(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の各工程がこの順で繰り返される燃焼室を有するエンジン本体と、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段と、上記排気行程で上記燃焼室内から排出された排気を、該燃焼室内に還流させる排気還流手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの燃焼制御方法であって、
少なくとも上記圧縮行程において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成工程と、
上記非平衡プラズマ生成工程の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第2パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成工程と、を含み、
上記非平衡プラズマ生成工程において、上記第1パルス電圧の印加開始時期及び印加終了時期は、上記燃焼室内の混合気におけるガスと燃料との比であるG/F、及び上記燃焼室内の全ガス量に対する該ガス中の排気の量の比であるEGR率の少なくとも一方に基づいて算出される一方、上記第1パルス電圧のピーク電圧は、上記圧縮行程における筒内圧に基づいて設定されることを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、エンジンのリーン燃焼時のように、燃焼のきっかけとなる火炎核が形成されにくく、また、火炎伝播しづらいような運転状態では、エンジンの燃焼安定性が低下することがある。これに対して、本発明者らが鋭意研究したところ、プラズマ生成手段の電極間に、燃焼室内に非平衡プラズマが生じるように電圧を印加して放電させると、燃焼室内での燃料の燃焼を促進する物質が生成され、エンジンの燃焼安定性が向上することが分かった。
【0006】
特許文献1に記載のものでは、非平衡プラズマを生じさせてはいるものの、燃焼室内での燃料の燃焼に利用することが全く開示されていない。このため、非平衡プラズマを利用して、エンジンの燃焼安定性を向上させるという観点からは改良の余地がある。
【0007】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、非平衡プラズマを適切に利用して、エンジンの燃焼安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、ここに開示された技術では、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の各工程がこの順で繰り返される燃焼室を有するエンジン本体と、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段と
、上記排気行程で上記燃焼室内から排出された排気を、該燃焼室内に還流させる排気還流手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの燃焼制御方法を対象にして、少なくとも上記圧縮行程において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成工程と、上記非平衡プラズマ生成工程の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第2パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成工程と、を含
み、上記非平衡プラズマ生成工程において、上記第1パルス電圧の印加開始時期及び印加終了時期は、上記燃焼室内の混合気におけるガスと燃料との比であるG/F、及び上記燃焼室内の全ガス量に対する該ガス中の排気の量の比であるEGR率の少なくとも一方に基づいて算出される一方、上記第1パルス電圧のピーク電圧は、上記圧縮行程における筒内圧に基づいて設定される、ものとした。
【0009】
この構成によると、少なくとも圧縮行程において非平衡プラズマを生じさせることで、燃焼室内に燃料の燃焼を促進する物質(以下、活性種という)が生成される。これにより、熱平衡プラズマを生じさせたときに、火炎核が形成されやすくなる。また、上記活性種が燃焼室内に拡散していれば、上記火炎核から火炎が伝播しやすくなる。これにより、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【0010】
上記エンジンの燃焼制御方法の一実施形態では、上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上かつ該第1所定値よりも大きい第2所定値未満のパルス電圧であり、上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第2所定値以上のパルス電圧である。
【0011】
すなわち、一般に、非平衡プラズマと熱平衡プラズマとは、プラズマ生成手段の電極間に印加するパルス電圧のパルス幅を制御することにより、それぞれ切り分けて生成することができる。よって、上記の構成により、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマを、目的に合わせて効率的に生成することができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより向上させることができる。
【0012】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記非平衡プラズマ生成工程は、
上記G/Fが16以上となる運転状態であるときに実行する工程であってもよい。
【0013】
すなわち、G/Fが16以上となる運転状態では、リーンな状態であるため、エンジンの燃焼安定性が低下しやすい。このため、G/Fが16以上の運転状態において非平衡プラズマ生成工程を実行することによって、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果を適切に発揮することができる。
【0014】
上記エンジンの燃焼制御方法において、
上記非平衡プラズマ生成工程は、
上記EGR率が20%以上となる運転状態であるときに実行する工程であってもよい。
【0015】
すなわち、EGR率が20%以上となる運転状態では、燃焼室内の酸素濃度がかなり低いため、エンジンの燃焼安定性が低下しやすい。このため、EGR率が20%以上となる運転状態において非平衡プラズマ生成工程と熱平衡プラズマ生成工程とを実行することによって、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果をより適切に発揮することができる。
【0016】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記非平衡プラズマ生成工程を実行する期間は、上記熱平衡プラズマ生成工程を実行する期間よりも長くてもよい。
【0017】
この構成によると、非平衡プラズマ生成工程において、燃焼室内に出来る限り多くの上記活性種を生成することができるため、熱平衡プラズマ生成工程を実行した際の混合気の燃焼がスムーズに進行する。よって、エンジンの燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0018】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記非平衡プラズマ生成工程は、少なくとも、上記圧縮行程後期でかつ上記燃料供給手段による燃料の供給後に実行する工程であり、上記非平衡プラズマ生成工程を実行する期間の長さは、上記圧縮行程が実行される期間の1/4以上の長さであってもよい。
【0019】
この構成によると、圧縮行程プラズマ生成手段の電極周辺に、燃料と吸気との混合気が存在するようになり、非平衡プラズマ生成工程で生成される上記活性種によって、プラズマ生成手段の電極周辺において、局所的な低温酸化反応が発生する。これにより、プラズマ生成手段の電極周辺の温度が高くなるため、熱平衡プラズマ生成工程により熱平衡プラズマを生成した際に、火炎核が形成されやすくなる。この結果、エンジンの燃焼安定性がより一層向上される。
【0020】
本開示に係る技術の別の態様は、上記エンジンの燃焼制御装置に係る技術である。具体的には、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の各工程がこの順で繰り返される燃焼室を有するエンジン本体と、上記燃焼室内に燃料を供給する燃料供給手段と
、上記排気行程で上記燃焼室内から排出された排気を、該燃焼室内に還流させる排気還流手段とを備え、上記燃料供給手段により供給された燃料によって形成される混合気を上記燃焼室内で燃焼させるエンジンの燃焼制御装置を対象として、上記燃焼室内に臨むように配置され、電極間に電圧を印加することによる放電により上記燃焼室内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記プラズマ生成手段及び上記燃料供給手段の作動を制御する制御手段とを更に備え、上記制御手段は、少なくとも上記圧縮行程において、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第1パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成制御を実行するとともに、上記非平衡プラズマ生成制御の終了直後に、上記プラズマ生成手段の上記電極間に、第2パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御とを実行するように構成されて
おり、上記非平衡プラズマ生成制御において、上記第1パルス電圧の印加開始時期及び印加終了時期は、上記燃焼室内の混合気におけるガスと燃料との比であるG/F、及び上記燃焼室内の全ガス量に対する該ガス中の排気の量の比であるEGR率の少なくとも一方に基づいて算出される一方、上記第1パルス電圧のピーク電圧は、上記圧縮行程における筒内圧に基づいて設定される、ものとした。
【0021】
この構成でも、燃焼室内に上記活性種が生成されるため、熱平衡プラズマを生じさせたときに、火炎核が形成されやすくなる。また、上記活性種が燃焼室内に拡散していれば、上記火炎核から火炎が伝播しやすくなる。これにより、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【0022】
上記エンジンの燃焼制御装置の一実施形態では、上記第1パルス電圧は、パルス幅が第1所定値以上かつ該第1所定値よりも大きい第2所定値未満のパルス電圧であり、上記第2パルス電圧は、パルス幅が上記第2所定値以上となるようなパルス電圧である。
【0023】
この構成によると、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマを、目的に合わせて効率的に生成することができる。この結果、エンジンの燃焼安定性をより向上させることができる。
【0024】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記制御手段は、上記エンジンの運転状態が、
上記G/Fが16以上となる運転状態であるときに、上記非平衡プラズマ生成制御を実行させるように構成されていてもよい。
【0025】
すなわち、G/Fが16以上となる運転状態ではエンジンの燃焼安定性が低下しやすいため、上記の構成によると、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果を適切に発揮することができる。
【0026】
上記エンジンの燃焼制御装置において、
上記制御手段は、上記エンジンの運転状態が、
上記EGR率が20%以上となる運転状態であるときに、上記非平衡プラズマ生成制御を実行させるように構成されていてもよい。
【0027】
すなわち、EGR率が20%以上となる運転状態では、エンジンの燃焼安定性が低下しやすいため、上記の構成によると、エンジンの燃焼安定性を向上させるという効果をより適切に発揮することができる。
【0028】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記制御手段は、上記非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する期間よりも長くするように構成されていてもよい。
【0029】
この構成によると、非平衡プラズマ生成制御により、燃焼室内に出来る限り多くの上記活性種を生成することができるため、熱平衡プラズマ生成制御を実行した際の混合気の燃焼がスムーズに進行する。よって、エンジンの燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0030】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記制御手段は、上記非平衡プラズマ生成制御を、少なくとも、上記圧縮行程後期でかつ上記燃料供給手段による燃料の供給後に実行させるとともに、該非平衡プラズマ生成制御を実行する期間の長さを、上記圧縮行程が実行される期間の1/4以上の長さにするように構成されていてもよい。
【0031】
この構成によると、非平衡プラズマ生成制御で生成される上記活性種によって、プラズマ生成手段の電極周辺において、局所的な低温酸化反応が発生する。これにより、プラズマ生成手段の電極周辺の温度が高くなるため、熱平衡プラズマ生成制御により熱平衡プラズマを生成した際に、火炎核が形成されやすくなる。この結果、エンジンの燃焼安定性がより一層向上される。
【0032】
上記エンジンの燃焼制御方法において、上記非平衡プラズマ生成工程において、上記G/Fが20以上、及びEGR率が30%以上の少なくとも一方を満たす運転状態のときには、上記第1パルス電圧は、上記吸気行程中に印加が開始されかつ上記圧縮行程後期に印加が終了される一方、上記G/Fが20以上、及びEGR率が30%以上の両方を満たさず、かつ、上記G/Fが16以上かつ20未満、及びEGR率が20%以上かつ30%未満の少なくとも一方を満たす運転状態のときには、上記第1パルス電圧は、上記圧縮行程前期に印加が開始されかつ上記圧縮行程後期に印加が終了される、という構成でもよい。
【0033】
上記エンジンの燃焼制御装置において、上記非平衡プラズマ生成制御において、上記G/Fが20以上、及びEGR率が30%以上の少なくとも一方を満たす運転状態のときには、上記第1パルス電圧は、上記吸気行程中に印加が開始されかつ上記圧縮行程後期に印加が終了される一方、上記G/Fが20以上、及びEGR率が30%以上の両方を満たさず、かつ、上記G/Fが16以上かつ20未満、及びEGR率が20%以上かつ30%未満の少なくとも一方を満たす運転状態のときには、上記第1パルス電圧は、上記圧縮行程前期に印加が開始されかつ上記圧縮行程後期に印加が終了される、という構成でもよい。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、少なくとも圧縮行程において、非平衡プラズマを生成することで、燃焼室内に燃料の燃焼を促進する物質を生成することができる。そして、その後に、熱平衡プラズマを生成することで、上記物質を利用して火炎核を容易に形成することができる。この結果、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
図1には、本実施形態に係る燃焼制御装置が適用されたエンジン1の構成を示す。本実施形態のエンジン1は車両の搭載されるエンジンである。このエンジン1は、エンジン本体1aと、エンジン本体1aに燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1aで生成された排気を排出するための排気通路30とを備える。
【0038】
エンジン本体1aは、直列4気筒式であって、4つの気筒2が
図1の紙面と直交する方向に直列に配置されている。エンジン本体1aは上記車両の駆動源として利用される。
【0039】
エンジン本体1aは、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動(ここでは上下動)可能に嵌装されたピストン5とを有する。
【0040】
気筒2は燃焼室6が形成された気筒である。詳しくは、気筒2内におけるピストン5の上方に燃焼室6が形成されている。燃焼室6はいわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される燃焼室6の天井面は吸気側および排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。この燃焼室6内では、エンジン1の燃焼サイクル、すなわち、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の各行程がこの順で繰り返される。以下の説明では、ピストン5の位置や混合気の燃焼状態によらず気筒2の内側空間のうちピストン5の上面と燃焼室6の天井面との間に形成される空間を燃焼室6という。
【0041】
シリンダブロック3における気筒2の周囲には、エンジン冷却水が流通するウォータジャケット3aが形成されている。ウォータジャケット3aは、4つの気筒2を囲むように、シリンダブロック3内に形成されている。
【0042】
ピストン5は、シリンダブロック3内においてコンロッド8を介してクランクシャフト7と連結されている。クランクシャフト7は、ピストン5の往復動により回転駆動される。ピストン5の上面には、その中心部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹ませたキャビティが形成されている。
【0043】
エンジン本体1aの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、本実施形態1では、15〜25(例えば17程度)に設定されている。
【0044】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6内で、燃料と空気との混合気が燃焼することにより生成された排気を排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。これら吸気ポート9と排気ポート10とは、気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。
【0045】
シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の燃焼室6側の開口をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
【0046】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内に燃料を供給(噴射)するインジェクタ(燃料供給手段)14が設けられている。インジェクタ14は、噴射口が形成された先端部が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。インジェクタ14は、その先端に複数の噴口を有し、燃焼室の天井面の中央付近からピストン5の冠面に向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射するように構成されている。コーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°〜100°である。なお、インジェクタ14の具体的な構成はこれに限らず、単噴口のものであってもよい。
【0047】
インジェクタ14は、不図示の高圧ポンプから圧送された燃料を燃焼室6内に噴射する。インジェクタ14の噴射圧は、最大で70MPa程度まで高められる。
【0048】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内に臨むように配設されかつ該燃焼室6内にプラズマを生成するための放電プラグ13が設けられている。
図2に示すように、放電プラグ13の先端には中心電極13aと接地電極13bとが形成されている。中心電極13aは、棒状をなしていて、先端を除く部分は碍子13cによって覆われている。接地電極13bは中心電極13aと同心の円筒状をなしている。中心電極13aは電源(図示省略)に接続されており、該電源から電圧が印加されると、中心電極13aと接地電極13bとの間で放電するようになっている。そして、中心電極13aと接地電極13bとの間で放電したときには、放電のエネルギーにより、燃焼室6内にプラズマが生成される。このことから、放電プラグ13は、電極13a,13b間に電圧を印加することによる放電により燃焼室6内にプラズマを生成するプラズマ生成手段に相当する。
【0049】
上記吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21と、吸気通路20を開閉するためのスロットルバルブ22とが設けられている。本実施形態では、エンジン1の運転中、スロットルバルブ22は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジン1の停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
【0050】
上記排気通路30には、排気を浄化するための浄化装置31が設けられている。浄化装置31は、例えば、三元触媒を内蔵している。
【0051】
排気通路30には、排気通路30を通過する排気の一部をEGRガスとして吸気通路20に還流するためのEGR装置40が設けられている。EGR装置40は、吸気通路20のうちスロットルバルブ22よりも下流側の部分と排気通路30のうち浄化装置31よりも上流側の部分とを連通するEGR通路41、および、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42を有する。
【0052】
尚、本実施形態に係るエンジン1は、過給機を備えていない。但し、本開示に係る技術は、過給機を備えたエンジンに適用することを排除しない。
【0053】
図3は、エンジン1の制御系統を示す。本実施形態に係るエンジン1は、制御装置としてのパワートレイン・コントロール・モジュール100(以下、PCM100という)によって統括的に制御される。PCM100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
【0054】
車両には各種センサが設けられている。PCM100はこれらセンサと電気的に接続されており、PCM100には、各センサからの検出信号が入力される。例えば、エンジン1には、エンジン本体1aの温度を検出するエンジン温度センサSN1と、吸気通路20に流入する吸気流量を検出するエアフローセンサSN2と、燃焼室6に供給される吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN3と、クランクシャフト7の回転角度を検出するクランク角センサSN4と、運転者により操作される不図示のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN5と、各気筒2にそれぞれ1つずつ設けられ、各気筒2内の圧力をそれぞれ検出する筒内圧センサSN6が設けられている。
【0055】
エンジン温度センサSN1は、例えば、ウォータジャケット3aを流通するエンジン冷却水の温度を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出する。尚、エンジン温度センサSN1は、排気温度を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出するセンサであってもよく、エンジンオイルの油温を検出することで、エンジン本体1aの温度を検出するセンサであってもよい。
【0056】
PCM100は、クランク角センサSN4の検出結果からエンジン本体1aの回転数(エンジン回転数)を算出する。PCM100は、アクセル開度センサSN5の検出結果からエンジン負荷を算出する。PCM100は、筒内圧センサSN6の検出結果から、燃焼室6内の熱発生率を算出する。
【0057】
PCM100は、これらセンサSN1〜SN6等からの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、放電プラグ13、インジェクタ14、スロットルバルブ22、EGRバルブ42等のエンジン1の各部を制御する。
【0058】
〈燃焼制御〉
以下、
図4〜9を参照しながら、本実施形態における燃焼制御について説明する。
【0059】
本実施形態では、PCM100は、エンジン1の運転状態及び燃焼室6内の状態に応じて、燃焼形態を異ならせるように、放電プラグ13等を制御している。
図4及び
図5には、PCM100による燃焼制御の一例をそれぞれ示す。
図4及び
図5には、圧縮上死点のクランク角を0°としており、これに対して進角側(圧縮上死点よりも早い時期)をマイナスで表し、遅角側(圧縮上死点よりも遅い時期)をプラスで表している。吸気行程は−360°〜−180°の期間であり、圧縮行程は、−180°〜0°の期間である。
【0060】
図4は、エンジン1の燃焼安定性が低下するおそれが低いときの燃焼制御であって、例えば、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるときの燃焼制御の一例である。
図4に示すように、例えば、エンジン1が高負荷領域にあるときには、PCM100は、吸気行程中に燃焼室6内にインジェクタ14により燃料を噴射させた後、圧縮行程における圧縮上死点の直前に、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に熱平衡プラズマが生じるようなパルス電圧を印加して、電極13a,13b間で放電させて、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行する。尚、熱平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴い、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にあるようなプラズマのことをいう。
【0061】
エンジン1が高負荷領域にあるときには、燃焼室6内の混合気におけるガスと燃料との質量比であるG/Fが、理論空燃比である14.7付近か該理論空燃比よりも小さくなる程度に燃料が噴射される。また、多くの量の燃料を燃焼室6内で燃焼させるために、出来る限り多くの新気が燃焼室6内に導入される。このため、エンジン1が高負荷領域にあるときには、EGRガスはあまり供給されず、燃焼室6内の全ガス量に対する該ガス中のEGRガス(排気)の量の比であるEGR率が小さい。これらのことから、エンジン1が高負荷領域にあるときには、燃焼室6内の混合気が着火しやすい。このため、
図4に示すように、圧縮行程における圧縮上死点の直前に熱平衡プラズマを発生させるだけでも、放電プラグ13の電極13a,13bの周りに火炎核を形成することができ、燃焼室6内の混合気に着火させることができる。
【0062】
一方で、
図5は、エンジン1の燃焼安定性が低下するおそれが高いときの燃焼制御であって、例えば、エンジン負荷が上記所定負荷未満の低負荷である時の燃焼制御の一例である。
図5に示すように、例えば、エンジン1が低負荷領域にあるときには、PCM100は、吸気行程中に燃焼室6内にインジェクタ14により燃料を噴射させた後、圧縮行程において、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に非平衡プラズマが生じるようなパルス電圧を印加して、電極13a,13b間で放電させて、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成制御を実行する。そして、PCM100は、非平衡プラズマ生成制御の終了直後に、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する。尚、非平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴わず、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にないプラズマのことをいう。
【0063】
エンジン1が低負荷領域にあるときには、燃料の供給量が少ないことに加えて、EGRガスが多く導入されるため、G/Fが大きくなりやすい。また、G/F自体は、ある程度小さくても、EGR率が高くなりやすい。これらのことから、エンジン1が低負荷領域にあるときには、上記熱平衡プラズマ生成制御だけでは、燃焼室6内の混合気が着火しにくく、エンジン1の燃焼安定性が低下してしまうおそれがある。
【0064】
このため、本実施形態では、PCM100は、エンジン1の燃焼安定性が低下するおそれが高い運転状態において、非平衡プラズマ生成制御を実行する。非平衡プラズマを生成することにより、燃焼室6内に燃料の燃焼を促進する物質(例えば、オゾン(O3)やOH。以下、活性種という)が生成される。上記活性種が生成されれば、
図5に示すように、放電プラグ13の電極13a,13bの周囲において、局所的な低温酸化反応が発生する。低温酸化反応が発生することで、電極13a,13b周りの温度が上昇して、火炎核が形成されやすい状態になる。これにより、上記非平衡プラズマ生成制御の終了直後に、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行することで、
図5に示すように、電極13a,13bの周囲に火炎核が形成される。そして、火炎核が形成された後は、
図5に示すように、火炎が伝播して混合気に着火する。これにより、エンジン1の燃焼安定性が低下するおそれが高い運転状態であっても、該エンジン1の燃焼安定性を向上させることができる。尚、「非平衡プラズマ生成制御の終了直後」とは、終了と同時を含み、上記非平衡プラズマ生成制御の終了直後、クランク角度で10°以内の期間のことをいう。
【0065】
非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマは、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加するパルス電圧を制御することにより、特に、パルス電圧のパルス幅を制御することにより、目的に合わせて、それぞれ生成することができる。
図6〜
図8は、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマの生成条件を示す。
図6の横軸は、パルス幅であり、対数スケールで示している。一方、
図6の縦軸は印加電圧のピーク値であり、対数スケールで示している。
図6に示すように、パルス幅を短くすると非平衡プラズマが生成され、パルス幅を長くすると熱平衡プラズマが生成されることが分かる。イオンや分子は電子と比較するとかなり大きいため、パルス幅の短いパルス電圧では、電子のみが反応して、イオンや分子はほとんど反応しないためである。
【0066】
本実施形態では、主にパルス幅を変更することにより、非平衡プラズマと熱平衡プラズマとを、目的に合わせて、それぞれ生成するようにしている。具体的には、
図7に示すように、PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御においては、ピーク電圧が10kV、パルス幅が第1所定値以上かつ該第1所定値よりも大きい第2所定値未満の第1パルス電圧を、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させる。また、PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御において、上記のパルス電圧を100kHzの周波数で繰り返し放電させる。
図6及び
図7に示すように、第1所定値は、例えば、0.01μsecであり、第2所定値は、例えば、1μsecである。より具体的には、PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御において、基本的には、ピーク電圧が10kV、パルス幅が0.1μsecの第1パルス電圧を放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させるようにしている。
【0067】
一方で、
図8に示すように、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御においては、ピーク電圧が10kV、パルス幅が上記第2所定値以上かつ第3所定値未満の第2パルス電圧を、放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させる。また、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御において、パルス幅が10μsec以下のパルス電圧については、100kHzの周波数で、パルス幅が10μsecを超えるパルス電圧については、出来る限り大きな周波数で繰り返し放電させる。
図6及び
図7に示すように、第3所定値は、例えば、5msecである。より具体的には、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御において、基本的には、ピーク電圧が10kV、パルス幅が1μsecの第2パルス電圧を放電プラグ13の電極13a,13b間に印加させるようにしている。尚、放電プラグ13の寿命を長くするという観点からは、第2パルス電圧のパルス幅は出来る限り短くすることが好ましい。
【0068】
尚、上記非平衡プラズマ生成制御の第1パルス電圧及び上記熱平衡プラズマ生成制御の第2パルス電圧におけるピーク電圧は、1kV以上かつ30kV以下の範囲で、筒内圧等に基づいて変更してもよい。すなわち、例えば、筒内圧が高いときには、電極13a,13b周辺に、ガスのイオンや分子が大量に存在し、電子の動きが制限される結果、非平衡プラズマ及び熱平衡プラズマが生成されにくいため、ピーク電圧を10kVよりも高くしてもよい。
【0069】
本実施形態では、エンジン負荷が低負荷である運転状態の中でも、特に、エンジン1の燃焼安定性が低下しやすい運転状態、すなわち、G/Fが大きかったり、EGR率が高かったりするような運転状態において、上述した非平衡プラズマ生成制御を実行するようにしている。具体的には、G/Fが16以上、及び、EGR率が20%以上の少なくとも一方を満たすような運転状態において、非平衡プラズマ生成制御を実行する。より詳しくは、G/F及びEGR率の大きさに基づいて、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び継続期間を変更するようにしている。
【0070】
図9には、PCM100による、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び継続期間、並びに、上記熱平衡プラズマ生成制御の開始時期を示す。
図9では、
図4及び
図5と同様に、
図9(a),(b)共に、圧縮上死点のクランク角を0°としており、これに対して進角側(圧縮上死点よりも早い時期)をマイナスで表し、遅角側(圧縮上死点よりも遅い時期)をプラスで表している。吸気行程は−360°〜−180°の期間であり、圧縮行程は、−180°〜0°の期間である。
【0071】
図9の(a)は、G/Fが20以上、及び、EGR率が30%以上の少なくとも一方の条件を満たす運転状態(以下、第1運転状態という)における、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び継続期間、並びに、上記熱平衡プラズマ生成制御の開始時期を示す。上記第1運転状態では、エンジン1の燃焼安定性が低下する可能性がかなり高い。そのため、PCM100は、出来る限り長い期間の間、上記非平衡プラズマ生成制御を実行して、燃焼室6内に出来る限り多くの上記活性種を生成する。具体的には、
図9(a)に示すように、PCM100は、吸気行程中(クランク角度で−360°〜−180°)に上記非平衡プラズマ生成制御(放電プラグ13による第1パルス電圧での放電)を開始する。PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御の開始から、少なくとも、圧縮行程における−45°までの期間に亘って、上記非平衡プラズマ生成制御を継続させる。そして、PCM100は、−45°〜5°の間に上記非平衡プラズマ生成制御を終了し、その終了直後に、上記熱平衡プラズマ生成制御(放電プラグ13による第2パルス電圧での放電)を開始する。PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御を燃焼室6内での燃焼が確認されるまで継続する。PCM100は、燃焼室6内で燃焼が開始したか否かを、筒内圧センサSN6の検出結果により判断する。詳しくは、筒内圧センサSN6の検出結果が所定圧力以上になったときに、燃焼室6内で燃焼が開始したと判断する。
【0072】
上記第1運転状態においては、吸気行程中に上記非平衡プラズマ生成制御を開始しているが、その開始時期は、インジェクタ14による燃料噴射開始前であってもよく、インジェクタ14による燃料噴射開始後であってもよい。また、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び終了時期は、G/Fの値やEGR率によって変更してもよい。例えば、G/Fが大きい程又はEGR率が高い程、早い時期(進角側の時期)から非平衡プラズマ生成制御を開始し、遅い時期(遅角側の時期)に上記非平衡プラズマ生成制御を終了するようにしてもよい。
【0073】
一方、
図9の(b)は、G/Fが20以上、及び、EGR率が30%以上の両方の条件を満たさず、かつ、G/Fが16以上かつ20未満、及び、EGR率が20%以上かつ30%未満の少なくとも一方の条件を満たす運転状態(以下、第2運転状態という)における、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び継続期間、並びに、上記熱平衡プラズマ生成制御の開始時期を示す。上記第2運転状態では、上記第1運転状態と比較すると、エンジン1の燃焼安定性が低下する可能性は低くなる。そのため、PCM100は、上記第1運転状態のときと比較して、上記非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を短くする。具体的には、
図9(b)に示すように、PCM100は、圧縮行程の前半(クランク角度で−180°〜−90°)に非平衡プラズマの生成(放電プラグ13による第1パルス電圧での放電)を開始する。PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御の開始から、少なくとも、圧縮行程における−45°までの期間に亘って、上記非平衡プラズマ生成制御を継続する。そして、PCM100は、−45°〜5°の間に非平衡プラズマの生成を終了し、その終了直後に、上記熱平衡プラズマ生成制御を開始する。PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御を燃焼室6内での燃焼が確認されるまで継続する。PCM100は、燃焼室6内で燃焼が開始したか否かを、上記第1運転状態のときと同様に、筒内圧センサSN6の検出結果により判断する。
【0074】
上記第2運転状態における上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び終了時期は、上記第1運転状態のときと同様に、G/Fの値やEGR率によって変更してもよい。例えば、G/Fが大きい程又はEGR率が高い程、早い時期(進角側の時期)から上記非平衡プラズマ生成制御を開始し、遅い時期(遅角側の時期)に上記非平衡プラズマ生成制御を終了するようにしてもよい。
【0075】
以上のように、本実施形態では、G/F及びEGR率の大きさに基づいて、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び継続期間を変更する。一方で、上述したように、本実施形態では、PCM100は、上記第1及び第2運転状態のいずれのときでも、少なくとも圧縮行程では上記非平衡プラズマ生成制御を実行する。特に、PCM100は、少なくとも、圧縮行程後期でかつインジェクタ14による燃料の供給後に実行する。すなわち、圧縮行程後期でかつインジェクタ14による燃料の供給後であれば、放電プラグ13の電極13a,13b周辺に、燃料と吸気との混合気が存在するようになる。このため、上記非平衡プラズマ生成制御で生成される上記活性種による、電極13a,13b周囲の局所的な低温酸化反応が発生しやすい。したがって、熱平衡プラズマ生成制御により、電極13a,13b周りに火炎核が発生しやすくなり、エンジン1の燃焼安定性がより一層向上される。尚、圧縮行程後期とは、圧縮行程における実施期間(クランク角度での期間)を均等に2分割したときの後半の期間(遅角側の期間)に相当する。
【0076】
また、本実施形態では、PCM100は、非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する期間よりも長くする。特に、PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御を実行する期間を、圧縮行程が実行される期間の1/4以上の長さ(つまり、クランク角で45°以上の長さ)にする。これにより、上記非平衡プラズマ生成制御において、燃焼室6内に出来る限り多くの上記活性種を生成することができる。また、生成された上記活性種の一部が燃焼室6内に拡散することで、上記火炎核から火炎が伝播しやすくなるため、燃焼室6内での混合気の燃焼がスムーズに進行する。この結果、エンジン1の燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0077】
次に、上記非平衡プラズマ生成制御及び上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する際のPCM100の処理動作について、
図10のフローチャートを参照しながら説明する。このフローチャートに基づく処理動作は、エンジン1が作動している間は1燃焼サイクル毎に実行される。
【0078】
まず、ステップS1において、PCM100は、各センサSN1〜SN6からの情報を読み込む。
【0079】
次のステップS2では、PCM100は、エンジン負荷が所定負荷未満であるか否かを判定する。PCM100は、エンジン負荷が所定負荷未満の低負荷であるYESのときには、ステップS3に進む一方で、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷であるNOのときには、リターンする。
【0080】
上記ステップS3では、PCM100は、G/Fが16以上であるか否かを判定する。G/Fが16以上であるYESのときには、ステップS5に進む一方で、G/Fが16未満であるNOのときには、ステップS4に進む。
【0081】
上記ステップS4では、PCM100は、EGR率が20%以上であるか否かを判定する。EGR率が20%以上であるYESのときには、ステップS5に進む一方で、EGR率が20%未満であるNOのときには、リターンする。
【0082】
上記ステップS5では、PCM100は、上記非平衡プラズマ生成制御を実行すべく、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び終了時期を算出する。このステップS5において、PCM100は、G/F及びEGR率に基づいて、上記非平衡プラズマ生成制御の開始時期及び終了時期を算出する。また、このステップS5において、PCM100は、筒内圧等に基づいて、第1パルス電圧のピーク電圧及びパルス幅を決定する。さらに、このステップS5において、PCM100は、筒内圧等に基づいて、第2パルス電圧のピーク電圧及びパルス幅を決定する。
【0083】
次のステップS6では、PCM100は、上記ステップS5で設定した開始時期になった時に、上記非平衡プラズマ生成制御を開始する。このステップS6において、PCM100は、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に非平衡プラズマを生じさせるような第1パルス電圧を印加させる。
【0084】
続くステップS7では、PCM100は、上記ステップS5で設定した終了時期になったか否かを判定する。PCM100は、上記終了時期になったYESのときには、ステップS8に進む一方で、未だ上記終了時期になっていないNOのときには、終了時期になるまで、上記非平衡プラズマ生成制御を継続させ、放電プラグ13の電極13a,13b間に上記第1パルス電圧を繰り返し印加させる。
【0085】
上記ステップS8では、上記非平衡プラズマ生成制御を終了する。
【0086】
次のステップS9では、PCM100は、上記ステップS8での上記非平衡プラズマ生成制御の終了直後、具体的には、上記非平衡プラズマ生成制御の終了後、クランク角で10°以内の期間に、上記熱平衡プラズマ生成制御を開始する。このステップS9において、PCM100は、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に熱平衡プラズマを生じさせるような第2パルス電圧を印加させる。
【0087】
次のステップS10では、PCM100は、燃焼室6内での混合気の燃焼が開始したか否かを判定する。このステップS10において、PCM100は、筒内圧センサSN6の検出結果が上記所定圧力以上であるか否かに基づいて、燃焼室6内での混合気の燃焼が開始したか否かを判定する。PCM100は、燃焼室6内での混合気の燃焼が開始したYESのときには、ステップS11に進む一方、燃焼室6内での混合気の燃焼が未だ開始していないNOのときには、上記熱平衡プラズマ生成制御を継続させ、放電プラグ13の電極13a,13b間に上記第2パルス電圧を繰り返し印加させる。
【0088】
上記ステップS11では、PCM100は、上記熱平衡プラズマ生成制御を終了する。ステップS11の後はリターンする。
【0089】
以上のようにして、エンジン1の燃焼安定性が低下するおそれのある運転状態において、上記非平衡プラズマ生成制御を実行することにより、燃焼室6内に上記活性種を生成して、上記熱平衡プラズマ生成制御において、火炎核が形成されやすいようにする。これにより、エンジンの燃焼安定性を向上させることができる。
【0090】
図11は、上記非平衡プラズマ生成制御を実行した場合と実行しなかった場合とで、燃焼室6内での熱発生率の変化を実験により求めた結果を示すグラフである。
図11(a)は上記非平衡プラズマ生成制御を実行した場合の熱発生率の変化を示す一方、
図11(b)は上記非平衡プラズマ生成制御を実行しなかった場合の熱発生率の変化を示す。
図11(a),(b)において、縦軸は熱発生率であり、横軸はクランク角である。
図11(a),(b)共に、圧縮上死点のクランク角を0°としており、これに対して進角側(圧縮上死点よりも早い時期)をマイナスで表し、遅角側(圧縮上死点よりも遅い時期)をプラスで表している。
【0091】
この実験は、G/Fが30になる運転状態での熱発生率であり、上記非平衡プラズマ生成制御の実行の有無に拘わらず、上記熱平衡プラズマ生成制御は、クランク角で−15°の時に実行している。また、この実験では、上記非平衡プラズマ生成制御の終了時期は、クランク角で−15°以前の時期である。
【0092】
図11(b)に示すように、上記非平衡プラズマ生成制御を実行しなかった場合、圧縮上死点近傍においても熱発生率の急上昇しているものがある一方で、圧縮上死点近傍でもほとんど熱発生率の上昇がなく失火したものがあることが分かる。一方で、
図11(a)に示すように、上記非平衡プラズマ生成制御を実行した場合、失火すること無く、圧縮上死点近傍において、熱発生率が急上昇、すなわち、燃焼室6内で混合気が燃焼していることが分かる。このように、G/Fが30とかなりリーンな運転状態においても、上記非平衡プラズマ生成制御を実行することにより、燃焼性が向上することが分かる。
【0093】
また、
図11(a)に示すように、上記非平衡プラズマ生成制御を実行した場合、上記非平衡プラズマ生成制御を実行しない場合と比較して、熱発生率のピーク値のバラツキが少ないことが分かる。このように、上記非平衡プラズマ生成制御を実行することにより、着火性が向上するだけで無く、安定した燃焼状態を確保することができることが分かる。したがって、本実施形態の如く、上記非平衡プラズマ生成制御を実行することにより、エンジン1の燃焼安定性を向上させることができる。
【0094】
したがって、本実施形態では、少なくとも圧縮行程において、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に非平衡プラズマを生じさせるような第1パルス電圧を印加して放電させることで、非平衡プラズマを生成する非平衡プラズマ生成制御を実行し、非平衡プラズマ生成制御の終了直後に、放電プラグ13の電極13a,13b間に、燃焼室6内に熱平衡プラズマを生じさせるような第2パルス電圧を印加して放電させることで、熱平衡プラズマを生成する熱平衡プラズマ生成制御を実行する。この構成により、少なくとも圧縮行程において非平衡プラズマを生じさせることで、燃焼室6内に上記活性種を生成することができ、その後に、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行することで、上記活性種を利用して火炎核を容易に形成することができる。この結果、エンジン1の燃焼安定性を向上させることができる。
【0095】
また、本実施形態では、上記非平衡プラズマ生成制御を実行する期間が、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行する期間よりも長いため、燃焼室6内に出来る限り多くの上記活性種を生成することができる。これにより、上記熱平衡プラズマ生成制御を実行した際の混合気の燃焼がスムーズに進行する。この結果、エンジン1の燃焼安定性を一層向上させることができる。
【0096】
さらに、本実施形態では、上記非平衡プラズマ生成制御は、少なくとも、圧縮行程後期でかつインジェクタ14による燃料の供給後に実行されるとともに、該非平衡プラズマ生成制御を実行する期間の長さは、圧縮行程が実行される期間の1/4以上の長さであるため、放電プラグ13の電極13a,13b周辺に、混合気が存在するようになり、上記非平衡プラズマ生成制御で生成される上記活性種によって、放電プラグ13の電極13a,13b周辺において、局所的な低温酸化反応が発生する。これにより、放電プラグ13の電極13a,13b周辺の温度が高くなるため、上記熱平衡プラズマ生成制御により熱平衡プラズマを生成した際に、火炎核が形成されやすくなる。この結果、エンジンの燃焼安定性がより一層向上される。
【0097】
ここに開示された技術は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0098】
例えば、上述の実施形態では、第1パルス電圧のパルス幅は、第2所定値未満(1μsec未満)としたが、これに限らず、第1パルス電圧のパルス幅を、10μsec未満の範囲で、第2所定値以上にしてもよい。この場合、第1パルス電圧のピーク電圧を、10kV未満(例えば、8kV)にするなどすればよい。
【0099】
また、上述の実施形態では、過給機が設けられていなかったが、過給機を備えるエンジンの場合には、該過給機の過給圧に基づいて、上記非平衡プラズマ生成制御における第1パルス電圧のピーク電圧及び上記熱平衡プラズマ生成制御における第2パルス電圧のピーク電圧を変更するようにしてもよい。より詳しくは、過給圧が高い程、第1及び第2パルス電圧のピーク電圧を高くするようにしてもよい。
【0100】
さらに、上述の実施形態では、エンジン負荷が所定負荷以上の高負荷領域では、上記非平衡プラズマ生成制御を実行しないようにしていたが、これに限らず、エンジン負荷が高負荷であっても、例えば、EGR率が20%以上になるような運転状態では、上記非平衡プラズマ生成制御を実行するようにしてもよい。
【0101】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。