(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1角度測定器は、前記第1方向がスリット幅方向と一致する第1スリットと、前記第1スリットを通過するビーム成分の前記第1方向の角度分布を測定するための第1電荷検出部と、を有し、
前記第2角度測定器は、前記第2方向がスリット幅方向と一致する第2スリットと、前記第2スリットを通過するビーム成分の前記第2方向の角度分布を測定するための第2電荷検出部と、を有することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
前記相対移動機構は、前記イオンビームを前記相対移動方向に偏向させるビーム偏向装置であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記ビーム偏向装置は、前記ウェハへのビーム照射時に前記イオンビームを往復走査させるためのビーム走査器であることを特徴とする請求項5に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1方向の角度情報および前記第2方向の角度情報からベクトル演算により前記第3方向の角度情報を算出することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1方向の角度情報および前記第2方向の角度情報に基づいて、前記イオンビームの二次元角度分布情報を算出することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1方向の角度情報および前記第2方向の角度情報に基づいて、前記ウェハへのビーム照射時に前記イオンビームを往復走査させるビーム走査方向の角度情報と、前記ウェハへのビーム照射時に前記ウェハを往復運動させる往復運動方向の角度情報を算出することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記第1角度測定器および前記第2角度測定器は、前記イオンビームの前記第3方向のビーム幅全体を測定対象とするよう構成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記第1角度測定器および前記第2角度測定器の少なくとも一方は、前記第3方向の測定対象範囲にわたって連続的に延びる単一スリットを有することを特徴とする請求項10に記載のイオン注入装置。
前記第1角度測定器および前記第2角度測定器の少なくとも一方は、前記第3方向に並んで配置される複数の角度測定部に分割されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記複数の角度測定部のそれぞれは、前記第3方向に隣接する二つの角度測定部の測定対象範囲が前記第3方向に重ならないように配置されることを特徴とする請求項12に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記複数の角度測定部のそれぞれで測定される部分的な角度情報を統合して前記第1方向の角度情報および前記第2方向の角度情報の少なくとも一方を算出することを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記第1角度測定器および前記第2角度測定器は、前記第1方向と前記第2方向が互いに斜めに交差するように構成されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
図1は、本発明のある実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置である。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオン源10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハW)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段線形加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハWまで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを半導体ウェハに注入する基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0014】
イオンビーム生成ユニット12は、イオン源10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオン源10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有する。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段線形加速ユニット14の入り口部内に配置される。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段線形加速ユニット14に導かれる。
【0015】
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器を挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bを追加的に備えてもよい。高エネルギー多段線形加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0016】
イオンビームを高エネルギーまで加速する高周波方式の高エネルギー多段線形加速ユニット14を出た高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、高エネルギー多段線形加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームをビーム走査およびビーム平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0017】
ビーム偏向ユニット16は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、軌道補正、エネルギー分散の制御を行う。ビーム偏向ユニット16は、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と、少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットと、少なくとも一つのエネルギー分析スリットと、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析と、イオン注入角度の精密な補正と、エネルギー分散の抑制とを行うよう構成されている。
【0018】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハWの方向へ向かう。
【0019】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するビームライン装置であり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段線形加速ユニット14とを合計した長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0020】
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向と直角方向に動かすプラテン駆動装置40が設けられる。また、基板搬送処理ユニット20には、イオンビームBのビーム電流および角度分布を測定するための測定装置50が設けられる。測定装置50は、第1角度測定器51および第2角度測定器52を含むビーム測定機構54と、移動機構56と、制御部58とを備える。ビーム測定機構54は、例えば、矢印Xで示される方向に移動してイオン注入中にウェハWが配置される「注入位置」に挿入可能となるよう構成され、注入位置におけるイオンビームの角度分布を測定する。測定装置50の詳細は別途後述する。
【0021】
イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンビーム生成ユニット12で生成されたイオンビームBを加速する複数のユニットで構成される。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハWに注入する複数のユニットで構成される。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間には、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0022】
図2は、基板搬送処理ユニット20の構成を詳細に示す側面図であり、最終エネルギーフィルタ38から下流側の構成を示す。イオンビームBは、最終エネルギーフィルタ38の角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)電極64にて下方に偏向されて基板搬送処理ユニット20に入射する。基板搬送処理ユニット20は、イオン注入工程が実行される注入処理室60と、ウェハWを搬送するための搬送機構が設けられる基板搬送部62とを含む。注入処理室60および基板搬送部62は、基板搬送口61を介してつながる。
【0023】
注入処理室60は、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置40を備える。プラテン駆動装置40は、ウェハ保持装置42と、往復運動機構44と、ツイスト角調整機構46と、チルト角調整機構48とを含む。ウェハ保持装置42は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構44は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置42を往復運動させることにより、ウェハ保持装置42に保持されるウェハWをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印Y1によりウェハWの往復運動を例示する。
【0024】
ツイスト角調整機構46は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構46は、ウェハ保持装置42と往復運動機構44の間に設けられ、ウェハ保持装置42とともに往復運動される。
【0025】
チルト角調整機構48は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームBの進行方向(z方向)とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構48は、往復運動機構44と注入処理室60の壁面の間に設けられており、往復運動機構44を含むプラテン駆動装置40全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0026】
注入処理室60には、イオンビームBの軌道に沿って上流側から下流側に向けて、エネルギースリット66、プラズマシャワー装置68、ビームダンパ63が設けられている。注入処理室60には、イオン注入中にウェハWが配置される注入位置に挿入可能となるビーム測定機構54が設けられる。図面において、注入位置に挿入されたときのビーム測定機構54の位置を破線で示している。
【0027】
エネルギースリット66は、AEF電極64の下流側に設けられ、AEF電極64とともにウェハWに入射するイオンビームBのエネルギー分析をする。エネルギースリット66は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット66は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームBをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0028】
プラズマシャワー装置68は、エネルギースリット66の下流側に位置する。プラズマシャワー装置68は、イオンビームBのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハ処理面に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置68は、例えば、イオンビームBが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0029】
ビームダンパ63は、ビーム軌道の最下流に設けられ、例えば、基板搬送口61の下方に取り付けられる。したがって、ビーム軌道上にウェハWやビーム測定機構54が存在しない場合、イオンビームBはビームダンパ63に入射する。ビームダンパ63には、上述のビーム測定機構54とは別のビーム測定装置が設けられてもよい。
【0030】
ビーム測定機構54は、ウェハWの表面(ウェハ処理面)におけるイオンビームBのビーム電流や角度情報を測定する。ビーム測定機構54は、可動式となっており、注入時にはウェハ位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときにウェハ位置に挿入される。ビーム測定機構54は、例えば、
図1に示す移動機構56によりx方向に移動可能となるよう構成される。
【0031】
図3は、ビーム測定機構54の構成を模式的に示す平面図であり、ビーム進行方向(z方向)に見たときの第1角度測定器51および第2角度測定器52の配置構成を示す。第1角度測定器51は、第1方向(例えば、矢印A1で示される方向)の角度情報を測定するよう構成され、第2角度測定器52は、第2方向(例えば、矢印A2で示される方向)の角度情報を測定するよう構成される。ここで「第1方向」は、ビーム進行方向(z方向)と直交する方向の一つであり、図示する例ではイオンビームBの走査方向(x方向)である。また「第2方向」は、ビーム進行方向と直交し、かつ、第1方向と交差する方向の一つであり、図示する例では第1方向に対して角度θで斜めに交差する方向である。「第2方向」は、ビーム進行方向および所定の相対移動方向と直交する第3方向(例えばy方向)とは異なる方向となるように設定される。ここで、所定の相対移動方向とは、イオンビームBに対してビーム測定機構54の相対位置を変化する方向であり、詳細は別途後述する。図示する例において、第1方向と第2方向のなす角度θは45°である。
【0032】
第1角度測定器51は、スリット幅方向が第1方向と一致する第1スリット70と、第1スリット70を通過するビーム成分の第1方向の角度分布を測定するための第1電荷検出部74(
図4参照)とを有する。第1スリット70は、第1端部71から第2端部72までy方向に連続的に延在し、第1端部71から第2端部72までにわたる測定範囲Cに入射するイオンビームBを測定対象とする。測定範囲Cのy方向の長さは、例えば、イオンビームBのy方向のビーム径よりも大きく設定され、イオンビームBのy方向のビーム幅全体が測定対象となるように設定される。
【0033】
図4は、第1角度測定器51の内部構成を模式的に示す断面図であり、
図3のD−D線断面に対応する。第1角度測定器51は、第1スリット70からビーム進行方向(z方向)に離れた位置に設けられる第1電荷検出部74を有する。第1電荷検出部74は、第1スリット70のスリット幅方向(つまり、第1方向またはx方向)に並んで配置される複数の第1電極76を含む。複数の第1電極76は、例えば、隣接する電極のピッチpが第1スリット70のスリット幅wと同じとなるように構成される。第1角度測定器51は、複数の第1電極76のそれぞれで検出される電流量に基づいて、入射するイオンビームBの角度δを測定する。第1角度測定器51の角度分解能は、例えば、1°以下となるように構成され、好ましくは0.5°以下、より好ましくは0.1°程度となるように構成される。
【0034】
図3に戻り、第2角度測定器52は、複数の角度測定部52a,52b,52cにより構成される。複数の角度測定部52a〜52cのそれぞれは、スリット幅方向が第2方向と一致する第2スリット80a,80b,80c(総称して第2スリット80ともいう)と、第2スリット80a〜80cのそれぞれを通過するビーム成分の第2方向の角度分布を測定するための第2電荷検出部(不図示)とを有する。複数の角度測定部52a〜52cのそれぞれは、
図4に示す第1角度測定器51と同様に構成される。角度測定部52a〜52cのそれぞれの第2電荷検出部は、第2スリット80からビーム進行方向(z方向)に離れた位置に設けられ、第2スリット80のスリット幅方向(つまり、第2方向)に並んで配置される複数の第2電極を含む。各角度測定部52a〜52cの角度分解能は、例えば、1°以下となるように構成され、好ましくは0.5°以下、より好ましくは0.1°程度となるように構成される。
【0035】
複数の角度測定部52a〜52cは、第3方向(例えばy方向)に並んで配置される。複数の角度測定部52a〜52cは、それぞれの測定範囲C1〜C3がy方向に連続して並ぶように配置され、かつ、それぞれの測定範囲C1〜C3がy方向に重ならないように配置される。これにより、第2角度測定器52は、全体の測定範囲Cにわたってy方向に連続した単一スリットを有する角度測定器と同等の測定を実現する。斜め方向に延びる第2スリット80を有する第2角度測定器52を複数に分割することで、単一の連続的に延びる第2スリットを設ける場合よりも第2角度測定器52が占めるx方向のサイズを小さくでき、ビーム測定機構54を小型化できる。
【0036】
図示する構成において、第2角度測定器52は、三つの角度測定部52a〜52cに分割される。第2角度測定器52は、y方向に順に並べられる上側角度測定部52a、中央角度測定部52b、下側角度測定部52cを含む。上側角度測定部52aの第2スリット80aの第1端部81aは、第1スリット70の第1端部71とy方向の位置が一致している。上側角度測定部52aの第2スリット80aの第2端部82aは、中央角度測定部52bの第2スリット80bの第1端部81bとy方向の位置が一致している。同様に、中央角度測定部52bの第2スリット80bの第2端部82bは、下側角度測定部52cの第2スリット80cの第1端部81cとy方向の位置が一致している。また、下側角度測定部52cの第2スリット80cの第2端部82cは、第1スリット70の第2端部72とy方向の位置が一致している。このような配置関係とすることにより、第1角度測定器51と第2角度測定器52の測定範囲Cを一致させるとともに、複数の角度測定部52a〜52cの測定範囲C1〜C3をy方向に重複なく連続させることができる。
図3では、第2角度測定器52の複数の角度測定部52a〜52cの第2スリット80a〜80cのx方向の位置を互いに一致させているが、第2スリット80a〜80cの位置は互いにx方向にずれていてもよい。
【0037】
なお、第2角度測定器52の分割数は3に限られず、分割数が2であってもよいし、4以上であってもよい(例えば、後述の
図6)。また、第2角度測定器52を分割しなくてもよく、全体の測定範囲Cにわたって連続的に延びる単一の第2スリット80を有する第2角度測定器52を用いてもよい(例えば、後述の
図7)。また、第1角度測定器51をy方向に分割される複数の角度測定部で構成してもよい。
【0038】
ビーム測定機構54は、イオンビームBに対するビーム測定機構54の相対位置を所定の相対移動方向に変化させながらビームの角度情報を測定する。これにより、ビーム測定機構54は、所定の相対移動方向の全体にわたってイオンビームBを測定する。ビーム測定機構54の相対移動方向は、上述の第1方向および第2方向の双方と直交しない方向であり、例えば、上述の第1方向(例えばx方向)と一致する方向である。したがって、ビーム測定機構54の相対移動方向は、第1スリット70および第2スリット80が延びる方向と一致しない方向であるということもできる。
【0039】
イオンビームBに対するビーム測定機構54の相対移動は、複数の方法で実現できる。例えば、イオンビームBが静止したままビーム測定機構54を所定の相対移動方向に移動させてもよい。この場合、
図1の移動機構56を相対移動機構として使用し、ビーム測定機構54の位置を第1方向に移動させてもよい。一方で、ビーム測定機構54が静止したままイオンビームBを所定の相対移動方向に偏向させてもよい。この場合、
図1のビーム走査器34などのビーム偏向装置を相対移動機構として使用し、イオンビームBを第1方向に走査させてもよい。その他、イオンビームBをx方向に走査させながらビーム測定機構54をx方向に移動させることにより、イオンビームBに対するビーム測定機構54の相対移動を実現してもよい。
【0040】
第1角度測定器51は、イオンビームBに対して第1方向(例えば、x方向)に相対移動しながらイオンビームBの第1方向の角度分布を測定する。第1角度測定器51は、イオンビームBの第1方向のビーム幅よりも大きい範囲にわたって相対移動することにより、イオンビームBのx方向およびy方向の双方のビーム幅全体にわたって第1方向の角度分布を測定する。同様に、第2角度測定器52は、イオンビームBに対して第1方向(例えば、x方向)に相対移動しながらイオンビームBの第2方向の角度分布を測定する。第2角度測定器52は、イオンビームBの第1方向のビーム幅と第2スリット80のx方向の範囲とを足した距離よりも大きい範囲にわたって相対移動することにより、イオンビームBのx方向およびy方向の双方のビーム幅全体にわたって第2方向の角度分布を測定する。
【0041】
制御部58は、第1角度測定器51にて測定される第1方向の角度情報と、第2角度測定器52にて測定される第2方向の角度情報とに基づいて、ビーム進行方向および相対移動方向の双方に直交する第3方向(例えばy方向)の角度情報を算出する。制御部58は、例えば、イオンビームBの第1方向の角度分布および第2方向の角度分布を用いて、イオンビームBの第3方向の角度分布を算出する。制御部58は、イオンビームBの二次元角度分布を算出してもよく、例えば、x方向およびy方向の二次元の角度分布を算出してもよい。以下、制御部58による角度分布の算出方法について説明する。
【0042】
図5は、イオンビームBの二次元角度分布90と、測定または算出される一次元の角度分布91,92,93とを模式的に示す図である。
図5の中央に模式的に示されるように、イオンビームBはx方向およびy方向に広がる二次元角度分布90を有しうる。
図5において、x方向の角度成分をx’と表記し、y方向の角度成分をy’と表記している。イオンビームBの二次元角度分布90は、典型的には二次元の正規分布(ガウス分布)であり、その分布形状はx方向およびy方向の標準偏差σの大きさで特定できる。x方向およびy方向の標準偏差σ
x’,σ
y’の大きさは、二次元角度分布90の円形または楕円形の等高線のx方向およびy方向の軸の長さに対応する。例えば、二次元角度分布90の標準偏差に対応する等高線Eは、x’およびy’の二次元座標上で(x’/σ
x’)
2+(y’/σ
y’)
2=1と表すことができる。なお、本実施の形態において、二次元角度分布90は、直接的に測定されるものではなく、二次元の正規分布を仮定することにより、第1方向(x方向)の角度分布91および第2方向(t方向)の角度分布92から算出される。
【0043】
図5の下方に示されるx方向の角度分布91は、二次元角度分布90をy方向に積分してx軸上に投影したものであり、第1角度測定器51により測定可能な第1方向の角度分布に対応する。x方向の角度分布91は、y方向の角度情報を含まないが、二次元角度分布90のx方向の角度情報を含む。したがって、x方向の角度分布91に基づいて二次元角度分布90におけるx方向の角度情報(例えば、x方向の標準偏差σ
x’)を算出できる。例えば、第1角度測定器51にて測定された第1方向の角度分布の測定値に対して正規分布をフィッティングすることで、x方向の角度分布に関するパラメータ(例えば、x方向の標準偏差σ
x’)を求めることができる。
【0044】
図5の右上に示される角度分布92は、x方向に対して角度θで斜めに交差する第2方向(t方向)の角度分布であり、二次元角度分布90をt軸上に投影したものである。t方向の角度分布92は、第2角度測定器52により測定可能な第2方向の角度分布に対応する。t方向の角度分布92からは、二次元角度分布90におけるt方向の角度情報(例えば、t方向の標準偏差σ
t’)を算出できる。例えば、第2角度測定器52にて測定された第2方向の角度分布の測定値に対して正規分布をフィッティングすることで、t方向の角度分布に関するパラメータ(例えば、t方向の標準偏差σ
t’)を求めることができる。
【0045】
このようにして算出したx方向およびt方向の角度情報を用いることで、y方向の角度情報を算出または推定できる。t方向の角度情報は、x方向およびy方向の角度情報をベクトル的に合成したものに対応するため、t方向の角度情報からx方向の角度情報を除外することで、y方向の角度情報を求めることができる。例えば、x方向およびt方向の標準偏差σ
x’,σ
t’に基づいて、二次元角度分布90のy方向の標準偏差σ
y’を推定できる。例えば、x方向およびy方向の角度成分が互いに独立であると仮定した場合、x方向、y方向およびt方向の標準偏差σ
x’,σ
y’,σ
t’について、以下の式(1)が成立する。
【数1】
上記の式(1)は、例えば、イオンビームBを構成する個別のイオン粒子の進行方向をベクトルとして解釈し、x方向およびy方向の角度成分が互いに独立であるという仮定の下で、イオン粒子のt方向の角度成分をベクトル演算により求めることで導出できる。
【0046】
したがって、既知の標準偏差σ
x’、σ
t’に対応する未知のy方向の標準偏差σ
y’は、以下の式(2)を用いて得ることができる。
【数2】
式(2)を用いることにより、
図5の左側に示されるy方向の角度分布93を求めることができる。また、
図5の中央に示される二次元角度分布90を求めることもできる。
【0047】
なお、x方向およびt方向の角度分布91,92からy方向の角度分布93または二次元角度分布90を算出する具体的な方法は上記に限られず、他の手法を用いることができる。例えば、x方向およびy方向の角度成分が互いに独立であると仮定し、x方向、t方向およびy方向の角度分布91〜93の分布形状が互いに整合するように最適化計算を実行することにより、y方向の角度分布93を算出してもよい。この場合、二次元角度分布90が二次元正規分布であるという制約条件とは異なる条件に基づいて、y方向の角度分布93を算出してもよい。例えば、t方向の角度分布92とy方向の角度分布93の相関を示すベクトル関数をあらかじめ求めておき、そのベクトル関数を用いてy方向の角度分布93を算出してもよい。
【0048】
x方向およびt方向の角度分布に基づいてy方向の角度分布を算出する場合、x方向とt方向のなす角度θは任意であるが、角度θが大きい(90°に近い)ほどy方向の角度分布の算出精度を高めることができる。具体的には、x方向とt方向のなす角度θは、30°以上であることが好ましく、45°以上または60°以上であることがより好ましい。その一方で、角度θを90°に近づけすぎると、第2角度測定器52のx方向の長さが非常に大きくなり、第2角度測定器52を用いてy方向のビーム幅全体にわたってイオンビームBを測定することが困難となる。したがって、角度θは85°以下であることが好ましく、80°以下または75°以下であることがより好ましい。
【0049】
本実施の形態によれば、イオンビームBに対してビーム測定機構54を一方向に相対移動させるだけで、イオンビームBのx方向およびy方向の双方の角度情報を求めることができる。一般に、所定のビーム幅を有するイオンビームBの全体の角度分布を測定する場合、スリットをスリット幅方向にビーム幅全体にわたって相対移動させる必要がある。二次元の角度情報を得るためには、x方向の角度測定器をx方向に相対移動させ、y方向の角度測定器をy方向に相対移動させなければならず、互いに直交する二方向の相対移動を要する。一方、本実施の形態によれば、x方向に対して斜めに交差するt方向の角度測定器を用いることにより、x方向に相対移動させるだけで、x方向およびt方向の角度測定器の双方がビーム幅全体を測定できる。さらに、測定した二方向の角度情報から直接的に測定していないy方向の角度情報を算出することができる。したがって、本実施の形態によれば、互いに直交する二方向の角度情報を取得するために要する測定時間を短縮化でき、二次元の角度情報を高速に取得できる。さらに、ビーム走査器34によるイオンビームBのx方向の走査により相対移動を実現することで、相対移動に要する時間を極めて短く(例えば1秒以下、数ミリ秒程度に)できる。
【0050】
図6は、変形例に係るビーム測定機構54の構成を模式的に示す平面図である。本変形例では、第1方向(A1方向)および第2方向(A2方向)のなす角度θが60°であり、第2角度測定器52が四つの角度測定部52a〜52dに分割されている。四つの角度測定部52a〜52dは、それぞれの測定範囲C1〜C4がy方向に連続して並ぶように配置され、かつ、それぞれの測定範囲C1〜C4がy方向に重ならないように配置される。本変形例によれば、上述の実施の形態よりもy方向の角度情報を高精度で算出できる。
【0051】
図7は、別の変形例に係るビーム測定機構54の構成を模式的に示す図である。本変形例では、第2角度測定器52が複数の角度測定部に分割されておらず、第1角度測定器51の測定範囲Cの全体にわたって第2角度測定器52の第2スリット80が連続的に延びるように構成される。より具体的には、第2スリット80の第1端部81は、第1スリット70の第1端部71とy方向の位置が一致し、第2スリット80の第2端部82は、第1スリット70の第2端部72とy方向の位置が一致する。本変形例では、ビーム測定機構54のx方向のサイズが大きくなるものの、上述の実施の形態と同様の作用効果を実現できる。
【0052】
図7の変形例では、第1角度測定器51および第2角度測定器52が設けられていない領域に追加のビーム測定部53が配置されてもよい。追加のビーム測定部53は、例えば、イオンビームBのビーム電流を測定するためのファラデーカップや、イオンビームBのビームプロファイルを測定するためのプロファイラなどであってもよい。ビーム測定機構54に角度測定とは異なる用途の追加のビーム測定部53を設けることで、角度情報の測定と同時にイオンビームBの他の特性を測定できる。
【0053】
図8は、別の実施の形態に係る基板搬送処理ユニット20の構成を詳細に示す側面図である。本実施の形態では、上述の実施の形態に係るビーム測定機構54の代わりに、マスクプレート152および電荷検出部154が設けられる点で上述の実施の形態と相違する。
【0054】
測定装置150は、マスクプレート152と、電荷検出部154と、移動機構156と、制御部158とを備える。マスクプレート152は、スリット幅方向が第1方向と一致する第1スリットと、スリット幅方向が第2方向と一致する第2スリットとを有する。電荷検出部154は、第1方向の角度分布を測定するための第1電荷検出部と、第2方向の角度分布を測定するための第2電荷検出部とを有する。マスクプレート152の第1スリットを通過するビームの一部は、電荷検出部154の第1電荷検出部にて検出され、第1方向の角度分布が測定される。マスクプレート152の第2スリットを通過するビームの一部は、電荷検出部154の第2電荷検出部にて検出され、第2方向の角度分布が測定される。したがって、本実施の形態では、マスクプレート152および電荷検出部154の組み合わせが第1角度測定器および第2角度測定器として機能する。
【0055】
マスクプレート152は、ウェハWの注入位置よりも上流側に配置され、例えば、エネルギースリット66よりも上流側に配置される。一方、電荷検出部154は、ウェハWの注入位置よりも下流側に配置され、例えば、ビーム軌道の最下流側となるビームダンパの位置に設けられる。マスクプレート152から電荷検出部154までのビーム進行方向(z方向)の距離を大きくすることで、測定装置150の角度分解能を高めることができる。
【0056】
マスクプレート152は、移動機構156に取り付けられ、y方向に可動となるよう構成される。移動機構156は、マスクプレート152をy方向に移動させるよう構成される。マスクプレート152は、測定時にビーム軌道上に配置され、注入時にはビーム軌道から退避される。移動機構156は、マスクプレート152をx方向に移動させるよう構成されてもよく、測定時にイオンビームBに対するマスクプレート152のx方向の相対移動を実現してもよい。
【0057】
図9(a)および(b)は、マスクプレート152および電荷検出部154の構成を示す平面図である。
図9(a)に示されるように、マスクプレート152は、スリット幅方向が第1方向と一致する第1スリット170a,170b,170c(総称して第1スリット170ともいう)と、スリット幅方向が第2方向と一致する第2スリット180a,180b(総称して第2スリット180ともいう)とを有する。図示する例において、第1スリット170a〜170cは、マスクプレート152の左方、中央、右方の三箇所に設けられ、第2スリット180a,180bは、マスクプレート152の左方および右方の二箇所に設けられる。第1スリット170および第2スリット180は、所定の測定範囲Cにわたってy方向に連続的に設けられ、y方向のスリットの長さが互いに一致するように設けられる。
【0058】
図9(b)に示されるように、電荷検出部154は、第1方向の角度分布を測定する第1電荷検出部174a,174b,174cと、第2方向の角度分布を測定する第2電荷検出部184a,184bとを有する。第1電荷検出部174a〜174cは、それぞれ第1方向に並んで配置される複数の第1電極176a,176b,176cを有する。第1電荷検出部174a〜174cは、対応する第1スリット170a〜170cとビーム進行方向(z方向)に対向する位置に設けられる。第2電荷検出部184a,184bは、それぞれ第2方向に並んで配置される複数の第2電極186a,186bを有する。第2電荷検出部184a,184bは、対応する第2スリット180a,180bとビーム進行方向(z方向)に対向する位置に設けられる。電荷検出部154は、x方向に移動可能なプロファイラとして構成されてもよい。例えば、移動機構156によりマスクプレート152のx方向の相対移動を実現する場合、マスクプレート152のx方向の移動と同期して電荷検出部154もx方向に移動させるように構成されてもよい。
【0059】
制御部158は、第1電荷検出部174a〜174cにて測定されるビームの第1方向の角度情報と、第2電荷検出部184a,184bにて測定されるビームの第2方向の角度情報とに基づいて、イオンビームBの第3方向の角度情報を算出する。制御部158は、イオンビームBの二次元角度分布を算出してもよい。本実施の形態においても、上述の実施の形態と同様の作用効果を実現できる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0061】
上述の実施の形態では、第1方向がx方向であり、第2方向がx方向に対して斜めに交差する方向であり、第3方向がy方向であり、相対移動方向がx方向である場合を中心に説明した。これらの方向について設定される具体的な方向はこれに限られるものではない。本実施の形態は、イオンビームとビーム測定機構の相対移動方向と直交する方向の角度情報を算出するために、相対移動方向と直交しない任意の第1方向および第2方向の角度情報を用いることを特徴とする。したがって、第1方向がx方向でなくてもよく、例えば、第1方向がx方向に斜めに交差する方向であってもよい。この場合、第2方向が第1方向とは異なるx方向に斜めに交差する方向であってもよい。また、第3方向がy方向でなくてもよく、ビーム進行方向と直交する方向であって、第1方向および第2方向とは異なる任意の方向であってもよい。
【0062】
図10は、変形例に係るビーム測定機構54の構成を模式的に示す平面図である。本変形例では、第1角度測定器51の角度情報の測定方向である第1方向A1および第2角度測定器52の角度情報の測定方向である第2方向A2の双方がx方向に対して斜めとなるように構成される。図示する例において、x方向に対する第1方向A1の角度θ1が10°であり、x方向に対する第2方向A2の角度θ2が45°である。このように第1方向および第2方向の双方を相対移動方向(x方向)に対して異なる角度で傾斜させることにより、上述の実施の形態と同様、x方向およびy方向のそれぞれの角度情報を算出できる。なお、相対移動方向に対する第1方向の角度θ1および第2方向の角度θ2の値の組み合わせは任意であり、例えば、10°、15°、25°、30°、45°、60°、75°および80°のいずれかから選択することができる。また、第1方向の角度θ1と第2方向の角度θ2の大きさの絶対値が互いに異なるようにしてもよいし、双方の大きさの絶対値を同じとする一方で傾斜方向(回転方向)が互いに反対となるようにしてもよい。例えば、第1方向の角度θ1と第2方向の角度θ2の値の組み合わせ(θ1,θ2)として、(+30°,−30°)、(+45°,−45°)、(+60°,−60°)のいずれかを選択してもよい。また、第1方向A1と第2方向A2のなす角度は、90°であってもよいし、90°とは異なる角度であってもよい。