(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に屈折率の異なる薄膜を積層させることによって、反射防止機能や増反射機能を有した機能性膜付基板が知られている。このような、機能性膜付基板は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法を用いて基板に薄膜を積層させることによって形成されたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、このような機能性膜付基板において、赤外線用(赤外光用)の機能性膜付基板を製造する際に、シリコン基板が用いられることがある。シリコン基板は、赤外線用機能性膜付基板を製造する際に用いられる他の基板(例えば、ゲルマニウム基板、カルコゲナイド基板等)に比べてコスト的に安価である。
【0004】
例えば、赤外線用機能性膜付基板の製造において、シリコン基板を用いる場合に、シリコン基板の表面に薄膜を積層させようとすると、シリコン基板と薄膜との密着性が弱いために、シリコン基板から薄膜が剥離しやすい。このため、シリコン基板の表面にイオンビームを照射し、シリコン基板の表面に改質層を形成し、シリコン基板と薄膜との密着性を向上させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本件発明の実施形態における赤外線用機能性膜付シリコン基板について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における赤外線用機能性膜付シリコン基板の積層構成を示す概略図である。
【0012】
例えば、本実施形態において、赤外線用機能性膜付シリコン基板は、シリコン基板上に複数の薄膜を積層してなる赤外線用機能性膜付シリコン基板である。例えば、赤外線用機能性膜付シリコン基板1は、シリコン基板(Si基板)2と、密着層3と、機能性膜層4と、で形成される。例えば、本実施形態において、シリコン基板2の少なくとも一方の面において、シリコン基板2の上に密着層3が形成されている。また、例えば、密着層3の上に機能性膜層4が形成されている。すなわち、例えば、シリコン基板2の一方の面には、シリコン基板2側から順に、密着層3、機能性膜層4、が順に積層されている。
【0013】
なお、本実施形態における赤外線用機能性膜付シリコン基板1は、シリコン基板2の一方の面に密着層3と機能性膜層4とが形成される構成を例に挙げて説明しているがこれに限定されない。例えば、赤外線用機能性膜付シリコン基板1としては、シリコン基板2の両面に密着層3と機能性膜層4とが形成される構成であってもよい。なお、本実施形態においては、赤外線用機能性膜付シリコン基板1における機能性膜層4として反射防止膜層が用いられる場合を例に挙げて説明する。すなわち、以下の説明においては、赤外線用機能性膜付シリコン基板の内、赤外線用反射防止膜付シリコン基板を例に挙げて説明する。
【0014】
例えば、本実施形態において、赤外線用機能性膜付シリコン基板1は、2μm以上の赤外波長領域において透過率が高くなるように構成されている。もちろん、赤外波長領域は、上記構成に限定されない。透過率を高くする赤外波長領域は、任意の赤外波長領域を設定することができる。例えば、透過率を高くする赤外波長領域は、2μm〜15μm付近の赤外波長領域等であってもよい。なお、透過率を高くする赤外波長領域に応じて、機能性膜層4の材料、光学的膜厚が適宜設定される。以下の説明においては、10μm付近の赤外波長領域の透過率を高くする赤外線用機能性膜付シリコン基板を例に挙げて説明する。
【0015】
例えば、本実施形態において、シリコン基板2は、屈折率として3.4を有するシリコン基板である。なお、本実施形態においては、屈折率として3.4のシリコン基板2を用いる構成を例に挙げて説明するがこれに限定されない。例えば、異なる屈折率のシリコン基板2が用いられる構成としてもよい。例えば、本実施形態において、シリコン基板2は、0.5mmの厚みを有する。もちろん、異なる厚みのシリコン基板2が用いられる構成としてもよい。なお、例えば、本実施形態におけるシリコン基板2は、板状に限定されず、フィルム基板を含むものとしている。また、例えば、本実施形態におけるシリコン基板2としては、レンズ等の光学部材も含むものとしている。
【0016】
例えば、密着層3は、シリコン基板2と機能性膜層4との間の密着性を向上させるために形成される層である。例えば、密着層3は、Si(ケイ素)からなる。例えば、本実施形態において、密着層3は屈折率3.4のSiである。なお、本実施形態においては、密着層3として、屈折率3.4のSiを用いる構成を例に挙げて説明するがこれに限定されない。例えば、密着層3として、異なる屈折率のSiが用いられる構成としてもよい。なお、密着層3としては、Siに限定されない。例えば、密着層3としては、SiO、ZrO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、Al
2O
3、HfO
2、Y
2O
3、CeO
2等の金属酸化物も使用されうる。また、例えば、密着層3としては、YF
3、LaF
3、MgF
2、CeF
3、YbF
3等のフッ化物も使用されうる。また、例えば、密着層3としては、上記記載の物質の少なくとも2つ以上を混合した混合物も使用されうる。
【0017】
なお、例えば、密着層3の材料としては、透過率を高くする赤外波長領域で透明である、又は、透過率を高くする赤外波長領域の光の吸収が少ない等の材料が選択されることが好ましいと考えられる。もちろん、透過率を高くする赤外波長領域の光の吸収が多いものであっても、膜厚を小さくすることによって、適用されうる。なお、赤外線用機能性膜付シリコン基板1が、7μm〜15μm付近の赤外波長領域において透過率が高くなるように構成される場合には、より透明性の高いSiが選択されることが好ましい。
【0018】
例えば、密着層3の物理膜厚は、シリコン基板2との密着性が高いとともに機能性膜層4との密着性が高い効果を有する膜厚であればよい。例えば、密着層3の物理膜厚は、1nm以上400nm以下が好ましく、より好ましくは、10nm以上100nm以下である。例えば、物理膜厚が1nm未満であると、密着性が悪くなり、機能性膜層4がシリコン基板2から剥離しやすくなる。また、例えば、物理膜厚が400nmを超えると、赤外波長領域における透過率を低下させるため、反射防止機能が低下する傾向となる。すなわち、Siには赤外波長領域の光を吸収する性質がある。このため、Siの光学的膜厚は、小さい(薄い)方が赤外波長領域の光が吸収されづらくなるためより好ましい。本実施形態において、密着層3の物理膜厚は、30nmである。なお、例えば、物理膜厚とは、物差しで膜厚を測定することによって算出される一般的にいう膜厚のことである。なお、光学膜厚は、物理膜厚に物質の屈折率を掛けあわせることによって算出される。
【0019】
例えば、機能性膜層4は、屈折率に差のある材料を積層した構造とし、物理膜厚、屈折率等を調整することにより反射防止機能が得られるものである。このため、機能性膜層4を複数の薄膜層を積層して構成することも可能である。なお、機能性膜層4の膜厚は、透過率を高くする赤外波長領域に応じて、適宜設定される。例えば、機能性膜層4の光学膜厚(物理膜厚と屈折率との掛けあわせ)はλ/4(λは透過率を高くする赤外波長領域の中心波長)で設定される。
【0020】
例えば、本実施形態において、機能性膜層4は、反射防止膜層である。例えば、本実施形態において、機能性膜層4は、屈折率の異なる薄膜が積層された多層膜からなる。より詳細には、例えば、本実施形態において、機能性膜層4は、第1薄膜層5と、第2薄膜層6と、で形成される。
【0021】
例えば、第1薄膜層5は、シリコン基板2の屈折率より低い屈折率の材料(低屈折材料)からなる薄膜層である。なお、本実施形態においては、第1薄膜層5がシリコン基板2の屈折率より低い屈折率の材料からなる場合を例に挙げて説明しているが、これに限定されない。例えば、第1薄膜層5は、第2薄膜層6の屈折率よりも低い屈折率の材料からなる薄膜層であってもよい。例えば、低屈折材料としては、硫化亜鉛(ZnS)、フッ化イットリウム層(YF
3層)、二酸化シリカ層(SiO
2層)等が挙げられる。本実施形態においては、第1薄膜層5としてZnS層(屈折率2.3)が用いられる。もちろん、ZnSの屈折率は2.3に限定されず、他の屈折率であってもよい。例えば、本実施形態においては、第1薄膜層5の物理膜厚は、100nm以上2000nm以下が好ましく、より好ましくは、300nm以上1500nm以下である。物理膜厚がこれ以上厚くても、薄くても反射防止機能を有することが困難となる。本実施形態においては、第1薄膜層5の物理膜厚は、1100nmである。
【0022】
例えば、第2薄膜層6は、シリコン基板2の屈折率より高い屈折率の材料(高屈折材料)からなる薄膜層である。なお、本実施形態においては、第2薄膜層6がシリコン基板2の屈折率より高い屈折率の材料からなる場合を例に挙げて説明しているが、これに限定されない。例えば、第2薄膜層6は、第1薄膜層5の屈折率よりも高い屈折率の材料からなる薄膜層であってもよい。例えば、高屈折材料としては、ゲルマニウム(Ge)、二酸化チタン(TiO
2)等が挙げられる。本実施形態においては、第2薄膜層6としてGe層(屈折率4.0)が用いられる。もちろん、Geの屈折率は4.0に限定されず、他の屈折率であってもよい。例えば、本実施形態においては、第2薄膜層6の物理膜厚は、50nm以上1500nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上1000nm以下である。物理膜厚がこれ以上厚くても、薄くても反射防止機能を有することが困難となる。本実施形態においては、第2薄膜層6の物理膜厚は、650nmである。
【0023】
例えば、本実施形態の機能性膜層4において、シリコン基板2から最も外側の最終層が低屈折材料からなる第1薄膜層5となっている。すなわち、シリコン基板2側から順に第2薄膜層6、第1薄膜層5の順に積層されている。なお、シリコン基板2から最も外側の最終層を異なる薄膜としてもよい。例えば、シリコン基板2から最も外側の最終層は、高屈折材料からなる第2薄膜層6であってもよい。この場合には、機能性膜層4の反射防止機能に影響が及ばない程度の膜厚で形成されることが好ましい。
【0024】
なお、本実施形態において、機能性膜層4は、複数の薄膜が積層された多層膜からなる構成を例に挙げて説明したがこれに限定されない。例えば、機能性膜層4は、少なくとも1つ以上の薄膜からなる構成であればよい。この場合、例えば、機能性膜層4は、シリコン基板2より低屈折材料からなる第1薄膜層5(例えば、ZnS層等)のみで構成されるようにしてもよい。
【0025】
なお、本実施形態において、機能性膜層4は、第1薄膜層5と、第2薄膜層6と、の2層で形成される場合を例に挙げて説明しているが、これに限定されない。例えば、機能性膜層4は、第1薄膜層5の材料と第2薄膜層5の材料との複数の薄膜が交互に繰り返し積層されている構成(例えば、シリコン基板2側から4層(Ge層、ZnS層、Ge層、ZnS層の順に積層)で構成、7層(ZnS層、Ge層、ZnS層、Ge層、ZnS層、Ge層、ZnS層の順に積層)で構成、8層で構成等)としてもよい。
【0026】
なお、本実施形態において、機能性膜層4は、2つの異なる材料を用いて形成される場合を例に挙げて説明しているが、これに限定されない。例えば、機能性膜層4は、第1薄膜層5の材料及び第2薄膜層5の材料に加え、さらに、異なる材料による薄膜層を形成するようにしてもよい。
【0027】
なお、本実施形態においては、機能性膜層4は、反射防止機能を有する反射防止膜層を例に挙げて説明したがこれに限定されない。例えば、機能性膜層4は、他の機能を有するものであってもよい。例えば、機能性膜層4は、増反射、エッジフィルター、ビームスプリット、バンドパス、等の機能を有するものであってもよい。
【0028】
上記で示した各薄膜層(密着層3、機能性膜層4)をシリコン基板2上に形成する方法としては、物理的気層成長方法(PVD)では、真空蒸着方法、スパッタ方法、イオンプレーティング方法等が挙げられる。また、化学的気層成長方法(CVD)では、化学的気層成長方法等が挙げられる。これらの成膜方法は、本実施形態としてすべて使用可能であるが、成膜に際して高温を伴うような方法では熱によるシリコン基板2の変形等が考えられるため、シリコン基板2での多層膜の成膜は高熱を必要としない真空蒸着方法やスパッタ方法が好適に用いられる。
【0029】
以上のように、例えば、本実施形態においては、シリコン基板と機能性膜層との間にSiからなる密着層を設けることによって、シリコン基板に機能性膜層を形成した場合であっても、シリコン基板から機能性膜層が剥離することを抑制し、耐久性のよい赤外線用機能性膜付シリコン基板を得ることができる。すなわち、赤外線用機能性膜付基板において、コスト的に安価なシリコン基板を用いる場合であっても、赤外線に対する光学機能を有しつつ、耐久性のよい赤外線用機能性膜付シリコン基板を容易に得ることができる。
【0030】
また、例えば、本実施形態においては、機能性膜層として反射防止膜層を設け、シリコン基板と反射防止膜層との間にSiからなる密着層を設けることによって、シリコン基板に反射防止膜層を形成した場合であっても、シリコン基板から反射防止膜層が剥離することを抑制し、耐久性のよい赤外線用機能性膜付シリコン基板を得ることができる。
【0031】
以下、本実施例及び比較例を示して本開示を具体的に説明するが、本開示は、下記実施例に制限されるものではない。以下、実施例1〜2では、シリコン基板の一方の面において、シリコン基板の上にSiからなる密着層と、密着層の上に機能性膜層(本実施例の場合には反射防止膜層)と、をシリコン基板側から順に形成し、得られた赤外線用機能性膜付シリコン基板の密着性、及び機能性を評価した。実施例3〜4では、シリコン基板の両面において、シリコン基板の上にSiからなる密着層と、密着層の上に機能性膜層と、をシリコン基板側から順に形成し、得られた赤外線用機能性膜付シリコン基板の密着性、及び機能性を評価した。
【0032】
比較例1〜2では、シリコン基板の一方の面において、シリコン基板の上に機能性膜層を形成し、得られた赤外線用機能性膜付シリコン基板の密着性、及び機能性を評価した。
【0033】
<実施例1>
実施例1では、蒸着源にSi顆粒、Ge顆粒、ZnS顆粒を用意し、真空蒸着により、密着層としてSiを、高屈折率の第1反射膜層(薄膜層)としてGeを、低屈折率の第2反射膜層(薄膜層)としてZnSを、シリコン基板上にシリコン基板側から順番に積層し、反射防止膜付シリコン基板を得た。すなわち、高屈折率の第1反射膜層としてGeと低屈折率の第2反射膜層としてZnSとによって、反射防止膜層を形成した。ここで、シリコン基板としては、厚さ0.5mmのシリコン板を用いた。Siからなる密着層の膜厚は、物理膜厚で30nmとした。Geからなる第1反射膜層の膜厚は、物理膜厚で650nmとした。ZnSからなる第2反射膜層の膜厚は、物理膜厚で1100nmとした。得られた反射防止膜付シリコン基板の透過率を赤外分光光度計(PerkinElme Inc.Frontier)にて測定した。評価基準は、反射防止膜層を付ける前のシリコン基板の透過率(51%)より透過率が高かった場合には評価○、反射防止膜を付けていないシリコン基板の透過率(51%)以下であった場合には評価×とした。また、反射防止膜付シリコン基板に対して密着試験を行い、反射防止膜層とシリコン基板の密着性の評価を行った。密着試験は反射防止膜付シリコン基板に粘着テープ(ニチバン(株)テープNo.405) を強く貼り付け、それを素早く剥がし反射防止膜の剥がれの有無を確認した。この作業を3回繰り返し、反射防止膜層が剥離しなかった場合には評価○、反射防止膜層が一部でも剥離した場合には評価×とした。下記の実施例2、比較例1〜2についても同様の評価をした。評価結果を表1に示した。
【0034】
<実施例2>
反射防止膜層をGeからなる第1反射膜層とZnSからなる第2反射膜層とによって形成した代わりに、反射防止膜層を低屈折率の第1反射膜層としてZnSのみで形成した以外は、実施例1と同様に反射防止膜付シリコン基板を作製した。ZnSからなる第1反射膜層の膜厚は、物理膜厚で1100nmとした。
【0035】
<比較例1>
シリコン基板と反射防止膜層との間に密着層を形成しない以外は、実施例1と同様に反射防止膜付シリコン基板を作製した。
【0036】
<比較例2>
シリコン基板と反射防止膜層との間に密着層を形成しない以外は、実施例2と同様に反射防止膜付シリコン基板を作製した。
【0037】
【表1】
(結果)
以上、表1で示されるように、シリコン基板と反射防止膜層との間にSiからなる密着層を設けた赤外線用機能性膜付シリコン基板の密着性が、シリコン基板と反射防止膜層との間にSiからなる密着層を設けない場合の密着性と比較して向上する。また、Siからなる密着層を用いた場合に、密着層の上に積層される薄膜層が高屈折材料又は低屈折材料のいずれの材料であっても、密着性を向上させることができる。
【0038】
このように、シリコン基板と反射防止膜層との間にSiからなる密着層を設けることによって、シリコン基板に反射防止膜層を形成した場合であっても、シリコン基板から反射防止膜層が剥離することを抑制し、耐久性のよい赤外線用機能性膜付シリコン基板を得ることができる。