特許第6982617号(P6982617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982617
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】組成物、正極用バインダー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20211206BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20211206BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20211206BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/1391
   H01M4/131
   H01M4/505
   H01M4/525
   C08F261/04
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-525481(P2019-525481)
(86)(22)【出願日】2018年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2018022556
(87)【国際公開番号】WO2018230599
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2021年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-115966(P2017-115966)
(32)【優先日】2017年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中西 崇一朗
(72)【発明者】
【氏名】成冨 拓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 享一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036260(WO,A1)
【文献】 特開昭49−048190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 261/04
H01M 4/62
H01M 4/1391
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを有する幹ポリマーに、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体がグラフト共重合したグラフト共重合体を含有し、
前記ポリビニルアルコールの鹸化度が50〜100モル%であり、
前記ポリビニルアルコールの含有量が5〜50質量%であり、
前記(メタ)アクリロニトリル単量体に由来する(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び前記(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計含有量が50〜95質量%であり、
前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び前(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位の含有量が20〜95質量%であり、
前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が5〜80質量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステルは、前記(メタ)アクリル酸エステルのみより構成されるポリ(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーのガラス転移温度が150〜300Kである単量体である、
組成物からなる正極用バインダー組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体とポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーの少なくとも一方を任意的に含有する請求項1に記載の正極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、直鎖状アルキル、分岐アルキル、直鎖状若しくは分岐ポリエーテル、環状エーテル、フルオロアルキルからなる1種以上の構造を有する請求項1記載の正極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体のグラフト率が150〜1900%である請求項1〜請求項3のうちの1項に記載の正極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が300〜3000である請求項1〜請求項4のうちの1項に記載の正極用バインダー組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちの1項に記載の正極用バインダー組成物及び導電助剤を含有する正極用スラリー。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のうちの1項に記載の正極用バインダー組成物、正極活物質及び導電助剤を含有する正極用スラリー。
【請求項8】
前記導電助剤が、(i)繊維状炭素、(ii)カーボンブラック及び(iii)繊維状炭素とカーボンブラックとが相互に連結した炭素複合体から選択される1種以上である請求項6又は請求項7に記載の正極用スラリー。
【請求項9】
前記正極用スラリー中の固形分総量に対し、前記正極用バインダー組成物の固形分含有量が0.01〜20質量%である請求項6〜請求項8のうちの1項に記載の正極用スラリー。
【請求項10】
正極活物質が、LiNiMn(2−X)O(但し、0<X<2)又はLi(CoNiMn)O(但し、0<X<1、0<Y<1、0<Z<1、且つX+Y+Z=1)から選択される1種以上である請求項7に記載の正極用スラリー。
【請求項11】
金属箔と、前記金属箔上に形成された請求項6〜請求項10のうちの1項に記載の正極用スラリーの塗膜とを備える正極。
【請求項12】
請求項11に記載の正極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、正極用バインダー組成物及びこのバインダー組成物を用いた正極用スラリー、並びにこれを利用する正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話といった電子機器の電源として二次電池が利用されており、環境負荷の低減を目的に二次電池を電源として用いるハイブリット自動車や電気自動車の開発が進められている。それらの電源に高エネルギー密度、高電圧、高耐久性の二次電池が求められている。リチウムイオン二次電池は高電圧、高エネルギー密度を達成できる二次電池として注目を集めている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は正極、負極、電解質、セパレーターの部材からなり、正極は正極活物質、導電助剤、金属箔、バインダーから構成されている。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やスチレン−ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体が用いられている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0004】
リチウムイオン二次電池用正極バインダーとして、高い結着性と耐酸化性を有するポリビニルアルコール及びポリアクリロニトリルを主成分とするバインダー(グラフト共重合体)を記載している(特許文献4参照)。
しかし、(メタ)アクリル酸エステルのガラス転移温度について、特許文献1〜4は、記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−98123号公報
【特許文献2】特開2013−84351号公報
【特許文献3】特開平6−172452号公報
【特許文献4】国際公開第2015/053224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みて、柔軟性を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意努力した結果、特定の(メタ)アクリル酸エステルを使用した組成物が、柔軟性を有する事を見出した。
【0008】
即ち本発明は、以下に記載の正極用バインダー組成物を提供する。
(1)ポリビニルアルコールを有する幹ポリマーに、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体がグラフト共重合したグラフト共重合体を含有し、前記ポリビニルアルコールの鹸化度が50〜100モル%であり、前記ポリビニルアルコールの含有量が5〜50質量%であり、前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計量が50〜95質量%であり、前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)前記アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位の含有量が20〜95質量%であり、前記(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が5〜80質量%であり、前記(メタ)アクリル酸エステルは、前記(メタ)アクリル酸エステルのみより構成されるポリ(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーのガラス転移温度が150〜300Kである単量体である、組成物。
(2)(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体とポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーの少なくとも一方を任意的に含有する(1)に記載の組成物。
(3)前記(メタ)アクリル酸エステルが、直鎖状アルキル、分岐アルキル、直鎖状若しくは分岐ポリエーテル、環状エーテル、フルオロアルキルからなる1種以上の構造を有する(1)記載の組成物。
(4)前記グラフト共重合体のグラフト率が150〜1900%である(1)〜(3)のうちの1項に記載の組成物。
(5)前記ポリビニルアルコールの平均重合度が300〜3000である(1)〜(4)のうちの1項に記載の組成物。
(6)(1)〜(5)のうちの1項に記載の組成物からなる正極用バインダー組成物。
(7)(6)に記載の正極用バインダー組成物及び導電助剤を含有する正極用スラリー。
(8)(6)に記載の正極用バインダー組成物、正極活物質及び導電助剤を含有する正極用スラリー。
(9)前記導電助剤が、(i)繊維状炭素、(ii)カーボンブラック及び(iii)繊維状炭素とカーボンブラックとが相互に連結した炭素複合体から選択される1種以上である(7)又は(8)に記載の正極用スラリー。
(10)前記正極用スラリー中の固形分総量に対し、前記正極用バインダー組成物の固形分含有量が0.01〜20質量%である(7)〜(9)のうちの1項に記載の正極用スラリー。
(11)正極活物質が、LiNiMn(2−X)(但し、0<X<2)又はLi(CoNiMn)O(但し、0<X<1、0<Y<1、0<Z<1、且つX+Y+Z=1)から選択される1種以上である(8)に記載の正極用スラリー。
(12)金属箔と、前記金属箔上に形成された(7)〜(1)のうちの1項に記載の正極用スラリーの塗膜とを備える正極。
(13)(1)2に記載の正極を備えるリチウムイオン二次電池。
(14)前記グラフト共重合体が、前記ポリビニルアルコールに、前記(メタ)アクリロニトリル及び前記(メタ)アクリル酸エステルがグラフト共重合することにより得られる(1)〜(5)のうちの1項に記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、柔軟性を有する組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<組成物(正極用バインダー組成物)>
本発明の実施形態に係る組成物は、ポリビニルアルコール(以下、PVAと称することがある)を主成分とする幹ポリマーに、(メタ)アクリロニトリル(以下、ポリ(メタ)アクリロニトリルやPANと称することがある)及び(メタ)アクリル酸エステル(以下、ポリ(メタ)アクリル酸エステルやPAKと称することがある)を主成分とする単量体が枝ポリマーとしてグラフト共重合したグラフト共重合体を含有する。このグラフト共重合体は、ポリビニルアルコールを有する主鎖に、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体が共重合して生成した(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が側鎖として生成した共重合体である。
本実施形態の組成物には、グラフト共重合体のほか、グラフト共重合に関与しない、すなわち、組成物中にグラフト共重合体と共有結合を形成していない遊離した状態で存在する、(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(以下、「非グラフトコポリマー」、「(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体」と称することがある)及び/又はポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーを含有してもよい。ここで、「共有結合を形成していない」とは、例えば、共重合していないことをいう。

したがって、本実施形態の組成物は、樹脂分(ポリマー分)として、グラフト共重合体のほか、メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体及び/又はポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーを含有してもよい。
なお、ポリビニルアルコールを主成分とする幹ポリマー及びポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーは、ポリビニルアルコールホモポリマーであることが好ましい。
また、「非グラフトコポリマー」には、(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体だけでなく、グラフト共重合体と共有結合を形成していない各単量体のホモポリマーを含んでもよい。
【0012】
ポリビニルアルコールを有する幹ポリマーへグラフトする単量体中の(メタ)アクリル酸エステルは、グラフト共重合する単量体の1種である。
本実施形態の(メタ)アクリル酸エステルは(メタ)アクリロニトリルと共重合可能であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、当該(メタ)アクリル酸エステルのみより構成される(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、即ち、ポリ(メタ)アクリル酸エステルホモポリマーのガラス転移温度が150〜300Kである単量体が用いられる。
【0013】
ホモポリマーのガラス転移温度が150〜300Kである(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジルアクリレート(279K)、ブチルアクリレート(219K)、4−シアノブチルアクリレート(233K)、シクロヘキシルアクリレート(292K)、ドデシルアクリレート(270K)、(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルアクリレート(223K)、2−エチルヘキシルアクリレート(223K)、1H,1H−ヘプタフルオロブチルアクリレート(243K)、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルアクリレート(251K)、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート(263K)、フルオロメチルアクリレート(288K)、ヘキシルアクリレート(216K)、イソブチルアクリレート(249K)、2−メトキシエチルアクリレート(223K)、ドデシルメタクリレート(208K)、ヘキシルメタクリレート(268K)、オクチルアクリレート(208K)、オクタデシルメタクリレート(173K)、フェニルメタクリレート(268K)、ノルマルオクチルアクリレート(208K)等が挙げられる。耐酸化性を損なわない範囲で、ニトロ基、ハロアルカン、アルキルアミン、チオエーテル、アルコール、シアノ基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。これらは1種以上用いてもよい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステルのエステル基は、直鎖状アルキル、分岐アルキル、直鎖状若しくは分岐ポリエーテル、環状エーテル、フルオロアルキルからなる1種以上の構造を有するエステル基を有することが好ましく、分岐アルキル、直鎖状アルキル、ポリエーテル基からなる1種以上の構造を有するエステル基を有することがより好ましく、直鎖状アルキル、ポリエーテル基からなる1種以上の構造を有するエステル基を有することが最も好ましい。
【0015】
ここでいうガラス転移とは、高温では液体であるガラス等の物質が温度降下により、ある温度範囲で急激にその粘度を増し、ほとんど流動性を失って非晶質固体になるという変化を指す。ガラス転移温度の測定方法としては特に限定はないが、一般に熱重量測定、示差走査熱量測定、示差熱測定、動的粘弾性測定より算出されたガラス転移温度を指す。これらの中では、動的粘弾性測定が好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマーのガラス転移温度は、J. Brandrup, E. H. Immergut, Polymer Handbook, 2nd Ed.,J. Wiley, New York 1975、光硬化技術データブック(テクノネットブックス社)等に記載されている。
【0016】
ポリビニルアルコールを有する幹ポリマーへグラフトする単量体中の(メタ)アクリロニトリルは、グラフト共重合する単量体の1種である。
組成物中の単量体単位のうち、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合の上限は100質量%以下とすることができる。組成物中の単量体単位の組成はH−NMR(プロトン核磁気共鳴分光法)により求めることができる。
【0017】
PVAの鹸化度は、耐酸化性の観点から、50〜100モル%である。正極活物質への被覆性を高める観点から、80モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
ここでいうPVAの鹸化度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定される値である。
【0018】
PVAの平均重合度は、溶解性、結着性及びバインダー組成物の粘度の観点から300〜3000が好ましい。PVAの平均重合度は、320〜2950が好ましく、500〜2500がより好ましく、500〜1800が最も好ましい。PVAの平均重合度が300未満ではバインダーと活物質及び導電助剤との間の結着性が低下し、耐久性が低下する場合がある。PVAの平均重合度が3000を超えると溶解性が低下し、粘度が上昇するため、正極用スラリーの製造が困難になる。ここでいうPVAの平均重合度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定される値である。
【0019】
グラフト共重合体のグラフト率は、活物質への被覆性を高める観点から、150〜1900%が好ましく、155〜1800%がより好ましく、200〜1500%が最も好ましく、200〜900%が更に好ましい。グラフト率が150%未満では耐酸化性が低下する場合がある。グラフト率が900%を超えると、結着性が低下する場合がある。
グラフト共重合体を生成する際(グラフト共重合時)に、グラフト共重合に関与しない、すなわち、グラフト共重合体と共有結合を形成していない遊離した状態で存在する、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の共重合による共重合体(以下、「非グラフトコポリマー」、「(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体」と称することがある)が生成しうることから、グラフト率の計算には、グラフト共重合体と非グラフトコポリマーを含有する組成物より非グラフトコポリマーを分離する工程が必要となる。非グラフトコポリマーはジメチルホルムアミド(以下、DMFと称することがある)には溶解するが、PVAや、グラフト共重合した(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸エステルは、DMFに溶解しない。この溶解性の差を利用し、非グラフトコポリマーを遠心分離等の操作により分離できる。
【0020】
具体的には、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が既知の組成物を、所定量のDMFに浸漬し、非グラフトコポリマーをDMF中に溶出させる。次に浸漬させた液を遠心分離によりDMF可溶分とDMF不溶分に分離する。
ここで、
A:測定に用いたグラフト組成物の量、
B:測定に用いたグラフト組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の質量%、
C:DMF不溶分の量とすると、
グラフト率は、以下の式(1)により求めることができる。
グラフト率=[C−A×(100−B)×0.01]/[A×(100−B)×0.01]×100(%)・・・(1)
【0021】
非グラフトコポリマーの重量平均分子量は、30000〜250000が好ましく、80000〜150000がより好ましい。非グラフトコポリマーの粘度上昇を抑えて、正極用スラリーを容易に製造し得る観点から、非グラフトコポリマーの重量平均分子量は250000以下が好ましく、190000以下がより好ましく、150000以下が最も好ましい。非グラフトコポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により求めることができる。
【0022】
組成物中のPVA量は、5〜50質量%であり、5〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。5質量%未満だと、結着性が低下する場合がある。40質量%を超えると耐酸化性及び柔軟性が低下する場合がある。
本実施形態において、組成物中のPVA量とは、質量換算のグラフト共重合体、非グラフトコポリマー及びPVAのホモポリマーの総量、好ましくは組成物に対する、グラフト共重合体中のPVA量及びポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマー中のPVA量の合計量をいう。
【0023】
組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計量は、50〜95質量%であり、60〜90質量%が好ましい。組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計量が50質量%未満であると耐酸化性が低下する場合がある。95質量%を超えると結着性が低下する場合がある。
組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計量が50質量%以上であると、詳細な理由は不明であるが、リチウムイオン二次電池の正極活物質から負極へ溶出するMnやNi量が低減することが確認された。
組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計量とは、質量換算のグラフト共重合体、非グラフトコポリマー及びポリビニルアルコールを有する非グラフトポリマーに含まれる(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の総量の組成物に対する割合を意味する。すなわち、質量換算した場合の、グラフト共重合した(メタ)アクリロニトリル単量体単位量と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量、及び、グラフト共重合に関与しない、(メタ)アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル系非グラフト共重合体(非グラフトコポリマー)中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位量と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量の合計量の、組成物の総質量に対する割合(質量%)を意味する。
組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位量は20〜95質量%であり、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量は5〜80質量%であり、20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
【0024】
組成物中の樹脂分の組成比は、重合に用いた単量体の反応率(重合率)と重合に用いた各成分の仕込み量の組成から計算できる。
共重合時によって生成した重合体中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステルの質量割合、即ちPVA(ポリビニルアルコールを有するポリマー)にグラフト共重合した(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、非グラフトコポリマーとの総量は、(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸エステルの重合率と仕込みの(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸エステルの質量とから、算出できる。この(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルの仕込みの質量と、PVAの仕込みの質量との比を取ることで、PVA、(メタ)アクリロニトリル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の質量比を算出することができる。
具体的には、組成物中の(メタ)アクリロニトリル単量体単位や(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計の質量%は、以下の式(2)から求めることができる。ここで、単量体とは、(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸エステルをいう。
【0025】
ここで、
D:重合に用いた単量体の重合率(%)、
E:グラフト共重合に使用した単量体の質量(仕込み量)、
F:グラフト共重合に使用したPVAの質量(仕込み量)
とすると、
組成物中の、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計の質量%は
D×0.01×E/(F+D×0.01×E)×100(%)・・・(2)
の式で求められる。
【0026】
単量体の重合率(D)はH−NMRによっても求めることができるが、本願では下式(3)を使用して求められる数値とする。
ここで、記号は下記の通りである。
G:重合に用いたPVAの質量
H:重合に用いた単量体の質量
I:得られた生成物の質量
D=[I−G]/H×100(%)・・・・(3)
【0027】
組成物中の樹脂分の組成比の(メタ)アクリロニトリル単量体単位及びポリ(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の組成比は、H−NMRにより求めることができる。H−NMRの測定は、例えば、日本電子株式会社製の商品名「ALPHA500」を用い、測定溶媒:ジメチルスルホキシド、測定セル:5mmφ、試料濃度:50mg/1ml、測定温度:30℃の条件にて行うことが可能である。
【0028】
本実施形態の組成物の製造方法ついては特に制限されないが、ポリ酢酸ビニルを重合後、鹸化してPVAを得た後に、PVAに(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体をグラフト共重合させる方法が好ましい。
【0029】
ポリ酢酸ビニルを重合する方法については、塊状重合、溶液重合等公知の任意の方法を用いることができる。
【0030】
ポリ酢酸ビニルの重合に使用される開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、過硫酸塩、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0031】
ポリ酢酸ビニルの鹸化反応は、例えば、有機溶媒中、鹸化触媒存在下で鹸化する方法により行うことができる。
【0032】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。これらは1種以上を用いてもよい。これらの中では、メタノールが好ましい。
【0033】
鹸化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコキシド等の塩基性触媒、硫酸、塩酸等の酸性触媒等が挙げられる。これらの中では、鹸化速度の観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0034】
ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコールを有するポリマー)に(メタ)アクリロニトリルや(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体をグラフト共重合させる方法は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等、任意の重合によって行うことができる。溶液重合、懸濁重合として用いる溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0035】
グラフト共重合に使用する開始剤としては、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等を用いることができる。
【0036】
本実施形態の組成物は溶媒に溶解させて用いることができる。溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、DMF等が挙げられる。バインダー組成物には、これらの溶媒が含まれていることが好ましい。これらの溶媒は1種以上含まれていればよい。
【0037】
組成物を溶媒に溶解させた溶剤とした場合、溶剤中の組成物の含有量は、固形分で、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましく、3〜10質量%が最も好ましい。
【0038】
以上詳述した本実施形態の組成物は、上述したグラフト共重合体を含有するため、柔軟性が高く、正極活物質や金属箔との結着性が良好であり、且つ正極活物質を被覆する。そのため、本実施形態の組成物は、バインダー組成物として使用できる。本実施形態のバインダー組成物は、正極用バインダー組成物として使用できる。この正極用バインダー組成物を含む正極用スラリーにより、高電位の正極活物質を使用したサイクル特性及びレート特性、高温保存時のOCV(保存特性)低下抑制能を有しつつ、電極の柔軟性に優れたリチウムイオン二次電池、並びにそのようなリチウムイオン二次電池が得られる電極(正極)を得ることが可能となる。したがって、本実施形態の正極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池用として好適である。
【0039】
<正極用スラリー>
本実施形態に係る正極用スラリーは、上述の正極用バインダー組成物と、導電助剤と、必要に応じて正極活物質とを含有する。
【0040】
(導電助剤)
本実施形態の正極用スラリーには導電助剤を含有させることができる。導電助剤としては、(i)繊維状炭素、(ii)カーボンブラック及び(iii)繊維状炭素とカーボンブラックとが相互に連結した炭素複合体から選択される少なくとも1種以上が好ましい。
繊維状炭素としては、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック及びケッチェンブラック(登録商標)等が挙げられる。これらの導電助剤は単体で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーから選択される1種以上が好ましい。
【0041】
(正極活物質)
本実施形態の正極用スラリーには正極活物質を含有させることができる。正極に用いる正極活物質としては、特に限定されないが、リチウムと遷移金属からなる複合酸化物(リチウム遷移金属複合酸化物)、並びに、リチウムと遷移金属のリン酸塩(リチウム遷移金属リン酸塩)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。より具体的には、LiCoO、LiNiO、Li(CoNiMn)O(但し、0<X<1、0<Y<1、0<Z<1、且つX+Y+Z=1)、Li(NiAlCo)O(但し、0<X<1、0<Y<1、0<Z<1、且つX+Y+Z=1)、LiMn、及びLiNiMn(2−X)(但し、0<X<2)等のリチウム遷移金属複合酸化物、これらから選択される1種以上の組み合わせの正極活物質を用いることが好ましい。これら正極活物質の中では、リチウムイオン二次電池の正極の充放電曲線において、充電時の正極電圧が4.5V以上を示すLiNiMn(2−X)(但し、0<X<2)及びLi(CoNiMn)O(但し、0<X<1、0<Y<1、0<Z<1、且つX+Y+Z=1)から選択される少なくとも1種以上の高電位系の正極活物質が好ましい。
正極活物質は、高電位の観点から、リチウムイオン二次電池の正極の充放電曲線において、充電時の正極電圧が4.5V以上を示す正極活物質が好ましい。
【0042】
本実施形態の正極用スラリーには、導電助剤及び正極活物質の導電性付与能力、導電性の向上の為、複数種の導電助剤や正極活物質を連結した炭素複合体を含有してもよい。例えば、リチウムイオン二次電池電極用スラリーの場合、繊維状炭素とカーボンブラックとが相互に連結した炭素複合体、更にカーボンコートされた正極活物質を、繊維状炭素、カーボンブラックと複合一体化させた複合体等が挙げられる。繊維状炭素とカーボンブラックとが相互に連結した炭素複合体は、例えば、繊維状炭素とカーボンブラックとの混合物を焼成することにより得られる。この炭素複合体と正極活物質との混合物を焼成したものを、炭素複合体とすることもできる。
【0043】
本実施形態の正極用スラリーでは、上述の正極用バインダー組成物、導電助剤、及び、必要に応じて使用する正極活物質の含有量は特に限定されないが、結着性を高める観点、リチウムイオン二次電池を製造した際の当該電池に良好な特性を持たせる観点から、以下の範囲が好ましい。
上述のバインダー組成物の含有量は、正極用スラリーの固形分総量中、固形分で、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%が最も好ましい。
上述の正極活物質の含有量は、正極用スラリー中、50〜99.8質量%が好ましく、80〜99.5質量%がより好ましく、95〜99.0質量%が更に好ましい。
上述の導電助剤の含有量は、正極用スラリー中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜3質量%が最も好ましい。
ここで、正極用スラリーは、バインダー組成物、導電助剤、必要に応じて使用する正極活物質の合計であることが好ましい。
【0044】
導電助剤の含有量を0.01質量%以上とすることで、リチウムイオン二次電池の高速充電性及び高出力特性が良好となる。10質量%以下とすることで、より高密度な正極を得ることができるため、電池の充放電容量が良好となる。
【0045】
<正極>
本実施形態に係る正極は、上述の正極用スラリーを用いて製造される。この正極は、好ましくは金属箔と、その金属箔上に設けられる上述の正極用スラリーとを、用いて製造される。この正極は、好ましくはリチウムイオン二次電池電極用である。
【0046】
(正極)
本実施形態の正極は、好ましくは上述の正極用スラリーを金属箔上に塗工し、乾燥することにより、塗膜が形成し、製造される。金属箔としては箔状のアルミニウムを用いることが好ましい。金属箔の厚さは加工性の観点から5〜30μmが好ましい。
【0047】
(正極の製造方法)
正極用スラリーを金属箔上に塗工する方法については、公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法及びスクイーズ法を挙げることができる。そのなかでもブレード法(コンマロール又はダイカット)、ナイフ法及びエクストルージョン法が好ましい。この際、バインダーの溶液物性、乾燥性に合わせて塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。塗布は片面に施しても、両面に施してもよく、両面の場合、片面ずつ逐次でも両面同時でもよい。塗布は連続でも間欠でもストライプでもよい。正極用スラリーの塗布厚みや長さ、巾は、電池の大きさに合わせて適宜決定すればよい。例えば、正極用スラリーの塗布厚み、即ち、正極板の厚さは、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0048】
正極用スラリーの乾燥方法は、一般に採用されている方法を利用できる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線及び低温風を、単独或いは組み合わせて用いることが好ましい。
【0049】
正極は、必要に応じてプレスできる。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やカレンダープレス法(冷間又は熱間ロール)が好ましい。カレンダープレス法でのプレス圧は、特に限定されないが、0.1〜3ton/cmが好ましい。
【0050】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上述の正極を用いて製造され、好適には、上述の正極、負極、セパレーター、並びに電解質溶液(電解質及び電解液)を含んで構成される。
【0051】
(負極)
本実施形態のリチウムイオン二次電池に用いられる負極は、特に限定されないが、負極活物質を含む負極用スラリーを用いて製造できる。この負極は、例えば、負極用金属箔と、その金属箔上に設けられる負極用スラリーとを用いて製造できる。負極用スラリーは、負極用バインダーと、負極活物質と、前述の導電助剤とを含むことが好ましい。負極用バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体等を用いることができる。負極用バインダーとしては、フッ素系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましく、ポリフッ化ビニリデンが最も好ましい。
【0052】
負極に用いられる負極活物質としては、黒鉛、ポリアセン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素材料や、スズ及びケイ素等の合金系材料或いはスズ酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物材料が挙げられる。これらは1種以上用いてもよい。
負極用の金属箔としては箔状の銅を用いることが好ましく、厚さは加工性の観点から5〜30μmが好ましい。負極は、前述の正極の製造方法に準じた方法にて、負極用スラリー及び負極用金属箔を用いて製造できる。
【0053】
(セパレーター)
セパレーターには、電気絶縁性の多孔質膜、網、不織布等、充分な強度を有するものであれば使用できる。特に、電解液のイオン移動に対して低抵抗であり、かつ、溶液保持に優れたものを使用するとよい。材質は特に限定しないが、ガラス繊維等の無機物繊維又は有機物繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフロン等の合成樹脂又はこれらの層状複合体等を挙げることができる。これらの中では、結着性及び安全性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの層状複合体からなる1種以上が好ましい。
【0054】
(電解質)
電解質としては、リチウム塩がいずれも使用でき、LiClO、LiBF,LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiI、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0055】
(電解液)
上記電解質を溶解させる電解液は、特に限定されない。電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネート等のカーボネート類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン及び2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1,3−ジオキソラン及び4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類、アセトニトリル、ニトロメタン及びN−メチル−2−ピロリドン等の含窒素化合物類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル及びリン酸トリエステル等のエステル類、硫酸エステル、硝酸エステル及び塩酸エステル等の無機酸エステル類、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等のアミド類、ジグライム、トリグライム及びテトラグライム等のグライム類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類、スルホラン等のスルホラン類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類、並びに、1,3−プロパンサルトン、4−ブタンスルトン及びナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらの電解液の中から選択される1種以上を使用できる。
【0056】
上記の電解質及び電解液の中では、LiPFをカーボネート類に溶解した電解質溶液が好ましい。当該溶液中の電解質の濃度は、使用する電極及び電解液によって異なるが、0.5〜3モル/Lが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本実施形態を実施例及び比較例により具体的に説明する。本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
(PVAの調製)
酢酸ビニル600質量部及びメタノール400質量部を仕込み、窒素ガスをバブリングして脱酸素したのち、重合開始剤としてビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部を仕込み、60℃で4時間重合させた。重合停止時の重合溶液の固形分濃度は48質量%であり、固形分から求めた酢酸ビニルの重合率は80%であった。得られた重合溶液にメタノール蒸気を吹き込んで、未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が40質量%になるようにメタノールで希釈した。
希釈したポリ酢酸ビニル溶液1200質量部に、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20質量部を添加して、30℃で2時間鹸化反応を行った。
鹸化後の溶液を酢酸で中和し、濾過して100℃で2時間乾燥させてPVAを得た。得られたPVAの平均重合度は320、鹸化度は96.5モル%であった。
【0059】
<重合度及び鹸化度>
PVAの平均重合度及び鹸化度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定した。
【0060】
(バインダーAの調製)
以下にバインダーAの調製方法を記す。本実施例において、バインダーとは本実施形態によるグラフト共重合体を含む組成物を意味する。
得られたPVA6.07質量部を、ジメチルスルホキシド78.63質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。更に、アクリロニトリル9.11質量部とアクリル酸ブチル(ガラス転移温度219K)5.51質量部とジメチルスルホキシド1.43質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.45質量部を60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より6時間後、室温まで冷却し重合を停止させた。
【0061】
(析出・乾燥)
得られたバインダーAを含む反応液100質量部をメタノール300質量部中に滴下し、バインダーAを析出させた。濾過してポリマーを分離して室温で2時間真空乾燥させ、更に80℃で2時間真空乾燥させた。固形分は19.96質量部で、アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は固形分より計算すると95%であった。
得られたバインダーA中の、アクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、70質量%であり、グラフト率は215%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は76200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は30:44:26であった。これらの測定方法は、後記の<組成比>、<グラフト率>及び<重量平均分子量>において説明する。
【0062】
<組成比>
バインダーAの組成比はアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの反応率(重合率)と重合に用いた各成分の仕込み量の組成から計算した。共重合時に生成したポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの質量%(バインダーA中の、グラフト共重合体中のポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの質量%)は、アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率(%)、グラフト共重合に使用したアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの質量(仕込み量)、及びグラフト共重合に使用したPVAの質量(仕込み量)から、先述した式(2)及び(3)を用いて算出した。なお、後記表中の「質量比」は、グラフト共重合体自体、若しくは、その共重合時に生成する、PVAホモポリマーや、非グラフトコポリマー(アクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの共重合体)をも含むバインダー樹脂分中の質量比である。
【0063】
<グラフト率>
バインダーAを1.00g正秤し、これを特級DMF(国産化学株式会社製)50ccに添加し、80℃にて24時間1000rpmで撹拌した。次に、これを株式会社コクサン製の遠心分離機(型式:H2000B、ローター:H)にて回転数10000rpmで30分間遠心分離した。ろ液(DMF可溶分)を注意深く分離後、DMF不溶分を100℃にて24時間真空乾燥し、先述した式(1)を用いグラフト率を計算した。
【0064】
<重量平均分子量>
遠心分離の際のろ液(DMF可溶分)をメタノール1000mlに投入し、析出物を得た。析出物を80℃にて24時間真空乾燥し、GPCにて標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。GPCの測定は以下の条件にて行った。
カラム:GPC LF−804、φ8.0×300mm(昭和電工株式会社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:20mM−LiBr/DMF
【0065】
<酸化分解電位>
バインダーA5質量部を、N−メチルピロリドン95質量部に溶解させ、得られたポリマー溶液100質量部にアセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)1質量部を加えて撹拌した。得られた溶液をアルミニウム箔上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗工し、80℃で10分間予備乾燥したのちに、105℃で1時間乾燥させて試験片とした。
作用極に得られた試験片を用い、対極及び参照極にリチウムを用い、電解液にLiPFを電解質塩とするエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(=1/2(体積比))溶液(濃度1mol/L)を用いて東洋システム株式会社製の3極セルを組み立てた。ソーラートロン社製のポテンショ/ガルバノスタット(1287型)を用いてリニアースイープボルタンメトリー(以下LSVと略す)を25℃で10mV/secの走査速度にて測定を行った。酸化分解電位を電流が0.1mA/cmに達した時の電位と定めた。酸化分解電位が高い程、酸化分解しにくく耐酸化性が高いと判断される。
【0066】
[実施例2]
実施例1におけるビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートの量を0.15質量部へ変更し、60℃で5時間重合した。重合率は80%であった。実施例1と同様に未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液1900質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1640、鹸化度97.5モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーBを調製した。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、71質量%であり、グラフト率は216%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は65200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は29:44:27であった。この組成比、グラフト率、非グラフトコポリマーの重量平均分子量については、実施例1と同様の方法により測定した。以下、実施例3以下も同様である。
【0067】
[実施例3]
実施例1におけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル3000質量部、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部,反応時間を12時間,鹸化時間を2時間とした以外は実施例1と同様の操作を行い、平均重合度3610、鹸化度95.1モル%のPVAを得た。
得られたPVAを使用した以外は実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーCを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は89%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は205%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は55500、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は32:43:25であった。
【0068】
[実施例4]
実施例1におけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル1800質量部、反応時間を12時間,鹸化時間を0.5時間とした以外は実施例1と同様の操作を行い、平均重合度1710、鹸化度63モル%のPVAを得た。
得られたPVAを6.07質量部使用した以外は、実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーDを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は97%であった。得られたバインダー中のポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、70質量%であり、グラフト率は210%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は65200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は30:44:26であった。
【0069】
[実施例5]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を31.63質量部、ジメチルスルホキシド78.63質量部を157.3質量部に変更し、60℃24時間で重合させバインダーEを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、86%であり、グラフト率は551%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は71100、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は15:73:12であった。
【0070】
[実施例6]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を7.59質量部、アクリル酸ブチル5.51質量部を18.36質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーFを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、80質量%であり、グラフト率は390%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は84300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は20:23:57であった。
【0071】
[実施例7]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を10.7質量部、アクリル酸ブチル5.51質量部を1.53質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーGを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、66質量%であり、グラフト率は170%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は54300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は34:58:8であった。
【0072】
[実施例8]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸ノルマルオクチル(ガラス転移温度208K)7.92質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーHを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ノルマルオクチルの重合率は90%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ノルマルオクチルの合計の含有量は、バインダー中、72質量%であり、グラフト率は220%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ノルマルオクチル共重合体)の重量平均分子量は67800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ノルマルオクチルの組成比(質量比)は28:38:34であった。
【0073】
[実施例9]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2−エチルヘキシル)(ガラス転移温度223K)7.92質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーIを調製した。アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの重合率は90%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチルの合計の含有量は、バインダー中、72質量%であり、グラフト率は240%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は70800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2−エチルヘキシル)の組成比(質量比)は28:38:34であった。
【0074】
[実施例10]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチル(ガラス転移温度223K)5.59質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーJを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの重合率は85%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は200%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチル共重合体)の重量平均分子量は95100、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの組成比(質量比)は33:42:26であった。
【0075】
[実施例11]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(ガラス転移温度263K)6.62質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーKを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の重合率は80%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の合計の含有量は、バインダー中、67質量%であり、グラフト率は201%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)共重合体)の重量平均分子量は67300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の組成比(質量比)は33:39:28であった。
【0076】
[実施例12]
実施例2におけるペルオキソ二硫酸アンモニウム0.45質量部を0.05質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーLを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は92%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、69質量%であり、グラフト率は152%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は248300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は31:43:26であった。
【0077】
[比較例1]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を12.38質量部とし、アクリル酸ブチル5.51質量部を0質量部とする以外は実施例2と同様の操作を行った。アクリロニトリルの重合率は98%であった。得られたバインダーMのポリアクリロニトリルの含有量は、バインダー中、67質量%であり、グラフト率は180%、非グラフトポリマー(ポリアクリロニトリルのホモポリマー)の重量平均分子量は76800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル組成比(質量比)は33:67であった。
【0078】
[比較例2]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を8.25質量部とし、アクリル酸ブチル5.51質量部を0質量部とする以外は実施例2と同様の操作を行った。アクリロニトリルの重合率は96%であった。得られたバインダーNのポリアクリロニトリルの含有量は、バインダー中、57質量%であり、グラフト率は120%、非グラフトポリマー(ポリアクリロニトリルのホモポリマー)の重量平均分子量は96900、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル組成比(質量比)は43:57であった。
【0079】
[比較例3]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をメタクリル酸メチル(ガラス転移温度378K)4.30質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーOを調製した。アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は200%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチル共重合体)の重量平均分子量は77800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリメタクリル酸メチルの組成比(質量比)は32:46:22であった。
【0080】
実施例1〜12及び比較例1〜3で調製したバインダーA〜バインダーOに関して、結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
[実施例13]
バインダーAを使用し、以下の方法にて正極用スラリーを調製し、剥離接着強さを測定した。更に正極用スラリーより正極及びリチウムイオン二次電池を作製し、電極の剥離強度強さ、放電レート特性、サイクル特性、OCV維持率、電極の柔軟性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
(正極用スラリーの調製)
得られたバインダーA:5質量部を、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略す)95質量部に溶解させてバインダー溶液とした。更に、アセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)1質量部、バインダー溶液を固形分換算で1質量部を撹拌混合した。混合後、LiNi0.5Mn1.5:98質量部を加えて撹拌混合し、正極用スラリーを得た。
【0084】
<結着性(剥離接着強さ)>
得られた正極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が100±5μmとなるように塗工し、105℃で30分間乾燥させて正極板を得た。得られた正極板をロールプレス機にて線圧0.1〜3.0ton/cmでプレスし、正極板の平均厚さが75μmとなるように調節した。得られた正極板を1.5cmの幅に切断し、正極活物質面に粘着テープを貼りつけ、更にステンレス製の板と正極板に張り付けたテープとを両面テープで貼り合せた。更に粘着テープをアルミニウム箔に張り付け試験片とした。アルミニウム箔に貼り付けた粘着テープを、25℃、相対湿度50質量%の雰囲気にて、180°方向に50mm/minの速度で引きはがした時の応力を測定した。この測定を3回繰り返して平均値を求め、剥離接着強さとした。
【0085】
(正極の作製)
厚み20μmのアルミニウム箔に、調製した正極用スラリーを、自動塗工機で140g/mとなるように塗布し、105℃で30分間予備乾燥した。次に、ロールプレス機にて0.1〜3.0ton/cmの線圧でプレスし、正極板の厚さが75μmになるように調製した。更に正極板を54mm幅に切断して、短冊状の正極板を作製した。正極板の端部にアルミニウム製の集電体タブを超音波溶着した後、残留溶媒や吸着水分といった揮発成分を完全に除去するため、105℃で1時間乾燥して正極を得た。
【0086】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛(株式会社クレハ製の「カーボトロン(登録商標)P」)96.6質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製の「KFポリマー(登録商標)#1120」)を固形分換算で3.4質量部、更に全固形分が50質量%となるように適量のNMPを加えて撹拌混合して、負極用スラリーを得た。
厚み10μmの銅箔の両面に、調製した負極用スラリーを、自動塗工機で片面ずつ70g/mとなるように塗布し、105℃で30分間予備乾燥した。次に、ロールプレス機にて0.1〜3.0ton/cmの線圧でプレスし、負極板の厚さが両面で90μmになるように調製した。更に負極板を54mm幅に切断して短冊状の負極板を作製した。負極板の端部にニッケル製の集電体タブを超音波溶着した後、残留溶媒や吸着水分といった揮発成分を完全に除去するため、105℃で1時間乾燥して負極を得た。
【0087】
(電池の作製)
得られた正極と負極とを組合せ、厚み25μm、幅60mmのポリエチレン微多孔膜セパレーターを介して捲回し、スパイラル状の捲回群を作製した後、これを電池缶に挿入した。次いで、電解質としてLiPFを1mol/Lの濃度で溶解した非水溶液系の電解液(エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=30/70(質量比)混合液)を電池容器に5ml注入した後、注入口をかしめて密閉し、直径18mm、高さ65mmの円筒形のリチウム二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
【0088】
<放電レート特性(高率放電容量維持率)>
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃において5.00±0.02V、0.2ItA制限の定電流定電圧充電をした後、0.2ItAの定電流で3.00±0.02Vまで放電した。次いで、放電電流を0.2ItA、1ItAと変化させ、各放電電流に対する放電容量を測定した。各測定における回復充電はV5.00±0.02V(1ItAカット)の定電流定電圧充電を行った。そして、二回目の0.2ItA放電時に対する1ItA放電時の高率放電容量維持率を計算した。
【0089】
<サイクル特性(サイクル容量維持率)>
環境温度25℃にて、充電電圧5.00±0.02V、1ItAの定電流定電圧充電と、放電終止電圧3.00±0.02Vの1ItAの定電流放電を行った。充電及び放電のサイクルを繰り返し行い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比率を求めてサイクル容量維持率とした。
【0090】
<保存特性(OCV維持率)>
満充電(5.00±0.02V)としたリチウムイオン二次電池を60℃恒温槽に保存し、60℃にて96時間後の電池電圧を測定し、電圧維持率(OCV維持率)を求めた。
電圧維持率(OCV維持率)は以下の式によって求めた。
OCV維持率=保存後の電池電圧/保存前の電池電圧×100(%)・・・(4)
【0091】
<柔軟性評価(φ15mm棒巻きつけ試験)>
バインダーA5質量部を、N−メチルピロリドン95質量部に溶解させ、得られたポリマー溶液100質量部にアセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)5質量部を加えて撹拌した。得られた溶液を厚み20μmのアルミニウム箔上に、乾燥後の正極板の厚さが75μmとなるように塗工し、105℃で30分間乾燥させて試験片とした。得られた電極を環境温度20〜28℃、相対湿度40〜60質量%の環境下で、φ15mm棒に巻きつけた。巻きつけた際に、発生したクラックの本数と最大幅(最大長さ)とを計測した。巻きつけた際にクラックの発生がなければ、柔軟性が高いと判断される。
【0092】
[実施例14〜19]
実施例13におけるバインダーAを、表3に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例13と同様な方法で各評価を実施した。詳細は下記の通りである。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
[実施例14]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーBを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は83%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は70%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0095】
[実施例15]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーDを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は82%、サイクル容量維持率は80%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は68%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0096】
[実施例16]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーEを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は80%、サイクル容量維持率は77%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は66%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0097】
[実施例17]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーIを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は83%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は70%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0098】
[実施例18]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーJを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は72%、サイクル容量維持率は68%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は60%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0099】
[実施例19]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーKを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は70%、サイクル容量維持率は67%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は60%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は4本、クラック最大幅は2cmであった。
【0100】
[比較例4〜6]
実施例13におけるバインダーAを、表4に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例13と同様な方法で各評価を実施した。詳細は下記の通りである。結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
[比較例4]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーMを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は73%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は65%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は12本、クラック最大幅は5cmであった。
【0103】
[比較例5]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーNを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は83%、サイクル容量維持率は74%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は66%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は10本、クラック最大幅は6cmであった。
【0104】
[比較例6]
活物質をLiNi0.5Mn1.5とし、バインダーとして、バインダーOを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は72%、サイクル容量維持率は60%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は55%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は17本、クラック最大幅は4cmであった。
【0105】
表4の結果から、グラフトさせる単量体をアクリロニトリルのみで行ったバインダー(比較例4〜5)、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルをグラフト共重合させたバインダー(比較例6)では、φ15mm棒巻きつけ試験において電極にクラックが発生した。
本実施形態のバインダーから作成された電極は、柔軟性が高かった。
【0106】
本実施形態は、金属箔等の電極や活物質との結着性や接着性、高電圧下での耐酸化性が良好であり、かつ電極の柔軟性の高い正極用バインダー組成物を提供できる。
本実施形態のバインダー組成物は、柔軟性を有するため、リチウムイオン二次電池の正極を作成する過程で、ロール巻き取り時にクラックが生じない。
本実施形態の正極用バインダー組成物により、高電位の正極活物質を使用したサイクル特性に優れる電池を提供できる。