【実施例】
【0042】
以下、実施例を介して、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1.抗ErbB3抗体の準備
1.リード(lead)抗体の選別
ヒト抗ErbB3抗体を得るために、ヒト合成scFv−ファージライブラリー(梨花女子大学の沈ヒョンボ教授提供)をErbB3タンパク質(R&D systems)に対してスクリーニングし、ErbB3に結合するscFv断片を露出させるパージを得た。
【0044】
得られたパージのscFv断片をコーディングする核酸配列を分析し、そこからアミノ酸配列を分析し、ErbB3に結合するscFv断片において、VH領域及びVL領域のアミノ酸配列を確認した。ErbB3に結合するscFv配列を確保した後、IgG1で発現させるSelexis085ベクター(Selexis)を使用し、VH部位及びVL部位を再構成し、全体抗体遺伝子を作製した。再構成されたIgG1をコーディングする発現ベクターを、CHO細胞株に形質転換させ、小規模で発現させた。発現された抗ErbB3抗体に対して、ErbB3に対する結合力及び細胞基盤の分析を行い、ヘレグリン(HRG:heregulin)依存的ErbB3信号の伝達を抑制する抗ErbB3リード抗体442P,472P及び451Pを選別した。
【0045】
2.リード抗体から変形された抗体の選別
無作為突然変異生成法を利用し、1.で選別された抗ErbB3リード抗体442P,472P及び451Pの6個のCDR部位に、突然変異を導入したFab−ファージライブラリーを作製した。Fab−ファージライブロは、プライマーをIntegrated DNA Technologies,Inc.に依頼して作製し、Phusion Polymerase(New England Biolabs)を使用してPCR方法で増幅した。
【0046】
作製されたFab−ファージライブラリーを、組み換えヒトErbB3タンパク質(R&D systems)に対してスクリーニングし、組み換えヒトErbB3に係わる結合親和力が、リード抗体に比べて上昇した抗体を選別した。選別された抗体を、1.に記載されたように、IgGに転換させ、CHO細胞株に形質転換させ、小規模に発現させた。
【0047】
Octet(登録商標)QK384システム(Pall Life Sciences)を使用し、抗ErbB3抗体に対する結合力を測定した。測定された結果から、ErbB3結合力がリード抗体に比べて向上した抗体を選別し、細胞基盤分析を介して、効能を検証した。抗ErbB3リード抗体と、そこから変形された抗体との可変領域アミノ酸配列を分析し、Kabat定義により、相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)を決定した。選別された抗体において、重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列(配列番号1ないし60)を、
図1A及び
図1Bに示し、重鎖及び軽鎖のCDRアミノ酸配列を、それぞれ表1及び表2に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
実施例2.抗ErbB3抗体の試験管内効果
1.抗ErbB3抗体のヒトErbB3タンパク質に対する結合力
実施例1.2.で選別された抗体の抗原であるErbB3タンパク質に対する結合力を測定した。
【0050】
具体的には、組み換えヒトErbB3タンパク質(R&D systems)に対して、抗ErbB3抗体の結合親和性及び相互作用動力学を、Octet(登録商標)QK384システム(Pall Life Sciences)を使用して測定した。AR2Gセンサ(ForteBio)を、20mMの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、及び40mMのN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)溶液で、カルボン酸基を活性化させた後、10mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)(ForteBio)で希釈した10μg/mlのヒトErbB3タンパク質溶液を加え、AR2Gセンサに、ヒトErbB3タンパク質を固定させた。ヒトErbB3タンパク質が固定されたAR2Gセンサに、1Mのエタノールアミン(ForteBio)を処理し、未反応残余カルボン酸基を不活性化させた。前記AR2Gセンサに、それぞれ12.5,25,50nMの抗体溶液を加え、約900秒まで反応物の結合相を観察した。その後、1x kinetics buffer(ForteBio)を反応物に加えた後、約1,200秒間反応物の分離相を観察した。Octet(登録商標)分析ソフトウェア(Pall Life Sciences)を使用し、各抗体に係わる吸着率定数(ka:association constant)、分離率定数(kd:dissociation constant)及び平衡分離定数(KD:equilibrium dissociation constant)を決定した。
【0051】
【表3】
表3に示されているように、選別された抗体は、約0.1nMないし約0.1pMのKD値を有するので、選別された抗体が、ヒトErbB3タンパク質に対して高い結合力を有するということを確認した。
【0052】
2.抗ErbB3抗体によるErbB3タンパク質とHRGとの結合阻害能
実施例1.2.で選別された抗体が、ErbB3タンパク質と、そのリガンドであるHRGとの結合を阻害することができるか否かということを確認した。
【0053】
具体的には、ヒトErbB3タンパク質(R&D systems)に対するHRGの結合率を、Octet(登録商標)QK384システム(Pall Life Sciences)を使用して測定した。実施例2.1.に記載されたような方法で、AR2Gセンサに、10μg/mlのHRGタンパク質を固定させ、1Mのエタノールアミン(ForteBio)を使用し、未反応残余カルボン酸基を不活性化させた。その後、5μg/mlのヒトErbB3タンパク質(R&D systems)と、10nMまたは100nMの抗ErbB3抗体混合液を、前記HRGタンパク質が固定されたAR2Gセンサに加え、900秒まで結合相を観察した。陰性対照群として、抗ErbB3抗体を加えていない反応物を利用した。前記HRGタンパク質が固定されたAR2Gセンサに結合して残っているヒトErbB3タンパク質を測定した。陰性対照群に対比し、抗ErbB3抗体の存在下、ErbB3タンパク質とHRGとの結合率(%)を算出し、その結果を
図2に示した(y軸:陰性対照群対比の結合率(%)、x軸:0nMの抗体、10nMの抗体、100nMの抗体)。
【0054】
図2に示されているように、選別された抗体は、濃度依存的に、ヒトErbB3タンパク質とHRGタンパク質との結合を阻害する一方、hIgG対照群は、ErbB3とHRGとの結合に影響を及ぼさないということを確認した。
【0055】
3.抗ErbB3抗体によるErbB2−ErbB3二量体形成阻害能
実施例1.2.で選別された抗体が、ErbB2タンパク質とErbB3タンパク質との二量体形成を阻害することができるか否かということを確認した。
【0056】
具体的には、マルチアレイ96ウェルプレート(Thermo scientific)に、100μlの1μg/ml組み換えヒトErbB2タンパク質を加え、約4℃で約16時間インキュベーションし、ErbB2タンパク質をコーティングした。コーティングされたプレートに、200μlの5%(w/v)BSA/PBS溶液を加え、約1時間約37℃でインキュベーションした。50μlの0.6μg/ml組み換えヒトErbB3タンパク質と、50μlの0.2μg/ml選別された抗ErbB3抗体と、を混合した反応物を、前記プレートに加え、約2時間37℃でインキュベーションした。前記プレートを、0.05%(v/v)ツイン/PBS溶液で3回洗浄した。洗浄されたプレートに、100μlの1μg/ml塩素−抗ErbB3ポリクローン抗体(R&D systems)を加え、約1時間37℃でインキュベーションした。前記プレートを、0.05%(v/v)ツイン/PBS溶液で3回洗浄した。5%(w/v)BSA/PBS溶液に、1:5,000で希釈させた抗塩素Fc−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP:horseradish peroxidase)(Jackson Immunoresearch)100μlを、前記プレートで約1時間37℃でインキュベーションした。前記プレートを0.05%(v/v)ツイン/PBS溶液で3回洗浄した。100μlの3,3’,5’−テトラメチルベンジジン(TMG:tetramethylbenzidine)基質を各ウェルに加え、約5分間常温でインキュベーションし、100μlの2N硫酸溶液で反応を中断させた。陰性対照群として、抗ErbB3抗体を加えていない反応物を利用した。前記プレートに対して、波長450nmで、蛍光強度を測定した。測定された蛍光強度から、抗ErbB3抗体の存在下、ErbB2タンパク質とErbB3タンパク質との結合の比率を算出した。ヒトIgGは、ErbB3に結合しない陰性対照群として使用された。
【0057】
陰性対照群対比で、抗ErbB3抗体の存在下、ErbB2タンパク質とErbB3タンパク質との結合率(%)を算出し、その結果を
図3に示した(y軸:陰性対照群対比の結合率(%)、hIgG:ヒトIgG)。
【0058】
図3に示されているように、選別された抗体は、ErbB2タンパク質とErbB3タンパク質との二量体形成を阻害する一方、hIgG対照群は、二量体形成阻害能がないということを確認した。
【0059】
4.抗ErbB3抗体によるErbB3リン酸化及びAktリン酸化の阻害能
実施例1.2.で選別された抗体が、ErbB3タンパク質とAktとのリン酸化を阻害することができるか否かということを確認した。
【0060】
具体的には、約5x10
5個のMCF7乳房癌細胞(National Institutes of Health)を24ウェルプレートに接種し、細胞に、ペニシリン−ストレプトマイシン抗生物質(Invitrogen)と、10%(v/v)のウシ胎児血清を含むRPMI−1640培地(Invitrogen)とを加え、37℃及び5% CO
2の条件下、約24時間培養した。その後、該培地を、新鮮なRPMI−1640培地に交換し、前記細胞を血清欠乏状態(serum starving)で24時間培養した。その後、前記細胞に、選別された抗ErbB3抗体を加え、37℃及び5% CO
2の条件下、約2時間インキュベーションした。このとき、442P抗体と472P抗体は、細胞に、67nM、13nM、3nM、534pM、107pM、21pM及び4pMの濃度で加え、442S1抗体、442S5抗体、442M6抗体
、472S2抗体
、及び472M1抗体は、細胞に、13nM、3nM、834pM、208pM、52pM及び13pMの濃度で加えた。1時間45分後、細胞にHRGを加え、約15分間37℃及び5% CO
2の条件下でインキュベーションし、細胞を刺激した(抗体を処理した総時間:2時間)。細胞に、冷却したPBSを加えて洗浄した後、細胞に、細胞溶解液(Cell Signaling Technology)を加えて細胞を収集した。収集された細胞のタンパク質を、BCA定量法で定量した後、ErbB3またはAktのリン酸化レベルを分析した。
【0061】
ErbB3のリン酸化レベルを分析するために、ホスホErbB3検出キット(Cell Signaling Technology)を使用し、細胞タンパク質を、ErbB3抗体がコーティングされたELISA平板に結合させた後、ErbB3特異的な捕獲抗体と、マウスHRPが接合された抗ホスホ−チロシン検出抗体と、をELISA平板に展開させた。その後、反応物にTMB基質を加え、前記キットの反応終了、溶液で反応を中止させた後、プレートリーダで蛍光強度を測定した。
【0062】
Akt1リン酸化レベルを分析するために、ホスホAkt1検出キット(Cell Signaling Technology)を使用し、抗ホスホセリンがコーティングされたELISA平板に、細胞タンパク質を結合させた後、Akt1特異的な捕獲抗体と、HRPに接合された検出抗体とをELISA平板状に展開させた。その後、TMB基質と反応させた後、キット内反応終了溶液で反応を中止させ、プレートリーダで値を測定した。
【0063】
測定された蛍光強度から、抗体濃度によるErbB3リン酸化及びAktリン酸化の比率を示すグラフを、それぞれ
図4A及び
図4Bに示した。また、抗体の50%阻害濃度(IC
50:half maximal inhibitory concentration)を算出し、その結果を表4に示した。
【0064】
【表4】
図4A、
図4B及び表4に示されているように、選別された抗体は、ErbB3リン酸化及びAktリン酸化を阻害するということを確認した。
【0065】
同時に、乳房癌細胞株MDA−MB−468及び乳房癌細胞株BT474、皮膚癌細胞株A431、膵臓癌細胞株BxPC3、頭頚部癌細胞株FaDu、肺癌細胞株A549、大腸癌細胞株LoVo、黒色腫細胞株MALME−3M、卵巣癌細胞株OVCAR−8及び前立腺癌細胞株DU145においても、類似して、選別された抗体が、ErbB3リン酸化及びAktリン酸化を阻害するということを確認した。
【0066】
5.抗ErbB3抗体による膵臓癌細胞株BxPC3の増殖阻害能
実施例1.2.で選別された抗体が、BxPC3膵臓癌細胞の増殖を阻害することができるか否かということを確認した。
【0067】
具体的には、約1x10
4個のBxPC3膵臓癌細胞(American Type Culture Collection)を96ウェルプレートに接種し、接種された細胞に、10%ウシ胎児血清を含むRPMI−1640培地(Invitrogen)を加え、37℃及び5% CO
2の条件下で約24時間培養した。その後、0.1%(v/v)のウシ胎児血清を含むRPMI−1640培地に交換した。培養された細胞に、0.02μg/ml、0.2μg/ml、2μg/ml及び20μg/mlの442S1抗体または442M6抗体を加え、37℃及び5% CO
2の条件下で約2時間培養した。培養された細胞に、50ng/mlのHRGをさらに加え、37℃及び5% CO
2の条件下で約120時間培養した。陰性対照群として、抗体を含まずに培養した細胞を利用した。Celltiter−Glo発光細胞生存能分析法(Promega)で細胞数を測定した。測定された結果から、細胞増殖率を算出し、その結果を
図5に示した。
【0068】
図5に示されているように、選別された抗体は、BxPC3膵臓癌細胞の増殖を濃度依存的に阻害するということを確認した。
【0069】
実施例3.抗ErbB3抗体の生体内効果
1.BT474乳房癌異種移植モデルを利用した腫瘍成長阻害
実施例1.2.で選別された抗体が、乳房癌細胞を移植した動物モデルにおいて、腫瘍成長を阻害することができるか否かということを確認した。
【0070】
具体的には、ヒト乳房癌BT474細胞(American Type Culture Collection)を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(Hyclone)で培養した。癌細胞接種1日前、メスNOD/SCIDマウス(HFK Bio−Technology Co.Ltd.)の皮下に、持続放出17β−エストラジオールペレット(0.36mg/60日、Innovative Research of America)を移植し、血中エストロゲンレベルを維持させた。約1x10
7個のBT474癌細胞を、50%マトリゲルを含む100μlのPBSに懸濁させ、懸濁された癌細胞を、マウスの乳頭下部脂肪組職に接種した(接種0日)。週当たり2回ずつマウス重量を測定し、「0.5a×b
2」の式を用いて腫瘍容積を計算した。ここで、aおよびbはそれぞれ腫瘍の長径および短径であった。癌細胞接種7日後、腫瘍体積が約210mm
3に逹したとき、マウスを、群当たり10匹ずつ7群から無作為抽出した。群当たり、PBS(陰性対照群)、442P抗体、442S1抗体、442S5抗体、442M6抗体、472S2抗体及び472M1抗体を、それぞれマウスの尾静脈に、週2回、10mg/体重kgの用量で4週間投与した。癌細胞接種後、抗体投与による腫瘍体積を算出し、その結果を
図6に示した。
【0071】
図6に示されているように、陰性対照群に比べ、抗体投与により、腫瘍の体積が低減し、選別された抗体が、腫瘍成長を阻害するということを確認した。
【0072】
2.MDA−MB−468乳房癌異種移植モデルを利用した腫瘍成長阻害
ヒト乳房癌MDA−MB−468細胞(American Type Culture Collection)を、10%ウシ胎児血清を含むL15培地(Hyclone)で培養した。約5x10
6個の癌細胞を、50%マトリゲルを含む100μlのPBSに懸濁させ、メスNu/Nuマウス(Vital River laboratories.Ltd)の脇腹皮下に接種した。週当たり2回ずつマウス重量を測定し、「0.5a×b
2」の式を用いて腫瘍容積を計算した。ここで、aおよびbはそれぞれ腫瘍の長径および短径であった。癌細胞接種7日後、腫瘍体積が約210mm
3に逹したとき、マウスを、群当たり10匹ずつ7群から無作為抽出した。群当たり、PBS(陰性対照群)、442P抗体、442S1抗体、442S5抗体、442M6抗体、472S2抗体及び472M1抗体を、マウスの尾静脈に、週2回、10mg/体重kgの用量で7週間投与した。癌細胞接種後、抗体投与による腫瘍体積を算出し、その結果を
図7に示した。
【0073】
図7に示されているように、陰性対照群に比べ、抗体の投与により、腫瘍の体積が低減し、選別された抗体が、腫瘍成長を阻害するということを確認した。
【0074】
3.A431皮膚癌異種移植モデルを利用した腫瘍成長阻害
ヒト皮膚癌A431細胞(American Type Culture Collection)を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(Hyclone)で培養した。約5x10
6個の癌細胞を、50%マトリゲルを含む100μlのPBSに懸濁させ、メスBalb/c nudeマウス(HFK Bio−Technology Co.Ltd.)の脇腹皮下に接種した。週当たり2回ずつマウス重量を測定し、「0.5a×b
2」の式を用いて腫瘍容積を計算した。ここで、aおよびbはそれぞれ腫瘍の長径および短径であった。癌細胞接種7日後、腫瘍体積が約160mm
3に逹したとき、マウスを、群当たり10匹ずつ7群から無作為抽出した。群当たり、PBS(陰性対照群)、442P抗体、442S1抗体、442S5抗体、442M6抗体、472S2抗体及び472M1抗体を、マウスの尾静脈に、週2回、10mg/体重kgの用量で4週間投与した。癌細胞接種後、抗体投与による腫瘍体積を算出し、その結果を
図8に示した。
【0075】
図8に示されているように、陰性対照群に比べ、抗体の投与により、腫瘍の体積が低減し、選別された抗体が腫瘍成長を阻害するということを確認した。
【0076】
4.腫瘍異種移植モデルを利用した腫瘍成長阻害
実施例
3.1.ないし3.3に記載されたように、442S1抗体を、FaDu頭頚部癌、膵臓癌または肺癌の動物モデルに投与した場合、及び442P抗体または472P抗体を、胃癌動物モデルに投与した場合においても、陰性対照群に比べ、抗体の投与により、腫瘍の体積が低減し、選別された抗体が腫瘍成長を阻害するということを確認した。
【0077】
実施例4.抗癌剤と抗ErbB3抗体との併用投与効果
FaDu頭頚部癌モデルを利用した、442S1抗体とセツキシマブ(Erbitux)とを併用投与した場合、抗癌効能が向上するか否かということを確認した。
【0078】
ヒト頭頚部癌FaDu細胞(Shanghai Institutes for Biological Sciences)を、10%ウシ胎児血清を含むEMEM培地(Hyclone)で培養した。約5x10
6個の癌細胞を、50%マトリゲルを含む100μlのPBSに懸濁させ、メスNOD/SCIDマウス(HFK Bio−Technology Co.Ltd)の脇腹皮下に接種した。週当たり2回ずつマウス重量を測定し、「0.5a×b
2」の式を用いて腫瘍容積を計算した。ここで、aおよびbはそれぞれ腫瘍の長径および短径であった。癌細胞接種7日後、腫瘍体積が約150mm
3に逹したとき、マウスを、群当たり10匹ずつ無作為抽出した。群当たり、PBS(陰性対照群)または442S1抗体を、マウスの尾静脈に、週2回、5mg/体重kgの用量で4週間投与した。併用処理群は、442S1抗体とセツキシマブ(Merck)をマウスの尾静脈に、週2回、それぞれ5mg/体重kgの用量で、4週間投与した。その後、1週間は、抗体投与なしに、週2回ずつ腫瘍の大きさを測定した。抗体または併用投与による腫瘍体積を算出し、その結果を
図9に示した(矢印(↓):投与時点、***:一元分散分析後、Tukey多重比較結果P<0.001)。
【0079】
図9に示されているように、442S1抗体とセツキシマブとの併用投与群は、投与初期から腫瘍体積が低減し、試験終了時、平均腫瘍体積が約68mm
3測定された(n=10/群)。従って、選別された抗体とセツキシマブとの併用投与により、抗癌効能が上昇するということを確認した。
【0080】
実施例5.抗ErbB3抗体による抗癌剤抵抗性克服効果
1.乳房癌でのパクリタキセル抵抗性克服効果
乳房癌細胞株ZR−75−30は、パクリタキセルによる細胞死滅効果が、HRG存在時、ErbB3信号伝達経路の活性化によって低下する(Wang S et al., Oncogene, 29, 4225-4236, 2010)。選別された抗体が、抗癌剤であるパクリタキセルの抵抗性を克服し、さらに抗癌効果が示されるか否かということを確認した。
【0081】
約1x10
4個のZR−75−30細胞(American Type Culture Collection)をプレートに接種し、10%(v/v)ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地(Invitrogen)で、37℃及び5% CO
2の条件下で約24時間培養した。その後、0.1%(v/v)ウシ胎児血清を含む新鮮な培地(100ng/mlHRG添加)に交換し、37℃及び5% CO
2の条件下で約24時間培養した。培養された細胞に、10nMのパクリタキセル(Bristol−Myers Squibb)と、25μg/mlの442S1抗体とを加え、37℃及び5% CO
2の条件下で約72時間培養した。その後、培養された細胞を得て、細胞自殺のマーカーであるカスパーゼ3/7活性を、Caspase3/7 substrate assay(Promega)を使用して測定した。測定されたカスパーゼ3/7活性を
図10に示した(RLU:相対的蛍光単位(relative luminescence units)、**:t−test結果P<0.01)。
【0082】
図10に示されているように、パクリタキセルによるカスパーゼ3/7活性が、HRG存在下で低下したが、パクリタキセル及び442S1抗体を共に処理した場合、パクリタキセル単独処理より、カスパーゼ3/7活性がさらに上昇した(n=3)。従って、パクリタキセルによる細胞死滅効果は、HRG存在時に低下するが、442S1抗体の投与により、さらに回復するということを確認した。
【0083】
2.結腸直腸癌におけるセツキシマブ抵抗性克服効果
結腸直腸癌細胞であるDiFiにおいて、セツキシマブは、癌細胞増殖抑制効能を有するが、HRG存在時には、ErbB3信号伝逹経路が活性化され、その効能を示すことができなくなる。選別された抗体が、セツキシマブに対する抵抗性を復旧し、さらに癌細胞増殖抑制能を示すか否かということを確認した。
【0084】
具体的には、DiFi大腸癌細胞(American Type Culture Collection)を、抗生物質(Penicillin−Streptomycin,gibco)と、10%ウシ胎児血清とを含むRPMI−1640培地(Invitrogen)で培養した。1x10
4個のDiFiを96ウェルプレートに接種し、37℃及び5% CO
2の条件下で約24時間培養した。セツキシマブと抗ErbB3抗体は、200μg/mlで同量混合させた後、セツキシマブ/抗ErbB3抗体溶液を、40ng/mlのHRGと同量混合させた。96ウェルプレートに、セツキシマブ/抗ErbB3抗体/HRG溶液を入れ、37℃及び5% CO
2の条件下で約72時間培養した。陰性対照群としては、抗体及びHRGを含まずに培養した細胞を利用した。Celltiter−Glo発光細胞生存能分析法(Promega)で、細胞数を測定した。測定された結果から、細胞の増殖率を算出し、その結果を
図11に示した(***:t−test結果P<0.001)。
【0085】
図11に示されているように、セツキシマブによる細胞増殖抑制能が、HRG存在下で低下するが、セツキシマブと442S1抗体とを共に処理した場合、さらに癌細胞増殖が抑制された。従って、セツキシマブによる細胞増殖抑制能は、ErbB3リガンドであるHRGの存在時に低下するが、442S1抗体によるHRG−ErbB3 pathway抑制により、さらにその効能が復旧されるということを確認した。
【0086】
3.セツキシマブ耐性異種移植モデルにおけるセツキシマブ抵抗性克服効果
ヒト頭頚部癌FaDu細胞(Shanghai Institutes of Biological Sciences)を、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)、0.01mM NEAA(non-essential amino acid,Hyclone)、2mM L−グルタミン(Invitrogen)を含むEMEM培地(Hyclone)で培養した。約5x10
6個の癌細胞を100μlのPBSに懸濁させ、メスNOD SCIDマウス(HFK Bio−Technology Co.Ltd.)の脇腹皮下に接種した。週当たり2回ずつマウス重量を測定し、「0.5a×b
2」の式を用いて腫瘍容積を計算した。ここで、aおよびbはそれぞれ腫瘍の長径および短径であった。癌細胞接種8日後、腫瘍体積が約138mm
3に逹したとき、マウスを無作為抽出し、PBS(陰性対照群)またはセツキシマブをマウスの尾静脈に週2回、5mg/kgの用量で投与した。セツキシマブの腫瘍成長抑制能が維持されず、腫瘍がさらに大きくなり始め、腫瘍体積がおよそ840mm
3に逹したとき、マウスを、さらに群当たり10匹ずつ無作為抽出し、群当たりセツキシマブ5mg/kg、またはセツキシマブ5mg/kgと442S120mg/kgとを併用で週2回ずつ4週投与し、週2回ずつ腫瘍体積を算出し、その結果を
図12に示した。
【0087】
図12を参照すれば、続けてセツキシマブを投与した群に比べ、442S1とセツキシマブとを併用で投与した群においては、確実な腫瘍縮小効能が観察され、442S1抗体が、セツキシマブに対する耐性を克服し、腫瘍成長を抑制することができるということが確認された。
本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.配列番号61ないし85からなる群から選択された1以上のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、
配列番号86ないし101からなる群から選択された1以上のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
または前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域を含む、ErbB3に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
2.前記重鎖可変領域は、
配列番号61ないし68からなる群から選択されたアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)−H1と、
配列番号69ないし77からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むCDR−H2と、
配列番号78ないし85からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むCDR−H3と、を含むことを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
3.前記重鎖可変領域は、配列番号1ないし30からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むことを特徴とする上記2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
4.前記軽鎖可変領域は、
配列番号86ないし87からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むCDR−L1と、
配列番号88ないし93からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むCDR−L2と、
配列番号94ないし101からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むCDR−L3と、を含むことを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
5.前記軽鎖可変領域は、配列番号31ないし60からなる群から選択されたアミノ酸配列をさらに含むことを特徴とする上記4に記載の抗体またはその抗原結合断片。
6.前記重鎖可変領域は、以下の表に記載されたアミノ酸配列を含む相補性決定領域−H1(CDR−H1)、CDR−H2、及びCDR−H3からなる群から選択されたいずれかを含むことを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
。
7.前記軽鎖可変領域は、以下の表に記載されたアミノ酸配列を含む相補性決定領域−L1(CDR−L1)、CDR−L2、及びCDR−L3からなる群から選択されたいずれかを含むことを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
。
8.前記抗体またはその抗原結合断片は、ErbB3タンパク質と、それに特異的に結合する物質との結合、ErbB1タンパク質とErbB3タンパク質の二量体形成、ErbB2タンパク質とErbB3タンパク質との二量体形成、ErbB3またはAktのリン酸化、またはそれらの組み合わせを阻害することを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
9.前記ErbB3タンパク質に特異的に結合する物質は、ヘレグリン(HRG)であることを特徴とする上記8に記載の抗体またはその抗原結合断片。
10.前記抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMであるか、
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であるか、
前記抗原結合断片は、scFv、(scFv)2、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはそれらの組み合わせであるか、あるいは
前記抗体またはその抗原結合断片は、接合、結合、糖化、タグ付着、またはそれらの組み合わせによって修飾されたものであることを特徴とする上記1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
11.上記1ないし10のうちいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、ErbB3タンパク質の活性化または過生成に係わる疾病予防用または疾病治療用の薬学的組成物。
12.前記ErbB3タンパク質の活性化または過生成に係わる疾病は、癌であることを特徴とする上記11に記載の薬学的組成物。
13.前記癌は、乳房癌、皮膚癌、頭頚部癌、膵臓癌、肺癌、大腸癌、結腸直腸癌、胃癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、尿道癌、肝臓癌、腎臓癌、透明細胞肉腫、黒色腫、脳脊髄腫瘍、脳癌、胸腺種、中皮腫、食道癌、胆道癌、睾丸癌、生殖細胞種、甲状腺癌、副甲状線癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、リンパ種、骨髄形成異常症侯群(MDS)、骨髄線維症、急性白血病、慢性白血病、多発性骨髄種、ホジキン病、内分泌系癌及び肉腫からなる群から選択されたことを特徴とする上記12に記載の薬学的組成物。
14.抗癌剤をさらに含むことを特徴とする上記11に記載の薬学的組成物。
15.前記抗癌剤は、セツキシマブ、パニツムマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、トラストズマブ、T−DM1、ペルツズマブ、ラパチニブ、パクリタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、抗CTLA−4抗体、抗PD−1抗体、抗PDL−1抗体、5−フルオロウラシル(5FU)、ゲムシタビン、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする上記14に記載の薬学的組成物。
16.前記薬学的組成物は、単一組成物、または個別の組成物をさらに含むことを特徴とする上記14に記載の薬学的組成物。
17.上記1ないし10のうちいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を個体に投与する段階を含む、個体のErbB3タンパク質の活性化または過生成に係わる疾病を予防または治療する方法。
18.前記個体に抗癌剤を投与する段階をさらに含むことを特徴とする上記17に記載の方法。
19.前記抗癌剤は、上記1ないし10のうちいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片と同時、個別または順に投与することを特徴とする上記18に記載の方法。
20.前記抗体、その抗原結合断片、抗癌剤、またはそれらの組み合わせは、経口、静脈内、筋肉内、経皮、粘膜、鼻内、器官内、皮下投与、及びそれらの組み合わせによって個体に投与されることを特徴とする上記18に記載の方法。
21.前記抗体、その抗原結合断片、抗癌剤、またはそれらの組み合わせは、全身的にまたは局所的に投与されることを特徴とする上記18に記載の方法。
22.上記1ないし10のうちいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を個体に投与する段階を含む、個体の抗癌剤抵抗性を予防または治療する方法。