特許第6982634号(P6982634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982634スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982634
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20211206BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   A61K38/17
   A61P27/02
   A61K9/08
   A61K9/10
   A61K47/32
   A61K47/38
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-559244(P2019-559244)
(86)(22)【出願日】2018年1月4日
(65)【公表番号】特表2020-505450(P2020-505450A)
(43)【公表日】2020年2月20日
(86)【国際出願番号】KR2018000149
(87)【国際公開番号】WO2018131835
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2020年12月11日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0006118
(32)【優先日】2017年1月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519254831
【氏名又は名称】アイエムディーファーム インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IMDPHARM INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンジュン
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−253029(JP,A)
【文献】 PHADATARE, S.P. et al,Advances in Pharmaceutics,2015年,Vol. 2015, Aritcle ID 704946,pp. 1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項2】
スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩が0.01w/v%ないし30w/v%の範囲の濃度で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
点眼剤の剤形である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記点眼剤が水性溶液または水性懸濁液の形態である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
水性媒体中、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩に加えて、緩衝剤、粘度調整剤、等張化剤、抗酸化剤、キレート化剤、およびpH調整剤からなる群から選択される1種以上の担体または添加剤を含む、請求項3または4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記粘度調整剤が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記粘度調整剤が、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球乾燥症候群は、乾性角結膜炎と呼ばれる眼疾患であり、世界的に成人の5.5ないし15%が発症している。眼球乾燥症候群は、涙膜や眼球表面の多機能障害とされており、不快感、視覚障害、およびさらに涙膜の不安定化による眼表面損傷を引き起こす。涙膜の主な生理機能は、眼球表面および眼瞼内部の潤滑である。涙膜はまた、眼の表面に栄養素を供給し、眼に滑らかで平らな光学面を提供し、眼の表面を保護する。涙膜は、粘液成分、水性成分、および脂質で構成されている。涙腺の分泌異常により、眼球乾燥症候群が誘発される。眼球乾燥症候群は、涙液の不足だけでなく、涙や眼の表面(角膜と結膜)の炎症によって、眼球の不快感および涙液層の不安定化を引き起こし、それにより眼球表面に損傷を引き起こして、眼球の痛み、不規則な角膜表面、角膜潰瘍、視力の低下を引き起こす。慢性眼球乾燥症候群における角膜透過性の変化は、炎症を起こし、涙中の炎症を媒介するサイトカインを増加させる。多くの場合、患者は、疾患の重症度に応じて、可逆的な扁平上皮化生(squamous metaphase)や眼球上皮に点状びらん(punctate erosions)を呈する。眼球乾燥症候群によって誘発される続発性(secondary)疾患は、真菌性角膜炎、細菌性角膜炎、角膜血管新生、および眼球表面角質化を含む。
【0003】
眼球乾燥症候群の治療のためのいくつかのアプローチが試みられている。通常のアプローチは、等張性緩衝食塩水溶液または水溶性ポリマーを含有する人工涙液を使用して、眼の涙液層を補充し安定化させるものである。人工涙液は、例えば、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩(CMC、カルメロース)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ヒプロメロース)、ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩、ならびにヒドロキシプロピルグアーガムなどを含む。他のアプローチは、人工涙液の代わりに潤滑物質を提供することを含む。例えば、米国特許第4,818,537号は、潤滑リポソーム組成物の使用を開示しており、米国特許第5,800,807号は、グリセリンとプロピレングリコールを含有する眼球乾燥症候群の治療用の組成物を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、眼球乾燥症候群を効果的に予防または治療することができる治療薬を開発するために、様々な研究を行った。驚くべきことに、(消化性潰瘍、胃食道逆流疾患などの治療薬として通常使用される)スルグリコチドをドライアイの動物モデルに投与した場合、涙液の産生量が顕著に増加し、角膜表面の不整が改善され、結膜杯細胞の密度が増加し、また、眼球表面および涙腺の炎症性サイトカインが減少するということが、本発明によって発見され、したがって、スルグリコチドは、眼球乾燥症候群の治療に有用に適用することができるということが、本発明によって発見された。
【0005】
したがって、本発明は、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一様態によって、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物が提供される。
【0007】
本発明の医薬組成物において、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩は0.01w/v%ないし30w/v%の範囲の濃度で存在してもよい。本発明の医薬組成物は、点眼剤の剤形であってもよい。前記点眼剤は、水性溶液または水性懸濁液の形態であってもよい。
【0008】
本発明の医薬組成物は、水性媒体中、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩に加えて、緩衝剤、粘度調整剤、等張化剤、抗酸化剤、キレート化剤、およびpH調整剤からなる群から選択される1種以上の担体または添加剤を含んでもよい。
【0009】
一実施形態において、前記粘度調整剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上であってもよく、好ましくは、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【発明の効果】
【0010】
スルグリコチドをドライアイの動物モデルに投与した場合、涙液の産生量が顕著に増加し、角膜表面の不整が改善され、結膜杯細胞の密度が増加し、また、眼球表面および涙腺の炎症性サイトカインが減少するということが、本発明によって明らかになった。したがって、本発明の医薬組成物は、眼球乾燥症候群の予防または治療に有用に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ドライアイの動物モデル(DED)における、涙液の産生に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
図2図2は、ドライアイの動物モデル(DED)における、角膜表面の不整に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
図3図3は、ドライアイの動物モデル(DED)における、角膜蛍光染色に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
図4図4は、ドライアイの動物モデル(DED)における、角膜上皮細胞の剥離に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
図5図5は、ドライアイの動物モデル(DED)における、結膜杯細胞の密度に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
図6図6は、ドライアイの動物モデル(DED)における、炎症に対するスルグリコチド含有点眼剤の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼球乾燥症候群の予防用または治療用の医薬組成物を提供する。
【0013】
スルグリコチドは、豚の胃または十二指腸の粘膜から抽出されたグリコペプチドの多硫酸エステル(sulphuric polyester)として知られている物質である。スルグリコチドは、胃保護剤(gastro-protective agent)および抗潰瘍剤として使用され、胃腸管で吸収されず、胃の内腔でのみ効果を示すことが知られている。スルグリコチドは、一般的には、アスピリンおよびタウロコール酸のような薬剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)により胃壁が攻撃された患者に、胃保護剤として投与される。スルグリコチドをドライアイの動物モデルに投与した場合、涙液の産生量が顕著に増加し、角膜表面の不整が改善され、結膜杯細胞の密度が増加し、また、眼球表面および涙腺の炎症性サイトカインが減少するということが、本発明によって新たに明らかになった。
【0014】
本発明の医薬組成物において、スルグリコチドは、非塩の形態(non-salt form)で使用されてもよい。また、スルグリコチドは、その薬学的に許容可能な塩の形態でも使用することができ、それは、本技術分野で通常の知識を有する者によって適切に製造することができる。
【0015】
本発明の医薬組成物において、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩の投与量は、患者の年齢、体重、性別、剤形、健康状態、および疾患の程度に応じて変化してもよい。例えば、前記投与量は、体重が70kgの成人患者に対して、0.1ないし300mg/日、好ましくは0.5ないし100mg/日、さらに好ましくは1ないし60mg/日の範囲であってもよい。前記投与は、医師または薬剤師の判断に基づいて、適切な間隔で、例えば、一日に単回投与または分割投与で行われてもよい。一実施形態において、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩は、0.01w/v%ないし30w/v%の範囲の濃度、好ましくは0.1w/v%ないし10w/v%の範囲の濃度で存在してもよいが、それに限定されるものではない。
【0016】
好ましくは、前記医薬組成物は、点眼剤の剤形であってもよい。前記点眼剤は、水性溶液または水性懸濁液の形態であってもよい。
【0017】
本発明の医薬組成物は、点眼剤の分野で一般的に使用される担体または添加剤をさらに含んでもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、水性媒体中、スルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩に加えて、緩衝剤、粘度調整剤、等張化剤、抗酸化剤、キレート化剤、およびpH調整剤からなる群から選択される1種以上の担体または添加剤を含んでもよい。
【0018】
前記緩衝剤の例は、点眼剤の分野で一般的に使用される緩衝剤、例えば、リン酸またはその塩、ホウ酸またはその塩、炭酸またはその塩、クエン酸またはその塩、酢酸またはその塩、マレイン酸またはその塩、コハク酸またはその塩、酒石酸またはその塩などを含む。また、前記緩衝剤は、例えば、リン酸/リン酸塩緩衝液(phosphate buffer solution)、ホウ酸/ホウ酸塩緩衝液(borate buffer solution)などの緩衝液の形態であってもよい。
【0019】
前記粘度調整剤の例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上であってもよい。前記粘度調整剤は、好ましくはポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース、さらに好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースであってもよい。
【0020】
前記等張化剤の例は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビトール、マンニトールなどを含む。
【0021】
前記抗酸化剤の例は、アスコルビン酸またはそのエステル、重亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロールなどを含む。
【0022】
前記キレート化剤の例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンなどを含む。
【0023】
前記pH調整剤の例は、塩酸、アミノ酸、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などを含む。
【0024】
本発明の医薬組成物は、前記した担体または添加剤に加えて、点眼剤の分野で一般的に使用される湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを含んでもよい。点眼剤の形態の本発明の医薬組成物は、例えば、水性媒体(例えば、水または緩衝液)にスルグリコチドまたはその薬学的に許容可能な塩を攪拌下で溶解させ、前記した担体または添加剤を溶解または懸濁することによって製造することができる。典型的には、得られる溶液または懸濁液を滅菌ろ過して点眼剤形態を製造する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および試験例により本発明についてさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例および試験例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲はそれらによって制限されるものではない。
【0026】
実施例1
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(5g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.6g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、1w/v%の点眼液を製造した。
【0027】
実施例2
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(10g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.4g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、2w/v%の点眼液を製造した。
【0028】
実施例3
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(15g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.2g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、3w/v%の点眼液を製造した。
【0029】
実施例4
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(20g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.0g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、4w/v%の点眼液を製造した。
【0030】
実施例5
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(10g)を溶解させた。得られた溶液に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(1g)および塩化ナトリウム(2.4g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、2w/v%の点眼液を製造した。
【0031】
実施例6ないし15
表1で示した成分および含量にしたがって、点眼液を製造した。緩衝剤を精製水(800mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチドを溶解させた。得られた溶液に、等張化剤、粘度調整剤(実施例9および14)、ならびに抗酸化剤(実施例10および15)を溶解させた。pH調整剤で、得られた溶液のpHを約pH7に調整した後、精製水を加えて、最終体積を1000mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、点眼液を製造した。
【0032】
【表1】
【0033】
試験例
1:試験方法
(1)ドライアイのマウスモデルおよび実験手順
NOD.B10.H2マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME、USA)から購入した。12ないし16週齢の雄性NOD.B10.H2マウスに、10日間、1日あたり18時間、30ないし40%の周囲湿度で、ファン気流を曝露して乾燥ストレス(desiccation stress)を与え、左右の臀部に交互に一日4回(午前8時、午前11時、午後2時、午後5時)0.5mg/0.2mlスコポラミン臭化水素酸塩(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO)の0.2mL皮下注射を実施して、ドライアイを誘発した。実験中、動物の行動や食事および水の摂取量は制限しなかった。ドライアイ誘発後、スコポラミン注射を中止し、通常の湿度および温度を有する環境でマウスを飼育することにより、乾燥ストレスを除去した。
【0034】
非処理の正常NOD.B10.H2マウスを対照群とした(Control、n=3)。SOS1〜SOS5のグループは、下記表2に示すように、ドライアイ誘発群および点眼剤投与群に分けた。SOS1ないしSOS5のグループの点眼剤投与群は、乾燥ストレス除去した後、それぞれ実施例1ないし5の点眼剤(5μL/眼)を10日間、一日に4回(午前8時、午前11時、午後2時、午後5時)両眼に点眼した。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)涙液の産生量の測定
涙液の産生量は、既報の方法に基づいて、フェノールレッド含浸綿糸を使用して測定した(Oh HN、Kim CE、Lee JH、Yang JW. Effects of Quercetin in a Mouse Model of Experimental Dry Eye、Cornea、2015;34:1130-6)。フェノールレッド含浸綿糸(Zone-quick、Oasis、Glendora、CA)をジュエラーピンセットで挟み、外側眼角(lateral canthus)に20秒間静置した。涙液量は、涙液によって濡れて赤色に変化した部分の綿糸の長さ(ミリメートル)で示され、その長さを顕微鏡(SZX7、Olympus Corp.、東京、日本)下で測定した。ミリメートルで示した涙液の吸収量(tear fluid uptake)を、基準液(stock basic solution)(0.9%生理食塩水1500mlおよび5N NaOH 5mL)を用いた際に20秒間で綿糸に吸収された既知の吸収量(uptake volumes)を元に作成された検量線と比較した。検量線は、マウスの涙液で予想される範囲で作成されたものである(Villareal AL、Farley W、Pflugfelder SC. Effect of topical ophthalmic epinastine and olopatadine on tear volume in mice、Eye Contact Lens、2006; 32:272-6; Chen Z、Li Z、Basti S、Farley WJ、Pflugfelder SC、Altered morphology and function of the lacrimal functional unit in protein kinase C alpha knockout mice、Invest Ophthalmol Vis Sci、2010; 51:5592-600)。涙液の産生量を両眼で測定し、両眼の平均値を分析した。
【0037】
(3)角膜平滑度評価
マウスを安楽死させた後すぐに、ズーム実体顕微鏡の光ファイバーリング照明装置(fiber optic ring illuminator)により白色光リングを投影し、その反射画像(reflected image)を取得した。角膜平滑度の評価は、2名の盲検的観察者(blinded observers)が、従来の方法に基づいて、デジタル画像に記録された角膜上皮に反射した白色光リングの歪み(distortion)を点数化することにより行った(De Paiva CS、Corrales RM、Villarreal AL、Farley W、Li DQ、Stern ME、Pflugfelder SC、Apical corneal barrier disruption in experimental murine dry eye is abrogated by methylprednisolone and doxycycline、Invest Ophthalmol Vis Sci、2006; 47:2847-56)。両眼の角膜平滑度を測定し、両眼の平均値を求めた。角膜不整度のスコア(corneal irregularity severity score)は、反射したリングの歪み部分(4分割)の数に基づく5点尺度を使用して、以下のように点数化した:0、歪みなし(no distortion);1、1/4の歪み(distortion in 1 quarter of the ring);2、2/4の歪み(distortion in 2 quarters);3、3/4の歪み(distortion in 3 quarters);4、4/4すべてで歪みあり(distortion in all 4 quarters);および5、歪みがひどく、リングの一部分も認識できない(distortion so severe that no section of the ring was recognized)。
【0038】
(4)角膜蛍光染色の測定
角膜蛍光染色は、Rashidなどの方法によって行った(Rashid S、Jin Y、Ecoiffier T、Barabino S、Schaumberg DA、Dana MR、Topical omega-3 and omega-6 fatty acids for treatment of dry eye、Arch Ophthalmol.、2008;126:219-25)。麻酔下のマウスの角膜に、フルオレセインナトリウム(1%)1μLを点眼した。3分後、眼球をPBSで洗浄して、過剰のフルオレセインを除去した。コバルトブルー光を使用して、スリットランプ生体顕微鏡(SL-D7; Topcon、Tokyo、Japan)で、染色した角膜を評価および撮影した。角膜の5箇所でそれぞれ点状染色(punctate staining)の程度を0ないし3のstandardized National Eye Institute grading systemを用いて記録した(Lemp MA、Report of the National Eye Institute/ Industry Workshop on ClinicalTrials in Dry Eyes. Clao J.1995;21:221-32)。
【0039】
(5)組織学
各グループのマウスの眼とその付属器を外科的に切除して、10%ホルマリンに固定し、パラフィンに包埋した。6μmの切片を、H&E(ヘマトキシリン&エオシン)とPAS(periodic-Schiff)でそれぞれ染色した。結膜では、0.1mmの領域における剥離した上皮細胞の数を、H&E染色により計算した。結膜組織では、下結膜円蓋の0.1mmの領域における杯細胞の数を、PAS染色により評価した。剥離した角膜上皮細胞の数および結膜杯細胞の数は、各グループ3匹または4匹のマウスの1匹あたり連続していない3つの切片スライド(non-consecutive cross-section slides)から得られたデータを平均して求めた。各グループの切片の分析および撮影には、バーチャル顕微鏡(Virtual Microscope)(NanoZoomer2.0 RS、Hamamatsu、Japan)を使用した。
【0040】
(6)免疫組織化学
眼とその付属器を外科的に切除して、パラフィンに包埋し、液体窒素で急速凍結(flash frozen)した。クリオスタットで6μmの切片に切断した。切片を、予め冷却したアセトンを使用して5分間固定し、TNF−αに対する1次抗体(Abcam Inc.、Cambridge、MA)、MMP−2に対する1次抗体(Abcam Inc.、Cambridge、MA)、MMP−9に対する1次抗体(Lifespan Biosciences Inc.、Seattle、WA)、ICAM−1に対する1次抗体(Bioss Inc.、Woburn、MA)、およびVCAM−1に対する1次抗体(Bioss Inc.、Woburn、MA)を加え、1時間室温でインキュベーションした。洗浄後、切片を2次抗体(DAKO Corp、Glostrup、Denmark)とともに30分間インキュベーションした。免疫反応はジアミノベンジジン色素原を使用して視覚化し、切片はマイヤーヘマトキシリン(Mayer's hematoxylin)(Sigma)で30秒間室温で対比染色した。切片の画像は、バーチャル顕微鏡(NanoZoomer2.0 RS、Hamamatsu、Japan)を使用して撮影した。
【0041】
(7)統計分析
データは、SPSS version 18.0(SPSS、Chicago、IL、USA)を用いて分析し、平均±SDで表示した。グループ間の差は、2元配置分散分析(Tukey's testを使用した分析)を使用して分析し、統計学的有意性は、P<0.05として定義した。
【0042】
2:試験結果
(1)涙液の産生量の変化に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図1に示すように、10日後のSOS1グループは、DS10Dグループ(0.025±0.008μL)に比べて、6.7倍の増加(0.165±0.027μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS2グループは、DS10Dグループ(0.021±0.009μL)に比べて、7.6倍の増加(0.157±0.027μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS3グループは、DS10Dグループ(0.021±0.009μL)に比べて、8.5倍の増加(0.176±0.030μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS4グループは、DS10Dグループ(0.017±0.008μL)に比べて、14.6倍の増加(0.246±0.022μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS5グループはDS10Dグループ(0.017±0.008μL)に比べて、15.5倍の増加(0.262±0.018μL)を示した(P<0.05)。乾燥ストレス除去後、スルグリコチド含有点眼剤の点眼により、DS10Dグループに比べて、涙液の産生量が徐々に改善した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、涙液の産生量が対照群のレベルまで増加した。
【0043】
(2)角膜表面の不整に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図2に示すように、DS10Dグループの角膜不整スコア(3.375±0.479 score)は、対照群(0.250±0.289 score)に比べて、13.5倍に増加し、SOS1グループで観察された減少は、10日目に7.4%(3.125±0.250 score、P<0.05)であった。また、SOS2およびSOS3のグループで観察された角膜表面の不整は、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に8%(2.875±0.250 score、P<0.05)および20.7%(2.875±0.250 score、P<0.05)減少した。SOS4およびSOS5のグループの不整は、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に83.3%(0.625±0.479 score、P<0.05)および87.9%(0.500±0.408 score、P<0.05)減少した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、白色光リングの歪みが10日目に対照群レベルまで改善した。
【0044】
(3)角膜蛍光染色に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図3に示すように、対照群の角膜では、蛍光染色の取り込みが認められず、上皮障壁が損傷していないことを示している。しかし、DS10Dの角膜は、斑状の(patchy)染色パターンを示し、上皮障壁が損傷していることを示している。DS10Dグループの角膜蛍光スコア(9.333±1.155 score)は、対照群(0.333±0.577 score)に比べて、28倍に増加し、SOS1グループでは、10日目でも減少しなかった(9.333±0.577 score、P<0.05)。しかし、SOS2およびSOS3のグループで観察された角膜蛍光スコアは、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に3.4%(9.333±0.577、P<0.05)および10%(9.0±0 score、P<0.05)減少した。また、SOS4およびSOS5のグループの角膜蛍光スコアは、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に72.4%(2.667±0.577、P<0.05)および83.3%(1.667±0.577、P<0.05)減少した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、角膜上皮障壁の損傷が10日目に対照群レベルまで改善した。
【0045】
(4)角膜上皮細胞の剥離に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図4に示すように、剥離した角膜上皮細胞の数は、対照群(0.190±0.165 cells/0.1mm2)に比べて、DS10Dグループで8.5倍に増加した(1.619±0.165 cells/0.1mm2、P<0.05)。剥離した角膜上皮細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS1グループでは、1.1倍に増加した(1.810±0.165 cells/0.1mm2、P<0.05)。一方、SOS2およびSOS3のグループで観察された剥離した角膜上皮細胞の数(1.238±0.165および1.238±0.165 cells/0.1mm2)は、DS10Dグループに比べて、それぞれ23.5%および23.5%減少した(P<0.05)。また、剥離した角膜上皮細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで、それぞれ70.6%(0.476±0.165 cells/0.1mm2、P<0.05)および76.5%(0.381±0.165 cells/0.1mm2、P<0.05)減少した。
【0046】
(5)結膜杯細胞に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図5に示すように、結膜杯細胞の数は、対照群(17.333±0.873 cells/0.1mm2)に比べて、DS10Dグループで57.7%(7.333±1.288 cells/0.1mm2)減少したが、SOS1グループでは、DS10Dグループに比べて、1.1倍(8.095±0.165 cells/0.1mm2、P<0.05)に増加した。結膜杯細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS2およびSOS3のグループでそれぞれ1.2倍(8.762±0.825 cells/0.1mm2、P<0.05)および1.4倍(10.381±0.436 cells/0.1mm2、P<0.05)に増加した。また、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで、それぞれ1.9倍(14.286±1.143 cells/0.1mm2、P<0.05)および2.4倍(17.714±2.268 cells/0.1mm2、P<0.05)に増加した。
【0047】
(6)ドライアイのマウスモデルでのスルグリコチド含有点眼液の抗炎症効果
図6に示すように、涙腺の切片(sections)を用いて、TNF−α、MMP−2、MMP−9、ICAM−1、およびVCAM−1の免疫染色を行った。炎症マーカーであるTNF−αは、乾燥ストレスの除去後、涙腺で有意に過剰発現した。しかし、SOS4およびSOS5のグループでは、TNF−αの発現は抑制されていた。また、MMP−2およびMMP−9の免疫染色についても、涙腺で強い染色が認められたが、この染色はSOS4およびSOS5のグループでは有意に抑制されていた。ICAM−1およびVCAM−1の染色は、DS10Dグループの涙腺に非常に限られていた。これらの涙腺の陽性マーカーは、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで抑制されていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6