(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記線間変調演算部は、前記三相変調電圧指令値の最大相と最小相の前記サージ電圧値を比較し、大きい方の相の前記スイッチング素子をON、又は、OFF状態に固定することを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。先ず、
図2と
図3を参照しながら本発明の電力変換装置1を一体に備えた実施例の電動圧縮機(所謂インバータ一体型電動圧縮機)16について説明する。尚、実施例の電動圧縮機16は、エンジン駆動自動車やハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものである。
【0018】
(1)電動圧縮機16の構成
図2において、電動圧縮機16の金属製(アルミニウム等)の筒状ハウジング2内は、当該ハウジング2の軸方向に交差する仕切壁3により圧縮機構収容部4とインバータ収容部6とに区画されており、圧縮機構収容部4内に例えばスクロール型の圧縮機構7と、この圧縮機構7を駆動するモータ8が収容されている。この場合、モータ8はハウジング2に固定されたステータ9と、このステータ9の内側で回転するロータ11から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0019】
仕切壁3の圧縮機構収容部4側の中心部には軸受部12が形成されており、ロータ11の駆動軸13の一端はこの軸受部12に支持され、駆動軸13の他端は圧縮機構7に連結されている。ハウジング2の圧縮機構収容部4に対応する位置の仕切壁3近傍には吸入口14が形成されており、モータ8のロータ11(駆動軸13)が回転して圧縮機構7が駆動されると、この吸入口14からハウジング2の圧縮機構収容部4内に作動流体である低温の冷媒が流入し、圧縮機構7に吸引されて圧縮される。
【0020】
そして、この圧縮機構7で圧縮され、高温・高圧となった冷媒は、図示しない吐出口よりハウジング2外の前記冷媒回路に吐出される構成とされている。また、吸入口14から流入した低温の冷媒は、仕切壁3近傍を通ってモータ8の周囲を通過し、圧縮機構7に吸引されることから、仕切壁3も冷却されることになる。
【0021】
そして、この仕切壁3で圧縮機構収容部4と区画されたインバータ収容部6内には、モータ8を駆動制御する本発明の電力変換装置1が収容される。この場合、電力変換装置1は、仕切壁3を貫通する密封端子やリード線を介してモータ8に給電する構成とされている。
【0022】
(2)電力変換装置1の構造(基板17上の配置)
実施例の場合、電力変換装置1は、基板17と、この基板17の一面側の電気回路配線に接続された複数(6個)のスイッチング素子18A〜18Fと、基板17の他面側の電気回路配線に接続された制御部21と、図示しないHVコネクタ、LVコネクタ等から構成されている。スイッチング素子18A〜18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0023】
この場合、実施例では後述する三相のインバータ回路(三相インバータ回路)28のU相インバータ19Uの上相のスイッチング素子18Aと下相のスイッチング素子18D、V相インバータ19Vの上相のスイッチング素子18Bと下相のスイッチング素子18E、W相インバータ19Wの上相のスイッチング素子18Cと下相のスイッチング素子18Fは二つずつそれぞれ並んだかたちとされ、この並んだ一組のスイッチング素子18A及び18D、スイッチング素子18B及び18E、スイッチング素子18C及び18Fが、
図3に示す如く基板17の中心の周囲に放射状に配置されている。
【0024】
尚、この出願において放射状とは
図3に示す如きコ字状も含むものとする。また、
図3に示す配置に限らず、一つ一つのスイッチング素子18A〜18Fを、基板17の中心の周囲に円弧状(扇状)に配置してもよい。
【0025】
また、実施例ではW相インバータ19Wのスイッチング素子18C及び18Fが吸入口14側に位置しており、それに対して
図3における反時計回り90°の位置にV相インバータ19Vのスイッチング素子18B及び18Eが配置され、吸入口14とは反対側の位置にU相インバータ19Uのスイッチング素子18A及び18Dが配置されたかたちとされている。
【0026】
また、各スイッチング素子18A〜18Fの端子部22は、基板17の中心側となった状態で基板17に接続されている。更に、この実施例では各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bが設けられ、各電流センサ26A、26Bは制御部21に接続されている。尚、電流センサ26AはU相電流iuを測定し、電流センサ26BはV相電流ivを測定する。そして、W相電流iwはこれらから計算により求める。また、実施例のように各相のモータ電流を電流センサ26A、26Bで測定する以外に、モータ8の運転状態から制御部21が推定するようにしてもよい。
【0027】
そして、このように組み立てられた電力変換装置1は、各スイッチング素子18A〜18Fがある一面側が仕切壁3側となった状態でインバータ収容部6内に収容されて仕切壁3に取り付けられ、カバー23にて塞がれる。この場合、基板17は仕切壁3から起立するボス部24を介して仕切壁3に固定されることになる。
【0028】
このように電力変換装置1が仕切壁3に取り付けられた状態で、各スイッチング素子18A〜18Fは仕切壁3に直接若しくは所定の絶縁熱伝導材を介して密着し、ハウジング2の仕切壁3と熱交換関係となる。このとき、各スイッチング素子18A〜18Fは軸受12及び駆動軸13に対応する箇所を避けた位置に配置され、その周囲を囲繞するかたちで配置される(
図3)。
【0029】
そして、前述した如く仕切壁3は圧縮機構収容部4内に吸入される冷媒によって冷やされているので、各スイッチング素子18A〜18Fは仕切壁3を介して吸入冷媒と熱交換関係となり、仕切壁3の厚みを介して圧縮機構収容部4内に吸入された冷媒によって冷却され、各スイッチング素子18A〜18F自体は仕切壁3を介して冷媒に放熱するかたちとなる。
【0030】
(3)電力変換装置1の電気回路の構成
次に、
図1において電力変換装置1は、前述した三相のインバータ回路(三相インバータ回路)28と、制御部21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(バッテリ:例えば、300V)29の直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ8のステータ9の電機子コイルに印加する回路である。このインバータ回路28は、前述したU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19Wを有しており、各相インバータ19U〜19Wは、それぞれ前述した上相のスイッチング素子18A〜18Cと、下相のスイッチング素子18D〜18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A〜18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0031】
そして、インバータ回路28の上相のスイッチング素子18A〜18Cの上端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の正極側母線に接続されている。尚、平滑コンデンサ32も基板17の一面側の電気回路配線に接続されて電力変換装置1を構成するものであるが、各スイッチング素子18A〜18Fの配置を分かり易くするため、
図2、
図3では示していない。一方、インバータ回路28の下相のスイッチング素子18D〜18Fの下端側は、直流電源29及び平滑コンデンサ32の負極側母線に接続されている。
【0032】
そして、U相インバータ19Uの上相のスイッチング素子18Aと下相のスイッチング素子18Dとの間は、モータ8のU相の電機子コイルに接続され、V相インバータ19Vの上相のスイッチング素子18Bと下相のスイッチング素子18Eとの間は、モータ8のV相の電機子コイルに接続され、W相インバータ19Wの上相のスイッチング素子18Cと下相のスイッチング素子18Fとの間は、モータ8のW相の電機子コイルに接続されている。
【0033】
(4)制御部21の構成
次に、制御部21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8から相電流を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各スイッチング素子18A〜18FのON/OFF状態を制御する。具体的には、各スイッチング素子18A〜18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0034】
この制御部21は、相電圧指令演算部33と、線間変調演算部34と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37を有している。相電圧指令演算部33は、モータ8の電気角、電流指令値と相電流に基づいてモータ8の各相の電機子コイルに印加する三相変調電圧指令値U’(U相電圧指令値)、V’(V相電圧指令値)、W’(W相電圧指令値)を演算する。この三相変調電圧指令値U’、V’、W’とは、モータ8の三相変調制御を行う場合における電圧指令値の正規化後(−1〜1に補正後)の値であり、
図9の最上段にその一例を示す。
【0035】
線間変調演算部34は、相電圧指令演算部33により演算され、算出された三相変調電圧指令値U’、V’、W’に基づき、二相変調電圧指令値U(U相電圧指令値)、V(V相電圧指令値)、W(W相電圧指令値)を演算する。前述した各電流センサ26A、26Bが測定するU相電流iu及びV相電流ivはこの線間変調演算部34に入力され、線間変調演算部34がモータ8の相電流(U相電流iu、V相電流iv、及び、W相電流iw)を求める。尚、この線間変調演算部34の動作については後に詳述する。
【0036】
PWM信号生成部36は、線間変調演算部34により演算され、算出された二相変調電圧指令値U、V、Wに基づき、インバータ回路28のU相インバータ19U、V相インバータ19V、W相インバータ19Wの駆動指令信号となるPWM信号Vu、Vv、Vwを、キャリア三角波と大小を比較することにより発生させる。
【0037】
ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号Vu、Vv、Vwに基づき、U相インバータ19Uのスイッチング素子18A、18Dのゲート電圧Vuu、Vulと、V相インバータ19Vのスイッチング素子18B、18Eのゲート電圧Vvu、Vvlと、W相インバータ19Wのスイッチング素子18C、18Fのゲート電圧Vwu、Vwlを発生させる。これらのゲート電圧Vuu、Vul、Vvu、Vvl、Vwu、Vwlは、所定時間におけるON状態の時間割合であるデューティにて表すことができる。
【0038】
そして、インバータ回路28の各スイッチング素子18A〜18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧Vuu、Vul、Vvu、Vvl、Vwu、Vwlに基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとトランジスタがON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとトランジスタがOFF動作する。このゲートドライバ37は、スイッチング素子18A〜18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0039】
(5)電気回路の寄生インダクタンス
次に、
図4を参照しながら三相インバータ回路28の電気回路の寄生インダクタンスについて説明する。実施例の如く電動圧縮機16に設けられる電力変換装置1の三相インバータ回路28は、構造や電気回路配線が複雑になるために寄生インダクタンスも各相毎に異なって来る。
図4の等価回路は、実施例の三相インバータ回路28の電気回路が有する寄生インダクタンスの一例を示している。
【0040】
この図においてLinpは、U相インバータ19Uと平滑コンデンサ32との間の正極側母線の寄生インダクタンス、LupはU相インバータ19Uの上相のスイッチング素子18Aのコレクタと正極側母線との間の寄生インダクタンス、LunはU相インバータ19Uの下相のスイッチング素子18Dのエミッタと負極側母線との間の寄生インダクタンス、LinnはU相インバータ19Uと平滑コンデンサ32との間の負極側母線の寄生インダクタンスである。
【0041】
また、Luvpは、U相インバータ19UとV相インバータ19Vとの間の正極側母線の寄生インダクタンス、LvpはV相インバータ19Vの上相のスイッチング素子18Bのコレクタと正極側母線との間の寄生インダクタンス、LvnはV相インバータ19Vの下相のスイッチング素子18Eのエミッタと負極側母線との間の寄生インダクタンス、LuvnはU相インバータ19UとV相インバータ19Vとの間の負極側母線の寄生インダクタンスである。
【0042】
更に、Lvwpは、V相インバータ19VとW相インバータ19Wとの間の正極側母線の寄生インダクタンス、LwpはW相インバータ19Wの上相のスイッチング素子18Cのコレクタと正極側母線との間の寄生インダクタンス、LwnはW相インバータ19Wの下相のスイッチング素子18Fのエミッタと負極側母線との間の寄生インダクタンス、LvwnはV相インバータ19VとW相インバータ19Wとの間の負極側母線の寄生インダクタンスである。三相インバータ回路28の上記のような寄生インダクタンスの値は予め測定され、制御部21の線間変調演算部34が有するメモリ35に格納されているものとする。
【0043】
(6)サージ電圧が起きる仕組み
次に、
図5を参照しながら
図4の等価回路でサージ電圧が起きる仕組みについて説明する。上述した如く三相インバータ回路28の電気回路にはUVWの各相において異なる寄生インダクタンスが存在するため、各スイッチング素子18A〜18FのONからOFFに切り換わるときに、当該スイッチング素子に電流が流れていると、サージ電圧が発生する。
【0044】
例えば今、
図5中の状態1に示すようにUVWの各相のインバータ19U〜19Wの上相のスイッチング素子18A〜18CがONし、下相のスイッチング素子18D〜18FがOFFしており、図中矢印で示すように電流が流れているものとする。尚、図中に丸で囲んだスイッチング素子がONしているものとする。
【0045】
この状態1から状態2に示すようにU相インバータ19Uの上相のスイッチング素子18AがOFFし、下相のスイッチング素子18DがONすると、状態2の寄生インダクタンスLupに破線矢印で示す方向の電流iuが流れるため、サージ電圧1が発生する。このサージ電圧1の値は、iu*Lup/Δtとなる。ここで、ΔtはIGBTのスイッチング速度に依存する係数であり、U相、V相、W相の各上下相合わせて6相のIGBTスイッチング速度が同一である場合を例として、6相全てΔtを共通に与えて記載するが、Δtが共通である場合には限定しない。6相のスイッチング速度が全て異なる場合は、それぞれに異なるΔtを与えることで、同様に考えることができる。
【0046】
次に、状態2からW相インバータ19Wの上相のスイッチング素子18CがOFFし、下相のスイッチング素子19FがONすると、状態3のようになる。このとき、状態2でスイッチング素子18Cに流れていた電流はマイナスであったため、寄生インダクタンスLwpにはサージ電圧は発生しない。実際にはサージ電圧には様々な要因が考えられるが、ここではサージ電圧としてはIGBT導通電流をOFFするときに発生するものが優位である場合を例としている。
【0047】
この状態3から状態4に示すようにV相インバータ19Vの上相のスイッチング素子18BがOFFし、下相のスイッチング素子18EがOFFすると、状態4の寄生インダクタンスLinpと寄生インダクタンスLvpと寄生インダクタンスLuvpに破線矢印で示す方向の電流ivが流れるため、サージ電圧2が発生する。このサージ電圧2の値は、iv*(Linp+Lvp+Luvp)/Δtとなる。ここで、もしもiv*(Linp+Lvp+Luvp)>iu*Lupであるならば、サージ電圧2はサージ電圧1よりも大きくなる。
【0048】
(7)線間変調演算部34の動作
次に、
図6〜
図9を参照しながら制御部21の線間変調演算部34における二相変調電圧指令値U、V、Wの演算/算出動作について詳細に説明する。
【0049】
(7−1)電圧最大相及び電圧最小相のサージ電圧値の計算方法
線間変調演算部34は、各スイッチング素子18A〜18Fのスイッチング毎に、電圧最大相と電圧最小相のサージ電圧値を計算し、それらの大小を比較している。ここで、電圧最大相とは、相電圧指令演算部33が算出した三相変調電圧指令値U’(U相電圧指令値)、V’(V相電圧指令値)、W’(W相電圧指令値)のうち(
図9の最上段参照)、最大の電圧指令値の相を意味し、電圧最小相とは、同じく相電圧指令演算部33が算出した三相変調電圧指令値U’(U相電圧指令値)、V’(V相電圧指令値)、W’(W相電圧指令値)のうち、最小の電圧指令値の相を意味する。
【0050】
例えば、三角波キャリアにて出力するPWMの場合で、上相の各スイッチング素子18A〜18CをONとしてPWM動作がスタートする場合、線間変調演算部34は、電圧最大相がU相の時(U相電圧指令値U’が最大の時)、U相電流iuの向きが正の時は、iu*Linup/Δtでサージ電圧値を算出する。
また、U相電流iuの向きが負の時は、iv*Lvun/Δt+iw*Lwun/Δtでサージ電圧値を算出する(但し、iv<0の時iv=0、iw<0の時iw=0、iv>−iuの時iv=−iu、iw>−iuの時iw=−iuとする)。
【0051】
電圧最大相がV相の時(V相電圧指令値V’が最大の時)、V相電流ivの向きが正の時は、iv*Linvp/Δtでサージ電圧値を算出する。
また、V相電流ivの向きが負の時は、iu*Luvn/Δt+iw*Lwvn/Δtでサージ電圧値を算出する(但し、iw<0の時iw=0、iu<0の時iu=0、iu>−ivの時iu=−iv、iw>−ivの時iw=−ivとする)。
【0052】
電圧最大相がW相の時(W相電圧指令値W’が最大の時)、W相電流iwの向きが正の時は、iw*Linwp/Δtでサージ電圧値を算出する。
また、W相電流iwの向きが負の時は、iv*Lvwn/Δt+iu*Luwn/Δtでサージ電圧値を算出する(但し、iv<0の時iv=0、iu<0の時iu=0、iu>−iwの時iu=−iw、iv>−iwの時iv=−iwとする)。
【0053】
更に、線間変調演算部34は、電圧最小相がU相の時(U相電圧指令値U’が最小の時)、U相電流iuの向きが正の時は、(−iv)*Lvup/Δt+(−iw)*Lwup/Δtでサージ電圧値を算出する。(但し、iv>0の時iv=0、iw>0の時iw=0、−iv>iuの時iv=−iu、−iw>iuの時iw=−iuとする)。
また、U相電流iuの向きが負の時は、(−iu)*Linun/Δtでサージ電圧値を算出する。
【0054】
電圧最小相がV相の時(V相電圧指令値V’が最小の時)、V相電流ivの向きが正の時は、(−iu)*Luvp/Δt+(−iw)*Lwvp/Δtでサージ電圧値を算出する。(但し、iw>0の時iw=0、iu>0の時iu=0、−iu>ivの時iu=−iv、−iw>ivの時iw=−ivとする)。
また、V相電流ivの向きが負の時は、(−iv)*Linvn/Δtでサージ電圧値を算出する。
【0055】
電圧最小相がW相の時(W相電圧指令値W’が最小の時)、W相電流iwの向きが正の時は、(−iv)*Lvwp/Δt+(−iu)*Luwp/Δtでサージ電圧値を算出する。(但し、iv>0の時iv=0、iu>0の時iu=0、−iu>iwの時iu=−iw、−iv>iwの時iv=−iwとする)。
また、W相電流iwの向きが負の時は、(−iw)*Linwn/Δtでサージ電圧値を算出する。
【0056】
尚、上記において、Lvup=Lup、Lwup=Lup、Luvp=Luvp+Lvp、Lwvp=Lvp、Luwp=Luvp+Lvwp+Lwp、Lvwp=Lvwp+Lwpである。
また、Lvun=Luvn+Lvn、Lwun=Luvn+Lvwn+Lwn、Luvn=Lun、Lwvn=Lvwn+Lwn、Luwn=Lun、Lvwn=Lvnである。
また、Linup=Linp+Lup、Linvp=Linp+Luvp+Lvp、Linwp=Linp+Luvp+Lvwp+Lwpである。
また、Linun=Linn+Lun、Linvn=Linn+Luvn+Lvn、Linwn=Linn+Luvn+Lvwn+Lwnである。
【0057】
以上が纏めて
図6に示されている。ここで、先に説明した
図5のサージ電圧1は、前述した電圧最小相がU相の時であって、U相電流iuの向きが正の時である。この時、サージ電圧1は、(−iv)*Lvup/Δt+(−iw)*Lwup/Δtで算出されるが、ivは正であるのでiv=0となり、−iw>iuであるのでiw=−iuとなる。従って、(−iv)*Lvup/Δt+(−iw)*Lwup/Δtは、iu*Lwup/Δtと書き換わり、Lwup=Lupであるので、サージ電圧1はiu*Lup/Δtとなる。
【0058】
また、先に説明した
図5のサージ電圧2は、前述した電圧最大相がV相の時であって、V相電流ivの向きが正の時である。この時、サージ電圧2は、iv*Linvp/Δtで算出されるが、Linvp=Linp+Luvp+Lvpであるので、サージ電圧2はiv*(Linp+Lvp+Luvp)/Δtとなる。
【0059】
(7−2)線間変調演算部34による二相変調動作
以上のように線間変調演算部34は三相変調電圧指令値U’、V’、W’のうちの最大相(電圧最大相)のサージ電圧値と最小相(電圧最小相)のサージ電圧値をスイッチング毎に算出し、それらの大小関係を比較している。そして、大きい方の相をサージ電圧値が最大となる相として導出する。次に、このサージ電圧値最大相のスイッチング素子のON/OFF状態をON状態(電圧最大相の場合)、又は、OFF状態(電圧最小相の場合)に固定させ、他の相のスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値U(U相電圧指令値)、V(V相電圧指令値)、W(W相電圧指令値)を演算し、出力する。これにより、サージ電圧最大相のスイッチング素子のスイッチングを抑制する。
【0060】
図7は係る本発明の実施例の二相変調方式によるU相電圧指令値U、V相電圧指令値V、W相電圧指令値Wと、それらでPWM制御した場合の各相で発生するサージ電圧を示している。尚、線間変調演算部34が演算する二相変調電圧指令値U、V、Wとは、モータ8の二相変調制御を行うための電圧指令値の正規化後(−1〜1に補正後)の値である。
【0061】
また、
図9には相電圧指令演算部33が算出した三相変調電圧指令値U’、V’、W’で各スイッチング素子18A〜18FをPWM制御する三相変調方式の場合に各相で発生するサージ電圧値も示す(S1は上相、S2は下相。以下、同じ)。また、
図8は
図7の本発明の実施例の二相変調方式の場合と比較するため、通常の二相変調方式で算出された二相変調電圧指令値U、V、WでPWM制御した場合に各相で発生するサージ電圧値を示している。この通常の二相変調方式とは、相電圧指令演算部33が算出した各相の三相変調電圧指令値U’、V’、W’を比較し、絶対値が最大となる相のスイッチング素子18A〜18FのON/OFF状態をON、又は、OFF状態に固定させ、当該スイッチング素子18A〜18Fのスイッチングを抑制するものである。
【0062】
図9の三相変調方式の場合、各相でサージ電圧値MAX1〜MAX5のサージ電圧が発生しており、特に、W相では最も大きいサージ電圧値MAX4のサージ電圧が発生していることが分かる(尚、この図でMAXで示す値は各サージ電圧値のピーク値である。以下、同じ)。
【0063】
一方、
図8の通常の二相変調方式の場合、
図9の三相変調方式のときのサージ電圧値MAX1〜MAX5が発生するタイミングでスイッチング素子がON、又は、OFF状態に固定されるため、サージ電圧値MAX1はサージ電圧値MAX6に、サージ電圧値MAX2はサージ電圧値MAX7に、サージ電圧値MAX3はサージ電圧値MAX8に、サージ電圧値MAX4はサージ電圧値MAX9に、サージ電圧値MAX5はサージ電圧値MAX10に、それぞれピーク値が下げられることが分かる。
【0064】
他方、
図7の本発明の実施例の二相変調方式の場合、前述したように電圧最大相のサージ電圧値と電圧最小相のサージ電圧値の大小関係を比較し、大きい方の相をサージ電圧値が最大となる相として導出し、当該サージ電圧値最大相のスイッチング素子のON/OFF状態をON状態(電圧最大相の場合)、又は、OFF状態(電圧最小相の場合)に固定し、当該スイッチング素子のスイッチングを抑制するため、
図8のt1の時点で電圧最大相であるV相のサージ電圧値MAX7が電圧最小相であるU相のサージ電圧値(
図8中にMAX15で示す)よりも大きいことから、V相のスイッチング素子のON状態が
図7のt2まで延長されることになる。これにより、
図8のV相のサージ電圧値MAX7は、
図7ではサージ電圧値MAX11まで下げられることが分かる。
【0065】
また、
図8のt3の時点で電圧最大相であるW相のサージ電圧値MAX9が電圧最小相であるV相のサージ電圧値(
図8中にMAX16で示す)よりも大きいため、W相のスイッチング素子のON状態が
図7のt4まで延長されることになる。これにより、
図8のV相のサージ電圧値MAX9は、
図7ではサージ電圧値MAX13まで下げられる。
【0066】
更に、
図8のt5の時点で電圧最小相であるW相のサージ電圧値MAX10が電圧最大相であるV相のサージ電圧値(
図8中にMAX17で示す)よりも大きいため、W相のスイッチング素子のOFF状態が
図7のt6まで延長されることになる。これにより、
図8のW相のサージ電圧値MAX10は、
図7ではサージ電圧値MAX14まで下げられることになる。即ち、本発明の実施例の二相変調方式によれば、通常の二相変調方式に比べても更にサージ電圧値のピークが抑制されることが分かる。
【0067】
以上詳述した如く、本発明では三相インバータ回路28の寄生インダクタンスとモータ8の相電流(iu、iv、iw)からUVWの各相のサージ電圧値を算出し、このサージ電圧値が最大となる相を導出して、当該サージ電圧値最大相のスイッチング素子のスイッチングを抑制するようにしたので、予め把握される回路の寄生インダクタンスと、モータ8に流れている相電流からサージ電圧値が最大となる相を導出し、当該サージ電圧値が最大となる相において、サージ電圧が発生する原因であるスイッチング素子18A〜18Fのスイッチングそのものを抑制することができるようになる。
【0068】
これにより、回路に生じるサージ電圧を効果的に抑制することができるようになる。特に、実施例の如く電動圧縮機16の圧縮機構7を駆動するモータ8に適用される電力変換装置1では、構造が複雑になるために回路の寄生インダクタンスは各相毎に異なって来るので、本発明は極めて有効なものとなる。
【0069】
更に、実施例ではモータ8に印加する三相変調電圧指令値U’、V’、W’を演算する相電圧指令演算部33と、三相変調電圧指令値U’、V’、W’に基づき、三相インバータ回路28の所定の一相のスイッチング素子のON/OFF状態をPWMなどの規定区間にて固定させると共に、他の二相のスイッチング素子のON/OFF状態を変調させる二相変調電圧指令値U、V、Wを演算する線間変調演算部34と、二相変調電圧指令値U、V、Wに基づき、三相インバータ回路28をPWM制御するPWM信号を生成するPWM信号生成部36を設け、線間変調演算部34が、回路の寄生インダクタンスとモータ8の相電流から各相のサージ電圧値を算出し、このサージ電圧値が最大となる相を導出して、当該サージ電圧値最大相のスイッチング素子をON、又は、OFF状態に固定するようにしているので、二相変調方式を用いてサージ電圧値が最大となる相のスイッチング素子のスイッチングを的確に抑制することができるようになる。
【0070】
この場合、実施例では線間変調演算部34が、三相変調電圧指令値U’、V’、W’の最大相(電圧最大相)と最小相(電圧最小相)のサージ電圧値を比較し、大きい方の相のスイッチング素子をON、又は、OFF状態に固定するようにしているので、二相変調方式によるモータ8のPWM制御を支障無く行いながら、回路に生じるサージ電圧を効果的に抑制することができるようになる。
【0071】
尚、
図4で示した等価回路や
図6で纏めて示した計算方法は一例であり、三相インバータ回路28の電気回路配線が異なれば、異なる等価回路となり、サージ電圧値の計算方法も異なって来る。また、実施例では上相の各スイッチング素子18A〜18CをONとしてスタートする場合のサージ電圧値の計算方法を示したが、下相の各スイッチング素子18D〜18FをONとしてスタートする場合は異なる計算方法となる。
【0072】
また、実施例では各相のモータ電流(相電流)であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwをカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bで測定するようにしたが、それに限らず、シャント抵抗、その他の方法でモータ電流(相電流)を測定してもよい。更に、実施例では電動圧縮機16のモータ8を駆動制御する電力変換装置1に本発明を適用したが、請求項5以外の発明ではそれに限らず、各種機器のモータの駆動制御に本発明は有効である。