【文献】
Allison D. Ebert et al.,Experimental Neurology,2008年,Vol.209,p.213-223
【文献】
Clive N. Svendsen et al.,Journal of Neuroscience Methods,1998年,Vol.85,p.141-152
【文献】
Narisorn Kitiyanant et al.,Neurochem Res,2012年,Vol.37,p.143-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まない神経幹細胞と比較して、有意に増大した数のGAD65陽性GABA作動性ニューロンに分化可能である、請求項1に記載の胎児由来ヒト神経幹細胞。
前記神経変性性疾患または障害が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳傷害(TBI)、アルツハイマー病(AD)、認知症、軽度認知障害、糖尿病、糖尿病関連CNS合併症、末梢神経障害、レチナール神経障害または多発性硬化症である、請求項6に記載の組成物。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
本開示は、一般に、例えば、神経栄養因子を含む成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含むヒト神経幹細胞に関する。一実施形態では、成長因子は、ヒト神経幹細胞によって安定に発現される。このようなヒト神経幹細胞は、それを必要とする対象(例えば、神経変性性疾患または障害を有するヒト対象)において神経変性性疾患または障害の治療のために使用され得る。
【0004】
本開示は、インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)を提供する。神経幹細胞は、例えば、安定な過剰発現を含めて、IGF−1を発現する。IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞は、驚くべきことに、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まない神経幹細胞と比較して有意に増大した数のGAD65陽性GABA作動性ニューロンをもたらす。
【0005】
本開示はまた、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)も提供する。神経幹細胞は、例えば、安定な過剰発現を含めて、成長因子を発現する。
【0006】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、成長因子は、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)および血管内皮細胞成長因子(VEGF)からなる群から選択される神経栄養因子である。
【0007】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1は、IGF−1アイソフォーム4などのIGF−1アイソフォームである。上記のまたは以下の実施形態のいずれかのさらなる実施形態では、IGF−1アイソフォーム4は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0008】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1アイソフォームは、N末端シグナルペプチド、成熟IGF−1タンパク質およびE−ペプチドを含む。
【0009】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、皮質、海馬、視床、中脳、小脳、後脳、脊髄および後根神経節からなる群から選択される組織に由来する。
【0010】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、胎児または胚から得られる。
【0011】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、胎齢が約5〜約20週である胎児から得られる。
【0012】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、ニューロンおよび/またはグリアに分化可能である。
【0013】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、脳および/または脊髄に生着可能である。
【0014】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、不死化される。
【0015】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、不死化遺伝子を保持するレトロウイルスによる感染によって不死化される。
【0016】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドは、ユビキチンC(UbC)プロモーター(例えば、配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するユビキチンC(UbC)プロモーター)、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター、ヒトシナプシンプロモーターまたは合成CAGプロモーターと作動可能に連結している。
【0017】
本開示はまた、インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを含むヒト神経幹細胞であって、IGF−1が配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含み、IGF−1ヌクレオチド配列が安定に発現される、ヒト神経幹細胞を提供する。
【0018】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、不死化される。
【0019】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドは、ユビキチンC(UbC)プロモーター(例えば、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有するユビキチンC(UbC)プロモーター)、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター、ヒトシナプシンプロモーターまたは合成CAGプロモーターと連結している。
【0020】
本開示はまた、神経変性性疾患または障害の治療のための方法であって、対象(例えば、神経変性性疾患または障害を有するヒト対象)に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数の神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)を投与することを含む、方法を提供する。
【0021】
本開示はまた、神経変性性疾患または障害の治療のための方法であって、対象(例えば、神経変性性疾患または障害を有するヒト対象)に、治療有効量の、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数の神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)を投与することを含む、方法を提供する。
【0022】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、成長因子は、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)および血管内皮細胞成長因子(VEGF)からなる群から選択される神経栄養因子である。
【0023】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1は、IGF−1アイソフォーム4などのIGF−1アイソフォームである。上記のまたは以下の実施形態のいずれかのさらなる実施形態では、IGF−1アイソフォーム4は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0024】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1アイソフォームは、N末端シグナルペプチド、成熟IGF−1タンパク質およびE−ペプチドを含む。
【0025】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、治療有効量の、1または複数のヒト神経幹細胞は、ニューロンおよび/またはグリアに分化可能である。
【0026】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、治療有効量の1または複数のヒト神経幹細胞は、脳または脊髄に生着可能である。
【0027】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドは、ユビキチンC(UbC)プロモーター(例えば、配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するユビキチンC(UbC)プロモーター)、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター、ヒトシナプシンプロモーターまたは合成CAGプロモーターと作動可能に連結している。
【0028】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、神経変性性疾患または障害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳傷害(TBI)、アルツハイマー病(AD)、認知症、軽度認知障害、糖尿病、糖尿病関連CNS合併症、末梢神経障害、レチナール神経障害または多発性硬化症である。
【0029】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、脊髄損傷は、外傷性脊髄損傷または虚血性脊髄損傷である。
【0030】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、治療有効量の1または複数の神経幹細胞は、神経変性の領域に注射される。
【0031】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、治療有効量の1または複数の神経幹細胞は、神経変性の領域中の約5〜約50部位に投与される。
【0032】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、1または複数の部位は、およそ100ミクロン〜約5000ミクロンの距離だけ離れている。
【0033】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、治療有効量の1または複数の神経幹細胞のうち、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ超が、神経変性の領域でニューロンを生成可能である。
【0034】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、対象はヒトである。
【0035】
本開示はまた、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、成長因子が安定に発現される、ヒト神経幹細胞を作製する方法であって、1または複数のヒト神経幹細胞を得ることと、ポリD−リシンおよびフィブロネクチンでプレコーティングされた組織培養処理ディッシュ上に1または複数の神経幹細胞をプレーティングすることと、1または複数の神経幹細胞を成長培地(例えば、血清不含成長培地)中で培養することと、1または複数の神経幹細胞を増殖させて、増殖した神経幹細胞の集団を産生することと、神経幹細胞に、成長因子をコードするベクターを感染させることとを含む、方法を提供する。一実施形態では、増殖した神経幹細胞は、増殖した神経幹細胞に、不死化遺伝子をコードするレトロウイルスを感染させることによって不死化される。
【0036】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、成長因子は、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)および血管内皮細胞成長因子(VEGF)からなる群から選択される神経栄養因子である。
【0037】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1は、IGF−1アイソフォーム4などのIGF−1アイソフォームである。上記のまたは以下の実施形態のいずれかのさらなる実施形態では、IGF−1アイソフォーム4は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0038】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、IGF−1アイソフォームは、N末端シグナルペプチド、成熟IGF−1タンパク質およびE−ペプチドを含む。
【0039】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、中絶されたヒト胎児から死後単離された組織から得られる。
【0040】
上記のまたは以下の実施形態のいずれかの一実施形態では、ヒト神経幹細胞は、Myc−ER融合遺伝子のコピーを有する複製欠陥レトロウイルスで感染される。
【0041】
本開示は、対象の脳におけるアミロイドベータ(Aβ)沈着を低減する、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)におけるAβ沈着物を排除する、または対象の脳におけるAβ蓄積を防ぐ方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0042】
本開示は、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてコリン作動性ニューロンの数を増大させる方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0043】
本開示はまた、対象の脳においてシナプスを修復する方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0044】
本開示は、対象の記憶および/または認知を修復するための方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む安定なヒト神経幹細胞。
(項目2)
IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まない神経幹細胞と比較して、有意に増大した数のGAD65陽性GABA作動性ニューロンに分化可能である、項目1に記載のヒト神経幹細胞。
(項目3)
成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含むヒト神経幹細胞。
(項目4)
前記成長因子が、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)および血管内皮細胞成長因子(VEGF)からなる群から選択される神経栄養因子である、項目3に記載のヒト神経幹細胞。
(項目5)
IGF−1がIGF−1アイソフォームである、項目4に記載のヒト神経幹細胞。
(項目6)
前記IGF−1アイソフォームがIGF−1アイソフォーム4である、項目5に記載のヒト神経幹細胞。
(項目7)
前記IGF−1アイソフォーム4が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む、項目4に記載のヒト神経幹細胞。
(項目8)
皮質、海馬、視床、中脳、小脳、後脳、脊髄および後根神経節からなる群から選択される組織に由来する、項目3に記載のヒト神経幹細胞。
(項目9)
胎児または胚から得られる、項目3に記載のヒト神経幹細胞。
(項目10)
胎齢が約5〜約20週である胎児から得られる、項目9に記載のヒト神経幹細胞。
(項目11)
前記成長因子をコードする前記外因性ポリヌクレオチドが、ユビキチンC(UbC)プロモーター、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター、ヒトシナプシンプロモーターまたは合成CAGプロモーターと作動可能に連結している、項目3に記載のヒト神経幹細胞。
(項目12)
インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを含むヒト神経幹細胞であって、IGF−1が配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含み、前記IGF−1ヌクレオチド配列が安定に発現される、ヒト神経幹細胞。
(項目13)
神経変性性疾患または障害の治療のための方法であって、対象に、治療有効量の、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含み、前記成長因子が安定に発現される、方法。
(項目14)
前記成長因子が、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)および血管内皮細胞成長因子(VEGF)からなる群から選択される神経栄養因子である、項目13に記載の方法。
(項目15)
IGF−1がIGF−1アイソフォームである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記IGF−1アイソフォームがIGF−1アイソフォーム4である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記IGF−1アイソフォーム4が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記神経変性性疾患または障害が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳傷害(TBI)、アルツハイマー病(AD)、認知症、軽度認知障害、糖尿病、糖尿病関連CNS合併症、末梢神経障害、レチナール神経障害または多発性硬化症である、項目13に記載の方法。
(項目19)
前記脊髄損傷が、外傷性脊髄損傷または虚血性脊髄損傷である、項目18に記載の方法。
(項目20)
対象の脳におけるアミロイドベータ(Aβ)沈着を低減する、対象の脳におけるAβ沈着物を排除する、または対象の脳におけるAβ蓄積を防ぐ方法であって、前記対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法。
(項目21)
前記脳の前記1または複数の領域が、海馬および/または皮質を含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
対象の脳においてコリン作動性ニューロンの数を増大させる方法であって、前記対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法。
(項目23)
前記脳の前記1または複数の領域が、海馬および/または皮質を含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
対象の脳においてシナプスを修復する方法であって、前記対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法。
(項目25)
対象の記憶および/または認知を修復するための方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法。
【発明を実施するための形態】
【0055】
(詳細な説明)
本開示は、例えば、神経栄養因子を含む成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞(例えば、胎児または胚に由来するヒト神経幹細胞)であって、成長因子が神経幹細胞によって安定に発現される、神経幹細胞を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、神経幹細胞が神経細胞喪失部位に生着し、治療有効量で、例えば、成熟IGF−1などの神経栄養因子を含む成長因子を安定に発現することができることを発見した。神経栄養因子として、例えば、インスリン様成長因子1(IGF−1)(例えば、配列番号1に示される配列を有するIGF−1アイソフォーム)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)または血管内皮細胞成長因子(VEGF)を挙げることができる。しかし、本開示において使用するための、神経幹細胞によって分泌され得る任意のタンパク質が企図される。このようなヒト神経幹細胞は、神経幹細胞株から得ることができ、それだけには限らないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳傷害(TBI)、アルツハイマー病(AD)、認知症、軽度認知障害、糖尿病、糖尿病関連CNS合併症、末梢神経障害、レチナール神経障害および多発性硬化症を含めた種々のCNS適応症を含む神経変性性疾患または障害の治療のために使用され得る。
【0056】
驚くべきことに、本発明者らは、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、IGF−1がヒト神経幹細胞によって安定に発現される、ヒト神経幹細胞が、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まない神経幹細胞に対して、有意に増大した数のGAD65陽性GABA作動性ニューロンをもたらす(すなわち、それに分化し得る、および/またはその成長を支持し得る)ことを発見した。マウスモデルおよびヒト患者においてGABA作動性ニューロンに特異的な変性が報告されているので、これは、アルツハイマー病と治療上関連がある(Lorethら(2012年)、Neurobiol Dis、2012年、47巻(1号):1〜12頁;Schwabら(2013年)、J Alzheimers Dis、2013年、33巻(4号):1073〜88頁)。したがって、IGF−1を安定に発現する神経幹細胞の移植は、de novo GABA作動性ニューロンの供給源を提供して、アルツハイマー病において選択的に喪失したものと置き換えられ、脳において重要な神経回路網を修復する。
【0057】
成長因子を発現する本開示の神経幹細胞は、脳および脊髄中に効率的に生着し、ニューロンおよびグリアに一斉に分化し、宿主組織に組み込まれるので、安定で、多分化能であり得る。このような組込みは、宿主ニューロンとグラフトされた幹細胞由来ニューロンの間のシナプス結合の形成を含む。CNSにおける安定な生着および組込みの利点は、細胞グラフトおよびそれによる成長因子の産生は、細胞が生存している限り、一定であり、安定であり得るということである。さらに、宿主ニューロンとグラフトされたニューロンの間のシナプス連絡の形成は、損傷または罹患したニューロンに隣接するシナプスおよび間質性空間への成長因子の直接送達を可能にする。さらに、神経幹細胞自体は、治療効果があり、さまざまな既知成長因子を産生し、疾患過程に向けて失われ得るニューロンに置き換えられる。
【0058】
さらに、本開示の神経幹細胞は、そのグリア子孫が脳および脊髄中を広く遊走し、一方、そのニューロン子孫は、注射される部位の付近に局在して留まるという利点をもたらす。この特性によって、ニューロンによる成長因子の局在化した送達またはグリアによるCNS中の広く分布した送達のいずれかを選択的に標的とすることが可能となる。IGF−1、GDNF、BDNF、NT3、NGF、VEGFなどのような神経栄養因子などの成長因子のニューロン分泌の利点は、高濃度の対応する受容体に直接隣接するシナプス間隙の限定された空間を含めて、標的細胞に隣接する細胞外間隙中に継続的に放出され、すぐに標的細胞によって取り込まれ、逆行性に輸送され得るので、少量の成長因子でさえ、治療用量に達し得るということである(Rindら(2005年)、J Neurosci、25巻:539〜549頁)。
【0059】
さらに、その起源またはその成長条件の結果として、所望の割合のニューロンおよび/またはグリアを生成(例えば、60%のニューロンおよび40%のグリアを生成)し得る神経幹細胞が開示される。高割合のニューロンを生成するこれらの神経幹細胞は、必要に応じて、成長因子を特定の標的領域に局所的に送達するように使用され得るのに対し、高割合のグリアを生成するものは、成長因子をより全体的に送達するように使用され得る。局所的に投与することが望ましいものであり得る成長因子の例として、それだけには限らないが、多指向性効果を有するIGF−1、NGF、NT3またはBDNFなどの神経栄養因子が挙げられる。包括的に投与することが望ましいものであり得る成長因子の例として、それだけには限らないが、リソソーム病の治療のためなどの酵素補充のためのタンパク質、サイトカインに対するモノクローナル抗体、サイトカイン受容体または成長因子受容体が挙げられる。
【0060】
一実施形態では、成長因子は、例えば、
図1に示されるIFG1アイソフォームを含めた、IGF−1などの神経栄養因子である。IGF−1アイソフォームは、IGF−1アイソフォーム4であり得る。一実施形態では、IGF−1アイソフォーム4は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列(配列番号2に示されるアミノ酸配列)を有する。このアイソフォームは、3種の異なる可能性ある生物学的エフェクター:種々のIGF結合タンパク質ならびにIGF−1受容体と結合可能な成熟IGF−1タンパク質;IGF−1受容体と独立した機序によって、虚血および他の有害な状態に対する神経保護薬として作用し得るプロ−IGF−1プロセシングの際に放出されるカルボキシ(C−)末端MGFペプチド;およびプレ−プロ−IGF−1プロセシングの際に放出されるアミノ(N−)末端シグナルペプチドを含有する。
【0061】
IGF−1生物学は、複雑である。2種の異なるプロモーターの制御下で6種の異なる形態のヒトIGF−1 mRNA転写物が産生され(Barton(2006年)、J Appl Physiol、100巻:1778〜1784頁に概説されている)、そのすべてが単一の成熟IGF−1タンパク質を産生する。種々の転写物は、成熟IGF−1タンパク質に翻訳され、その時間の間に別個の切断生成物が産生される。転写物アイソフォームおよび種々の切断生成物は、組織特異的であると知られている。したがって、循環成熟IGF−1タンパク質の75%が、肝臓によって産生されるが、筋肉、腎臓および脳/脊髄を含めたいくつかのその他の組織は、その自身のIGF−1転写物およびタンパク質を産生する。また、脳におけるIGF−1レベルは、例えば、IGF−1の血漿レベルとは独立に調節される(Adamsら(2009年)、Growth Factors、27巻:181〜188頁)。特に、ラットおよびマウスIGF−1遺伝子は、ヒトIGF−1遺伝子とは異なって調節されて、種間で非同等IGF−1アイソフォームをもたらす(Barton(2006年)、Appl. Physiol. Nutr. Metab.、31巻:791〜797頁)。
【0062】
CNS中の成長因子の用量(例えば、治療有効用量)および局在性は、異なるプロモーターを使用することによって、また別個の分化および遊走特性を有する異なる神経幹細胞株を使用することによって変えることができる。例えば、シナプシンプロモーターは、ニューロン子孫において主に低〜中レベルで発現を駆動し、したがって、ニューロン集団を標的とする局在化した分布を確実にするために使用され得る。対照的に、ユビキチンCプロモーターは、ニューロンおよびグリア細胞子孫の両方への発現を駆動し、成長因子のより広い分布を可能にするために使用され得る。さらに、ニワトリβ−アクチンプロモーターと融合しているサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーからなる合成CAGプロモーターは、成長因子の極めて高いレベルの発現を指示し得る。さらに、必要に応じて、より高い割合のニューロンを生成する神経幹細胞を使用して、成長因子を特定の標的領域に局所的に送達できるのに対し、より高い割合のグリアを生成する神経幹細胞を使用して、成長因子をより包括的に送達できる。局所的に投与することが望まれ得る成長因子の例として、それだけには限らないが、多指向性効果を有するIGF−1、NGF、NT3またはBDNFなどの神経栄養因子が挙げられる。包括的に投与することが望まれ得る成長因子の例として、それだけには限らないが、リソソーム病の治療のためなどの酵素補充のためのタンパク質、サイトカインに対するモノクローナル抗体、サイトカイン受容体または成長因子受容体が挙げられる。
【0063】
(神経幹細胞)
神経栄養因子などの成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)が提供される。神経栄養因子は、インスリン様成長因子1(IGF−1)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)または血管内皮細胞成長因子(VEGF)であり得る。また、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを有する神経幹細胞を含む神経幹細胞株も提供される。神経幹細胞は、好ましくは、安定であり、60回超の細胞倍加後でさえ培養において分化しない。
【0064】
本開示は、インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞(例えば、安定なヒト神経幹細胞)を提供する。神経幹細胞は、例えば、安定な過剰発現を含めて、IGF−1を発現する。IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む神経幹細胞は、驚くべきことに、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含まない神経幹細胞と比較して、有意に増大した数のGAD65陽性GABA作動性ニューロンをもたらす。神経幹細胞は、好ましくは、安定であり、60回超の細胞倍加後でさえ培養において分化しない。
【0065】
本開示は、インスリン様成長因子1(IGF−1)をコードする外因性ポリヌクレオチドを発現する安定なヒト神経幹細胞を提供する。
【0066】
一実施形態では、神経栄養因子は、例えば、配列番号1に示される配列を有するIGF−1アイソフォーム4などのIGF−1アイソフォームを含めたIGF−1である。驚くべきことに、本発明者らは、配列番号1に示される配列を有するIGF−1アイソフォーム4は、神経幹細胞によって発現された場合に機能的である(例えば、その受容体と結合し、生理学的衝撃を有するシグナル伝達プロセスを開始する)ことを発見した。いくつかの先の報告が、成熟IGF−1を発現する神経幹細胞の投与は、機能的利益の提供においては有効ではない(すなわち、神経幹細胞は、疾患または障害の治療において有効ではない)と示したので、このような知見は完全に予期しないものであった。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「神経幹細胞」または「NSC」とは、中枢神経系(CNS)の3種の主要な細胞型:ニューロン、星状細胞および乏突起膠細胞の各々に分化する能力に従って機能的に定義され得る多分化能幹細胞を指す。本明細書で使用される場合、用語「幹細胞」とは、自己複製可能である未分化細胞を指し、これは各細胞分裂について、少なくとも1つの娘細胞がまた幹細胞であることを意味する。NSCはまた、神経またはニューロン前駆細胞または神経上皮前駆体を指し得る。
【0068】
本開示はまた、成長因子をコードする外因性ポリヌクレオチドを含み、成長因子が安定に発現される、ヒト神経幹細胞を作製する方法であって、1または複数のヒト神経幹細胞を得ることと、ポリD−リシンおよびフィブロネクチンでプレコーティングされた組織培養処理ディッシュ上に1または複数の神経幹細胞をプレーティングすることと、1または複数の神経幹細胞を血清不含成長培地中で培養することと、1または複数の神経幹細胞を増殖させて、増殖した神経幹細胞の集団を産生することと、増殖した神経幹細胞を不死化遺伝子をコードするレトロウイルスで感染することと、先にレトロウイルスで感染した神経幹細胞を、成長因子をコードするベクターで感染することとを含む、方法を提供する。このような不死化神経幹細胞および神経幹細胞を作製する方法は、米国特許第7,544,511号に開示されている。
【0069】
一実施形態では、NSCは、各細胞が、ニューロン、星状細胞または乏突起膠細胞に分化する能力を有するように多分化能である。別の実施形態では、各細胞が、CNSの3種の細胞型のうち2種に分化する能力を有するようにNSCは二分化能である。別の実施形態では、NSCは、in vitroでニューロンおよび星状細胞の両方を生成する少なくとも二分化能細胞を含む、またin vivoでニューロンを生成する少なくとも単分化能細胞を含む。
【0070】
成長条件は、ある種の細胞型または別のものに向かう細胞の分化方向に影響を及ぼし得、これは、細胞が単一系統に向けて傾倒していないことを示す。ニューロン分化を好む培養条件では、特にヒトCNSに由来する細胞は、大部分はニューロンおよび星状細胞に向けて二分化能であり、乏突起膠細胞への分化は、最小である。したがって、開示された方法の分化した細胞培養物は、ニューロンおよび星状細胞を生じさせ得る。
【0071】
一実施形態では、NSCは、CNSから単離される。本明細書で使用される場合、細胞に関して用語「単離された」とは、細胞が天然に存在する(例えば、生物中で細胞が天然に存在する)、細胞がその天然環境から取り除かれるものとは異なる環境にある細胞を指す。
【0072】
NSCは、所望のニューロンの集団にとって天然に神経原性である領域から、および胚、胎児、出生後、若年性または成体組織から単離され得る。所望の細胞の集団は、疾患進行の過程で失われるか。または不活性であるこのような表現型に置き換えられるか、または補い得る特定のニューロン表現型の細胞を含み得る。一実施形態では、NSCは、脳室下帯(SVZ)から、または歯状回(DG)の顆粒細胞下帯から単離される。好ましい実施形態では、NSCは、腹側運動ニューロンの神経発生が実在する脊髄から単離され、腹側運動ニューロンの神経発生が実在する胎齢のヒト胎児発生において得られる。
【0073】
したがって、一実施形態では、NSCは、胎齢約6.5〜約20週にて脊髄から単離される。好ましくは、NSCは、胎齢約7〜約9週にて脊髄から単離される。別の実施形態では、NSCは、胚性脊髄組織から単離される。さらに別の実施形態では、神経幹細胞は、ヒトから単離される。単離可能なNSC集団の割合は、ドナーの年齢につれて変わり得ることは理解されなくてはならない。細胞集団の増殖能もまた、ドナーの年齢につれて変わり得る。
【0074】
腹側中脳のNSCは、例えば、同一妊娠段階の脊髄から得たNSCとは異なる。特に、腹側中脳に由来するNSCは、チロシン−ヒドロキシラーゼを発現するドーパミン作動性ニューロンを生じさせ得るのに対し、脊髄に由来するNSCは、アセチルコリン産生性コリン作動性ニューロンを生成し得る。しかし、両細胞型とも、より偏在性のグルタミン酸およびGABA産生性ニューロンを同時に生成する。したがって、一実施形態では、開示された方法は、脊髄からNSCを得て、少なくとも幾分かは、アセチルコリン産生性コリン作動性ニューロンを埋め込むことによって寛解されるか、または減弱される状態を治療することを含む。
【0075】
NSCはまた、出生後および成体組織から単離され得る。出生後および成体組織に由来するNSCは、ニューロンおよびグリアに分化するその能力に関して、ならびにその成長および分化特徴において量的に同等である。しかし、種々の出生後および成体CNSからのNSCのin vitro単離の効率は、より豊富なNSCの集団を有する胎児組織からのNSCの単離よりもかなり低いものであり得る。それにもかかわらず、開示される方法は、胎児由来NSCと同様に、新生児および成体供給源に由来するNSCの少なくとも約30%が、in vitroでニューロンに分化することを可能にする。したがって、出生後および成体組織は、胎児由来NSCの場合において上に記載されたように使用され得る。
【0076】
一実施形態では、ヒト胎児脊髄組織が顕微鏡下で解剖される。下部頸部/上部胸部セグメントに対応する組織の領域が単離される。NSCは単離され、プールされ、フィブロネクチンおよび塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;FGF−2)を含有する培地中、ポリ−D−リシンコーティングされた培養容器上で増殖される。細胞は、増殖され、次いで、防腐剤および抗生物質を含まない培地中、1マイクロリットルあたり細胞約10,000個の所望の標的細胞密度に濃縮される。濃縮された細胞は、埋め込みのために新鮮なまま使用されてもよく、または後の使用のために凍結されてもよい。
【0077】
一実施形態では、NSCは、胚幹細胞または誘導された多能性幹細胞に由来する。本明細書で使用される場合、用語「胚幹細胞」とは、身体の細胞のすべて(例えば、外−、中−および/または内胚葉細胞系統の細胞)を生じさせ得る、発達中の胚から単離された幹細胞を指す。用語「誘導された多能性幹細胞」とは、本明細書で使用される場合、体細胞よりも高い能力を有する体細胞由来の幹細胞(例えば、分化した体細胞)を指す。胚幹細胞および誘導された多能性幹細胞は、より成熟した細胞(例えば、神経幹細胞または神経前駆細胞)に分化可能である。胚性または誘導された多能性幹細胞を、in vitroでNSCに増殖および分化するために使用される方法は、例えば、Daadiら、PLoS One.、3巻(2号):e1644(2008年)に記載されたものなどであり得る。
【0078】
本明細書において開示されるような神経幹細胞における成長因子をコードするポリヌクレオチドの発現を調節するために使用され得るいくつかの標準分子生物学技術がある。例えば、成長因子の発現のレベルを調節および/または神経幹細胞のどの子孫が因子を発現するかを調節するために異なるプロモーターが使用され得る。例えば、ヒトユビキチンC(UbC)、PGKまたはCAGプロモーターは、本明細書において開示されるヒト神経幹細胞の分化したニューロンおよびグリア子孫において成長因子の別個のレベルの発現を付与する。PGKプロモーターは、低レベルの成長因子の産生、24時間あたり100万個の細胞あたりおよそ0.5ngのタンパク質を可能にし、UbCプロモーターは、多量の成長因子産生、24時間あたり100万個の細胞あたりおよそ2ngのタンパク質を可能にし、CAGプロモーターは、またさらに多量の成長因子産生、24時間あたり100万個の細胞あたりおよそ14ngのタンパク質を可能にする。さらに、またはあるいは、発現が駆動され、神経幹細胞の特定の子孫に限局され得る。例えば、ヒトシナプシンプロモーターは、神経幹細胞のニューロン子孫に、成長因子の発現を指示するように使用され得る。
【0079】
(治療の方法)
本明細書において開示されるような神経幹細胞は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳傷害(TBI)、アルツハイマー病(AD)、認知症、軽度認知障害、糖尿病、糖尿病関連CNS合併症、末梢神経障害、レチナール神経障害または多発性硬化症などの神経変性性疾患または障害を含めた疾患または障害を治療するための方法において使用され得る。このような方法は、例えば、注射によるものを含めて、対象に、治療有効量の、本明細書において開示される神経幹細胞を投与することを含み得る。一実施形態では、開示される神経幹細胞を用いて治療された対象は、神経幹細胞の投与の前に、その間および/またはその後に免疫抑制される。
【0080】
一部の実施形態では、疾患、障害または状態の「治療すること」または「治療」は、少なくとも部分的に、(1)疾患、障害または状態を防止すること、すなわち、疾患、障害または状態に曝露されたまたはその素因を持つが、疾患、障害もしくは状態の症状をまだ経験していない、または示していない哺乳動物において、疾患、障害もしくは状態の臨床症状が発生しないようにすること、(2)疾患、障害もしくは状態を阻害すること、すなわち、疾患、障害もしくは状態もしくはその臨床症状の発生を停止もしくは低減すること、または(3)疾患、障害もしくは状態を軽減すること、すなわち、疾患、障害もしくは状態もしくはその臨床症状を退縮することを含む。開示された神経幹細胞を投与された対象が、開示された神経幹細胞を用いて治療されない対象と比較して海馬依存性行動課題の改善を示す場合に、神経変性性疾患または障害は治療されると考えられ得る。
【0081】
用語「防止」、「防止する」、「防止すること」、「抑制」、「抑制する」、「抑制すること」、「阻害する」および「阻害」は、本明細書で使用される場合、一時的または永久的に、(例えば、Aβの沈着などの病状または状態の臨床症状の発生に先立って)病状または状態の臨床徴候の発生(例えば、Aβの沈着の形成)を防止、抑制または低減するような方法(本明細書において開示されるようなNSCを投与することなど)で開始された作用の経過を指す。このような防止、抑制または低減は、有用であるために必ずしも絶対ではない。
【0082】
一部の実施形態では、「有効量」とは、本明細書で使用される場合、対象に治療効果を付与するために必要である脊髄由来神経幹細胞の量を指す。「治療有効量」とは、本明細書で使用される場合、治療されている疾患、障害または状態の1または複数の症状をある程度軽減する、投与されている十分な量の脊髄由来神経幹細胞を指す。一部の実施形態では、結果は、兆候、症状もしくは疾患の原因の低減および/または軽減または生物システムの任意のその他の所望の変更である。例えば、一部の実施形態では、治療的使用のための「有効量」は、過度の有害な副作用を伴わずに疾患症状の臨床上有意な低減を提供するのに必要な脊髄由来神経幹細胞の量である。一部の実施形態では、任意の個体の場合には、適当な「有効量」は、用量漸増試験などの技術を使用して決定される。用語「治療有効量」は、例えば、予防的に有効な量を含む。他の実施形態では、脊髄由来神経幹細胞の「有効量」は、過度の有害な副作用を伴わずに所望の薬理効果または治療的改善を達成するのに有効な量である。他の実施形態では、「有効量」または「治療有効量」は、代謝、年齢、体重、対象の全身状態、治療されている状態、治療されている状態の重症度および処方医師の判断の変動のために対象毎に変わるということが理解される。
【0083】
神経幹細胞は、ALSにおいて、変性上部および下部運動ニューロンをレスキューするために運動皮質および/または脊髄灰白質中に移植され得るか、虚血性または出血性卒中の急性および慢性段階において、影響を受けたニューロンをレスキューするために、および境界域の大きさを低減するために梗塞の部位中に移植され得るか、ならびに認知症およびアルツハイマー病患者において、コリン作動性ニューロンを保護するためにマイネルト基底核中に移植され得るか、老化の際の、またはアルツハイマー病において、認知症の進行を減速するために、またはてんかんにおいて発作を低減するために、脳の海馬またはその他の領域中に移植され得るか、外傷性脳傷害における、または卒中における神経保護のために内包および脳梁などの白質域中に移植され得る。神経幹細胞は、これらの位置から脳中に迅速に遊走して、糖尿病および糖尿病関連CNS合併症などのその他の適応症の治療のためにIGF−1タンパク質を分配し得る。神経幹細胞は、筋肉終板を増大し、ALSまたは頸部脊髄損傷患者の呼吸容量を増強するために肋間筋および/または横隔膜筋中に移植され得る。神経幹細胞は、筋ジストロフィーおよび種々の運動ニューロン疾患において筋肉繊維を増大するために骨格筋中に移植され得る。神経幹細胞は、脊髄筋萎縮、延髄性筋萎縮および小脳運動失調を含めた状態によって影響を受けた運動ニューロンをレスキューするために、小脳および/または脳幹中に移植され得る。神経幹細胞は、多発性硬化症において有髄化乏突起膠細胞の再生のために脊髄内に移植され得る。神経幹細胞は、酵素欠乏症疾患において神経保護のためのIGF−1の全体的な分配のために、くも膜下腔(intrathecal space)中に、またはくも膜下腔(subarachnoid space)中に移植され得る。
【0084】
本開示は、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてアミロイドベータ(Aβ)沈着(例えば、Aβ沈着のレベル)を低減する方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。対象の脳におけるAβのレベルは、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞が投与されていない対象の脳との比較を含め、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%またはそれ超低減され得る。対象の脳におけるAβのレベルは、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞が投与されていない対象の脳との比較を含め、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍またはそれ超低減され得る。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0085】
本開示は、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてAβ沈着物を排除するか、または対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてAβ蓄積を防止する方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0086】
本開示は、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてAβ蓄積を防止する方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0087】
本開示は、対象の脳(例えば、海馬および/または皮質)においてコリン作動性ニューロンの数を増大させる方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。対象の脳におけるコリン作動性ニューロンの数は、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞が投与されていない対象の脳との比較を含め、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%またはそれ超増大され得る。対象の脳におけるコリン作動性ニューロンの数は、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞が投与されていない対象の脳との比較を含め、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍またはそれ超増大され得る。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0088】
本開示はまた、対象の脳においてシナプスを修復する方法であって、対象の脳の1または複数の領域に、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞を投与することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0089】
本開示は、対象の記憶および/または認知を修復するための方法であって、治療有効量の、IGF−1をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む1または複数のヒト神経幹細胞の、対象の脳の1または複数の領域への投与を含む、方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。
【0090】
一実施形態では、NSCは、許容される薬剤担体で希釈され得る。用語「薬学的に許容される担体」とは、本明細書で使用される場合、それとともに本開示の細胞が投与され、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されているか、または動物において、より詳しくはヒトにおいて使用するための米国薬局方もしくはその他の一般に認識される薬局方に列挙される希釈剤、アジュバント、賦形剤または媒体を指す。このような薬剤担体は、水および、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などといった石油、動物、植物または合成起源のものを含めた油などの液体であり得る。薬剤担体は、生理食塩水、アラビアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素などであり得る。患者に投与される場合には、神経幹細胞および薬学的に許容される担体は無菌であり得る。細胞が静脈内に投与される場合には、水は有用な担体である。生理食塩水溶液ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、特に、注射用溶液のための液体担体として使用され得る。適した薬剤担体としてまた、グルコース、ラクトース、スクロース、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどといった賦形剤が挙げられる。本組成物はまた、必要に応じて、微量の湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤を含有し得る。本組成物は有利なことに、溶液、エマルジョン、徐放性製剤の形態または使用に適した任意のその他の形態をとることができる。適した担体の選択は、当業者の技術の範囲内にある。
【0091】
培養で増殖された神経幹細胞の操作から、種々のニューロンサブタイプを得ることができる。したがって、開示された方法に基づいて、特定のニューロンサブタイプを、その他の無関係なまたは不要な細胞から単離および精製して、必要に応じて、結果を改善でき、認知機能障害の治療のために使用できる。
【0092】
開示された方法におけるNSCは、ある部位に由来し、自家移植片と同一対象内の別の部位に移植され得る。さらに、開示された方法におけるNSCは、遺伝的に同一のドナーに由来し、同系移植片として移植され得る。またさらに、開示された方法におけるNSCは、同一種の遺伝的に非同一のメンバーに由来し、同種移植片として移植され得る。あるいは、NSCは、非ヒト起源に由来し、異種移植片として移植され得る。強力な免疫抑制剤の開発に伴い、ブタ起源の神経前駆体などの非ヒト神経前駆体の同種移植片および異種移植片がヒト対象にグラフトされ得る。
【0093】
試料組織は、任意の標準法によって解離され得る。一実施形態では、組織は、ピペットおよび二価カチオン不含バッファー(例えば、生理食塩水)を使用する穏やかな機械的トリチュレーションによって解離されて、解離された細胞の懸濁液を形成する。大部分単細胞を得るための十分な解離は、過剰な局所細胞密度を避けることが望ましい。
【0094】
NSCの商業的適用の成功のためには、多数の連続継代を通じて安定な増殖および分化能を有する頑強で一定な培養物を維持することが望まれる。上記のように、培養方法は、その別個の前駆細胞特性を維持しながら、CNS発達の異なる領域および年齢に由来するNSCの個々の細胞株の長期の安定な増殖を達成するように最適化することができる。一実施形態では、幹細胞は、その全体が本明細書に参照によって組み込まれる米国特許第8,460,651号、同第8,236,299号、同第7,691,629号、同第5,753,506号、同第6,040,180号または同第7,544,511号に示される方法に従って培養され得る。
【0095】
一実施形態では、開示された方法のNSCは、移植のために事前に分化した細胞を含み得る。細胞の最大収率のためおよび手順の簡素化のために、未分化細胞の集団を主に含むコンフルエント培養物を移植のために回収する。しかし、細胞密度の増大のために、自発的に分化を開始したばかりのわずかな細胞集団が存在し得るということは理解されなくてはならない。
【0096】
一実施形態では、NSCは、上記の臨床使用可能なハイバーネーションまたは凍結用溶液などの溶液中に濃縮される。一実施形態では、NSCは、細胞の投与のための細胞密度と同一であっても異なっていてもよい適当な細胞密度に濃縮される。一実施形態では、投与のための細胞密度は、注射部位、有益な効果に必要な最少用量および毒性副作用考慮などの因子に応じて、マイクロリットルあたり約1,000個の細胞からマイクロリットルあたり約1,000,000個の細胞で変わり得る。
【0097】
既知方法を使用するドナー細胞の低い細胞生存のために、有効な治療を試みるために比較的小さい領域への多量の細胞の送達が必要であった。しかし、注射容量は、宿主組織で発揮される静水圧であり、高注射容量に伴う長い注射時間は、手術の危険度を増悪する。さらに、ドナー細胞の過剰注射は、宿主実質組織の圧迫およびその後の損傷につながる。既知方法は、容量の制約を補おうとして、注射用の高細胞密度懸濁液の調製を必要としてきた。しかし、高細胞密度は、移植された細胞の堅固なクラスター形成を促進し、細胞遊走または広がりを阻害し、限定された領域を超える有効な治療を妨げ、宿主組織への滑らかな組込みを損なう。
【0098】
対照的に、開示された方法によって調製された細胞のin vivoでの改善された生存の結果として、注射あたり、より少ない数の細胞しか必要でない。実際、注射の時間から6カ月後に注射された細胞の数の最大3〜4倍が存在するとわかり、開示された方法を使用して相当な量的生存が実証された。また、量的生存のために、所望の細胞用量の再現可能な投与が達成され得る。したがって、一実施形態では、NSCは、マイクロリットルあたり約1,000個から約1,000,000個の細胞の密度に濃縮される。一実施形態では、NSCは、マイクロリットルあたり約2,000個から約80,000個のNSCの密度に濃縮される。別の実施形態では、有効な生着のためにマイクロリットルあたり約5,000個から約50,000個のNSCが使用された。別の実施形態では、マイクロリットルあたり約10,000から30,000個のNSCが使用される。好ましい実施形態では、NSCは、マイクロリットルあたり約70,000個のNSCの密度に濃縮される。
【0099】
別の実施形態では、NSCは、マイクロリットルあたり約1,000〜約10,000個の細胞、マイクロリットルあたり約10,000〜約20,000個の細胞、マイクロリットルあたり約20,000〜約30,000個の細胞、マイクロリットルあたり約30,000〜約40,000個の細胞、マイクロリットルあたり約40,000〜約50,000個の細胞、マイクロリットルあたり約50,000〜約60,000個の細胞、マイクロリットルあたり約60,000〜約70,000個の細胞、マイクロリットルあたり約70,000〜約80,000個の細胞、マイクロリットルあたり約80,000〜約90,000個の細胞、またはマイクロリットルあたり約90,000〜約100,000個の細胞の密度に濃縮される。
【0100】
別の実施形態では、NSCは、マイクロリットルあたり約100,000〜約200,000個の細胞、マイクロリットルあたり約200,000個〜約300,000個の細胞、マイクロリットルあたり約300,000個〜約400,000個の細胞、マイクロリットルあたり約400,000個〜約500,000個の細胞、マイクロリットルあたり約500,000個〜約600,000個の細胞、マイクロリットルあたり約600,000個〜約700,000個の細胞、マイクロリットルあたり約700,000個〜約800,000個の細胞、マイクロリットルあたり約800,000個〜約900,000個の細胞、マイクロリットルあたり約900,000〜約1,000,000個の細胞の密度に濃縮される。
【0101】
別の実施形態では、NSCは、注射部位あたり約100マイクロリットル未満の注射容量に懸濁されて治療領域に送達され得る。例えば、複数回の注射が行われ得るヒト対象の認知機能障害の治療において、注射部位あたり0.1および約100マイクロリットルの注射容量が使用され得る。好ましい実施形態では、NSCは、注射部位あたり約1マイクロリットルの注射容量に懸濁して治療領域に送達され得る。
【0102】
一実施形態では、開示された方法は、マイクロリットルあたり約1,000〜約10,000個の細胞、マイクロリットルあたり約10,000個〜約20,000個の細胞、マイクロリットルあたり約20,000個〜約30,000個の細胞、マイクロリットルあたり約30,000個〜約40,000個の細胞、マイクロリットルあたり約40,000個〜約50,000個の細胞、マイクロリットルあたり約50,000個〜約60,000個の細胞、マイクロリットルあたり約60,000個〜約70,000個の細胞、マイクロリットルあたり約70,000個〜約80,000個の細胞、マイクロリットルあたり約80,000個〜約90,000個の細胞またはマイクロリットルあたり約90,000個〜約100,000個の細胞の細胞密度で、対象の脳の1または複数の領域中にNSCを注射することを含む。
【0103】
一部の実施形態では、開示された方法は、マイクロリットルあたり約100,000個〜約200,000個の細胞、マイクロリットルあたり約200,000個〜約300,000個の細胞、マイクロリットルあたり約300,000個〜約400,000個の細胞、マイクロリットルあたり約400,000個〜約500,000個の細胞、マイクロリットルあたり約500,000個〜約600,000個の細胞、マイクロリットルあたり約600,000個〜約700,000個の細胞、マイクロリットルあたり約700,000個〜約800,000個の細胞、マイクロリットルあたり約800,000個〜約900,000個の細胞またはマイクロリットルあたり約900,000個〜約1,000,000個の細胞の細胞密度で、対象の脳の1または複数の領域にNSCを注射することを含む。
【0104】
一実施形態では、開示された方法は、マイクロリットルあたり約5,000個〜約50,000個の細胞の細胞密度でNSCを注射することを含む。好ましい実施形態では、開示された方法は、マイクロリットルあたり約70,000個の細胞の細胞密度でNSCを注射することを含む。
【0105】
一実施形態では、開示された方法は、対象の脳の1または複数の領域中に導入される、約4,000個〜約40,000個の細胞、約40,000個〜約80,000個の細胞、約80,000個〜約120,000個の細胞、約120,000個〜約160,000個の細胞、約160,000個〜約200,000個の細胞、約200,000個〜約240,000個の細胞、約240,000個〜約280,000個の細胞、約280,000個〜約320,000個の細胞、約320,000個〜約360,000個の細胞または約360,000個〜約400,000個の細胞の合計細胞数でのNSCの複数回の注射を含む。
【0106】
一部の実施形態では、開示された方法は、対象の脳の1または複数の領域中に導入される、約400,000個〜約800,000個の細胞、約800,000個〜約1,200,000個の細胞、約1,200,000個〜約1,600,000個の細胞、約1,600,000個〜約2,000,000個の細胞、約2,000,000個〜約2,400,000個の細胞、約2,400,000個〜約2,800,000個の細胞、約2,800,000個〜約3,200,000個の細胞、約3,200,000個〜約3,600,000個の細胞または約3,600,000個〜約4,000,000個の細胞の合計細胞数を用いるNSCの複数回の注射を含む。
【0107】
治療領域への送達のために増殖したNSCが懸濁される培地の容量は、本明細書において注射容量と呼ばれ得る。注射容量は、注射部位および組織の変性状態に応じて変わる。より詳しくは、注射容量の下限は、高細胞密度の粘性懸濁液の実際の液体取り扱いならびにクラスター形成する細胞の傾向によって決定され得る。注射容量の上限は、宿主組織を損傷することを避けるために必要である注射容量によって発揮される圧縮力の限界ならびに実際の手術時間によって決定され得る。
【0108】
開示された方法では、細胞を所望の領域中に注射するための任意の適したデバイスが使用され得る。一実施形態では、実質的に一定な流速で一定期間にわたってマイクロリットル未満の容積を送達可能なシリンジが使用される。細胞は、ニードルまたはフレキシブルチューブまたは任意のその他の適した移動デバイスによってデバイス中に充填され得る。
【0109】
別の実施形態では、細胞は、脳中の約2〜約5部位の間で注射される。一実施形態では、細胞は、脳中の約5〜約10部位の間で注射される。一実施形態では、細胞は、脳中の約10〜約30部位の間で注射される。一実施形態では、細胞は、脳中の約10〜約50部位の間で注射される。少なくとも2つの部位は、およそ100ミクロン〜約5,000ミクロンの距離、離れ得る。一実施形態では、注射部位間の距離は、約400〜約600ミクロンである。一実施形態では、注射部位間の距離は、約100〜約200ミクロン、約200〜約300ミクロン、約300〜約400ミクロン、約400〜約500ミクロン、約500〜約600ミクロン、約600〜約700ミクロン、約700〜約800ミクロン、約800〜約900ミクロンまたは約900〜約1,000ミクロンである。一実施形態では、注射部位間の距離は、約1,000〜約2,000ミクロン、約2,000〜約3,000ミクロン、約3,000〜約4,000ミクロンまたは約4,000〜約5,000ミクロンである。注射部位間の距離は、脊髄組織中に存在する実質的に中断されていない、連続したドナー細胞の生成に基づいて、またラットまたはブタなどの動物モデルにおいて約2〜3カ月の生存を達成すると実証された注射の平均容量に基づいて決定され得る。ヒトにおける注射の実際数および注射間の距離は、動物モデルにおける結果から推定され得る。
【0110】
開示された方法のNSCは、in vivoで多数のニューロンを生成し得る。NSCが、移植に先立って明白に事前に分化していない場合には、NSCは、分化の前にin vivoで最大2〜4細胞分裂まで増殖し得、それによって、有効なドナー細胞の数をさらに増大する。ニューロンは、分化すると特定の神経伝達物質を分泌する。さらに、ニューロンは、in vivoで移植片の周囲の環境中に、成長因子、酵素およびその他のタンパク質または種々の状態のために有益である物質を分泌する。したがって、埋め込まれた細胞の、in vivoで多数のニューロンを生成する能力のために、また認知機能障害が、ニューロン由来要素を含めた要素が失われることによって引き起こされ得るか、またはその喪失の結果であり得るので、開示された方法によって種々の状態が治療され得る。したがって、成長因子、酵素およびその他のタンパク質などのこのようなニューロン由来要素がないために認知機能障害を患っている対象は、開示された方法によって有効に治療され得る。
【0111】
一実施形態では、ある量のNSCを含む組成物は、静脈内投与、例えば、ボーラスとして、または一定期間にわたる連続注入によって、筋肉内、腹腔内、脳髄内、静脈内、皮下、関節内、滑液嚢内、またはくも膜下腔内経路によってなどの既知方法に従って対象に投与され得る。細胞の脳髄内、くも膜下腔内、静脈内、腹腔内または皮下投与が好ましく、脳髄内、くも膜下腔内または静脈内経路は特に好ましい。しかし、当技術分野で周知のその他の細胞投与パラダイムも使用され得る。
【0112】
一実施形態では、本発明のNSCの組成物は、注射用製剤として製剤化され、例えば、脳髄内送達に適した有効成分の水溶液または懸濁液を含む。注射用、特に、大脳内送達用の組成物を調製する場合には、約7未満の、または約6未満の、例えば、約2〜約7、約3〜約6または約3〜約5のpHに緩衝された張力調節剤の水溶液を含む連続相が存在し得る。張力修飾因子は、例えば、塩化ナトリウム、グルコース、マンニトール、トレハロース、グリセロールまたは血液と等張な製剤の浸透圧を付与するその他の薬剤を含み得る。あるいは、製剤化において多量の張力修飾因子が使用される場合には、血液と等張な混合物を付与するように薬学的に許容される希釈剤を用いて注射に先立って希釈され得る。
【0113】
上記の方法のいずれかの一部の実施形態では、NSCを含む組成物が1回投与される。上記の方法のいずれかの一部の実施形態では、最初の用量、NSCを含む組成物の投与に、1回または複数回のその後の用量の投与が続く。本開示の方法において使用され得る投与レジメンの例(例えば、第1の用量と1回または複数回のその後の用量の間の間隔)として、週に約1回から12カ月に約1回の間隔、2週間に約1回から6カ月に約1回の間隔、1カ月に約1回から6カ月に約1回の間隔、1カ月に約1回から3カ月に約1回の間隔または3カ月に約1回から6カ月に約1回の間隔が挙げられる。一部の実施形態では、投与は、毎月、2カ月毎、3カ月毎、4カ月毎、5カ月毎、6カ月毎または疾患再発の際である。
【0114】
一実施形態では、NSCは、約5から約50部位の間で注射される。一実施形態では、NSCは、約10から約30部位の間で注射される。部位のうち少なくとも2つは、およそ100ミクロン〜約5000ミクロンの距離、離れ得る。一実施形態では、注射部位間の距離は、約400〜約600ミクロンである。ヒトにおける注射の実際数は、動物モデルにおける結果から推定され得る。
【0115】
本開示の方法は、NSCの注射の前に、それとともに、またはその後で1または複数の免疫抑制薬の投与を含み得る。
【0116】
一部の実施形態では、NSCおよび免疫抑制薬は、同時投与され得る。療法を構成するNSCおよび免疫抑制薬は、組み合わせた剤形であっても、実質的に同時の投与が意図される別個の剤形であってもよい。NSCおよび免疫抑制薬はまた、逐次投与され得、NSCまたは免疫抑制薬のいずれかが、複数ステップ投与を要求するレジメンによって投与される。したがって、レジメンは、別個の活性薬剤の間隔のあいた投与を用いる、NSCおよび免疫抑制薬の逐次投与を要求し得る。複数投与ステップ間の期間は、治療用化合物の効力、溶解度、バイオアベイラビリティ、血漿半減期および動態プロファイルなどのNSCおよび免疫抑制薬の特性に応じて、ならびに対象の食物経口摂取の効果および年齢および状態に応じて、例えば、数分から数時間から数日で変わり得る。標的分子濃度の日内変動もまた、最適用量間隔を左右し得る。同時に、実質的に同時にまたは逐次投与されるかにかかわらず、NSCおよび免疫抑制薬は、例えば、静脈内経路によるNSCの、および経口経路、経皮経路、静脈内経路、筋肉内経路による、または粘膜組織による直接吸収による免疫抑制薬の投与を要求するレジメンを含み得る。神経幹細胞および免疫抑制薬が、別個にまたは一緒に、経口によって、吸入スプレーによって、直腸性に、局所に、頬側に(例えば、舌下)、または非経口的に(例えば、皮下、筋肉内の、静脈内および皮内注射または注入技術)投与されるか否かにかかわらず、このような各治療用化合物は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤またはその他の製剤化成分の適した医薬製剤中に含有される。
【0117】
さらなる説明を行わなくても、当業者ならば、前述の説明および以下の例示的実施例を使用して、本開示の薬剤を作製および利用し、特許請求される方法を実施すると考えられる。以下の作業例は、本開示の実施を容易にするために提供されるのであって、決して、本開示の残部を制限すると解釈されてはならない。
【実施例】
【0118】
本発明を、以下の実施例によってさらに例示し、これは、決して、制限と解釈されてはならない。以下の実験例において使用されるような材料および方法を以下に説明する。
【0119】
(実施例1)
(材料および方法)
(HK532調製)
ヒトHK532 NSC株(NSI−HK532およびNSI−HK532.UbC−IGF−I)は、Neuralstem,Inc.(Rockville、MD)によって提供された。手短には、HK532は、人工妊娠中絶後の胎齢8週のヒト胎児から得られた皮質組織から調製した。材料は、Neuralstem,Inc.に献体され、国立衛生研究所(National Institutes of Health)(NIH)およびFDAのガイドラインに従ってインフォームドコンセントを行った。ガイドラインは、記載されるように外部の独立した審査委員会によって審査され、承認された(Joheら(1996年)Genes Dev.、10巻(24号):3129〜40頁)。不死化遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子を含有するレトロウイルスベクターを使用して、皮質NSCを条件的に不死化した。不死化遺伝子は、3’末端でヒトエストロゲン受容体のC末端リガンド結合ドメインをコードするcDNA断片と融合しているヒトc−myc cDNAを含んでいた。細胞をネオマイシン耐性について選択し、単細胞株(HK532)として増殖させた。次いで、細胞株を複製欠陥組換えレンチウイルスベクターを用いて形質導入して、ヒトユビキチンC(UbC)プロモーターによって駆動されるヒトIGF−Iの発現を誘導した。得られた細胞を単細胞株として増殖させ、さらなる選択は行わなかった(HK532.UbC−IGF−I)。同一UbCプロモーター下で緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する対照構築物を使用するHK532の形質導入は、およそ90〜95%のGFP陽性増殖性細胞をもたらした。
【0120】
(HK532培養および分化)
HK532およびHK532−IGF−I細胞両方の培養を、これまでに記載されたように実施した[42]。手短には、細胞を、10mM Hepesバッファー中の、100μg/mLのポリ−D−リシン(Millipore、Billerica、MA)を用いて24時間、続いて、PBS中の、25μg/mLのフィブロネクチンを用いて1時間コーティングされたフラスコ上で成長させた。あるいは、皮質ニューロン(CN)との共培養に先立って、ポリ−L−リシンでコーティングしたインサート上に細胞を播種した。細胞を、前駆細胞状態成長および維持のために、10ng/mLの線維芽細胞成長因子(FGF)を補給したN2B+培地(Neuralstem,Inc.、Rockville、MDによって供給される)で培養した。分化のために、細胞をFGFを含まないNSDM分化培地(4mMのL−グルタミン、20μMのL−アラニン、6μMのL−アスパラギン、67μMのL−プロリン、250nMのビタミンB12、25mg/Lのインスリン、100mg/Lのトランスフェリン、20nMのプロゲステロン、100μMのプトレシンおよび30nMの亜セレン酸ナトリウムを補給したDMEM)中で培養した。分化した細胞データは、分化後日数として示されている(すなわち、未分化(D0)、1日目(D1)、3日目(D3)など)。2日毎に培地を変更し、50%の培地を変更した。
【0121】
(IGF−I産生およびシグナル伝達)
HK532およびHK532−IGF−I細胞において、先に記載されたようにELISAおよびウエスタンブロッティングによってIGF−I発現およびシグナル伝達を調べた(Vincentら、Endocrine Society Abstracts(2003年)、P3−316 548頁;およびChiaら、Am J Epidemiol(2008年)、167巻(12号):1438〜45頁)。手短には、IGF−I産生を確認するために、未分化(D0)および分化した(D3およびD7)HK532およびHK532−IGF−I細胞からコンディショニング培地を集め、Centriconフィルター(3KDaカットオフ、Millipore、Billerica、MA)を使用して1mLに10倍濃縮し、ヒト特異的IGF−I ELISA(Assay Designs、Enzo Life Sciences Inc.、Farmingdale、NY)を製造業者の指示に従って実施した。IGF−Iシグナル伝達分析のために、HK532およびHK532−IGF−I細胞を、処理培地(インスリンが添加されていないNSDM分化培地)中で4時間培養し、その後、選択阻害剤を1時間添加し、その後、外因性IGF−I(20nM)を30分間添加した。阻害剤は、Akt経路阻害剤LY294002(LY;20μM;Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)、MAPK阻害剤U0126(U;20μM;Calbiochem、La Jolla、CA)またはIGF−IR阻害剤NVPAEW541(NVP;1μM;Sigma−Aldrich)を含んでいた。ウエスタンブロットのために、氷冷RIPAバッファー(20mM Tris、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%SDS、1mMデオキシコール酸Na、1%Triton X−100、0.1トリプシンユニット/L アプロチニン、10mg/mLロイペプチンおよび50mg/mL PMSF)中で総細胞タンパク質を抽出し、タンパク質濃度を調べ、試料をSDS−PAGEゲルで電気泳動し、ニトロセルロースに移した。一次抗体(特に断りのない限り、Cell Signaling Technology,Inc.(Danvers、MA)から得られた)は、ホスホ−IGF−IR(pIGF−IR)、IGF−IRβ(Tyr1135/1136)、ホスホ−Akt(Ser473)(pAkt)、Akt、ホスホ−ERK(pERK)、ERKおよびβ−アクチン(Chemicon、Temecula、CA)を含んでいた。一次抗体を4℃で一晩インキュベートした後、膜を、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしている適当な二次抗体(Cell Signaling Technology、Danvers、MA)とともに22℃で1時間インキュベートし、化学発光基質(SuperSignal West Pico;Pierce、Fisher Scientific、Hampton、NH)を用いて発色させ、Kodak BioMax XARフィルム(Sigma−Aldrich)に曝露した。
【0122】
(細胞遊走)
未分化HK532およびHK532−IGF−I細胞を、4℃で一晩貯蔵した後(1×106細胞/mLまたは3×106細胞/バイアル)、遊走用インサートに添加するか、あるいは、代わりに、6ウェルプレート上で培養して、分化のD7でインサートに移した。IGF−I(10nMの最終濃度)を含むか、または含まないNSDMおよび10%FBSをインサートの下に添加した。24時間後、QCM 24ウェル比色定量細胞遊走アッセイ(Millipore)を使用してインサートを通って遊走した細胞を染色した。遊走は、530および590nmで標準LabSystems Fluoroskan Ascent FLマイクロプレートリーダーを使用して定量した。
【0123】
(細胞増殖および分化)
細胞増殖および分化を、標準実験室免疫細胞化学(ICC)プロトコールを使用して評価した(Kimら、Journal of Biological Chemistry(1997年)、272巻:21268〜21273頁;Lunnら、Neurobiol Dis(2012年)、46巻(1号):59〜68頁)。手短には、HK532およびHK532−IGF−I細胞を、24ウェルプレート中、ポリ−L−リシンおよびフィブロネクチンコーティングしたガラスカバースリップ上で培養した。細胞を、10μM 5’−エチニル−2’−デオキシウリジン(EdU)とともに2時間インキュベートし、その後、Click−It EdUキット(Invitrogen)の製造業者のプロトコールに従って固定および処理することによって、細胞増殖を、D0、D3およびD7でこれまでに記載されたように測定した[45]。デジタルカメラを備えたOlympus BX−51顕微鏡を使用してとられた蛍光画像の定量化によってEdU組込みを測定した。すべての試料について増殖実験あたりおよそ2.5〜2.7×103個の細胞をカウントした(n=3)。
【0124】
分化を評価するために、細胞を4%PFAを用いて固定し、0.1%Triton/PBSを用いて透過処理し、5%正常ロバ血清/0.1%Triton/PBS中でブロッキングした。次いで、Ki67(Novus、Littleton、CO)、TUJ1(Neuromics、Edina、MN)、Nestin(Chemicon、Millipore)、GAD65/67(Millipore)、VGLUT2(Millipore)またはIGF−IRβ(1:500、Sigma)一次抗体を、1:1000で、特に断りのない限り、4℃で一晩インキュベートした。次いで、細胞をCy3、Cy5またはFITCがコンジュゲートしている二次抗体(Jackson ImmunoResearch、Westgrove、PA)中でインキュベートし、続いて、DAPIとともにProLong Goldアンチフェード(Molecular Probes、Invitrogen、Carlsbad、CA)を使用してガラススライド上にマウントした。Olympus BX−51顕微鏡を使用して画像をとり、すべての試料について分化実験あたりおよそ2.5〜2.7×103個の細胞をカウントした(n=3)。
【0125】
本発明者らは、次いで、前駆細胞状態の維持および軸索伸長に対する誘導されたIGF−I発現の効果を、これまでに記載されたような本発明者らの確立された神経指数測定を使用して調べた(Lunnら、Stem Cells Dev(2010年)、19巻(12号):1983〜93頁)。手短には、細胞をガラスカバースリップ上で単層で、分化の最初の7日間培養し、D0、D3およびD7にNestinを用いて免疫標識して、神経前駆細胞を同定するか、またはTUJ1を用いて免疫標識して、一次ニューロンプロセスを観察した。すべてのNestin標識試料について、実験あたり2.5×103個の細胞にわたってカウントした(n=3)。あるいは、MetaMorph(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を使用して、TUJ1標識した画像およびその対応するDAPI画像を分析した。閾値を設定し、神経突起によって覆われている領域を領域統計を使用して測定した。「カウント核」プラグインを使用して細胞数をカウントし、手作業での調整を行って、任意のミスカウントされた細胞を補正した。複合神経指数測定を使用してニューロンの数および神経突起の長さを分析し、これは、核の数によって除された完全ニューロン領域として表される。データは、細胞あたりの神経突起領域(μm2/細胞)として示されている(Lunnら、Stem Cells Dev(2010年)、19巻(12号):1983〜93頁)。状態あたり合計6つの画像をカウントし、これは、およそ7.5×103個のDAPI標識された細胞に相当する(n=3)。
【0126】
(一次CN調製および神経保護の評価)
本発明者らのこれまでに公開されたプロトコールに従って一次CNを単離した(Lunnら、Stem Cells Dev(2010年)、19巻(12号):1983〜93頁)。手短には、E15 Sprague−Dawleyラット胚から得たCNを集め、膜を除去し、組織を2〜3mm片に刻んだ。0.5%トリプシン/EDTA中、37℃で10分間組織をインキュベートし、続いて、血清でコーティングされたガラスピペットを用いて1分間トリチュレートすることによって、細胞を解離した。得られた細胞懸濁液を、24ウェルプレート中で、ポリ−L−リシンコーティングされたガラスカバースリップ上に塗布し、2.5mg/mlアルブミン、2.5μg/mlカタラーゼ、2.5μg/ml SOD、0.01mg/mlトランスフェリン、15μg/mlガラクトース、6.3ng/mlプロゲステロン、16μg/mlプトレシン、4ng/mlセレン、3ng/ml β−エストラジオール、4ng/mlヒドロコルチゾン、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/ネオマイシン(Gibco BRL)および1×B−27添加剤(Gibco BRL)を補給したNeurobasal培地(Gibco BRL、Invitrogen)を含んでいた成長培地中でインキュベートした。
【0127】
毒性AD微小環境に対するCN、HK532およびHK532−IGF−I感受性を調べるために、細胞を10μM Aβ(1−42)(rPeptide)を用いておよそ72時間処理した。細胞損傷を、ICC後CC3陽性細胞のパーセンテージをカウントすることによって決定される、切断されたカスパーゼー3活性化(CC3)によって評価した。すべての試料について実験あたりおよそ2.5×103個の細胞をカウントした(n=3)。神経保護効果を評価するために、分化したD7 HK532−IGF−Iをインサート上に播種し、通常の成長培地中で一次CN培養物とともに同時培養した。24時間後、10μM Aβ(1−42)(rPeptide)を用いて同時培養物を72時間処理した。一次CNを、CC3抗体(1:1000、Cell Signaling)を使用して上記のようにICC分析のために固定した。
【0128】
(In vivo移植)
in vivo移植後にHK532−IGF−I細胞が生存し、海馬領域中に組み込まれることを実証するために、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から、6週齢のB6C3−Tg(APPswe/PSEN1ΔE9)85Dbo/J(APP/PS1;n=5)および野生型B6C3F1/J(WT;n=8)マウスを得た。11週齢で、マウスに皮下タクロリムスペレット(FK−506;Neuralstem,Inc.によって供給される)を与え、12週齢で細胞移植手術を実施した。手短には、イソフルオランを用いてマウスに麻酔し、標準定位固定フレーム(Stoelting Company、Wood Dale、IL)に入れた。皮膚を切開し、予想される注射の領域で大きな開頭術を実施した。十字縫合から測定される以下の座標(それぞれ、後側/側面/腹側):−0.82/±0.75/2.5、−1.46/±2.3/2.9、−1.94/±2.8/2.9に従って表される3部位での海馬采脳弓への両側注入(合計6回の注射)によってHK532−IGF−I細胞懸濁液を投与した。各注射は、30,000細胞/μLの細胞濃度で1μLの容量からなっていた(60秒かけて投与され、ニードルを引き抜く前に60秒遅れさせる)。次いで、吸収性縫合糸を使用して皮膚を閉じた。手術後、マウスに腹膜内麻薬性鎮痛薬を2日間与え、研究を通じてタクロリムスペレットを継続した。細胞移植後2および10週で、分析のためにマウスを屠殺した。手短には、動物に麻酔し、氷冷生理食塩水を用いて灌流し、脳を解剖し、半球間境界に沿って切開した。脳を4%PFA中で一晩、後固定し、免疫組織化学分析(IHC)のために30%スクロース中で凍結保護した。
【0129】
IHCのために、固定された脳組織をOptimal Cutting Temperature化合物(OCT)を使用して包埋し、クリオスタットを使用して14μmのスライスを切片化した。IHCのために動物あたり海馬の10個の切片を選択し、グラフトされた細胞を検出し、海馬采脳弓への正確な標的化を確認した。切片をPBSで再水和し、PBS中、0.5%Triton X−100中で20分間透過処理し、1XPBS中、0.1%Triton X−100中、5%ロバ血清中で30分間ブロッキングした。ダブルコルチン(DCX;Millipore)およびヒト核(HuNu;Millipore)に対する一次抗体をブロッキング溶液で1:200希釈し、切片とともに4℃で一晩インキュベートした。一次抗体をインキュベートした後、切片をPBS中で3回洗浄し、ロバにおいて作られた、蛍光コンジュゲート二次抗体(Alexa 488およびAlexa 594;1:500;Invitrogen)とともに1時間インキュベートした。ひとたび、染色が完了すると、DAPI核染色(Molecular Probes、Invitrogen)を含有するProLong Goldアンチフェードマウント媒体を使用して、スライドをガラスカバースリップとともにマウントした。Leica SP2共焦点顕微鏡を使用して蛍光画像をとった。
【0130】
(統計分析)
すべてのデータは、平均±標準偏差(SD)、n=3として、または3回の独立実験の代表画像として示されている。GraphPad Prism(GraphPad Software,Inc.、La Jolla、CA)を使用して統計分析を実施した。ペアワイズ比較のために対応t検定を使用した。p<0.05の値を統計上有意と考えた(*p<0.05)。
【0131】
(実施例2)
(IGF−I産生およびシグナル伝達)
HK532細胞は、これまでに記載されていない新規皮質NSCである。細胞治療薬としてのそれらの可能性ある効き目を増強するために、およびそれらの神経保護能に対するIGF−I産生の影響を調べるために、全長ヒトIGF−Iをコードするレンチウイルスベクターを使用して、HK532−IGF−I細胞株を生成した。コンディショニング培地のELISA分析は、親HK532細胞は、極めて少ない〜検出不能な基礎レベルのIGF−Iしか産生しないのに対し、HK532−IGF−I細胞は、D0からD7の間に3〜5ng/mLのIGF−Iを産生する、およそ50倍の増大(
図1A)を実証した。したがって、HK532−IGF−I細胞は、適切なレベルのIGF−Iを産生し、これは初期分化を通じて維持され、頑強で安定なIGF−I発現が確認される。
【0132】
自己分泌IGF−I発現によって成長因子受容体レベルおよび活性化がどのように調節されるか調査を実施した。IHCによって、D7の親HK532細胞およびHK532−IGF−Iの両方の細胞表面に沿ってIGF−IR発現が観察された(
図1B)。両細胞株において、ウエスタンブロット解析によってこの発現が確認され、分化後の受容体発現の大幅な増大も示された(
図1C)。D0およびD7でHK532に対してHK532−IGF−Iにおいてわずかに低減したIGF−IR発現レベルが観察されたが、IGF−IRリン酸化およびシグナル伝達活性化は、細胞株間で大幅に異ならず、外因性IGF−Iの追加は、受容体のリン酸化の増大をもたらした(
図1C);この活性化は、分化後に大幅により明白であった。
【0133】
IGF−Iシグナル伝達がマイトジェン活性化細胞外シグナル調節性キナーゼ/細胞外シグナル調節性キナーゼ(MEK/ERK)を活性化することを考え、HK532およびHK532−IGF−I細胞においてマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)およびホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)/Akt経路、これらの重要な経路のリン酸化および下流活性化を評価した(
図1C)。D0およびD7で基礎MAPKシグナル伝達が存在するが、細胞株間で大幅な相違はなく、IGF−I刺激のみが分化後にシグナル伝達を増大した。しかし、基礎Aktシグナル伝達は、D0 HK532−IGF−I細胞においておよび分化後に両細胞株において大幅に増大した。外因性IGF−Iの追加は、分化後のHK532細胞におけるAktの頑強な増大を促進したが、HK532−IGF−IにおけるIGF−I刺激後に極めてわずかなAkt活性化しか観察されなかった。これらのデータは、親細胞に対する、外因性IGF−Iに対するHK532−IGF−Iの反応性の低減を実証する。注目すべきことに、MAPKシグナル伝達の阻害は、Aktリン酸化を増大させ、Aktシグナル伝達の阻害は、逆の観察結果となり、これは、これらの経路が代償的にシグナル伝達可能であることを示唆する。しかし、受容体アンタゴニストNVPを使用するIGF−IRシグナル伝達の阻害は、MAPKシグナル伝達に影響を及ぼさなかったが、IGF−IRおよびAktの活性化を、両細胞株における基礎レベル未満に大幅に枯渇させた(
図1C)。一緒に、これらのデータは、HK532−IGF−I細胞が、正常なIGF−IRおよびMAPK/Aktシグナル伝達プロファイルを示すことを実証する。
【0134】
(実施例3)
(IGF−I発現は、HK532増殖または遊走を変更しない)
EdU組込みを使用して、HK532およびHK532−IGF−I細胞増殖に対するIGF−Iの効果を評価した。未処理D0 HK532およびHK532−IGF−Iのおよそ36%および33%が、それぞれEdU陽性であった(
図2A〜E)。D3で、HK532およびHK532−IGF−Iの6%および9%が、それぞれEdU陽性であり、D7までに、いずれかの細胞株の3%未満が、EdU陽性であった。したがって、D0、D3またはD7で増殖プロファイルの相違は観察されず、両株がD7で最小の増殖を示した。これらのデータは、IGF−Iが、分化の最初の段階の間に増殖を促進または維持しないことを実証する。
【0135】
HK532およびHK532−IGF−I遊走に対するIGF−Iの効果もまた、D0およびD7で評価した。両時点でHK532およびHK532−IGF−Iについて同等の遊走レベルが観察された(
図2F〜G)。さらに、さらなるIGF−Iが、トランスウェルインサートの下に追加された場合に、変化は観察されなかった。したがって、誘導されたIGF−I発現は、前駆細胞細胞遊走に対して識別可能な効果を発揮しなかった。
【0136】
(実施例4)
(IGF−Iを発現するHK532は、神経分化能を保持する)
次いで、HK532前駆細胞状態の維持および軸索伸長に対するIGF−Iの効果を調べた。D0 HK532およびHK532−IGF−Iのおよそ92%および90%が、それぞれNestin陽性であり、これは、IGF−I発現が前駆細胞状態の維持に影響を及ぼさなかったことを示す。ニューロン分化の初期指標として確立された神経指数アプローチを使用して神経突起成長に対するIGF−Iの効果も評価した。HK532およびHK532−IGF−I両細胞について、細胞が分化するにつれ、D0およびD7の間に神経指数は増大し、試験された任意の時点で細胞株間で相違は観察されなかった(
図3F)。これらのデータは、IGF−Iが、初期HK532分化に影響を及ぼさないことを実証する。
【0137】
(実施例5)
(HK532−IGF−Iでは、GABA作動性であって、グルタミン酸作動性ではない表現型が増大される)
最終分化に対するIGF−Iの効果を調べるために、D0、D3およびD7でのグルタミン酸作動性(VGLUT)およびGABA作動性(GAD65)表現型を示す細胞の割合。GAD65陽性細胞を数量化し、それぞれ、総細胞の74%および67%で、親HK532細胞と比較してHK532−IGF−Iにおいて大幅に増大した(
図4A、B、E)。HK532(61%)およびHK532−IGF−I(67%)培養物中のVGLUT陽性細胞のパーセンテージは、大幅に異ならなかった(
図4C、D、F)。これらのデータは、IGF−Iの存在が、細胞分化に起因するGABA作動性ニューロン数を増大させるが、グルタミン酸作動性ニューロン数に対しては有意な効果を有さないこと実証する。
【0138】
(実施例6)
(HK532−IGF−Iは、in vitroで、Aβ毒性に対して耐性であり、一次CNを保護する)
Aβ(1−42)は、AD関連毒性のよく使用されるin vitroモデルである(Bruceら(1996年)、PNAS 93巻(6号):2312〜6頁)。Aβに曝露された場合に、一次CNおよび両NSC株において大幅なアポトーシスおよびCC3活性化が観察された(
図5A)。HK532およびHK532−IGF−Iにおけるアポトーシスレベルは、一次CNにおいて観察されたものよりも大幅に低かった(p<0.05;
図5A)。修飾された前駆細胞の保護能を調べるために、HK532およびHK532−IGF−Iとともに間接的に共培養された一次CNにおいてAβ毒性も評価した(
図5B〜E)。CC3活性化によってやはり示される一次CNにおけるアポトーシスは、HK532とともに共培養した場合には40%未満に、HK532−IGF−Iとともに共培養した場合には30%未満に大幅に低減した(p<0.05;
図5F)。これらのデータは、HK532−IGF−I細胞株が、神経保護性であり、Aβ誘導性一次CN死を防止可能であることを示す。
【0139】
(実施例7)
(ADマウスモデルにおいてHK532−IGF−Iは移植を生き抜き、in vivoで組み込まれる)
前臨床試験の実現可能性を確立するために、HK532−IGF−I細胞を、APP/PS1二重トランスジェニックマウス、ADのよく使用されるモデルに移植した(Caoら、J Biol Chem(2007年)、282巻(50号):36275〜82頁)。このパイロット研究は、海馬の海馬采脳弓における細胞の正確で妥当な解剖学的配置を確認するように働き、移植された細胞の生存を経時的に評価した。注射されたすべての動物において標的化の正確性は達成された。移植されたヒト細胞は、HuNuおよびDCXについて2週間で(データは示さず)および移植後10週間でIHCによって検出された(
図5E、F)。グラフトされた細胞は、両ADの海馬領域(
図5E)およびWT動物(
図6F)において明白であった。ニューロン前駆体を標識する微小管結合リン酸化タンパク質であるDCXによるHuNu標識細胞の同時染色は、神経発生を示し、移植された皮質前駆細胞は、初期ニューロン分化相にあったことを示唆する。
【0140】
(実施例8)
(HK532−IGF−Iの投与は、ADマウスモデルにおいてin vivoでAβプラーク形成を低減する)
Aβ病理に対するin vivo HK532−IGF−I移植の全体的な効果を評価するために、5種のAβアイソフォーム(Aβ−37、38、39、40および42)に対するポリクローナル抗体を用いてマウスあたり複数の海馬および皮質切片で免疫染色を実施した。総免疫反応性領域の尺度および強度に基づいて、切片の蛍光画像を定量化した。予測されたように、結果は、媒体が注射されたAPP/PS1マウスにおける明確なAβプラーク形成および非tg動物には、Aβがないことを示す(
図6A〜B、D〜E)。さらに、HK532−IGF−Iを用いて処理されたAPP/PS1マウスでは、媒体が注射されたAPP/PS1マウスと比較してAβレベルの大幅に有意な低減があった(P<0.0001;対応のないt検定)(
図6B〜C、E〜G)。このデータは、HK532−IGF−Iが、Aβ誘導性損傷から神経組織を保護するように機能するだけではなく、Aβ沈着物を排除する、および/またはAβが蓄積しにくくすることによってAβの沈着を減弱したことを示す。
【0141】
NSC処理マウスにおけるAβ低減の機序に関する洞察をより得るために、海馬および皮質におけるAβレベルの相違を別個に考慮した。Aβは、NSC処理マウスの皮質において大幅に低減された(P<0.0005;対応のないt検定)(
図6H)。しかし、NSC処理マウスの海馬におけるAβの低減は、有意ではなかった(P=0.1061;対応のないt検定)(
図6H)。
【0142】
(実施例9)
(HK532−IGF−Iの投与は、ADマウスモデルにおいてin vivoでコリン作動性活性を増大する)
本発明者らのADモデルにおけるコリン作動性ニューロンの存在を評価し、これらのニューロンに対するHK532−IGF−I移植の効果を調べるために、各マウスに由来する線条体切片をChATに対する抗体を用いて免疫染色して、コリン作動性ニューロンを発現するChATの強いレベルを同定した(
図7A〜D)。本発明者らは、各切片について線条体の全体を画像化し、各々のChAT陽性細胞の数をカウントした。細胞カウントは、APP/PS1マウスにおいて、WTと比較して線条体コリン作動性ニューロンの大幅な喪失を示した(P=0.0115;対応のないt検定)(
図7E)。さらに、NSC処理APP/PS1マウスにおいて、媒体が注射されたADマウスと比較してコリン作動性ニューロンの数の大幅な増大があった(P=0.0366;対応のないt検定)(
図7F)。これらの結果は、APP/PS1マウスにおけるHK532−IGF−I移植による線条体におけるコリン作動性機能のレスキューを示す。
【0143】
(実施例10)
(HK532−IGF−Iの投与は、ADマウスモデルにおいてin vivoで前シナプス活性を増大する)
HK532−IGF−Iが、APP/PS1マウスにおいてシナプスの密度を増大するか否かを調べるために、すべての動物から得た海馬切片を、前シナプスマーカー、シナプトフィジンを用いて免疫染色した。HK532−IGF−Iが移植されたAPP/PS1マウスの海馬で、媒体が注射されたトランスジェニックマウスと比較して、蛍光強度において識別可能な増大が見られた(
図8A〜F)。この増大された強度は、注射されていない、および偽処理された非tgマウスの両方において見られたレベルと同等であった。これらのデータは、HK532−IGF−I移植が、ADにおいてシナプスを修飾することによって記憶および認知をレスキューすることを示す。
【0144】
HK532−IGF−I細胞が、内因性ニューロンを有するシナプスを形成していたか否かを調べるために、ヒトNuMAおよびマウスおよびヒト起源両方のシナプトフィジンについての同時染色を、HK532−IGF−I処理したマウスの海馬切片で実施した。NSCが局在していた多形層の領域において、相当なシナプトフィジン陽性染色が見られた(
図8I)。さらに、シナプスマーカーは、NuMA染色された細胞に明確に隣接しており(
図8G〜J)、ヒトNSC由来細胞が内因性ニューロンを有するシナプス形成し得ることを示唆する。
【0145】
(実施例11)
(脊髄におけるHK532.UbC−IGF1の生存および組込み)
脊髄における生存および組込みを実証するために、HK532.UbC−IGF1を、SOD1G93Aラット、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の確立された動物モデルの頸髄中に移植した。各動物に、頸髄の前角(C4〜C6脊髄レベル)を標的化して合計1.8×105個の細胞を注射した。一時的なミコフェノール酸モフェチル(30mg/kg IP、グラフト後7日間)によって、および連続タクロリムス送達によって動物を免疫抑制した。動物は56日生存しており、その後、標準灌流−固定した。凍結免疫組織化学分析は、前角におけるヒト細胞移植片の存在および灰白質および白質中の広い分布を示す(
図9a〜c)。
【0146】
特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される分子量、反応条件などといった成分、特性の量を表すすべての数は、用語「約」によって、すべての場合において修飾されていると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、本開示によって得られようとする所望の特性に応じて変わり得る近似である。少なくとも、特許請求の範囲の均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、報告された有効桁の数字を考慮して、通常の丸め方を適用することによって少なくとも解釈されなくてはならない。
【0147】
本開示の広い範囲を示す数的範囲およびパラメータは近似であるにもかかわらず、特定の実施例において示される数値は、できる限り正確に報告されている。しかし、任意の数値は、そのそれぞれの試験測定値において見られる標準偏差に必然的に起因する特定の誤差を本質的に含有する。
【0148】
用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」および本開示を説明する文脈において(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)使用される同様の指示対象は、本明細書において特に断りのない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の単位の記述は、単に、範囲内に入る別個の値に対して各々に個別に言及する簡潔に表現した方法として役立つよう意図される。本明細書において特に断りのない限り、各個々の値は、本明細書に個別に列挙されるように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書において特に断りのない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、任意の適した順序で実施され得る。本明細書において提供される、ありとあらゆる実施例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に、本開示をより明らかにするように意図されるものであって、別に特許請求される本開示の範囲に制限を課すものではない。本明細書における言語は、本開示を実施するために必要な任意の特許請求されていない要素を示すと解釈されてはならない。
【0149】
本明細書に開示される代替要素または本開示の実施形態の群化は、制限と解釈されてはならない。各群のメンバーは、個別に、または群のその他のメンバーもしくは本明細書に見られるその他の要素との任意の組合せで言及され、特許請求され得る。便宜性および/または特許性の理由で、群の1または複数のメンバーが、群に含まれ得る、または群から削除され得るということは予想される。任意のこのような組入れまたは削除が起こる場合には、本明細書は、添付の特許請求の範囲において使用されるすべてのマーカッシュ群の記載を満たす、このように修飾された群を含有するものとする。
【0150】
本開示を実施するための本発明者らが知る最良の形態を含めた、本開示の特定の実施形態が本明細書に記載されている。もちろん、これらの記載された実施形態に関する変動は、前述の説明を読むと当業者に明らかとなる。本発明者らは、当業者にこのような変動を適宜使用することを期待し、本発明者らは、本明細書において具体的に記載されたものではなく本開示が実施されることを意図する。したがって、本開示は、適用法によって許可されるように、添付の特許請求の範囲に列挙された対象のすべての修飾および均等物を含む。さらに、本明細書において特に断りのない限り、または文脈によって別に明確に矛盾しない限り、そのすべての可能性ある変法における上記の要素の任意の組合せが、本開示によって包含される。
【0151】
本明細書に開示される特定の実施形態は、言語からなる、または言語から本質的になることを使用して、特許請求の範囲においてさらに制限され得る。特許請求の範囲において使用される場合には、出願されるか、補正につき追加されるかにかかわらず、移行句「からなる」は、特許請求の範囲に明記されない任意の要素、ステップまたは成分を排除する。移行句「から本質的になる」は、特許請求の範囲を特定の材料またはステップならびに基本的および新規特徴(複数可)に大きく影響しないものに制限する。そのように特許請求される本開示の実施形態は、本明細書において本質的にまたは明確に記載され、可能にされる。
【0152】
本明細書に開示される本開示の実施形態は、本開示の原則の例示であるということは理解されなくてはならない。使用され得るその他の修飾は、本開示の範囲内にある。したがって、例として、制限ではなく、本開示の代替配置が、本明細書における技術に従って利用され得る。したがって、本開示は、示され、記載されるようなものに正確に制限されない。
【0153】
本開示を、種々の特定の材料、手順および実施例を参照して本明細書において記載し、例示したが、本開示は、その目的のために選択される材料および手順の特定の組合せに制限されないということは理解される。このような詳細の多数の変法は、当業者に理解されるように暗示され得る。本明細書および実施例は、単に例示として考えられるように意図され、本開示の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。本願において言及されたすべての参考文献、特許および特許明細書は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。