特許第6983035号(P6983035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983035回転電機および回転電機の製造方法、鉄道車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983035
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】回転電機および回転電機の製造方法、鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20211206BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H02K3/34 C
   H02K15/12 E
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-208222(P2017-208222)
(22)【出願日】2017年10月27日
(65)【公開番号】特開2019-80480(P2019-80480A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓明
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 直大
(72)【発明者】
【氏名】亀川 大輔
【審査官】 島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102780297(CN,A)
【文献】 特表2003−508004(JP,A)
【文献】 特開昭60−102833(JP,A)
【文献】 特開2016−082762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/48
H02K 15/12
H01F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子コイルを固定子コアのスロットに収納後に含浸樹脂を含浸硬化する全含浸型の回転電機であって、
前記スロットの開口部近傍に設けられた溝に嵌合され、前記スロット内に前記固定子コイルを固定する楔を備え、
前記楔の表面に、前記含浸樹脂とは異なる絶縁樹脂が担持されており、
前記絶縁樹脂は、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂、脂環式エポキシのいずれかであることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記楔の前記溝との嵌合面に、前記絶縁樹脂が担持されていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記楔と前記固定子コイルの間に楔下詰め物を備え、
前記楔の前記溝との嵌合面および前記楔下詰め物との対向面に、前記絶縁樹脂が担持されていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記楔下詰め物の表面に、前記絶縁樹脂が担持されていることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
(a)楔の表面に絶縁樹脂を担持させる工程と、
(b)固定子コアのスロット内に固定子コイルを装着する工程と、
(c)前記(a)工程において表面に絶縁樹脂を担持させた前記楔を、前記スロットの開口部近傍に設けられた楔溝に挿入し、前記固定子コイルを前記スロット内に固定する工程と、
(d)前記固定子コアに装着された状態の前記固定子コイルを真空含浸槽内に収納し、加熱乾燥する工程と、
(e)前記真空含浸槽内に含浸樹脂を供給し、真空加圧含浸により前記固定子コアの前記スロット内に含浸樹脂を含浸させる工程と、を含み、
前記絶縁樹脂は、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂、脂環式エポキシのいずれかであることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機の製造方法であって、
前記楔の前記楔溝との嵌合面に、前記絶縁樹脂を担持させることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の回転電機の製造方法であって、
前記楔の前記楔溝との嵌合面および楔下詰め物との対向面に、前記絶縁樹脂を担持させることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の回転電機の製造方法であって、
前記楔下詰め物の表面に、前記絶縁樹脂を担持させることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項9】
電力変換器および回転電機からなる回転電機駆動システムを備える鉄道車両であって、
前記回転電機は、請求項1から4のいずれか1項に記載の回転電機であることを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の構造に係り、特に、固定子コイルを固定子コアのスロットに収納後に樹脂を含浸硬化する全含浸型の回転電機に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動機や発電機などの回転電機では、例えば固定子コイルが、固定子コアのスロットに収納されて固定子が構成される。このようにして構成される回転電機用コイルとコアの絶縁方式には、コイル形成時に樹脂を硬化させた後コアに収納する方式(この方式には、プリプレグ方式と単独含浸方式がある)と、コイルをコアに収納後に樹脂を含浸硬化する方式(全含浸方式)がある。
【0003】
電動機や発電機などの回転電機用コイルをコアに固定する方法として、コイル形成時に樹脂を硬化させた後コアに収納する方式では、ライナをコア内に配置後、或いはライナと同時に回転電機用コイルをコアに収納し、コア開口部に楔(ウェッジ)を打ち込んでコイルをコアに固定する。
【0004】
また、コイルをコアに収納後に樹脂を含浸硬化する方式では、絶縁樹脂が未含浸の回転電機用コイルとライナをコアに装着した状態で、絶縁樹脂を例えば真空状態で含浸し、その後、含浸した絶縁樹脂を硬化させることで、回転電機用コイルの絶縁を確保するとともに、コアとの間に隙間が生じないように固定している。
【0005】
上記のコイルをコアに収納後に樹脂を含浸硬化する方式では、絶縁樹脂を空隙無く充填し硬化させるため、加熱硬化時に回転電機用コイルとライナをコアに装着した状態で、被含浸物全体を回転させる(回転硬化或いは回転乾燥と言う)方法を取っている。しかし、この方法では、大型の回転電機の場合、乾燥炉中に大型重量物を回転させる大規模な設備を設ける必要があると共に、大型重量物を回転するための治具を取り付ける必要がある。
【0006】
このような問題を解決すべく、例えば特許文献1では、被含浸物に含浸レジンを真空加圧含浸した後、含浸レジンに硬化触媒または硬化促進剤を添加した速硬化レジンを被含浸物の表面にスプレーまたは塗布し、その後乾燥炉中で加熱硬化する絶縁処理方法が示されている。また、特許文献2では、コイル内部及びコイルのまわりの少なくとも一方に含浸樹脂を吸収して膨潤する部材を配置する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−110938号公報
【特許文献2】特開平04−197056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に示される、被含浸物に含浸レジンを真空加圧含浸した後、含浸レジンに硬化触媒または硬化促進剤を添加した速硬化レジンを被含浸物の表面にスプレーまたは塗布し、その後乾燥炉中で加熱硬化する絶縁処理方法により、ポットライフの長い含浸レジンを用いて、製造設備を増強せずに、素線角部にも空隙無くレジンを充填した状態で硬化することが出来る。
【0009】
しかしながら、本製造方法では、一旦真空加圧含浸した後、硬化触媒または硬化促進剤を添加した速硬化レジンを被含浸物にスプレーまたは塗布する必要があり、コイルをコアに収納し、楔によりコイルをコアに固定した状態では、楔とコアの隙間に速硬化レジンをスプレーまたは塗布することが困難であり、楔とコアの隙間部分のレジンの含浸状態にバラツキが発生した状態で硬化する問題がある。
【0010】
また、上記特許文献2に示される、コイル内部及びコイルのまわりの少なくとも一方に含浸樹脂を吸収して膨潤する部材を配置する構成では、楔とコアの間に形成された隙間部分には対応しておらず、楔とコア間の隙間部分で含浸樹脂が流出する問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、固定子コイルを固定子コアのスロットに収納後に含浸樹脂を含浸硬化する全含浸型の回転電機において、楔と楔溝の間に隙間の無い信頼性の高い回転電機およびそれを備えた鉄道車両を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、固定子コイルを固定子コアのスロットに収納後に樹脂を含浸硬化する全含浸方式の回転電機の製造方法において、楔と楔溝の間に隙間なく絶縁樹脂層を構成し、スロット内からの含浸樹脂の流出を防止可能な信頼性の高い回転電機の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、固定子コイルを固定子コアのスロットに収納後に含浸樹脂を含浸硬化する全含浸型の回転電機であって、前記スロットの開口部近傍に設けられた溝に嵌合され、前記スロット内に前記固定子コイルを固定する楔を備え、前記楔の表面に、前記含浸樹脂とは異なる絶縁樹脂が担持されており、前記絶縁樹脂は、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂、脂環式エポキシのいずれかであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、(a)楔の表面に絶縁樹脂を担持させる工程と、(b)固定子コアのスロット内に固定子コイルを装着する工程と、(c)前記(a)工程において表面に絶縁樹脂を担持させた前記楔を、前記スロットの開口部近傍に設けられた楔溝に挿入し、前記固定子コイルを前記スロット内に固定する工程と、(d)前記固定子コアに装着された状態の前記固定子コイルを真空含浸槽内に収納し、加熱乾燥する工程と、(e)前記真空含浸槽内に含浸樹脂を供給し、真空加圧含浸により前記固定子コアの前記スロット内に含浸樹脂を含浸させる工程と、を含み、前記絶縁樹脂は、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂、脂環式エポキシのいずれかであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、電力変換器および回転電機からなる回転電機駆動システムを備える鉄道車両であって、前記回転電機は、上記に記載の回転電機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、予め楔に絶縁樹脂或いは硬化促進剤を担持させることで、固定子コイルを固定子コアに収納した後、絶縁樹脂を含浸・硬化する作業性を悪化させることなく、楔と固定子コアの間に隙間なく樹脂層を形成することが可能となる。これにより、被含浸物を回転乾燥しなくても、含浸樹脂が楔と固定子コアの隙間を通してスロット内から流出することを防止した回転電機を提供できる。
【0017】
また、楔に担持させる絶縁樹脂を、例えば、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独或いは3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂を予め担持させることで、楔部周辺の樹脂の耐熱性及び接着性を向上した回転電機を提供できる。
【0018】
さらに、楔に担持させる硬化促進剤として熱潜在性の金属アセチルアセトネート系硬化促進剤、イミダゾールのエポキシアダクト化合物、アミン系硬化促進剤などを選択することで、楔部周辺の樹脂の耐熱性及び接着性を向上した回転電機を提供できる。
【0019】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る回転電機の概略断面図である。
図2図1のB−B’部断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る回転電機のスロット出口部の概略斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る回転電機の楔の構成を示す断面図である。(実施例1)
図5】本発明の一実施形態に係る回転電機の楔の構成を示す断面図である。(実施例2)
図6】本発明の一実施形態に係る回転電機の楔の構成を示す断面図である。(実施例3)
図7】本発明の一実施形態に係る回転電機の製造工程の一部を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る回転電機を備えた鉄道車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0022】
図1から図4および図7を参照して、実施例1の回転電機とその製造方法について説明する。図1は、本実施例の回転電機の概略断面図である。
【0023】
本実施例の回転電機1は、図1に示すように、ハウジング2とハウジング2に軸受け3A,3Bを介して回転自在に支持された回転軸4と、回転軸4に支持された磁極を有する回転子5と、回転子5に周方向の空隙を介して対向する固定子6とを備えている。
【0024】
回転子5は、回転子コア(回転子鉄心)7Rと回転子コア7Rに装着された回転子コイル(回転子巻線)8Rを備えている。また、固定子6は、ハウジング2に支持された固定子コア(固定子鉄心)7と固定子コア7に装着された固定子コイル(固定子巻線)8とから構成されている。
【0025】
なお、本実施例および以下に説明する各実施例では、主として、コアの代表例として固定子コア7を用いて説明し、回転電機用コイルの代表例として固定子コイル8を用いて説明するが、それぞれ回転子コア7Rおよび回転子コイル8Rにも適用することができる。
【0026】
図2は、図1のB−B’線に沿う固定子スロットの断面図である。また、図3は、図1のB−B’断面から右側に相当する固定子コア出口部近傍の概略斜視図である。なお、図3では、図2との対応を判り易くするため、コア7及びライナ12の一部を切り欠いて描いている。
【0027】
図2に示すように、固定子コア7には、回転子5に対向する内径側から外径側に向かい、かつ、固定子コア7の全長に亘るスロット(巻線溝)7Gが周方向に複数等間隔で形成されており、スロット7Gの開口部近傍には楔溝7Wが形成されている。
【0028】
図4は、楔9に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させる範囲を示しており、本実施例では、楔溝7Wに面する楔9の側面に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させたものである。楔9に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させた後、楔溝7Wに楔9を挿入することで、スロット7Gに装着された固定子コイル8を固定している。
【0029】
なお、固定子コイル8は、図2および図3に示すように、周知の絶縁材料による素線絶縁が施された複数の素線導体10を複数本ずつまとめて周知の絶縁材料による層間絶縁層11を施したコイル導体15を形成し、このコイル導体15を複数まとめてその外周に周知の絶縁材料による主絶縁層20を形成することで構成されている。
【0030】
このように固定子コア7のスロット7G内に、上記のように構成された固定子コイル8を、絶縁樹脂を含浸させずに、図2および図3に示すように、絶縁材からなる中間詰め物42を挟んで上下2段積みにし、この状態で固定子コア7のスロット7G内に配置されたライナ12を介して挿入している。
【0031】
ライナ12は固定子コイル8の長手方向に一体としていることで、絶縁樹脂を未含浸の固定子コイル8をスロット7Gに収納する際、固定子コイル8の主絶縁層20などの損傷を防止可能としている。固定子コイル8のスロット7Gへの挿入後に、その上に絶縁材からなる楔下詰め物41を重ね、その後、図4に示す絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を予め担持した楔9を楔溝7Wに挿入している。
【0032】
固定子コア7に装着された固定子コイル8は、その後、真空含浸槽内(図示せず)に収納され、一旦加熱乾燥される。この際、図4に示すように楔9に予め絶縁樹脂30が担持された構成では、加熱乾燥下において絶縁樹脂30が半硬化或いは硬化状態となり、楔9と楔溝7Wの隙間に隙間なく樹脂層が形成される。その後、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂を周知の手順で真空加圧含浸させ、各絶縁層内外および図2に示したスロット7G内の隙間に絶縁樹脂を含浸させる。その後、含浸した絶縁樹脂を加熱硬化させる。
【0033】
図7を用いて、上述した回転電機1の製造工程の要部を説明する。図7は本実施例の回転電機の製造工程の一部を示すフローチャートである。
【0034】
先ず、少なくとも固定子コア7の楔溝7Wに面する楔9の側面に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させる。(ステップS1)また、固定子コア7のスロット7G内に固定子コイル8を装着する。(ステップS2)
次に、ステップS1で側面に予め絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させた楔9を楔溝7Wに挿入し、固定子コイル8をスロット7G内に固定する。(ステップS3)
続いて、固定子コア7に装着された状態の固定子コイル8を真空含浸槽内に収納し、加熱乾燥する。(ステップS4)この際、加熱乾燥下において楔9の側面に担持された絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31が半硬化或いは硬化状態となり、楔9の側面と楔溝7Wの間にボイド(気泡)や隙間の無い良質な樹脂層(絶縁層)が形成される。
【0035】
最後に、真空含浸槽内に絶縁樹脂(エポキシ樹脂など)を供給し、真空加圧含浸により固定子コア7のスロット7G内に絶縁樹脂を含浸させる。(ステップS5)
このようにして、主絶縁層20に空隙の発生が少ない信頼性の高い固定子コイル8および、スロット7G内の隙間に絶縁樹脂が隙間なく含浸された固定子コイル8を適用した回転電機を提供することが可能となる。これにより、スロット7G内に含浸された絶縁樹脂の流出がなく、固定子コイル8のスロット7G内での含浸樹脂の保持性能を向上することが可能になり、信頼性の高い回転電機を提供できる。
【0036】
言い換えると、本実施例の回転電機は、未含浸の固定子コイルを固定子コアに収納し絶縁樹脂を含浸硬化する方式の回転電機用において、予め楔に含浸絶縁樹脂とは異なる絶縁樹脂或いは硬化促進剤を担持させたものである。固定子コイルを固定子コアに収納し固定子コアの開口部に絶縁樹脂或いは硬化促進剤を担持させた楔(ウェッジ)を打ち込んで固定子コイルを固定子コアに固定した後に、樹脂含浸タンク(真空含浸槽)内で加熱乾燥処理などを施し、絶縁樹脂を例えば真空状態で含浸する。その後、含浸した絶縁樹脂を硬化させる。
【0037】
本実施例の方式によれば、予め楔に担持させた絶縁樹脂は、加熱乾燥処理時に半硬化或いは硬化状態とすることで、楔と固定子コアの隙間に隙間なく樹脂層を形成することが可能となる。また、予め楔に硬化促進剤を担持させた構成では、絶縁樹脂を真空状態で含浸した後硬化させる段階で、硬化促進剤の働きにより他の部位よりも早く含浸樹脂が硬化することで、楔とコアの隙間に隙間なく樹脂層を形成することが可能となる。
【0038】
なお、楔9の表面に担持させる絶縁樹脂或いは硬化促進剤は、いずれか一方であっても良く、両方を担持させても良い。
【実施例2】
【0039】
次に、図5を参照して、実施例2の回転電機とその製造方法について説明する。図5は本実施例の回転電機の楔の構成を示す断面図であり、図4(実施例1)の変形例である。なお、本実施例において、楔9以外の構成は実施例1の図1図3と共通するため、再度の説明は省略する。
【0040】
実施例1では、楔溝7Wに面する楔9の側面に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させたが、本実施例では、楔9の楔溝7Wに面する側面に加え、絶縁材からなる楔下詰め物41に面する面(対向面)にも絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させた点が、実施例1と比較した場合の変更点である。
【0041】
本実施例では、図5に示すように楔溝7Wに面する側面に加え、楔下詰め物41に面する面にも絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させている。これにより、楔溝7Wおよびスロット7G側、楔下詰め物41(固定子コイル8)側の楔9の3面に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させることで、ムラを少なく担持させることが可能となり、楔9と楔溝7Wの隙間により確実に隙間なく樹脂層を形成することが可能となり、さらに、含浸された絶縁樹脂の流出を抑え、固定子コイル8のスロット7G内での含浸樹脂の保持性能を向上することが可能になり、信頼性の高い回転電機を提供できる。
【実施例3】
【0042】
次に、図6を参照して、実施例3の回転電機とその製造方法について説明する。図6は本実施例の回転電機の楔の構成を示す断面図であり、図4(実施例1)及び図5(実施例2)の変形例である。なお、本実施例において、楔9以外の構成は実施例1の図1図3と共通するため、再度の説明は省略する。
【0043】
実施例1及び実施例2では、楔9の側面或いは、楔9の側面と楔下詰め物41に面する面に絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させたが、本実施例では、楔9に加え楔下詰め物41にも絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させた点が、実施例1、実施例2と比較した場合の変更点である。
【0044】
本実施例では、図6に示すように楔9の側面と楔下詰め物41に面した面に加え、楔下詰め物41の全周を覆うように絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させている。楔下詰め物41にも絶縁樹脂30或いは硬化促進剤31を担持させることで、楔9が固定子コイル8の長手方向(図2における紙面の奥行方向)に2以上に分割されている回転電機に対しても、楔下詰め物41とスロット7Gの隙間に隙間なく樹脂層を形成することが可能となり、含浸された絶縁樹脂の流出を抑え、固定子コイル8のスロット7G内での含浸樹脂の保持性能を向上することが可能になり、信頼性の高い回転電機を提供できる。
【実施例4】
【0045】
上記の実施例1〜3の各実施例において、楔9或いは楔下詰め物41に担持させる絶縁樹脂30としては、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂単独、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂と酸無水物骨格を含む樹脂、脂環式エポキシと熱潜在性硬化促進剤などを用いることができる。
【0046】
ここで、3以上のエポキシ基を有する絶縁樹脂としては、三官能のトリス(ヒドロキシフェニル)アルカン、四官能のテトラキス(ヒドロキシフェニル)アルカン、四官能ポリグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、酸無水物骨格を含む樹脂としては、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。さらに、脂環式エポキシとしては、(3’,4'−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。
【0047】
また、実施例1〜3の各実施例において、楔9或いは楔下詰め物41に担持させる硬化促進剤31としては、熱潜在性硬化促進剤があり、例えば、金属系アセチルアセトネート、さらに具体的には、マンガン[III]アセチルアセトネート、コバルト[III]アセチルアセトネート、或いはイミダゾールのエポキシアダクト化合物、イミダゾール類を含むアミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0048】
なお、楔9或いは楔下詰め物41に担持させる絶縁樹脂30は、真空含浸槽内に供給する含浸樹脂と同じ材料のものを使用し、異なる条件下で半硬化或いは硬化させたものであっても良く、含浸樹脂とは異なる材料の絶縁樹脂を使用しても良い。従って、本願明細書において「含浸樹脂とは異なる絶縁樹脂」とは、「含浸樹脂とは異なる(条件下・工程で半硬化或いは硬化させた)絶縁樹脂」および「含浸樹脂とは異なる(材料・組成の)絶縁樹脂」のいずれの意味も含むものとする。
【実施例5】
【0049】
図8を参照して、本発明による回転電機を備えた鉄道車両について説明する。図8は、本実施例の鉄道車両の概略構成を示す図である。
【0050】
本実施例の鉄道車両50は、図8に示すように、台車53と、台車53に増速ギア51を介して車軸54によって回転可能に軸支される複数の車輪52と、増速ギア51を介して複数の車輪52に機械的に接続され、複数(4個)の車輪52を駆動する複数台(2台)の回転電機1を備えている。本実施例の鉄道車両50の駆動系は、このように1軸1モータにて構成されている。
【0051】
ここで、回転電機1は、上記の実施例1〜4の各実施例において説明した回転電機1が適用され、鉄道車両50に搭載される電力変換器(図示せず)と共に、本実施例の鉄道車両50の回転電機駆動システムを構成する。なお、図示しない電力変換器には、架線や鉄道車両に搭載される蓄電システムなどから電源電力を入力(供給)する。
【0052】
本実施例において、駆動系は、1軸1モータで2軸を駆動する駆動方式であり、計2台の回転電機を備えているが、これに限らず、他の駆動方式を用いて、1台の鉄道車両50に1台あるいは3台以上の複数台の回転電機1を備える構成としても良い。
【0053】
厳しい環境下において使用される鉄道車両用回転電機には、より高い耐水性(耐湿性)、耐熱性、耐振動性が求められる。そこで、本実施例のように、鉄道車両50に搭載される回転電機に実施例1〜4の各実施例において説明した回転電機1を適用することで、鉄道車両の回転電機に対する信頼性を向上することができる。
【0054】
なお、上記の各実施例における回転電機は、主に鉄道用高圧電動機を想定して説明したが、本発明の対象はこれに限定されるものではなく、一般産業向け高圧電動機や風力発電機、車載ポンプ、ダンプカー用電動機及び発電機などにも適用することができる。
【0055】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…回転電機、2…ハウジング、3A,3B…軸受け、4…回転軸、5…回転子、6…固定子、7…固定子コア(固定子鉄心)、7G…スロット(巻線溝)、7R…回転子コア(回転子鉄心)、7W…楔溝、8…固定子コイル(固定子巻線)、8R…回転子コイル(回転子巻線)、9…楔、10…素線導体(固定子素線導体)、11…層間絶縁層、12…ライナ、15…コイル導体(固定子コイル導体)、20…主絶縁層(固定子コイルの主絶縁層)、30…絶縁樹脂、31…硬化促進剤、41…楔下詰め物、42…中間詰め物、50…鉄道車両、51…増速ギア、53…台車、54…車軸。
図1
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図8