特許第6982707号(P6982707)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

特許6982707活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6982707
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20211206BHJP
【FI】
   C09D11/322
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2021-106268(P2021-106268)
(22)【出願日】2021年6月28日
【審査請求日】2021年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2020-112768(P2020-112768)
(32)【優先日】2020年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 有香里
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 敏正
(72)【発明者】
【氏名】正時 睦子
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−153498(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/080942(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/014017(WO,A1)
【文献】 特開2000−119544(JP,A)
【文献】 特開2007−100072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 45/00,67/20,67/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.Pigment Yellow 150、活性エネルギー線重合性化合物、及び、シロキサン系界面活性剤を含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインキであって、
前記活性エネルギー線重合性化合物が、芳香環を含む単官能モノマー、及び、N−ビニル化合物を含み、
前記芳香環を含む単官能モノマーの含有量が、インキ全量中の10〜60質量%であり、
前記N−ビニル化合物の含有量が、インキ全量中の8〜35質量%であり、
前記芳香環を含む単官能モノマーと前記N−ビニル化合物との合計量が、インキ全量中の20〜75質量%であり、
前記シロキサン系界面活性剤の重量平均分子量が、400〜20,000であり、
前記活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ中に含まれる、下記一般式1で表される化合物の総量が100ppm以下である、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ。
一般式1
【化1】
(一般式1中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基を表す。)
【請求項2】
前記芳香環を含む単官能モノマーと前記N−ビニル化合物との合計量が、インキ全量中の30〜70質量%である、請求項1記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ。
【請求項3】
前記芳香環を含む単官能モノマーの含有量が、インキ全量中の10〜50質量%であり、
前記N−ビニル化合物の含有量が、インキ全量中の10〜30質量%である、請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷の小ロット化及びニーズの多様化に伴い、デジタル印刷方式の普及が急速に進んでいる。また、デジタル印刷方式では、版を必要としないことから、コストの削減、及び、印刷装置の小型化が実現可能である。
【0003】
デジタル印刷方式の一種であるインクジェット印刷方式とは、記録媒体に対し、インクジェットヘッドからインキの微小液滴を飛翔及び着弾させて、当該記録媒体上に画像又は文字を形成し、印刷物を得る方式である。他のデジタル印刷方式と比べて、印刷装置のサイズ及びコスト、印刷時のランニングコスト、フルカラー化の容易性などの面で優れており、近年では産業印刷用途においても利用が進んでいる。
【0004】
また、インクジェット印刷方式に使用されるインキは、水型、油型、溶剤型、活性エネルギー線硬化型など多岐に渡るが、プラスチック及びガラス等の非吸収性の記録媒体にも適用できること、乾燥(硬化)時間の速さ、印刷層を形成する硬化膜の強さなどの特性から、近年は活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの需要がますます高まっている。
【0005】
活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを非吸収性の記録媒体に印刷する際は、当該記録媒体内部への浸透がないことから、基材密着性が課題になりやすい。また、一方で、生産性向上の観点から、高い硬化性も要求される。そこで従来から、基材密着性及び硬化性を良化させるために、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの構成材料としてN−ビニル化合物が使用されている(特許文献1〜2参照)。
【0006】
一方、C.I.Pigment Yellow 150は、耐候性が非常に強いイエロー顔料として知られており、屋外サイン用途等、強い耐候性が求められる用途において使用されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、C.I.Pigment Yellow 150は分散が困難な顔料であることもまた知られている。従来から、メラミンを包接させることで、当該C.I.Pigment Yellow 150の分散安定性の確保を図っているが(特許文献4〜5参照)、必ずしも十分とはいいがたく、また一般に、分散安定性を確保するためには、メラミンをC.I.Pigment Yellow 150と同量以上添加する必要がある。
【0008】
特に活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの場合、硬化性及びインクジェット印刷適性、例えば吐出安定性の付与の観点から、使用できる材料が大幅に制限される。例えば上述したN−ビニル化合物は、基材密着性及び硬化性の付与の観点では好適な材料であるが、併用する材料によっては、顔料の分散安定性及び吐出安定性を悪化させてしまう恐れがある。従って、特にN−ビニル化合物と併用する場合、C.I.Pigment Yellow 150を含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの分散安定性の確保は、特に大きな課題となっていた。
【0009】
当該課題に対し、従来は、例えば特許文献3に記載のように特定構造の顔料分散樹脂を使用する、特許文献6に記載のように顔料誘導体(分散助剤)を併用する、などの所作を実施していた。しかしながら、本発明者らが検討を進めたところ、それらの方策を行ったとしても、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ中のC.I.Pigment Yellow 150の分散状態が破壊され、また、当該分散状態の破壊に起因すると考えられる、印刷物の透明性悪化、及び吐出安定性の悪化が起こりうることがわかった。
【0010】
すなわち、C.I.Pigment Yellow 150を含み、分散安定性、吐出安定性、透明性等に優れる活性エネルギー線硬化型インクジェットインキは、いまだ存在しない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−19408号公報
【特許文献2】国際公開第2009/148124号
【特許文献3】特開2006−282758号公報
【特許文献4】特開昭58−52361号公報
【特許文献5】特開2000−119544号公報
【特許文献6】特開2011−195694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、分散安定性に優れ、硬化性、基材密着性、吐出安定性、透明性を兼ね備えた、C.I.Pigment Yellow 150を含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ(以下、単に「インキ」ともいう)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す活性エネルギー線硬化型インクジェットインキにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の実施形態は、C.I.Pigment Yellow 150、活性エネルギー線重合性化合物、及び、シロキサン系界面活性剤を含有する活性エネルギー線硬化型インクジェットインキであって、
活性エネルギー線重合性化合物が、芳香環を含む単官能モノマー、及び、N−ビニル化合物を含み、
芳香環を含む単官能モノマーの含有量が、インキ全量中の10〜60質量%であり、
N−ビニル化合物の含有量が、インキ全量中の8〜35質量%であり、
芳香環を含む単官能モノマーとN−ビニル化合物との合計量が、インキ全量中の20〜75質量%であり、
シロキサン系界面活性剤の重量平均分子量が、400〜20,000であり、
活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ中に含まれる、下記一般式1で表される化合物の総量が100ppm以下である、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキに関する。
一般式1
【化1】
(一般式1中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基を表す。)

【0015】
また、本発明の他の実施形態は、芳香環を含む単官能モノマーとN−ビニル化合物との合計量が、インキ全量中の30〜70質量%である、上記活性エネルギー線硬化型インクジェットインキに関する。
【0016】
また、本発明の他の実施形態は、芳香環を含む単官能モノマーの含有量が、インキ全量中の10〜50質量%であり、
N−ビニル化合物の含有量が、インキ全量中の10〜30質量%である、上記活性エネルギー線硬化型インクジェットインキに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態により、分散安定性に優れ、硬化性、基材密着性、吐出安定性、透明性を兼ね備えた、C.I.Pigment Yellow 150を含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。また、特にことわりのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0019】
[活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ]
本発明の実施形態の活性エネルギー線硬化型インクジェットインキは、C.I.Pigment Yellow 150、活性エネルギー線重合性化合物、及び、シロキサン系界面活性剤を含有し、活性エネルギー線重合性化合物が、芳香環を含む単官能モノマー、及び、N−ビニル化合物を含み、シロキサン系界面活性剤の重量平均分子量が400〜20,000であり、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ中に含まれる、下記一般式1で表される化合物の総量が100ppm以下である。
【0020】
一般式1
【化2】
【0021】
一般式1中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基を表す。
【0022】
上述した通り、C.I.Pigment Yellow 150は、耐候性に優れたイエロー顔料であるが、分散が非常に難しいことが知られている。その改善のため、上述した方策が提案されているが、分散安定性、印刷物の透明性、及び、吐出安定性の確保の観点からは十分とは言えない状況であった。そこで、本発明者らが鋭意要因調査を進めた結果、上記一般式1で表される化合物が有効であることを突き止めた。
【0023】
一般式1で表される化合物は、C.I.Pigment Yellow 150を包接しているメラミンの加水分解物及び/または不純物であると考えられる。詳細な要因は不明ながら、一般式1で表される化合物中に存在する水酸基と、C.I.Pigment Yellow 150との間に強力な水素結合が形成されることで分散状態が破壊されると考えられる。また、上述の通り、分散状態が破壊され、顔料が凝集することで、印刷物の透明性が悪化し、更にはインクジェットヘッド内で凝集物が析出し、吐出安定性が悪化する要因になると考えられる。
【0024】
一方で上述したように、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの基材密着性及び硬化性を確保するため、N−ビニル化合物が使用されることが多い。しかし、当該N−ビニル化合物は、水酸基が存在する材料の存在下で重合反応を起こしてしまい、インキの保存安定性及び吐出安定性を悪化させてしまう。従って、一般式1で表される化合物に起因して、C.I.Pigment Yellow 150とN−ビニル化合物とを含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキでは、分散安定性及び吐出安定性の確保が非常に難しいと考えられる。
【0025】
上記を鑑み、本発明の実施形態では、一般式1で表される化合物の含有量を低減させることで、C.I.Pigment Yellow 150及びN−ビニル化合物を含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキにおける、分散安定性、吐出安定性、及び、印刷物の透明性の確保を実現した。ただ、単純にインキ中に存在する一般式1で表される化合物の量を低減しただけでは、例えば、経時による加水分解反応で生じた、当該化合物による悪影響を完全には抑制できない。
【0026】
そこで、本発明の実施形態では、芳香環を含む単官能モノマー、及び、重量平均分子量が400〜20,000であるシロキサン系界面活性剤を併用することで、上述した問題点の抑制を図っている。その詳細な理由は不明ながら、芳香環またはシロキサン鎖と、一般式1で表される化合物中に存在するトリアジン環との間に相互作用が生じ、微量発生する、当該一般式1で表される化合物が、芳香環またはシロキサン鎖に捕捉されると考えられる。特に、本発明の実施形態で用いるシロキサン系界面活性剤は分子量が大きいため、当該一般式1で表される化合物を包接するような形となり、その影響を抑制することができると考えられる。その一方で、シロキサン系界面活性剤の本来の特性であるレベリング性も発現し、基材密着性及び透明性の確保、並びに、画像品質の向上も実現できる。
【0027】
更に、一般式1で表される化合物の含有量が少ない活性エネルギー線硬化型インクジェットインキにおいて、C.I.Pigment Yellow 150を用いて分散すると、粒度分布がシャープになる。その結果、吐出安定性の更なる向上、及び透明性の一層の良化が実現できる。
【0028】
以上のように、C.I.Pigment Yellow 150及びN−ビニル化合物を含有し、分散安定性に優れ、硬化性、基材密着性、吐出安定性、透明性を兼ね備えた活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを得るためには、本発明の実施形態の構成は必須不可欠である。
【0029】
なお、一般式1で表される化合物は、本発明の実施形態の効果、特に分散安定性及び吐出安定性の発現を阻害する恐れがあるため、その含有量は少ないほど好ましい。上述した通り、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ中に含まれる、一般式1で表される化合物の総量が100ppm以下であるが、より好ましい含有量は80ppm以下であり、特に好ましくは60ppm以下である。
【0030】
以下、本発明の実施形態のインキを構成する成分について具体的に説明する。
【0031】
<C.I.Pigment Yellow 150>
C.I.Pigment Yellow 150は、モノアゾ骨格をもつニッケル錯体である。インキ中に含まれる、一般式1で表される化合物の総量が100ppm以下となるものであれば、C.I.Pigment Yellow 150として、合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。合成品を使用する場合、その合成方法に特段の制限はなく、従来既知の方法が任意に使用できる。一例として、アゾバルビツール酸と水との混合物を加熱した後、ニッケル塩及びメラミンを加え高温下で錯体化させ、得られた生成物を濾過したのち、乾燥及び粉砕する方法が挙げられる。
【0032】
また、C.I.Pigment Yellow 150の粒度分布及びアスペクト比を調整し、分散安定性、吐出安定性、及び、印刷物の透明性を向上させるため、上記生成物と、水、及び、必要に応じて有機溶剤、界面活性剤等とを一定温度下で混合する工程(顔料化工程)、及び/または、篩、沈降分離装置、遠心分離機等により、上記生成物から所定の粒度分布を有するものを取り出す工程(分級工程)を実施してもよい。なお、分級工程は、湿式条件下で行ってもよいし、乾式条件下で行ってもよい。
【0033】
本発明の実施形態のインキで使用されるC.I.Pigment Yellow 150は、一般式1で表される化合物の含有量を低減させる観点から、水、水溶性無機化合物の水溶液、水溶性有機化合物の水溶液、有機溶剤からなる群から選択される1種以上の液体(以下、総称して「洗浄用液体」とも呼ぶ)で洗浄する工程(洗浄工程)を経て製造されたものであることが好ましい。中でも、洗浄用液体として、弱アルカリ性に調整した、水溶性無機化合物及び/または水溶性有機化合物の水溶液を使用することが好適である。また、一般式1で表される化合物の含有量を低減させる観点から、洗浄工程は複数回実施することが好ましい。その際、実施回ごとに異なる洗浄用液体を使用してもよく、少なくとも1回以上、洗浄用液体として、弱アルカリ性に調整した、水溶性無機化合物及び/または水溶性有機化合物の水溶液を使用することが特に好適である。
【0034】
一方、市販品のC.I.Pigment Yellow 150を使用する場合、例えばクラリアント社の「Hostaperm Yellow HN4G」、ランクセス社の「BAYSCRIPT(登録商標) Yellow 4GF」、「BAYPLAST(登録商標) Yellow 5GN」、「Yellow Pigment E4GN」、「Yellow Pigment E4GN−GT」、BASF社の「CROMOPHTAL(登録商標) Yellow D 1085」などが使用できる。
【0035】
なお、市販品を使用する場合、一般式1で表される化合物の含有量を低減させる観点から、当該市販品に対して上述した洗浄工程を施してもよい。好適な洗浄条件に関しては、上述した合成品の場合と同様である。
【0036】
本発明の実施形態のインキ中に含まれるC.I.Pigment Yellow 150の含有量は、吐出安定性、硬化性、印刷物の透明性及び発色性の観点から、当該インキ全量中、1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
【0037】
<活性エネルギー線重合性化合物>
本発明の実施形態における活性エネルギー線重合性化合物(以下、単に「重合性化合物」とも言う)とは、後述する光重合開始剤などから発生するラジカルなどの開始種により重合または架橋反応を生起し、これらを含有する組成物を硬化させる機能を有するものである。
【0038】
本発明の実施形態のインキは、活性エネルギー線重合性化合物として、芳香環を含む単官能モノマー、及び、N−ビニル化合物を含む。上述した通り、芳香環を含む単官能モノマーが、一般式1で表される化合物を捕捉することで、当該化合物による、分散安定性、吐出安定性、及び、印刷物の透明性の悪化を防止していると考えられる。また、それにより、基材密着性及び硬化性の向上に有効であるN−ビニル化合物と、C.I.Pigment Yellow 150との併用が実現できる。
【0039】
(芳香環を含む単官能モノマー)
上記芳香環を含む単官能モノマーとしては、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、ノニルフェノールPO変性アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレートなどの芳香環を含むアクリレート化合物、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
上記列挙した芳香環を含む単官能モノマーの中でも、フェノキシエチルアクリレートは、顔料分散体の低粘度化に加えて、基材密着性も特段に良化するため、より好ましく使用される材料である。
【0041】
基材密着性、硬化性、吐出安定性の向上の観点から、芳香環を含む単官能モノマーの含有量は、インキ全量中10〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。
【0042】
(N−ビニル化合物)
上記N−ビニル化合物としては、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−オキサゾリジノン、N−ビニルメチルオキサゾリジノンなどのN−ビニル複素環化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、N−ビニル−ε−カプロラクタムを含むインキは、基材密着性及び硬化性に優れ、また吐出安定性の確保も容易であることから、好適に使用できる。更に、詳細は不明ながら、密着性、硬化性及び吐出安定性の全てが同時に向上する観点から、N−ビニル−ε−カプロラクタムと、当該N−ビニル−ε−カプロラクタム以外のN−ビニル化合物とを併用することが好適である。
【0043】
硬化性、吐出安定性、基材密着性の向上の観点から、N−ビニル化合物の含有量は、インキ全量中5〜35質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましい。
【0044】
また、吐出安定性及び硬化性の向上の観点から、上述した芳香環を含む単官能モノマーと、N−ビニル化合物との合計量は、インキ全量中20〜75質量%であることが好ましく、30〜75質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましく、40〜70質量%であることが極めて好ましい。
【0045】
(その他重合性化合物)
本発明の実施形態のインキは、上述した芳香環を含む単官能モノマー、及び、N−ビニル化合物以外の重合性化合物(本明細書では「その他重合性化合物」ともいう)を含んでいてもよい。その他重合性化合物として、従来既知のモノマー、オリゴマー、ポリマーを使用することができる。本発明の実施形態では特に、その他重合性化合物としてラジカル重合性モノマーを1種以上使用することが好ましい。なお「オリゴマー」及び「ポリマー」とは、モノマーが複数個結合した重合体であり、両者は重合度によって分類される。すなわち本明細書では、重合度が2〜5であるものを「オリゴマー」と呼び、6以上であるものを「ポリマー」と呼ぶ。
【0046】
ラジカル重合性モノマーが有する重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基、アリル基、不飽和カルボン酸基などが挙げられる。また、ラジカル重合性モノマーは、単官能モノマーであっても、多官能モノマーであってもよい。更に、反応速度、印刷物の物性、インキの物性などを調整する観点から、ラジカル重合性モノマーを1種のみ使用してもよいし、複数の重合性モノマーを混合して用いてもよい。
なお、その他重合性化合物として多官能モノマーを含む場合、基材密着性及び吐出安定性の観点から、当該多官能モノマーとして二官能モノマーを使用することが好適である。
【0047】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」及び、「(メタ)アクリロイル」、といった記載は、それぞれ、「アクリレート及び/またはメタクリレート」及び「アクリロイル及び/またはメタクリロイル」を意味する。また、本明細書において「単官能」とは、1分子中に重合性基を1つのみ有する化合物を指す。また、「二官能」、「三官能」は、それぞれ、1分子中に重合性基を2つまたは3つ有する化合物を指し、二官能以上を総称して「多官能」と呼ぶこととする。
【0048】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ジシクロペンテニル(オキシエチル)(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルEO変性(メタ)アクリレート、β−カルボキシルエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドなどが挙げられる。中でも、硬化性及び吐出安定性の点から、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリメチロールプロパンフォルマルアクリレートなどが好ましい。
【0049】
二官能モノマーである、(メタ)アクリロイル基を2つ有する化合物(「二官能の(メタ)アクリレート化合物」)としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ(またはプロポキシ)化1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチルブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、硬化性の点から、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが好ましい。
【0050】
また、(メタ)アクリロイル基と、ビニルエーテル基またはアリル基を1個ずつ有する二官能モノマーとして、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、2−(アリルオキシメチル)メチルアクリレート、2−(アリルオキシメチル)エチルアクリレートなどが挙げられる。
【0051】
三官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート(例えば、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレートなど)、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、硬化性の点から、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレートなどが好ましい。
【0052】
四官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、ペンタエリスリトールテトラアクリレートが好ましい。
【0053】
五官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
六官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプトラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0055】
なお本明細書において「EO」とは「エチレンオキサイド」を指し、「PO」とは「プロピレンオキサイド」を指す。
【0056】
上述したその他重合性化合物の含有量は、インキ全量中5〜50質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0057】
また、芳香環を含む単官能モノマーとN−ビニル化合物との配合比は、芳香環を含む単官能モノマーの量/N−ビニル化合物の量=0.1/1〜5/1であることが好ましく、1/1〜5/1であることがより好ましく、1.5/1〜4.2/1であることが特に好ましく、2/1〜3/1であることが極めて好ましい。
【0058】
<シロキサン系界面活性剤>
本発明の実施形態で用いられるシロキサン系界面活性剤は、重量平均分子量が400〜20,000のものであり、1,000〜18,000のものを用いることがより好ましく、3,000〜14,000のものを用いることがさらに好ましい。また、詳細は不明ながら、一般式1で表される化合物の捕捉効果が高い点から、シロキサン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を使用することが好適である。
【0059】
シロキサン系界面活性剤は、公知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、ビックケミー社製のBYK(登録商標)−348、349、378、BYK−UV3500、UV3510、エボニックデグサ社製のTEGO(登録商標) Glide 450、440、435、432、410、406等が挙げられる。
【0060】
なお、シロキサン系界面活性剤の重量平均分子量は常法によって測定できる、ポリスチレン換算値である。測定方法の例としては、TSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備したGPC(例えば東ソー社製HLC−8320GPC)を用い、展開溶媒にTHFを用いて測定する方法が挙げられる。
【0061】
吐出安定性とレベリング性との両立の観点から、シロキサン系界面活性剤の含有量は、インキ全量中0.1〜0.6質量%であることが好ましく、0.2〜0.4質量%であることがより好ましい。
【0062】
<その他の成分>
本発明の実施形態のインキには、必要に応じて上記成分以外に、顔料分散樹脂、光重合開始剤、重合禁止剤等を含有することができる。
【0063】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂は、市販されているものを使用することもできるし、公知の方法により合成したものを使用することもできる。市販品の具体的な例としては、ビックケミー社製のDisperbyk(登録商標)−106、145、ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)J−180、32000などが挙げられる。
【0064】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、公知の光重合開始剤であってよく、例えば、分子開裂型又は水素引き抜き型の光重合開始剤を使用することが好ましい。また、光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。更に、ラジカルを発生させる光重合開始剤と、カチオンを発生させる光重合開始剤とを併用してもよい。
【0065】
ラジカルを発生させる光重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(IGM RESINS社製「OMNIRADBDK」)などのベンジルジメチルケタール系光重合開始剤;
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM RESINS社製「OMNIRAD184」)などのα−ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤;
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(IGM RESINS社製「OMNIRAD1173」)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(IGM RESINS社製「OMNIRAD659」)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(IGM RESINS社製「OMNIRAD127」)、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]}プロパノン(IGM RESINS社製、「ESACUREONE」「ESACUREKIP160」)などのα−ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤;
2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(IGM RESINS社製「OMNIRAD907」)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1(IGM RESINS社製「OMNIRAD369」)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン(IGM RESINS社製「OMNIRAD379」)などのα−アミノアルキルフェノン系光重合開始剤
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(IGM RESINS社製「OMNIRAD819」)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(IGM RESINS社製「OMNIRADTPO」)、エチル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(IGM RESINS「OMNIRADTPO−L」)などのアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤;
フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル(IGM RESINS社製「OMNIRADMBF」)などの分子内水素引き抜き型光重合開始剤;
1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)](BASF社製「IRGACUREOXE01」)、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)(BASF社製「IRGACUREOXE02」)などのオキシムエステル系光重合開始剤;
ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィド(IGM RESINS社製「OMNIRADBMS」)、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルホニル)プロパン−1−オン(IGM RESINS社製「ESACURE1001M」)などのベンゾフェノン系光重合開始剤などが挙げられる。
【0066】
(重合禁止剤)
分散安定性、経時後含めた吐出安定性、インクジェット記録装置内での粘度安定性を高めるため、重合禁止剤を使用することができる。当該重合禁止剤として、ヒンダードフェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物が好適に使用でき、具体例としては、4−メトキシフェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアルミニウム塩などが挙げられる。硬化性を維持しつつ分散安定性及び吐出安定性を高める点から、インキ全体に対する重合禁止剤の配合量は0.01〜2質量%であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましい。
【0067】
[インキの製造方法]
本発明の実施形態のインキは従来既知の方法によって製造することができる。具体例を挙げると、始めに、C.I.Pigment Yellow 150、重合性化合物、及び、必要に応じ顔料分散樹脂、重合禁止剤などを混合した後、ペイントシェーカー、サンドミル、ロールミル、メディアレス分散機などによって分散処理を行い、顔料分散体を調製する。
【0068】
次いで、得られた顔料分散体に対して、所望のインキ特性となるように、シロキサン系界面活性剤、重合性化合物の残部、及び、必要に応じ光重合開始剤、その他添加剤を添加し、よく混合する、そして、フィルターなどで粗大粒子を濾別することで、本発明の実施形態のインキが得られる。
【0069】
<記録方法>
本発明の実施形態の活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを用いて印刷物を製造する記録方法の例として、インクジェットヘッドのノズルから当該活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを吐出し記録媒体に付与する工程(印刷工程)と、当該記録媒体上に付与した活性エネルギー線硬化型インクジェットインキに、活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを硬化させる工程(硬化工程)とを含む方法が挙げられる。
【0070】
(印刷工程)
インキを用いて記録媒体に印刷する方法として、当該インキの液滴をインクジェットヘッドから吐出し、記録媒体上に付着させる方法が用いられる。なお、記録媒体上のある領域に同一のインキの液滴を付着させる回数は1回であっても、複数回であってもよい。なお、当該付着させる回数が1回である印刷工程の例として、インクジェットヘッドを固定したまま記録媒体を搬送し、当該インクジェットヘッドの下方を通過する際に、当該インクジェットヘッドから吐出を行う方法(ラインヘッド型ワンパス印刷工程)が挙げられる。また、当該付着させる回数が複数回である印刷工程の例として、記録媒体の搬送方向と垂直な方向にインクジェットヘッドを走査させ、記録媒体上の同一領域に複数回インキを吐出する方法(シャトルヘッド型マルチパス印刷工程)が挙げられる。
【0071】
(硬化工程)
活性エネルギー線の発生源には特に制限はなく、従来既知のものを用いることができる。具体的には、水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、UV−LED、紫外線レーザーダイオード(UV−LD)などのLED(発光ダイオード)やガス・固体レーザーなどが挙げられる。
【0072】
〔記録媒体〕
上述した記録方法で使用される記録媒体として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリスチレン、アクリル(PMMAなど)などのプラスチック基材;アートコート紙、セミグロスコート紙、キャストコート紙などの紙基材;アルミニウム蒸着紙などの金属基材などが例示できる。
【0073】
記録媒体は、その表面が滑らかであっても、凹凸の形状を有していてもよく、透明、半透明、または不透明のいずれであってもよい。また、記録媒体は、上記多種の基材の2種以上を互いに貼り合わせたものでもよい。更に、記録媒体は、印字面の反対側に剥離粘着層などの機能層を有していてもよい。
【0074】
本発明は2020年6月30日出願の日本特許出願番号2020−112768の主題に関連し、その全開示内容を参照により本明細書に取り込む。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。また特に断らない限り、部は質量部を、%は質量%を表す。
【0076】
なお、以下において、インキ中に存在する、一般式1で表される化合物の定量には、アジレント・テクノロジー社製ガスクロマトグラフ6890N+5973を使用した。検量線は標準アンメリン試薬、標準アンメリド試薬、及び、標準シアヌル酸試薬により作成した。また、インキ中の成分の抽出にはピリジンを、カラムにはアジレント・テクノロジー社製HP−5 19091J−413を用いた。更に、測定時の注入量は1.0μlとし、カラム温度280℃とした。なお、以下では、上述した方法により3回測定を行い、その平均値を、「インキ中の、一般式1で表される化合物の総量」とした。
【0077】
また、以下において、重量平均分子量は、カラムとしてTSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)3本を備えた、東ソー社製GPC(HLC−8320)を用いて測定した。なお、展開溶媒はTHF(テトラヒドロフラン)を使用し、流速0.6ml/分、注入量10μl、カラム温度40℃として測定を行った。なお、検量線は標準ポリスチレンサンプルにより作成した。
【0078】
<顔料A〜Eの調製>
特開2014−012838号公報の例2に記載の方法により、C.I.Pigment Yellow 150(以下「顔料E」とする)を調製した。
次いで、上記顔料E100部を、pH8.0に調整した水酸化ナトリウム水溶液1Lが入った容器に投入し、25℃下で1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過により濾別した顔料を、更に精製水によって洗浄し、80℃下で乾燥したのち、実験室用ミル(卓上粉砕機)にて粉砕することで、C.I.Pigment Yellow 150洗浄品(以下「顔料D」とする)を得た。
また、上記の洗浄操作を複数回繰り返し、C.I.Pigment Yellow 150の2回洗浄品(以下「顔料C」とする)、C.I.Pigment Yellow 150の3回洗浄品(以下「顔料B」とする)、及び、C.I.Pigment Yellow 150の4回洗浄品(以下「顔料A」とする)を、それぞれ調製した。
【0079】
<シロキサン系界面活性剤1〜8の合成>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、撹拌機を備えた反応容器に、ポリエチレングリコールアリルメチルエーテル(平均分子量750)100部と、塩化白金酸の0.5質量%トルエン溶液0.5部とを仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱したのち、メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(平均ケイ素数88、水素原子量約0.04質量%)200部を30分かけて滴下した。反応容器内を110℃まで加熱し、撹拌しながら3時間保持することで、シロキサン系界面活性剤1を得た。なお、シロキサン系界面活性剤1の重量平均分子量は13,000であった。
また、ポリエチレングリコールアリルメチルエーテル(アリルエーテル化合物)の種類及び添加量、並びに、メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(シロキサンポリマー)の種類を、下表1のように変えた以外は、シロキサン系界面活性剤1と同様にして、シロキサン系界面活性剤2〜8を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
<顔料分散体A〜Jの作製>
活性エネルギー線硬化型インクジェットインキの作製に先立ち、顔料分散体を作製した。顔料Aを15部と、顔料分散樹脂としてソルスパース32000(ルーブリゾール社製)を7.5部と、フェノキシエチルアクリレートを77.5部とを、順次タンクへ投入し、ハイスピードミキサーで均一になるまで撹拌した後、横型サンドミルで約1時間分散することによって、顔料分散体Aを作製した。
また、フェノキシエチルアクリレート77.5部の代わりに、フェノキシエチルアクリレート15.5部と、テトラヒドロフルフリルアクリレート20部と、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート42部との混合物を用いた以外は、顔料分散体Aと同様の製造方法によって、顔料分散体Bを作製した。同様に、フェノキシエチルアクリレート77.5部の代わりに、テトラヒドロフルフリルアクリレート32.5部と、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート45部との混合物を用いた以外は、顔料分散体Aと同様の製造方法によって、顔料分散体Cを作製した。
また、フェノキシエチルアクリレートを、ベンジルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレートにそれぞれ変更した以外は、顔料分散体Aと同様の製造方法によって、顔料分散体D〜Fを作製した。
更に、顔料Aの代わりに、顔料B、顔料C、顔料D、顔料Eをそれぞれ使用した以外は、顔料分散体Aと同様の製造方法によって、顔料分散体G〜Jを作製した。
【0082】
<活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ1〜70の作製>
表2の実施例1に記載した配合量となるよう、混合容器内に、顔料分散体A、重合性化合物、光重合開始剤、シロキサン系界面活性剤1、重合禁止剤、その他の成分を、順次、撹拌しながら仕込み、固体成分である光重合開始剤が溶解するまで、40〜50℃で混合した。そして、孔径1μmのデプスタイプフィルターを用いて濾過を行い、粗大粒子を除去することで、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ1を得た。
【0083】
また、上記活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ1と同様の操作にて、表2に示す配合組成を有する、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ2〜70を得た。
【0084】
得られた活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ1〜70について、インキ中に存在する、一般式1で表される化合物の定量を行った。
【0085】
なお、光重合開始剤及びその他の成分として、それぞれ以下のものを用いた。
・光重合開始剤:SB−PI718(IGM RESINS社製)7部、SB−PI769(IGM RESINS社製)2部、SB−PI704(IGM RESINS社製)2部、及び、LUNACURE 2−ITX(Lambson社製)1部の混合物
・その他の成分:ジョンクリル611(BASF Dispersions&Resins社製)0.8部、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート2.5部、及び、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.5部の混合物
【0086】
[実施例1〜63、比較例1〜7]
上記で得た活性エネルギー線硬化型インクジェットインキについて、下記の方法で評価を行った。評価結果は表2に示した通りであった。
【0087】
<分散安定性評価>
上記で作製した活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを、容量20mLのガラス容器中に、容器容量の90%の充填率になるようそれぞれ充填したのち、密閉及び遮光した状態で、60℃の環境下に7日間保管した。その後、目開き3μmの金網を用いて加圧濾過し、当該金網上の残渣をメチルエチルケトンで洗浄した。そして、洗浄後の金網を顕微鏡500倍にて観察し、金網上に残った析出物の数をカウントした。評価基準は下記の通りとし、3以上を実用可能域とした。
5:析出物がなかった
4:析出物が1個〜3個
3:析出物が4個〜5個
2:析出物が6個〜9個
1:析出物が10個以上
【0088】
<ベタ印刷物の作製>
記録媒体を搬送できるコンベヤの上方に、京セラ社製ヘッド(解像度600dpi×600dpi)と、後述するメタルハライドランプとを設置したインクジェット吐出装置(OnePassJET)を用い、上記で作製した活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを、それぞれ、液滴量14pL、印字率100%の条件で、リンテック社製PET基材(PET25(A) PLシン 8LK)上へ印刷した。そして、GEW社製240W/cmメタルハライドランプを用い、積算光量が200mJ/cm2となるように印刷物に照射し、インキを硬化させることで、ベタ印刷物を作製した。なお、印刷から硬化までの一連の工程は、50m/minの印刷速度の下に行った。
【0089】
<硬化性評価>
上記方法で得たベタ印刷物の表面を爪でこすり、また当該印刷物表面のタック感を確認することで硬化性を評価した。評価基準は下記の通りとし、3以上を実用可能域とした。
5:爪で強くこすっても硬化膜が剥がれず、また、表面にタック感がなかった
4:爪で強くこすると硬化膜が一部剥がれるが、表面にタック感がなかった
3:爪でこすると硬化膜が一部剥がれるが、表面にタック感がなかった
2:爪でこすると硬化膜が一部剥がれ、また、表面に少しタック感があった
1:爪をあてると簡単に硬化膜が剥がれ、また、表面にタック感があった
【0090】
<密着性評価>
以下に示した各種記録媒体に対して、上記方法でベタ印刷物を作製したのち、2.5mm間隔で縦横それぞれ6本ずつ切り込みを入れた。さらに、切り込みの上からセロハンテープを貼り付け、上面から消しゴムでこすり、セロハンテープを十分に当該ベタ印刷物に密着させた後、当該ベタ印刷物の印刷面と前記セロハンテープとが90°になるようにしながら、当該セロハンテープを剥離させた。そして、セロハンテープを密着させた面積に対する、当該セロハンテープとともに剥離したベタ印刷物の面積の割合から、密着性を評価した。評価基準は下記の通りとし、3以上を実用可能域とした。
5:剥離したベタ印刷物の面積が5%未満
4:剥離したベタ印刷物の面積が5%以上15%未満
3:剥離したベタ印刷物の面積が15%以上25%未満
2:剥離したベタ印刷物の面積が25%以上50%未満
1:剥離したベタ印刷物の面積が50%以上
【0091】
なお、上記密着性評価に使用した記録媒体は以下の通りである。
・PP:UPM Raflatac社製PP TOP WHITE
・PET:リンテック社製PET50 K2411
・コート紙:UPM Rafratac社製Raflacoat
【0092】
<吐出安定性評価>
上記ベタ印刷物の作製に使用したインクジェット吐出装置に、上記で作製した活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを、それぞれ充填した後、UPM Rafratac社製コート紙(Raflacoat)上にノズルチェックパターンを印刷した。ノズル抜けがないことを確認した後、各ノズルからそれぞれ10万発の液滴を吐出させたのち、再度上記コート紙上にノズルチェックパターンを印刷し、ノズル抜けの個数を数えることで、吐出安定性を評価した。評価基準は下記の通りとし、3以上を実用可能域とした。
5:10万発印字後のノズル抜けなし
4:10万発印字後のノズル抜け1〜2個
3:10万発印字後のノズル抜け3〜5個
2:10万発印字後のノズル抜け6〜10個
1:10万発印字後のノズル抜け10個以上
【0093】
<透明性評価>
ベタ印刷物の印刷面とは反対側の面と重なるように、あらかじめ黒色濃度を測定したブラックペーパーを置いた。そして、反射分光光度計(X−Rite社製X−Rite939)を用いて、印刷面側から黒色濃度を測定し、下記式2に基づいて透明性を算出した。透明性の値が高いほど透明性が良好であり、3以上で、透明性が良好であると評価した。
5:透明性が95%以上
4:透明性が90%以上95%未満
3:透明性が85%以上90%未満
2:透明性が75%以上85%未満
1:透明性が75%未満
【0094】
式2:

透明性(%) = 印刷面越しの黒色濃度/ブラックペーパーの黒色濃度×100
【0095】
【表2】
【0096】
【表2】
【0097】
【表2】
【0098】
【表2】
【0099】
【表2】
【0100】
以上より、本発明の実施形態の活性エネルギー線硬化型インクジェットインキが、分散安定性に優れ、硬化性、基材密着性、吐出安定性、透明性にも優れることが確認された。
【要約】      (修正有)
【課題】分散安定性に優れ、硬化性、基材密着性、吐出安定性、透明性を兼ね備えた、C.I.Pigment Yellow 150を含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインキを提供する。
【解決手段】C.I.Pigment Yellow 150、芳香環を含む単官能モノマー、N−ビニル化合物、分子量が400〜20,000であるシロキサン系界面活性剤を含有し、下記一般式で表される化合物の総量が100ppm以下である、活性エネルギー線硬化型インクジェットインキ。

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アミノ基または水酸基を表す。)
【選択図】なし