【文献】
2014年版 慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント,2020年,<URL: https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2014_ito_d.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中央部分における前記遠位側の外径が3.0mm以下とされており、且つ、前記バルーンを遠位部分に備えるシャフトの外径が0.5mm以上とされている請求項1又は2に記載のテーパーバルーンカテーテル。
前記バルーンの材質がポリアミドエラストマーであり、前記近位側の最小厚さ寸法が20〜50μmの範囲内に設定されている請求項1〜3の何れか一項に記載のテーパーバルーンカテーテル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、肺動脈は、四肢等の末梢の血管に比して、末梢側へ向けて急激に小径となる特殊な先細形状を有しており、汎用的なバルーンカテーテルでは、バルーンの膨張操作時に滑りが発生しやすく、治療を目的とする位置(狭窄病変)にバルーンを高精度に保持しながらバルーンを膨張させることが難しいことが判った。また、CTEPHによる肺動脈の狭窄病変は、石灰化に起因する狭窄病変とは異なり、主に血栓の器質化に起因することから、バルーンに要求される形状、大きさ、性能なども末梢用のバルーンとは異なる場合が少なくない。これらのように、末梢用の汎用的なバルーンカテーテルでは、特殊な肺動脈の治療に効果的に対処することが難しい場合もあったが、従来では肺動脈の治療にも末梢用のバルーンカテーテルを用いる他なく、困難な手技を余儀なくされる場合もあった。
【0006】
本発明の解決課題は、バルーンを治療対象部位に高精度に位置決めしたまま膨張させることができる等、肺動脈の狭窄病変の治療に適した性能を有する、新規な構造のテーパーバルーンカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
バルーンの膨張操作時の滑りという新たな問題に対処するために、本発明者は、バルーンの外周面形状を肺動脈の内周面形状に精度良く沿わせることも検討したが、単にバルーンの外周面を肺動脈の内周面に対応するテーパー角度のテーパー形状にして沿わせるだけでは、位置決め効果と治療効果の両立を安定して達成することが難しいことが判った。特に、患者の個体差や治療部位の違いなどを考慮すると、安定した効果の達成は一層難しかった。
【0009】
そこで、本発明者が更に検討を進めたところ、バルーンの遠位側が肺動脈の内周面に強く当接することがバルーンの滑りの大きな原因となっており、バルーンの近位側を先に当接させることによって、位置決め効果と治療効果との両立をより安定して実現できるとの新たな知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、第1の態様は、肺動脈の治療に用いられるバルーンを備えたテーパーバルーンカテーテルであって、前記バルーンの長さ方向の中央部分が、遠位側から近位側に向かって外径が次第に大きくなるテーパー形状とされており、該中央部分の長さ寸法が15〜25mmの範囲内に設定されており、該遠位側の外径が1.0〜3.5mmの範囲内に設定されており、該近位側の外径が該遠位側の外径に対して1.2〜1.8倍の範囲内に設定されており、該近位側の厚さ寸法が該遠位側の厚さ寸法よりも小さくされており、且つ、該バルーンの耐圧保証値が16atm以下とされているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされたテーパーバルーンカテーテルによれば、バルーンによる肺動脈の治療に際して、遠位側よりも近位側が優先的に血管壁内面に当接して拡張力を及ぼし得るバルーンの形状を、バルーンの長さや径寸法によって特定した。併せて、バルーンの近位側が遠位側よりも薄肉とされていることにより、バルーン内圧の増圧に際してバルーンの近位側が容易に拡径変形されて、バルーンの近位側が遠位側よりも優先的に血管へ押し付けられる膨張態様が安定して発現され得るようにした。これらにより、バルーンの遠位側よりも近位側が血管に対して優先的に押し付けられるようにできて、バルーンの滑りによる意図しない移動を抑制しつつ、バルーンの膨張による血管拡張の作用が安定して発揮される。
【0012】
また、四肢などに用いられる一般的なバルーンに比して、バルーンの長さを短くすることにより、末梢へ向けて急激に細くなる肺動脈の特定部位に適合する形状を実現しやすくすると共に、バルーンの外周面に対して滑り方向に及ぼされる反力を軽減せしめ得た。それゆえ、バルーンの滑りによる移動がより効果的に抑制され得る。
【0013】
また、バルーンの耐圧保証値が制限されていることにより、薄肉としたバルーンの近位側が過度に拡径されてしまうことが防止され得ると共に、過大な膨張力の作用による滑りも回避されて、有効な血管拡張作用がより安定して発現され得る。血栓の器質化に起因する肺動脈の狭窄病変は、石灰化病変等の高圧拡張が必要な冠動脈の狭窄病変に比して、拡径に必要な力(バルーンの内圧)が小さい場合が多い。それ故、肺動脈の狭窄病変の治療に用いられるテーパーバルーンカテーテルは、バルーンの耐圧保証値が制限されていても、十分な治療効果を期待することができる。なお、バルーンの耐圧保証値は、例えば、テーパーバルーンカテーテルの添付書類などに記載することで、明確に認識可能な構成とすることができる。
【0014】
本発明は、肺動脈の治療に関する特殊な事情を十分に考慮して、テーパーバルーンカテーテルを新規に開発したものであり、肺動脈治療専用のバルーンカテーテルを医療現場に初めて提供することによって、バルーン肺動脈拡張術等の肺動脈への手技の一助となり得る。
【0015】
第2の態様は、第1の態様に記載されたテーパーバルーンカテーテルにおいて、前記中央部分が略一定のテーパー角度とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされたテーパーバルーンカテーテルによれば、バルーンの径寸法が中央部分において長さ方向で略一定の変化率で変化していることにより、バルーンの膨張による狭窄病変の拡張作用を中央部分の全体にわたって有効に発揮させることができる。
【0017】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載されたテーパーバルーンカテーテルにおいて、前記中央部分における前記遠位側の外径が3.0mm以下とされており、且つ、前記バルーンを遠位に備えるシャフトの外径が0.5mm以上とされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされたテーパーバルーンカテーテルによれば、中央部分の遠位側の外径が3.0mm以下とされたバルーンに対して、外径が0.5mm以上とされたシャフトを組み合わせて採用することにより、プッシャビリティに優れたテーパーバルーンカテーテルを実現して、肺動脈の末梢側に位置する狭窄病変に対してバルーンを挿入しやすくなる。
【0019】
第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載されたテーパーバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンの材質がポリアミドエラストマーであり、前記近位側の最小厚さ寸法が20〜50μmの範囲内に設定されているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされたテーパーバルーンカテーテルによれば、ポリアミドエラストマーからなるバルーンは、比較的に低圧で拡張可能な柔らかさを有しており、折り畳まれる等した収縮状態で狭窄病変へ挿入される際の抵抗が小さく、狭窄病変まで容易に挿入することが可能とされて、バルーンの狭窄病変までのデリバリー性能に優れている。ポリアミドエラストマーからなる柔らかいバルーンは、ガイディングカテーテルへの挿入時の抵抗も抑えられており、ガイディングカテーテルへの挿入性にも優れている。また、バルーンの近位側の最小厚さ寸法が20〜50μmの範囲内とされていることにより、近位側を遠位側よりも優先的に膨張させて血管壁の内面に押し当てやすく、バルーンの膨張時にはバルーンの移動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バルーンを治療対象部位に高精度に位置決めしたまま膨張させることができる等、肺動脈の狭窄病変の治療に適した性能を有するテーパーバルーンカテーテルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1には、本発明の第1実施形態としてのテーパーバルーンカテーテル10の遠位端部が示されている。テーパーバルーンカテーテル10は、肺動脈の狭窄病変をバルーンによって拡張して肺動脈の狭窄又は閉塞を治療するバルーン肺動脈拡張術(balloon pulmonary angioplasty;BPA)に用いられる。テーパーバルーンカテーテル10は、シャフト12の遠位にバルーン14が取り付けられた構造を有している。以下の説明において、原則として、近位とは施術時に施術者側となる基端側(
図1中の上側)を、遠位とは施術時に患者側となる先端側(
図1中の下側)を、それぞれ言う。
【0025】
シャフト12は、軟質の樹脂等によって形成されており、血管の湾曲に沿って湾曲変形可能な可撓性を備えている。シャフト12は、オーバーザワイヤ(Over The Wire;OTW)型であってもよいが、本実施形態ではラピッドエクスチェンジ(Rapid Exchange;RX)型とされている。シャフト12は、外シャフト16と内シャフト18を備えている。外シャフト16は、内腔として調圧用ルーメン20を有する中空構造のチューブ状とされている。
【0026】
外シャフト16の内周には、内シャフト18が配されている。内シャフト18は、外シャフト16よりも小径のチューブ状とされており、ガイドワイヤルーメン24を内腔として備えている。内シャフト18は、外シャフト16の遠位部分に設けられており、基端部が外シャフト16の外周面に開口していると共に、先端部分が外シャフト16よりも遠位へ突出している。内シャフト18の遠位端には、先端チップ22が設けられている。先端チップ22は、例えば先細の円筒状とされている。先端チップ22は、好適には、酸化ビスマスやタングステンなどのX線不透過性材料を含む材料で形成されて、X線透視下での視認性が確保される。内シャフト18のガイドワイヤルーメン24は、先端チップ22を貫通して遠位へ向けて開放されている。
【0027】
外シャフト16の遠位部分に設けられた内シャフト18は、外シャフト16よりも遠位へ突出している。内シャフト18における当該突出部分には、X線不透過性の造影マーカー26が長さ方向で相互に離れた二箇所にそれぞれ設けられている。造影マーカー26,26は、後述するバルーン14の中央部分30の両端と対応する位置に配されており、X線透視下においてバルーン14の位置を把握可能とする。
【0028】
また、内シャフト18における外シャフト16からの突出部分の外周を覆うようにして、バルーン14が設けられている。バルーン14は、例えばポリアミドエラストマーによって形成された樹脂膜によって構成されており、膨張状態において全体として筒状とされている。バルーン14は、軸方向両端部が窄まっており、バルーン14の近位端が外シャフト16の遠位端に固着されていると共に、バルーン14の遠位端が内シャフト18の遠位端に固着されている。これにより、バルーン14の近位端と遠位端の各開口がシャフト12によって塞がれており、バルーン14が内部に調圧空所28を備える中空構造とされている。バルーン14の調圧空所28は、外シャフト16の調圧用ルーメン20に連通されており、外シャフト16の近位端に間接又は直接的に接続される図示しないポンプによって内部圧力を制御可能とされている。外シャフト16の近位端には、公知のコネクタ(図示せず)が設けられ得て、例えば、当該コネクタを介して上記ポンプが外シャフト16と間接的に接続され得ると共に、当該コネクタを通じて外シャフト16の遠位端への造影剤の注入などが可能とされ得る。なお、外シャフト16の内径寸法は、内シャフト18の外径寸法よりも大きくされており、外シャフト16の調圧用ルーメン20の遠位開口がバルーン14の調圧空所28に開放されている。
【0029】
より具体的には、膨張状態のバルーン14は、軸方向(
図1中の上下方向)の中間を構成する筒状の中央部分30と、中央部分30よりも基端側を構成して基端へ向けて小径となる略円錐状の近位部分32と、中央部分30よりも先端側を構成して先端へ向けて小径となる略逆円錐状の遠位部分34とを、一体的に備えている。近位部分32の近位端が外シャフト16の外周面に重ね合わされて固着されていると共に、遠位部分34の遠位端が内シャフト18の外周面に重ね合わされて固着されている。
【0030】
膨張状態のバルーン14において、中央部分30は、遠位側36から近位側38へ向けて外径が次第に大きくなるテーパー形状を有している。従って、中央部分30は、近位側38の外径R1が、遠位側36の外径R2よりも大きくされている。中央部分30の近位側38の外径R1は、好適には、1.2〜6.3mmの範囲内に設定され、好適には2.4〜5.4mmの範囲内に設定される。中央部分30の遠位側36の外径R2は、1.0〜3.5mmの範囲内に設定され、好適には、2〜3mmの範囲内に設定される。近位側38の外径R1は、遠位側36の外径R2に対して、1.2〜1.8倍の範囲内に設定される。近位側38の外径R1は、遠位側36の外径R2に対して、好適には、1〜2mm大きくされる。
【0031】
膨張状態のバルーン14において、中央部分30の遠位側36の外径R2は、好適には3mm以下とされており、その場合に、外シャフト16の外径r1は、好適には0.5mm以上、より好適には0.9mm以上とされている。外シャフト16の外径r1と内シャフト18の外径r2は、例えば、0.5mmと0.2mm、1mmと0.6mm、2mmと1mmなどの組み合わせが採用され得る。内シャフト18の外周面からバルーン14の近位側38の外周面までの距離は、例えば、0.3mm、1.5mm、2.6mm等に設定される。
【0032】
中央部分30の長さ寸法L0は、15〜25mmの範囲内に設定され、例えば20mmとされる。中央部分30の長さ寸法L0は、近位部分32の長さ寸法L1及び遠位部分34の長さ寸法L2よりも大きくされ、好適には、近位部分32の長さ寸法L1と遠位部分34の長さ寸法L2の合計よりも大きくされる。本実施形態のバルーン14では、中央部分30の長さ寸法L0が、バルーン14全体の長さ寸法Lの50%以上とされていることが望ましく、好適には60%以上とされている。これにより、肺動脈P(
図2参照)の狭窄病変に対して拡張する力を及ぼす中央部分30が、バルーン14の全長に対して長く確保されて、狭窄病変の効率的な治療が可能となり得る。バルーン14全体の長さ寸法Lは、好適には、20〜35mmの範囲内に設定される。
【0033】
中央部分30の外周面は、中心軸Aに対するテーパー角度θ0が遠位側36から近位側38まで略一定とされている。また、中央部分30の内周面は、中心軸Aに対するテーパー角度が遠位側36から近位側38まで略一定とされている。従って、中央部分30の長さ方向に延びる断面中心線は、中心軸Aに対するテーパー角度が遠位側36から近位側38まで略一定とされている。中央部分30の外周面のテーパー角度θ0は、好適には2〜5度の範囲内に設定される。
【0034】
中央部分30は、近位側38の厚さ寸法t1が、遠位側36の厚さ寸法t2よりも小さくされている。本実施形態の中央部分30は、外周面及び内周面がそれぞれ略一定のテーパー角度を有していることから、遠位側36から近位側38へ向けて略一定の割合で次第に薄肉となっている。近位側38の最小厚さ寸法t1は、好適には、20〜50μmの範囲内に設定されている。遠位側36の最大厚さ寸法t2は、好適には、50〜70μmの範囲内に設定されている。
【0035】
バルーン14を設計するに際して、中央部分30と近位部分32との連続する部分は、円弧状に湾曲する断面形状として設計されていてもよいが、好適には、角状の断面形状として設計される。同様に、中央部分30と遠位部分34との連続する部分も、好適には角状の断面形状として設計される。膨張状態のバルーン14において、中央部分30と近位部分32との連続する部分及び中央部分30と遠位部分34との連続する部分は、何れも角状の断面形状となることが望ましいが、バルーン14の膨張による丸みを帯び得る。
【0036】
バルーン14の近位部分32は、中心軸Aに対して略一定のテーパー角度θ1で近位へ向けて小径となっている。バルーン14の遠位部分34は、中心軸Aに対して略一定のテーパー角度θ2で遠位へ向けて小径となっている。近位部分32のテーパー角度θ1は、好適には、遠位部分34のテーパー角度θ2よりも大きくされている。近位部分32のテーパー角度θ1の大きさと遠位部分34のテーパー角度θ2の大きさは、何れも中央部分30のテーパー角度θ0の大きさよりも大きくされている。近位部分32のテーパー角度θ1の大きさは、好適には、5〜45度の範囲内に設定される。遠位部分34のテーパー角度θ2の大きさは、好適には、3〜30度の範囲内に設定される。
【0037】
また、近位部分32の長さ寸法L1は、好適には、遠位部分34の長さ寸法L2よりも小さくされている。近位部分32の長さ寸法L1は、3.0〜4.5mmの範囲内に設定されることが望ましい。遠位部分34の長さ寸法L2は、3.5〜5.0mmの範囲内に設定されることが望ましい。近位部分32の長さ寸法L1と遠位部分34の長さ寸法L2は、例えば、3.0mmと3.5mm、3.5mmと4.0mm、4.0mmと4.5mm、3.0mmと5.0mm等の組み合わせとされ得る。
【0038】
近位部分32の最大外径(近位部分32の遠位端の外径)R1は、遠位部分34の最大外径(遠位部分34の近位端の外径)R2よりも大きくされている。
【0039】
バルーン14は、調圧空所28内に許容される最大圧力を示す耐圧保証値が16atm以下とされている。より好適には、バルーン14の耐圧保証値は、14atm以下とされる。バルーン14の耐圧保証値は、明確に認識可能な態様で使用者に提示される。具体的には、例えば、テーパーバルーンカテーテル10の添付書類やパッケージへの記載、テーパーバルーンカテーテル10自体への刻印等によって、使用者がバルーン14の耐圧保証値を把握することができる。バルーン14は、肺動脈Pの狭窄病変を拡張する治療時の圧力が、12atm以上且つ16atm以下であることが望ましい。治療時のバルーン14内の最低圧力が12atm以上とされることにより、肺動脈Pの狭窄病変を有効に押し広げることができる。
【0040】
かくの如き構造を有するテーパーバルーンカテーテル10は、調圧空所28内の液体が排出された収縮状態のバルーン14がシャフト12に巻き付けられた或いは折り畳まれた状態で、肺動脈Pに挿入された図示しないガイディングカテーテルに挿入される。本実施形態のバルーン14は、遠位部分34の長さ寸法L2が近位部分32の長さ寸法L1よりも大きく、且つ遠位部分34の最大外径R2が近位部分32の最大外径R1よりも小さくされており、バルーン14は、遠位部分34のテーパー角度θ2が近位部分32のテーパー角度θ1よりも小さくされている。これにより、内シャフト18に巻き付けられた或いは折り畳まれた状態のバルーン14において、先端部分における先端から基端側へ向けた外径寸法の変化率が小さくなっており、バルーン14をガイディングカテーテルに挿入する際の抵抗が小さくされて、ガイディングカテーテルへの挿入が容易とされている。
【0041】
そして、バルーン14が配されたテーパーバルーンカテーテル10の遠位端部をガイディングカテーテルの遠位開口から突出させて、収縮状態のバルーン14を肺動脈Pの狭窄病変に挿入した状態で、バルーン14の調圧空所28に液体を送入して、調圧空所28を所定の圧力まで加圧し、バルーン14を膨張させる。これにより、肺動脈Pの狭窄病変がバルーン14によって押し広げられて、肺動脈Pの血流の回復が図られる。収縮状態で折り畳まれる等したバルーン14は、上述のように先端部分の外径の変化率が小さいことから、狭窄病変への挿入時にも抵抗が抑えられて、狭窄病変への挿入が容易とされる。
【0042】
ポリアミドエラストマーからなる柔軟なバルーン14は、折り畳むなどされた収縮状態でもポリアミド製のバルーン等に比して柔らかいことから、ガイディングカテーテルへの挿入や狭窄病変への挿入に際して、抵抗が小さく挿入し易い。
【0043】
テーパーバルーンカテーテル10は、バルーン14の耐圧保証値が16atm以下とされていることから、調圧空所28を最大で16atmまで加圧することができる。例えば心臓の冠動脈血管形成術に用いられるバルーンカテーテルでは、バルーンの耐圧保証値は24atm程度とされる場合があり、テーパーバルーンカテーテル10の耐圧保証値は、冠動脈用バルーンカテーテルの耐圧保証値よりも大幅に低く設定されている。このようにテーパーバルーンカテーテル10の耐圧保証値を低く設定することが可能な理由の1つとしては、肺動脈Pの狭窄病変が血栓の器質化に起因する場合が多く、石灰化病変等の高圧拡張が必要な冠動脈の狭窄病変に比して、狭窄病変の拡張に必要な力が小さくてよいことが挙げられる。なお、バルーン14は、内圧が耐圧保証値に達するまで膨らませる必要はなく、例えば、バルーン14内が耐圧保証値まで増圧される前に狭窄病変が十分に拡張したことを造影等によって確認した場合に、バルーン14内の増圧を耐圧保証値よりも小さい圧力で停止してもよい。
【0044】
上記の如き肺動脈用であることに特有の事情に基づいて、バルーン14の耐圧保証値が低く設定されていることにより、膨張時のバルーン14の遠位側36が肺動脈Pの内周面に強く押し当てられるのを防ぐことができる。肺動脈Pは、末梢へ向けて比較的に大きなテーパー角度で先細となっていることから、バルーン14の遠位側36が肺動脈Pの内周面に強く押し当てられると、バルーン14に対して近位へ向けた比較的に大きな反力が作用して、バルーン14の滑りによる意図しない移動が生じるおそれがある。テーパーバルーンカテーテル10は、バルーン14の内圧の最大値(耐圧保証値)を比較的に小さく制限することによって、バルーン14の遠位側36が肺動脈Pの内周面に強く押し当てられるのを防いで、バルーン14の滑り移動を防止し、バルーン14を狭窄病変に対して高精度に位置決めした状態で膨らませることで、狭窄病変を効率的に拡張可能とされている。
【0045】
ポリアミドエラストマーによって形成された柔軟なバルーン14は、比較的に低圧で膨らませることが可能であり、上述のように耐圧保証値を低く設定してもバルーン14の膨張率を十分に確保することができて、狭窄病変を有効に押し広げることができる。
【0046】
また、バルーン14は、狭窄病変を拡張する中央部分30が、近位側38において遠位側36よりも優先的に肺動脈Pの内周面に押し当てられる形状とされている。即ち、中央部分30の長さ寸法L0が15〜25mmの範囲内に設定されており、遠位側36の外径R2が1.0〜3.5mmの範囲内に設定されていると共に、近位側38の外径R1が遠位側36の外径R2に対して1.2〜1.8倍の範囲内に設定されている。これにより、膨張したバルーン14は、肺動脈Pの内周面に対して、遠位側36よりも近位側38で強く押し当てられて、バルーン14の近位へ向けた滑り移動が抑制される。本実施形態では、バルーン14の中央部分30の外周面が略一定のテーパー角度θ0とされていることから、例えば、肺動脈Pの狭窄病変を中央部分30の全体によって有効に拡張することができる。
【0047】
バルーン14における中央部分30の外周面のテーパー角度θ0は、肺動脈Pの内面のテーパー角度に対して僅かに大きくされており、例えば2度以上とされている。これにより、バルーン14が中央部分30の遠位側36よりも近位側38において肺動脈Pの内面に強く押し当てられて、バルーン14の近位への滑り移動が抑制される。また、中央部分30のテーパー角度θ0は、例えば5度以下とされており、これによって、肺動脈Pの内面に押し当てられる際にバルーン14に作用する当接反力において、軸方向で近位へ向けた分力の大きさが抑えられて、バルーン14の近位への滑りが抑制される。
【0048】
バルーン14の近位側38が肺動脈Pの内周面に遠位側36よりも強く押し当てられると、バルーン14の中央部分30だけでなく、バルーン14の近位部分32の一部が肺動脈Pの狭窄病変の内周面に押し当てられることも考えられる。そうすると、
図2に示すように、近位部分32には肺動脈Pの狭窄病変の内周面に対する当接による当接反力Fが作用する。近位部分32に対して略直交して作用する当接反力Fは軸方向の分力fを含み、当該分力fがバルーン14に対して遠位へ向けて作用する。これにより、肺動脈Pへの押し当てによってバルーン14の中央部分30及び遠位部分34に作用する近位へ向けた当接反力の分力が、分力fによって相殺されて軽減されることから、バルーン14の近位への滑りによる位置ずれが抑制される。本実施形態では、近位部分32のテーパー角度θ1が、遠位部分34のテーパー角度θ2よりも大きくされていることから、近位部分32における当接反力Fの軸方向の分力fが、遠位部分34における当接反力の軸方向の分力よりも効率的に発揮され得て、バルーン14の近位への滑りが効果的に抑制される。更に、近位部分32のテーパー角度θ1は、中央部分30のテーパー角度θ0よりも大きくされていることから、近位部分32には、遠位へ向けた分力fが、中央部分30に作用する近位へ向けた分力よりも効率的に及ぼされて、バルーン14の近位への滑りが抑えられる。
【0049】
本実施形態では、中央部分30と近位部分32の連続部分(境界部分)におけるバルーン14の断面形状が角をなす形状とされていることから、当該連続部分が肺動脈Pの狭窄病変に引っ掛かるアンカー作用によっても、バルーン14の滑りが防止され得る。なお、アンカー作用は、中央部分30と近位部分32の連続部分がバルーン14の膨張によって丸みを帯びる等して厳密に角状ではなかったとしても発揮され得る。
【0050】
バルーン14の軸方向の長さ寸法Lが20〜35mmとされることにより、長さ寸法が短い肺動脈Pの狭窄病変に対してバルーン14を大きくはみ出させることなく配置することが可能とされる。それゆえ、バルーン14の中央部分30の近位側38及び近位部分32を器質状の狭窄病変に押し当てて、バルーン14の近位への滑り移動を抑制することができる。
【0051】
バルーン14の中央部分30は、近位側38の厚さ寸法t1が、遠位側36の厚さ寸法t2よりも小さくされていることから、バルーン14の膨張時に、近位側38が遠位側36よりも優先的に膨らんで肺動脈Pの内周面(狭窄病変)に押し当てられる。特に、バルーン14の近位側38の最小厚さ寸法t1が20〜50μmとされることにより、近位側38の優先的な膨張を有効に実現しつつ、近位側38の耐久性も確保することができる。バルーン14は、内圧が16atm以下に制限されることから、薄肉とされた近位側38が過度に拡張されることはなく、バルーン14の破裂などが防止されると共に、近位側38による肺動脈Pの過拡張も防止される。なお、図中では、理解を容易にする目的で、バルーン14の厚さ寸法や厚さの変化率等が誇張されている。また、シャフト12や造影マーカー26の厚さなども図中では誇張されて示されている。
【0052】
また、本実施形態では、バルーン14の遠位側36の外径R2が3.5mm以下とされていると共に、シャフト12の外径r1が0.5mm以上とされており、バルーン14の外径に対して比較的に太いシャフト12が採用されている。それゆえ、例えば、テーパーバルーンカテーテル10をガイディングカテーテルに挿通してバルーン14を狭窄病変まで送達せしめる際に、優れたプッシャビリティが発現されて、バルーン14を狭窄病変へ挿入し易くなる。
【0053】
図3には、本発明の第2実施形態としてのテーパーバルーンカテーテル40の遠位端部が示されている。以下の説明において、第1実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
テーパーカテーテル40は、シャフト12の先端部分にバルーン42を備えている。バルーン42は、中央部分30と近位部分32の連続部分(境界部分)及び中央部分30と遠位部分34の連続部分が、
図3に示す縦断面において、それぞれ角状ではなく滑らかな湾曲形状とされている。また、近位部分32と遠位部分34は、縦断面において、外周へ向けて凸となる湾曲形状とされており、中央部分30と滑らかに連続している。なお、中央部分30は、縦断面において、軸方向で略一定の傾斜角度の直線的なテーパー形状であってもよいし、軸方向で傾斜角度が連続的に変化する湾曲したテーパー形状であってもよい。
【0055】
このような滑らかに連続する外表面を備えたバルーン42を採用すれば、バルーン42を折り畳んだ状態において、中央部分30と近位部分32との連続部分及び中央部分30と遠位部分34との連続部分に角が生じ難く、肺動脈の狭窄病変やガイディングカテーテルへ挿入する際に、引っ掛かりや摩擦による抵抗が抑えられて、狭窄病変への優れた挿入性やガイディングカテーテルへの優れた収納性が実現される。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、バルーン14における中央部分30の外周面のテーパー角度は、略一定であることが好ましいが、長さ方向で徐々に或いは段階的に変化していてもよい。
【0057】
バルーン14の厚さ寸法は、遠位側36から近位側38へ向けて徐々に小さくなっていることが望ましいが、例えば、中央部分30において、近位側38だけが他の部分よりも薄肉とされており、遠位側36を含む当該他の部分は、近位側38よりも厚肉の略一定の厚さとされていてもよい。
【0058】
近位部分32のテーパー角度θ1は、遠位部分34のテーパー角度θ2と同じであってもよいし、θ2より小さくされていてもよい。また、近位部分32の長さ寸法L1は、遠位部分34の長さ寸法L2と同じであってもよいし、L2より大きくされていてもよい。
【課題】バルーンを治療対象部位に高精度に位置決めしたまま膨張させることができる等、肺動脈の狭窄病変の治療に適した性能を有する、新規な構造のテーパーバルーンカテーテルを提供すること。
【解決手段】肺動脈Pの治療に用いられるバルーン14を備えたテーパーバルーンカテーテル10であって、バルーン14の長さ方向の中央部分30が、遠位側36から近位側38に向かって外径が次第に大きくなるテーパー形状とされており、中央部分30の長さ寸法L0が15〜25mmの範囲内に設定されており、遠位側36の外径R2が1.0〜3.5mmの範囲内に設定されており、近位側38の外径R1が遠位側36の外径R2に対して1.2〜1.8倍の範囲内に設定されており、近位側38の厚さ寸法t1が遠位側36の厚さ寸法t2よりも小さくされており、且つ、バルーン14の耐圧保証値が16atm以下とされている。