【実施例】
【0035】
下記の非限定的実施例は例示的な実施形態であり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。これらの実施例は、添付の図を参照することによってより良好に理解される。
【0036】
実施例1
グラフェンをベースとする電極および電気化学セルの調製
a)グラファイト箔の電気化学的剥離
グラフェン粉末は、グラファイト箔(Alfa Aesar、7.5cm×2cm×0.05cm)の電気化学的剥離によって得た(カナダ特許出願第2,803,772号明細書を参照されたい)。例えば、グラファイト箔は、アノード(直流電源の正端子に接続されている)として使用される。次いで、対電極は白金メッシュ(4cm
2)からなる。グラファイト箔および対電極の両方を0.1MのH
2SO
4電解液に浸漬し、4cmの一定の距離で分離する。2つの電極の間に6V、8Vまたは10VのDC電圧を印加することによって電気化学的剥離を行った。約1時間の電気分解の後、剥離したグラフェンを含有する溶液を、ブフナー型アセンブリー、および0.47μmの孔径を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブランフィルターを使用して真空濾過した。次いで、本明細書の図面においてEGと称される、得られた剥離したグラフェンの粉末を、Nanopure(登録商標)水で数回洗浄して、残留する酸を除去し、その後、10分間の超音波処理によってジメチルホルムアミド(DMF)中に分散させた。分散物を集め、得られた材料を5%水素化アルゴン下、1000℃で1時間処理し、次いで、下記のようなアノードおよびカソードの両方を作製するために使用した。
【0037】
b)自立グラフェン電極の調製
自立グラフェン電極の調製のために、100から400mg/Lの間に含まれる濃度を得るように選択した、ある測定量の、ステップa)からの剥離したグラフェンの粉末を、50mLのDMF中に分散させ、超音波浴に30分間入れた。レギュラーの(または「新鮮な」)グラフェンおよびリサイクルされたグラフェンを両方とも使用した。次いで、得られた混合物を、Nylon(登録商標)フィルター上で数時間濾過した。十分に乾燥したとき、グラフェン層をフィルターから取り出し、真空下、80℃で24時間さらに乾燥させた。次いで、グラフェンの層を、管状炉において5%水素化アルゴン下、1000℃で2時間熱処理し、添加物、バインダーまたは集電体を用いずに電極として使用した。
【0038】
c)電気化学セルの調製
様々なグラフェン電極を、負極として金属リチウム、炭酸エチレン(EC)/炭酸ジエチル(DEC)/炭酸ジメチル(DMC)の混合物(体積で1:1:1)中の1MのLiPF
6電解質を含浸させたCelgard(登録商標)−2320セパレーター、および正極として剥離したグラフェンまたは100%リサイクルされた剥離したグラフェンを有する、2電極コインセルにおいて特性決定した。セルを、乾燥アルゴンを充填したグローブボックスにおいて組み立てた。セルを、VMP3
TMポテンシオスタットで制御し、開路電圧(OCV)での1時間の静置の後、異なる電流密度でLi/Li
+に対して0.01〜1.5Vで定電流モードにて充電/放電サイクル動作手順を行った。50mA/g〜1A/gの範囲の各電流密度について、10サイクルを記録した。
【0039】
実施例2
Liイオン電池のリサイクルおよびグラフェンの回収
a)グラフェン/LFP電極のリサイクル
図1において例示するように、グラフェンおよび電気化学的活物質(LFPcelgard)を含むLFP電極を、実施例1の方法によって作製し、ここでバインダーも集電体も使用せず、グラフェンおよび電気化学的活物質を含む電極材料をポリマーセパレーター上で濾過して、電極として作用する電極材料の層を形成させた。20:80のグラフェン/LiFePO
4比で使用されるグラフェンおよび電気化学的活物質(LiFePO
4/C)は、超音波浴において様々な成分を炭酸ジメチル(DMC)で洗浄することによって回収した。混合物を濾過し、DMCで再び洗浄して、過剰な塩を除去した。短い事前乾燥の後、LiFePO
4/Cおよびグラフェンから構成される得られた粉末を、500℃で30分間熱処理して、炭素コーティングを除去し、LiFePO
4粒子を酸化した。このステップの後で、グラフェンを、水/DMC(2:1の体積比)混合物中への分散によって、LiFePO
4/Cの酸化および分解生成物から分離した。有機相は、グラフェンの大部分を含有した。(最上部の)水相は橙色であり、これによって酸化された種(例えば、Li
3Fe
2(PO
4)
3およびFe
2O
3)の存在が確認された。次いで、有機相を分離し、脱イオン水で2回洗浄して、酸化された生成物の残留する極微量を除去した。最終的に、DMC相を濾過し、リサイクルされたグラフェン粉末を約80%の収率で得た。
【0040】
b)グラフェン/LTO電極のリサイクル
電極材料中に存在するLTO活物質粒子は、炭素層で事前にコーティングしなかった。したがって、
図2の画像において例示するように、熱処理は必要なかった。電気化学的活物質(Li
4Ti
5O
12およびグラフェン)を、DMC中にこのように分散させ、濾過し、DMCで洗浄して、残ったリチウム塩を除去した。次いで、得られた粉末を、脱イオン水およびDMCに懸濁させた。より具体的には、LTO(水相中に存在する)を、グラフェン(有機相中に存在する)から分離した。有機相を脱イオン水で2回洗浄して、グラフェンに富んだ有機相、およびLTOを含有する水相を得た。相を分離し、グラフェン粉末を濾過によって単離した。
【0041】
実施例3
電極およびグラフェン材料の特性決定
a)熱重量分析
レギュラーのグラフェンおよびリサイクルされたグラフェンの粉末の熱安定性を、TGA(Q500
TM)/Discovery MS
TM機器を使用して、90mL/分の一定の空気流量下、30〜1000℃の温度および10℃/分の加熱速度で行った熱重量分析(TGA)によって評価した。
【0042】
LiFePO
4/Cおよびグラフェン粉末の熱重量曲線を
図3に示す。いくつかの注目すべき差異が、300℃超にて2つの材料の間で観察される。第1に、グラフェンは約550℃まで安定なままであり、この温度で、燃焼の開始が観察された。他方、LiFePO
4/C粉末について概ね2.3%の重量増加が300〜400℃で観察された。この重量増加は、Li
3Fe
2(PO
4)
3およびFe
2O
3を形成させるLiFePO
4/C酸化の結果であり、この酸化はまた炭素コーティングの分解を伴う可能性がある(Belharouakら、Electrochem. Commun.、2005年、7巻、983〜988頁;Hameletら、J. Mater. Chem.、2009年、19巻、3979〜3991頁)。したがって、500℃の温度を、第1の洗浄ステップの後に回収したグラフェンおよびLiFePO
4/C混合物の実施例2における熱処理のために選択した。次いで、LiFePO
4/C酸化生成物を、その後のステップにおいてグラフェンシートから分離した。約80%の収率が、様々な電池において使用されるグラフェンの重量、およびプロセスの終わりにおいて回収されたグラフェンの重量に基づいて得られた。
【0043】
リサイクルプロセスの効率を検証するために、リサイクルされたグラフェン粉末をまた、熱重量分析によって特性決定した。
図4は、リサイクルの前(
図4において「EG」と称される曲線)およびリサイクルの後(
図4において「リサイクルされたEG」と称される曲線)の、グラフェン粉末についての熱重量曲線を示す。両方の曲線は同様であるようであり、観察される唯一の差異は、新鮮なグラフェンと比較してリサイクルされたグラフェン粉末の燃焼の開始が僅かに低い温度(約25℃低い)で起こっていることであるようである。この挙動は、グラフェンシートのサイズにおける差異によって説明することができた。実際に、さらなる熱および超音波処理は、より小さな粒子から構成されるリサイクルされたグラフェン粉末をもたらした可能性がある。
【0044】
b)X線回折分析
LFP電極からのグラフェンを本リサイクルプロセスによって回収し、薄い酸化物フィルムもまた得られた。酸化物フィルム、レギュラーのグラフェンフィルムおよびリサイクルされたグラフェンフィルムは、Cu Kα
1、α
2放射線(λ
1=1.5405Å、λ
2=1.5443Å)を用いるPhilips X’Pert
TM回折計θ−2θ、およびK
β放射線の存在を回避するためのモノクロメーターを使用してX線回折(XRD)によって特性決定した。両方のフィルムを、単結晶Si(400)プレート上に配置した(2θ=69において単一のピーク)。データは、X’Celerator
TM検出器で、0.02°の増加および増加毎の1.3sの積分時間を使用して5°〜60°で集めた。
【0045】
100%リサイクルされたグラフェン層が、Celgard(登録商標)セパレーター上で形成された。酸化物層もまた、酸化された種を含有する水溶液の濾過によって別のCelgard(登録商標)セパレーター上で調製した。これらのグラフェンおよび酸化物の層を、
図5に示すようにX線回折(XRD)によって特性決定した。
【0046】
自立グラフェン層およびCelgard(登録商標)セパレーター単独のXRDパターンもまた、
図5に提示する。
図5aは、自立グラフェン層について概ね2θ=27°において非対称の鋭いピークを示すが、これはグラファイト材料の(002)面に割り当てた。さらに、グラフェン粉末について一般に観察される概ね2θ=55°における低強度ピークもまた存在する(Yuqinら、J. Power Sources、1997年、68巻、187〜190頁)。最終的に、約2θ=10〜15°における広範なピークは、グラファイト箔の電気化学的剥離の間に生じるグラファイト酸化物材料に割り当てられる(Vargasら、Electrochim. Acta、2015年、165巻、365〜371頁;Wangら、J. Phys. Chem. C、2008年、112巻、8192〜8195頁;Guoら、ACS nano、2009年、3巻、2653〜2659頁)。
【0047】
図5dにおいて、Celgard(登録商標)セパレーター単独のXRDパターンは、12°から27°の間に5つのピークを示す。酸化物フィルムについては、Celgard(登録商標)サポートの5つのピークに加えて、20°から27°の間にいくつかの小さなピークが観察され、
図5cにおいて丸によって識別した。リサイクルされたグラフェン層(
図5b)については、XRDパターンは、Celgard(登録商標)およびグラフェンの存在、ならびに酸化物の不存在と一致する。これらの結果は、本明細書に記載のようなリサイクルプロセスの有効性を裏付ける。
【0048】
c)走査型電子顕微鏡
異なる電極フィルムの形態学的研究は、Oxford Instruments X−Max 80
TM EDS検出器を備えた走査型電子顕微鏡JEOL JSM−7600F
TMを使用して行った。
【0049】
リサイクルされたグラフェン層はまた、走査型電子顕微鏡(SEM)によって特性決定した。SEM画像を、
図6に異なる拡大率で提示する。比較目的で、新鮮なグラフェンを有する自立層のSEM画像を
図10にさらに提示し、これは、数マイクロメートルのグラフェンシートのアセンブリーを示す。リサイクルされたグラフェンシートのテクスチャーおよびサイズは、
図10に提示する自立グラフェンフィルムについて観察されるものと異なる。この結果はまた、リサイクルされたグラフェン粉末についての僅かにより低い燃焼温度を示した熱重量分析と一致する。この結果は、この効果がさらなる熱処理および超音波処理に起因するグラフェンシートのサイズの差異によるものであり得るという仮説を実証する。さらに、フィルム中の残留酸化物粒子の存在の明らかな証拠は存在しない。
図6において丸で識別した小さく不規則な粒子が観察されたが、酸化物の存在に起因する可能性はなかった。
【0050】
酸化物層は走査型電子顕微鏡によって特性決定した。
図7は、異なる拡大率でのSEM画像を提示する。その白黒バージョンでは示されていないが、
図7aにおけるセパレーターの挿入画像は、濾過した粉末について橙色を示し、これはLiFePO
4/C材料が500℃での熱処理の間に完全に酸化されたことを示唆する。これらの観察は、
図1に記載されている分離および脱イオン水による洗浄ステップが、酸化物粉末からのグラフェンの効率的な分離を可能にしたことを示す。
【0051】
実施例4
剥離したグラフェンおよびリサイクルされた剥離したグラフェンを含む電極の電気化学的性能
自立グラフェン電極の電気化学的性能を、対電極としてリチウム金属を有するコインセルにおいて評価した。レギュラーの(新鮮な)グラフェン粉末もまた使用して、自立グラフェンフィルムを調製し、これを、集電体も、バインダーも、炭素添加物も添加することなく、Liイオン電池における電極として使用した。自立グラフェン電極の充電および放電比容量を、
図8に提示する。概ね250〜275mAh/gの放電容量が、50〜200mA/gの印加電流に対して得られた。容量は連続的に減少し、一方で、サイクル速度は増加した。高い速度において、放電容量は、安定化したようであり、85mAh/gの平均容量が1A/gにおいて得られた。
【0052】
図11は、50〜1000mA/gの範囲の異なる電流密度でサイクル動作する自立グラフェン電極についての充電および放電プロファイルを例示する。曲線は、典型的にはグラファイト電極について観察される電圧プロファイルを示す(Endoら、Carbon、2000年、38巻、183〜197頁)。低い電流密度(50〜200mA/g)で、曲線は、分極の有意な増加を伴わずに非常に類似していた。より高い抵抗および分極によって、サイクル速度の増加と共に、充電電圧は相当増加した。その結果、高い充電および放電電流において回収された比容量はより小さかった。
【0053】
本明細書に定義されているようなリサイクルプロセスによって得たリサイクルされたグラフェンを用いて調製した電極もまた、コインセルにおいて試験した。リサイクルされたグラフェンフィルム電極の充電および放電比容量を、
図9に示す。電気化学的性能は、
図8に提示する自立グラフェン電極について得られたものと同様であった。興味深いことに、第1の充電/放電サイクルの間の不可逆的容量は、おそらく、さらなる熱処理およびまた異なる粒子形態に起因して、リサイクルの後により小さかった(Zhengら、J. Electrochem. Soc.、1999年、146巻、4014〜4018頁)。さらに、200mA/g超の電流密度は、リサイクルの後で僅かに高い比容量をもたらした。この増強は、リサイクル後のより小さなグラフェンシートによって説明され得、したがって高い電流密度でのリチウム貯蔵を推進し得る。
【0054】
実施例1のプロセスによって調製するとき、Liイオン電池において使用するためのグラフェンを含む電極を、電極組成物を調製するために通常使用される集電体、バインダーおよび有害な溶媒を用いることなく生成した。グラファイト箔の電気化学的剥離によって得られるグラフェン粉末は、Liイオン電池電極の製造のための活物質(LiFePO
4/CまたはLi
4Ti
5O
12)への添加物として使用した。
【0055】
次いで、グラフェンおよび電気化学的活物質を含む電極材料をリサイクルして、本明細書に記載されているプロセスによってグラフェンを回収した。この環境に優しく急速なプロセスの主要な利点の1つは、NMPおよび/または強酸/強塩基処理が遷移金属またはグラフェンを回収するのに必要とされないことである。炭酸エステル溶媒(例えば、炭酸ジメチル)および水のみを、洗浄および分離ステップに使用し得る。電気化学的活物質、またはその酸化されたバージョンを含有する水相が得られ、この水相は、電池の製造におけるさらなる使用のために、処理されて、電気化学的活物質を再生し得る。さらに、リサイクルされたグラフェン粉末を少なくとも80%の収率で単離した。また、この収率をさらに最適化することができた。続いて、回収されたグラフェンはまた、新しい電池を製造するために使用し得る。単純で低エネルギーのリサイクルプロセスは、使用済みリチウムまたはリチウムイオン電池中に存在するグラフェンを再利用するために開発された。
【0056】
電気化学的活物質が炭素でコーティングされていないとき、熱処理が回避され、プロセスコストを相当低減させる。最終的に、単純で環境に優しい本プロセスを用いて、グラフェン粉末および電極活物質は、回収され、最終的に複合電極の製造において再利用することができる。
【0057】
リサイクルされたグラフェン電極の性能はまた、電気化学的に剥離させたグラフェンを用いて作製されたフィルムの性能と少なくとも同様であることが実証された。これらの結果はまた、本プロセスを使用したグラフェンのリサイクルが、電極のグラフェンの大部分の回収、およびグラフェンの電気化学的特性の保存を可能とすることを示している。これは、Liイオン電池におけるグラフェンの使用を促進し得る。
【0058】
多数の改変を、本発明の範囲から逸脱することなしに上記の実施形態のいずれかに行うことができる。本明細書において参照される任意の参考文献、特許、または学術文献は、その全内容があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる。