特許第6982516号(P6982516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982516
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/16 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   F16H61/16
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-30694(P2018-30694)
(22)【出願日】2018年2月23日
(65)【公開番号】特開2019-143764(P2019-143764A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清文
(72)【発明者】
【氏名】永島 史貴
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−125061(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/064843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00
F16H 61/00
F16H 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備える車両の制御装置であって、
前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持する制御部、
を有し、
前記変速機は、一の走行レンジと他の走行レンジとにおいて共通に使用される締結要素締結用の油圧アクチュエータを有し、
前記制御部は、前記一の走行レンジから前記他の走行レンジへのレンジ変更があった場合は、非走行レンジから走行レンジへのレンジ変更があった場合と比較して、前記目標レンジ信号と前記位置信号とが一致した後における前記油圧アクチュエータの開放の開始を遅延させる、
とを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備える車両の制御装置であって、
前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持する制御部、
を有し、
前記制御部は、前記アクチュエータの駆動中のレンジ変更指示をキャンセルする、
とを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備え、前記変速機は、一の走行レンジと他の走行レンジとにおいて共通に使用される締結要素締結用の油圧アクチュエータを有する車両の制御方法であって、
前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持することと、
前記一の走行レンジから前記他の走行レンジへのレンジ変更があった場合は、非走行レンジから走行レンジへのレンジ変更があった場合と比較して、前記目標レンジ信号と前記位置信号とが一致した後における前記油圧アクチュエータの開放の開始を遅延させることと、
を含むことを特徴とする車両の制御方法。
【請求項4】
変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備える車両の制御方法であって、
前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持することと、
前記アクチュエータの駆動中のレンジ変更指示をキャンセルすることと、
を含むことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シフトレバーの操作に応じてバルブ位置が変化するマニュアルバルブを有するシフトバイワイヤシステムが開示されている。特許文献1の技術は、目標レンジに基づきマニュアルバルブの動きを予測し、タイマーに基づき締結圧の制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−161198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マニュアルバルブを有するシフトバイワイヤシステムにおいては、通常制御の場合や失陥が生じた場合など様々な場面を想定して制御方法を選択することが重要になる。このためには、どのような種類の入力情報を用いてシフト制御を行うかが重要な要素となる。
【0005】
シフト制御としては例えば、特許文献1の技術のように予測とタイマーとに基づくシフト制御(以下、制御Aと称す)が考えられる。また、シフト制御としては、マニュアルバルブの実際の位置の検知にのみ基づき締結要素の締結を行うシフト制御(以下、制御Bと称す)も考えられる。
【0006】
ところがこれらの場合、次のようにシフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等に陥るという課題が生じ得る。
【0007】
ここで、例えばDレンジからRレンジへのシフトのときには、シフトレバーはNレンジ位置を経由してRレンジ位置に移動することになる。このとき、制御Bを用いた場合は、シフトレバーがNレンジ位置になった後に少し時間が経過してマニュアルバルブがNレンジ位置になる。そして、マニュアルバルブがNレンジ位置になると同時に、前進用締結要素の解放指示がなされることになる。
【0008】
つまり、制御Bを用いた場合は、前進用締結要素の解放指示にラグがある。DレンジからNレンジへのシフト指示した場合も、同様にして前進用締結要素の解放指示のラグが生じる。結果、制御Bの場合は例えば、ドライバがDレンジからRレンジやNレンジを指示したにも関わらず、暫くの間、前進方向の駆動力が駆動輪に伝わることにより、上記課題が生じることになる。制御Aの場合、マニュアルバルブを移動させるアクチュエータに何らかの失陥があったときなどに、上記課題が生じることになる。
【0009】
このように、制御A及び制御Bは所定のシーンにおいて上記課題が生じる制御となっている。そしてこの課題は、シフト制御を実行する際の入力情報の種類の選択の仕方に起因する課題といえる。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様の車両の制御装置は、変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備える車両の制御装置であって、前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持する制御部、を有する。前記変速機は、一の走行レンジと他の走行レンジとにおいて共通に使用される締結要素締結用の油圧アクチュエータを有し、前記制御部は、前記一の走行レンジから前記他の走行レンジへのレンジ変更があった場合は、非走行レンジから走行レンジへのレンジ変更があった場合と比較して、前記目標レンジ信号と前記位置信号とが一致した後における前記油圧アクチュエータの開放の開始を遅延させる。
また、本発明の別の態様の車両の制御装置は、変速機と、前記変速機の有する変速機構の変速に用いられるシフターと、前記シフターの操作に応じて切替弁のバルブ位置を移動させるアクチュエータと、前記切替弁のバルブ位置を検知する検知部と、を有するシフトバイワイヤシステムを備える車両の制御装置であって、前記シフターの操作に基づき生成される目標レンジ信号と、前記検知部により検知される前記切替弁の位置信号とが不一致であると、前記シフトバイワイヤシステムの正常時においても、前記変速機構の有する締結要素の解放を指示することにより前記変速機構をニュートラル状態に維持する制御部、を有し、前記制御部は、前記アクチュエータの駆動中のレンジ変更指示をキャンセルする。
【0012】
本発明のさらに別の態様によれば、上記態様の車両の制御装置それぞれに対応する車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
これらの態様によれば、目標レンジ信号と切替弁の位置信号とが不一致の場合には変速機構の動力伝達を遮断する。このため、例えばDレンジからRレンジへのシフト指示の際に、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】車両の要部を示す図である。
図2】油圧制御回路の要部を示す図である。
図3】実施形態の制御の一例をフローチャートで示す図である。
図4】シフト制御の際の要求レンジ信号及びINH−SW信号の説明図である。
図5】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第1の例を示す図である。
図6】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第2の例を示す図である。
図7】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第3の例を示す図である。
図8】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第4の例を示す図である。
図9】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第5の例を示す図である。
図10】実施形態の制御に対応するタイミングチャートの第6の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、車両の要部を示す図である。車両は、エンジンENGと、変速機TMと、駆動輪DWとを備える。エンジンENGは、車両の駆動源を構成する。エンジンENGの動力は、変速機TMを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、変速機TMは、エンジンENGから駆動輪DWに至る動力伝達経路に設けられる。
【0017】
変速機TMは、自動変速機であり、例えばベルト式の無段変速機である。変速機TMは、レンジとして、ドライブ(D)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、駐車(P)レンジ等を有し、そのいずれか一つを設定レンジとして設定することができる。DレンジとRレンジとは走行レンジを構成し、NレンジとPレンジとは非走行レンジを構成する。Dレンジは前進レンジを構成し、Rレンジは後進レンジを構成する。
【0018】
変速機TMは、トルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAとを有する。前後進切替機構SWMとバリエータVAとは、変速機TMの有する変速機構である変速機構SIMを構成する。変速機構SIMは例えば、変速機TMにおける全体としての変速機構を構成する。
【0019】
トルクコンバータTCは、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCでは、ロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。
【0020】
前後進切替機構SWMは、エンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、Dレンジ選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、Rレンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bとを備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機構SIMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。前進クラッチFWD/Cと後進ブレーキREV/Bとはともに、変速機構SIMの有する締結要素の一例である。
【0021】
バリエータVAは、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTとを有するベルト式無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIにはプライマリ圧Ppriが、セカンダリプーリSECにはセカンダリ圧Psecが、後述する油圧制御回路12からそれぞれ供給される。
【0022】
変速機TMには、オイルポンプ10が設けられる。オイルポンプ10は、エンジンENGの動力により駆動される機械式のオイルポンプであり、油圧制御回路12に油を圧送する。オイルポンプ10には例えば、トルクコンバータTCのインペラから動力を取り出す動力伝達機構を介してエンジンENGの動力が伝達される。
【0023】
変速機TMは、ATCU11と、油圧制御回路12と、をさらに有する。
【0024】
ATCU11は、変速機TM用のコントローラであり、ATCU11には例えば、後述するマニュアルバルブ125のバルブ位置を検知する検知部であるインヒビタスイッチ15からの信号が入力される。ATCU11には、センサ・スイッチ群16からの信号も入力される。
【0025】
センサ・スイッチ群16は、インヒビタスイッチ15以外の各種センサ・スイッチを示し、例えば、車速VSPを検出する車速センサ、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ、スロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ、ブレーキ踏力BPFを検出するブレーキセンサ、エンジンENGの回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサを含む。
【0026】
センサ・スイッチ群16はさらに例えば、プライマリ圧Ppriを検出するプライマリ圧センサ、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ、プライマリプーリPRIの入力側回転速度である回転速度Npriを検出するPRI回転速度センサ、セカンダリプーリSECの出力側回転速度である回転速度Nsecを検出するSEC回転速度センサ、トルクコンバータTCのタービンの回転速度Ntbnを検出するタービン回転速度センサ、変速機TMの油温TOILを検出する油温センサ等を含む。
【0027】
回転速度Npriは例えば、プライマリプーリPRIの回転速度であり、回転速度Nsecは例えば、セカンダリプーリSECの回転速度である。回転速度Ntは、前進クラッチFWD/Cの入力回転速度を構成し、回転速度Npriは、前進クラッチFWD/Cの出力回転速度を構成する。
【0028】
ATCU11は、これらの信号に基づき変速機TMを制御する。例えばATCU11は、これらの信号に基づき油圧制御回路12を制御する。油圧制御回路12は、ATCU11からの指示に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
【0029】
車両は、シフトバイワイヤシステムShBWがさらに搭載された構成となっている。シフトバイワイヤシステムShBWは、上述のようにして油圧制御を行うATCU11及び油圧制御回路12を有する変速機TMのほか、シフター1、シフター位置センサ2を有して構成される。
【0030】
シフター1は、変速機TMの変速、換言すれば変速機構SIMの変速に用いられる。シフター1には、操作後に初期位置である中立位置Hに自動的に復帰するモーメンタリ式のシフターが用いられる。変速機TMの設定レンジは、ドライバがシフター1を操作することによって設定され、シフター1によってどのレンジが選択されたかは、シフター位置センサ2によって検出される。
【0031】
シフター1は例えばシフトレバーであり、一例としてシフトレバーの位置は、D−N−H−N−Rの順で用意される。「H」は中立位置を示し、「D」で示すDレンジ位置、「R」で示すRレンジ位置からシフトレバーを離すと、シフトレバーが中立位置Hに移動する。シフター1は、シフトスイッチ等であってもよい。シフター1を操作することより、シフト指示であるレンジ切替指示(レンジ変更指示)を行うことができる。
【0032】
シフトバイワイヤシステムShBWはさらに、ATCU11とCAN60を介して相互通信可能に接続されるSCU20、ECU30、BCM40、MCU50、レンジインジケータ51等を有して構成される。ATCU11は、CAN60を介してSCU20、ECU30、BCM40、MCU50と相互通信可能に接続される。
【0033】
SCU20は、シフトコントロールユニットであり、シフター位置センサ2からの信号に基づき、シフター1によって選択されたレンジに対応する要求レンジ信号を生成してATCU11に出力する。要求レンジ信号は、目標シフト位置を示す信号であり、目標シフト位置として選択レンジに応じた目標レンジ位置を示す。要求レンジ信号は換言すれば、目標レンジ信号である。シフトバイワイヤシステムShBWでは、ATCU11は、SCU20からの要求レンジ信号に基づき、変速機TMの設定レンジを設定する。
【0034】
ECU30は、エンジンコントロールユニットであり、エンジンENGを制御する。ECU30は、エンジンENGのトルク情報等をATCU11に出力する。
【0035】
BCM40は、ボディコントロールモジュールであり、車体側動作要素を制御する。車体側動作要素は例えば、車両のドアロック機構等であり、エンジンENGのスタータを含む。BCM40は、車両のドアロックを検出するドアロックスイッチのON・OFF信号、エンジンENGのイグニッションスイッチのON・OFF信号等をATCU11に出力する。
【0036】
MCU50は、メータコントロールユニットであり、車室内に設けられたメータ、警告灯、ディスプレイ、変速機TMの設定レンジを表示するレンジインジケータ51等を制御する。
【0037】
本実施形態における車両の制御装置であるコントローラ100は、シフター1、シフター位置センサ2、ATCU11、SCU20、ECU30、BCM40、MCU50、インヒビタスイッチ15、センサ・スイッチ群16、レンジインジケータ51等を有して構成される。
【0038】
図2は、油圧制御回路12の要部を示す図である。油圧制御回路12は、ライン圧調整弁121と、減圧弁122と、ライン圧ソレノイドバルブ123と、クラッチソレノイドバルブ124と、マニュアルバルブ125と、ライン圧油路126と、モータMOTとを備える。油圧制御回路12を制御するにあたり、ATCU11は例えば、ライン圧ソレノイドバルブ123やクラッチソレノイドバルブ124やモータMOTを制御する。
【0039】
ライン圧調整弁121は、オイルポンプ10が発生させる油圧を調整してライン圧PLを生成する。ライン圧調整弁121が調圧時にリリーフするオイルは潤滑系に供給される。減圧弁122は、ライン圧油路126を介してオイルポンプ10と接続され、ライン圧PLを減圧する。減圧弁122によって減圧された油圧は、ライン圧ソレノイドバルブ123やクラッチソレノイドバルブ124に供給される。
【0040】
ライン圧ソレノイドバルブ123は、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じた制御油圧を生成する。ライン圧ソレノイドバルブ123が生成した制御油圧は、ライン圧調整弁121に供給され、ライン圧調整弁121は、当該制御油圧に応じて作動することで調圧を行う。このため、ライン圧ソレノイドバルブ123への制御電流によってライン圧PLの指令値を設定することができる。
【0041】
クラッチソレノイドバルブ124は、締結要素へ供給する油圧を制御する制御弁であり、前進クラッチFWD/Cや後進ブレーキREV/Bの油圧制御を行う。クラッチソレノイドバルブ124は例えば、リニアソレノイドバルブであり、制御電流に応じたクラッチ圧PCLを生成する。クラッチソレノイドバルブ124が生成したクラッチ圧PCLは、マニュアルバルブ125を介して前進クラッチFWD/Cや後進ブレーキREV/Bに供給される。前進クラッチFWD/Cに供給されるクラッチ圧PCLは、前進クラッチ圧Pfwdを構成し、後進ブレーキREV/Bに供給されるクラッチ圧PCLは、後進ブレーキ圧Prevを構成する。クラッチソレノイドバルブ124は、一の走行レンジと他の走行レンジとにおいて共通に使用される締結要素締結用の油圧アクチュエータを構成する。油圧アクチュエータは例えば、油圧制御に用いられるアクチュエータである油圧制御アクチュエータである。
【0042】
マニュアルバルブ125は、シフター1の操作に応じて作動する。マニュアルバルブ125は例えばアクチュエータ駆動式のバルブであり、モータMOTにより駆動される。マニュアルバルブ125は、前進クラッチFWD/Cや後進ブレーキREV/Bの油圧制御自体は行わず、シフター1の操作に応じてバルブ位置を切り替えることで、油圧供給先を前進クラッチFWD/Cと後進ブレーキREV/Bとで切り替える切替弁を構成する。モータMOTは、シフター1の操作に応じてマニュアルバルブ125のバルブ位置を移動させるアクチュエータの一例である。
【0043】
ところで、マニュアルバルブ125を有するシフトバイワイヤシステムShBWにおいては、シフター1の位置が操作に応じた位置になった後に少し時間が経過して、マニュアルバルブ125のバルブ位置が操作に応じた位置になる。
【0044】
結果、シフト制御次第では、例えばDレンジからRレンジへのシフトのときに、ドライバがRレンジを指示したにも関わらず、暫くの間、前進方向の駆動力が駆動輪DWに伝わることになる。
【0045】
このため、マニュアルバルブ125を有するシフトバイワイヤシステムShBWにおいては、通常制御の場合や失陥が生じた場合など様々な場面を想定して制御方法を選択することが重要になる。このためには、どのような種類の入力情報を用いてシフト制御を行うかが重要な要素となる。
【0046】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ100が次に説明する制御を実行する。
【0047】
図3は、コントローラ100が行う制御の一例をフローチャートで説明する図である。コントローラ100は、本フローチャートの処理を行うことで制御部を有した構成とされる。本フローチャートにつき、コントローラ100は例えば、ステップS9の処理をMCU50により行い、それ以外の処理をATCU11により行うように構成することができる。
【0048】
ステップS1で、コントローラ100は、フェールの有無を判定する。フェールは例えば、シフトバイワイヤシステムShBWに関するフェールであり、例えばシフター1のフェール、モータMOTのフェール、インヒビタスイッチ15等のセンサのフェールを含む。
【0049】
ステップS1で、コントローラ100は例えば、フェールが確定した場合にフェールありと判定する。これは、フェールが生じた場合、所定のフェール判定を経てフェールが確定され、フェールが確定するとフェールセーフが実行されるためである。ステップS1で否定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0050】
ステップS2で、コントローラ100は、セレクト判定があるか否かを判定する。セレクト判定は、シフター1によりレンジを選択することで、レンジ切替指示が行われるとありとされ、シフト制御が完了するとなしとされる。このため、セレクト判定ありの場合はシフト制御中となる。セレクト判定の有無は例えば、フラグのON・OFFにより設定される。
【0051】
シフト制御としては例えば、変速機TMのレンジ切替制御であるセレクト制御が行われる。セレクト制御では、シフター1の操作に応じたモータMOT、クラッチソレノイドバルブ124の制御が行われる。
【0052】
例えば、Dレンジ及びRレンジの一方から他方へのレンジ変更であるレンジ切替は、前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bのうち一方から他方への締結要素の掛け替えを行うことで行われる。そして、このような締結要素の掛け替えが、セレクト制御によりモータMOT、クラッチソレノイドバルブ124を制御することで行われる。
【0053】
Pレンジ又はNレンジが選択された場合、セレクト制御ではクラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。クラッチソレノイドバルブ124の解放指示は具体的に言えば、クラッチソレノイドバルブ124に対して行われる締結要素の解放指示である。ステップS2で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップ3に進む。
【0054】
ステップS3で、コントローラ100は、目標レンジがPレンジ又はNレンジつまり非走行レンジか否かを判定する。ステップS3で肯定判定であれば、処理はステップS4に進む。
【0055】
ステップS4で、コントローラ100は、非走行レンジへのセレクト制御を行う。ステップS4では例えば、クラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われ、これにより変速機構SIMがニュートラル状態になる。ステップS3に続きステップS4に進んだ場合、クラッチソレノイドバルブ124の解放指示は、目標レンジが非走行レンジであることに基づき行われる。
【0056】
ステップS5で、コントローラ100は、シフター位置センサ2の出力に基づき、更なるレンジ切替指示があるか否かを判定する。ステップS5で肯定判定であれば、処理はステップS6に進む。
【0057】
ステップS6で、コントローラ100は、更なるレンジ切替指示をキャンセルする。これにより、モータMOTの駆動中のレンジ切替指示がキャンセルされる。ステップS6の後には、処理は一旦終了する。ステップS5で否定判定であった場合も、処理は一旦終了する。
【0058】
ステップS3で否定判定であれば、処理はステップS7に進み、コントローラ100は、目標レンジと現在のレンジとが一致しているか否かを判定する。コントローラ100は、要求レンジ信号とインヒビタスイッチ15からのINH−SW信号とに基づきこのような判定を行う。このような判定は例えば、次に説明するようにATCU11で行われる。
【0059】
図4は、セレクト制御の際の要求レンジ信号及びINH−SW信号の説明図である。シフト操作があると、シフター位置センサ2は、シフト操作に応じてシフター1で選択された選択レンジを検出する。シフター位置センサ2からは、選択レンジ信号がSCU20に出力される。SCU20は、入力された選択レンジ信号に基づき要求レンジ信号を生成して、ATCU11に出力する。要求レンジ信号は、SCU20からモータMOTにも出力される。モータMOTは、入力された要求レンジ信号に応じてマニュアルバルブ125を駆動する。
【0060】
インヒビタスイッチ15は、マニュアルバルブ125のバルブ位置として、レンジ位置を検知する。レンジ位置は、バルブ位置に応じて段階的に変化する。インヒビタスイッチ15は、検知レンジ位置を示すINH−SW信号をATCU11に出力する。INH−SW信号は、マニュアルバルブ125の位置信号を構成する。
【0061】
ATCU11は、要求レンジ信号とINH−SW信号とが一致しているか否か、換言すれば目標レンジ位置と検知レンジ位置とが一致しているか否かを判定し、これにより、目標レンジと現在のレンジとが一致しているか否かを判定する。ATCU11は、判定結果に応じたクラッチソレノイドバルブ124の指示を行う。これは次の理由による。
【0062】
前述したように、マニュアルバルブ125では、シフター1の位置が操作に応じた位置になった後に少し時間が経過して、バルブ位置が操作に応じた位置になる。結果、例えばINH−SW信号のみに基づきセレクト制御を行う場合など、セレクト制御に用いる入力情報の種類によっては、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等の不適切な状況が生じることが懸念される。
【0063】
このため、ATCU11は、図3に示すステップS7で、目標レンジと現在のレンジとが一致しているか否かを判定し、不一致つまり否定判定であれば、ステップS4に進んでクラッチソレノイドバルブ124の解放指示を行う。これにより、変速機構SIMにおける動力伝達が遮断されるので、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等が生じることが防止される。
【0064】
コントローラ100は、ステップS1の否定判定を経てステップS4でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示を行うことで、シフトバイワイヤシステムShBWの正常時においても、変速機構SIMの有する締結要素の解放を指示する。換言すれば、コントローラ100は、シフトバイワイヤシステムShBWに関するフェールが生じていない正常状態であっても、変速機構SIMの有する締結要素の解放を指示する。
【0065】
その後のルーチンでは例えば、現在のレンジが要求レンジになるまでの間、ステップS1、ステップS2、ステップS3、ステップS7、ステップS4、ステップS5の順に処理が繰り返される。そして、現在のレンジが目標レンジになると、ステップS7で肯定判定され、処理はステップS8に進む。
【0066】
ステップS8で、コントローラ100は、目標レンジへのセレクト制御を行う。ステップS8では、クラッチソレノイドバルブ124を制御することにより、目標レンジに対応する締結要素の締結スキームが行われる。これにより、目標レンジ信号が走行レンジの場合に、目標レンジ信号とINH−SW信号とが一致した後に、当該走行レンジに対応する締結要素の締結が行われる。このように締結要素の締結を行う理由は、次の通りである。
【0067】
すなわち、クラッチ圧PCLの指示圧であるクラッチ指示圧PCL_iを最大にした後にマニュアルバルブ125が連通状態になると、締結要素のピストン油圧室に急激に油が流れ込むことになりショックの要因となる。このため、コントローラ100は、上記のように締結要素の締結を行うことで、マニュアルバルブ125が連通状態になってから締結要素の締結スキームを開始し、これによりショックを防止する。
【0068】
ステップS9で、コントローラ100は、INH−SW信号に基づきレンジインジケータ51にレンジ表示を行う。これにより、例えばDレンジからRレンジへの遷移期間中に、変速機構SIMがニュートラル状態にも関わらず、Rレンジ表示がされる事態が回避される。ステップS9の後には、処理は一旦終了する。
【0069】
ところで、フェールが発生した場合、実際にフェールが発生してからフェールが確定するまでにはラグがある。そしてこの期間にはフェールが確定していないので、フェールセーフは実行されない。
【0070】
本実施形態では、フェール発生後、確定前の期間にはステップS1で正常判定されて否定判定となる。そしてその後、ステップS2及びステップS3を経て、ステップS7で目標レンジと現在のレンジとが不一致であれば、ステップS4でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。このため、フェールが確定していない状況で、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等の不適切な状況が回避される。
【0071】
フェールが確定した場合、ステップS1で肯定判定され、処理はステップS10に進む。ステップS10で、コントローラ100は、リバースインヒビット制御を禁止する。リバースインヒビット制御は、車速VSPが所定車速以上の場合に、Rレンジへのレンジ切替を禁止する制御であり、後進クラッチREV/Bへの油圧供給を禁止することにより、Rレンジへのレンジ切替が禁止される。所定車速は、急激な車両減速防止の観点や変速機TM保護の観点から予め設定することができる。
【0072】
ステップS10の後には、処理はステップS4に進む。そして、ステップS4では、コントローラ100により、車速VSPに関わらず、変速機構SIMの有する締結要素の解放が指示され、これにより変速機構SIMがニュートラル状態に維持される。このため、インヒビタスイッチ15のフェールによりステップS1で肯定判定された場合でも、例えばINH−SW信号の代わりに要求レンジ信号を用いたセレクト制御は行われない。
【0073】
次に、図3に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの例について、図5から図10を用いて説明する。図5から図9では、比較例の場合のクラッチ圧PCLであるクラッチ圧PCL´の変化を併せて示す。まず、図5から図7に示す例について順に説明する。図5から図7に示す例は、レンジ切替操作が互いに異なる例となっている。
【0074】
図5に示す例は、DレンジからRレンジへのレンジ切替があった場合、つまり一の走行レンジから他の走行レンジへのレンジ切替があった場合を示す。タイミングT1は、レンジ切替操作が行われるタイミングであり、この例では、タイミングT1でDレンジからRレンジへのレンジ切替操作が行われる。結果、シフター1の操作位置は、中立位置HからRレンジ位置になる。
【0075】
タイミングT2は、レンジ切替操作に応じて目標レンジ位置が切り替わるタイミングであり、この例では、タイミングT2でDレンジ位置だった目標シフト位置がRレンジ位置になる。タイミングT2ではさらに、切り替わった目標レンジ位置に応じて、モータMOTの駆動位置及びマニュアルバルブ125のバルブ位置が変化し始める。結果、目標レンジ位置と検知レンジ位置とが不一致になる。INH−SW信号は、バルブ位置に応じて段階的に変化するので、検知レンジ位置はDレンジ位置のままである。
【0076】
タイミングT3は、検知レンジ位置がレンジ切替操作前のレンジ位置でなくなるタイミングであり、この例では、タイミングT3で検知レンジ位置がDレンジ位置からNレンジ位置になる結果、Dレンジ位置でなくなる。
【0077】
比較例では、検知レンジ位置、従ってINH−SW信号のみに基づきセレクト制御が行われる。比較例の場合、検知レンジ位置がNレンジ位置になり、レンジ切替操作前のレンジ位置でなくなると、DレンジからRレンジへのセレクト制御が開始される。結果、当該セレクト制御により、まずクラッチ指示圧PCL_i´が解放圧に設定され、これに応じて前進クラッチ圧Pfwd´が低下し始める。
【0078】
比較例の場合はその後、当該セレクト制御により、後進ブレーキ圧Prev´がクラッチ指示圧PCL_i´に応じて変化し、最終的に締結圧に設定される。結果、前進クラッチFWD/Cから後進ブレーキREV/Bへの締結要素の掛け替えが完了する。
【0079】
比較例の場合、タイミングT2及びタイミングT3間で目標レンジ位置がRレンジ位置になっているにも関わらず、前進クラッチ圧Pfwd´からわかるように、前進クラッチFWD/Cは解放されずに締結されたままとなる。このため、この間に前進方向の駆動力が駆動輪DWに伝わることになる。
【0080】
本実施形態の場合、タイミングT2で目標レンジ位置と検知レンジ位置とが不一致になると、まずDレンジからNレンジへのセレクト制御により、クラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。
【0081】
結果、これに応じて前進クラッチ圧Pfwdが低下し始め、前進クラッチFWD/Cが解放されることで、変速機構SIMがシフト操作直後にニュートラル状態になる。このため、シフト操作したRレンジで発生する駆動力とは逆方向つまり前進方向の駆動力が発生することが防止される。
【0082】
タイミングT4は、目標レンジ位置と検知レンジ位置とが一致するタイミングであり、この例では、タイミングT4で検知レンジ位置がRレンジ位置になることで、目標レンジ位置と検知レンジ位置とが一致する。
【0083】
結果、本実施形態の場合は、タイミングT4でRレンジへのセレクト制御が開始され、当該セレクト制御で設定されるクラッチ指示圧PCL_iに応じて、後進ブレーキ圧Prevが最終的に締結圧に設定される。
【0084】
当該セレクト制御において、クラッチ指示圧PCL_iは、例えばタイミングT4から予め設定した時間が経過するなど、予め設定した条件に基づきプリチャージ圧、待機圧、締結圧等に設定される。締結要素の締結スキームは、このようなクラッチ指示圧PCL_iの設定により構成される。タイミングT5は、締結要素の締結スキームが開始されるタイミングを示す。
【0085】
ここで、後述する図7に示す例においては、タイミングT4で締結要素の締結スキームが開始される。図7に示す例は、NレンジからDレンジへのレンジ切替があった場合を示し、タイミングT5は、タイミングT4よりも遅いタイミングに設定されている。つまり、図5に示す例では、図7に示す例と比較して、締結要素の締結スキームの開始が遅延されることで、クラッチソレノイドバルブ124の開放の開始が遅延されている。
【0086】
クラッチソレノイドバルブ124の開放とは、クラッチソレノイドバルブ124における締結要素への供給油路の開放の開始である。また、当該締結要素は、一の走行レンジから他の走行レンジへのレンジ切替があった場合における他の走行レンジに対応する締結要素である。このように開放の開始が遅延されている理由は次の通りである。
【0087】
ここで、図5に示す例では、目標レンジ位置と検知レンジ位置との不一致判定により、タイミングT2でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示を行うことで、クラッチソレノイドバルブ124における締結要素への供給油路を開放状態から閉鎖状態に遷移させる。
【0088】
その一方で、クラッチソレノイドバルブ124が完全に閉じきる前に後進ブレーキREV/Bの締結スキームを開始し、開放状態への遷移を始めてしまうと、後進ブレーキREB/Bの締結状態が不安定になる可能性がある。
【0089】
このため、図5に示す例では、タイミングT5で後進ブレーキREV/Bの締結スキームを開始することで、クラッチソレノイドバルブ124が完全に閉じきるのを待ってから、クラッチソレノイドバルブ124の開放を開始する。このような開放開始の遅延は、クラッチ指示圧PCL_iの設定により行うことができる。
【0090】
図6に示す例は、DレンジからNレンジへのレンジ切替があった場合、つまり走行レンジから非走行レンジへのレンジ切替があった場合を示す。この例では、検知レンジ位置がレンジ切替操作前のレンジ位置でなくなるタイミングT3と、目標レンジ位置と検知レンジ位置とが一致するタイミングT4とは一致する。
【0091】
この例でも、比較例の場合は、タイミングT3でDレンジからNレンジへのセレクト制御が開始され、本実施形態の場合は、タイミングT2でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。
【0092】
従って、比較例の場合は、マニュアルバルブ125のバルブ位置がNレンジ位置になるタイミングT3まで駆動輪DWに駆動力が伝達され続けるが、本実施形態の場合は、レンジ切替操作に応じた目標レンジ位置が生成されたタイミングT2で、駆動輪DWへの駆動力伝達の遮断を図ることができる。このため、Nレンジへのレンジ切替操作を行ったドライバの意図が即座に反映されることで、ドライバの意図通りの挙動を生じさせることができる。
【0093】
図7に示す例は、NレンジからDレンジへのレンジ切替があった場合、つまり非走行レンジから走行レンジへのレンジ切替があった場合を示す。この例でも、タイミングT3とタイミングT4とは一致する。この例ではさらに、締結要素の締結スキームが開始されるタイミングT5がタイミングT3と一致する。
【0094】
この例でも、比較例の場合は、タイミングT3でDレンジからNレンジへのセレクト制御が開始され、本実施形態の場合は、タイミングT2でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。
【0095】
その一方で、この例ではレンジ切替操作前の設定レンジがNレンジとなっていることから、タイミングT2で前進クラッチFWD/Cは解放状態となっている。従って、タイミングT2で解放指示を行っても、前進クラッチ圧Pfwdに変化はない。
【0096】
このためこの例では、結果として比較例の場合と同様のセレクト制御が行われることにはなるものの、ドライバの意図通りの挙動が生じることになる。
【0097】
またこの場合は、タイミングT3でマニュアルバルブ125の検知バルブ位置がDレンジ位置になってから、クラッチ指示圧PCL_iからわかるように、クラッチソレノイドバルブ124がセレクト制御により動作し始める。つまり、クラッチソレノイドバルブ124は、マニュアルバルブ125よりも先に動作し始めない。
【0098】
このためこの場合は、マニュアルバルブ125の動作により、前進クラッチ圧Pfwdが急に前進クラッチFWD/Cに供給されることはなく、前進クラッチFWD/Cの締結ショックが発生することも防止される。
【0099】
この例では、タイミングT3で締結要素の締結スキームが開始される。これは次の理由による。すなわちこの例では、レンジ切替操作前のレンジが非走行レンジになっているので、タイミングT3でクラッチソレノイドバルブ124は締結要素に対して完全に閉じきっている。このためこの例では、図5に示す例とは異なり、即座にクラッチソレノイドバルブ124の開放を開始することができ、この結果、締結ラグが防止される。
【0100】
次に、図8から図10に示す例について説明する。図8から図10に示す例は、様々な場面を想定した例となっている。
【0101】
図8に示す例は、DレンジからRレンジへのレンジ切替があった場合で、且つインヒビタスイッチ15のフェールは発生しているが当該フェールが確定していない場合を示す。図8に示す例では、変速機構SIMが、前後進切替機構SWMの代わりにバリエータVA及び駆動輪DW間の動力伝達経路に設けられる副変速機構を有し、当該副変速機構が前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを有する場合について説明する。この場合、正常時にはマニュアルバルブ125のバルブ位置に基づきDレンジからRレンジへのセレクト制御が行われる。当該セレクト制御では、前進クラッチ圧Pfwd´を漸減させるとともに後進ブレーキ圧Prev´を漸増させることにより、前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bの掛け替えが行われる。
【0102】
比較例の場合、タイミングT2で目標レンジ位置の切り替わりに応じてマニュアルバルブ125のバルブ位置が変化し始めると、セレクト制御が開始される。比較例では、セレクト制御がバルブ位置に基づき行われるので、インヒビタスイッチ15のフェールが確定していない状態で、セレクト制御は正常に行われる。
【0103】
但しこの場合は、INH−SW信号に基づき行われるレンジ表示がDレンジのままにも関わらず、後進方向の駆動力が発生する。
【0104】
本実施形態の場合、タイミングT2でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示が行われる。このため、ドライバがレンジ表示から設定レンジがDレンジのままだと認識しても、ドライバの認識に反して車両が後進することはない。
【0105】
図9に示す例は、DレンジからRレンジへのレンジ切替があった場合で、且つモータMOTのフェールは発生しているが当該フェールが確定していない場合を示す。この場合、フェールによりモータMOTの駆動位置が変化しないので、マニュアルバルブ125のバルブ位置もINH−SW信号も変化しない。
【0106】
このため、比較例の場合は、INH−SW信号に基づくセレクト制御やバルブ位置に基づくセレクト制御は実行されず、前進クラッチ圧Pfwd´及び後進ブレーキ圧Prev´も変化しない。結果、Rレンジへのレンジ切替操作を行ったにも関わらず、前進駆動力が発生することになる。
【0107】
本実施形態の場合、タイミングT2でクラッチソレノイドバルブ124の解放指示を行うことで、駆動輪DWヘの動力伝達が遮断される。このため、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等が生じることが防止される。またこの場合は、表示レンジはDレンジとなるものの、Rレンジを選択したドライバは車両の後進を望んでいるので、ドライバにとって本来の意図通りとなる。
【0108】
図10に示す例は、DレンジからRレンジへのレンジ切替があった後に、Nレンジの選択が短時間で行われた場合を示す。図10に示す例では、タイミングT2及びタイミングT4間のモータMOTの駆動中に、ドライバによってNレンジの選択が行われる。その一方で、モータMOTの駆動中にレンジ切替指示を受け付けると、マニュアルバルブ125の動きと締結要素の締結状態とのバランスが崩れてしまう。
【0109】
このためこの例では、目標レンジ位置からわかるように、モータMOTの駆動中のレンジ切替指示がキャンセルされる。これにより、モータMOTの駆動中のレンジ切替指示によって、マニュアルバルブ125の動きと締結要素の締結状態とのバランスが崩れてしまうことが防止される。
【0110】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0111】
コントローラ100は、変速機TMと、シフター1と、モータMOTと、インヒビタスイッチ15と、を有するシフトバイワイヤシステムShBWを備える車両の制御装置を構成する。コントローラ100は、目標レンジ信号と検知レンジ信号とが不一致であると、シフトバイワイヤシステムShBWの正常時においても、クラッチソレノイドバルブ124の解放指示、つまり変速機構SIMの有する締結要素の解放の指示を行うことにより変速機構SIMをニュートラル状態に維持する。
【0112】
このような構成によれば、目標レンジ信号と検出レンジ信号とが不一致の場合には変速機構SIMの動力伝達を遮断する。このため、例えばDレンジからRレンジへのレンジ切替指示の際に、シフト指示した方向と逆方向の駆動力が発生し得る状況等を防止することができる(請求項1、6に対応する効果)。
【0113】
コントローラ100は、INH−SW信号に基づき、レンジインジケータ51にレンジ表示を行う。
【0114】
このような構成によれば、例えばDレンジの状態でRレンジを選択した場合に、マニュアルバルブ125の弁体がRレンジ位置に移動しきるまでレンジインジケータ51にRレンジ表示を行わないことになる。このため、DレンジからRレンジへの遷移期間中にニュートラル状態が発生している場合におけるドライバの違和感を軽減することができる(請求項2に対応する効果)。
【0115】
コントローラ100は、目標レンジ信号が走行レンジ、例えばRレンジの場合は、目標レンジ信号と検知レンジ信号とが一致した後に当該走行レンジつまりRレンジに対応する締結要素である後進ブレーキREV/Bの締結を行う。
【0116】
このような構成によれば、マニュアルバルブ125が締結要素に対して連通状態になってから、締結要素の締結スキームを開始する。このため、例えばクラッチ指示圧PCL_iを最大にした後にマニュアルバルブ125が締結要素に対して連通状態になって、急な油圧供給が行われることで生じるショックを防止できる(請求項3に対応する効果)。
【0117】
変速機TMは、クラッチソレノイドバルブ124を有する。コントローラ100は、例えばDレンジからRレンジへのレンジ切替があった場合は、次の制御を行う。すなわちこの場合、コントローラ100は、例えばNレンジからDレンジなど、非走行レンジから走行レンジへのレンジ切替があった場合と比較して、要求レンジ信号とINH−SW信号とが一致した後におけるクラッチソレノイドバルブ124の開放の開始を遅延させる。
【0118】
このような構成によれば、クラッチソレノイドバルブ124が完全に閉じきるのを待ってから、クラッチソレノイドバルブ124の開放を開始する。このため、クラッチソレノイドバルブ124が完全に閉じきる前に、後進ブレーキREV/Bの締結スキームの開始により開放状態への遷移を始める結果、後進ブレーキREV/Bの締結状態が不安定になることを防止できる(請求項4に対応する効果)。
【0119】
短時間の間に複数回のレンジ切替指示があった場合に、目標レンジをどのように設定するかは、検討すべき事項の一つといえる。
【0120】
本実施形態では、コントローラ100は、モータMOTの駆動中のレンジ切替指示をキャンセルする。このような構成によれば、モータMOTの駆動中にレンジ切替指示を受け付けることで、マニュアルバルブ125の動きと締結要素の締結状態とのバランスが崩れてしまうことを防止できる(請求項5に対応する効果)。
【0121】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0122】
上述した実施形態では、変速機構SIMが前後進切替機構SWM及びバリエータVAを有して構成される場合について説明した。しかしながら、変速機構SIMは例えば、走行レンジや非走行レンジに対応する締結要素を有する有段の自動変速機構であってもよい。
【0123】
上述した実施形態では、ATCU11及びMCU50を有して構成されるコントローラ100が制御部を有する構成とされる場合について説明した。しかしながら、制御部は例えば、ある単一のコントローラで機能的に実現される結果、当該コントローラが有する構成として機能的に把握される部分であってもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 シフター
12 油圧制御回路
124 クラッチソレノイドバルブ(油圧アクチュエータ)
125 マニュアルバルブ(切替弁)
15 インヒビタスイッチ
51 レンジインジケータ(インジケータ)
100 コントローラ(制御部)
ENG エンジン
FWD/C 前進クラッチ(締結要素)
MOT モータ(アクチュエータ)
REV/B 後進ブレーキ(締結要素)
ShBW シフトバイワイヤシステム
SIM 変速機構
SWM 前後進切替機構
TM 変速機
VA バリエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10