(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子界面に、ケイ素元素が含まれることが走査透過電子顕微鏡(STEM)−エネルギー分散型X線分光(EDX)組成分析により確認されることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体。
前記粒子界面の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合が、前記結晶粒子の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体。
透過電子顕微鏡(TEM)断面観察において、前記粒子界面の厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体。
前記粒子界面の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合が、前記結晶粒子の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体。
前記リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の交流インピーダンス測定により検出されるイオン伝導度において、前記粒子界面におけるイオン伝導度が、前記結晶粒子の内部におけるイオン伝導度より大きいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<リチウムイオン伝導性酸化物焼結体>
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、構成元素として、少なくとも、リチウム(Li)、タンタル(Ta)、リン(P)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含み、結晶粒子と、該結晶粒子間に形成された粒子界面とからなる多結晶構造を有する。
【0018】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、結晶粒子と、粒子界面とを有し、通常、結晶粒子が、少なくとも、リチウム(Li)、タンタル(Ta)、リン(P)および酸素(O)を構成元素として含む。リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の結晶粒子は、特に限定されるものではないが、ケイ素(Si)を含まなくてもよく、走査透過電子顕微鏡(STEM)−エネルギー分散型X線分光(EDX)組成分析においては、結晶粒子中にケイ素元素が確認されなくともよい。
【0019】
本発明の好適な実施態様において、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の結晶粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは6.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の結晶粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて1000倍以上の倍率で透過画像を得、任意の100μm四方の領域において少なくとも100個の結晶粒子の粒径を計測して求めることができる。結晶粒は完全な球形ではないので、最長径を結晶粒子の粒径とする。本明細書においては、結晶粒子の最長径とは、以下のようにして求められる結晶粒子の輪郭を構成する多角形が有する最長の対角線の長さを意味する。
【0020】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の透過画像において、結晶粒子の輪郭は視野平面において凸多角形として観測される。凸多角形が有する複数の長さの対角線のうち最長の対角線の長さを結晶粒子の最長径とする。
【0021】
なお、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含む結晶粒子と、他の結晶粒子との区別は、TEM装置に付属するエネルギー分散型X線分光(EDX)分析装置を用いて、結晶粒子が含有する元素の違いから確認することもできる。
【0022】
本発明において、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の粒子界面とは、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体内部の、結晶粒子以外の結晶粒子間に存在し、結晶粒子どうしを結合する部分を意味する。本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体において、粒子界面の構造は明らかではないが、焼成時あるいは焼結時にリチウムイオン伝導性酸化物から析出して形成された層(析出層)を含むと考えられる。リチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、結晶粒子と粒子界面のどちらも存在しない空隙を含むことがある。
【0023】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の粒子界面は、析出層のみから構成されていてもよいが、Li
4SiO
4、Li
3PO
4、またはLi
4SiO
4−Li
3PO
4などの固溶体成分を含有していてもよい。また、本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体がB(ホウ素)を構成元素として含む場合には、粒子界面にLi
3BO
3、またはLi
3BO
3−Li
4SiO
4、Li
3BO
3−Li
3PO
4、Li
3BO
3−LiTaO
3、などの固溶体成分を含有していてもよい。本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体が、粒子界面に固溶体成分を含有する場合には、より良好なイオン伝導性を示す場合があり好ましい。
【0024】
粒子界面が含む固溶体成分は、結晶粒子に比較して低融点であることが好ましい。結晶粒子に比較して低融点であるため、焼成時あるいは焼結時に結晶粒子に対して析出して形成され、結晶粒子間に空隙を生じさせにくく、結晶粒子どうしを密に結合させていると考えられる。
【0025】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の粒子界面には、ケイ素元素が含まれることが好ましく、具体的には、ケイ素元素が粒子界面に存在することが、走査透過電子顕微鏡(STEM)−エネルギー分散型X線分光(EDX)組成分析により確認されることが好ましい。STEM−EDX組成分析により求められる粒子界面のケイ素元素の含有割合は、リン元素、酸素元素、ケイ素元素およびタンタル元素の合計を100原子%とした場合に、好ましくは1.0原子%以上、より好ましくは1.2原子%以上、さらに好ましくは1.5原子%以上である。粒子界面のケイ素元素の含有割合の上限は、特に限定されるものではないが、通常10原子%以下、好ましくは5原子%以下、より好ましくは3原子%以下であることが望ましい。
【0026】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、粒子界面にホウ素元素が含まれることが好ましい。Li
3BO
3−LiTaO
3、などの固溶体成分を含有していてもよい。粒子界面に、ホウ素元素が含まれることは、走査型電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散型X線分光(EDX)組成分析(電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析)により確認される。ホウ素の含有量は、好ましくは0.10原子%以上であり、より好ましくは0.50原子%以上である。また、上限は好ましくは5.00原子%以下であり、より好ましくは3.00原子%以下である。
【0027】
したがって、本発明の一態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、少なくとも、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素を構成元素として含み、結晶粒子と、該結晶粒子間に形成された粒子界面とからなる多結晶構造を有、前記粒子界面に、ホウ素元素が含まれることが走査型電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散型X線分光(EDX)組成分析により確認されることを特徴とする。
【0028】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体において、粒子界面の厚さは、結晶粒子の粒径にもより特に限定されるものではないが、通常10nm以下、好ましくは0.1〜10nmである。粒子界面の厚さがこのような範囲であることにより、本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、十分な密度で結晶粒子を含む。
【0029】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の全体としての元素組成は、通常、LiTa
2PO
8のPの一部が、Siを含む元素Mで置換されたものを基本とする。ここで元素Mは、Siを必須として含み、Si以外の14族の元素(ただし炭素を除く)、Al(アルミニウム)およびB(ホウ素)からなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものであり、好ましくは実質的にSiのみである。すなわちリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の全体としての元素組成は、好ましくは、LiTa
2PO
8のPの一部がSiで置換されたものを基本構成とする。ここで、元素MがSiのみである場合、伝導性酸化物のリチウム、タンタル、リン、ケイ素、酸素の原子数の比(Li:Ta:P:Si:O)は、1:2:(1−y):y:8であり、好ましくは、前記yは0より大きく0.7未満である。
【0030】
本発明の好ましい実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、全体としての元素組成が、リチウムを含有する特定の酸化物に相当するともいえる。ただ、このことは、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体における不純物の存在を厳密に排除するものでなく、原料および/または製造過程などに起因する不可避不純物を含んでもよく、その他、リチウムイオン伝導性を劣化させない範囲内において他の結晶系を有する不純物を含んでもよい。
【0031】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体を構成する元素の原子数の比は、例えば、LiCoO
2等のリチウム含有遷移金属酸化物として、Mn、Co、Niが1:1:1の割合で含有されている標準粉末試料を用いて、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)により絶対強度定量法を用いて求めることができる。
【0032】
本発明の好ましい実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の、全体としての元素組成は、下記式(1)で表すことができる。
LiTa
2P
1-yM
yO
8 …式(1)
上記式(1)において、元素Mは、上述のように、Siを必須として含み、Si以外の14族の元素とAlおよびBからなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものであり、好ましくは実質的にSiのみである。Si以外の14族元素としてはGeが挙げられる。
【0033】
上記式(1)においてyで表される、Siを含む元素Mの含有量は、0より大きく0.7未満である。この含有量の範囲は、リンと元素Mの元素の合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率で表すと、0.0より大きく70.0未満である。上記式(1)のyで表すとき、元素M含有量の下限は、好ましくは0.01であり、より好ましくは0.02であり、さらに好ましくは0.03である。元素M含有量の上限は、好ましくは0.65であり、より好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.55である。また、元素M中のSi含有量は、原子数の百分率で表すと、1以上、好ましくは50以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは90以上、最も好ましくは100である。
【0034】
上記において元素MがSiのみである場合の、本発明のより好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の元素組成は、下記式(2)で表すことができる。
LiTa
2P
1-ySi
yO
8 …式(2)
【0035】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体中における元素Mの含有量が上記の範囲であると、結晶粒子内と粒子界面(結晶粒界)のリチウムイオン伝導度のトータルのイオン伝導度が高い。元素M含有量は、リンと元素Mとの合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率として、従来公知の定量分析により求めることができる。例えば、試料に酸を加えて熱分解後、熱分解物を定容し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて求めることができる。後述するリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の製造方法において、リンと元素Mは系外に流出しないので、元素Mのドープ量として、リンと元素Mとの合計原子数に対する元素Mの原子数の百分率としては、簡易的に原材料の仕込み量から算出することができる。
【0036】
上述の通り、元素Mは、Siを含み、Si以外の14族の元素(ただし炭素を除く)、AlおよびBからなる群から選ばれる元素を含んでいてもよいものである。元素Mに含まれてもよいSi以外の元素としては、Ge、AlおよびBが挙げられ、これらのうちではAlおよびBが好ましい。元素Mは、好ましくは実質的にSiのみである。元素MがSiのみである場合には、特に焼結体の粒子界面におけるリチウムイオン伝導度が大きくなるため好ましい。
【0037】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の構成元素の価数に着目したとき、ドープされる元素Mはリンと価数が異なるので、電化中性のバランスをとるため、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体に含有されるリチウムが増減することが考えられる。例えば、PをMで置き換えることに伴う電荷バランスにより生じる増減量をxで表すと、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体全体の元素組成は、下記式(3)で表すことができる。
Li
1+xTa
2P
1-yM
yO
8 …式(3)
【0038】
ここで、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体全体の元素組成は、好ましくは元素MがすべてSiであり、下記式(4)で表すことができる。
Li
1+xTa
2P
1-ySi
yO
8 …式(4)
【0039】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体において、結晶粒子の構成元素組成と、粒子界面の構成元素組成とは、同等であってもよいが、異なっていてもよい。各部位の元素組成は、STEM−EDX組成分析により求めることができる。後述する実施例において示すように、断面画像における、粒子界面の占める面積に対する結晶粒子の占める面積は大きく、結晶粒子の構成元素組成は、焼結体全体の構成元素組成とおよそ同等ととらえることができる。
【0040】
好ましくは、前記粒子界面の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合は、前記結晶粒子の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合よりも小さい。より好ましくは、結晶粒子の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合が、粒子界面の元素組成中におけるタンタル元素の原子数での含有割合の1.01倍以上、さらに好ましくは1.05倍以上、またさらに好ましくは1.08倍以上である。
【0041】
また好ましくは、前記粒子界面の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合は、前記結晶粒子の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合よりも大きい。より好ましくは、粒子界面の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合が、結晶粒子の元素組成中におけるリン元素の原子数での含有割合の1.01倍以上、さらに好ましくは1.05倍以上、またさらに好ましくは1.08倍以上である。
【0042】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体において、リン元素、ケイ素元素の原子数での含有割合は、それぞれ粒子界面中の方が結晶粒子中よりも多く、タンタル元素の原子数での含有割合は、粒子界面中の方が結晶粒子中よりも少ないことが望ましい。
【0043】
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、結晶粒子と粒子界面とから構成されることから、粒子界面と結晶粒子との元素組成の割合の大小は、結晶粒子部と粒子界面部との元素組成を直接比較してもよく、また、結晶粒子部と焼結体全体との元素組成、あるいは粒子界面部と焼結体全体との元素組成により比較して判断してもよい。
【0044】
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体では、該焼結体の交流インピーダンス測定により検出されるイオン伝導度において、前記粒子界面におけるイオン伝導度が、前記結晶粒子の内部におけるイオン伝導度より大きいことが望ましい。好ましくは、結晶粒子の内部におけるイオン伝導度に対しての、粒子界面のイオン伝導度が、1.1倍以上、より好ましくは1.5〜5倍、さらに好ましくは1.7〜4倍の範囲であることが望ましい。交流インピーダンス測定は公知の方法により行うことができ、具体的には後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
【0045】
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、その形状を特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択された形状とすることができる。例えば、球状、ペレット状、板状、シート状、フレーク状、塊状等、用途等に応じて所望の形状とすることができる。またその大きさについても特に限定されるものではないが、たとえば、焼結体が円形の場合は、最長径が1mm以上であればよく、さらに2mm以上であればより好ましい。焼結体が多角形の場合は、すべての辺の合計長さが1mm以上であればよく、さらに2mm以上であればより好ましい。
【0046】
(単斜晶の含有率)
本発明の好ましい実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、X線回折(XRD)測定において確認される単斜晶の結晶構造含有率(以下、単に単斜晶の含有率ともいう)が、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。単斜晶の結晶構造含有率は、実施例において後述する、リートベルト解析を用いた方法で求めることができる。単斜晶の含有率が上述した範囲であると、トータルでのリチウムイオン伝導度が大きくなる傾向がある。
【0047】
(その他の結晶構造)
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、後述する製造方法において焼成が不十分な場合、原材料が残存すると、X線回折測定において原材料に由来する回折ピークが確認される場合がある。原材料として用いる、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、二酸化ケイ素(SiO
2)などの元素Mの酸化物、およびリン酸一水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)の存在は、X線回折測定により確認することができる。これらの原材料化合物はリチウムイオン伝導性を有しないので含まないことが好ましい。また、焼成が不十分な場合に、副生成物の存在がX線回折測定において副生成物に由来する回折ピークとして確認される場合がある。具体的には、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、Li
3PO
4、TaPO
5、Ta
2O
5などが観測される場合があるが、これらはリチウムイオン伝導性が小さいため含まないことが好ましい。
【0048】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の相対密度
本発明の好適な実施態様のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体では、特に限定されるものではないが、理論密度を100%とする相対密度は、理論密度と比較して50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。比較する理論密度としては、簡便には、ケイ素等の元素Mを含まない、LiTa
2PO
8の理論密度と比較することができる。
【0049】
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の製造方法
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の製造方法は、上記の構成の範囲内のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体が得られる限り特に限定されない。製造方法としては、例えば、固相反応、液相反応等によりリチウムイオン伝導性酸化物を製造し、これを必要に応じて適宜賦形し、焼成(焼結)する方法等が採用可能である。
【0050】
(リチウムイオン伝導性酸化物(a)の製造)
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、好ましくは、少なくともリチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を含むリチウムイオン伝導性酸化物(a)を、固相反応、液相反応等により製造し、これを必要に応じて適宜賦形し、焼成(焼結)することにより製造することができる。リチウムイオン伝導性酸化物(a)が固体状であり、結晶粒子と粒子界面とからなる多結晶構造を有する場合には、そのまま本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体として用いてもよい。以下、固相反応を用いた製造方法について詳細に説明する。
【0051】
固相反応による製造方法としては、混合工程と焼成工程とを、少なくともそれぞれ1段階有する製造方法が挙げられる。
【0052】
・混合工程
混合工程では、リチウム原子、タンタル原子、ケイ素原子を含む元素Mを、それぞれ含む化合物およびリン酸塩を混合する。
【0053】
リチウム原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、リチウム原子を含有する無機化合物としては、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、酸化リチウム(Li
2O)などのリチウム化合物を挙げることができる。これらのリチウム化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。分解、反応させやすいことから炭酸リチウム(Li
2CO
3)を用いることが好ましい。
【0054】
タンタル原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、硝酸タンタル(Ta(NO
3)
5)などのタンタル化合物を挙げることができる。これらのタンタル化合物は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。コストの点から五酸化タンタル(Ta
2O
5)を用いることが好ましい。
【0055】
ケイ素原子を含む元素Mを含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、元素Mの単体、または酸化物を挙げることができる。これらの物質は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。これらのうちでは、扱いやすさの点から酸化物を用いることが好ましい。具体的には、元素Mがケイ素原子のみである場合には、二酸化ケイ素(SiO
2)を用いることができる。また、元素Mがケイ素原子に加えて、GeあるいはAlを含む場合には、酸化ゲルマニウム(GeO
2)あるいは酸化アルミニウム(Al
2O
3)を二酸化ケイ素(SiO
2)とともに用いることができる。元素Mがホウ素を含む場合には、ホウ酸リチウム(Li
3BO
3)を用いることができる。
【0056】
リン酸塩としては、特に限定はされないが、分解、反応させやすいことからリン酸一水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸二水素一アンモニウム(NH
4H
2PO
4)などのリン酸塩を挙げることができる。これらのリン酸塩は1種単独でもよく、2種以上併用してもよい。
【0057】
上述した原材料の混合方法としては、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェットミルなどの方法を用いることができる。混合する原材料の比率は、簡便には、上述した式(1)の組成となるよう化学量論比で混合する。より具体的には、後述する焼成工程において、リチウム原子が系外へ流出しやすいので、上述したリチウム原子を含有する化合物を1〜2割程度過剰に加えて調節されてもよい。
【0058】
混合雰囲気は、大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
【0059】
・焼成工程
焼成工程では、混合工程で得た混合物を焼成する。焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とするように複数回行う場合には、焼成工程間に、一次焼成物を解砕し、または小粒径化することを目的として、ボールミルや乳鉢を用いた解砕工程を設けてもよい。
【0060】
焼成工程は大気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
【0061】
焼成温度としては、800〜1200℃の範囲が好ましく、950〜1100℃の範囲がより好ましく、950〜1000℃の範囲がさらに好ましい。800℃以上で焼成するとケイ素を含む元素Mの固溶が十分に行われてイオン伝導度が向上し、1200℃以下にすると、リチウム原子が系外へ流出しにくく好ましい。焼成時間は、30分〜16時間が好ましく、3〜12時間が好ましい。焼成時間が前述の範囲であると、得られるリチウムイオン伝導性酸化物を用いて製造される焼結体のイオン伝導度が、結晶粒内と結晶粒界との両方において、バランスよく大きくなりやすく好ましい。焼成時間が前述の範囲より長いと、リチウム原子が系外へ流出しやすい。焼成の時間と温度は互いに合わせて調整される。
【0062】
焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とする場合、低温での仮焼成は、400〜800℃で、30分〜12時間行ってもよい。
【0063】
また、副生成物等の残存を抑えるために、高温焼成を2回行ってもよい。2回目の焼成工程では、焼成温度としては、800〜1200℃の範囲が好ましく、950〜1100℃の範囲がより好ましく、950〜1000℃の範囲がさらに好ましい。各焼成工程の焼成時間は30分〜8時間が好ましく、2〜6時間が好ましい。
【0064】
焼成後に得られる焼成物は、大気中に放置すると、吸湿したり二酸化炭素と反応したりして変質することがある。焼成後に得られる焼成物は、焼成後の降温において200℃より下がったところで除湿した不活性ガス雰囲気下に移して保管することが好ましい。
このようにしてリチウムイオン伝導性酸化物(a)を得ることができる。
【0065】
(リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の製造)
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、好ましくは、上記のようにして得られたリチウムイオン伝導性酸化物(a)等の、少なくともリチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含む酸化物を用いて製造することができる。リチウムイオン伝導性酸化物(a)等が固体状で得られた場合には、そのままリチウムイオン伝導性酸化物焼結体として用いてもよく、また、リチウムイオン伝導性酸化物(a)等を粉末状とし、必要に応じて粒度の調製、賦形をし、焼結してリチウムイオン伝導性酸化物焼結体を製造してもよい。本発明では、特に限定されるものではないが、粉末状のリチウムイオン伝導性酸化物(a)を所望の形状に賦形し、焼成(焼結)する工程を有する製造方法が、イオン伝導性に優れたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体を製造しやすいことから好ましい。
【0066】
リチウムイオン伝導性酸化物(a)の賦形は、例えば、必要に応じてボールミルなどで所望の粒径とした粉末状のリチウムイオン伝導性酸化物(a)を用い、公知の粉末成形法により行うことができる。
【0067】
粉末成形法としては、例えば、粉末に溶剤を加えてスラリーとし、スラリーを集電体に塗布し、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(ドクターブレード法)、スラリーを吸液性の金型に入れ、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(鋳込成形法)、粉末を所定形状の金型に入れ圧縮成形することを含む方法(金型成形法)、スラリーをダイスから押し出して成形することを含む押出成形法、粉末を遠心力により圧縮して成形することを含む遠心力法、粉末をロールプレス機に供給して圧延成形することを含む圧延成形法、粉末を所定形状の可撓性バッグに入れ、それを圧力媒体に入れて等方圧を加えることを含む冷間等方圧成形法(cold isostatic pressing)、粉末を所定形状の容器に入れ真空状態にし、その容器に高温下、圧力媒体にて等方圧を加えることを含む熱間等方圧成形法(hot isostatic pressing)などを挙げることができる。
【0068】
金型成形法としては、固定下パンチと固定ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む片押し法、固定ダイに粉末を入れ、可動下パンチと可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む両押し法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加え圧が所定値を超えた時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むフローティングダイ法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えると同時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むウイズドローアル法などを挙げることができる。
【0069】
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、上記のようにして賦形したリチウムイオン伝導性酸化物(a)を、公知の方法により焼成(焼結)して好適に得ることができる。焼結は、例えば、リチウムイオン伝導性酸化物(a)を調製する際の高温焼成と同様の方法で行うことができる。具体的には、たとえば、焼成温度が800〜1200℃、好ましくは950〜1100℃、より好ましくは950〜1000℃の範囲であり、焼成時間が1〜8時間、好ましくは2〜6時間といった焼成条件で焼結を行うことができる。
【0070】
<リチウムイオン伝導性酸化物焼結体の用途>
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、リチウムイオン伝導性に優れるため、固体電解質として好適に使用することができ、特にリチウムイオン二次電池の固体電解質、全固体電池の固体電解質として好適に使用することができる。
【0071】
(リチウムイオン二次電池)
本発明に係るリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の好適な用途の1つとして、固体電解質として、リチウムイオン二次電池に利用することが挙げられる。
【0072】
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば、固体電解質層を備える固体電池の場合、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体がこの順に積層された構造を成している。
【0073】
正極集電体および負極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体および合金、またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物などの導電体で構成される。なお、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。導電性接着層は、粒状導電材や繊維状導電材などを含んで構成することができる。
【0074】
正電極層および負電極層は、公知の粉末成形法によって得ることができる。例えば、正極集電体、正電極層用の粉末、固体電解質層用の粉末、負電極層用の粉末および負極集電体をこの順に重ね合わせて、それらを同時に粉末成形することによって、正電極層、固体電解質層および負電極層のそれぞれの層形成と、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体のそれぞれの間の接続を同時に行うこともできる。また、各層を逐次に粉末成形することもできる。得られた粉末成形品を、必要に応じて、焼成などの熱処理を施してもよい。粉末成形には、上述した金型成形法などの公知の粉末成形法を採用することができる。
【0075】
正電極層の厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜100μmである。固体電解質層の厚さは、好ましくは50nm〜1000μm、より好ましくは100nm〜100μmである。負電極層の厚さは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは30〜150μm、さらに好ましくは50〜100μmである。
【0076】
・活物質
負電極用の活物質としては、リチウム合金、金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物SiO
n(0<n≦2)、ケイ素/炭素複合材、多孔質炭素の細孔内にケイ素を内包する複合材、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムで被覆されたグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。ケイ素/炭素複合材や多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材は、比容量が高く、エネルギー密度や電池容量を高めることができるので好ましい。より好ましくは、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材であり、ケイ素のリチウム吸蔵/放出に伴う体積膨張の緩和性に優れ、複合電極材料または電極層において、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスを良好に維持することができる。特に好ましくは、ケイ素ドメインが非晶質であり、ケイ素ドメインのサイズが10nm以下であり、ケイ素ドメインの近傍に多孔質炭素由来の細孔が存在する、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材である。
【0077】
正電極用の活物質としては、LiCo酸化物、LiNiCo酸化物、LiNiCoMn酸化物、LiNiMn酸化物、LiMn酸化物、LiMn系スピネル、LiMnNi酸化物、LiMnAl酸化物、LiMnMg酸化物、LiMnCo酸化物、LiMnFe酸化物、LiMnZn酸化物、LiCrNiMn酸化物、LiCrMn酸化物、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、遷移金属酸化物、硫化チタン、グラファイト、ハードカーボン、遷移金属含有リチウム窒化物、二酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、リチウム金属、リチウム合金、Li含有固溶体、およびリチウム貯蔵性金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。LiNiCoMn酸化物、LiNiCo酸化物またはLiCo酸化物が好ましく、LiNiCoMn酸化物がより好ましい。この活物質は固体電解質との親和性がよく、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスに優れる。また、平均電位が高く、比容量と安定性のバランスにおいてエネルギー密度や電池容量を高めることができるからである。また、正電極用の活物質は、イオン伝導性酸化物であるニオブ酸リチウム、リン酸リチウムまたはホウ酸リチウム等で表面が被覆されていてもよい。
【0078】
本発明の一実施形態における活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましく0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく0.5μm以上3μm以下が最も好ましい。また、短径の長さに対する長径の長さの比(長径の長さ/短径の長さ)、すなわちアスペクト比が、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である。
【0079】
本発明の一実施形態における活物質は、二次粒子を形成していてもよい。その場合、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.3μm以上15μm以下がより好ましく、0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上2μm以下が最も好ましい。圧縮成形して電極層を形成する場合においては、活物質は、一次粒子であることが好ましい。活物質が一次粒子である場合は、圧縮成形した場合でも、電子伝導パスまたは正孔伝導パスが損なわれることが起こりにくい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
・リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)(20%Siドープ)の作製
リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素とし、かつ、ケイ素とリンの合計中のケイ素原子数の割合が20%であるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)を作製する。目的とするリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)の、全体としての元素組成は、LiTa
2PO
8で表される酸化物において、P原子数の20%がSiに置き換えられたものであり、式Li
1+xTa
2P
1-ySi
yO
8(xはPをSiに置き換えることに伴う電荷バランス)のyが0.2である。
【0082】
原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、二酸化ケイ素(SiO
2)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、リン酸一水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を用い、焼成後のリチウム、タンタル、リン、ケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、1+x:2:0.8:0.2となるように、焼成時に生じるLiの脱離量、電荷バランスx、ならびに副生物(LiTaO
3)の生成抑制効果を考慮して、Li:Ta:P:Si=1.38:2.00:0.852:0.200の仕込み組成比で、各原料を秤量した。
【0083】
秤量した各原料粉末を、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間破砕混合した。
【0084】
得られた混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量:100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1100℃まで昇温し、1100℃において2時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0085】
焼成して得られた一次焼成物に、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間破砕混合し、解砕物を得た。
【0086】
得られた解砕物を、油圧プレスにより40MPaで仮成形し、次いで冷間等方圧成形法(CIP)により300MPaで本成形し、平均粒子径が直径10mm、厚さ1mmのペレットを得た。
【0087】
得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ社製)を用いて空気(ガス流量:100mL/分)の雰囲気下で昇温速度10℃/分で1100℃まで昇温し、1100℃において3時間焼成を行い、二次焼成物を得た。
【0088】
得られた二次焼成物を降温後、室温で取り出し、除湿された窒素雰囲気下に移し、ケイ素とリンの合計中のケイ素原子数の割合が20%であるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)を得た。
【0089】
・透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察
上記で得たリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)について、高速イオン衝撃(FIB)装置を用いて、断面観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察を行った。結果を
図1に示す。
【0090】
図1より、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)が、結晶粒子と、粒子界面とからなる多結晶構造であることが確認された。また、
図1の解析結果より、結晶粒子の平均粒径は1.3μm、粒子界面の厚さの平均は2nmであった。
【0091】
・STEM−EDX組成分析
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)を用いて、前述した測定ペレット作製方法で作製したペレットを、高速イオン衝撃(FIB)装置を用いて加工してSTEM−EDX組成分析用試料を得た。
【0092】
以下の装置及び条件により、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)の焼結体全体および粒子界面について、STEM−EDX組成分析を行った。
装置:JEM‐ARM200F(日本電子製)
EDX検出器:JED‐2300T(日本電子製)
測定条件 加速電圧:200kV
EDXマッピング解像度:256×256 pixels
この結果から、リン元素、酸素元素、ケイ素元素およびタンタル元素の合計を100原子%とした場合の各元素の含有割合(原子%)を求めた。結果を表1に示す。
【0093】
・単斜晶の結晶構造含有率
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)の粉末X線回折測定(XRD)を行った。X線回折測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10〜50°の範囲で測定を行い、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)のX線回折図形を得た。このX線回折図形を
図2に示す。
【0094】
得られたXRD図形に対し、公知の解析ソフトウェアRIETAN−FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析を行い、求められた単斜晶結晶量と単斜晶以外の結晶量から算出したところ、単斜晶の含有率は96.8%であった。
【0095】
・イオン伝導度評価
(測定ペレット作製)
リチウムイオン伝導性酸化物のイオン伝導度評価用の測定ペレットの作製は、次のように行った。得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)を、錠剤成形機を用いて直径10mm、厚さ1mmの円盤状に成形し、1100℃で大気下3時間焼成した。得られた焼成物の、理論密度に対する相対密度は96.3%であった。得られた焼成物の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成して、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
【0096】
(インピーダンス測定)
リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)のイオン伝導度評価を次のように行った。前述の方法で作製した測定ペレットを、測定前に2時間25℃に保持した。次いで、25℃においてインピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル製、型番:1260A)を用いて振幅25mVで周波数1Hz〜10MHzの範囲でACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewソフトを用いて等価回路でフィッティングして、結晶粒子および粒子界面におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ得た。求められた各イオン伝導度を表1に示す。
【0097】
[比較例1]
・リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(2)(Siドープなし)の作製
実施例1のリチウムイオン伝導性酸化物焼結体の作製において、各原料の使用量を変更したことの他は、実施例1と同様にして、LiTa
2PO
8で表されるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(2)を得た。ここで、各原料は、焼成後のリチウム、タンタル、リン、ケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、1:2:1:0となるように、焼成時に生じるLiの脱離量、電荷バランスx、ならびに副生物(LiTaO
3)の生成抑制効果を考慮して、Li:Ta:P:Si=1.15:2.00:1.065:0の仕込み組成比で秤量して使用した。
【0098】
得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(2)について、実施例1と同様にして、各種物性を測定あるいは評価した。リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(2)は、透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察で、結晶粒子と、粒子界面とからなる多結晶構造であることが確認された。またその解析結果より、結晶粒子の平均粒径は1.4μm、粒子界面の厚さの平均は2nmであった。その他の結果を表1に示す。またX線回折図形を
図3に示す。
【0099】
ケイ素を構成元素として含まないリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(2)は、ケイ素を含有するリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(1)と比較して、リチウムイオン伝導性が低く、改良の余地があることがわかった。
【0100】
以上の実施例および比較例の結果より、少なくとも、リチウム、タンタル、リン、ケイ素および酸素を構成元素として含み、かつ、結晶粒子と、該結晶粒子間に形成された粒子界面とからなる多結晶構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物焼結体は、リチウムイオン伝導性に優れ、特に粒子界面領域においてのリチウムイオン伝導性に優れることがわかる。
【0101】
【表1】
【0102】
[実施例2]
・リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)(26%Bドープ)の作製
リチウム、タンタル、リン、ホウ素および酸素を構成元素とし、かつ、ホウ素とリンの合計中のホウ素原子数の割合が26%であるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)を作製する。
【0103】
原料として、炭酸リチウム(Li
2CO
3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、ホウ酸(H
3BO
3)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%以上)、および、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を用い、リチウム、タンタル、ホウ素およびリンの原子数比(Li:Ta:B:P)が、1.45:1.70:0.30:0.85となるように秤量した。さらに焼成工程において系外に流出するリチウム原子を考慮し、炭酸リチウムをリチウム原子量を1.05倍した量となるように秤量し、さらに焼成工程において副生成物の生成を抑制するために、リン酸水素二アンモニウムをリン原子量を1.06倍した量となるように秤量した。
【0104】
秤量した各原料粉末に、適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径5mm)を用いて2時間粉砕混合し、一次混合物を得た。
【0105】
得られた一次混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(ガス流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで昇温し、該温度において4時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0106】
得られた一次焼成物に適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間粉砕混合し、二次混合物を得た。
【0107】
錠剤成形機を用い、得られた二次混合物に、油圧プレスで40MPaの圧力をかけることで、直径10mm、厚さ1mmの円盤状成形体を形成し、次いでCIP(冷間静水等方圧プレス)により、円盤状成形体に300MPaの圧力をかけることでペレットを作製した。
【0108】
得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(ガス流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で850℃まで昇温し、該温度において96時間焼成を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を室温まで降温後、回転焼成炉から取り出し、除湿された窒素ガス雰囲気下に移して保管し、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)を得た。
【0109】
得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)について、実施例1と同様にして、各種物性を測定あるいは評価した。単斜晶の含有率は83.5%であった。結晶粒子および粒子界面におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ0.867mS/cm、6.10mS/cm、0.759mS/cmであった。
【0110】
・電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析
得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)を切断し、イオンミリング法(CP加工、加速電圧:6kV、加工時間:8時間)によって断面出しを行った。
EPMA装置JMX-8530F(日本電子製)を用い、得られた固体電解質の断面のEPMA測定(加速電圧:10kV、照射電流:1×10
-7A)を行い、二次電子像とホウ素マッピング画像を得た。
【0111】
実施例2で得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(3)のEPMAによる二次電子像とホウ素マッピング画像を
図4に示す。二次電子像において、灰色中間色にあたる部分が単斜晶であり、黒色および白色部分が結晶粒界を示す。ホウ素マッピングにおいて、ホウ素原子の含有量が多い部分は白色で、少ない部分は黒色で示されている。
図4より、ホウ素原子は結晶粒界に多く存在することが分かる。
【0112】
[実施例3]
・リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(4)(計10%SiおよびBドープ)の作製
リチウム、タンタル、ホウ素、リン、ケイ素および酸素を構成元素とし、かつ、ホウ素、ケイ素とリンの合計中のホウ素およびケイ素の合計原子数の割合が10%であるリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(4)を作製する。
【0113】
実施例3において、二酸化ケイ素(SiO
2)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよびケイ素の原子数比(Li:Ta:B:P:Si)が、1.17:1.90:0.10:0.94:0.01となるように各原料粉末を用いた以外は、実施例2と同様にして、リチウムイオン伝導性酸化物焼結体(4)を作製した。
【0114】
得られたリチウムイオン伝導性酸化物焼結体(4)について、実施例1と同様にして、各種物性を測定あるいは評価した。単斜晶の含有率は99.0%であった。結晶粒子および粒子界面におけるイオン伝導度、およびトータルでのリチウムイオン伝導度をそれぞれ1.36mS/cm、0.971mS/cm、0.566mS/cmであった。