特許第6982795号(P6982795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982795
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ボロン含有ステンレス鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/18 20060101AFI20211206BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211206BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20211206BHJP
   C22B 9/187 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C22B9/18 F
   C22C38/00 302Z
   C22C38/54
   C22B9/187 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-204678(P2017-204678)
(22)【出願日】2017年10月23日
(65)【公開番号】特開2019-77910(P2019-77910A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】成田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】及川 俊一
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103045962(CN,A)
【文献】 D S Kim et al.,Manufacturing of 9CrMoCoB Steel of Large Ingot with Homogeneity by ESR Process,Materials and Science Engineering ,2015年,vol.143,012002,p.1-10,doi:10.1088/1757-899X/143/1/012002,International Symposium on Liquid Metal Processing & Casting 2015 (LMPC2015)
【文献】 Xiaohua WANG et al.,The physical properties of CaF2-CaO-Al2O3-SiO2 slag system for ESR of 12Cr,Extended Abstracts of the 9th International Conference on Molten Slags, Fluxes and Salts (Moltenslag 2012),2012年,Capter5,p.78,https://pyrometallurgy.co.za/MoltenSlags2012/Z022.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/00−9/22
C22C 38/00−38/60
B22D 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.08〜0.40%、
Cr:8〜14%、
Ni:2.5%以下、
V:0.1〜0.3%、
Co:0.5〜3.5%、
Nb:0.03〜0.10%、
B:0.0010〜0.0300%、及び、
N:0.0100〜0.0500%、を含み、残部Fe及び不可避的不純物とするとともに、Al及びSiの含有量をそれぞれ0.010%以下及び0.10%以下に抑制した成分組成を有する消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法であって、
前記スラグは、質量%で、CaO:20〜40%、Al:20〜40%、SiO:6〜15%を含、残部CaF及び不可避的不純物からなることを特徴とするボロン含有ステンレス鋼の製造方法。
【請求項2】
前記スラグは、添加物としてBを2%以下で含むことを特徴とする請求項1記載のボロン含有ステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
前記消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、前記スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、
前記スラグは、
Y=log([%B]/[%Si]
X=log({mfB/{mfSiO)とすると、
−5.1≦Y−X≦−4.6
の範囲内となる成分組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のボロン含有ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともAlを含むスラグ及び消耗電極を用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法に関し、特に、BN(ボロンナイトライド)の微細粒子による高温機械強度の向上を与え得るボロン含有ステンレス鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラグと消耗電極を用いたESR(Electro-Slag Remelting)法による鋼の二次溶解法において、消耗電極の下端で生成した滴はスラグ中を落下して、メタルプールを経て凝固し鋼塊を形成する。つまり、スラグ中でのメタル−スラグ反応を制御することで鋼塊の成分組成を調整することができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、Ti及びAlを含有する耐熱鋼のESR法による製造方法において、スラグの成分組成を調整することでTi及びAlの成分変動を抑え、成分偏析の少ないインゴットを得ようとする製造方法を開示している。スラグは、Al−CaO(生石灰)−CaF(ホタル石)系であって、CaFに、質量%で、5%≦Al≦30%、CaO≦15%を与え、更に、1%≦TiO≦15%を与えた組成を有している。これにより、消耗電極中のTi及びAlと、スラグ中のTiO及びAlのバランスを制御できる。なお、対象とする鋼は、質量%で0.5%≦Ti≦5.0%、0.1%≦Al≦2.0%を含む成分組成である。
【0004】
同様に、Bを含有する鋼のESR法による製造方法においても、スラグの成分組成を調整することが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2では、Bを含有する耐熱鋼のESR法による製造方法において、消耗電極のSiとBの成分量に合わせてスラグ中のSiOとBの成分量を調整することで、溶鋼の成分組成中のBの成分量を制御する耐熱鋼の製造方法を開示している。かかる製造方法において用いられるスラグは、Al−CaO−CaFにフラックスとしてSiOとともにBを与えたものである。ここで、溶鋼成分とスラグ成分との間では、
3(SiO)+4B=2(B)+3Si
の反応が生じるため、SiOの存在下ではBが酸化されて成分偏析や目標成分値からの逸脱を生じさせるとしている。そこで、スラグ中のSiOとBの成分量を所定の式を満たすように調整することで、上記反応式の両辺のバランスを制御し溶鋼中でのBの成分量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−241230号公報
【特許文献2】特開2001−11546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
BNの微細粒子を利用してクリープなどの高温機械強度の向上を与えたBを含有する耐熱鋼が知られている。かかる耐熱鋼では、上記したようなAl−CaO−CaF系スラグを用いたメタル−スラグ反応において、Bの酸化物だけでなく、窒化物についても考慮する必要がある。ここで、特に、Alも酸化物だけでなく窒化物を形成するため、BNの微細粒子の析出状態を変化させ、高温機械強度にも影響を与え得る。そこで、特に、Al量を減じた耐熱鋼が提案され、これに合わせてスラグ中のAlを減じることが考慮される。しかしながら、スラグ中のAl量が低減されることでスラグの比抵抗が小さくなり、二次溶解法における電力消費量が増加し、また、消耗電極の溶解が難しくなる場合もある。かかる状況は、大型鋼塊を得ようとする場合に特に問題となり得る。
【0008】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、比抵抗の低下を抑制すべくAlを含むスラグと消耗電極を用いた二次溶解によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法において、BN粒子の析出に影響を与えるスラグ成分を考慮し高温機械強度の向上を与え得るボロン含有ステンレス鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含み、BN微細粒子を析出させ得るよう、B:0.0010〜0.0300%を含む一方でとともに、Alを0.01%以下に抑制した成分組成のボロン含有ステンレス鋼を得るための少なくともAlを含むスラグ及び消耗電極を用いた二次溶解法による製造方法であって、前記スラグは、質量%で、CaO:20〜40%、Al:20〜40、SiO:6〜15%を含むとともに、添加物としてBを2%以下で含み得て、残部CaF及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、比抵抗の低下を抑制するようにAlを一定量含むAl−CaO−CaF系スラグでありながら、BNと窒化において競合し得る鋼中のAl量を抑制させてBNを形成し得るB量を適正化できて、BN微細粒子を析出させて高温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を与えるのである。
【0011】
上記した発明において、前記消耗電極は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%、Ni:2.5%以下、V:0.1〜0.3%、Co:0.5〜3.5%、Nb:0.03〜0.10%、B:0.0010〜0.0300%、及び、N:0.0100〜0.0500%、を含み、残部Fe及び不可避的不純物とするとともに、Al及びSiの含有量をそれぞれ0.010%以下及び0.10%以下に抑制した成分組成を有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、上記したスラグ成分の範囲内でB量を適正化できて、結果として降温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を確実に与えるのである。
【0012】
上記した発明において、前記消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、前記スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、前記スラグは、Y=log([%B]/[%Si]) X=log({mfB/{mfSiO)とすると、−5.1≦Y−X≦−4.6の範囲内となる成分組成を有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られるB量をより適正化し、高温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を確実に与えるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】消耗電極に用いた鋼種の成分組成の一覧表である。
図2】消耗電極のSi及びBの含有量とスラグの組成の一覧表である。
図3】X、Y、Y−Xの値と得られた鋼塊中のBのばらつき及びAlの含有量の表である。
図4】X、Yをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による1つの実施例であるボロン含有ステンレス鋼の製造方法について、図1を用いて詳細を説明する。
【0015】
本実施例において、得ようとするボロン含有ステンレス鋼は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含む。また、Bを0.0010〜0.0300%で含有させるとともにAlを0.01%以下に抑制したことで、鋼塊にBを分布させ、その後の処理においてBN微細粒子を粒界に析出させ得るようにして、耐クリープ特性などの高温機械強度に優れるようにすることを意図している。
【0016】
このような鋼は、消耗電極とスラグを用いたESR(エレクトロスラグ再溶解)などの二次溶解法によって製造することができる。なお、二次溶解は、不活性ガスもしくは真空をベースに、アルゴンや窒素などを調整した雰囲気中で行われることが好ましい。
【0017】
ここで、図1に示すように、消耗電極の材料としては、例えば鋼種A〜Dの4種類の成分組成を有する鋼を用い得る。なお、本実施例において用い得る消耗電極の材料となる鋼の成分組成としては、質量%で、C:0.08〜0.40%、Ni:2.5%以下、Cr:8〜14%、V:0.1〜0.3%、Co:0.5〜3.5%、Nb:0.03〜0.10%、B:0.0010〜0.0300%、N:0.0100〜0.0500%として含み、Alの含有量を0.01%以下、Siの含有量を0.10%以下にそれぞれ制御したものが好ましい。また、これらの鋼においては、不可避的不純物として、P、S、Cu、Pb、As、Sn、Sb、Ti、O、Hなどを含み得る。
【0018】
一方、スラグは、比抵抗の低下を抑制すべく少なくともAlを含むスラグであって、質量%で、CaO:20〜40%、Al:20〜40%、SiO:6〜15%、残部CaFとした組成を有するAl−CaO−CaF系スラグである。このような組成範囲とすることで、二次溶解において電気抵抗値の低下を抑制するとともに、消耗電極からの溶湯とスラグとのメタル−スラグ反応をバランスさせて、メタルプール中のAl量を抑制できる。Al量を抑制することで、得られた鋼塊においてAl窒化物の生成が抑制され、Al窒化物以外の窒化物を生成するようNを残存させ、結果として、BNの形成を促進させるのである。上記したように、Alを減じることでスラグの比抵抗が低下してしまうため、比抵抗の低下を抑制すべく所定量のAlを含むスラグを用いる。このようなスラグは、特に、10トン以上の大型鋼塊を得る場合などにおいて好ましい。
【0019】
また、スラグには、添加物として2質量%以下でBを更に含んでもよい。ここで、消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、
Y=log([%B]/[%Si]) (式1)
X=log({mfB/{mfSiO) (式2)
とすると、−5.1≦Y−X≦−4.6の範囲内とすることが好ましい。これによって、得られる鋼塊内におけるAlの含有量を抑えることが容易となる。
【0020】
かかるメタル−スラグ反応は、下記平衡式によって制御され得る。ここで、[ ]はメタル中の成分、{ }はスラグ中の成分である。
平衡の式a:4[Al]+3{SiO}⇔2{Al}+3[Si]
平衡の式b:3[Si]+2{B}⇔3{SiO}+4[B]
平衡の式c:2[Al]+{B}⇔{Al}+2[B]
【0021】
これらの平衡の式において、本実施例では、スラグの組成成分を制御することでメタル中でのAlの含有量を抑制するとともに必要なBの含有量を確保するようにバランスさせる。例えば、SiOを多くすることで平衡の式aは右辺に進行しやすくなり、メタル中のAlの含有量を抑えることができる。
【0022】
以上のようなボロン含有ステンレス鋼の製造方法によって、鋼塊にBを分布させて、BNの微細粒子を析出させ得るようにして、高温機械強度の向上を可能とする。すなわち、BNと窒化において競合するAl量を抑制させるよう、スラグ組成を調整するのである。
【0023】
[実施例]
以下、上記した消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法によって鋼塊を製造した結果について、図1乃至図4を用いて説明する。
【0024】
ここでは、図1に示すように、代表成分である鋼種A〜Dを消耗電極の材料として用いた。
【0025】
図2に示すように、各鋼種A〜Dによる消耗電極と、各スラグ組成を有するスラグとを用いた実施例1〜5、比較例1及び2によって、それぞれ二次溶解法で鋼塊を製造した。
【0026】
図3には鋼塊を製造した結果として、製造に用いた電極及びスラグの組成に関する上記した式1によるXの値、式2によるYの値、及び、Y−Xの値と、得られた鋼塊中におけるBのばらつき及びAlの含有量を示した。Bのばらつきについては、鋼塊のTop側、中央、Bottom側からそれぞれサンプルを切り出してBの含有量を定量し、それらの最大値から最小値を減じてこれを平均値で除した上で、百分率で示した。
【0027】
実施例1〜5で得られた鋼塊において、Alの含有量は0.002%と少なかった。つまり、スラグの成分組成を制御することで、得られる鋼塊のAlの含有量を抑制できている。
【0028】
これに対し、比較例1及び2では、いずれもスラグのSiOの含有量を0.4%と少なくしており、得られた鋼塊のAlの含有量がそれぞれ0.008質量%及び0.011質量%として実施例1〜5に比べて多くなった。上記した平衡の式aにより、SiOの含有量を少なくすることでメタル中のAlの含有量を多くしやすく、そのため得られた鋼塊においてもAlの含有量を多くしてしまったものと考えられる。
【0029】
ここで、図4を併せて参照すると、実施例1〜5、比較例1及び2のそれぞれについて(X,Y)をグラフにプロットした。得られた鋼塊におけるAlの含有量の少ない実施例1〜5では上記したY−Xの値が−5.1以上かつ−4.6以下の範囲内となった。これに対し、Alの含有量の多い比較例1及び2では、Y−Xの値がその範囲外となった。つまり、消耗電極の合金及びスラグの組成は、上記した式1及び式2に基づいて−5.1≦Y−X≦−4.6となるように調整されることが好ましく、これによって得られる鋼塊中のAlの含有量を少なくすることを容易とするのである。
【0030】
なお、消耗電極に用いた鋼種A〜Dは、それぞれ成分組成に差異を有するが、得られる鋼塊中のAlの含有量に関しては同等の成分組成を有している。例えば、鋼種Dは比較例1にのみ用いられているが、消耗電極の鋼種の成分組成から算出されるYの値を他の鋼種A〜Cと同等としている。つまり、比較例1においてAlの含有量を多くした主な原因は、消耗電極の成分組成ではなくスラグの組成にあると言える。
【0031】
ところで、上記したボロン含有ステンレス鋼の製造方法に用いられるスラグの組成範囲は以下のように定められる。
【0032】
CaOは、精錬能の確保のために20質量%以上とし、鋼塊肌を良好に保ち歩留まりの悪化を防ぐために40質量%以下とした。
【0033】
Alは、Al−CaO−CaF系スラグにおける比抵抗の低下を抑制するために20質量%以上とし、鋼塊肌を良好に保ち歩留まりの悪化を防ぐために40質量%以下とした。
【0034】
SiOは、Alの増加による窒素のピックアップを抑制するため6質量%以上とし、SiOの量によって添加すべき量の増加するBを少なくしてコストの悪化を避けるように15質量%以下とした。
【0035】
は、Bの歩留まりを確保するために2質量%以下で添加してもよい。
【0036】
CaFは、上記した他の成分の残部としてスラグに配合されるが、粘性の増大を避けて操業の安定性を確保するため30質量%以上とすることが好ましい。
【0037】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるであろう。

図1
図2
図3
図4