特許 6982542 ブローバイガス還流装置付エンジン

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】6982542

(24)【登録日】2021年11月24日

(45)【発行日】2021年12月17日

(54)【発明の名称】ブローバイガス還流装置付エンジン

(51)【国際特許分類】

   F01M 13/00 20060101AFI20211206BHJP

【ＦＩ】

   F01M13/00 H

   F01M13/00 G

   F01M13/00 Q

【請求項の数】6

【全頁数】13

(21)【出願番号】特願2018-93010(P2018-93010)

(22)【出願日】2018年5月14日

(65)【公開番号】特開2019-199809(P2019-199809A)

(43)【公開日】2019年11月21日

【審査請求日】2020年6月24日

(73)【特許権者】

【識別番号】000001052

【氏名又は名称】株式会社クボタ

(74)【代理人】

【識別番号】100087653

【弁理士】

【氏名又は名称】鈴江 正二

(72)【発明者】

【氏名】尾曽 洋樹

(72)【発明者】

【氏名】田中 陽

(72)【発明者】

【氏名】小山 秀行

(72)【発明者】

【氏名】金子 莉菜

(72)【発明者】

【氏名】岡田 宣義

【審査官】 櫻田 正紀

(56)【参考文献】

【文献】 特開平０９−１１２３５８（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開平０３−０７４５０８（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１４−０８０９１４（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１５−１６５０９８（ＪＰ，Ａ）

【文献】 特開２０１７−０１５０８９（ＪＰ，Ａ）

【文献】 実開昭５９−０８５３０７（ＪＰ，Ｕ）

【文献】 欧州特許出願公開第００４４８４３１（ＥＰ，Ａ１）

【文献】 実開平０２−１２７７２１（ＪＰ，Ｕ）

【文献】 実公昭５９−０２４８５９（ＪＰ，Ｙ１）

(58)【調査した分野】（Int.Cl.，ＤＢ名）

Ｆ０１Ｍ １３／００

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

クランクケース内のブローバイガスを、ヘッドカバーの内部を通してから吸気系に導くように構成されているブローバイガス還流装置付エンジンであって、
前記吸気系は、エアクリーナと過給機とを接続する吸入通路における前記ヘッドカバーのブローバイガス出口部に横切って設けられるカバー吸気通路を有し、
前記カバー吸気通路はガスケットを挟んで前記ブローバイガス出口部に取付けられ、
前記ブローバイガス出口部のブローバイガス通路と前記カバー吸気通路とが、前記ガスケットに設けられた連通孔を介して連通され、
前記ブローバイガス通路の底壁に、前記ブローバイガス通路で捕捉されたオイルの落下が可能な戻し孔が設けられ、
前記底壁における前記戻し孔の周囲部分に、前記戻し孔に向かうに連れて高さが低くなる下り傾斜面が形成されているブローバイガス還流装置付エンジン。

【請求項2】

前記戻し孔からオイルの落下は許容され、かつ、前記戻し孔から前記ブローバイガス通路側への逆流は防止される戻し逆止弁が設けられている請求項１に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。

【請求項3】

前記戻し逆止弁がリード弁により構成され、前記リード弁の弁座又は弁体における前記弁座に当接する弁体先端部に弾性材がコーティングされている請求項２に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。

【請求項4】

前記底壁に、ブローバイガスの前記ブローバイガス出口部への流入は許容し、かつ、前記ブローバイガス出口部からの流出は阻止する排出逆止弁が設けられ、
前記戻し逆止弁の一対が前記排出逆止弁を挟んで設けられている請求項２又は３に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。

【請求項5】

前記戻し孔の下方に動弁装置が配置されている請求項１〜４の何れか一項に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。

【請求項6】

前記カバー吸気通路は、前記ヘッドカバーのブローバイガス出口部に設けられ、
前記底壁は、前記ブローバイガス出口部の底壁である請求項１〜５の何れか一項に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、産業用エンジン、走行車両用エンジンなどのブローバイガス還流装置付エンジンに関するものである。

【背景技術】

【0002】

クランクケース内に溜まるブローバイガスをエア吸入通路などの吸気系に還流させて、新しい混合気と混ぜて燃焼させ、そのままの状態で大気放出しないようする機構、即ち、ブローバイガス還流装置がエンジンには設けられている。ブローバイガス還流装置付エンジンでは、ブローバイガス中に含まれるオイル（オイルミスト）や水などの液体成分を極力除いてから吸気通路に戻すのが望ましい。

【0003】

そこで、従来では、液体成分がエンジン内部で捕捉され易いように、クランクケースからシリンダヘッド及びヘッドカバーを通して吸気系に戻す構成が採られることが多い。このような例としては、特許文献１において開示されたものが知られている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0004】

【特許文献1】特開２００８−１６３８３７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

一般に、ブローバイガスを吸気系に戻す配管は、エンジンの外部に露出されているので、寒さには弱い傾向がある。極低温状況では、吸気通路に還流してくるブローバイガスが、その吸気通路における新気により冷やされ、ブローバイガス中の水分が配管出口部で凍結し、それによって詰まりが生じることがあった。

【0006】

本発明の目的は、クランクケース内のブローバイガスを、ヘッドカバーの内部を通してから吸気系に導くように構成されているブローバイガス還流装置付エンジンにおいて、構造工夫により、ブローバイガス通路における吸気系に接続される終端部において凍結され難い状態とし、低温時の凍結による上記不都合が極力生じないように改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供する点にある。

【課題を解決するための手段】

【0007】

本発明は、空気を吸気マニホルドへ送る吸気系は、エアクリーナと過給機とを接続する吸入通路におけるヘッドカバーのブローバイガス出口部に横切って設けられるカバー吸気通路を有し、
カバー吸気通路はガスケットを挟んでブローバイガス出口部に取付けられ、
ブローバイガス出口部のブローバイガス通路とカバー吸気通路とが、ガスケットに設けられた連通孔を介して連通され、
ブローバイガス通路の底壁に、捕捉オイル落し用の戻し孔と、戻し孔に向かうに連れて高さが低くなる状態で戻し孔の周囲部分に形成された下り傾斜面とが設けられていることを特徴とする。
例えば、ヘッドカバーにおけるカバー吸気通路の下方にブローバイガス出口部を形成し、そのブローバイガス出口部の底壁に、前述の戻し孔と下り傾斜面とを形成する構成が挙げられる。

【発明の効果】

【0008】

ヘッドカバーは、シリンダヘッドから熱伝導されて温かくなる箇所であり、その温かくなるヘッドカバーの一部であるカバー吸気通路にブローバイガスが戻される。従って、極寒時などによって吸入空気が冷たくても、カバー吸気通路を流れる空気は温度上昇されるので、通路中間部に還流されるブローバイガス中の水分が凍結することが解消又は抑制されるようになる。
加えて、ブローバイガス通路の底壁に、戻し孔と、戻し孔に向かうに連れて低くなる下り傾斜面が設けられているので、多少エンジンが傾いてもオイルが重力によって自然に流れるようなる。加えて、捕捉されたオイルが下り傾斜面により戻し孔へ集められる作用が促進される利点もある。

【0009】

その結果、構造工夫により、ブローバイガス通路における吸気系に接続される終端部において凍結され難い状態とし、低温時の凍結による上記不都合が極力生じないように改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを、多少エンジンが傾いてもブローバイガス中のオイルが戻し孔から良好にエンジン内へ還元される好ましい状態で提供することができる。

【図面の簡単な説明】

【0010】

【図1】産業用ディーゼルエンジンの左側面図

【図2】図１に示すエンジンの正面図

【図3】図１に示すエンジンの右側面図

【図4】図１に示すエンジンの平面図

【図5】図１に示すエンジンの背面図

【図6】ヘッドカバー前部周辺の平面図

【図7】ヘッドカバー及びカバー吸気通路を示す一部切欠きの左側面図

【図8】ヘッドカバーの平面図

【図9】ヘッドカバーの底面図

【図10】図８のＸ−Ｘ線断面図によるヘッドカバーと部分の一部切欠きの正面図

【図11】（Ａ）カバー吸気通路を示すガス出口カバーの平面図、（Ｂ）カバー吸気通路を示すガス出口カバーの底面図

【図12】ブローバイガス出口部と動弁装置との関係を示し、（Ａ）は横断断面図、（Ｂ）は要部の縦断断面図

【図13】（Ａ）排出リード弁の側面図、（Ｂ）戻りリード弁の側面図

【図14】（Ａ）ガスケットの平面図、（Ｂ）ガスケット及びその上下部分の断面図

【図15】先端部がゴムコーティングされた弁体を示す底面図

【発明を実施するための形態】

【0011】

以下に、本発明によるブローバイガス還流装置付エンジンの実施の形態を、産業用ディーゼルエンジンに適用した場合について図面を参照しながら説明する。

【0012】

図１〜図５に示されるように、産業用ディーゼルエンジン（以下、単にエンジンと略称する）Ｅは、シリンダブロック１の上部にシリンダヘッド２が組付けられ、シリンダヘッド２の上部にヘッドカバー３が組付けられ、シリンダブロック１の下部にオイルパン４が組付けられている。シリンダブロック１の前端部に伝動ケース５が組付けられ、伝動ケース５の前部にエンジン冷却ファン６が配置され、シリンダブロック１の後部にフライホイール７が配置されている。シリンダブロック１の上半部はシリンダ１Ａに、そして、下半部はクランクケース１Ｂにそれぞれ構成されている。

【0013】

エンジンＥの前部に、クランク軸（図示省略）の軸端に取り付けられる駆動プーリ８、エンジン冷却ファン６の駆動用ファンプーリ６Ａ、及びダイナモ（オルタネータ）９の受動プーリ９Ａに跨る伝動ベルト１０、ウォータフランジ２１などが配備されている。エンジンＥの左側には、排気マニホルド１１、過給機１２、スタータ１３、オイルフィルタ１４などが装備されている。エンジンＥの右側には吸気マニホルド１５、燃料噴射ポンプハウジング１６、停止ソレノイド１７などが装備され、上方には３つのインジェクタ１８、コンプレッサ上流側吸入通路１９、コンプレッサ下流側吸入通路２０などが配置されている。

【0014】

コンプレッサ下流側吸入通路２０は、コンプレッサハウジング１２Ａに連結されてヘッドカバー３の直上に横切って配置されている始端側管２０Ａと、始端側管２０Ａと吸気マニホルド１５とを繋ぐ終端側管２０Ｂとを備えて構成されている。図４に示されるように、平面視において始端側管２０Ａは、カバー吸気通路１９Ａの後側の位置で沿う状態に配置されている。曲り管１９Ｂ、始端側管２０Ａ、終端側管２０Ｂは、ゴム等の可撓性を有する材料製のパイプ、或いは金属製パイプから成るものでも良い。

【0015】

図４，６，７、及び図１０に示されるように、このエンジンＥには、クランクケース１Ｂ内のブローバイガスを、ヘッドカバー３の内部を通してから吸気系ｋに導くように構成されたブローバイガス還流装置Ａが装備されている。ヘッドカバー３は、動弁装置Ｂを跨いでシリンダヘッド２に組み付けられる無底箱状（上蓋状）の部品であり、左右に延びる複数のリブ３ａがカバー内側に形成されている。ヘッドカバー３の後部には、エンジンオイルの供給用孔２２が設けられている。

【0016】

吸気系ｋは、ヘッドカバー３のブローバイガス出口部３Ａに設けられたカバー吸気通路１９Ａを有し、ブローバイガス出口部３Ａのブローバイガス通路２６とカバー吸気通路１９Ａとが連通されている。カバー吸気通路１９Ａは、エアクリーナ２３（図４や図６を参照）と過給機１２とを接続するコンプレッサ上流側吸入通路（吸入通路の一例）１９の一部として構成されている。つまり、コンプレッサ上流側吸入通路１９は、カバー吸気通路１９Ａと、カバー吸気通路１９Ａと過給機１２のコンプレッサハウジング１２Ａとを繋ぐ曲り管１９Ｂと、を有して構成されている。なお、吸気系ｋとは、エアクリーナ２３や吸気マニホルド１５など、空気ａを燃焼室（図示省略）まで送るための全通路とする概念である。

【0017】

ここで、ブローバイガス還流装置Ａにおける主要な機能（吸気系ｋへの還流部分）を簡単に説明する。図６，図７に示されるように、シリンダブロック１からヘッドカバー３の内部空間に流れてくるブローバイガスｇは、排出リード弁（排出逆止弁の一例）３１を通ってブローバイガス出口部３Ａのブローバイガス通路である空間部２６に入る。ＣＣＶ（クランクケースベンチレーション）室とも呼ばれる空間部２６に入ったブローバイガスｇは、ガスケット３５の連通孔３８を通ってカバー吸気通路１９Ａに、即ち、吸気系ｋに還元される。

【0018】

次に、ヘッドカバー３及びカバー吸気通路１９Ａについて詳しく説明する。
図６〜図１０に示されるように、平面視で角丸四角形（長円形）を呈するヘッドカバー３は、その頂壁３Ｃの前端部に、上向き開放状のブローバイガス出口部３Ａが形成されている。ブローバイガス出口部３Ａは、上下向きの隔側壁２４と底壁２５とで囲まれた空間部２６、及び上面である接合面２７を備えた無蓋箱状の部分としてヘッドカバー３に形成されている。

【0019】

ブローバイガス通路である空間部２６は、平面視で右側に短い辺を持つ台形を呈する箇所であり、底壁２５は、深さの浅い主底面２５Ａと、深さが前後方向で異なる状態で主底面２５Ａの前後それぞれに形成された流し底面２５Ｂ，２５Ｂとを有している。平面視で横向きＴ字形状を呈する主底面２５Ａの前後中央部位には、ブローバイガスｇをヘッドカバー３内から送り出すための排出リード弁３１が横向き（左向き）姿勢で装備されている。

【0020】

排出リード弁３１は、図７〜図１０、図１２、図１３に示されるように、主底面２５Ａ上に配置される薄肉の排出弁体３１Ａと、厚肉の排出弁ガイド３１Ｂとを、それぞれの根元側にて底壁２５にボルト止めすることで構成されている。排出弁体３１Ａの丸い先端部３１ａは、主底面２５Ａに開口して底壁２５に形成された排出弁孔３１Ｃの上側に配置され、通常は排出弁孔３１Ｃの蓋となっている（閉弁状態）。底壁２５における排出弁孔３１Ｃの部位は、上下方向視で排出弁孔３１Ｃと同心状の丸形状を呈して下方に突出する突出孔壁２５ａに形成されている。なお、排出リード弁３１においては、主底面２５Ａが先端部３１ａに当接する弁座２５Ａの機能を担っている。

【0021】

流し底面２５Ｂは、排出リード弁３１の前後から前又は後へ行くに従って低くなる下り傾斜面３２と、下り傾斜面３２の低い側に続く最低面３３とを備えている（図８を参照）。最低面３３は、下り傾斜面３２に対して左側に寄って位置する状態に構成されている。底壁２５における各最低面３３，３３には、上下に貫通する戻し弁孔（戻し孔の一例）３３ａが形成され、これら戻し弁孔３３ａに対する戻しリード弁（戻し逆止弁の一例）３４が設けられている。

【0022】

つまり、空間部２６の底壁２５に、空間部２６においてブローバイガスｇ中から捕捉されたオイルの落下が可能な戻し弁孔３３ａが設けられ、底壁２５における戻し弁孔３３ａの周囲部分に、戻し弁孔３３ａに向かうに連れて高さが低くなる下り傾斜面３２が形成されている。各戻し弁孔３３ａは、主底面２５Ａより高さの低い最低面３３に開口する状態で形成されている。

【0023】

戻しリード弁３４は、図７〜図１０、図１２、図１３に示されるように、底壁２５における最低面３３の反対側面、即ち最低裏面３３Ａに接する戻し弁体３４Ａと、厚肉の戻し弁ガイド３４Ｂとを、それぞれの根元側にて底壁２５にボルト止めすることで構成されている。戻しリード弁３４は、排出リード弁３１とは上下逆さまの姿勢で設けられており、通常は、戻し弁体３４Ａの先端部３４ａによって戻し弁孔３３ａが軽く閉じられるか、又は戻し弁体３４Ａが僅かに垂れ変位することで極僅か開いた状態になっている。なお、戻しリード弁３４は、最低裏面３３Ａが、先端部３４ａに当接する弁座３３Ａの機能を担っている。

【0024】

各戻しリード弁３４，３４は、戻し弁体３４Ａの先端部３４ａが左側になる横向き姿勢で配置されており、空間部２６においてブローバイガスｇに含まれるオイルミストなどから捕捉されたオイルを落とす戻し弁孔３３ａに作用する弁である。各戻し弁孔３３ａの径は排出弁孔３１Ｃの径よりも小さい。排出弁体３１Ａと戻し弁体３４Ａ、及び排出弁ガイド３１Ｂと戻し弁ガイド３４Ｂはそれぞれ互いに同一の部品であれば好都合であるが、異なるものでもよい。図８，９に示されるように、戻しリード弁３４の一対が排出リード弁３１を挟んで前後に設けられている。

【0025】

図６〜図８及び図１１に示されるように、ブローバイガス出口部３Ａの上にはガス出口カバー３Ｂがボルト止めされており、ガス出口カバー３Ｂは、蓋カバー部３６とカバー吸気通路１９Ａとを備えて構成されている。蓋カバー部３６は、平面視でブローバイガス出口部３Ａと同様の外郭形状を有し、ガスケット３５を挟んでの３箇所のボルト止めによりヘッドカバー３に固定される箇所である。

【0026】

図１１に示されるように、カバー吸気通路１９Ａは、カバー吸気通路１９Ａの通路始端部１９ａに対してカバー吸気通路１９Ａの通路終端部１９ｂがヘッドカバー３の長手方向で外側に寄る状態に屈曲した蛇行通路に形成されている。詳しくは、カバー吸気通路１９Ａは、ヘッドカバー長手方向（前後方向）に直交（交差の一例）する方向に延びて互いに平行な通路始端部１９ａ及び通路終端部１９ｂと、通路始端部１９ａの終端と通路終端部１９ｂの始端とを繋ぐ前後左右で斜め向きの通路中間部１９ｃとを有し、平面視でクランク状（略Ｚ形状）を呈する蛇行通路に形成されている。

【0027】

通路中間部１９ｃは、断面が下向きＵ字形状の溝状通路部に形成され、その下端の開放口３７は、平面視の形状が溝状通路部１９ｃと同様な形状で下側に開口する状態に形成されている。また、蓋カバー部３６には、開放口３７の後に位置して下方開口する肉抜き部３６ａが形成され、ボルト孔３ｂが３箇所に形成されている。蓋カバー部３６の下端は、図１１（Ｂ）に示されるように、略「日」形状の接合下面３６ｂに形成されている。

【0028】

図１４（Ａ）に示されるように、ガスケット３５は、１箇所の連通孔３８と、３箇所のボルト挿通孔３９とを備えた薄板状（シート状）のものである。図１４（Ｂ）に示されるように、ガスケット３５は、ブローバイガス出口部３Ａの上面である接合面２７と蓋カバー部３６の（ガス出口カバー３Ｂの）接合下面３６ｂとの間で挟持される状態で設けられている。ブローバイガス出口部３Ａの接合面２７の外郭形状と、ガスケット３５の外郭形状と、蓋カバー部３６の外郭形状とは互いに同形である。

【0029】

図６に示されるように、ブローバイガス出口部３Ａの空間部２６は、蓋カバー部３６の開放口３７のほぼ全面を覆う上面開口を有しており、ガスケット３５の連通孔３８は、空間部２６と開放口３７とを連通させる唯一の箇所である。つまり、連通孔３８は、通路中間部１９ｃ（開放口３７）と空間部２６との連通面積及び通路中間部１９ｃに対する連通位置を定める孔に設定されている。なお、連通孔３８は、空間部２６に対する連通位置を定めている、とも言える。連通孔３８は円孔に設定されているが、楕円、四角など、種々の形状の設定が可能である。

【0030】

動弁装置Ｂについて簡単に説明する。図８、図１０、図１２に示されるように、動弁装置Ｂは、シリンダヘッド２に立設されている軸支部２ａの複数個所に支持されて前後方向に延びるロッカーアーム軸２８と、ロッカーアーム軸２８に揺動可能に軸支される給排気用で複数（計６個）のロッカーアーム２９，３０とを有して構成されている。

【0031】

ロッカーアーム２９，３０は、給排バルブ（図示省略）を作動させる駆動側端部２９ａ，３０ａと、プッシュロッド（図示省略）により駆動される受動側端部２９ｂ，３０ｂとを備えている。シリンダヘッド２には、プッシュロッドを通すために形成されたプッシュロッド孔（図示省略）が形成されており、図８に示されるように、そのプッシュロッド孔を通ってブローバイガスｇがヘッドカバー３内に送られてくる。

【0032】

動弁装置Ｂと底壁２５とが最も近付く箇所は、図１２（Ｂ）に示されるように、最も前のロッカーアーム２９及び前から２番目のロッカーアーム３０と、下り傾斜面３２の裏面である傾斜裏面３２ａとの上下間である。より詳しくは、図１２（Ａ）に示されるように、最も上に移動した受動側端部２９ｂ，３０ｂと対応する各傾斜裏面３２ａとの上下間であり、その最も近付く箇所でも十分な隙間、即ちクリアランスｃ（例：３ｍｍ）が確保されるように設定されている。

【0033】

さて、ブローバイガス還流装置Ａにおいては、ヘッドカバー３の内部と空間部２６とは、排出リード弁３１と２箇所の戻しリード弁３４，３４を備えた底壁２５により仕切られており、空間部２６はガスケット３５の連通孔３８によりカバー吸気通路１９Ａと連通されている。従って、ヘッドカバー３の内圧がカバー吸気通路１９Ａの圧より高い状態では、排出リード弁３１が開弁し、ヘッドカバー３内のブローバイガスｇは排出リード弁３１、空間部２６、連通孔３８を通って通路中間部１９ｃに入り、吸気系ｋに還流される。

【0034】

そして、ヘッドカバー３の内圧とカバー吸気通路１９Ａの圧とが同じ状態、或いはヘッドカバー３の内圧がカバー吸気通路１９Ａの圧より低い状態では、一対の戻しリード弁３４，３４が開弁する。戻しリード弁３４が開弁すると、空間部２６においてブローバイガスｇ中から捕捉されたオイル（エンジンオイル）は、前後の戻し弁孔３３ａ、３３ａからヘッドカバー３内に（底壁２５の下方に）落とされる。戻し弁孔３３ａから落ちるオイルは、エンジン内部に戻されるだけでなく、図１２（ｂ）に示されるように、ロッカーアーム軸２８とロッカーアーム２９との摺動部（図示省略）など、動弁装置Ｂに供給される良好な潤滑機能も得られる。

【0035】

本発明によるブローバイガス還流装置付エンジンでは、コンプレッサ上流側吸入通路１９の一部であるカバー吸気通路１９Ａがヘッドカバー３に取り付けられ、ブローバイガス出口部３Ａのブローバイガス通路２６と、カバー吸気通路１９Ａの通路中間部１９ｃとがガスケット３５の連通孔３８を介して連通されている。ヘッドカバー３は、シリンダヘッド２から熱伝導されて温かくなる箇所であり、その温かくなるヘッドカバー３の一部であるカバー吸気通路１９Ａにブローバイガスｇが戻される。

【0036】

従って、極寒時などによって吸入空気ａが冷たくても、カバー吸気通路１９Ａを流れる空気ａは温度上昇される〔図１１（Ａ）を参照〕ので、通路中間部１９ｃに還流されるブローバイガスｇ中の水分が凍結することが解消又は抑制されるようになる。その結果、ブローバイガス通路２６の吸気系に接続される終端部において凍結され難い状態となり、低温時の凍結による不都合が極力生じないように改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供することができる。

【0037】

戻し弁孔３３ａに向かうに連れて高さが低くなる下り傾斜面３２が戻し弁孔３３ａの周囲部分に形成されているので、捕捉されたオイルが戻し弁孔３３ａへ集まる作用が促進されるとともに、多少エンジンが傾いてもオイルが戻し弁孔３３ａに流れるようになる利点がある。
戻し弁孔３３ａに対する戻しリード弁３４が設けられているので、ブローバイガスｇが戻し弁孔３３ａから空間部２６へ流入することを防止しながら、捕捉されたオイルは落下させることができる利点がある。

【0038】

戻し弁孔３３ａの下方に動弁装置Ｂが配置される構成であるから、戻し弁孔３３ａから落下されるオイルにより、ロッカーアーム２９とロッカーアーム軸２８との摺動部などに潤滑油供給が行える利点もある。
排出リード弁３１の前後それぞれに戻しリード弁３４，３４が配置されているから、前人が前後のどちらに傾いても、オイルは何れかの戻し弁孔３３ａに円滑に流れることができて好都合である。

【0039】

〔別実施形態〕
図１５に示されるように、戻しリード弁３４における戻し弁体３４Ａの先端部３４ａに、弁座３３Ａと当接する側の面に薄膜状にゴム（弾性材の一例）４０による薄膜、即ちゴムシート（ゴム膜）４０がコーティングされていれば好都合である。弁座３３Ａと先端部３４ａとが当接する閉弁時のシール性の向上に寄与できる利点がある。なお、２箇所の符号４１が付けられた箇所は、ボルト挿通用の孔である。

【0040】

ゴムシート４０は、排出リード弁３１における排出弁体３１Ａの先端部３１ａに、弁座２５Ａと当接する側の面にコーティングされても良い。また、先端部３４ａ，３１ａに代えて、弁座３３Ａ，２５Ａにゴムシート４０がコーティングされる構成としても良い。弾性材４０は、ゴムのほか、可撓性を有する合成樹脂などでも良い。

【0041】

戻し逆止弁３４や排出逆止弁３１を、アンブレラ弁などのリード弁以外の構造の弁により構成してもよい。下り傾斜面３２は、前又は後への下り傾斜面のほか、左又は右に傾いたものや、前後左右のうちの二つ以上に下り傾斜する面であってもよい。

【符号の説明】

【0042】

１Ｂ クランクケース
３ ヘッドカバー
３Ａ ブローバイガス出口部
１２ 過給機
１９ 吸入通路
１９Ａ カバー吸気通路
２３ エアクリーナ
２５ 底壁
２６ ブローバイガス通路
３１ 排出逆止弁
３２ 下り傾斜面
３３Ａ 弁座
３３ａ 戻し孔
３４ 戻し逆止弁
３４Ａ 弁体
３４ａ 弁体先端部
３５ ガスケット
３８ 連通孔
４０ 弾性材
Ｂ 動弁装置
ｋ 吸気系

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】