特許第6982640号(P6982640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982640架橋親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982640
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】架橋親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20211206BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20211206BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20211206BHJP
   C08G 65/333 20060101ALI20211206BHJP
   C08G 65/334 20060101ALI20211206BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20211206BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20211206BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20211206BHJP
   C08G 77/458 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   G02C7/04
   C08G18/64 069
   C08G18/67 010
   C08G65/333
   C08G65/334
   A61L27/18
   A61L27/34
   A61L27/52
   !C08G77/458
【請求項の数】24
【外国語出願】
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2020-13547(P2020-13547)
(22)【出願日】2020年1月30日
(62)【分割の表示】特願2018-27097(P2018-27097)の分割
【原出願日】2011年7月29日
(65)【公開番号】特開2020-98354(P2020-98354A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2020年2月17日
(31)【優先権主張番号】61/448,478
(32)【優先日】2011年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/369,102
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520000722
【氏名又は名称】アルコン インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】チュ,ユンシン
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル,ニュートン・ティー
(72)【発明者】
【氏名】プルーイット,ジョン・ダラス
(72)【発明者】
【氏名】コルール,チャンダナ
(72)【発明者】
【氏名】メディナ,アルトーロ・エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ウィンタートン,リン・クック
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ダーチン
(72)【発明者】
【氏名】チァン,シンミン
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン,ジャレッド
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−106189(JP,A)
【文献】 特表2009−504820(JP,A)
【文献】 特開2008−050576(JP,A)
【文献】 特開2007−130386(JP,A)
【文献】 特表2007−531905(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0156745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンヒドロゲル材料、及び
該シリコーンヒドロゲル材料上にあって、該シリコーンヒドロゲル材料上に架橋した、架橋親水性コーティング
を含む、眼用に適合性のあるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであって、
前記架橋親水性コーティングが
第1のポリマー鎖と、
反応性官能基を有する親水性増強剤から該反応性官能基と前記第1のポリマー鎖との共有結合により誘導される、5〜80重量%のポリ(エチレングリコール)鎖を含み、
前記反応性官能基は、少なくとも一つの、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記親水性増強剤が、1個だけのアミノ基を持つポリ(エチレングリコール)、1個だけのカルボキシル基を持つポリ(エチレングリコール)、1個だけのチオール基を持つポリ(エチレングリコール)、HN−PEG−NH、HOOC−PEG−COOH、HS−PEG−SH、HN−PEG−COOH、HOOC−PEG−SH、HN−PEG−SH、1個以上のアミノ基を持つマルチアームPEG、1個以上のカルボキシル基を持つマルチアームPEG、1個以上のチオール基を持つマルチアームPEG、1個以上のアミノ基を持つPEGデンドリマー、1個以上のカルボキシル基を持つPEGデンドリマー、1個以上のチオール基を持つPEGデンドリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つでありPEGはポリエチレングリコールを表し、
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、
(1)水ブレイクアップ時間(「WBUT」)が少なくとも5秒、又は平均水接触角が80度以下、又はそれら両方であり、
(2)酸素透過度が少なくとも40barrerであり、
(3)弾性率が1.5MPa以下であり、
(4)完全に水和した場合の含水量が18〜70重量%である、
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、WBUTが少なくとも10秒であり、酸素透過度が少なくとも50barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPaである、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、平均水接触角が70度以下であり、酸素透過度が少なくとも50barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPaである、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、平均水接触角が60度以下であり、酸素透過度が少なくとも50barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPaである、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも60barrerである、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも60barrerである、請求項2に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも60barrerである、請求項3に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項8】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも60barrerである、請求項4に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも70barrerである、請求項1に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項10】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも70barrerである、請求項2に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項11】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも70barrerである、請求項3に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項12】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの酸素透過度が少なくとも70barrerである、請求項4に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記PEG鎖が、1個だけのチオール基を持つポリ(エチレングリコール)、HS−PEG−SH、1個以上のチオール基を持つマルチアームPEG、1個以上のチオール基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記PEG鎖が、1個だけのアミノ基を持つポリ(エチレングリコール)、HN−PEG−NH、1個以上のアミノ基を持つマルチアームPEG、1個以上のアミノ基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項15】
前記PEG鎖が、1個だけのカルボキシル基を持つポリ(エチレングリコール)、HOOC−PEG−COOH、1個以上のカルボキシル基を持つマルチアームPEG、1個以上のカルボキシル基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項1〜12のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項16】
シリコーンヒドロゲル材料、及び
該シリコーンヒドロゲル材料上にあって、該シリコーンヒドロゲル材料上に架橋した架橋親水性コーティングを含む、眼用に適合性のあるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであって、
前記架橋親水性コーティングが、
第1のポリマー鎖と、
反応性官能基を有する親水性増強剤から該反応性官能基と前記第1のポリマー鎖との共有結合により誘導される、5重量%〜80重量%のポリ(エチレングリコール)鎖(PEG鎖)とを含み、
前記反応性官能基は、少なくとも一つの、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記親水性増強剤が、1個だけのアミノ基を持つポリ(エチレングリコール)、1個だけのカルボキシル基を持つポリ(エチレングリコール)、1個だけのチオール基を持つポリ(エチレングリコール)、HN−PEG−NH、HOOC−PEG−COOH、HS−PEG−SH、HN−PEG−COOH、HOOC−PEG−SH、HN−PEG−SH、1個以上のアミノ基を持つマルチアームPEG、1個以上のカルボキシル基を持つマルチアームPEG、1個以上のチオール基を持つマルチアームPEG、1個以上のアミノ基を持つPEGデンドリマー、1個以上のカルボキシル基を持つPEGデンドリマー、1個以上のチオール基を持つPEGデンドリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つであり、PEGはポリエチレングリコールを表し、
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、
(1)酸素透過度が少なくとも40barrerであり、
(2)弾性率が1.5MPa以下であり、
(3)完全に水和した場合の含水量が18〜70重量%であり、
(4)水接触角が90度以下であり、
(5)指擦り試験に耐える良好なコーティング耐久性を有し、
ここで、指擦り試験に耐えるとは、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを、Solo-care(登録商標)多目的レンズケア液で30回指で擦り、次いで生理食塩水で濯いだ後、該指で擦ったシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの水接触角が、なお90度以下であることを意味する、
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項17】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、水接触角が90度以下であり、酸素透過度が少なくとも50barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPa以下である、請求項16に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項18】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、水接触角が80度以下であり、酸素透過度が少なくとも60barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPa以下である、請求項16に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項19】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの、水接触角が70度以下であり、酸素透過度が少なくとも70barrerであり、弾性率が0.3〜1.0MPa以下である、請求項16に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項20】
前記PEG鎖が、1個だけのチオール基を持つポリ(エチレングリコール)、HS−PEG−SH、1個以上のチオール基を持つマルチアームPEG、1個以上のチオール基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項16〜19のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項21】
前記PEG鎖が、1個だけのアミノ基を持つポリ(エチレングリコール)、HN−PEG−NH、1個以上のアミノ基を持つマルチアームPEG、1個以上のアミノ基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項16〜19のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項22】
前記PEG鎖が、1個だけのカルボキシル基を持つポリ(エチレングリコール)、HOOC−PEG−COOH、1個以上のカルボキシル基を持つマルチアームPEG、1個以上のカルボキシル基を持つPEGデンドリマー、またはこれらの組み合わせから誘導される、請求項16〜19のいずれか一項に記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項23】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの水接触角が60度以下である、請求項16〜22のいずれか一項記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【請求項24】
前記シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの水接触角が50度以下である、請求項16〜22のいずれか一項記載のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズに、その親水性及び潤滑性を改善するために、架橋親水性コーティングを施すための費用効果及び時間効率が高い方法に関する。更に、本発明は、眼用レンズ製品を提供する。
【0002】
背景
ソフトシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、その高い酸素透過度及び快適さのために、ますます人気が高まっている。しかし、シリコーンヒドロゲル材料は、典型的には疎水性(非湿潤性)であり、眼の環境からの脂質又はタンパク質を吸着しやすく、眼に付着するかもしれない表面、又はその表面の少なくとも幾つかの領域を有する。即ち、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは一般に、表面修飾を必要とするだろう。
【0003】
比較的疎水性のコンタクトレンズ材料の親水性を修飾するための既知のアプローチは、プラズマ処理の利用によるものであり、例えば、Focus NIGHT & DAY(商標)及びO2OPTIX(商標)(CIBA VISION)、並びにPUREVISION(商標)(Bausch & Lomb)のような市販のレンズは、その生産プロセスにおいてこのアプローチを利用している。例えば、Focus NIGHT & DAY(商標)に見られるようなプラズマコーティングの利点は、その耐久性、比較的高い親水性/湿潤性、並びに脂質及びタンパク質の沈着及び吸着に対する低い感受性である。しかし、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズのプラズマ処理は、予め形成されたコンタクトレンズを典型的にはプラズマ処理の前に乾燥させる必要があるため、及びプラズマ処理装置に関連する比較的高い設備投資のため、費用効果が高くはないだろう。
【0004】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面親水性を修飾するための別のアプローチは、米国特許第6,367,929号、6,822,016号、7,052,131号、及び7,249,848号に提案されるように、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを製造するためのレンズ配合物への湿潤剤(親水性ポリマー)の取り込みである。この方法は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの注型後にレンズの表面親水性を修飾するための更なる事後プロセスを必要としない。しかし、湿潤剤は、レンズ配合物中のシリコーン成分と併用できるとは限らず、そしてこの配合禁忌が、形成されるレンズを混濁させるかもしれない。更に、このような表面処理は、脂質の沈着及び吸着を受けやすい。加えて、このような表面処理は、長時間装用を目的とする耐久性表面を提供することができない。
【0005】
比較的疎水性のコンタクトレンズ材料の親水性を修飾するための更に別のアプローチは、レイヤーバイレイヤー(layer-by-layer)(LbL)ポリイオン性材料蒸着法(例えば、米国特許US 6,451,871号、US 6,717,929号、US 6,793,973号、US 6,884,457号、US 6,896,926号、US 6,926,965号、US 6,940,580号、及びUS 7,297,725号、並びに米国特許出願公開 US 2007/0229758A1、US 2008/0174035A1、及びUS 2008/0152800A1を参照のこと)である。LbL蒸着法は、シリコーンヒドロゲル材料を湿潤性にするための費用効果が高いプロセスを提供できるが、LbLコーティングは、プラズマコーティングほど耐久性が高くなく、比較的高い表面電荷密度を有するかもしれない;そしてこれは、コンタクトレンズの洗浄及び消毒液に干渉するかもしれない。耐久性を改善するため、共同所有の同時係属出願である米国特許出願公開2008/0226922 A1 及び 2009/0186229 A1(その全体が引用例として取り込まれる)に、コンタクトレンズ上のLbLコーティングの架橋が提案されている。しかし、架橋LbLコーティングは、元のLbLコーティング(架橋前)よりも劣る親水性及び/又は湿潤性を有することがあり、そしてなお比較的高い表面電荷密度を有する。
【0006】
比較的疎水性のコンタクトレンズ材料の親水性を修飾するためのまた更に別のアプローチは、種々の機序により親水性ポリマーをコンタクトレンズ上に結合させることである(例えば、米国特許第6,099,122号、6,436,481号、6,440,571号、6,447,920号、6,465,056号、6,521,352号、6,586,038号、6,623,747号、6,730,366号、6,734,321号、6,835,410号、6,878,399号、6,923,978号、6,440,571号、及び6,500,481号、米国特許出願公開 2009/0145086A1、2009/0145091A1、2008/0142038A1、及び 2007/0122540A1を参照のこと;これらは全部その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)。これらの手法は、シリコーンヒドロゲル材料を湿潤性にするのに利用できるが、典型的にはこれらは比較的長時間を必要とし、かつ/又は親水性コーティングを得るための困難で複数の工程を伴うため、大量生産環境において実現するには費用効果及び/又は時間効率が高くないだろう。
【0007】
したがって、湿潤性で耐久性のコーティング(表面)を持つシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを費用効果及び時間効率が高い方法で生産する方法に対するニーズは、今なお存在している。
【0008】
発明の要約
本発明は、1つの態様において、それぞれ架橋親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを生産する方法であって、(a)シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ及び水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を得る工程[ここで、このコンタクトレンズは、アミノ及び/又はカルボキシル基をコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍に含み、親水性ポリマー材料は、(i)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95重量%の第1のポリマー鎖、(ii)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤から誘導される、約5%〜約80重量%の親水性部分又は第2のポリマー鎖(ここで、この親水性部分又は第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(iii)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント若しくは末端基であるアゼチジニウム基を含む];並びに(b)水溶液中で親水性ポリマー材料の存在下で約40℃〜約140℃までの及びこの温度で、親水性ポリマー材料をコンタクトレンズの表面上に、それぞれ親水性ポリマー材料の1個のアゼチジニウム基と、コンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍のアミノ及び/又はカルボキシル基の1個との間に形成される第2の共有結合を介して共有結合させるのに充分な時間、コンタクトレンズを加熱し、それによってコンタクトレンズ上に架橋親水性コーティングを形成する工程を含む方法を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、本発明の方法により得られるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであって、少なくとも約40barrerの酸素透過度、約100度以下の水接触角を特徴とする表面湿潤性、及び指擦り試験に耐えることを特徴とする良好なコーティング耐久性を有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを提供する。
【0010】
更に別の態様において、本発明は、滅菌及び密閉したレンズパッケージを含む眼用製品を提供するが、ここで、このレンズパッケージは、オートクレーブ処理後レンズパッケージング溶液及びそこに浸した直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを含み、そしてこの直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、アミノ基及び/又はカルボキシル基を元のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍に有する元のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを、水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を含有するオートクレーブ処理前パッケージング溶液中でオートクレーブ処理することにより得られる架橋親水性コーティングを含み、そしてこの親水性ポリマー材料は、(i)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95重量%の第1のポリマー鎖、(ii)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤から誘導された、約5%〜約80重量%の親水性部分又は第2のポリマー鎖(ここで、この親水性部分又は第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(iii)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント若しくは末端基であるアゼチジニウム基を含み、そしてこの親水性ポリマー材料は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズに、それぞれシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍の1個のアミノ又はカルボキシル基と、親水性ポリマー材料の1個のアゼチジニウム基との間に形成される第2の共有結合を介して共有結合しており、そしてこのオートクレーブ処理後パッケージング溶液は、約6.0〜約8.5のpHを維持するのに充分な量で少なくとも1種の緩衝剤及び親水性ポリマー材料の加水分解産物を含み、そして約200〜約450ミリオスモル(mOsm)の張度及び約1センチポアズ〜約20センチポアズの粘度を有する。
【0011】
更にまた別の態様において、本発明は、水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料であって、(a)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95重量%の第1のポリマー鎖;(b)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強ポリマー剤から誘導された、約5%〜約80重量%の第2のポリマー鎖(ここで、この第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強ポリマー剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(c)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント若しくは末端基であるアゼチジニウム基を含む材料を提供する。
【0012】
本発明のこれらの態様や他の態様は、目下好ましい実施態様の以下の説明から明らかになろう。この詳細な説明は、単に本発明を例証するものであって、本発明の範囲を限定するものではなく、そして本発明の範囲は、添付の請求の範囲及びその均等物により定義される。当業者には明白であろうように、本開示の新規概念の本質及び範囲を逸することなく、本発明の多くの変法及び変形を達成することができる。
【0013】
発明の実施態様の詳細な説明
これから本発明の実施態様について詳細に記述する。当業者には、本発明の範囲又は本質を逸することなく、本発明において種々の変形、変法及び組合せを行いうることは明らかとなろう。例えば、1つの実施態様の一部として例証又は記載される特色は、別の実施態様に利用することにより、更に別の実施態様を生み出すことができる。よって、本発明は、このような変形、変法及び組合せを、添付の請求の範囲及びその均等物の範囲に入るものとして取り扱うものである。本発明の他の目的、特色及び態様は、以下の詳細な説明に開示されるか、又はそこから明白である。当業者には当然のことながら、本考察は、単に例となる実施態様の説明であり、本発明の更に広い態様を限定するものではない。
【0014】
特に断りない限り、本明細書に使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する当該分野における通常の技術者が共通に理解する意味と同じ意味を有する。一般に、本明細書に使用される命名法及び実験室の手順は、当該分野において周知であり共通に利用されている。これらの手順には、当該分野及び種々の一般的な参考文献に提供されるような、従来法が使用されている。ある用語が単数形で提供される場合、本発明者らは、その用語の複数形も考えに入れる。本明細書に使用される命名法及び後述の実験室の手順は、当該分野において周知であり共通に利用されているものである。
【0015】
「シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ」とは、シリコーンヒドロゲル材料を含むコンタクトレンズのことをいう。「シリコーンヒドロゲル」とは、完全に水和すると少なくとも10重量パーセントの水を吸収でき、そして少なくとも1種のシリコーン含有ビニルモノマー又は少なくとも1種のシリコーン含有ビニルマクロマー又は少なくとも1種のエチレン性不飽和基を有するシリコーン含有プレポリマーを含む重合しうる組成物の共重合により得られるシリコーン含有ポリマー材料のことをいう。
【0016】
「ビニルモノマー」とは、本明細書に使用されるとき、単一のエチレン性不飽和基を有しており、そして化学線又は熱により重合しうる化合物のことをいう。
【0017】
「オレフィン性不飽和基」又は「エチレン性不飽和基」という用語は、本明細書では広い意味で使用され、そして少なくとも1個の>C=C<基を含有する任意の基を包含するものである。例となるエチレン性不飽和基は、特に限定されないが、下記式:
【0018】
【化1】

で示される(メタ)アクリロイル、アリル、下記式:
【0019】
【化2】

で示されるビニル、スチレニル、又は他のC=C含有基を包含する。
【0020】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は、メタクリルアミド及び/又はアクリルアミドのことをいう。
【0021】
「(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリレート及び/又はアクリレートのことをいう。
【0022】
「親水性ビニルモノマー」とは、本明細書に使用されるとき、水溶性であるか、又は完全に水和すると少なくとも10重量パーセントの水を吸収できるポリマーを典型的にはホモポリマーとして生じさせるビニルモノマーのことをいう。
【0023】
「疎水性ビニルモノマー」とは、本明細書に使用されるとき、水不溶性であり、かつ10重量パーセント未満の水しか吸収できないポリマーを典型的にはホモポリマーとして生じさせるビニルモノマーのことをいう。
【0024】
「マクロマー」又は「プレポリマー」とは、2個以上のエチレン性不飽和基を含有する、中及び高分子量化合物又はポリマーのことをいう。中及び高分子量とは、典型的には700ダルトンを超える平均分子量を意味する。
【0025】
「架橋物質(crosslinker)」とは、少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有する化合物のことをいう。「架橋剤(crosslinking agent)」とは、約700ダルトン以下の分子量を有する架橋物質のことをいう。
【0026】
「ポリマー」は、1種以上のモノマー又はマクロマー又はプレポリマーを重合/架橋することにより形成される材料を意味する。
【0027】
ポリマー材料(モノマー又はマクロマー材料を包含する)の「分子量」とは、本明細書に使用されるとき、特に断りない限り又は特に試験条件が示されない限り、重量平均分子量のことをいう。
【0028】
「アミノ基」という用語は、特に断りない限り、式:−NHR’(式中、R’は、水素又はC−C20の非置換若しくは置換の直鎖若しくは分岐のアルキル基である)の第1級又は第2級アミノ基のことをいう。
【0029】
「エピクロロヒドリン官能化ポリアミン」又は「エピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン」とは、ポリアミン又はポリアミドアミンをエピクロロヒドリンと反応させて、ポリアミン又はポリアミドアミンの全ての又は相当な割合のアミン基をアゼチジニウム基に変換することにより得られるポリマーのことをいう。
【0030】
「アゼチジニウム基」とは、下記式:
【0031】
【化3】

で示される正電荷を持つ基のことをいう。
【0032】
ポリマー材料又は官能基に関して「熱架橋しうる」という用語は、そのポリマー材料又は官能基が、比較的高温(約40℃〜約140℃)で別の材料又は官能基との架橋(又はカップリング)反応を起こすことができるのに対して、このポリマー材料又は官能基が、室温(即ち、約22℃〜約28℃、好ましくは約24℃〜約26℃、特に約25℃)では約1時間検出可能な時間を延ばしても別の材料又は官能基と同じ架橋反応(又はカップリング反応)を起こすことができないことを意味する。
【0033】
「ホスホリルコリン」という用語は、下記式:
【0034】
【化4】

[式中、nは、1〜5の整数であり、そしてR、R及びRは、相互に独立に、C−Cアルキル又はC−Cヒドロキシアルキルである]で示される両性イオンのことをいう。
【0035】
「反応性ビニルモノマー」という用語は、カルボキシル基又はアミノ基(即ち、第1級又は第2級アミノ基)を有するビニルモノマーのことをいう。
【0036】
「非反応性親水性ビニルモノマー」という用語は、カルボキシル基又はアミノ基(即ち、第1級又は第2級アミノ基)がない親水性ビニルモノマーのことをいう。非反応性ビニルモノマーは、第3級又は第4級アミノ基を包含することができる。
【0037】
ポリマーに関して「水溶性」という用語は、このポリマーが、室温(上記と同義)で最高約30重量%の濃度を有するポリマーの水溶液を形成するのに充分な程度まで、水に溶解できることを意味する。
【0038】
「水接触角」とは、平均水接触角(即ち、静滴法(Sessile Drop method)により測定される接触角)のことをいい、これは、少なくとも3個の個々のコンタクトレンズとの接触角の測定値を平均することにより得られる。
【0039】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上のコーティングに関して「無傷性(intactness)」という用語は、このコンタクトレンズが、実施例1に記載されるスダンブラック染色試験においてスダンブラックにより染色できる程度を記述することを目的としている。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上のコーティングの良好な無傷性とは、事実上コンタクトレンズのスダンブラック染色が存在しないことを意味する。
【0040】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上のコーティングに関して「耐久性」という用語は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上のコーティングが、指擦り試験に耐えられることを記述するのを目的としている。
【0041】
本明細書に使用されるとき、コンタクトレンズ上のコーティングに関して「指擦り試験に耐える」又は「耐久性試験に耐える」とは、実施例1に記載される手順により指でレンズを擦った後、指で擦ったレンズの水接触角がなお約100度以下、好ましくは約90度以下、更に好ましくは約80度以下、最も好ましくは約70度以下であることを意味する。
【0042】
材料の固有の「酸素透過度」、Dkは、酸素が材料を通り抜ける速度である。本発明では、ヒドロゲル(シリコーン又は非シリコーン)又はコンタクトレンズに関して「酸素透過度(Dk)」という用語は、本明細書に後述の実施例に示される手順による、境界層効果に起因する酸素フラックスに対する表面抵抗について補正された酸素透過度(Dk)を意味する。酸素透過度は、従来からbarrerの単位で表されるが、ここで「barrer」は、[(cm酸素)(mm)/(cm)(秒)(mmHg)]×10−10として定義される。
【0043】
レンズ又は材料の「酸素伝達率」、Dk/tは、測定される面積でt[mmの単位]の平均厚さを持つ特定のレンズ又は材料を酸素が通り抜ける速度である。酸素伝達率は、従来からbarrer/mmの単位で表されるが、ここで「barrer/mm」は、[(cm酸素)/(cm)(秒)(mmHg)]×10−9として定義される。
【0044】
レンズを介する「イオン透過性」は、イオノフラックス拡散係数と相関する。このイオノフラックス拡散係数、D([mm/分]の単位)は、下記式:
D = −n’/(A × dc/dx)
[式中、n’=イオン輸送の速度[mol/分];A=曝露されたレンズの面積[mm];dc=濃度差[mol/L];dx=レンズの厚さ[mm]]のとおり、フィックの法則を適用することにより求める。
【0045】
「眼用に適合性」とは、本明細書に使用されるとき、眼環境に有意な損傷を及ぼすことなく、かつ使用者に有意な不快感を与えることなく、長時間眼環境と密接に接触させられる材料又は材料の表面のことをいう。
【0046】
コンタクトレンズを滅菌及び保存するためのパッケージング溶液に関して「眼用に安全」という用語は、その溶液に保存されるコンタクトレンズが、オートクレーブ処理後の洗浄なしに眼に直接留置するのに安全であること、及びその溶液が、コンタクトレンズを介しての眼との毎日の接触のために安全かつ充分に快適であることを意味する。オートクレーブ処理後の眼用に安全なパッケージング溶液は、眼に適合性である張度及びpHを有しており、そして国際ISO標準及び米国FDAの規制による眼刺激性又は眼細胞毒性の材料を実質的に含まない。
【0047】
本発明は一般に、アゼチジニウム基を有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料の使用による、耐久性親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを製造するための費用効果及び時間効率が高い方法に関する。
【0048】
本発明は、水溶性で、アゼチジニウムを含有し、かつ熱架橋しうる親水性ポリマー材料(これは、ポリアミン−エピクロロヒドリン又はポリアミドアミン−エピクロロヒドリンと、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤との部分反応生成物である)が、カルボン酸及び/又はアミノ基をその表面又は表面近傍に有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上に、良好な表面親水性及び/又は湿潤性、良好な親水性、並びに良好な無傷性を持つ架橋コーティングを形成するために使用できるという、驚くべき発見に一部は基づいている。比較的高温(上記と同義)で、正電荷を持つアゼチジニウム基は、アミノ基、チオール基、及びカルボン酸イオン−COO(即ち、カルボキシル基の脱プロトン型)のような官能基と反応することにより、スキーム1:
【0049】
【化5】

[ここで、Rは、化合物の残りの部分であり、Lは、−NR’−(ここで、R’は、水素、C−C20の非置換又は置換の直鎖又は分岐のアルキル基である)、又はポリマー鎖−S−、若しくは−OC(=O)−である]に図解されるように中性のヒドロキシル含有共有結合を形成する。アゼチジニウム基の熱制御可能な反応性のために、ポリアミン−エピクロロヒドリン又はポリアミドアミン−エピクロロヒドリン(PAE)は、湿潤強化剤として広く使用されている。しかしPAEは、コンタクトレンズ上の架橋コーティングを形成するためにうまく利用できていないが、これは恐らく、架橋PAEコーティングが、コンタクトレンズに望まれる親水性、湿潤性、及び潤滑性を与えることができないためである。驚くべきことに、PAEは、それぞれ1個のアゼチジニウム基と「熱前処理」又は「前処理」プロセスにおいて反応することができる1個以上の官能基を有する親水性増強剤(特に親水性ポリマー)で化学修飾することによって、水溶性のアゼチジニウム含有ポリマー材料が得られることが今や発見された。アゼチジニウム基の存在により、なお熱架橋しうる(反応性である)このようなポリマー材料は、反応性官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、又はこれらの組合せ)をその表面上及び/又は表面近傍に有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上に架橋コーティングを形成するために使用することができる。そして驚くべきことに、水溶性のアゼチジニウム含有ポリマー材料から誘導された、生じるコンタクトレンズ上の架橋コーティングは、非修飾(元の又は出発物質の)PAE単独を用いるか、又はPAEと親水性増強剤との混合物を用いるかのいずれかにより(水溶性のアゼチジニウム含有ポリマー材料を調製するための熱前処理を受けることなく)得られる対照コーティングに比較して、表面親水性、湿潤性及び/又は潤滑性が改善したことが発見された。
【0050】
親水性増強剤は、生じる架橋コーティングの性能の向上において少なくとも2つの役割を果たすと考えられている:親水性ポリマー鎖をポリアミン又はポリアミドアミンポリマー鎖に付加することにより、懸垂ポリマー鎖及び/又は鎖セグメントを持つ高度分岐親水性ポリマー材料を形成すること;並びに架橋しうるポリマー材料(コーティング材料)のアゼチジニウム基の数を有意に減少させることにより、架橋したコーティングの架橋密度を低下させること。ゆるい構造と、懸垂ポリマー鎖及び/又は鎖セグメントとを持つコーティングは、良好な表面親水性、湿潤性及び/又は潤滑性を与えると考えられる。
【0051】
本発明はまた、本発明の架橋コーティングが、水溶性のアゼチジニウム含有ポリマー材料の存在下で、レンズパッケージング溶液に浸したコンタクトレンズを含有するレンズパッケージ内でシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上に有利には直接形成することができるという発見に一部は基づいている。アゼチジニウム含有ポリマー材料の存在は、アゼチジニウム含有ポリマー材料をレンズパッケージング溶液に加えるか、又はパッケージングの前に、アゼチジニウム含有ポリマー材料の層をコンタクトレンズの表面上に室温で物理蒸着するかのいずれかにより達成できる。
【0052】
典型的には、パッケージング溶液に水和及びパッケージングされるコンタクトレンズは、滅菌しなければならない。製造及びパッケージング中の水和レンズの滅菌は、典型的にはオートクレーブ処理により達成される。オートクレーブ処理プロセスは、コンタクトレンズのパッケージを約118℃〜約125℃の温度まで大体20〜40分間加圧下で加熱することを伴う。オートクレーブ処理中に水溶性のアゼチジニウム含有ポリマー材料は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍の官能基(例えば、アミノ基、チオール基、及び/又はカルボン酸基)と効果的に架橋して、湿潤性で眼用に適合性の架橋コーティングを形成できることが発見された。オートクレーブ処理中に、架橋反応に関与しないアゼチジニウム基は、2,3−ジヒドロキシプロピル(HO−CH−CH(OH)−CH−)基に加水分解され、レンズパッケージング溶液中に存在するアゼチジニウム含有ポリマー材料は、該当する場合、レンズ挿入の快適さを向上させられる非反応性ポリマー湿潤材料に変換することができると考えられる。
【0053】
本発明の方法を利用することにより、コーティングプロセスは、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの製造において滅菌工程(オートクレーブ処理)と組合せることができる。得られるコンタクトレンズは、高い表面親水性/湿潤性、あっても最小限の表面変化、良好な無傷性、及び良好な耐久性を有することができるだけでなく、パッケージング溶液が眼用に適合性であるため、患者は洗浄及び/又は濯ぎを行うことなく、レンズパッケージから直接使用することができる。
【0054】
本発明は、1つの態様において、それぞれ架橋親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを生産する方法であって、(a)シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ及び水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を得る工程[ここで、このコンタクトレンズは、アミノ及び/又はカルボキシル基をコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍に含み、そしてこの親水性ポリマー材料は、(i)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95重量%の第1のポリマー鎖、(ii)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤から誘導された、約5%〜約80重量%の親水性部分又は第2のポリマー鎖(ここで、この親水性部分又は第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(iii)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント若しくは末端基であるアゼチジニウム基を含む]、並びに(b)水溶液中で親水性ポリマー材料の存在下で約40℃〜約140℃までの及びこの温度で、親水性ポリマー材料をコンタクトレンズの表面上に、それぞれ親水性ポリマー材料の1個のアゼチジニウム基と、コンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍のアミノ及び/又はカルボキシル基の1個との間に形成される第2の共有結合を介して共有結合させるのに充分な時間、コンタクトレンズを加熱し、それによってコンタクトレンズ上に架橋親水性コーティングを形成する工程を含む方法を提供する。
【0055】
当業者であれば、コンタクトレンズの製造方法は周知である。例えば、コンタクトレンズは、米国特許第3,408,429号に記載されるように従来法の「回転成形用型」で、又は米国特許第4,347,198号;5,508,317号;5,583,463号;5,789,464号;及び5,849,810号に記載されるように静止形での完全注型法により製造することができる。注型法では、レンズ配合物は、典型的には成形用型に注入され、コンタクトレンズ製造用の成形用型中で硬化(即ち、重合及び/又は架橋)される。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの製造においては、当業者には周知のとおり、注型用のレンズ配合物は一般に、シリコーン含有ビニルモノマー、シリコーン含有ビニルマクロマー、シリコーン含有プレポリマー、親水性ビニルモノマー、親水性ビニルマクロマー、疎水性ビニルモノマー、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ配合物はまた、当業者には知られているように、例えば、架橋剤、UV吸収剤、可視着色剤(例えば、染料、顔料、又はこれらの混合物)、抗菌剤(例えば、好ましくは銀ナノ粒子)、生物活性剤、浸出性潤滑剤、浸出性涙液安定化剤、及びこれらの混合物のような、当業者には既知の他の必要成分を含むことができる。成形されたシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは次に、当業者には知られているように、抽出溶媒での抽出に付されることにより、非重合成分を成形レンズから除去し、そして水和プロセスに付すことができる。多数のシリコーンヒドロゲルレンズ配合物が、本出願の出願日までに公開された多数の特許及び特許出願に記載されている。
【0056】
本発明により、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、その表面上及び/又は表面近傍にアミノ基及び/又はカルボキシル基を本質的に含むことができるか、又は含むように修飾されることができる。
【0057】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズがその表面上及び/又は表面近傍にアミノ基及び/又はカルボキシル基を本質的に含む場合に、これは、反応性ビニルモノマーを含むシリコーンヒドロゲルレンズ配合物を重合することにより得られる。
【0058】
好ましい反応性ビニルモノマーの例は、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アミノ−C−Cアルキル、(メタ)アクリル酸C−Cアルキルアミノ−C−Cアルキル、アリルアミン、ビニルアミン、アミノ−C−Cアルキル(メタ)アクリルアミド、C−Cアルキルアミノ−C−Cアルキル(メタ)アクリルアミド、アクリル酸、C−C12アルキルアクリル酸(例えば、メタクリル酸、エチルアクリル酸、プロピルアクリル酸、ブチルアクリル酸など)、N,N−2−アクリルアミドグリコール酸、β−メチル−アクリル酸(クロトン酸)、α−フェニルアクリル酸、β−アクリルオキシプロピオン酸、ソルビン酸、アンゲリカ酸、ケイ皮酸、1−カルボキシ−4−フェニル−1,3−ブタジエン、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、マレイン酸、フマル酸、トリカルボキシエチレン、及びこれらの組合せを包含する。好ましくは、このシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、(メタ)アクリル酸アミノ−C−Cアルキル、(メタ)アクリル酸C−Cアルキルアミノ−C−Cアルキル、アリルアミン、ビニルアミン、アミノ−C−Cアルキル(メタ)アクリルアミド、C−Cアルキルアミノ−C−Cアルキル(メタ)アクリルアミド、アクリル酸、C−C12アルキルアクリル酸、N,N−2−アクリルアミドグリコール酸、及びこれらの組合せよりなる群から選択される、少なくとも1種の反応性ビニルモノマーを含むレンズ配合物から製造される。このレンズ配合物は、好ましくは約0.1%〜約10%、更に好ましくは約0.25%〜約7%、更になお好ましくは約0.5%〜約5%、最も好ましくは約0.75%〜約3%(重量%)の反応性ビニルモノマーを含む。
【0059】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズはまた、表面処理に付されることにより、コンタクトレンズの表面上にアミノ基及び/又はカルボキシル基を有する反応性ベースコーティングを形成することができる。表面処理の例は、特に限定されないが、エネルギーによる表面処理(例えば、プラズマ、静電気、照射、又は他のエネルギー源)、化学処理、化学蒸着、親水性ビニルモノマー又はマクロマーの物品の表面へのグラフト化、米国特許第6,451 ,871号、6,719,929号、6,793,973号、6,811,805号、及び6,896,926号、並びに米国特許出願公開2007/0229758A1、2008/0152800A1、及び2008/0226922A1(これらの全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載される方法により得られるレイヤーバイレイヤーコーティング(「LbLコーティング」)を包含する。「LbLコーティング」とは、本明細書に使用されるとき、コンタクトレンズのポリマーマトリックスに共有結合しておらず、荷電しているか若しくは荷電可能な(プロトン化又は脱プロトン化により)、及び/又は非荷電の材料のレンズ上へのレイヤーバイレイヤー(「LbL」)により得られるコーティングのことをいう。LbLコーティングは、1層以上から構成されてよい。
【0060】
好ましくは、表面処理は、LbLコーティングプロセスである。この好ましい実施態様(即ち、反応性LbLベースコーティング実施態様)において、生じるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、少なくとも1層の反応性ポリマー(即ち、ペンダントアミノ基及び/又はカルボキシル基を有するポリマー)を包含する反応性LbLベースコーティングを含み、ここで、この反応性LbLベースコーティングは、コンタクトレンズを反応性ポリマーの溶液と接触させることにより得られる。コンタクトレンズを反応性ポリマーのコーティング溶液と接触させるのは、コンタクトレンズをコーティング溶液に浸すか、又はコンタクトレンズをコーティング溶液でスプレーすることにより可能である。1つの接触プロセスは、コンタクトレンズを専らコーティング溶液の浴に一定時間浸すか、あるいはコンタクトレンズを一連のコーティング溶液の浴に各浴について一定の短時間ずつ連続して浸すことを含む。別の接触プロセスは、専らコーティング溶液をスプレーすることを伴う。しかし、幾つかの代替法は、当該分野において通常の技能を有する人が考案しうる、スプレー工程及び浸漬工程の種々の組合せを伴う。コンタクトレンズと反応性ポリマーのコーティング溶液との接触時間は、最長約10分間、好ましくは約5〜約360秒間、更に好ましくは約5〜約250秒間、更になお好ましくは約5〜約200秒間継続してもよい。
【0061】
この反応性LbLベースコーティング実施態様では、この反応性ポリマーは、ペンダントアミノ基及び/又はカルボキシル基を有する、直鎖又は分岐のポリマーであってよい。ペンダントアミノ基及び/又はカルボキシル基を有する任意のポリマーは、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズにベースコーティングを形成するための反応性ポリマーとして使用することができる。このような反応性ポリマーの例は、特に限定されないが、反応性ビニルモノマーのホモポリマー;2種以上の反応性ビニルモノマーのコポリマー;反応性ビニルモノマーと1種以上の非反応性親水性ビニルモノマー(即ち、カルボキシル又は(第1級又は第2級)アミノ基のいずれも含まない親水性ビニルモノマー)とのコポリマー;ポリエチレンイミン(PEI);ペンダントアミノ基を持つポリビニルアルコール;カルボキシル含有セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース);ヒアルロナート;コンドロイチン硫酸;ポリ(グルタミン酸);ポリ(アスパラギン酸);及びこれらの組合せを包含する。
【0062】
好ましい反応性ビニルモノマーの例は、前述のものであるが、反応性LbLベースコーティングを形成するための反応性ポリマーを調製するのに、カルボン酸含有ビニルモノマーが最も好ましい反応性ビニルモノマーである。
【0063】
カルボキシル又はアミノ基を含まない非反応性親水性ビニルモノマーの好ましい例は、特に限定されないが、アクリルアミド(AAm)、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、N,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(DMAEM)、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(DMAEA)、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMAm)、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAAm)、メタクリル酸グリセロール、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−アクリルアミド、N−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−エチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−メチル−5−メチレン−2−ピロリドン、1−エチル−5−メチレン−2−ピロリドン、5−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、5−エチル−3−メチレン−2−ピロリドン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、1500ダルトン以下の重量平均分子量を有するC−C−アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルイソプロピルアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、アリルアルコール、ビニルアルコール(コポリマー中の酢酸ビニルの加水分解型)、ホスホリルコリン含有ビニルモノマー((メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び米国特許第5,461,433号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載されるものを包含する)、及びこれらの組合せを包含する。
【0064】
好ましくは、反応性LbLベースコーティングを形成するための反応性ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(C−C12アルキルアクリル酸)、ポリ[アクリル酸−コ−メタクリル酸]、ポリ(N,N−2−アクリルアミドグリコール酸)、ポリ[(メタ)アクリル酸−コ−アクリルアミド]、ポリ[(メタ)アクリル酸−コ−ビニルピロリドン]、ポリ[C−C12アルキルアクリル酸−コ−アクリルアミド]、ポリ[C−C12アルキルアクリル酸−コ−ビニルピロリドン]、加水分解ポリ[(メタ)アクリル酸−コ−酢酸ビニル]、加水分解ポリ[C−C12アルキルアクリル酸−コ−酢酸ビニル]、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)ホモ−若しくはコポリマー、ポリビニルアミン ホモ−若しくはコポリマー、又はこれらの組合せである。
【0065】
反応性LbLベースコーティングを形成するための反応性ポリマーの重量平均分子量Mは、少なくとも約10,000ダルトン、好ましくは少なくとも約50,000ダルトン、更に好ましくは約100,000ダルトン〜約5,000,000ダルトンである。
【0066】
コンタクトレンズ上に反応性LbLベースコーティングを形成するための反応性ポリマーの溶液は、1種以上の反応性ポリマーを、水、水と水混和性の1種以上の有機溶媒との混合物、有機溶媒、又は1種以上の有機溶媒の混合物に溶解することにより調製できる。好ましくは、反応性ポリマーは、水と1種以上の有機溶媒との混合物、有機溶媒、又は1種以上の有機溶媒の混合物に溶解する。少なくとも1種の有機溶媒を含有する溶媒系は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを膨潤させることができるため、反応性ポリマーの一部が、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズに浸透して、反応性ベースコーティングの耐久性を向上させると考えられている。
【0067】
任意の有機溶媒を反応性ポリマーの溶液の調製に使用することができる。好ましい有機溶媒の例は、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル酢酸、ジプロピレングリコールメチルエーテル酢酸、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸i−プロピル、塩化メチレン、メタノール、エタノール、1−又は2−プロパノール、1−又は2−ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、メントール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール及びエキソノルボルネオール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、3−メチル−2−ブタノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、2−ノナノール、2−デカノール、3−オクタノール、ノルボルネオール、2−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3−メチル−3−ペンタノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、1−クロロ−2−メチル−2−プロパノール、2−メチル−2−ヘプタノール、2−メチル−2−オクタノール、2−メチル−2−ノナノール、2−メチル−2−デカノール、3−メチル−3−ヘキサノール、3−メチル−3−ヘプタノール、4−メチル−4−ヘプタノール、3−メチル−3−オクタノール、4−メチル−4−オクタノール、3−メチル−3−ノナノール、4−メチル−4−ノナノール、3−メチル−3−オクタノール、3−エチル−3−ヘキサノール、3−メチル−3−ヘプタノール、4−エチル−4−ヘプタノール、4−プロピル−4−ヘプタノール、4−イソプロピル−4−ヘプタノール、2,4−ジメチル−2−ペンタノール、1−メチルシクロペンタノール、1−エチルシクロペンタノール、1−エチルシクロペンタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−4−メチル−1−シクロペンタノール、2−フェニル−2−プロパノール、2−メトキシ−2−メチル−2−プロパノール、2,3,4−トリメチル−3−ペンタノール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、2−フェニル−2−ブタノール、2−メチル−1−フェニル−2−プロパノール及び3−エチル−3−ペンタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルプロピオンアミド、N−メチルピロリジノン、並びにこれらの混合物を包含する。
【0068】
別の好ましい実施態様において、シリコーンヒドロゲルは、本質的にアミノ基及び/又はカルボキシル基をその表面上及び/又は表面近傍に含み、そして更に表面処理に付すことにより、アミノ基及び/又はカルボキシル基を中に有する反応性LbLベースコーティングを形成する。
【0069】
別の好ましい実施態様(反応性プラズマベースコーティング)において、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、プラズマ処理に付すことにより、共有結合した反応性プラズマベースコーティングをコンタクトレンズ上に形成する、即ち、1個以上の反応性ビニルモノマー(前述のもののうちのいずれか)を放電により生成したプラズマの影響下で重合する(いわゆるプラズマ誘起重合)。「プラズマ」という用語は、例えば、グロー放電により生み出される電離ガスであって、基底状態、又は任意の型の励起の任意の高い状態にある電子、どちらかの極性のイオン、ガス原子及び分子、更には光子から構成されうる電離ガスを意味する。これは、しばしば「低温プラズマ」と呼ばれる。プラズマ重合及びその使用の総説に関しては、R. Hartmann "Plasma polymerisation: Grundlagen, Technik und Anwendung, Jahrb. Oberflachentechnik (1993) 49, pp. 283-296, Battelle-Inst. e.V. Frankfurt/Main Germany; H. Yasuda, "Glow Discharge Polymerization", Journal of Polymer Science: Macromolecular Reviews, vol. 16 (1981 ), pp. 199-293; H. Yasuda, "Plasma Polymerization", Academic Press, Inc. (1985); Frank Jansen, "Plasma Deposition Processes", in "Plasma Deposited Thin Films", ed. by T. Mort and F. Jansen, CRC Press Boca Raton (19); O. Auciello et al. (ed.) "Plasma-Surface Interactions and Processing of Materials" publ. by Kluwer Academic Publishers in NATO ASI Series; Series E: Applied Sciences, vol. 176 (1990), pp. 377-399; 及び N. Dilsiz and G. Akovali "Plasma Polymerization of Selected Organic Compounds", Polymer, vol. 37 (1996) pp. 333-341に言及される。好ましくは、このプラズマ誘起重合は、WO 98028026(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載される「アフターグロー」型プラズマ誘起重合である。「アフターグロー」型プラズマ重合では、コンタクトレンズの表面を最初に非重合性プラズマガス(例えば、H、He又はAr)で処理し、次に続く工程においてこうして活性化した表面を、アミノ基又はカルボキシル基を有するビニルモノマー(上記の任意の反応性ビニルモノマー)に曝露するが、このときプラズマ出力は切っておく。活性化により、表面上にラジカルのプラズマ誘起形成が起こり、そしてこれが、続く工程においてそこにあるビニルモノマーの重合を開始させる。
【0070】
本発明では、アゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料は、エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95%、好ましくは約35%〜約90%、更に好ましくは約50%〜約85%(重量%)の第1のポリマー鎖、並びにアミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤から誘導された、約5%〜約80%、好ましくは約10%〜約65%、更になお好ましくは約15%〜約50%(重量%)の親水性部分又は第2のポリマー鎖を含む(即ち、これらを包含する組成を有する)。親水性ポリマー材料の組成は、上のスキームIに示される架橋反応により熱架橋しうる親水性ポリマー材料を調製するために使用される反応物混合物の組成(反応物の総重量に基づく)によって求められる。例えば、反応物混合物が、反応物の総重量に基づいて約75重量%のエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミン及び約25重量%の少なくとも1種の親水性増強剤を含むならば、生じる親水性ポリマー材料は、エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約75重量%の第1のポリマー鎖、及び該少なくとも1種の親水性増強剤から誘導された、約25重量%の親水性部分又は第2のポリマー鎖を含む。熱架橋しうる親水性ポリマー材料のアゼチジニウム基は、熱架橋しうる親水性ポリマー材料を調製するための架橋反応に関与しない(エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの)アゼチジニウム基である。
【0071】
エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンは、エピクロロヒドリンをポリアミンポリマー又は第1級若しくは第2級アミノ基を含有するポリマーと反応させることにより得ることができる。例えば、ポリ(アルキレンイミン)又はポリアミンとジカルボン酸から誘導されたポリ縮合物であるポリ(アミドアミン)(例えば、アジピン酸−ジエチレントリアミンコポリマー)は、エピクロロヒドリンと反応させることにより、エピクロロヒドリン官能化ポリマーを形成することができる。同様に、(メタ)アクリル酸アミノアルキル、(メタ)アクリル酸モノ−アルキルアミノアルキル、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、又はモノ−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドもまた、エピクロロヒドリンと反応させることにより、エピクロロヒドリン官能化ポリアミンを形成することができる。ポリアミン又はポリアミドアミンポリマーのエピクロロヒドリン官能化の反応条件は、EP 1465931(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に教示されている。好ましいエピクロロヒドリン官能化ポリマーは、ポリアミノアミド−エピクロロヒドリン(PAE)(又はポリアミド−ポリアミン−エピクロロヒドリン又はポリアミド−エピクロロヒドリン)であり、例えば、Hercules製のKymene(登録商標)若しくはPolycup(登録商標)樹脂(エピクロロヒドリン官能化アジピン酸−ジエチレントリアミンコポリマー)又はServo/Delden製のPolycup(登録商標)若しくはServamine(登録商標)樹脂などである。
【0072】
任意の適切な親水性増強剤は、少なくとも1個のアミノ基、少なくとも1個のカルボキシル基、及び/又は少なくとも1個のチオール基を含有する限り、本発明に使用することができる。
【0073】
好ましい種類の親水性増強剤は、特に限定されないが、アミノ−、カルボキシル−又はチオール含有単糖類(例えば、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、1−チオグリセロール、5−ケト−D−グルコン酸、ガラクトサミン、グルコサミン、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルコサミン酸、マンノサミン、糖酸1,4−ラクトン、サッカリド酸、ケトデオキシノヌロソン酸、N−メチル−D−グルカミン、1−アミノ−1−デオキシ−β−D−ガラクトース、1−アミノ−1−デオキシソルビトール、1−メチルアミノ−1−デオキシソルビトール、N−アミノエチルグルコンアミド);アミノ−、カルボキシル−又はチオール含有二糖類(例えば、コンドロイチン二糖類ナトリウム塩、ジ(β−D−キシロピラノシル)アミン、ジガラクツロン酸、ヘパリン二糖類、ヒアルロン酸二糖類、ラクトビオン酸);及びアミノ−、カルボキシル−又はチオール含有オリゴ糖類(例えば、カルボキシメチル−β−シクロデキストリンナトリウム塩、トリガラクツロン酸);並びにこれらの組合せを包含する。
【0074】
別の好ましい種類の親水性増強剤は、1個以上のアミノ、カルボキシル及び/又はチオール基を有する親水性ポリマーである。更に好ましくは、親水性増強剤としての親水性ポリマー中の、アミノ(−NHR’(R’は上記と同義である))、カルボキシル(−COOH)及び/又はチオール(−SH)基を有するモノマー単位の含量は、親水性ポリマーの総重量に基づいて、約40%未満、好ましくは約30%未満、更に好ましくは約20%未満、更になお好ましくは約10%(重量%)未満である。
【0075】
別の好ましい種類の親水性増強剤としての親水性ポリマーは、アミノ−又はカルボキシル含有多糖類、例えば、カルボキシメチルセルロース(反復単位:−[C10−m(CHCOH)]−(ここで、mは1〜3である)の組成に基づいて概算して、約40%以下のカルボキシル含量を有する)、カルボキシエチルセルロース(反復単位:−[C10−m(CCOH)]−(ここで、mは1〜3である)の組成に基づいて概算して、約36%以下のカルボキシル含量を有する)、カルボキシプロピルセルロース(反復単位:−[C10−m(CCOH)]−(ここで、mは1〜3である)の組成に基づいて概算して、約32%以下のカルボキシル含量を有する)、ヒアルロン酸(反復単位:−(C1320NCOH)−の組成に基づいて概算して、約11%のカルボキシル含量を有する)、コンドロイチン硫酸(反復単位:−(C121813NSCOH)−の組成に基づいて概算して、約9.8%のカルボキシル含量を有する)、又はこれらの組合せなどである。
【0076】
別の好ましい種類の親水性増強剤としての親水性ポリマーは、特に限定されないが、以下を包含する:1個だけのアミノ、カルボキシル又はチオール基を持つポリ(エチレングリコール)(PEG)(例えば、PEG−NH、PEG−SH、PEG−COOH);HN−PEG−NH;HOOC−PEG−COOH;HS−PEG−SH;HN−PEG−COOH;HOOC−PEG−SH;HN−PEG−SH;1個以上のアミノ、カルボキシル及び/又はチオール基を持つマルチアームPEG;1個以上のアミノ、カルボキシル及び/又はチオール基を持つPEGデンドリマー;非反応性親水性ビニルモノマーのジアミノ−又はジカルボキシル末端のホモ−又はコ−ポリマー;非反応性親水性ビニルモノマーのモノアミノ−又はモノカルボキシル末端のホモ−又はコ−ポリマー;(1)約50重量%以下、好ましくは約0.1%〜約30%、更に好ましくは約0.5%〜約20%、更になお好ましくは約1%〜約15%(重量%)の1種以上の反応性ビニルモノマー並びに(2)少なくとも1種の非反応性親水性ビニルモノマー及び/又は少なくとも1種のホスホリルコリン含有ビニルモノマーを含む組成物の重合産物であるコポリマー;並びにこれらの組合せ。反応性ビニルモノマー及び非反応性親水性ビニルモノマーは、前述のものである。
【0077】
更に好ましくは、親水性増強剤としての親水性ポリマーは、PEG−NH;PEG−SH;PEG−COOH;HN−PEG−NH;HOOC−PEG−COOH;HS−PEG−SH;HN−PEG−COOH;HOOC−PEG−SH;HN−PEG−SH;1個以上のアミノ、カルボキシル又はチオール基を持つマルチアームPEG;1個以上のアミノ、カルボキシル又はチオール基を持つPEGデンドリマー;アクリルアミド(AAm)、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、(メタ)アクリル酸グリセロール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、400ダルトン以下の重量平均分子量を有するC−C−アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、N−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−メチル−5−メチレン−2−ピロリドン、5−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びこれらの組合せよりなる群から選択される、非反応性親水性ビニルモノマーのモノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のホモ−又はコポリマー;(1)約0.1%〜約30%、好ましくは約0.5%〜約20%、更に好ましくは約1%〜約15%(重量%)の(メタ)アクリル酸、C−C12アルキルアクリル酸、ビニルアミン、アリルアミン及び/又は(メタ)アクリル酸アミノ−C−Cアルキル、並びに(2)(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び/又は少なくとも1種の非反応性親水性ビニルモノマー[アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、(メタ)アクリル酸グリセロール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、400ダルトン以下の重量平均分子量を有するC−C−アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、及びこれらの組合せよりなる群から選択される]を含む組成物の重合産物であるコポリマーである。
【0078】
最も好ましくは、親水性増強剤としての親水性ポリマーは、PEG−NH;PEG−SH;PEG−COOH;モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリビニルピロリドン;モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリアクリルアミド;モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(DMA);モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(DMA−コ−NVP);モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(NVP−コ−(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル);モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(ビニルアルコール);モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン]ホモポリマー又はコポリマー;モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(NVP−コ−ビニルアルコール);モノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のポリ(DMA−コ−ビニルアルコール);約0.1%〜約30%、好ましくは約0.5%〜約20%、更に好ましくは約1%〜約15%(重量%)の(メタ)アクリル酸を含むポリ[(メタ)アクリル酸−コ−アクリルアミド];約0.1%〜約30%、好ましくは約0.5%〜約20%、更に好ましくは約1%〜約15%(重量%)の(メタ)アクリル酸を含むポリ[(メタ)アクリル酸−コ−NVP];(1)(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及び(2)約0.1%〜約30%、好ましくは約0.5%〜約20%、更に好ましくは約1%〜約15%(重量%)のカルボン酸含有ビニルモノマー及び/又はアミノ含有ビニルモノマーを含む組成物の重合産物であるコポリマー;並びにこれらの組合せである。
【0079】
官能基を持つPEG及び官能基を持つマルチアームPEGは、種々の供給業者、例えば、Polyscience、及びShearwater Polymers, Inc.などから入手することができる。
【0080】
1種以上の非反応性親水性ビニルモノマーの、又はホスホリルコリン含有ビニルモノマーのモノアミノ−、モノカルボキシル−、ジアミノ−又はジカルボキシル末端のホモ−又はコポリマーは、米国特許第6,218,508号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載された手順により調製することができる。例えば、非反応性親水性ビニルモノマーのジアミノ−又はジカルボキシル末端のホモ−又はコ−ポリマーを調製するためには、この非反応性ビニルモノマー、アミノ又はカルボキシル基を持つ連鎖移動剤(例えば、2−アミノエタンチオール、2−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオ乳酸、又は他のヒドロキシメルカプタン類、アミノメルカプタン類、又はカルボキシル含有メルカプタン類)及び場合により他のビニルモノマーを、反応性ビニルモノマー(アミノ又はカルボキシル基を有する)と共に、フリーラジカル開始剤の存在下で共重合(熱又は化学線による)させる。一般に、反応性ビニルモノマー以外の全てのビニルモノマーに対する連鎖移動剤のモル比は、約1:5〜約1:100であるが、一方反応性ビニルモノマーに対する連鎖移動剤のモル比は、1:1である。このような調製において、アミノ又はカルボキシル基を持つ連鎖移動剤は、生じる親水性ポリマーの分子量を制御するために使用して、生じる親水性ポリマーの最終末端を形成することにより、生じる親水性ポリマーに1個の末端アミノ又はカルボキシル基を提供し、一方反応性ビニルモノマーは、生じる親水性ポリマーに他の末端カルボキシル又はアミノ基を提供する。同様に、非反応性親水性ビニルモノマーのモノアミノ−又はモノカルボキシル末端のホモ−又はコ−ポリマーを調製するためには、この非反応性ビニルモノマー、アミノ又はカルボキシル基を持つ連鎖移動剤(例えば、2−アミノエタンチオール、2−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオ乳酸、又は他のヒドロキシメルカプタン類、アミノメルカプタン類、又はカルボキシル含有メルカプタン類)及び場合により他のビニルモノマーを、どの反応性ビニルモノマーも存在しない下で共重合(熱又は化学線による)させる。
【0081】
本明細書に使用されるとき、非反応性親水性ビニルモノマーのコポリマーとは、非反応性親水性ビニルモノマーと1種以上の更なるビニルモノマーとの重合産物のことをいう。非反応性親水性ビニルモノマー及び反応性ビニルモノマー(例えば、カルボキシル含有ビニルモノマー)を含むコポリマーは、任意の周知のラジカル重合法により調製できるか、又は供給業者から入手できる。メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及びカルボキシル含有ビニルモノマーを含有するコポリマーは、NOP Corporationから入手することができる(例えば、LIPIDURE(登録商標)-A及び-AF)。
【0082】
少なくとも1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基を有する親水性ポリマー(親水性増強剤として)の重量平均分子量Mは、好ましくは約500〜約1,000,000、更に好ましくは約1,000〜約500,000である。
【0083】
本発明では、親水性増強剤とエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンとの間の反応は、約40℃〜約100℃の温度で、アゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成するのに充分な時間(約0.3時間〜約24時間、好ましくは約1時間〜約12時間、更に好ましくは約2時間〜約8時間)行われる。
【0084】
本発明では、エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンに対する親水性増強剤の濃度は、生じる親水性ポリマー材料が水不溶性(即ち、室温で水100mlあたり0.005g未満の溶解度)にならないように、そして約99%、好ましくは約98%、更に好ましくは約97%、更になお好ましくは約96%を超えるエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンのアゼチジニウム基を使い切らないように選択しなければならない。
【0085】
本発明では、加熱の工程は、好ましくは、密閉レンズパッケージ中のパッケージング溶液に浸したシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを、約118℃〜約125℃の温度で大体20〜90分間オートクレーブ処理することにより実行する。本発明の本実施態様では、このパッケージング溶液は、オートクレーブ処理後に眼用に安全な緩衝水溶液である。
【0086】
レンズパッケージ(又は容器)は、ソフトコンタクトレンズをオートクレーブ処理及び保存するためのものとして当業者には周知である。本発明には任意のレンズパッケージを使用することができる。好ましくは、レンズパッケージは、ベース及びカバーを含むブリスターパッケージである(ここで、このカバーは、ベースに取り外しできるように密閉されており、そしてこのベースは、無菌パッケージング溶液及びコンタクトレンズを受容するための空洞を包含する)。
【0087】
レンズは、ユーザーに供給する前に個々のパッケージにパッケージングされ、密閉されて滅菌される(例えば、約120℃以上で少なくとも30分間のオートクレーブ処理により)。当業者であれば、レンズパッケージの密閉及び滅菌方法は充分に理解していよう。
【0088】
本発明では、パッケージング溶液は、少なくとも1種の緩衝剤及び当業者には知られている1種以上の他の成分を含有する。他の成分の例は、特に限定されないが、等張化剤、界面活性剤、抗菌剤、保存料、及び滑沢剤(又は水溶性増粘剤)(例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)を包含する。
【0089】
パッケージング溶液は、パッケージング溶液のpHを望ましい範囲に、好ましくは約6〜約8.5の生理学的に許容しうる範囲に維持するのに充分な量で、緩衝剤を含有する。任意の既知の生理学的に適合性の緩衝剤を使用することができる。本発明のコンタクトレンズケア組成物の成分として適切な緩衝剤は、当業者には知られている。例には、ホウ酸、ホウ酸塩、例えば、ホウ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸塩、例えば、クエン酸カリウム、重炭酸塩、例えば、重炭酸ナトリウム、TRIS(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)、Bis−Tris(ビス−(2−ヒドロキシエチル)−イミノ−トリス−(ヒドロキシメチル)−メタン)、ビスアミノポリオール類、トリエタノールアミン、ACES(N−(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3−[N−モルホリノ]−プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸))、TES(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−2−アミノエタンスルホン酸)、これらの塩、リン酸緩衝剤、例えば、NaHPO、NaHPO、及びKHPO又はこれらの混合物がある。好ましいビスアミノポリオールは、1,3−ビス(トリス[ヒドロキシメチル]−メチルアミノ)プロパン(ビス−TRIS−プロパン)である。パッケージング溶液中の各緩衝剤の量は、好ましくは0.001%〜2%、好ましくは0.01%〜1%;最も好ましくは約0.05%〜約0.30%(重量%)である。
【0090】
パッケージング溶液は、約200〜約450ミリオスモル(mOsm)、好ましくは約250〜約350mOsmの張度を有する。パッケージング溶液の張度は、張度に影響を及ぼす有機又は無機物質を加えることによって調整できる。適切な眼用に許容しうる等張化剤は、特に限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセロール、プロピレングリコール、ポリオール類、マンニトール類、ソルビトール、キシリトール及びこれらの混合物を包含する。
【0091】
本発明のパッケージング溶液は、25℃で約1センチポアズ〜約20センチポアズ、好ましくは約1.2センチポアズ〜約10センチポアズ、更に好ましくは約1.5センチポアズ〜約5センチポアズの粘度を有する。
【0092】
好ましい実施態様において、このパッケージング溶液は、好ましくは約0.01%〜約2%、更に好ましくは約0.05%〜約1.5%、更になお好ましくは約0.1%〜約1%、最も好ましくは約0.2%〜約0.5%(重量%)の本発明の水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を含む。
【0093】
本発明のパッケージング溶液は、増粘ポリマーを含有することができる。この増粘ポリマーは、好ましくは非イオン性である。溶液の粘度を増加させると、レンズ上にフィルムが得られ、そしてこれがコンタクトレンズの快適な装用の達成を容易にしうる。この増粘成分はまた、挿入中の眼球表面への衝撃を和らげるように作用し、また眼刺激を軽減させる働きをする。
【0094】
好ましい増粘ポリマーは、特に限定されないが、水溶性セルロースエーテル類(例えば、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、又はこれらの混合物)、水溶性ポリビニルアルコール類(PVA)、約2000ダルトンを超える(最大10,000,000ダルトン)分子量を有する高分子量ポリ(エチレンオキシド)、約30,000ダルトン〜約1,000,000ダルトンの分子量を持つポリビニルピロリドン、N−ビニルピロリドンと少なくとも1種の7〜20個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルとのコポリマー、及びこれらの組合せを包含する。水溶性セルロースエーテル類及びビニルピロリドンとメタアクリル酸ジメチルアミノエチルとのコポリマーは、最も好ましい増粘ポリマーである。N−ビニルピロリドンとメタアクリル酸ジメチルアミノエチルとのコポリマーは市販されている(例えば、ISP製のCopolymer 845及びCopolymer 937)。
【0095】
増粘ポリマーは、パッケージング溶液中に、パッケージング溶液の総量に基づいて、約0.01%〜約5重量%、好ましくは約0.05%〜約3重量%、更に好ましくは約0.1%〜約1重量%の量で存在する。
【0096】
パッケージング溶液は、更に約1200以下、更に好ましくは600以下、最も好ましくは約100〜約500ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールを含むことができる。
【0097】
架橋コーティング及びパッケージング溶液の少なくとも一方が、ポリエチレングリコールセグメントを有するポリマー材料を含有する場合に、このパッケージング溶液は、好ましくはα−オキソ−多塩基酸又はその塩を、ポリエチレングリコールセグメントの酸化分解に対する感受性を低下させるのに充分な量で含む。共同所有の同時係属特許出願(米国特許出願公開2004/0116564 A1、その全体が本明細書に取り込まれる)は、オキソ多塩基酸又はその塩が、PEG含有ポリマー材料の酸化分解に対する感受性を低下させることができることを開示している。
【0098】
例となるα−オキソ−多塩基酸又はその生体適合性塩は、特に限定されないが、クエン酸、2−ケトグルタル酸、若しくはリンゴ酸又はこれらの生体適合性(好ましくは眼用に適合性)塩を包含する。更に好ましくは、α−オキソ−多塩基酸は、クエン酸若しくはリンゴ酸又はその生体適合性(好ましくは眼用に適合性)塩(例えば、ナトリウム、カリウムなど)である。
【0099】
本発明では、パッケージング溶液は更に、ムチン様物質、眼用に有益な物質、及び/又は界面活性剤を含むことができる。
【0100】
例となるムチン様物質は、特に限定されないが、ポリグリコール酸、ポリラクチドなどを包含する。ムチン様物質は、ドライアイ症候群の処置のために連続してゆっくりと長時間にわたり眼球表面に放出させることができるゲスト物質として使用することができる。ムチン様物質は、好ましくは有効量で存在する。
【0101】
例となる眼用に有益な物質は、特に限定されないが、2−ピロリドン−5−カルボン酸(PCA)、アミノ酸(例えば、タウリン、グリシンなど)、α−ヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸及びクエン酸並びにこれらの塩など)、リノール酸及びγ−リノール酸、及びビタミン類(例えば、B5、A、B6など)を包含する。
【0102】
界面活性剤は、非イオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤を包含する、事実上任意の眼用に許容しうる界面活性剤であってよい。好ましい界面活性剤の例は、特に限定されないが、ポロキサマー類(例えば、Pluronic(登録商標)F108、F88、F68、F68LF、F127、F87、F77、P85、P75、P104、及びP84)、ポロアミン類(例えば、Tetronic(登録商標)707、1107及び1307、脂肪酸のポリエチレングリコールエステル類(例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)80)、C12−C18アルカン類のポリオキシエチレン又はポリオキシプロピレンエーテル類(例えば、Brij(登録商標)35)、ポリオキシエチレンステアレート(Myrj(登録商標)52)、ポリオキシエチレンプロピレングリコールステアレート(Atlas(登録商標)G2612)、並びに商品名Mirataine(登録商標)及びMiranol(登録商標)の下の両性界面活性剤を包含する。
【0103】
本発明の方法により得られるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、好ましくは約90度以下、更に好ましくは約80度以下、更になお好ましくは約70度以下、最も好ましくは約60度以下の平均水接触角を有することを特徴とする、表面親水性/湿潤性を有する。
【0104】
別の好ましい実施態様において、本発明の方法は、加熱の工程の前に、室温でシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを熱架橋しうる親水性ポリマー材料の水溶液と接触させて熱架橋しうる親水性ポリマー材料のトップ層(即ち、LbLコーティング)をシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上に形成する工程;この熱架橋しうる親水性ポリマー材料のトップ層を持つシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズをレンズパッケージ中でパッケージング溶液に浸す工程;レンズパッケージを密閉する工程;及びこのシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズが入ったレンズパッケージをオートクレーブ処理して、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上に架橋親水性コーティングを形成する工程を更に含むことができる。正電荷を持つため、熱架橋しうる親水性ポリマー材料は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ上に、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面に共有結合していないLbLコーティングを形成できる(即ち、物理的相互作用を介して)と考えられる(特に負の電荷を持つカルボキシル基をその表面に有するコンタクトレンズでは)。
【0105】
本発明の好ましい実施態様を包含する種々の実施態様は別々に上記されるが、当然のことながら、これらはそれぞれ架橋親水性コーティングを備えるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを生産するための本発明の方法において、任意の望ましい様式で組合せ及び/又は一緒に使用することができる。
【0106】
別の態様において、本発明は、上記発明の方法により得られるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを提供する。
【0107】
更に別の態様において、本発明は、滅菌及び密閉されたレンズパッケージを含む眼用製品を提供するが、ここで、このレンズパッケージは、オートクレーブ処理後レンズパッケージング溶液及びそこに浸した直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを含み、そしてこの直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、アミノ基及び/又はカルボキシル基を元のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍に有する元のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを、水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を含有するオートクレーブ処理前パッケージング溶液中でオートクレーブ処理することにより得られる架橋親水性コーティングを含み、そしてこの親水性ポリマー材料は、(i)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95%、好ましくは約35〜約90%、更に好ましくは約50%〜約85%(重量%)の第1のポリマー鎖、(ii)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強剤から誘導された、約5%〜約80%、好ましくは約10%〜約65%、更になお好ましくは約15%〜約50%(重量%)の親水性部分又は第2のポリマー鎖(ここで、この親水性部分又は第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(iii)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント若しくは末端基であるアゼチジニウム基を含み、そしてこの親水性ポリマー材料は、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズに、それぞれシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面上及び/又は表面近傍の1個のアミノ又はカルボキシル基と、熱架橋しうる親水性ポリマー材料の1個のアゼチジニウム基との間に形成される第1の共有結合を介して共有結合しており、そしてこのオートクレーブ処理後パッケージング溶液は、約6.0〜約8.5のpHを維持するのに充分な量で少なくとも1種の緩衝剤を含み、そして約200〜約450ミリオスモル(mOsm)、好ましくは約250〜約350mOsmの張度、及び25℃で約1センチポアズ〜約20センチポアズ、好ましくは約1.2センチポアズ〜約10センチポアズ、更に好ましくは約1.5センチポアズ〜約5センチポアズの粘度を有し、そしてこのオートクレーブ処理後パッケージング溶液は、オートクレーブ処理後の熱架橋しうる親水性ポリマー材料の加水分解産物であるポリマー湿潤材料を含み、そしてこの直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、約90度以下、好ましくは約80度以下、更に好ましくは約70度以下、更になお好ましくは約60度以下、最も好ましくは約50度以下の平均水接触角を有することを特徴とする、表面親水性/湿潤性を有する。
【0108】
「直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ」とは、眼用に適合性であり、そしてオートクレーブ処理により滅菌された、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズのことをいう。「元のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ」とは、架橋親水性コーティングを欠いており、そしてオートクレーブ処理により滅菌されていない、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズのことをいう。
【0109】
本質的にアミノ基及び/又はカルボキシル基を有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ、反応性ベースコーティングを有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ、反応性ビニルモノマー、非反応性ビニルモノマー、反応性LbLベースコーティングを形成するための反応性ポリマー、プラズマコーティング、エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミン、親水性増強剤、アゼチジニウム基を持つ水溶性親水性ポリマー材料、加熱の工程、レンズパッケージ、パッケージング溶液、及び本発明の架橋親水性コーティングを持つシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面湿潤性の好ましい実施態様を包含する種々の実施態様が、上記され、そしてこれらは本発明のこれら2つの態様において組合せ及び/又は一緒に使用することができる。
【0110】
本発明の直ぐに使用できるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、少なくとも約40barrer、好ましくは少なくとも約50barrer、更に好ましくは少なくとも約60barrer、更になお好ましくは約70barrerの酸素透過度;約30〜約200ミクロン、更に好ましくは約40〜約150ミクロン、更になお好ましくは約50〜約120ミクロン、そして最も好ましくは約60〜約110ミクロンの中心厚;約1.5MPa以下、好ましくは約1.2MPa以下、更に好ましくは約1.0MPa以下、更になお好ましくは約0.3MPa〜約1.0MPaの弾性率;好ましくは少なくとも約1.5×10−6mm/分、更に好ましくは少なくとも約2.6×10−6mm/分、更になお好ましくは少なくとも約6.4×10−6mm/分のイオノフラックス拡散係数、D;完全に水和すると好ましくは約18%〜約70%、更に好ましくは約20%〜約60%(重量%)の含水量;又はこれらの組合せを有する。
【0111】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの含水量は、US 5,849,811に開示されるバルク(Bulk)法により測定できる。
【0112】
更なる態様において、本発明は、水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料であって、(a)エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンから誘導された、約20%〜約95%、好ましくは約35%〜約90%、更に好ましくは約50%〜約85%(重量%)の第1のポリマー鎖;(b)アミノ基、カルボキシル基、チオール基、及びこれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1個の反応性官能基を有する少なくとも1種の親水性増強ポリマー剤から誘導された、約5%〜約80%、好ましくは約10%〜約65%、更になお好ましくは約15%〜約50%(重量%)の第2のポリマー鎖(ここで、この第2のポリマー鎖は、それぞれエピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミンの1個のアゼチジニウム基と、親水性増強ポリマー剤の1個のアミノ、カルボキシル又はチオール基との間に形成される1個以上の共有結合を介して第1のポリマー鎖に共有結合している)、並びに(c)第1のポリマー鎖の一部、又は第1のポリマー鎖に共有結合したペンダント基であるアゼチジニウム基を含む材料を提供する。
【0113】
反応性ビニルモノマー、非反応性ビニルモノマー、エピクロロヒドリン官能化ポリアミン又はポリアミドアミン、及び親水性増強剤としての親水性ポリマーの好ましい実施態様を包含する種々の実施態様が、上記され、そしてこれらは本発明のこの態様において任意のやり方で組合せ及び/又は一緒に使用することができる。
【0114】
前記開示により、当該分野において通常の技能を有する人は本発明を実施できよう。本明細書に記載される種々の実施態様には、種々の変形、変法、及び組合せを加えることができる。読者がその特定の実施態様及び利点をより良く理解できるように、以下の実施例への言及が提案される。この明細書及び実施例は、例示として考慮することが意図される。
【0115】
本発明の種々の実施態様は、特定の用語、装置、及び方法を用いて記載されているが、このような記述は、専ら例証を目的とする。使用される語は、限定というよりも説明の語である。当然のことながら、当業者であれば、変更及び変法を、以下の請求の範囲に述べられる本発明の本質又は範囲を逸することなく加えることができる。更に当然のことながら、種々の実施態様の態様は、全体に又は部分的に交換することができるか、あるいは任意のやり方で組合せ及び/又は一緒に使用することができる。したがって、添付の請求の範囲の本質及び範囲は、そこに含まれる好ましい見解の説明に限定されるものではない。
【0116】
実施例1
酸素透過度測定
レンズの見かけの酸素透過度及びレンズ材料の酸素伝達率は、米国特許第5,760,100及びWintertonらによる論文(The Cornea: Transactions of the World Congress on the Cornea 111 , H.D. Cavanagh Ed., Raven Press: New York1988, pp273-280)(これらは両方とも、その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載されるものと同様の手法により測定する。酸素フラックス(J)は、Dk1000装置(Applied Design and Development Co., Norcross, GAから入手できる)、又は同様の分析装置を用いて、ウェットセル(即ち、ガス流が約100%相対湿度に維持される)中で34℃で測定する。既知の割合の酸素(例えば、21%)を有する空気流は、約10〜20cm/分の速度でレンズの片側を通過させ、一方窒素流は、約10〜20cm/分の速度でレンズの反対側に通す。試料は、試験媒体(即ち、生理食塩水又は蒸留水)中で所定の試験温度で測定前に少なくとも30分間(しかし45分間を超えない)平衡化させる。被覆層として使用される任意の試験媒体は、所定の試験温度で測定前に少なくとも30分間(しかし45分間を超えない)平衡化させる。撹拌モーターの速度は、ステッピングモーター制御器での400±15の表示設定に対応する、1200±50rpmにセットする。系を囲む気圧、P測定値を測定する。試験用に曝露される領域におけるレンズの厚さ(t)は、MitotoyaマイクロメーターVL-50、又は同様の装置で約10箇所を測定し、そして測定値を平均することにより決定する。窒素流中の酸素濃度(即ち、レンズを通過して拡散する酸素)は、DK1000装置を用いて測定する。レンズ材料の見かけの酸素透過度、Dkappは、下記式から求める:
Dkapp=Jt/(P酸素
(式中、
J=酸素フラックス[マイクロリットルO/cm−分]
酸素=(P測定値−P水蒸気)=(空気流中O%)[mmHg]=空気流中の酸素の分圧
測定値=気圧(mmHg)
水蒸気=34℃で0mmHg(ドライセル中)(mmHg)
水蒸気=34℃で40mmHg(ウェットセル中)(mmHg)
t=曝露される試験領域におけるレンズの平均厚さ(mm)
Dkappは、barrerの単位で表される)。
【0117】
材料の見かけの酸素伝達率(Dk/t)は、見かけの酸素透過度(Dkapp)をレンズの平均厚さ(t)で割ることにより算出できる。
【0118】
上記の測定値は、酸素フラックス測定中のコンタクトレンズの頂点での水又は生理食塩水浴の使用に起因する、いわゆる境界層効果について補正していない。境界層効果によって、シリコーンヒドロゲル材料の見かけのDkの報告値は、実際の固有Dk値よりも低くなる。更に、境界層効果の相対的インパクトは、厚いレンズよりも薄いレンズでより大きい。正味の効果は、報告Dk値が、一定のままであるべき時にレンズ厚さの関数として変化するように見えることである。
【0119】
レンズの固有Dk値は、以下のとおり境界層効果に起因する酸素フラックスに対する表面抵抗について補正したDk値に基づいて推定することができる。
【0120】
対照のロトラフィルコンA(lotrafilcon A)(Focus(登録商標)N&D(登録商標)、CIBA VISION CORPORATION製)又はロトラフィルコンB(lotrafilcon B)(AirOptix(商標)、CIBA VISION CORPORATION製)レンズの見かけの酸素透過度値(一点)を同じ装置を用いて測定する。対照レンズは、試験レンズと同様の屈折力のものであり、試験レンズと同時に測定する。
【0121】
上記の見かけのDk測定のための手順によるのと同じ装置を用いて、一連の厚さのロトラフィルコンA又はロトラフィルコンB(対照)レンズによる酸素フラックスを測定することによって、対照レンズの固有Dk値(Dk)を得る。一連の厚さは、大体100μm又はそれ以上の厚さ範囲をカバーすべきである。好ましくは、対照レンズの厚さの範囲は、試験レンズの厚さを間に含む。これらの対照レンズのDkappは、試験レンズと同じ装置で測定しなければならず、理想的には試験レンズと同時に測定すべきである。装置の設定及び測定パラメーターは、実験の間中ずっと一定を保持すべきである。個々の試料は、必要に応じて複数回測定してもよい。
【0122】
対照レンズの結果から数式(1)を用いて計算で残存酸素抵抗値、Rを求める。
【0123】
【数1】

式中、tは試験レンズの厚さ(即ち、対照レンズも同じ)であり、そしてnは測定した対照レンズの数である。残存酸素抵抗値Rをtデータに対してプロットして、式:Y=a+bX(ここで、j番目のレンズでは、Y=(ΔP/J)であり、そしてX=tである)の曲線に当てはめる。残存酸素抵抗、Rは、aに等しい。
【0124】
上で求めた残存酸素抵抗値を使用することにより、数式(2)に基づいて試験レンズの正しい酸素透過度Dk(推定固有Dk)を算出する。
Dk = t/[(t/Dk)−R] (2)
【0125】
試験レンズの推定固有Dkは、見かけのDk(Dka_std)が、同じ試験環境で標準的厚さのレンズではどうであるかを数式(3)に基づいて算出するために使用することができる。ロトラフィルコンAの標準的厚さ(tstd)=85μm。ロトラフィルコンBの標準的厚さ=60μm。
Dka_std = tstd/[(tstd/Dk)+Rr_std] (3)
【0126】
イオン透過性測定
レンズのイオン透過性は、米国特許第5,760,100号(その全体が引用例として本明細書に取り込まれる)に記載された手順により測定する。以下の実施例に報告されるイオン透過性の値は、対照材料としてのレンズ材料、Alsaconに関して相対的なイオノフラックス拡散係数(D/Dref)である。Alsaconは、0.314×10−3mm/分のイオノフラックス拡散係数を有する。
【0127】
潤滑性評価
潤滑性の評点法は、0〜5のスケールを使用して0又は小さい数字が潤滑性が良いことを示す、定性的ランキングスキームであり、1は、Oasys(商標)/TruEye(商標)市販レンズに割り当て、そして5は、市販のAir Optix(商標)レンズに割り当てる。試料は過剰のDI水で少なくとも3回濯ぎ、次に評価前にPBSに移す。評価の前に、手を石けん液で濯ぎ、DI水で広範囲に濯ぎ、次にKimWipe(登録商標)タオルで乾燥させる。試料は指に挟んで扱い、上記の標準レンズに比較して各試料に数値を割り当てる。例えば、レンズがAir Optix(商標)レンズよりもごく僅かに良好と判定するならば、これらに4の数を割り当てる。整合性については、全ての評点は、バイアスを回避するために同じ2人のオペレーターにより独立に収集し、そしてこのデータは今のところ、この評価において非常に良好な定性的一致及び整合性を明らかにしている。
【0128】
表面親水性/湿潤性試験
コンタクトレンズの水接触角は、コンタクトレンズの表面親水性(又は湿潤性)の一般的尺度である。詳しくは、低い水接触角は、親水性の高い表面に相当する。コンタクトレンズの平均接触角(静滴法)は、マサチューセッツ州、ボストン市に位置するAST, Inc.製のVCA 2500 XE接触角測定装置を用いて測定する。この機器は、前進若しくは後退接触角又は定着(静的)接触角を測定することができる。測定は、完全に水和されたコンタクトレンズで、以下のとおり拭き取り乾燥の直後に実施する。コンタクトレンズは、バイアルから取り出して、緩く結合したパッケージング添加物をレンズ表面から除去するために≒200mlの新鮮DI水中で3回洗浄する。次にレンズを糸くずの出ない清潔な布(Alpha Wipe TX1009)の上に置き、表面の水を除去するために充分に押さえて、接触角測定台に載せ、一陣の乾燥空気で風乾し、そして最後に製造業者が提供するソフトウェアを用いて静滴接触角を自動測定する。接触角を測定するために使用したDI水は、>18MΩcmの抵抗率を有しており、そして使用した液滴容量は、2μlである。典型的には、コーティングしていないシリコーンヒドロゲルレンズ(オートクレーブ処理後)は、およそ120度の静滴接触角を有する。ピンセット及び測定台は、コンタクトレンズと接触させる前に、イソプロパノールで充分に洗浄してDI水で濯ぐ。
【0129】
水ブレイクアップ時間(Water Break-up Time)(WBUT)試験
レンズ(オートクレーブ処理後)の湿潤性はまた、水膜がレンズ表面上で壊れ始めるのに要する時間を測定することにより判定される。簡単に述べると、レンズをバイアルから取り出して、緩く結合したパッケージング添加物をレンズ表面から除去するために≒200mlの新鮮DI水中で3回洗浄する。レンズをこの溶液から取り出して明るい光源にかざす。水膜が壊れて(脱湿潤(de-wet)して)下部のレンズ材料が露出するのに必要な時間を、目視により記録する。コーティングしていないレンズは、典型的にはDI水から取り出されると即座に水膜が壊れて、0秒のWBUTが割り当てられる。WBUT≧5秒を示すレンズは、湿潤性であると考えられ、そして眼の上で適切な湿潤性(涙膜を支持する能力)を示すことが期待される。
【0130】
コーティングの無傷性試験
コンタクトレンズの表面上のコーティングの無傷性は、以下のとおりスダンブラック染色試験により試験することができる。コーティング(LbLコーティング、プラズマコーティング、又は任意の他のコーティング)を持つコンタクトレンズをスダンブラック染色液(ビタミンE油中スダンブラック)中に浸す。スダンブラック染料は、疎水性であり、そして疎水性材料に吸着されるか、又は疎水性レンズ表面上に若しくは疎水性レンズ(例えば、SiHyコンタクトレンズ)の部分的にコートされた表面上の疎水性スポット上に吸着される傾向が強い。疎水性レンズ上のコーティングが無傷であるならば、レンズ上又はレンズ内に染色スポットは観測されないはずである。試験下の全てのレンズは完全に水和される。
【0131】
コーティング耐久性の試験
レンズはSolo-care(登録商標)多目的レンズケア液で30回指で擦り、次に生理食塩水で濯ぐ。上記手順を所定回数、例えば、1〜30回(即ち、洗浄及び浸漬のサイクルを模した、連続指擦り試験の回数)繰り返す。次にレンズをスダンブラック試験(即ち、上記のコーティング無傷試験)に付すことにより、コーティングが未だ無傷であるかどうかを検査する。指擦り試験に耐えるには、有意な染色スポットの増加がない(例えば、染色スポットが総レンズ表面の約5%を超えて覆わない)。水接触角は、コーティング耐久性を求めるために測定する。
【0132】
デブリ付着試験
高電荷表面を持つコンタクトレンズは、患者の操作中にデブリ付着増加を受けやすい。ペーパータオルを手袋をはめた手に擦りつけ、次にレンズの両側を指で擦ってデブリをレンズ表面に移す。レンズを軽く濯ぎ、次に顕微鏡下で観察する。0(デブリ付着なし)〜4(PAAコーティングした対照レンズと同等のデブリ付着)の定性的評点スケールを使用することにより、各レンズを評点する。「0」又は「1」のスコアを持つレンズは許容しうるものと見なす。
【0133】
表面ひび割れ試験
コーティング層の過剰な架橋により、レンズを擦った後に、暗視野顕微鏡下で見える表面ひび割れが生じることがある。レンズを反転させて擦り、そしていかなる亀裂線も記録する。0(ひび割れなし)〜2(重度のひび割れ)の定性的評点法を使用してレンズを評点する。重度の亀裂線はどれも許容できないものと見なす。
【0134】
アゼチジニウム含量の測定
PAE中のアゼチジニウム含量は、以下のアッセイの1つにより決定することができる。
【0135】
PPVSアッセイ
PAE電荷密度(即ち、アゼチジニウム含量)は、滴定剤が硫酸ビニルカリウム(PPVS)であり、そしてトルイジンブルー(Toluidine Blue)が指示薬である比色滴定アッセイのPPVSアッセイにより求めることができる。S-K Kam 及び J. Gregory, "Charge determination of synthetic cationic polyelectrolytes by colloid titration," in Colloid & Surface A: Physicochem. Eng. Aspect, 159: 165-179 (1999)を参照のこと。PPVSは、正電荷を持つ種、例えば、トルイジンブルー及びPAEのアゼチジニウム基に結合する。トルイジンブルー吸光強度の低下が、比例したPAE電荷密度(アゼチジニウム含量)を示す。
【0136】
PES−Naアッセイ
PES−Naアッセイは、PAE電荷密度(アゼチジニウム含量)を測定するための別の比色滴定アッセイである。本アッセイでは、滴定剤がPPVSの代わりにポリエチレンスルホン酸ナトリウム(PES−Na)である。本アッセイは、上記のPPVSアッセイと同一である。
【0137】
PCDアッセイ
PCDアッセイは、PAE電荷密度(アゼチジニウム含量)を測定するための電位差滴定アッセイである。滴定剤は、ポリエチレンスルホン酸ナトリウム(PES−Na)、PPVS又は他の滴定剤である。PAE電荷は、電極により、例えば、BTG製のMuetek PCD-04 Particle Charge Detectorを用いて検出する。この検出器の測定原理は、BTGのウェブサイト(http://www.btg.com/products.asp?langage=1&appli=5&numProd=357&cat=prod)で見られる。
【0138】
NMR法
PAE中の活性な正荷電部分は、アゼチジニウム基(AZR)である。NMR比率法は、非AZR関連プロトンの数に対するAZR特異的プロトンの数の比である。この比は、PAEについての電荷又はAZR密度の指標である。
【0139】
実施例2
CE−PDMSマクロマーの調製
第一段階において、α,ω−ビス(2−ヒドロキシエトキシプロピル)−ポリジメチルシロキサン(Mn=2000、Shin-Etsu、KF-6001a)は、α,ω−ビス(2−ヒドロキシエトキシプロピル)−ポリジメチルシロキサン49.85gをジイソシアン酸イソホロン(IPDI)11.1gと無水メチルエチルケトン(MEK)150g中でジラウリン酸ジブチルスズ(DBTDL)0.063gの存在下で反応させることにより、IPDIでキャップされる。この反応は、40℃で4.5時間保持することにより、IPDI−PDMS−IPDIを形成する。第二段階では、α,ω−ビス(2−ヒドロキシエトキシプロピル)−ポリジメチルシロキサン(Mn=3000、Shin-Etsu、KF-6002)164.8g及び無水MEK 50gの混合物を、DBTDL0.063gを更に加えたIPDI−PDMS−IPDI溶液に滴下により加える。反応器を約40℃で4.5時間維持することにより、HO−PDMS−IPDI−PDMS−IPDI−PDMS−OHを形成する。次にMEKを減圧下で除去する。第三段階では、メタクリル酸イソシアナトエチル(IEM)7.77g及びDBTDL0.063gの追加添加により第三段階で末端ヒドロキシル基をメタクリロイルオキシエチル基でキャップすることにより、IEM−PDMS−IPDI−PDMS−IPDI−PDMS−IEM(CE−PDMSマクロマー)を形成する。
【0140】
CE−PDMSマクロマーの代替調製
KF-6001 240.43gを、撹拌器、温度計、クライオスタット、滴下ロート、及び窒素/減圧の導入口アダプターを取り付けた1L反応器に加え、次に高真空(2×10−2mBar)の適用により乾燥させる。次に、1気圧の乾燥窒素下で、蒸留MEK 320gを反応器に加え、この混合物を充分に撹拌する。DBTDL 0.235gを反応器に加える。反応器を45℃まで温めた後、穏やかな撹拌下でIPDI 45.86gを滴下ロートにより10分間かけて反応器に加える。反応液を60℃で2時間保持する。次に蒸留MEK 452gに溶解したKF-6002 630gを加え、均質な溶液が生成するまで撹拌する。DBTDL 0.235gを加え、乾燥窒素のブランケット下で反応器を一晩約55℃で維持する。翌日、MEKをフラッシュ蒸留により除去する。反応器を冷却し、次にIEM 22.7gを反応器に仕込み、次いでDBTDL約0.235gを仕込む。約3時間後、IEM更に3.3gを加え、反応を一晩進行させる。その次の日、反応混合物を約18℃に冷却することにより、末端メタクリレート基を持つCE−PDMSマクロマーを得る。
【0141】
実施例3
レンズ配合物の調製
レンズ配合物は、以下の組成を有するように成分を1−プロパノールに溶解することにより調製される:33重量%の実施例2で調製されたCE−PDMSマクロマー、17重量%のN−[トリス(トリメチルシロキシ)−シリルプロピル]アクリルアミド(TRIS−Am)、24重量%のN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、0.5重量%のN−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩)(L−PEG)、1.0重量%のDarocur 1173(DC1173)、0.1重量%のビジティント(visitint)(メタクリル酸トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル、TRIS中の5%銅フタロシアニンの青色顔料分散液)、及び24.5重量%の1−プロパノール。
【0142】
レンズの調製
レンズは、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再利用可能な成形用型で、上で調製されるレンズ配合物から注型法により調製される。成形用型は、石英(又はCaF)でできている半分の雌型と、ガラス(又はPMMA)でできている半分の雄型を含む。UV照射源は、約4mW/cmの強度でWG335+TM297カットオフフィルターを備えるHamamatsuランプである。成形用型中のレンズ配合物は、約25秒間UV線で照射される。注型レンズは、イソプロパノール(又はメチルエチルケトン、MEK)で抽出され、水中で濯ぎ、ポリアクリル酸(PAA)のプロパノール溶液(0.1重量%、ギ酸でpH約2.5まで酸性にする)中にレンズを浸されることによりPAAでコーティングされ、水中で水和される。反応性PAA−LbLベースコーティングを備える得られるレンズは、以下の性質を有することが決定される:Alsaconレンズ材料に対して約8.0〜約9.0倍のイオン透過性:約90〜100の見かけのDk(一点);約30%〜約33%の含水量;及び約0.60MPa〜約0.65MPaの弾性係数。
【0143】
実施例4
パッケージ内コーティング(IPC)生理食塩水は、0.2%ポリアミドアミン−エピクロロヒドリン(PAE、Kymene)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に加えることにより調製され、そして次にpHを7.2〜7.4に調整する。
【0144】
実施例3からのレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(IPC生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、121℃で約30分間オートクレーブ処理することにより、架橋コーティング(PAA−x−PAEコーティング)をレンズ上に形成する。
【0145】
次にレンズは、デブリ付着、表面ひび割れ、潤滑性、接触角及び水ブレイクアップ時間(WBUT)について評価される。試験レンズ(IPC生理食塩水中でパッケージング/オートクレーブ処理済み、即ち、PAA−x−PAEコーティングを備えるレンズ)はデブリ付着を示さないが、一方対照レンズ(PBS中でパッケージング/オートクレーブ処理済み、即ち、PAA−LbLベースコーティングを備えるレンズ)は重度のデブリ付着を示す。試験レンズの水接触角(WCA)は低い(≒20度)が、WBUTは2秒未満である。暗視野顕微鏡下で観察すると、レンズ操作(レンズ反転及び指に挟んでの擦り)後に重度の亀裂線が見える。試験レンズは、定性的な指擦り試験により判定すると対照レンズよりはるかに潤滑性が低い(4という潤滑性評点)。
【0146】
実施例5
ポリ(アクリルアミド−コ−アクリル酸)部分ナトリウム塩(≒80%固形分、ポリ(AAm−co−AA)(80/20)、Mw 520,000、Mn 150,000)は、Aldrichから購入して、そのまま使用する。
【0147】
IPC生理食塩水は、0.02%のポリ(AAm−co−AA)(80/20)及び0.2%のPAE(Kymene)をPBSに溶解することにより調製される。pHは7.2〜7.4に調整する。PBSは、0.76% NaCl、0.044% NaHPO・HO及び0.388% NaHPO・2HOを水に溶解することにより調製される。
【0148】
実施例3で調製したPAA−LbLベースコーティングを備えるレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、約121℃で約30分間オートクレーブ処理する。3層からなる架橋コーティングのPAA−x−PAE−x−ポリ(AAm−co−AA)がオートクレーブ処理中にレンズ上に形成されると考えられる。
【0149】
試験レンズ(IPC生理食塩水中でパッケージング/オートクレーブ処理済み、即ち、PAA−x−PAE−x−ポリ(AAm−co−AA)コーティングを備えるレンズ)はデブリ付着がなく、10秒を超えるWBUTを有する。暗視野顕微鏡下で観察すると、試験レンズの擦り試験後に亀裂線が見える。試験レンズは実施例4からの試験レンズよりはるかに潤滑性が高いが、なおPBS中でパッケージングした対照レンズほど潤滑性が高くない(1〜2という潤滑性評点)。
【0150】
実施例6
IPC生理食塩水は、0.02%のポリ(AAm−co−AA)(80/20)及び0.2%のPAE(Kymene)をPBSに溶解してpHを7.2〜7.4に調整することにより調製される。次に生理食塩水は、約70℃まで上げてこの温度で4時間加熱されることにより処理(熱前処理)して、アゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料をこのIPC生理食塩水中に形成させる。熱前処理後、IPC生理食塩水は0.22ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターを用いて濾過され、室温まで冷却して戻す。
【0151】
実施例3で調製したPAA−LbLベースコーティングを備えるレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、約121℃で約30分間オートクレーブ処理して、架橋コーティング(PAA−x−親水性ポリマー材料)をレンズ上に形成する。
【0152】
試験レンズ(熱前処理IPC生理食塩水中でパッケージング済み、即ち、PAA−x−親水性ポリマー材料コーティングを備えるレンズ)は、ペーパータオルに擦りつけた後にデブリ付着が見られないが、一方対照レンズ(PBS中でパッケージング済み、即ち、PAAの非共有結合層をその上に有するレンズ)は重度のデブリ付着を示す。試験レンズは10秒を超えるWBUTを有する。暗視野顕微鏡下で観察すると、試験レンズの擦り試験後に亀裂線は見えない。試験レンズは指擦り試験において非常に潤滑性が高く、対照レンズと同等である(0という潤滑性評点)。
【0153】
一連の実験は、IPC生理食塩水でコーティングされた生じるレンズの表面特性に及ぼす、IPC生理食塩水の熱前処理の条件(期間及び/又は温度)の効果を試験するために実施される。PAEのアゼチジニウム官能基及び使用されるPAEの濃度に応じて、約70℃で約6時間又はそれ以上の熱処理時間で、対照レンズと同様のデブリ付着に対する感受性を持つレンズが得られる。50℃でわずか4時間の熱処理では、IPC生理食塩水を熱前処理していない実施例5の試験レンズと同様に、指に挟んで擦った後に暗視野顕微鏡下で表面の亀裂線を示すレンズが得られる。
【0154】
実施例7
ポリ(アクリルアミド−コ−アクリル酸)部分ナトリウム塩(≒90%固形分、ポリ(AAm−co−AA)90/10、Mw 200,000)は、Polysciences, Inc.から購入して、そのまま使用する。
【0155】
IPC生理食塩水は、0.07%のPAAm−PAA(90/10)及び0.2%のPAE(Kymene)をPBSに溶解して、pHを7.2〜7.4に調整することにより調製される。次に生理食塩水は、約70℃で約4時間、熱前処理されることにより、アゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成させる。熱前処理後、IPC生理食塩水は0.22ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターを用いて濾過して、室温まで冷却して戻す。
【0156】
PAAの酸性プロパノール溶液(約0.1%、pH≒2.5)に浸した、実施例3で調製したPAA−LbLベースコーティングを備えるレンズ及びコーティングしていないロトラフィルコンBレンズ(CIBA VISION CORPORATION製)は、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルに熱前処理IPC生理食塩水0.6mL(IPC生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、121℃で約30分間オートクレーブ処理して、架橋コーティング(PAA−x−親水性ポリマー材料)をレンズ上に形成する。
【0157】
試験レンズ(ロトラフィルコンB及びPAA−x−親水性ポリマー材料コーティングを備える実施例3のレンズの両方とも)は、デブリ付着がない。試験レンズは10秒を超えるWBUTを有する。暗視野顕微鏡下で観察すると、指に挟んだレンズの擦り試験後に亀裂線は見えない。レンズは、定性的指擦り試験において極めて潤滑性が高い(0という潤滑性評点)。
【0158】
実施例8
実験計画法(DOE)において、IPC生理食塩水は、約0.05%〜約0.09%のPAAm−PAA及び約0.075%〜約0.19%のPAE(Kymene)をPBS中に含有するように製造される。IPC生理食塩水は、60℃で8時間熱処理され、実施例3からのレンズは、熱前処理IPC生理食塩水中にパッケージングされる。最終のレンズ表面特性には違いは観察されず、全てのレンズは、優れた潤滑性、デブリ付着に対する抵抗性、優れた湿潤性を示し、そして表面ひび割れの証拠はない。
【0159】
実施例9
実験計画法(DOE)において、IPC生理食塩水は、約0.07%のPAAm−PAA、及び大体9ミリモル当量/リットルの初期アゼチジニウム含量を提供するのに充分なPAE(≒0.15%のPAE)を含有するように製造される。熱前処理条件は、中心複合計画において50℃〜70℃で変化し、予備反応時間は、約4〜約12時間で変化する。60℃で24時間の前処理時間も試験する。次にバイオバーデン(bioburden)増殖を防ぐために、10ppm過酸化水素を生理食塩水に加え、そしてIPC生理食塩水は、0.22ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルターを用いて濾過する。
【0160】
実施例3からのレンズは、熱前処理IPC生理食塩水中にパッケージングされ、そしてこのブリスターは次に121℃で45分間オートクレーブ処理される。全てのレンズは、優れた潤滑性、湿潤性、及び表面ひび割れに対する抵抗性を有する。レンズの幾つかは、表1に示すようにペーパータオルからのデブリ付着を示す。
【0161】
【表1】
【0162】
実施例10
メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と、1種のカルボキシル含有ビニルモノマー(CH=CH(CH)C(O)OCOC(O)CCOOH(MS)、メタクリル酸(MA))とのコポリマーは、メタクリル酸ブチル(BMA)の非存在下又は存在下で、PAEと組合せたパッケージ内コーティングシステムにおいて評価される。
【0163】
NaCl(0.75重量%)、NaHPO・HO(0.0536重量%)、NaHPO・2HO(0.3576重量%)及びDI水(97.59重量%)を含有するPBSを調製して、0.2%のPAE(Polycup 3160)を加える。pHは約7.3に調整する。
【0164】
0.25%の幾つかのMPCコポリマーの1種を次に加えることにより、IPC生理食塩水を形成し、そしてこのIPC生理食塩水を70℃で4時間熱前処理して、アゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。4時間後、この熱前処理IPC生理食塩水は、0.2ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルター(Fisher Scientificカタログ#09-741-04、Thermo Scientific nalgene #568-0020(250ml))を介して濾過される。
【0165】
実施例3で調製したPAA−LbLベースコーティングを備えるレンズは、熱前処理IPC生理食塩水中にパッケージングされ、121℃で約30分間オートクレーブ処理される。表2は、全てのレンズが優れた表面特性を持つことを示している。
【0166】
【表2】
【0167】
実施例11
PAAコーティングしたレンズ
実施例3に記載された成形プロセスにより実施例3で調製したレンズ配合物から注型したレンズを取り出して、以下の一連の浴に浸すことによってコーティングする:3個のMEK浴(22、78及び224秒間);DI水浴(56秒間);2個のPAAコーティング溶液浴(PAA(M.W.:450kDa、Lubrizol製)3.6gを1−プロパノール975ml及びギ酸25mlに溶解することにより調製)に別々に44及び56秒間;並びに3個のDI水浴にそれぞれ56秒間。
【0168】
PAE/PAAコーティングしたレンズ
PAAベースコーティングを施した上で調製したレンズを、以下の浴に連続して浸す:2個のPAEコーティング溶液(0.25重量%のPAE(Polycup 172、Hercules製)をDI水に溶解して、水酸化ナトリウムを用いてpHを約5.0に調整し、そして生じる溶液を最後に5μmフィルターを用いて濾過することにより調製)浴にそれぞれ44及び56秒間;並びに3個のDI水浴にそれぞれ56秒間。この処理後、レンズは1層のPAA及び1層のPAEを有する。
【0169】
PAA−x−PAE−x−CMCコーティングを備えるレンズ
1層のPAA及び1層のPAEをその上に有する1バッチのレンズは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の0.2%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、Product# 7H 3SF PH、Ashland Aqualon)中にパッケージングされ、次にpHが7.2〜7.4に調整される。次いでこのブリスターは密閉され、121℃で約30分間オートクレーブ処理されて、架橋コーティング(PAA−x−PAE−x−CMC)をレンズ上に形成する。
【0170】
PAA−x−PAE−x−HAコーティングを備えるレンズ
1層のPAA及び1層のPAEをその上に有する別のバッチのレンズは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の0.2%ヒアルロン酸(HA、Product# 6915004、Novozymes)中にパッケージングされ、次にpHを7.2〜7.4に調整する。次いでこのブリスターは密閉され、121℃で約30分間オートクレーブ処理されて、架橋コーティング(PAA−x−PAE−x−HA)をレンズ上に形成する。
【0171】
PAA−x−PAE−x−CMCコーティング又はPAA−x−PAE−x−HAコーティングのいずれかを備える得られるレンズは、スダンブラック染色、デブリ付着、及び顕微鏡検査下でのひび割れのいずれも示さない。PAA−x−PAE−x−CMCコーティングを備えるレンズは、30±3度の平均接触角を有するが、一方PAA−x−PAE−x−HAコーティングを備えるレンズは、20±3度の平均接触角を有する。
【0172】
実施例12
IPC溶液の調製
2.86重量%のメトキシ−ポリ(エチレングリコール)−チオール、平均Mw2000(Product# MPEG-SH-2000、Laysan Bio Inc.)を2重量%のPAE(Kymene)と一緒にPBSに溶解することにより反応混合物を調製し、そして最終pHを7.5に調整する。この溶液を45℃で約4時間熱処理して、PAE中のアゼチジニウム基との反応によりポリマー上に化学的にグラフトしたMPEG−SH−2000基を含有する熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。熱処理後、この溶液は、0.25%クエン酸ナトリウムを含有するPBSで10倍希釈され、pHを7.2〜7.4に調整し、次に0.22ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターを用いて濾過される。この最終IPC生理食塩水は、0.286重量%の親水性ポリマー材料(約59重量%のMPEG−SH−2000鎖及び約41重量%のPAE鎖よりなる)及び0.25%のクエン酸ナトリウムを含有する。PBSは、0.74%のNaCl、0.053%のNaHPO・HO及び0.353%のNaHPO・2HOを水に溶解することにより調製する。
【0173】
架橋コーティングを備えるレンズ
実施例11からのPAAコーティングしたレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェル中の上記IPC生理食塩水中にパッケージングされ、次に約121℃で約30分間オートクレーブ処理されて、架橋コーティングをレンズ上に形成する。
【0174】
最終のレンズは、デブリ付着、レンズを擦った後の亀裂線のいずれも示さない。レンズは、指擦り試験において対照のPAAコーティングしたレンズに匹敵して非常に潤滑性が高い。
【0175】
一連の実験は、IPC生理食塩水でコーティングされた得られるレンズの表面特性に及ぼす条件(反応時間及びmPEG−SH−2000の溶液濃度(一定のPAE濃度2%で))の効果を試験するために実施される。結果は表3に示される。
【0176】
【表3】
【0177】
mPEG−SH−2000の溶液濃度が上昇すると、それに応じてレンズ潤滑性も上昇する。表面の接触角の増大は、グラフト密度が増大した表面上の末端メチル基の密度の増大のためであろうと考えられる。高グラフト密度では、0.6%の溶液濃度に対応して、接触角は、ポリエチレングリコール(PEG)単層をグラフトした平坦な基板で得られる測定値に迫る(参考文献:Langmuir 2008, 24, 10646-10653)。
【0178】
実施例13
一連の実験は、mPEG−SHの分子量の効果を試験するために実施される。IPC生理食塩水は、実施例12に記載された手順と同様に調製されるが、以下のmPEG−SHのうちの1種を用いる:mPEG−SH 1000、mPEG−SH 2000、mPEG−SH 5000及びmPEG−SH 20000。全ての生理食塩水は、45℃で4時間の熱処理及び10倍希釈に付す。結果及び反応条件は表4に示される。
【0179】
【表4】
【0180】
実施例14
反応混合物は、2.5%のメトキシ−ポリ(エチレングリコール)−チオール、平均MW2000(Product# MPEG-SH-2000、Laysan Bio Inc.)、10%のPAE(Kymene)をPBS及び0.25%のクエン酸ナトリウム二水和物に溶解することにより調製される。次にこの最終溶液のpHを7.5に調整し、また容器の中を2時間窒素ガスでバブリングすることにより、チオール酸化を最小限に抑えるべく脱気する。この溶液を後で45℃で約6時間熱処理して、PAE中のアゼチジニウム基との反応によりポリマーに化学的にグラフトしたMPEG−SH−2000基を含有する熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。熱処理後、0.25%クエン酸ナトリウムを含有するPBSを用いてこの溶液を50倍希釈し、pHを7.2〜7.4に調整し、次に0.22ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターを用いて濾過する。最終IPC生理食塩水は、約0.30重量%のポリマー材料(約17重量%のMPEG−SH−2000及び約83重量%のPAEよりなる)及び0.25%のクエン酸ナトリウム二水和物を含有する。
【0181】
実施例11からのPAAコーティングしたレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェル中の上記IPC生理食塩水にパッケージングされ、次に約121℃で約30分間オートクレーブ処理されて、架橋コーティングをレンズ上に形成する。
【0182】
最終レンズは、デブリ付着、レンズを擦った後の亀裂線のいずれも示さない。試験レンズは、指擦り試験において対照のPAAコーティングしたレンズに匹敵して非常に潤滑性が高い。
【0183】
実施例15
反応混合物は、3.62%のメトキシ−ポリ(エチレングリコール)−アミン、平均MW550(Product# MPEG-NH2-550、Laysan Bio Inc.)を2%のPAE(Kymene)と一緒にPBSに溶解することにより調製され、最終pHを10に調整する。この溶液を45℃で約4時間熱処理して、PAE中のアゼチジニウム基との反応によりポリマーに化学的にグラフトしたMPEG−NH2−550基を含有する熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。熱処理後、0.25%クエン酸ナトリウムを含有するPBSでこの溶液を10倍希釈し、pHを7.2〜7.4に調整し、次に0.22ミクロンのポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターを用いて濾過する。最終IPC生理食塩水は、約0.562重量%のポリマー材料(約64重量%のMPEG−SH−2000及び約36重量%のPAEよりなる)及び0.25%のクエン酸ナトリウム二水和物を含有する。このPBSは、0.74%の塩化ナトリウム、0.053%のNaHPO・HO及び0.353% NaHPO・2HOを水に溶解することにより調製する。
【0184】
実施例11からのPAAコーティングしたレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェル中の上記IPC生理食塩水にパッケージングされ、次に約121℃で約30分間オートクレーブ処理されて、架橋コーティングをレンズ上に形成する。
【0185】
最終レンズは、デブリ付着及びレンズを擦った後の亀裂線のいずれも示さない。
【0186】
実施例16
Poloxamer 108(試料)及びNelfilcon A(CIBA VISION)をそのまま使用する。Nelfilcon Aは、ポリビニルアルコール(例えば、Nippon Gohsei製のGohsenol KL-03など)をN−(2,2−ジメトキシエチル)アクリルアミドで環状アセタール形成反応条件(Buehler et al., CHIMIA, 53 (1999), 269-274、この全体が引用例として本明細書に取り込まれる)下で修飾することにより得られる、重合しうるポリビニルアルコールである。Nelfilcon A中の約2.5%のビニルアルコール単位がN−(2,2−ジメトキシエチル)アクリルアミドにより修飾される。
【0187】
IPC生理食塩水は、0.004%のPoloxamer 108、0.8%のNelfilcon A、0.2%のPAE(Kymene、Polycup 3160)、0.45%のNaCl、及び1.1%のNaHPO・2HOをDI水に溶解することにより調製される。この生理食塩水を約65〜70℃で2時間撹拌することにより熱前処理する。熱前処理後、生理食塩水を室温まで放冷し、次に0.2μm PESフィルターを用いて濾過する。
【0188】
実施例3で調製したレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターはアルミ箔で密閉され、121℃で約30分間オートクレーブ処理される。
【0189】
試験レンズは、ペーパータオルに擦りつけた後にデブリ付着を示さない。このレンズは、10秒を上回るWBUTを有していた。暗視野顕微鏡下で観察すると、指に挟んでレンズを擦った後に亀裂線は見えない。このレンズは実施例4からのレンズよりもはるかに潤滑性が高いが、なおPBSにパッケージングされた対照レンズほど潤滑性が高くない。
【0190】
実施例17
A. 80%エチレン性官能化鎖で延長されたポリシロキサンの合成
KF-6001A(α,ω−ビス(2−ヒドロキシエトキシプロピル)−ポリジメチルシロキサン、Mn=2000、Shin-Etsu製)及びKF-6002A(α,ω−ビス(2−ヒドロキシエトキシプロピル)−ポリジメチルシロキサン、Mn=3400、Shin-Etsu製)は、約60℃で12時間(又は一晩)高真空下で一つ口フラスコ中で別々に乾燥する。KF-6001A及びKF-6002AのOHモル当量は、ヒドロキシル基の滴定により求めて、合成において使用すべきミリモル当量を算出するために用いる。
【0191】
1リットルの反応容器を一晩減圧することにより水分を除去し、乾燥窒素で真空状態を解除する。乾燥KF6001A 75.00g(75meq)を反応器に仕込み、次に蒸留したてのIPDI 16.68g(150meq)を反応器に加える。反応器を窒素でパージして、撹拌しながら45℃に加熱し、次にDBTDL 0.30gを加える。反応器を密閉し、窒素の陽圧流を維持する。発熱が起こるが、その後反応混合物を冷却及び撹拌(55℃で2時間)させておく。発熱したら、乾燥KF6002A 248.00g(150meq)を55℃で反応器に加え、次にDBTDL 100μLを加える。反応器を4時間撹拌する。加熱を打ち切り、反応器を一晩放冷する。窒素バブリングを打ち切り、反応器を穏やかに撹拌しながら30分間大気に開放する。3個のポリシロキサンセグメントを有するヒドロキシル末端鎖で延長されたポリシロキサン、HO−PDMS−IPDI−PDMS−IPDI−PDMS−OH(又はHO−CE−PDMS−OH)が形成される。
【0192】
80%エチレン型官能化ポリシロキサンでは、IEM 18.64g(120meq)をDBTDL 100μLと一緒に反応器に加える。反応器を24時間撹拌し、次に生成物(80% IEMキャップCE−PDMS)をデカントして、冷凍保存する。
【0193】
B. 非UV吸収性両性分岐ポリシロキサンプレポリマーの合成
1Lのジャケット付き反応器に、500mL滴下ロート、オーバーヘッド撹拌装置、窒素/減圧の導入アダプター付き還流冷却器、温度計、及びサンプリングアダプターを取り付ける。この反応器に、上で調製した80% IEMキャップCE−PDMS 45.6gを仕込み、密閉する。酢酸エチル279g中のメタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)0.65g、DMA 25.80g、メタクリル酸(トリス(トリメチルシリル)−シロキシプロピル)(TRIS)27.80gの溶液を滴下ロートに仕込む。反応器を高真空ポンプにより<1mbarで30分間RTで脱気する。モノマー溶液は、脱気サイクルの間に窒素で真空状態を解除しながら、100mbar及びRTで10分間3サイクル脱気される。次にこのモノマー溶液を反応器に仕込み、次にこの反応混合物を撹拌して67℃に加熱する。加熱しながら、酢酸エチル39gに溶解したメルカプトエタノール(連鎖移動剤、CTA)1.50g及びアゾイソブチロニトリル0.26gの溶液を滴下ロートに仕込み、100mbar、RTで10分間3回脱酸素化する。反応器温度が67℃に達したら、開始剤/CTA溶液を、反応器中のPDMS/モノマー溶液に加える。反応を8時間進行させ、次に加熱を打ち切り、15分以内に反応器温度を室温にする。
【0194】
生じる反応混合物は次に、気密蓋を持つ乾いた一つ口フラスコに吸い上げ、IEM 4.452gをDBTDL 0.21gと共に加える。この混合物を室温で24時間撹拌して、非UV吸収性両性分岐ポリシロキサンプレポリマーを形成する。この混合溶液に、酢酸エチル中のヒドロキシ−テトラメチレンピペロニルオキシ溶液(2g/20mL)100μLを加える。次にこの溶液は、ロータリーエバポレーターを用いて30℃で200g(≒50%)まで濃縮されて、1μm孔径の濾紙により濾過される。1−プロパノールへの溶媒交換後、この溶液を目的濃度まで更に濃縮する。
【0195】
C. UV吸収性両性分岐ポリシロキサンプレポリマーの合成
1Lのジャケット付き反応器に、500mL滴下ロート、オーバーヘッド撹拌装置、窒素/減圧の導入アダプター付き還流冷却器、温度計、及びサンプリングアダプターを取り付ける。次にこの反応器に、上で調製した80% IEMキャップCE−PDMS 45.98gを仕込み、この反応器を密閉する。酢酸エチル263g中のHEMA 0.512g、DMA 25.354g、メタクリル酸Norbloc 1.38g、TRIS 26.034gの溶液を滴下ロートに仕込む。反応器を高真空ポンプにより<1mbarで30分間RTで脱気する。モノマー溶液は、脱気サイクルの間に窒素で真空状態を解除しながら、100mbar及びRTで10分間3サイクル脱気される。次にこのモノマー溶液を反応器に仕込み、次にこの反応混合物を撹拌して67℃に加熱する。加熱しながら、酢酸エチル38gに溶解したメルカプトエタノール(連鎖移動剤、CTA)1.480g及びアゾイソブチロニトリル0.260gの溶液を滴下ロートに仕込み、100mbar、室温で10分間3回脱酸素化する。反応器温度が67℃に達したら、開始剤/CTA溶液を、反応器中のPDMS/モノマー溶液に加える。反応を8時間進行させ、次に加熱を打ち切り、15分以内に反応器温度を室温にする。
【0196】
生じる反応混合物は次に、気密蓋を持つ乾いた一つ口フラスコに吸い上げ、アクリル酸イソシアナトエチル3.841gをDBTDL 0.15gと共に加える。この混合物を室温で約24時間撹拌して、UV吸収性両性分岐ポリシロキサンプレポリマーを形成する。この混合溶液に、酢酸エチル中のヒドロキシ−テトラメチレンピペロニルオキシ溶液(2g/20mL)100μLを加える。次にこの溶液は、ロータリーエバポレーターを用いて30℃で200g(≒50%)まで濃縮されて、1μm孔径の濾紙により濾過される。
【0197】
D−1: 非UV吸収性ポリシロキサンプレポリマーを含むレンズ配合物
100mLの茶色のフラスコに、実施例C−2で調製した合成マクロマー溶液(1−プロパノール中82.39%)4.31gを加える。20mLバイアルで、TPO 0.081g及びDMPC 0.045gを1−プロパノール10gに溶解し、次にマクロマー溶液に移す。この混合物をロータリーエバポレーターを用いて30℃で5.64gまで濃縮してから、DMA 0.36gを加え、そしてこの配合物を室温でホモジナイズする。清澄なレンズ配合物D−1 6gを得る。
【0198】
D−2: UV吸収性ポリシロキサンプレポリマーを含むレンズ配合物(4% DMA)
100mLの茶色のフラスコに、実施例D−2で調製したマクロマー溶液(酢酸エチル中43.92%)24.250gを加える。50mLバイアルで、TPO 0.15g及びDMPC 0.75gを1−プロパノール20gに溶解し、次にマクロマー溶液に移す。ロータリーエバポレーターを用いて30℃で溶媒20gを留去し、続いて1−プロパノール 20gを加える。2サイクル後、この混合物を14.40gまで濃縮する。DMA 0.6gをこの混合物に加え、そしてこの配合物を室温でホモジナイズする。清澄なレンズ配合物D−2 15gを得る。
【0199】
D−3: UV吸収性ポリシロキサンプレポリマーを含むレンズ配合物(2% DMA/2% HEA)
100mLの茶色のフラスコに、実施例D−2で調製したマクロマー溶液(酢酸エチル中43.92%)24.250gを加える。50mLバイアルで、TPO 0.15g及びDMPC 0.75gを1−プロパノール20gに溶解し、次にマクロマー溶液に移す。ロータリーエバポレーターを用いて30℃で溶媒20gを留去し、続いて1−プロパノール 20gを加える。2サイクル後、この混合物を14.40gまで濃縮する。DMA 0.3g及びHEA 0.3gをこの混合物に加え、そしてこの配合物を室温でホモジナイズする。清澄なレンズ配合物D−3 15gを得る。
【0200】
実施例18
E: 修飾PAEコーティングポリマーの共有結合
アミン基を含有するモノマーのN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMAA−HCl)又はN−(2−アミノエチル)メタクリルアミド塩酸塩(AEMAA−HCl)は、Polysciencesから購入してそのまま使用する。ポリ(アミドアミンエピクロロヒドリン)(PAE)は、Ashlandから水溶液として受領してそのまま使用する。Polysciences製のポリ(アクリルアミド−コ−アクリル酸)(ポリ(AAm−co−AA)(90/10)、Laysan Bio製のmPEG−SH、及びNOF製のポリ(MPC−co−AeMA)(即ち、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸アミノエチル(AeMA)のコポリマー)はそのまま使用する。
【0201】
APMAA−HClモノマーは、メタノールに溶解され、レンズ配合物D−1、D−2及びD−3(実施例17で調製)に1重量%の濃度を達成するように加えられる。
【0202】
反応性パッケージング生理食塩水は、表5にリストされる成分を適切な緩衝塩と一緒にDI水に溶解することにより調製され。熱前処理後、この生理食塩水を室温まで放冷し、次に0.2μmのPESフィルターを用いて濾過する。
【0203】
【表5】
【0204】
実施例17で調製したレンズ配合物D−1、D−2及びD3は、APMAA−HClモノマー(メタノール中のAPMMA−HClの原液)の添加により修飾する。DSMレンズは、330nmフィルターを用いて16mW/cmで硬化させるが、一方LSレンズは、380nmフィルターを用いて4.6mW/cmで硬化させる。
【0205】
DSMレンズ
ポリプロピレンレンズ成形用型の雌型に上記のとおり調製したレンズ配合物約75マイクロリットルを充填して、ポリプロピレンレンズ成形用型の雄型(ベースカーブ型)で成形用型を閉じる。コンタクトレンズは、閉じた成形用型を約5分間UV照射源(330nmカットオフフィルターを備えるHamamatsuランプ)により約16mW/cmの強度で硬化させることにより得られる。
【0206】
LSレンズ
LSレンズは、上記のとおり調製したレンズ配合物から、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再使用できる成形用型で注型法により調製する。この成形用型は、石英(又はCaF)でできている半分の雌型と、ガラス(又はPMMA)でできている半分の雄型を含む。UV照射源は、約4.6mW/cmの強度で380nmカットオフフィルターを備えるHamamatsuランプである。成形用型中のレンズ配合物は、約30秒間UV線で照射される。
【0207】
APMAA−HClで修飾したレンズ配合物D−1は、上記のDSM及びLS法により硬化させ、一方レンズ配合物D−2又はD−3は、上記のLS法により硬化される。
【0208】
成形したレンズは、メチルエチルケトン中で抽出され、水和されて、表5に記載される生理食塩水の1種にパッケージングされる。レンズは、ポリプロピレンレンズパッケージングシェルに、IPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、121℃で30分間オートクレーブ処理する。
【0209】
レンズ表面の評価では、全ての試験レンズはデブリ付着が見られない。暗視野顕微鏡下で観察すると、指に挟んだレンズの擦り試験後に亀裂線は見えない。
【0210】
レンズ表面湿潤性(WBUT)、潤滑性、及び接触角を測定し、結果を表6に要約する。レンズは、特に断りない限りDSM法により製造する。潤滑性は、小さい数字が高い潤滑性を示す0〜4の定性的スケールに照らして評点する。一般に、レンズ表面特性は、パッケージ内コーティングの適用後に若干向上している。
【0211】
【表6】
【0212】
実施例19
レンズは、レンズ配合物D−2(実施例17)を用いて、ここにAPMAAモノマーを1%の濃度まで加えて製造する。LSレンズは、上記のとおり調製したレンズ配合物から、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再使用できる成形用型で注型法により調製する。この成形用型は、ガラスでできている半分の雌型と、石英でできている半分の雄型を含む。UV照射源は、約4.6mW/cmの強度で380nmカットオフフィルターを備えるHamamatsuランプである。成形用型中のレンズ配合物は、約30秒間UV線で照射される。
【0213】
注型レンズは、メチルエチルケトン(MEK)で抽出され、水中で濯がれ、レンズをポリアクリル酸(PAA)のプロパノール溶液(0.0044重量%、ギ酸で約pH2.5まで酸性にする)に浸すことによりPAAでコーティングされ、水中で水和される。
【0214】
IPC生理食塩水は、大体60℃で8時間の予備反応条件で実施例9に記載された組成により調製される。レンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、121℃で30分間オートクレーブ処理する。
【0215】
レンズ表面の評価では、全ての試験レンズはデブリ付着が見られない。暗視野顕微鏡下で観察すると、指に挟んだレンズの擦り試験後に亀裂線は見えない。レンズ表面の湿潤性(WBUT)は10秒を超え、潤滑性は「1」と評点され、そして接触角は大体20°である。
【0216】
実施例20
レンズ配合物の調製
レンズ配合物は、以下の組成を有するように1−プロパノールに成分を溶解することにより調製される:約32重量%の実施例2で調製したCE−PDMSマクロマー、約21重量%のTRIS−Am、約23重量%のDMA、約0.6重量%のL−PEG、約1重量%のDC 1173、約0.1重量%のビジティント(TRIS中の5%銅フタロシアニンの青色顔料分散液)、約0.8重量%のDMPC、約200ppmのH−TEMPO、及び約22重量%の1−プロパノール。
【0217】
レンズの調製
レンズは、上で調製したレンズ配合物から、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再使用できる成形用型(石英の半分の雌型及びガラスの半分の雄型)で注型法により調製される。成形用型中のレンズ配合物は、約24秒間UV線(13.0mW/cm)で照射される。
【0218】
PAAコーティング溶液
PAAコーティング溶液は、約0.36〜0.44重量%の濃度を有するように、ある量のPAA(M.W.:450kDa、Lubrizol製)を所定容量の1−プロパノールに溶解することにより調製されて、ギ酸でpHを約1.7〜2.3に調整する。
【0219】
PAAコーティングしたレンズ
上記の注型コンタクトレンズを抽出して、以下の一連の浴に浸すことによってコーティングする:DI水浴(約56秒間);6個のMEK浴(それぞれ約44、56、56、56、56、及び56秒間);DI水浴(約56秒間);100% 1−プロパノール中のPAAコーティング溶液(約0.36〜0.44重量%、ギ酸で約pH1.7〜2.3まで酸性にする)の1個の浴(約44秒間);水/1−プロパノールの50%/50%混合物の1個の浴(約56秒間);4個のDI水浴、それぞれ約56秒間;1個のPBS浴、約56秒間;及び1個のDI水浴、約56秒間。
【0220】
IPC生理食塩水
ポリ(AAm−co−AA)(90/10)部分ナトリウム塩(≒90%固形分、ポリ(AAm−co−AA)90/10、Mw 200,000)はPolysciences, Inc.から購入して、そのまま使用する。PAE(Kymene、NMRで評価される0.46のアゼチジニウム含量)はAshlandから水溶液として購入して、そのまま使用する。IPC生理食塩水は、約0.07重量%のポリ(AAm−co−AA)(90/10)及び約0.15%のPAE(約8.8ミリモルの初期アゼチジニウムのミリモル当量)をPBS(約0.044重量% NaHPO・HO、約0.388重量% NaHPO・2HO、約0.79重量% NaCl)に溶解して、pHを7.2〜7.4に調整することにより調製する。次にIPC生理食塩水を約70℃で約4時間熱前処理する(熱前処理)。この熱前処理中に、ポリ(AAm−co−AA)及びPAEは相互に部分的に架橋する(即ち、PAEの全てのアゼチジニウム基を使い切らない)ことにより、IPC生理食塩水中に、分岐ポリマーネットワーク内にアゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。熱前処理後、IPC生理食塩水は、0.22ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルターを用いて濾過して、室温まで冷却して戻す。次にバイオバーデン増殖を防ぐために、10ppmの過酸化水素を最終IPC生理食塩水に加え、、そしてIPC生理食塩水は、0.22ミクロンのPES膜フィルターを用いて濾過される。
【0221】
架橋コーティングの適用
上で調製したPAA−LbLベースコーティングを備えるレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェル(1シェルあたり1個のレンズ)にIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、約121℃で約30分間オートクレーブ処理することにより、架橋コーティング(PAA−x−親水性ポリマー材料)が施されたSiHyコンタクトレンズを形成する。
【0222】
SiHyレンズの特性決定
架橋コーティング(PAA−x−親水性ポリマー材料)を備える得られるSiHyコンタクトレンズは、ペーパータオルに擦りつけた後にデブリ付着を示さないが、一方対照レンズ(PBSにパッケージング済み、即ち、PAAの非共有結合層をその上に有するレンズ)は重度のデブリ付着を示す。レンズは、約146barrerの酸素透過度(Dk又は推定固有Dk)、約0.76MPaのバルク弾性係数、約32重量%の含水量、約6の相対イオン透過性(Alsaconレンズに比較して)、約34〜47度の接触角、10秒を超えるWBUTを有する。暗視野顕微鏡下で観察すると、試験レンズを擦った後に亀裂線は見えない。レンズは、指擦り試験において非常に潤滑性が高く、対照レンズと同等である。
【0223】
実施例21
実施例6、14及び20で調製された、オートクレーブ処理後のレンズパッケージ中のSiHyレンズ及びIPC生理食塩水は、以下の生体適合性試験に付す。
【0224】
インビトロ細胞毒性評価
SiHyレンズは、USP Direct Contact Material Assayにより評価する。レンズ抽出物は、USP MEM Elution及びISO CEN Cell Growth Inhibition Assayにより評価し、そしてオートクレーブ処理後のパッケージ中のIPC生理食塩水は、Modified Elution試験法により評価する。評価した全てのレンズ及びレンズ抽出物は、各試験について充分に判定基準内であり、許容できない細胞毒性は観察されない。
【0225】
インビボ試験
ISO Systemic Toxicity in the Mouseは、レンズの抽出物によるマウスにおける全身毒性の証拠は存在しないことを示す。ISO Ocular Irritation Study in the Rabbitは、レンズの抽出物がウサギの眼組織に対する刺激物とは考えられないことを示す。ISO Ocular Irritation Study in the Rabbitは、オートクレーブ処理後のパッケージ中のIPC生理食塩水がウサギの眼組織に対する刺激物とは考えられないことを示す。1日使い捨て装用形態で連続22日間装用したレンズはウサギモデルに刺激性でなく、そして試験レンズで処置した眼は、対照レンズで処置した眼と同様である。ISO Sensitization Study(Guinea Pig Maximization Testing of Packaging Solutions)は、オートクレーブ処理後のIPC生理食塩水がモルモットにおける皮膚接触感作に何ら遅延を起こさないことを示す。ISO Sensitization Study(Guinea Pig Maximization Testing of Lens Extracts)は、塩化ナトリウム及びレンズのゴマ油抽出物がモルモットにおける皮膚接触感作に遅延を起こさないことを示す。
【0226】
遺伝毒性試験
レンズパッケージからのIPC生理食塩水及びSiHyレンズ抽出物は、微生物復帰突然変異試験(Bacterial Reverse Mutation Assay)(Ames Test)で試験する場合、レンズ抽出物及びIPC生理食塩水は、Salmonella typhimuriumの試験株TA98、TA100、TA1535及びTA1537に対して、更にはEscherichia coli WPuvrAに対して突然変異原性がないと考えられることが分かった。SiHyレンズ抽出物を、Mammalian Erythrocyte Micronucleus Assayで試験すると、これらは染色体異常誘発性がなく、マウス骨髄小核試験において陰性であった。レンズパッケージからのIPC生理食塩水は、Chromosome Aberration Test in Chinese Hamster Ovaryにより試験すると、IPC生理食塩水は、非活性化及びS9活性化試験系の両方でCHO細胞を用いる構造的及び数的染色体異常の誘発アッセイについて陰性である。SiHyレンズ抽出物を、Cell Gene Mutation Test(Mouse Lymphoma Mutagenesis Assay)により試験すると、このレンズ抽出物は、Mouse Lymphoma Mutagenesis Assayにおいて陰性であることを示した。
【0227】
実施例22
予め形成されたSiHyコンタクトレンズ(即ち、何らコーティングをせず、そしてPAAベースコーティングを施す前のSiHyコンタクトレンズ)、PAAコーティングしたSiHyコンタクトレンズ(即ち、IPC生理食塩水を含むレンズパッケージ中で密閉及びオートクレーブ処理を行う前のこれらのレンズ)、及び架橋コーティングを備えるSiHyコンタクトレンズ(これらの全ては、実施例20に記載された手順により調製する)の表面組成は、真空乾燥コンタクトレンズをX線光電子分光法(XPS)で特性評価することにより求められる。XPSは、約10nmのサンプリング深度を持つレンズの表面組成を測定するための方法である。3つのタイプのレンズの表面組成を表7に報告する。
【0228】
【表7】
【0229】
表7は、PAAコーティングをSiHyレンズ(コーティングなしに予め形成されたもの)に施すと、炭素及び酸素原子組成がPAA(60% C及び40% O)の組成に近づき、ケイ素の原子組成が実質的に低下する(12.1%から4.5%へ)ことを示している。架橋コーティングを更にPAAコーティング上に施すと、表面組成は、炭素、窒素及び酸素が優位を占め、これらは3原子組成物である(XPSは表面組成において水素を計数しないため、水素を除外する)。このような結果は、架橋コーティングされたSiHyコンタクトレンズの最外層は、本質的に、ポリ(AAm−co−AA)(90/10)(60% C、22% O及び18% N)及びPAEの反応生成物である親水性ポリマー材料からなる可能性が高いことを示している。
【0230】
以下の真空乾燥した市販のSiHyレンズもまたXPS分析に付す。これらの市販のSiHyコンタクトレンズの表面組成は表8に報告する。
【0231】
【表8】
【0232】
本発明のSiHyコンタクトレンズは、表面層に約1.4%という名目上のケイ素含量を有するが、これは、プラズマコーティングなしの市販のSiHyレンズ(Acuvue(登録商標)Advance(登録商標)、Acuvue(登録商標)Oasys(登録商標)、TruEye(商標)、Biofinity(登録商標)、Avaira(商標))並びにPureVision(登録商標)(プラズマ酸化)及びPremio(商標)(未知のプラズマ処理)の含量よりもはるかに低く、そして更に約25nmの厚さを有するプラズマ蒸着コーティングを持つSiHyレンズ(N&D(登録商標)Aqua(商標)及びAir Optix(登録商標)Aqua(商標)よりも低い。この非常に低いSi%の値は、対照試料のGoodfellow製のポリエチレン(LDPE、d=0.015mm;LS356526 SDS;ET31111512;3004622910)のケイ素原子の割合に匹敵する。これらの結果は、本発明の真空乾燥SiHyコンタクトレンズのXPS分析における非常に低い値は、フッ素を含有しないレンズにおけるフッ素含量のように、真空乾燥プロセス及びXPS分析を包含する調製プロセス中に導入された汚染物に由来するであろうことを示している。本発明のSiHyコンタクトレンズでは、ケイ素が露出からうまく遮蔽されている。
【0233】
本発明のSiHyコンタクトレンズ(実施例20に記載された手順により調製)、市販のSiHyコンタクトレンズ(CLARITI(商標)1 Day、ACUVUE(登録商標)TruEye(商標)(ナラフィルコンA(narafilcon A)及びナラフィルコンB(narafilcon B))、Goodfellow製のポリエチレンシート(LDPE、d=0.015mm;LS356526 SDS;ET31111512;3004622910)、DAILIES(登録商標)(ポリビニルアルコールヒドロゲルレンズ、即ち、ノンシリコーンヒドロゲルレンズ)、ACUVUE(登録商標)Moist(ポリヒドロキシエチルメタクリレートヒドロゲルレンズ、即ち、ノンシリコーンヒドロゲルレンズ)のXPS分析もまた実施する。全てのレンズは真空乾燥する。ポリエチレンシート、DAILIES(登録商標)及びACUVUE(登録商標)Moistは、シリコーンを含有しないため、対照として使用する。試験試料の表面層中のケイ素原子組成は以下のとおりである:1.3±0.2(ポリエチレンシート);1.7±0.9(DAILIES(登録商標));2.8±0.9(ACUVUE(登録商標)Moist);3.7±1.2(実施例20に記載された手順により調製した3種のSiHyレンズ);5.8±1.5(CLARITI(商標)1 Day);7.8±0.1(ACUVUE(登録商標)TruEye(商標)(ナラフィルコンA));及び6.5±0.1(ACUVUE(登録商標)TruEye(商標)(ナラフィルコンB))。本発明のSiHyコンタクトレンズの結果は、従来のヒドロゲルの結果により近く、そしてシリコーンヒドロゲルに近い。
【0234】
実施例23
UV吸収性両性分岐コポリマーの合成
1Lのジャケット付き反応器に、500mL滴下ロート、オーバーヘッド撹拌装置、窒素/減圧の導入アダプター付き還流冷却器、温度計、及びサンプリングアダプターを取り付ける。この反応器に、実施例17、Aで調製した80% 部分的エチレン性官能化ポリシロキサン89.95gを仕込み、次に1mbar未満の真空下で室温で約30分間脱気する。HEMA 1.03g、DMA 50.73g、メタクリル酸Norbloc 2.76g、TRIS 52.07g、及び酢酸エチル526.05gを混合することにより調製したモノマー溶液を500mL滴下ロートに仕込み、続いて100mbarの真空下で室温で10分間脱気し、次に窒素ガスを充填する。モノマー溶液は、同じ条件で更に2サイクル脱気する。次にモノマー溶液を反応器に仕込む。この反応混合物を適度に撹拌しながら67℃まで加熱する。加熱しながら、メルカプトエタノール(連鎖移動剤、CTA)2.96g及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル(V-601、開始剤)0.72g及び酢酸エチル76.90gからなる溶液を滴下ロートに仕込み、続いてモノマー溶液と同じ脱気プロセスに付す。反応器温度が67℃に達したら、開始剤/CTA溶液も反応器に加える。反応を67℃で8時間実施する。共重合の終了後、反応器温度を室温まで冷却する。
【0235】
UV吸収性両性分岐プレポリマーの合成
上で調製したコポリマー溶液は、IEM(即ち、所望のモル当量のメタクリル酸2−イソシアナトエチル)8.44gをDBTDL 0.50gの存在下で加えることにより、エチレン性官能化されて両性分岐プレポリマーを形成する。この混合物を室温で密閉条件下で24時間撹拌する。調製したプレポリマーは次に、100ppmのヒドロキシ−テトラメチレンピペロニルオキシで安定化され、次にこの溶液を200g(≒50%)まで濃縮されて、1μm孔径の濾紙により濾過される。留去及び希釈の反復サイクルにより反応溶媒を1−プロパノールに交換後、この溶液は直ぐに配合に使用できる。固形分は、溶媒を真空オーブンで80℃で除去して測定する。
【0236】
レンズ配合物の調製
レンズ配合物は、以下の組成を有するように調製される:71重量%の上で調製したプレポリマー;4重量%のDMA;1重量%のTPO;1重量%のDMPC;1重量%のBrij 52(from);及び22重量%の1−PrOH。
【0237】
レンズの調製
レンズは、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再使用できる成形用型を用いて、UV照射の空間制限下で、上で調製したレンズ配合物の注型により製造される。この成形用型は、ガラスでできている半分の雌型と、石英でできている半分の雄型を含む。UV照射源は、約4.6mW/cmの強度で380nmカットオフフィルターを備えるHamamatsuランプである。成形用型中のレンズ配合物は、約30秒間UV線で照射される。
【0238】
注型レンズは、メチルエチルケトン(MEK)で抽出され、水中で濯がれ、レンズをポリアクリル酸(PAA)のプロパノール溶液(0.004重量%、ギ酸で約pH2.0まで酸性にする)に浸すことによりPAAでコーティングされて、水中で水和される。
【0239】
IPC生理食塩水は、約0.07%のPAAm−PAA及び大体8.8ミリモル当量/リットルの初期アゼチジニウム含量を提供するのに充分なPAE(≒0.15% PAE)を含有する組成物から、大体60℃で6時間の予備反応条件下で調製される。次にバイオバーデン増殖を防ぐために、5ppm過酸化水素をIPC生理食塩水に加え、そしてIPC生理食塩水は、0.22ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルターを用いて濾過される。レンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェルにIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、121℃で30分間オートクレーブ処理する。
【0240】
レンズの特性評価
得られたレンズは、以下の特性を有する:E’≒0.82MPa;Dk≒159.4(ロトラフィルコンBを対照レンズとして使用する、80μmの平均中心厚及び固有Dk 110);IP≒2.3;水%≒26.9;及びUVA/UVB %T≒4.6/0.1。暗視野顕微鏡下で観察すると、試験レンズを擦った後に亀裂線は見えない。レンズは、指擦り試験において非常に潤滑性が高く、対照レンズと同等である。
【0241】
実施例24
レンズ配合物の調製
配合物Iは、以下の組成を有するように成分を1−プロパノールに溶解することにより調製される:33重量%の実施例2で調製したCE−PDMSマクロマー、17重量%のN−[トリス(トリメチルシロキシ)−シリルプロピル]アクリルアミド(TRIS−Am)、24重量%のN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)、0.5重量%のN−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール−2000)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩)(L−PEG)、1.0重量%のDarocur 1173(DC1173)、0.1重量%のビジティント(メタクリル酸トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル、TRIS中の5%銅フタロシアニンの青色顔料分散液)、及び24.5重量%の1−プロパノール。
【0242】
配合物IIは、以下の組成を有するように成分を1−プロパノールに溶解することにより調製される:約32重量%の実施例2で調製したCE−PDMSマクロマー、約21重量%のTRIS−Am、約23重量%のDMA、約0.6重量%のL−PEG、約1重量%のDC1173、約0.1重量%のビジティント(TRIS中の5%銅フタロシアニンの青色顔料分散液)、約0.8重量%のDMPC、約200ppmのH−TEMPO、及び約22重量%の1−プロパノール。
【0243】
レンズの調製
レンズは、上で調製したレンズ配合物から、米国特許第7,384,590号の図1〜6及び7,387,759号(図1〜6)に示される成形用型と類似した再使用できる成形用型(石英の半分の雌型及びガラスの半分の雄型)で注型法により調製される。UV照射源は、約4mW/cmの強度でWG335+TM297のカットオフフィルターを備えるHamamatsuランプである。成形用型中のレンズ配合物は、約25秒間UV線で照射する。注型レンズは、メチルエチルケトン(MEK)(又はプロパノール若しくはイソプロパノール)で抽出する。
【0244】
SiHyコンタクトレンズへのPAA下塗り(prime)コーティングの適用
ポリアクリル酸コーティング溶液(PAA−1)は、約0.39重量%の濃度を有するように、ある量のPAA(M.W.:450kDa、Lubrizol製)を所定容量の1−プロパノールに溶解することにより調製されて、ギ酸でpHを約2.0に調整する。
【0245】
別のPAAコーティング溶液(PAA−2)は、約0.39重量%の濃度を有するように、ある量のPAA(M.W.:450kDa、Lubrizol製)を所定容量の有機系溶媒(50/50、1−プロパノール/HO)に溶解することにより調製されて、ギ酸でpHを約2.0に調整する。
【0246】
上で得られたSiHyコンタクトレンズは、表9及び10に示される浸漬プロセスの1つに付される。
【0247】
【表9】
【0248】
【表10】
【0249】
架橋親水性コーティングの適用
ポリ(アクリルアミド−コ−アクリル酸)部分ナトリウム塩、ポリ(AAm−co−AA)(90/10)(≒90%固形分、ポリ(AAm−co−AA)(90/10)、Mw 200,000)はPolysciences, Inc.から購入して、そのまま使用する。PAE(Kymene、NMRで評価される0.46のアゼチジニウム含量)はAshlandから水溶液として購入して、そのまま使用する。パッケージ内架橋(IPC)生理食塩水は、約0.07重量%のポリ(AAm−co−AA)(90/10)及び約0.15%のPAE(約8.8ミリモルの初期アゼチジニウムのミリモル当量)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(約0.044重量% NaHPO・HO、約0.388重量% NaHPO・2HO、約0.79重量% NaCl)に溶解して、pHを7.2〜7.4に調整することにより調製する。次にIPC生理食塩水を約70℃で約4時間熱前処理する(熱前処理)。この熱前処理中に、ポリ(AAm−co−AA)及びPAEは相互に部分的に架橋する(即ち、PAEの全てのアゼチジニウム基を使い切らない)ことにより、IPC生理食塩水中に、分岐ポリマーネットワーク内にアゼチジニウム基を含有する水溶性で熱架橋しうる親水性ポリマー材料を形成する。熱前処理後、IPC生理食塩水は、0.22ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルターを用いて濾過して、室温まで冷却して戻す。次にバイオバーデン増殖を防ぐために、10ppmの過酸化水素を最終IPC生理食塩水に加え、そしてIPC生理食塩水は、0.22ミクロンのポリエーテルスルホン[PES]膜フィルターを用いて濾過される。
【0250】
上で調製したPAA下塗り(prime)コーティングを備えるレンズは、ポリプロピレンのレンズパッケージングシェル(シェル当たり1個のレンズ)にIPC生理食塩水0.6mL(生理食塩水の半分はレンズを挿入する前に加える)と一緒に入れられる。次にブリスターをアルミ箔で密閉して、約121℃で約30分間オートクレーブ処理することにより、架橋親水性コーティングを備えるSiHyレンズを形成する。
【0251】
SiHyレンズの特性評価
架橋親水性コーティングを施して、約0.95ミクロンの中心厚を持つ、得られたSiHyコンタクトレンズは、約142〜約150barrerの酸素透過度(Dk又は推定固有Dk)、約0.72〜約0.79MPaのバルク弾性係数、約30%〜約33重量%の含水量、約6の相対イオン透過性(Alsaconレンズに比較して)、及び約34〜約47度の接触角を有する。
【0252】
コンタクトレンズのナノテクスチャー表面の特性評価
透過型微分干渉(Transmission-Differential-Interference-Contrast)(TDIC)法
コンタクトレンズは、スライドガラス上に載せて、レンズをスライドとガラスカバースリップの間で圧迫することにより平らにされる。コンタクトレンズ表面を位置決めして、40×対物レンズを用いて、透過型微分干渉光学部を持つNikon ME600顕微鏡を用いてレンズを通して焦点を合わせて検査する。得られるTDIC画像は次に、しわの寄った表面パターン(例えば、ランダムな及び/又は秩序ある蠕虫のようなパターンなど)の存在を決定すべく評価される。
【0253】
反射型微分干渉(Reflection-Differential-Interference-Contrast)(RDIC)法
レンズは、スライドガラス上に載せて、≒90度毎に4つの放射状の切れ目を入れることにより平らにされる。圧縮空気を用いて過剰の生理食塩水を表面から吹き飛ばす。次にレンズ表面は、10×、20×及び50×対物レンズを用いて、コンタクトレンズの表面上のしわの寄った表面パターンの存在について、反射型微分干渉光学部を持つNikon Optiphot-2を用いて検査される。50×対物レンズを用いて各側の代表画像を獲得する。次にコンタクトレンズはひっくり返し、過剰の生理食塩水を除去して、コンタクトレンズのもう一方の側を同じ方法で調査する。得られるRDIC画像は次に、しわの寄った表面パターン(例えば、ランダムな及び/又は秩序ある蠕虫のようなパターンなど)の存在を決定すべく評価される。
【0254】
暗視野光学顕微鏡法(DFLM)
DFLMは一般に、観察試料のコントラストを強調する方法である、暗視野照明法に基づく。この手法は、通常の透過光に対してある角度で試料を照らすための、観察者の視野の外側又は同視野から遮断された光源からなる。光源からの非散乱光は対物レンズにより収束しないため、これは画像の一部ではなく、画像の背景は暗く見える。光源は試料をある角度で照らしているため、試料画像で観察されている光は、試料により観察者に向かって散乱された光であり、この試料からの散乱光と画像の暗い背景との間にコントラストが生まれる。このコントラストの機序により、暗視野照明が、ヘイズ(haze)のような散乱現象の観察に特に有用になる。
【0255】
DFLMは、以下のとおりコンタクトレンズの混濁(haziness)を評価するために利用する。暗視野の設定は散乱光を伴うため、暗視野データは混濁の最悪の場合の推定値を提供することもあると考えられる。8ビットのグレースケールデジタル画像において各画像画素は、0〜255の範囲のグレースケール強度(GSI)値を割り当てられる。ゼロは、完全に黒色である画素を表し、そして255は、完全に白色である画素を表す。画像に捕捉された散乱光の増加は、高いGSI値の画素を生みだす。このGSI値は次に、暗視野画像において観察される散乱光の量を定量するための機序として使用できる。混濁は、関心領域(area of interest)(AOI)(例えば、全レンズ、又はレンズのレンズ状部若しくは光学部)における全画素のGSI値を平均することにより表される。実験設定は、顕微鏡又は同等の光学装置、付属のデジタルカメラ並びに環状ライト及び可変強度光源の付いた暗視野スタンドからなる。光学装置は、観察すべきコンタクトレンズの全体が視野(典型的には≒15mm×20mmの視野)を満たすように、設計/配置する。照明は、当該試料の所望の変化を観察するのに適切な水準に設定する。光強度は、当業者には既知の密度/光散乱標品を用いて各セットの試料について同じ水準に調整/較正する。例えば、ある標品は、2つの重なるプラスチックカバースリップ(同一であり、かつ僅かに又は適度に艶消しである)からなる。このような標品は、中間のグレースケール水準及び飽和白色(エッジ)の2つの領域を包含する、3つの異なる平均GSIを持つ領域よりなる。黒色領域は、空の暗視野を表す。黒色及び飽和白色の領域は、カメラのゲイン及びオフセット(コントラスト及び明るさ)設定を検証するために利用できる。中間のグレー水準は、カメラの線形応答を検証するための3点を提供することができる。光強度は、空の暗視野の平均GSIが0に近づき、そして標準のデジタル画像における規定AOIのそれが±5 GSI単位内で各回同じであるように調整する。光強度の較正後、コンタクトレンズは、DFLMスタンドに置いた石英のペトリ皿又は類似の透明度の皿中の0.2μmで濾過したリン酸緩衝生理食塩水に浸す。次に較正した照明を用いて見たときのレンズの8ビットのグレースケールデジタル画像を獲得して、レンズを含有する一部の画像内の規定AOIの平均GSIを求める。これを試料セットのコンタクトレンズについて繰り返す。光強度較正は、一貫性を確保するために試験の間にわたり定期的に再評価する。DFLM検査下での混濁の水準とは、DFLM混濁=(GSI/255)×100%のことをいう。
【0256】
SiHyコンタクトレンズ(そのPAA下塗り(prime)コーティングは、浸漬プロセス20−0及び80−0のいずれかにより得られる)は、約73%の平均DFLM混濁を有することが決定され、そして水和状態のコンタクトレンズを上記のRDIC又はTDICのいずれかの方法により検査することにより目視で観察できるしわの寄った表面パターン(ランダムな蠕虫のようなパターン)を示す。しかしこのしわの寄った表面パターンは、コンタクトレンズの光透過率に有害な作用を事実上及ぼさない。
【0257】
SiHyコンタクトレンズ(そのPAA下塗り(prime)コーティングは、浸漬プロセス20−1〜20−4のいずれかにより得られる)は、約26%の低い平均DFLM混濁を有することが決定され(恐らくビジティント顔料粒子の存在に起因)、そして上記のRDIC又はTDICのいずれかの下で検査すると目立つしわの寄った表面パターン(ランダムな蠕虫のようなパターン)は示さない。
【0258】
高い割合のSiHyコンタクトレンズ(そのPAA下塗り(prime)コーティングは、浸漬プロセス20−5により得られる)は、約45%の適度の平均DFLM混濁を有することが決定され、そして上記のRDIC又はTDICのいずれかの下で検査すると僅かに目立つしわの寄った表面パターンを示す。しかしこのしわの寄った表面パターンは、コンタクトレンズの光透過率に有害な作用を事実上及ぼさない。
【0259】
SiHyコンタクトレンズ(そのPAA下塗り(prime)コーティングは、浸漬プロセス80−1、80−2、80−3、80−5及び80−6のいずれかにより得られる)は、上記のRDIC又はTDICのいずれかの下で検査すると目立つしわの寄った表面パターンを示さない。しかし、SiHyコンタクトレンズ(そのPAA下塗り(prime)コーティングは、浸漬プロセス80−0及び80−4のいずれかにより得られる)は、上記のRDIC又はTDICのいずれかの下で検査すると目立つしわの寄った表面パターンを示す。しかしこのしわの寄った表面パターンは、コンタクトレンズの光透過率に有害な作用を事実上及ぼさない。