【実施例】
【0025】
以下、実施例および試験例により本発明についてさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例および試験例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲はそれらによって制限されるものではない。
【0026】
実施例1
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(5g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.6g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、1w/v%の点眼液を製造した。
【0027】
実施例2
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(10g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.4g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、2w/v%の点眼液を製造した。
【0028】
実施例3
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(15g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.2g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、3w/v%の点眼液を製造した。
【0029】
実施例4
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(20g)を溶解させた。得られた溶液に、塩化ナトリウム(2.0g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、4w/v%の点眼液を製造した。
【0030】
実施例5
リン酸(0.0425g)、リン酸水素ナトリウム(4.43g)、およびリン酸二水素カリウム(0.29g)を精製水(400mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチド(10g)を溶解させた。得られた溶液に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(1g)および塩化ナトリウム(2.4g)を溶解させた。得られた溶液に精製水を加えて、最終体積を500mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、2w/v%の点眼液を製造した。
【0031】
実施例6ないし15
表1で示した成分および含量にしたがって、点眼液を製造した。緩衝剤を精製水(800mL)に、50rpmで攪拌しながら、溶解した後、スルグリコチドを溶解させた。得られた溶液に、等張化剤、粘度調整剤(実施例9および14)、ならびに抗酸化剤(実施例10および15)を溶解させた。pH調整剤で、得られた溶液のpHを約pH7に調整した後、精製水を加えて、最終体積を1000mlに調整した。得られた溶液を0.22μmPVDFシリンジフィルターで滅菌ろ過して、点眼液を製造した。
【0032】
【表1】
【0033】
試験例
1:試験方法
(1)ドライアイのマウスモデルおよび実験手順
NOD.B10.H2
bマウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME、USA)から購入した。12ないし16週齢の雄性NOD.B10.H2
bマウスに、10日間、1日あたり18時間、30ないし40%の周囲湿度で、ファン気流を曝露して乾燥ストレス(desiccation stress)を与え、左右の臀部に交互に一日4回(午前8時、午前11時、午後2時、午後5時)0.5mg/0.2mlスコポラミン臭化水素酸塩(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO)の0.2mL皮下注射を実施して、ドライアイを誘発した。実験中、動物の行動や食事および水の摂取量は制限しなかった。ドライアイ誘発後、スコポラミン注射を中止し、通常の湿度および温度を有する環境でマウスを飼育することにより、乾燥ストレスを除去した。
【0034】
非処理の正常NOD.B10.H2
bマウスを対照群とした(Control、n=3)。SOS1〜SOS5のグループは、下記表2に示すように、ドライアイ誘発群および点眼剤投与群に分けた。SOS1ないしSOS5のグループの点眼剤投与群は、乾燥ストレス除去した後、それぞれ実施例1ないし5の点眼剤(5μL/眼)を10日間、一日に4回(午前8時、午前11時、午後2時、午後5時)両眼に点眼した。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)涙液の産生量の測定
涙液の産生量は、既報の方法に基づいて、フェノールレッド含浸綿糸を使用して測定した(Oh HN、Kim CE、Lee JH、Yang JW. Effects of Quercetin in a Mouse Model of Experimental Dry Eye、Cornea、2015;34:1130-6)。フェノールレッド含浸綿糸(Zone-quick、Oasis、Glendora、CA)をジュエラーピンセットで挟み、外側眼角(lateral canthus)に20秒間静置した。涙液量は、涙液によって濡れて赤色に変化した部分の綿糸の長さ(ミリメートル)で示され、その長さを顕微鏡(SZX7、Olympus Corp.、東京、日本)下で測定した。ミリメートルで示した涙液の吸収量(tear fluid uptake)を、基準液(stock basic solution)(0.9%生理食塩水1500mlおよび5N NaOH 5mL)を用いた際に20秒間で綿糸に吸収された既知の吸収量(uptake volumes)を元に作成された検量線と比較した。検量線は、マウスの涙液で予想される範囲で作成されたものである(Villareal AL、Farley W、Pflugfelder SC. Effect of topical ophthalmic epinastine and olopatadine on tear volume in mice、Eye Contact Lens、2006; 32:272-6; Chen Z、Li Z、Basti S、Farley WJ、Pflugfelder SC、Altered morphology and function of the lacrimal functional unit in protein kinase C alpha knockout mice、Invest Ophthalmol Vis Sci、2010; 51:5592-600)。涙液の産生量を両眼で測定し、両眼の平均値を分析した。
【0037】
(3)角膜平滑度評価
マウスを安楽死させた後すぐに、ズーム実体顕微鏡の光ファイバーリング照明装置(fiber optic ring illuminator)により白色光リングを投影し、その反射画像(reflected image)を取得した。角膜平滑度の評価は、2名の盲検的観察者(blinded observers)が、従来の方法に基づいて、デジタル画像に記録された角膜上皮に反射した白色光リングの歪み(distortion)を点数化することにより行った(De Paiva CS、Corrales RM、Villarreal AL、Farley W、Li DQ、Stern ME、Pflugfelder SC、Apical corneal barrier disruption in experimental murine dry eye is abrogated by methylprednisolone and doxycycline、Invest Ophthalmol Vis Sci、2006; 47:2847-56)。両眼の角膜平滑度を測定し、両眼の平均値を求めた。角膜不整度のスコア(corneal irregularity severity score)は、反射したリングの歪み部分(4分割)の数に基づく5点尺度を使用して、以下のように点数化した:0、歪みなし(no distortion);1、1/4の歪み(distortion in 1 quarter of the ring);2、2/4の歪み(distortion in 2 quarters);3、3/4の歪み(distortion in 3 quarters);4、4/4すべてで歪みあり(distortion in all 4 quarters);および5、歪みがひどく、リングの一部分も認識できない(distortion so severe that no section of the ring was recognized)。
【0038】
(4)角膜蛍光染色の測定
角膜蛍光染色は、Rashidなどの方法によって行った(Rashid S、Jin Y、Ecoiffier T、Barabino S、Schaumberg DA、Dana MR、Topical omega-3 and omega-6 fatty acids for treatment of dry eye、Arch Ophthalmol.、2008;126:219-25)。麻酔下のマウスの角膜に、フルオレセインナトリウム(1%)1μLを点眼した。3分後、眼球をPBSで洗浄して、過剰のフルオレセインを除去した。コバルトブルー光を使用して、スリットランプ生体顕微鏡(SL-D7; Topcon、Tokyo、Japan)で、染色した角膜を評価および撮影した。角膜の5箇所でそれぞれ点状染色(punctate staining)の程度を0ないし3のstandardized National Eye Institute grading systemを用いて記録した(Lemp MA、Report of the National Eye Institute/ Industry Workshop on ClinicalTrials in Dry Eyes. Clao J.1995;21:221-32)。
【0039】
(5)組織学
各グループのマウスの眼とその付属器を外科的に切除して、10%ホルマリンに固定し、パラフィンに包埋した。6μmの切片を、H&E(ヘマトキシリン&エオシン)とPAS(periodic-Schiff)でそれぞれ染色した。結膜では、0.1mm
2の領域における剥離した上皮細胞の数を、H&E染色により計算した。結膜組織では、下結膜円蓋の0.1mm
2の領域における杯細胞の数を、PAS染色により評価した。剥離した角膜上皮細胞の数および結膜杯細胞の数は、各グループ3匹または4匹のマウスの1匹あたり連続していない3つの切片スライド(non-consecutive cross-section slides)から得られたデータを平均して求めた。各グループの切片の分析および撮影には、バーチャル顕微鏡(Virtual Microscope)(NanoZoomer2.0 RS、Hamamatsu、Japan)を使用した。
【0040】
(6)免疫組織化学
眼とその付属器を外科的に切除して、パラフィンに包埋し、液体窒素で急速凍結(flash frozen)した。クリオスタットで6μmの切片に切断した。切片を、予め冷却したアセトンを使用して5分間固定し、TNF−αに対する1次抗体(Abcam Inc.、Cambridge、MA)、MMP−2に対する1次抗体(Abcam Inc.、Cambridge、MA)、MMP−9に対する1次抗体(Lifespan Biosciences Inc.、Seattle、WA)、ICAM−1に対する1次抗体(Bioss Inc.、Woburn、MA)、およびVCAM−1に対する1次抗体(Bioss Inc.、Woburn、MA)を加え、1時間室温でインキュベーションした。洗浄後、切片を2次抗体(DAKO Corp、Glostrup、Denmark)とともに30分間インキュベーションした。免疫反応はジアミノベンジジン色素原を使用して視覚化し、切片はマイヤーヘマトキシリン(Mayer's hematoxylin)(Sigma)で30秒間室温で対比染色した。切片の画像は、バーチャル顕微鏡(NanoZoomer2.0 RS、Hamamatsu、Japan)を使用して撮影した。
【0041】
(7)統計分析
データは、SPSS version 18.0(SPSS、Chicago、IL、USA)を用いて分析し、平均±SDで表示した。グループ間の差は、2元配置分散分析(Tukey's testを使用した分析)を使用して分析し、統計学的有意性は、P<0.05として定義した。
【0042】
2:試験結果
(1)涙液の産生量の変化に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図1に示すように、10日後のSOS1グループは、DS10Dグループ(0.025±0.008μL)に比べて、6.7倍の増加(0.165±0.027μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS2グループは、DS10Dグループ(0.021±0.009μL)に比べて、7.6倍の増加(0.157±0.027μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS3グループは、DS10Dグループ(0.021±0.009μL)に比べて、8.5倍の増加(0.176±0.030μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS4グループは、DS10Dグループ(0.017±0.008μL)に比べて、14.6倍の増加(0.246±0.022μL)を示し(P<0.05);10日後のSOS5グループはDS10Dグループ(0.017±0.008μL)に比べて、15.5倍の増加(0.262±0.018μL)を示した(P<0.05)。乾燥ストレス除去後、スルグリコチド含有点眼剤の点眼により、DS10Dグループに比べて、涙液の産生量が徐々に改善した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、涙液の産生量が対照群のレベルまで増加した。
【0043】
(2)角膜表面の不整に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図2に示すように、DS10Dグループの角膜不整スコア(3.375±0.479 score)は、対照群(0.250±0.289 score)に比べて、13.5倍に増加し、SOS1グループで観察された減少は、10日目に7.4%(3.125±0.250 score、P<0.05)であった。また、SOS2およびSOS3のグループで観察された角膜表面の不整は、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に8%(2.875±0.250 score、P<0.05)および20.7%(2.875±0.250 score、P<0.05)減少した。SOS4およびSOS5のグループの不整は、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に83.3%(0.625±0.479 score、P<0.05)および87.9%(0.500±0.408 score、P<0.05)減少した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、白色光リングの歪みが10日目に対照群レベルまで改善した。
【0044】
(3)角膜蛍光染色に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図3に示すように、対照群の角膜では、蛍光染色の取り込みが認められず、上皮障壁が損傷していないことを示している。しかし、DS10Dの角膜は、斑状の(patchy)染色パターンを示し、上皮障壁が損傷していることを示している。DS10Dグループの角膜蛍光スコア(9.333±1.155 score)は、対照群(0.333±0.577 score)に比べて、28倍に増加し、SOS1グループでは、10日目でも減少しなかった(9.333±0.577 score、P<0.05)。しかし、SOS2およびSOS3のグループで観察された角膜蛍光スコアは、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に3.4%(9.333±0.577、P<0.05)および10%(9.0±0 score、P<0.05)減少した。また、SOS4およびSOS5のグループの角膜蛍光スコアは、DS10Dグループに比べて、それぞれ10日目に72.4%(2.667±0.577、P<0.05)および83.3%(1.667±0.577、P<0.05)減少した。特に、SOS4およびSOS5のグループでは、角膜上皮障壁の損傷が10日目に対照群レベルまで改善した。
【0045】
(4)角膜上皮細胞の剥離に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図4に示すように、剥離した角膜上皮細胞の数は、対照群(0.190±0.165 cells/0.1mm
2)に比べて、DS10Dグループで8.5倍に増加した(1.619±0.165 cells/0.1mm
2、P<0.05)。剥離した角膜上皮細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS1グループでは、1.1倍に増加した(1.810±0.165 cells/0.1mm
2、P<0.05)。一方、SOS2およびSOS3のグループで観察された剥離した角膜上皮細胞の数(1.238±0.165および1.238±0.165 cells/0.1mm
2)は、DS10Dグループに比べて、それぞれ23.5%および23.5%減少した(P<0.05)。また、剥離した角膜上皮細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで、それぞれ70.6%(0.476±0.165 cells/0.1mm
2、P<0.05)および76.5%(0.381±0.165 cells/0.1mm
2、P<0.05)減少した。
【0046】
(5)結膜杯細胞に対するスルグリコチド含有点眼液の効果
図5に示すように、結膜杯細胞の数は、対照群(17.333±0.873 cells/0.1mm
2)に比べて、DS10Dグループで57.7%(7.333±1.288 cells/0.1mm
2)減少したが、SOS1グループでは、DS10Dグループに比べて、1.1倍(8.095±0.165 cells/0.1mm
2、P<0.05)に増加した。結膜杯細胞の数は、DS10Dグループに比べて、SOS2およびSOS3のグループでそれぞれ1.2倍(8.762±0.825 cells/0.1mm
2、P<0.05)および1.4倍(10.381±0.436 cells/0.1mm
2、P<0.05)に増加した。また、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで、それぞれ1.9倍(14.286±1.143 cells/0.1mm
2、P<0.05)および2.4倍(17.714±2.268 cells/0.1mm
2、P<0.05)に増加した。
【0047】
(6)ドライアイのマウスモデルでのスルグリコチド含有点眼液の抗炎症効果
図6に示すように、涙腺の切片(sections)を用いて、TNF−α、MMP−2、MMP−9、ICAM−1、およびVCAM−1の免疫染色を行った。炎症マーカーであるTNF−αは、乾燥ストレスの除去後、涙腺で有意に過剰発現した。しかし、SOS4およびSOS5のグループでは、TNF−αの発現は抑制されていた。また、MMP−2およびMMP−9の免疫染色についても、涙腺で強い染色が認められたが、この染色はSOS4およびSOS5のグループでは有意に抑制されていた。ICAM−1およびVCAM−1の染色は、DS10Dグループの涙腺に非常に限られていた。これらの涙腺の陽性マーカーは、DS10Dグループに比べて、SOS4およびSOS5のグループで抑制されていた。