(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明において、角度について、基準線Tから時計回り方向をプラス、反時計回り方向をマイナスとする。また、識別溝10と表記する場合は、個々の識別溝11〜26を総称して示すものとする。なお、各実施形態で実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る固定子鉄心1の概略構成を示す斜視図である。
図2は鉄心材3の耳部4の概略構成を示す図であり、
図3は、鉄心材3の概略構成を示す上面図である。
図4は、電磁鋼板6の打ち抜き過程を示す上面図である。
【0010】
固定子鉄心1は、内部中空の円筒状をなし、内側に図示しない回転子が配置されうる空間が形成されている。固定子鉄心1は例えば電磁鋼板により構成されている。固定子鉄心1の内側内周部には、巻線を収容するためのスロット2が周方向に等間隔に複数個形成されている。固定子鉄心1は、図示しない回転電機を収容するフレーム内に固定されて用いられる。固定子鉄心1は、鉄心材3を多数枚積層して構成されている。
【0011】
個々の鉄心材3は、平板円環形状を呈しており、これを積層することで固定子鉄心1を構成している。鉄心材3の内周部には、複数個のスロット2が周方向に等間隔に形成されている。なお、以下、便宜上、固定子鉄心1のスロット2と、鉄心材3のスロット2とを、同一の「スロット2」の文言を用いて説明するが、厳密に言えば、固定子鉄心1のスロット2は、鉄心材3を積み重ねることで鉄心材3のスロット2が積層されて構成されたものである。
【0012】
鉄心材3は、当該鉄心材3をボルト等でケースに固定するための耳部4を複数有している。第1実施形態では、一つの固定子鉄心1または一つの鉄心材3は、3つの耳部4を有する例を例示して説明する。
【0013】
耳部4は、鉄心材3の円環形状の外周側部から径方向外側に突出して形成されている。耳部4は、具体的には、鉄心材3の外周部から径方向外側に突出し先端が半円弧状に形成され、鉄心材3との接続部においては鉄心材3の外周側面に対して滑らかに接続するように湾曲している。この耳部4は、中央部に後述する孔部5が形成可能な大きさに設定されている。また、耳部4が延伸する方向は、鉄心材3の中心から外周部方向であり、鉄心材3の中心から耳部4の半円弧状の中心を通る方向である。耳部4は、鉄心材3の円環形状の外周部において周方向に均等配置、この場合120度の間隔となるように均等に離間して配置されている。
【0014】
固定子鉄心1は、所定枚数の鉄心材3を積層して構成されたブロックを複数個積層し、その後、その側面を溶接することによって構成されている。
図1に示す実施形態では、3個のブロックを積層して固定子鉄心1を構成した例を例示している。
図1ではブロックを同じ位置すなわち識別溝10が一致する位置で積層しているが、鉄心材3の板厚偏差を考慮し、耳部によって位置を合わせることにより各ブロックの回転角を120度ずつずらして積層される場合もある。
【0015】
図1及び
図3に示すように、鉄心材3は、外周側面に耳部4を備えており、耳部4には1個又は複数の識別溝10が形成されている。この識別溝10は、複数の耳部4のうち、特定箇所の耳部4のみに形成されている。第1実施形態の場合、3個の耳部4(4a、4b、4c)のうち、特定の耳部4aのみに識別溝10が形成されている。後述するように、鉄心材3は電磁鋼板6を順送方式によりプレス金型によって順次打ち抜いて形成されるため、特定の耳部4aは、電磁鋼板6の特定の位置に配置されることになる。
【0016】
図2は、鉄心材3の耳部4a及び、耳部4aに設けられた識別溝10の構成を示している。
図4は、図示しないプレス金型によって打ち抜きが行われている電磁鋼板6の上面図を示しており、順送方向Xに向かってパターンP,Q,R,Sに対応するプレス金型によって打ち抜き工程が進むことにより鉄心材3が製造される。図示しないプレス金型は、順送方向X方向に1列に並ぶ打ち抜きパターンP,Q,R,Sに対応する金型が並んで構成されている。
図4に示すように、電磁鋼板6が順送方向X(すなわち図面右方向)にパターンP,Q,R,Sの一つ分の距離ごとに順送される。電磁鋼板6が順送される度に工程順に配列された金型(この場合は順送方向Xに向かって工程順に一列に並んだ4つの打ち抜きパターンP,Q,R,Sに対応する金型)によって電磁鋼板6を順番に打ち抜く。以下、便宜的に、4つの打ち抜きパターンP,Q,R,Sに対応する金型を金型P,Q,R,Sと称する。金型P,Q,R,Sのこの順に、工程順に配列されている。
【0017】
図2におけるA型、B型との表示は、同一機種のプレス金型である二つのプレス金型が存在しており、そのうちの一方をA型、他方をB型として呼称していることを意味する。ここでは工程順に並んだ4つの金型P,Q,R,Sを一つのプレス金型として構成している。すなわち、
図4において、プレス金型によって打ち抜かれた4つのパターンP,Q,R,Sが順送方向X方向に並んでおり、この打ち抜きパターンP,Q,R,Sのそれぞれに対応する4つのパターンが順送方向Xに並んでいる。この4つのパターンを打ち抜く金型を一体としたプレス金型を用いて、順送方向Xに順送される電磁鋼板6を打ち抜くことにより鉄心材3が製造される。以下、金型P,Q,R,Sを一体の金型として認識するものを金型列と称する。
図4には、金型列W1に対応する電磁鋼板6の打ち抜きパターンが示されている。
【0018】
二つの金型であるA型、B型は、同一形状であり、同一形状の鉄心材3を打ち出すことができる。例えばA型の金型をメンテ中にB型の金型を鉄心材3の製造に用いる、という運用がされることを想定している。A型とB型は同一機種のプレス金型ではあるが、厳密には、個々の金型の出来具合の差、すなわち製造バラツキがあるため、これによって打ち抜かれる鉄心材3は全くの同一形状ではなく若干の違いが存在する。従って、A型で打ち出された鉄心材3と、B型で打ち出された鉄心材3とは形状が若干相違するものである。
また、鉄心材3が打ち抜かれる帯状の電磁鋼板6の製造バラツキも存在する。例えば、電磁鋼板6の幅方向に電磁鋼板6の板厚が異なるということがある。
【0019】
これら鉄心材3で構成した固定子鉄心1において、A型の金型で打ち出された鉄心材3を用いて構成した固定子鉄心1と、B型の金型で打ち出された鉄心材3で構成された固定子鉄心1は、相互に相違している場合がある。また、電磁鋼板6の板厚のバラツキを考慮すれば、鉄心材3を打ち出す際の向きが異なれば、固定子鉄心1を構成する複数の鉄心材3間で積層方向に板厚が一定しないということになる。またさらに、電磁鋼板6の板厚のバラツキを考慮すれば、鉄心材3を積層する際には、鉄心材3を打ち出した際の向き、表裏の向きをそろえて積層することが望ましい。従って、鉄心材3を積層して固定子鉄心1を構成する際には、A型で打ち出した鉄心材3と、B型で打ち出した鉄心材3とを混合して積層することなく、A型で打ち出した鉄心材3だけ、又はB型で打ち出した鉄心材3だけを用いて積層することにより一つの固定子鉄心1を作製している。
【0020】
そこで、以下に説明するように、耳部4に識別溝10又は11を付することにより、鉄心材3の打ち出しに用いたプレス金型、鉄心材3の表裏、電磁鋼板6における向きを特定可能にした。耳部4の識別溝10は具体的には以下のように構成されている。
【0021】
(1)識別溝10は、鉄心材3の耳部4の外周から鉄心材3の内側の軸方向に形成した凹部ないし切り欠きである。これにより、鉄心材3及び鉄心材3を積層してなる固定子鉄心1の耳部4において、識別溝10が連続することにより描かれる直線として認識することができる。
【0022】
(2)識別溝10は、鉄心材3において複数存在する耳部4のうちの1つの耳部4に付する。ここでは、
図3に示す鉄心材3の3つの耳部4(すなわち4a、4b、4c)のうち、耳部4aにだけ識別溝10が付されている。これにより、鉄心材3を積層して固定子鉄心1を構成する際に、識別溝10が付された耳部4の耳部4の位置がそろうように積層することにより、鉄心材3の電磁鋼板6から打ち出した際の向き、鉄心材3の表裏の向きを一致させて積層させることができる。また、鉄心材3を積層することにより作製された固定子鉄心1の製造ばらつきが最小限となるため、固定子鉄心1を用いて構成されたモータの特性バラツキを抑制することができる。
【0023】
(3)識別溝10を耳部4に付する位置により、鉄心材3により構成される固定子鉄心1の機種と、当該鉄心材3を打ち出したプレス金型を特定可能に構成される。これについては後述する。本実施形態においては、鉄心材3を用いて構成される固定子鉄心1の機種を示す機種識別溝11と、A型とB型のプレス金型を区別するための第1識別溝12を用いて区別する。以下、「A型」と表記する際には「A型のプレス金型」を意味し、「B型」と表記する際には「B型のプレス金型」を意味するものとする。
機種識別溝11は、基準線Tを基準としてマイナスa度の位置に配置される。ここで、基準線Tとは、鉄心材3の回転軸中心と、孔部5の中心とを通る線である。また、識別溝10の位置として角度を用いているが、この角度は耳部4の孔部5の中心部を回転中心とした角度を表している。本実施形態ではa度は20度である。耳部4の外周を構成する半円と孔部5は同心円である。
【0024】
(4)次に、耳部4に第1識別溝12を付することによりA型とB型を区別して特定している。本実施形態では、第1識別溝12はプラスb度の位置に配置し、第1識別溝12が付されたものをA型、第1識別溝12が付されていないものをB型として、プレス金型を特定している。本実施形態では、b度は10度である。従って、機種識別溝11と第1識別溝12との間は少なくとも20度以上の角度を構成している。機種識別溝11と第1識別溝12との配置角度を所定角度以上この場合20度以上離間させて配置したことにより、鉄心材3の機種識別溝11と第1識別溝12の位置から、機種識別溝11と第1識別溝12とを峻別して特定することが可能となる。すなわち、隣接する複数の識別溝10(11〜16)の位置は相互に所定角度以上、この場合20度以上離間するように構成されている。また、これにより、鉄心材3を積層して構成した固定子鉄心1において、機種識別溝11と第1識別溝12とを区別し、機種識別溝11と第1識別溝12とを特定することが可能となる。
【0025】
以上の構成によって、鉄心材3及びこれによって構成される固定子鉄心1の機種、鉄心材3の打ち抜きに用いられたプレス金型の特定が可能となる。
例えば、A型で打ち出された鉄心材3で構成された固定子鉄心1と、B型で打ち出された鉄心材3で構成された固定子鉄心1とでは、例えば鉄損特性等の特性が異なる。従って、ある固定子鉄心1で不具合が生じた場合に、この固定子鉄心1が、どのプレス金型で打ち出された鉄心材3で構成されているかをトレースできれば、不具合の原因の特定に役立ち、問題解決にも貢献できる。また、不具合が生じた固定子鉄心1が、A型のプレス金型で打ち出された鉄心材3を用いて構成されていることが判明すれば、不具合原因の特定まで至らなくても、ひとまず不具合の発生していないB型のプレス金型を使用して鉄心材3の製造を継続するというような対応を採ることも可能である。
【0026】
以上に説明した第1実施形態に係る固定子鉄心1によれば以下の効果を奏する。
鉄心材3は円弧状の外周部に等間隔に3個の耳部4を備え、識別溝10(すなわち機種識別溝11、及び、第1識別溝12)は、3個の耳部4のうち何れか一つに特定された位置の耳部4に付されている。また、当該耳部4は、鉄心材3によって構成される固定子鉄心1の機種を特定可能な機種識別溝11を備えている。また、当該耳部4はA型又はB型のプレス金型を特定可能となるように第1識別溝12を備えている。この場合、実施形態におけるB型の耳部4は0個の第1識別溝12を備えていると考える。また、複数の識別溝10すなわち機種識別溝11と第1識別溝12との間は所定角度以上この場合20度以上の角度を有するように離間されて配置される。また、識別溝10は基準線Tに対して左右非対称となるように配置される。本実施形態では、機種識別溝11と第1識別溝12が付された状態で、識別溝10(すなわち11、12)が左右非対称となるように構成されている。
【0027】
この構成により、鉄心材3を積層して固定子鉄心1を構成する際に、耳部4に付された識別溝10の位置が一致するように鉄心材3を積層すれば、鉄心材3の表裏、電磁鋼板6における鉄心材3の相対位置を一致させた状態で固定子鉄心1を構成することができる。
【0028】
また、機種識別溝11により、鉄心材3が積層されて構成される固定子鉄心1の機種を特定することができる。また第1識別溝12により、当該鉄心材3が電磁鋼板6から打ち抜かれた際に使用されたプレス金型を特定することができる。
【0029】
これにより、鉄心材3及び鉄心材3により構成される固定子鉄心1が、どのプレス金型によって作製された鉄心材3であるかを特定することができる。これにより、鉄心材3及び固定子鉄心1のトレーサビリティを実現することが可能となる。
【0030】
また、識別溝10を左右非対称となるように配置したことによって、鉄心材3の表裏を特定することが可能となる。これにより、鉄心材3を積層して固定子鉄心1を作製する際に、鉄心材3の表裏の一致/不一致を判別することが可能となる。鉄心材3を積層した場合に、識別溝10すなわちこの場合は機種識別溝11と第1識別溝12の位置が一致する場合は鉄心材3の表裏が一致しており、識別溝10の位置が不一致の場合は鉄心材3の表裏が不一致となる。
【0031】
また、複数の識別溝10の位置この場合機種識別溝11と第1識別溝12の位置を所定角度以上この場合20度以上の角度をなすように離間して配置したことにより、機種識別溝11と第1識別溝12との区別を可能とすることができる。これにより、鉄心材3及び固定子鉄心1の機種、打ち抜きに使用したプレス金型の特定が可能となる。また、プレス金型により電磁鋼板6を打ち抜く際に、プレス金型の破損や、鉄心材3における識別溝10の隣接するパターンが繋がってしまうことを抑制することができる。
【0032】
以上により、鉄心材3及び固定子鉄心1のトレーサビリティを実現することが可能となる。
【0033】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、電磁鋼板6の順送方向Xに向かって2列の金型列W2,W3が配置され、2列の金型列W2,W3で構成される一つの図示しないプレス金型を用いて打ち抜きがされることにより鉄心材3が作製される。
図5は第2実施形態における鉄心材3の耳部4の概略構成を示す図である。
【0034】
図6は打ち抜き途中の電磁鋼板6の状態を示す平面図である。第2実施形態では、順送方向Xに向かって工程順に並べた4つの打ち抜きパターンP1,Q1,R1,S1に対応する金型列W2と、順送方向Xに向かって工程順に並べた4つの打ち抜きパターンP2,Q2,R2,S2に対応する金型列W3を備える図示しないプレス金型を用いる。なお、パターンP1、P2は回転子鉄心のパターンに対応し、パターンQ1、Q2は固定子鉄心1の鉄心材3のスロット2のパターンに対応している。パターンR1、R2は回転子鉄心の外周に対応しており、パターンS1、S2は鉄心材3の外周に対応している。以下の説明で、左右方向は、電磁鋼板6の順送方向Xを向いた場合の左右方向として説明する。
【0035】
そして、この金型列W2とW3を平行に且つ各パターンが互い違いの千鳥配置となるように配置して一体化したものを一つのプレス金型としている。順送方向Xに向かって左列の金型列W2はパターンP1、Q1、R1、S1を含み、右列の金型列W3はパターンP2、Q2、R2、S2を含む。
【0036】
第2実施形態では、
図5に示すように、上記のプレス金型を2個すなわちA型とB型のプレス金型を用いる。すなわち、2列パターンのプレス金型を2個使用する。また、左列と記載した場合は左側に配置された金型列を意味し、右列と記載した場合は同じく右側に配置された金型列を意味する。
【0037】
第2実施形態では、耳部4に付される識別溝10は以下のように構成されている。
まず、第2実施形態の識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3を用いて構成される固定子鉄心1の機種を特定する機種識別溝13を備える。機種識別溝13は基準線Tを基準としてマイナスc度の位置に配置される。第2実施形態ではc度は20度として構成されている。
【0038】
A型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。A型右列の鉄心材3の耳部4は第2の識別溝10(すなわち後述する第1左列識別溝14、第1型識別溝15等)を有していない。すなわち、第2の識別溝10を0個有している。この機種識別溝11と0個の識別溝10の組み合わせによる識別溝10が付された耳部4によれば、A型右列の金型列W3で打ち抜かれた鉄心材3であることを示している。
【0039】
次に、A型左列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第1左列識別溝14が付されており、第1識別溝14は基準線Tを基準としてプラスd度の位置に配置される。第2実施形態ではd度は10度として構成されている。この機種識別溝13と第1識別溝14の組み合わせによる識別溝10が付された耳部4によれば、A型左列の金型列W2で打ち抜かれた鉄心材3であることを示している。
【0040】
次に、B型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。第1型識別溝15は基準線Tを基準としてプラスe度の位置に配置される。第2実施形態ではe度は30度として構成されている。この機種識別溝13と第1型識別溝15との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4によれば、B型右列の金型列W3で打ち抜かれた鉄心材3であることを示している。
【0041】
次に、B型左列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。第2左列識別溝16は基準線Tを基準としてプラスf度の位置に配置される。第2実施形態ではf度は45度として構成されている。この機種識別溝13と第2左列識別溝16との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4によれば、B型左列の金型列W2で打ち抜かれたことを示している。
【0042】
以上に説明した第2実施形態に係る固定子鉄心1又は鉄心材3によれば、第1実施形態に係る固定子鉄心1と同様の効果を奏する。
なお、第2実施形態に係る固定子鉄心1又は鉄心材3によれば、複数の識別溝10の位置この場合機種識別溝13と識別溝14、15及び16とを所定角度以上この場合20度以上の角度をなすように離間して配置したことにより、機種識別溝13と識別溝14、15、及び16との区別を可能とすることができる。これにより、鉄心材3及び固定子鉄心1の機種、打ち抜きに使用したプレス金型及び金型列の特定が可能となる。
【0043】
以上により、鉄心材3及び固定子鉄心1が、どのプレス金型の、どの金型列において打ち抜きされたものかを特定することができるため、鉄心材3及び固定子鉄心1のトレーサビリティを実現することが可能となる。
【0044】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第2実施形態において2つのプレス金型を使用する例を例示したのに対し、A型からF型の6個のプレス金型を使用し、これら6個のプレス金型、及び、各プレス金型の金型列を特定可能な点が特徴である。つまり、第1実施形態と第2実施形態とでは、プレス金型自体の構成は同じであるが、その個数が異なる。そのため、耳部4の識別溝10の構成が異なる。A型からF型の6個のプレス金型を用いることにより、例えば6台のプレス機を同時に稼働させることができる。
【0045】
図7は第3実施形態における鉄心材3の耳部4の識別溝10の概略構成を示す図である。第3実施形態では、上記のプレス金型を6個すなわちA型からF型のプレス金型を用いる。すなわち、左右2列の金型列W1及びW2を備えるプレス金型を6個使用する。その他の構成は第2実施形態と同じである。例えば
図6は、第3実施形態に係るプレス金型で打ち抜かれた電磁鋼板6の様子を示している点で同じである。
【0046】
第3実施形態に係る鉄心材3の耳部4は、鉄心材3を積層してなる固定子鉄心1の機種を特定する機種識別溝17を備えている。これは、A型、B型に限らず、また、右列、左列に限らず、共通して有している。機種識別溝17は基準線Tを基準としてマイナスg度の位置に配置されている。第3実施形態ではg度は35度として構成されている。
【0047】
A型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。A型右列の鉄心材3の耳部4は第2の識別溝10(すなわち後述する第1型識別溝18、第2型識別溝19等)を有していない。すなわち、第2の識別溝10を0個有している。この機種識別溝11と0個の識別溝10の組み合わせにより、当該耳部4は、鉄心材3がA型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0048】
次に、B型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第1型識別溝18が付されており、第1型識別溝18は基準線Tを基準としてプラスw度の位置に配置される。第2実施形態ではw度は25度として構成されている。この機種識別溝17と第1型識別溝18の組み合わせによる識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3がB型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0049】
次に、C型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第2型識別溝19が付されており、第2型識別溝19は基準線Tを基準としてプラスi度の位置に配置される。第2実施形態ではi度は5度として構成されている。この機種識別溝17と第2型識別溝19との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3がC型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0050】
次に、D型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第3型識別溝20が付されており、第3型識別溝20は基準線Tを基準としてマイナスj度の位置に配置される。第3実施形態ではj度は15度として構成されている。この機種識別溝17と第3型識別溝20との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3がD型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0051】
次に、E型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第1型識別溝18と第3型識別溝20が付されている。この機種識別溝17と第1型識別溝18と第3型識別溝20との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3がE型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0052】
次に、F型右列の鉄心材3の耳部4は、以下のように構成される。耳部4には第2型識別溝19と第3型識別溝20が付されている。この機種識別溝17と第2型識別溝19と第3型識別溝20との組み合わせによる識別溝10が付された耳部4は、鉄心材3がF型右列の金型列W3で打ち抜かれたことを示している。
【0053】
次に左列の金型列について説明する。A型左列、B型左列、C型左列、D型左列、E型左列、F型左列の耳部4は、それぞれ、A型右列、B型右列、C型右列、D型右列、E型右列、F型右列の識別溝10に、左列識別溝21を追加した構成となっている。左列識別溝21は基準線Tを基準としてプラスk度の位置に配置されている。第3実施形態ではk度は45度として構成されている。これら耳部4により、A型左列、B型左列、C型左列、D型左列、E型左列、F型左列の鉄心材3は、それぞれ、A型左列、B型左列、C型左列、D型左列、E型左列、F型左列の金型W2で打ち抜かれたことを示している。
【0054】
また、第3実施形態に係る鉄心材3及び固定子鉄心1において、耳部4に付された識別溝10は、相互に所定角度以上この場合20度以上の角度をなすように離間して配置されている。これにより、機種識別溝17と他の識別溝10すなわち第1型識別溝18、第2型識別溝19、第3型識別溝20及び左列識別溝21とは十分に離間しており、これらの区別を可能とすることができる。これにより、鉄心材3及び固定子鉄心1の機種、打ち抜きに使用したプレス金型、右列又は左列の何れの金型列で打ち抜かれたかの特定が可能となる。
以上の構成により、第1実施形態から第2実施形態と同様の効果を得る。
【0055】
(第4実施形態)
次に第4実施形態について説明する。第2実施形態及び第3実施形態においては、左右2列の金型列を備えるプレス金型で鉄心材3を打ち抜く場合を例示した。これに対し、第4実施形態は、左中右の3列の金型列を備えるプレス金型で鉄心材3を打ち抜く場合を例示する。また、第4実施形態においては、A型からC型の3個のプレス金型を使用し、左中右の金型列、及びA型、B型及びC型の3列の金型を特定可能な点が特徴である。
【0056】
図8は第4実施形態における鉄心材3の耳部4の識別溝10の概略構成を示す図である。
図9は、3列の金型列を備えるプレス金型で打ち抜かれた電磁鋼板6の様子を示す図である。
図9においては、鉄心材3が打ち抜かれた後の状態を示しており、
図6に示された途中の打ち抜き状態は示されていない。つまり、
図6には、例えば第2実施形態におけるP1、Q1、R1等のパターンは描かれておらず、固定子鉄心1が打ち抜かれた後のS1相当のパターンだけが示されている。
【0057】
第4実施形態では、左中右の3列の金型列W4,W5,W6を備えたプレス金型を3個すなわちA型からC型のプレス金型を用いる。その他の構成は第1実施形態から第3実施形態と同じである。
【0058】
第4実施形態に係る鉄心材3の耳部4は、鉄心材3を積層してなる固定子鉄心1の機種を特定する機種識別溝22を備えている。これは、A型、B型、C型に限らず、また、右列、中列、左列に限らず、共通して有している。機種識別溝22は基準線Tを基準としてマイナスm度の位置に配置されている。第3実施形態ではm度は35度として構成されている。
【0059】
第4実施形態においては、A型、B型、及びC型の3個の金型を使用する。また、各金型は、電磁鋼板6の順送方向Xに向かって左側から、左列W4、中列W5、右列W6の3列の金型列が配置されている。
【0060】
第4実施形態においては、A型、B型及びC型は、第1型識別溝23、及び第2型識別溝24によって区別される。A型は、0個の第1型識別溝23、及び、0個の第2型識別溝24が配置されている。すなわち第1型識別溝23及び第2型識別溝24は付されていない。B型は、第1型識別溝23、及び0個の第2型識別溝24によって表示される。すなわち、第1型識別溝23が付されている。C型は、第1型識別溝23、及び第2型識別溝24が付されている。第1型識別溝23は基準線Tを基準としてプラスq度の位置に配置されている。第4実施形態においてq度は45度として構成されている。第2型識別溝24は基準線Tを基準としてマイナスr度の位置に配置されている。第4実施形態において、r度は15度として構成されている。このように、A型、B型及びC型の特定は、第1型識別溝23、及び第2型識別溝24の組み合わせによって実現されている。
【0061】
第4実施形態においては、右列、中列及び左列は、中列識別溝25、及び左列識別溝26によって区別され特定される。右列は、0個の中列識別溝25、及び、0個の左列識別溝26が配置されている。すなわち中列識別溝25及び左列識別溝26は付されていない。中列は、中列識別溝25、及び0個の左列識別溝26が付されている。すなわち、中列識別溝25が付されている。左列は、中列識別溝25、及び左列識別溝26が付されている。
【0062】
中列識別溝25は基準線Tを基準としてプラスn度の位置に配置されている。第4実施形態においてn度は25度として構成されている。左列識別溝26は基準線Tを基準としてプラスp度の位置に配置されている。第4実施形態において、p度は5度として構成されている。
【0063】
この構成により、鉄心材3及びこれを積層してなる固定子鉄心1が、A型、B型及びC型の何れかの金型の、右列W6、中列W5及び左列W4の何れかの金型列によって打ち抜かれたものかを特定することが可能となる。また、機種識別溝22、第1型識別溝23、第2型識別溝24、中列識別溝25及び左列識別溝26は、相互に所定角度以上この場合20度以上の角度をなすように離間して配置されている。これにより、それぞれの識別溝10すなわち機種識別溝22、第1型識別溝23、第2型識別溝24、中列識別溝25及び左列識別溝26は相互に十分に離間しており、これらの識別溝10の区別を可能とすることができる。これにより、鉄心材3及び固定子鉄心1の機種、打ち抜きに使用したプレス金型、何れの金型列で打ち抜かれたかの特定が可能となる。
【0064】
第4実施形態に係る鉄心材3及び固定子鉄心1によれば、第1実施形態から第3実施形態に係る効果と同様の効果を奏する。
【0065】
上記実施形態において、20度以上の角をなすように離間して複数の識別溝10を配置したが、これは例示であって、識別溝10の位置の特定すること、すなわち隣接する識別溝10を区別することが可能であれば20度以下の所定角度をなすように離間して配置してもよいし、配置さえ可能であれば、20度以上の角度をなすように配置してもよい。
また、鉄心材3に3個の耳部4が設けられた例を例示して説明したが、これに限定されない。4個や5個の耳部4を備える鉄心材3として構成してもよい。
【0066】
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。