説明する。車輪用軸受装置9は、カバー6が外輪2のインナー側開口部2aに定められている最終嵌合位置P3と最終嵌合位置P4とのうちいずれか一方に嵌合されているものとする。すなわち、カバー6は、車輪用軸受装置9の軸受内部が所望の圧力になる最終嵌合位置に嵌合されている。嵌合長さF3は、カバー6がインナー側開口部2aを密閉している初期の状態である初期嵌合位置P1から最終嵌合位置P3までの長さであり(
図10(a)参照)、嵌合長さF4は、初期嵌合位置P1から最終嵌合位置P4までの長さである(
図10(b)参照)。
【0050】
図10(a)に示すように、車輪用軸受装置9の最終嵌合位置P3は、カバー6の嵌合によって上昇する車輪用軸受装置9の軸受内部の圧力を常圧基準値以下に設定する位置である。大気圧が略1気圧(黒塗矢印参照)である標高の地域で車輪用軸受装置9が組み立てられる場合、車輪用軸受装置9が組み立てられる地域と使用される地域との大気圧が略同一であるため、車輪用軸受装置9は、嵌合による軸受内部の圧力上昇が常圧基準値以下になる最終嵌合位置P3にカバー6が嵌合される。カバー6は、嵌合部6aの端部が外輪2のカバー嵌合部2cのインナー側端に到達すると、初期嵌合位置P1であるカバー嵌合部2cのインナー側端に嵌合される。更にカバー6Lは、軸方向アウター側に向かって嵌合長さF3だけ挿入され、軸受内部の圧力が常圧基準値以下で維持されている最終嵌合位置P3に嵌合される。
【0051】
図10(b)に示すように、車輪用軸受装置9の最終嵌合位置P4は、カバー6の嵌合によって上昇する車輪用軸受装置9の軸受内部の圧力を高圧下限値から高圧上限値の範囲に設定するものである。大気圧が1気圧よりも低い(黒塗矢印参照)標高の地域で車輪用軸受装置9が組み立てられる場合、車輪用軸受装置9が組み立てられる地域の大気圧が使用される地域の大気圧よりも低いため、車輪用軸受装置9は、嵌合による軸受内部の圧力上昇が高圧下限値以上、高圧上限値以下になる最終嵌合位置P4にカバー6が嵌合される。カバー6は、嵌合部6aの端部が外輪2のカバー嵌合部2cのインナー側端に到達すると、初期嵌合位置P1であるカバー嵌合部2cのインナー側端に嵌合される。更にカバー6は、軸方向アウター側に向かって嵌合長さF4だけ挿入され、軸受内部の圧力が高圧下限値以上、高圧上限値以下で維持されている最終嵌合位置P4に嵌合される。
【0052】
このように構成することで、車輪用軸受装置9は、カバー6の嵌合長さを変更することで軸受内部の圧力を設定することができる。つまり、車輪用軸受装置9は、カバー6を最終嵌合位置P3と最終嵌合位置P4とのうちいずれか一方に嵌合させて嵌合長さを変更することで軸受内部の圧力を環境に応じた所望の圧力に設定することができる。また、車輪用軸受装置9は、組立てが行われる環境に応じて所定の最終嵌合位置にカバーを選択的に嵌合させることで、車輪用軸受装置9の全体の大きさやカバー6が嵌合される外輪2の形状を変更することなく軸受内部の圧力を環境に応じた所望の圧力に設定することができる。
【0053】
さらに、
図11(a)に示すように、最終嵌合位置を変更することで軸受内部の嵌合長さが減少し、嵌合力だけでカバー6の抜け耐力を確保できない場合、車輪用軸受装置9は、外輪2にカバー6が係合されて嵌合力を補うように構成されている。車輪用軸受装置9は、外輪2のインナー側開口部2aに円環状の係合溝2hが形成され、カバー6Lの嵌合部6aに径方向外側へ向かって円環状に突出したかえりである係合爪6fが形成されている。
図10(b)に示すように、車輪用軸受装置9は、インナー側開口部2aにカバー6が挿入されて最終嵌合位置P3に到達すると、係合溝2hに係合爪6fが係合される。車輪用軸受装置9は、カバー6の嵌合力不足による抜けを防止することができる。
【0054】
本願における車輪用軸受装置1・9は、内方部材として一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、取付フランジを有している外方部材である外輪2と内方部材である内輪4とハブ輪3の嵌合体で構成された内輪回転仕様の第3世代構造としているが、取付フランジを有している外方部材である外輪2と内方部材である一対の内輪4とで構成され、この一対の内輪4がハブ輪3の外周に嵌合される内輪回転仕様の第2世代構造であってもよい。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。