(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982913
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】多安定コンプライアント機構及び多安定コンプライアント機構の安定分析方法
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20211206BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
F16C11/04 M
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-545109(P2020-545109)
(86)(22)【出願日】2018年10月22日
(65)【公表番号】特表2021-514863(P2021-514863A)
(43)【公表日】2021年6月17日
(86)【国際出願番号】CN2018111206
(87)【国際公開番号】WO2019179092
(87)【国際公開日】20190926
【審査請求日】2020年8月27日
(31)【優先権主張番号】201810223057.6
(32)【優先日】2018年3月19日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】張 憲民
(72)【発明者】
【氏名】張 洪川
(72)【発明者】
【氏名】朱 本亮
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第102705461(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第105697703(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第107140237(CN,A)
【文献】
登録実用新案第3207102(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 11/00
F16C 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4つの基本単位が前後に順次連結されて閉じた環状構造として構成され、
各基本単位は、異なる平面において互いに直交する2つの可撓性ヒンジと、可撓性ヒンジを連結するための2つの剛性連結部とを含み、
2つの可撓性ヒンジは、一方の剛性連結部を介して連結され、かつそのうちの一方の可撓性ヒンジは、他方の剛性連結部を介して、隣接する基本単位の一方の可撓性ヒンジに連結され、
同一の基本単位における2つの剛性連結部の長さは、等しく、異なる基本単位の剛性連結部の長さは、等しい又は等しくないことを特徴とする多安定コンプライアント機構。
【請求項2】
前記多安定コンプライアント機構は、単安定、双安定、三安定及び四安定の4種類であり、
各基本単位は、以下の寸法制約を満たし、
【数1】
上記式において、ω
01、ω
02は、1つの基本単位の出力及び出力回転角速度であり、L
n−1、L
nは、基本単位における2つの剛性連結部の長さであり、θ
n−1、θ
nは、基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
n+1は、次の基本単位の現在の基本単位に対する関節バイアス角度であり、
閉ループ機構を形成するために、上記式に従い、各基本単位は、同じ回転角速度を有し、安定して回転可能な環状構造を形成し、
各基本単位の隣接する2つのヒンジは、同じ角度変化の規則性を有し、初期状態から任意の角度に回転する運動関係が下記式で表され、
【数2】
上記式において、θ
1、θ
2は、それぞれ基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、τは、機構全体の初期ゼロ位置に対する回転角度であり、nは、機構全体の基本単位数であり、φは、nに関連する定数であり、
前記多安定コンプライアント機構の安定位置は、全て、以下の式で表される機構の位置エネルギーの極小値となる点にあり、
【数3】
上記式において、Uは、機構の総歪みエネルギーであり、U
rは、1つの基本単位の総歪みエネルギーであり、K
1、K
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性であり、θ
1、θ
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
01、θ
02は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジのゼロバイアス角度であり、rは、基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性係数の比を示し、f
1、f
2は、それぞれθ
1、θ
01又はθ
2、θ
02に関連し、前記機構の安定遷移関数を分析するために使用され、
多安定コンプライアント機構によって表される安定数に応じて、パラメータθ
01、θ
02によって形成される平面は、単安定領域、双安定領域、三安定領域及び四安定領域に分割され、これらの領域を分割する境界曲線のパラメトリックな式は、
【数4】
であり、ここで、θ
1′及びθ
1″は、それぞれθ
1の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、θ
2′及びθ
2″は、それぞれθ
2の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、曲線方向において、機構パラメータθ
01、θ
02の具体的な値に対応する座標点(θ
01,θ
02)を通る接線の数が、機構の安定数であり、前記接線とθ
01、θ
02によって形成される運動関係曲線との交点が、この機構の安定位置である、
ことを特徴とする請求項1に記載の多安定コンプライアント機構。
【請求項3】
前記可撓性ヒンジは、バネ性ヒンジ、直梁型可撓性ヒンジ、又はノッチ型可撓性ヒンジである、
ことを特徴とする請求項1に記載の多安定コンプライアント機構。
【請求項4】
前記剛性連結部は、リンクである、
ことを特徴とする請求項1に記載の多安定コンプライアント機構。
【請求項5】
(1)基本形状及び基本寸法として変更可能であるが、異なる平面において互いに直交する可撓性ヒンジの各々に対応する剛性係数が同一である基本単位の数nを決定し、
(2)基本単位の可撓性ヒンジのタイプを決定し、決定された可撓性ヒンジのタイプに応じて、コンプライアント機構の関連理論と組み合わせて、剛性係数K
1、K
2及びそれらの比rを決定し、
(3)前記機構の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01、θ
02を、以下の式に従って決定し、
【数5】
(4)関数f
1/f
2のグラフをプロットし、基本単位の可撓性ヒンジの剛性係数比rに対するその交点を求め、交点が求められず又は、f
1/f
2のグラフがプロットできない場合は、直接ステップ(6)に進み、
(5)機構の安定点を以下の式の数値表記に従って見出し、
【数6】
正である場合、安定点は、関数f
1/f
2が下から上へrに交差する点に現れるが、負である場合、安定点は、関数f
1/f
2が上から下へrに交差する点に現れ、
安定点が決定されると、1つの安定点のみがある場合、この機構は、単安定機構であり、2つの安定点がある場合、この機構は、双安定機構であり、3つの安定点がある場合、この機構は、三安定機構であり、4つの安定点がある場合、この機構は、四安定機構であり、ここで、前記の各安定点に対応する回転角τは、機構の安定位置であり、
(6)安定領域境界曲線の下記のパラメトリックな式に従ってグラフをプロットし、
【数7】
実際の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01,θ
02に対応する点(θ
01,θ
02)の位置を決定し、それが位置する安定領域を決定し、さらにその安定数を決定し、
その点が単安定領域にある場合、この機構は、単安定機構であり、この点が双安定領域にある場合、この機構は、双安定機構であり、この点が三安定領域にある場合、この機構は、三安定機構であり、この点が4安定領域内にある場合、この機構は、4安定機構であり、
安定領域境界曲線が点(θ
01,θ
02)を通る接線を見つけ、これらの接線とθ
1,θ
2の運動学的関係曲線との交点を求め、これらの交点が機構の安定点であり、
最後に、下記の式から機構の安定点に対応する安定位置を求めること、
【数8】
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多安定コンプライアント機構の安定分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプライアント機構の技術分野に関し、特に、多安定コンプライアント機構及びその安定分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプライアント機構とは、入力や弾性変形による変位を伝達する装置である。コンプライアント機構は、隙間がなく、潤滑がなく、組み立てが不要で、精度が高く、剛性が大きい等の利点を有しており、生活の様々な分野で広く利用されている。
【0003】
コンプライアント機構の開発過程において、いくつかの機構は、動作中に1つ又はいくつかの安定位置を有することが見出された。この現象をコンプライアント機構の安定性と呼び、これらの機構が安定位置にある状態をコンプライアント機構の安定と呼ぶ。従って、これらの機構の安定位置は、往々して機構の位置エネルギーの極小値となる位置にある。このようなコンプライアント機構の安定数に応じて、コンプライアント機構の安定は、単安定、双安定及び多安定に分けられる。なかでも双安定コンプライアント機構は、スイッチ、トランジスタ及び位置決め装置に広く用いられている。三安定又は多安定コンプライアント機構が提案されているが、多安定コンプライアント機構は、十分に注目されていなかった。
【0004】
現在のコンプライアント機構の主流の設計方法には、疑似剛体方法(PRBMs)とトポロジ最適化方法がある。この2種類の方法によって設計されるコンプライアント機構の大部分も、双安定又は三安定である。しかしながら、多安定機構の設計は、依然として難題である。
【0005】
近年、折り紙機構から啓発されたコンプライアント機構は、ますます注目されている。実際の折り紙においてその折り目自体が可撓性ヒンジと考えられるため、複数の安定を有する折り紙型コンプライアント機構が多数提案されている。折り紙技術は、多安定コンプライアント機構の新しい設計方法となっている。
【0006】
折り紙型回転四面体は、その連続回転性、多安定性などから学者たちに注目されている。特に、その連続回転性は、コンプライアント機構が連続運動に耐えられないという欠点を打破する。現在、対称三重コンプライアント機構として設計された三重回転四面体がある。
【0007】
機構は、回転低次対偶とリンクとからなる空間機構である。三重機構は、機構研究上、空間的過拘束機構に属し、機構隣接関節は、異なる平面において垂直に分布し、かつ運動自由度は1である。三重コンプライアント機構は、その固定の三角形機構トポロジーに制限されて、設計変更が少なく、適用範囲が限られ、全ての動作条件をうまく満たすことができない。回転四面体の単位が3個を超えると、この機構は、多自由度機構となり、機構の分析が複雑であり、研究はまだ為されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のコンプライアント三重機構の三角形トポロジー構造の単一の適用シナリオの制限を克服し、コンプライアント機構の設計を向上させ、空間コンプライアント機構の適用を拡大し、コンパクトで、簡単で信頼性が高く、加工が容易であり、様々な複雑な動作条件に適応できる多安定コンプライアント機構及びその安定分析方法を提案することである。この機構は、三重コンプライアント機構の連続回転性、多安定性等の利点に加え、機構のトポロジーが可変であり、単位数の調整が可能であり、実現及び普及をしやすいという利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために、本発明が提供する技術的解決手段は、以下の通りである。
多安定コンプライアント機構であって、前記多安定コンプライアント機構は、複数の基本単位が前後に順次連結されて閉じた環状構造として構成される。各基本単位は、異なる平面において互いに直交する2つの可撓性ヒンジと、可撓性ヒンジを連結するための2つの剛性連結部とを含む。2つの可撓性ヒンジは、一方の剛性連結部を介して連結され、かつそのうちの一方の可撓性ヒンジは、他方の剛性連結部を介して、隣接する基本単位の一方の可撓性ヒンジに連結される。同一の基本単位における2つの剛性連結部の長さは、等しく、異なる基本単位の剛性連結部の長さは、等しい又は等しくない。
【0010】
前記多安定コンプライアント機構は、単安定、双安定、三安定及び四安定の4種類であり、ここで、各基本単位は、以下の寸法制約を満たさなければならない。
【数1】
上記式において、ω
01、ω
02は、1つの基本単位の出力及び出力回転角速度であり、L
n−1、L
nは、基本単位における2つの剛性連結部の長さであり、θ
n−1、θ
nは、基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
n+1は、次の基本単位の現在の基本単位に対する関節バイアス角度であり、閉ループ機構を形成するために、上記式に従い、各基本単位は、同じ回転角速度を有し、安定して回転可能な環状構造を形成する。
各基本単位の隣接する2つのヒンジは、同じ角度変化の規則性を有し、初期状態から任意の角度に回転する運動関係が下記式で表される。
【数2】
上記式において、θ
1、θ
2は、それぞれ基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、τは、機構全体の初期ゼロ位置に対する回転角度であり、nは、機構全体の基本単位数であり、φは、nに関連する定数である。
前記多安定コンプライアント機構の安定位置は、全て、以下の式で表される機構の位置エネルギーの極小値となる点にある。
【数3】
上記式において、Uは、機構の総歪みエネルギーであり、Urは、1つの基本単位の総歪みエネルギーであり、K
1、K
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性であり、θ
1、θ
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
01、θ
02は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジのゼロバイアス角度であり、rは、基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性係数の比を示し、f
1、f
2は、それぞれθ
1、θ
01又はθ
2、θ
02に関連し、前記機構の安定遷移関数を分析するために使用される。
多安定コンプライアント機構によって表される安定数に応じて、パラメータθ
01、θ
02によって形成される平面は、単安定領域、双安定領域、三安定領域及び四安定領域に分割され、これらの領域を分割する境界曲線のパラメトリックな式は、以下である。
【数4】
ここで、θ
1′及びθ
1″は、それぞれθ
1の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、θ
2′及びθ
2″は、それぞれθ
2の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、曲線方向において、機構パラメータθ
01、θ
02の具体的な値に対応する座標点(θ
01,θ
02)を通る接線の数が、機構の安定数であり、前記接線とθ
01、θ
02によって形成される運動関係曲線との交点が、この機構の安定位置である。
【0011】
前記可撓性ヒンジは、バネ性ヒンジ、直梁型可撓性ヒンジ、又はノッチ型可撓性ヒンジである。
【0012】
前記剛性連結部は、リンクである。
【0013】
本発明の上記多安定コンプライアント機構の安定分析方法は、以下のステップを含む。
(1)基本形状及び基本寸法として変更可能であるが、異なる平面において互いに直交する可撓性ヒンジの各々に対応する剛性係数が同一である基本単位の数nを決定する。
(2)基本単位の可撓性ヒンジのタイプを決定し、決定された可撓性ヒンジのタイプに応じて、コンプライアント機構の関連理論と組み合わせて、剛性係数K
1、K
2及びそれらの比rを決定する。可撓性ヒンジが直梁型可撓性ヒンジである場合、その剛性係数は、下記式から得られる。
【数5】
ここで、Eは、直梁型可撓性ヒンジ材料のヤング率であり、b、hは、それぞれ直梁型可撓性ヒンジの断面幅及び厚さであり、Iは、直梁型可撓性ヒンジの断面2次モーメントである。
(3)前記機構の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01、θ
02を、以下の式に従って決定する。
【数6】
(4)関数f
1/f
2のグラフをプロットし、基本単位の可撓性ヒンジの剛性係数比rに対するその交点を求め、交点が求められず又は、f
1/f
2のグラフがプロットできなかった場合は、直接ステップ(6)に進む。
(5)機構の安定点を以下の式の数値表記に従って見出す。
【数7】
正である場合、安定点は、関数f
1/f
2が下から上へrに交差する点に現れるが、負である場合、安定点は、関数f
1/f
2が上から下へrに交差する点に現れ、安定点が決定されると、1つの安定点のみがある場合、この機構は、単安定機構であり、2つの安定点がある場合、この機構は、双安定機構であり、3つの安定点がある場合、この機構は、三安定機構であり、4つの安定点がある場合、この機構は、四安定機構であり、ここで、前記の各安定点に対応する回転角τは、機構の安定位置である。
(6)安定領域境界曲線の下記のパラメトリックな式に従ってグラフをプロットする。
【数8】
実際の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01,θ
02に対応する点(θ
01,θ
02)の位置を決定し、それが位置する安定領域を決定し、さらにその安定数を決定し、その点が単安定領域にある場合、この機構は、単安定機構であり、この点が双安定領域にある場合、この機構は、双安定機構であり、この点が三安定領域にある場合、この機構は、三安定機構であり、この点が4安定領域内にある場合、この機構は、4安定機構であり、安定領域境界曲線が点(θ
01,θ
02)を通る接線を見つけ、これらの接線とθ
1,θ
2の運動学的関係曲線との交点を求め、これらの交点が機構の安定点である。
最後に、下記の式から機構の安定点に対応する安定位置を求める。
【数9】
【発明の効果】
【0014】
本発明は、従来技術と比較して、以下の利点及び効果を有する。
1.本発明の機構のトポロジー構造は可変であり、その基本単位の数及び形状、可撓性ヒンジの配置位置、並びに剛性連結部の寸法パラメータを変更することによって、実際の動作状態に適合させることができる。
2.本発明は、単安定、双安定、三安定及び多安定などの機能を有し、具体的な安定位置を制御及び調節することができる。
3.本発明は、駆動トルクが1個で済むアンダードライブ性能を有する。回転中に力の制限があり、対称的な回転運動が自然に達成される。
4.本発明の可撓性ヒンジの変形は、従来の三重回転四面体コンプライアント機構と比較して、より小さい範囲に制限されるため、可撓性変形の幾何学的非線形要素干渉を減少させ、可撓性ヒンジの設計を単純化するだけでなく、可撓性ヒンジの耐用年数を向上させ、コンプライアント機構の耐用年数を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の多安定コンプライアント機構のトポロジーを示す図である。
【
図2】本発明の多安定コンプライアント機構の運動学的関係を示す図である。
【
図3】本発明の基本単位の数及び各ゼロバイアス角が既知である場合の、安定数及び安定位置の分析を示す図である。
【
図4】本発明の基本単位の数及び剛性係数の比が既知である場合の安定数の分析を示す図である。
【
図5】本発明の基本単位の数及び剛性係数の比が既知である場合の安定位置の分析を示す図である。
【
図6】本発明の具体的な実施例に係るヒンジを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施例に係る多安定コンプライアント機構は、複数の基本単位が前後に順次連結されて閉じた環状構造1として構成される。前記基本単位101は、異なる平面において互いに直交する2つの可撓性ヒンジ102、103と、可撓性ヒンジを連結するための2つの剛性連結部104、105(具体的にはリンク)とからなる。前記可撓性ヒンジ102、103は、特定の構造に限定されず、一般的なバネ性ヒンジ、直梁型可撓性ヒンジ及び他のノッチ型可撓性ヒンジ等であってもよいし、コンプライアント機構関連理論によって設計された特別な可撓性ヒンジであってもよい。各基本単位の可撓性ヒンジ102の剛性は、同じであり、可撓性ヒンジ103の剛性も同じである。同じ基本単位内の2つの可撓性ヒンジを連結する剛性部104、105の長さは、等しくなければならないが、異なる基本単位の剛性連結部の長さは、等しくなくてもよい。各基本単位の入力角速度及び出力角速度(例えば、図に示す106、107)は、以下の寸法制約を満たす。
【数10】
【0018】
図に示す基本単位の数は、8である。前記機構は、異なるリンクサイズの基本単位101を連結して複数の構成を取ることで、様々な動作条件に対応することもできる。
【0019】
図2に示すように、前記多安定コンプライアント機構の運動形態は、回転運動であり(図示の2)、可撓性ヒンジの回転軸線201と、他の関連するヒンジ軸線が位置する円錐面202の中心軸線との間の角度203が、回転角度として定義される。201と203の軸線が平行である場合は、両者は交わらず、その際の回転角度を0度又は180度と定義する。本発明の機構は、力の制約の範囲内で機構運動としてアンダードライブ性能を示し、かつ、回転角度は、各単位の可撓性ヒンジの回転角度θ
1(図示の204)、θ
2(図示の205)及び基本単位全体が形成する多角形内角φ(図示の206)に関連し、その関係の表現式は、以下である。
【数11】
【0020】
本発明の機構は、1回転周期内に1ないし4の安定状態を有し、これらの安定位置に対応する回転角度が上記安定位置である。
【0021】
図3に示すように、本発明に係る機構の安定数及び安定位置は、基本単位の数n及び各々のゼロバイアス角θ
01、θ
02が既知である場合、主に以下の式に依存する。
【数12】
【0022】
図中、基本単位数n=4、ゼロバイアスθ
01=0.005π、θ
01=0.01πという具体的な状況について、本機構を詳細に説明している。剛性係数比3と曲線f
1/f
2(図示の301)との交点302を分析することによって、この機構の位置エネルギー関数の全ての停留点を得ることができる。dθ
1/dτ、θ
1(図示の303)及びf
2の三者の積の符号によって、位置エネルギー関数の全ての停留点からこの機構の安定数と安定位置を決定することができる。(1)前記三者の積の符号が正であれば、曲線301が下から上に直線3と交差する点は、この機構の安定位置となり、(2)三者の積の符号が負であれば、曲線301が上から下に直線3と交差する点は、この機構の安定位置となる。
【0023】
図4に示すように、基本単位の数nと剛性係数比rを固定したまま、基本単位のゼロバイアスθ
01、θ
02を決定又は変更することにより、本発明に記載の機構の安定数及び安定位置を直感的に分析して制御することができる。機構が示す安定数に応じて、パラメータθ
01、θ
02によって形成される平面は、単安定領域401、双安定領域402、三安定領域403及び四安定領域404に分けることができる。これらの領域を分割する境界曲線405のパラメトリックな式は、以下である。
【数13】
【0024】
図中で分析した機構の具体的なパラメータは、n=4、r=1である。決定されたθ
01、θ
02について、点(θ
01,θ
02)は、図中の安定領域にあり、このパラメータを使用する前記機構は、対応する安定状態として現れる。図中の特定の点406を例にとると、本発明に記載の機構がその点のパラメータを採用する場合、前記機構は、四安定性能として現れる。
【0025】
図5に示すように、基本単位の数nと剛性係数比rを固定した場合、本発明に記載の機構の安定数をθ
01、θ
02の定常分布図で求めた後、曲線の接線方向でこの機構の安定位置を求めることができる。図中の点501を例にとると、曲線方向502に応じて、2つの接線503、504がある。前記曲線とθ
1、θ
2によって形成される運動学的関係曲線505との交点506、507は、この機構の安定位置である。前記安定位置は、回転角τに一意的に対応する。交点におけるθ
1、θ
2を用いて、具体的な回転角を以下の式に従って逆解することができる。
【数14】
【0026】
図6に示すように、本発明は、直接、直梁型可撓性ヒンジを用いて対応する機能を実現することができる。前記直梁型可撓性ヒンジは、矩形断面の薄板6であり、その長さL(図中の601)、幅b(図中の602)、厚さh(図中の603)、及び材料のヤング率Eは、可撓性ヒンジの剛性を下記式に従って変化させることができる。
【数15】
【0027】
ヒンジのゼロバイアス角度は、直梁型可撓性ヒンジの初期形状を円弧に曲げることによって形成されてもよく、円弧の角度604は、前記ヒンジのゼロバイアス角度θ
01又はθ
02である。
【0028】
図7に示すように、本発明に直梁型可撓性ヒンジが用いられる具体的な構造7がある。具体的な構造7は、異なる平面に直線状に分布され、互いに直交する直梁型コンプライアントヒンジ701と、2つの隣接するヒンジを連結する固定構造702と、駆動トルク入出力端子703及び704とを含む。この構造は、棒登りロボット、パイプロボット、トンネルロボット等の設計に直接用いることができ、その多安定性は、運動の信頼性を大きく向上させることができる。
【0029】
以下は、本実施例の上記多安定コンプライアント機構の安定分析方法であり、以下のステップを含む。
(1)基本形状及び基本寸法として変更可能であるが、異なる平面において互いに直交する可撓性ヒンジの各々に対応する剛性係数が同一でなければならない基本単位の数nを決定する。
(2)基本単位の可撓性ヒンジのタイプを決定し、決定された可撓性ヒンジのタイプに応じて、コンプライアント機構の関連理論と組み合わせて、剛性係数K
1、K
2及びそれらの比rを決定する。可撓性ヒンジが直梁型可撓性ヒンジである場合、その剛性係数は、下記式から得られる。
【数16】
ここで、Eは、直梁型可撓性ヒンジ材料のヤング率であり、b、hは、それぞれ直梁型可撓性ヒンジの断面幅及び厚さであり、Iは、直梁型可撓性ヒンジの断面2次モーメントである。
(3)前記機構の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01、θ
02を、具体的には以下の式に従って決定する。
【数17】
(4)関数f
1/f
2のグラフをプロットし、基本単位の可撓性ヒンジの剛性係数比rに対するその交点を求める。交点が求められない、又はf
1/f
2のグラフがプロットできなかった場合は、直接ステップ(6)に進む。
(5)機構の安定点を以下の式の数値表記に従って見出す。
【数18】
正である場合、安定点は、関数f
1/f
2が下から上へrに交差する点に現れるが、負である場合、安定点は、関数f
1/f
2が上から下へrに交差する点に現れる。安定点が決定されると、1つの安定点のみがある場合、この機構は、単安定機構であり、2つの安定点がある場合、この機構は、双安定機構であり、3つの安定点がある場合、この機構は、三安定機構であり、4つの安定点がある場合、この機構は、四安定機構である。ここで、前記の各安定点に対応する回転角τは、機構の安定位置である。
(6)安定領域境界曲線の下記パラメトリックな式に従ってグラフをプロットする。
【数19】
実際の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01,θ
02に対応する点(θ
01,θ
02)の位置を決定し、それが位置する安定領域を決定し、さらにその安定数を決定する。その点が単安定領域にある場合、この機構は、単安定機構であり、この点が双安定領域にある場合、この機構は、双安定機構であり、この点が三安定領域にある場合、この機構は、三安定機構であり、この点が4安定領域内にある場合、この機構は、4安定機構である。安定領域境界曲線が点(θ
01,θ
02)を通る接線を見つけ、これらの接線とθ
1,θ
2の運動学的関係曲線との交点を求め、これらの交点が機構の安定点である。
最後に、下記式から機構の安定点に対応する安定位置を求める。
【数20】
【0030】
図1及び
図2から分かるように、本発明は、集中的可撓性ヒンジに関する。運動関係は対応する剛性機構と同様であるが、本発明による多安定コンプライアント機構は、可撓性ヒンジの弾性変形によって生じる力の制限を有する。これによって、機構学的に複数の自由度がある場合でも、単一ドライブを用いて連続的な回転機能を実現することもできる。前記可撓性ヒンジは、特定の構造的制限がなく、基本単位の数及び形状が可変であるため、本発明は、様々な動作状況に適応可能であり、潜在的な応用価値が高い。
【0031】
図3〜
図5から分かるように、本発明の安定性は、前記基本単位の2つの隣接する可撓性ヒンジの剛性係数、剛性係数比、各々のゼロバイアス角度及びそれらの単位数に関連する。本発明の前記多安定コンプライアント機構の安定性分析方法は、簡単で直観的である。また、既知の機構の安定性を分析するだけでなく、前記多安定コンプライアント機構の安定数及び安定位置を設計及び制御することもできる。
【0032】
図6〜
図7から分かるように、本発明は、通常の可撓性ヒンジを使用して実現することもできる。より低い設計閾値を有し、より実用的である。
【0033】
本発明は、従来のコンプライアント三重機構の連続回転及び多安定の特徴を引き継ぎ、機構的トポロジー可変、安定性の測定/制御/調節可能などの利点を有する。従って、太陽電池パネル、太陽帆、アンテナ、新生血管ステント等の折り畳み機構の姿勢維持装置にそのまま適用できるし、棒登りロボット、パイプロボット、トンネルロボット、変胞ロボットの設計にも適用でき、潜在的な応用価値は大きい。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、コンプライアント機構の連続回転や多安定性等の機能を有効に発揮させることができ、かつ機構のトポロジーが可変である。安定性及び安定位置の測定/制御/調節が可能であることは、特に複雑な動作条件に適している。従って、本発明は、従来技術に比べて、構造が簡単で、動作が確実で、使い勝手の良い新規な多安定コンプライアント機構であり、普及価値がある。
【0035】
なお、上述した実施例は、本発明の好適な実施例に過ぎず、これをもって本発明の実施範囲を制限するというわけではない。従って、本発明の形状や原理に基づいた変更は、すべて本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0036】
(付記)
(付記1)
複数の基本単位が前後に順次連結されて閉じた環状構造として構成され、
各基本単位は、異なる平面において互いに直交する2つの可撓性ヒンジと、可撓性ヒンジを連結するための2つの剛性連結部とを含み、
2つの可撓性ヒンジは、一方の剛性連結部を介して連結され、かつそのうちの一方の可撓性ヒンジは、他方の剛性連結部を介して、隣接する基本単位の一方の可撓性ヒンジに連結され、
同一の基本単位における2つの剛性連結部の長さは、等しく、異なる基本単位の剛性連結部の長さは、等しい又は等しくないことを特徴とする多安定コンプライアント機構。
【0037】
(付記2)
前記多安定コンプライアント機構は、単安定、双安定、三安定及び四安定の4種類であり、
各基本単位は、以下の寸法制約を満たし、
【数21】
上記式において、ω
01、ω
02は、1つの基本単位の出力及び出力回転角速度であり、L
n−1、L
nは、基本単位における2つの剛性連結部の長さであり、θ
n−1、θ
nは、基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
n+1は、次の基本単位の現在の基本単位に対する関節バイアス角度であり、
閉ループ機構を形成するために、上記式に従い、各基本単位は、同じ回転角速度を有し、安定して回転可能な環状構造を形成し、
各基本単位の隣接する2つのヒンジは、同じ角度変化の規則性を有し、初期状態から任意の角度に回転する運動関係が下記式で表され、
【数22】
上記式において、θ
1、θ
2は、それぞれ基本単位における2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、τは、機構全体の初期ゼロ位置に対する回転角度であり、nは、機構全体の基本単位数であり、φは、nに関連する定数であり、
前記多安定コンプライアント機構の安定位置は、全て、以下の式で表される機構の位置エネルギーの極小値となる点にあり、
【数23】
上記式において、Uは、機構の総歪みエネルギーであり、U
rは、1つの基本単位の総歪みエネルギーであり、K
1、K
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性であり、θ
1、θ
2は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジの偏向角度であり、θ
01、θ
02は、それぞれ1つの基本単位の2つの可撓性ヒンジのゼロバイアス角度であり、rは、基本単位の2つの可撓性ヒンジの剛性係数の比を示し、f
1、f
2は、それぞれθ
1、θ
01又はθ
2、θ
02に関連し、前記機構の安定遷移関数を分析するために使用され、
多安定コンプライアント機構によって表される安定数に応じて、パラメータθ
01、θ
02によって形成される平面は、単安定領域、双安定領域、三安定領域及び四安定領域に分割され、これらの領域を分割する境界曲線のパラメトリックな式は、
【数24】
であり、ここで、θ
1′及びθ
1″は、それぞれθ
1の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、θ
2′及びθ
2″は、それぞれθ
2の回転角τに対する1次導関数及び2次導関数であり、曲線方向において、機構パラメータθ
01、θ
02の具体的な値に対応する座標点(θ
01,θ
02)を通る接線の数が、機構の安定数であり、前記接線とθ
01、θ
02によって形成される運動関係曲線との交点が、この機構の安定位置である、
ことを特徴とする付記1に記載の多安定コンプライアント機構。
【0038】
(付記3)
前記可撓性ヒンジは、バネ性ヒンジ、直梁型可撓性ヒンジ、又はノッチ型可撓性ヒンジである、
ことを特徴とする付記1に記載の多安定コンプライアント機構。
【0039】
(付記4)
前記剛性連結部は、リンクである、
ことを特徴とする付記1に記載の多安定コンプライアント機構。
【0040】
(付記5)
(1)基本形状及び基本寸法として変更可能であるが、異なる平面において互いに直交する可撓性ヒンジの各々に対応する剛性係数が同一である基本単位の数nを決定し、
(2)基本単位の可撓性ヒンジのタイプを決定し、決定された可撓性ヒンジのタイプに応じて、コンプライアント機構の関連理論と組み合わせて、剛性係数K
1、K
2及びそれらの比rを決定し、
(3)前記機構の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01、θ
02を、以下の式に従って決定し、
【数25】
(4)関数f
1/f
2のグラフをプロットし、基本単位の可撓性ヒンジの剛性係数比rに対するその交点を求め、交点が求められず又は、f
1/f
2のグラフがプロットできない場合は、直接ステップ(6)に進み、
(5)機構の安定点を以下の式の数値表記に従って見出し、
【数26】
正である場合、安定点は、関数f
1/f
2が下から上へrに交差する点に現れるが、負である場合、安定点は、関数f
1/f
2が上から下へrに交差する点に現れ、
安定点が決定されると、1つの安定点のみがある場合、この機構は、単安定機構であり、2つの安定点がある場合、この機構は、双安定機構であり、3つの安定点がある場合、この機構は、三安定機構であり、4つの安定点がある場合、この機構は、四安定機構であり、ここで、前記の各安定点に対応する回転角τは、機構の安定位置であり、
(6)安定領域境界曲線の下記のパラメトリックな式に従ってグラフをプロットし、
【数27】
実際の基本単位の可撓性ヒンジのゼロバイアス角θ
01,θ
02に対応する点(θ
01,θ
02)の位置を決定し、それが位置する安定領域を決定し、さらにその安定数を決定し、
その点が単安定領域にある場合、この機構は、単安定機構であり、この点が双安定領域にある場合、この機構は、双安定機構であり、この点が三安定領域にある場合、この機構は、三安定機構であり、この点が4安定領域内にある場合、この機構は、4安定機構であり、
安定領域境界曲線が点(θ
01,θ
02)を通る接線を見つけ、これらの接線とθ
1,θ
2の運動学的関係曲線との交点を求め、これらの交点が機構の安定点であり、
最後に、下記の式から機構の安定点に対応する安定位置を求めること、
【数28】
を含むことを特徴とする付記1〜4のいずれか1つに記載の多安定コンプライアント機構の安定分析方法。