特許第6983074号(P6983074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6983074-二酸化炭素ハイドレートを含有する果実 図000008
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  • 特許6983074-二酸化炭素ハイドレートを含有する果実 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983074
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】二酸化炭素ハイドレートを含有する果実
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20211206BHJP
   A23G 9/42 20060101ALI20211206BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20211206BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20211206BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   A23L19/00 Z
   A23G9/42
   A23L2/00 B
   A23L2/02 Z
   A23L2/52 101
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-561160(P2017-561160)
(86)(22)【出願日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】JP2017000841
(87)【国際公開番号】WO2017122729
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2019年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-6111(P2016-6111)
(32)【優先日】2016年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591107034
【氏名又は名称】日本液炭株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 簡利
(72)【発明者】
【氏名】冨田 康之
(72)【発明者】
【氏名】江口 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】長須 弘真
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−506999(JP,A)
【文献】 特開2007−306863(JP,A)
【文献】 特開2007−319031(JP,A)
【文献】 中国特許第101700055(CN,B)
【文献】 特開平01−137950(JP,A)
【文献】 松尾誠治,ハイドレート技術を用いた農工融合による低炭素社会の現実に関する研究,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2014年06月11日,https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23560984/471147.pdf
【文献】 TAKEYA, S., et al.,CO2 processing and hydration of fruit and vegetable tissues by clathrate hydrate formation,Food Chem.,2016年03月,vol.205,p.122-128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00−19/20
A23G 1/00−9/52
A23L 2/00−2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−3〜4℃であること及び二酸化炭素圧力1.8〜3.2MPaの範囲内であることを含む条件で、1〜3時間二酸化炭素を果実に接触させる工程を含
二酸化炭素ハイドレートを含有する果実における、20℃、1気圧の条件下に10分間保管する前の二酸化炭素含有率に対する、20℃、1気圧の条件下に10分間保管した後の二酸化炭素含有率の割合が40%以上である、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の二酸化炭素含有率が0.67重量%以上である請求項1に記載の二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法。
【請求項3】
果実が、ブドウ、ミカン、ナシ、イチゴ、ブルーベリー、マスカット、ラズベリー、レモン、ピンクグレープフルーツから選択される請求項1又は2に記載の二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法。
【請求項4】
−3〜4℃であること及び二酸化炭素圧力1.8〜3.2MPaの範囲内であることを含む条件で、1〜3時間二酸化炭素を果実に接触させて二酸化炭素ハイドレートを含有する果実を製造する工程を含
二酸化炭素ハイドレートを含有する果実における、20℃、1気圧の条件下に10分間保管する前の二酸化炭素含有率に対する、20℃、1気圧の条件下に10分間保管した後の二酸化炭素含有率の割合が40%以上である、果実の炭酸感及び香り立ちを向上させる方法。
【請求項5】
二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の二酸化炭素含有率が0.67重量%以上である請求項に記載の方法。
【請求項6】
果実が、ブドウ、ミカン、ナシ、イチゴ、ブルーベリー、マスカット、ラズベリー、レモン、ピンクグレープフルーツから選択される請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸感に顕著に優れ、香り立ちに優れ、かつ、二酸化炭素の徐放性に顕著に優れた二酸化炭素ハイドレートを含有する果実(以下、本明細書において「ハイドレート果実」とも表示する。)や、該ハイドレート果実を含むアイスクリーム類等の冷菓や、該ハイドレート果実を含む飲料、該ハイドレート果実の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
果物に炭酸感を付与することが提案されている。例えば、特許文献1には、果物の味を高めるために果物を炭酸ガスに曝露して、果物を炭酸化することや、果物を炭酸化する装置が開示されている。また、特許文献2には、果実に炭酸ガスを圧入することにより清涼感が付与された果実や、かかる果実の製造方法が開示されている。
【0003】
ところで、二酸化炭素ハイドレート(COハイドレート)という物質が知られている。二酸化炭素ハイドレートとは、水分子の結晶体の空寸に二酸化炭素分子を閉じ込めた包接化合物をいう。結晶体を形成する水分子は「ホスト分子」、水分子の結晶体の空寸に閉じ込められている分子は「ゲスト分子」または「ゲスト物質」と呼ばれる。二酸化炭素ハイドレートは、二酸化炭素と水を、低温、かつ、高圧の二酸化炭素分圧という条件にすることにより製造することができ、例えば、ある温度であること、及び、その温度における二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力よりも二酸化炭素分圧が高いことを含む条件(以下、「二酸化炭素ハイドレート生成条件」とも表示する。)において製造することができる。上記の「ある温度であること、及び、その温度における二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力よりも二酸化炭素分圧が高い」条件は、非特許文献1(J. Chem. Eng. Data (1991) 36, 68-71)のFigure 2.や、非特許文献2(J. Chem. Eng. Data (2008), 53, 2182-2188)のFigure 7.やFigure 15.に開示されている二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力曲線(例えば縦軸が二酸化炭素圧力、横軸が温度を表す)において、かかる曲線の高圧側(二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力曲線において、例えば縦軸が二酸化炭素圧力、横軸が温度を表す場合は、該曲線の上方)の領域内の温度と二酸化炭素圧力の組合せの条件として表される。また、二酸化炭素ハイドレートは、水の代わりに微細な氷を二酸化炭素と、低温、かつ、低圧の二酸化炭素分圧という条件下で反応させて製造することもできる。二酸化炭素ハイドレートを製造する際の二酸化炭素の圧力が高くなるほど、また、二酸化炭素と水の温度が低くなるほど、二酸化炭素ハイドレートの二酸化炭素濃度が高くなる傾向がある。二酸化炭素ハイドレートの二酸化炭素濃度は、二酸化炭素ハイドレートの製法にもよるが、約10〜30重量%程度とすることができ、炭酸水の二酸化炭素濃度(約0.5重量%程度)と比較して顕著に高い。
【0004】
前述の特許文献1において、果実に炭酸感を付与する際の条件のうち、最も低温で、最も高いCO圧の条件は1℃、0.7MPaであり、前述の特許文献2において、果実に炭酸ガスを溶解させる際の条件は、5℃、5kg/cmG(約0.5MPa)、1時間である。特許文献1や特許文献2が開示する条件は、二酸化炭素ハイドレート生成条件ではなく、これらの文献における果実には、二酸化炭素ハイドレートは含まれない。
【0005】
このように、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実はこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−506999号公報
【特許文献2】特許第2652175号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】”Hydrates of Carbon Dioxide and Methane Mixtures”, J. Chem. Eng. Data (1991) 36, 68-71
【非特許文献2】”Phase Equilibrium for Clathrate Hydrates Formed with Methane, Ethane, Propane, or Carbon Dioxide at Temperatures below the Freezing Point of Water”, J. Chem. Eng. Data (2008), 53, 2182-2188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、炭酸感に顕著に優れ、香り立ちに優れ、かつ、二酸化炭素の徐放性に顕著に優れたハイドレート果実や、該ハイドレート果実を含むアイスクリーム類等の冷菓や、該ハイドレート果実を含む飲料や、該ハイドレート果実の製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、二酸化炭素ハイドレートの用途について様々な検討を行う中で、単なる水に二酸化炭素ハイドレートを含有させるのではなく、果実に二酸化炭素ハイドレートを含有させることを着想した。果実に二酸化炭素ハイドレートを含有させた(果実中に含まれる水分において二酸化炭素ハイドレートを生成した)との報告はこれまでになく、果実に二酸化炭素ハイドレートを実際に含有させることができるかどうか、本発明者らにも分からなかった。また、二酸化炭素ハイドレートを生成する際の高圧条件等により、果実の香味が大きく損なわれる懸念もあった。
【0010】
本発明者らは、果実に二酸化炭素ハイドレートを含有させることを試みるべく、「果皮を剥いたブドウ」、「果皮及びじょうのう膜を剥いたミカン」、「果皮を剥き、3〜5cm角の大きさに切ったナシ」及び「3〜5cm角の大きさに切ったイチゴ」を高圧容器内に入れた後、高圧容器内を二酸化炭素ハイドレート生成条件(低温、かつ、高圧の二酸化炭素という条件)にして、該高圧容器内で果実を1時間保管した。その後、かかる果実を冷凍し、該果実を大気圧下で回収した。
【0011】
回収した果実の香味を確認したところ、従来にはない、炭酸感に優れた良好な香味であった。また、本発明者らは、かかる果実の炭酸感を評価し、かかる果実のCO含有率を測定し、及び、かかる果実のCO徐放性を評価したところ、該果実が、二酸化炭素ハイドレートを含有すること、炭酸感に顕著に優れていること、及び、二酸化炭素の徐放性に顕著に優れていることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、本発明者らは、本発明のハイドレート果実等の冷凍果実について、かかる冷凍果実が融解する際の、その果実本来の香りの香り立ち(本明細書において「果実本来の香り立ち」あるいは「香り立ち」とも表示する。)を確認したところ、本発明のハイドレート果実は、単に冷凍した果実や、二酸化炭素ハイドレートを生成しない程度に二酸化炭素を含有させて冷凍した果実等と比較して、果実が融解する特に初期の段階において、果実本来の香り立ちが向上することを見いだした。この融解初期段階の香り立ちの向上は、本発明のハイドレート果実等を飲料(炭酸水又はイオン交換水)に添加した場合も認められることを本発明者らは見いだした。本発明者らは、これらのことをさらに見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)二酸化炭素ハイドレートを含有する果実や、
(2)二酸化炭素含有率が0.55重量%以上である上記(1)に記載の果実や、
(3)−20〜4℃の範囲内であること、及び、二酸化炭素圧力1.8〜4MPaの範囲内であることを含む条件、又は、−20〜−4℃の範囲内であること、及び、二酸化炭素圧力1.3〜1.8MPaの範囲内であることを含む条件で二酸化炭素を果実に接触させることにより、二酸化炭素ハイドレートを含有するように調製された上記(1)又は(2)に記載の果実や、
(4)20℃、1気圧の条件下に10分間保管する前の二酸化炭素含有率に対する、20℃、1気圧の条件下に10分間保管した後の二酸化炭素含有率の割合が、40%以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の果実に関する。
【0014】
また、本発明は、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の果実を含む冷菓や、
(6)冷菓が、アイスクリーム類、又は、アイスクリーム類を含む若しくは含まない凍結状態の菓子である上記(5)に記載の冷菓や、
(7)アイスクリーム類が、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス及び氷菓のうちのいずれかである、上記(6)に記載の冷菓に関する。
【0015】
さらに、本発明は、
(8)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の果実を含む飲料に関する。
【0016】
また、本発明は、
(9)果実中に含まれる水分において二酸化炭素ハイドレートが生成する条件で、二酸化炭素を果実に接触させる工程を含む、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法や、
(10)二酸化炭素ハイドレートが生成する条件が、ある温度であること、及び、その温度における二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力よりも二酸化炭素分圧が高いことを含む条件である上記(9)に記載の二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法や、
(11)二酸化炭素を果実に接触させる時間が1時間以上である上記(9)又は(10)に記載の二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭酸感に顕著に優れ、香り立ちに優れ、かつ、二酸化炭素の徐放性に顕著に優れたハイドレート果実や、該ハイドレート果実を含むアイスクリーム類等の冷菓や、該ハイドレート果実を含む飲料や、該ハイドレート果実の製造方法等を提供することができる。本発明のハイドレート果実は、従来にはない、炭酸感及び香り立ちに優れた良好な香味を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】後述の実施例4における、取り出し10分後の各果実のCO残存率(縦軸)を表す図である。図1の各果実における4本の棒グラフのうち、一番左の棒グラフは比較例果実(5℃、 0.5MPa、 1時間)の結果を表し、左から2番目の棒グラフはハイドレート果実(1℃、 2MPa、 1時間)の結果を表し、左から3番目の棒グラフはハイドレート果実(1℃、3MPa、 1時間)の結果を表し、一番右の棒グラフはハイドレート果実(1℃、3MPa、2時間)の結果を表す。
図2】後述の実施例5における、比較例果実の経時的なCO残存率(縦軸)を表す図である。横軸は、高圧容器から比較例果実を取り出してからの経過時間(分)を表す。経過時間が10分の時点の4本のグラフにおいて、CO残存率が高い方から、ブドウ、イチゴ、ナシ、ミカンのグラフを表す。
図3】後述の実施例5における、ハイドレート果実(1℃、3MPa、1時間)の経時的なCO残存率(縦軸)を表す図である。横軸は、高圧容器から比較例果実を取り出してからの経過時間(分)を表す。経過時間が15分の時点の4本のグラフにおいて、CO残存率が高い方から、イチゴ、ナシ、ブドウ、ミカンのグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実(本発明のハイドレート果実)、及び、本発明のハイドレート果実を含む冷菓(以下、「本発明の冷菓」とも表示する。)、及び、本発明のハイドレート果実を含む飲料(以下、「本発明の飲料」とも表示する。)、及び、本発明のハイドレート果実の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。)等からなる。
【0020】
1.<本発明のハイドレート果実>
本発明のハイドレート果実としては、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実である限り特に制限されない。本発明のハイドレート果実は、二酸化炭素ハイドレートを含有しているため、炭酸感に顕著に優れ、香り立ちに優れ、かつ、二酸化炭素の徐放性に顕著にすぐれている。本明細書において「二酸化炭素ハイドレートを含有する果実」とは、果実に含まれる水分の少なくとも一部が二酸化炭素と共に二酸化炭素ハイドレートを形成することにより、かかる果実が二酸化炭素ハイドレートを含有していることを意味する。また、本明細書において「二酸化炭素ハイドレート」とは、水分子の結晶体の空寸に二酸化炭素分子を閉じ込めた固体の包接化合物を意味する。二酸化炭素ハイドレートは、通常、氷状の結晶体であり、例えば標準気圧条件下で、かつ、氷が融解するような温度条件下に置くと、融解しながら二酸化炭素を放出する。したがって、本発明のハイドレート果実は、保存性や安定性の観点から、冷凍されていることが好ましい。
【0021】
本明細書において「炭酸感に顕著に優れたハイドレート果実」とは、「二酸化炭素ハイドレートを含有する果実であって」、かつ、「対照果実と比較して、炭酸感が優れている(高い)果実」を意味する。本明細書において「対照果実」とは、比較するハイドレート果実と同じ種類で同じ態様(大きさ、皮の有無等)の果実を、二酸化炭素ハイドレートが生成しない条件で二酸化炭素と反応させた後、冷凍した果実を意味し、例えば、5℃、二酸化炭素圧力0.5MPaの条件下で二酸化炭素と1〜3時間(好ましくは1時間、2時間又は3時間)接触させた後、冷凍した果実を意味する。
かかる炭酸感の比較は、訓練されたパネラーによる官能評価によって行うことができる。官能評価の評価基準として、例えば以下の基準を用いることができる。
(炭酸感の評価基準)
3:炭酸感を強く感じる(泡感がはっきり分かり、口の中で持続する)
2:炭酸感を感じる(1と3の中間程度)
1:炭酸感をわずかに感じる(泡感はないが、ピリッとした刺激を感じる)
0:炭酸感を全く感じない
【0022】
本明細書において「香り立ちに優れた」ハイドレート果実、あるいは、「果実の香り立ちに優れた」ハイドレート果実とは、「果実本来の香りの香り立ちが向上したハイドレート果実」を意味する。本明細書において「果実本来の香りの香り立ちが向上したハイドレート果実」とは、「二酸化炭素ハイドレートを含有する果実」であって、かつ、「融解する際の、果実本来の香りの香り立ちが、コントロール果実又は対照果実(好ましくはコントロール果実)と比較して向上したハイドレート果実」を意味する。本明細書において「コントロール果実」(単に「コントロール」とも表示する。)とは、比較するハイドレート果実と同じ種類の果実を同様の態様(大きさ、皮の有無等)で単に冷凍させた果実を意味する。果実本来の香りの香り立ち(本明細書において単に「香り立ち」とも表示する)の比較は、訓練されたパネラーによる官能評価によって行うことができる。香り立ちの評価基準として、例えば以下の基準を用いることができる。
(果実の香り立ちの評価基準)
−1:コントロールより香り立ちが弱い
0:コントロールと同程度の香り立ち
1:コントロールより香り立ちがわずかに強い
2:コントロールより香り立ちが強い
3:コントロールより香り立ちが明らかに強い
【0023】
前述したように、本明細書における「果実本来の香り立ち」(「香り立ち」)とは、果実が融解する際の、その果実本来の香りの香り立ちであるが、かかる「果実が融解する際」とは、冷凍した果実が周囲の気体や容器に触れて融解する際であってもよいし、冷凍した果実が周囲の液体(好ましくは飲料)に触れて融解する際であってもよい。ここで「果実が融解する際」としては、果実が融解する初期段階が好ましく挙げられ、具体的には、冷凍した果実が融解し得る条件の周囲の気体、容器又は液体に触れた直後から15分間以内、好ましくは10分間以内、より好ましくは5分間以内が好適に挙げられる。
【0024】
本発明のハイドレート果実の二酸化炭素含有率としては、果実の種類などによって二酸化炭素ハイドレートの含有し易さや、水分含有率等が異なるため一概に規定することはできないが、例えば、その果実(好ましくは、果皮などの皮を除去した果実)に対して0.55重量%以上、好ましくは0.65重量%以上、より好ましくは0.8重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは2重量%以上であることが挙げられる。本発明のハイドレート果実の二酸化炭素含有率の上限は特に制限されず、例えば、その果実(好ましくは、果皮などの皮を除去した果実)に対して20重量%以下、15重量%以下又は10重量%以下であることが挙げられる。
【0025】
(二酸化炭素含有率の算出法)
ハイドレート果実の二酸化炭素含有率(CO含有率)は、例えば以下の方法で算出することができる。製造後又は保存後のハイドレート果実を、水分を透過しない容器(例えばプラスチック製の容器)に入れ、速やかにそのハイドレート果実の重量を測定する(「重量W」)。その後、容器に入れたハイドレート果実を、ハイドレート果実が融解し得る条件下(例えば室温(好ましくは20℃)、大気圧下)(以下、単に「融解し得る条件下」とも表示する。)に保管する。ハイドレート果実は融解し始め、該果実に含まれていた二酸化炭素が放出されていき、その分の重量が減少することとなる。ハイドレート果実が完全に融解し、炭酸ガスが抜けきったら(例えば、室温(好ましくは20℃)に保管してから30分が経過したら)、容器内に溶出した水分等を含め、容器内のその果実の重量を測定する(「重量W」。ハイドレート果実における二酸化炭素含有率は以下の数式により算出することができる。
CO含有率(%)=[(重量W−重量W)×100]/重量W
【0026】
また、製造後又は保存後のハイドレート果実を、融解し得る条件下に保管し始めてからX分後における該果実のCO含有率(%)は以下の数式により算出することができる。ただし、重量Wは、融解し得る条件下での保管開始からX分後のハイドレート果実の重量を表す。
融解し得る条件下での保管開始からX分後のCO含有率(%)=[(重量W−重量W)×100]/重量W
【0027】
本明細書において「二酸化炭素の徐放性に顕著に優れたハイドレート果実」とは、「二酸化炭素ハイドレートを含有する果実であって」、かつ、「5℃、二酸化炭素圧力0.5MPaの条件下で二酸化炭素と1時間接触させた同種の果実(対照果実)と比較して、融解し得る条件下で一定期間保管した後における二酸化炭素残存率(%)が高い果実」を意味する。
【0028】
(二酸化炭素残存率の算出法)
ハイドレート果実における二酸化炭素残存率(%)は、例えば以下の方法で算出することができる。製造後又は保存後のハイドレート果実を、水分を透過しない容器(例えばプラスチック製の容器)に入れ、速やかにそのハイドレート果実の重量を測定する(「重量W」)。その後、容器に入れたハイドレート果実を、融解し得る条件下(例えば室温(好ましくは20℃)、大気圧下)に保管する。ハイドレート果実は融解し始め、該果実に含まれていた二酸化炭素が放出されていき、その分の重量が減少することとなる。保管開始からX分後のハイドレート果実の重量を測定する(「重量W」)。ハイドレート果実が完全に融解し、炭酸ガスが抜けきったら(例えば、室温に保管してから30分経過後に)、容器内に溶出した水分等を含め、容器内のその果実の重量を測定する(「重量W」)。ハイドレート果実における二酸化炭素残存率は以下の数式により算出することができる。
融解し得る条件下での保管開始からX分後のCO残存率(%)=[(重量W−重量W)×100]/(重量W−重量W
【0029】
本発明のハイドレート果実における二酸化炭素の好ましい徐放性としては、20℃、1気圧の条件下(「融解し得る条件下」の一種)に10分間保管する前と比較して、20℃、1気圧の条件下に10分間保管した後の二酸化炭素残存率が、40%以上、好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であることが挙げられる。かかる二酸化炭素残存率の上限は特に制限されず、99.9%以下、98%以下又は90%以下であることが挙げられる。なお、上記の二酸化炭素残存率(%)は、20℃、1気圧の条件下に10分間保管する前の二酸化炭素含有率に対する、20℃、1気圧の条件下に10分間保管した後の二酸化炭素含有率の割合(%)として表すことができる。
【0030】
本明細書における「果実」は、果実である限り、種類等に制限はない。本明細書における「果実」としては、ナシ、リンゴ、カリン等の仁果類;ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン等の柑橘類;サクランボ、モモ、スモモ等の核果類;ブドウ、イチゴ、キウイフルーツ、カキ、ブルーベリー、メロンなどの果物が挙げられる。なお、イチゴ、スイカ、メロン、トマト等、果実のように食べられる野菜(果実的野菜)は、本発明では果実に分類する。また、これらの果実は、栽培したものを用いてもよいし、市販されているものを用いてもよい。
【0031】
本発明に用いる好適な果実の種類としては、ナシ、リンゴ、ミカン、オレンジ、ブドウ、イチゴ、キウイフルーツ、パイナップル、グレープフルーツなどが挙げられる。
【0032】
本発明のハイドレート果実に用いる果実は、表面に皮等を有している場合、その皮等を備えたままであってもよいが、より優れた炭酸感や、より優れた二酸化炭素の徐放性を得る観点から、その皮等を剥いて除去した果実であることが好ましい。皮等を除去すると、果実に含まれる水分が外気に接しやすくなり、二酸化炭素ハイドレートを生成しやすくなるからである。皮等を除去した果実としては、果皮を剥いて除去したブドウ、果皮及びじょうのう膜を剥いて除去した柑橘類果実、果皮を剥いて除去したパイナップル等が挙げられる。
【0033】
本発明のハイドレート果実に用いる果実の大きさや形状等は特に制限されないが、消費者の食べやすさの観点から、消費者が一口で食べられる大きさ、形状であることが好ましい。かかる大きさとして、5cm角以内、4cm角以内又は3cm角以内の大きさが挙げられる。ハイドレート果実の製造に用いる果実が前述の大きさより大きい場合は、ナイフ等で前述の大きさ以内となるように切ることが好ましい。ハイドレート果実の大きさの下限は特に制限されないが、5mm角以上、1cm角以上、2cm角以上の大きさが上げられる。
【0034】
本発明のハイドレート果実は、単に、果実に二酸化炭素を圧入して、果実が二酸化炭素ハイドレートを含有するように処理した果実であってもよいが、さらに、甘味成分、色素、水等の任意成分を添加処理した果実であってもよい。すなわち、本発明のハイドレート果実は、二酸化炭素ハイドレートに加えて、甘味成分、色素、水分等の任意成分を含有する果実であってもよい。かかる任意成分を添加処理する方法としては特に制限されないが、任意成分が水以外である場合は、かかる任意成分を水に溶解した水溶液に果実を浸した後、二酸化炭素を圧入する方法が挙げられ、任意成分が水である場合は、水に果実を浸した後、二酸化炭素を圧入する方法が挙げられる。
【0035】
本明細書において「甘味成分」とは、甘味を呈する成分のことをいう。具体的には、黒砂糖、白下糖、カソナード(赤砂糖)、和三盆、ソルガム糖、メープルシュガーなどの含蜜糖、ザラメ糖(白双糖、中双糖、グラニュー糖など)、車糖(上白糖、三温糖など)、加工糖(角砂糖、氷砂糖、粉砂糖、顆粒糖など)、液糖などの精製糖、単糖類(ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖など)、二糖類(蔗糖 、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノースなど)、オリゴ糖類(フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガーなど)、糖アルコール類(エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール、オリゴ糖アルコール、粉末還元麦芽糖水飴)などのような糖質甘味料の他、天然非糖質甘味料(ステビア抽出物、カンゾウ抽出物等)や合成非糖質甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK等)のような高甘味度甘味料などの甘味料が挙げられる。
【0036】
上記の「色素成分」としては、例えば、マリーゴールド色素等のカロテノイド系色素、ベニバナ色素等のフラボノイド系色素、アントシアニン系色素、クチナシ色素類、ビート色素等のベタニン系色素、クロレラ、葉緑素等、カラメル色素等が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0037】
本発明のハイドレート果実を製造する方法は、後で詳述するが、果実に二酸化炭素を圧入して、果実に含まれる水分の少なくとも一部が二酸化炭素と共に二酸化炭素ハイドレートを形成するように処理する方法である。二酸化炭素ハイドレートを形成する方法等によっては、その保存性や安定性に特に優れているものもある。したがって、本発明のハイドレート果実は、流通や保管の際に、常温(5〜35℃)、常圧で保持してもよいが、本発明のハイドレート果実をより長期間、より安定的に保つ観点から、本発明のハイドレート果実は、流通や保管等の際に、「低温条件下」、又は「高圧条件下」、又は「低温条件下かつ高圧条件下」で保持することが好ましい。保持の簡便性の観点から、これらの中でも、「低温条件下」で保持することが好ましく、常圧で「低温条件下」で保持することがより好ましい。
【0038】
上記の「低温条件下」における上限温度としては、10℃以下、好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下、さらに好ましくは−15℃以下、より好ましくは−20℃、さらに好ましくは−25℃が挙げられ、上記の「低温条件下」における下限温度としては、−273℃以上、−80℃以上、−50℃以上、−40℃以上、−30℃以上などが挙げられる。
【0039】
上記の「高圧条件下」における下限圧力としては、1050ヘクトパスカル(hPa)以上、好ましくは1150hPa以上、より好ましくは1300hPa以上、さらに好ましくは1500hPa以上が挙げられ、上記の「高圧条件下」における上限圧力としては、15000hPa以下、12000hPa以下、10000hPa以下、8000hPa以下、5000hPa以下などが挙げられる。
【0040】
本発明のハイドレート果実は、包装容器内に収容されていてもよいし、収容されていなくてもよい。かかる包装容器としては、例えば、冷凍果実に通常用いられているものと同様の形状、材質等の包装容器を用いることができる。
【0041】
本発明のハイドレート果実は、炭酸感を感じる特性上、二酸化炭素を含んだ状態で喫食することが望ましい。すなわち、本発明のハイドレート果実は、二酸化炭素を含んだ状態で喫食するためのハイドレート果実であることが好ましい。
【0042】
2.<本発明の冷菓>
本発明のアイスクリーム類等の冷菓は、本発明のハイドレート果実を含んでいること以外は、通常のアイスクリーム類等の冷菓と変わるところはなく、本発明のアイスクリーム類等の冷菓としては、本発明のハイドレート果実を含んでいる限り特に制限されない。本発明のアイスクリーム類等の冷菓は、従来にはない、炭酸感に優れた良好な香味を有する本発明のハイドレート果実を含んでいるため、美感や風味に優れ、果実における炭酸感に優れ、果実の香り立ちに優れた、従来にないアイスクリーム類等の冷菓である。
【0043】
本明細書において「冷菓」とは、凍結状態で消費者に提供される菓子を意味し、具体的には以下の(A)及び(B)を含む。
(A)アイスクリーム類(アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓)
食品衛生法上の規定に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に適合するもの、あるいは食品衛生法の規定に基づく食品、添加物等の規定に基づく食品、添加物等の規格基準に適合し、液糖もしくは他食品を混和した液体を冷凍したもの又は食用氷を粉砕し、これに液糖若しくは他食品を混和して再凍結したものであって、凍結状のまま食用に供するもの、またはこれらに類するもの。
(B)アイスクリーム類を含む又は含まない凍結状態の菓子。
【0044】
具体的には、上記(A)には、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、アイスキャンデー、みぞれ、かき氷、シャーベット、シェイク等が挙げられる。また、上記(B)における「アイスクリーム類を含む凍結状態の菓子」としては、フローズンヨーグルト、アイスケーキ(アイスとスポンジケーキ等を含む凍結状態の菓子)などが挙げられる。
【0045】
また、本明細書における「冷菓」には、本発明のハイドレート果実を含有しているものであって、該ハイドレート果実を除いた部分が、上記(A)又は(B)に該当するものも含まれる。
【0046】
本発明のアイスクリーム類等の冷菓において、本発明のハイドレート果実が含まれる態様としては特に制限されず、例えば、アイスクリーム類等の冷菓の上に本発明のハイドレート果実が載っている態様であってもよいし、アイスクリーム類等の冷菓の中に本発明のハイドレート果実の一部又は全部が埋め込まれているような態様であってもよい。また、包装容器内にアイスクリーム類等の冷菓と本発明のハイドレート果実が別々に含まれている態様も、便宜上、「本発明のハイドレート果実を含む冷菓」に含まれる。
【0047】
本発明のアイスクリーム類等の冷菓における本発明のハイドレート果実の含有量としては特に制限されないが、本発明のハイドレート果実を含む本発明の冷菓全量に対して、3重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上が挙げられ、上限として例えば95重量%以下、80重量%以下、70重量%以下が挙げられる。
【0048】
本発明のアイスクリーム類等の冷菓の製造方法としては、本発明のハイドレート果実がアイスクリーム類等の冷菓に含まれるようにする方法である限り特に制限されず、例えば、冷菓がアイスクリーム類である場合は、アイスクリーム類の通常の製造方法において、アイスクリーム類の原料混合物を冷却する際に本発明のハイドレート果実を添加する方法が好ましく挙げられる。上記のアイスクリーム類の原料としては、アイスクリーム類の種類によっても異なるが、例えば、脱脂粉乳、脱脂乳等のタンパク質;植物油脂、乳脂等の食用油脂;甘味成分;乳化剤;安定剤;香料;色素;等が挙げられる。
【0049】
本発明の冷菓の製造方法の好適な態様として、以下の工程A及びBを含む、本発明の冷菓の製造方法が挙げられる。
(A)本発明のハイドレート果実を用意する工程A;
(B)工程Aで用意したハイドレート果実を、冷菓の原料(好ましくは、原料混合物)に添加し又は含有させる工程B;
【0050】
本発明のアイスクリーム類は、コーン、ワッフル生地などに充填されていなくてよいが、充填されていてもよい。
【0051】
本発明のアイスクリーム類等の冷菓は、包装容器内に収容されていてもよいし、収容されていなくてもよい。かかる包装容器としては、アイスクリーム類等の冷菓に通常用いられているものと同様の形状、材質等の包装容器を用いることができる。
【0052】
3.<本発明の飲料>
本発明の飲料は、本発明のハイドレート果実を含んでいること以外は、通常の飲料と変わるところはなく、本発明の飲料としては、本発明のハイドレート果実を含んでいる限り特に制限されない。本発明の飲料は、従来にはない、炭酸感及び香り立ちに優れた良好な香味を有する本発明のハイドレート果実を含んでいるため、美感や風味に優れ、果実における炭酸感に優れ、果実の香り立ちに優れた、従来にない飲料である。
【0053】
本発明の飲料における飲料の種類としては特に制限されないが、例えば、果実酒類、蒸留酒、リキュール、日本酒、ビール等のアルコール飲料;果汁飲料、炭酸飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター、ニアウォーター等の非アルコール飲料;が挙げられる。また、本発明の飲料は、凍結飲料や半凍結飲料であってもよい。
【0054】
本発明の飲料において、本発明のハイドレート果実が含まれる態様としては特に制限されず、例えば、飲料の中に本発明のハイドレート果実の一部又は全部が含まれている態様が好適に挙げられるが、飲料の中には含まれていないものの、飲料の容器に付着又は載置又は差し込まれている態様(例えば飲料の容器の上端部に本発明のハイドレート果実が差し込まれている態様)や、飲料の中には含まれていないものの、棒状等の器具を介して飲料の容器に付着又は載置又は固定されている態様(例えばハイドレート果実を貫いている棒を飲料容器の上端部等に載置する態様)も、便宜上、「本発明のハイドレート果実を含む飲料」に含まれる。
【0055】
本発明の飲料における本発明のハイドレート果実の含有量としては特に制限されないが、本発明のハイドレート果実を含む本発明の飲料全量に対して、0.1重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20%重量以上、30重量%以上が挙げられ、上限として例えば80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50%以下が挙げられる。
【0056】
本発明の飲料の製造方法としては、本発明のハイドレート果実が飲料に含まれるようにする方法である限り特に制限されず、例えば、本発明のハイドレート果実を飲料に投入する方法や、本発明のハイドレート果実を飲料の容器に付着又は載置又は差し込む方法や、本発明のハイドレート果実を棒状等の器具を介して飲料の容器に付着又は載置又は固定する方法が好ましく挙げられる。
【0057】
本発明の飲料の製造方法の好適な態様として、以下の工程C及びDを含む、本発明の飲料の製造方法が挙げられる。
(C)本発明のハイドレート果実を用意する工程C;
(D)工程Aで用意したハイドレート果実が飲料に含まれるようにする工程D;
【0058】
本発明の飲料は、飲料容器内に収容されていなくてもよいが、飲料容器内に収容されている容器詰飲料であることが好ましい。かかる容器詰飲料は、密封されていてもよいし、密封されていなくてもよい。かかる飲料容器としては、飲料に通常用いられているものと同様の形状、材質等の飲料容器を用いることができる。
【0059】
4.<本発明の製造方法>
本発明の製造方法としては、果実中に含まれる水分において、二酸化炭素ハイドレート生成条件で、二酸化炭素を果実に接触させる工程を含んでいる限り特に制限されない。かかる本発明の製造方法によって、二酸化炭素ハイドレートを含有する果実を製造することができる。
【0060】
本発明の製造方法の好適な態様として、以下の工程E及びFを含む、本発明のハイドレート果実の製造方法が挙げられる。
(E)果実を用意する工程E;
(F)工程Eで用意した果実に、二酸化炭素ハイドレート生成条件で、二酸化炭素を果実に接触させる工程F;
【0061】
上記の二酸化炭素ハイドレート生成条件としては、果実中に含まれる水分において二酸化炭素ハイドレートが生成する条件である限り特に制限されず、かかる条件には具体的に、「温度の条件」、「二酸化炭素圧力の条件」、「二酸化炭素を果実に接触させる時間」が含まれる。
【0062】
二酸化炭素ハイドレート生成条件は、前述したように、ある温度であること、及び、その温度における二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力よりも二酸化炭素分圧(二酸化炭素圧力)が高いことを含む条件である。上記の「ある温度であること、及び、その温度における二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力よりも二酸化炭素分圧が高い」条件は、非特許文献1(J. Chem. Eng. Data (1991) 36, 68-71)のFigure 2.や、非特許文献2(J. Chem. Eng. Data (2008), 53, 2182-2188)のFigure 7.やFigure 15.に開示されている二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力曲線(例えば縦軸が二酸化炭素圧力、横軸が温度を表す)において、かかる曲線の高圧側(二酸化炭素ハイドレートの平衡圧力曲線において、例えば縦軸が二酸化炭素圧力、横軸が温度を表す場合は、該曲線の上方)の領域内の温度と二酸化炭素圧力の組合せの条件として表される。上記の二酸化炭素ハイドレート生成条件のうち、生成するハイドレート果実における炭酸感や、二酸化炭素の徐放性が優れており、かつ、該ハイドレート果実における炭酸感と炭酸感以外の香味のバランスにもより優れている点で、「−20〜4℃の範囲内」と「二酸化炭素圧力1.8〜4MPaの範囲内」の組合せの条件や、「−20〜−4℃の範囲内」と「二酸化炭素圧力1.3〜1.8MPaの範囲内」の組合せの条件が好ましく挙げられ、中でも、「−3〜4℃の範囲内」と「二酸化炭素圧力1.8〜4MPaの範囲内」の組合せの条件がより好ましく挙げられ、「−3〜4℃の範囲内」と「二酸化炭素圧力1.8〜3.2MPaの範囲内」の組合せの条件がさらに好ましく挙げられ、さらにより好ましくは、「1〜4℃の範囲内」と「二酸化炭素圧力1.8〜3.2MPaの範囲内」の組合せが挙げられる。
【0063】
二酸化炭素ハイドレート生成条件における上記の「二酸化炭素を果実に接触させる時間」としては、接触させる際の温度や二酸化炭素圧力の条件によっても異なるため一概に規定することはできないが、0.5時間以上、好ましくは0.75時間以上、より好ましくは1時間以上が挙げられ、ハイドレート果実の単位時間当たりの製造効率等の観点から、5時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは2時間以内が挙げられる。
【0064】
本発明の製造方法において、二酸化炭素ハイドレート生成条件で、二酸化炭素を果実に接触させる方法としては、特に制限されないが、密閉可能な容器(好ましくは密閉可能な高圧容器)内に果実を収容し、該容器内に二酸化炭素を充填することによって、二酸化炭素ハイドレート生成条件で、二酸化炭素を果実に接触させる方法が好ましく挙げられる。かかる密閉可能な容器は、採用する二酸化炭素ハイドレート生成条件の温度や圧力に耐えられる、密閉可能な容器である限り、材質や形状等、特に制限されないが、容器内の温度を制御する装置を備えていることが好ましい。かかる密閉可能な容器は、市販されている容器を用いることができる。なお、密閉可能な容器内への二酸化炭素の充填は、市販の炭酸ガスボンベを該容器内に接続することにより行うことができる。
【0065】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0066】
[二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造1]
ブドウ(品種 大峰)、ミカン、ナシ(梨)、イチゴを用いて、以下の方法により、本発明の二酸化炭素ハイドレートを含有する果実(ハイドレート果実)等を製造した。
【0067】
(ハイドレート果実の製法)
果実として、「果皮を剥いたブドウ」、「果皮及びじょうのう膜を剥いたミカン」、「果皮を剥き、3〜5cm角の大きさに切ったナシ」及び「3〜5cm角の大きさに切ったイチゴ」を用意した。これら各果実を、高圧容器に入れた後、高圧容器内を1℃に冷却すると共に、COガスで該容器内を充填させた。「温度」、「COガスの圧力」及び「各果実を該容器内に保管する時間」の条件は、[1℃、2MPa、1時間]、[1℃、3MPa、1時間]又は[1℃、3MPa、2時間]とした。これら3種の条件は、二酸化炭素ハイドレート生成条件である。高圧容器へのCOガスの供給を停止した後、各果実を冷凍した。高圧容器内の圧力を大気圧に戻してから高圧容器を開け、各ハイドレート果実を取り出して、各ハイドレート果実を得た。
【0068】
(比較例果実の製法)
比較例果実として、背景技術の特許文献2に記載の条件(5℃、COガス0.5MPa、1時間)で各果実にCOガスを圧入した。すなわち、上記のハイドレート果実の製法において、COガスの圧力を0.5MPaとし、そのときの保管温度を5℃にしたこと以外は同様の方法で各果実にCOガスを圧入することによって、各比較例果実を得た。なお、比較例果実の製法における上記条件(5℃、COガス0.5MPa、1時間)は、二酸化炭素ハイドレートが生成しない条件である。
【実施例2】
【0069】
[ハイドレート果実の炭酸感評価]
実施例1で製造したハイドレート果実及び比較例果実について、以下の方法で炭酸感の評価を行った。
【0070】
(炭酸感評価の方法)
実施例1の製法において高圧容器から各ハイドレート果実又は各比較例果実を取り出した直後(「取り出し直後」)及び取り出してから10分後(「取り出し10分後」)の各ハイドレート果実又は各比較例果実について炭酸感の評価を行った。炭酸感の評価は、訓練されたパネラー2名により、以下の4段階の評価基準にて行った。
【0071】
(炭酸感の評価基準)
3:炭酸感を強く感じる(泡感がはっきり分かり、口の中で持続する)
2:炭酸感を感じる(1と3の中間程度)
1:炭酸感をわずかに感じる(泡感はないが、ピリッとした刺激を感じる)
0:炭酸感を全く感じない
【0072】
ハイドレート果実及び比較例果実について、炭酸感の評価を行ったその結果を以下の表1に示す。なお、表1において、各項目の上段は、取り出し直後の果実の炭酸感の評価結果を表し、下段は、取り出し10分後の果実の炭酸感の評価結果を表す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1の結果から分かるように、比較例果実においては、取り出し直後でも炭酸感をわずかに感じる程度(炭酸感評価「1」)であり、取り出し10分後にはイチゴ以外の3種の果実で炭酸感が消失していた(炭酸感評価「0」)。一方、実施例のハイドレート果実においては、取り出し直後は炭酸感を感じる(炭酸感評価「2」)又は強く感じる(炭酸感評価「3」)であり、取り出し10分後でも一定程度以上の炭酸感が維持されていた(炭酸感評価「1」〜「3」)。
【0075】
これらの結果から、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実と比較して、取り出し直後の炭酸感が強く、また、取り出し10分後の炭酸感も高く維持されていることが分かった。すなわち、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実と比較して、炭酸感が顕著に優れていることが示された。また、3種の実施例果実はおおむね同様の結果が得られ、二酸化炭素ハイドレートを生成できる条件であれば、COガスの圧力や、保管時間による大きな差異は見られないことが分かった。加えて、同じ二酸化炭素ハイドレート生成条件であっても、イチゴやナシは、ミカンやブドウよりも炭酸感が高くなり易いことも分かった。なお、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実は、ハイドレート果実における炭酸感と炭酸感以外の香味のバランスにも優れていた。
【実施例3】
【0076】
[ハイドレート果実のCO含有率の算出1]
実施例1で製造したハイドレート果実及び比較例果実について、以下の方法でCO含有率を算出した。
【0077】
(CO含有率の算出)
実施例1の製法において高圧容器から各ハイドレート果実又は各比較例果実を取り出した直後(「取り出し直後」)の各ハイドレート果実又は各比較例果実を、それぞれプラスチック性の容器に入れ、20℃で静置しながら各果実の重量を1分毎に測定した。各果実は20℃で静置すると融解し始め、果実に含まれていた二酸化炭素が放出されていき、その分の重量が減少することとなる。したがって、減少分の重量を測定することで、放出された二酸化炭素の重量を測定することができる。20℃に静置し始めてから30分後の、完全に融解し、炭酸ガスが抜けきった状態の各果実の重量を基準にして、取り出し直後の各果実、及び、取り出し10分後の各果実のCO含有率を算出した。なお、取り出しからX分経過後の各果実のCO含有率を算出するには、以下の数式を用いた。
取り出しX分後の果実のCO含有率(%)=[(取り出しX分後の果実の重量−取り出し30分後の果実の重量)×100]/取り出しX分後の果実の重量
【0078】
上記の取り出しX分後の果実のCO含有率(%)の算出式において、「X」は0から30までの整数を表し、取り出しX分後の果実の重量とは、取り出しX分後における容器内の果実及びその融解物から容器の重量を差し引いた重量を表す。なお、「取り出し0分後の果実」とは、取り出し直後の果実を意味する。
【0079】
上記算出法を用いて、取り出し直後の各果実、及び、取り出し10分後の各果実のCO含有率を算出した結果を以下の表2に示す。なお、表2において、各項目の上段は、取り出し直後の果実のCO含有率(%)の算出結果を表し、下段は、取り出し10分後の果実のCO含有率(%)の算出結果を表す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果から分かるように、比較例果実のCO含有率は、取り出し直後において最も高い果実(ミカン)でも0.5%程度であり、他の果実(ブドウ、ナシ、イチゴ)では0.2〜0.3%程度であり、取り出し10分後にはいずれの果実でも0.05〜0.07%程度にまで低下していた。一方、実施例のハイドレート果実のCO含有率は、取り出し直後において最も低い果実(ブドウ)でも0.67%以上であり、最も高い果実(イチゴ)では8%弱までにも達した。
【0082】
これらの結果から、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実のCO含有率は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実のCO含有率と比較して、取り出し直後でも、取り出し10分後でも、顕著に高かった。また、3種の実施例果実はおおむね同様の結果が得られ、二酸化炭素ハイドレートを生成できる条件であれば、COガスの圧力や、保管時間による大きな差異は見られないことが分かった。加えて、同じ二酸化炭素ハイドレート生成条件であっても、イチゴやナシは、ミカンやブドウよりもCO含有率が高く、この結果は実施例2の炭酸感の評価結果を裏付けるものであった。
【実施例4】
【0083】
[ハイドレート果実のCO徐放性の評価1]
上記実施例3において測定した、各果実の経時的な重量の測定値を用いて、ハイドレート果実及び比較例果実のCO残存率を算出し、CO徐放性の評価を行った。
【0084】
(CO残存率の算出)
実施例1の製法において高圧容器から各ハイドレート果実又は各比較例果実を取り出した直後(「取り出し直後」)の各ハイドレート果実又は各比較例果実を、それぞれプラスチック性の容器に入れ、20℃で静置しながら各果実の重量を1分毎に測定した。各果実は20℃で静置すると融解し始め、果実に含まれていた二酸化炭素が放出されていき、その分の重量が減少することとなる。したがって、減少分の重量を測定することで、放出された二酸化炭素の重量を測定することができる。20℃に静置し始めてから30分後の、完全に融解し、炭酸ガスが抜けきった状態の各果実の重量を基準にして、取り出し直後の各果実、及び、取り出し10分後の各果実のCO残存率を算出した。なお、取り出しからX分経過後の各果実のCO残存率を算出するには、以下の数式を用いた。
取り出しX分後の果実のCO残存率(%)=[(取り出しX分後の果実の重量−取り出し30分後の果実の重量)×100]/(取り出し直後の果実の重量−取り出し30分後の果実の重量)
【0085】
上記の取り出しX分後の果実のCO残存率(%)の算出式において、「X」は0から30までの整数を表し、取り出しX分後の果実の重量とは、取り出しX分後における容器内の果実及びその融解物から容器の重量を差し引いた重量を表す。なお、「取り出し0分後の果実」とは、取り出し直後の果実を意味する。
【0086】
上記算出法を用いて、取り出し10分後の各果実のCO残存率を算出した結果を図1に示す。なお、図1の各果実における4本の棒グラフのうち、一番左の棒グラフは比較例果実(5℃、 0.5MPa、 1時間)の結果を表し、左から2番目の棒グラフはハイドレート果実(1℃、 2MPa、 1時間)の結果を表し、左から3番目の棒グラフはハイドレート果実(1℃、 3MPa、 1時間)の結果を表し、一番右の棒グラフはハイドレート果実(1℃、 3MPa、 2時間)の結果を表す。
【0087】
図1の結果から分かるように、取り出し10分後における比較例果実のCO残存率は、高い果実(ブドウ、イチゴ)でも30%前後であり、他の果実(ミカン、ナシ)では10%強であった。一方、実施例のハイドレート果実のCO残存率は、低い果実(ブドウ)でも40%を超えており、高い果実(ナシ、イチゴ)では90%前後までにも達した。このように、CO残存率は果実の種類によっても異なるが、いずれの種類の果実においても、ハイドレート果実は、比較例果実と比較してCO残存率が高かった。
【0088】
これらの結果から、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実における取り出し10分後のCO残存率は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実における取り出し10分後のCO残存率と比較して、顕著に高いことが示された。すなわち、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実と比較して、二酸化炭素の徐放性が顕著に優れていることが示された。また、3種の実施例果実は果実によっては多少異なるものの、おおむね同様の結果が得られ、二酸化炭素ハイドレートを生成できる条件であれば、COガスの圧力や、保管時間による大きな差異はあまり見られないことが分かった。
【実施例5】
【0089】
[ハイドレート果実のCO徐放性の評価2]
上記実施例4における(CO残存率の算出)に記載した方法と同じ方法で、ハイドレート果実(1℃、 3MPa、 1時間)及び比較例果実のCO残存率を算出した。CO残存率は、果実を取り出してから20分経過後まで、1分毎の値を算出した。
【0090】
比較例果実のCO残存率の結果を図2に示し、ハイドレート果実(1℃、 3MPa、 1時間)のCO残存率の結果を図3に示す。図2から分かるように、比較例果実では、取り出しから5分を少し過ぎたあたりで、いずれの果実でもCO残存率50%以下にまで急速に低下し、COの放出が急激であることが示された。また、比較例果実では、取り出しから15分ではいずれの果実でも18%以下にまでCO残存率が低下し、取り出しから20分ではCO残存率はほぼ0%であった。一方、図3から分かるように、本発明のハイドレート果実では、取り出しから5分を少し過ぎたあたりでも80%以上の高いCO残存率を維持しており、COの放出が比較例果実よりも緩やかで徐放性に顕著に優れていることが示された。また、本発明のハイドレート果実では、取り出しから15分でも30%以上のCO残存率を維持し、取り出しから20分でも10%以上のCO残存率を維持していた。
【0091】
これらの結果から、二酸化炭素ハイドレートを含有する本発明の果実は、二酸化炭素ハイドレートを含有していない比較例果実と比較して、二酸化炭素の徐放性が顕著に優れていることが示された。また、果実の種類によって、CO残存率はいくらか異なり、イチゴやナシは、ミカンやブドウよりも徐放性が優れていることが示された。
【実施例6】
【0092】
[二酸化炭素ハイドレートを含有する果実の製造2]
ブルーベリー、マスカット、ラズベリー、レモン、ピンクグレープフルーツを用いて、以下の方法により、本発明のハイドレート果実を製造した。
【0093】
(ハイドレート果実の製法)
ブルーベリー、マスカット、ラズベリー、レモン、ピンクグレープフルーツを用意した。ブルーベリー、マスカット、ラズベリーは果皮を剥かず、果実の粒をそのまま用いた。レモンは、果皮を剥かずに芯に沿って縦方向に2等分し、その一方のレモン果実片を芯に沿って再度2等分し、その一方のレモン果実片を芯に沿って再度2等分して作製した果実片(レモンを8等分した果実片)を用いた。ピンクグレープフルーツは、果皮を剥き、4cm角の大きさに切ったものを用いた。これら各果実を、高圧容器に入れた後、高圧容器内を1℃に冷却すると共に、COガスで該容器内を充填させた。「温度」、「COガスの圧力」及び「各果実を該容器内に保管する時間」の条件は、[1℃、3MPa、2時間]とした。この条件は、二酸化炭素ハイドレート生成条件である。高圧容器へのCOガスの供給を停止した後、各果実を冷凍した。高圧容器内の圧力を大気圧に戻してから高圧容器を開け、各ハイドレート果実を取り出して、各ハイドレート果実を得た。
【実施例7】
【0094】
[ハイドレート果実のCO含有率の算出2]
実施例6の製法において高圧容器から取り出した直後の各ハイドレート果実のCO含有率(重量%)を、実施例3に記載の方法と同様の方法で算出した。その結果を以下の表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表3の結果から分かるように、実施例1で用いた果実以外の種類の果実を用いても、本発明のハイドレート果実を製造できることが示された。また、表3のハイドレート果実のCO含有率と、上記表2の比較例果実の取り出し直後のCO含有率を比較すると、比較例果実のCO含有率は、最も高い果実(ミカン)でも0.5%程度であったのに対し(表2)、表3のハイドレート果実では、最も低い果実(マスカット)でも0.8%であり、最も高い果実(レモン)ではほぼ8%にまでも達した。
【実施例8】
【0097】
[本発明のハイドレート果実の香り立ちの評価]
本発明のハイドレート果実の、その果実本来の香りの香り立ちが、比較例果実等と比較してどのようであるかを評価するために、以下の実験を行った。なお、かかる果実の香り立ちは、冷凍された状態のハイドレート果実自体の香り立ちの評価であるため、例えば、本発明のハイドレート果実をアイスクリーム類に用いた場合の香り立ちの評価として特に好適に利用することができる。
【0098】
(実施例果実の製法)
果実として、1粒10gのイチゴを用意した。その果実をそのまま高圧容器に入れた後、高圧容器内を1℃に冷却すると共に、COガスで該容器内を充填させた。「温度」、「COガスの圧力」及び「果実を該容器内に保管する時間」の条件は、[1℃、3MPa、3時間]とした。この条件は、二酸化炭素ハイドレート生成条件である。高圧容器へのCOガスの供給を停止した後、果実を冷凍した。高圧容器内の圧力を大気圧に戻してから高圧容器を開け、ハイドレート果実を取り出して、ハイドレート果実(実施例果実)を得た。このハイドレート果実のCO含有率は6.8%であった。
【0099】
(比較例果実の製法)
比較例果実として、「1粒10gのイチゴ」を[1℃、0.5MPa、3時間]の条件でCOガスと反応させた後、果実を冷凍した。かかる条件は、二酸化炭素ハイドレートが生成しない条件である。以下、かかる比較例果実を、「比較例果実(CO低含有)」とも表示する。
【0100】
その他の比較例果実として、COガスと反応させずに、「1粒10gのイチゴ」を単に冷凍したものを用いた。以下、かかる比較例果実を、「比較例果実(CO無処理)」とも表示する。この比較例果実(CO無処理)のCO含有率は0.31%であった。
【0101】
その他の比較例果実として、比較例果実(CO無処理)に、COハイドレート粒(CO含有率15%)を5g分、添加したものを用いた。以下、かかる比較例果実を、「比較例果実(ハイドレート粒添加)」とも表示する。比較例果実(ハイドレート粒添加)におけるCOハイドレート粒の添加量は、サンプルとして、CO含有率が実施例果実とほぼ同様になるように設定した。なお、COハイドレート粒は、先行文献(特許第3090687号、特表2004−512035、特許第4969683号)を参考に製造した。具体的には、4Lの水にCOガスを3MPaとなるように吹き込み、撹拌をしながら1℃でハイドレート生成反応を進行させ、COハイドレートを含むシャーベット状のスラリーを作製した。このシャーベット状のスラリーを、−20℃まで冷却した後、COハイドレートとして回収し、液体窒素上で1粒あたり0.4〜0.6gとなるよう調製した。
【0102】
(果実の香り立ちの評価)
本実施例8で作製した実施例果実(ハイドレート果実)、比較例果実(CO無処理)、比較例果実(CO低含有)、及び、比較例果実(ハイドレート粒添加)を、室温20℃の条件下でそれぞれプラスチック製のカップに入れた。各果実をカップに入れた直後(「添加直後」)、入れてから10分後(「添加10分後」)、入れてから20分後(「添加20分後」)に、各果実について、果実(イチゴ)の香り立ちの評価を行った。かかる香り立ちの評価は、訓練されたパネラー3名により、以下の5段階の評価基準にて点数を付け、3名の点数の平均点をその果実の評価とした。評価基準において、比較例果実(CO無処理)をコントロールとした。かかる香り立ちの評価の結果を以下の表4に示す。
【0103】
(果実の香り立ちの評価基準)
−1:コントロールより香り立ちが弱い
0:コントロールと同程度の香り立ち
1:コントロールより香り立ちがわずかに強い
2:コントロールより香り立ちが強い
3:コントロールより香り立ちが明らかに強い
【0104】
【表4】
【0105】
表4の結果から分かるように、実施例果実(ハイドレート果実)は、添加直後から、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも、香り立ちがわずかに強く(評価点1)、添加10分後や、添加20分後でコントロールよりも香り立ちが強かった(評価点2)。一方、比較例果実(CO低含有)や比較例果実(ハイドレート粒添加)も、添加10分後や、添加20分後に、果実が解凍されてくると、コントロールよりもある程度強い香り立ちを示したが(評価点0.7〜2)、その評価点は実施例果実(ハイドレート果実)の評価点と同等かそれ以下であった。実施例果実(ハイドレート果実)では、比較例果実(CO低含有)や比較例果実(ハイドレート粒添加)とは異なり、添加直後から、香り立ち向上効果が得られ、添加10分後や添加20分後でもより優れた香り立ち向上効果が得られることが分かった。これらの結果から、実施例果実における優れた香り立ち向上効果には、果実が二酸化炭素ハイドレートを含んでいることが重要であることが示された。
【実施例9】
【0106】
[本発明のハイドレート果実を飲料に添加した際の香り立ちの評価]
本発明のハイドレート果実を飲料に添加した際の香り立ちが、比較例果実等と比較してどのようであるかを評価するために、以下の実験を行った。
【0107】
(実施例果実の製法)
レモンを、果皮を剥かずに芯に沿って縦方向に2等分し、その一方のレモン果実片を芯に沿って再度2等分し、その一方のレモン果実片を芯に沿って再度2等分して作製した果実片(レモンを8等分した果実片)を果実として用いた。かかる果実をそのまま高圧容器に入れた後、高圧容器内を1℃に冷却すると共に、COガスで該容器内を充填させた。「温度」、「COガスの圧力」及び「果実を該容器内に保管する時間」の条件は、[1℃、3MPa、3時間]とした。この条件は、二酸化炭素ハイドレート生成条件である。高圧容器へのCOガスの供給を停止した後、果実を冷凍した。高圧容器内の圧力を大気圧に戻してから高圧容器を開け、ハイドレート果実を取り出して、ハイドレート果実(実施例果実)を得た。このハイドレート果実のCO含有率は6.9%であった。
【0108】
(比較例果実の製法)
レモンを8等分した果実片を果実として用いた。比較例果実(CO低含有)として、かかる果実(レモンを8等分した果実片)を[1℃、0.5MPa、3時間]の条件でCOガスと反応させた後、果実を冷凍した。かかる条件は、二酸化炭素ハイドレートが生成しない条件である。
【0109】
比較例果実(CO無処理)として、COガスと反応させずに、レモンを8等分した果実片を単に冷凍したものを用いた。この比較例果実(CO無処理)のCO含有率は0.37%であった。
【0110】
比較例果実(ハイドレート粒添加)として、本実施例9の比較例果実(CO無処理)に、COハイドレート粒(CO含有率15%)を6g分、添加したものを用いた。なお、かかるCOハイドレート粒は、上記実施例8で製造したものを用いた。比較例果実(ハイドレート粒添加)におけるCOハイドレート粒の添加量は、サンプルとして、CO含有率が実施例果実とほぼ同様になるように設定した。
【0111】
(飲料に添加した際の果実の香り立ちの評価)
本実施例9で作製した実施例果実(ハイドレート果実)、比較例果実(CO無処理)、比較例果実(CO低含有)、及び、比較例果実(ハイドレート粒添加)をそれぞれ、炭酸水(炭酸ガス圧0.5MPa)又はイオン交換水に添加した。各果実とも、レモンを8等分した果実片を1つずつ、200mLの炭酸水又はイオン交換水に添加した。各果実を炭酸水又はイオン交換水に添加した直後(「添加直後」)、添加してから5分後(「添加5分後」)、添加してから10分後(「添加10分後」)に、各果実について、果実(レモン)の香り立ちの評価を行った。かかる香り立ちの評価は、訓練されたパネラー4名により、以下の5段階の評価基準にて点数を付け、4名の点数の平均点をその果実の評価とした。評価基準において、比較例果実(CO無処理)をコントロールとした。果実を炭酸水に添加した際の香り立ちの評価の結果を以下の表5に示し、果実をイオン交換水に添加した際の香り立ちの評価の結果を以下の表6に示す。
【0112】
(果実の香り立ちの評価基準)
−1:コントロールより香り立ちが弱い
0:コントロールと同程度の香り立ち
1:コントロールより香り立ちがわずかに強い
2:コントロールより香り立ちが強い
3:コントロールより香り立ちが明らかに強い
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
表5の結果から分かるように、果実を炭酸水に添加した場合、実施例果実(ハイドレート果実)は、添加直後、添加5分後、添加10分後のいずれでも、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも香り立ちが強く、特に、添加直後で香り立ちが最も強かった。一方、比較例果実(ハイドレート粒添加)は、添加直後、添加5分後で、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも香り立ちがごくわずかに強かったが、添加10分後では、コントロール(比較例果実(CO無処理))と同程度の香り立ちであった。また、比較例果実(CO低含有)は、添加直後、添加5分後、添加10分後のいずれでも、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも香り立ちが弱かった。
【0116】
また、表6の結果から分かるように、果実をイオン交換水に添加した場合も、実施例果実(ハイドレート果実)は、添加直後、添加5分後、添加10分後のいずれでも、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも香り立ちが強く、特に、添加直後で香り立ちが最も強かった。一方、比較例果実(CO低含有)や比較例果実(ハイドレート粒添加)は、添加直後、添加5分後、添加10分後のいずれでも、コントロール(比較例果実(CO無処理))よりも香り立ちが弱かった。
【0117】
表5、表6の結果をまとめると、果実を炭酸水、イオン交換水のいずれに添加する場合であっても、実施例果実(ハイドレート果実)では、比較例果実(CO低含有)や比較例果実(ハイドレート粒添加)とは異なり、添加直後、添加5分後、添加10分後のいずれでも、香り立ち向上効果が得られ、特に、添加直後で最も優れた香り立ち向上効果が得られることが分かった。これらの結果から、実施例果実を飲料に添加した際の優れた香り立ち向上効果には、果実が二酸化炭素ハイドレートを含んでいることが重要であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、炭酸感に顕著に優れ、香り立ちに優れ、かつ、二酸化炭素の徐放性に顕著に優れたハイドレート果実や、該ハイドレート果実を含むアイスクリーム類等の冷菓や、該ハイドレート果実を含む飲料や、該ハイドレート果実の製造方法等を提供することができる。本発明のハイドレート果実は、従来にはない炭酸感及び香り立ちに優れた良好な香味を有している。
図1
図2
図3