【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (公開1:研究集会における発表) 集会名: ICOLS2017(レーザー分光国際会議) 開催日: 2017年 7月 2日〜 7月 8日 発表日時:2017年 7月 4日 15:45〜16:15 開催場所:フランス・アルカション・パレデコングレ(会議場) 予稿発行:2017年 7月 1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「香取創造時空間プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許願
【文献】
高橋忠宏他,光双極子ガイド内におけるストロンチウムを用いた原子干渉計の実現,日本物理学会第72回年次大会(2017年)概要集,日本,日本物理学会,2017年03月21日,18pH31-10,ISSN 2189-079X
【文献】
McDonald et al.,Optically guided linear Mach Zehnder atom interferometer,Physical Review A,米国,American Physical Society,2013年07月24日,Vol.87, No.1, Pt. B,pp.013632.1-013632.5
【文献】
Yoon et al.,Strong optical nonlinearities in hollow-core photonic-crystal fibers loaded with ensembles of cold atoms,2017 Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim (CLEO-PR),IEEE,2017年07月31日,DOI: 10.1109/CLEOPR.2017.8118921
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガイドレーザービームは、それ自体の光ポテンシャルが前記原子の前記2つの準位に摂動によりもたらす光シフトが互いに等しくなる周波数である魔法周波数をもつものであり、
前記光パルス列をなす前記光パルスの周波数が、該魔法周波数の前記ガイドレーザービームの摂動を受けている前記原子の前記遷移周波数と同一またはほぼ同一になっている、
請求項1に記載の原子干渉計。
前記原子が、イッテルビウム(Yb)、水銀(Hg)、ストロンチウム(Sr)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、およびカルシウム(Ca)からなる群から選択されるものである、
請求項8に記載の原子干渉計。
第1端から第2端まで延びる中空の通路の内部に、該第1端または該第2端のいずれか一方から他方に向けて該中空の通路の内部を伝播する進行波のガイドレーザービームを供給する段階と、
2つの準位間で遷移を起こしうる電子状態を内部状態に持つ原子を、前記ガイドレーザービームが供給されている前記中空の通路の内部に供給する段階と、
前記2つの準位間の遷移周波数と同一またはほぼ同一の周波数をもつ光による光パルス列を、前記第1端または前記第2端のいずれか一方から、前記ガイドレーザービームにより前記原子がガイドされている前記中空の通路の内部に供給する干渉動作段階と
を含み、前記ガイドレーザービームは、前記中空の通路の内部の各位置において、前記原子に対し、該中空の通路の延びる方向である軸方向には実質的に力を作用させないガイドポテンシャルを生成するものである、原子干渉計の動作方法。
前記干渉動作段階の後に、前記ガイドレーザービームの前記中空の通路における前記第1端と前記第2端と間での伝播方向を反転させてガイドレーザービームを供給する段階と、
前記干渉動作段階を再度行う段階と
をさらに含む請求項15に記載の原子干渉計の動作方法。
前記ガイドレーザービームは、それ自体の光ポテンシャルが前記原子の前記2つの準位に摂動によりもたらす光シフトが互いに等しくなる周波数である魔法周波数をもつものであり、
前記光パルス列をなす前記光パルスの周波数が、該魔法周波数の前記ガイドレーザービームの摂動を受けている前記原子の前記遷移周波数と同一またはほぼ同一になっている、
請求項15に記載の原子干渉計の動作方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照し、本発明に係る原子干渉計の実施形態を説明する。全図を通じ当該説明に際し特に言及がない限り、共通する部分または要素には共通する参照符号が付される。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0017】
1.原子干渉計およびその動作
1−1.動作原理
本実施形態の原子干渉計の動作原理を説明するために、ガウシアンビームを用いる原子干渉計の動作を説明する。
図1にガウシアンビームの光ポテンシャルを利用する原子干渉計の主要部を示す。
図1Aはガイドレーザーがガウシアンビームとなっている状態を示す模式図であり、
図1Bは、ガウシアンビームの光ポテンシャルにより導かれている各位置の原子のエネルギー値を示す模式グラフである。原子には光ポテンシャルの力が作用し、その力はz軸方向には比較的弱くxy平面内では比較的強い。原子にはプローブレーザー光源(図示しない)からの光パルスが作用してz軸に沿って運動を変化させる。このz軸方向に加速度が生じている場合には、原子の運動にその加速度が重畳する。原子が
87Srの場合には、原子の電子状態について、基底状態|1>は、5s
2の電子配置をもつ
1S
0、励起状態|2>は5s5pの電子配置の
3P
0である。原子の状態は、内部状態である電子状態と、原子の運動を記述する運動量により特定する事ができ、一般には、内部状態(電子状態)とそれに対応する運動量について組み合わせた状態を重ね合わせたものとなる。
【0018】
本実施形態の原子干渉計では、内部状態となる電子状態の占有数を測定して得られる干渉縞の形態で、原子に作用する加速度が検知される。
図2は、本実施形態のものを含む原子干渉計において、原子の状態と、光パルスの関係を示す説明図である。本出願では簡略化のために電子状態の基底状態|1>を|S>、励起状態|2>を|P>と記すことがある。また、原子の運動を示す原子については、運動量により特定される原子の運動の波動関数は、運動量pにより指定される|p>により記述される。原子の量子力学的状態は、内部状態である電子状態と運動量pの積(直積)で特定される状態の線形和により表現できる。このため、|S>または|P>のどちらかと、それぞれに対応した運動量pで指定される|p>との積として表現される。その積を|S,p>、|P,p>等と記すこととする。なお、本出願においては、3次元ベクトルにて表現されるべき運動量pや光の波数kについてシンボル文字への矢印の明示または太字表示は省略する場合がある。
【0019】
本実施形態の原子干渉計では、原子の電子状態における2つの準位間の遷移周波数と同一の周波数をもつ光の光パルス列が照射され、光のパルス列の種類により干渉計としての動作(動作モード)が変化される。このうち光学分野でのマッハ=ツェンダー型干渉計に対応する干渉計の動作を行う場合にはπ/2パルス、πパルス、π/2パルスと呼ばれる3つの光パルスをこの順に含む光パルス列が、ほぼ等しい時間間隔(T)ずつ隔てて照射される。
【0020】
図2に示すように、初期状態の電子状態が基底状態で運動量pなら|S,p>となって、そのまま原子がガウシアンビームに導入される。1回目のπ/2パルスを照射すると一対の原子状態の重ね合わせが形成される。この対は、一つは電子状態が基底状態のままかつ運動量が変化しない|S,p>のままのもの、もう一つは電子状態が励起状態となりかつ運動量が光パルスから反跳分hbar・k(ただしhbarはプランク定数hを2πで除した商、kは光パルスの波数)だけの運動量を受け取った|P,p+hbar・k>、というものである。対をなす原子のうちの前者は光パルスで励起されなかったもの、後者は励起され内部状態と運動量が変化したものであり、それらの重ね合わせが以降の原子の量子力学的状態を与える。次にπパルスを照射すると、その時点まで|S,p>および|P,p+hbar・k>だった原子の状態は電子状態と運動量がともに変化して、順に|P,p+hbar・k>および|S,p>となり、あたかも電子状態と反跳による運動量増分の関係を相互に入れ替えたようになる。なお、|S,p>が|P,p+hbar・k>に変化するときには、電子状態が励起されて1光子分の運動量が増しているので光の吸収が生じている。これに対し、|P,p+hbar・k>が|S,p>に変化する際には、光の誘導放出が起こり、電子状態が基底状態に遷移し1光子分の運動量を失っている。光パルスの最後として2回目のπ/2パルスを照射すると、分かれた一対となる原子それぞれから生成された|P,p+hbar・k>の成分が干渉し、同様に一対となる原子それぞれから生成された|S,p>の成分が干渉する。π/2パルス(1回目)〜πパルスの時間とπパルス〜π/2パルス(2回目)の時間はほぼ等しくされている。π/2パルス、πパルス、π/2パルスは原子の運動の方向(z軸方向)に向いており、運動量の増減はそのz軸方向にのみ生じていることに注意されたい。この干渉動作では、|P,p+hbar・k>に見出す原子数(占有数)と|S,p>に見出す占有数の間で干渉による振動が観察される。ここで、|P,p+hbar・k>と|S,p>は、いずれも原子の内部状態の波動関数と原子の運動の波動関数との積(直積)であるものの、|P>は|p+hbar・k>とのみ、また|S>は|p>とのみ対応付けられる。この結果として、占有数の観測操作が内部状態のみに射影され、|S>と|P>とラベリングできる内部状態の占有数の決定を行うのみで十分となる。これは、|p>と|p+hbar・k>という運動量の差のみを検出(detect)するために、そのわずかな運動量の違いに頼って観測する必要はないことを意味している点で実用的なものといえる。つまり本実施形態は、2回目のπ/2パルスの後に原子を分離させるための操作やその分離のための原子の長距離の飛行が不要となって、検出処理の簡易化や装置全体の小型化の点で実用的といえる。
【0021】
干渉縞は、例えば、2回のπ/2パルスのうちのどちらか一方の光の位相オフセットを、πパルスおよび他方のπ/2パルスを基準にして動かすことにより測定される。その位相を2π分変化させる間に占有数が1回振動する。例えばN
P/(N
S+N
P)を算出できるように、検出パルス(detection pulse)を利用し、例えばLIF(レーザー誘起蛍光)の観察により、N
S、N
Pを決定することができる。なお、N
S、N
Pはそれぞれ内部状態が|S>および|P>である原子数つまり占有数である。また、
図1Bには、LIFにより直接検出される遷移が|3>と|1>(すなわち|S>)であることが模式的に示されている。2回のπ/2パルスで挟まれた期間の2つに分かれた原子は、異なる運動量でそれぞれが独立して伝播することから、ガウシアンビーム中の光軸方向をz軸方向にともに進むものであっても行路差を持ちうる2つのアームとなる。そのため、上記干渉縞から加速度を測定する、といった原子干渉計の動作が実現する。
【0022】
励起状態の割合は、位相オフセットθを−π〜πと変化する間に1周期分だけ振動する。この実験値を説明するような次式
κ(θ)=1−B+Acos(θ+Δφ) (1)
のA、B、Δφの値を決定すれば、A/Bの値により干渉縞の明瞭さつまり変調量の指標であるビジビリティが算出され、位相シフトΔφも得られる。ここで、位相シフトΔφと測定条件との間には、測定する加速度とプローブ光の方向が揃っているとき、
Δφ=kaT
2 (2)
の関係が成立する。ただし、kはπパルスやπ/2パルスに用いるプローブ光の波数、aは原子により検知される加速度、Tはπ/2パルス〜πパルスおよびπパルス〜π/2パルスのパルス間隔である。
【0023】
原子の運動には原子に作用する力や加速度が影響するため、原子を光軸付近に導く光ポテンシャルも同様に影響する。
図1Bの模式グラフには、ガウシアンビームの光ポテンシャルにより導かれている各位置の原子のエネルギー値を、電子状態が基底状態|1>にあり光ポテンシャルの影響を受けていない値を0にとって示している。ガウシアンビームを採用するものではz軸方向の各位置のエネルギー値は、ビームウエスト部に向かって深くなる光ポテンシャルの形状を反映し下に凸の曲線となる(非特許文献3)。この曲線のz軸方向の勾配は、z軸方向加速度の測定などの原子干渉計の動作、特に高感度での動作のため、ガウシアンビームを採用する限りこの影響からは逃れられない。
【0024】
1−2.中空通路の原子干渉計
ガウシアンビームに伴う課題の少なくともいくつかは、本願にて採用する中空の通路を採用する原子干渉計では克服される。その際、ガウシアンビームの原子干渉計に見られた利点はいずれも失われることはない。
【0025】
図3Aは、中空の通路をもつ光導波路(中空光導波路)120のための一例としてHC−PCF(hollow core photonic crystal fiber)を採用する本実施形態の原子干渉計100の概略構成を示す模式図であり、
図3Bは、その中空光導波路120の具体的構成を示す拡大図、
図3Cは、中空の通路の断面における光の強度分布の代表例を列挙する模式図である。また、
図4は、原子干渉計100に採用する中空光導波路120において光ポテンシャルの様子(
図4A)とそれによる原子のエネルギー値(
図4B)を示す模式説明図である。
【0026】
中空光導波路120は、第1端1202から第2端1204まで延びる中空の通路124を持っている。中空光導波路120は、少なくともガイドレーザービームGLの波長において、中空の通路124がガイドレーザービームGLを導く導波路となるように作用する。このために、中空光導波路120は、中空の通路124の周囲を筒状に囲む筒状壁122を備えているものが好ましい。具体的には、中空光導波路120はHC−PCFであり、筒状壁122が中空の通路124を伝播する光を導波(guiding)するようなフォトニック結晶となっている。HC−PCFのうち本実施形態に適する導波原理は典型的には2つである。一つは、ガイドレーザービームGLにとっての光バンドギャップ(Photonic Bandgap)を原理とするものであり、もう一つは、光バンドギャップによらず、中空の通路124を通る光のモード(コアモード)と筒状壁122を伝播する光のモード(クラッドモード)との伝播モード間での結合の禁止(inhibited coupling)を原理とするものである。光バンドギャップを原理とするHC−PCF(以下「PBG導波HC−PCF」)では、筒状壁122がガイドレーザービームGLの波長の漏出光にとってフォトニックバンドギャップとなるようなフォトニック結晶に作製されている。他方の結合の禁止を原理とするHC−PCF(以下「IC導波HC−PCF」)では、筒状壁122が中空の通路124内の光のモード(コアモード)と筒状壁122内のフォトニック結晶中の光のモード(クラッドモード)の相互の結合を禁止するようなフォトニック結晶に作製されている。PBG導波およびIC導波の両HC−PCFとも、ガイドレーザービームGLが強度ピークを中空の通路124の内部に持ち、原子10がそのガイドレーザービームGLにガイドされつつ中空の通路124の内部に導入されたりそこを通過することができる。ガイドレーザービームGLに対する実質的な径(モードフィールド径)は例えば40μmまたはそれ以下程度とされる。これにより、光導波路である中空光導波路120はシングルモードやマルチモードでガイドレーザービームGLを導くことができる。
【0027】
ガイドレーザー光源140からは、中空の通路124内に光ポテンシャルを形成するガイドレーザービームGLが供給される。
図3Aでは、ガイドレーザービームGLは、第2端1204から中空の通路124に入射され、第1端1202に向かって中空の通路124の内部を伝播する進行波となる。好ましくは、ガイドレーザービームGLの周波数を魔法周波数ω
Mとする。この魔法周波数ω
Mは、ガイドレーザービームGL自体の光ポテンシャルが原子10の2つの準位に摂動によりもたらすエネルギーシフト量すなわち光シフトが互いに等しくなる周波数であり、光の波長(真空中での波長)により魔法波長とも呼ばれる光の持つ周波数である。例えば
87Srについては波長で813nmとする事により、ガイドレーザービームGLを魔法周波数とすることができる。
【0028】
原子供給部160は、例えば
87Srを含み後述する原子群等から選択される2つの準位間で遷移を起こしうる電子状態を内部状態に持つ原子10を供給する。この原子10は中空の通路124の内部に、例えば第1端1202から入射できるように供給される。必要に応じ第1端1202に原子10を供給するための追加のレーザー(図示しない)が採用される。
【0029】
原子干渉計100はさらにプローブレーザー光源180を備えている。プローブレーザー光源180は、原子10の2つの準位間の遷移周波数と同一またはほぼ同一の周波数をもつ光による光パルス列PTを、第1端または第2端のいずれか一方から中空の通路の内部に供給する。
図3Aでは、光パルス列は第1端1202から中空の通路124に供給される。この光パルス列は、原子10の2つの準位についてのπ/2パルス、πパルス、およびπ/2パルスをこの順に含むものである。これらは、上述したガウシアンビームについでの説明(
図2)に示したπ/2パルス、πパルス、およびπ/2パルスと同様の作用をもつ。原子干渉計100のプローブレーザー光源180で原子10に対するπ/2パルスおよびπパルスの区別は、原子干渉計の技術の分野において一般的に行われているように、2準位原子とコヒーレント光との相互作用に見られるラビ振動による電子状態の変化によって表現されている。すなわちπパルスとは、電子状態が基底状態にある原子が、そのパルスとの相互作用によって、100%の確率で励起状態の電子状態をもつようになる、(またはその逆)という意味で占有率が反転するようなパルスである。この反転はラビ振動の位相がπだけ変化することに対応している。同様にπ/2パルスは、ラビ振動の位相がπ/2だけ変化するものであり、例えば内部状態が基底状態か励起状態のどちらか100%である状態から、基底状態と励起状態の占有率が等しく50%となるような相互作用を引き起こすパルスである。
【0030】
パルス列PTのシーケンスとその間隔は、
図2に示したものと同様である。つまり、パルス列PTは、原子102つの準位についてのπ/2パルス、πパルス、およびπ/2パルスをこの順に含み、パルス間隔(T)はほぼ均等である。なお、パルス間隔Tは通常はπ/2パルス、πパルス、およびπ/2パルスのパルス幅よりも桁違いに長く、パルス間隔がほぼ均等であると言いうるかどうかの議論でこれらのパルス幅は問題とならない。
【0031】
図3Bに示すように、中空光導波路120は、ガイドレーザー光源140が供給するガイドレーザービームGLを中空の通路124の内部に強度Iの中心をもつようにシングルモードで導くものが一つの典型例である。また、
図4Bに示すように、ガイドレーザービームGLが、中空の通路124の内部の各位置において、原子10に対し、中空の通路124の延びる方向である軸方向(z軸方向)には実質的に力を作用させず、軸方向に直交する方向である動径方向r(
図3B)には中空の通路124の中心軸に向かう引力を作用させるガイドポテンシャルU
GLを生成する。
【0032】
このような中空の通路124では、
図4Bに示すように第1端1202から第2端1204の殆どの区間でz軸方向の各位置のエネルギー値は一定の値である。これは、ガイドポテンシャルU
GLがこの方向で傾斜しておらず、軸方向に力を実質的に生じないことを示している。
図1Bのガウシアンビームのものでは下に凸の曲線であったが、原子干渉計100では長い距離にわたり軸方向の力を生じないガイドポテンシャルU
GLが実現しており、z軸方向の加速度を測定する際に光ポテンシャルが測定対象となる加速度や力(慣性力を含む)に重畳することがない。また、ガイドポテンシャルU
GLは中空の通路124の中心軸に向かう引力を作用させるため、原子10が筒状壁122の内側面と接触することが回避される。ガイドポテンシャルU
GLは、原子10からみると原子自体を導く作用をもつことから、いわば原子の導線としての役割を果たす。こうして、ガイドポテンシャルU
GLにより導かれる原子10は、動径方向には中空の通路124の中心軸に束縛されつつ、z軸方向には摩擦のない運動が可能になる。特に中空の通路124の径が適切でガイドレーザービームGL自体がシングルモードになっておりガイドポテンシャルU
GLが十分な強度をもつ場合、ガイドポテンシャルU
GLは原子をシングルモードで導くことができる。そのような動作が実現すれば、ガイドレーザービームGLと原子のどちらもがシングルモードとなることによって、干渉動作は理想的なものとなる。干渉縞のビジビリティも100%にできる可能性が生まれる。さらに、コリオリ不確かさが除去され、原子干渉計の問題のプローブ波面の曲率の問題からも免れることができる。サニャック効果の不確かさについても考慮する必要がなくなる。これらは、すべて原子干渉計100の高感度な干渉動作に役立つ性質である。
【0033】
本実施形態の原子干渉計では、
図3Bに示したシングルモードとは別の典型例として、ガイドポテンシャルU
GLが中空の通路124に複数の谷を持つようなマルチモードとなる中空光導波路120も採用することができる。
図3Cに示す中空の通路124の断面(xy面)における光の強度分布の代表例のように、本実施形態の原子干渉計の光の強度分布は、
図3Bに示したシングルモード(
図3CではLP01)となるものに加え、マルチモードのもの(例えば、LP11、LP12、LP21、LP02他の高次モード)も採用することができる。シングルモードのLP01では、光の強度分布が軸対称で中央にピークをもつ強度分布となるため、
図3Bに示したようにガイドポテンシャルU
GLが中空の通路124の断面において中央付近に一つの谷を作る。これに対し、マルチモードでは、一般には強度分布が軸対称とならずに複数のピークをもつことから、ガイドポテンシャルU
GLは中空の通路124の断面において複数の谷をもつ。なお、z軸方向にみるとガイドポテンシャルU
GLはシングルモードでもマルチモードでも一様となる。シングルモードの場合に原子は中空の通路124の中心軸にそう一筋の線路に沿ってガイドされるのに対し、マルチモードの場合には、原子はz軸に平行な複数の線路(並列線路)に沿ってガイドされる。
【0034】
特にガイドレーザービームGLの周波数を魔法周波数(上述)に選んだ場合、2つの準位にもたらされる光シフトが等しいことから、中空光導波路120の内部の中空の通路124においてz軸に直交する動径方向での光ポテンシャルの強度変化が生じていても遷移周波数が影響を受けない。したがって、このため、ガイドレーザービームGLによりガイドされている原子10のうち遷移周波数がシフトして光パルス列PTに対する応答が変化する割合は無視できるほど小さい。つまり、魔法周波数のガイドレーザービームGLでは中空光導波路120でも残りうる動径方向の光ポテンシャル強度変化に関して許容度が大きくなる利点がある。
【0035】
干渉縞の測定のためには、中空の通路124の内部にある原子10の2つの準位それぞれの占有数を検出するための検出パルスが採用される。例えば、内部状態が基底状態|1>にある
87Srを、
図4Bにおいて|3>と記した双極子遷移する状態に共鳴レーザー光で励起すれば、|1>と|3>の間のLIFでの蛍光量から|1>の占有数を決定することができる。|2>の占有数は、|1>と|2>の占有数を反転させるようなπパルスを予め照射してから、同様に|3>との間でのLIFにより|1>の占有数を決定することで求めることができる。|1>の占有数をN
S、|2>の占有数をN
PとしたときN
P/(N
S+N
P)を求めれば励起状態の比率を算出できる。干渉縞を得るためには、
図2の場合と同様に、光パルス列PTのうちの2回のπ/2パルスのうちのどちらか一方の光の位相オフセットを、πパルスおよび他方のπ/2パルスを基準にして動かしつつ当該比率を求める手法が採用できる。同様に、遷移周波数とほぼ同一と言いうる範囲において光パルス列PTのための光の周波数をチャープさせながら当該比率を求める手法によっても、干渉縞を得ることができる。原子干渉計100では、ガウシアンビームの場合で得られた
図2Aの干渉縞よりも、同じパルス間隔では大きなビジビリティを示す原子干渉計の動作が十分期待できる。また、ガウシアンビームの場合で得られた
図2Bのパルス間隔Tとビジビリティの関係よりも、より長いパルス間隔Tまで消失しないビジビリティが期待できる。このため、より高い感度での加速度測定の途が開かれる。しかも、中空光導波路120のために長い距離にわたって一様なガイドポテンシャルU
GLが実現するため、相互作用時間を延ばせる。これによって式(2)のパルス間隔Tを大きくとれることとなって感度を高めることが可能となる。
【0036】
なお検出パルスは、必ずしも中空の通路124の光軸となるz軸に沿い第1端1202または第2端1204を通って中空の通路124の内部に照射したりz軸上のみで検出することは要さない。例えば中空光導波路120がIC導波HC−PCFである場合、筒状壁122には光のバンドギャップが形成されないことから、筒状壁122を透過して中空の通路124の外部から検出パルスの光を検出できる場合がある。このため、IC導波HC−PCFを採用することにより、例えば中空の通路124のうち第1端1202または第2端1204の間の原子が存在する位置かを筒状壁122の外部に漏れる検出パルスの位置的な分布によって決定できる利点もある。
【0037】
1−3.光導波路の減衰への対策
図4Bに示したように、第1端1202から第2端1204の間でガイドポテンシャルU
GLは一定値をもつが、中空光導波路120のためにHC−PCFといった現実の要素を採用すると、光を導波する際に減衰を伴う場合もある。そのような場合には、ガイドレーザー光源140からの光を最初に第2端1204から入射させて測定を行い、次に第1端1202から入射させて測定を行う、というように反転させることが有用である。このためには、ガイドレーザー光源140からの光を中空光導波路120の反対側から入射させるような反転機構を備えていることが好ましい。
【0038】
1−4.原子種
本実施形態では、原子10のための原子種は、長寿命の準安定状態を有する原子およびイオンからなる群から選択され、さらに具体的には、イッテルビウム(Yb)、水銀(Hg)、ストロンチウム(Sr)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、およびカルシウム(Ca)からなる群から選択される。これらの原子は、電子状態によって原子の状態を検出できるため、本実施形態の干渉計の動作に適している。また、これらの原子種のうち、重い原子であるYbやHgでは、加速度の測定値に対する、中空光導波路120の減衰に起因する補正量を減少させうる利点もある。
【0039】
2.応用例
上述した本実施形態の原子干渉計は種々の用途に適用することができる。
2−1.多次元加速度計
本実施形態の原子干渉計100は1次元の加速度に対し感応する構成であり、組み合わせることによってより多次元、特にx、y、z軸をもつ3次元のデカルト座標系の加速度を測定できる3次元用の原子干渉計200を構成することもできる。
図5は、
図3Aに示した原子干渉計100を組み合わせることにより、個別の方向については原子干渉計100と同様の性能を実現するような3次元動作の原子干渉計200の光導波路の構成を示す斜視図である。例えば、原子干渉計100の中空光導波路120のために採用したHC−PCFと同様の構成をもつ中空光導波路120x、120y、120zを各方向に合わせて例えば
図5に示すように向けることが有用である。また、用途次第で2次元原子干渉計を構成することもできる。これらの多次元原子干渉計では、ガイドレーザー光源140、原子供給部160、プローブレーザー光源180といった共通した構成要素は必ずしも次元の数だけもつ必要はない。必要な次元に合わせて中空光導波路120を増設し、他の構成要素は適宜必要な変形を伴うのみで、多次元での高感度な原子干渉計を簡易な改良により実現することができる。
【0040】
2−2.勾配計(gradiometer)
本実施形態の原子干渉計は、3次元のもの以外にも、複数の原子群を利用することにより差動動作を行って高い精度の加速度測定を行うことができる。プローブレーザーのノイズのために感度が劣化するような問題に対しては、本実施形態の原子干渉計100(
図3)を2つ配置して差動動作を行うことが有効である。その差動動作は、典型的には二つの動作により実現され、一つは測定量自体が差分を測定するものであり共通の振動ノイズを除去し、加速度の位置勾配を測定する勾配計である。もう一つは、測定量ではなくプローブレーザーの通し方を工夫するものである(2−5の欄にて後述)。
【0041】
図6Aは、このような勾配を測定するために改良した原子干渉計300の典型的な構成において、光導波路の構成とプローブレーザー光源180の構成を示す配置図である。第1光導波路である中空光導波路120aと第2光導波路である中空光導波路120bは、この典型的な構成では中空の通路が共通の一の直線Lに沿っている。なお、中空光導波路120aと中空光導波路120bは双方の近い側の端部が接していたり、中空光導波路120aと中空光導波路120bが一本の光導波路の部分であっても構わない。中空光導波路120aと中空光導波路120bそれぞれの中空の通路の内部に原子10が供給されて、プローブレーザー光源180からの光パルスPTは、共通の一の直線Lに沿って中空光導波路120bと中空光導波路120aを通るように供給される。このような構成とすれば、プローブレーザーの位相ゆらぎによるノイズがコモンモード(同相成分)の外乱となることによって除去され、量子限界の感度で加速度の勾配を測定することができる。なお、加速度は上記直線Lつまりz軸方向について測定されるので、中空光導波路120aと中空光導波路120bが一つのシャーシなど共通した基体に搭載されていれば、地面の微小な振動などがシャーシに伝わっても同相成分となるので高感度に測定できる。
【0042】
プローブレーザーの位相ゆらぎが加速度の勾配の測定において同相成分となるのは次の理由からである。
図6Aに示したように、中空光導波路120bおよび中空光導波路120aそれぞれの原子10について、順に、位置をz
1、z
2、測定される位相をΔφ
1、Δφ
2、加速度をa
1、a
2とする。測定される位相シフトはΔφ=kaT
2であり(式(2))、そこにはプローブレーザー光源180が持つ位相ゆらぎδφ=ωσ
yT(ただしσ
yは、プローブレーザー光源のアラン偏差)だけの不確かさが含まれることとなる。しかし加速度の勾配Δa
zを測定すると、
Δa
z=a
1−a
2=(Δφ
2+δφ−(Δφ
1+δφ))/(kT
2)
となるため、位相ゆらぎδφに左右されない値が算出される。なお、このような高感度の勾配計では、例えば中空光導波路120aと中空光導波路120bを囲むように配置した質量体70による万有引力定数の測定、といった微小な加速度勾配の計測も可能となる。
【0043】
2−3.回転計
本実施形態の原子干渉計は、回転による遠心力を検出する動作のために採用することもできる。回転による遠心力を測定できる原理は加速度の勾配を計測するものと同様であり、その構成も
図6Aに関連して上述した勾配計となる原子干渉計300のものと同様である。例えばxy平面に含まれるある軸に平行な軸回りの回転は、その回転軸が中空光導波路120aと中空光導波路120bが沿う直線Lを通っているかどうかにも、また、その回転軸が中空光導波路120aと中空光導波路120bそれぞれの原子10の間にあるかどうかにもかかわらず、検出することができる。この回転計の動作では、原子干渉計100全体の回転運動の回転軸が
図6Aに示すz軸に平行でない任意の軸であれば回転を検出可能であり、同相成分が除去される効果が発揮され、回転情報が精度よく決定できる。
【0044】
2−4.長基線長での計測
本実施形態の原子干渉計は、長基線長で重力勾配計や重力波干渉計のために適用することもできる。この場合も、位置を離して本実施形態の原子干渉計100を2つ配置すれば原理的には測定は不可能ではない。その用途ではプローブレーザー光源180に生じうる位相ゆらぎ等の外乱がコモンモードとなって除去される構成が好ましい。
図6Bは、長基線長での計測のために改良した原子干渉計400の光導波路の構成とガイドレーザー光源140の構成を示す配置図である。第1光導波路である中空光導波路120bと第2光導波路である中空光導波路120dは、中空の通路が共通の方向(z軸方向)に延びるように配置されている。第1光導波路である中空光導波路120cと第2光導波路である中空光導波路120dは、例えば光ファイバー192により接続されてガイドレーザービームGLが共通したプローブレーザー光源180から供給される。中空光導波路120cと中空光導波路120dそれぞれの中空の通路の内部に原子10が供給されて測定を行う際にこのように構成したプローブレーザー光源180を利用すれば、プローブレーザー光源180の位相ゆらぎをコモンモードの外乱として除去することができる。光ファイバー192を用いればドップラーキャンセレーションを行うことも容易となる。また光ファイバー192に代えて中空光導波路120cおよび中空光導波路120dをリレー光学系194で接続することによって、プローブレーザー光源180の位相ノイズなどコモンモードとなる外乱を除去できて有用である。このような構成では長い基線で動作する高感度な重力波干渉計を実現することができる。
【0045】
2−5.加速度測定でのレーザー位相ゆらぎの除去
本実施形態の原子干渉計で複数の原子群を利用した差動動作を採用しプローブレーザーの通し方を工夫すれば、加速度の測定においてプローブレーザーの位相ゆらぎを除去することも可能である。
図7Aは、プローブレーザーの位相ゆらぎを除去して加速度を測定できる典型的な原子干渉計における光導波路の構成と光源の構成を示す配置図である。原子干渉計500では、
図7Aに示すように、中空光導波路120aおよび中空光導波路120bが互いに平行に並べられる。そしてプローブレーザー光源180の光パルス列PTは、任意の光学系でリレーすることにより、中空光導波路120aではz軸のプラス向き、中空光導波路120bではマイナス向きとなるように、互いに反平行となるように通す。ガイドレーザー光源140からのガイドレーザービームGLの向きは任意であり、例えばそれぞれを光パルス列PTの向きと反対にしておく。干渉動作は、中空光導波路120aおよび中空光導波路120bそれぞれに原子10が導入されて共通した光パルス列PTにより行われる。この場合、光パルス列PTが中空光導波路120aと中空光導波路120bとで互いに反平行となって伝播の向きが反転しているために、測定される加速度からプローブレーザー光源180の位相ゆらぎの影響が同相成分となって除去される。
【0046】
より具体的には、まず
図7Aに示すように、中空光導波路120b、中空光導波路120aそれぞれの原子10について、順に、位置をz
1、z
2、測定される位相をΔφ
1、Δφ
2、加速度をa
1、a
2とする。計測される位相シフトは、共通する加速度の測定を中空光導波路120bおよび中空光導波路120aそれぞれで行ったものであり、光パルス列PTの伝播の向きが中空光導波路120bおよび中空光導波路120aそれぞれでz軸のプラス向きおよびマイナス向きとなっていることに注意して式(2)をそれぞれに適用する。つまり、計測される値は中空光導波路120aと中空光導波路120bにおける両位相シフトの差分となり、プローブレーザー光源180が持つ位相ゆらぎδφを含めた場合には、
Δφ
2+δφ−(Δφ
1+δφ) =Δφ
2−Δφ
1
=−ka
1T
2+(ka
2T
2) (4)
となる。ここで、a
1がa
2とほぼ同一でありその値をaとおくと、
Δφ
2−Δφ
1=−2kaT
2
となる。この式にはプローブレーザー光源180が持つ位相ゆらぎδφが現われないため、位相ゆらぎに左右されずにz軸方向の加速度aを決定しうることがわかる。
【0047】
2−6.多次元の加速度測定
本実施形態において上述した差動動作による同相成分のプローブレーザーの位相ゆらぎなどの除去は、多次元の加速度を測定するものに適用することもできる。
図7Bは、本発明の実施形態において2次元面内での加速度ベクトルを測定できる典型的な原子干渉計600の光導波路の構成と光源の構成を示す配置図である。原子干渉計600では、中空光導波路120xおよび中空光導波路120yがそれぞれ原子干渉計600に固定されたxyz座標のx軸およびy軸に平行に延びている。プローブレーザー光源180からの光パルス列PTは中空光導波路120xにxのプラス向きで入射し、その後中空光導波路120yをyのマイナス向きに通る。このため、光パルス列PTは中空光導波路120xと中空光導波路120yとで90度の角度をなして伝播している。ガイドレーザー光源140からのガイドレーザービームGLは向きは問われず、例えば光パルス列PTとは逆向きに中空光導波路120yおよび中空光導波路120xを通される。中空光導波路120yおよび中空光導波路120xそれぞれの原子10における位相シフトΔφ
2およびΔφ
1の間の差分は式(4)と同様にプローブレーザーの位相ゆらぎが同相成分となって除去され、
Δφ
2−Δφ
1=−ka
yT
2−(ka
xT
2) (5)
となる。ここで、
図7Bに示すように原子干渉計600全体に作用している加速度aがxy平面でx軸から角θの向きに向いているとき、
【数1】
=−kT
2a(sinθ+cosθ)
=kT
2a(2)
1/2sin(θ+π/4) (6)
と表される。ここでk
x、k
y(ともにベクトル)は、同じ大きさkをもちそれぞれ+x向きおよび−y向きを向く中空光導波路120xおよび中空光導波路120yにおける光パルス列PTのためのプローブレーザーの波数ベクトルである。式(6)より、例えばz軸回りに原子干渉計600の向きを走査し方向θを増減させることによってΔφ
2−Δφ
1の最大値を求めると、加速度の方向と最大加速度を決定できる。すなわち、原子干渉計600はプローブレーザーの位相ゆらぎが同相成分として除去されて高精度な測定を行いつつxy平面内での加速度ベクトルを決定するのに有用である。中空光導波路120xと中空光導波路120yとの対のように互いに垂直に組み合わされた原子干渉計(L字干渉計)は、2次元にとどまらず3次元の加速度の方向やその値を決定するために適用することもできる。
図5の原子干渉計200に例示されるように3次元的に延びるよう向けられた中空導波路から対となるものを選んで原子干渉計600に準じたL字干渉計を構成すれば、3次元の加速度ベクトルを決定することができる。
【0048】
2−7.多光子運動量移行(LMT、large momentum transfer)動作
ここまで説明した本実施形態の原子干渉計において、干渉の動作は、干渉計のアームに相当する原子の分離を、プローブレーザー光源からの光パルスにおける1光子分の運動量の差に頼っていた。より大きな運動量差を実現するためには、LMT(large momentum transfer)の手法を採用することが有用である(非特許文献4)。
図8Aは、LMTの動作のために改良した原子干渉計700の光導波路の構成とプローブレーザー光源による光パルス列の構成を説明する模式図であり、
図8Bは、その動作における原子の状態の変化を示す説明図である。原子干渉計700では光パルス列が、原子10の2つの準位についてのπ/2パルス、複数のπパルス、およびπ/2パルスをこの順に含む。
図8A、Bではともにπ/2パルスを1つ、πパルスを3つの所まで描いている。この際、光パルス列に含まれる各光パルスは、その少なくともいくつかが光パルス列をなす順に交番する向きで中空の通路124を伝播するように供給される。この場合、
図8Bに示すように、πパルスが照射される毎に一方の原子にのみに光子の運動量が足されてゆくことから、運動量の変調量を大きく取ることができて、感度を高めることができる。このLMTの動作では、位相シフトと測定条件との間には、式(2)に代え、
Δφ=NkaT
2 (7)
の関係が成立する。ただし、Nは運動量差を与えるプローブ光の光子数であり、他は式(2)と同様である。このようにLMTでは加速度測定の感度を高めることができる。なお、このような動作は、原子を分離させる機能をπ/2パルスを1つだけではなくその後のいくつかのπパルスまで使って実現している。最終的に干渉縞を得るには再度2つの原子を干渉させる必要があるため、運動量が小さく遅れて進む原子は、その後に同様の手法によって運動量を複数の光子分だけ加えて進ませ、他方の進んでいた原子からは複数の光子分の運動量を放出させて遅らせて、両者のタイミングをそろえて最後にπ/2パルスで干渉させる。
【0049】
2−8.光格子
本願の発明者は、特許文献1にて筒状壁をもつ中空の通路を利用する高性能な光格子時計を提案している。この光格子時計は、全く別の目的の装置であるが、本願における原子干渉計と近い要素を利用するものである。本願においても、ガイドレーザービームを中空光導波路120の両側から中空の通路124に入射させれば、中空の通路124の内部に光格子を形成することができる。そうして形成される光格子は、原子10の速度を制御するために使用することができ、また、その状態からガイドレーザービームの一方を止めるだけで本実施形態にて説明した進行波のガイドレーザービームに戻すことができる。このため、原子干渉計100を含む本実施形態の原子干渉計において、ガイドレーザービームおよび追加のレーザービームの周波数が互いに他からシフトされることより、その光格子を、中空の通路の延びる方向である軸方向に中空の通路の内部を移動可能なものとすることは有用である。具体的には、そのような光格子を使えば、中空の通路124への原子10の導入の操作や、または原子10の初期状態の制御を容易に行うことができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、変形例および実施例は、本出願において開示される発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき定められるべきものである。実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。また、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行うものも本出願の発明の範囲に含まれている。