特許第6983113号(P6983113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983113
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】排気系部品締結構造
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/08 20100101AFI20211206BHJP
【FI】
   F01N13/08 E
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-109376(P2018-109376)
(22)【出願日】2018年6月7日
(65)【公開番号】特開2019-210898(P2019-210898A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】河野 健太
(72)【発明者】
【氏名】畠山 由章
(72)【発明者】
【氏名】高原 亮策
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0174384(US,A1)
【文献】 特開2012−112317(JP,A)
【文献】 特開2016−186314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/08
F16L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の排気系部品に設けられ、第1のフランジ傾斜面を有する第1のフランジと、
前記第1の排気系部品とは異なる第2の排気系部品に設けられ、第2のフランジ傾斜面を有する第2のフランジと、
締結力発生箇所と、締結時に前記第1のフランジ傾斜面と対向する第1の締結傾斜面と、締結時に前記第2のフランジ傾斜面と対向する第2の締結傾斜面と、を有し、前記締結力発生箇所で生じる力に応じて、前記第1および第2の締結傾斜面によって前記第1および第2のフランジを径方向に締め付けて締結する締結部材と、を備える排気系部品締結構造であって、
前記第1のフランジ傾斜面と前記第2のフランジ傾斜面とでなす角により画定される総合フランジ角度から、前記締結部材の前記第1の締結傾斜面と第2の締結傾斜面とでなす角により画定される締結傾斜面角度を減算して得られる角度を差分角度としたとき、
前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きく、
前記±90°の範囲内の所定の部分における前記総合フランジ角度が、その他の範囲における前記総合フランジ角度より大きく設定されていることにより、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きい、排気系部品締結構造。
【請求項2】
前記第1のフランジの前記第1のフランジ傾斜面とフランジ端面とでなす角度を第1のフランジ角度とし、前記第2のフランジの前記第2のフランジ傾斜面とフランジ端面とでなす角度を第2のフランジ角度としたとき、
前記総合フランジ角度は、前記第1のフランジ角度と、前記第2のフランジ角度との和により画定され、
前記±90°の範囲内の所定の部分における前記第1のフランジ角度と、前記第2のフランジ角度は略等しい、請求項に記載の排気系部品締結構造。
【請求項3】
前記締結部材と、前記第1および第2のフランジとの回転位置を位置決めするための位置決め部を更に備える、請求項1または請求項2に記載の排気系部品締結構造。
【請求項4】
前記所定の部分は、前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±45°よりも広い範囲であって、±75°よりも狭い範囲に設けられている、請求項1〜のいずれか1項に記載の排気系部品締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系部品締結構造に関する。詳しくは、締結部材が、第1の排気系部品の第1のフランジおよび第2の排気系部品の第2のフランジを径方向に締め付けて締結する構造である、排気系部品締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、締結部材としてのカップリングを用いて、内燃機関の第1の排気系部品のフランジおよび第2の排気系部品のフランジからなる一対のフランジを、径方向に締め付けて締結する締結構造が知られている。
このような締結構造において、特許文献1に示されるような、揺動可能に連結された複数の円弧状部材の端部同士をボルトにより連結する構造のカップリングを用いて、一対のフランジを締結する締結構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−344580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるような締結構造においては、1つのボルトを締め込むことにより容易に締結できる構造を採用しているため、一対のフランジに対するカップリングの接触状態が、場所によって不均一となるという問題がある。具体的には、ボルトの締め込み部分、すなわち締結力発生箇所の周辺については、一対のフランジとカップリングとの接触力が高くなり、それ以外の部分では、接触力が低くなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、一対のフランジに対するカップリングの接触状態を改善することにより、一対のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる、排気系部品締結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、第1の排気系部品(例えば、過給機のタービンハウジング10)に設けられ、第1のフランジ傾斜面(例えば、第1のフランジ傾斜面12)を有する第1のフランジ(例えば、第1のフランジ11)と、前記第1の排気系部品とは異なる第2の排気系部品(例えば、触媒ケース20)に設けられ、第2のフランジ傾斜面(例えば、第2のフランジ傾斜面22)を有する第2のフランジ(例えば、第2のフランジ21)と、
締結力発生箇所(例えば、締結力発生箇所36)と、締結時に前記第1のフランジ傾斜面と対向する第1の締結傾斜面(例えば、第1の締結傾斜面40)と、締結時に前記第2のフランジ傾斜面と対向する第2の締結傾斜面(例えば、第2の締結傾斜面41)と、を有し、前記締結力発生箇所で生じる力に応じて、前記第1および第2の締結傾斜面によって前記第1および第2のフランジを径方向に締め付けて締結する締結部材(例えば、カップリング30、60、70)と、を備える排気系部品締結構造であって、
前記第1のフランジ傾斜面と前記第2のフランジ傾斜面とでなす角により画定される総合フランジ角度(例えば、総合フランジ角度θ)から、前記締結部材の前記第1の締結傾斜面と第2の締結傾斜面とでなす角により画定される締結傾斜面角度(例えば、締結傾斜面角度φ)を減算して得られる角度を差分角度(例えば、差分角度α)としたとき、
前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きい。
【0007】
(1)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記第1のフランジ傾斜面と前記第2のフランジ傾斜面とでなす角により画定される総合フランジ角度から、前記締結部材の前記第1の締結傾斜面と第2の締結傾斜面とでなす角により画定される締結傾斜面角度を減算して得られる角度を差分角度としたとき、前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きい。
よって、前記第1および第2のフランジに対する前記締結部材の接触状態を改善することができ、その結果、前記第1および第2のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0008】
(2)(1)に記載の排気系部品締結構造において、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記総合フランジ角度が、その他の範囲における前記総合フランジ角度より大きく設定されていることにより、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きい。
【0009】
(2)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記総合フランジ角度が、その他の範囲における前記総合フランジ角度より大きく設定されている。
よって、フランジの形状の工夫により、前記第1および第2のフランジに対する前記締結部材の接触状態を改善することができ、その結果、前記第1および第2のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0010】
(3)(2)に記載の排気系部品締結構造において、前記第1のフランジの前記第1のフランジ傾斜面とフランジ端面とでなす角度を第1のフランジ角度(例えば、第1のフランジ角度θ1)とし、前記第2のフランジの前記第2のフランジ傾斜面とフランジ端面とでなす角度を第2のフランジ角度(例えば、第2のフランジ角度θ2)としたとき、前記総合フランジ角度は、前記第1のフランジ角度と、前記第2のフランジ角度との和により画定され、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記第1のフランジ角度と、前記第2フランジ角度は略等しい。
【0011】
(3)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記第1のフランジ角度と、前記第2のフランジ角度は略等しい。
よって、締結時において、バランス良く前記第1および第2のフランジに対して締結部材を押しつけることができる。
【0012】
(4)(2)〜(3)に記載の排気系部品締結構造において、前記締結部材と、前記第1および第2のフランジとの回転位置を位置決めするための位置決め部を更に備える。
【0013】
(4)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記締結部材と、前記第1および第2のフランジとの回転位置を位置決めするための位置決め部を更に備えているため、締結部材の締結力発生箇所が配置される前記180°の位置と、その反対側となる、総合フランジ角度θが大きく設定される前記±90°の範囲との相対的な回転位置関係が、常に適切に位置決めされる。
【0014】
(5)(1)に記載の排気系部品締結構造において、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記締結傾斜面角度が、その他の範囲における前記締結傾斜面角度より小さく設定されていることにより、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記差分角度が、その他の範囲における前記差分角度よりも大きい。
【0015】
(5)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記±90°の範囲内の所定の部分における前記締結傾斜面角度が、その他の範囲における前記締結傾斜面角度より小さく設定されている。
【0016】
よって、締結部材の形状の工夫により、前記第1および第2のフランジに対する前記締結部材の接触状態を改善することができ、その結果、前記第1および第2のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0017】
(6)(5)に記載の排気系部品締結構造において、前記締結部材は、前記第1および第2のフランジの外周に配置される、3箇所以上の外周締め付け部材(例えば、円弧状部材)を備え、前記±90°の範囲内に設けられた1箇所以上の外周締め付け部材の前記締結傾斜面角度が、他の外周締め付け部材の締結傾斜面角度よりも小さく設定されている。
【0018】
(6)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記締結部材が、3箇所以上の外周締め付け部材を備え、前記±90°の範囲内に設けられた1箇所以上の外周締め付け部材の前記締結傾斜面角度が、他の外周締め付け部材の締結傾斜面角度よりも小さく設定されている。
よって、外周締め付け部材の部材単位で締結傾斜面角度φを設定できるため、本発明の締結構造を容易に構成することができる。
【0019】
(7)(1)〜(6)に記載の排気系部品締結構造において、前記所定の部分は、前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±45°よりも広い範囲であって、±75°よりも狭い範囲に設けられている。
【0020】
(7)の発明に係る排気系部品締結構造では、前記所定の部分が、前記第1および第2のフランジの中心を基準として、前記締結力発生箇所の位置する方向を180°とした場合における、±45°よりも広い範囲であって、±75°よりも狭い範囲に設けられている。
よって、より効果的に、前記第1および第2のフランジ同士の締結力の面内分布を均等化させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一対のフランジに対するカップリングの接触状態を改善することにより、一対のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる、排気系部品締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の排気系の一部および、排気系部品の締結構造を示す概略図である。
図2】上記実施形態に係る締結構造のカップリングを示す図である。
図3図1におけるL−L断面を模式的に示す図である。
図4図3におけるM−O−N断面を模式的に示す図である。
図5図4の下部付近を拡大した拡大図である。
図6】本発明の一実施形態に係る締結構造における、一対のフランジ同士の締結力の面内分布を示すグラフである。
図7】上記実施形態の変形例を示す図であり、図5に対応する図である。
図8】上記実施形態に係る締結構造における、カップリングの他の構成の例を示す図である。
図9】上記実施形態に係る締結構造における、カップリングの他の構成の例を示す図である。
図10】従来構造を示す図であり、図3に対応する図である。
図11A】従来構造を示す図であり、図4に対応する図である。
図11B】従来構造を示す図であり、図11Aの上部付近を拡大した拡大図である。
図11C】従来構造を示す図であり、図11Aの下部付近を拡大した拡大図である。
図12】従来構造における、一対のフランジ同士の締結力の面内分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関としてのエンジンの排気系1の一部および、排気系部品の締結構造2を示す概略図である。
【0024】
図1には、第1の排気系部品としての過給機のタービンハウジング10と、第2の排気系部品としての触媒ケース20が示されている。タービンハウジング10は、第1のフランジ11を備え、触媒ケース20は、第2のフランジ21を備えており、これらの第1のフランジ11と第2のフランジ21は、一対のフランジ11、21を構成する。
そして、この一対のフランジ11、21は、締結部材としてのカップリング30により、径方向に締め付けられて、締結されている。
【0025】
図2は、本実施形態において用いられるカップリング30を示す図である。
カップリング30は、揺動可能に連結された複数の円弧状部材の端部同士をボルトにより連結する構造となっており、第1の円弧状部材31と、第2の円弧状部材32と、第3の円弧状部材33とを備える。また、カップリング30は、第1の円弧状部材31と第2の円弧状部材32を揺動可能に連結する揺動連結部34と、第2の円弧状部材32と第3の円弧状部材33を揺動可能に連結する揺動連結部35と、第1の円弧状部材31と第3の円弧状部材33とをボルト39を用いて連結する締結力発生箇所36とを備える。
【0026】
揺動連結部34、35は、弾性を有する薄板状の金属により構成されており、この薄板状の部分が曲がることにより揺動する構造となっている。
【0027】
締結力発生箇所36は、第1の円弧状部材31の端部に設けられたの第1の連結フランジ部37と、第3の円弧状部材の端部に設けられた第2の連結フランジ部38と、第1および第2の連結フランジ部37、38を連結するためのボルト39とによって構成されている。第1の連結フランジ部37には、ボルト39をねじ込むためのめねじ部が設けられている。
【0028】
図3は、図1のL−L断面を示す図であり、排気系部品における一対のフランジ11、21を、カップリング30により締結する排気系部品の締結構造2を示す模式的な図である。
【0029】
図3に示されるように、一対のフランジ11、21(図3においては、フランジ11が確認できる)の外周には、カップリング30が設けられており、カップリング30のボルト39を締め付けることによって、一対のフランジ11、21は径方向に締め付けられて、締結される。
【0030】
図4Aは、図3のM−O−N断面を模式的に示す図である。
図4Aに示されるように、一対のフランジ11、21は、その端面同士が向き合っている状態で配置されており、その外周にはカップリング30が設けられている。一対のフランジ11、21の間には、図示しないシール部材が配置されており、一対のフランジ11、21が締結された状態において、一対のフランジ11、21の端面同士の間には、僅かな隙間が存在している。
前述のとおり、カップリング30のボルト39を締め付けることによって、一対のフランジ11、21は径方向に締め付けられる。その結果、一対のフランジ11、21のフランジ傾斜面が、カップリング30の内面に設けられた、フランジ傾斜面と対向する締結傾斜面によって押されて、一対のフランジ11、21同士が近付く方向に力が働く。このような作用により、一対のフランジ11、21は締結される。
【0031】
図5は、図4の下側付近を拡大した拡大図である。本実施形態においては、第1のフランジ11の第1のフランジ傾斜面12と、第2のフランジ21の第2のフランジ傾斜面22とによって画定される総合フランジ角度θ、すなわち、第1のフランジ11の第1のフランジ角度θ1と第2のフランジ21の第2のフランジ角度θ2の和である総合フランジ角度θは、フランジの全周において一定とはなっていない。
具体的には、図5に示されるように、一対のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°としたときに、±90°の範囲内の所定の部分における総合フランジ角度θが、その他の範囲における総合フランジ角度θよりも大きく設定されている。
なお、図5における点線は、例えば図3のM−O断面における第1および第2のフランジ11、21の形状を示している。
なお、第1および第2のフランジ角度θ1、θ2は、図5に示すように、フランジの端面と、フランジの傾斜面の間のなす角を意味する。
【0032】
次に、上述の±90°の範囲内の所定の部分における総合フランジ角度θを、その他の範囲における総合フランジ角度θよりも大きく設定している理由について説明する。
【0033】
図10、11は、カップリング30を用いて一対のフランジ11、21を締結する、従来構造を示す図である。図10は、本実施形態の図3に対応する、従来構造を示す図である。図11は、本実施形態の図4に対応する、従来構造を示す図である。
【0034】
図10図11に示されるように、従来構造においては、第1のフランジ11の第1のフランジ傾斜面12と、第2のフランジ21の第2のフランジ傾斜面22とによって画定される総合フランジ角度θ、すなわち、第1のフランジ11の第1のフランジ角度θ1と第2のフランジ21の第2のフランジ角度θ2の和である総合フランジ角度θは、フランジの全周において一定である。また、カップリング30の内面の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面41によって画定されるカップリング内面の締結傾斜面角度φも、カップリング30の内面全周において一定である。なお、総合フランジ角度θと、締結傾斜面角度φは略同一の角度となっている。
【0035】
そして、このような従来構造において、1箇所のボルト39を締め込むことによりフランジの全周を締結する構造を採用したとき、ボルト39の締め込み部分、すなわち締結力発生箇所36(180°の部分)の周辺の一対のフランジ11、21は、カップリング30により強く押圧され、その結果、強い締結力が働く。その一方、締結力発生箇所36から最も遠い部分(0°の部分)の周辺は、一対のフランジ11、21が押圧される力が比較的弱くなり、締結力が弱くなる。
【0036】
図12は、従来構造における、ボルト39の締結トルクと、一対のフランジ11、12同士の締結力の面内分布との関係を示すグラフである。ここで一対のフランジ11、12同士の締結力とは、一対のフランジ11、21同士が向かい合う締結面内において、フランジ同士が押し合う方向の力、すなわち圧縮力を意味する。
【0037】
図12に示されるように、従来構造においては、締結力発生箇所から最も遠いポイントB(0°の部分)の締結力は、締結力発生箇所(180°の部分)の近傍であるポイントAの締結力に比べて、かなり低い値となっている。また、ポイントC、D(90°、−90°の部分)の締結力ついては、ポイントAの締結力とポイントBの締結力の間の値となっている。すなわち、従来構造においては、一対のフランジに対するカップリングの接触状態が不均一であるため、一対のフランジ同士の締結力の面内分布も不均一となっている。
【0038】
したがって、従来構造において、フランジの締結面全面にわたって十分な締結力を得るためには、すなわち、ポイントBにおいても強い締結力を得るためには、非常に強い締結トルクをボルト39にかける必要がある。
【0039】
本実施形態においては、締結傾斜面角度φは、フランジの全周において一定である。そして、図4図5に示したとおり、第1のフランジ11の第1のフランジ傾斜面12と、第2のフランジ21の第2のフランジ傾斜面22とによって画定される総合フランジ角度θ、すなわち、第1のフランジ11の第1のフランジ角度θ1と第2のフランジ21の第2のフランジ角度θ2の和θは、フランジの全周において一定とはなっていない。
具体的には、一対のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°としたときに、±90°の範囲内の所定の部分における総合フランジ角度θが、その他の範囲における総合フランジ角度θよりも大きく設定されている。
【0040】
このように、±90°の範囲内の所定の部分における総合フランジ角度θを、その他の範囲における総合フランジ角度θよりも大きく設定することにより、1箇所のボルト39を締め込んだときに、締結力発生箇所から遠い部分(±90°の範囲内の所定の部分)においても、カップリング30により一対のフランジ11、21が強く押圧され、一対のフランジ11、21に対するカップリングの接触状態が改善し、一対のフランジ11、21の締結力の面内分布が均等化される方向となる。すなわち、締結構造として、1箇所のボルト39を締め込むことによりフランジの全周を締結する構造を採用している場合であっても、フランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0041】
なお、前記±90°の範囲内の所定の部分において、第1のフランジ角度θ1と第2のフランジ角度θ2は、同じ角度でなくても、本発明の効果は得られる。しかしながら、第1のフランジ角度θ1と第2のフランジ角度θ2を略等しい角度とすることが好ましい。この場合、締結時において、バランス良く一対のフランジ11、21に対してカップリングを押しつけることができる。
【0042】
なお、カップリング30と、一対のフランジ11、21の相対的な回転位置を位置決めするための、図示しない位置決め部を備えていることが好ましい。この位置決め部は、例えば、カップリング30に設けられた凹部と、一対のフランジ11、21それぞれに設けられた凸部により構成され、この凹部と凸部が係合することにより、回転位置の位置決めが行われる。
このような構造により、カップリング30の締結力発生箇所36が配置される前記180°の位置と、その反対側となる、総合フランジ角度θが大きく設定される前記±90°の範囲との相対的な回転位置関係が、常に適切に位置決めされる。
なお、凸部はフランジ自体ではなく、一対のフランジ11、21を備える排気系部品それぞれに設けられていてもよい。もちろん、カップリング30側に凸部を設けて、フランジ側に凹部を設けてもよい。
【0043】
なお本実施形態においては、図3に示される±60°の範囲において、総合フランジ角度θが大きく設定されている。
【0044】
図6は、前述の±60°の範囲における総合フランジ角度θを変化させたときの、一対のフランジ11、21同士の締結力、すなわちフランジ締結荷重を示すグラフである。なお、締結傾斜面角度φはカップリング30の全周において一定である。またボルト39にかける締結トルクは一定としている。
グラフの横軸には、差分角度αを用いている。これは、第1のフランジ傾斜面12と前記第2のフランジ傾斜面22とでなす角により画定される総合フランジ角度θから、締結部材の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面41とでなす角により画定される締結傾斜面角度φを減算することにより算出している。
【0045】
このグラフに示されるように、前述の±60°の範囲における差分角度αが大きくするほど、すなわち、総合フランジ角度θが大きくするほど、締結力発生箇所36から一番遠く、締結荷重が最も低くなる位置であるポイントBにおいて、荷重が上がっていく傾向が得られる。
よって、前述の±60°の範囲における差分角度αを大きくするほど、一対のフランジ11、21に対するカップリングの接触状態が改善し、一対のフランジ11、21同士の締結力の面内分布が均等化される方向となり、総合的な締結力も高まる。
【0046】
図7は、本実施形態の変形例を示す図であり、図5に対応する図である。本変形例においては、総合フランジ角度θは、フランジの全周において略一定である。その一方、カップリング30の内面の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面41によって画定されるカップリング内面の締結傾斜面角度φは、カップリング30の内面全周において、一定とはなっていない。
具体的には、図7に示されるように、一対のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°としたときに、±90°の範囲内の所定の部分における締結傾斜面角度φが、その他の範囲における締結傾斜面角度φよりも小さく設定されている。
なお、図7における点線は、例えば図3のM−O断面におけるカップリング30の内面の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面41の形状を示している。
【0047】
このように、±90°の範囲内の所定の部分における締結傾斜面角度φを、その他の範囲における締結傾斜面角度φよりも小さく設定することにより、1箇所のボルト39を締め込んだときに、締結力発生箇所から遠い部分(±90°の範囲内の所定の部分)においても、カップリング30により一対のフランジ11、21が強く押圧され、一対のフランジ11、21に対するカップリングの接触状態が改善し、一対のフランジ11、21同士の締結面内の締結力の分布が均等化される方向となる。
【0048】
なお、±90°の範囲内の所定の部分において、総合フランジ角度θを大きく設定する態様と、締結傾斜面角度φを小さくする態様を組み合わせてもよい。
すなわち、第1のフランジ傾斜面12と前記第2のフランジ傾斜面22とでなす角により画定される総合フランジ角度θから、締結部材の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面41とでなす角により画定される締結傾斜面角度φを減算して得られる角度を差分角度αとしたとき、第1および第2のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°とした場合における、±90°の範囲内の所定の部分における差分角度αが、その他の範囲における差分角度αよりも大きければ、本発明の効果は得られる。
このように、総合フランジ角度θを大きく設定する区間、または締結傾斜面角度φを小さく設定する区間が、±90°の範囲内に設けられることにより、締結力発生箇所から遠い部分においても、カップリングにより一対のフランジ11、21が強く押圧される。よって、一対のフランジ11、21に対するカップリングの接触状態が改善し、一対のフランジ11、21同士の締結力の面内分布が均等化される方向となり、本発明の効果が得られる。
【0049】
なお、総合フランジ角度θを大きく設定する区間、または締結傾斜面角度φを小さく設定する区間は、±45°よりも広い範囲であって、±75°よりも狭い範囲に設定することが好ましい。さらに好ましくは、±60°の範囲である。このような範囲に設定することにより、より効果的に、一対のフランジ11、21同士の締結力の面内分布を均等化させることができる。
なお、図2に示されるような、3箇所の円弧状部材31、32、33を備えるカップリングを用いる場合は、3箇所の円弧状部材のうち、締結力発生箇所36から遠い側の円弧状部材32の内周面の締結傾斜面角度φを、他の円弧状部材31、33の内周面の締結傾斜面角度φよりも小さく設定することにより、本発明の効果が得られる。この場合、円弧状部材の部材単位で締結傾斜面角度φを設定すればよいため、本発明の締結構造を容易に構成することができる。
特に、3箇所の円弧状部材31、32、33を備えるカップリングを用いる場合は、容易に前述の±60°の範囲の締結傾斜面角度φを小さく設定することが可能であることから、簡単な構成で、非常に効果的に、一対のフランジ同士の締結面内の締結力の分布を均等化することが可能であり、総合的な締結力も向上する。
【0050】
なお、カップリングとしては、図2に示されるカップリング30に限らず、各種のカップリングを採用することができる。
例えば、図8に示されるような、3箇所の揺動部65、66、67を備え、4箇所の円弧状部材61、62、63、64を備えるカップリング60を採用してもよい。
この場合において、カップリング60における、締結力発生箇所36から遠い側の円弧状部材62、63の内面の締結傾斜面角度φを、他の円弧状部材31、33の内周面の締結傾斜面角度φよりも小さく設定することにより、本発明の効果が得られる。
【0051】
このように、締結部材としてのカップリングとして、3箇所以上の外周締め付け部材としての円弧状部材を備えるカップリングを用いるときは、前述の±90°の範囲内に設けられている1箇所以上の円弧状部材の内周面の締結傾斜面角度φを小さく設定することが好ましい。この場合、円弧状部材の部材単位で締結傾斜面角度φを設定できるため、本発明の締結構造を容易に構成することができる。
例えば、4〜5箇所の円弧状部材を備えるカップリングを用いる場合は、締結力発生箇所から遠い側の1〜2箇所の円弧状部材の内周面の締結傾斜面角度φを小さく設定する。
また、6〜7箇所の円弧状部材を備えるカップリングを用いる場合は、締結力発生箇所から遠い側の1〜3箇所の円弧状部材の内周面の締結傾斜面角度φを小さく設定する。
【0052】
なお、円弧状部材の配置数が偶数の場合は、締結力発生箇所36から遠い側の2箇所の円弧状部材の内周面の締結傾斜面角度φを小さく設定することが好ましい。これにより、バランス良く一対のフランジ11、21を適切に締め付けることができる。
なお、外周締め付け部材は、通常は円弧状部材であるが、例えば外周締め付け部材の配置数が多い場合などにおいては、必ずしも円弧形状でなくてもよい。
【0053】
また、カップリングとして、図9に示されるような、1箇所の揺動連結部73と、2箇所の円弧状部材71、72を備えるカップリング70を採用してもよい。カップリング70の揺動連結部73は、第1の円弧状部材71の一端側に設けられた第1の折り返し部75と、第2の円弧状部材72の一端側に設けられた第2の折り返し部76と、第1および第2の折り返し部75、76を連結する環状部材77によって構成されている。また、締結力発生箇所74は、ボルト78と、ナット79とにより構成されており、ナット79にボルト78をねじ込むことにより締結力が発生する。
このようなカップリングを用いた場合においても、前述の±90°の範囲内の所定の部分における締結傾斜面角度φを、その他の範囲における締結傾斜面角度φよりも小さく設定することにより、1箇所のボルト39を締め込んだときに、締結力発生箇所から遠い部分(±90°の範囲内の所定の部分)においても、カップリング30により一対のフランジ11、21が強く押圧され、一対のフランジ11、21に対するカップリングの接触状態が改善し、一対のフランジ11、21同士の締結力の面内分布が均等化される方向となる。
例えば、第1の円弧状部材71、第2の円弧状部材72の内面の締結傾斜面角度φについて、締結力発生箇所36に近い部位は大きく設定し、締結力発生箇所36から離れていくのに従って、その角度φを連続的に小さく変化する構成としてもよい。もちろん、不連続で変化する態様としてもよい。
【0054】
本実施形態の排気系部品締結構造によれば、以下の効果を奏する。
【0055】
(1)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、第1のフランジ傾斜面12と第2のフランジ傾斜面22とでなす角により画定される総合フランジ角度θから、カップリング30の第1の締結傾斜面40と第2の締結傾斜面42とでなす角により画定される締結傾斜面角度φを減算して得られる角度を差分角度αとしたとき、第1および第2のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°とした場合における、±90°の範囲内の所定の部分における差分角度αが、その他の範囲における差分角度αよりも大きい。
よって、前記第1および第2のフランジに対する前記締結部材の接触状態を改善することができ、その結果、前記第1および第2のフランジ同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0056】
(2)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、前述の±90°の範囲内の所定の部分における総合フランジ角度θが、その他の範囲における総合フランジ角度θより大きく設定されている。
よって、フランジの形状の工夫により、第1および第2のフランジ11、21に対するカップリング30の接触状態を改善することができ、その結果、第1および第2のフランジ11、21同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0057】
(3)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、前述の±90°の範囲内の所定の部分における前記第1のフランジ角度θ1と、前記第2のフランジ角度θ2は略等しい。
よって、締結時において、バランス良く第1および第2のフランジ11、21に対してカップリング30を押しつけることができる。
【0058】
(4)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、カップリング30と、第1および第2のフランジ11、21との回転位置を位置決めするための位置決め部を更に備えているため、カップリング30の締結力発生箇所36が配置される前述の180°の位置と、その反対側となる、総合フランジ角度θが大きく設定される前記±90°の範囲との相対的な回転位置関係が、常に適切に位置決めされる。
【0059】
(5)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、前述の±90°の範囲内の所定の部分における締結傾斜面角度φが、その他の範囲における締結傾斜面角度φより小さく設定されている。
よって、カップリング30の形状の工夫により、第1および第2のフランジ11、21に対するカップリング30の接触状態を改善することができ、その結果、第1および第2のフランジ11、21同士の締結力の面内分布を改善することができる。
【0060】
(6)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、カップリング30が、3箇所以上の円弧状部材を備え、前述の±90°の範囲内に設けられた1箇所以上の円弧状部材の締結傾斜面角度φが、他の円弧状部材の締結傾斜面角度φよりも小さく設定されている。
よって、円弧状部材の部材単位で締結傾斜面角度φを設定できるため、本発明の締結構造を容易に構成することができる。
【0061】
(7)本実施形態に係る排気系部品締結構造では、前述の所定の部分が、第1および第2のフランジ11、21の中心を基準として、締結力発生箇所36の位置する方向を180°とした場合における、±45°よりも広い範囲であって、±75°よりも狭い範囲に設けられている。
よって、より効果的に、第1および第2のフランジ11、21同士の締結力の面内分布を均等化させることができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、内燃機関の排気系部品締結構造について説明したが、この締結構造は、内燃機関に限らず、様々な排気系部品の締結構造に採用可能である。
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1…エンジン(内燃機関)の排気系
2…排気系部品の締結構造
10…過給機のタービンハウジング(第1の排気系部品)
11…第1のフランジ
12…第1のフランジ傾斜面
20…触媒ケース(第2の排気系部品)
21…第2のフランジ
22…第2のフランジ傾斜面
30、60、70…カップリング(締結部材)
31、32、33…円弧状部材(外周締め付け部材)
36…締結力発生箇所
40…第1の締結傾斜面
41…第2の締結傾斜面
61、62、63、64…円弧状部材(外周締め付け部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12