(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空気極と、Niと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含む燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層と、をそれぞれ含む複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタックにおいて、さらに、
前記燃料極に供給されるガスの流路であって前記電気化学反応セルスタックの内部に形成されたガスの流路に面すると共に、前記燃料極の表面以外の位置に配置され、Agを含有するAg含有部材を備え、
前記燃料極に含まれる少なくとも1つのNi粒子の表面に、Agを含有する粒子が付着しており、
前記燃料極において、Ni粒子の表面積に対する各Agを含有する粒子の表面積の合計の比は、0.19以下である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A−1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。また、本明細書では、Z軸に直交する方向を、面方向と呼ぶ。
【0015】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
【0016】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0017】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0018】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0019】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0020】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0021】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0022】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0023】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0024】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0025】
単セル110は、空気極(カソード)114と、燃料極(アノード)116と、空気極114と燃料極116との間に配置された電解質層112とを備える。本実施形態では、燃料極116の厚さ(上下方向のサイズ)が空気極114や電解質層112の厚さより厚く、燃料極116が単セル110を構成する他の層を支持している。すなわち、本実施形態の単セル110は、燃料極支持型の単セルである。
【0026】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0027】
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。
【0028】
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。
図6は、燃料極116の詳細構成を示す説明図である。
図6には、単セル110の一部分(
図5のX1部)のYZ断面構成が拡大して示されている。
図6に示すように、燃料極116は、燃料極116における下側の表面を構成する基板層310と、基板層310と電解質層112との間に配置された活性層320とを備える。本実施形態では、活性層320は電解質層112に隣接しており、基板層310は活性層320に隣接している。
【0029】
燃料極116の基板層310は、主として、活性層320と電解質層112と空気極114とを支持する機能を発揮する層である。基板層310は、酸化物イオン伝導性セラミックス(本実施形態では、YSZ)と、電子伝導性物質であるNi(ニッケル)とを含んでいる。基板層310の厚さは、例えば300μm〜850μmである。また、基板層310に含まれるNiの平均粒径は、例えば0.1μm〜2μmであり、基板層310に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)の平均粒径は、例えば0.1μm〜2μmである。また、基板層310における平均気孔率は、例えば25〜60vol%であり、平均気孔径は、例えば0.5μm〜4μmである。また、基板層310におけるNiと酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)と気孔との体積比は、例えば、Ni:酸化物イオン伝導性セラミックス:気孔=10〜40:30〜60:15〜45である。
【0030】
燃料極116の活性層320は、主として、電解質層112から供給される酸化物イオンと燃料ガスFGに含まれる水素とを反応させて、電子と水蒸気とを生成する反応場として機能する層である。活性層320は、基板層310と同様に、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)と、電子伝導性物質であるNiとを含んでいる。活性層320の厚さは、例えば5μm〜40μmである。また、活性層320に含まれるNiの平均粒径は、例えば0.1μm〜2μmであり、活性層320に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)の平均粒径は、例えば0.1μm〜2μmである。また、活性層320における平均気孔率は、例えば5vol%〜30vol%であり、平均気孔径は、例えば0.1μm〜1μmである。また、活性層320におけるNiと酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)と気孔との体積比は、例えば、Ni:酸化物イオン伝導性セラミックス:気孔=15〜45:35〜65:5〜35%である。活性層320が含有する酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)に対するNiの体積割合は、基板層310が含有する酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)に対するNiの体積割合よりも高い。燃料極116の構成については、後にさらに詳述する。
【0031】
図4および
図5に示すように、セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、ステンレス等の金属により形成されている。セパレータ120の厚さは、例えば0.05mm〜1mmである。セパレータ120における貫通孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0032】
本実施形態では、単セル110とセパレータ120とを接合する接合部124は、Agを含有するロウ材により形成されている。接合部124を構成するロウ材としては、例えば、Agと酸化物との混合体(例えば、Ag−Al
2O
3(AgとAl
2O
3(アルミナ)との混合体)、Ag−CuO、Ag−TiO
2、Ag−Cr
2O
3、Ag−SiO
2等)や、Agと他の金属との合金(例えば、Ag−Ge−Cr、Ag−Ti、Ag−Al等)を用いることができる。接合部124におけるAg濃度は、90wt%以上、98wt%以下であることが好ましい。Agを含有するロウ材(Agロウ)は大気雰囲気でもロウ付け温度で酸化し難いため、接合部124としてAgロウを用いると、単セル110とセパレータ120とを大気雰囲気で接合することができ、工程の効率上好ましい。
【0033】
また、本実施形態では、接合部124は、セパレータ120の貫通孔121の全周にわたって配置されている。
図4および
図5に示すように、接合部124は、燃料極116に供給されるガス(燃料ガスFG)の流路に面しており、より具体的には燃料室176に面している。接合部124のZ軸方向視での幅は、例えば2mm〜6mmであることが好ましく、接合部124の厚さ(Z軸方向のサイズ)は、例えば10μm〜80μmであることが好ましい。また、本実施形態では、面方向(Z軸に直交する方向)の位置に関し、接合部124における外周側(燃料室176に面する側)の端部の位置は、単セル110(電解質層112)の端部の位置と略一致している。ただし、接合部124における外周側の端部の位置が、単セル110(電解質層112)の端部の位置より外周側である構成、すなわち、接合部124が、単セル110(電解質層112)とセパレータ120との間の空間から外周側に突出している構成が採用されてもよい。そのような構成が採用される場合においては、単セル110の端部の位置を基準とした接合部124の突出長さは、例えば1mm〜6mmであることが好ましい。接合部124は、特許請求の範囲におけるAg含有部材およびロウ付け部に相当する。
【0034】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0035】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0036】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。なお、燃料極側集電体144は、燃料極116における燃料極側集電体144に対向する表面の全領域の内、合計10〜50%の面積の領域に接していることが好ましい。
【0037】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。また、空気極側集電体134が導電性のコートによって覆われていてもよく、また、空気極114と空気極側集電体134との間に両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
【0038】
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0039】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0040】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0041】
A−3.燃料極116の詳細構成:
次に、燃料極116の構成について、
図6を参照して、さらに詳細に説明する。上述したように、燃料極116(基板層310および活性層320)は、Ni(ニッケル)と酸化物イオン伝導性セラミックス(本実施形態では、YSZ)とを含んでいる。
図6には、燃料極116に含まれるNiの粒子(以下、「Ni粒子」という。)PA1と、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)の粒子(以下、「セラミックス粒子」という。)PA2とが、模式的に示されている。
【0042】
ここで、本実施形態では、燃料極116に含まれる少なくとも1つのNi粒子PA1の表面に、1つまたは複数のAg(銀)を含有する粒子(以下、「Ag含有粒子」という。)PA3が付着している。なお、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の内、大部分の(例えば、50%以上の)Ni粒子PA1の表面に、Ag含有粒子PA3が付着していることがより好ましい。
【0043】
また、Ag含有粒子PA3が付着したNi粒子PA1について、Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比(以下、「Ni−Ag表面積比」という。)は、0.19以下であることが好ましい。また、Ni粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の平均粒径は、5nm〜20nmであることが好ましい。
【0044】
なお、本実施形態では、燃料電池スタック100が備えるすべての単セル110を構成する燃料極116が、上述のような構成(例えば、Ni粒子PA1の表面にAg含有粒子PA3が付着している構成)となっている。
【0045】
A−4.燃料電池スタック100の製造方法:
本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0046】
(燃料極基板層用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さの燃料極基板層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極基板層用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。
【0047】
(燃料極活性層用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。なお、上述した燃料極基板層用グリーンシートの作製方法と同様に、スラリーの調整の際に、造孔材としての有機ビーズを加えてもよい。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さの燃料極活性層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極活性層用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。
【0048】
(電解質層用グリーンシートの作製)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さの電解質層用グリーンシートを作製する。
【0049】
(電解質層112と燃料極116との積層体の作製)
燃料極基板層用グリーンシートと燃料極活性層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを貼り付けて所定の温度(例えば約280℃)で脱脂する。さらに、脱脂後のグリーンシートの積層体を所定の温度(例えば約1350℃)で焼成する。これにより、電解質層112と燃料極116(活性層320および基板層310)との積層体を得る。
【0050】
(空気極114の形成)
LSCF粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極用ペーストを調製する。調整された空気極用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の焼成温度(例えば1100℃)で焼成する。これにより空気極114が形成され、燃料極116と電解質層112と空気極114とを備える単セル110が作製される。
【0051】
上述した方法に従い複数の単セル110を作製した後、組み立て工程(例えば、各単セル110にセパレータ120等の他の部材を取り付ける工程、複数の単セル110を積層する工程、ボルト22により締結する工程等)を行う。なお、組み立て工程における所定のタイミングで、単セル110の燃料極116に対して、Agを蒸散させて付着させる処理を行う。これにより、燃料極116(基板層310および活性層320)に含まれるNi粒子PA1の表面に、Ag含有粒子PA3が付着する。このときのAgの蒸散量を調整することにより、上述したNi−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)値の調整を実現することができる。以上により、燃料電池スタック100の製造が完了する。なお、その後、燃料電池スタック100を発電運転可能な状態とするため、燃料極116を還元する(すなわち、燃料極116に含まれるNiOをNiに還元する)還元工程が実行される。還元工程は、例えば、燃料極116を、所定の温度の水素雰囲気に所定の時間だけ晒すことにより実現される。なお、還元工程に利用される還元ガスは、水素に限定されず、メタンガス等の他のガスでもよい。以上により、発電運転可能な状態の燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0052】
A−5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100は、複数の単セル110を備える。単セル110は、空気極114と、Niと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含む燃料極116と、空気極114と燃料極116との間に配置された電解質層112とを含む。本実施形態の燃料電池スタック100は、さらに、接合部124と、セパレータ120とを備える。セパレータ120には、貫通孔121が形成されており、セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分が、単セル110の表面に接合されている。セパレータ120は、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とを区画する。また、接合部124は、セパレータの貫通孔121を取り囲む部分と単セル110の表面とを接合するロウ付け部である。接合部124は、燃料極116に供給される燃料ガスFGの流路、より具体的には燃料室176に面すると共に、Agを含有している。また、燃料極116に含まれる少なくとも1つのNi粒子PA1の表面には、Ag含有粒子PA3が付着している。本実施形態の燃料電池スタック100は、このような構成であるため、以下に説明するように、運転開始後に単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができる。
【0053】
すなわち、燃料電池スタック100の運転開始後には、単セル110を構成する各部(空気極114、燃料極116、電解質層112)の組成変化や微構造変化によって抵抗(IR抵抗および/またはη抵抗)が高くなり、単セル110の性能が低下(劣化)する。
【0054】
しかしながら、本実施形態の燃料電池スタック100では、燃料極116に含まれる少なくとも1つのNi粒子PA1の表面に、Ag含有粒子PA3が付着しており、また、本実施形態の燃料電池スタック100は、燃料極116に供給される燃料ガスFGの流路に面すると共に、Agを含有する接合部124を備える。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100の運転開始前には、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の存在によって水素吸着ポイントとなるNi粒子PA1の表面が減少する等の理由により、単セル110のη抵抗が高くなっている。また、本実施形態の燃料電池スタック100の運転開始後の高温状態では、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3が蒸散して離脱していく一方、
図5に矢印で示すように、接合部124から蒸散したAgの一部が燃料極116に供給される燃料ガスFGに運ばれて燃料極116付近に移動し、燃料極116のNi粒子PA1の表面に付着する。そのため、本実施形態の燃料電池スタック100では、運転開始後に、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の量が、過度に速くはない適切な速度で徐々に減少していき、これに伴い、単セル110のη抵抗が徐々に低くなっていく。
【0055】
従って、本実施形態の燃料電池スタック100では、単セル110を構成する各部の組成変化や微構造変化によるIR抵抗および/またはη抵抗の上昇を、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の量の減少に伴う単セル110のη抵抗の低下によって相殺することができ、単セル110の抵抗の変化(性能の変化)を抑制することができる。以上のことから、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、運転開始後に単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができる。
【0056】
特に、本実施形態の燃料電池スタック100では、セパレータ120と単セル110とを接合する接合部124がAgを含んでいる。すなわち、Agを含有する接合部124が、単セル110の近傍(燃料極116の近傍)に位置している。そのため、
図5に矢印で示すように、接合部124から蒸散したAgが、接合部124の近傍に位置する燃料極116を構成するNi粒子PA1の表面に付着することが促進される。従って、本実施形態の燃料電池スタック100によれば、運転開始後において、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の量の減少速度をより適切な速度とすることができ、単セル110の抵抗(性能)が変化することを効果的に抑制することができる。
【0057】
なお、燃料電池スタック100の運転開始後に各単セル110の抵抗が高くなると、各単セル110の温度が上昇するため、各単セル110の温度を下降させるために、燃料ガスFGの供給量を減らしたり、酸化剤ガスOGの供給量を増やしたりするなどの制御が必要となる。すると、燃料ガスFGおよび/または酸化剤ガスOGの供給量の変化に伴って発電条件が変化し、その結果、反応熱が変化することによって各単セル110の温度が変化し、さらなる制御が必要になるおそれがある。このように、従来の燃料電池スタック100では、運転開始後に、各単セル110の抵抗上昇(性能劣化)に伴い、燃料電池スタック100の制御性が低下するおそれがある、という課題もある。しかしながら上述したように、本実施形態の燃料電池スタック100では、運転開始後に各単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができるため、燃料電池スタック100の制御性が低下することを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の燃料電池スタック100において、燃料極116におけるNi−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)は、0.19以下であることが好ましい。このような構成を採用すれば、Ni−Ag表面積比の値が過度に高くなって燃料電池スタック100の初期性能が過度に低下すること抑制することができ、燃料電池スタック100の初期性能の低下を抑制しつつ、運転開始後に単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができると共に、燃料電池スタック100の制御性が低下することを抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態の燃料電池スタック100において、接合部124におけるAg濃度は、90wt%以上、98wt%以下であることが好ましい。このような構成を採用すれば、接合部124におけるAg濃度が過度に低くなることに伴い、拡散の進行不良による接合強度の低下が発生することを抑制できると共に、接合部124におけるAg濃度が過度に高くなることに伴い、濡れ性が高くなることによる接合強度の低下が発生することを抑制でき、接合部124による部材間(単セル110とセパレータ120との間)の接合強度の低下を抑制することができる。
【0060】
A−6.燃料極116の分析方法:
A−6−1.接合部124におけるAg濃度の特定方法:
接合部124におけるAg濃度(wt%)の特定方法は、以下の通りである。まず、接合部124を削って接合部124の粉末を取得する。この粉末を対象としてICP分析を行うことにより、接合部124におけるAg濃度を特定することができる。
【0061】
A−6−2.Ni−Ag表面積比の特定方法:
燃料極116におけるNi−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)の特定方法は、以下の通りである。燃料極116を燃料ガスFGの流れ方向に沿って仮想的に3分割したときの最も上流側の部分を対象として、3個の破断面を露出させ、各破断面において、Ag含有粒子PA3が10個以上含まれる視野のSTEM画像を取得する。低倍(2万倍〜10万倍)で、Ni、YSZをEDSマッピングおよび点分析により同定する。その後、高倍(20万倍〜80万倍)のHAADEF像を取得する。高倍のHAADEF像において、Ni粒子PA1の表面に存在する微粒子を観察する。EDSマッピングおよび点分析により、該微粒子がAg含有粒子PA3であることを同定する。高倍の画像を使ってAg含有粒子PA3が10個以上表示される範囲(以下、「規定の範囲」という。)のNi粒子PA1の表面積を求める。このとき、Ni粒子PA1は十分に大きいので、Ni粒子PA1の表面積は平面であると仮定して、Ni粒子PA1の表面積を求める。なお、規定の範囲は、正方形、長方形、菱形、または台形とし、これらの形状の規定の範囲におけるNi粒子PA1の表面積を求める。
【0062】
また、上記規定の範囲にある各Ag含有粒子PA3の表面積を、以下のように算出する。すなわち、各Ag含有粒子PA3を半球形状であると仮定し、各Ag含有粒子PA3の直径を測定して、該直径の1/2を半径として算出する。なお、各Ag含有粒子PA3の直径を求める際には、Ag含有粒子PA3の中心を通るように直線を引き、該直線におけるAg含有粒子PA3に重複する部分の長さを、画像のスケールを参照して直径に換算すればよい。各Ag含有粒子PA3の半径を用いて、各Ag含有粒子PA3の半球形状の表面積(4πr
2×1/2)を算出する。規定の範囲内に位置するすべてのAg含有粒子PA3について算出された表面積を合計する。なお、一部分のみ(例えば、半分のみ)が上記規定の範囲に位置するAg含有粒子PA3については、Ag含有粒子PA3の半球形状の表面積の内、規定の範囲に位置する部分の表面積のみ(例えば、半球形状の表面積の内の半分のみ)を算入する。各Ag含有粒子PA3の表面積の合計をNi粒子PA1の表面積で除すことにより、Ni−Ag表面積比を算出する。取得した各画像について算出されたNi−Ag表面積比の平均値を、最終的なNi−Ag表面積比とする。
【0063】
A−6−3.Ag含有粒子PA3の平均粒径の特定方法:
上述した各STEM画像における上記規定の範囲において、各Ag含有粒子PA3の粒径を測定し、Ag含有粒子PA3の平均粒径を算出する。各Ag含有粒子PA3の粒径を測定する方法は、以下の通りである。すなわち、EDSで同定した各Ag含有粒子PA3を半球形状であると仮定し、上述した方法と同様の方法により、各Ag含有粒子PA3の直径を測定して、該直径を粒径とする。各STEM画像について算出されたAg含有粒子PA3の平均粒径の平均値を、最終的なAg含有粒子PA3の平均粒径として算出する。
【0064】
A−7.性能評価:
特性が互いに異なる複数の燃料電池スタック100のサンプルを作製し、該サンプルを用いて性能評価を行った。
図7は、性能評価結果を示す説明図である。
【0065】
A−7−1.各サンプルについて:
図7に示すように、本性能評価には、単セル110の9個のサンプル(サンプルSA1〜SA9)が用いられた。各サンプルSAは、上述した実施形態の燃料電池スタック100の製造方法に倣って作製された。
【0066】
各サンプルSAは、燃料極116におけるAgの付着の有無が互いに異なっている。具体的には、サンプルSA1,SA3では、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着しておらず、その他のサンプルSA(サンプルSA2,SA4〜SA9)では、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着している。また、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着しているサンプルSA2,SA4〜SA9では、上述したNi−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)の値が互いに異なっている。
【0067】
また、各サンプルSAは、接合部124におけるAg含有の有無が、互いに異なっている。具体的には、サンプルSA1,SA2では、接合部124として耐熱性無機接着剤を用いたために、接合部124がAgを含有しておらず、その他のサンプルSA(サンプルSA3〜SA9)では、接合部124としてAgロウを用いたために、接合部124がAgを含有している。また、接合部124がAgを含有しているサンプルSA3〜SA9では、接合部124のAg濃度(wt%)が互いに異なっている。
【0068】
A−7−2.評価項目および評価方法:
本性能評価では、最大劣化率と、初期電圧と、剥離強度との3つ項目について評価を行った。初期電圧の評価としては、発電運転開始前に、電流密度が0.55A/cm
2のときの単セル110の出力電圧を測定した。また、最大劣化率の評価としては、10時間の発電運転を行った後の出力電圧を測定し、初期電圧を基準としたときの発電運転後の出力電圧の比率(劣化率)を、運転時間1000時間あたりの値として算出した。なお、最大劣化率が負の値であることは、発電運転後の出力電圧が初期電圧を上回ったことを意味している。また、剥離強度の評価としては、Agロウを接着剤とした単セル110とセパレータ120との引き剥がし試験を行ったときの剥離強度を測定した。試験方法は、以下の通りである。すなわち、ハーフセル(燃料極116と電解質層112とを備え、空気極114を備えない単セル110)に、Agロウ材を接着剤としてセパレータ120の一部を付け、900〜1000℃で焼き付ける。次に、ハーフセルを固定し、ハーフセルに接合していない側のセパレータ120の端部を治具に挟み、該治具を90度方向(高さ方向、Z軸方向)に5mm/分の速さで引っ張る。このときの剥離強度を測定した。
【0069】
最大劣化率が±0.1%未満の範囲外であった場合に、「不良(×)」と判定した。また、最大劣化率が±0.1%未満の範囲内であった場合において、初期電圧が0.7V未満であったか、または、剥離強度が1N/mm未満であった場合に、「良(〇)」と判定した。また、最大劣化率が±0.1%未満の範囲内であり、初期電圧が0.7V以上であり、かつ、剥離強度が1N/mm以上であった場合に、「優秀(◎)」と判定した。
【0070】
A−7−3.評価結果:
図7に示すように、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着していないサンプルSA1,SA3では、最大劣化率が±0.1%未満の範囲外であったため、「不良(×)」と判定された。これらのサンプルSAでは、発電運転に伴う単セル110を構成する各部の組成変化や微構造変化によるIR抵抗および/またはη抵抗の上昇を、何らかの手段で相殺することができず、最大劣化率が±0.1%未満の範囲外の値になったものと考えられる。
【0071】
また、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着しているが、接合部124がAgを含有していないサンプルSA2では、最大劣化率が±0.1%未満の範囲外であったため、「不良(×)」と判定された。このサンプルSAでは、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着しているものの、接合部124がAgを含有していないため、運転開始後に、各燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の量が過度に速い速度で減少し、これに伴い、単セル110のη抵抗が急激に低くなったため、最大劣化率が±0.1%未満の範囲外の値になったものと考えられる。
【0072】
なお、接合部124として耐熱性無機接着剤を用いたサンプルSA1,SA2では、剥離強度を測定する前に剥離が生じたため、剥離強度の評価は測定不能「−」とした。
【0073】
これに対し、燃料極116に含まれるNi粒子PA1にAg含有粒子PA3が付着しており、かつ、接合部124がAgを含有しているサンプルSA4〜SA9では、いずれも最大劣化率が±0.1%未満の範囲内であったため、「良(〇)」または「優秀(◎)」と判定された。これらのサンプルSAでは、発電運転に伴う単セル110を構成する各部の組成変化や微構造変化によるIR抵抗および/またはη抵抗の上昇を、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面に付着したAg含有粒子PA3の量の減少に伴う単セル110のη抵抗の低下によって相殺することができたため、最大劣化率が±0.1%未満の範囲内の値になったものと考えられる。
【0074】
この結果から、燃料電池スタック100が、燃料電池スタック100を構成する2つの部材間(例えば、単セル110とセパレータ120との間)を接合するロウ付け部(接合部124)を備え、該ロウ付け部が、燃料極116に供給される燃料ガスFGの流路に面すると共にAgを含有し、燃料極116に含まれるNi粒子PA1の表面にAg含有粒子PA3が付着していると、運転開始後に各単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができることが確認された。
【0075】
なお、「良(〇)」または「優秀(◎)」と判定されたこれらのサンプルSA4〜SA9の内、接合部124のAg濃度が90wt%未満であるサンプルSA4,SA5では、剥離強度が1N/mm未満であった。これらのサンプルでは、接合部124におけるAg濃度が過度に低いため、拡散の進行不良による接合強度の低下が発生したものと考えられる。一方、接合部124のAg濃度が90wt%以上、98wt%以下であるサンプルSA6〜SA9では、剥離強度が1N/mm以上であった。この結果から、接合部124におけるAg濃度が90wt%以上、98wt%以下であると、接合部124の接合強度の低下を抑制することができるためにより好ましいことが確認された。
【0076】
また、「良(〇)」または「優秀(◎)」と判定されたこれらのサンプルSA4〜SA9の内、Ni−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)の値が0.19より大きいサンプルSA9では、初期電圧が0.7V未満であった。このサンプルSAでは、Ni−Ag表面積比の値が過度に高いため、初期電圧が過度に低下したものと考えられる。一方、Ni−Ag表面積比の値が0.19以下であるサンプルSA4〜SA8では、初期電圧が0.7V以上であった。この結果から、Ni−Ag表面積比(Ni粒子PA1の表面積に対する各Ag含有粒子PA3の表面積の合計の比)が0.19以下であると、燃料電池スタック100の初期性能が過度に低下すること抑制することができるためにより好ましいことが確認された。
【0077】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0078】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、燃料極116が、活性層320と基板層310との二層構成であるが、燃料極116は、単層構成であってもよいし、三層以上の構成であってもよい。
【0079】
上記実施形態では、燃料電池スタック100が、燃料極116に供給されるガスの流路に面すると共にAgを含有するAg含有部材として、単セル110とセパレータ120とを接合する接合部124を備えているが、この接合部124に代えて、あるいは、この接合部124と共に、燃料電池スタック100が、燃料極116に供給されるガスの流路に面すると共にAgを含有する他のAg含有部材を備えているとしてもよい。このような他のAg含有部材としては、例えば、セパレータ120と空気極側フレーム130または燃料極側フレーム140との間を接合するロウ付け部や、燃料電池スタック100がエンドプレート104,106とは別にターミナルプレートを備える場合においてエンドプレート104,106とターミナルプレートとの間を接合するロウ付け部等が挙げられる。
【0080】
また、上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記実施形態では、燃料極116に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックスとして、YSZを採用しているが、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリニウムドープセリア)等の他の酸化物イオン伝導性セラミックスを利用可能である。
【0081】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。なお、上記実施形態では、燃料電池スタック100が備えるすべての単セル110を構成する燃料極116が、Ni粒子PA1の表面にAg含有粒子PA3が付着している構成となっているが、燃料電池スタック100が備える一部の単セル110を構成する燃料極116のみが該構成となっているとしてもよい。ただし、燃料電池スタック100の制御性の低下を抑制するために、燃料電池スタック100が備える大部分の(例えば、50%以上の)単セル110を構成する燃料極116が該構成となっていることが好ましい。
【0082】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の単セル110が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば国際公開第2012/165409号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0083】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016−81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解単セルにおいて水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セルスタックにおいても、燃料極116に供給されるガスの流路に面すると共に、Agを含有し、2つの部材間を接合する少なくとも1つのロウ付け部を備え、燃料極116に含まれる少なくとも1つのNi粒子の表面に、Agを含有する粒子が付着している構成を採用すれば、運転開始後に単セル110の抵抗(性能)が変化することを抑制することができる。
【0084】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。