【実施例】
【0057】
以下、本実施形態を実施例及び比較例により具体的に説明する。本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
(PVAの調製)
酢酸ビニル600質量部及びメタノール400質量部を仕込み、窒素ガスをバブリングして脱酸素したのち、重合開始剤としてビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部を仕込み、60℃で4時間重合させた。重合停止時の重合溶液の固形分濃度は48質量%であり、固形分から求めた酢酸ビニルの重合率は80%であった。得られた重合溶液にメタノール蒸気を吹き込んで、未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が40質量%になるようにメタノールで希釈した。
希釈したポリ酢酸ビニル溶液1200質量部に、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20質量部を添加して、30℃で2時間鹸化反応を行った。
鹸化後の溶液を酢酸で中和し、濾過して100℃で2時間乾燥させてPVAを得た。得られたPVAの平均重合度は320、鹸化度は96.5モル%であった。
【0059】
<重合度及び鹸化度>
PVAの平均重合度及び鹸化度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定した。
【0060】
(バインダーAの調製)
以下にバインダーAの調製方法を記す。本実施例において、バインダーとは本実施形態によるグラフト共重合体を含む組成物を意味する。
得られたPVA6.07質量部を、ジメチルスルホキシド78.63質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。更に、アクリロニトリル9.11質量部とアクリル酸ブチル(ガラス転移温度219K)5.51質量部とジメチルスルホキシド1.43質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.45質量部を60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より6時間後、室温まで冷却し重合を停止させた。
【0061】
(析出・乾燥)
得られたバインダーAを含む反応液100質量部をメタノール300質量部中に滴下し、バインダーAを析出させた。濾過してポリマーを分離して室温で2時間真空乾燥させ、更に80℃で2時間真空乾燥させた。固形分は19.96質量部で、アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は固形分より計算すると95%であった。
得られたバインダーA中の、アクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、70質量%であり、グラフト率は215%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は76200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は30:44:26であった。これらの測定方法は、後記の<組成比>、<グラフト率>及び<重量平均分子量>において説明する。
【0062】
<組成比>
バインダーAの組成比はアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの反応率(重合率)と重合に用いた各成分の仕込み量の組成から計算した。共重合時に生成したポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの質量%(バインダーA中の、グラフト共重合体中のポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの質量%)は、アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率(%)、グラフト共重合に使用したアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの質量(仕込み量)、及びグラフト共重合に使用したPVAの質量(仕込み量)から、先述した式(2)及び(3)を用いて算出した。なお、後記表中の「質量比」は、グラフト共重合体自体、若しくは、その共重合時に生成する、PVAホモポリマーや、非グラフトコポリマー(アクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの共重合体)をも含むバインダー樹脂分中の質量比である。
【0063】
<グラフト率>
バインダーAを1.00g正秤し、これを特級DMF(国産化学株式会社製)50ccに添加し、80℃にて24時間1000rpmで撹拌した。次に、これを株式会社コクサン製の遠心分離機(型式:H2000B、ローター:H)にて回転数10000rpmで30分間遠心分離した。ろ液(DMF可溶分)を注意深く分離後、DMF不溶分を100℃にて24時間真空乾燥し、先述した式(1)を用いグラフト率を計算した。
【0064】
<重量平均分子量>
遠心分離の際のろ液(DMF可溶分)をメタノール1000mlに投入し、析出物を得た。析出物を80℃にて24時間真空乾燥し、GPCにて標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。GPCの測定は以下の条件にて行った。
カラム:GPC LF−804、φ8.0×300mm(昭和電工株式会社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:20mM−LiBr/DMF
【0065】
<酸化分解電位>
バインダーA5質量部を、N−メチルピロリドン95質量部に溶解させ、得られたポリマー溶液100質量部にアセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)1質量部を加えて撹拌した。得られた溶液をアルミニウム箔上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗工し、80℃で10分間予備乾燥したのちに、105℃で1時間乾燥させて試験片とした。
作用極に得られた試験片を用い、対極及び参照極にリチウムを用い、電解液にLiPF
6を電解質塩とするエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(=1/2(体積比))溶液(濃度1mol/L)を用いて東洋システム株式会社製の3極セルを組み立てた。ソーラートロン社製のポテンショ/ガルバノスタット(1287型)を用いてリニアースイープボルタンメトリー(以下LSVと略す)を25℃で10mV/secの走査速度にて測定を行った。酸化分解電位を電流が0.1mA/cm
2に達した時の電位と定めた。酸化分解電位が高い程、酸化分解しにくく耐酸化性が高いと判断される。
【0066】
[実施例2]
実施例1におけるビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートの量を0.15質量部へ変更し、60℃で5時間重合した。重合率は80%であった。実施例1と同様に未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液1900質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。
実施例1と同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1640、鹸化度97.5モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーBを調製した。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、71質量%であり、グラフト率は216%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は65200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は29:44:27であった。この組成比、グラフト率、非グラフトコポリマーの重量平均分子量については、実施例1と同様の方法により測定した。以下、実施例3以下も同様である。
【0067】
[実施例3]
実施例1におけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル3000質量部、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部,反応時間を12時間,鹸化時間を2時間とした以外は実施例1と同様の操作を行い、平均重合度3610、鹸化度95.1モル%のPVAを得た。
得られたPVAを使用した以外は実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーCを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は89%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は205%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は55500、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は32:43:25であった。
【0068】
[実施例4]
実施例1におけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル1800質量部、反応時間を12時間,鹸化時間を0.5時間とした以外は実施例1と同様の操作を行い、平均重合度1710、鹸化度63モル%のPVAを得た。
得られたPVAを6.07質量部使用した以外は、実施例1と同様にしてアクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合を行い、バインダーDを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は97%であった。得られたバインダー中のポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、70質量%であり、グラフト率は210%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は65200、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は30:44:26であった。
【0069】
[実施例5]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を31.63質量部、ジメチルスルホキシド78.63質量部を157.3質量部に変更し、60℃24時間で重合させバインダーEを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、86%であり、グラフト率は551%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は71100、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は15:73:12であった。
【0070】
[実施例6]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を7.59質量部、アクリル酸ブチル5.51質量部を18.36質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーFを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、80質量%であり、グラフト率は390%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は84300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は20:23:57であった。
【0071】
[実施例7]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を10.7質量部、アクリル酸ブチル5.51質量部を1.53質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーGを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、66質量%であり、グラフト率は170%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は54300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は34:58:8であった。
【0072】
[実施例8]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸ノルマルオクチル(ガラス転移温度208K)7.92質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーHを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ノルマルオクチルの重合率は90%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ノルマルオクチルの合計の含有量は、バインダー中、72質量%であり、グラフト率は220%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ノルマルオクチル共重合体)の重量平均分子量は67800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ノルマルオクチルの組成比(質量比)は28:38:34であった。
【0073】
[実施例9]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2−エチルヘキシル)(ガラス転移温度223K)7.92質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーIを調製した。アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの重合率は90%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチルの合計の含有量は、バインダー中、72質量%であり、グラフト率は240%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は70800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2−エチルヘキシル)の組成比(質量比)は28:38:34であった。
【0074】
[実施例10]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチル(ガラス転移温度223K)5.59質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーJを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの重合率は85%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は200%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチル共重合体)の重量平均分子量は95100、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2−(2−エトキシ)エトキシ)エチルの組成比(質量比)は33:42:26であった。
【0075】
[実施例11]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(ガラス転移温度263K)6.62質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーKを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の重合率は80%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の合計の含有量は、バインダー中、67質量%であり、グラフト率は201%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)共重合体)の重量平均分子量は67300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)の組成比(質量比)は33:39:28であった。
【0076】
[実施例12]
実施例2におけるペルオキソ二硫酸アンモニウム0.45質量部を0.05質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーLを調製した。アクリロニトリル及びアクリル酸ブチルの重合率は92%であった。ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチルの合計の含有量は、バインダー中、69質量%であり、グラフト率は152%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリアクリル酸ブチル共重合体)の重量平均分子量は248300、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリアクリル酸ブチルの組成比(質量比)は31:43:26であった。
【0077】
[比較例1]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を12.38質量部とし、アクリル酸ブチル5.51質量部を0質量部とする以外は実施例2と同様の操作を行った。アクリロニトリルの重合率は98%であった。得られたバインダーMのポリアクリロニトリルの含有量は、バインダー中、67質量%であり、グラフト率は180%、非グラフトポリマー(ポリアクリロニトリルのホモポリマー)の重量平均分子量は76800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル組成比(質量比)は33:67であった。
【0078】
[比較例2]
実施例2におけるアクリロニトリル9.11質量部を8.25質量部とし、アクリル酸ブチル5.51質量部を0質量部とする以外は実施例2と同様の操作を行った。アクリロニトリルの重合率は96%であった。得られたバインダーNのポリアクリロニトリルの含有量は、バインダー中、57質量%であり、グラフト率は120%、非グラフトポリマー(ポリアクリロニトリルのホモポリマー)の重量平均分子量は96900、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル組成比(質量比)は43:57であった。
【0079】
[比較例3]
実施例2におけるアクリル酸ブチル5.51質量部をメタクリル酸メチル(ガラス転移温度378K)4.30質量部に変更し、60℃6時間で重合させバインダーOを調製した。アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの重合率は95%であった。ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチルの合計の含有量は、バインダー中、68質量%であり、グラフト率は200%、非グラフトコポリマー(ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチル共重合体)の重量平均分子量は77800、バインダー中のポリビニルアルコール:ポリアクリロニトリル:ポリメタクリル酸メチルの組成比(質量比)は32:46:22であった。
【0080】
実施例1〜12及び比較例1〜3で調製したバインダーA〜バインダーOに関して、結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
[実施例13]
バインダーAを使用し、以下の方法にて正極用スラリーを調製し、剥離接着強さを測定した。更に正極用スラリーより正極及びリチウムイオン二次電池を作製し、電極の剥離強度強さ、放電レート特性、サイクル特性、OCV維持率、電極の柔軟性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
(正極用スラリーの調製)
得られたバインダーA:5質量部を、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略す)95質量部に溶解させてバインダー溶液とした。更に、アセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)1質量部、バインダー溶液を固形分換算で1質量部を撹拌混合した。混合後、LiNi
0.5Mn
1.5O
4:98質量部を加えて撹拌混合し、正極用スラリーを得た。
【0084】
<結着性(剥離接着強さ)>
得られた正極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が100±5μmとなるように塗工し、105℃で30分間乾燥させて正極板を得た。得られた正極板をロールプレス機にて線圧0.1〜3.0ton/cmでプレスし、正極板の平均厚さが75μmとなるように調節した。得られた正極板を1.5cmの幅に切断し、正極活物質面に粘着テープを貼りつけ、更にステンレス製の板と正極板に張り付けたテープとを両面テープで貼り合せた。更に粘着テープをアルミニウム箔に張り付け試験片とした。アルミニウム箔に貼り付けた粘着テープを、25℃、相対湿度50質量%の雰囲気にて、180°方向に50mm/minの速度で引きはがした時の応力を測定した。この測定を3回繰り返して平均値を求め、剥離接着強さとした。
【0085】
(正極の作製)
厚み20μmのアルミニウム箔に、調製した正極用スラリーを、自動塗工機で140g/m
2となるように塗布し、105℃で30分間予備乾燥した。次に、ロールプレス機にて0.1〜3.0ton/cmの線圧でプレスし、正極板の厚さが75μmになるように調製した。更に正極板を54mm幅に切断して、短冊状の正極板を作製した。正極板の端部にアルミニウム製の集電体タブを超音波溶着した後、残留溶媒や吸着水分といった揮発成分を完全に除去するため、105℃で1時間乾燥して正極を得た。
【0086】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛(株式会社クレハ製の「カーボトロン(登録商標)P」)96.6質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製の「KFポリマー(登録商標)#1120」)を固形分換算で3.4質量部、更に全固形分が50質量%となるように適量のNMPを加えて撹拌混合して、負極用スラリーを得た。
厚み10μmの銅箔の両面に、調製した負極用スラリーを、自動塗工機で片面ずつ70g/m
2となるように塗布し、105℃で30分間予備乾燥した。次に、ロールプレス機にて0.1〜3.0ton/cmの線圧でプレスし、負極板の厚さが両面で90μmになるように調製した。更に負極板を54mm幅に切断して短冊状の負極板を作製した。負極板の端部にニッケル製の集電体タブを超音波溶着した後、残留溶媒や吸着水分といった揮発成分を完全に除去するため、105℃で1時間乾燥して負極を得た。
【0087】
(電池の作製)
得られた正極と負極とを組合せ、厚み25μm、幅60mmのポリエチレン微多孔膜セパレーターを介して捲回し、スパイラル状の捲回群を作製した後、これを電池缶に挿入した。次いで、電解質としてLiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解した非水溶液系の電解液(エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=30/70(質量比)混合液)を電池容器に5ml注入した後、注入口をかしめて密閉し、直径18mm、高さ65mmの円筒形のリチウム二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
【0088】
<放電レート特性(高率放電容量維持率)>
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃において5.00±0.02V、0.2ItA制限の定電流定電圧充電をした後、0.2ItAの定電流で3.00±0.02Vまで放電した。次いで、放電電流を0.2ItA、1ItAと変化させ、各放電電流に対する放電容量を測定した。各測定における回復充電はV5.00±0.02V(1ItAカット)の定電流定電圧充電を行った。そして、二回目の0.2ItA放電時に対する1ItA放電時の高率放電容量維持率を計算した。
【0089】
<サイクル特性(サイクル容量維持率)>
環境温度25℃にて、充電電圧5.00±0.02V、1ItAの定電流定電圧充電と、放電終止電圧3.00±0.02Vの1ItAの定電流放電を行った。充電及び放電のサイクルを繰り返し行い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比率を求めてサイクル容量維持率とした。
【0090】
<保存特性(OCV維持率)>
満充電(5.00±0.02V)としたリチウムイオン二次電池を60℃恒温槽に保存し、60℃にて96時間後の電池電圧を測定し、電圧維持率(OCV維持率)を求めた。
電圧維持率(OCV維持率)は以下の式によって求めた。
OCV維持率=保存後の電池電圧/保存前の電池電圧×100(%)・・・(4)
【0091】
<柔軟性評価(φ15mm棒巻きつけ試験)>
バインダーA5質量部を、N−メチルピロリドン95質量部に溶解させ、得られたポリマー溶液100質量部にアセチレンブラック(デンカ株式会社製のデンカブラック(登録商標)「HS−100」)5質量部を加えて撹拌した。得られた溶液を厚み20μmのアルミニウム箔上に、乾燥後の正極板の厚さが75μmとなるように塗工し、105℃で30分間乾燥させて試験片とした。得られた電極を環境温度20〜28℃、相対湿度40〜60質量%の環境下で、φ15mm棒に巻きつけた。巻きつけた際に、発生したクラックの本数と最大幅(最大長さ)とを計測した。巻きつけた際にクラックの発生がなければ、柔軟性が高いと判断される。
【0092】
[実施例14〜19]
実施例13におけるバインダーAを、表3に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例13と同様な方法で各評価を実施した。詳細は下記の通りである。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
[実施例14]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーBを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は83%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は70%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0095】
[実施例15]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーDを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は82%、サイクル容量維持率は80%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は68%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0096】
[実施例16]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーEを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は80%、サイクル容量維持率は77%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は66%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0097】
[実施例17]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーIを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は83%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は70%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0098】
[実施例18]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーJを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は72%、サイクル容量維持率は68%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は60%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生は確認されなかった。
【0099】
[実施例19]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーKを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は70%、サイクル容量維持率は67%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は60%であった。柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は4本、クラック最大幅は2cmであった。
【0100】
[比較例4〜6]
実施例13におけるバインダーAを、表4に示したバインダーに変更した。それ以外は実施例13と同様な方法で各評価を実施した。詳細は下記の通りである。結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
[比較例4]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーMを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は84%、サイクル容量維持率は73%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は65%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は12本、クラック最大幅は5cmであった。
【0103】
[比較例5]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーNを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は83%、サイクル容量維持率は74%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は66%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は10本、クラック最大幅は6cmであった。
【0104】
[比較例6]
活物質をLiNi
0.5Mn
1.5O
4とし、バインダーとして、バインダーOを用いた以外は実施例13と同様に、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
結果、高率放電容量維持率は72%、サイクル容量維持率は60%であった。60℃保存96時間後のOCV維持率は55%であった。
柔軟性評価としてφ15mm棒巻きつけ試験を行ったところ、電極表面にクラックの発生が確認され、クラック本数は17本、クラック最大幅は4cmであった。
【0105】
表4の結果から、グラフトさせる単量体をアクリロニトリルのみで行ったバインダー(比較例4〜5)、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルをグラフト共重合させたバインダー(比較例6)では、φ15mm棒巻きつけ試験において電極にクラックが発生した。
本実施形態のバインダーから作成された電極は、柔軟性が高かった。
【0106】
本実施形態は、金属箔等の電極や活物質との結着性や接着性、高電圧下での耐酸化性が良好であり、かつ電極の柔軟性の高い正極用バインダー組成物を提供できる。
本実施形態のバインダー組成物は、柔軟性を有するため、リチウムイオン二次電池の正極を作成する過程で、ロール巻き取り時にクラックが生じない。
本実施形態の正極用バインダー組成物により、高電位の正極活物質を使用したサイクル特性に優れる電池を提供できる。