(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フローティング型ディスクブレーキを構成するサポートの周方向外側部のうちでロータの軸方向側方に配置されるパッドガイド部の周方向内側面と、パッドの周方向外側部との間にそれぞれ設けられる、金属板製のパッドクリップであって、
前記パッドガイド部の周方向内側面に設けられた張出部を径方向両側から弾性的に挟持する断面略コ字状の挟持部と、
前記挟持部よりも径方向内側にて、前記パッドの周方向外側部に設けられた耳部を径方向外方に向けて押圧する径方向押圧部と、
前記挟持部の径方向外側部から径方向外側に向けて伸長するとともに中間部が周方向内側かつ径方向内側に折り返され、先端部が前記挟持部の径方向近傍にて前記パッドを周方向内方に向けて押圧する周方向押圧部と、
前記挟持部の径方向外側部から前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に突出するように設けられ、前記ロータから離れるように前記パッドを軸方向に押圧する線材製の戻しばねを保持するばね保持部と、を備え、
前記周方向押圧部の基部に、前記戻しばねの端部を係止するための係止部が設けられている、
パッドクリップ。
フローティング型ディスクブレーキを構成するサポートの周方向外側部のうちでロータの軸方向側方に配置されるパッドガイド部の周方向内側面と、パッドの周方向外側部との間にそれぞれ設けられる、金属板製のパッドクリップであって、
前記パッドガイド部の周方向内側面に設けられた張出部を径方向両側から弾性的に挟持する断面略コ字状の挟持部と、
前記挟持部よりも径方向内側にて、前記パッドの周方向外側部に設けられた耳部を径方向外方に向けて押圧する径方向押圧部と、
前記挟持部の径方向外側部から径方向外側に向けて伸長するとともに中間部が周方向内側かつ径方向内側に折り返され、先端部が前記挟持部の径方向近傍にて前記パッドを周方向内方に向けて押圧する周方向押圧部と、
前記挟持部の径方向外側部から前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に突出するように設けられ、前記ロータから離れるように前記パッドを軸方向に押圧する線材製の戻しばねを保持するばね保持部と、を備え、
前記周方向押圧部は、該周方向押圧部の基端部乃至中間部に設けられた、それぞれが逆U字形で軸方向に互いに離隔した1対の押圧腕部と、前記周方向押圧部の先端部に設けられた、前記1対の押圧腕部同士を軸方向につなぐパッド当接部と、を有している、
パッドクリップ。
前記挟持部よりも径方向外側でかつ前記周方向押圧部の基部の軸方向側方に、前記パッドの組み付け以前の状態における前記戻しばねの弾力を支承して、前記戻しばねを前記パッドクリップに対して拘束するための拘束部が設けられている、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載したパッドクリップ。
前記挟持部の径方向内側部から径方向内側に伸長するようにして、前記耳部の先端面と前記パッドガイド部の周方向内側面との間に配置される平板状の案内板部が設けられており、前記案内板部は、前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に位置している、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載したパッドクリップ。
前記戻しばねには、径方向に関して前記挟持部と前記径方向押圧部との間に配置され、軸方向に関して前記ロータ側に伸長しかつ先端部が周方向内側に向けて折れ曲がったばね腕部が設けられている、請求項8又は請求項9に記載したパッドクリップと戻しばねとの組立体。
前記周方向押圧部の基部に、三角形状の貫通孔である係止部が設けられており、前記戻しばねの端部が、前記戻しばねの弾性復元力に基づいて、前記係止部の開口縁部に押し付けられている、請求項8〜10のうちのいずれか1項に記載したパッドクリップと戻しばねとの組立体。
【背景技術】
【0002】
図19〜
図21は、実開平5−36141号公報に記載された、従来構造のフローティング型ディスクブレーキを示している。フローティング型ディスクブレーキ1は、サポート2と、キャリパ3と、インナパッド4と、アウタパッド5と、1対のパッドクリップ6と、1対の戻しばね7とを備えている。フローティング型ディスクブレーキ1は、サポート2に支持されたキャリパ3を軸方向に変位させ、車輪(図示せず)とともに回転するロータ8を、インナ、アウタ両パッド4、5により軸方向両側から挟持することで制動を行う。
【0003】
本明細書及び特許請求の範囲全体で、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、特に断らない限り、ロータの軸方向、径方向及び周方向をいう。また、フローティング型ディスクブレーキを構成する各部材に関して、軸方向内側とは、車両の幅方向中央側をいい、軸方向外側とは、車両の幅方向外側をいう。また、周方向内側とは、組立状態でのフローティング型ディスクブレーキの周方向中央側をいい、周方向外側とは、組立状態でのフローティング型ディスクブレーキの周方向両側をいう。
【0004】
サポート2は、車体を構成するナックルなどの懸架装置に固定される。サポート2の周方向両外側部には、ロータ8を跨ぐように1対の回入側、回出側両支持部9a、9bが設けられている。回入側、回出側両支持部9a、9bは、径方向外側部に軸方向に伸長するように設けられたロータパス部10a、10bと、ロータパス部10a、10bの軸方向両端部から径方向内側に向けてそれぞれ伸長するように設けられた1対ずつのパッドガイド部11a、11bを有している。
【0005】
インナパッド4は、回入側支持部9aの軸方向内側のパッドガイド部11aと回出側支持部9bの軸方向内側のパッドガイド部11bとの間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、インナパッド4の周方向両外側部に設けた1対の耳部12を、回入側、回出側両支持部9a、9bのそれぞれの軸方向内側のパッドガイド部11a、11bに設けた凹部13a、13bに凹凸係合させている。また、アウタパッド5は、回入側支持部9aの軸方向外側のパッドガイド部11aと回出側支持部9bの軸方向外側のパッドガイド部11bとの間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、アウタパッド5の周方向両外側部に設けた1対の耳部14を、回入側、回出側両支持部9a、9bのそれぞれの軸方向外側のパッドガイド部11a、11bに設けた凹部15a、15bに凹凸係合させている。
【0006】
1対のパッドクリップ6は、回入側、回出側両支持部9a、9bの周方向内側面と、インナ、アウタ両パッド4、5の周方向外側部との間にそれぞれ設けられている。パッドクリップ6は、金属板製で、全体が略コ字状(門形状)に構成されており、ロータパス部10a、10bに沿って軸方向に伸長した連結部16と、連結部16の軸方向両端部から径方向内側に向けてそれぞれ伸長した1対の脚部17とを備えている。1対の脚部17はそれぞれ、パッドガイド部11a、11bの周方向内側面とインナ、アウタ両パッド4、5の周方向外側部との間に配置されている。これにより、インナ、アウタ両パッド4、5とパッドガイド部11a、11bとが直接擦れ合うことを防止して、インナ、アウタ両パッド4、5の円滑な摺動を確保している。また、特開2016−156481号公報などに記載されているように、パッドのがたつきを防止するために、パッドクリップの一部に、パッドに付勢力を付与するための押圧部を設けることも行われている。
【0007】
1対の戻しばね7は、インナ、アウタ両パッド4、5の周方向両外側部に、ロータ8から離れる方向の弾力をそれぞれ付与している。戻しばね7は、金属線材製で、全体が略M字状に構成されており、中央部にコイル部18を有している。そして、コイル部18を、パッドクリップ6を構成する連結部16に設けた掛止片19に係止することで、戻しばね7をパッドクリップ6に対して保持している。また、この状態で、戻しばね7の両端部をインナ、アウタ両パッド4、5の径方向外側部に係止している。これにより、インナ、アウタ両パッド4、5にロータ8から離れる方向の弾力を付与し、制動解除時に、インナ、アウタ両パッド4、5の摩擦面を、ロータ8から離隔させるようにしている。
【0008】
キャリパ3は、上述のようにサポート2に支持されたインナ、アウタ両パッド4、5を跨ぐように配置されている。キャリパ3は、軸方向内側部に、内部にピストンを嵌装したシリンダ部20を有しており、軸方向外側部に爪部21を有している。このようなキャリパ3は、周方向両外側部に固定した1対の案内ピン22を、回入側、回出側両支持部9a、9bに形成した図示しない案内孔に摺動可能に挿入することで、サポート2に対し軸方向に関する移動を可能に支持されている。
【0009】
制動を行うには、シリンダ部20内を加圧して、ピストンによりインナパッド4を、ロータ8の軸方向内側面に、
図19の上方から下方に向けて押し付ける。すると、この押し付け力の反作用としてキャリパ3が、案内ピン22と案内孔との摺動に基づいて、
図19の上方に変位し、爪部21がアウタパッド5をロータ8の軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータ8が、インナ、アウタ両パッド4、5により軸方向両側から強く挟持されて、制動が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来構造のフローティング型ディスクブレーキ1では、回入側と回出側とに、それぞれパッドクリップ6を1つずつ配置している。このため、パッドクリップ6は、前述したように、ロータ8の軸方向両側に配置される1対の脚部17と、これら両脚部17を軸方向につないだ連結部16とから構成されている。
【0012】
ここで、1対の脚部17同士の間に配置されるロータ8の厚さ寸法は、車種によって異なるだけでなく、ブレーキサイズによっても異なる。このため、従来構造では、ロータ8の厚さ寸法に応じて、連結部16の長さ寸法が異なるパッドクリップ6を新たに設計製造する必要がある。したがって、パッドクリップ6、延いてはフローティング型ディスクブレーキ1の製造コストが嵩む原因になる。
【0013】
このような事情に鑑みて、軸方向内側と軸方向外側とで互いに別体のパッドクリップを使用することが考えられている。このような構成によれば、軸方向内側のパッドクリップと軸方向外側のパッドクリップが軸方向につながっていないため、ロータの厚さ寸法に応じて、パッドクリップを新たに設計製造する必要がなくなる。このため、パッドクリップの共通化を図れ、製造コストを抑えることが可能になる。
【0014】
ところが、軸方向内側と軸方向外側とで互いに別体のパッドクリップを使用した場合、前述した従来構造のパッドクリップ6のような、戻しばね7を係止するための掛止片19を設けることができなくなる。このため、パッドクリップには、自身の機能を損なわずに、戻しばねを保持できる構造が求められる。
【0015】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータの軸方向内側と軸方向外側とで互いに別体のパッドクリップを使用することを前提として、パッドクリップの機能を損なうことなく、戻しばねを保持できる構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のパッドクリップは、金属板製で、フローティング型ディスクブレーキを構成するサポートの回入側(反アンカ側)の周方向外側部のうちで、ロータの軸方向側方に配置されるパッドガイド部の周方向内側面と、パッドの周方向外側部との間にそれぞれ設けられる。
また、本発明のパッドクリップは、挟持部と、径方向押圧部と、周方向押圧部と、ばね保持部とを備えている。
前記挟持部は、断面略コ字状で、前記パッドガイド部の周方向内側面に設けられた張出部を径方向両側から弾性的に挟持する。
前記径方向押圧部は、前記挟持部よりも径方向内側にて、前記パッドの周方向外側部に設けられた耳部を径方向外方に向けて押圧する。
前記周方向押圧部は、前記挟持部の径方向外側部から径方向外側に向けて伸長するとともに、中間部が周方向内側かつ径方向内側に折り返され、先端部が前記挟持部の径方向近傍にて前記パッドを周方向内方に向けて押圧する。
前記ばね保持部は、前記挟持部の径方向外側部から前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に突出するように設けられ、前記ロータから離れるように前記パッドを軸方向に押圧する線材製の戻しばねを保持する。
【0017】
本発明の
第1態様にかかるパッドクリップでは
、前記周方向押圧部の基部に、前記戻しばねの端部を係止するための係止部を設けることができる。
この場合には、前記係止部を、貫通孔又は切り欠きとすることができる。
さらには、前記係止部を、三角形状の貫通孔とすることもできる。
【0018】
本発明のパッドクリップでは、例えば、前記挟持部よりも径方向外側でかつ前記周方向押圧部の基部の軸方向側方に、前記パッドの組み付け以前の状態における前記戻しばねの弾力を支承して、前記戻しばねを前記パッドクリップに対して拘束するための拘束部を設けることができる。これにより、前記戻しばねを前記パッドクリップに対してプリセットすることができる。
【0019】
本発明の
第2態様にかかるパッドクリップでは
、前記周方向押圧部を、該周方向押圧部の基端部乃至中間部に設けられた、それぞれが逆U字形で軸方向に互いに離隔した1対の押圧腕部と、前記周方向押圧部の先端部に設けられた、前記1対の押圧腕部同士を軸方向につなぐパッド当接部と、を備えたものとすることができる。
この場合には、前記1対の押圧腕部の軸方向に関する幅寸法を、互いに同じとすることができる。
【0020】
本発明のパッドクリップでは、前記挟持部の径方向内側部から径方向内側に伸長するようにして、前記耳部の先端面と前記パッドガイド部の周方向内側面との間に配置される平板状の案内板部を設けることができ、前記案内板部を、前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に位置させることができる。
【0021】
本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体は、本発明のパッドクリップと、線材製の戻しばねとを備え、前記戻しばねは、その一部が前記ばね保持部により保持され、かつ、前記周方向押圧部の基部よりも周方向外側に配置された状態で、前記パッドクリップに保持されている。
なお、本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体は、前記戻しばねが前記パッドクリップに保持されていれば足り、この戻しばねは、パッドクリップをサポートに対して取り付ける以前の状態で保持(プリセット)されていても良いし、パッドクリップをサポートに対して取り付けた以後に保持しても良い。
【0022】
本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体では、例えば、前記戻しばねに、コイル部を設けることができ、前記コイル部をその中心軸を周方向に向けた状態で前記ばね保持部に保持することができる。
【0023】
本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体では、例えば、前記戻しばねに、径方向に関して前記挟持部と前記径方向押圧部との間に配置され、軸方向に関して前記ロータ側に伸長しかつ先端部が周方向内側に向けて折れ曲がったばね腕部を設けることができる。
【0024】
本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体では、例えば、前記周方向押圧部の基部に、三角形状の貫通孔である係止部を設けることができ、前記戻しばねの端部を、前記戻しばねの弾性復元力に基づいて、前記係止部の開口縁部の一部(好ましくは隅角部)に押し付けることができる。
【0025】
本発明のフローティング型ディスクブレーキでは、サポートと、1対のパッドと、キャリパと、パッドクリップと、戻しばねとを備えている。
前記サポートは、車輪とともに回転するロータに隣接して車体に固定される。
前記1対のパッドは、前記ロータの軸方向両側に配置された状態で、前記サポートに対し軸方向の移動を可能に支持される。
前記キャリパは、前記サポートに対し軸方向の移動を可能に支持される。
前記パッドクリップは、前記サポートの周方向外側部のうちで前記ロータの軸方向側方に配置されたパッドガイド部の周方向内側面と、前記各パッドの周方向外側部との間にそれぞれ設けられる。
前記戻しばねは、前記各パッドクリップにそれぞれ保持され、前記各パッドを前記ロータから離れるように軸方向に押圧する。
そして本発明のフローティング型ディスクブレーキでは、少なくとも1組の前記パッドクリップと前記戻しばねを、本発明のパッドクリップと戻しばねとの組立体としている。
【発明の効果】
【0026】
上述のような構成を有する本発明によれば、ロータの軸方向内側と軸方向外側とで互いに別体のパッドクリップを使用する場合にも、パッドクリップの機能を損なうことなく、戻しばねを保持できる構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施の形態の1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを、キャリパを省略した状態で軸方向内側から見た図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを、軸方向内側かつ回出側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを、軸方向内側かつ回入側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の1例にかかるフローティング型ディスクブレーキを、径方向外側から見た図である。
【
図5】
図5は、
図2からインナ、アウタ両パッドを省略して示す図である。
【
図6】
図6は、
図3からインナ、アウタ両パッドを省略して示す図である。
【
図7】
図7は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体のサポートに対する組み付け状態を軸方向外側から見た図である。
【
図8】
図8は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップを取り出して示す正面図である。
【
図9】
図9は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップを取り出して示す背面である。
【
図10】
図10は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップを取り出して示す、
図8の右側から見た側面図である。
【
図11】
図11は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップを取り出して示す斜視図であり、(A)は周方向内側から見た図であり、(B)は周方向外側から見た図である。
【
図12】
図12は、回出側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップを取り出して示す斜視図であり、(A)は周方向内側から見た図であり、(B)は周方向外側から見た図である。
【
図13】
図13は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す正面図である。
【
図14】
図14は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す背面図である。
【
図15】
図15は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す、
図13の右側から見た側面図である。
【
図16】
図16は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す平面図である。
【
図17】
図17は、回入側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す斜視図であり、(A)は周方向内側から見た図であり、(B)は周方向外側から見た図である。
【
図18】
図18は、回出側かつ軸方向内側に配置されるパッドクリップと戻しばねとの組立体を示す斜視図であり、(A)は周方向内側から見た図であり、(B)は周方向外側から見た図である。
【
図19】
図19は、従来構造のフローティング型ディスクブレーキを径方向外側から見た図である。
【
図20】
図20は、従来構造のフローティング型ディスクブレーキを軸方向外側から見た図である。
【
図21】
図21は、従来構造のフローティング型ディスクブレーキの部分切断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の1例]
実施の形態の1例について、
図1〜
図18を参照して説明する。
本例のフローティング型ディスクブレーキ1aは、サポート2aと、図示しないキャリパと、インナパッド4aと、アウタパッド5aと、合計4個のパッドクリップ23a〜23dと、合計4個の戻しばね24a〜24dを備えている。制動時には、サポート2aに支持された前記キャリパを軸方向に変位させることで、車輪(図示せず)とともに回転するロータ8を、インナ、アウタ両パッド4a、5aにより軸方向両側から挟持する。
【0029】
サポート2aは、ロータ8の軸方向内側に隣接した状態で、車体を構成するナックルなどの懸架装置に固定される。サポート2aの周方向両外側部には、ロータ8を跨ぐように1対の回入側、回出側両支持部9c、9dが設けられている。回入側、回出側両支持部9c、9dは、径方向外側部に軸方向に伸長するように設けられたロータパス部10c、10dと、ロータパス部10c、10dの軸方向両端部から径方向内側に向けてそれぞれ伸長するように設けられた1対ずつのパッドガイド部11c、11dを有している。
【0030】
回入側支持部9cに設けられた1対のパッドガイド部11cの周方向内側面には、径方向内側部に、周方向外側に向けて凹んだ断面略コ字状の凹部13c、15cが設けられており、これら凹部13c、15cの径方向外側に隣接する部分に、周方向内側に向けて張り出した断面略矩形状の張出部25が設けられている。また、回出側支持部9dに設けられた1対のパッドガイド部11dの周方向内側面には、径方向内側部に、周方向外側に向けて凹んだ断面略コ字状の凹部13d、15dが設けられており、これら凹部13d、15dの径方向外側に隣接する部分に、周方向内側に向けて張り出した断面矩形状の張出部25が設けられている。
【0031】
インナパッド4aは、ライニング26と、ライニング26の裏面(軸方向内側面)を支持したプレッシャプレート27とを備えており、回入側支持部9cの軸方向内側のパッドガイド部11cと回出側支持部9dの軸方向内側のパッドガイド部11dとの間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、プレッシャプレート27の周方向両外側部に設けた略矩形板状の1対の耳部12aを、回入側、回出側両支持部9c、9dのそれぞれの軸方向内側のパッドガイド部11c、11dに設けられた凹部13c、13dに凹凸係合させている。
【0032】
アウタパッド5aは、ライニング28と、ライニング28の裏面(軸方向外側面)を支持したプレッシャプレート29とを備えており、回入側支持部9cの軸方向外側のパッドガイド部11cと回出側支持部9dの軸方向外側のパッドガイド部11dとの間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、プレッシャプレート29の周方向両外側部に設けた略矩形板状の1対の耳部14aを、回入側、回出側両支持部9c、9dのそれぞれの軸方向外側のパッドガイド部11c、11dに設けられた凹部15c、15dに凹凸係合させている。
【0033】
本例では、回入側支持部9cを構成する軸方向内側のパッドガイド部11cの周方向内側面と、インナパッド4aの周方向外側面との間に、パッドクリップ23aを介在させるとともに、回入側支持部9cを構成する軸方向外側のパッドガイド部11cの周方向内側面と、アウタパッド5aの周方向外側面との間に、パッドクリップ23aとは別体のパッドクリップ23bを介在させている。また、回出側支持部9dを構成する軸方向内側のパッドガイド部11dの周方向内側面と、インナパッド4aの周方向外側面との間に、パッドクリップ23cを介在させるとともに、回出側支持部9dを構成する軸方向外側のパッドガイド部11dの周方向内側面と、アウタパッド5aの周方向外側面との間に、パッドクリップ23cとは別体のパッドクリップ23dを介在させている。なお、回入側(反アンカ側)に配置された1対のパッドクリップ23a、23bが、本発明のパッドクリップに相当する。
【0034】
本例では、4個のパッドクリップ23a〜23dを使用しているが、回入側に配置された1対のパッドクリップ23a、23b同士、及び、回出側(アンカ側)に配置された1対のパッドクリップ23c、23d同士は、それぞれ軸方向に関して互いに対称形状になっている。このため、パッドクリップ23a〜23dに関する詳しい説明は、軸方向内側に配置されたパッドクリップ23a、23cを対象に行い、軸方向外側に配置されたパッドクリップ23b、23dに関する詳しい説明は省略する。
【0035】
図8〜
図11に示すように、回入側に配置されるパッドクリップ23aは、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する金属板にプレス加工を施すことで造られており、挟持部30と、案内板部31と、径方向押圧部32と、周方向押圧部33と、ばね保持部34と、拘束部35を備えている。
【0036】
挟持部30は、断面略コ字状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向外寄り部に設けられている。このような挟持部30は、パッドガイド部11cの周方向内側面に設けられた張出部25を、挟持部30の径方向外側部に設けられた外側板部36と挟持部30の径方向内側部に設けられた内側板部37とで、径方向両側から弾性的に挟持して、パッドクリップ23aの径方向に関する位置決めを図る。外側板部36及び内側板部37の周方向内端部は、径方向に伸長しかつ張出部25の周方向内側に配置される連結板部38によって径方向につながっている。連結板部38の軸方向両端部には、周方向外側に向けて折れ曲がった1対の第一爪片39a及び第二爪片39bが設けられている。これら第一爪片39a及び第二爪片39bは、張出部25を軸方向両側から弾性的に挟持して、パッドクリップ23aの軸方向に関する位置決めを図る。
【0037】
案内板部31は、平板状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向内寄り部に設けられている。案内板部31は、挟持部30を構成する内側板部37の周方向外端部からほぼ直角に折れ曲がるように径方向内側に向けて伸長している。このような案内板部31は、挟持部30を構成する連結板部38と略平行に配置されており、パッドガイド部11cの凹部13cの底面(周方向内側面)に沿って配置される。そして、パッドガイド部11cの凹部13cの底面とインナパッド4aの耳部12aの先端面(周方向外側面)との間に配置(挟持)される。
【0038】
径方向押圧部32は、横V字状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向内端部に設けられている。径方向押圧部32は、案内板部31の径方向内端部から周方向内側にほぼ直角に折れ曲がった平板状の押圧基板部40と、押圧基板部40の軸方向内端部から径方向外側かつ軸方向外側(ロータ8側)に向けて180度折り返された筒状の返し部41と、自由状態で、返し部41から軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長した平板状の押圧本体部42とを備えている。
【0039】
押圧基板部40と挟持部30を構成する内側板部37とは、互いに略平行に配置されている。このため、押圧基板部40及び内側板部37と、これら
押圧基板部40及び内側板部37の周方向外端部を径方向につないだ案内板部31とは、略コ字形に構成されており、パッドガイド部11cの周方向内側面に形成された凹部13cの内側にがたつきなく配置される。押圧本体部42は、インナパッド4aを構成する耳部12aを凹部13cの内側に凹凸係合させる際に、耳部12aの径方向内側に配置される。そして、返し部41の撓み変形に基づいて、耳部12aを径方向外方に向けて押圧する。このような押圧本体部42の周方向外側部には、切り欠き43が全長にわたり形成されている。これにより、押圧本体部42と案内板部31とが接触することを防止している。
【0040】
周方向押圧部33は、逆U字状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向外寄り部に設けられている。周方向押圧部33は、それぞれが逆U字形で軸方向に互いに離隔した1対の押圧腕部44と、1対の押圧腕部44の先端部同士を軸方向につないだパッド当接部45とを備えている。押圧腕部44は、周方向押圧部33の基端部乃至中間部に設けられており、挟持部30を構成する外側板部36の周方向外端部から径方向外側に向けて伸長するとともに、その中間部が周方向内側かつ径方向内側に折り返されている。また、1対の押圧腕部44の軸方向に関する幅寸法は、互いに同じである。パッド当接部45は、周方向押圧部33の先端部に設けられており、挟持部30の径方向近傍、すなわち連結板部38の周方向内側に配置されている。このような周方向押圧部33は、1対の押圧腕部44が撓み変形することで、インナパッド4aの径方向外側部(耳部12aよりも径方向外側部分)の周方向外側面を、パッド当接部45により周方向内方(回出側)に向けて弾性的に押圧する。また、1対の押圧腕部44の基部は、案内板部31よりも周方向内側に配置されている。これにより、後述するように、戻しばね24aを構成するコイル部55の設置スペースを確保するとともに、コイル部55から延出したばね腕部57の一部を、案内板部31よりも周方向内側に導き易くしている。
【0041】
なお、1対の押圧腕部44の撓み変形量が増大した際に、パッド当接部45を連結板部38に当接させることにより、周方向押圧部33のばね定数に2段特性を持たせることもできる。具体的には、ばね定数を、パッド当接部45が連結板部38に当接するまでの間の低い値から、パッド当接部45が連結板部38に当接した後の高い値に変化させることができる。
【0042】
周方向押圧部33を構成する1対の押圧腕部44のうち、軸方向外側(ロータ8側)に配置された一方の押圧腕部44の基部には、戻しばね24aの端部を係止するための係止部46が設けられている。本例では、戻しばね24aの端部の位置を安定させやすくするために、係止部46を三角形状の貫通孔としている。
【0043】
ばね保持部34は、舌片状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向外寄り部に設けられている。ばね保持部34は、挟持部30を構成する外側板部36から周方向外側に伸長するように設けられており、1対の押圧腕部44同士の間部分に配置されている。このため、ばね保持部34は、戻しばね24aを保持する機能を有する他、挟持部30を構成する外側板部36と同様に、張出部25の径方向外側面に当接して、パッドクリップ23aの径方向に関する位置決めを図る機能を有する。このようなばね保持部34は、外側板部36から周方向外側に伸長した載置板部47と、載置板部47の周方向外側部から径方向外側に折れ曲がった係止片48とを備えており、係止片48及び載置板部47の周方向外側部は、1対の押圧腕部44の基部よりも周方向外側に突出している。
【0044】
拘束部35は、逆J字状に構成されており、パッドクリップ23aの径方向外端部に設けられている。拘束部35は、周方向押圧部33を構成する軸方向内側(反ロータ8側)の押圧腕部44の基部に連続する状態で設けられており、径方向外側に向けて伸長した拘束基板部49と、拘束基板部49の径方向外端部に設けられ、周方向外側かつ径方向内側に折り返されたフック部50とを備えている。このような拘束部35は、インナパッド4aを組み付ける以前の状態で、戻しばね24aをパッドクリップ23aに装着可能(パッドクリップ23aと戻しばね24aとの組立体を構成可能)とするために設けたもので、戻しばね24aの弾力(戻し力)を支承して、戻しばね24aを拘束する。
【0045】
パッドクリップ23aには、径方向押圧部32を構成する押圧基板部40の軸方向中間部に、第三爪片51が設けられている。第三爪片51は、案内板部31から押圧基板部40にわたる範囲にコ字形の切れ目を形成し、該切れ目の内側を径方向内側に曲げ起こすことにより形成されている。
図7に示すように、このような第三爪片51は、その先端縁を、凹部13cの径方向内側面に形成された係止段部52に係合させることで、パッドクリップ23aの姿勢を保持する。具体的には、パッドクリップ23aの径方向外側部には、周方向押圧部33を介して、矢印Aで示すような周方向外側に向いた力が作用するため、パッドクリップ23aの径方向内側部は、矢印Bで示すように周方向内側に移動する傾向になる。これに対し、本例では、第三爪片51を係止段部52に係合させることで、パッドクリップ23aの径方向内側部が周方向内側にずれることを防止し、パッドクリップ23aの姿勢を保持する。なお、上述したような係止段部52は、凹部13cの径方向内側面の奥部に、凹み部53を加工することで設けることができるが、このような凹み部53は、例えば、リュータなどの回転切削工具を用いて一度に加工することもできるし、歯先形状が異なる複数のブローチカッタを用いて複数回に分けて加工することもできる。
【0046】
一方、回出側に配置されるパッドクリップ23cは、
図12に示すように、回入側に配置されるパッドクリップ23aと基本的な構成は同じであるが、一部の形状が異なっている。すなわち、回出側に配置されるパッドクリップ23cは、回入側に配置されるパッドクリップ23aと同様に、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する金属板にプレス加工を施すことで造られており、挟持部30と、案内板部31と、径方向押圧部32と、ばね保持部34と、拘束部35を備えている。ただし、回出側に配置されるパッドクリップ23cは、周方向押圧部33(
図11等参照)を備えておらず、代わりに、1対の押圧腕部44(
図11等参照)の基部とほぼ同様の形状を有する、1対の立板部54を有している。
【0047】
1対の立板部54のうち、軸方向外側(ロータ8側)に配置された一方の立板部54には、戻しばね24cの端部を係止するための係止部46が設けられている。立板部54に設ける係止部46に関しても、戻しばね24cの端部の位置を安定させやすくするために、三角形状の貫通孔としている。また、軸方向内側(反ロータ8側)に配置された他方の立板部54には、該立板部54に連続する状態で、逆J字状の拘束部35を設けている。
【0048】
本例では、制動解除に伴って、インナ、アウタ両パッド4a、5aを構成するライニング26、28の摩擦面をロータ8の軸方向両側面から離隔させるために、上述したような4個のパッドクリップ23a〜23dにそれぞれ、戻しばね24a〜24dを1個ずつ装着している。
【0049】
4個の戻しばね24a〜24dのうち、回入側(反アンカ側)に配置された1対の戻しばね24a、24b同士、及び、回出側(アンカ側)に配置された1対の戻しばね24c、24dは、軸方向に関して互いに対称形状になっている。さらに、軸方向内側に配置された1対の戻しばね24a、24c同士、及び、軸方向外側に配置された1対の戻しばね24b、24d同士は、周方向に関して互いに対称形状になっている。したがって、4個の戻しばね24a〜24dは、2種類の戻しばねから構成されており、これら2種類の戻しばねは、互いに対称形状である。このため、戻しばね24a〜24dに関する詳しい説明は、
図13〜
図17を参照して、回入側かつ軸方向内側に配置された戻しばね24aを対象に行い、その他の戻しばね24b〜24dに関する詳しい説明は省略する。なお、
図13及び
図14には、戻しばね24aをパッドクリップ23aに装着した状態での形状を実線で示し、インナパッド4a(キャリパ)を組み付けた状態での形状を1点鎖線で示しているが、その他の図面に関しては、インナパッド4aを組み付けた状態での形状を実線で示している。
【0050】
戻しばね24aは、例えばステンレス、ピアノ線などのばね鋼製の線材を曲げ形成して構成された捩りコイルばねであり、コイル部55と、コイル部55を挟んで軸方向両側に配置された係止腕部56及びばね腕部57を備えている。
【0051】
コイル部55は、その中心軸を周方向に向けた状態で、1対の押圧腕部44の基部を案内板部31よりも周方向内側に配置することで形成された設置スペースに配置され、パッドクリップ23aのばね保持部34に保持される。具体的には、コイル部55は、1対の押圧腕部44の基部の背面(周方向外側面)に立てかけられるようにして載置板部47の上面に設置された状態で、1対の押圧腕部44の基部と係止片48とによって周方向両側から支持(挟持)される。
【0052】
コイル部55の軸方向外側(ロータ8側)に配置された係止腕部56は、ばね腕部57よりも全長が短くなっており、その先端部が周方向内側に向けて折れ曲がっている。係止腕部56の先端部は、周方向押圧部33を構成する一方の押圧腕部44の基部(立板部54)に形成された係止部46の内側に、周方向外側から挿入され係止されている。具体的には、係止腕部56の先端部は、戻しばね24aの弾性復元力に基づいて、係止部46の径方向外側の開口縁部に押し付けられている。
【0053】
コイル部55の軸方向内側(反ロータ8側)に配置されたばね腕部57は、コイル部55につながった基端側から先端側に向かって順番に、被拘束部58と、径方向腕部59と、軸方向腕部60と、当接部61を有している。
【0054】
被拘束部58は、戻しばね24aの弾性復元力によって、パッドクリップ23aに設けられたフック部50に拘束される部分であり、軸方向内側に向かうほど径方向内側に向かう方向に斜めに伸長している。また、被拘束部58は、拘束基板部49の周方向外側に配置される。
【0055】
径方向腕部59は、直線状で、被拘束部58の先端部から径方向内側に伸長するように設けられている。
【0056】
軸方向腕部60は、径方向腕部59の径方向内端部から、軸方向外側(ロータ8側)にほぼ直角に折れ曲がるように伸長しており、挟持部30を構成する内側板部37と径方向押圧部32を構成する押圧本体部42との径方向間部分に配置されている。本例では、1対の押圧腕部44の基部を案内板部31よりも周方向内側にオフセットさせることで、ばね腕部57の一部を周方向に大きく折り曲げることなく、軸方向腕部60を案内板部31よりも周方向内側に導くことを可能にしている。なお、
図2及び
図3などに示すように、軸方向腕部60とインナパッド4aの耳部12aとの干渉を防止するために、耳部12aの周方向外端部に逃げ凹部62を形成し、該逃げ凹部62の内側に軸方向腕部60を軸方向に挿通させるようにしている。
【0057】
当接部61は、軸方向腕部60の軸方向外端部(ロータ8側端部)から周方向内側に向けて折れ曲がるように設けられており、インナパッド4aの耳部12aの軸方向外側面に当接して、インナパッド4aを軸方向内側(反ロータ8側)に押圧する。
【0058】
以上のような構成を有する戻しばね24aは、パッドクリップ23aに装着された状態で、ばね腕部57の一部(軸方向腕部60及び当接部61)を除き、大部分がパッドクリップ23aの周方向外側(背面側)に配置されており、パッドクリップ23aから周方向だけでなく、軸方向及び径方向にも大きくはみ出さないようになっている。
【0059】
本例では、フローティング型ディスクブレーキ1aの組立作業を行う際に、サポート2aに対してインナ、アウタ両パッド4a、5aを組み付ける以前に、
図13〜
図18に示すように、戻しばね24a(24b〜24d)をパッドクリップ23a(23b〜23d)に対して装着(プリセット)する。以下、戻しばね24aをパッドクリップ23aに対して装着する作業手順について説明する。
【0060】
先ず、戻しばね24aのコイル部55を、パッドクリップ23aのばね保持部34に保持するとともに、戻しばね24aの係止腕部56の先端部を係止部46に挿入する。本例では、係止部46を三角形状の貫通孔としているため、係止腕部56の先端部を、開口幅の大きくなった係止部46の径方向内側部分から挿入できる。このため、挿入作業の容易化を図ることができる。次いで、ばね腕部57を係止腕部56に近づけるように、径方向内側かつ軸方向外側に弾性変形させた状態で、ばね腕部57の被拘束部58をフック部50に拘束させる。これにより、係止腕部56の先端部は、戻しばね24aの弾性復元力により径方向外方に移動しようとするため、係止部46の開口縁に案内されつつ開口幅が狭くなる径方向外側へと移動し、開口縁の一部(好ましくは隅角部)に弾性的に押し付けられた状態になる。また、被拘束部58も、戻しばね24aの弾性復元力により径方向外方に移動しようとするため、フック部50に弾性的に押し付けられた状態になる。反対に、コイル部55は、ばね保持部34の載置板部47に対して径方向内方に向けて押し付けられた状態になる。このため、パッドクリップ23aに対する戻しばね24aの径方向に関する位置決めが図られる。また、コイル部55は、1対の押圧腕部44の基部と係止片48とによって周方向両側から挟持されるため、パッドクリップ23aに対する戻しばね24aの周方向に関する位置決めも図られる。さらに、コイル部55が周方向に傾く(倒れる)ことが防止される。
【0061】
なお、戻しばね24a(24b〜24d)をパッドクリップ23a(23b〜23d)に装着する作業は、ディスクブレーキの組立工場で行うこともできるし、予め部品の供給元(パッドクリップ、戻しばねを製造する工場など)で行うこともできる。部品の供給元で装着作業を行う場合には、ディスクブレーキの組立工場では、パッドクリップ23a(23b〜23d)と戻しばね24a(24b〜24d)との組立体のまま、搬入、段取り、組立の各工程を行う。
【0062】
以上のように、戻しばね24a(24b〜24d)をパッドクリップ23a(23b〜23d)に装着した後(又は装着した状態の組立体を用意した後)は、パッドクリップ23a(23b〜23d)と戻しばね24a(24b〜24d)との組立体を、サポート2aに対して組み付ける。すなわち、パッドクリップ23a(23b〜23d)を構成する挟持部30(外側板部36及び内側板部37)により、パッドガイド部11c(11d)の周方向内側面に設けられた張出部25を径方向両側から弾性的に挟持する。また、略コ字状に構成された内側板部37と案内板部31と押圧基板部40を、パッドガイド部11c(11d)の凹部13c(13d、15c、15d)に内嵌支持する。
【0063】
次いで、サポート2aに対して、インナ、アウタ両パッド4a、5aを組み付ける。
具体的には、インナパッド4aに設けた1対の耳部12aを、軸方向内側のパッドガイド部11c、11dの凹部13c、13dの内側に、パッドクリップ23a、23cを介して軸方向内側(反ロータ8側)から挿入する。この際、回入側の耳部12aにより、パッドクリップ23aを構成する周方向押圧部33のパッド当接部45を周方向外側に変位させるとともに、回入側及び回出側の耳部12aにより、パッドクリップ23a、23cを構成する径方向押圧部32の押圧本体部42を径方向内側に変位させる。また、アウタパッド5aに設けた1対の耳部14aを、軸方向外側のパッドガイド部11c、11dの凹部15c、15dの内側に、パッドクリップ23b、23dを介して軸方向外側(反ロータ8側)から挿入する。この際、回入側の耳部14aにより、パッドクリップ23bを構成する周方向押圧部33のパッド当接部45を周方向外側に変位させるとともに、回入側及び回出側の耳部14aにより、パッドクリップ23b、23dを構成する径方向押圧部32の押圧本体部42を径方向内側に変位させる。
【0064】
上述のように、サポート2aに対してインナ、アウタ両パッド4a、5aを組み付けた状態で、インナ、アウタ両パッド4a、5aには、次のような力が付与される。
すなわち、インナ、アウタ両パッド4a、5aの回入側の周方向外側面に、パッドクリップ23a、23bを構成する周方向押圧部33のパッド当接部45が弾性的に当接することで、インナ、アウタ両パッド4a、5aに、周方向内方(回出側)に向いた押圧力が付与される。このように、インナ、アウタ両パッド4a、5aに対して周方向押圧部33から付与される押圧力の方向は、制動時にロータ8との接触に基づいて作用する接線力の方向と同じである。したがって、本例では、制動の有無にかかわらず、インナ、アウタ両パッド4a、5aを、回出側に変位させた状態(回出側のパッドガイド部11dに押し付けた状態)にすることができ、インナ、アウタ両パッド4a、5aが周方向にがたつくことを防止できる。
【0065】
また、インナ、アウタ両パッド4a、5aの耳部12a、14aの径方向内側面に、パッドクリップ23a〜23dを構成する径方向押圧部32の押圧本体部42が弾性的に当接することで、耳部12a、14aに径方向外方に向いた押圧力が付与される。これにより、耳部12a、14aは、凹部13c、13d、15c、15dの径方向外側面を覆った内側板部37に弾性的に押し付けられた状態になる。このため、耳部12a、14aが、凹部13c、13d、15c、15dの内側で径方向にがたつくことを防止できる。
【0066】
なお、インナ、アウタ両パッド4a、5aを組み付けた状態では、これらインナ、アウタ両パッド4a、5aには、戻しばね24a〜24dから未だ弾力は付与されない。ただし、図示しないキャリパを組み付けた状態では、インナ、アウタ両パッド4a、5aを、軸方向にわずかに近づけて、戻しばね24a〜24dにより、インナ、アウタ両パッド4a、5aに互いに離れる方向の弾力を付与する。この状態では、戻しばね24a〜24dを構成する被拘束部58は、フック部50から離隔(径方向内側に位置)する。
【0067】
フローティング型ディスクブレーキ1aの制動時及び制動解除時における動作は、次の通りである。
先ず、制動時には、図示しないキャリパに設けられたシリンダ部内を加圧して、ピストンによりインナパッド4aのライニング26を、ロータ8の軸方向内側面に、
図4の下方から上方へと押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として、前記キャリパが、図示しない案内ピンと、サポート2aの回入側、回出側両支持部9c、9dに形成した案内孔63との摺動に基づいて、
図4の下方に変位し、前記キャリパの軸方向外側部に設けられた爪部がアウタパッド5aのライニング28を、ロータ8の軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータ8が軸方向両側から強く挟持されて制動が行われる。この際、戻しばね24a〜24dを構成する当接部61が、インナ、アウタ両パッド4a、5aに設けられた耳部12a、14aの軸方向側面により押されて、ロータ8に近づく方向に軸方向に変位する。これと同時に、戻しばね24a〜24dを構成する軸方向腕部60が軸方向に変位する。この結果、戻しばね24a〜24dを構成するばね腕部57のたわみ量(コイル部55の弾性変形量)が、非制動時に比べて大きくなる。
【0068】
制動解除時には、戻しばね24a〜24dの弾性復元力に基づいて、当接部61をインナ、アウタ両パッド4a、5aの耳部12a、14aの軸方向側面に押し付け、インナ、アウタ両パッド4a、5aに互いに離れる方向(インナ、アウタ両パッド4a、5aをロータ8から離れる方向)の弾力を付与する。これにより、インナ、アウタ両パッド4a、5aのライニング26、28の摩擦面を、ロータ8の軸方向側面から離隔させる。
【0069】
以上のような本例のフローティング型ディスクブレーキ1aでは、ロータ8の軸方向内側と軸方向外側とで互いに別体のパッドクリップ23a〜23dを使用しているため、ロータ8の厚さ寸法に応じて、パッドクリップを新たに設計製造する必要がない。つまり、ロータ8の厚さ寸法にかかわらず、同じパッドクリップ23a〜23dを使用することができる。したがって、部品の共通化による製造コストが低減を図ることができる。
【0070】
さらに、パッドクリップ23a〜23dの機能を損なうことなく、それぞれのパッドクリップ23a〜23dに戻しばね24a〜24dを保持することができる。
すなわち、本例では、舌片状のばね保持部34を、挟持部30を構成する外側板部36から周方向外側に伸長するように設け、ばね保持部34の周方向外側部を、周方向押圧部33を構成する1対の押圧腕部44の基部よりも周方向外側に突出させている。そして、このようなばね保持部34の周方向外側部の上面に、戻しばね24a〜24dを構成するコイル部55を載置することで、戻しばね24a〜24dを一部を除いてパッドクリップ23a〜23dの背面側(周方向外側)に保持している。このため、このように保持された戻しばね24a〜24dが、インナ、アウタ両パッド4a、5aとパッドクリップ23a、23bとが摺接することに対して邪魔になったり、径方向押圧部32及び周方向押圧部33の押圧機能を損なうことを防止できる。
【0071】
また、戻しばね24a〜24dを構成するコイル部55を、それぞれの中心軸を周方向に向け、1対の押圧腕部44の基部(立板部54)の背面に立てかけるように、載置板部47の上面に載置しているため、コイル部55を設置するためのスペースを小型化(特に周方向に関する寸法を小さく)できる。また、戻しばね24a、24bを構成する係止腕部56の先端部を、撓み変形がほぼ生じない押圧腕部44の基部に係止しているため、係止腕部56を係止したことに起因して周方向押圧部33の機能が損なわれることもない。
【0072】
また、戻しばね24a〜24dをパッドクリップ23a〜23dに装着した状態で、コイル部55を、ばね保持部34の載置板部47に対して径方向内方に向けて押し付けることができるとともに、コイル部55を、1対の押圧腕部44の基部と係止片48とによって周方向両側から挟持することができる。このため、コイル部55(戻しばね24a〜24d)の径方向及び周方向に関する位置決めを図ることができる。また、コイル部55が周方向に傾くことも防止できる。さらに、係止腕部56の先端部を係止部46に対して係止しているため、戻しばね24a〜24dの軸方向に関する位置決めを図ることもできる。したがって、戻しばね24a〜24dがパッドクリップ23a〜23dから脱落等することを有効に防止でき、戻しばね24a〜24dにより、インナ、アウタ両パッド4a、5aに対して所望の戻し力を安定して付与することができる。
【0073】
また、周方向押圧部33を構成する1対の押圧腕部44を、軸方向に離隔して配置するとともに、軸方向に関する幅寸法を互いに同じとしているため、インナ、アウタ両パッド4a、5aのライニング26、28の摩耗が進行し、インナ、アウタ両パッド4a、5aの周方向外側面とパッド当接部45との当接位置が軸方向にずれた場合にも、インナ、アウタ両パッド4a、5aを周方向に安定して押圧することができる。また、張出部25を軸方向両側から挟持する第一爪片39a及び第二爪片39bのばね定数は低く抑えられているため、張出部25の軸方向側面の形状にばらつきが存在する場合にも、張出部25を安定して挟持することができる。
【0074】
さらに、パッドクリップ23a〜23dの組み付け時に、パッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとを一体(組立体、サブアッセンブリ)に取り扱えるため、組み付け作業の作業性を向上できる。
すなわち、上述したように、戻しばね24a〜24dの弾性復元力を、パッドクリップ23a〜23dにより支承することで、戻しばね24a〜24dをパッドクリップ23a〜23dに対して十分な力で支持できる。このため、パッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとを一体として取り扱え、これらパッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとの組み付け作業を同時に行える。したがって、組立性の向上を図れ、組立コストを低減できる。しかも、戻しばね24a〜24dをパッドクリップ23a〜23dに装着する作業は、スペースが制限されない広い空間で行えるため、この作業も容易に行える。
【0075】
また、パッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとを一体として取り扱える分、部品管理コストの低減も図れる。さらに、戻しばね24a〜24dをパッドクリップ23a〜23dに装着する作業は、予め部品の供給元で行い、ディスクブレーキの組立工場には、パッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとの組立体として搬入することもできる。この場合には、ディスクブレーキの組立工場内での管理(納入管理、箱等の管理、番号管理、在庫管理、発注管理、保管場所)などが、パッドクリップ23a〜23dと戻しばね24a〜24dとをそれぞれ別体として取り扱う場合に比べて約半分で済む。また、段取り工数を低減できるとともに、誤組み付けの防止を図れ、組付工数も低減できる。
【0076】
本発明を実施する際には、例えば、軸方向外側の戻しばねの線径を、軸方向内側の戻しばねの線径よりも大きくすることができる。これにより、摩耗が生じやすいアウタパッドに付与する弾力を、インナパッドに付与する弾力に比べて大きくすることができる。さらに、軸方向内側、軸方向外側の戻しばね同士の間で、線径を異ならせる以外にも、自由状態での形状やコイル部の巻き数などを異ならせることで、アウタパッドに付与する弾力と、インナパッドに付与する弾力を異ならせることもできる。
【0077】
実施の形態の説明では、戻しばねをパッドクリップに対して組み付けた後(パッドクリップと戻しばねとの組立体を構成した後)、これらパッドクリップと戻しばねとを同時に、サポートに対して組み付ける組み付け方法を例に説明した。ただし、本発明を実施する際には、パッドクリップ単体をサポートに対して組み付けた後、該パッドクリップに対して戻しばねを組み付ける組み付け方法も実施することができる。
【0078】
本発明を実施する場合に、パッドを構成する耳部の側面に凹溝を形成し、この凹溝の内側に、戻しばねを構成する当接部を収納することもできる。このような構成によれば、ライニングの摩耗量が多くなった場合にも(完全に摩耗し切るまで)、当接部とロータの軸方向側面とが擦れ合うことを防止できる。また、パッドクリップに、戻しばねを装着せずに、パッドクリップ単体として使用することも可能である。