(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算ユニットは、前記プローブユニットが前記非搬送領域および前記搬送領域を一往復または複数往復するごとに少なくとも1回、前記参照電圧を前記メモリに記憶することを特徴とする、請求項1に記載の抵抗測定装置。
前記参照電圧測定工程では、前記プローブユニットが前記非搬送領域および前記搬送領域を一往復または複数往復するごとに少なくとも1回実施されることを特徴とする、請求項4に記載の導電性フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1において、紙面左右方向は、搬送方向(第1方向、長尺方向、一方向)であり、紙面右側が搬送方向下流側(第1方向一方側、長尺方向一方側)、紙面左側が搬送方向上流側(第1方向他方側、長尺方向他方側)である。紙厚方向は、幅方向(第1方向に直交する第2方向)であり、紙面手前側が幅方向一方側(第2方向一方側)、紙面奥側が幅方向他方側(第2方向他方側)である。紙面上下方向は、上下方向(第1方向および第2方向に直交する第3方向、厚み方向)であり、紙面上側が上側(第3方向一方側、厚み方向一方側)、紙面下側が下側(第3方向他方側、厚方向他方側)である。
図1以外の図面についても
図1の方向に準拠する。
【0025】
<一実施形態>
1.フィルム製造装置
図1〜
図3を参照して、本発明の一実施形態のフィルム製造装置1を説明する。
図1に示すフィルム製造装置1は、搬送方向(一方向)に長尺な導電性フィルム2を製造するための装置であり、積層搬送装置3と、抵抗測定装置4とを備える。
【0026】
[積層搬送装置]
積層搬送装置3は、
図1に示すように、送出ユニット5と、積層ユニットの一例としてのスパッタユニット6と、巻取ユニット7とを備える。
【0027】
送出ユニット5は、送出ロール11と、第1ガイドロール12と、送出チャンバー13とを備える。
【0028】
送出ロール11は、基材フィルム10を送出するための回転軸を有する円柱部材である。送出ロール11は、積層搬送装置3の搬送方向最上流に配置されている。送出ロール11は、送出ロール11を回転させるためのモータ(図示せず)が接続されている。
【0029】
第1ガイドロール12は、送出ロール11から送出される基材フィルム10をスパッタユニット6にガイドする回転部材である。第1ガイドロール12は、送出ロール11の搬送方向下流側かつ第2ガイドロール14(後述)の搬送方向上流側に配置されている。
【0030】
送出チャンバー13は、送出ロール11および第1ガイドロール12を収容するケーシングである。送出チャンバー13には、内部を真空可能とする真空ユニットが設けられている。
【0031】
スパッタユニット6は、送出ユニット5から搬送される基材フィルム10にスパッタリング法により導電層22(後述)を積層する。スパッタユニット6は、送出ユニット5の搬送方向下流側かつ巻取ユニット7の搬送方向上流側に、これらと隣接するように配置されている。スパッタユニット6は、第2ガイドロール14と、成膜ロール15と、ターゲット16と、第3ガイドロール17と、成膜チャンバー18とを備える。
【0032】
第2ガイドロール14は、送出ユニット5から搬送される基材フィルム10を成膜ロール15にガイドする回転部材である。第2ガイドロール14は、第1ガイドロール12の搬送方向下流側かつ成膜ロール15の搬送方向上流側に配置されている。
【0033】
成膜ロール15は、基材フィルム10に導電層22を積層するための回転軸を有する円柱部材である。成膜ロール15は、基材フィルム10を成膜ロール15の周面に沿ってその周方向に搬送する。成膜ロール15は、第2ガイドロール14の搬送方向下流側かつ第3ガイドロール17の搬送方向上流側に配置されている。
【0034】
ターゲット16は、導電層22の材料から形成されている。ターゲット16は、成膜ロール15の付近に配置されている。具体的には、ターゲット16は、成膜ロール15の下側に、成膜ロール15と間隔を隔てて対向配置されている。
【0035】
第3ガイドロール17は、成膜ロール15から搬送される導電性フィルム2を、抵抗測定装置4を介して、巻取ユニット7にガイドする回転部材である。第3ガイドロール17は、第2ガイドロール14の搬送方向下流側かつ第4ガイドロール19(後述)の搬送方向上流側に配置されている。
【0036】
成膜チャンバー18は、第2ガイドロール14、成膜ロール15、ターゲット16、第3ガイドロール17および抵抗測定装置4(後述)を収容するケーシングである。成膜チャンバー18には、内部を真空可能とする真空ユニットが設けられている。
【0037】
巻取ユニット7は、第4ガイドロール19と、巻取ロール20と、巻取チャンバー21とを備える。巻取ユニット7は、スパッタユニット6の搬送方向下流側に、スパッタユニット6と隣接するように配置されている。
【0038】
第4ガイドロール19は、スパッタユニット6から搬送される導電性フィルム2を巻取ロール20にガイドする回転部材である。第4ガイドロール19は、第3ガイドロール17の搬送方向下流側かつ巻取ロール20の搬送方向上流側に配置されている。
【0039】
巻取ロール20は、導電性フィルム2を巻き取るための回転軸を有する円柱部材である。巻取ロール20は、基材フィルム10の搬送方向最下流に配置されている。巻取ロール20は、巻取ロール20を回転させるためのモータ(図示せず)が接続されている。
【0040】
巻取チャンバー21は、巻取ロール20および第4ガイドロール19を収容するケーシングである。巻取チャンバー21には、内部を真空可能とする真空ユニットが設けられている。
【0041】
送出ロール11および巻取ロール20が、搬送ユニット8の一例を構成する。
【0042】
[抵抗測定装置]
抵抗測定装置4は、
図1に示すように、スパッタユニット6内部に配置されている。具体的には、成膜ロール15および第3ガイドロール17の搬送下流側、かつ、第4ガイドロール19および巻取ロール20の搬送方向上流側に配置されている。
【0043】
抵抗測定装置4は、
図2および
図3に示すように、非接触型抵抗測定ユニット31(以下、測定ユニット31とも略する。)と、走査ユニット32と、演算ユニット33とを備える。
【0044】
測定ユニット31は、導電性フィルム2(測定対象)と接触しない状態で、導電性フィルム2のシート抵抗を測定するユニットであり、具体的には、渦電流式測定ユニットである。測定ユニット31は、導電性フィルム2に磁界を印加することにより導電性フィルム2内に渦電流を発生させ、渦電流の影響によってコイル36に流れる電流の変化を利用して、導電性フィルム2のシート抵抗を測定する。
【0045】
測定ユニット31は、プローブユニット34と、測定回路ユニット35とを備える。
【0046】
プローブユニット34は、導電性フィルム2からの情報(磁界など)を受け取るユニットである。具体的には、プローブユニット34は、磁界を導電性フィルム2に印加するとともに、導電性フィルム2の渦電流による反磁界を電流に変換する。
【0047】
プローブユニット34は、両面プローブタイプのユニットであり、間隔を隔てて対向配置されている2つのプローブ34a、34bを備える。すなわち、プローブユニット34は、導電性フィルム2と間隔を隔てて導電性フィルム2の上側に配置される上側プローブ34aと、導電性フィルム2と間隔を隔てて導電性フィルム2の下側に配置される下側プローブ34bとを備える。2つのプローブ34a、34bの上下方向距離は、可変である。すなわち、後述する上側走査ユニット32aおよび下側走査ユニット32bの少なくとも一方が、上下方向に移動および固定可能である。
【0048】
上側プローブ34aおよび下側プローブ34bは、それぞれ、コイル36を備える。上側プローブ34a内に配置されるコイル36と、下側プローブ34b内に配置されるコイル36とは、上下方向に投影したときに、略同一形状となるように設けられている。
【0049】
コイル36のそれぞれの直径は、例えば、100mm以下、好ましくは、80mm以下、より好ましくは、40mm以下であり、また、例えば、10mm以上である。コイル36の直径が上記上限以下であれば、プローブユニット34がシート抵抗を検知できる測定スポット29(後述)の最小面積を小さくすることができ、幅方向の感度(分解能)を向上させることができる。
【0050】
プローブユニット34間の上下方向距離D(プローブギャップ)は、例えば、5mm以上、好ましくは、10mm以上であり、また、例えば、30mm以下、好ましくは、15mm以下である。
【0051】
測定回路ユニット35は、2つのコイル36と電気的に接続されている電気回路を備えるユニットである。測定回路ユニット35は、例えば、高周波発振器、コンデンサ、電圧計、電流計、I/V変換回路などの測定ユニット31を駆動するために必要な素子を備える。
【0052】
走査ユニット32は、プローブユニット34を非搬送領域28(後述)および搬送領域27(後述)の両方を幅方向(直交方向:交差方向の一例)に移動させるユニットである。具体的には、走査ユニット32は、プローブユニット34を一方側非搬送領域28aの幅方向他端部から搬送領域27の幅方向他端部まで往復移動させる。走査ユニット32は、プローブユニット34(後述する上側プローブ34aおよび下側プローブ34b)の相対配置(対向配置)を維持しながら、これらを往復移動させる。
【0053】
走査ユニット32は、上側走査ユニット32aと、下側走査ユニット32bとを備える。
【0054】
上側走査ユニット32aは、その下面(厚み方向他方面)に上側プローブ34aを保持するスライダ39と、搬送領域25の両端縁を幅方向に跨ぐ直線状のガイド軸(トラバース軸)40とを備える。上側走査ユニット32aでは、スライダ39がガイド軸40にスライド可能に嵌合しており、図示しないモータからの駆動力により、スライダ39がガイド軸40に沿って搬送領域25を幅方向に横切るように直線移動する。
【0055】
下側走査ユニット32bは、その上面(厚み方向一方面)に下側プローブ34bを保持するスライダ39と、搬送領域25の両端縁を幅方向に跨ぐ直線状のガイド軸(トラバース軸)40とを備える。これらは、上側走査ユニット32aのスライダ39およびガイド軸40と同様である。
【0056】
演算ユニット33は、メモリ37と、CPU38とを備える。
【0057】
メモリ37は、測定ユニット31により測定される参照電圧のデータを記憶する。具体的には、メモリ37は、非搬送領域28で測定された参照電圧のデータを記憶する。
【0058】
また、メモリ37は、測定ユニット31により測定される導電性フィルム2の実電圧のデータや、実電圧のデータおよび参照電圧のデータに基づいて導電性フィルム2のシート抵抗を演算する演算プログラムなどを記憶する。
【0059】
CPU38は、上記した演算プログラムを実行して、参照電圧に基づいて実電圧を補正し、その補正された実電圧(補正電圧)を用いて公知の計算式によりシート抵抗を算出する。
【0060】
2.フィルムの製造方法
フィルム製造装置1を用いて導電性フィルム2を製造する方法の一実施形態を説明する。導電性フィルム2の製造方法は、積層工程、抵抗測定工程および選別工程を備える。
【0061】
[積層工程]
積層工程では、基材フィルム10を搬送しながら、基材フィルム10に導電層22を積層する。具体的には、基材フィルム10を搬送しながら、スパッタリング法により基材フィルム10の表面に導電層22を形成する(
図1の拡大図参照)。
【0062】
まず、搬送方向に長尺な基材フィルム10を送出ロール11に配置する。すなわち、長尺な基材フィルム10がロール状に巻回されたロール体を、送出ロール11に装着する。
【0063】
基材フィルム10としては、例えば、高分子フィルムが挙げられる。高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマーなどのオレフィン樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
【0064】
基材フィルム10の幅方向長さ(すなわち、搬送領域27の幅方向長さ)は、例えば、100mm以上、好ましくは、200mm以上であり、また、例えば、5000mm以下、好ましくは、2000mm以下である。
【0065】
次いで、送出ロール11および巻取ロール20をモータにより回転駆動させて、基材フィルム10を送出ロール11から送り出し、第1ガイドロール12、第2ガイドロール14、成膜ロール15、第3ガイドロール17および第4ガイドロール19を順に搬送して、巻取ロール20により巻き取る。
【0066】
基材フィルム10の搬送速度(導電性フィルム2の搬送速度)は、例えば、10mm/秒以上、好ましくは、100mm/秒以上であり、また、例えば、500mm/秒以下、好ましくは、300mm/秒以下である。
【0067】
これにより、基材フィルム10が、ロールトゥロール方式にて、送出ロール11から巻取ロール20まで搬送方向に搬送される(搬送工程)。
【0068】
次いで、スパッタリングを実施する。すなわち、スパッタユニット6を作動させて、基材フィルム10に導電層22を形成する。
【0069】
具体的には、真空下の成膜チャンバー18の内部にガス(アルゴンなど)を供給するとともに、電圧を印加して、ガスをターゲット16に衝突させる。その結果、成膜ロール15の下方において、搬送方向上流側から搬送されてくる基材フィルム10の下面に、ターゲット16からはじき出されたターゲット材料が付着され、導電層22が形成される。
【0070】
ターゲット16の材料、すなわち、導電層22の材料は、例えば、インジウムスズ複合酸化物、アンチモンスズ複合酸化物などの金属酸化物、例えば、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ガリウムおよびこれらの複合窒化物などの金属窒化物、例えば、金、銀、銅、ニッケルおよびこれらの合金などの金属などが挙げられる。
【0071】
これにより、成膜ロール15の下側において、基材フィルム10と、その下面に積層された導電層22とを備える導電性フィルム2が作製される(導電層形成工程)。
【0072】
その後、成膜ロール15の下側で作製された導電性フィルム2は、成膜ロール15および第3ガイドロール17により、搬送方向下流側の抵抗測定装置4に向かって搬送される。
【0073】
[抵抗測定工程]
抵抗測定工程では、導電性フィルム2を搬送方向に搬送しながら、導電性フィルム2のシート抵抗を測定する。抵抗測定工程は、
図4のフローチャートに示すように、電圧測定工程および算出工程を備える。
【0074】
(電圧測定工程)
電圧測定工程では、搬送される導電性フィルム2に対して、プローブユニット34を幅方向に走査しながら、電圧の測定を実施する。電圧測定工程は、参照電圧測定工程および実電圧測定工程を備える。
【0075】
プローブユニット34の幅方向の走査は、測定を実施している間、継続する。プローブユニット34は、
図2および
図3に示すように、非搬送領域28および搬送領域27の両方を往復移動する。
【0076】
搬送領域27は、上下方向(厚み方向)に投影したときに、搬送される導電性フィルム2と重なる領域であり、その幅方向長さは、導電性フィルム2の幅方向長さと一致する。非搬送領域28は、搬送領域27以外の領域であって、搬送領域27の幅方向外側(幅方向一方側および幅方向他方側)にそれぞれ区画される。すなわち、非搬送領域28は、搬送領域27の幅方向一方側に配置される一方側非搬送領域28aと、搬送領域27の幅方向他方側に配置される他方側非搬送領域28bとを有する。
【0077】
そして、プローブユニット34は、一方側非搬送領域28aから搬送領域27を幅方向に横切り、搬送領域27の幅方向他端部に至り、そこから折り返して、再び搬送領域27を幅方向に横切り、一方側非搬送領域28aまで移動し、これらの移動を繰り返す。
【0078】
プローブユニット34の走査速度は、例えば、10mm/秒以上、好ましくは、100mm/秒以上であり、また、例えば、500mm/秒以下、好ましくは、300mm/秒以下である。
【0079】
電圧の測定は、まず、非搬送領域28において実施する(参照電圧測定工程)。すなわち、プローブユニット34が、一方側非搬送領域28aを走査するときに、電圧の測定を実施する。このとき、プローブユニット34の間は、導電性フィルム2が介在していない状態(空状態)である。
【0080】
電圧の測定は、測定ユニット31を作動させることにより実施される。すなわち、プローブユニット34の間に磁界を発生させ、測定回路ユニット35に流れる電流の電圧を検知する。
【0081】
これにより、参照電圧が測定され、参照電圧のデータがメモリ37に記憶される。具体的には、測定時間(または測定位置)(横軸)と、その時間における参照電圧(縦軸)との関係を示すプロファイルが得られる。なお、測定時間に、導電性フィルム2の搬送速度および走査ユニット32の走査速度を考慮することにより、導電性フィルム2の測定位置が算出される。
【0082】
続いて、電圧の測定は、参照電圧測定工程の後、プローブユニット34が搬送領域27を走査している間にも、実施する(実電圧測定工程)。具体的には、プローブユニット34が、搬送領域27の幅方向一端部から幅方向他端部に到達し、幅方向他端部から幅方向一端部に折り返している間に(一往復間に)、複数回(例えば、
図3では7回)の測定を実施する。このとき、プローブユニット34の間には、導電性フィルム2とプローブユニット34とが接触しない状態で、導電性フィルム2が搬送方向下流側に向かって搬送されている。
【0083】
これにより、導電性フィルム2の実電圧が測定され、実電圧のデータがメモリ37に記憶される。具体的には、測定時間(または測定位置)(横軸)と、その時間における実電圧(縦軸)との関係を示すプロファイルが得られる。
【0084】
プローブユニット34によって測定される測定スポット29は、
図3に示すように、それぞれ、コイル36よりも大きい平面視略円形状を有する。すなわち、測定スポット29の直径は、コイル36の直径よりも大きい。
【0085】
複数の測定スポット29の集合体からなるパターン(測定パターン)は、平面視において、搬送方向に進む波形状を有する。複数の測定スポット29のうち、最も幅方向一方側に配置される測定スポット29(29a、29c)は、非搬送領域28に位置し、それ以外の測定スポット29(29b、29d)は、搬送領域27に位置する。
【0086】
参照電圧測定工程および実電圧測定工程は、繰り返し実施する。
【0087】
これにより得られる参照電圧の値および実電圧の値は、ともに、コイルの温度による影響およびヒステリシスによる影響を含む。
【0088】
(算出工程)
算出工程は、実電圧を参照電圧に基づいて補正して、導電性フィルム2のシート抵抗を算出する。
【0089】
すなわち、実電圧を、参照電圧に基づいて加減乗除などにより補正して、公知の算出方法を用いて、シート抵抗を算出する。例えば、下記計算式を用いて、シート抵抗を算出する。
【0091】
式中、Pcは、高周波電力値を示し、Etは、高周波電圧値を示し、Ioは、測定対象(導電性フィルム2)が存在しない場合の電流値を示し、Ieは、渦電流検出電流値を示し、ρsは、シート抵抗を示し、Kは、コイル結合係数を示し、Rは、I/V変換回路の抵抗値を示し、Veは、渦電流検出電圧値を示し、Voは、測定対象(導電性フィルム2)が存在しない場合の電圧値を示し、Vαは、参照電圧値を示す。
【0092】
なお、上記高周波電圧値Etは、渦電流発生によって変化するが、供給電圧との誤差から一定になるように制御されている。IeおよびIoは、I/V変換回路(抵抗R)により電圧値(実電圧)VeおよびVoに変換している。また、導電性フィルム2を測定する前にVoを0[V]となるようにキャリブレーションを実施し、Veのみでシート抵抗の算出を実施している。このVoを参照電圧値Vαによって補正し、シート抵抗を算出している。
【0093】
必要に応じて、参照電圧以外の電圧(例えば、測定ユニット31の機器特性に起因する一定電圧、コイル温度による電圧変化分など)を考慮して、実電圧をさらに補正してもよい。
【0094】
この際、ある測定時間(または、ある測定位置)のシート抵抗の算出において、実電圧のデータなどに基づいて、その測定時間(または、その測定位置)における実電圧値(上記式では、Vo)を特定する。そして、参照電圧のデータに基づいて、その特定した実電圧値の直前に測定された参照電圧値(上記式では、Vα)を選択して、シート抵抗を算出する。
【0095】
具体的には、一の非搬送領域28(
図3では、測定スポット29a)で測定された参照電圧は、その次の非搬送領域28(測定スポット29c)で参照電圧が測定されるまで、一の非搬送領域28(測定スポット29c)の搬送方向上流直後にある搬送領域27(測定スポット29b)で測定される複数の実電圧に対応して、シート抵抗の算出(上記式の代入)に用られる。続いて、その次の非搬送領域28(測定スポット29c)で測定された参照電圧は、さらにその次の非搬送領域28(測定スポット29e)で参照電圧が測定されるまで、その次の非搬送領域28の搬送方向上流側直後にある搬送領域27(測定スポット29d)で測定される複数の実電圧に対応して、シート抵抗の算出に用られる。以降、これを繰り返す。
【0096】
これにより、シート抵抗のデータが得られる。具体的には、測定時間(または測定位置)と、その測定時間におけるシート抵抗との関係を示すプロファイルが得られる。
【0097】
[選別工程]
選別工程では、シート抵抗のプロファイルに基づいて、導電性フィルム2を選別する。
【0098】
具合的には、プロファイルに基づいて、所定範囲から外れるシート抵抗の値(不良値)を示すプロットを検知した場合、不良値を示す測定位置を特定する。次いで、その位置における導電性フィルム2に所望の処置(導電性フィルム2の排除;導電層22の加工;ガスや電力などの成膜プロセスパラメータのフィードバック制御など)を実施する。
【0099】
これにより、シート抵抗が所望の範囲内である均一な導電性フィルム2が製造される。
【0100】
3.作用効果
抵抗測定装置4は、導電性フィルム2と対向配置されるプローブユニット34と、プローブユニット34を、搬送領域27および非搬送領域28の両方にわたって、幅方向に走査させる走査ユニット32と、プローブユニット34により測定される電圧に基づいて導電性フィルム2のシート抵抗を算出する演算ユニット33とを備える。また、演算ユニット33は、非搬送領域28で測定した参照電圧のデータを記憶するメモリ37を有し、プローブユニット34が搬送領域27を幅方向に走査されることにより測定された実電圧を、参照電圧に基づいて補正する。
【0101】
この抵抗測定装置4では、プローブユニット34を搬送領域27および非搬送領域28の両方にわたって走査させ、非搬送領域28で測定した参照電圧に基づいて、搬送領域27で測定した実電圧を補正する。
【0102】
このため、測定途中の非搬送領域28の参照電圧を測定し、その参照電圧に基づいて、実電圧を補正することができる。具体的には、実電圧から参照電圧を減じて、補正電圧を得て、補正電圧からシート抵抗値を計算する。
【0103】
この際、長時間測定を実施すると、導電性フィルム2の実電圧は、プローブユニット34におけるコイル温度およびヒステリシスの影響を受け、参照電圧も同様に、これらの影響を受ける。そして、この抵抗測定装置4では、これらの影響を受けた参照電圧に基づいて、同様の影響を受けた実電圧を補正するため、補正電圧では、これらの影響が相殺される。よって、補正電圧では、コイル温度の影響のみならず、ヒステリシスの影響も排除または低減される。そして、この補正電圧を使用して、導電性フィルム2のシート抵抗を算出するため、シート抵抗の測定精度(測定の正確さ)を向上させることができる。
【0104】
なお、従来では、導電性フィルム2の測定開始前に、一度、空状態の電圧(参照電圧)を測定した後は、導電性フィルム2の実電圧の測定中は、その開始前に測定した参照電圧(ヒステリシスの影響を受けていない状態の参照電圧)に基づいて補正する。そのため、測定中にヒステリシスが発生した場合は、そのヒステリシスの影響を考慮していない電圧が算出される。よって、従来では、シート抵抗の測定精度が劣る。
【0105】
また、抵抗測定装置4は、プローブユニット34を幅方向に走査させながらシート抵抗を測定することができる。すなわち、抵抗測定装置4は、トラバース式である。このため、抵抗測定装置4は、導電性フィルム2の搬送方向の任意の箇所に加えて、幅方向の任意の箇所も測定できる。
【0106】
また、抵抗測定装置4は、コイル温度による影響も排除または低減することができるため、コイル36の温度を検出するためにプローブユニット34に装着される温度センサーを不要とすることができる。したがって、プローブユニット34をコンパクトにすることができる。
【0107】
この抵抗測定装置4では、演算ユニット33は、プローブユニット34が非搬送領域28および搬送領域27を一往復するごとに少なくとも1回(具体的には、1回)、参照電圧をメモリ37に記憶する。
【0108】
このため、プローブユニット34の一往復ごとに測定された参照電圧に基づいて、直後の実電圧を補正することができる。そのため、参照電圧測定と実電圧測定とのタイムログによって生じるヒステリシス差を実質的になくすことができ、測定電圧測定時のヒステリシスと実電圧測定時のヒステリシスをより確実に相殺できる。その結果、導電性フィルム2のシート抵抗の測定精度をより一層向上させることができる。
【0109】
また、フィルム製造装置1は、搬送方向に長尺な基材フィルム10に導電層22を積層するスパッタユニット6と、導電性フィルム2を搬送する搬送ユニット8と、上記の抵抗測定装置4とを備える。
【0110】
このため、シート抵抗の不良を正確に検知することができる。よって、不良なシート抵抗を備える導電性フィルム2を確実に考慮または排除することができる。そのため、より均一なシート抵抗を備える導電性フィルム2を製造することができる。
【0111】
この導電性フィルム2の製造方法は、長尺な基材フィルム10に導電層22を積層して、導電性フィルム2を作製する積層工程と、導電性フィルム2を搬送方向に搬送するとともに、プローブユニット34を搬送領域27および非搬送領域28の両方にわたって幅方向に走査させながら、導電性フィルム2のシート抵抗を測定する抵抗測定工程とを備える。抵抗測定工程は、非搬送領域28において参照電圧を測定する参照電圧測定工程と、プローブユニット34を搬送領域27において幅方向に走査しながら、導電性フィルム2の実電圧を測定する実電圧測定工程と、実電圧を参照電圧に基づいて補正して、導電性フィルム2のシート抵抗を算出する算出工程とを備える。
【0112】
この導電性フィルム2の製造方法では、プローブユニット34を導電性フィルム2の搬送領域27および非搬送領域28の両方にわたって走査させ、非搬送領域28で測定した参照電圧に基づいて、搬送領域27で測定した実電圧を補正する。
【0113】
このため、測定途中の非搬送領域28の参照電圧を測定し、その参照電圧に基づいて、実電圧を補正することができる。よって、プローブユニット34に発生するコイル温度およびヒステリシスの影響を受けた参照電圧に基づいて、同様の影響を受けた実電圧を補正するため、これらの影響が排除または低減される。そして、この補正電圧を使用して、シート抵抗を算出するため、導電性フィルム2のシート抵抗の測定精度(測定の正確さ)を向上させることができる。したがって、導電性フィルム2のシート抵抗の不良を正確に検知することができ、不良なシート抵抗を備える導電性フィルム2を確実に考慮または排除することができる。その結果、均一なシート抵抗を備える導電性フィルム2を製造することができる。
【0114】
4.変形例
以下の各変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各変形例を適宜組み合わせることができる。さらに、各変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0115】
図3に示す一実施形態では、一往復ごとに1回の参照電圧を測定および記憶しているが、例えば、
図5Aおよび
図5Bに参照されるように、一往復ごとに2回(すなわち、一往路および一復路ごとにそれぞれ1回)参照電圧を測定および記憶することもできる。
【0116】
この実施形態では、
図5Aおよび
図5Bに示すように、走査ユニット32は、プローブユニット34を一方側非搬送領域28a、搬送領域27および他方側非搬送領域28bを幅方向にわたって往復移動させることができる。そして、プローブユニット34を一方側非搬送領域28a、搬送領域27および他方側非搬送領域28bを幅方向にわたって走査させるとともに、一方側非搬送領域28aおよび他方側非搬送領域28bのそれぞれで、参照電圧を測定し、メモリ37に記憶する。
【0117】
また、
図3に示す一実施形態では、一往復ごとに1回参照電圧を測定および記憶しているが、例えば、図示しないが、数往復ごとに1回参照電圧を測定および記憶することもできる。具体的には、例えば、1〜1000往復ごとに1回、好ましくは、1〜5往復ごとに1回、参照電圧を測定および記憶することができる。
【0118】
この実施形態では、参照電圧を測定する際にのみ、プローブユニット34を非搬送領域28に走査させてもよく、また、参照電圧を測定しない際においても、プローブユニット34を非搬送領域28に走査させてもよい。
【0119】
また、
図1に示す一実施形態では、プローブユニット34は、互いに対向配置される2つのプローブ34a、34bを備える両面プローブタイプであるが、例えば、図示しないが、プローブユニット34は、1つのプローブ34aのみを備える片面プローブタイプとすることもできる。
【0120】
図1に示す実施形態では、積層ユニットとしてスパッタユニットが設備されているが、これに代えて、例えば、積層ユニットとして、真空蒸着ユニット、化学蒸着ユニットなどを設備することもできる。この場合、積層ユニットは、ターゲット16の代わりに、導電層22の材料からなる蒸着源を備える。また、積層ユニットは、塗布ユニット、印刷ユニットなどであってもよい。
【0121】
5.検証
[ヒステリシスの影響]
非接触式シート抵抗測定モジュール(両面プローブタイプ、ナプソン社製、品番「NC−700V」、コイル温度センサー付き)を用い、導電性フィルム2を搬送していない状態(空状態)の電圧(参照電圧)を長時間(約960分)測定した。この測定において、コイル温度の変化に対する電圧の補正は、非接触式シート抵抗測定モジュールが備える演算プログラム(例えば、
図7に示した温度補正式)で自動的に処理している。この結果として、測定時間と、参照電圧における変位との関係を示したグラフを
図6に示す。
図6に示す電圧変位は、測定初期(測定開始0分後)の電圧を基準値(0[v])としている。
【0122】
また、
図6から明らかなように、長時間測定では、参照電圧における変位が−0.015[v]以下にまで大きく変化しており、参照電圧の誤差が大きくなっていることが分かる。よって、このような測定装置で導電性フィルム2のシート抵抗を測定する場合、測定されるシート抵抗の値は、上記誤差が含まれた電圧を考慮して算出されるため、測定誤差が大きくなることが分かる。
【0123】
一方、このときのコイル温度と、参照電圧における電圧(実測値)との関係を示したグラフを破線として
図7に示す。なお、コイル温度は、27.4℃から24.6℃に下降し、続いて、29.5℃まで上昇し、続いて、27.6℃まで下降した。また、非接触式シート抵抗測定モジュールの温度補正式(校正線)を実線で
図7に示す。
【0124】
図7から明らかなように、測定される電圧は、同じ温度において、コイル温度が上昇する場合と、コイル温度が下降する場合とでは、異なる値を示している。よって、この非接触式シート抵抗測定モジュールのプローブユニット34には、ヒステリシスが存在しており、このヒステリシスが
図6に示すような誤差の一因であることが分かる。
【0125】
[検証]
図1に示す測定装置を用いて、測定を実施した。具体的には、測定ユニット31として、非接触式シート抵抗測定モジュール(両面プローブタイプ、ナプソン社製、品番「NC−700V」)を用い、プローブユニット34間の距離Dを10mm、走査ユニット32の走査速度を100mm/秒に設定した。
【0126】
プローブユニット34を搬送領域27および一方側非搬送領域28aの両方を幅方向に走査させながら(
図3参照)、導電性フィルム2を搬送していない状態(空状態)におけるそれぞれの領域27、28aの電圧(参照電圧)を長時間(約1900分)測定した。得られた搬送領域27および一方側非搬送領域28aの各参照電圧において、搬送領域27の参照電圧の値を、その直前に測定された一方側非搬送領域28aの参照電圧の値で減じた。このデータに基づいて、測定時間と、搬送領域27の参照電圧における変位との関係を示すグラフを作成し、これを
図8に示す。
図8に示す電圧変位は、測定初期(測定開始0分後)の電圧を基準値(0[v])としている。
【0127】
図8から明らかなように、長時間の測定においても、参照状態における電圧変位が±0.005[v]以内と小さく、誤差が小さい。よって、本発明の装置および製造方法を用いて導電性フィルム2のシート抵抗を長時間測定する場合、測定誤差が小さくできることが分かる。これは、測定途中において、直前の一方側非搬送領域28aの電圧で搬送領域27の電圧を補正することにより、両領域(27、28a)に発生する機器特定の影響(具体的には、コイル温度およびヒステリシスの影響)を互いに相殺していることに起因していると推察される。
【0128】
6.参考実施形態
以下の実施形態において、上記した実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、各変形例を適宜組み合わせることができる。
【0129】
[フィルム製造装置および抵抗測定装置]
参考実施形態のフィルム製造装置41は、
図9に示すように、積層搬送装置3と、第2抵抗測定装置42とを備える。第2抵抗測定装置42は、測定ユニット31と、温度センサー43と、走査ユニット32と、第2演算ユニット44とを備える。
【0130】
温度センサー43は、コイル36の温度を検知する。
【0131】
第2演算ユニット44は、プローブユニット34により測定される電圧(実電圧)に基づいて、導電性フィルム2のシート抵抗を算出する。
【0132】
第2演算ユニット44は、第2メモリ45と、第2演算プログラム46とを備える。
【0133】
第2メモリ45は、ヒステリシスのデータを記憶する。
【0134】
ヒステリシスのデータとしては、例えば、
図7の破線で示すように、コイル36の上昇時におけるコイル温度と電圧との関係、および、コイル36の下降時におけるコイル温度と電圧との関係の両方を示したプロファイル(または、これらの両方を示した補正式や校正曲線)などが挙げられる。
【0135】
第2演算プログラム46は、プローブユニット34により測定される導電性フィルム2の実電圧のデータ、温度センサー43で検知される温度(検知温度)、および、第2メモリ45に記憶されたヒステリシスのデータを用いて、導電性フィルム2のシート抵抗を演算する。
【0136】
[フィルムの製造方法]
参照実施形態のフィルム製造装置41を用いる。参照実施形態の導電性フィルム2の製造方法は、導電性フィルム2の製造方法は、積層工程、抵抗測定工程および選別工程を備える。
【0137】
積層工程および選別工程は、上記実施形態と同様である。
【0138】
抵抗測定工程は、実電圧測定工程および第2算出工程を備える。
【0139】
実電圧測定工程は、上記実施形態と同様である。
【0140】
第2算出工程では、実電圧を、検知温度およびヒステリシスデータに基づいて補正して、導電性フィルム2のシート抵抗を算出する。
【0141】
具体的には、検知温度からヒステリシスに基づいて実電圧に対して補正すべき電圧を求め、続いて、その求めた電圧に基づいて実電圧を補正する。その補正された実電圧(補正電圧)を用いて、公知の計算式により、シート抵抗を算出する。
【0142】
選別工程は、上記実施形態と同様である。
【0143】
これにより、シート抵抗が所望の範囲内である均一な導電性フィルム2が製造される。
【0144】
参考実施形態の第2抵抗測定装置42は、検知温度と、第2メモリ45に記憶されたヒステリシスデータとに基づいて実電圧を補正して、シート抵抗を算出する。このため、シート抵抗の測定精度を向上させることができる。
【0145】
また、参考実施形態のフィルム製造装置41は、スパッタユニット6と、搬送ユニット8と、上記の抵抗測定装置42とを備える。このため、導電性フィルム2のシート抵抗の不良を正確に検知することができ、均一なシート抵抗を備える導電性フィルム2を製造することができる。
【0146】
また、参考実施形態の製造方法は、積層工程と、抵抗測定工程とを備え、抵抗測定装置は、実電圧を、検知温度およびヒステリシスデータに基づいて補正して、導電性フィルム2のシート抵抗を算出する第2算出工程を備える。このため、導電性フィルム2のシート抵抗の不良を正確に検知することができ、均一なシート抵抗を備える導電性フィルム2を製造することができる。
【0147】
好ましくは、
図1に示す実施形態が挙げられる。
図1に示す実施形態では、測定途中の参照電圧に基づいて、実電圧を補正する。そのため、実電圧測定に生じる誤差の影響は、同様に参照電圧測定において生じる影響と相殺されるため、ヒステリシス以外の機器特性の影響も考慮(低減)される。よって、
図1に示す実施形態では、より正確に測定精度を向上させることができる。