【0018】
制御部200は、プロセッサ201、メモリ202、水質データベース203、プロセスデータベース204、インタフェース205、これらを接続するバス206を有する。プロセッサ201はメモリ202にロードされた制御プログラムを実行し、薬剤111の投入量を算出する機能を実現する。制御プログラムは、データ収集部207、アルミ注入率演算部208、アルミ注入率補正部209、薬剤投入量算出部210を含み、制御部200が果たす機能はメモリ202にロードされた制御プログラムにより実現される。データ収集部207はインタフェース205を介して、フッ素濃度センサ104により排水のフッ素濃度C
0を、フッ素濃度センサ105により処理水のフッ素濃度C
1を収集する。収集したフッ素濃度は水質データベース203に格納され、適宜メモリ202に呼び出されてアルミ注入率の算出に使用される。なお、水質データベース203にはフッ素濃度のみならず、排水、処理水の水量やその他水質データが収集されるものとする。アルミ注入率演算部208は水質データベース203に格納された排水のフッ素濃度C
0(実施例1)または処理水のフッ素濃度C
1(実施例2)に基づきアルミ注入率を演算する。アルミ注入率補正部209は、アルミ注入率演算部208で演算したアルミ注入率に対して必要に応じて所定の補正を行い、決定したアルミ注入率をプロセスデータベース204に保存する。なお、アルミ注入率演算部208及びアルミ注入率補正部209での処理の内容については後述する。薬剤投入量算出部210は、プロセスデータベース204に格納されたアルミ注入率、水質データベース203に保存されている排水量の情報に基づき薬剤111の投入量を算出する。制御部200は、薬剤111の投入量が算出された投入量となるよう、インタフェース205を介して発行する制御命令S
1により薬剤111の投入量を制御する。
【実施例1】
【0019】
実施例1ではフッ素処理槽へのアルミニウム塩の投入量をフィードフォワード制御することにより、アルミニウム塩の投入量の適正化を図る。実施例1におけるフッ素処理モデルについて説明する。
図2Aはフッ素処理槽100におけるフッ素処理モデル(吸着等温式)を説明するための図である。排水のフッ素濃度C
0[mg/l]、処理水のフッ素濃度C
1[mg/l]、薬剤(アルミニウム塩)により除去されるフッ素量F[mg/l]とすると、(数1)の関係が成り立つ。
【0020】
【数1】
【0021】
フッ素処理槽100は水酸化アルミニウムへのフッ素の吸着現象を利用するものであり、沈殿槽において、水酸化アルミニウムに吸着したフッ素とその上澄みである処理水に溶け込んでいるフッ素とは平衡状態にあるといえる。溶液中の溶質がある一定温度下で固体に吸着される際の濃度と吸収量の相関関係を示す吸着等温式はいくつかの式が知られているが、ここでは(1)Freundlichの吸着等温式と(2)Langmuirの吸着等温式を適用する例を示す。Freundlichの吸着等温式は工業分野における実際の吸着等温線に経験的に合致することで知られており、アルミ注入率(処理水中のアルミニウム濃度と等価)A[mg/l]とすると、吸着量Vは(数2)により表される。なお、a及びnは定数である。
【0022】
【数2】
【0023】
(数2)を(数1)に代入することで、(数3)が得られる。
【0024】
【数3】
【0025】
Freundlichの吸着等温式は非飽和型の吸着等温式であるが、実際には処理水のフッ素濃度が高くなると吸着量も飽和するものと考えられる。このため、飽和型の吸着等温線に適合するLangmuirの吸着等温式を用いてもよい。この場合、吸着量Vは(数4)により表される。ここで、aはLangmuir定数、bは飽和吸着量である。
【0026】
【数4】
【0027】
(数4)を(数1)に代入することで、(数5)が得られる。
【0028】
【数5】
【0029】
フッ素処理槽100における処理水のフッ素濃度C
1と吸着量Vとの関係を実測し、実測値に適合するように、(数2)の係数a、nあるいは(数4)の係数a、bを定める。
図2Bは実測値に適合するように係数a、nを求めたFreundlichの吸着等温線であり、
図2Cは同じ実測値に適合するように係数a、bを求めたLangmuirの吸着等温線である。実測値と吸着等温線による期待値はよく合致しており、いずれの場合も誤差は2割以内に抑えることができている(実測値における異常値は除く)。なお、いずれの吸着等温式を用いるかは、実プラントの実測により適合するものを選択すればよい。
【0030】
このように、被制御対象とする実プラントの実測値より係数を算出して吸着等温線を求め、処理水フッ素濃度C
1はフッ素処理槽100の目標とするフッ素濃度(固定値)とおく。例えば、日本の場合、フッ素に関し、海域での排水基準は15[mg/l]、河川、湖沼などの海域以外では8[mg/l]と定められているため、処理水のフッ素濃度C
1はこれらの規制値に基づき定めればよい。算出された係数をもつ吸着等温線及び排水のフッ素濃度C
0に基づき、(数3)あるいは(数5)を適用することにより、必要なアルミニウム濃度、これに基づき必要なアルミニウム塩の投入量を算出することができる。
【0031】
しかしながら、このようなフィードフォワード制御の場合、吸着等温式の係数を求めたときの排水の性状と実稼働時の排水の性状とのずれが大きくなると、制御目標とのずれが生じることになる。排水性状にずれを与える要因としては例えば炭種の切換え等がある。石炭燃焼ボイラの場合、石炭に含まれるフッ素量は産地等により大きく異なることからボイラが使用する炭種を切り換えることにより、排水に含まれるフッ素量は大きく変動する。その他にも、排水には様々な物質が溶け込んでおり、物質によってはフッ素の吸着を阻害するものもあるため、用水の変化もフィードフォワード制御の効果に影響を及ぼす。
【0032】
図3は実プラントにおける実測値に基づき、実プラントで生じうる排水フッ素濃度C
0の変動を模擬したものである。このように、排水フッ素濃度C
0は、炭種の変更や様々な要因によって変動が生じ、あらかじめ定めたモデルに基づく投入ではアルミニウム塩が不足または過剰となるおそれがある。そこで、本実施例では、吸着等温式により求められるアルミ注入率A[mg/l]に補正係数αを乗じた補正アルミ注入率A’(=αA)によりアルミニウム塩の投入量を定める。
図4を用いて補正係数αの決め方の一例を説明する。この例では補正係数αの値を処理水フッ素濃度C
1に基づき制御する。
【0033】
処理水フッ素濃度の目標値をC
1Tとし、C
1L〜C
1H(C
1L<C
1T<C
1H)を不感帯として定める。例えば、目標値C
1Tの±20%として定めてもよい。この不感帯を低濃度側に超えた場合にはフッ素除去が過剰に行われていると判断してαを減少させ、不感帯を高濃度側に超えた場合にはフッ素除去が不足していると判断してαを増加させる。
図4の例では、時点401において処理水フッ素濃度C
1がC
1Lを下回ったことにより、αを1.0から0.9に減少させ、時点402、403において処理水フッ素濃度C
1がC
1Hを上回ったことにより、それぞれαを0.9から1.0に、αを1.0から1.1に増加させる。
【0034】
図5に、
図3のように排水フッ素濃度C
0が変動した場合に処理水フッ素濃度C
1がどのように変動するかについてのシミュレーション結果を示す。実線が
図4の補正係数αによりアルミニウム塩の投入量を補正した場合の結果であり、点線が補正を行わなかった場合の結果である。このように、処理水フッ素濃度C
1の履歴に基づき補正を行うことにより薬剤の投入量が過大のまま長期間継続したり、過少のまま長時間継続したりすることが抑制され、処理水フッ素濃度C
1の変動幅をより小さく抑えることができる。すなわち、アルミニウム塩の投入量の適正化を図ることができる。
【0035】
図1に示した制御プログラムと実施例1での処理との対応関係について説明する。アルミ注入率演算部208は、フッ素処理槽における吸着等温式と排水のフッ素濃度C
0とに基づきアルミ注入率Aを算出する。アルミ注入率補正部209は、算出したアルミ注入率Aを処理水のフッ素濃度の履歴に基づく補正係数αにより補正した補正アルミ注入率A’を算出する。処理水のフッ素濃度の履歴を、不感帯を用いて反映させる方法について説明したが、この方法に限定されるわけではない。例えば、排水水質の変動の仕方によっては、あらかじめ定めた一定の基準で補正係数を変更するのではなく、適宜基準を柔軟に調整できるようにすることが望ましい場合がある。具体的には、処理水のフッ素濃度の履歴に応じて不感帯とするフッ素濃度範囲や1回の補正係数の変更量を調整し、調整した基準によりアルミ注入率を補正してもよい。薬剤投入量算出部210は、補正アルミ注入率A’に基づき、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する。
【0036】
また、本実施例のフィードフォワード制御の場合、排水側フッ素濃度センサ104(
図1参照)は排水を継続して比較的高頻度でモニタしてアルミ注入率を演算することが望ましい一方、処理水側フッ素濃度センサ105は、処理水のフッ素濃度としてあらわれるには数時間を要するため、フッ素濃度センサ104よりも低頻度でモニタするので十分である。このため、
図1においては濃度センサを制御部200にオンラインで接続して制御する例を示したが、処理水のフッ素濃度の計測をより高精度に行い、これをオフラインで制御部200に伝達するようにしてもよい。
【実施例2】
【0037】
実施例2ではフッ素処理槽へのアルミニウム塩の投入量をフィードバック制御により制御する。このための初期投入量の算出に当たっては、以下の経験式(数6)を利用する。
【0038】
【数6】
【0039】
本経験式は、実プラントでの運用データから導出されるものである。
図6に示すように、実プラントの運用データからはアルミ注入率A[mg/l]と薬剤(アルミニウム塩)により除去されるフッ素量F[mg/l](排水のフッ素濃度C
0[mg/l]と処理水のフッ素濃度C
1[mg/l]との差に等しい、(数1)を参照)とは正の相関がある。
図6のデータから処理水のフッ素濃度C
1[mg/l]を所定の範囲に限定して対数表示したものが
図7であり、この例では(数6)の相関式は、a=7.8、n=1.3で与えられる。
【0040】
実施例2において、
図3に示した排水フッ素濃度C
0[mg/l]の変動が生じた場合の処理水フッ素濃度C
1[mg/l]の変動のシミュレーション結果を
図8に示す。実施例2では(数6)に基づき初期制御値を定め、以後は目標処理水濃度とのずれからアルミ注入率Aを修正する。
図8では、目標処理水濃度を5[mg/l]とし、制御方法も単純なP制御としたものである。この例では平均処理水濃度は5.2[mg/l]、最大値は13.9[mg/l]となっている。フィードバック制御の場合、排水フッ素濃度の変動に対する制御遅延を抑制するため、制御遅延量を短くすることにより、変動幅を小さくすることが期待できる。また、今回はP制御を適用したが、PI制御、PID制御を適用したフィードバック制御を行ってもよい。ただし、排水フッ素濃度C
0[mg/l]の変動が処理水フッ素濃度C
1[mg/l]に反映されるまでの遅延時間は避けられないため、制御遅延に起因する処理水フッ素濃度C
1[mg/l]の変動はフィードバック制御において本質的なものである。
【0041】
そこで、本実施例では処理水フッ素濃度C
1の履歴に応じて処理水フッ素濃度の目標値を変化させる。さらに、ずれ幅に対する出力感度を高める(すなわち、所定のずれ幅に対して増加または減少させるアルミニウム塩の量を大きくする)ようにしてもよい。
図9の例では、処理水フッ素濃度の目標値を8[mg/l]とし、処理水フッ素濃度C
1が50%〜200%(4〜16[mg/l])の範囲(不感帯)を超えた場合には、目標値および出力感度を変更したものである。このとき、平均処理水濃度は5.9[mg/l]、最大値は14.8[mg/l]となった。
【0042】
図10はシミュレーション結果をまとめたものである。Case1、2は補正なしのものであり、目標値の設定のみが異なる。目標値を6[mg/l]に設定した場合は、最大値が日本の海域への排水基準15[mg/l]を超えている。このように、フィードバック制御を行うにあたり、処理水フッ素濃度の履歴に応じて、目標値及び出力感度の補正を行うことにより、最大値の上昇を抑制しながら、平均処理水濃度を上昇させることが可能になっている。これにより、処理水基準を満足させるために過剰に投入されるアルミ量が低減されていることが分かる。
【0043】
図1に示した制御プログラムと実施例2での処理との対応関係について説明する。アルミ注入率演算部208は、フッ素処理槽の初期投入量算出式(数6)によりアルミニウム塩の初期投入量を算出するとともに、以降は処理水のフッ素濃度と目標フッ素濃度とのずれ量に基づきアルミ注入率を算出する。フィードバック制御方式としては、P制御、PI制御、PID制御のいずれであってもよい。薬剤投入量算出部210は、算出したアルミ注入率Aに基づき、排水に投入するアルミニウム塩の投入量を算出する。アルミ注入率補正部209は、処理水のフッ素濃度の履歴に基づき処理水の目標フッ素濃度の値を変化させる。さらに、処理水のフッ素濃度の履歴に基づき、処理水のフッ素濃度と目標フッ素濃度とのずれ量に対する出力感度を高めるようにしてもよい。