特許第6982613号(P6982613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982613リチウムイオン伝導性セラミックス材料、リチウムイオン伝導性セラミックス体、及びリチウム電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982613
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性セラミックス材料、リチウムイオン伝導性セラミックス体、及びリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20211206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20211206BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211206BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20211206BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M6/18 A
   H01M4/13
   H01B1/06 A
   H01B1/08
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-514580(P2019-514580)
(86)(22)【出願日】2018年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2018016826
(87)【国際公開番号】WO2018199171
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-86752(P2017-86752)
(32)【優先日】2017年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雄基
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 英昭
(72)【発明者】
【氏名】水谷 秀俊
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−040767(JP,A)
【文献】 特開2014−220173(JP,A)
【文献】 特開2016−056054(JP,A)
【文献】 特開2013−256435(JP,A)
【文献】 特許第5083336(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/128759(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 6/18
H01M 4/13
H01B 1/06
H01B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性セラミックス材料であって、
LiおよびLaを含有するガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相と、Li、Mg、Zr、及びOを含有し、かつ、Laを含有しない第2結晶相とを有し、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の少なくとも1つの断面の所定の領域において、前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面の山点と谷点とを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、前記谷点のみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)は、0.95以上であり、かつ、1より小さく、
前記第2結晶相は、前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の切断面において、0.5面積%以下の割合で含有される、リチウムイオン伝導性セラミックス材料。
【請求項2】
前記第1結晶相は、Li、La、Zr、及びMgを含む請求項1に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料。
【請求項3】
前記第1結晶相は、Li、La、Zr、Mg、及びA元素(A元素は、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素)を含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料。
【請求項4】
前記A元素は、Srである請求項3に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料と、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面に形成され、Li、C、及びOを含有し、厚さが3μm以下である被覆層と、
を備えるリチウムイオン伝導性セラミックス体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料を備えるリチウム電池であって、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池。
【請求項7】
請求項5に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス体を備えるリチウム電池であって、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス体が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン伝導性セラミックス材料、リチウムイオン伝導性セラミックス体、及びリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン及び携帯電話等の電子機器の普及、自然エネルギーの貯蔵技術の発展、及び電気自動車等の普及により、安全で長寿命で高性能な電池の需要が高まっている。従来のリチウムイオン二次電池では、電解質層として有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解質層が用いられる場合がある。このような液体の有機電解質層を用いた電池では、有機溶媒の漏洩、発火、爆発等の危険性があり、安全面において好ましくない場合がある。そこで、近年、高い安全性を確保するために、液体の有機電解質層に代えて固体電解質層を用いると共に他の電池要素をすべて固体で構成した全固体電池の開発が進められている。
【0003】
全固体電池は、電解質層がセラミックスであるので、漏洩や発火のおそれがなく安全である。また、全固体電池は、液体の有機電解質層を用いたリチウムイオン二次電池に設けられている外装を簡略化でき、各電池要素を積層化することにより小型化することができるので、単位体積あたり及び単位重量あたりのエネルギー密度を向上させることができる。全固体電池の中でも、電極にリチウム金属を含む全固体リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度化が期待されている。全固体リチウムイオン二次電池では、リチウム金属の反応性が高いため、リチウム金属に対して安定な、特定の材料で構成された固体電解質層を用いる必要がある。化学的安定性に優れた固体電解質層として、ガーネット型結晶構造を有するセラミックスが注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「組成式Li5+XLa(Zr,A2−x)O12(式中、AはNb及びTaからなる群より選ばれた1種類以上の元素、Xは1.4≦X<2)で表される、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物。」(特許文献1の請求項1)が記載されている。このガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物は、従来のガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物LiLaZr12に比べて、化学的安定性や電位窓の広さは同等でありながら、伝導度が高いことが開示されている(特許文献1の0010欄等)。
【0005】
特許文献2には、「・・該セラミックス材料が、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体であり、該酸化物焼結体が、添加元素としてAl及びMgをさらに含んでなる、セラミックス材料。」(特許文献2の請求項1)が記載されている。このセラミックス材料は、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等の発生を抑制又は回避して、高密度及び高強度を実現することができることが開示されている(特許文献2の0016欄等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5083336号公報
【特許文献2】国際公開第2013/128759号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、全固体型のリチウム電池に関して、さらなる容量及び出力の向上が望まれている。高容量及び高出力の全固体型のリチウム電池とする方法の一つとして、例えば特許文献1及び2に記載されているガーネット型結晶構造を有する焼結体からなる固体電解質層のイオン伝導率を向上させること、及び固体電解質層や固体電解質層と電極との間に配置される保護層を薄く形成すること等により、リチウム電池の内部抵抗を低減することが考えられる。例えば、固体電解質層を形成する焼結体に粒界が存在すると、薄く形成された固体電解質層は割れてしまうおそれがあり、また、粒界抵抗が上昇することによりリチウム電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。粒界の形成を抑制するためには、高温焼成により焼結体を形成することが考えられる。しかしながら、高温焼成すると、焼成過程でリチウムが揮発し、それによって焼結体中に空孔が形成され易くなり、イオン伝導率が低下してしまう。リチウム電池の内部抵抗を低減するために、焼結体を高温焼成して形成し、粒界の形成を抑制したとしても、空孔が形成されることによりイオン伝導率が低下し、そのため高容量かつ高出力のリチウム電池とすることができない。そこで、発明者らは、焼結体のイオン伝導率を向上させ、それによって高容量かつ高出力のリチウム電池とすることを試みた。
【0008】
この発明は、高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス材料を提供すること、高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス体を提供すること、並びに高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス材料またはリチウムイオン伝導性セラミックス体を備えることにより、高容量かつ高出力のリチウム電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、
[1] Liを含有するガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相と、Li、Mg、Zr、及びOを含有する第2結晶相とを有し、前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の少なくとも1つの断面の所定の領域において、前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面の山点と谷点とを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、前記谷点のみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)は、0.95以上であり、かつ、1より小さい、リチウムイオン伝導性セラミックス材料である。なお、リチウムイオン伝導性セラミックス材料は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体(例えば、所定の大きさを有するバルク体、顆粒、及び粉末)や該焼結体をバインダー等によって固めたもの等を含む。
【0010】
前記[1]の好ましい態様は、次の通りである。
[2] 前記第1結晶相は、Li、La、Zr、及びMgを含む前記[1]に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料である。
[3] 前記第1結晶相は、Li、La、Zr、Mg、及びA元素(A元素は、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素)を含む前記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料である。
[4] 前記A元素は、Srである前記[1]〜前記[3]のいずれか一つに記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料である。
[5] 前記第2結晶相は、前記リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の切断面において、10面積%以下の割合で含有される前記[1]〜前記[4]のいずれか一つに記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料である。
【0011】
前記別の課題を解決するための手段は、
[6] 前記[1]〜前記[5]のいずれか一つに記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料と、前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面に形成され、Li、C、及びOを含有し、厚さが3μm以下である被覆層と、を備えるリチウムイオン伝導性セラミックス体である。
【0012】
前記別の課題を解決するための手段は、
[7] 前記[1]〜前記[5]のいずれか一つに記載のリチウムイオン伝導性セラミックス材料を備えるリチウム電池であって、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス材料が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池である。
[8] 前記[6]に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス体を備えるリチウム電池であって、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス体が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池である。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス材料は、Liを含有するガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相と、Li、Mg、Zr、及びOを含有する第2結晶相とを有するので、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス材料は、第2結晶相を含まずに第1結晶相により形成されるセラミックス材料に比べて、高いイオン伝導率を有する。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス材料が第2結晶相を含むことにより高いイオン伝導率を有するのは、以下の理由によると推測される。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス材料がLiを含む第2結晶相を有することで、焼成時に優先的に第2結晶相中のLiが揮発し、高イオン伝導相である第1結晶相中のLi量を一定に調整することができ、安定したイオン伝導率が得られると推測される。また、第2結晶相の一部は、第1結晶相に形成された空孔に存在するので、大きな空孔がそのまま存在するよりも空孔が第2結晶相により埋められている方が、Liイオンが移動し易く、イオン伝導率が向上すると推測される。したがって、この発明によると、高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス材料を提供することができる。
【0014】
また、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス材料は、リチウムイオン伝導性セラミックス材料の少なくとも1つの断面の所定の領域において、リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面の山点と谷点とを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、谷点のみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)は、0.95以上であり、かつ、1より小さい。上記比(L2/L1)が0.95以上であり、かつ、1より小さいことは、リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面が、完全な平坦ではないが、凹凸が比較的少ない形状であることを意味する。そのため、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス材料によれば、リチウムイオン伝導性セラミックス材料と他の部材とを良好に接触させることができ、両者の間のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0015】
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス体は、上記リチウムイオン伝導性セラミックス材料と、該リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面に形成され、Li、C、及びOを含有し、厚さが3μm以下である被覆層と、を備える。リチウムイオン伝導性セラミックス材料が大気に晒されると、リチウムイオン伝導性セラミックス材料の表面に、Li、C、及びOを含有する被覆層が形成されることがある。Li、C、及びOを含有する被覆層は、リチウムイオン伝導率が非常に低い。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス体では、リチウムイオン伝導率が非常に低い被覆層の厚さを3μm以下とすることにより、被覆層の存在に起因するリチウムイオン伝導性セラミックス体のリチウムイオン伝導率の低下を抑制することができる。
【0016】
この発明に係るリチウム電池は、高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス材料またはリチウムイオン伝導性セラミックス体を、固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層として備えるので、リチウム電池の内部抵抗を低減することができる。その結果、この発明に係るリチウム電池によると、高容量かつ高出力のリチウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス体の構成を示す断面概略説明図である。
図2図2は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。
図3図3は、本発明に係るリチウム電池の他の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。
図4図4(a)は、サンプル1の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図4(b)は、サンプル2の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図4(c)は、サンプル3の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図4(d)は、サンプル4の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図4(e)は、サンプル5の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。
図5図5は、サンプル1〜5をXRD分析して得られたX線回折パターンである。
図6図6は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面の山点MPおよび谷点VPの特定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体)
まず、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の一実施例について説明する。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、Liを含有するガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相と、Li、Mg、Zr、及びOを含有する第2結晶相とを有する。前記リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、第2結晶相を含まずに第1結晶相により形成されるセラミックス焼結体に比べて高いイオン伝導率を有する。
【0019】
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が、第2結晶相を含まずに第1結晶相で形成されているセラミックス焼結体に比べて高いイオン伝導率を有するメカニズムは明らかではないが、発明者らは次のように考えている。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体がLiを含む第2結晶相を有することで、焼成時に優先的に第2結晶相中のLiが揮発し、高イオン伝導相である第1結晶相中のLi量を一定に調整することができ、安定したイオン伝導率が得られると推測される。また、例えば図4(d)に示すように、第2結晶相の一部は、第1結晶相に形成された空孔に存在するので、大きな空孔がそのまま存在するよりも空孔が第2結晶相により埋められている方が、Liイオンが移動し易く、イオン伝導率が向上すると推測される。したがって、第1結晶相と共に第2結晶相が形成されたリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、高いイオン伝導率を有する。
【0020】
第1結晶相は、少なくともLiを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物である。第1結晶相としては、例えば、Li、La、Zr、及びOを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有し、一般式(I):LiLaZr12(以下、LLZと称することもある)で示される結晶を挙げることができる。この結晶は、Liが配置されるサイト(Liサイトと称する)とLaが配置されるサイト(Laサイトと称する)とZrが配置されるサイト(Zrサイトと称する)とを有する。
【0021】
一般式(I)で示される結晶において、Liサイトには、少なくともLiが配置され、Liの一部がMgにより置換されているのが好ましい。Mgの置換率は特に限定されないが、Liサイトの原子数(Liの原子数とMgの原子数との合計)を1としたときに、0以上0.273以下の原子数のLiがMgに置換されているのが好ましい。Mgは、Liとイオン半径が近いので、Liサイトに配置されているLiと置換し易いと考えられる。第1結晶相が、Li、La、Zr、及びMgを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有すると、より一層高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。なお、Mgは、イオン伝導率の向上の点からLiサイトに配置されているのが好ましいが、Mgの存在形態は特に限定されず、例えば、結晶構造内に侵入、及び/又は結晶粒界等に別の相として存在してもよい。
【0022】
一般式(I)で示される結晶において、Laサイトには、少なくともLaが配置され、Laの一部がA元素(A元素は、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素)により置換されているのが好ましい。A元素の置換率は特に限定されないが、Laサイトの原子数(Laの原子数とA元素の原子数との合計)を1としたときに、0以上0.667以下の原子数のLaがA元素に置換されているのが好ましい。Ca、Sr、及びBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、Sr、及びBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、Laサイトに配置されているLaと置換し易いと考えられる。これらの中でも、高いイオン伝導率が得られる点で、Laの一部がSrにより置換されているのが好ましい。第1結晶相が、Li、La、Zr、及びA元素を含有し、特に、Li、La、Zr、Mg、及びA元素を含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有すると、より一層高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。なお、A元素は、イオン伝導率の向上の点からLaサイトに配置されているのが好ましいが、A元素の存在形態は特に限定されず、例えば、結晶構造内に侵入、及び/又は結晶粒界等に別の相として存在等してもよい。また、Laの一部がA元素以外の元素、例えば、K、Y、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuから選択される少なくとも一種の元素により置換されていてもよい。
【0023】
一般式(I)で示される結晶において、Zrサイトには、少なくともZrが配置され、Zrの一部がB元素(B元素は、Sc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも一種の元素)により置換されていてもよい。
【0024】
第2結晶相は、少なくともLi、Mg、Zr、及びOを含有する金属酸化物であり、結晶である。第2結晶相は、主結晶相である第1結晶相に分散するように形成されているのが好ましく、第1結晶相における空孔を埋めるように形成されているのが好ましい。第2結晶相が第1結晶相における空孔を埋めるように形成されることにより、より一層高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。また、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体がLiを含む第2結晶相を有することで、焼成時に優先的に第2結晶相中のLiが揮発し、高イオン伝導相である第1結晶相中のLi量を一定に調整でき、安定したイオン伝導率が得られる。
【0025】
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体がガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相を含有することは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の粉砕粉末をX線回折装置(XRD)で分析することにより確認することができる。具体的には、まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を粉砕して得られた粉末をX線回折装置(XRD)により分析し、X線回折パターンを得る。得られたX線回折パターンと、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードとを対比することにより、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に含有される物質を同定する。例えば、第1結晶相が一般式(I)で示される結晶であることが想定される場合には、X線回折パターンの対比は、LLZに対応するICDDカード(01−080−4947)(LiLaZr12)を利用して行う。第1結晶相は、LLZの一部が他の元素により置換されている場合もあり、その場合にはLLZに対応するICDDカードにおける回折ピークの回折角度及び回折強度比から僅かにずれる場合もあるが、X線回折パターンとLLZに対応するICCDカードにおける回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致していれば、第1結晶相がガーネット型類似の結晶構造を有すると判断することができる。
【0026】
第1結晶相及び第2結晶相が含有する元素は、次のようにして確認することができる。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を切断して切断面を露出させ、この切断面を研磨して研磨面を得る。前記研磨面において最も大きい面積を占める主結晶相を第1結晶相として、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)に付属されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて元素分析することにより、第1結晶相に含有される元素の種類を確認する。また、第2結晶相については、主結晶相中に分散している粒子を第2結晶相とみなして、この粒子をEDSを用いて元素分析することにより、第2結晶相に含有される元素の種類を確認する。また、SEM−EDS及びTEM−EDSでは元素分析できないLiについては、前記研磨面において、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)でLiマッピング分析を行うことにより、第1結晶相及び第2結晶相それぞれがLiを有することを確認できる。また、第2結晶相が結晶であることは、EDSで元素分析した粒子について、SEM又はTEMにより電子線回折パターンを得ることにより確認できる。
【0027】
第2結晶相は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の切断面において0.5%以上10%以下の面積割合で含有されているのが好ましく、0.5%以上5%以下の面積割合で含有されているのがより好ましく、また、0.5%以上3%以下の面積割合で含有されているのがさらにより好ましい。第2結晶相の含有割合が前記範囲内にあると、焼成時に優先的に第2結晶相中のLiが揮発し、第1結晶相からLiが揮発するのを抑制することができ、また、第1結晶相中における空孔が第2結晶相で埋められることにより、より一層高いイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。第2結晶相の面積割合が小さ過ぎると、イオン伝導率を向上させる効果が得られ難くなり、第2結晶相の面積割合が大き過ぎると、相対的にイオン伝導率の高い第1結晶相の割合が小さくなり、イオン伝導率が低下する傾向にある。
【0028】
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体における第2結晶相の面積割合は、次のようにして求めることができる。まず、前述したEDS分析と同様にして研磨面を得る。この研磨面の任意の複数箇所を、SEMを用いて第2結晶相の粒子を複数個確認できる程度の倍率(例えば1000倍)で撮影する。このSEM画像により確認できる第2結晶相の粒子の輪郭について、該粒子の輪郭がすべて入り、かつSEM画像上での面積が最小となるように直線をもってして粒子の輪郭を囲う。この直線で囲まれた領域を一つの第2結晶相の粒子の面積として算出し、SEM画像における第2結晶相の全面積を測定する。次いで、SEM画像全体の面積を算出し、SEM画像全体の面積に対する第2結晶相の全面積の割合を算出する。
【0029】
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、緻密であることが好ましい。具体的には、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の理論密度に対する相対密度が80%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の相対密度が80%以上、特に90%以上であると、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体で固体電解質層を形成した場合に、その厚みを薄く形成しても固体電解質層において正極層と負極層とが短絡するのを防止して固体電解質層としての機能を満足することができ、リチウム電池の内部抵抗を低減させることができる。
【0030】
前記相対密度は、次のようにして求めることができる。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の乾燥質量を例えば電子天秤で測定し、体積をノギスで測定する。測定密度は、測定した乾燥質量を体積で割ることにより算出する。また、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の理論密度を算出する。相対密度(%)は、測定密度を理論密度で割り、100を掛けた値として求めることができる。
【0031】
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、室温におけるイオン伝導率が1×10−4S/cm以上であるのが好ましく、1×10−3S/cm以上であるのがより好ましい。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のイオン伝導率が1×10−4S/cm以上、特に1×10−3S/cm以上であると、このリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体でリチウム電池の固体電解質層を形成した場合に、リチウム電池の内部抵抗を低減させることができ、高容量かつ高出力のリチウム電池を提供できる。
【0032】
イオン伝導率は、次のようにして求めることができる。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の両面をそれぞれ研磨して、研磨面に金コーティングを施した後に、交流インピーダンス法によって、室温におけるリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の比抵抗を測定する。イオン伝導率は比抵抗の逆数として算出することができる。
【0033】
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、その形態は特に限定されず、例えば、所定の大きさを有するバルク体、顆粒状、及び粉末状等を挙げることができる。また、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体がバルク体である場合、その形状は特に限定されず、ペレット状、薄板状、薄膜状等を挙げることができる。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が後述する固体電解質層11又は保護層216、217として用いられる場合には、通常薄板状の形態であり、正極層12及び負極層13に含まれる固体電解質として用いられる場合には、通常粉末状のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体と正極活物質及び負極活物質等の電極材料とを混合して、正極層12及び負極層13が作製される。
【0034】
また、図1に示すように、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110が大気に晒されると、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面に、Li、C、及びOを含有する被覆層120(例えば、炭酸リチウム(LiCO)の層)が形成されることがある。本明細書では、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110と被覆層120とを備える構成を、リチウムイオン伝導性セラミックス体100という。リチウムイオン伝導性セラミックス体100における被覆層120の厚さT1は、3μm以下であることが好ましい。Li、C、及びOを含有する被覆層120は、リチウムイオン伝導率が非常に低い。そのため、被覆層120の厚さT1を3μm以下とすることにより、被覆層120の存在に起因するリチウムイオン伝導性セラミックス体100のリチウムイオン伝導率の低下を抑制することができる。なお、被覆層120の厚さT1は、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。また、被覆層120の厚さT1は、0.01μm以上であってもよい。
【0035】
また、リチウムイオン伝導性セラミックス体100の少なくとも1つの断面の所定の領域(例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍の画像領域)において、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面の山点MPと谷点VPとを特定したとき、山点MPと谷点VPとを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、谷点VPのみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)は、0.95以上であり、かつ、1より小さいことが好ましい。ここで、山点MPは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面における局所的な凸部の頂点であり、谷点VPは、該表面における局所的な凹部の底点である。上記比(L2/L1)が0.95以上であり、かつ、1より小さいことは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面が、完全な平坦ではないが、凹凸が比較的少ない形状であることを意味する。そのため、上記比(L2/L1)が0.95以上であり、かつ、1より小さければ、リチウムイオン伝導性セラミックス体100と他の部材とを良好に接触させることができ、両者の間のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。例えば、リチウムイオン伝導性セラミックス体100が後述する固体電解質層11として用いられる場合には、固体電解質層11と電極との間のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0036】
なお、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面の山点MPおよび谷点VPの特定は、以下のように行うものとする。図6は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面の山点MPおよび谷点VPの特定方法を示す説明図である。図6に示すように、リチウムイオン伝導性セラミックス体100の断面の所定の領域(走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍の画像領域)において、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面を表す線(以下、「表面線」という)L11の両端点P11,P12を結ぶ直線(以下、「基準線」という)L12を引く。次に、基準線L12に垂直な直線(以下、「分割線」という)L13を1μm間隔で複数引く。次に、各分割線L13と表面線L11との各交点P13を接点とした表面線L11の接線L14を引く。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面を画像の上向きとしたときの、横軸の正方向(左側から右側に向かう方向)に、各接線L14の基準線L12に対する傾きを見ていき、接線L14の傾きが正の値から0以下に変化したときの接点P13を山点MPとし、接線L14の傾きが負の値から0以上に変化したときの接点P13を谷点VPとする。
【0037】
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体またはリチウムイオン伝導性セラミックス体は、高いイオン伝導率を有する。したがって、リチウム電池を構成する各種材料として好適に用いることができる。リチウム電池を構成する材料としては、正極層、負極層、固体電解質層、固体電解質層と正極層又は負極層との間の少なくとも一方に配置される保護層を形成する材料等を挙げることができる。
【0038】
なお、本発明は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に限られず、リチウムイオン伝導性セラミックス材料一般(リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体や該焼結体をバインダ等によって固めたもの等を含む)に適用可能である。
【0039】
(リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法)
次に、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法の一例を説明する。以下においては、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体をバルク体として製造する場合について説明する。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法は、原料を配合して配合材料を得る配合工程と、得られた配合材料を焼成する焼成工程とを有する。
【0040】
前記配合工程では、原料として、例えば、Li、Mg、M元素(M元素は、La、又は、LaとK、Ca、Sr、Y、Ba、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)、及びM元素(M元素は、Zr、又は、ZrとSc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)の各成分を含む材料を、ガーネット型結晶構造を有する結晶の理論組成よりもLiとMgとZrとを過剰に配合して配合材料を得る。前記理論組成は、焼結体として得る予定のガーネット型結晶構造を有する結晶の組成である。ガーネット型結晶構造を有する結晶の理論組成としては、一般式(I)で示されるLLZにおいて、Li、La、及びZrのうち、少なくともLiの一部がMgにより置換され、所望によりLa又はZrが他の元素により置換されている組成を挙げることができる。このような組成は、一般式(II):Li7−2αMgαL3Z212(0<α≦1.5)で示すことができる。ガーネット型結晶構造を有する結晶を形成し易く、高いイオン伝導率を有する点で、一般式(II)で示される組成において、Laが所定の置換率で他の元素に置換されているのが好ましく、Zrは所定の置換率で他の元素に置換されていてもよい。すなわち、M元素のうちLa以外の元素をA2元素、M元素のうちZr以外の元素をB元素とすると、一般式(III):LiδMgαLa3−βA2βZr2−γγ12(0<α≦1.5、0<β≦2、0<γ≦1、5.5≦δ≦9)で示される組成を有するのが好ましい。一般式(II)及び一般式(III)で示される組成1モルに対して、Liは0〜15モル%過剰に、Mgは1〜20モル%過剰に、Zrは1〜20モル%過剰になるように配合するのが好ましい。Mg、Zrに関してさらに好ましくは、Mgは1〜10モル%過剰に、Zrは1〜10モル%過剰になるように配合するのが好ましい。Li、Mg、及びZrを前記範囲内で過剰に配合した配合材料を焼成することにより、Liを含有するガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する第1結晶相を主結晶相として有し、また、Li、Mg、Zr、及びOを含有する第2結晶相を適度な割合で有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が形成され易くなり、高いイオン伝導率を有する。なお、第2結晶層を析出させる方法は、上記の方法に限られず、他の方法が採用されてもよい。
【0041】
前記各成分を含む材料は、焼成により各成分に転化する材料であれば特に制限はなく、例えば、Li、Mg、M元素、及びM元素の各成分を含む、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩等を挙げることができる。前記各成分を含む材料として、具体的には、LiO、LiOH、LiCO、MgO、MgCO、La、La(OH)、ZrO、CaO、CaCO、SrO、SrCO、BaO、BaCO等の粉末を挙げることができる。前記各成分を含む材料は、酸素(O)成分を含んでいても含んでいなくてもよい。前記各成分を含む材料が酸素(O)成分を含んでいない場合には、酸化雰囲気で後述する焼成工程を行う等、焼成雰囲気を適宜設定することにより、第1結晶相と第2結晶相とを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を得ることができる。
【0042】
前記配合材料の調製は、公知のセラミックスの合成における原料粉末の調製方法を適宜採用することができる。例えば、前記各成分を含む材料を、ジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、有機溶媒中で8〜20時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して配合材料を得る。前記有機溶媒としては、例えば、エタノール、ブタノール等のアルコールやアセトン等を挙げることができる。
【0043】
前記焼成工程の前には、配合材料を仮焼成する工程を有するのが好ましい。この工程では、例えば、前記配合材料を、MgO板上で900〜1100℃で2〜15時間仮焼成を行い、仮焼成材料を得る。仮焼成工程を行うことにより、焼成工程の後にガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する焼結体が得られ易くなる。
【0044】
前記焼成工程の前には、前記仮焼成材料にバインダーを加えて粉砕混合する工程を有するのが好ましい。この工程では、例えば、前記仮焼成材料にバインダーを加えて、有機溶媒中で8〜100時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して未焼成材料を得る。仮焼成材料をさらに粉砕混合することにより、焼成工程の後に均一な結晶相が得られ易くなる。前記バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリビニルブチラール等を挙げることができる。前記有機溶媒としては、エタノール、ブタノール、及びアセトン等を挙げることができる。
【0045】
前記焼成工程では、前述した配合工程を経て得られた配合材料を焼成する。具体的には、前記配合材料を所望の形状及び大きさを有する金型に投入し、プレス成形した後に、例えば、冷間静水等方圧プレス機(CIP:Cold Isostatic Pressing)を用いて1〜2t/cmの静水圧を印加し、成形体を得る。この成形体を1000〜1250℃で3〜36時間にわたって焼成することでリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が得られる。
【0046】
前記配合材料が酸素成分を含んでいない場合には、酸素雰囲気で前記成形体を焼成するのが好ましく、前記配合材料が酸素成分を含んでいる場合には、窒素等の不活性ガスからなる不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で前記成形体を焼成してもよい。なお、前記配合工程の後に、さらに仮焼成をする工程を実施した場合には前記仮焼成材料に対して前記焼成工程を行う。前記配合工程の後に、さらにバインダーを加えて粉砕する工程を実施した場合には前記未焼成材料に対して、前記焼成工程を行う。
【0047】
このリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法によると、第1結晶相と第2結晶相とを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を容易に製造することができる。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、そのまま又は適宜加工して、後述するリチウム電池の固体電解質層又は保護層として使用することができる。
また、正極層及び負極層に含まれる固体電解質としてリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を用いる場合は、前記焼成工程において配合材料をプレス成形せず、粉末状に焼成して得られたリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を使用することができる。
【0048】
なお、上記リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法において、焼成工程後に、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体(リチウムイオン伝導性セラミックス体(すなわち、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体とその表面に形成された被覆層120とを有する構成))の表面を研磨紙等で研磨する工程を行うとしてもよい。この研磨工程により、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体110の表面の山点MPと谷点VPとを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、谷点VPのみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)を、0.95以上、かつ、1より小さい値にすることができる。また、研磨した後にリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面が大気に曝されても、上述した被覆層120の厚さT1を3μm以下にすることができ、研磨によりリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面を凹凸が比較的少ない形状(ほぼ平坦な形状)とすることができると共に、均一な厚さの被覆層120を得ることができる。
【0049】
(第1実施形態のリチウム電池)
この発明に係るリチウム電池の第1実施形態である全固体電池を、図面を参照しつつ説明する。図2は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。
【0050】
この全固体電池10は、構成材料が全て固体であるリチウムイオン電池であり、固体電解質層11と正極層12と負極層13と第1の集電部14と第2の集電部15とを備える。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体(リチウムイオン伝導性セラミックス材料、または、リチウムイオン伝導性セラミックス体、以下同様)は、固体電解質層11、正極層12、及び負極層13の少なくとも一つに含まれる。
【0051】
前記固体電解質層11は、特に限定はなく、リチウムイオン伝導性を有している材料であればよい。固体電解質層11を形成する材料としては、例えば、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、NASICON型構造のリチウムアルミニウムチタンリン酸複合酸化物(例えば、Li(Al,Ti)(PO(LATPと称する))、リチウムアルミニウムゲルマニウムリン酸複合酸化物(例えば、Li(Al,Ge)(PO(LAGPと称する))、及びペロブスカイト型構造のリチウムランタンチタン複合酸化物(例えば、La2/3−xLi3xTiO(LLTと称する))等によって構成される。これらの中でも固体電解質層11は、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体によって形成されるのが好ましい。本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、リチウム金属に対して安定であるので、正極層12又は負極層13にリチウム成分が含まれている場合に固体電解質層11を本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体で形成すると、固体電解質層11の酸化劣化及び還元劣化を抑制することができる。さらに、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は高いイオン伝導率を有するので、高容量かつ高出力の全固体電池10を提供することができる。
【0052】
前記正極層12及び前記負極層13(単に電極と称することもある)は、固体電解質層11の両側にそれぞれ配置されている。
【0053】
正極層12は、正極活物質と固体電解質とを含有する材料によって形成されている。正極活物質としては、特に限定はなく、例えば、硫黄、TiS、LiCoO、LiMn、及びLiFePO等が挙げられる。正極層12に含有される固体電解質としては、特に限定はなく、リチウムイオン伝導性を有している材料であればよい。固体電解質としては、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体等、前述した固体電解質層11を形成する材料を挙げることができる。なお、正極活物質に電子導電性がない場合には、正極活物質及び固体電解質と共に導電助剤が含有されてもよい。導電助剤としては、特に限定はなく、電子導電性を有する材料であればよい。例えば、導電助剤としては、導電性カーボン、ニッケル(Ni)、白金(Pt)及び、銀(Ag)等が挙げられる。
【0054】
前記負極層13は、負極活物質と固体電解質とを含有する材料によって形成されている。負極活物質としては、特に限定はなく、例えば、Li金属、リチウム−アルミニウム合金(Li−Al合金)、LiTi12、カーボン、ケイ素(Si)、一酸化ケイ素(SiO)等が挙げられる。負極層13に含有される固体電解質としては、特に限定はなく、Liイオン伝導性を有している材料であればよい。例えば、固体電解質としては、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体等、前述した固体電解質層11を形成する材料を挙げることができる。なお、負極活物質に電子導電性がない場合には、負極活物質及び固体電解質と共に導電助剤が含有されてもよい。導電助剤としては、特に限定はなく、電子導電性を有する材料であればよい。例えば、導電助剤としては、導電性カーボン、ニッケル(Ni)、白金(Pt)及び、銀(Ag)等が挙げられる。
【0055】
前記正極層12及び前記負極層13の少なくとも一方において、固体電解質として、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を用いると、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は高いイオン伝導率を有するので、高容量かつ高出力の全固体電池10を提供することができる。
【0056】
前記第1の集電部14は、正極層12における固体電解質層11が配置されている側とは反対側に配置されている。前記第2の集電部15は、負極層13における固体電解質層11が配置されている側とは反対側に配置されている。第1の集電部14及び第2の集電部15は、導電性を有する部材であり、例えば、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、及びこれらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって構成される。
【0057】
前記全固体電池10は、固体電解質層11、正極層12、及び負極層13の少なくとも一つが、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を含むように構成されている。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、高いイオン伝導率を有するので、この全固体電池10は、高容量かつ高出力である。
【0058】
次に、この全固体電池10の製造方法の一例を説明する。
【0059】
前記固体電解質層11は、公知のセラミックス成形体の製造方法を適宜採用して製造することができる。また、固体電解質層11が、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体により形成されている場合には、前述したリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法と同様にして製造することができる。
【0060】
前記正極層12及び前記負極層13は、公知のセラミックス成形体の製造方法を適宜採用して製造することができる。例えば、まず、前述した正極活物質、固体電解質、所望により導電助剤になる化合物の粉末を、所定の割合で混合して混合粉末を得る。固体電解質として本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を用いる場合には、前述したリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法の焼成工程において、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を粉末状に焼成して、これを必要に応じて粉砕等により粒度を調整して正極活物質等と混合することで混合粉末が得られる。
【0061】
その後、この混合粉末を加圧成形可能な円筒型内に入れる。第1の集電部14として用いる例えばSUS製の基材と得られた混合粉末とをこの順に前記円筒型内に積層配置し、プレス成形することにより正極ペレットを得る。負極ペレットについても正極ペレットと同様にして作製する。
【0062】
次いで、正極ペレット、固体電解質層、及び負極ペレットを、この順に正極ペレット及び負極ペレットの集電部14,15が外側に配置されるように積層して、積層体を得る。次いで、第1の集電部14及び第2の集電部15を介して所定の圧力で前記積層体を挟持することで各部材を固定する。こうして、全固体電池10が得られる。
【0063】
なお、全固体電池10の製造方法としては、上述した方法以外に、電極12,13と固体電解質層11とを同時に焼成する方法、板状に焼成した固体電解質層11に電極12,13を焼き付ける方法、及び板状に焼成した固体電解質層11に電極12,13を焼き付ける際に圧力をかけて焼き付ける方法(ホットプレス法)等がある。
【0064】
(第2実施形態のリチウム電池)
この発明に係るリチウム電池の第2実施形態である全固体電池を、図面を参照しつつ説明する。図3は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。第2実施形態の全固体電池210は、以下に説明する点以外は、第1実施形態の全固体電池10と同じ構成を有している。
【0065】
第2実施形態の全固体電池210は、固体電解質層211と正極層212との間、及び固体電解質層211と負極層213との間に、第1の保護層216及び第2の保護層217(以下、これらを合わせて単に「保護層」と称することもある。)がそれぞれ配置されている。すなわち、この全固体電池210は、第1の集電部214、正極層212、第1の保護層216、固体電解質層211、第2の保護層217、負極層213、第2の集電部215がこの順に積層されている。
【0066】
第1の保護層216及び第2の保護層217は、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体によって構成されている。本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、リチウム金属に対して安定であるので、第1の保護層216及び第2の保護層217が本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体により構成されていると、正極層212及び負極層213の少なくとも一方にリチウム成分が含有されている場合に、リチウムと固体電解質層211を構成する材料とが反応するのを抑制し、固体電解質層211の酸化劣化又は還元劣化を抑制することができる。
【0067】
固体電解質層211は、第1実施形態における固体電解質層11と同様の材料によって形成することができる。第2実施形態の全固体電池210は、保護層216,217を備えているので、固体電解質層211は、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に比べて電極成分と反応し易い材料によって形成されてもよい。すなわち、固体電解質層211を形成する材料として、NASICON型構造のリチウムアルミニウムチタンリン酸複合酸化物、リチウムアルミニウムゲルマニウムリン酸複合酸化物、及びペロブスカイト型構造のリチウムランタンチタン複合酸化物等を挙げることができる。
【0068】
全固体電池210は、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体により構成される保護層216,217を有する。本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、リチウム成分と反応し難く、高いイオン伝導率を有するので、この全固体電池210は、高容量かつ高出力である。
【0069】
第1の保護層216及び第2の保護層217は、前述したこの発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法と同様にして製造することができる。第1の集電部214、正極層212、第1の保護層216、固体電解質層211、第2の保護層217、負極層213、及び第2の集電部215をこの順に積層して所定の圧力で挟持することで、全固体電池210を得ることができる。
【0070】
なお、全固体電池210の製造方法としては、上述した方法以外に、正極層212、第1の保護層216、固体電解質層211、第2の保護層217、負極層213、それぞれにおいて未焼成の段階でこの順に積層し、同時に焼成する方法、板状に焼成した固体電解質層211に第1の保護層216と第2の保護層217とを焼き付けた後、第1の保護層216側に正極層212、第2の保護層217側に負極層213を焼き付ける方法、及び板状に焼成した固体電解質層211に保護層216,217を焼き付ける際、保護層216,217に電極212,213を焼き付ける際に圧力をかけて焼き付ける方法(ホットプレス法)等がある。
【0071】
この発明に係るリチウム電池は、正極層及び負極層の両方又は一方にリチウム成分を含む電池であり、一次電池及び二次電池を含む。したがって、この発明に係るリチウム電池としては、リチウムイオン電池の一例として示した全固体電池10、210に限定されず、例えば、負極活物質がリチウム金属であり、正極活物質が酸素であるリチウム空気電池も含まれる。なお、正極層及び/又は負極層に含有されるリチウム成分は、リチウム金属又はリチウム合金であってもリチウム化合物であってもよい。
【0072】
この発明に係るリチウム電池は、前述した実施形態に限定されることはなく、この発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、第2実施形態の全固体電池210では、固体電解質層211の両側に第1の保護層216及び第2の保護層217が設けられているが、第1の保護層216又は第2の保護層217のいずれか一方のみが設けられていてもよい。また、第2実施形態の全固体電池210では、固体電解質層211の両側に設けられた第1の保護層216及び第2の保護層217がこの発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体で構成されているが、第1の保護層216又は第2の保護層217のいずれか一方のみが、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体で構成されていてもよい。
【0074】
また、第1実施形態及び第2実施形態の全固体電池10,210の形状は、特に限定されず、コイン型、円筒型、角型、箱型、ラミネート型等の各種の形状を有することができる。
【実施例】
【0075】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の作製]
原料粉末である、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを次のように秤量した。すなわち、焼結体として得る予定のガーネット型結晶構造を有する結晶の理論組成をLi6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012として、この理論組成1モルに対して元素換算で、Liを10モル%過剰になるようにLiCOをさらに加え、表1に示すように、Mg及びZrをそれぞれ0〜20モル%の範囲で過剰になるようにMgO及びZrOをさらに加えた。秤量した原料粉末をジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、エタノール中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合し、さらに乾燥して配合材料を得た。
【0076】
得られた配合材料を、1100℃で10時間にわたってMgO板上にて仮焼成を行い、仮焼成材料を得た。この仮焼成材料にバインダーを加えて、有機溶媒中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して未焼成材料を得た。この未焼成材料を直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後に、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加し、成形体を得た。この成形体を成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、窒素雰囲気において1200℃で4時間にわたって焼成することでリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のサンプル1〜5を得た。
【0077】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のSEM観察]
サンプル1〜5を切断して得られた切断面をさらに研磨して、この研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)により画像撮影した(500倍)。結果を図4に示す。図4(a)に示すサンプル1の焼結体には、粗大空孔(3)が多数存在し、主結晶相1以外の結晶相は確認されなかった。図4(b)〜(e)に示すサンプル2〜5の焼結体は、主結晶相である第1結晶相(1)に小さい粒子である第2結晶相(2)が分散しており、その一部は第1結晶相(1)に形成された空孔を埋めるように存在しているのが観察された。
なお、図4において、(b)はサンプル2のSEM画像であり、(c)はサンプル3のSEM画像であり、(d)はサンプル4のSEM画像であり、(e)はサンプル5のSEM画像である。
また、任意の5箇所においてSEM画像(1000倍)を取得し、前述したように計測によってSEM画像における第2結晶相(2)の全面積を測定した。次いで、SEM画像全体の面積に対する第2結晶相(2)の全面積の割合を算出し、得られた値の算術平均を算出した(つまり、5箇所における面積割合の平均値)。結果を表1に示す。表1及び図4に示すように、Mg及びZrの過剰添加量が増えるほど第2結晶相(2)の面積割合が大きくなった。
また、任意の5箇所においてSEM画像を取得し、最大径が10μm以上である粗大空孔(3)が占める面積を第2結晶相の面積と同様にして測定し、SEM画像の全面積に対する、粗大空孔(3)が占める全面積の割合を算出し、得られた値の算術平均を算出した。結果を表1に示す。表1及び図4に示すように、Mg及びZrの過剰添加量が増えるほど粗大空孔(3)の占める面積割合が小さくなった。
粗大空孔は、焼成過程でLiが揮発することにより形成されると考えられ、第2結晶相の面積割合が大きくなるほど粗大空孔の占める面積割合が小さくなっていることから、第2結晶相がLiの揮発を抑制していると推測される。
【0078】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のXRD分析]
サンプル1〜5の焼結体を粉砕して得られた粉末をX線回折装置(XRD)で分析して、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンとICDDカードとを対比した結果を図5に示す。図5に示すように、サンプル1〜5の焼結体は、LLZ立方晶のICDDカードとほぼ一致することが確認された。したがって、サンプル1〜5の焼結体は、ガーネット型結晶構造又はガーネット型類似の結晶構造を有する結晶を含むと判断できる。
【0079】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のTEM−EDS分析]
サンプル1〜5における前記研磨面を透過電子顕微鏡(TEM)に付属されたエネルギー分散形X線分光器(EDS)で分析した。具体的には、前記研磨面において最も大きい面積を占める主結晶相である第1結晶相をEDSで元素分析したところ、原料として添加した成分であるMg、La、Sr、Zr、及びOが含有されていることが確認された。また、第1結晶相中に分散している粒子である第2結晶相をEDSで元素分析したところ、Mg、Zr、及びOが含有されていることが確認された。
また、粒子である第2結晶相に電子線を入射して電子回折パターンを取得したところ、第2結晶相は結晶であることが確認された。
【0080】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のTOF−SIMS分析]
サンプル1〜5における前記研磨面を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)でLiマッピングを行ったところ、第1結晶相及び第2結晶相のいずれにもLiが含有されていることが確認された。
【0081】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の相対密度]
サンプル1〜5の焼結体の相対密度を、前述したように測定密度を測定し、測定密度と理論密度とにより算出したところ、いずれの焼結体も85%以上であった。
【0082】
[イオン伝導率]
サンプル1〜5それぞれの両面をそれぞれ研磨して、研磨面に金スパッタによってコーティングを施した後に、交流インピーダンス法によって、室温において、各サンプル1〜5の比抵抗及びイオン伝導率を測定した。この測定には、ソーラトロン(Solartron)社製1470E型マルチスタットにソーラトロン社製1255B型周波数応答アナライザを接続して用いた。なお、測定される抵抗R(比抵抗)は、粒内抵抗raと粒界抵抗rbとの合計である(R=ra+rb)。また、イオン伝導率Icは、その抵抗Rの逆数として求められる(Ic=1/R)。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、本願発明の範囲内にあるサンプル2〜5のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体はイオン伝導率が8.4×10−4S/cm以上であり、高いイオン伝導率を示した。一方、第2結晶相を含まず、本願発明の範囲外にあるサンプル1のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、サンプル2〜5に比べてイオン伝導率が低かった。
サンプル2〜5の焼結体は、いずれもLi、Mg、Zr、及びOを含有する第2結晶相を有しているので、第2結晶相が存在することにより焼成時に優先的に第2結晶相中のLiが揮発し、第1結晶相中のLiが揮発するのが抑制され、イオン伝導率がサンプル1の焼結体に比べて大きかったと推測される。また、第2結晶相の一部は、粗大空孔を埋めるように存在していることから、粗大空孔がそのまま存在するよりも粗大空孔が第2結晶相により埋められている方が、Liイオンが移動し易く、イオン伝導率がサンプル1の焼結体に比べて大きかったと推測される。
また、第2結晶相の面積割合が0.5%以上3%以下の範囲内にあるサンプル2〜4は、第1結晶相に対する第2結晶相の割合が最も好ましい範囲に存在することで、サンプル1、5よりも高いイオン伝導率を示すものであった。
高いイオン伝導率を有するサンプル2〜5のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を、リチウム電池における、固体電解質層や保護層として用いた場合には、リチウム電池の内部抵抗を低減することができ、高容量かつ高出力のリチウム電池を提供することができる。
【0085】
[リチウムイオン伝導性セラミックス体の実施例]
リチウムイオン伝導性セラミックス体のサンプルを作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
[リチウムイオン伝導性セラミックス体の作製]
原料粉末である、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを次のように秤量した。すなわち、焼結体として得る予定のガーネット型結晶構造を有する結晶の理論組成をLi6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012とし、焼成時のLiの揮発を考慮して、元素換算で10モル%程度過剰になるようにLiCOをさらに加えると共に、第2結晶層が析出するようにMgとZrとを過剰に配合した。秤量した原料粉末をジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合し、さらに乾燥して配合材料を得た。
【0088】
得られた配合材料を、1100℃で10時間にわたってMgO板上にて仮焼成を行い、仮焼成材料を得た。この仮焼成材料にバインダーを加えて、有機溶媒中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して未焼成材料を得た。この未焼成材料を直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後に、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加し、成形体を得た。この成形体を窒素雰囲気において1200℃で4時間にわたって焼成することでリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を得た。得られたリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を大気に晒すことにより、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面に炭酸リチウム(LiCO)の被覆層を形成した。これにより、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体と被覆層とから構成されるリチウムイオン伝導性セラミックス体を得た。
【0089】
最後に、リチウムイオン伝導性セラミックス体の表面を研磨紙で研磨して、リチウムイオン伝導性セラミックス体のサンプル11を得た。また、サンプル11と同様の製造方法(ただし、最後の研磨工程を行わない)により、リチウムイオン伝導性セラミックス体のサンプル12を得た。
【0090】
[被覆層の観察]
CP加工(クロスセクションポリッシャ加工、イオンミリング加工)により得られたサンプル11,12の断面を対象に、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)で元素マッピングを行ったところ、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体としてのLLZ−MgSrの表面に、LiとCO3とが存在することが確認され、被覆層としての炭酸リチウム(LiCO)の層が存在することが確認された。走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行ったところ、サンプル11では、被覆層の厚さは3μmであり、サンプル12では、被覆層の厚さは5.2μmであった。被覆層の厚さは、各サンプルの断面の被覆層の任意の5箇所におけるLLZ−MgSrの表面の法線方向の厚さの平均値として算出した値である。
【0091】
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の観察]
CP加工により得られたサンプル11,12の断面を対象に、走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像を1000倍で観察し、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面の山点MPと谷点VPとを順に交互に結んだ線分の合計長さL1に対する、谷点VPのみを順に結んだ線分の合計長さL2の比(L2/L1)を算出した。サンプル11では、該比(L2/L1)は97.6であり、サンプル12では、該比(L2/L1)は93.7であった。比(L2/L1)は、各サンプルの断面の任意の5箇所について、走査型電子顕微鏡(SEM)による反射電子像を観察し、5枚の反射電子像における平均値として算出した値である。
【0092】
[イオン伝導率]
サンプル11,12の両面に金蒸着を施すことによって測定用試料を作製し、交流インピーダンス法によって、室温において、各測定用試料のイオン伝導率を測定した。この測定には、ソーラトロン(Solartron)社製1470E型マルチスタットにソーラトロン社製1255B型周波数応答アナライザを接続して用いた。サンプル11を用いた試料では、イオン伝導率が1.2×10−3S/cmであり、高いイオン伝導率を示した。一方、サンプル12を用いた試料では、イオン伝導率が7.4×10−4S/cmであり、サンプル11を用いた試料より低かった。
【0093】
サンプル12では、リチウムイオン伝導率が非常に低い被覆層の厚さが3μmを超えるため、被覆層の存在に起因してリチウムイオン伝導性セラミックス体のリチウムイオン伝導率が低下したものと考えられる。一方、サンプル11では、被覆層の厚さが3μm以下であるため、被覆層の存在に起因するリチウムイオン伝導性セラミックス体のリチウムイオン伝導率の低下を抑制することができたものと考えられる。
【0094】
また、サンプル12では、上記比(L2/L1)が0.95未満であるため、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面の凹凸が比較的多く、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体と電極との間の非接触点が多くなり、両者の間のリチウムイオン伝導性が低下したものと考えられる。一方、サンプル11では、上記比(L2/L1)が0.95以上であるため、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の表面の凹凸が比較的少なく、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体と電極との間の非接触点が少なくなり、両者の間のリチウムイオン伝導性が向上したものと考えられる。
【0095】
高いイオン伝導率を有するサンプル11のリチウムイオン伝導性セラミックス体を、リチウム電池における、固体電解質層や保護層として用いた場合には、リチウム電池の内部抵抗を低減することができ、高容量かつ高出力のリチウム電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0096】
10、210 全固体電池
11、211 固体電解質層
12、212 正極層
13、213 負極層
14、214 第1の集電部
15、215 第2の集電部
216 第1の保護層
217 第2の保護層
100 リチウムイオン伝導性セラミックス体
110 リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体
120 被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6