(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るプラズマ処理方法は、搬送キャリアに保持された基板を、プラズマ処理装置に備えられたステージに載置して、基板にプラズマ処理を行うプラズマ処理方法であって、保持シートと、保持シートの外周領域に配置されるフレームと、を備える搬送キャリアを準備する第1工程(準備工程)と、保持シートの外周領域以外の内部領域に基板を貼着して、搬送キャリアに基板を保持させる第2工程(基板保持工程)と、保持シートの内部領域を撓ませる第3工程(撓み付与工程)と、第3工程の後、搬送キャリアをステージに載置して、基板を保持シートを介してステージに接触させる第4工程(載置工程)と、第4工程の後、基板にプラズマ処理を施す第5工程(プラズマ処理工程)と、を備える。
【0011】
載置工程の前に、保持シートの内部領域を、撓み量Qになるように撓ませる。これにより、載置工程では、まず、内部領域の最も撓んだ領域(通常、内部領域の中央)がステージに接触し始める。そして、保持シートとステージとの接触部は、内部領域から外周領域にまで徐々に広がっていく。そのため、フレームの平坦度が低い場合であっても、保持シートは、シワのない状態でステージに載置される。
【0012】
以下、本発明の実施形態を示す図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。図示例では、便宜上、同じ機能を備える部材に同じ符号を付している。
まず、搬送キャリアの一実施形態について、
図1(a)および(b)を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る搬送キャリア10を概略的に示す上面図であり、
図1(b)は、撓み付与工程前の搬送キャリア10の
図1(a)に示すB−B線での断面図である。
【0013】
図1(a)に示すように、搬送キャリア10は、フレーム2および保持シート3を備えている。保持シート3は、その外周領域3aがフレーム2に固定されている。基板1は、保持シート3の内部領域3bに貼着されて、搬送キャリア10に保持される。外周領域3aは、保持シート3のフレーム2との重なり部分である。なお、
図1では、フレーム2および基板1が共に円形である場合について図示するが、これに限定されるものではない。
【0014】
(基板)
基板1は、プラズマ処理の対象物である。基板1は、例えば、本体部の一方の表面に、半導体回路、電子部品素子、MEMS等の回路層を形成した後、回路層とは反対側である本体部の裏面を研削し、厚みを薄くすることにより作製される。基板1を個片化することにより、上記回路層を有する電子部品(図示せず)が得られる。
【0015】
基板1の大きさは特に限定されず、例えば、最大径50mm〜300mm程度である。基板1の厚みは、通常、25〜150μm程度と、非常に薄い。そのため、基板1自体は、剛性(自己支持性)をほとんど有さない。そこで、フレーム2に保持シート3の外周領域3aを固定し、この保持シート3に基板1を貼着する。これにより、基板1の搬送等のハンドリングが容易となる。基板1の形状も特に限定されず、例えば、円形、角型である。また、基板1には、オリエンテーションフラット(オリフラ)、ノッチ等の切欠き(いずれも図示せず)が設けられていてもよい。
【0016】
基板1の本体部の材質も特に限定されず、例えば、半導体、誘電体、金属、あるいはこれらの積層体等が挙げられる。半導体としては、シリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)等が例示できる。誘電体としては、ポリイミド等の樹脂膜、低誘電率膜(Low−k膜)、二酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)等が例示できる。
【0017】
基板1の保持シート3に貼着していない面には、所望の形状にマスクが形成されている(図示せず)。マスクが形成されている部分は、プラズマによるエッチングから保護される。マスクが形成されていない部分は、その表面から裏面までがプラズマによりエッチングされ得る。マスクとしては、例えば、レジスト膜を露光および現像することにより形成されるレジストマスクを用いることができる。また、マスクは、例えば、基板1の表面に形成された誘電体膜(例えば、SiO
2、Si
3N
4)や、樹脂膜(例えば、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO))あるいは樹脂フィルムをレーザスクライブにより開口して、形成されてもよい。
【0018】
(フレーム)
フレーム2は、基板1の全体と同じかそれ以上の面積の開口を有した枠体であり、所定の幅および略一定の薄い厚みを有している。フレーム2は、保持シート3および基板1を保持した状態で搬送できる程度の剛性を有している。
【0019】
フレーム2の開口の形状は特に限定されないが、例えば、円形や、矩形、六角形等の多角形であってもよい。フレーム2には、位置決めのためのノッチ2aやコーナーカット2bが設けられていてもよい。フレーム2の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属や、樹脂等が挙げられる。フレーム2の一方の面には、保持シート3の一方の面の外周領域3aが貼着される。
【0020】
(保持シート)
保持シート3は、例えば、粘着剤を有する面(粘着面3X)と粘着剤を有しない面(非粘着面3Y)とを備えている。外周領域3aにおける粘着面3Xは、フレーム2の一方の面に貼着しており、フレーム2の開口を覆っている。また、粘着面3Xのフレーム2の開口から露出した部分(内部領域3b)には、基板1が貼着される。
【0021】
粘着面3Xは、紫外線(UV)の照射によって粘着力が減少する粘着成分からなることが好ましい。ダイシング後に紫外線照射を行うことにより、個片化された基板(電子部品)が粘着面3Xから容易に剥離され、ピックアップされ易いためである。例えば、保持シート3は、フィルム状の基材の片面にUV硬化型アクリル粘着剤を、5〜20μmの厚みに塗布することにより得られる。
【0022】
フィルム状の基材の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。基材には、伸縮性を付加するためのゴム成分(例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等)、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、導電性材料等の各種添加剤が配合されていてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は、アクリル基等の光重合反応を示す官能基を有していてもよい。基材の厚みは、例えば、50〜150μmである。プラズマ処理の際、搬送キャリア10は、ステージと非粘着面3Yとが接するように、ステージに載置される。
【0023】
(プラズマ処理装置)
次に、
図2を参照しながら、プラズマダイシング工程に使用されるプラズマ処理装置100を具体的に説明するが、プラズマ処理装置はこれに限定されるものではない。
図2は、本実施形態に用いられるプラズマ処理装置100の構造の断面を概略的に示している。
【0024】
プラズマ処理装置100は、ステージ111を備えている。搬送キャリア10は、保持シート3の基板1を保持している面が上方を向くように、ステージ111に搭載される。ステージ111は、搬送キャリア10の全体を載置できる程度の大きさを備える。ステージ111の上方には、フレーム2および保持シート3の少なくとも一部を覆うとともに、基板1の少なくとも一部を露出させるための窓部124Wを有するカバー124が配置されている。カバー124には、フレーム2がステージ111に載置されている状態のとき、フレーム2を押圧するための押さえ部材107が配置されている。押さえ部材107は、フレーム2と点接触できる部材(例えば、コイルバネや弾力性を有する樹脂)であることが好ましい。これにより、フレーム2およびカバー124の熱が互いに影響し合うことを抑制しながら、フレーム2の歪みを矯正することができる。
【0025】
ステージ111およびカバー124は、処理室(真空チャンバ103)内に配置されている。真空チャンバ103は、上部が開口した概ね円筒状であり、上部開口は蓋体である誘電体部材108により閉鎖されている。真空チャンバ103を構成する材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、表面をアルマイト加工したアルミニウム等が例示できる。誘電体部材108を構成する材料としては、酸化イットリウム(Y
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al
2O
3)、石英(SiO
2)等の誘電体材料が例示できる。誘電体部材108の上方には、上部電極としての第1の電極109が配置されている。第1の電極109は、第1の高周波電源110Aと電気的に接続されている。ステージ111は、真空チャンバ103内の底部側に配置される。
【0026】
真空チャンバ103には、ガス導入口103aが接続されている。ガス導入口103aには、プラズマ発生用ガスの供給源であるプロセスガス源112およびアッシングガス源113が、それぞれ配管によって接続されている。また、真空チャンバ103には、排気口103bが設けられており、排気口103bには、真空チャンバ103内のガスを排気して減圧するための真空ポンプを含む減圧機構114が接続されている。真空チャンバ103内にプロセスガスが供給された状態で、第1の電極109に第1の高周波電源110Aから高周波電力が供給されることにより、真空チャンバ103内にプラズマが発生する。
【0027】
ステージ111は、それぞれ略円形の電極層115と、金属層116と、電極層115および金属層116を支持する基台117と、電極層115、金属層116および基台117を取り囲む外周部118とを備える。外周部118は導電性および耐エッチング性を有する金属により構成されており、電極層115、金属層116および基台117をプラズマから保護する。外周部118の上面には、円環状の外周リング129が配置されている。外周リング129は、外周部118の上面をプラズマから保護する役割をもつ。電極層115および外周リング129は、例えば、上記の誘電体材料により構成される。
【0028】
電極層115の内部には、ESC電極119と、第2の高周波電源110Bに電気的に接続された第2の電極120とが配置されている。ESC電極119には、直流電源126が電気的に接続されている。静電吸着機構は、ESC電極119および直流電源126により構成されている。静電吸着機構によって、保持シート3はステージ111に押し付けられて固定される。以下、保持シート3をステージ111に固定する固定機構として、静電吸着機構を備える場合を例に挙げて説明するが、これに限定されない。保持シート3のステージ111への固定は、図示しないクランプによって行われてもよい。
【0029】
金属層116は、例えば、表面にアルマイト被覆を形成したアルミニウム等により構成される。金属層116内には、冷媒流路127が形成されている。冷媒流路127は、ステージ111を冷却する。ステージ111が冷却されることにより、ステージ111に搭載された保持シート3が冷却されるとともに、ステージ111にその一部が接触しているカバー124も冷却される。これにより、基板1や保持シート3が、プラズマ処理中に加熱されることによって損傷されることが抑制される。冷媒流路127内の冷媒は、冷媒循環装置125により循環される。
【0030】
ステージ111の外周付近には、ステージ111を貫通する複数の支持部122が配置されている。支持部122は、搬送キャリア10のフレーム2を支持する。支持部122は、昇降機構123Aにより昇降駆動される。搬送キャリア10が真空チャンバ103内に搬送されると、所定の位置まで上昇した支持部122に受け渡される。支持部122の上端面がステージ111と同じレベル以下にまで降下することにより、搬送キャリア10は、ステージ111の所定の位置に載置される。
【0031】
カバー124の端部には、複数の昇降ロッド121が連結しており、カバー124を昇降可能にしている。昇降ロッド121は、昇降機構123Bにより昇降駆動される。昇降機構123Bによるカバー124の昇降の動作は、昇降機構123Aとは独立して行うことができる。
【0032】
制御装置128は、第1の高周波電源110A、第2の高周波電源110B、プロセスガス源112、アッシングガス源113、減圧機構114、冷媒循環装置125、昇降機構123A、昇降機構123Bおよび静電吸着機構を含むプラズマ処理装置100を構成する要素の動作を制御する。
【0033】
以下、本実施形態に係るプラズマ処理方法を、第1実施形態および第2実施形態を例に挙げて説明する。
第1実施形態では、撓み付与工程が、準備工程とともに行われる。具体的には、準備工程において、フレーム2を、その外径を拡張させるような負荷が加わった状態で、保持シート3の外周領域3aに接合した後、フレーム2を拡張させる負荷を解除することにより、撓み付与工程が実行される。
第2実施形態では、撓み付与工程が、準備工程の後であって載置工程の前に行われる。具体的には、フレーム2を保持シート3の外周領域3aに接合した後、保持シート3を伸長させることにより、撓み付与工程が実行される。この場合、撓み付与工程は、基板保持工程の前に行われてもよいし、基板保持工程の後に行われてもよい。
【0034】
[第1実施形態]
本実施形態では、撓み付与工程が、準備工程において、フレーム2を、その外径を拡張させるような負荷が加わった状態で、保持シート3の外周領域3aに接合した後、フレーム2を拡張させる負荷を解除することにより行われる。
図3に、本実施形態に係るプラズマ処理方法の一部をフローチャートで示す。
【0035】
(1)準備工程(撓み付与工程)
まず、搬送キャリア10を準備する。搬送キャリア10は、保持シート3をフレーム2の一方の面に貼着し、固定することにより得られる。例えば、ロール状に捲回された保持シート3を、保持シート3の粘着面3Xをフレーム2に対向させながら、図示しない架台に置かれたフレーム2の開口を覆うように巻き出して、フレーム2の一方の面に貼着し、固定する。
【0036】
このとき、架台に置かれたフレーム2に負荷をかけて、その外径を拡張させておく。この状態で、フレーム2に保持シート3を貼着する。その後、フレーム2に加えられていた負荷を解除する。これにより、保持シート3の内部領域3bが撓む。
【0037】
内部領域3bの撓み量Qは、載置工程直前の内部領域3bの撓み量であり、基板1を保持した保持シート3の内部領域3bの撓み量である。撓み量Qは、フレーム2の直径、基板1の厚み、基板1の直径、保持シート3の厚み等を考慮して、適宜設定される。例えば、フレーム2の直径が約300mm、基板1の直径が約150mm、基板1の厚みが約100μm、保持シート3の厚みが約110μmの場合、撓み量Qは、80μmから1000μm程度であり得る。
【0038】
撓み量Qは、例えば、以下のようにして求められる。
図4に示すように、搬送キャリア10を、保持シート3が水平面に接触しないように、複数本の棒状部材200の上端面に載置する。このとき、内部領域3bの中心を通る断面において、外周領域3aにおける非粘着面3Yを通る直線L1と、内部領域3bにおける非粘着面3Yのうち、保持シート3が最も撓んでいる部分の接線L2との最短距離を、撓み量Qとする。最短距離は、例えば、非接触型の光学式測定装置等により測定できる。後述する初期の撓み量Q
0も、同様にして求められる。なお、
図4では、説明を分かりやすくするため、撓み量Qを強調して示している。
【0039】
撓み量Qは、真空チャンバ103内で測定してもよい。この場合、保持シート3がステージ111に接触しない程度以上に上昇させた支持部122の上端面に、搬送キャリア10を載置すること以外は、上記と同様にして、最短距離を求めればよい。
【0040】
ここで、フレーム2は、フレーム2を製造する際のばらつきや公差、あるいは、生産工程における繰り返し使用等により、歪んでいる場合がある。この場合、保持シート3の撓み量Qおよび初期の撓み量Q
0は、フレーム2の歪み量Rを加味した値である。フレーム2が歪んでいる(歪み量R>0)場合、保持シート3の撓み量Qを、フレーム2の歪み量Rよりも大きくする。これにより、フレーム2の歪みに影響されることなく、保持シート3の内部領域3bを外周領域3aよりも先にステージ111に接触させることができる。
【0041】
歪み量Rは、例えば、以下のようにして求められる。
図5に示すように、フレーム2単体(あるいは搬送キャリア10)を水平面に置く。このとき、フレーム2の水平面から最も浮き上がった部分と、水平面との間の距離が歪み量Rである。なお、
図5では、説明を分かりやすくするため、歪み量Rを強調して示している。
【0042】
(2)基板保持工程
保持シート3の粘着面3Xに基板1を貼着することにより、基板1を搬送キャリア10に保持させる。例えば、搬送キャリア10を粘着面3Xを上向きに架台に載置し、基板1を粘着面3Xに貼着する。あるいは、基板1を架台に載置しておき、これに搬送キャリア10を被せるようにして、基板1を保持シート3に貼着する。
【0043】
(3)搬入工程
次に、基板1が保持された搬送キャリア10を真空チャンバ103内に搬入する。
真空チャンバ103内では、昇降ロッド121の駆動により、カバー124が所定の位置まで上昇している。続いて、図示しないロードロック室から搬送キャリア10が搬入される。複数の支持部122は、上昇した状態で待機している。搬送キャリア10がステージ111上方の所定の位置に到達すると、支持部122に搬送キャリア10が受け渡される。搬送キャリア10は、保持シート3の基板1を保持している面が上方を向くように、支持部122の上端面に載置される。
【0044】
(4)載置工程
搬送キャリア10が支持部122に受け渡されると、真空チャンバ103は密閉状態に置かれる。次に、支持部122が降下を開始する。支持部122の上端面が、ステージ111と同じレベル以下にまで降下することにより、搬送キャリア10は、ステージ111に載置される。このとき、保持シート3の内部領域3bが、外周領域3aよりも先にステージ111に接触し始める。
【0045】
続いて、あるいは、支持部122と共に、昇降ロッド121が駆動する。昇降ロッド121は、カバー124を所定の位置にまで降下させる。このとき、カバー124に配置された押さえ部材107がフレーム2に点接触できるように、カバー124とステージ111との距離は調節されている。これにより、フレーム2が押さえ部材107によって押圧されるとともに、フレーム2および保持シート3の基板1を保持していない部分がカバー124によって覆われ、基板1はカバー124の窓部124Wから露出する。
【0046】
カバー124は、例えば、略円形の外形輪郭を有したドーナツ形であり、一定の幅および薄い厚みを備えている。カバー124の内径(窓部124Wの直径)はフレーム2の内径よりも小さく、カバー124の外径はフレーム2の外径よりも大きい。したがって、搬送キャリア10をステージの所定の位置に搭載し、カバー124を降下させると、カバー124は、フレーム2と保持シート3の少なくとも一部を覆うことができる。窓部124Wからは、基板1の少なくとも一部が露出する。保持シート3を撓ませると、搬送キャリア10をステージ111に載置した際に、保持シート3の外周領域3aにシワが発生する場合がある(後述参照)。しかし、外周領域3aはカバー124により覆われるため、プラズマ処理時の温度上昇や異常放電等は抑制される。カバー124は、例えば、セラミックス(例えば、アルミナ、窒化アルミニウム等)や石英等の誘電体や、アルミニウムあるいは表面がアルマイト処理されたアルミニウム等の金属で構成される。
【0047】
(5)固定工程
ステージ111に載置された搬送キャリア10を、ステージ111上に固定する。ステージ111がESC電極119を備える場合、ESC電極119に電圧を印加することにより、搬送キャリア10の保持シート3とステージ111との間に吸着力を発生させ、保持シート3、ひいては基板1を、ステージ111に固定することができる。このように基板1をステージ111に固定させることにより、保持シート3の撓みによって生じ得るシワは、外周領域3aに集中する。外周領域3aは、上記のとおりカバー124に覆われるため、プラズマ処理時の温度上昇や異常放電等は抑制される。
【0048】
ただし、ESC電極119への電圧印加は、支持部122の上端面が、ステージ111と同じレベル以下にまで降下する前に開始されてもよい。例えば、ESC電極119への電圧印加は、保持シート3の内部領域3bがステージ111に接触する前に開始されてもよいし、保持シート3の内部領域3bの最も撓んだ部分がステージ111に接触した後、外周領域3aが接触する前に開始されてもよい。支持部122の上端面が、ステージ111と同じレベル以下にまで降下して、保持シート3の外周領域3aの少なくとも一部がステージ111に接触した後に、ESC電極119への電圧印加を開始してもよい。
【0049】
(6)プラズマ処理工程
基板1にプラズマ処理を施す。まず、プロセスガス源112からガス導入口103aを通って、プロセスガスが真空チャンバ103内部に導入される。一方、減圧機構114は、真空チャンバ103内のガスを排気口103bから排気し、真空チャンバ103内を所定の圧力に維持する。続いて、第1の電極109に第1の高周波電源110Aから高周波電力を投入し、真空チャンバ103内にプラズマを発生させる。発生したプラズマは、イオン、電子、ラジカル等から構成される。基板1に形成されたレジストマスクから露出した部分の表面から裏面までが、発生したプラズマとの物理化学的反応によって除去(エッチング)され、基板1は個片化される。
【0050】
プラズマ処理工程は、載置工程の後、所定の期間経過してから開始されてもよい。通常、ステージ111は冷却(例えば、−10℃〜−20℃)されている。載置工程の後、基板1を保持した搬送キャリア10をステージ111に接触させた状態で、所定の期間、静置することにより、保持シート3および基板1の温度が安定する。その後、プラズマ処理を行うことにより、エッチングが均一になり易くなる。所定の期間は特に限定されないが、例えば、60秒〜120秒である。搬送キャリア10の静置は、載置工程の後、固定工程の前に行ってもよいし、固定工程の後に行ってもよい。
【0051】
搬送キャリア10の静置を、載置工程の後、固定工程の前に行う場合、具体的には、基板1を保持した搬送キャリア10をステージ111に載置した後、その状態で所定の期間、静置する。その後、ESC電極119に電圧を印加して、基板1をステージ111に固定し、プラズマ処理を行う。
【0052】
搬送キャリア10の静置を、固定工程の後に行う場合、具体的には、基板1を保持した搬送キャリア10をステージ111に載置した後、ESC電極119に電圧を印加し、基板1をステージ111に固定する。この状態で所定の期間、静置し、その後、プラズマ処理を行う。
【0053】
固定工程の後、プラズマ処理工程の前に、ステージ111と保持シート3との間に冷却用ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素)を導入し、保持シート3の冷却を促進させてもよい。この場合、固定工程の後、所定の期間が経過してから、冷却用ガスを導入してもよい。基板1が十分に固定された後、冷却用ガスを導入することで、冷却効果がより高まる。
【0054】
第2の高周波電源110Bから第2の電極120に、例えば100kHz以上の高周波電力を投入してもよい。イオンの基板1への入射エネルギーは、第2の高周波電源110Bから第2の電極120に印加された高周波電力によって制御することができる。第2の電極120に高周波電力が投入されることにより、ステージ111の表面にバイアス電圧が発生し、このバイアス電圧によって基板1に入射するイオンが加速され、エッチング速度が増加する。
【0055】
エッチングの条件は、基板1の材質等に応じて設定される。例えば、基板1がSiの場合、真空チャンバ103内に、六フッ化硫黄(SF
6)等を原料とするプラズマを発生させることにより、基板1はエッチングされる。この場合、例えば、プロセスガス源112から、SF
6ガスを100〜800sccmで供給しながら、減圧機構114により真空チャンバ103の圧力を10〜50Paに制御する。このとき、第1の電極109に1000〜5000Wの周波数13.56MHzの高周波電力を供給するとともに、第2の電極120に50〜1000Wの100kHz以上(例えば、400〜500kHz、あるいは、13.56MHz)の高周波電力を供給する。
【0056】
レジストマスクから露出した基板1の表面は、垂直にエッチングされることが望ましい。この場合、上記のように、SF
6等のフッ素系ガスのプラズマによるエッチングステップと、パーフルオロシクロブタン(C
4F
8)等のフッ化炭素ガスのプラズマによる保護膜堆積ステップとを、交互に繰り返してもよい。
【0057】
エッチングによって基板1が個片化された後、アッシングが実行される。アッシング用のプロセスガス(例えば、酸素ガスや、酸素ガスとフッ素を含むガスとの混合ガス等)を、アッシングガス源113から真空チャンバ103内に導入する。一方、減圧機構114による排気を行い、真空チャンバ103内を所定の圧力に維持する。第1の高周波電源110Aからの高周波電力の投入により、真空チャンバ103内には酸素プラズマが発生し、カバー124の窓部124Wから露出している個片化された基板1(電子部品)の表面のレジストマスクが完全に除去される。
【0058】
(7)搬出工程
アッシングが終了すると、真空チャンバ103内のガスが排出される。個片化された基板1を保持する搬送キャリア10は、プラズマ処理装置100から搬出される。搬送キャリア10が搬出されると、真空チャンバ103は再び密閉状態に置かれる。搬送キャリア10の搬出プロセスは、上記のような基板1をステージ111に搭載する手順とは逆の手順で行われてもよい。すなわち、カバー124を所定の位置にまで上昇させた後、ESC電極119への印加電圧をゼロにして、搬送キャリア10のステージ111への吸着を解除し、支持部122を上昇させる。支持部122が所定の位置まで上昇した後、搬送キャリア10は搬出される。
【0059】
[第2実施形態]
本実施形態は、撓み付与工程が、基板保持工程の後であって載置工程の前に、フレーム2に固定された保持シート3を伸長することにより行われること以外、第1実施形態と同様である。
図6に、本実施形態に係るプラズマ処理方法の一部をフローチャートで示す。ただし、撓み付与工程は、準備工程の後、基板保持工程の前に行ってもよい。
【0060】
保持シート3を伸長する方法は、特に限定されない。例えば、内部領域3bに治具を押し当てて負荷をかけることにより伸長させてもよいし、保持シート3を加熱することにより伸長させてもよい。なかでも、特別な装置(治具)を必要としない点で、保持シート3を加熱する方法が好ましい。
【0061】
加熱の条件は特に限定されず、保持シート3の材質、厚み等に応じて適宜設定すればよい。なかでも、保持シート3の損傷を抑制する観点から、表面が50〜60℃程度になるように保持シート3を加熱することが好ましい。加熱する方法も特に限定されず、架台に保持シート3を載置して、上部から加熱装置により加熱してもよいし、保持シート3をホットプレート等に載置して加熱してもよい。
【0062】
加熱は、プラズマ処理装置100の内部で行われてもよい。この場合、搬送キャリア10が支持部122に受け渡された後、支持部122がステージ111のレベル以下にまで下降するまでの間に、保持シート3を加熱する。
【0063】
基板保持工程の後、撓み付与工程に供される前の保持シート3は、その自重および基板1の質量により、撓んでいる場合がある。この初期の撓み量Q
0は、例えば、50μmから800μm程度である。この場合、保持シート3の伸長は、内部領域3bの撓み量Qが初期の撓み量Q
0よりも大きくなるように行われる。