(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シフトスピンドルと一体に回転し、前記シフトドラムに係合して前記シフトドラムを回転させるとともに、前記センサ作動シャフトを係合させて前記センサ作動シャフトに前記シフトスピンドルの回転を伝達するシフトアームを、更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両の変速装置。
前記シフト操作センサは、前記シフトスピンドルの回転角度を検出するアングルセンサであることを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の鞍乗り型車両の変速装置。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0030】
<車両全体>
図1に示すように、本実施形態は、鞍乗り型車両の一例としての自動二輪車1に適用されている。自動二輪車1の前輪2は、左右一対のフロントフォーク3の下端部に支持されている。左右フロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して、車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に支持されている。ステアリングステム4のトップブリッジ上には、バータイプの操向ハンドル4aが取り付けられている。
【0031】
車体フレーム5は、ヘッドパイプ6と、ヘッドパイプ6から車幅方向(左右方向)中央を下後方へ延びるメインチューブ7と、メインチューブ7の後端部の下方に連なる左右ピボットフレーム8と、メインチューブ7および左右ピボットフレーム8の後方に連なるシートフレーム9と、を備えている。左右ピボットフレーム8には、スイングアーム11の前端部が揺動可能に枢支されている。スイングアーム11の後端部には、自動二輪車1の後輪12が支持されている。
【0032】
左右メインチューブ7の上方には、燃料タンク18が支持されている。燃料タンク18の後方でシートフレーム9の上方には、前シート19および後シートカバー19aが前後に並んで支持されている。シートフレーム9の周囲は、リヤカウル9aに覆われている。左右メインチューブ7の下方には、自動二輪車1の原動機であるパワーユニットPUが懸架されている。パワーユニットPUは、後輪12と例えばチェーン式伝動機構を介して連係されている。
【0033】
パワーユニットPUは、その前側に位置するエンジン(内燃機関、原動機)13と後側に位置する変速機21とを一体に有している。エンジン13は、例えばクランクシャフト14の回転軸を左右方向(車幅方向)に沿わせた複数気筒エンジンである。エンジン13は、クランクケース15の前部上方にシリンダ16を起立させている。クランクケース15の後部は、変速機21を収容する変速機ケース(ケース)17とされている。
【0034】
<変速機>
図2に示すように、変速機21は、メインシャフト22およびカウンタシャフト23ならびに両シャフト22,23に跨る変速ギア群24を有する有段式のトランスミッションである。カウンタシャフト23は変速機21、更にパワーユニットPUの出力軸を構成している。カウンタシャフト23の端部はクランクケース15の後部左側に突出し、上記チェーン式伝動機構を介して後輪12に連結されている。
【0035】
変速ギア群24は、両シャフト22,23にそれぞれ支持された変速段数分のギアを有する。変速機21は、両シャフト22,23間で変速ギア群24の対応するギア対同士が常に噛み合った常時噛み合い式とされる。両シャフト22,23に支持された複数のギアは、対応するシャフトに対して回転可能なフリーギアと、対応するシャフトにスプライン嵌合するスライドギア(シフター)とに分類される。これらフリーギア及びスライドギアの一方には軸方向で凸のドグが、他方にはドグを係合させるべく軸方向で凹のスロットがそれぞれ設けられている。すなわち、変速機21は、いわゆるドグミッションである。
【0036】
変速機21のメインシャフト22及びカウンタシャフト23は、クランクシャフト14の後方で前後に並んで配置されている。メインシャフト22の右端部には、クラッチアクチュエータ50(
図3参照)により作動するクラッチ装置26が同軸配置されている。クラッチ装置26は、例えば湿式多板クラッチであり、いわゆるノーマルオープンクラッチである。すなわち、クラッチ装置26は、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給によって動力伝達可能な接続状態となり、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給がなくなると動力伝達不能な切断状態に戻る。クラッチ装置26および変速機21は、自動二輪車1の変速装置に含まれる。変速機ケース17におけるクラッチ装置26を収容する部位をクラッチケース17aと称する。
【0037】
クランクシャフト14の回転動力は、クラッチ装置26を介してメインシャフト22に伝達され、メインシャフト22から変速ギア群24の任意のギア対を介してカウンタシャフト23に伝達される。カウンタシャフト23におけるクランクケース15の後部左側に突出した左端部には、上記チェーン式伝動機構のドライブスプロケット27が取り付けられている。クラッチ装置26の車幅方向内側には、クランクシャフト14の回転動力を受けるプライマリドリブンギア(他部品)29が取り付けられている。
【0038】
変速機21の後上方には、変速ギア群24のギア対を切り替えるチェンジ機構25が収容されている。チェンジ機構25は、両シャフト22,23と平行な中空円筒状のシフトドラム36の回転により、その外周に形成されたリード溝のパターンに応じて複数のシフトフォーク(不図示)を作動させ、変速ギア群24における両シャフト22,23間の動力伝達に用いるギア対を切り替える。
【0039】
チェンジ機構25は、シフトドラム36と平行なシフトスピンドル31を有している。シフトスピンドル31の回転時には、シフトスピンドル31に固定されたシフトアーム(マスタアーム)31aがシフトドラム36を回転させ、リード溝のパターンに応じてシフトフォークを軸方向移動させて、変速ギア群24の内の動力伝達可能なギア対を切り替える(すなわち、変速段を切り替える。)。
【0040】
図1を併せて参照し、シフトスピンドル31は、チェンジ機構25を操作可能とするべくクランクケース15の車幅方向外側(左方)に軸外側部31bを突出させている。シフトスピンドル31の軸外側部31bには、シフト荷重センサ42(シフト操作検知手段)が同軸に取り付けられている。シフトスピンドル31の軸外側部31b(またはシフト荷重センサ42の回転軸)には、揺動レバー33が取り付けられている。揺動レバー33は、シフトスピンドル31(またはシフト荷重センサ42の回転軸)にクランプ固定される基端部33aから後方へ延び、その先端部33bには、リンクロッド34の上端部が上ボールジョイント34aを介して揺動自在に連結されている。リンクロッド34の下端部は、運転者が足操作するシフトペダル32に、下ボールジョイント(不図示)を介して揺動自在に連結されている。
【0041】
図1に示すように、シフトペダル32は、その前端部がクランクケース15の下部に左右方向に沿う軸を介して上下揺動可能に支持されている。シフトペダル32の後端部には、ステップ32aに載せた運転者の足先を掛けるペダル部が設けられ、シフトペダル32の前後中間部には、リンクロッド34の下端部が連結されている。
【0042】
図2に示すように、シフトペダル32、リンクロッド34およびチェンジ機構25を含んで、変速機21の変速段ギアの切り替えを行うシフトチェンジ装置35が構成されている。シフトチェンジ装置35において、変速機ケース17内で変速機21の変速段を切り替える集合体(シフトドラム36、シフトフォーク等)を変速作動部35a、シフトペダル32への変速動作が入力されてシフトスピンドル31の軸回りに回転し、この回転を変速作動部35aに伝達する集合体(シフトスピンドル31、シフトアーム31a等)を変速操作受け部35b、という。
【0043】
ここで、自動二輪車1は、変速機21の変速操作(シフトペダル32の足操作)のみを運転者が行い、クラッチ装置26の断接操作はシフトペダル32の操作に応じて電気制御により自動で行うようにした、いわゆるセミオートマチックの変速システム(自動クラッチ式変速システム)を採用している。
【0044】
<変速システム>
図4に示すように、上記変速システム(変速装置)は、クラッチアクチュエータ50、ECU60(Electronic Control Unit、制御部)および各種センサ41〜45を備えている。
ECU60は、シフトドラム36の回転角から変速段を検知するギアポジションセンサ41、およびシフトスピンドル31に入力された操作トルクを検知するシフト荷重センサ42(例えばトルクセンサ)からの検知情報、ならびにスロットル開度センサ43、車速センサ44およびエンジン回転数センサ45等からの各種の車両状態検知情報等に基づいて、クラッチアクチュエータ50を作動制御するとともに、点火装置46および燃料噴射装置47を作動制御する。
ECU60には、後述する油圧センサ57,58、並びにシフト操作センサ(アングルセンサ)48からの検知情報も入力される。
また、ECU60は、油圧制御部(クラッチ制御部)61を備えている。図中符号60Aはクラッチ制御装置を示している。
【0045】
図3を併せて参照し、クラッチアクチュエータ50は、ECU60により作動制御されることで、クラッチ装置26を断接する液圧を制御可能とする。クラッチアクチュエータ50は、駆動源としての電気モータ52(以下、単にモータ52という。)と、モータ52により駆動されるマスターシリンダ51と、を備えている。クラッチアクチュエータ50は、マスターシリンダ51および油圧給排ポート50pの間に設けられる油圧回路装置53とともに、一体のクラッチ制御ユニット50Aを構成している。
ECU60は、予め設定された演算プログラムに基づいて、クラッチ装置26を断接するためにスレーブシリンダ28に供給する油圧の目標値(目標油圧)を演算し、下流側油圧センサ58で検出されるスレーブシリンダ28側の油圧(スレーブ油圧)が目標油圧に近づくように、クラッチ制御ユニット50Aを制御する。
【0046】
マスターシリンダ51は、シリンダ本体51a内のピストン51bをモータ52の駆動によりストロークさせて、シリンダ本体51a内の作動油をスレーブシリンダ28に対して給排可能とする。図中符号55はボールネジ機構としての変換機構、符号54はモータ52および変換機構55に跨る伝達機構、符号51eはマスターシリンダ51に接続されるリザーバをそれぞれ示す。
【0047】
油圧回路装置53は、マスターシリンダ51からクラッチ装置26側(スレーブシリンダ28側)へ延びる主油路(油圧給排油路)53mの中間部位を開通又は遮断するバルブ機構(ソレノイドバルブ56)を有している。油圧回路装置53の主油路53mは、ソレノイドバルブ56よりもマスターシリンダ51側となる上流側油路53aと、ソレノイドバルブ56よりもスレーブシリンダ28側となる下流側油路53bと、に分けられる。油圧回路装置53はさらに、ソレノイドバルブ56を迂回して上流側油路53aと下流側油路53bとを連通するバイパス油路53cを備えている。
【0048】
ソレノイドバルブ56は、いわゆるノーマルオープンバルブである。バイパス油路53cには、上流側から下流側への方向のみ作動油を流通させるワンウェイバルブ53c1が設けられている。ソレノイドバルブ56の上流側には、上流側油路53aの油圧を検出する上流側油圧センサ57が設けられている。ソレノイドバルブ56の下流側には、下流側油路53bの油圧を検出する下流側油圧センサ58が設けられている。
【0049】
図1に示すように、クラッチ制御ユニット50Aは、例えばリヤカウル9a内に収容されている。スレーブシリンダ28は、クランクケース15の後部左側に取り付けられている。クラッチ制御ユニット50Aとスレーブシリンダ28とは、油圧配管53e(
図3参照)を介して接続されている。
【0050】
図2に示すように、スレーブシリンダ28は、メインシャフト22の左方に同軸配置されている。スレーブシリンダ28は、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給時には、メインシャフト22内を貫通するプッシュロッド28aを右方へ押圧する。スレーブシリンダ28は、プッシュロッド28aを右方へ押圧することで、該プッシュロッド28aを介してクラッチ装置26を接続状態へ作動させる。スレーブシリンダ28は、油圧供給が無くなると、プッシュロッド28aの押圧を解除し、クラッチ装置26を切断状態に戻す。
【0051】
クラッチ装置26を接続状態に維持するには油圧供給を継続する必要があるが、その分だけ電力を消費することとなる。そこで、
図3に示すように、クラッチ制御ユニット50Aの油圧回路装置53にソレノイドバルブ56を設け、クラッチ装置26側への油圧供給後にソレノイドバルブ56を閉じている。これにより、クラッチ装置26側への供給油圧を維持し、圧力低下分だけ油圧を補う(リーク分だけリチャージする)構成として、エネルギー消費を抑えている。
【0052】
<クラッチ制御>
次に、クラッチ制御系の作用について
図5のグラフを参照して説明する。
図5のグラフにおいて、縦軸は下流側油圧センサ58が検出する供給油圧、横軸は経過時間をそれぞれ示している。
自動二輪車1の停車時(アイドリング時)、ECU60で制御されるモータ52およびソレノイドバルブ56は、ともに電力供給が遮断された状態にある。すなわち、モータ52は停止状態にあり、ソレノイドバルブ56は開弁状態にある。このとき、スレーブシリンダ28側(下流側)はタッチポイント油圧TPより低い低圧状態となり、クラッチ装置26は非締結状態(切断状態、解放状態)となる。この状態は、
図5の領域Aに相当する。
【0053】
自動二輪車1の発進時、エンジン13の回転数を上昇させると、モータ52にのみ電力供給がなされ、マスターシリンダ51から開弁状態のソレノイドバルブ56を経てスレーブシリンダ28へ油圧が供給される。スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧がタッチポイント油圧TP以上に上昇すると、クラッチ装置26の締結が開始され、クラッチ装置26が一部の動力を伝達可能な半クラッチ状態となる。これにより、自動二輪車1の滑らかな発進が可能となる。この状態は、
図5の領域Bに相当する。
やがて、クラッチ装置26の入力回転と出力回転との差が縮まり、スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧が下限保持油圧LPに達すると、クラッチ装置26の締結がロック状態に移行し、エンジン13の駆動力が全て変速機21に伝達される。この状態は、
図5の領域Cに相当する。領域A〜Cを、発進領域とする。
【0054】
マスターシリンダ51側からスレーブシリンダ28側に油圧を供給する際には、ソレノイドバルブ56を開弁状態とし、モータ52に通電して正転駆動させて、マスターシリンダ51を加圧する。これにより、スレーブシリンダ28側の油圧がクラッチ締結油圧に調圧される。このとき、クラッチアクチュエータ50の駆動は、下流側油圧センサ58の検出油圧に基づきフィードバック制御される。
【0055】
そして、スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧が上限保持油圧HPに達すると、ソレノイドバルブ56に電力供給がなされて該ソレノイドバルブ56が閉弁作動するとともに、モータ52への電力供給が停止されて油圧の発生が停止される。すなわち、上流側は油圧が解放して低圧状態となる一方、下流側が高圧状態(上限保持油圧HP)に維持される。これにより、マスターシリンダ51が油圧を発生することなくクラッチ装置26が締結状態に維持され、自動二輪車1の走行を可能とした上で電力消費を抑えることができる。
【0056】
ここで、変速操作によっては、クラッチ装置26に油圧を充填した直後に変速を行うような場合も有り得る。この場合、ソレノイドバルブ56が閉弁作動して上流側を低圧状態とする前に、ソレノイドバルブ56が開弁状態のままでモータ52を逆転駆動し、マスターシリンダ51を減圧するとともにリザーバ51eを連通させ、クラッチ装置26側の油圧をマスターシリンダ51側へリリーフする。このとき、クラッチアクチュエータ50の駆動は、上流側油圧センサ57の検出油圧に基づきフィードバック制御される。
【0057】
ソレノイドバルブ56を閉弁し、クラッチ装置26を締結状態に維持した状態でも、
図5の領域Dのように、下流側の油圧は徐々に低下(リーク)する。すなわち、ソレノイドバルブ56およびワンウェイバルブ53c1のシールの変形等による油圧漏れや温度低下といった要因により、下流側の油圧は徐々に低下する。
【0058】
一方、
図5の領域Eのように、温度上昇等により下流側の油圧が上昇する場合もある。下流側の細かな油圧変動であれば、例えば油圧配管53eに設けたアキュムレータ(不図示)により吸収可能であり、油圧変動の度にモータ52およびソレノイドバルブ56を作動させて電力消費を増やすことはない。
図5の領域Eのように、下流側の油圧が上限保持油圧HPまで上昇した場合、ソレノイドバルブ56への電力供給を低下させる等により、ソレノイドバルブ56を段階的に開弁状態として、下流側の油圧を上流側へリリーフする。
【0059】
図5の領域Fのように、下流側の油圧が下限保持油圧LPまで低下した場合、ソレノイドバルブ56は閉弁したままでモータ52への電力供給を開始し、上流側の油圧を上昇させる。上流側の油圧が下流側の油圧を上回ると、この油圧がバイパス油路53cおよびワンウェイバルブ53c1を介して下流側に補給(リチャージ)される。下流側の油圧が上限保持油圧HPになると、モータ52への電力供給を停止して油圧の発生を停止する。これにより、下流側の油圧は上限保持油圧HPと下限保持油圧LPとの間に維持され、クラッチ装置26が締結状態に維持される。領域D〜Fを、クルーズ領域とする。
【0060】
自動二輪車1の停止時に変速機21がニュートラルになると、モータ52およびソレノイドバルブ56への電力供給をともに停止する。これにより、マスターシリンダ51は油圧発生を停止し、スレーブシリンダ28への油圧供給を停止する。ソレノイドバルブ56は開弁状態となり、下流側油路53b内の油圧がリザーバ51eに戻される。以上により、スレーブシリンダ28側(下流側)はタッチポイント油圧TPより低い低圧状態となり、クラッチ装置26が非締結状態となる。この状態は、
図5の領域G,Hに相当する。領域G、Hを、停止領域とする。
【0061】
一方、自動二輪車1の停止時に変速機21がインギアのままだと、スレーブシリンダ28側に待機油圧WPが付与された待機状態となる。
待機油圧WPは、クラッチ装置26の接続を開始するタッチポイント油圧TPよりも若干低い油圧であり、クラッチ装置26を接続しない油圧(
図5の領域A,Hで付与する油圧)である。待機油圧WPの付与により、クラッチ装置26の無効詰め(各部のガタや作動反力のキャンセル並びに油圧経路への予圧の付与等)が可能となり、クラッチ装置26の接続時の作動応答性が高まる。
【0062】
<変速制御>
次に、自動二輪車1の変速制御について説明する。
本実施形態の自動二輪車1は、変速機21のギアポジションが1速のインギア状態にあり、かつ車速が停車に相当する設定値未満にあるインギア停車状態において、シフトペダル32に対する1速からニュートラルへのシフト操作を行う際に、スレーブシリンダ28に供給する待機油圧WPを低下させる制御を行う。
【0063】
ここで、自動二輪車1が停車状態であり、変速機21のギアポジションがニュートラル以外の何れかの変速段位置にある場合、すなわち、変速機21がインギア停車状態にある場合には、スレーブシリンダ28に予め設定した待機油圧WPが供給される。
【0064】
待機油圧WPは、通常時(シフトペダル32の変速操作が検知されていない非検知状態の場合)は、標準待機油圧である第一設定値P1(
図5参照)に設定される。これにより、クラッチ装置26が無効詰めがなされた待機状態となり、クラッチ締結時の応答性が高まる。つまり、運転者がスロットル開度を大きくしてエンジン13の回転数を上昇させると、スレーブシリンダ28への油圧供給により直ちにクラッチ装置26の締結が開始されて、自動二輪車1の速やかな発進加速が可能となる。
【0065】
自動二輪車1は、シフトペダル32に対する運転者のシフト操作を検知するために、シフト荷重センサ42とは別にシフト操作センサ48を備えている。シフト操作センサ48は、例えば変速機ケース17の右外側に配置され、シフトペダル32の変速操作によるシフトスピンドル31の回転を後述するセンサ作動シャフト49を介して検出する。これにより、運転者によるシフト操作を高感度に検知可能である。
そして、インギア停車状態において、ギアポジションセンサ41およびシフト操作センサ48が1速からニュートラルへのシフト操作を検知した際には、油圧制御部61が待機油圧WPを、変速操作を行う前の第一設定値P1よりも低い第二設定値P2(低圧待機油圧、
図5参照)に設定する制御を行う。
【0066】
変速機21がインギア状態にある場合、通常時は第一設定値P1相当の標準待機油圧がスレーブシリンダ28に供給されるため、クラッチ装置26には僅かながらいわゆる引きずりが生じる。このとき、変速機21のドグクラッチにおける互いに噛み合うドグおよびスロット(ドグ孔)が回転方向で押圧し合い、係合解除の抵抗を生じさせてシフト操作を重くすることがある。このような場合に、スレーブシリンダ28に供給する待機油圧WPを第二設定値P2相当の低圧待機油圧に低下させると、ドグおよびスロットの係合が解除しやすくなり、シフト操作を軽くすることとなる。
【0067】
<クラッチ制御モード>
図7に示すように、本実施形態のクラッチ制御装置60Aは、三種のクラッチ制御モードを有している。クラッチ制御モードは、自動制御を行うオートモードM1、手動操作を行うマニュアルモードM2、および一時的な手動操作を行うマニュアル介入モードM3、の三種のモード間で、クラッチ制御モード切替スイッチ59(
図4参照)およびクラッチレバー(クラッチ操作子)4b(
図1参照)の操作に応じて適宜遷移する。なお、マニュアルモードM2およびマニュアル介入モードM3を含む対象をマニュアル系M2Aという。
【0068】
オートモードM1は、自動発進・変速制御により走行状態に適したクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアルモードM2は、乗員によるクラッチ操作指示に応じてクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアル介入モードM3は、オートモードM1中に乗員からのクラッチ操作指示を受け付け、クラッチ操作指示からクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御する一時的なマニュアル操作モードである。なお、マニュアル介入モードM3中に乗員がクラッチレバー4bの操作をやめる(完全にリリースする)と、オートモードM1に戻るよう設定されている。
【0069】
本実施形態のクラッチ制御装置60Aは、エンジン13の回転駆動力で不図示のオイルポンプを駆動してクラッチ制御油圧を発生する。このため、クラッチ制御装置60Aは、システム起動時には、オートモードM1でクラッチオフの状態(切断状態)から制御を始める。また、クラッチ制御装置60Aは、エンジン13停止時にはクラッチ操作が不要なので、オートモードM1でクラッチオフに戻るよう設定されている。
【0070】
オートモードM1は、クラッチ制御を自動で行うことが基本であり、レバー操作レスで自動二輪車1を走行可能とする。オートモードM1では、スロットル開度、エンジン回転数、車速およびシフトセンサ出力により、クラッチ容量をコントロールしている。これにより、自動二輪車1をスロットル操作のみでエンスト(エンジンストップまたはエンジンストール(engine stall))することなく発進可能であり、かつシフト操作のみで変速可能である。ただし、アイドリング相当の極低速時には自動でクラッチ装置26が切断することがある。また、オートモードM1では、クラッチレバー4bを握ることでマニュアル介入モードM3となり、クラッチ装置26を任意に切ることも可能である。
【0071】
一方、マニュアルモードM2では、乗員によるレバー操作により、クラッチ容量をコントロールする。オートモードM1とマニュアルモードM2とは、停車中にクラッチ制御モード切替スイッチ59(
図4参照)を操作することで切り替え可能である。なお、クラッチ制御装置60Aは、マニュアル系M2A(マニュアルモードM2又はマニュアル介入モードM3)への遷移時にレバー操作が有効であることを示すインジケータを備えてもよい。
【0072】
マニュアルモードM2は、クラッチ制御を手動で行うことが基本であり、クラッチレバー4bの作動角度に応じてクラッチ油圧を制御可能である。これにより、乗員の意思のままにクラッチ装置26の断接をコントロール可能であり、かつアイドリング相当の極低速時にもクラッチ装置26を接続して走行可能である。ただし、レバー操作によってはエンストすることがあり、かつスロットル操作のみでの自動発進も不可である。なお、マニュアルモードM2であっても、シフト操作時にはクラッチ制御が自動で介入する。
【0073】
オートモードM1では、クラッチアクチュエータ50により自動でクラッチ装置26の断接が行われるが、クラッチレバー4bに対するマニュアルクラッチ操作が行われることで、クラッチ装置26の自動制御に一時的に手動操作を介入させることが可能である(マニュアル介入モードM3)。
【0074】
図6に示すように、クラッチレバー4bの操作量(回転角度)とクラッチレバー操作量センサ4cの出力値とは、互いに比例関係(相関関係)にある。ECU60は、クラッチレバー操作量センサ4cの出力値に基づいて、クラッチ装置26の目標油圧を演算する。スレーブシリンダ28に生じる実際の油圧(スレーブ油圧)は、目標油圧に対して圧損分だけ遅れて追従する。
【0075】
<マニュアルクラッチ操作>
図1に示すように、操向ハンドル4aの左グリップの基端側(車幅方向内側)には、クラッチ手動操作子としてのクラッチレバー4bが取り付けられている。クラッチレバー4bは、クラッチ装置26とケーブルや油圧等を用いた機械的な接続がなく、ECU60にクラッチ作動要求信号を発信する操作子として機能する。すなわち、自動二輪車1は、クラッチレバー4bとクラッチ装置26とを電気的に接続したクラッチバイワイヤシステムを採用している。
【0076】
図4を併せて参照し、クラッチレバー4bには、クラッチレバー4bの操作量(回転角度)を検出するクラッチレバー操作量センサ4cが一体的に設けられている。クラッチレバー操作量センサ4cは、クラッチレバー4bの操作量を電気信号に変換して出力する。クラッチレバー4bの操作が有効な状態(マニュアル系M2A)において、ECU60は、クラッチレバー操作量センサ4cの出力に基づき、クラッチアクチュエータ50を駆動する。なお、クラッチレバー4bとクラッチレバー操作量センサ4cとは、相互に一体でも別体でもよい。
【0077】
自動二輪車1は、クラッチ操作の制御モードを切り替えるクラッチ制御モード切替スイッチ59を備えている。クラッチ制御モード切替スイッチ59は、所定の条件下において、クラッチ制御を自動で行うオートモードM1と、クラッチレバー4bの操作に応じてクラッチ制御を手動で行うマニュアルモードM2と、の切り替えを任意に行うことを可能とする。例えば、クラッチ制御モード切替スイッチ59は、操向ハンドル4aに取り付けられたハンドルスイッチに設けられている。これにより、通常の運転時に乗員が容易に操作することができる。
【0078】
図6を併せて参照し、クラッチレバー4bは、乗員による握り込み操作がされることなく解放されてクラッチ接続側に回転した解放状態と、乗員の握り込みによってグリップ側(クラッチ切断側)に回転してグリップに突き当たった突き当て状態と、の間で回転可能である。クラッチレバー4bは、乗員による握り込み操作から解放されると、初期位置である解放状態に戻るよう付勢されている。
【0079】
例えば、クラッチレバー操作量センサ4cは、クラッチレバー4bを完全に握り込んだ状態(突き当て状態)で出力電圧をゼロとし、この状態からクラッチレバー4bのリリース動作(クラッチ接続側への操作)がなされることに応じて、出力電圧を増加させるよう構成されている。本実施形態では、クラッチレバー操作量センサ4cの出力電圧のうち、クラッチレバー4bの握り始めに存在するレバー遊び分と、握り込んだレバーとグリップとの間に指が入る程度の隙間を確保した突き当て余裕分と、を除いた範囲を、有効電圧の範囲(クラッチレバー4bの有効操作範囲)に設定している。
【0080】
具体的に、クラッチレバー4bの突き当て状態から突き当て余裕分だけクラッチレバー4bをリリースした操作量S1から、レバー遊び分が始まるまでクラッチレバー4bをリリースした操作量S2までの間を、有効電圧の下限値E1〜上限値E2の範囲に対応するように設定している。この下限値E1〜上限値E2の範囲は、マニュアル操作クラッチ容量の演算値のゼロ〜MAXの範囲に比例関係で対応している。これにより、機械的ガタやセンサばらつき等の影響を低減し、手動操作によって要求されるクラッチ駆動量の信頼性を高めることができる。なお、クラッチレバー4bの操作量S1のときを有効電圧の上限値E2とし、操作量S2のときを下限値E1とする設定でもよい。
【0081】
<シフトアーム>
図8、
図11に示すように、シフトアーム31aは、シフトスピンドル31の軸方向視で、シフトスピンドル31の回転中心(軸心)C1を通る延出基準線L1に沿って、シフトスピンドル31の径方向外側へ延びている。
図11に示すシフトアーム31aを中立位置D1とすると、シフトアーム31aは、中立位置D1から図中矢印SUPで示すシフトアップ側、および図中矢印SDNで示すシフトダウン側に、それぞれ所定角度だけ回転可能である。シフトアーム31aは、リターンスプリング39aのバネ力により中立位置D1に向けて付勢されている。
図8ではクラッチ装置26、クラッチケース17aの外側壁17a2を含むクラッチカバー、およびクラッチカバーに取り付くシフト操作センサ48の図示を略している。
【0082】
シフトアーム31aは、シフトペダル32(
図1参照)からの操作荷重が付与されていない状態(運転者によるシフト操作がなされていない状態)では、リターンスプリング39aに付勢されて中立位置D1に配置される。このとき、上記シフト操作センサ48は、シフトスピンドル31の回転角度を0°として検出する。
【0083】
一方、シフトペダル32に操作荷重が付与された状態(運転者によるシフト操作がなされた状態)では、リターンスプリング39aの付勢力に抗してシフトスピンドル31およびシフトアーム31aが一体回転し、不図示のラチェット機構等を介してシフトドラム36をシフトチェンジに必要な角度だけ回転させる。このとき、シフト操作センサ48がシフトスピンドル31の回転角度を検出することで、シフトスピンドル31の回転から変速操作を高感度に検出可能である。すなわち、シフト操作荷重から変速操作を検出する場合に比べて、運転者のシフト操作を高感度に検出可能である。
【0084】
図2、
図9、
図10を併せて参照し、シフトアーム31aは、アーム本体37とシフタプレート38とを備えている。アーム本体37およびシフタプレート38の各々は、シフトスピンドル31と直交する板状をなしている。アーム本体37は、基端側がシフトスピンドル31に固定されている。アーム本体37は、軸方向視でシフトドラム36と重なるように、延出基準線L1に沿って延びている。アーム本体37は、軸方向視で先端部がシフトドラム36を通り過ぎるまで延びている。アーム本体37の先端側には、シフタプレート38がシフトドラム36側から取り付けられている。シフタプレート38は、アーム本体37の先端側に、延出基準線L1に沿って所定量だけスライド可能に取り付けられている。
【0085】
アーム本体37の基端側において、軸方向視で延出基準線L1と直交する方向よりもアーム本体37の先端側に傾斜した角度位置には、変速機ケース17に固設された規制ボルト39を遊嵌させる係合孔39cが形成されている。シフトスピンドル31のアーム本体37近傍には、トーションコイルスプリングであるリターンスプリング39aが外嵌されている。リターンスプリング39aにおける径方向に延びる一対のコイル端部の間には、規制ボルト39が挟み込まれるとともに、アーム本体37の基端側に形成されたバネ受け片39bが挟み込まれている。
【0086】
シフトスピンドル31の回転に伴いシフトアーム31aが回転すると、バネ受け片39bと規制ボルト39との相対移動によって、リターンスプリング39aの一対のコイル端部が互いに離間するように広げられる。その後、シフトアーム31aを回転させる力が消失すると、リターンスプリング39aの弾性力によってシフトアーム31aが中立位置D1に戻される。
【0087】
アーム本体37の基端側において、軸方向視で延出基準線L1と直交する方向よりもアーム本体37の基端側に傾斜した角度位置には、センサ作動シャフト49を係合させる駆動アーム37aが一体形成されている。
シフトアーム31aとシフトドラム36との間には、シフトアーム31aの回転に応じてシフトドラム36を所定角度ずつ間欠的に回転させるラチェット機構が構成されている。
【0088】
シフトアーム31aは、中立位置D1からの回転に伴い、シフトドラム36をシフトアップ側またはシフトダウン側に回転させる。シフトアーム31aは、シフトドラム36を回転させた後には、シフトドラム36の回転を戻すことなく回転前の中立位置D1に戻る。このように、シフトスピンドル31の正逆回転の繰り返しによって、シフトドラム36を所定角度ずつ回転させて変速段の切り替えが可能となる。シフトアーム31aは、例えば規制ボルト39と係合孔39cとの間の回転方向の遊びによって、規定された角度だけ回転可能である。
【0089】
シフトスピンドル31およびシフトアーム31aが所定角度だけ正逆回転の一往復動を行うと、シフトドラム36が一方向に所定角度(変速段が6段の場合は60度)だけ回転する。この回転角度は、変速機21の変速段を一段シフトアップ又はシフトダウンさせる角度に相当する。このシフトドラム36の回転により、変速機21が現在の変速段をシフトアップ側またはシフトダウン側の次段の変速段に変化させる。シフトスピンドル31およびシフトアーム31aが所定角度の正逆回転の往復動を繰り返すことで、変速機21を段階的にシフトアップ又はシフトダウン可能である。
【0090】
シフトドラム36には、例えば軸方向の一端部に、シフトポジション検出用のギアポジションセンサ41が係合している。ギアポジションセンサ41は、シフトドラム36の回転角度を検出してECU60に送ることで、変速機21の現在の変速段を検知可能とする。
【0091】
<センサ作動シャフト>
図2、
図8〜
図11に示すように、本実施形態では、シフトスピンドル31と平行にセンサ作動シャフト49を設け、このセンサ作動シャフト49とシフトアーム31aとを、スリット37bとピン49dとの組み合わせにより係合させて連動可能としている。そして、シフトスピンドル31の回転によりセンサ作動シャフト49を介してシフト操作センサ(アングルセンサ)48を作動させ、このシフト操作センサ48によってセンサ作動シャフト49、更にシフトスピンドル31の回転角度の検出を行う。
【0092】
すなわち、自動二輪車1は、シフトペダル32に対する運転者のシフト操作を検知するために、シフト荷重センサ42とは別に、アングルセンサとしてのシフト操作センサ48を備えている。これにより、シフト荷重の発生前に、シフトチェンジに応じた予備動作を行うことが可能となり、シフト荷重の増大を防ぐとともに、素早い変速動作を行うことが可能となる。
【0093】
センサ作動シャフト49は、クラッチケース17aにおけるクラッチ装置26の外周側を覆う外周壁17a1の内側を、左右方向に沿って延びるように配置されている。
図2の例では、センサ作動シャフト49は、クラッチ装置26の後上側に配置されている。シフトスピンドル31は、クラッチ装置26よりも左側において、クラッチ装置26の後上部と側面視で重なる位置に配置されている。シフトアーム31aは、シフトスピンドル31の右端部(車幅方向内側の端部)から側面視で後下方へ延びるように配置されている。自動二輪車1の車幅方向は、変速機21の幅方向かつ軸方向でもある。
【0094】
センサ作動シャフト49の車幅方向内側の端部49aは、クラッチケース17aに設けられた軸受け部17a3に、例えばニードルベアリング17a4等の転がり軸受けを介して回転可能に支持されている。センサ作動シャフト49の車幅方向外側の端部49bは、例えば軸方向に沿う平面(係合面)を有する断面半円状をなし、この端部49bがシフト操作センサ48の回転軸48cに一体回転可能に係合している。センサ作動シャフト49の端部49bと回転軸48cとは、車幅方向の移動によって互いに係合、離脱が可能である。
【0095】
センサは、ハウジング48a内に回転軸48cと一体回転するロータ48bを有し、このロータ48bの回転角からセンサ作動シャフト49の回転角を検出する。センサ作動シャフト49は、シフトスピンドル31に連動して回転可能であり、このセンサ作動シャフト49の回転角に応じて、シフトスピンドル31の回転角、更にシフト操作が検出される。シフト操作センサ48は、クラッチケース17aにおけるクラッチ装置26の車幅方向外側を覆う外側壁17a2に形成された凹状のセンサ取付部17a5に、車幅方向外側から車幅方向に沿って着脱される。このとき、シフト操作センサ48の回転軸48cがセンサ作動シャフト49の車幅方向外側の端部49bに係脱される。
【0096】
センサ作動シャフト49の車幅方向内側における端部49aから車幅方向外側に離間した部位には、軸方向と直交する板状の作動アーム49cが一体に設けられている。作動アーム49cは、軸方向視楕円状をなして径方向一側(図の例では下方)に延びている。作動アーム49cの先端側には、車幅方向内側に向けて起立する円柱状の係合ピン49dが設けられている。
【0097】
係合ピン49dは、シフトアーム31aの基端部上側に設けられた駆動アーム37aと、側面視で重なる位置に設けられている。駆動アーム37aは、アーム本体37の一部として板状に形成されている。駆動アーム37aには、例えばセンサ作動シャフト49側(図の例では上方)に向けて開放するスリット37bが形成されている。スリット37b内には、作動アーム49cの係合ピン49dが、スリット37bの長手方向でスライド可能、かつ係合ピン49dの軸回りに回転可能に係合している。これらスリット37bおよび係合ピン49dを含む連動機構により、センサ作動シャフト49がシフトアーム31aおよびシフトスピンドル31に連動して回転可能となる。
【0098】
駆動アーム37aは、回転方向でスリット37bを挟んだ両側に、一対の壁部37c1,37c2を備えている。これら一対の壁部37c1,37c2の内、一方の壁部37c1の回転方向外側には、プライマリドリブンギア29の外周部が近接配置されており、作動アーム49cの係合ピン49dが壁部37c1の外側に誤って入り込むことはない。一対の壁部37c1,37c2の内、他方の壁部37c2の回転方向外側には、作動アーム49cの係合ピン49dを突き当て可能な規制壁37dが設けられており、作動アーム49cの係合ピン49dが壁部37c2の外側に誤って入り込むことを抑止している。
【0099】
規制壁37dは、アーム本体37の一部として板状に形成されている。規制壁37dは、駆動アーム37aの先端(上端)と変速機ケース17上側の外周壁17a1の下面とに挟まれた空間(シャフト挿通空間)を横断するように配置されている。規制壁37dによって、駆動アーム37aの一対の壁部37c1,37c2は、軸方向視で非対称に形成されている。規制壁37dは、少なくとも係合ピン49dの突出高さ分は、センサ作動シャフト49が車幅方向で組み付け完了位置(
図2参照)まで挿入されることを規制する。これにより、センサ作動シャフト49の回転方向において、作動アーム49cの係合ピン49dがスリット37bへ係合可能な角度位置にないことを作業者に認識させ、センサ作動シャフト49の誤組みを抑止する。
【0100】
本実施形態では、シフトアーム31aおよびシフトスピンドル31の回転に連動してセンサ作動シャフト49が回転し、この回転をシフト操作センサ48が検出する。これにより、シフト操作荷重からシフトアーム31aおよびシフトスピンドル31の回転を検出する場合に比べて、シフトアーム31aおよびシフトスピンドル31の回転を精度よく検出することが可能である。また、作動アーム49cと駆動アーム37aとのレバー比の設定により、シフトスピンドル31の作動角に対してシフト操作センサ48の作動角を増やすことが可能であり、シフトスピンドル31の作動角を細かく検出することが可能である。
【0101】
シフトアーム31aの基端部上側には、駆動アーム37aが一体に設けられている。駆動アーム37aは、軸方向視で作動アーム49cと重なるように設けられている。駆動アーム37aは、シフトアーム31aおよびシフトスピンドル31が変速機ケース17内に組み付けられた状態で、かつシフトアーム31aが中立位置D1にあるとき、駆動アーム37aの先端(上端)をクラッチケース17a上側の外周壁17a1の下面の下方に離間させる。側面視で駆動アーム37aの先端(上端)と変速機ケース17上側の外周壁17a1の下面とに上下方向で挟まれた空間は、センサ作動シャフト49を挿通するためのシャフト挿通空間とされている。シャフト挿通空間の前方には、プライマリドリブンギア29の前上がりの外周部が配置されている。
【0102】
図12を併せて参照し、センサ作動シャフト49の回転方向において、作動アーム49cが駆動アーム37aに係合可能な角度位置(以下、第一角度位置K1という。)にあるとき、作動アーム49cの先端側は、側面視でプライマリドリブンギア29の外周部と重なる。センサ作動シャフト49は、クラッチ装置26およびチェンジ機構25が変速機ケース17内に組み付けられた状態で、車幅方向外側より変速機ケース17内に挿入されて組み付けられる。このため、センサ作動シャフト49は、側面視で作動アーム49cと重なる干渉物がないように、作動アーム49cを後方に向けるように回転した状態で、変速機ケース17内に挿入される。このときのセンサ作動シャフト49の回転方向の角度位置を第二角度位置K2という。
【0103】
センサ作動シャフト49は、車幅方向内側の端部49aを軸受け部17a3近傍に至らしめたとき、作動アーム49cをプライマリドリブンギア29よりも車幅方向内側に至らしめる。このときのセンサ作動シャフト49は、車幅方向で組み付け完了位置に至る手前の組み付け中途位置にある。組み付け中途位置において、センサ作動シャフト49は、第二角度位置K2から第一角度位置K1へ回転可能となる。
【0104】
そして、センサ作動シャフト49を第一角度位置K1へ回転させた後、センサ作動シャフト49をさらに車幅方向内側に挿入することで、センサ作動シャフト49の車幅方向内側の端部49aがベアリング17a4内に挿入されて支持されるとともに、作動アーム49cの係合ピン49dが駆動アーム37aのスリット37b内に挿入されて係合する。この後、クラッチケース17aの外側壁17a2を含むクラッチカバー、およびシフト操作センサ48を組み付け、シフト作動シャフト49の車幅方向外側の端部49bをシフト操作センサ48の回転軸48cに係合させて支持することで、シフト作動シャフト49およびシフト操作センサ48の組み付けが完了する。
【0105】
センサ作動シャフト49は、作動アーム49cを前方に向けるように回転した角度位置(第三角度位置K3)にあるときに変速機ケース17内に挿入しようとしても、作動アーム49cがプライマリドリブンギア29の外周部に干渉するため、変速機ケース17内に挿入することができない。センサ作動シャフト49は、作動アーム49cを後方に向けた第二角度位置K2で変速機ケース17内に挿入され、組み付け途中位置で回転して第一角度位置K1へ回転し、係合ピン49dをスリット37bへ係合可能な角度位置に配置する。このとき、センサ作動シャフト49を回転させすぎると、係合ピン49dがスリット37bへ係合可能な角度位置を通り過ぎてしまう。しかし、係合ピン49dが上記他方の壁部37c2の外側へ至ってしまっても、規制壁37dによって係合ピン49dの差し込みが規制されるので、係合ピン49dが壁部37c2の外側に差し込まれて誤組み状態となってしまうことが抑止される。
【0106】
本実施形態では、シフトスピンドル31と平行にセンサ作動シャフト49を設け、センサ作動シャフト49の作動アーム49cとシフトアーム31aとを、スリット37bおよび係合ピン49dを組み合わせた連動機構を介して連動させる。シフト操作センサ48は、センサ作動シャフト49を介して作動して、シフトスピンドル31の回転角度を検出する(すなわち、シフト操作を検出する)。シフト操作センサ48は、シフトスピンドル31等に対し、センサ作動シャフト49を介して軸方向でオフセットして配置される。
【0107】
これにより、シフト操作センサ48を、変速機ケース17(クラッチケース17a)の外側に配置したり、軸方向視でクラッチ装置26と重ねて配置する等、センサ配置自由度を向上させることが可能である。そして、シフトスピンドル31の外周面にシフト操作センサ48を対向配置したり、シフトアーム31aの延出先端にシフト操作センサ48を対向配置したりする場合に比べて、変速機ケース17内にセンサ配置スペースを確保する必要が無くなるため、シフトスピンドル31の軸方向視(変速装置の側面視)において、変速装置、更にパワーユニットPUの大型化を抑止することができる。
【0108】
以上説明したように、上記実施形態における鞍乗り型車両の変速装置は、軸回りに回転して変速機21の変速段を切り替えるシフトドラム36と、乗員のシフト操作を受けて軸回りに回転して上記シフトドラム36を回転させるシフトスピンドル31と、上記シフトスピンドル31の回転を検出するシフト操作センサ48と、上記シフトスピンドル31と上記シフト操作センサ48との間に配置され、上記シフトスピンドル31に連動して回転し、上記シフトスピンドル31の回転を上記シフト操作センサ48に伝達するセンサ作動シャフト49と、を備えている。
【0109】
この構成によれば、センサ作動シャフト49を介してシフトスピンドル31の回転をシフト操作センサ48に伝達することにより、シフトスピンドル31の回転をシフト操作センサ48で直接検出する場合に比べて、シフト操作センサ48の配置自由度を向上させることができる。これにより、シフト操作センサ48の設置に伴う変速装置、更にパワーユニットPUの大型化を抑えた上で、シフトスピンドル31の回転を検出するシフト操作センサ48を設置することができる。
【0110】
上記鞍乗り型車両の変速装置は、上記シフトスピンドル31と一体に回転し、上記シフトドラム36に係合して上記シフトドラム36を回転させるとともに、上記センサ作動シャフト49を係合させて上記センサ作動シャフト49に上記シフトスピンドル31の回転を伝達するシフトアーム31aを、更に備えている。
この構成によれば、シフトスピンドル31と一体回転するシフトアーム31aを利用して、センサ作動シャフト49にシフトスピンドル31の回転を伝達するので、シフトスピンドル31の回転を他構成に伝達する構成を増やすことなく、シフトドラム36およびセンサ作動シャフト49を回転させることができ、部品点数の増加を抑えることができる。
【0111】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記シフトスピンドル31は、上記シフトアーム31aを支持する軸方向一側部から他側部に向けて、上記変速機21の幅方向一側に向けて延び、上記センサ作動シャフト49は、上記シフトアーム31aに係合する上記軸方向一側部から上記他側部に向けて、上記変速機21の幅方向他側に向けて延びている。
この構成によれば、シフトスピンドル31がシフトアーム31aを支持する部位から変速機21の幅方向一側に向けて延び、センサ作動シャフト49がシフトアーム31aに係合する部位から変速機21の幅方向他側に向けて延びるので、変速機21の幅方向でシフトアーム31aの両側にシフトスピンドル31およびセンサ作動シャフト49を振り分けて配置することとなり、部品配置の効率化によって変速装置の大型化を抑えることができる。
【0112】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記シフトドラム36は、上記シフトアーム31aよりも上記変速機21の幅方向一側に配置されている。
この構成によれば、変速機21の幅方向一側にシフトスピンドル31およびシフトドラム36を集約して配置するので、部品配置の効率化によって変速装置の大型化を抑えることができる。
【0113】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記センサ作動シャフト49は、上記シフトアーム31aに係合する作動アーム49cを備え、上記シフトアーム31aにおける回転方向の特定の角度位置には、凹状の第一係合部(スリット37b)が設けられ、上記作動アーム49cには、上記第一係合部に係合する凸状の第二係合部(係合ピン49d)が設けられている。
この構成によれば、シフトアーム31aの特定の角度位置で作動アーム49cが係合するので、これらがギア等を介して係合する場合と比べて、互いの相対位置(初期位置)を決めやすく、かつ互いに係合しやすく、さらに係合要素を小型化して省スペース化を図ることができる。
【0114】
上記鞍乗り型車両の変速装置は、原動機の動力を受けるプライマリドリブンギア29を、更に備え、上記シフトアーム31aの上記第一係合部は、上記プライマリドリブンギア29と軸方向視で重なる位置に配置されている。
この構成によれば、プライマリドリブンギア29と軸方向視で重なる位置でシフトアーム31aおよび作動アーム49cを係合させるので、プライマリドリブンギア29と軸方向視で重ならない位置でシフトアーム31aおよび作動アーム49cを係合させる場合に比べて省スペース化を図ることができる。
【0115】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記シフトアーム31aの上記第一係合部は凹状をなし、上記作動アーム49cの上記第二係合部は、上記第一係合部に上記センサ作動シャフト49の軸方向で挿入されて係合する凸状をなし、上記シフトアーム31aは、上記変速機21を収容する変速機ケース17の内側に配置され、上記センサ作動シャフト49は、上記変速機ケース17の外側から上記変速機ケース17の内側に軸方向で挿入されて、上記作動アーム49cの上記第二係合部を上記シフトアーム31aの上記第一係合部に挿入して係合させる。
上記シフトアーム31aの回転方向で上記第一係合部の両側には、一対の壁部37c1,37c2を備え、上記一対の壁部37c1,37c2の一方において、上記シフトアーム31aの回転方向で上記第一係合部と反対側となる外側には、他部品(プライマリドリブンギア29)が近接配置され、上記一対の壁部37c1,37c2の他方において、上記シフトアーム31aの回転方向で上記第一係合部と反対側となる外側には、上記作動アーム49cの上記第二係合部の先端を突き当てて上記センサ作動シャフト49の挿入を規制する規制壁37dが設けられている。
【0116】
この構成によれば、センサ作動シャフト49を変速機ケース17内に軸方向で挿入し、作動アーム49cの第二係合部をシフトアーム31aの第一係合部に挿入して係合させる際、センサ作動シャフト49の誤組みを抑止することができる。すなわち、第一係合部を挟んだ一対の壁部37c1,37c2の内、一方の壁部37c1の外側には、他部品が近接配置されるので、作動アーム49cの第二係合部が壁部37c1の外側に誤って入り込むことを抑止することができる。第一係合部を挟んだ一対の壁部37c1,37c2の内、他方の壁部37c2の外側には、作動アーム49cの第二係合部を突き当て可能な規制壁37dが設けられるので、作動アーム49cの第二係合部が壁部37c2の外側に誤って入り込むことを抑止することができる。
【0117】
上記鞍乗り型車両の変速装置は、原動機(エンジン13)と上記変速機21との間の動力伝達を断接するクラッチ装置26を、更に備え、上記センサ作動シャフト49は、上記クラッチ装置26の外周側に配置されている。
この構成によれば、クラッチ装置26の外周側のスペースを利用してセンサ作動シャフト49を配置するので、部品配置の効率化によって変速装置の大型化を抑えることができる。
【0118】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記シフト操作センサ48は、上記シフトスピンドル31の回転角度を検出するアングルセンサである。
この構成によれば、シフト操作センサ48がアングルセンサであるので、単にシフト操作をオンオフ検出するスイッチである場合に比べて、シフトスピンドル31の回転角度に応じてより細かく変速装置の制御を行うことが可能となり、商品性を高めることができる。また、シフト操作センサ48が大型化しても、配置自由度の向上によって効率よく配置することができる。
【0119】
上記鞍乗り型車両の変速装置において、上記シフト操作センサ48は、上記変速機21を収容する変速機ケース17に配置されている。
この構成によれば、シフト操作センサ48を変速機ケース17に配置するので、シフト操作センサ48の組み付けおよびメンテナンスを容易にすることができる。
【0120】
上記鞍乗り型車両の変速装置は、原動機の動力を受けるプライマリドリブンギア29を、更に備え、上記センサ作動シャフト49は、上記プライマリドリブンギア29の外周側に配置されている。
この構成によれば、プライマリドリブンギア29は一次減速比を確保するため大径であるが、このプライマリドリブンギア29の外周側にセンサ作動シャフト49を配置するので、プライマリドリブンギア29を挟んだ両側にシフトスピンドル31およびシフト操作センサ48を振り分けて配置可能となり、部品配置の効率化によって変速装置の大型化を抑えることができる。
【0121】
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、油圧の増加でクラッチを接続し、油圧の低減でクラッチを切断する構成への適用に限らず、油圧の増加でクラッチを切断し、油圧の低減でクラッチを接続する構成に適用してもよい。
クラッチ操作子は、クラッチレバー4bに限らず、クラッチペダルやその他の種々操作子であってもよい。
上記実施形態のようにクラッチ操作を自動化した鞍乗り型車両への適用に限らず、マニュアルクラッチ操作を基本としながら、所定の条件下でマニュアルクラッチ操作を行わずに駆動力を調整して変速を可能とする、いわゆるクラッチ操作レスの変速装置を備える鞍乗り型車両にも適用可能である。
シフト操作の検出時に点火装置46および燃料噴射装置47を作動制御して変速機21のギア駆動荷重を抜くことで、シフトチェンジ時のクラッチ操作およびスロットル操作を不要とした変速装置に適用してもよい。
【0122】
シフト操作センサ48は、センサ作動シャフト49の回転角度を検出するアングルセンサに限らず、センサ作動シャフト49と一体回転するカム等に対向する接点スイッチであってもよい。
作動アーム49cと駆動アーム37aとの係合構造(駆動構造)は、スリット37bとピン49dとの組み合わせに限らず、孔又は凹部とこれに係合する凸部との組み合わせでもよい。また、ギア、カム、リンク等を介して連係してもよい。
シフトスピンドル31とセンサ作動シャフト49とは、シフトアーム31aを介して係合する構成に限らず、ギア、カム、リンク等を介して直接係合してもよい。
センサ作動シャフト49は、シフトスピンドル31と交差する配置でもよい。
【0123】
上記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれ、かつ電気モータを原動機に含む車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。