【実施例】
【0025】
本発明を実施例および試験例により以下に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により限定されるものではない。
【0026】
実施例および比較例で使用したピッチ抑制剤の配合およびピッチ付着防止試験結果を表1に示す。
【表1】
[注]ECH:エピクロロヒドリン
DMA:ジメチルアミン
Am:アンモニア
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
AA:アクリルアミド
pDADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド
POASA:ポリオキシアルキレンステアリルアミン(エチレンオキサイド20モ
ル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン)
HEDP:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
【0027】
(ピッチ付着防止試験)
(1)クラフトパルプのみを原料とするクラフト紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(クラフト紙マシン・フェルト)、または、古紙を原料(古紙パルプ含有率90%以上)とする板紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(板紙マシン・フェルト)をエタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)の混合溶媒で抽出。得られたピッチ成分を再度、エタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)に溶解し、10%(w/v)のピッチ溶解液を調製した。
(2)200mlトールビーカーに、上記実施例および比較例の各ピッチ抑制剤を100mg/Lとなるように水道水で希釈した試験水(150ml)を作成した。試験水に60メッシュ・ポリエステル網(20mm×60mm×0.28mm、目開き0.273mm、糸径0.150mm)を浸漬し、室温、600rpmで攪拌した。
(3)試験水に10%(w/v)のピッチ溶解液を100mg/Lとなるように添加し、室温、600rpmで2時間撹拌した。
(4)ポリエステル網を取り出し、純水で十分水洗した後、スダンブラックB染色液(スダンブラックBを0.5%(w/v)となるように70%(v/v)エタノールに溶解したもの)に20分間浸漬し、50%(v/v)エタノールに浸漬後、純水で水洗し、自然乾燥した。
(5)ハンディ色彩計NR−11A(日本電色工業株式会社製)を用いて、染色したポリエステル網のピッチ付着面について、左半面3箇所(上部、中部、下部)、右半面3箇所(上部、中部、下部)の計6箇所の色差ΔE(ab)を測定し、平均値を算出した。
(6)ピッチ抑制剤無添加の場合での色差ΔE(ab)の平均値をピッチ相対付着量10として、各ピッチ抑制剤添加時のピッチ相対付着量を次式から算出した。
薬剤添加時のピッチ相対付着量
=薬剤添加時のΔE(ab)平均値÷薬剤無添加時のΔE(ab)平均値×10
評価は、数値が大きい方がよりピッチ相対付着量が大きいことを示す。
【0028】
(実施例1〜4および比較例1〜4)
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン(ECH/Am/DMA)共重合体(質量平均分子量80,000、30,000、20,000、または10,000)を配合したピッチ抑制剤(実施例1〜4)は、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量130,000)配合品(比較例3)やDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000または20,000)配合品(比較例1、比較例2)とはほぼ同等の効果を示した。
一方、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例1〜4のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000または20,000)配合品(比較例1、比較例2)、ECH/Am/DMA共重合体(質量平均分子量130,000)配合品(比較例3)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例4)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
尚、実施例2において、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン−アンモニア−ジメチルアミン(ECH/Am/DMA)共重合体に代えて同じく質量平均分子量が30,000であるエピクロロヒドリン−ジメチルアミン(ECH/DMA)を用いた点以外は同様の条件で評価した結果、2種類のピッチに対するピッチ付着防止効果は比較例4のDADMAC/AA共重合体を用いた場合と同等の効果を示したが、実施例2よりも効果は低かった。
【0029】
(実施例5および比較例5,6)
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例5)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例5は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例5)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例5のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例5)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0030】
(実施例6および比較例7,8)
実施例3よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例6)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例6は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例8)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例7)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例6のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例7)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例8)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0031】
(実施例7および比較例9,10)
実施例3よりもHEDPの含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例7)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例7は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例10)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例9)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例7のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例9)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例10)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0032】
(実施例8および比較例11,12)
実施例3よりもHEDPの含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例8)は、ピッチの種類によらず、実施例3と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例8は、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例11)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例8のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量20,000)配合品(比較例11)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量20,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0033】
実施例1〜4および比較例1〜4のピッチ抑制剤の組成において、ホスホン酸化合物として、HEDPの代わりにATMPまたはPBTCを用いたピッチ抑制剤を調製し、クラフト紙マシン・フェルトおよび板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対するピッチ付着防止試験を実施した。
その結果、ATMPまたはPBTCを配合したピッチ抑制剤においても、HEDPを配合したピッチ抑制剤(実施例1〜4および比較例1〜4)と同様のピッチ付着防止効果が得られた。
【0034】
尚、カチオン性ポリマーとして、質量平均分子量10,000以上100,000以下のECH/Am/DMA共重合体を配合したピッチ抑制剤が、質量平均分子量20,000または30,000のpDADMAC、質量平均分子量130,000のECH/Am/DMA共重合体、質量平均分子量30,000のDADMAC/AA共重合体のいずれかを配合したピッチ抑制剤よりもピッチ付着を抑えられる理由は必ずしも明確ではない。
しかし、pDADMACはポリマー内にカチオン電荷しか持っていないのに対して、ECH/Am/DMA共重合体はポリマー内にカチオン電荷以外に、水酸基といった水素結合部を有しており、pDADMACと比べて親水性が高いので水中でのポリマーの分散性が良く、微小ピッチやワイヤー、フェルト等の疎水表面と接触しやすい。
これらのことから、質量平均分子量10,000以上100,000以下のECH/Am/DMA共重合体は、質量平均分子量20,000または30,000のpDADMAC、質量平均分子量130,000のECH/Am/DMA共重合体、質量平均分子量30,000のDADMAC/AA共重合体と比べて、微小ピッチを親水化して、水中に分散させる効果が高く、さらにワイヤー、フェルト等の疎水性表面の親水化効果も高いことから、より優れたピッチ付着抑制効果を示すものと考えられる。
【0035】
さらに、実機でのピッチ抑制剤の性能評価を行うため、実機の紙製造工程において、カチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物の3成分から成るピッチ抑制剤をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈した結果、洗浄用のシャワーラインノズル目詰まりによるシャワー水の吐出不良(ピッチ抑制剤原液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、薬注ポンプ吐出口の閉塞による希釈液の吐出不良(ピッチ抑制剤希釈液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、ワイヤーやフェルト等の目詰まりによる窄水不良、断紙の発生といった新たな障害を引き起こす場合があることが判明した。
本発明者らが原因を検討した結果、これら3成分をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈した場合、ピッチ抑制剤の成分が希釈水中の鉄分等と反応し、析出物が発生することが障害の原因であると推測した。
【0036】
卓上試験において、実施例1〜8および比較例1〜12で用いたピッチ抑制剤を1,000mg/Lとなるように添加した紙製造工程水に、鉄分として冷間圧延鋼板(SPCC)製のテストピースを浸漬し、析出物の発生量を目視評価した結果、実施例では析出物の発生は認められなかったが、比較例では析出物の発生が認められた。
析出物を分析した結果、析出物はカチオン性ポリマーとホスホン酸化合物と鉄分から構成されるピッチ抑制剤由来物であった。
このことから、本発明のピッチ抑制剤はピッチ付着防止効果に優れているだけでなく、ピッチ抑制剤由来析出物の発生を効果的に抑制できることも確認された。