(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983186
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の保管方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
B22F9/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-14677(P2019-14677)
(22)【出願日】2019年1月30日
(65)【公開番号】特開2020-122187(P2020-122187A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】村上 吉明
(72)【発明者】
【氏名】坪内 源
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−231675(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/168186(WO,A1)
【文献】
特開2018−080402(JP,A)
【文献】
特開2002−058979(JP,A)
【文献】
特開2017−181121(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/045918(WO,A1)
【文献】
特表2010−507197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の保管方法であって、前記アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を-10℃以下の保管温度で保管する保管方法。
【請求項2】
前記分散溶媒の前記保管温度における粘度が、100mPa・s以上である請求項1に記載の保管方法。
【請求項3】
前記分散溶媒が、前記アルカリ金属の比重の80%以上の比重を有する請求項1又は2に記載の保管方法。
【請求項4】
-10℃以下で一定期間保管した前記分散体を20℃以上に加温した後に撹拌する請求項1〜3の何れか一項に記載の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム等のアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体は、固体のアルカリ金属単体とは異なる物性を有し、医農薬や電子材料等の機能性材料の有機合成等の各種技術分野への応用が期待される。
【0003】
アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体は、分散溶媒として、ノルマルパラフィン系溶媒等の鉱物油、或いは、トルエンやキシレン等の芳香族系溶媒を用いることが一般的である(例えば、特許文献1を参照のこと)。特許文献1には、ナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体及びその製造方法に関して、分散溶媒として芳香族成分を3重量%以上20重量%以下で含有する鉱物油を用いることでナトリウム粒子の再凝集を抑制し微細な状態でナトリウム粒子が分散させ得ることが記載されている。しかしながら、ノルマルパラフィン系溶媒の鉱物油の比重は0.65〜0.9、トルエンの比重は0.87、キシレンの比重は0.88であるのに対して、ナトリウムの比重は0.97であることから、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を長期間保管すると、分散質であるアルカリ金属微粒子が沈降し、分散体として期待される品質を十分に保持できなくなる。このような分散体を長期間保管する場合には、工業規模では専用の設備により撹拌や振とう等の機械的動力を利用して分散質の沈降及び凝集を抑制することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−102678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を試薬として流通させる場合には、その品質を長期間一定に保持しておく必要があり、特に分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を抑制することが重要となる。上述したように分散質の沈降及び凝集を抑制するためには、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体に常時に撹拌及び振とう等の機械的動力を付与することが提案されるが、撹拌及び振とう等のための専用の設備が必要となり、容易ではない。そこで、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を簡便な設備で長期間保管する方法として、例えば、窒素で置換した容器にアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体と撹拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて撹拌する方法が挙げられる。しかしながら、室温下で10分間/日の撹拌によってもアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を効果的に抑制することはできず、3か月経過時点でアルカリ金属の造粒が確認されるようになる。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、ナトリウム等のアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を、撹拌や振とう等の機械的動力を要することなく、長期間その品質を保持し保管できる技術を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、ナトリウム等のアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を、一定温度以下で冷凍保管することにより、分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を長期に亘って効果的に抑制できることを見出した。これにより、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の品質を保持し長期間保管することができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を保管する方法に関するものであり、その特徴は、前記アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を-10℃以下の保管温度で保管する点にある。
【0009】
本方法によれば、撹拌や振とう等の機械的動力を要せずともアルカリ金属微粒子の沈降や凝集を長期間に亘って効果的に抑制できる。したがって、撹拌や振とう等の機械的動力を付与するための専用の設備の構築等の設備投資を要せず、簡便かつ低コストにアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を長期間保管することができる。このように、一般的な試薬として流通に耐え得る品質の安定性を長期間保持でき、海外等の輸送に長期間を要する地域にもアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を提供することが可能となる。
【0010】
他の特徴は、前記分散溶媒の前記保管温度における粘度が、100mPa・s以上である点にある。即ち、粘度が100mPa・s以上となるように保管温度を決定する。
【0011】
本方法によれば、分散媒である分散溶媒の粘度を一定以上とすることにより、分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を効果的に抑制できる。その結果、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体をその品質を保持し良好な状態で長期間保管することができる。
【0012】
他の特徴は、前記分散溶媒が、前記アルカリ金属の比重の80%以上の比重を有する点にある。
【0013】
本方法によれば、分散媒である分散溶媒の比重を分散質であるアルカリ金属の比重との関係で好適化することにより、分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を効果的に抑制できる。その結果、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体をその品質を保持し良好な状態で長期間保管することができる。
【0014】
他の特徴は、-10℃以下で一定期間保管した前記分散体を20℃以上に加温した後に撹拌する点にある。
【0015】
本方法によれば、その品質を保持し長期間保管した後のアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を、簡便な操作で使用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】長期保管試験を行った実施例1の結果を示すグラフであり、製造直後のSDの粒度分布測定結果を示す。
【
図2】長期保管試験を行った実施例1の結果を示すグラフであり、製造後6か月経過時のSDの粒度分布測定結果を示す。
【
図3】長期保管試験を行った実施例1の結果を示すグラフであり、製造後12か月経過時のSDの粒度分布測定結果を示す。
【
図4】長期間保管後の外観確認試験を行った実施例3の結果を示す写真であり、SDが封入されたバイアル瓶の冷凍保管直後の外観写真である。
【
図5】長期間保管後の外観確認試験を行った実施例3の結果を示す写真であり、SDが封入されたバイアル瓶の冷凍保管後に撹拌を行ったものの外観写真である。
【
図6】長期間保管後の外観確認試験を行った実施例3の結果を示す写真であり、SDが封入されたバイアル瓶の冷蔵保管直後の外観写真である。
【
図7】長期間保管後の外観確認試験を行った実施例3の結果を示す写真であり、SDが封入されたバイアル瓶の冷蔵保管後に撹拌を行ったものの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の保管方法について詳細に説明する。ただし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態に係るアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の保管方法は、前記アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を-10℃以下の保管温度で保管することを構成要素として含むものである。
【0019】
本実施形態に係る保管方法の対象となるアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体は、アルカリ金属を微粒子として不溶性の分散溶媒に分散させたものである。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムやこれらの金属を含む合金等が挙げられる。微粒子の平均粒子径として、好ましくは、10μm未満であり、特に好ましくは、5μm未満のものを用いることができる。平均粒子径は、顕微鏡写真の画像解析によって得られた投影面積と同等の投影面積を有する球の径で表した。
【0020】
以下、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体につき、「SD」と略する場合がある。SDは、Sodium Dispersionの略号であり、下記で説明する実施例ではアルカリ金属としてナトリウムを用いた分散体を用いることからSDの符号を付している。しかしながら、SDの符号がナトリウム以外のアルカリ金属を除外するものではない。
【0021】
SDに含まれるアルカリ金属の濃度についても特に制限はないが、例えば、5wt%以上30wt%以下であるものが本実施形態に係る保管方法の対象とすることができる。
【0022】
分散溶媒としては、アルカリ金属を微粒子として分散、又はアルカリ金属を液体の状態で不溶性溶媒に分散できる限り、当該技術分野で公知の溶媒を用いることができる。例えば、ノルマルデカン、ノルマルヘキサン、ノルマルへプタン、ノルマルペンタン等のノルマルパラフィン系溶媒等の鉱物油、キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒や、テトラヒドロチオフェン等の複素環化合物溶媒、又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0023】
分散溶媒の保管温度における粘度が、100mPa・s以上であることが好ましく、即ち、粘度が100mPa・s以上となるように保管温度を決定することができる。特には、保管温度においては100mPa・s以上、室温条件下では30mPa・s以下であることが好ましい。したがって、保管時の温度下で、例えば、-10℃での分散溶媒の粘度が100mPa・s以上であることが好ましい。分散溶媒の粘度は当該技術分野で公知の方法により測定することができ、例えば、細管粘度計、落球粘度計、回転粘度計、振動粘度計等を用いて測定することができる。粘度が100mPa・s以上である分散溶媒としては、ノルマルパラフィン系溶媒やイソパラフィン系溶媒、あるいは、潤滑油のうち流動点降下剤を含まず、-20℃において固化しないもの等が例示されるが、これらに限定されるものではない。粘度が100mPa・s以上である溶媒を分散溶媒とすることにより、分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降速度及び粒子間相互作用を低減できる。これにより、アルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を効果的に抑制でき、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体をその品質を保持し良好な状態で長期間保管することができる。
【0024】
また、分散溶媒の比重が、アルカリ金属の比重の80%以上の比重を有するものであることが好ましく、特には、0.85以上0.97以下であることが好ましい。したがって、保管時の温度下で、例えば、-10℃での分散溶媒の比重が、アルカリ金属の比重に対して80%以上の比重を有するものであることが好ましい。しかしながら、上述した分散溶媒の好適な比重は、アルカリ金属に対する比率で特定されることから、当該技術分野で汎用される常温における比重による比較により使用に適した分散溶媒を特定することもできる。例えば、アルカリ金属として好適に利用できるナトリウムの比重は0.97(常温)であることから、分散溶媒として比重が常温で0.776以上であるものを好適に用いることができる。比重の測定は、比重瓶、浮ひょう、振動式密度計、磁気浮上式密度計、液中ひょう量法等を用いて測定することができる。アルカリ金属に対する比重が80%以上の比重を有する分散溶媒としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、トルエン、キシレン等が例示されるが、これらに限定するものではない。アルカリ金属に対する比重が80%以上の比重を有する溶媒を分散溶媒とすることにより、分散質であるアルカリ金属微粒子の沈降速度及び粒子間相互作用を低減できる。これにより、アルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を効果的に抑制でき、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体をその品質を保持し良好な状態で長期間保管することができる。
【0025】
本実施形態に係る保管方法は、SDを-10℃以下の保管温度で保管するものである。かかる保管温度は、-10℃以下であれば特に制限はないが、特に好ましくは-15℃以下-78℃以上である。保管温度が-10℃を超えるとSD中のアルカリ金属微粒子が沈降することからSDの長期間保管に好ましくない。一方、保管温度が低くなりすぎるとエネルギーコストや極低温に冷却する冷凍設備等の設備コストが高くなるため、保管温度を上記範囲に設定することが好ましい。-10℃以下での保管は、当該技術分野で公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、SDを10 mL以上10 L以下ずつ密閉容器等に封入し密閉した状態で、冷凍設備内に保管することにより行うことができる。冷凍設備は、-10℃以下に維持できる限り特に制限はなく、一般的に市場に流通している冷凍設備を利用することができる。
【0026】
本実施形態に係る保管方法は、保管期間に亘って、SD中のアルカリ金属微粒子の沈降を抑制することができる。更に、SD中のアルカリ金属微粒子同士の凝集をも抑制でき、その平均粒子径を変化させるものではない。したがって、SDの品質を長期間に亘って保持したまま保管することができる。しかも、保管期間中に、撹拌や振とう等の機械的動力を要しない。一方、室温や冷蔵保管ではSD中のアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を抑制することはできず、SDを長期間保管することはできない。また、沈降及び凝集したアルカリ金属微粒子を再分散することは困難であり、そのため撹拌及び振とう等の機械的動力を付与しても元の微細な分散状態に戻すことは困難である。かかる相違の一因として、温度によるアルカリ金属の沈降速度の相違が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る保管方法は、SDを少なくとも6か月、好ましくは1年、特に好ましくは1年6か月の間、SDを長期間保管するものである。
【0028】
本実施形態に係る保管方法は、SDを長期間保管できることから、一般的な試薬として流通に耐え得る品質の安定性を長期間保持でき、海外等の輸送に長期間を要する地域にもアルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を提供することが可能となる。また、輸送時の保管に際しては、船舶や航空機、トラック、貨車等に設置された既存の冷凍設備等を利用することもできる。
【0029】
また、本実施形態に係る保管方法は、保管期間中に、撹拌や振とう等の機械的動力を要しないことから、撹拌や振とう等の機械的動力付与ための設備投資を要しない。
【0030】
〔別実施形態〕
上述した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0031】
上述した本実施形態に係る保管方法では、SDを-10℃以下で保管するものであるが、-10℃以下での一定期間の保管後に、SDを20℃以上に加温した状態で撹拌又は振とう等を行うことができる。20℃以上への加温は、公知の手法を利用して行うことができる。例えば、SDを封入した容器を室温に放置することにより行ってもよく、また、温浴等を利用して行ってもよい。撹拌又は振とうについても公知の手法を利用して行うことができ、例えば、撹拌翼やマグネティックスターラー等を利用して行うことができる。別実施形態によれば、長期保管期間中にSD中のアルカリ金属微粒子が沈降又は凝集していたとしても、製造時の分散状態に戻すことができる。これにより、長期間保管した後のSDを、簡便な操作でその品質を保持した状態で、医農薬や電子材料等の機能性材料の有機合成等に供することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例におけるSDとしては、金属ナトリウムを微粒子としてノルマルパラフィン油に分散させた分散体を使用した。
【0033】
〔実施例1〕長期保管試験
(目的)
本実施例は、撹拌等の機械的動力を要せずに、SDを長期間保管可能な条件を把握することを目的とする。
【0034】
(試験方法)
SD 50mlをバイアル瓶(50ml)に移し、キャップ部分をパラフィルムでシールしたものを4本準備した。保管温度は-15℃に設定した。保管期間は1年間とし3か月経過毎にバイアル瓶を1本ずつ開封し、Na濃度及び平均粒子径を測定した。また、6か月経過時、及び、12か月経過時には粒度分布を測定した。なお、Na濃度の測定は中和滴定により行った。
【0035】
(試験結果)
試験結果を表1、並びに、
図1、
図2、及び、
図3に示す。表1はNa濃度と平均粒子径の測定結果である。
図1、
図2、及び、
図3はSDの粒度分布測定結果であり、
図1は製造直後、
図2は製造後6か月経過時のもの、
図3は製造後12か月経過時のものである。
【0036】
【表1】
【0037】
12か月経過時のSDのNa濃度は表1の通り24.9 wt%、重量平均粒子径は表1の通り4.79μmであった。
【0038】
これらの結果より、-15℃においては長期間保管することによっても、SDのNa濃度、及び、平均粒子径に変化はなかったことから、SD中のアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集を抑制できていることが理解できる。したがって、冷凍保管することによりSDを長期間その品質を保持したまま保管することができる。
【0039】
〔実施例2〕沈降速度試験
(目的)
本実施例は、温度によるSDの沈降速度に与える影響を把握することを目的とする。
【0040】
(試験方法)
25℃(室温)、5℃(冷蔵)、-15℃(冷凍)におけるSDの沈降速度を下記のストークスの式に従って算出した。なお、SDは、アルカリ金属としてナトリウム(密度968 kg/m
3)を用い、粒子径が1μmのものと5μmのものについて沈降速度をそれぞれ算出した。得られた沈降速度をもとに、アルカリ金属が10 cm沈降するのに要する時間を算出した。
【0041】
【数1】
〔式中:
v
s:沈降速度[m/s]
D
p:アルカリ金属微粒子の粒子径[m]
ρ
p:アルカリ金属微粒子の密度[kg/m
3]
ρ
f:分散溶媒の密度[kg/m
3]
g:重力加速度[m/s
2]=9.8[m/s
2]
η:流体の粘度[Pa・s]、を示す。〕
【0042】
(試験結果)
計算に用いた数値及び結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
温度-15℃での冷凍では、室温及び冷蔵と比較して、アルカリ金属微粒子の沈降速度が低下しており、実施例1の結果と合致していた。沈降速度の低下は、分散溶媒の粘度に関係しており、温度-15℃での冷凍では分散溶媒の粘度が高くなり、アルカリ金属微粒子の沈降を抑制していることが理解できる。
【0045】
〔実施例3〕長期間保管後の外観確認試験
(目的)
本実施例は、長期間保管後の外観を確認することにより、SDを長期間保管可能な条件を把握することを目的とする。
【0046】
(試験方法)
SD 50mlを無色透明のバイアル瓶(50ml)に移し、キャップ部分をパラフィルムでシールしたものを、25℃(室温)、5℃(冷蔵)、及び、-15℃(冷凍)にて、3か月及び6か月保管した後の外観を観察し、写真撮影を行った。続いて、バイアル瓶を撹拌した後の外観を同様にして観察し、写真撮影を行った。
【0047】
(試験結果)
結果を
図4〜
図7に示す。
図4〜
図7は、SDが入ったバイアル瓶の外観写真であり、
図4は冷凍保管直後のもの、
図5は冷凍保管後に撹拌を行ったもの、
図6は冷蔵保管直後のもの、
図7は冷蔵保管後に撹拌を行ったものである。図に示す通り、冷蔵保管したものは液相と固相に分離し、また、ここでは図示しないが、室温保管したものも液相と固相に分離していることが確認できた。一方、図に示す通り、冷凍保管したSDは分離せず良好に保管されていることが確認できた。つまり、冷凍保管によりアルカリ金属微粒子の沈降及び凝集が抑制できることが理解できる。かかる結果は、実施例1及び2の結果と合致するものであった。また、室温保管したSDでは3か月で、冷蔵保管したSDでは半年で、アルカリ金属粒子が沈降し、沈降したアルカリ金属粒子が凝集しガム状に固まり撹拌しても元の分散状態に戻ることはなかった。したがって、SDの長期間保管には温度管理が重要であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を利用する全ての技術分野において利用することができ、特には、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体の流通システムの構築や、アルカリ金属を分散溶媒に分散させた分散体を利用する医農薬や電子材料等の機能性材料の有機合成等の各種技術分野等の発展に貢献できる。