(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補助軌道面が前記外方部材のインナー側に形成された前記外側軌道面におけるアウター側端部に連続して転動体を保持している、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
前記補助軌道面が前記外方部材のアウター側に形成された前記外側軌道面におけるインナー側端部に連続して転動体を保持している、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
前記外側軌道面と前記補助軌道面の境界部分における軸方向断面が円弧形状に窪んでいる、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軌道面に圧痕がつかない車輪用軸受装置の提供を目的とする。ひいては、圧痕に起因する異音が発生したり、軸受寿命が低下したりしない車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記外方部材に外側環状部材が内嵌されていて、
前記外側環状部材に形成された補助軌道面が前記外側軌道面に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0007】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記補助軌道面が前記外方部材のインナー側に形成された前記外側軌道面におけるアウター側端部に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0008】
第三の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記補助軌道面が前記外方部材のアウター側に形成された前記外側軌道面におけるインナー側端部に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0009】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
前記外側軌道面と前記補助軌道面の境界部分における軸方向断面が円弧形状に窪んでいる、ものである。
【0010】
第五の発明は、
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記内方部材に内側環状部材が外嵌されていて、
前記内側環状部材に形成された補助軌道面が前記内側軌道面に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0011】
第六の発明は、第五の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記補助軌道面が前記内方部材のインナー側に形成された前記内側軌道面におけるインナー側端部に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0012】
第七の発明は、第五の発明に係る車輪用軸受装置において、
前記補助軌道面が前記内方部材のアウター側に形成された前記内側軌道面におけるアウター側端部に連続して前記転動体を保持している、ものである。
【0013】
第八の発明は、第五から第七のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
前記内側軌道面と前記補助軌道面の境界部分における軸方向断面が円弧形状に窪んでいる、ものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
第一の発明に係る車輪用軸受装置は、外方部材に外側環状部材が内嵌されている。そして、外側環状部材に形成された補助軌道面が外側軌道面に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が外側軌道面をせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、外側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0016】
第二の発明に係る車輪用軸受装置は、補助軌道面が外方部材のインナー側に形成された外側軌道面におけるアウター側端部に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が外側軌道面をせり上がっても、外側環状部材が荷重を受け止めるので、外側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0017】
第三の発明に係る車輪用軸受装置は、補助軌道面が外方部材のアウター側に形成された外側軌道面におけるインナー側端部に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が外側軌道面をせり上がっても、外側環状部材が荷重を受け止めるので、外側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0018】
第四の発明に係る車輪用軸受装置は、外側軌道面と補助軌道面の境界部分における軸方向断面が円弧形状に窪んでいる。かかる車輪用軸受装置によれば、外側軌道面と補助軌道面の境界部分に生じる応力を緩和できる。
【0019】
第五の発明に係る車輪用軸受装置は、内方部材に内側環状部材が外嵌されている。そして、内側環状部材に形成された補助軌道面が内側軌道面に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が内側軌道面をせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、内側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0020】
第六の発明に係る車輪用軸受装置は、補助軌道面が内方部材のインナー側に形成された内側軌道面におけるインナー側端部に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が内側軌道面をせり上がっても、内側環状部材が荷重を受け止めるので、内側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0021】
第七の発明に係る車輪用軸受装置は、補助軌道面が内方部材のアウター側に形成された内側軌道面におけるアウター側端部に連続して転動体を保持している。かかる車輪用軸受装置によれば、転動体が内側軌道面をせり上がっても、内側環状部材が荷重を受け止めるので、内側軌道面に転動体の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0022】
第八の発明に係る車輪用軸受装置は、内側軌道面と補助軌道面の境界部分における軸方向断面が円弧形状に窪んでいる。かかる車輪用軸受装置によれば、内側軌道面と補助軌道面の境界部分に生じる応力を緩和できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。
図1は、車輪用軸受装置1を示す図である。
図2は、車輪用軸受装置1の構造を示す図である。そして、
図3および
図4は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す図である。
【0025】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体列4と、を備えている。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。
【0026】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、嵌合面2aと嵌合面2bに隣接する内周には、二つの外側軌道面2c・2dが形成されている。外側軌道面2cは、後述する内側軌道面3cに対向する。外側軌道面2dは、後述する内側軌道面3dに対向する。加えて、外方部材2には、径方向外側へ広がる車体取り付けフランジ2eが形成されている。車体取り付けフランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。外方部材2は、それぞれのボルト穴2fに締結部材(後述するナックルボルト34)を挿通することで車体(後述するナックルN)に取り付けられる。
【0027】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0028】
ハブ輪31は、外方部材2の内側に挿通される。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれたスプライン穴3bが形成されている。更に、ハブ輪31の軸方向中央部における外周には、内側軌道面3dが形成されている。内側軌道面3dは、ハブ輪31が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側軌道面2dに対向する。加えて、ハブ輪31には、径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジ3eが形成されている。車輪取り付けフランジ3eには、回転軸Aを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入されている。
【0029】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gのアウター側に隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌されることにより、ハブ輪31の外周に内側軌道面3cを構成する。内側軌道面3cは、ハブ輪31と一体化した内輪32が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側軌道面2cに対向する。なお、内輪32は、小径段部3aに外嵌された状態で、この小径段部3aの先端を径方向外側へ押し広げて形成された加締部3hによって固定されている。
【0030】
転動体列4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動体列4は、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。同様に、アウター側の転動体列4も、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。
【0031】
転動体41は、それぞれが保持器42によって円形にかつ等間隔にならべられている。転動体41は、ボール(鋼球)である。そして、インナー側の転動体列4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2cと内方部材3(内輪32)の内側軌道面3cの間に転動自在に介装されている。また、アウター側の転動体列4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2dと内方部材3(ハブ輪31)の内側軌道面3dの間に転動自在に介装されている。
【0032】
保持器42は、転動体41を収めるためのポケットが等間隔に形成された円環体となっている。保持器42は、互いに隣り合う転動体41と転動体41の間に球面壁が延びており、二つの球面壁によって一つの転動体41を挟み込むように保持している。このため、保持器42は、それぞれの転動体41の周方向の偏動(ズレ)を制限する。従って、隣り合う転動体41と転動体41が衝突したりそれぞれの転動体41がガタついたりするのを防ぐことができる。
【0033】
ところで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31および内輪32)の間に形成される環状空間Sを密封すべくインナー側シール部材5とアウター側シール部材6を備えている。なお、これらのシール部材5・6は、様々な仕様が存在しており、本明細書に開示された仕様に限定するものではない。
【0034】
インナー側シール部材5は、スリンガ51とシールリング52で構成されている。スリンガ51は、その軸方向断面が略L字状であり、円筒状の嵌合部51aと径方向外側へ延びる円板状の側板部51bとを有している。そして、この嵌合部51aが内方部材3(内輪32)の嵌合面3gに外嵌される。一方、シールリング52は、芯金53に弾性部材54を接着したものである。芯金53は、その軸方向断面が略L字状であり、円筒状の嵌合部53aと径方向内側へ延びる円板状の側板部53bとを有している。そして、この嵌合部53aが外方部材2の嵌合面2aに内嵌される。なお、弾性部材54には、二つのサイドリップ54a・54bが形成されており、それぞれの先端縁が対向するスリンガ51の側板部51bに接触している。更に、弾性部材54には、一つのグリースリップ54cが形成されており、その先端縁が対向するスリンガ51の嵌合部51aに接触又は近接している。
【0035】
アウター側シール部材6は、芯金61に弾性部材62を接着したものである。芯金61は、その軸方向断面が略L字状であり、円筒状の嵌合部61aと径方向内側へ延びる円板状の側板部61bとを有している。そして、この嵌合部61aが外方部材2の嵌合面2bに内嵌される。なお、弾性部材62には、サイドリップ62aと中間リップ62bが形成されており、それぞれの先端縁がハブフランジ3eにつながる円弧面3iに接触している。更に、弾性部材62には、一つのグリースリップ62cが形成されており、その先端縁が円弧面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。
【0036】
次に、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳しく説明する。
図5は、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1の要部構造を示す図である。なお、
図5における(A)は、車輪用軸受装置1の一部領域Rを拡大した図である。また、
図5における(B)は、外側軌道面2cと補助軌道面21cの境界部分Bを拡大した図である。
【0037】
本車輪用軸受装置1は、外方部材2に内嵌される外側環状部材21を具備している。具体的に説明すると、外方部材2に形成された外側軌道面2cの肩部2mに外側環状部材21が内嵌されている。肩部2mは、外側軌道面2cのアウター側に隣接する内周面のうちインナー側端部を径方向外側に凹ませることでなる。外側環状部材21は、そのインナー側端面21cが外側軌道面2cに対して段差なくつづく曲面となっている。換言すると、インナー側端面21cが外側軌道面2cから滑らかに連続する曲面となっている。本明細書においては、かかるインナー側端面21cを「補助軌道面21c」と定義する。補助軌道面21cは、転動体41のピッチ円近傍まで、或いはピッチ円を越えて径方向内側まで延びており、実質的には外側軌道面2cを延伸している。そして、いずれの場合であっても、補助軌道面21cは、その軸方向断面が転動体41に沿う湾曲した形状となっている。
【0038】
本車輪用軸受装置1において、外側環状部材21は、高硬度・高剛性材料である高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で構成されているが、機械工具鋼(SK)やセラミックス(CE)等で構成されているとしてもよい。また、本車輪用軸受装置1においては、外側軌道面2cの肩部2mに外側環状部材21が圧入される構造となっているが、接着剤を用いて固定する構造であってもよい。このようにすれば、外方部材2と外側環状部材21の間に緩衝層が形成されるので、衝撃を緩和することができる。また、外方部材2と外側環状部材21の熱膨張差を吸収することもできる。
【0039】
このように、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1は、外方部材2に外側環状部材21が内嵌されている。そして、外側環状部材21に形成された補助軌道面21cが外側軌道面2cに連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、過大荷重や衝撃荷重が作用して転動体41が外側軌道面2cをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、外側軌道面2cに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0040】
特に、近年では車両の高出力化又は大型化により、車輪用軸受装置1に想定以上の荷重が作用しやすい傾向にある。また、車両にロープロファイルタイヤが採用された場合は、コーナリング時や縁石等への乗り上げ時に限らず、通常走行時にも想定以上の荷重が作用してしまうことがある。本実施形態に係る車輪用軸受装置1は、上記のように想定以上の荷重が作用しやすく、当該荷重によって外側軌道面2cに圧痕が発生しやすい条件において有用である。
【0041】
また、外方部材2を肩上げして外側軌動面2cを延長する構造においては、転動体41がせり上がって圧痕が生じた場合、当該圧痕を起点に外側軌道面2cに剥離が生じやすくなる。しかし、外方部材2に別体の外側環状部材21を嵌合する構造においては、仮に圧痕が生じても、当該圧痕が生じるのは外側軌道面2cとは別体の補助軌道面21cであり、軸受寿命に影響を与えにくい。更に、外方部材2を肩上げして外側軌動面2cを延長する構造よりも加工性が向上することとなる(例えば、加工時間が短縮することとなる)。
【0042】
ここで、本車輪用軸受装置1は、転動体41と外側軌道面2cの接点をXとし、転動体41と内側軌道面3cの接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてアウター側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、外側軌道面2cには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印F参照)。但し、転動体41が外側軌道面2cをせり上がった場合は、仮想線Zが倒れるので、荷重が外側軌道面2cにおけるアウター側端部にズレて掛かることとなる。この場合、外側環状部材21が高硬度・高剛性材料であり、かつ外側環状部材21に形成された補助軌道面21cが外側軌道面2cにおけるアウター側端部に連続して径方向内側へ延伸しているので、かかる荷重を受け止めることができる。
【0043】
このように、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1は、補助軌道面21cが外方部材2のインナー側に形成された外側軌道面2cにおけるアウター側端部に連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、転動体41が外側軌道面2cをせり上がっても、外側環状部材21が荷重を受け止めるので、外側軌道面2cに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0044】
加えて、本車輪用軸受装置1は、外側軌道面2cと補助軌道面21cの境界部分Bにおける軸方向断面が略円弧形状に窪んでいることが好ましい(
図5における(B)参照)。このようにするのは、境界部分Bに掛かる荷重を低減させ、それぞれの角部に生じる応力をできるだけ小さく抑えるためである。
【0045】
このように、第一実施形態である車輪用軸受装置1は、外側軌道面2cと補助軌道面21cの境界部分Bにおける軸方向断面が円弧形状に窪んでいるとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外側軌道面2cと補助軌道面21cの境界部分Bに生じる応力を緩和できる。
【0046】
次に、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳しく説明する。
図6は、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1の要部構造を示す図である。なお、
図6における(A)は、車輪用軸受装置1の一部領域Rを拡大した図である。また、
図6における(B)は、外側軌道面2dと補助軌道面22dの境界部分Bを拡大した図である。
【0047】
本車輪用軸受装置1は、外方部材2に内嵌される外側環状部材22を具備している。具体的に説明すると、外方部材2に形成された外側軌道面2dの肩部2nに外側環状部材22が内嵌されている。肩部2nは、外側軌道面2dのインナー側に隣接する内周面のうちアウター側端部を径方向外側に凹ませることでなる。外側環状部材22は、そのインナー側端面22dが外側軌道面2dに対して段差なくつづく曲面となっている。換言すると、インナー側端面22dが外側軌道面2dから滑らかに連続する曲面となっている。本明細書においては、かかるインナー側端面22dを「補助軌道面22d」と定義する。補助軌道面22dは、転動体41のピッチ円近傍まで、或いはピッチ円を越えて径方向内側まで延びており、実質的には外側軌道面2dを延伸している。そして、いずれの場合であっても、補助軌道面22dは、その軸方向断面が転動体41に沿う湾曲した形状となっている。
【0048】
本車輪用軸受装置1において、外側環状部材22は、高硬度・高剛性材料である高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で構成されているが、機械工具鋼(SK)やセラミックス(CE)等で構成されているとしてもよい。また、本車輪用軸受装置1においては、外側軌道面2dの肩部2nに外側環状部材22が圧入される構造となっているが、接着剤を用いて固定する構造であってもよい。このようにすれば、外方部材2と外側環状部材22の間に緩衝層が形成されるので、衝撃を緩和することができる。また、外方部材2と外側環状部材22の熱膨張差を吸収することもできる。
【0049】
このように、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1は、外方部材2に外側環状部材22が内嵌されている。そして、外側環状部材22に形成された補助軌道面22dが外側軌道面2dに連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、過大荷重や衝撃荷重が作用して転動体41が外側軌道面2dをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、外側軌道面2dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0050】
特に、近年では車両の高出力化又は大型化により、車輪用軸受装置1に想定以上の荷重が作用しやすい傾向にある。また、車両にロープロファイルタイヤが採用された場合は、コーナリング時や縁石等への乗り上げ時に限らず、通常走行時にも想定以上の荷重が作用してしまうことがある。本実施形態に係る車輪用軸受装置1は、上記のように想定以上の荷重が作用しやすく、当該荷重によって外側軌道面2dに圧痕が発生しやすい条件において有用である。
【0051】
また、外方部材2を肩上げして外側軌動面2dを延長する構造においては、転動体41がせり上がって圧痕が生じた場合、当該圧痕を起点に外側軌道面2dに剥離が生じやすくなる。しかし、外方部材2に別体の外側環状部材22を嵌合する構造においては、仮に圧痕が生じても、当該圧痕が生じるのは外側軌道面2dとは別体の補助軌道面22dであり、軸受寿命に影響を与えにくい。更に、外方部材2を肩上げして外側軌動面2dを延長する構造よりも加工性が向上することとなる(例えば、加工時間が短縮することとなる)。
【0052】
ここで、本車輪用軸受装置1は、転動体41と外側軌道面2dの接点をXとし、転動体41と内側軌道面3dの接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてインナー側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、外側軌道面2dには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印F参照)。但し、転動体41が外側軌道面2dをせり上がった場合は、仮想線Zが倒れるので、荷重が外側軌道面2dにおけるインナー側端部にズレて掛かることとなる。この場合、外側環状部材22が高硬度・高剛性材料であり、かつ外側環状部材22に形成された補助軌道面22dが外側軌道面2dにおけるインナー側端部に連続して径方向内側へ延伸しているので、かかる荷重を受け止めることができる。
【0053】
このように、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1は、補助軌道面22dが外方部材2のアウター側に形成された外側軌道面2dにおけるインナー側端部に連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、転動体41が外側軌道面2dをせり上がっても、外側環状部材22が荷重を受け止めるので、外側軌道面2dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0054】
加えて、本車輪用軸受装置1は、外側軌道面2dと補助軌道面22dの境界部分Bにおける軸方向断面が略円弧形状に窪んでいることが好ましい(
図6における(B)参照)。このようにするのは、境界部分Bに掛かる荷重を低減させ、それぞれの角部に生じる応力をできるだけ小さく抑えるためである。
【0055】
このように、第二実施形態である車輪用軸受装置1は、外側軌道面2dと補助軌道面22dの境界部分Bにおける軸方向断面が円弧形状に窪んでいるとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外側軌道面2dと補助軌道面22dの境界部分Bに生じる応力を緩和できる。
【0056】
ところで、外方部材2は、様々な工程を経て完成される。ここでは、外方部材2に形成された外側軌道面2c・2dの研削工程に着目して説明する。
図7は、外方部材2に形成された外側軌道面2c・2dの研削工程を示す図である。
【0057】
研削工程は、外方部材2に形成された外側軌道面2c・2dの表面粗さを小さくする工程である。研削工程を行う前の外方部材2には、既に外側軌道面2c・2dが形成されているが、これらの表面粗さは大きいものである。そのため、かかる研削工程においては、外側軌道面2cに研磨工具(総型の研削砥石)Tを当てて磨き上げ、外側軌道面2cを精密に仕上げるのである。同様に、外側軌道面2dに研磨工具Tを当てて磨き上げ、外側軌道面2dを精密に仕上げるのである。なお、外側環状部材21の補助軌道面21cは、外側軌道面2cを仕上げる際にともに仕上げられるとしてもよい。外側環状部材22の補助軌道面22dも、外側軌道面2dを仕上げる際にともに仕上げられるとしてもよい。補助軌道面21c・22dは、想定よりも大きくかつ衝撃的な外力が掛かったときに効力を発揮するものであり、常に転動体41が接しているわけではない。そのため、補助軌道面21c・22dの表面粗さを外側軌道面2c・2dと同等にする必要はない。補助軌道面21c・22dが損傷したとしても外側軌道面2c・2dへの影響はほとんどないのである。
【0058】
次に、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳しく説明する。
図8は、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1の要部構造を示す図である。なお、
図8における(A)は、車輪用軸受装置1の一部領域Rを拡大した図である。また、
図8における(B)は、内側軌道面3cと補助軌道面33cの境界部分Bを拡大した図である。
【0059】
本車輪用軸受装置1は、内方部材3に外嵌される内側環状部材33を具備している。具体的に説明すると、内方部材3(内輪32)に形成された内側軌道面3cの肩部3mに内側環状部材33が外嵌されている。肩部3mは、外側軌道面3cのインナー側に隣接する外周面のうちアウター側端部を径方向内側に凹ませることでなる。内側環状部材33は、そのアウター側端面33cが内側軌道面3cに対して段差なくつづく曲面となっている。換言すると、アウター側端面33cが内側軌道面3cから滑らかに連続する曲面となっている。本明細書においては、かかるアウター側端面33cを「補助軌道面33c」と定義する。補助軌道面33cは、転動体41のピッチ円近傍まで、或いはピッチ円を越えて径方向外側まで延びており、実質的には内側軌道面3cを延伸している。そして、いずれの場合であっても、補助軌道面33cは、その軸方向断面が転動体41に沿う湾曲した形状となっている。
【0060】
本車輪用軸受装置1において、内側環状部材33は、高硬度・高剛性材料である高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で構成されているが、機械工具鋼(SK)やセラミックス(CE)等で構成されているとしてもよい。また、本車輪用軸受装置1においては、内側軌道面3cの肩部3mに内側環状部材33が圧入される構造となっているが、接着剤を用いて固定する構造であってもよい。このようにすれば、内方部材3と内側環状部材33の間に緩衝層が形成されるので、衝撃を緩和することができる。また、内方部材3と内側環状部材33の熱膨張差を吸収することもできる。
【0061】
このように、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1は、内方部材3に内側環状部材33が外嵌されている。そして、内側環状部材33に形成された補助軌道面33cが内側軌道面3cに連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、過大荷重や衝撃荷重が作用して転動体41が内側軌道面3cをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、内側軌道面3cに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0062】
加えて、内輪32に別体の内側環状部材33を嵌合する構造は、内輪32を肩上げして内側軌道面3cを延長する構造に比べ、インナー側シール部材5が収まる空間を確保しやすい。そのため、断面積の大きいインナー側シール部材5を採用することにより、環状空間Sの密封性を高めることができる。
【0063】
また、内輪32を肩上げして内側軌動面3cを延長する構造においては、転動体41がせり上がって圧痕が生じた場合、当該圧痕を起点に内側軌道面3cに剥離が生じやすくなる。しかし、内輪32に別体の内側環状部材33を嵌合する構造においては、仮に圧痕が生じても、当該圧痕が生じるのは内側軌道面3cとは別体の補助軌道面33cであり、軸受寿命に影響を与えにくい。更に、内輪32を肩上げして内側軌道面3cを延長する構造よりも加工性が向上することとなる(例えば、加工時間が短縮することとなる)。
【0064】
ここで、本車輪用軸受装置1は、転動体41と外側軌道面2cの接点をXとし、転動体41と内側軌道面3cの接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてアウター側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、内側軌道面3cには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印F参照)。但し、転動体41が内側軌道面3cをせり上がった場合は、仮想線Zが倒れるので、荷重が内側軌道面3cにおけるインナー側端部にズレて掛かることとなる。この場合、内側環状部材33が高硬度・高剛性材料であり、かつ内側環状部材33に形成された補助軌道面33cが内側軌道面3cにおけるインナー側端部に連続して径方向外側へ延伸しているので、かかる荷重を受け止めることができる。
【0065】
このように、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1は、補助軌道面33cが内方部材3のインナー側に形成された内側軌道面3cにおけるインナー側端部に連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、転動体41が内側軌道面3cをせり上がっても、内側環状部材33が荷重を受け止めるので、内側軌道面3cに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0066】
加えて、本車輪用軸受装置1は、内側軌道面3cと補助軌道面33cの境界部分Bにおける軸方向断面が略円弧形状に窪んでいることが好ましい(
図8における(B)参照)。このようにするのは、境界部分Bに掛かる荷重を低減させ、それぞれの角部に生じる応力をできるだけ小さく抑えるためである。
【0067】
このように、第三実施形態である車輪用軸受装置1は、内側軌道面3cと補助軌道面33cの境界部分Bにおける軸方向断面が円弧形状に窪んでいるとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、内側軌道面3cと補助軌道面33cの境界部分Bに生じる応力を緩和できる。
【0068】
次に、第四実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳しく説明する。
図9は、第四実施形態に係る車輪用軸受装置1の要部構造を示す図である。なお、
図9における(A)は、車輪用軸受装置1の一部領域Rを拡大した図である。また、
図9における(B)は、内側軌道面3dと補助軌道面34dの境界部分Bを拡大した図である。
【0069】
本車輪用軸受装置1は、内方部材3に外嵌される内側環状部材34を具備している。具体的に説明すると、内方部材3(ハブ輪31)に形成された内側軌道面3dの肩部3nに内側環状部材34が外嵌されている。肩部3nは、外側軌道面3dのアウター側に隣接する外周面のうちインナー側端部を径方向内側に凹ませることでなる。内側環状部材34は、そのインナー側端面34dが内側軌道面3dに対して段差なくつづく曲面となっている。換言すると、インナー側端面34dが内側軌道面3dから滑らかに連続する曲面となっている。本明細書においては、かかるアウター側端面34dを「補助軌道面34d」と定義する。補助軌道面34dは、転動体41のピッチ円近傍まで、或いはピッチ円を越えて径方向外側まで延びており、実質的には内側軌道面3dを延伸している。そして、いずれの場合であっても、補助軌道面34dは、その軸方向断面が転動体41に沿う湾曲した形状となっている。
【0070】
本車輪用軸受装置1において、内側環状部材34は、高硬度・高剛性材料である高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で構成されているが、機械工具鋼(SK)やセラミックス(CE)等で構成されているとしてもよい。また、本車輪用軸受装置1においては、内側軌道面3dの肩部3nに内側環状部材34が圧入される構造となっているが、接着剤を用いて固定する構造であってもよい。このようにすれば、内方部材3と内側環状部材34の間に緩衝層が形成されるので、衝撃を緩和することができる。また、内方部材3と内側環状部材34の熱膨張差を吸収することもできる。
【0071】
このように、第四実施形態に係る車輪用軸受装置1は、内方部材3に内側環状部材34が外嵌されている。そして、内側環状部材34に形成された補助軌道面34dが内側軌道面3dに連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、過大荷重や衝撃荷重が作用して転動体41が内側軌道面3dをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、内側軌道面3dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。
【0072】
加えて、ハブ輪31に別体の内側環状部材34を嵌合する構造は、ハブ輪31を肩上げして内側軌道面3dを延長する構造に比べ、アウター側シール部材6が収まる空間を確保しやすい。そのため、断面積の大きいアウター側シール部材6を採用することにより、環状空間Sの密封性を高めることができる。
【0073】
また、ハブ輪31を肩上げして内側軌動面3dを延長する構造においては、転動体41がせり上がって圧痕が生じた場合、当該圧痕を起点に内側軌道面3dに剥離が生じやすくなる。しかし、ハブ輪31に別体の内側環状部材34を嵌合する構造においては、仮に圧痕が生じても、当該圧痕が生じるのは内側軌道面3dとは別体の補助軌道面34dであり、軸受寿命に影響を与えにくい。更に、ハブ輪31を肩上げして内側軌道面3dを延長する構造よりも加工性が向上することとなる(例えば、加工時間が短縮することとなる)。
【0074】
ここで、本車輪用軸受装置1は、転動体41と外側軌道面2dの接点をXとし、転動体41と内側軌道面3dの接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてインナー側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、内側軌道面3dには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印F参照)。但し、転動体41が内側軌道面3dをせり上がった場合は、仮想線Zが倒れるので、荷重が内側軌道面3dにおけるアウター側端部にズレて掛かることとなる。この場合、内側環状部材34が高硬度・高剛性材料であり、かつ内側環状部材34に形成された補助軌道面34dが内側軌道面3dにおけるアウター側端部に連続して径方向外側へ延伸しているので、かかる荷重を受け止めることができる。
【0075】
このように、第四実施形態に係る車輪用軸受装置1は、補助軌道面34dが内方部材3のアウター側に形成された内側軌道面3dにおけるアウター側端部に連続して転動体41を保持している。かかる車輪用軸受装置1によれば、転動体41が内側軌道面3dをせり上がっても、内側環状部材34が荷重を受け止めるので、内側軌道面3dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。
【0076】
加えて、本車輪用軸受装置1は、内側軌道面3dと補助軌道面34dの境界部分Bにおける軸方向断面が略円弧形状に窪んでいることが好ましい(
図9における(B)参照)。このようにするのは、境界部分Bに掛かる荷重を低減させ、それぞれの角部に生じる応力をできるだけ小さく抑えるためである。
【0077】
このように、第四実施形態である車輪用軸受装置1は、内側軌道面3dと補助軌道面34dの境界部分Bにおける軸方向断面が円弧形状に窪んでいるとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外側軌道面3dと補助軌道面34dの境界部分Bに生じる応力を緩和できる。
【0078】
ところで、内方部材3は、様々な工程を経て完成される。ここでは、内方部材3に形成された内側軌道面3c・3dの研削工程に着目して説明する。
図10は、内方部材3に形成された外側軌道面3c・3dの研削工程を示す図である。
【0079】
研削工程は、ハブ輪31と内輪32に形成された内側軌道面3c・3dの表面粗さを小さくする工程である。研削工程を行う前のハブ輪31には、既に内側軌道面3dが形成されているが、この表面粗さは大きいものである。また、内輪32には、既に内側軌道面3cが形成されているが、この表面粗さも大きいものである。そのため、かかる研削工程においては、内側軌道面3dに研磨工具Tを当てて磨き上げ、内側軌道面3dを精密に仕上げるのである。同様に、内側軌道面3cに研磨工具Tを当てて磨き上げ、内側軌道面3cを精密に仕上げるのである。なお、内側環状部材34の補助軌道面34dは、内側軌道面3dを仕上げる際にともに仕上げられるとしてもよい。内側環状部材33の補助軌道面33cも、内側軌道面3cを仕上げる際にともに仕上げられるとしてもよい。補助軌道面33c・34dは、想定よりも大きくかつ衝撃的な外力が掛かったときに効力を発揮するものであり、常に転動体41が接しているわけではない。そのため、補助軌道面33c・34dの表面粗さを内側軌道面3c・3dと同等にする必要はない。補助軌道面33c・34dが損傷したとしても内側軌道面3c・3dへの影響はほとんどないのである。加えて、ハブ輪31の小径段部3aに内輪32を外嵌して加締めるのは、車輪用軸受装置1が完成する最後の工程となる。
【0080】
次に、第五実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳しく説明する。
図11は、第五実施形態に係る車輪用軸受装置1の要部構造を示す図である。なお、
図11における(A)及び(B)は、車輪用軸受装置1の一部領域Rを拡大した図である。
【0081】
第五実施形態に係る車輪用軸受装置1は、上述した各実施形態の特徴点を全て適用したものである。具体的に説明すると、本車輪用軸受装置1は、外方部材2に内嵌される外側環状部材21・22と内方部材3に外嵌される内側環状部材33・34を具備している(
図11における(A)参照)。
【0082】
かかる車輪用軸受装置1によれば、転動体41が外側軌道面2c・2dをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。また、転動体41が内側軌道面3c・3dをせり上がっても、いわゆるエッジロードの発生を防ぐことができる。従って、車輪が縁石に乗り上げるなどして大きくかつ衝撃的な外力が掛かった場合であっても、外側軌道面2c・2dや内側軌道面3c・3dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。加えて、その他の効果についても同様に発揮される。
【0083】
更に、本車輪用軸受装置1のように、二つの外側環状部材21・22を有している場合は、これらの外側環状部材21・22を一体化し、一の外側環状部材23としてもよい(
図11における(B)参照)。
【0084】
かかる車輪用軸受装置1においても、外側軌道面2c・2dや内側軌道面3c・3dに転動体41の圧痕がつくのを防ぐことができる。ひいては、圧痕に起因する異音の発生を抑制するとともに、軸受寿命の低下を防ぐことができる。加えて、その他の効果についても同様に発揮される。
【0085】
本願における車輪用軸受装置1は、車体取り付けフランジ2eを有している外方部材2と、ハブ輪31に一つの内輪32が嵌合されている内方部材3と、で構成された第3世代構造としているが、これに限定するものではない。例えば、車体取り付けフランジを有している外方部材と、一対の内輪からなる内方部材と、で構成された内方部材回転仕様の第2世代構造、或いは車輪取り付けフランジを有している外方部材と、一対の内輪からなる内方部材と、で構成された外方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。また、ハウジング等に嵌められる外方部材と、一対の内輪からなる内方部材と、で構成された第1世代構造であってもよい。
【0086】
最後に、本願における発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。