特許第6982759号(P6982759)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982759
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20211206BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C02F1/28 L
   B01D21/30 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-23116(P2018-23116)
(22)【出願日】2018年2月13日
(65)【公開番号】特開2019-136665(P2019-136665A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】315016723
【氏名又は名称】三菱重工パワー環境ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上村 一秀
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】上原 良介
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−15279(JP,A)
【文献】 特開昭61−293590(JP,A)
【文献】 特開昭60−197293(JP,A)
【文献】 特開昭60−202789(JP,A)
【文献】 特開平8−281260(JP,A)
【文献】 特開2009−241011(JP,A)
【文献】 特開2006−55728(JP,A)
【文献】 特開2014−8477(JP,A)
【文献】 特開2012−250219(JP,A)
【文献】 特開2010−69395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00− 1/78
B01D 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む排水を処理する水処理システムであって、
前記排水にアルミニウム塩を投入することにより、前記排水に含まれるフッ素が低減された処理水とフッ素を吸着した水酸化アルミニウムを含む汚泥とに分離するフッ素処理槽と、
前記排水に投入する前記アルミニウム塩の投入量を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、プロセッサとメモリとを有し、前記プロセッサは前記メモリに読み込まれた制御プログラムを実行し、
前記制御プログラムは、アルミ注入率演算部とアルミ注入率補正部と薬剤投入量算出部とを有し、
前記アルミ注入率演算部は、あらかじめ定めた前記フッ素処理槽における吸着等温式と前記排水のフッ素濃度とに基づきアルミ注入率を算出し、
前記アルミ注入率補正部は、前記アルミ注入率演算部が算出したアルミ注入率を前記処理水のフッ素濃度の履歴に基づく補正係数により補正した補正アルミ注入率を算出し、
前記薬剤投入量算出部は、前記補正アルミ注入率に基づき、前記排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する水処理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記吸着等温式は、Freundlichの吸着等温式またはLangmuirの吸着等温式である水処理システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記アルミ注入率補正部は、前記処理水の目標フッ素濃度に対して不感帯とするフッ素濃度範囲を定め、前記処理水のフッ素濃度が前記不感帯とするフッ素濃度範囲であれば前記補正係数の値を維持し、前記処理水のフッ素濃度が前記不感帯とするフッ素濃度範囲を超える場合には前記補正係数の値を変更する水処理システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記不感帯とするフッ素濃度範囲、または前記処理水のフッ素濃度が前記不感帯とするフッ素濃度範囲を超える場合の前記補正係数の値の変更量が調整可能な水処理システム。
【請求項5】
請求項3において、
前記処理水のフッ素濃度の測定頻度は、前記排水のフッ素濃度の測定頻度よりも低い水処理システム。
【請求項6】
フッ素を含む排水を処理する水処理システムであって、
前記排水にアルミニウム塩を投入することにより、前記排水に含まれるフッ素が低減された処理水とフッ素を吸着した水酸化アルミニウムを含む汚泥とに分離するフッ素処理槽と、
前記排水に投入する前記アルミニウム塩の投入量を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、プロセッサとメモリとを有し、前記プロセッサは前記メモリに読み込まれた制御プログラムを実行し、
前記制御プログラムは、アルミ注入率演算部とアルミ注入率補正部と薬剤投入量算出部とを有し、
前記アルミ注入率演算部は、あらかじめ定めた前記フッ素処理槽の初期投入量算出式により前記アルミニウム塩の初期投入量を算出するとともに、以降は前記処理水のフッ素濃度と前記処理水の目標フッ素濃度とのずれ量に基づきアルミ注入率を算出し、
前記薬剤投入量算出部は、前記アルミ注入率演算部が算出したアルミ注入率に基づき、前記排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出し、
前記アルミ注入率補正部は、前記処理水のフッ素濃度の履歴に基づき前記処理水の目標フッ素濃度の値を変化させる水処理システム。
【請求項7】
請求項6において、
前記アルミ注入率補正部は、さらに、前記処理水のフッ素濃度の履歴に基づき、前記処理水のフッ素濃度と前記処理水の目標フッ素濃度とのずれ量に対する出力感度を高める水処理システム。
【請求項8】
請求項6において、
前記アルミ注入率演算部は、前記アルミ注入率をP制御、PI制御、またはPID制御する水処理システム。
【請求項9】
請求項6において、
前記アルミ注入率補正部は、前記処理水の目標フッ素濃度に対して不感帯とするフッ素濃度範囲を定め、前記処理水のフッ素濃度が前記不感帯とするフッ素濃度範囲であれば前記処理水の目標フッ素濃度の値を維持し、前記処理水のフッ素濃度が前記不感帯とするフッ素濃度範囲を超える場合には前記処理水の目標フッ素濃度の値を変更する水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムに関する。特に、プラントからの排水に含まれるフッ素を処理する水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な環境意識の高まりに伴い、各国、地域でプラントから排出される排ガス、排水、廃棄物等について様々な環境規制が定められている。このため、プラントには排ガス、排水、廃棄物等に含まれる規制物質を所定値以下に除去するための環境保全装置が設けられている。発電プラントの環境保全装置の場合、排ガスの流路に脱硝装置、電気集塵装置、脱硫装置が順に配置され、それぞれ、排ガスに含まれる窒素酸化物(NO)、煤塵、硫黄酸化物(SO)を除去する。脱硫装置の代表的な方式の一つである湿式石灰石膏法は排ガスと石灰石スラリを気液接触させ、カルシウム(Ca)と亜硫酸ガス(SO)とを反応させることにより、SOを吸収するとともに副生品として石膏を回収する。本方式により排出される脱硫排水には、フッ素、窒素、重金属といったような規制物質が含まれ、これらの排水基準に適合する排水処理を行い、環境に放流する。
【0003】
排水処理を行うため、一般に規制物質ごとの処理槽を設け、規制物質に対応する処理薬剤を注入することにより排水から規制物質を除去する。排水に含まれる規制物質の濃度が変動したり、排水の性状によって処理薬剤の効果が変動したりすることから、処理槽に投入する処理薬剤の適正量は変動する。このため、従来から処理薬剤の注入量の自動制御に関する提案が存在する。
【0004】
特許文献1はフッ素含有廃水の処理装置に関するものである。フッ素処理に用いるアルミニウム塩、中和剤の添加量を原水の流量、フッ素濃度、反応槽中のpHに応じて制御することを開示する。薬液投入量の制御はフィードバック制御によるが、フィードフォワード制御、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の併用についても言及されている。
【0005】
特許文献2は原水に凝集剤を注入し、原水中の濁質分を凝集させフロックを形成し、フロックを沈殿池で沈降分離する凝集沈殿処理において、設定された濁度以下の上水を得るための凝集剤注入制御につき開示する。フィードフォワード制御に対してフィードバック制御による補正を行うにあたり、改良した濁度の計測方法を適用することにより、フィードバック制御の課題である補正の時間遅れを短縮することを開示する。
【0006】
特許文献3はプラントの運転情報を用いて排水の水質を予測する水質予測部を設け、予測された水質に基づき、水処理の運転条件をフィードフォワード制御することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−197293号公報
【特許文献2】特開2011−5463号公報
【特許文献3】国際公開第2017/022113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
火力発電所における炭種変更時や発電負荷変更時には、脱硫排水中の成分濃度が大きく変動する。排水中のフッ素処理を適正に行うため、発電所の排水(脱硫排水、その他排水)中のフッ素濃度を手分析で分析し、その結果を用いて薬剤の注入量を変更することが一般に行われている。排水のフッ素濃度は、フッ素計によりモニタされているが、フッ素計の測定値はフッ素濃度以外に計測値を変動させる妨害物質の影響等が大きく、脱硫排水中の成分濃度の変動を定量的に測定し、薬品の注入量を決定できる程の精度は現状のところもっていない。このため、成分濃度変動時の水質分析、運転調整が運転員の負荷となっている。加えて、凝集剤等の処理薬品の注入量は排水性状によりその効果が変動する。このため、注入不足を生じないように理論注入量より薬品を過剰に注入すると、凝集剤由来の汚泥量がこれに付随して大きくなる。
【0009】
特許文献1はフッ素処理を対象とするものであるが、計測値からどのように薬液投入量を算出、制御するのかについての具体的な記載がなされていない。
【0010】
特許文献2、特許文献3はいずれもフッ素処理の具体的な処理については開示されていない。なお、特許文献2ではフィードバック制御を併用することにより、水質変動に起因するフィードフォワード制御の不適正を補正するが、薬品を注入してから実際の変化がセンサの計測に現れるまでには時間遅れは避けられず、応答遅れが大きいほど制御の振れ幅が大きくなるおそれが残る。
【0011】
本発明では、フッ素処理の薬剤(アルミニウム塩)の投入量をフィードフォワード制御またはフィードバック制御により、排水または処理水の濃度の変化に応じて適正化させるともに、凝集剤由来の汚泥量を減らすよう制御値を調整することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施態様である水処理システムは、フッ素を含む排水を処理する水処理システムであって、排水にアルミニウム塩を投入することにより、排水に含まれるフッ素が低減された処理水とフッ素を吸着した水酸化アルミニウムを含む汚泥とに分離するフッ素処理槽と、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を制御する制御部とを有し、制御部は、プロセッサとメモリとを有し、プロセッサはメモリに読み込まれた制御プログラムを実行し、制御プログラムは、アルミ注入率演算部とアルミ注入率補正部と薬剤投入量算出部とを有し、アルミ注入率演算部は、あらかじめ定めたフッ素処理槽における吸着等温式と排水のフッ素濃度とに基づきアルミ注入率を算出し、アルミ注入率補正部は、アルミ注入率演算部が算出したアルミ注入率を処理水のフッ素濃度の履歴に基づく補正係数により補正した補正アルミ注入率を算出し、薬剤投入量算出部は、補正アルミ注入率に基づき、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する。
【0013】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
排水のフッ素処理において、排水基準に適合する排水処理を行いつつ、薬剤の過剰投入を抑制し、これに伴う凝集剤由来の汚泥量を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】フッ素処理槽の構成例である。
図2A】フッ素処理モデルを説明する図である。
図2B】実測値に適合するように求めたFreundlichの吸着等温線である。
図2C】実測値に適合するように求めたLangmuirの吸着等温線である。
図3】実プラントの排水フッ素濃度C0のシミュレーションである。
図4】制御モデルの補正方法を説明する図である。
図5】実施例1による制御結果(シミュレーション)を示す図である。
図6】実プラントでのアルミ注入率と除去されるフッ素量との相関を示すグラフである。
図7】実プラントでのアルミ注入率と除去されるフッ素量との相関を示すグラフである。
図8】実施例2による制御結果(シミュレーション)を示す図である。
図9】実施例2による制御結果(シミュレーション)を示す図である。
図10】実施例2による制御結果(シミュレーション)のまとめである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1にフッ素処理槽100の構成例を示す。フッ素処理槽100は反応槽101、凝集槽102、沈殿槽103を有し、排水は順次これらの槽を通過することで、含有フッ素が低減された処理水とフッ素を吸着して沈殿した水酸化アルミニウム(Al(OH)2)を含む汚泥とに分離される。反応槽101にはフッ素を処理するための薬剤111と中和剤112とが投入される。薬剤111としては、PAC(ポリ塩化アルミニウム)または硫酸バンド等のアルミニウム塩が用いられる。アルミニウム塩を加えた後、凝集に最適なpHに調整するため、中和剤112を投入して反応槽101のpHを調整する。中和剤112としては例えば、塩酸や硫酸、苛性ソーダ等が用いられる。凝集槽102では、薬剤を投入することに生じた水酸化アルミニウムを沈殿しやすくするための凝集助剤113が投入され、沈殿槽103にて固液分離がなされる。なお、フッ素処理を2段に分けて行うことも一般的である。この場合、フッ素処理槽100からの処理水を次段のフッ素処理槽(図示せず)を通過させることで、排水中のフッ素濃度を目標値まで低下させる。
【0017】
フッ素処理槽100に対して、薬剤等の投入量を制御するために制御部200が設けられている。なお、制御部200は薬剤111、中和剤112、凝集助剤113それぞれの投入量を制御する機能を有するが、ここでは薬剤(アルミニウム塩)111の投入量の制御について説明する。他の投入量もそれぞれ制御され、例えば、中和剤112は反応槽101のpHに基づき投入量を制御し、凝集助剤113はアルミニウム塩の投入量に応じて投入量を制御すればよい。
【0018】
制御部200は、プロセッサ201、メモリ202、水質データベース203、プロセスデータベース204、インタフェース205、これらを接続するバス206を有する。プロセッサ201はメモリ202にロードされた制御プログラムを実行し、薬剤111の投入量を算出する機能を実現する。制御プログラムは、データ収集部207、アルミ注入率演算部208、アルミ注入率補正部209、薬剤投入量算出部210を含み、制御部200が果たす機能はメモリ202にロードされた制御プログラムにより実現される。データ収集部207はインタフェース205を介して、フッ素濃度センサ104により排水のフッ素濃度C0を、フッ素濃度センサ105により処理水のフッ素濃度C1を収集する。収集したフッ素濃度は水質データベース203に格納され、適宜メモリ202に呼び出されてアルミ注入率の算出に使用される。なお、水質データベース203にはフッ素濃度のみならず、排水、処理水の水量やその他水質データが収集されるものとする。アルミ注入率演算部208は水質データベース203に格納された排水のフッ素濃度C0(実施例1)または処理水のフッ素濃度C1(実施例2)に基づきアルミ注入率を演算する。アルミ注入率補正部209は、アルミ注入率演算部208で演算したアルミ注入率に対して必要に応じて所定の補正を行い、決定したアルミ注入率をプロセスデータベース204に保存する。なお、アルミ注入率演算部208及びアルミ注入率補正部209での処理の内容については後述する。薬剤投入量算出部210は、プロセスデータベース204に格納されたアルミ注入率、水質データベース203に保存されている排水量の情報に基づき薬剤111の投入量を算出する。制御部200は、薬剤111の投入量が算出された投入量となるよう、インタフェース205を介して発行する制御命令S1により薬剤111の投入量を制御する。
【実施例1】
【0019】
実施例1ではフッ素処理槽へのアルミニウム塩の投入量をフィードフォワード制御することにより、アルミニウム塩の投入量の適正化を図る。実施例1におけるフッ素処理モデルについて説明する。図2Aはフッ素処理槽100におけるフッ素処理モデル(吸着等温式)を説明するための図である。排水のフッ素濃度C0[mg/l]、処理水のフッ素濃度C1[mg/l]、薬剤(アルミニウム塩)により除去されるフッ素量F[mg/l]とすると、(数1)の関係が成り立つ。
【0020】
【数1】
【0021】
フッ素処理槽100は水酸化アルミニウムへのフッ素の吸着現象を利用するものであり、沈殿槽において、水酸化アルミニウムに吸着したフッ素とその上澄みである処理水に溶け込んでいるフッ素とは平衡状態にあるといえる。溶液中の溶質がある一定温度下で固体に吸着される際の濃度と吸収量の相関関係を示す吸着等温式はいくつかの式が知られているが、ここでは(1)Freundlichの吸着等温式と(2)Langmuirの吸着等温式を適用する例を示す。Freundlichの吸着等温式は工業分野における実際の吸着等温線に経験的に合致することで知られており、アルミ注入率(処理水中のアルミニウム濃度と等価)A[mg/l]とすると、吸着量Vは(数2)により表される。なお、a及びnは定数である。
【0022】
【数2】
【0023】
(数2)を(数1)に代入することで、(数3)が得られる。
【0024】
【数3】
【0025】
Freundlichの吸着等温式は非飽和型の吸着等温式であるが、実際には処理水のフッ素濃度が高くなると吸着量も飽和するものと考えられる。このため、飽和型の吸着等温線に適合するLangmuirの吸着等温式を用いてもよい。この場合、吸着量Vは(数4)により表される。ここで、aはLangmuir定数、bは飽和吸着量である。
【0026】
【数4】
【0027】
(数4)を(数1)に代入することで、(数5)が得られる。
【0028】
【数5】
【0029】
フッ素処理槽100における処理水のフッ素濃度Cと吸着量Vとの関係を実測し、実測値に適合するように、(数2)の係数a、nあるいは(数4)の係数a、bを定める。図2Bは実測値に適合するように係数a、nを求めたFreundlichの吸着等温線であり、図2Cは同じ実測値に適合するように係数a、bを求めたLangmuirの吸着等温線である。実測値と吸着等温線による期待値はよく合致しており、いずれの場合も誤差は2割以内に抑えることができている(実測値における異常値は除く)。なお、いずれの吸着等温式を用いるかは、実プラントの実測により適合するものを選択すればよい。
【0030】
このように、被制御対象とする実プラントの実測値より係数を算出して吸着等温線を求め、処理水フッ素濃度C1はフッ素処理槽100の目標とするフッ素濃度(固定値)とおく。例えば、日本の場合、フッ素に関し、海域での排水基準は15[mg/l]、河川、湖沼などの海域以外では8[mg/l]と定められているため、処理水のフッ素濃度C1はこれらの規制値に基づき定めればよい。算出された係数をもつ吸着等温線及び排水のフッ素濃度C0に基づき、(数3)あるいは(数5)を適用することにより、必要なアルミニウム濃度、これに基づき必要なアルミニウム塩の投入量を算出することができる。
【0031】
しかしながら、このようなフィードフォワード制御の場合、吸着等温式の係数を求めたときの排水の性状と実稼働時の排水の性状とのずれが大きくなると、制御目標とのずれが生じることになる。排水性状にずれを与える要因としては例えば炭種の切換え等がある。石炭燃焼ボイラの場合、石炭に含まれるフッ素量は産地等により大きく異なることからボイラが使用する炭種を切り換えることにより、排水に含まれるフッ素量は大きく変動する。その他にも、排水には様々な物質が溶け込んでおり、物質によってはフッ素の吸着を阻害するものもあるため、用水の変化もフィードフォワード制御の効果に影響を及ぼす。
【0032】
図3は実プラントにおける実測値に基づき、実プラントで生じうる排水フッ素濃度C0の変動を模擬したものである。このように、排水フッ素濃度C0は、炭種の変更や様々な要因によって変動が生じ、あらかじめ定めたモデルに基づく投入ではアルミニウム塩が不足または過剰となるおそれがある。そこで、本実施例では、吸着等温式により求められるアルミ注入率A[mg/l]に補正係数αを乗じた補正アルミ注入率A’(=αA)によりアルミニウム塩の投入量を定める。図4を用いて補正係数αの決め方の一例を説明する。この例では補正係数αの値を処理水フッ素濃度C1に基づき制御する。
【0033】
処理水フッ素濃度の目標値をC1Tとし、C1L〜C1H(C1L<C1T<C1H)を不感帯として定める。例えば、目標値C1Tの±20%として定めてもよい。この不感帯を低濃度側に超えた場合にはフッ素除去が過剰に行われていると判断してαを減少させ、不感帯を高濃度側に超えた場合にはフッ素除去が不足していると判断してαを増加させる。図4の例では、時点401において処理水フッ素濃度C1がC1Lを下回ったことにより、αを1.0から0.9に減少させ、時点402、403において処理水フッ素濃度C1がC1Hを上回ったことにより、それぞれαを0.9から1.0に、αを1.0から1.1に増加させる。
【0034】
図5に、図3のように排水フッ素濃度C0が変動した場合に処理水フッ素濃度C1がどのように変動するかについてのシミュレーション結果を示す。実線が図4の補正係数αによりアルミニウム塩の投入量を補正した場合の結果であり、点線が補正を行わなかった場合の結果である。このように、処理水フッ素濃度C1の履歴に基づき補正を行うことにより薬剤の投入量が過大のまま長期間継続したり、過少のまま長時間継続したりすることが抑制され、処理水フッ素濃度C1の変動幅をより小さく抑えることができる。すなわち、アルミニウム塩の投入量の適正化を図ることができる。
【0035】
図1に示した制御プログラムと実施例1での処理との対応関係について説明する。アルミ注入率演算部208は、フッ素処理槽における吸着等温式と排水のフッ素濃度C0とに基づきアルミ注入率Aを算出する。アルミ注入率補正部209は、算出したアルミ注入率Aを処理水のフッ素濃度の履歴に基づく補正係数αにより補正した補正アルミ注入率A’を算出する。処理水のフッ素濃度の履歴を、不感帯を用いて反映させる方法について説明したが、この方法に限定されるわけではない。例えば、排水水質の変動の仕方によっては、あらかじめ定めた一定の基準で補正係数を変更するのではなく、適宜基準を柔軟に調整できるようにすることが望ましい場合がある。具体的には、処理水のフッ素濃度の履歴に応じて不感帯とするフッ素濃度範囲や1回の補正係数の変更量を調整し、調整した基準によりアルミ注入率を補正してもよい。薬剤投入量算出部210は、補正アルミ注入率A’に基づき、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する。
【0036】
また、本実施例のフィードフォワード制御の場合、排水側フッ素濃度センサ104(図1参照)は排水を継続して比較的高頻度でモニタしてアルミ注入率を演算することが望ましい一方、処理水側フッ素濃度センサ105は、処理水のフッ素濃度としてあらわれるには数時間を要するため、フッ素濃度センサ104よりも低頻度でモニタするので十分である。このため、図1においては濃度センサを制御部200にオンラインで接続して制御する例を示したが、処理水のフッ素濃度の計測をより高精度に行い、これをオフラインで制御部200に伝達するようにしてもよい。
【実施例2】
【0037】
実施例2ではフッ素処理槽へのアルミニウム塩の投入量をフィードバック制御により制御する。このための初期投入量の算出に当たっては、以下の経験式(数6)を利用する。
【0038】
【数6】
【0039】
本経験式は、実プラントでの運用データから導出されるものである。図6に示すように、実プラントの運用データからはアルミ注入率A[mg/l]と薬剤(アルミニウム塩)により除去されるフッ素量F[mg/l](排水のフッ素濃度C0[mg/l]と処理水のフッ素濃度C1[mg/l]との差に等しい、(数1)を参照)とは正の相関がある。図6のデータから処理水のフッ素濃度C1[mg/l]を所定の範囲に限定して対数表示したものが図7であり、この例では(数6)の相関式は、a=7.8、n=1.3で与えられる。
【0040】
実施例2において、図3に示した排水フッ素濃度C0[mg/l]の変動が生じた場合の処理水フッ素濃度C1[mg/l]の変動のシミュレーション結果を図8に示す。実施例2では(数6)に基づき初期制御値を定め、以後は目標処理水濃度とのずれからアルミ注入率Aを修正する。図8では、目標処理水濃度を5[mg/l]とし、制御方法も単純なP制御としたものである。この例では平均処理水濃度は5.2[mg/l]、最大値は13.9[mg/l]となっている。フィードバック制御の場合、排水フッ素濃度の変動に対する制御遅延を抑制するため、制御遅延量を短くすることにより、変動幅を小さくすることが期待できる。また、今回はP制御を適用したが、PI制御、PID制御を適用したフィードバック制御を行ってもよい。ただし、排水フッ素濃度C0[mg/l]の変動が処理水フッ素濃度C1[mg/l]に反映されるまでの遅延時間は避けられないため、制御遅延に起因する処理水フッ素濃度C1[mg/l]の変動はフィードバック制御において本質的なものである。
【0041】
そこで、本実施例では処理水フッ素濃度C1の履歴に応じて処理水フッ素濃度の目標値を変化させる。さらに、ずれ幅に対する出力感度を高める(すなわち、所定のずれ幅に対して増加または減少させるアルミニウム塩の量を大きくする)ようにしてもよい。図9の例では、処理水フッ素濃度の目標値を8[mg/l]とし、処理水フッ素濃度C1が50%〜200%(4〜16[mg/l])の範囲(不感帯)を超えた場合には、目標値および出力感度を変更したものである。このとき、平均処理水濃度は5.9[mg/l]、最大値は14.8[mg/l]となった。
【0042】
図10はシミュレーション結果をまとめたものである。Case1、2は補正なしのものであり、目標値の設定のみが異なる。目標値を6[mg/l]に設定した場合は、最大値が日本の海域への排水基準15[mg/l]を超えている。このように、フィードバック制御を行うにあたり、処理水フッ素濃度の履歴に応じて、目標値及び出力感度の補正を行うことにより、最大値の上昇を抑制しながら、平均処理水濃度を上昇させることが可能になっている。これにより、処理水基準を満足させるために過剰に投入されるアルミ量が低減されていることが分かる。
【0043】
図1に示した制御プログラムと実施例2での処理との対応関係について説明する。アルミ注入率演算部208は、フッ素処理槽の初期投入量算出式(数6)によりアルミニウム塩の初期投入量を算出するとともに、以降は処理水のフッ素濃度と目標フッ素濃度とのずれ量に基づきアルミ注入率を算出する。フィードバック制御方式としては、P制御、PI制御、PID制御のいずれであってもよい。薬剤投入量算出部210は、算出したアルミ注入率Aに基づき、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する。アルミ注入率補正部209は、処理水のフッ素濃度の履歴に基づき処理水の目標フッ素濃度の値を変化させる。さらに、処理水のフッ素濃度の履歴に基づき、処理水のフッ素濃度と目標フッ素濃度とのずれ量に対する出力感度を高めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
100:フッ素処理槽、101:反応槽、102:凝集槽、103:沈殿槽、104,105:フッ素濃度センサ、111:薬剤、112:中和剤、113:凝集助剤、200:制御部、201:プロセッサ、202:メモリ、203:水質データベース、204:プロセスデータベース、205:インタフェース、206:バス。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10