特許第6982633号(P6982633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982633
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】車載リチウムイオンバッテリー用部材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20211206BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20211206BHJP
【FI】
   C08J5/00CEZ
   H01M50/20
【請求項の数】6
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2019-558233(P2019-558233)
(86)(22)【出願日】2018年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2018044614
(87)【国際公開番号】WO2019111910
(87)【国際公開日】20190613
【審査請求日】2020年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-234594(P2017-234594)
(32)【優先日】2017年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 裕也
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 希
(72)【発明者】
【氏名】山本 美穂子
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−197160(JP,A)
【文献】 特開2013−133384(JP,A)
【文献】 特開2003−185064(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する樹脂組成物を成形して得られる車載リチウムイオンバッテリー用部材であって、
前記樹脂組成物は、耐薬品性評価での臨界歪み量が0.5%以上であり、シャルピー衝撃強度が20kJ/m以上(23℃)であり、
前記樹脂組成物は、(c)オレフィンからなるオレフィン系重合体を含有し、
前記車載リチウムイオンバッテリー用部材のモルフォロジー画像において、前記(a)成分を含有する海相と当該海相中に存在する前記(c)成分を含有する島相とを有する海島相構造が形成され、
前記モルフォロジー画像を2値化処理して得られる第2処理画像において、
前記2値化処理後に黒色であり、面積が4.92×10−4μm以上である第2黒色部分の単位面積当たりの個数が8個/μm以上であり、
前記2値化処理後に白色である第2白色部分の単位面積当たりの占有面積をAW2(μm/μm)とし、前記第2黒色部分のうちの面積が15×10−4μm以上の第2非小形部分について、当該第2非小形部分の周長を合計した合計周長の、単位面積当たりの長さをL2(μm/μm)とするとき、
前記占有面積AW2に対する前記長さL2(L2/AW2)が、7μm−1以上である
ことを特徴とする、車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【請求項2】
前記第2黒色部分のうち、面積が4.92×10−4〜100×10−4μmの第2中小形部分の単位面積当たりの個数が6個/μm以上である、請求項に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【請求項3】
前記車載リチウムイオンバッテリー用部材の前記樹脂組成物が、(b)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個とを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体及び/又は当該水素添加ブロック共重合体の変性物を含有する、請求項又はに記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【請求項4】
前記車載リチウムイオンバッテリー用部材の樹脂組成物の、UL94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0である、請求項1〜のいずれか一項に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【請求項5】
さらに、(d)リン酸エステル系化合物を含有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【請求項6】
さらに、(e)ホスフィン酸塩類を含有し、
前記(e)成分が、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩
【化1】
[式中、R11及びR12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;aは、1〜3の整数であり;mは、1〜3の整数であり;a=mである]、及び
下記式(2)で表されるジホスフィン酸塩
【化2】
[式中、R21及びR22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;R23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数6〜10のアリーレン基、炭素原子数6〜10のアルキルアリーレン基、又は炭素原子数6〜10のアリールアルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;bは、1〜3の整数であり;nは、1〜3の整数であり;jは、1又は2の整数であり;b・j=2nである]
からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載リチウムイオンバッテリー用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド電気自動車、電気自動車などの普及が進んでおり、その動力源である電気を供給するための蓄電デバイスとしてリチウムイオンバッテリーが用いられている。このような自動車において用いられ得る車載用リチウムイオンバッテリーは、複数のセルを有するバッテリーモジュールとして構成されているところ(例えば、特許文献1)、電気の供給源としてのバッテリー自体の性能の向上だけでなく、自動車内の環境の向上のために軽量、コンパクト化も求められている。したがって、例えば複数のセル等をバッテリーの内部に備え付けるための保持部材や、バッテリーモジュールの筐体等の車載リチウムイオンバッテリー用部材においては、複雑な形状への適用や重量の低減などが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/141765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車載用リチウムイオンバッテリーは長期間に亘って振動に曝され得るので、車載リチウムイオンバッテリー用部材では、上記のような複雑な形状への適用や重量の低減と共に、車載用リチウムイオンバッテリー内に設けられるバッテリーセル等の種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができるかが問題となる。具体的には、車載リチウムイオンバッテリー用部材は、自動車の走行時等に生じる大きな振動によって、或いは、バッテリーセル自体が仮に破損して漏えいした電解液によっても、車載リチウムイオンバッテリー用部材が破損しないことが必要である。さらに、車載リチウムイオンバッテリー用部材は種々の機器や各構造体の確実な保持や連結を要するが、他の部材との間の固定をネジ止めで形成した場合には、ネジ止めした部分に大きく応力が残存し続ける。したがって、車載リチウムイオンバッテリー用部材は、ネジ穴形成やネジ止めの際に使用した切削油や各種潤滑油、又は漏えいした電解液などに対して、様々な環境負荷が相まって破損しやすくなることがあるが、そのように応力が残存し続けた場合でも破損しないことが必要である。
【0005】
上記の観点から、車載リチウムイオンバッテリー用部材としては、成形性や寸法安定性が高く、比重が低いことから、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が用いられ得る(以下、ポリフェニレンエーテルを単に「PPE」と称する場合がある)。しかし、従来のPPE系樹脂組成物は、高成形性、高寸法安定性、及び低比重を有しつつ、さらに十分に、切削油や電解液に対する耐性や自動車の走行時等に生じる大きな振動に対する耐性を同時に備えるものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、成形体の形状の複雑化や重量の低減に対応可能であると共に、車載用リチウムイオンバッテリー内に設けられる種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができる車載リチウムイオンバッテリー用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する樹脂組成物を成形して得られる車載リチウムイオンバッテリー用部材であって、
前記樹脂組成物は、耐薬品性評価での臨界歪み量が0.5%以上であり、シャルピー衝撃強度が20kJ/m以上(23℃)であり、
前記樹脂組成物は、(c)オレフィンからなるオレフィン系重合体を含有し、
前記車載リチウムイオンバッテリー用部材のモルフォロジー画像において、前記(a)成分を含有する海相と当該海相中に存在する前記(c)成分を含有する島相とを有する海島相構造が形成され、
前記モルフォロジー画像を2値化処理して得られる第2処理画像において、
前記2値化処理後に黒色であり、面積が4.92×10−4μm以上である第2黒色部分の単位面積当たりの個数が8個/μm以上であり、
前記2値化処理後に白色である第2白色部分の単位面積当たりの占有面積をAW2(μm/μm)とし、前記第2黒色部分のうちの面積が15×10−4μm以上の第2非小形部分について、当該第2非小形部分の周長を合計した合計周長の、単位面積当たりの長さをL2(μm/μm)とするとき、
前記占有面積AW2に対する前記長さL2(L2/AW2)が、7μm−1以上である
ことを特徴とする、車載リチウムイオンバッテリー用部材
[2
前記第2黒色部分のうち、面積が4.92×10−4〜100×10−4μmの第2中小形部分の単位面積当たりの個数が6個/μm以上である、[]に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。

前記車載リチウムイオンバッテリー用部材の前記樹脂組成物が、(b)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個とを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体及び/又は当該水素添加ブロック共重合体の変性物を含有する、[]又は[]に記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。

前記車載リチウムイオンバッテリー用部材の樹脂組成物の、UL94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0である、[1]〜[]のいずれかに記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。

さらに、(d)リン酸エステル系化合物を含有する、[1]〜[]のいずれかに記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。

さらに、(e)ホスフィン酸塩類を含有し、
前記(e)成分が、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩
【化1】
[式中、R11及びR12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;aは、1〜3の整数であり;mは、1〜3の整数であり;a=mである]、及び
下記式(2)で表されるジホスフィン酸塩
【化2】
[式中、R21及びR22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;R23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数6〜10のアリーレン基、炭素原子数6〜10のアルキルアリーレン基、又は炭素原子数6〜10のアリールアルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;bは、1〜3の整数であり;nは、1〜3の整数であり;jは、1又は2の整数であり;b・j=2nである]
からなる群より選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含有する、[1]〜[]のいずれかに記載の車載リチウムイオンバッテリー用部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形体の形状の複雑化や重量の低減に対応可能であると共に、車載用リチウムイオンバッテリー内に設けられる種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができる車載リチウムイオンバッテリー用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは、参考例1の車載LiB用部材をSEMで観察した画像の一部(視野サイズ:3×3μm)であって、網目状の相構造の形成が示されている。図1Bは、図1Aの画像を2値化処理した画像である。
図2図2Aは、実施例9の車載LiB用部材をSEMで観察した画像の一部(視野サイズ:3×3μm)であって、海島相構造の形成が示されている。図2Bは、図2Aの画像を2値化処理した画像である。
図3図3Aは、実施例13の車載LiB用部材をSEMで観察した画像の一部(視野サイズ:5×5μm)であって、海島相構造の形成が示されている。図3Bは、図3Aの画像を2値化処理した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[車載リチウムイオンバッテリー用部材]
本実施形態に係る車載リチウムイオンバッテリー用部材(以下、「車載リチウムイオンバッテリー用部材」を「車載LiB用部材」とも称す。)は、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する樹脂組成物を成形して得られるものであって、樹脂組成物の耐薬品性評価での臨界歪み量が0.5%以上であり、樹脂組成物のシャルピー衝撃強度が、20kJ/m2以上(23℃)である。
当該車載LiB用部材が、(a)PPE系樹脂を含有する樹脂組成物を成形して得られるので、当該樹脂組成物から得られる車載LiB用部材の形状を複雑化することができるとともに当該車載LiB用部材を軽量にすることができる。
また、当該車載LiB用部材の樹脂組成物は、耐薬品性評価での臨界歪み量が0.5%以上であり、シャルピー衝撃強度が、20kJ/m2以上(23℃)であるので、車載用リチウムイオンバッテリー内に設けられる種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができる。
【0012】
本実施形態において、車載LiB用部材の耐薬品性評価での臨界歪み量は、0.5%以上であり、好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.7%以上である。また、車載LiB用部材のシャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上であり、好ましくは21kJ/m2以上、より好ましくは22kJ/m2以上である。当該臨界歪み量を0.5%以上とし、且つ、シャルピー衝撃強度を20kJ/m2以上にすることにより、電解液の漏えいがあった場合や、車載LiB用部材のネジ穴等の応力が残留する部分に残留切削油等や電解液の被液があり自動車の走行時の振動が加わった場合においても、車載LiB用部材の破損を防止することができる。
【0013】
ここで、本実施形態において、耐薬品性評価での臨界歪み量は、次の方法で測定する。
車載LiB用部材用の樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度280℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS−100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度70℃、射出圧力75MPa、射出時間20秒、冷却時間15秒の条件で、120mm×80mm×3mmの平板に成形する。
この平板から、長手方向が流動方向と直角になるような短冊形状(80mm×12.5mm×3mm)の試験片を切り出す。この試験片を、水平方向をx軸、垂直方向をy軸として、垂直断面がy2=6x(x≧0、y≧0)の方程式で示される放物線を型どったベンディングバーの曲面上に、バーと試験片との間に隙間が生じないように治具を用いて取り付ける。また、ベンディングバーは、その垂直断面上でx=0、y=0となる位置を試験片の測定起点側端部の配置位置とし、x>0かつy>0となる位置を試験片の測定末端側端部の配置位置としている。
上記のように試験片をベンディングバーに取り付けた後、試験片の表面に5−56(呉工業株式会社製)を塗布し、23℃×50RH%の条件で48時間放置した。48時間後に、試験片の表面にクラックが発生した場合には、クラックが生じる臨界位置(ベンディングバーのx軸方向でxの値が最も大きくなる位置)を読み取る。
クラックが生じる臨界位置の読み取りは、ベンディングバーに取り付けた状態で試験片に、ベンディングバーのx軸座標の目盛を転記して、試験片をベンディングバーから取り外した後、下記の所定の大きさのクラックの存在を確認して、当該クラックが存在する位置を転記した目盛と対比して読み取る(臨界位置は、ベンディングバーのx軸座標に対応する位置であるので、試験片のペリフェリ長ではない)。
なお、本開示でクラックとは、VHX−5000(キーエンス社製)などのマイクロスコープを使用して試験片表面を観察した際に見られる、200μm以上の流動方向の亀裂である。
そして、試験片の厚みとクラックが生じる臨界位置から次式により臨界歪みを算出する。
(臨界歪み)=d×31/2/{2×(3+50.8x)3/2}×100(%)
d:試験片の厚み(mm)
x:x軸方向の位置(mm)
なお、上記では樹脂組成物のペレットより試験片を作製しているところ、車載LiB用部材(成形品)より試験片を作製して物性を測定することもできる。
【0014】
また、本実施形態において、シャルピー衝撃強度は、次の方法で測定する。
車載LiB用部材用の樹脂組成物のペレットを、100℃で2時間乾燥する。乾燥後の樹脂組成物ペレットから、東芝機械(株)製IS−100GN型射出成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて、ISO−15103に準じて試験片を作製する。次いでISO−179に準拠し、上記試験片の中央にノッチ(切り欠き)を付けて、ノッチ付きシャルピー衝撃試験片を作製した。該ノッチ付きシャルピー衝撃試験片について、耐衝撃性評価として、ISO−179に準拠し、23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定する。
なお、上記では樹脂組成物のペレットより試験片を作製しているところ、車載LiB用部材(成形品)より試験片を作製して物性を測定することもできる。
【0015】
本実施形態において、車載LiB用部材の、ISO 178に準じて測定した曲げ弾性率は、1500MPa以上であることが好ましく、より好ましくは1600MPa以上、さらに好ましくは1700〜3000MPaである。この範囲にあることにより、構造部品や構造体へ適用可能な剛性を持つことができる。
また、曲げ弾性率を1500MPa以上にするには、後述する特定のモルフォロジーにすることで適宜調整することでできる。
なお、当該曲げ弾性率の試験は、樹脂組成物のペレットより作製した試験片を用いてもよく、また、車載リチウムイオンバッテリー用部材(成形品)より作製した試験片を用いてもよい。
【0016】
本実施形態において、車載リチウムイオンバッテリー用部材の樹脂組成物の、UL94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルが、V−0であることが好ましい。
なお、測定は、樹脂組成物を厚さ3.0mmとして測定する。また、当該UL94垂直燃焼試験は、車載リチウムイオンバッテリー用部材(成形品)より作製した試験片を用いても試験することができる。
【0017】
本実施形態において、車載リチウムイオンバッテリー用部材の樹脂組成物の、ASTM D671のB法に準拠して測定した曲げ振動疲労特性(破壊までの繰り返し回数)が、10000回以上であることが好ましく、より好ましくは20000回以上で、さらに好ましくは30000回以上である。
また、応力がかかる箇所に薬品(切削油)が付着している場合の上記繰り返し回数の、薬品が付着していない場合の上記繰り返し回数に対する割合、すなわち保持率は、70〜100%であることが好ましく、より好ましくは80〜100%で、さらに好ましくは90〜100%である。この範囲にあることにより、薬品が付着しうる環境でも車載用リチウムイオンバッテリー部材としてバッテリー内の種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができる。
なお、本実施形態において、曲げ振動疲労特性は、次の方法で測定する。
車載LiB用部材用の樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度280℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS−100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度70℃、射出圧力60MPaの条件で、ASTM D671のB法の「TYPE A」の片持ち曲げ疲労試験片を得る。ASTM D671のB法に準拠して、下記の試験条件で試験片に周期的に変動する曲げ応力(繰り返し応力:25MPa)をかけ、それぞれの破壊までの繰り返し回数を測定する。1つの組成物当たり、切削油を塗布しない場合と切削油を塗布した場合につき、それぞれ試験片3枚を使用して測定し、その結果の平均を測定結果とする。また、切削油を塗布する場合は、前記片持ち曲げ疲労試験片の振動部分(治具で固定していない湾曲部分)の片側に切削油を塗布し、23℃×50RH%の条件で3時間放置した後に試験を行う。
試験機:(株)東洋精機製作所製 繰り返し曲げ振動疲労試験機 B−70
繰り返し周波数:30Hz(繰り返し速度1800回/min)
測定温度:室温(23℃)
繰り返し応力:25MPa
切削油:Honilo988(カストロール社製)
なお、上記では樹脂組成物のペレットより試験片を作製しているところ、車載LiB用部材(成形品)より試験片を作製して物性を測定することもできる。
【0018】
なお、車載LiB用部材とは、限定されるものではないが、ハイブリッド電気自動車や電気自動車(自動二輪車も含む)等の蓄電デバイスであり、複数のバッテリーセルを有する車載用リチウムイオンバッテリーモジュールにおいて、バッテリーセルやその他のバッテリーモジュールを構成する機器等をモジュール内に保持するための保持部材としたり、例えば筐体、蓋、フレーム等のモジュールの容器を構成する部材とすることができる。バッテリーセルを固定するための保持部材としては、例えば、セルホルダーや、躯体等への固定を要するバッテリーセルに用いるセパレーターおよびスペーサー等が挙げられる。車載LiB用部材としては、バッテリーセルやその他のバッテリーモジュールを構成する機器等をモジュール内に保持するための保持部材であることが好適であり、バッテリーセルを保持するための保持部材であることがより好適である。
【0019】
ここで、本実施形態に係る車載LiB用部材は、上記の所定の耐薬品性評価での臨界歪み量およびシャルピー衝撃強度を備える観点から、後述するモルフォロジー画像において、前記(a)成分を含有する連続相または海相を有する相構造が形成されることが好ましく、具体的には、下記の第1変形例又は第2変形例に示したモルフォロジーを有する車載LiB用部材であることが好ましい。
【0020】
−本実施形態の第1変形例−
本実施形態の第1変形例に係る車載LiB用部材は、(b)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも1個とを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体及び/又は当該水素添加ブロック共重合体の変性物を含有し、且つ、(c)オレフィンからなるオレフィン系重合体を実質的に含有せず、モルフォロジー画像において下記の網目状の相構造を有する。
具体的には、第1変形例の車載LiB用部材は、車載LiB用部材の断面を四酸化ルテニウムにより染色してSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察したモルフォロジー画像において、網目状の相構造を示す。当該四酸化ルテニウム染色では、一般に高分子鎖中の所定の部分が染色されて、当該モルフォロジー画像において相対的に白色に観察される。したがって、第1変形例の車載LiB用部材では、図1Aに示すように、後述する所定の条件で観察されるモルフォロジー画像において、(a)成分を含有し、相対的に白色(灰色)に観察される連続相と、当該連続相中に存在する(b)成分を含有し、相対的に黒色に観察される線状の分散相とを有する網目状の相構造が形成されている。網目状の相構造の網の部分に相当する分散相は、細長い構造であり、屈曲あるいは分岐して形成されるドメインであり、ドメインが折れ曲がったり円弧を描いていたり、また二股以上に分かれたりして、連結を繰り返している。なお、当該モルフォロジー画像において、線状の分散相は、網目相構造を形成するために必ずしも全て連続的に延びていなくてもよく、断続的な部分が存在していてもよい。
【0021】
そして、第1変形例の車載LiB用部材では、モルフォロジー画像を後述する所定の条件で2値化処理して、モルフォロジー画像中の相対的に白色(灰色)の部分を白色化し、相対的に黒色の部分を黒色化した第1処理画像(例えば、図1B参照)において、2値化処理後に黒色であり、面積が4.92×10-4μm2以上である第1黒色部分の単位面積(1μm2)当たりの個数が30個/μm2以上であることが好ましい。また、第1変形例の車載LiB用部材では、2値化処理後に白色である第1白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積をAW1(μm2/μm2)とし、前記第1黒色部分のうちの面積が15×10-4μm2以上の第1非小形部分について、当該第1非小形部分の周長を合計した合計周長の、単位面積(1μm2)当たりの長さをL1(μm/μm2)とするとき、占有面積AW1に対する前記長さL1(L1/AW1)が、25μm-1以上であることが好ましい。
換言すれば、第1変形例の車載LiB用部材では、モルフォロジーにおいて、細かすぎる分散相を除いた分散相(面積が4.92×10-4μm2以上である第1黒色部分)が所定の個数分散している。且つ、第1処理画像において、単位面積(1μm2)当たりの第1白色部分の占有面積に対して、ある程度の大きさを有する第1黒色部分である第1非小形部分(面積が15×10-4μm2以上)の単位面積(1μm2)当たりの周長(白色部分と黒色部分の境界の長さ)の合計長さが、所定の長さであるので、モルフォロジーにおいて、単位面積当たり連続相がある程度の大きさを有する分散相に対して所定の長さの境界を有している。
【0022】
なお、第1変形例および後述の第2変形例を含む本実施形態において、2値化処理後に黒色である部分の面積や周長は、後述する方法で撮影したモルフォロジー画像(デジタル画像)を2値化した処理画像中の1画素について、後述するソフトウェアを用いて1画素あたりの面積や長さをモルフォロジー画像の撮影条件から算出し、また、当該ソフトウェアを用いて2値化処理後に黒色である部分の画素数や黒色の部分の周囲の画素数を算出し、さらに、当該画素数と、一画素あたりの面積や長さを乗することで求めることができる。また、2値化した処理画像中の、2値化処理後に黒色であるそれぞれの部分は、後述するソフトウェアも用いて、それぞれの画素数を黒色の部分の周囲に位置する画素数を求めることができる。
また、第1変形例および後述の第2変形例を含む本実施形態において、2値化処理後に白色である部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積(μm2/μm2)、2値化処理後に黒色であり所定の面積(μm2)を有する部分の単位面積(1μm2)当たりの個数(個/μm2)、2値化処理後に黒色であり所定の面積(μm2)を有する部分の周長の合計周長の、単位面積(1μm2)当たりの長さ(μm/μm2)とは、モルフォロジー画像を2値化して得られる処理画像内の、所定の面積(9μm2又は25μm2)を有する異なる5箇所の画像部分において、白色である部分の面積(μm2)、黒色であり所定の面積(μm2)を有する部分の個数、黒色であり所定の面積(μm2)を有する部分の周長を合計した合計周長を、それぞれ算出し、次いで、5箇所の画像部分で得られた当該面積(μm2)、当該個数、当該合計周長を足し合わせてそれぞれ平均値を求め、そして、当該平均値を当該所定の面積で除して得られた値を意味するものとする。なお、所定の面積を9μm2又は25μm2としているのは、例えば分散相が全体的に大きい場合には9μm2の面積では第1黒色部分の個数等を算出しにくくなるため、25μm2で算出するのが適当であるからである。
【0023】
本実施形態において、第1変形例および後述の第2変形例の車載LiB用部材のモルフォロジー画像、並びに第1および第2処理画像は、下記の方法で得ることができる。
まず、車載LiB用部材のコア部(厚さ方向の中心部)の断片から、ウルトラミクロトームを用いて測定断面を作製する。なお、コア部とは、具体的には、射出成形時の射出速度の影響を受けにくい、車載LiB用部材の表層から厚さ方向に1μm以上離れた中心部のことを指す。当該測定断面を四酸化ルテニウムで染色後、「HITACHI SU−8220」(日立ハイテクフィールディング社製)を用いて、撮影倍率1万倍、加速電圧1.0kV、検出器:二次電子(上方UPPER:LA)の設定で撮影を行う。撮影により断面SEM像のデジタル画像(画素数1280×960)を取得し、これを本実施形態の車載LiB用部材のモルフォロジー画像とする。
次いで、撮影したモルフォロジー画像に対し、画像処理ソフト「imageJ」(バージョン1.50i)を用いて以下の方法で2値化処理を行う。
まず、モルフォロジー画像を開き、2値化処理する範囲(3μm角または5μm角に相当する画素数)を選択する。選択後の画像を、画像処理ソフト「imageJ」の「median filter」で平滑化処理し、「Threshold」で2値化処理を行うことにより、第1または第2処理画像を得る。その際の2値化処理のアルゴリズムは「Default」とし、閾値は「Auto」とする。
上記で得られた第1または第2処理画像において、前記画像処理ソフト「imageJ」の「Analyze Particles」により、2値化後に黒色となっている部分の全てを抽出し、その部分自体の画素数や、その部分の周囲の画素数を算出することにより、第1または第2黒色部分の単位面積当たりの個数(個/μm2)、第1または第2非小形部分の周長を合計した合計周長(μm/μm2)等を求めることができる。また、2値化後に白色となっている部分の全てを抽出してその画素数を算出することにより、第1または第2白色部分の単位面積当たりの占有面積(μm2/μm2)等を求めることができる。
本実施形態において、第1および第2処理画像は、1つの車載LiB用部材から5枚作成する。各測定結果は、この5枚の画像から得られたそれぞれの測定値を平均して得られた数値を用いるものとする。
なお、モルフォロジー画像内には、測定断面等に生じる欠点(ウルトラミクロトームによる断面作製時の傷や樹脂に内在する空隙等)が写り込むことがあるが、2値化処理する画像範囲は、そのような部分を含まないように選択するものとする。また、2値化処理した画像において、2値化後に黒色となっている部分が画像の端部で切れている場合があり、当該画像の端部の長さをその部分の周長の一部として算入することとなるが、当該端部の長さが算入されることについては、誤差範囲として無視することができる。
さらに、本実施形態において、モルフォロジー画像を2値化処理する際には、島相が小さすぎたり、ノイズの可能性があることから、画素2×2をカットオフするものとする。
【0024】
第1変形例の車載LiB用部材の作用・効果について以下説明する。
第1変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材中に(b)成分が含有されることで、耐薬品性及び耐衝撃性に寄与する成分が車載LiB用部材中に存在することになり、(a)成分のみの場合よりも耐薬品性及び耐衝撃性が向上する。
また、第1処理画像内において、第1黒色部分の個数が30個/μm2以上であり、第1白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW1に対する第1非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL1(L1/AW1)が、25μm-1以上であると、第1変形例の車載LiB用部材のモルフォロジーにおいて、分散相が連続相中に均一に混ざりすぎない状態で効果的な網目状を形成させることができる。
具体的には、第1黒色部分の個数が30個/μm2以上であると、モルフォロジーにおいて単位面積の範囲内に、細かすぎない分散相が適度な分散度合いで存在することになり、連続相(相対的に耐衝撃性が低い)に作用する外力を、相互に適度な間隔で分散している分散相(相対的に耐衝撃性が高い)が緩和することができ、車載LiB用部材全体としての耐衝撃性を向上させることができる。なお、当該個数が30個/μm2未満となる場合は、(b)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に少ないとき等に生じ得、耐薬品性や耐衝撃性が向上しにくくなる。
さらに、単位面積当たりの第1白色部分の占有面積AW1に対する、第1非小形部分の周長を合計した合計周長の単位面積当たりの長さL1(L1/AW1)が、25μm-1以上であると、単位面積当たりにおいて、第1白色部分がある程度の長さの第1非小形部分と境界を有している。したがって、連続相(相対的に耐薬品性が低い)内に、分散相(相対的に耐薬品性が高い)が大きく接触しつつ延在することになる。それゆえに、分散相が連続相を包み込むように存在して耐薬品性を向上させることができ、また分散相が、連続相に仮に生じた薬品によるクラックの伸長を抑制することができる。なお、第1非小形部分を面積が15×10-4μm2以上の第1黒色部分としているのは、相対的に面積が小さい分散相では、連続相を包み込むように存在することができなかったり、または、連続相に仮に生じた薬品によるクラックの伸長を抑制することができない傾向があるためである。また、単位面積当たりの第1白色部分の占有面積AW1に対する、前記第1非小形部分の周長を合計した合計周長の単位面積当たりの長さL1(L1/AW1)が25μm-1未満となる場合は、車載LiB用部材を製造する過程での溶融混練において、(a)成分と(b)成分との溶融混練を過剰に行ったとき等に生じ得、分散相が連続相中に微分散して網目状の相構造が崩れる虞があり、耐薬品性を十分に向上することができない。
したがって、第1変形例の車載LiB用部材は、ある程度の大きさを有し細長く屈曲した形状を有する多数の分散相と、細かくなり過ぎない程度に分散した多数の分散相とで効果的な網目状の相構造が形成されているので、耐薬品性や耐衝撃性を効果的に向上させることができ、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度を好適に満たすことができる。
【0025】
なお、(a)成分と(b)成分との溶融混練において(a)成分中に(b)成分が混ざりすぎる状態になると、車載LiB用部材のモルフォロジーにおいて、分散相が細かく微分散することとなる。そのような状態では、面積が4.92×10-4μm2未満の黒色部分の個数が増えすぎたり、第1非小形部分の個数が減少しその合計周長が短くなったりし、耐薬品性や耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0026】
ここで、第1変形例において、第1黒色部分の個数が30個/μm2以上であることが好ましく、より好ましくは個数が32.5個/μm2以上であり、さらに好ましくは個数が35個/μm2以上である。また、第1白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW1に対する第1非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL1(L1/AW1)が、25μm-1以上であることが好ましく、より好ましくは、26μm-1以上であり、さらに好ましくは27μm-1以上である。これにより、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
また、第1黒色部分の個数が50個/μm2以下であることが好ましい。当該個数が50個/μm2超となる場合は、(b)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に多いとき等に生じ得、車載LiB用部材の成形性が向上しにくくなり軽量化しにくくなる傾向がある。また、第1白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW1に対する第1非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL1(L1/AW1)が、50μm-1以下であることが好ましい。L1/AW1が50μm-1超となる場合は、(b)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に多いときに生じ得、(a)成分由来の成形性、寸法安定性、低比重が十分に得られない虞がある。
【0027】
第1変形例の車載LiB用部材は、第1黒色部分のうち、面積が4.92×10-4〜100×10-4μm2の第1中小形部分の単位面積当たりの個数が25個/μm2以上であることが好ましく、より好ましくは26個/μm2以上であり、さらに好ましくは27個/μm2以上である。モルフォロジーにおいて単位面積の範囲内に、適度な大きさを有する分散相が適度な分散度合いで存在することになり、所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
また、第1黒色部分のうち、面積が4.92×10-4〜100×10-4μm2の第1中小形部分の単位面積当たりの個数が50個/μm2以下であることが好ましい。
【0028】
第1変形例の車載LiB用部材は、面積が4.92×10-4μm2以上である第1黒色部分の単位面積当たりの占有面積が0.10〜0.50μm2/μm2であることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.45μm2/μm2であり、さらに好ましくは0.20〜0.40μm2/μm2である。分散相が連続相中に均一に混ざりすぎない状態でより効果的な網目状に形成させることができるので、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
【0029】
第1処理画像における黒色部分の長さとしては、一層優れた耐薬品性や耐衝撃性が得られる観点から、0.1〜10.0μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5.0μmである。
また、黒色部分の幅としては、一層優れた耐薬品性や耐衝撃性が得られる観点から、0.01〜1.0μmが好ましく、より好ましくは0.02〜0.5μmである。
また、黒色部分のアスペクト比としては、一層優れた耐薬品性や耐衝撃性が得られる観点から、5〜1000が好ましく、より好ましくは10〜500である。
また、各黒色部分間の最大距離としては、一層優れた耐薬品性や耐衝撃性が得られる観点から、0.005〜0.2μmが好ましく、より好ましくは0.01〜0.15μmである。なお、第1処理画像における各黒色部分間の最大距離は、車載LiB用部材の任意の断面の第1処理画像において、任意の100個の黒色部分を観察し、各黒色部分間の距離を測定したうちの、最大の距離をいう。
【0030】
第1変形例の車載LiB用部材において、(a)成分及び(b)成分の合計を100質量%として、(a)成分の含有量は、60〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは63〜質87量%、さらに好ましくは66〜84質量%である。また、(a)成分及び(b)成分の合計を100質量%として、(b)成分の含有量は、10〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは13〜37質量%、さらに好ましくは16〜34質量%である。(a)成分、(b)成分を上記範囲にすることにより、第1処理画像における第1黒色部分の個数及び第1非小形部分の個数が好適に所定の範囲内になりやすくすることができる。
また、第1変形例の車載LiB用部材では(c)オレフィンからなるオレフィン系重合体を実質的に含有しないが、ここでの「実質的に含有しない」とは、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは含有しないことである((c)成分の詳細については、後述する第2変形例にて説明する)。
さらに、第1変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材を構成する組成物中の樹脂成分を100質量%として、(a)成分、(b)成分の合計の含有量が、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。車載LiB用部材を構成する組成物中に、(a)成分に相溶性のある樹脂成分が含有されている場合には、車載LiB用部材を構成する組成物中の樹脂成分を100質量%として、(a)成分、(b)成分の合計の含有量が、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
さらに、第1変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、(a)成分、(b)成分の合計の含有量が、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0031】
−−(a)成分について−−
第1変形例で用いられる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、及び両者の混合物等が挙げられる。(a)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0032】
(a)成分の還元粘度は、車載LiB用部材の難燃性を更に向上させる観点から、0.25dL/g以上であることが好ましく、0.28dL/g以上であることが更に好ましく、また、0.60dL/g以下であることが好ましく、0.57dL/g以下であることが更に好ましく、0.55dL/g以下であることが特に好ましい。還元粘度は、重合時間や触媒量により制御することができる。
なお、還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管で測定することができる。
【0033】
−ポリフェニレンエーテル−
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、下記式(3)で表される繰り返し単位構造からなる単独重合体、及び/又は下記式(3)で表される繰り返し単位構造を有する共重合体が挙げられる。
【化3】
[式中、R31、R32、R33、及びR34は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜7の第1級のアルキル基、炭素原子数1〜7の第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群より選ばれる一価の基である。]
【0034】
このようなポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。ポリフェニレンエーテルの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等の単独重合体;2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール等の他のフェノール類との共重合物等の共重合体;等が挙げられ、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合物が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が更に好ましい。
【0035】
ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を用いることができる。ポリフェニレンエーテルの製造方法の具体例としては、例えば、第一銅塩とアミンとのコンプレックスを触媒として用いて、例えば、2,6−キシレノールを酸化重合することによって製造する、米国特許第3306874号明細書等に記載される方法や、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載される方法等が挙げられる。
【0036】
−−−変性ポリフェニレンエーテル−−−
変性ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、上記ポリフェニレンエーテルに、スチレン系重合体及び/又はその誘導体をグラフト化及び/又は付加させたもの等が挙げられる。グラフト化及び/又は付加による質量増加の割合は、特に限定されることなく、変性ポリフェニレンエーテル100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
変性ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下で、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態において、80〜350℃の条件下で、上記ポリフェニレンエーテルと、スチレン系重合体及び/又はその誘導体と、を反応させる方法等が挙げられる。
【0038】
(a)成分が、ポリフェニレンエーテルと変性ポリフェニレンエーテルとの混合物である場合には、上記ポリフェニレンエーテルと上記変性ポリフェニレンエーテルとの混合割合は、特に限定されることなく、任意の割合としてよい。
【0039】
−−(b)成分について−−
第1変形例で用いられる(b)成分は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを少なく1個と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なく1個とを含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体及び/又は当該水素添加ブロック共重合体の変性物である。つまり、第1変形例で用いられる(b)成分としては、特に限定されることなく、例えば、水素添加ブロック共重合体(未変性水素添加ブロック共重合体)、水素添加ブロック共重合体の変性物(変性水素添加ブロック共重合体)、及び両者の混合物等が挙げられる。(b)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
以下、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックを重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを重合体ブロックBとも称す。
【0040】
−−−重合体ブロックA−−−
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとしては、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロック等が挙げられる。中でも、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、ビニル芳香族化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロック等が好ましい。
ここで、重合体ブロックAにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、水素添加前の重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物単位を50質量%超含有することをいい、ビニル芳香族化合物単位を70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましい。また、水素添加前の重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物単位を100質量%以下としてよい。
【0041】
上記ビニル芳香族化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
上記共役ジエン化合物としては、後述の共役ジエン化合物が挙げられ、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
重合体ブロックAにおいて、重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物、共役ジエン化合物等の分布は、ランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで構成されていてもよい。
【0043】
重合体ブロックAが(b)成分中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックAは、それぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。また、(b)成分が2種類以上を組み合わされている場合には、それぞれの(b)成分中の重合体ブロックAが同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0044】
重合体ブロックAの数平均分子量(Mn)は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることがさらに好ましい。また、同様な観点から、100000以下であることが好ましく、70000以下であることがより好ましく、50000以下であることがさらに好ましい。
【0045】
−−−重合体ブロックB−−−
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとしては、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロック等が挙げられる。中でも、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、共役ジエン化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する、共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロック等が好ましい。
ここで、重合体ブロックBにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、重合体ブロックB中に共役ジエン化合物単位を50質量%超含有することをいい、樹脂組成物の流動性を高める観点から、共役ジエン化合物単位を70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましく、また、100質量%以下としてよい。
【0046】
上記共役ジエン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
上記ビニル芳香族化合物としては、上述のビニル芳香族化合物が挙げられ、スチレンが好ましい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
重合体ブロックBにおいて、重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物、ビニル芳香族化合物等の分布は、ランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで構成されていてもよい。
【0048】
重合体ブロックBが(b)成分中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックBはそれぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。また、(b)成分が2種類以上を組み合わされている場合には、それぞれの(b)成分中の重合体ブロックBと(b−2)成分中の重合体ブロックBとはが同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0049】
上記重合体ブロックB中の共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する水素添加率としては、耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、20%以上であることが好ましい。なお、水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0050】
上記重合体ブロックB中の共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、25〜90%であることが好ましく、30〜80%であることがより好ましい。
なお、本明細書において、1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の合計(全ビニル結合量)とは、水素添加前の共役ジエン化合物含有重合体ブロック中の共役ジエン化合物単位における、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計の、1,2−ビニル結合量と、3,4−ビニル結合量と、1,4−共役結合量との合計に対する割合を指す。全ビニル結合量は、赤外分光光度計を用いて測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出することができる。
【0051】
重合体ブロックBの数平均分子量(Mn)は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、20,000以上であることが好ましく、より好ましくは30,000以上であり、さらに好ましくは40,000以上である。また、当該数平均分子量(Mn)は100,000以下であることが好ましく、より好ましくは80,000である。
【0052】
重合体ブロックBの水素添加後のガラス転移温度は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性、が得られる観点から、0℃以下であることが好ましく、−10℃以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、ブロック共重合体のガラス転移温度、及びブロック共重合体中の重合体ブロックのガラス転移温度は、例えば、動的粘弾性測定装置を用いて、フィルム状態にしたサンプルを用い、引張モード、温度スキャン速度3℃/分、周波数1Hz、窒素雰囲気下で測定することができる。
【0053】
−−−水素添加ブロック共重合体の構造−−−
(b)成分における水添ブロック共重合体の構造は、上記重合体ブロックAを「A」とし、上記重合体ブロックBを「B」とすると、例えば、A−B型、A−B−A型、B−A−B−A型、(A−B−)n−X型(ここでnは1以上の整数、Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ等の多官能カップリング剤の反応残基又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。)、A−B−A−B−A型等の構造が挙げられる。
また、(b)成分において、水添ブロック共重合体の構造が、重合体ブロックAが2個である水添ブロック共重合体を含有することが好ましく、より好ましくは重合体ブロックAが2個であり且つ重合体ブロックBが1個である水添ブロック共重合体を含有する。
また、ブロック構造について言及すると、重合体ブロックBが、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、又は共役ジエン化合物単位を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックであり、重合体ブロックAが、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物を50質量%超(好ましくは70質量%以上)含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックであることが好ましい。
なお、(b)成分には、重合体ブロックA及び重合体ブロックB以外のブロックが含まれていてもよい。
【0054】
(b)成分における水添ブロック共重合体の分子構造としては、特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0055】
−−−ビニル芳香族化合物単位の含有量−−−
水素添加前の(b)成分中におけるビニル芳香族化合物単位(ビニル芳香族化合物由来の水添ブロック共重合体構成単位)の含有量は、特に限定されないが、車載LiB用部材の耐熱性と機械的強度の観点から、10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%である。また、これらの範囲のビニル芳香族化合物単位含有量を有する1種の(b)成分のみならず、2種以上の異なるビニル芳香族化合物単位含有量を有する(b)成分を併用することもできる。
【0056】
−−−全ビニル結合量−−−
(b)成分中に含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合は、25%以上90%以下であることが好ましい。
1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合を上記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、(b)成分の製造において、1,2−ビニル結合量調節剤を添加する方法や、重合温度を調整する方法が挙げられる。
「共役ジエン化合物単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計」とは、水添ブロック共重合体の水添前のブロック共重合体中の共役ジエン化合物単位における二重結合(エチレン性二重結合)に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計をいう。例えば、水添前のブロック共重合体を赤外分光光度計により測定し、ハンプトン法で算出することができる。また、水添後のブロック共重合体からNMRを用いて算出することもできる。
【0057】
−−−水素添加率−−−
(b)成分において、ブロック共重合体中のエチレン性二重結合(共役ジエン化合物単位における二重結合)に対する水素添加率としては、耐薬品性、耐衝撃性の観点から、0%超であることが好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは20%以上である。また、当該水素添加率としては、100%以下であることが好ましい。
このような水素添加率を有する(b)成分は、例えば、ブロック共重合体のエチレン性二重結合の水素添加反応において、消費水素量を所望の水素添加率(例えば、10%以上80%未満)の範囲に制御することにより容易に得られる。
水素添加率は、例えば、NMR測定により、重合体ブロックB中の残存した二重結合量を定量すること等によって求めることができる。
【0058】
−−−水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)−−−
水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることが更に好ましく、30,000以上であることが特に好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましく、800,000以下であることが更に好ましく、500,000以下であることが特に好ましい。
【0059】
−−−(b)成分として特定の成分を含有する場合−−−
(b)成分は、耐衝撃性、耐薬品性の観点から、GPC測定による標準ポリスチレン換算の水素添加後の分子量ピークが1万〜20万である(b’)成分を含有することが好ましい。より好ましくは、(b’)成分の分子量ピークが3万〜20万である。さらに、(b)成分は、それぞれ分子量ピークが異なる下記の(b−1)成分又は(b−2)成分を含有することが好ましく、より好ましくは(b−1)成分及び(b−2)成分を含有する。(b−1)成分のGPC測定による標準ポリスチレン換算の水素添加後の分子量ピークは、耐衝撃性、耐薬品性の観点から、8万〜20万であり、10万〜20万であることが好ましい。また、(b−2)成分のGPC測定による標準ポリスチレン換算の水素添加後の分子量ピークは、耐衝撃性、耐薬品性の観点から、1万以上8万未満であり、3万以上8万未満であることが好ましい。
(b)成分の分子量ピークを上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合工程における触媒量を調整する方法が挙げられる。
なお、本明細書において、分子量ピークは、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー System21を用いて以下の条件で測定することができる。該測定において、カラムとして、昭和電工(株)製K−Gを1本、K−800RLを1本、さらにK−800Rを1本の順番で直列につないだカラムを用い、カラム温度を40℃とし、溶媒をクロロホルムとし、溶媒流量を10mL/分とし、サンプル濃度を、水添ブロック共重合体1g/クロロホルム溶液1リットルとする。また、標準ポリスチレン(標準ポリスチレンの分子量は、3650000、2170000、1090000、681000、204000、52000、30200、13800、3360、1300、550)を用いて検量線を作成する。さらに、検出部のUV(紫外線)の波長は、標準ポリスチレン及び水添ブロック共重合体共に254nmに設定して測定する。
なお、(b)成分を形成する重合体ブロックAの数平均分子量(MnbA)は、例えば、(b)成分がA−B−A型構造の場合、(b)成分の数平均分子量(Mnb)を基に、(b)成分の分子量分布が1つ、さらにビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAの2つが同一分子量として存在することを前提とし、(MnbA)=(Mnb)×結合ビニル芳香族化合物量の割合÷2の計算式で求めることができる。なお、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体を合成する段階で、ブロック構造A及びブロック構造Bのシーケンスが明確になっている場合は、上記計算式に依存せずに、測定した(b)成分の数平均分子量(Mnb)をベースにブロック構造Aの割合から算出してもよい。
【0060】
また、(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分は、より一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、次の物性を有することが好ましい。
即ち、(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分は、重合体ブロックAの数平均分子量(Mn)が5,000〜25,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜25,000である。
また、重合体ブロックB中の共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する水素添加率としては、20%以上80%未満であることが好ましく、より好ましくは20%以上70%未満である。
重合体ブロックBの数平均分子量(Mn)は、20,000〜100,000であることが好ましく、より好ましくは20,000〜90,000、さらに好ましくは20,000〜80,000である。
重合体ブロックBの水素添加後のガラス転移温度は、−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましく、−70℃以下であることがさらに好ましい。
共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合は、25%以上60%未満であることが好ましく、25%以上55%以下であることがより好ましく、25%以上50%以下であることがさらに好ましい。なお、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合が25%以上であると、任意で含有可能な後述の(b−3)成分との相溶性が向上する観点でも好ましい。
ブロック共重合体中のエチレン性二重結合(共役ジエン化合物単位における二重結合)に対する水素添加率としては、0%超80%未満であることが好ましく、より好ましくは10%以上80%未満、さらに好ましくは20%以上80%未満、さらに好ましくは20〜70%、特に好ましくは20%以上70%未満である。
水素添加前のビニル芳香族化合物単位(ビニル芳香族化合物由来の水添ブロック共重合体構成単位)の含有量は、10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%、特に好ましくは30〜40質量%である。
水素添加前の分子量分布(Mw/Mn)は、1.01〜1.50であることが好ましく、1.03〜1.40であることがより好ましい。なお、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(移動層:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)を用いて、求めた重量平均分子量(Mw)を、前述の数平均分子量(Mn)で除することによって算出することができる。
(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分において、水添ブロック共重合体の構造が、重合体ブロックAが2個である水添ブロック共重合体を含有することが好ましく、より好ましくは重合体ブロックAが2個であり且つ重合体ブロックBが1個である水添ブロック共重合体を含有する。
【0061】
重合体ブロックBとしては、重合体ブロックB中に含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合が、25%以上60%未満である単一の重合体ブロックであってもよいし、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合が25〜45%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB1と、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計の割合が45%以上70%未満である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB2とを併せ持つ共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックであってもよい。
重合体ブロックB1及び重合体ブロックB2を有するブロック共重合体の構造は、上記重合体ブロックAを「A」とし、上記重合体ブロックB1を「B1」とし、上記重合体ブロックB2を「B2」とすると、例えば、A−B2−B1−A、A−B2−B1等で示され、調整された各モノマー単位のフィードシーケンスに基づいて全ビニル結合量を制御した公知の重合方法によって得ることができる。
【0062】
(b)成分が上述の(b−1)成分と(b−2)成分とを含む場合には、GPC測定による標準ポリスチレン換算の分子量ピークが8万〜20万の成分(b−1)と、GPC測定による標準ポリスチレン換算の分子量ピークが1万以上8万未満の成分(b−2)の比(b−1):(b−2)は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、10:90〜50:50であることが好ましく、20:80〜40:60であることがさらに好ましい。
なお、(b−1)成分と(b−2)成分との比は、上記分子量ピークの測定と同様のGPC測定時のそれぞれのピークの面積比を計算すること等で求めることができる。
(b−1)成分と(b−2)成分との比を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合後のカップリング処理時のカップリング剤の量を調整する方法等が挙げられる。
【0063】
さらに、(b)成分は、上記(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分に加えて、或いは、上記(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分に替えて、(b−3)成分を含有することが好ましい(なお、(b−3)成分は(b’)成分、(b−1)成分、(b−2)成分に含まれない成分である)。より好ましくは、(b)成分は、上記(b’)成分及び(b−3)成分を含有し、さらに好ましくは、(b−1)成分、(b−2)成分、(b−3)成分を含む。(b−3)成分は、一層優れた耐薬品性、耐衝撃性が得られる観点から、次の物性を有することが好ましい。
即ち、(b−3)成分は、重合体ブロックAの数平均分子量(Mn)が15,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、25,000以上であることがさらに好ましく、26,000以上であることが特に好ましく、また、100,000以下であることが好ましく、70000以下であることがより好ましく、50000以下であることがさらに好ましい。
重合体ブロックBに含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する水素添加率としては、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
重合体ブロックBに含まれる共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計(全ビニル結合量)は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、また、90%以下であることが好ましい。
重合体ブロックBの数平均分子量(Mn)は、30,000〜100,000であることが好ましく、より好ましくは40,000〜100,000である。重合体ブロックBの水素添加後のガラス転移温度は、−50℃超であることが好ましく、より好ましくは−50℃超0℃以下、さらに好ましくは−40〜−10℃である。
共役ジエン化合物単位におけるエチレン性二重結合に対する、1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の合計の割合は、50%超90%以下であることが好ましく、より好ましくは60〜90%である。
ブロック共重合体中のエチレン性二重結合(共役ジエン化合物単位における二重結合)に対する水素添加率としては、80〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%である。
(b−3)成分の流動性、外観性を向上させ、ウェルド発生を低減する観点からも、水素添加前のブロック共重合体におけるビニル芳香族化合物単位の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、32質量%以上であることが更に好ましく、40質量%超であることが特に好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、48質量%以下であることが更に好ましい。なお、ビニル芳香族化合物の含有量は、紫外線分光光度計を用いて測定することができる。
水素添加前の分子量分布(Mw/Mn)は、10以下であることが好ましく、8以下であることが更に好ましく、5以下であることが特に好ましい。
【0064】
−−−製造方法−−−
(b)成分における水添ブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法を用いることができ、特に限定されることなく、例えば、アニオン重合等の公知の方法が挙げられ、例えば、特開昭47−11486号公報、特開昭49−66743号公報、特開昭50−75651号公報、特開昭54−126255号公報、特開昭56−10542号公報、特開昭56−62847号公報、特開昭56−100840号公報、特開平2−300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び米国特許第4501857号明細書等に記載の方法が挙げられる。
【0065】
−−−変性水素添加ブロック共重合体−−−
(b)成分における水素添加ブロック共重合体の変性物としては、例えば、上記水素添加ブロック共重合体(特に、未変性水素添加ブロック共重合体)と、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)とをラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で反応させることによって得られる変性水素添加ブロック共重合体等が挙げられる。この場合、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体は、未変性水素添加ブロック共重合体に対して、0.01〜10質量%の割合でグラフト化又は付加していることが好ましく、当該割合がより好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。
(b)成分として、未変性水素添加ブロック共重合体と変性水素添加ブロック共重合体とを併用する場合、未変性水素添加ブロック共重合体と、変性水素添加ブロック共重合体との混合割合は特に制限されずに決定できる。
【0066】
−−第1変形例に係る車載LiB用部材の製造方法−−
−−−車載LiB用部材の樹脂組成物の製造方法−−−
第1変形例の樹脂組成物は、前述の(a)成分、(b)成分、及び必要に応じて、後述する各成分を溶融混練することによって製造することができる。
【0067】
第1変形例において、車載LiB用部材の樹脂組成物の溶融混練を複数段階に分けて行うことができ、また、樹脂組成物中に(a)成分、(b)成分としてそれぞれの成分で複数の樹脂を用いた場合には、溶融混練を複数回行って、各成分を分けて混練させていくことができる。具体的には、限定されるものではないが例えば、(i)(a)成分の実質的に全量と(b)成分のうちの一部の成分の全量を溶融混練して混練物を得た後、続いて、該混練物と(b)成分のうちの他の成分の全量を溶融混練する、(ii)(a)成分の実質的に全量と(b)成分中の各成分のうちの一部量を溶融混練して混練物を得た後、続いて、該混練物と(b)成分中の各成分のうちの残量を溶融混練する、等、任意に行うことができる。なお、複数回の溶融混練を行う際の最初の溶融混練の際に(a)成分を実質的に全量用いて溶融混練を行うことが好ましい。(b)成分については、各溶融混練時に(b)成分中の各成分を段階的に溶融混練する場合には、溶融混練する(b)成分中の成分の実質的に全量を、その都度添加することが好ましい。なお、実質的に全量とは、例えば97質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99質量%、さらに好ましくは100質量%である(以下、本実施形態において、組成物の溶融混練の工程での「全量」とはこの「実質的に全量」を意味するものとする)。
【0068】
第1変形例の樹脂組成物の製造方法として、(b)成分が、前記(b’)成分を含有する場合には、以下の工程(1−1)及び(1−2)を含む製造方法であることが好ましい。
(1−1):前記(a)成分を溶融混練して混練物を得る工程。
(1−2):前記工程(1−1)で得られた前記混練物に対して、前記(b’)成分を添加し、溶融混練する工程。
上記工程(1−1)において、上記(a)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。
上記工程(1−2)において、上記(b’)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。工程(1−2)で一部を添加する場合、(b’)成分は工程(1−1)及び工程(1−2)で全量を添加してもよい。上記工程(1−2)は、上記工程(1−1)で得られた上記混練物に対して、上記(b’)成分の全量を添加し、溶融混練する工程であることが好ましい。
この製造方法のように、溶融混練時において、(b’)成分を工程(1−2)で添加することによって(特に、(b’)成分全量を工程(1−2)で添加することによって)、(b’)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性や耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。(b’)成分を(b−1)成分及び(b−2)成分とすることもできる。
【0069】
第1変形例の樹脂組成物の製造方法として、(b)成分が、前記(b’)成分及び前記(b−3)成分を含有する場合には、以下の工程(1−1)及び(1−2)を含む製造方法であることが好ましい。
(1−1):前記(a)成分、及び(b−3)成分を溶融混練して混練物を得る工程。
(1−2):前記工程(1−1)で得られた前記混練物に対して、前記(b’)成分を添加し、溶融混練する工程。
上記工程(1−1)において、上記(a)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。また、上記(b−3)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。中でも、上記工程(1−1)は、上記(a)成分の全量、必要に応じて上記(b−3)成分の全量又は一部を溶融混練して混練物を得る工程であることが好ましい。
上記工程(1−2)において、上記(b’)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。工程(1−2)で一部を添加する場合、(b’)成分は工程(1−1)及び工程(1−2)で全量を添加してもよい。上記工程(1−2)は、上記工程(1−1)で得られた上記混練物に対して、上記(b’)成分の全量を添加し、溶融混練する工程であることが好ましい。
この製造方法のように、溶融混練時において、(b’)成分を工程(1−2)で添加することによって(特に、(b’)成分全量を工程(1−2)で添加することによって)、(b’)成分、(b−3)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性や耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。(b’)成分を(b−1)成分及び(b−2)成分とすることもできる。
【0070】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法において各成分の溶融混練を行うために好適に用いられる溶融混練機としては、特に限定されることなく、例えば、単軸押出機や二軸押出機等の多軸押出機等の押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機等が挙げられるが、特に、混練性の観点から、二軸押出機が好ましい。二軸押出機としては、具体的には、コペリオン社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズが挙げられる。
押出機の種類や規格等は、特に限定されることなく、公知のものとしてよい。
【0071】
以下、単軸押出機や二軸押出機等の多軸押出機等の押出機を用いた場合の好適な実施形態について記載する。
押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は、20以上であることが好ましく、30以上であることが更に好ましく、また、75以下であることが好ましく、60以下であることが更に好ましい。
【0072】
押出機の構成は、特に限定されることなく、例えば、原料が流れる方向について上流側に第1原料供給口、該第1原料供給口よりも下流に第1真空ベント、該第1真空ベントよりも下流に第2原料供給口、該第2原料供給口よりも下流に第1液添ポンプ、該第1液添ポンプよりも下流に第2真空ベント、該第2真空ベントよりも下流に第2液添ポンプを備えるものとすることができる。
【0073】
また、第2原料供給口における原料の供給方法としては、特に限定されることなく、原料供給口の上部開放口から単に添加する方法としても、サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて添加する方法としてもよく、特に、安定供給の観点から、サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて添加する方法が好ましい。
【0074】
各成分を溶融混練する際、溶融混練温度(バレル設定温度)は、特に限定されることなく、200〜370℃としてよく、スクリュー回転数は、特に限定されることなく、300〜800rpmとしてよい。
【0075】
液状の原料を添加する場合、押出機シリンダー部分において液添ポンプ等を用いて、液状の原料をシリンダー系中に直接送り込むことによって、添加することができる。液添ポンプとしては、特に限定されることなく、例えば、ギアポンプやフランジ式ポンプ等が挙げられ、ギアポンプが好ましい。このとき、液添ポンプにかかる負荷を小さくし、原料の操作性を高める観点から、液状原料を貯めておくタンク、該タンクと液添ポンプ間との配管や、該ポンプと押出機シリンダーとの間の配管等の液状の原料の流路となる部分を、ヒーター等を用いて加熱して、液状の原料の粘度を小さくしておくことが好ましい。
【0076】
第1変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物の製造方法において、上述のように車載LiB用部材の網目状相構造にするための制御方法は、例えば、(a)成分及び(b)成分の含有量を調整するとともに、(b)成分の各ブロック部分の構造や分子量を調整することで制御することができる。例えば、(b)成分に(b’)成分、又は(b−1)成分と(b−2)成分とを含有させ、それらの各ブロック部分の構造や分子量を調整したり、或いはさらに(b−3)成分含有させて(b−3)成分の各ブロック部分の構造や分子量を調整を適宜選択したりすることにより制御することができる。また、樹脂組成物の製造において、溶融混練温度、スクリュー回転数を、上記の範囲にしたり、押出レートを調整し、樹脂温度が高くなりすぎないようにすることにより制御することができる。さらに、樹脂組成物の製造において、上記の製造方法の工程(1−1)、(1−2)を行うことによって制御することができる。
【0077】
−−−車載LiB用部材の製造方法−−−
第1変形例に係る車載LiB用部材(成形体)は、前述樹脂組成物を成形することによって製造することができる。成形体の製造方法としては、特に限定されることなく、例えば、射出成形、押出成形、押出異形成形、中空成形、圧縮成形等が挙げられ、本発明の効果をより効果的に得る観点から、射出成形が好ましい。
【0078】
−本実施形態の第2変形例−
本実施形態の第2変形例に係る車載LiB用部材は、(c)オレフィンからなるオレフィン系重合体を含有し、モルフォロジー画像において下記の海島相構造を有する。
具体的には、第2変形例の車載LiB用部材は、車載LiB用部材の断面を四酸化ルテニウムにより染色してSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察したモルフォロジー画像において、海島相構造を示す。第2変形例の車載LiB用部材は、図2A及び3Aに示すように、後述する所定条件で観察されるモルフォロジー画像において、(a)成分を含有し、相対的に灰色に観察される海相と、当該海相中に存在する(c)成分を含有し、相対的に黒色に観察される島相とを有する海島相構造が形成されている。
【0079】
そして、第2変形例の車載LiB用部材では、モルフォロジー画像を後述の所定の条件で2値化処理して得られる第2処理画像(例えば、図2B及び3B参照)において、2値化処理後で黒色であり、面積が4.92×10-4μm2以上である第2黒色部分の単位面積(1μm2)当たりの個数が8個/μm2以上であることが好ましい。また、第2変形例の車載LiB用部材では、2値化処理後で白色である第2白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積をAW2(μm2/μm2)とし、前記第2黒色部分のうちの面積が15×10-4μm2以上の第2非小形部分について、当該第2非小形部分の周長を合計した合計周長の、単位面積(1μm2)当たりの長さをL2(μm/μm2)とするとき、占有面積AW2に対する前記長さL2(L2/AW2)が、7μm-1以上であることが好ましい。
換言すれば、第2変形例の車載LiB用部材では、モルフォロジーにおいて、細かすぎる分散相を除いた分散相(面積が4.92×10-4μm2以上である第2黒色部分)が所定の個数分散している。且つ、第2処理画像において、単位面積(1μm2)当たりの第2白色部分の占有面積に対して、ある程度の大きさを有する第2黒色部分である第2非小形部分(面積が15×10-4μm2以上)の単位面積(1μm2)当たりの周長(白色部分と黒色部分の境界の長さ)の合計長さが、所定の長さであるので、モルフォロジーにおいて、単位面積当たり海相がある程度の大きさを有する分散相に対してある程度長さの境界を有している。
【0080】
第2変形例の車載LiB用部材の作用・効果について以下説明する。
第2変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材中に(c)成分が含有されることで、耐薬品性及び耐衝撃性に寄与する成分が車載LiB用部材中に存在することになり、(a)成分のみの場合よりも耐薬品性及び耐衝撃性が向上する。
また、第2処理画像内において、第2黒色部分の個数が8個/μm2以上であり、第2白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW2に対する第2非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL2(L2/AW2)が、7μm-1以上であると、第2変形例の車載LiB用部材のモルフォロジーにおいて、島相が海相中に均一に混ざりすぎない状態で効果的な海島相構造を形成させることができる。
具体的には、第2黒色部分の個数が8個/μm2以上であると、モルフォロジーにおいて単位面積の範囲内に、細かすぎない島相が適度な分散度合いで存在することになり、海相(相対的に耐衝撃性が低い)に作用する外力を、相互に適度な間隔で分散している島相(相対的に耐衝撃性が高い)が緩和することができ、車載LiB用部材全体としての耐衝撃性を向上させることができる。なお、当該個数が8個/μm2未満となる場合は、(c)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に少ないとき等に生じ得、耐薬品性や耐衝撃性が向上しにくくなる。
さらに、単位面積当たりの第2白色部分の占有面積AW2に対する、第2非小形部分の周長を合計した合計周長の単位面積当たりの長さL2(L2/AW2)が、7μm-1以上であると、単位面積当たりにおいて、第2白色部分がある程度の長さの第2非小形部分と境界を有している。したがって、海相(相対的に耐薬品性が低い)内に、島相(相対的に耐薬品性が高い)が大きく接触しつつ延在することになる。それゆえに、島相が不定形状(アメーバー状)になり海相を包み込むように存在して耐薬品性を向上させることができ、また島相が、海相に仮に生じた薬品によるクラックの伸長を抑制することができる。なお、第2非小形部分を面積が15×10-4μm2以上の第2黒色部分としているのは、相対的に面積が小さい島相では、海相を包み込むように存在することができなかったり、または、海相に仮に生じた薬品によるクラックの伸長を抑制することができない傾向があるためである。また、単位面積当たりの第2白色部分の占有面積AW2に対する、前記第2非小形部分の周長を合計した合計周長の単位面積当たりの長さL2(L2/AW2)が7μm-1未満となる場合は、車載LiB用部材を製造する過程での溶融混練において、(a)成分と(c)成分との溶融混練を過剰に行ったとき等に生じ得、島相が海相中に微分散して第2変形例の海島相構造が崩れる虞があり、耐薬品性を十分に向上することができない。
したがって、第2変形例の車載LiB用部材は、ある程度の大きさを有し細長く屈曲した形状を有する多数の島相と、細かくなり過ぎない程度に分散した多数の島相とで効果的な海島相構造が形成されているので、耐薬品性や耐衝撃性を効果的に向上させることができ、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度を好適に満たすことができる。
【0081】
なお、(a)成分と(c)成分との溶融混練において(a)成分中に(c)成分が混ざりすぎる状態になると、車載LiB用部材のモルフォロジーにおいて、島相が細かく微分散することとなる。そのような状態では、面積が4.92×10-4μm2未満の黒色部分の個数が増えすぎたり、第2非小形部分の個数が減少しその合計周長が短くなったりし、耐薬品性や耐衝撃性が低下する傾向がある。
また第2変形例では(c)成分を含有しているところ、(c)成分は(b)成分よりも耐薬品性や耐衝撃性向上への寄与が大きいので、(c)成分が組成物中に存在して島相を形成すると、第1変形例のように(b)成分が分散相を形成する場合よりも耐薬品性や耐衝撃性をより向上することができる。
【0082】
ここで、第2変形例において、第2黒色部分の個数が8個/μm2以上であることが好ましく、より好ましくは個数が10個/μm2以上であり、さらに好ましくは個数が13個/μm2以上である。また、第2白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW2に対する第2非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL2(L2/AW2)が、7μm-1以上であることが好ましく、より好ましくは、7.5μm-1以上であり、さらに好ましくは、8μm-1以上である。これにより、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
また、第2黒色部分の個数が40個/μm2以下であることが好ましい。また、第2白色部分の単位面積(1μm2)当たりの占有面積AW2に対する第2非小形部分の合計周長の単位面積(1μm2)当たりの長さL2(L2/AW2)が、30μm-1以下であることが好ましい。
第2黒色部分の個数が40個/μm2超となる場合は、任意の(b)成分や(c)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に多いとき等に生じ得、車載LiB用部材の成形性が向上しにくくなり軽量化しにくくなる傾向がある。L2/AW2が30μm-1超となる場合は、(c)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に多いときに生じ得、(a)成分由来の成形性、寸法安定性、低比重が十分に得られない虞がある。
【0083】
第2変形例の車載LiB用部材は、第2黒色部分のうち、面積が4.92×10-4〜100×10-4μm2の第2中小形部分の単位面積当たりの個数が6個/μm2以上であることが好ましく、より好ましくは8個/μm2以上であり、さらに好ましくは10個/μm2以上である。モルフォロジーにおいて単位面積の範囲内に、適度な大きさを有する島相が適度な分散度合いで存在することになり、所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
また、第2黒色部分のうち、面積が4.92×10-4〜100×10-4μm2の第2中小形部分の単位面積当たりの個数が40個/μm2以下であることが好ましい。当該個数が40個/μm2超となる場合は、任意の(b)成分や(c)成分の含有量が(a)成分に対して相対的に多いとき等に生じ得、車載LiB用部材の成形性が向上しにくくなり軽量化しにくくなる傾向がある。
【0084】
第2変形例の車載LiB用部材は、面積が4.92×10-4μm2以上である第2黒色部分の単位面積当たりの占有面積が0.03〜0.5μm2/μm2であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.45μm2/μm2であり、さらに好ましくは0.07〜0.40μm2/μm2である。島相が海相中に均一に混ざりすぎない状態でより効果的な海島相構造を形成させることができるので、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
【0085】
第2変形例において、車載リチウムイオンバッテリー用部材の樹脂組成物が、上述の(b)成分を含有することが好ましい。当該樹脂組成物が(b)成分を含有することで、(c)成分を含有する島相は、その外周側に(a)成分との相溶性が(c)成分よりも高い(b)成分が位置することになり(中央側に(a)成分との相溶性が(b)成分よりも低い(c)成分が位置している)、高い耐薬品性や耐衝撃性を有する(c)成分による効果が発揮されやすくなり、耐薬品性評価での所定の臨界歪み量および所定のシャルピー衝撃強度をより好適に満たすことができる。
【0086】
ここで、第2変形例の車載LiB用部材において、(a)成分及び(c)成分の合計を100質量%として、(a)成分の含有量は、60〜85質量%であることが好ましく、より好ましくは63〜82質量%、さらに好ましくは66〜79質量%である。また、(a)成分及び(c)成分の合計を100質量%として、(c)成分の含有量は、15〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは18〜37質量%、さらに好ましくは21〜34質量%である。
また、樹脂組成物が(b)成分を含有する場合には、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の合計を100質量%として、(c)成分の含有量は、3〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは6〜27質量%、さらに好ましくは9〜24質量%である。また、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の合計を100質量%として、(b)成分の含有量は、3〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは6〜17質量%、さらに好ましくは9〜14質量%である。さらに、かかる場合には、(b)成分の含有量に対する(c)成分の含有量の比((c)成分:(b)成分)は1:2〜5:1であることが好ましく、より好ましくは1:1.5〜4.5:1である。
(a)成分、任意の(b)成分、及び(c)成分を上記範囲にすることにより、第2処理画像における第2黒色部分の個数および第2非小形部分の個数が好適に所定の範囲内になりやすくすることができる。
また、第2変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材を構成する組成物中の樹脂成分を100質量%として、(a)成分、任意の(b)成分、及び(c)成分の合計の含有量が、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%である。車載LiB用部材を構成する組成物中に、(a)成分に相溶性のある樹脂成分が含有されている場合には、車載LiB用部材を構成する組成物中の樹脂成分を100質量%として、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の合計の含有量が、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
さらに、第2変形例の車載LiB用部材において、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、(a)成分、(b)成分の合計の含有量が、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0087】
−−(a)成分および(b)成分−−
第2変形例の車載LiB用部材において、(a)成分および(b)成分は、上記の第1変形例の車載LiB用部材で用いることができる(a)成分および(b)成分と同じ樹脂を用いることができる。なお、第2変形例において、(b)成分中に(b’)成分が含有される場合、(b’)成分の寄与を大きくすると、図2のように、第2非小形部分を細長くし1つの部分についての周囲長を大きくすることと、第2中小部分の個数を多くすることを両立することができる。第2変形例において、好ましくは、車載LiB用部材の(b’)成分を含有することが好ましい。
さらに、(b)成分中に(b−3)成分が含有される場合、(b−3)成分の寄与を大きくすると、図3のように、第2非小形部分を球状に近づけつつ1つの部分についての周囲長を大きくすることと、第2中小部分の個数を多くしすぎないことを両立することができる。好ましくは、(b)成分は、(b−3)成分を含有し、より好ましくは、(b’)成分を実質的に含有しない。ここでの「実質的に含有しない」とは、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは含有しないことである。
【0088】
−−(c)オレフィン系重合体−−
(c)成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、オレフィン系モノマーの単独重合体、オレフィン系モノマーを含む2種類以上のモノマーの共重合体等が挙げられる。中でも、低温衝撃性の観点から、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。ここで、得られる樹脂組成物の耐薬品性、耐衝撃性の観点から、(c)成分を構成するモノマー単位として、プロピレン単位は含まれないことが好ましい。
なお、「オレフィンからなるオレフィン系重合体」において「プロピレン単位は含まれない」とは、発明の効果を阻害しない程度のプロピレンを構成単位として含む場合も含まれ、例えば、(c)成分中の(c)成分を構成する全構成単位中のプロピレン単位の含有量が、0.1質量%未満であることをいう。
【0089】
(c)成分としては、例えば、エチレンと、1種又は2種以上のC3〜C20のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。中でも、エチレンと、1種又は2種以上のC3〜C8のα−オレフィンとの共重合体であることがより好ましく、エチレンと、1−プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン及び1−オクテンからなる群から選択される1種又は2種以上のコモノマーとの共重合体であることがさらに好ましく、エチレンと1−ブテンとの共重合体であることが特に好ましい。かかる共重合体を(c)成分として用いることで、より高い衝撃性とより高い耐薬品性とを有する樹脂組成物が得られる傾向にある。
(c)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、(c)成分として、2種以上のエチレン−α−オレフィン共重合体を用いてもよい。
【0090】
(c)成分中のエチレンの含有量は、樹脂組成物の柔軟性の観点から、オレフィン系重合体全量に対して、5〜95質量%が好ましく、より好ましくは30〜90質量%である。
(c)成分中のエチレン以外のα−オレフィンの含有量は、特に限定されず、樹脂組成物の柔軟性の観点から、オレフィン系重合体全量に対して、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、また、樹脂組成物の剛性の観点から、50質量%以下であることが好ましく、48質量%以下であることがより好ましい。
【0091】
(c)成分の脆化温度は、−50℃以下であり、一層優れた耐衝撃性と耐薬品性が得られる観点から、−60℃以下であることが好ましく、−70℃以下であることがより好ましい。
なお、上記脆化温度は、ASTM D746に準じて測定することができる。
【0092】
(c)成分のJIS K7112に準拠して測定される密度(混練する前の原料段階での密度)は、樹脂組成物の耐薬品性の観点から、0.87g/cm3以上が好ましく、0.90g/cm3以上がより好ましい。
(c)成分の密度を上記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、エチレン単位の含有割合を制御することにより調整する方法等が挙げられる。
【0093】
(c)成分のメルトフローレート(MFR、ASTM D−1238に準拠し、190℃、2.16kgfの荷重で測定、混練する前の原料段階での密度)は、(c)成分の樹脂組成物中への分散によるモルフォロジーの安定化、及び樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、0.1〜5.0g/10分が好ましく、0.3〜4.0g/10分がより好ましい。
(c)成分のメルトフローレートを上記範囲内に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、(c)成分を製造する際、重合温度及び重合圧力を調整する方法、重合系内のエチレン、α−オレフィン等のモノマー濃度と水素濃度とのモル比率を調整する方法等が挙げられる。
【0094】
(c)成分は、例えば、オレフィンからなるオレフィン系重合体ゴムであってもよい。
(c)成分のねじり剛性としては、組成物に十分な耐衝撃性を付与させることができる観点から、1〜30MPaであることが好ましく、より好ましくは1〜25MPaである。なお、(c)成分のねじり剛性は、ASTM D 1043に準拠して測定することができる。
(c)成分のショアAとしては、組成物に十分な耐衝撃性を与えるという観点から、40〜110であることが好ましく、50〜100であることがより好ましい。なお、(c)成分のショアAは、JIS K 6253に準拠して測定することができる。
【0095】
(c)成分の調製方法は、特に限定されず、通常行われる加工条件下で高分子量化されたα−オレフィン重合体を容易に得ることができる触媒(例えば、チタニウム、メタロセン、又はバナジウムをベースとする触媒等)を用いる方法等が挙げられる。これらの中でも、構造制御の安定性の観点から、メタロセン触媒及び塩化チタン触媒を用いる方法が好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体の製法としては、特開平6−306121号公報や特表平7−500622号公報等に記載されている公知の方法を用いることができる。
【0096】
−−第2変形例に係る車載LiB用部材の製造方法−−
−−−車載LiB用部材の樹脂組成物の製造方法−−−
第2変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物は、前述の(a)成分、任意の(b)成分及び(c)成分、並びに、後述する各成分を溶融混練することによって製造することができる。第2変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物は、前述の第1変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物と同様な方法で製造することができるが、第2変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物の製造において、上述のような海島相構造にするための制御方法には、例えば、(a)成分、任意の(b)成分及び(c)成分の含有量を調整するとともに、任意の(b)成分の各ブロック部分の構造や分子量、又は、(c)成分の構造や分子量を調整することで制御することができる。また、樹脂組成物の製造において、溶融混練温度、スクリュー回転数を所定の範囲にしたり、押出レートを調整し、樹脂温度が高くなりすぎないようにすることにより制御することができる。さらに、樹脂組成物の製造において、後述の製造方法の工程(2−1)、(2−2)を行うことによって制御することができる。
【0097】
第2変形例の樹脂組成物の製造方法としては、以下の工程(2−1)及び(2−2)を含む製造方法であることが好ましい。
(2−1):前記(a)成分を溶融混練して混練物を得る工程。
(2−2):前記工程(2−1)で得られた前記混練物に対して、前記(c)成分を添加し、溶融混練する工程。
上記工程(2−1)において、上記(a)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。
上記工程(2−2)において、(c)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。工程(2−2)で一部を添加する場合、(c)成分、は工程(2−1)及び工程(2−2)で全量を添加してもよい。上記工程(2−2)は、上記工程(2−1)で得られた上記混練物に対して、上記(c)成分の全量を添加し、溶融混練する工程であることが好ましい。
この製造方法のように、溶融混練時において、(c)成分を工程(2−2)で添加することによって(特に、(c)成分全量を工程(1−2)で添加することによって)、(c)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性や耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。
【0098】
また、第2変形例の樹脂組成物の製造方法として、(b)成分を含有する場合には、上記工程(2−1)及び(2−2)において、(b)成分の全量を工程(2−1)又は工程(2−2)に添加し、又は(b)成分の一部を工程(2−1)又は工程(2−2)に添加することが好ましい。(b)成分、(c)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性、耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。
【0099】
また、第2変形例の樹脂組成物の製造方法として、(b)成分を含有し且つ(b)成分が前記(b−3)成分を含有する場合には、上記工程(2−1)及び(2−2)を以下のにすることが好ましい。
(2−1):前記(a)成分、前記(b−3)成分を溶融混練して混練物を得る工程。
(2−2):前記工程(2−1)で得られた前記混練物に対して、前記(c)成分を添加し、溶融混練する工程。
上記工程(2−1)において、上記(a)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。また、上記(b−3)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。中でも、上記工程(2−1)は、上記(a)成分の全量、必要に応じて上記(b−3)成分の全量又は一部を溶融混練して混練物を得る工程であることが好ましい。
上記工程(2−2)において、上記(c)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。工程(2−2)で一部を添加する場合、(c)成分は工程(2−1)及び工程(2−2)で全量を添加してもよい。上記工程(2−2)は、上記工程(2−1)で得られた上記混練物に対して、上記(c)成分の全量を添加し、溶融混練する工程であることが好ましい。
この製造方法のように、溶融混練時において、(c)成分を工程(2−2)で添加することによって(特に、(c)成分全量を工程(2−2)で添加することによって)、(c)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性、耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。
【0100】
また、第2変形例の樹脂組成物の製造方法として、(b)成分を含有し且つ(b)成分が前記(b’)成分を含有する場合には、下記の工程とすることが好ましい。即ち、かかる場合には、工程(2−2)において、前記(b’)成分を(c)成分とともに添加することが好ましい。なお、上記工程(2−2)において、上記(b’)成分は全量を添加してもよいし一部を添加してもよい。工程(2−2)で一部を添加する場合、(b’)成分は工程(2−1)及び工程(2−2)で全量を添加してもよい。上記工程(2−2)は、上記工程(2−1)で得られた上記混練物に対して、上記(b’)成分の全量を添加し、溶融混練する工程であることがより好ましい。この製造方法のように、溶融混練時において、(b’)成分を工程(2−2)で添加することによって(特に、(b’)成分全量を工程(2−2)で添加することによって)、(b’)成分が(a)成分中に適切に分散し、耐薬品性、耐衝撃性に一層優れた樹脂組成物が得られる。(b’)成分を(b−1)成分及び(b−2)成分とすることもできる。
【0101】
−−−車載LiB用部材の製造方法−−−
第2変形例に係る車載LiB用部材(成形体)は、前述の第1変形例に係る車載LiB用部材の樹脂組成物と同様な方法で製造することができる。
【0102】
ここで、本実施形態に係る車載LiB用部材(上記の各変形例も含め)の樹脂組成物においては、下記の成分を任意に含有させることができ、或いは含有させないようにすることができる。
【0103】
−(d)リン酸エステル系化合物−
本実施形態に係る車載LiB用部材の樹脂組成物においては、任意選択的に(d)リン酸エステル系化合物を用いることができる。(d)リン酸エステル系化合物としては、特に限定されることなく、樹脂組成物の難燃性向上の効果を有するリン酸エステル化合物全般(リン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物等)としてよく、例えば、トリフェニルホフェート、フェニルビスドデシルホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、フェニル−ビス(3,5,5’−トリメチル−ヘキシルホスフェート)、エチルジフェニルホスフェート、2−エチル−ヘキシルジ(p−トリル)ホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)−p−トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス−(2−エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ−(ノニルフェニル)ホスフェート、ジ(ドデシル)−p−トリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2−クロロエチルジフェニルホスフェート、p−トリルビス(2,5,5’−トリメチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジフェニルホスフェート)、ジフェニル−(3−ヒドロキシフェニル)ホスフェート、ビスフェノールA・ビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシン・ビス(ジキシレニルホスフェート)、2−ナフチルジフェニルホスフェート、1−ナフチルジフェニルホスフェート、ジ(2−ナフチル)フェニルホスフェート等が挙げられる。
【0104】
特に、(d)リン酸エステル系化合物としては、下記式(4)
【化4】
[式(4)中、Q41、Q42、Q43、Q44は、各々独立して、炭素原子数1〜6のアルキル基であり;R41、R42は、各々独立して、メチル基であり;R43、R44は、各々独立して、水素原子又はメチル基であり;xは0以上の整数であり;p1、p2、p3、p4は、それぞれ、0〜3の整数であり;q1、q2は、それぞれ、0〜2の整数である]、及び
下記式(5)
【化5】
[式(5)中、Q51、Q52、Q53、Q54は、各々独立して、炭素原子数1〜6のアルキル基であり;R51は、メチル基であり;yは0以上の整数であり;r1、r2、r3、r4は、それぞれ、0〜3の整数であり;s1は、それぞれ、0〜2の整数である]
で表される芳香族縮合リン酸エステル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするもの好ましい。
なお、上記式(4)及び上記式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物は、それぞれ複数種の分子を含んでよく、各分子について、nは、1〜3の整数であることが好ましい。
【0105】
上記式(4)及び上記式(5)で表される縮合リン酸エステル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする好適な(d)リン酸エステル系化合物では、全体として、x、yの平均値が1以上であることが好ましい。上記の好適な(d)リン酸エステル系化合物は、一般に、x、yが1〜3である化合物を90%以上含む混合物として入手することができ、x、yが1〜3である化合物以外に、x、yが4以上である多量体やその他の副生成物を含む。
【0106】
(d)リン酸エステル系化合物の含有量は、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜20質量%である。
【0107】
−(e)ホスフィン酸塩類−
本実施形態に係る車載LiB用部材の樹脂組成物においては、任意選択的に(e)ホスフィン酸塩類を用いることができる。(e)ホスフィン酸塩類としては、下記式(1)で表されるホスフィン酸塩
【化6】
[式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;M1は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;aは、1〜3の整数であり;mは、1〜3の整数であり;a=mである]、及び
下記式(2)で表されるジホスフィン酸塩
【化7】
[式(2)中、R21及びR22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜6のアルキル基及び/又は炭素原子数6〜10のアリール基であり;R23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1〜10のアルキレン基、炭素原子数6〜10のアリーレン基、炭素原子数6〜10のアルキルアリーレン基、又は炭素原子数6〜10のアリールアルキレン基であり;M2は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;bは、1〜3の整数であり;nは、1〜3の整数であり;jは、1又は2の整数であり;b・j=2nである]
からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
また、(e)ホスフィン酸塩類は、上記式(1)で表されるホスフィン酸塩と上記式(2)で表されるジホスフィン酸塩との混合物としてもよい。
【0108】
このような(e)ホスフィン酸塩類としては、特に限定されることなく、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられ、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛であることが好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムであることが更に好ましい。
(e)ホスフィン酸塩類の市販品としては、特に限定されることなく、例えば、クラリアントジャパン社製のExolit(登録商標)OP1230、OP1240、OP1311、OP1312、OP930、OP935等が挙げられる。
【0109】
(e)ホスフィン酸塩類の含有量は、車載LiB用部材を構成する組成物を100質量%として、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜20質量%である。
【0110】
−(f)ポリプロピレン系樹脂−
本実施形態の組成物に係る車載LiB用部材の樹脂組成物においては、低温衝撃性の観点から、実質的に(f)ポリプロピレン系樹脂を含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、樹脂組成物中の(f)ポリプロピレン系樹脂の含有量が0.1%未満であることをいう。
(f)ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンブロックを含むコポリマー、変性ポリプロピレン、及びこれらの混合物等のプロピレン単位を含有する重合体が挙げられる。
なお、樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量は、例えば、樹脂組成物を凍結粉砕してパウダー状にした後、そのパウダーを23℃のクロロホルムに溶解させ、その不溶分のうち、150℃のo−ジクロロベンゼンに溶解する画分をさらに回収し、その画分をNMRにより測定することにより求めることができる。
【0111】
−(g)熱可塑性樹脂−
本実施形態で任意選択的に用いられる、(a)〜(c)、(f)成分以外の熱可塑性樹脂(g)としては、特に限定されることなく、例えば、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン等が挙げられる。
【0112】
((h)その他の添加剤)
本実施形態で任意選択的に用いられる、(a)〜(g)成分以外のその他の添加剤(h)としては、特に限定されることなく、例えば、(b)成分以外のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体、(c)(f)成分以外のオレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、(d)成分及び(e)成分以外の難燃剤(ポリリン酸アンモニウム系化合物、水酸化マグネシウム、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ホウ酸亜鉛等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、各種着色剤、離型剤、混和剤(例えば(a)成分に対する相溶性が高いセグメント鎖と、(b)成分及び又は(c)成分に対する相溶性が高いセグメント鎖と、を有する、上記以外の共重合体等)等が挙げられる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0114】
参考例、実施例及び比較例の樹脂組成物及び成形体に用いた原材料を以下に示す。
−(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂−
(a−i):2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液)0.51dL/gのポリフェニレンエーテル
(a−ii):2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液)0.42dL/gのポリフェニレンエーテル
なお、還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管で測定した。
【0115】
−(b)水素添加ブロック共重合体−
重合体ブロックAをポリスチレンからなるものとし、重合体ブロックBをポリブタジエンからなるものとして、未変性のブロック共重合体を合成した。得られたブロック共重合体の物性を下記に示す。
(b−i):以下に示す(b−i−1)と(b−i−2)の混合物
(b−i−2):水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:30質量%、水素添加後のブロック共重合体の分子量ピーク:65,000、ポリスチレンブロックの数平均分子量(Mn):19,500、ポリブタジエンブロックの数平均分子量(Mn):45,500、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.10、ポリブタジエン単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計:40%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:35%、水素添加後のポリブタジエンブロックのガラス転移温度:−80℃。
(b−i−1):水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:30質量%、水素添加後のブロック共重合体の分子量ピーク:125,000、ポリスチレンブロックの数平均分子量(Mn):18,750、ポリブタジエンブロックの数平均分子量(Mn):87,500、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.10、ポリブタジエン単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計:40%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:35%、水素添加後のポリブタジエンブロックのガラス転移温度:−80℃。
混合比(b−i−1):(b−i−2)=30:70
なお、ビニル芳香族化合物の含有量は、紫外線分光光度計を用いて測定した。数平均分子量(Mn)及び分子量ピークは、GPC(移動層:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)を用いて求めた。分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(移動層:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)を用いて、従来公知の方法により求めた重量平均分子量(Mw)を、前述の数平均分子量(Mn)で除することによって算出した。全ビニル結合量は、赤外分光光度計を用いて測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出した。水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定した。混合比は、GPC測定時のピーク面積比により求めた。
【0116】
(b−ii)
上記(b−i)に記載の(b−i−1)、(b−i−2)と同じ成分を(b−i−1):(b−i−2)=5:95である混合物。
【0117】
(b−iii)
上記(b−i)に記載の(b−i−1)、(b−i−2)と同じ成分を(b−i−1):(b−i−2)=55:45である混合物。
【0118】
(b−iv)
公知の方法により、重合体ブロックAをポリスチレンからなるものとし、重合体ブロックBをポリブタジエンからなるものとして、B−A−B−Aのブロック構造を有するブロック共重合体を合成した。公知の方法により、合成したブロック共重合体に水素添加を行った。重合体の変性は行わなかった。得られた未変性水素添加ブロック共重合体の物性を下記に示す。
水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:44質量%、水素添加後のブロック共重合体の数平均分子量(Mn):95,000、ポリスチレンブロックの数平均分子量(Mn):41,800、ポリブタジエンブロックの数平均分子量(Mn):53,200、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.06、ポリブタジエン単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計:75%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:99%、水素添加後のポリブタジエンブロックのガラス転移温度:−15℃。
【0119】
(b−v)
上記の(b−iv)と同様な方法で、A−Bのブロック構造を有するブロック共重合体を得た。得られた未変性水素添加ブロック共重合体の物性を以下示す。
水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:50%、水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量(Mn):60,000、ポリスチレンブロックの数平均分子量(Mn):30,000、ポリブタジエンブロックの数平均分子量(Mn):30,000、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.08、ポリブタジエン単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計:75%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:99.9%
【0120】
(b−vi)
上記の(b−iv)と同様な方法で重合体を得た。得られた未変性水素添加ブロック共重合体の物性を以下示す。
水素添加前のブロック共重合体におけるポリスチレンの含有量:44%、水素添加前のロック共重合体の数平均分子量(Mn):95,000、ポリスチレンブロックの数平均分子量(Mn):41,800、ポリブタジエンブロックの数平均分子量(Mn):53,200、水素添加前のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn):1.06、ポリブタジエン単位における二重結合に対する、1,2−ビニル結合及び3,4−ビニル結合の合計:75%、ポリブタジエンブロックを構成するポリブタジエン部分に対する水素添加率:99.9%
【0121】
−(c)オレフィン系重合体−
(c−i):エチレン−ブテン共重合体、商品名「タフマーDF610」、三井化学(株)製、MFR:1.2g/10分(190℃、2.16kgf条件)、脆化温度:<−70℃、密度:0.862g/cm3
【0122】
(c−ii):エチレン−ブテン共重合体、商品名「タフマーDF810」、三井化学(株)製、MFR:1.2g/10分(190℃、2.16kgf条件)、脆化温度:<−70℃、密度:0.885g/cm3
【0123】
(c−iii)
エチレン−ブテン共重合体、商品名「タフマーDF7350」、三井化学(株)製、MFR:36g/10分(190℃、2.16kgf条件)、脆化温度:<−70℃、密度:0.870g/cm3
【0124】
−(d)リン酸エステル系化合物−
(d):大八化学社製「E890」(縮合リン酸エステル化合物)
【0125】
−(e)ホスフィン酸塩類−
(e):クラリアントジャパン社製「Exolit OP1230」(式(1)に該当)
【0126】
−その他−
ハイインパクトポリスチレン(HIPS):PSジャパン(株)製、商品名「PSJ−ポリスチレンH9302」
【0127】
参考例、実施例及び比較例における物性やモルフォロジーの測定方法(1)〜(5)を以下に示す。
(1)耐薬品性
得られた樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度280℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS−100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度70℃、射出圧力75MPa、射出時間20秒、冷却時間15秒の条件で、120mm×80mm×3mmの平板に成形した。
この平板から、長手方向が流動方向と直角になるような短冊形状(80mm×12.5mm×3mm)の試験片を切り出した。この試験片を、水平方向をx軸、垂直方向をy軸として、垂直断面がy=6x(x≧0、y≧0)の方程式で示される放物線を型どったベンディングバーの曲面上に、バーと試験片との間に隙間が生じないように治具を用いて取り付けた。また、ベンディングバーは、その垂直断面上でx=0、y=0となる位置を試験片の測定起点側端部の配置位置とし、x>0かつy>0となる位置を試験片の測定末端側端部の配置位置としている。
上記のように試験片をベンディングバーに取り付けた後、試験片の表面に5−56(呉工業株式会社製)を塗布し、23℃×50RH%の条件で48時間放置した。48時間後に、試験片の表面にクラックが発生した場合には、クラックが生じる臨界位置(ベンディングバーのx軸方向でxの値が最も大きくなる位置)を読み取った。
クラックが生じる臨界位置の読み取りは、ベンディングバーに取り付けた状態で試験片に、ベンディングバーのx軸座標の目盛を転記して、試験片をベンディングバーから取り外した後、下記の所定の大きさのクラックの存在を確認して、当該クラックが存在する位置を転記した目盛と対比して読み取った(臨界位置は、ベンディングバーのx軸座標に対応する位置であるので、試験片のペリフェリ長ではない)。
なお、クラックとは、VHX−5000(キーエンス社製)などのマイクロスコープを使用して試験片表面を観察した際に見られる、200μm以上の流動方向の亀裂である。
そして、試験片の厚みとクラックが生じる臨界位置から次式により臨界歪みを算出した。
(臨界歪み)=d×31/2/{2×(3+50.8x)3/2}×100(%)
d:試験片の厚み(mm)
x:x軸方向の位置(mm)
【0128】
(2)耐衝撃性
得られた樹脂組成物ペレットを100℃で2時間乾燥した。乾燥後の樹脂組成物ペレットから、東芝機械(株)製IS−100GN型射出成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて、ISO−15103に準じて試験片を作製した。次いでISO−179に準拠し、上記試験片の中央にノッチ(切り欠き)を付けて、ノッチ付きシャルピー衝撃試験片を作製した。該ノッチ付きシャルピー衝撃試験片について、耐衝撃性評価として、ISO−179に準拠し、23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定した。
【0129】
(3)難燃性
得られた樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度280℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS−100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度70℃、射出圧力60MPaの条件で成形し、UL94垂直燃焼試験測定用試験片(3.0mm厚み)を5本作製した。UL94垂直燃焼試験方法に基づいて、これら5本の試験片の難燃性を評価した。10秒間の接炎後、炎を離してから炎が消えるまでの燃焼時間をt1(秒)とし、再び10秒間の接炎後、炎を離してから炎が消えるまでの燃焼時間をt2(秒)とし、各5本について、t1及びt2の平均を平均燃焼時間として求めた。一方、t1及びt2を合わせた10点の燃焼時間のうち最大のものを最大燃焼時間として求めた。そして、UL94規格に基づいて、V−0、V−1、V−2、HBの判定を行った。
特に、難燃レベルV−1以上の判定の場合に、難燃性に優れていると判定した。
【0130】
(4)モルフォロジー
上記(1)耐薬品性と同様にして作製した試験片のコア部(厚さ方向の中心部)の断片から、ウルトラミクロトームを用いて測定断面を作製した。当該測定断面を四酸化ルテニウムで染色後、「HITACHI SU−8220」(日立ハイテクフィールディング社製)を用いて、撮影倍率1万倍、加速電圧1.0kV、検出器:二次電子(上方(UPPER):LA)の設定で撮影を行った。撮影により、断面SEM像のデジタル画像(画素数1280×960)をモルフォロジー画像として取得した。
次いで、撮影したモルフォロジー画像に対し、画像処理ソフト「imageJ」(バージョン1.50i)を用いて以下の方法で2値化処理を行った。
まず、モルフォロジー画像を開き、2値化処理する範囲(3μm角または5μm角に相当する画素数)を選択した。選択後の画像を、画像処理ソフト「imageJ」の「median filter」で平滑化処理し、「Threshold」で2値化処理を行うことにより、第1または第2処理画像を得た。その際の2値化処理のアルゴリズムは「Default」とし、閾値は「Auto」とした。
上記で得られた第1または第2処理画像において、前記画像処理ソフト「imageJ」の「Analyze Particles」により、2値化後に黒色となっている部分の全てを抽出し、その部分自体の画素数やその部分の周囲の画素数を算出することにより、第1または第2黒色部分の単位面積当たりの個数(個/μm2)、第1または第2非小形部分の周長を合計した合計周長(μm/μm2)(L1またはL2)を求めた。また、2値化後に白色となっている部分の全てを抽出してその画素数を算出することにより、第1または第2白色部分の単位面積当たりの占有面積(μm2/μm2)(AW1またはAW2)を求めた。
なお、上記2値化処理した第1または第2処理画像は、1つの車載LiB用部材から5枚作成した。各測定結果は、この5枚の画像から得られたそれぞれの測定値を平均して得られた数値を用いた。また、モルフォロジー画像を2値化処理した際には、画素2×2をカットオフした。
【0131】
(5)曲げ振動疲労特性
得られた樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度280℃に設定した小型射出成形機(商品名:IS−100GN、東芝機械社製)に供給し、金型温度70℃、射出圧力60MPaの条件で、ASTM D671のB法の「TYPE A」の片持ち曲げ疲労試験片を得た。ASTM D671のB法に準拠して、下記の試験条件で試験片に周期的に変動する曲げ応力(繰り返し応力:25MPa)をかけ、それぞれの破壊までの繰り返し回数を測定した。1つの組成物当たり、切削油を塗布しない場合と切削油を塗布した場合につき、それぞれ試験片3枚を使用して測定し、その結果の平均を測定結果とした。また、切削油を塗布する場合は、前記片持ち曲げ疲労試験片の振動部分(治具で固定していない湾曲部分)の片側に切削油を塗布し、23℃×50RH%の条件で3時間放置した後に試験を行った。
樹脂組成物:実施例8の樹脂組成物および比較例1の樹脂組成物
試験機:(株)東洋精機製作所製 繰り返し曲げ振動疲労試験機 B−70
繰り返し周波数:30Hz(繰り返し速度1800回/min)
測定温度:室温(23℃)
繰り返し応力:25MPa
切削油:Honilo988(カストロール社製)
【0132】
参考例1〜7、実施例〜19、比較例1〜8)
以下、各参考例、実施例及び各比較例について詳述する。
参考例、実施例及び各比較例の樹脂組成物の製造に用いる溶融混練機として、二軸押出機(コペリオン社製、ZSK−25)を用いた。押出機のL/Dは、35とした。
二軸押出機の構成は、原料が流れる方向について上流側に第1原料供給口、該第1原料供給口よりも下流に第1真空ベント、該第1真空ベントよりも下流に第2原料供給口、該第2原料供給口よりも下流に液添ポンプ、該液添ポンプよりも下流に第2真空ベントを備えるものとした。
二軸押出機のバレル設定温度は、第1原料供給口から第1真空ベントまでを320℃、第2原料供給口よりも下流を270℃の設定とし、スクリュー回転数450rpm、押出レート15kg/hの条件で樹脂組成物のペレットを製造した。二軸押出機の構成を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
上記の通り設定した二軸押出機に、(a)成分〜(e)成分を表2、3に示す通りに二軸押出機に供給し、樹脂組成物のペレットを得た。なお、実施例19では、参考例1の押出条件のうちスクリュー回転数300rpmをとし、比較例8では、参考例1の押出条件のうちスクリュー回転数900rpmをとした。
参考例、実施例及び各比較例について、前述の測定方法(1)〜(5)により物性試験を行った。結果を表2〜4に示す。なお、実施例9の第2黒色部分の単位面積当たりの専有面積AW2は0.118μm/μmであった。
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
表2、表3に示す通り、実施例の車載LiB用部材は、比較例の車載LiB用部材と比較して、所定のモルフォロジーを有し、耐薬品性評価での臨界歪み量やシャルピー衝撃強度が所定の範囲内であることがわかった。
【0139】
表4に示す通り、実施例8の車載LiB用部材は、比較例1の車載LiB用部材と比較して、薬品(切削油)付着時にも振動疲労特性が低下せず、薬品付着時の機器の保持性、構造体の連結維持性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、成形体の形状の複雑化や重量の低減に対応可能であると共に、車載用リチウムイオンバッテリー内に設けられる種々の機器を確実に保持し、又は各構造体との間を確実に連結し維持することができる車載リチウムイオンバッテリー用部材を得ることができる。当該車載リチウムイオンバッテリー用部材は、ハイブリッド電気自動車や電気自動車(自動二輪車も含む)等の複数のバッテリーセルを有する車載用リチウムイオンバッテリーモジュールにおいて、バッテリーセルやその他のバッテリーモジュールを構成する機器等をモジュール内に保持するための保持部材や、筐体、蓋等のモジュールの容器を構成する部材として用いることができる。
図1
図2
図3