(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耳部の高さ方向に沿った寸法L(mm)と、前記耳部の前記幅方向に沿った寸法Wと、前記耳部の前記厚さ方向に沿った寸法T(mm)と、を用いて下記の(1)式で算出されるXが、50mm-1以上500mm-1以下である請求項1記載の鉛蓄電池。
X=L3/(W×T3)‥‥(1)
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減のため車両の電動化が急速に進み、アイドリングストップ車やハイブリッド車が登場している。ハイブリッド車には、マイクロハイブリッド車、マイルドハイブリッド車、及びストロングハイブリッド車があり、比較的安価なマイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車の人気が高まっている。
上記マイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車には、エンジン始動用および再始動用にアイドリングストップ用の鉛蓄電池が使用されている。アイドリングストップ機能は、電池の劣化がある程度進むと車両側の制御によりその機能を停止するが、そのまま始動用として鉛蓄電池を使用する場合がある。このような場合であっても、突然電圧が低下し、エンジンが始動できなくなるという問題が発生しないようにする必要がある。
【0003】
これに関連し、特許文献1には、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池として、Pb−Ca−Sn系合金の圧延シートをエキスパンド加工または打ち抜き加工した負極格子に負極活物質を充填した負極板と、正極板と、電解液と、複数の負極板の耳部が溶接された負極ストラップと、正極ストラップとを備えた液式の鉛蓄電池が記載されている。また、アイドリングストップ車のように鉛蓄電池を充電不足の状態で使用すると、負極格子の耳部が痩せて寿命に到ることと、この負極格子の耳痩せを抑制するために、複数の負極板の耳部の合計厚さL2と負極ストラップの寸法L1との比L2/L1を0.22以上0.34以下にすることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、アイドルストップ車や、回生ブレーキシステムを搭載したような車両、すなわちSOC(State of charge)がより深く、充放電頻度がより多い使用環境下では、負極格子耳で腐食が進行するという問題が発生し、その結果、負極格子の耳厚みが減少して負極における集電効率が低下することで、寿命が低下することが記載されている。
【0005】
また、負極格子耳の腐食の原因の一つとして、極棚および負極格子耳が電解液に浸漬した状態であっても、正極格子上に配置したSbや正極棚、正極柱および正極接続体といった鉛合金の接続部材中に含まれるSbが電解液に溶出し、負極格子耳表面に微量析出することが記載されている。また、負極格子耳の腐食を防止するために、正極格子、正極接続部材、負極格子、および負極接続部材を、Sbを含有しない鉛もしくは鉛合金で形成することが記載されている。また、負極格子はエキスパンド格子であり、前記負極格子骨はエキスパンド網目とこれに連接する枠骨を備え、前記負極格子耳は前記枠骨に一体に設けられ、前記負極格子耳の高さ寸法をLt、前記枠骨の高さ寸法をLfとしたとき、比率(Lt/Lf)を2.2〜15.0とすることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、各単体セル間の配置関係や電気的な接続関係を最適化し、かつ、正極板及び負極板の配置や、正極板及び負極板の耳部断面積、厚さの相対的な関係などを最適化することにより、浅い充電深度(SOC)の状態でも、ハイレート放電を行うことができ、かつ長寿命を有する鉛蓄電池を実現することが記載されている。
【0007】
特許文献4には、制御弁式鉛蓄電池においては、負極板の耳部とストラップの溶接部が電解液から露出しているため、充電時においても、鉛の平衡電位より貴な状態におかれることと、そのため、耳部やストラップを這い上がった硫酸と正極から発生した酸素によって、耳部やストラップで腐食が進行して、溶接界面で破断する問題があることが記載されている。また、負極板の耳の厚さ(d)と耳の高さ方向に沿った長さ(l)との比(d/l)が小さいと、耳長さに対して耳厚さが薄いため、腐食による破断が起こりやすいことが記載されている。
【0008】
一方、電解液中の水分減少を抑制することで、鉛蓄電池の電槽に水を補給するメンテナンスを行う頻度を低くできる。そして、電解液中の水分減少は、高温であるほど生じやすい。よって、今後、高温地域である東南アジアに、急速にマイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車が普及すると予想されることから、電解液中の水分減少を抑制できる性能は、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池の重要な性能の一つであると言える。
【0009】
特許文献5には、電解液中の水分減少を抑制する目的で、正極および負極にPb−Ca合金の格子を用いた液式の鉛蓄電池が記載されている。また、この鉛蓄電池の充電受入性を向上させて寿命特性を改善することを目的として、正極活物質内に保持された電解液の硫酸質量(SA)と正極活物質(PAM)の質量比(SA/PAM)、および正極板と負極板の間に存在する電解液中の硫酸質量(SB)と正極活物質(PAM)の質量比(SB/PAM)を規定することが記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1〜5には、鉛蓄電池を構成する正極板および負極板の合計質量Wpと、これらの負極板および正極板に保持された電解液の合計質量Weと、の関係についての記載がない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[考察]
上述の耳部の破断の原因について、本発明者らが種々検討した結果、負極においてはPSOC下での使用により、正極においては腐食により耳やせしやすいことに加え、アイドリングストップ車に特有の頻繁なアイドリングストップ後の再スタートによる振動も、耳部の破断の原因の一つではないか、という推測に至った。なお、PSOC下で負極が耳やせしやすい理由は、PSOC下では負極がサルフェーションし易く、サルフェーションのまま使用すると耳部が活物質化して、やがて脱落するからである。
そして、本発明者らは、耳やせが始まっている鉛蓄電池では、極板の重さが耳部の破断に影響を及ぼすのではないかと考えて、種々検討を行った。その結果、正極板、負極板の合計質量(Wp)と正極板、負極板に保持されている電解液の合計質量(We)との比(We/Wp)が0.04以上0.12以下のとき、耳部の破断が抑制され、且つ、減水特性が優れた電池となることが分かった。
【0017】
比(We/Wp)が0.04未満の場合は、極板が重いことで耳部への負担が増加して、耳部が破断しやすくなると考えられる。また、比(We/Wp)が0.12よりも大きい場合は、極板に保持されている電解液が多いことで、極板が劣化して(硫酸鉛が多い状態になって)も電解液が減少しても、電解液の濃度(比重)が高い状態が続くために、耳部の腐食が進み易い環境になっているのではないかと考えられる。
また、比(We/Wp)が0.12よりも大きいと、電解液中の水分減少量が多くなる。この理由も定かではないが、上記の理由により、極板が劣化しても比重が下がりにくく、液抵抗が低いので、充電電流が流れ易くなることで、充電中に水の電気分解が進行し易くなるためではないかと考えられる。
【0018】
一態様の鉛蓄電池は、下記の構成(11)を有することが好ましい。
(11)耳部の高さ方向に沿った寸法L(mm)と、耳部の幅方向(正極板および負極板の幅方向と同じ)に沿った寸法W(mm)と、耳部の厚さ方向(正極板および負極板の厚さ方向と同じ)に沿った寸法T(mm)と、を用いて下記の(1)式で算出されるXが、50mm
-1以上500mm
-1以下である。
X=L
3/(W×T
3)‥‥(1)
【0019】
一態様の鉛蓄電池が、50mm
-1≦X≦500mm
-1を満たす耳部を有する場合、各セル室の個別振動による共振が抑制され、耳部の破断が抑制されるのではないかと推測される。また、(1)式は、板ばねのたわみの計算式に着目して得たものであり、50mm
-1≦X≦500mm
-1を満たさないと、耳部のたわみが不適切で振動が抑制されないのではないかと推測される。
【0020】
一態様の鉛蓄電池が下記の構成(12)を有する場合は、下記の構成(13)を有することが好ましい。
(12)複数のセル室は一方向に沿って配列され、配列方向の一端のセル室に配置された極板群は、正極ストラップから立ち上がる正極中間極柱と負極ストラップから立ち上がる負極端子極柱を有し、配列方向の他端のセル室に配置された極板群は、正極ストラップから立ち上がる正極中間極柱と負極ストラップから立ち上がる負極端子極柱を有する。
(13)セル室内での電解液の液面高さは、配列方向の両端にあるセル室とその他のセル室とで異なる。
一態様の鉛蓄電池が上記構成(12)を有する場合、両端のセル室内に収納された極板群とその他のセル室内に収納された極板群とでは、電槽に対する固定状態が異なる。
【0021】
具体的には、両端のセル室内に収納された極板群では、正極ストラップおよび負極ストラップの一方から立ち上がる中間極柱が、隣のセル室内の中間極柱と、電槽の隔壁に形成された貫通孔を埋める金属部で固定され、他方から立ち上がる端子極柱は、例えばインサート成形により蓋に一体に形成された鉛合金製のブッシングの貫通穴に挿入され、固定されている。その他のセル室内に収納された極板群では、正極ストラップおよび負極ストラップの両方から立ち上がる中間極柱が、隣のセル室内の中間極柱と、電槽の隔壁に形成された貫通孔を埋める金属部で固定されている。
【0022】
このような固定状態の違いにより、両端のセル室内に収納された極板群とその他のセル室内に収納された極板群とでは、振動の挙動が異なると推測される。これに基づいて、本発明者らが検討した結果、両端のセル内とその他のセル室内で電解液の液面高さが異なれば、振動による極板群の共振点がずれることで共振が抑制でき、耳部の破断が抑制できるのではないかという推察に至った。
つまり、一態様の鉛蓄電池が上記構成(12)を有する場合、上記構成(13)を有することで、耳部の破断の抑制効果が高くなると考えられる。
【0023】
また、一態様の鉛蓄電池が上記構成(12)を有する場合、下記の構成(14)を有することで、耳部の破断の抑制効果がさらに高くなると考えられる。
(14)セル室内での電解液の液面高さは、配列方向の両端にあるセル室の方がその他のセル室よりも高い。
配列方向の両端にあるセル室では、配列方向の一方には隣のセル室が存在するが、他方にはセル室が存在しない。その他のセル室(配列方向の両端以外のセル室)では、配列方向の両方に隣のセル室が存在する。そのため、両端のセル室はその他のセル室と比較して、内部に存在する極板群の正極板、負極板、およびセパレータからなる積層体を圧迫する力が弱く、積層体とセル室との空間にガスが溜まりやすい。よって、両端のセル室内では電解液の液面が上昇し易い。
【0024】
そのため、初期状態で、両端のセル室内での電解液の液面高さをその他のセル室内での電解液の液面高さよりも低くしておくと、鉛蓄電池を使用している間に、両端のセル室内での電解液の液面が上昇して、その他のセル室の電解液の液面高さと同じになる可能性がある。また、通常の使用状態では、上述のように両端のセル室内での電解液の液面だけが上昇することはあっても、両端のセル室内での電解液の液面だけが下降することは考えられない。
よって、初期状態で、両端のセル室内での電解液の液面高さをその他のセル室内での電解液の液面高さよりも高くしておくと、鉛蓄電池を使用している間に、セル室内での電解液の液面高さが配列方向の両端にあるセル室とその他のセル室とで異なる状態が継続すると考えられる。
【0025】
このように、上記構成(12)を有する一態様の鉛蓄電池が上記構成(14)を有することで、鉛蓄電池を使用している間に、セル室内での電解液の液面高さが配列方向の両端にあるセル室とその他のセル室とで異なる状態が継続することになる。その結果、振動による極板群の共振点がずれることで共振が抑制できる状態が継続するため、耳部の破断の抑制効果がより一層高くなると推測される。
【0026】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0027】
図1および
図2に示すように、実施形態の鉛蓄電池は、従来公知のモノブロックタイプの電槽1と、蓋2と、六個の極板群3を有する。電槽1は、隔壁13により六個のセル室41〜46に区画されている。六個のセル室41〜46は電槽1の長手方向(一方向)に沿って配列されている。各セル室41〜46に一個の極板群3が配置されている。各セル室41〜46に電解液5が注入されている。
【0028】
<複数のセル室に共通の構成>
図1に示すように、極板群3は、複数枚の正極板32および負極板31と、セパレータ33と、正極ストラップ320と、負極ストラップ310とを有する。
なお、
図1では、一個の極板群3を構成する正極板31の枚数と負極板32の枚数が同じになっているが、正極板31の枚数が負極板32の枚数よりも一枚多いことが好ましいものの、正極板32の枚数が負極板31の枚数よりも一枚多くても良い。また、
図1〜3において、セル室41〜46の配列方向をX方向、高さ方向をZ方向、X方向およびZ方向に垂直な方向をY方向と表示する。
【0029】
図1および
図3に示すように、正極板32は、正極活物質を含む合剤が保持された正極基板321と、正極基板321から上側に突出する耳部322と、正極基板321から下側に突出する足(
図3では見えないが、負極板31の足部313に対応する足)を有する。負極板31は、負極活物質を含む合剤が保持された負極基板311と、負極基板311から上側に突出する耳部312と、負極基板311から下側に突出する足部313を有する。複数枚の正極板32および負極板31は、セパレータ33を介して交互に配置されている。なお、前記負極板31は、二枚に折り曲げられて折り目を下にしたセパレータ内に配置した後、ギアシール等で各セパレータの左右の端を封止してなる袋状セパレータに収納されても良い。
【0030】
図1に示すように、正極ストラップ320および負極ストラップ310は、一個のセル室内の全ての正極板32および負極板31の上方に配置され、正極ストラップ320が全ての正極板32の耳部322を厚さ方向(X方向)に連結し、負極ストラップ310が全ての負極板31の耳部312を厚さ方向(X方向)に連結している。
図1には、耳部312,322の高さ方向(Z方向)に沿った寸法Lが表示されている。
【0031】
図3に示すように、正極板32の耳部322と負極板31の耳部312は、幅方向(セル室に入った時にY方向となる方向)で異なる位置に配置されている。
図3において、正極板の耳部322および負極板31の耳部312をそれぞれ連結している正極ストラップ320および負極ストラップ310は、正極ストラップ320の幅方向中心線L
320および負極ストラップ310の幅方向中心線L
310のみが記載されている。
つまり、正極板32は正極ストラップ320により、負極板31は負極ストラップ310により、それぞれ幅方向(セル室に入った時にY方向となる方向)の別の位置で連結された状態となっている。
【0032】
図3は、
図1に示す極板群3の正極ストラップ320、負極ストラップ310より下側の部分を示している。
図3には、この部分での負極板31および正極板32について、耳部312,322の高さ方向Zに沿った寸法L、幅方向(セル室の配列方向に垂直な方向Y)に沿った寸法W、厚さ方向(セル室の配列方向X)に沿った寸法Tが表示されている。そして、耳部312,322は、それぞれ、寸法L(mm)と寸法W(mm)と寸法T(mm)とを用いて下記の(1)式で算出されるXが、50mm
−1以上500mm
−1以下を満たしている。
X=L
3/(W×T
3)‥‥(1)
【0033】
また、正極基板321と耳部322と足部は一体に鉛合金で形成され、耳部322を形成する金属のアンチモン(Sb)含有率は50ppm以下となっている。負極基板311と耳部312と足部313は一体に鉛合金で形成され、耳部312を形成する金属のアンチモン(Sb)含有率は50ppm以下となっている。
【0034】
<複数のセル室の関係>
図1には、主に、配列方向の一端のセル室41およびその隣のセル室(その他のセル室)42の上側部分が表示されている。つまり、
図1は
図2のA−A断面図に相当する。一方(左側)のセル室41内の負極ストラップ310の右端から立ち上がる負極中間極柱310aと、他方(右側)のセル室42内の正極ストラップ320の左端から立ち上がる正極中間極柱320aとが、隔壁13に形成された貫通孔13a内を埋める金属部330aで接続されている。金属部330aは、負極中間極柱310aと正極中間極柱320aとで、隔壁13の貫通孔13aが形成されている部分を挟み、両中間極柱同士を抵抗溶接することで、貫通孔13aに生じさせたものである。
【0035】
図2に示すように、配列方向の一端のセル室41に配置された極板群3は、負極ストラップ310から立ち上がる負極中間極柱310aと、正極ストラップ320から立ち上がる正極端子極柱362を有する。配列方向の他端のセル室46に配置された極板群3は、正極ストラップ320から立ち上がる正極中間極柱320aと負極ストラップ310から立ち上がる負極端子極柱361を有する。正極端子極柱362および負極端子極柱361は、正極ストラップ320および負極ストラップ310からそれぞれY方向に延設された小片部35の上に形成されている。
また、セル室41〜46毎に、複数枚の正極板32および負極板31の合計質量Wpに対する複数枚の正極板32および負極板31に保持された電解液の合計質量Weの比(We/Wp)が、0.04以上0.12以下になっている。
【0036】
図1に示すように、配列方向の一端のセル室41内での電解液5の液面高さH1は、両端に位置しないセル室42〜45内での電解液5の液面高さH2よりも高くなっている。配列方向の他端のセル室46内での電解液5の液面高さは、セル室41内の液面高さH1と同じであり、両端に位置しないセル室42〜45内での電解液5の液面高さH2よりも高くなっている。
【0037】
<作用、効果>
この実施形態の鉛蓄電池は、セル室41〜46毎に比(We/Wp)が0.04以上0.12以下となっているため、部分充電状態で使用された場合でも耳部312,322の破断を抑制できるとともに、電解液5の減少も抑制できる。これに加えて、この実施形態の鉛蓄電池は、耳部312,322の寸法L,W,Tを用いて(1)式で算出されるXが50mm
-1以上500mm
-1以下を満たすとともに、電解液の液面高さの関係H1>H2を満たしているため、耳部312,322の破断抑制効果が高く、電解液5の減少抑制効果も高いものとなっている。
【0038】
<製法>
実施形態の鉛蓄電池は、従来公知の方法によって、例えば以下の方法で製造することができる。
先ず、極板群を構成する化成前の正極板と負極板を作製する。その際に、(1)式で算出されるXが50mm
−1以上500mm
−1以下を満たすように、負極板の耳部312および正極板の耳部322の耳部の高さ方向に沿った寸法L,耳部の幅方向に沿った寸法W,耳部の厚さ方向に沿った寸法Tを決定する。また、各セル室41〜46で比(We/Wp)が0.04以上0.12以下となるように、使用する活物質の粒径を調整する。活物質の粒径は化成温度によりコントロールした。なお、化成温度が高い程、正極、負極活物質が粗大化することは周知の事実である。
【0039】
次に、化成前の正極板および負極板を、ポリエチレン製などのセパレータを挟んで交互に積層することで積層体を得る。前記セパレータは、正極板または負極板を、二枚に折り曲げられて折り目を下にしたセパレータ内に配置した後、ギアシール等で各セパレータの左右の端を封止して、袋状セパレータを形成しても良い。
次に、この積層体をCOS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極板の耳部322同士を接続した正極ストラップ320、負極板の耳部311同士を接続した負極ストラップ310、前記正極ストラップ320から立ち上がる正極中間極柱および正極端子極柱、負極ストラップから立ち上がる負極中間極柱310aまたは負極端子極柱361を形成して極板群3とした後、前記極板群3を電槽の各セル室に収容した。
【0040】
次に、極板群が電槽1の各セル室に収容された状態で、セル室間の隔壁13を介して隣り合う正極中間極柱320aおよび負極中間極柱310aに対して抵抗溶接を行って、隣接するセル室間を電気的に直列に接続する。次に、電槽1の上面と蓋2の下面を熱で溶かして蓋2を電槽1に載せ、熱溶着により電槽1に蓋2を固定する。なお、蓋を電槽に載せる際に、負極端子極柱310aおよび正極端子極柱320aを、それぞれインサート成形により蓋2に一体に形成された鉛合金製のブッシング(図示しない)の貫通穴に挿入して溶接一体化し、端子とする。
【0041】
その後、蓋2に各セル室内に連通する穴として設けた注液口(図示しない)からセル室内に、電解液(硫酸水溶液に硫酸アルミニウムを添加することでアルミニウムイオンを含んでいる)5を注入する。その後、注液口を液口栓(図示しない)で塞ぐなどの通常の工程を行うことにより、未化成の鉛蓄電池を組み立てる。その後、通常の条件で電槽化成を行う。
その後、配列方向の一端のセル室41および他端のセル室46内に電解液5を追加して、それ以外のセル室42〜45内よりも電解液5の液面高さを高くすることで、完成品とする。
【実施例】
【0042】
<試験電池の作製>
実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池として、サンプルNo.1〜No.90の鉛蓄電池を作製した。
サンプルNo.1〜No.90の鉛蓄電池はD23型のアイドリングストップ用液式鉛蓄電池であって、表1および表2に示すように、それぞれ、比(We/Wp)、耳部の寸法に関するXの値、および電解液の液面高さが両端のセル室とその他のセル室とで違うかどうか(以下、「液面高さの関係」)の少なくともいずれかが異なるものであり、それ以外の点は全て同じ構成を有する。
なお、各サンプルの鉛蓄電池を構成する正極板および負極板は、Xの値が同じか略同じである。つまり、表に示すXは正極板および負極板の両方の値を示している。
【0043】
先ず、アンチモン含有率が50ppm以下であるPb−Ca−Sn系合金を用いて、活物質を含む合剤が保持される前の格子状基板と、集電用の耳部と、格子状基板の下方に延びる足部が一体化された形状の基材を作製した。その際に、負極および正極で、それぞれ、耳部の幅(寸法W)を一定、耳部の高さ(寸法L)を一定(13mm)にし、耳部の厚さ(寸法T)を変えることで、Xを変化させた。
No.43が基準のサンプルであって、No.43の正極板では、T=1.04mm、L=13mm、W=13mmを(1)式に代入して算出されたXが150.2mm
-1になっている。No.43の負極板では、T=1.02mm、L=13mm、W=14mmを(1)式に代入して算出されたXが150.8mm
-1になっている。よって、表1には、Xを150mm
-1と表記した。
【0044】
なお、正極基材としてはJIS−Dサイズのパンチング基板を、負極基材としてはJIS−Dサイズの連続鋳造基板を使用した。また、電流・電位解析シミュレーションにより、基材の作り易さや鉛量を考慮しつつ、電位分布ができるだけ均一になるように、基板の格子デザインを決定した。具体的には、耳部周辺の電流が集中する部分の鉛量を増やし、耳部を基点に放射状になるような格子デザインとした。
【0045】
次に、正極基材の基板(正極基板)には、下記の組成物を用い通常の方法で作製した正極活物質を含む合剤(正極合剤)を充填した。正極合剤用の組成物は、一酸化鉛を主成分とする鉛粉と鉛丹、ポリエステル繊維(例えば、テトロン(登録商標))、ビスマスやアンチモンを含有した化合粒とを混合した組成物である。充填後に通常の処理を行って、化成前の正極板を得た。負極基材の基板(負極基板)には、通常の方法で作製した負極活物質を含む合剤(負極合剤)を充填し、熟成乾燥させて、化成前の負極板を得た。
【0046】
次に、正極板7枚と負極板8枚を、ポリエチレンセパレータを挟んで交互に積層して積層体を得た。この積層体を六個用意し、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、各積層体の正極板および負極板にストラップおよび中間極柱、またはストラップおよび端子極柱を形成した後、電槽の各セル室に収容した。また、積層体のセル室内での圧迫力は約10kPaとした。
次に、隣接するセル室間の中間極柱同士の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着、注液孔から各セル室内への電解液の注入、および注液口を液口栓で塞ぐなどの通常の工程を行うことにより、D23型のアイドリングストップ用液式鉛蓄電池を組み立てた。その後、通常の方法で電槽化成を行うことで、電槽化成後の比重を1.285(20℃換算値)とした。
【0047】
次に、化成が終わってから48時間放置した後に、先ず、全てのセル室内の電解液の液面高さを同じに調節した。次に、No.6〜10、No.21〜25、No.36〜40、No.51〜55、No.66〜70、No.81〜85では、両端のセル室41,46から電解液を抜き出して、液面高さをその他のセル室42〜45よりも3mm低くした。また、No.11〜15、No.26〜30、No.41〜45、No.56〜60、No.71〜75、No.86〜90では、両端のセル室41,46に電解液を追加して、液面高さをその他のセル室42〜45よりも3mm高くした。このようにして、サンプルNo.1〜No.90の鉛蓄電池を完成させた。
【0048】
なお、電解液は、基板に保持された活物質により形成される多孔体が有する空間に保持されるため、この空間の体積Vを正極板および負極板について調べ、その合計値をWeとして算出した。具体的には、水銀ポロシメーター(micromeritics社のAutoPore IV)で得られた活物質を含む合剤の多孔度に極板の体積を掛け、空間体積を得る。正極と負極の枚数分の空間体積を足し合わせることで、Weとした。
また、Xの値が異なると、耳部の体積が異なるため、Wpの値が変化する。よって、Xの値が同じグループ(No.1〜15、No.16〜30、No.31〜45、No.46〜60、No.61〜75、No.76〜90)内で、体積Vが異なる正極板および負極板を用いてWeを変化させることにより、比(We/Wp)を変化させた。
【0049】
<試験および評価>
得られた各鉛蓄電池について、以下の方法で試験を行った。
PSOC寿命試験として、SBA S 0101(2014)のアイドリングストップ寿命試験を30,000サイクル実施した後、EN50342−1:2015記載の「Vibration resistance Level V4」を実施した。その後、鉛蓄電池を解体して、一端のセル室41とその二つ隣のセル室43から取り出した極板群の全ての正極板および負極板について、耳部の状態を目視で確認した。そして、破断が生じていた耳部の数を合計極板枚数である30で割った値の百分率を、「耳部破断割合(%)」として算出した。
【0050】
また、EN50642−1:2015記載の「Water consumption test」を42日間行い、六個のセル室内の電解液の合計量がどれくらい減ったか(減水量)を測定した。得られた減水量の各測定値について、サンプルNo.43の結果を100とした相対値を算出した。
【0051】
これらの試験結果を、鉛蓄電池の構成(We/Wp、X、液面高さの関係)とともに表1および表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1および表2に示すように、Xと液面高さの関係とが同じ各グループ(No.1〜5、No. 6〜10、No.11〜15、No.16〜20、No.21〜25、No.26〜30、No.31〜35、No.36〜40、No.41〜45、No.46〜50、No.51〜55、No.56〜60、No.61〜65、No.66〜70、No.71〜75、No.76〜80、No.81〜85、No.86〜90)内で、本発明の第一態様の条件である、比(We/Wp)が0.04以上0.12以下を満たすもの(No.2〜4、No.7〜9、No.12〜14、No.17〜19、No.22〜24、No.27〜29、No.32〜34、No.37〜39、No.42〜44、No.47〜49、No.52〜54、No.57〜59、No.62〜64、No.67〜69、No.72〜74、No.77〜79、No.82〜84、No.87〜89:実施例)は、これ満たさないものと比較して、耳部破断割合が少なく、減水率は一部差が見られないサンプルもあるが総じて低い傾向が見られた。
サンプルNo.1〜No.90のうち比(We/Wp)が0.04以上0.12以下を満たすものを抜き出して、セル室内の液面高さの関係毎に以下の表3〜5にまとめた。各表では比(We/Wp)毎に、Xの値の違いによる試験結果の違いを見ることができる。
【0055】
表3は、液面高さについて、同じサンプルをまとめたものである。
【0056】
【表3】
【0057】
表4は、液面高さについて、両端が低いサンプルをまとめたものである。
【0058】
【表4】
【0059】
表5は、液面高さについて、両端が高いサンプルをまとめたものである。
【0060】
【表5】
【0061】
これらの表から、実施例に分類されるサンプルの中では、50mm
-1≦X≦500mm
-1を満たすことで、耳部破断割合がさらに少なく、減水率も総じてさらに低くなること分かる。
サンプルNo.1〜No.90のうち比(We/Wp)が0.04以上0.12以下を満たすものを、Xの値毎に以下の表6および表7にまとめた。各表では比(We/Wp)毎に、セル室内の液面高さの関係の違いによる試験結果の違いを見ることができる。
【0062】
表6は、Xの値40、50、150mm
-1について、サンプルをまとめたものである。
【0063】
【表6】
【0064】
表7は、Xの値350、500、510mm
-1について、サンプルをまとめたものである。
【0065】
【表7】
【0066】
これらの表から、50mm
-1≦X≦500mm
-1を満たす場合に、電解液の液面高さを両端のセル室でその他のセル室よりも高くすることで、耳部破断割合を0にすることもできることが分かる。なお、耳部破断割合を0にできる比(We/Wp)の値は、Xの値によって異なっている。