特許第6983221号(P6983221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6983221-大腸癌の併用検査 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983221
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】大腸癌の併用検査
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20211206BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211206BHJP
   C12Q 1/6804 20180101ALI20211206BHJP
【FI】
   G01N33/574
   G01N33/50 N
   G01N33/50 P
   G01N33/574 E
   G01N33/72 A
   G01N33/53 D
   C12Q1/6804 Z
【請求項の数】7
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-503672(P2019-503672)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公表番号】特表2019-527361(P2019-527361A)
(43)【公表日】2019年9月26日
(86)【国際出願番号】EP2017068754
(87)【国際公開番号】WO2018019827
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年7月7日
(31)【優先権主張番号】1612815.9
(32)【優先日】2016年7月25日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517151969
【氏名又は名称】ベルジアン ボリション エスピーアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ビンセント ミカレフ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン テレル
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−018119(JP,A)
【文献】 特表2014−529405(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/030579(WO,A1)
【文献】 E K Griffiths et al.,Cancer Detection and Prevention,1991年,Vol.15, No.4,pp.303-305
【文献】 STEFAN HOLDENRIEDER et al.,ANTICANCER RESEARCH,2014年,Vol.34,pp.2357-2362
【文献】 Jehad M Al-Shuneigat et al.,Journal of Biomedical Science,2011年,Vo.18, No.50,pp.1-5
【文献】 古屋正,大腸肛門誌,1982年,Vol.35,pp.118-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の2以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
を含み、
ステップ(b)で得られた結果が、患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものである、前記方法。
【請求項2】
大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の2以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、(b)で得られた結果を使用することと
を含む前記方法。
【請求項3】
ステップ(b)において、パラメータとしての数値的な便潜血結果の使用をさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)において、臨床的パラメータの使用をさらに含む、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記臨床的パラメータが、年齢、性別、及び肥満度指数(BMI)から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記エピジェネティック特徴物が、翻訳後ヒストン修飾、ヒストンバリアント若しくはアイソフォーム、DNA修飾、又はヌクレオソームに付加されるタンパク質から選択される、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
癌胎児抗原(CEA)のレベルを検出又は測定することをさらに含む、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、検出及びスクリーニング方法、特に、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープについて患者をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
大腸癌(CRC)は、死亡率が高い、よく見られる疾患である。この疾患の生物学は、増大する異形成を伴う前癌性の腺腫(ポリープ)から、ステージI、II、III、及び最終的にはステージIV CRCへと続く進行を含むと理解されている。死亡率は、有効な治療選択肢が利用可能である場合に疾患が初期の限局段階で検出されるか、疾患が結腸又は直腸内に広がっている可能性がある場合に末期段階で検出されるか、それを超えて、治療がより困難な時に検出されるかによって大きく異なる。5年生存率は、疾患がステージIで検出された人については90%を超えるが、ステージIVの転移性疾患が検出された人についてはわずか約10%である。この理由から、多くの国は、CRC又は前癌性腺腫若しくはポリープを有する個人を特定するためのCRCスクリーニングプログラムを有する。CRC発生率は、年齢及び性別依存性であり;女性よりも男性によく見られ、高齢者によく見られる。CRCは、50歳未満の人では稀であるので、高齢の人をスクリーニングすることが、より有用である。検査される実際のスクリーニング年齢範囲は、異なる国におけるスクリーニングプログラムで異なるが、典型的には、ほぼ50〜74歳程度である。将来は、スクリーニング年齢範囲は、50歳未満の年齢の人の間で発生率が増大していることから若い年齢にも、また、平均余命が増大していることから高齢者にも拡大される可能性がある。
【0003】
CRCスクリーニングプログラムは、他の場合に当てはまるであろうよりも早いCRC検出を可能にし、より早期の治療及び長い救命年数をもたらす。より早期のCRC検出はまた、費用のかかる末期段階癌の薬物療法及び入院の必要性を低下させることによって、ヘルスケア提供者にとっての金銭及び資源を節約する。理想的には、CRCスクリーニングプログラムはまた、治療されないままである場合にCRCへと進行する可能性があるが、検出されれば癌が発生する前に除去することができる、前癌性の大腸ポリープ又は腺腫を検出するであろう。そのような患者の予後は良好である。
【0004】
CRC検出及び/又はスクリーニングのために一般に使用される方法はすべて、大きな欠点を有する。USAにおいて用いられる第一のCRCスクリーニング方法は、大腸内視鏡検査である。大腸内視鏡検査は、下行結腸を横断し、上行結腸を横断して、あらゆる癌性又は潜在的に前癌性の病変を発見する内視鏡を使用して、結腸を目視検査することを本質的に含む。大腸内視鏡検査の第一の利点は、CRCに対するほぼ95%の程度の臨床的感度であるその検出の精度、並びに前癌性腺腫に対する非常に高い検出率(すべて、非常に高い(95%よりも大きい)臨床的特異度を用いる)である。特に、低いグレードの病変をその検出時に除去できることから、この精度によって、大腸内視鏡検査がCRC検出のための至適基準となる。しかし、大腸内視鏡検査は、最先端のCRC検出又はスクリーニング方法として、いくつかの制限を受ける。大腸内視鏡検査は、手術の承諾を必要とする高度に侵襲的な処置であり、その処置は通常、麻酔下で実施され、事前に患者による腸の準備を必要とし、場合によっては患者に損傷(例えば、腸の裂傷)を与え、費用がかかる($1000超)。CRCは、スクリーニング大腸内視鏡検査のおよそ0.5%において検出されるので、スクリーニングされた人の圧倒的多数は、ほとんど利益がない外科的処置を施される。これらの欠点が原因で、大腸内視鏡検査に対する患者コンプライアンスは低く、スクリーニング年齢の多くの人々は、この処置を受けない。これらの理由で、大腸内視鏡検査は、世界のほとんどの国では、最先端のCRC検出又はスクリーニング方法として使用されない。
【0005】
一部のヘルスケア提供者は、下行結腸のみを検査するために、より短い内視鏡が使用される、S状結腸鏡検査と呼ばれる関連する方法を用いる。この方法は、結腸の3分の2を見逃すが、癌が最も一般的に観察される領域は確かに検査する。S状結腸鏡検査の欠点は、大腸内視鏡検査の欠点と類似であり、これは、同様の理由で、一般的に、最先端の検査として使用されない。仮想大腸内視鏡検査、又はコンピュータ断層撮影(CT)コロノグラフィも使用される。この処置は、X線と、大腸の腫瘍及びポリープを検出するための直腸及び結腸の画像を作成するためのコンピュータ技術との組み合わせを用いる。
【0006】
CRCのための可能性のある血液ベースのバイオマーカーとして、癌胎児抗原(CEA)を含めた古典的なバイオマーカーが研究されているが、慣行的な使用のためには、その臨床的精度が低過ぎ、これは、患者モニタリングのために、より適切に使用される。さらに最近では、特定の遺伝子配列の過剰メチル化が、血液中の、癌に対する診断バイオマーカーとしての使用について研究されている。例えば、血漿から抽出されたDNAのPCR増幅による、Septin9遺伝子の過剰メチル化の検出について報告された方法は、10%の偽陽性率を伴って、大腸癌の72%を検出することが報告された(Grutzmannらの文献、2008)。特定の遺伝子又は遺伝子座のDNAメチル化状態は、通常、配列決定又は他の手段によって検出することができる一次DNA配列変化をもたらす、5-メチルシトシンではないシトシンの、ウラシルへの、亜硫酸水素塩による選択的脱アミノ化によって検出される(Allenらの文献、2004)。
【0007】
最も一般的に使用されるCRC検出及びスクリーニング方法は、スクリーニング年齢の集団を、非侵襲的な最先端の便検査を用いて最初にスクリーニングして、CRCのより高いリスクが存在するスクリーニング集団の亜群を特定する、2段階の手順を含む。便検査において陽性と判定された人は、フォローアップ大腸内視鏡検査で調べられる。便スクリーニングの結果は、過半数の人について陰性であるので、2段階の方法は、病変を有しないほとんどの人に対する不必要な大腸内視鏡検査を妨げる。便スクリーニングの結果は、約5%の人について陽性であり、この群は、CRCのリスクがより高いと考えられる。このより高いリスク群の中で、典型的にはおよそ5%の人がCRCを有することが判明することとなる。したがって、現在の便検査は、不十分な臨床的精度を有し、手頃な価格の、より正確な便CRC検査の必要性が存在する。
【0008】
CRCに対する現在の便検査の根底にある原理は、結腸又は直腸への出血の検出である。簡単に言うと、結腸又は直腸が、侵入する癌性又は前癌性増殖によって部分的に封鎖される場合、その封鎖部を通過する便の移動は、損傷及び出血を引き起こす可能性が高い。この出血は、便試料をヘモグロビンの存在について検査することによって検出される。出血の程度は、日ごとに大きく変動する可能性があるので、この検査は、別の日に、数回実施される必要がある可能性がある。
【0009】
現在のすべての便CRC検査は、便中ヘモグロビンを検出するように設計されている。グアヤック(guaiac)便潜血検査(FOBT又はgFOBT)は、患者又は操作者が、典型的には、少量の便を、α-グアヤコン酸でコーティングした紙又は他の基材に塗抹する、ヘモグロビンに対する化学的検査方法である。便中に血液が存在するならば、この紙への過酸化水素の添加によって、ヘム(ヘモグロビンの構成成分)によって触媒される反応におけるα-グアヤコン酸の青色のキノンへの酸化を通して、急速な色の変化が生じる。この検査では、肉(したがってヘム)、並びにヘムのようにふるまう他の触媒分子を含有するいくつかの野菜の摂取は、偽陽性の結果をもたらす可能性がある。同様に、ビタミンCを含めたいくつかの物質は、偽陰性の結果をもたらす可能性があるので、検査前には、多くの場合、食事制限が勧告される。グアヤックFOBT検査は、使用されるカットオフに応じて高い臨床的特異度を有する、また、CRCの検出について60〜70%の感度を有することができる。前癌性ポリープ又は腺腫の検出は、不十分である。化学的FOBT方法は、過去には最適な方法であり、依然として広く使用されているが、免疫学的便潜血検査(fecal immunochemical test)方法に取って代わられている。
【0010】
免疫学的便潜血検査又はFIT方法(iFOBT又はFOBTiとも呼ばれる)は、本質的に、便試料中のヒトヘモグロビンに対するイムノアッセイ検査である。FIT方法は、食事因子の干渉を原因とする、偽陽性及び陰性の結果になりにくく、便中の、より少量の血液を検出することができる。これらの検査は、gFOBTと同様の特異度を有するが、やや臨床的に意義のある癌病変を検出する。ポリープ又は腺腫の検出は、不十分である。
【0011】
多くの国では、FITヘモグロビン検査を使用して、スクリーニング年齢の人のための全国民CRCスクリーニングプログラムが確立されており、CRCによる死亡率の低下がもたらされている。しかし、スクリーニングで便中ヘモグロビンについて陽性であると判明した人の約5%のみが、大腸内視鏡検査で実際にCRCを有することが判明するので、実施されるほとんどの大腸内視鏡検査は、後で分かることであるが、不必要である。これらの不必要な大腸内視鏡検査を実施することは、以下を含めた、患者にとって、また医療提供者にとって、いくつかの有害な結果を招く;(i)健康な人に実施される、多くの不必要な侵襲的な大腸内視鏡検査医療処置、(ii)費用のかかるかつ不必要な大腸内視鏡検査に対する高額な医療費、(iii)大腸内視鏡検査インフラへの歴史的な不十分な投資が原因の、医療提供者の大腸内視鏡検査能力は(特に欧州のCRCスクリーニングプログラムでは)、現在、医療需要又は必要性を満たすには不十分であり、実施されていない大腸内視鏡検査がたまること、及びFIT陽性の人にとっての大腸内視鏡検査の待ち時間の増大がもたらされる、及び(iv)この待ち時間の増大は、CRCを確かに有する患者にとってのCRC治療の潜在的に致命的な開始の遅延をもたらしている。
【0012】
CRCスクリーニングプログラムは、この問題と格闘している。一般的解決法は、使用されるFIT検査の陽性/陰性カットオフ閾値を、例えば、20μgヘモグロビン/グラム(便)(20μg Hb/g(便))から40μg/g(又は、便が緩衝液で希釈されて収集されるならば、液体の同等濃度)まで上げる、又はEiken OCセンサーFIT検査については、例えば100ng/ml(便中ヘモグロビン)から200ng/mlまで上げることである。これは、大腸内視鏡検査に送られる人を少なくするだけでなく、検出される、したがってCRC死亡率の増大に至るCRCを確かに有する人の数の減少ももたらすこととなる。FIT検査は、現行のカットオフ閾値(典型的には20μg/g(便))で、CRC症例の約70%について陽性であり、閾値を上げることは、この数字をさらに(例えば、CRC症例の60%又は65%に)減少させることとなり、これは、すべてのCRC症例の3分の1超が検出されないままであろうことを意味する。
【0013】
したがって、確かにCRCを有する人の検出を維持しながら、不必要な大腸内視鏡検査で調べられる人の数を減少させるための方法の、当技術分野での必要性が存在する。直観に反して、これを行う最良の方法は、CRCの検出を改善することではなく、便中ヘモグロビンについて陽性と判定されたが、CRCを有しないので大腸内視鏡検査で調べられる必要がない人の部分集合を特定するための検査システムを設計することである可能性がある。さらに、疾患を有しない人を特定するための方法も、直観に反して、(i)フォローアップ大腸内視鏡検査の検出率を増大させることによって、及び(ii)より高い疾患発症率を有する患者群の間の検出を増大させるための、より最適及び動的なFITカットオフレベルの使用を可能にすることによって、FIT方法の感度を高めて、CRCを有する、より多くの人を検出する可能性がある。本発明者らは、これから、こうした人を特定するための、CRCに対する高い陰性適中率を有する方法を報告する。本発明の方法を使用して、便中ヘモグロビンについて陽性と判定された人を、大腸内視鏡検査を必要としない非常に低いCRCリスク群と、大腸内視鏡検査又はさらなる調査の必要がある高いCRCリスク群とに分けることができ、したがって、真のCRC症例のすべて又はほとんどを検出することを継続しながら、大腸内視鏡検査紹介を減少させる。
【発明の概要】
【0014】
(発明の概要)
本発明の第1の態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオマーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
を含み、
ステップ(b)で得られた結果が、患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものである、前記方法が提供される。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオマーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、(b)で得られた結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
(図面の簡単な説明)
図1】数値的なFIT結果、並びに5-メチルシトシン、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、及びヌクレオソーム-HMGB1付加物のエピジェネティック特徴物を含有するヌクレオソームに対するELISA分析結果、及び対象の年齢を含めた、パネルのCRC検出に対する感度及び特異度を示す、1907人のFIT陽性対象についての受信者動作曲線(Receiver Operator Curve)(ROC)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、陽性の便中ヘモグロビン検査結果を有する人に実施されるFIT併用検査であり、これを使用して、大腸内視鏡検査資源の最良の使用を最大限にし、かつスクリーニングプログラムの医療経済的側面を改善し、かつ不必要な大腸内視鏡検査処置を受ける人の数を最小限にしながら、こうした便検査を含むCRCスクリーニングの感度及び特異度を改善することができる。この方法は、以下のパラメータのいずれかの2以上の組み合わせを含むことができる;
i.測定された便中ヘモグロビンレベルの数値的な値(FITレベル):より高いFITレベルは、より高いCRCの確率と関連する;
ii.循環ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物:癌は、遺伝子の及びエピジェネティックな誤制御の疾患であり、循環血清若しくは血漿ヌクレオソームにおけるこうした誤制御、及び/又はその関連するDNAの検出は、癌検出のために利用されている。本発明者らは、健康な循環血清/血漿エピジェネティックヌクレオソームプロフィールの確立を他の因子と組み合わせて使用して、癌を排除することができることを、本明細書で示す;
iii.循環鉄代謝バイオマーカー:FIT検査では、ある種の閾値カットオフ値を超えるヘモグロビンのレベルは、他の因子にかかわらず、陽性の結果とみなされる。しかし、便中のヘモグロビンの存在は、偽陽性であった可能性がある。癌は、一般に、貧血と関係がある可能性があり、さらに、真の陽性の便中ヘモグロビン結果は、長期間にわたる消化管出血(GI出血)と関係がある、また、患者の鉄代謝の障害と関係がある可能性が高い。こうした障害は、患者のヘマトクリット、血中血球容積、ヘモグロビンレベル、フェリチンレベル、トランスフェリンレベル、可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)レベル、ヘプシジンレベル、ヘモジュベリン(hemojuvelin)(HJV)レベル、及び/又は骨形成タンパク質6(BMP6)レベルを含めた、血液/血清/血漿中のいくつかの鉄代謝バイオマーカーを測定することによって検出することができる。鉄代謝マーカーは、男性と女性では、異なる正常レベルを有するので、結果の解釈において、患者の性別が使用され得る。本発明者らは、この目的のために、血清バイオマーカーとして、フェリチンを、単独でも組み合わせでも使用することができることを、本明細書で示す。フェリチンは、炎症に起因して上昇し得る急性期タンパク質であるので、鉄代謝失調の他のマーカーも使用することができる。こうしたマーカーとしては、炎症とは関係がないヘマトクリット及びヘモグロビンレベルが挙げられる。トランスフェリンも、炎症とは関係がなく、より小さい鉄代謝の失調に対して、ヘマトクリット又はヘモグロビンレベルよりも感受性が高い可能性がある。STfRも、鉄均衡の少しの喪失を正確に表すことができ、したがって、鉄均衡の健康/状態の予測因子として使用することができる。慢性的な低レベル鉄代謝失調は、検出することが可能である可溶性HJVレベルの上昇をもたらす。ヘプシジンは、全身的な鉄恒常性の調節因子であり、鉄レベルの変動に直接的に応答するので、マーカーとして使用することもできる。鉄レベルが低下するならば、肝細胞は、ヘプシジン産生を停止して、その結果食事からの鉄吸収の上方調節及び鉄の全身的な動員/再利用/保存が誘発される。ヘプシジン依存性の上方調節は、慢性の少量のGI出血において、長期間、中立の鉄均衡を維持することができる。BMP6レベルも、鉄レベルの変動と直接的に関連する。BMP6は、ヘプシジン活性化の主要経路において活性なサイトカインである。
iv.低酸素誘導因子(HIF):HIF-1、並びにそのサブユニットHIF-1a、HIF-1b、HIF-2、並びにそのサブユニットHIF-2a及びHIF-1b、及びHIF-3を含めた低酸素誘導因子(HIF)は、低酸素条件で誘発される転写因子である。低酸素誘導因子は、遺伝子発現を変えることによって、幅広い細胞内及び細胞外変化を促進し、細胞が、全身的貧血(ここでは、体のすべての細胞が、低酸素を経験し、HIF上昇の一因となる)と、腫瘍微小環境に限定される低酸素(HIF合成の局所的上昇をもたらす)とのいずれか又は両方に起因する低酸素環境に適応する及び低酸素環境で生存することを可能にする。
v.循環癌胎児抗原(CEA)、又はCRCに対する他の公知のマーカーのレベル:増大しているCEAレベルは、より高いCRC疾患の確率と、また、より後期の疾患と関連する。
vi.他の患者パラメータ、特に、患者の性別及び年齢又は生年月日:年齢、性別、喫煙歴、体重、又は肥満度指数(Body Mass Index)(BMI)などの患者パラメータも、CRC疾患の確率と関連する。発明者らは、組み合わせられた年齢と数値的なFITレベルが、FIT単独の使用と比較して、組み合わせられた検査の精度を増大させることを、本明細書で示す。
【0018】
したがって、本発明の第1の態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオメーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
を含み、
ステップ(b)で得られた結果が、患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものである、前記方法が提供される。
【0019】
一実施態様では、患者は、ステップ(b)で得られた結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陽性であるならば、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高いと特定される。代替実施態様では、患者は、ステップ(b)で得られた結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陰性であるならば、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が低いと特定される。
【0020】
患者は、便潜血が、検査のために使用される(単一の)閾値カットオフレベルを超えるレベルで便試料中に存在すると決定される場合、ステップ(a)において「陽性」と判定されていると考えられることが理解されよう。
【0021】
ステップ(b)で得られた結果を、数値的な便潜血結果及び/又は他の因子と組み合わせて使用することができる。好ましい実施態様では、先に列挙した6群の因子のうちの1つから選択される因子が使用される。非常に好ましい実施態様では、他の因子は、患者の年齢及び/又は性別及び/又は鉄代謝バイオマーカーである。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中のヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルを検出又は測定することと;
を含み、
ステップ(b)で得られた結果が、患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものである、
前記方法が提供される。
【0023】
用語「細胞外遊離ヌクレオソーム」は、この文献全体を通して、1以上のヌクレオソームを含む、あらゆる細胞外遊離クロマチン断片を含むことが意図されることを理解されたい。ステップ(b)において言及される細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物は、限定はされないが、1以上のヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、修飾されたヌクレオチド、及び/又はヌクレオソーム-タンパク質付加物内のヌクレオソームに結合したタンパク質を含むことができる。
【0024】
FIT検査などの現在の便潜血検査は、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する患者を成功裏に診断するのに単独で十分に正確ではない。したがって、診断は、侵襲的な大腸内視鏡検査によって確認しなければならない。しかし、本発明者らは、数値的な便潜血検査結果を、他の患者パラメータ及び/又はフェリチン分析及び/又は細胞外遊離ヌクレオソーム分析と組み合わせることが、大腸癌、又は大腸腺腫若しくはポリープを有しない患者の部分集合を特定するための検査を提供することを発見した。
【0025】
陽性の便潜血検査後に大腸内視鏡検査で調べられる患者のうち、典型的にはこれらの患者の約5%のみが大腸癌(CRC)を有すると判明することとなる。本発明者らは、便潜血検査結果を、血液/血清/血漿検査と、及び/又は組み合わせると高い陰性の予測値を有する患者の臨床データと組み合わせることが、CRCの疑いがある患者の総数を約20%から50%又はさらに一層減少させる併用検査を提供することを発見した。これは、大腸内視鏡検査で調べられる健康な患者の数を(例えば50%)減少させ、これは、患者が不必要な侵襲的処置にさらされるのを防止するだけでなく、大腸内視鏡検査紹介の数を減少させることによって、医療費も低下させる。
【0026】
便潜血検査において陽性と判定されている検査集団では、本発明の理想的な検査は、そのうちの誰もCRCを有しない患者の亜群の特定を可能にするであろう。本発明者らは、本発明の方法を使用して便潜血検査において陽性と判定された1907人を検査することによって作成された、図1における受信者動作曲線(ROC)によって示される通り、これを達成した。ROC曲線は、25%の特異度で、パネル検査の感度が、100%であることを示す。これは、対象のこれらの25%が、大腸内視鏡検査を必要としないこと、また、これらの対象をさらなる調査にかけないことが、いかなる見逃されるCRC症例ももたらさないこととなることを意味する。したがって、対象のこれらの25%は、1907人の対象のFIT陽性群の中で、非常に低いCRCリスク亜群に相当する。さらに、97.4%の感度を維持しながら、特異度を33%に増大させることができる。したがって、FITレベル、年齢と、5-メチルシトシン、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、及びヌクレオソーム-HMGB1付加物を含有する5種の循環血清ヌクレオソーム型のレベルとの組み合わせを含む、本発明のこの実施態様を使用して、大腸内視鏡検査に対する紹介を、いかなるCRC症例も見逃さずに4分の1減少させる、又は、CRC症例の2.6%を見逃しながら3分の1減少させることができる。これは、FIT/FOBT検査閾値カットオフレベルを増大させることによるCRC症例の最大10%の喪失に匹敵する。
【0027】
さらに、大腸内視鏡検査の現在の能力は、便潜血について陽性と判定された患者からのスクリーニングプログラムの必要性を満たすのに不十分である。したがって、紹介を減少させることは、医療提供者にとって大きな業務上の利益となり、一方で、待ち時間を減らすことによって、CRCを有する可能性が最も高い人が、より早く大腸内視鏡検査処置を受けることとなることも確実になる。
【0028】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオマーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性を示すものとして、(b)で得られた結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てる、したがって、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中のヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性を示すものとして、ステップ(b)でもたらされた細胞外遊離ヌクレオソーム結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0030】
患者が、便潜血について陽性であると特定される場合、ステップ(b)が実施されることが理解されよう。さらに、ステップ(c)における大腸内視鏡検査に対する患者の適合性が確認された場合、ステップ(b)でもたらされた結果を、数値的なFITレベル又は他の因子(1又は複数)と組み合わせて使用することができる。
【0031】
一実施態様では、ステップ(b)で得られた結果が、ステップ(a)で得られた数値的な便潜血結果などの数値的な便潜血結果と組み合わせて使用される。さらなる実施態様では、数値的な便潜血結果に対するカットオフレベルは、少なくとも10μg Hb/g、例えば、少なくとも20、30、40、又は50μg Hb/g、特に、少なくとも約20μg Hb/gである。
【0032】
本発明のこの態様では、例えば、ステップ(b)でもたらされた結果が陽性であるならば、患者は、大腸内視鏡検査に適している。これは、便潜血検査で得られた結果と、高い陰性適中率の検査(例えば細胞外遊離ヌクレオソーム併用検査)で得られた結果が、どちらも陽性であるからである。しかし、ステップ(b)でもたらされた結果が陰性であるならば、高い陰性適中率の検査(例えば細胞外遊離ヌクレオソーム併用検査)が、便潜血検査の結果と適合しないので、患者は、大腸内視鏡検査に適さない。
【0033】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てるための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中のヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルを検出又は測定することと;
(c)患者がCRC及び/又はポリープを有する相対的リスクの指標として、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、(b)でもたらされた細胞外遊離ヌクレオソーム結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0034】
これらの方法のすべてにおける目的が、(i)CRC及び/又は大腸腺腫及び/又は大腸ポリープの非常に低いリスクを有する個人、及びさらなる調査を必要としない個人を特定することによって;及び/又は(ii)CRC及び/又は大腸ポリープの、より高いリスクを有する個人、及びさらなる調査を必要とする個人を特定することによって、(例えば大腸内視鏡検査又はS状結腸鏡検査による)CRC及び/又は大腸ポリープについてのさらなる調査を必要とする、又は必要としない対象の亜群を特定することであることは明らかであろう。
【0035】
患者は、便潜血が、便試料中に存在すると決定される場合、便潜血検査において「陽性」と判定されていると考えられることが理解されよう。
【0036】
本明細書に記載したヌクレオソーム分析は、前記対象が癌を有する可能性の指標として、ヌクレオソームそれ自体及び/又は特定のエピジェネティック構造を含有するヌクレオソームの存在又はレベルを使用する。したがって、患者は、ヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物の存在又はレベルが、1以上の「癌」(「真のCRC」)対照試料と異なる、すなわち、患者が、便中ヘモグロビンの存在について陽性であるが、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープについて陰性である場合、ステップ(c)における大腸内視鏡検査に対する適合性について「陰性」と判定されており、かつ大腸内視鏡検査に適した候補ではないと考えられる。
【0037】
本発明のさらなる態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の鉄代謝バイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)該患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものとして、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)で得られた鉄代謝バイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0038】
一実施態様では、鉄代謝バイオマーカーは、フェリチン、ヘマトクリット、ヘモグロビン、トランスフェリン、可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)、ヘプシジン、ヘモジュベリン(HJV)、及び骨形成タンパク質6(BMP6)から選択される。一実施態様では、鉄代謝バイオマーカーは、フェリチンである。一実施態様では、血中血球容積も、鉄代謝バイオマーカーとして使用することができる。
【0039】
一実施態様では、ステップ(c)で得られる結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陽性であるならば、その患者は、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高いと特定される。代替実施態様では、ステップ(c)で得られる結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陰性であるならば、その患者は、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が低いと特定される。
【0040】
患者は、便潜血が、検査のために使用される閾値カットオフレベルを超えるレベルで便試料中に存在すると決定される場合、ステップ(a)において「陽性」と判定されていると考えられることが理解されよう。
【0041】
便潜血検査において陽性と判定されている集団では、本発明の分析は、CRCに対して低リスクである患者の亜群の特定を可能にするであろう。こうした分析は、他の因子と組み合わせて、本発明の併用検査に寄与することとなる。本発明者らは、鉄代謝マーカー・フェリチンに対して、20μg Hb/g(便)カットオフ閾値でFITについて陽性と判定されたスクリーニング年齢の599人の対象を分析した。男性と女性の両方に対して192ng/mlという単一のフェリチンレベルカットオフを使用することにより、対象の25%の低リスク亜群(これには、CRC症例の10%(118例のうちの12例)のみが含まれていた)が特定された。男性(208ng/ml)及び女性(164ng/ml)に対して別々のカットオフを使用することにより、見逃されたCRC症例は、1症例(118例のうちの1%)増加したが、見逃された潜在的に前癌性の腺腫は、7症例(178症例のうちの4%)減少した。
【0042】
一実施態様では、鉄代謝バイオマーカーは、フェリチンであり、少なくとも150ng/ml、例えば、少なくとも160、170、180、190、200、210、220、230、240、又は250ng/ml、特に190ng/mlのカットオフレベルが使用される。カットオフレベルは、性別によってさらに区別され得、したがって、さらなる実施態様では、患者が男性であるならば、フェリチンカットオフレベルは、少なくとも190、195、200、205、又は210ng/mlである、及び/又は、患者が女性であるならば、フェリチンカットオフレベルは、少なくとも150、155、160、165、170、175、180、185、又は190ng/mlである。一層さらなる実施態様では、患者が男性であるならば、フェリチンカットオフレベルは、少なくとも200ng/mlである、及び/又は、患者が女性であるならば、フェリチンカットオフレベルは、少なくとも160ng/mlである。
【0043】
一実施態様では、ステップ(b)で得られた鉄代謝バイオマーカー結果が、ステップ(a)で得られた数値的な便潜血結果などの数値的な便潜血結果と組み合わせて使用される。さらなる実施態様では、数値的な便潜血結果に対するカットオフレベルは、少なくとも10μg Hb/g、例えば、少なくとも20、30、40、又は50μg Hb/g、特に、少なくとも約20μg Hb/gである。
【0044】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てる、したがって、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の鉄代謝バイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、FITレベル及び/又は他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)でもたらされた鉄代謝バイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0045】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てるための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の鉄代謝バイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)患者がCRC及び/又はポリープを有する相対的リスクの指標として、FITレベル及び/又は他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、(b)でもたらされた鉄代謝バイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0046】
本発明のさらなる態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の公知のCRCバイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものとして、FITレベル及び/又は他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)で得られたCRCバイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0047】
一実施態様では、ステップ(c)で得られる結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陽性であるならば、その患者は、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高いと特定される。代替実施態様では、ステップ(c)で得られる結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陰性であるならば、その患者は、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が低いと特定される。
【0048】
患者は、便潜血が、検査のために使用される(単一の)閾値カットオフレベルを超えるレベルで便試料中に存在すると決定される場合、ステップ(a)において「陽性」と判定されていると考えられることが理解されよう。
【0049】
限定はされないが、癌胎児抗原(CEA)、オステオポンチン、CYFRA-21-1、セプラーゼ、Timp-1、抗p53抗体、及び抗AFP抗体を含めた、CRCに対するいくつかの公知の血液バイオマーカーが存在する。したがって、一実施態様では、CRCバイオマーカーは、CEA、オステオポンチン、CYFRA-21-1、セプラーゼ、Timp-1、抗p53抗体、及び抗AFP抗体から選択される。さらなる実施態様では、CRCバイオマーカーは、CEAである。
【0050】
便潜血検査において陽性と判定されている集団では、本発明の分析は、CRCに対して低リスクである患者の亜群の特定を可能にするであろう。こうした分析は、他の因子と組み合わせて、本発明の併用検査に寄与することとなる。本発明者らは、CRCバイオマーカーCEAに対して、20μg Hb/ g(便)カットオフ閾値でFITについて陽性と判定されたスクリーニング年齢の599人の対象を分析した。1.3ng/mlという単一のCEAレベルカットオフを使用することにより、対象の25%の低リスク亜群(これには、CRC症例の15%(118例のうちの18例)のみが含まれていた)が特定された。
【0051】
一実施態様では、CRCバイオマーカーはCEAであり、少なくとも0.5ng/ml、例えば、少なくとも0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、又は1.5ng/ml、特に、1.3ng/mlのカットオフレベルが使用される。
【0052】
一実施態様では、ステップ(b)で得られたCRCバイオマーカー結果が、ステップ(a)で得られた数値的な便潜血結果などの数値的な便潜血結果と組み合わせて使用される。さらなる実施態様では、数値的な便潜血結果に対するカットオフレベルは、少なくとも10μg Hb/g、例えば、少なくとも20、30、40、又は50μg Hb/g、特に、少なくとも約20μg Hb/gである。
【0053】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てる、したがって、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の公知のCRCバイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)でもたらされたCRCバイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0054】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てるための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の公知のCRCバイオマーカーのレベルを検出又は測定することと;
(c)患者がCRC及び/又はポリープを有する相対的リスクの指標として、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、(b)でもたらされたCRCバイオマーカー結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0055】
本発明のさらなる態様によれば、患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の低酸素誘導因子のレベルを検出又は測定することと;
(c)患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものとして、FITレベル及び/又は他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)で得られた低酸素誘導因子結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0056】
一実施態様では、患者は、ステップ(c)で得られた結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陽性であるならば、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高いと特定される。代替実施態様では、患者は、ステップ(c)で得られた結果が、CRC、大腸腺腫、又はポリープを有する患者について陰性であるならば、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が低いと特定される。
【0057】
一実施態様では、低酸素誘導因子は、HIF-1、HIF-2、及びHIF-3から選択される。
【0058】
一実施態様では、ステップ(b)で得られた低酸素誘導因子バイオマーカー結果が、ステップ(a)で得られた数値的な便潜血結果などの数値的な便潜血結果と組み合わせて使用される。さらなる実施態様では、数値的な便潜血結果に対するカットオフレベルは、少なくとも10μg Hb/g、例えば、少なくとも20、30、40、又は50μg Hb/g、特に、少なくとも約20μg Hb/gである。
【0059】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てる、したがって、大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の低酸素誘導因子のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と任意に組み合わせて、ステップ(b)でもたらされた低酸素誘導因子結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0060】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象を、CRC若しくはポリープについての非常に低いリスク/可能性又はCRC若しくはポリープについての高いリスク/可能性を有すると割り当てるための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の低酸素誘導因子のレベルを検出又は測定することと;
(c)患者がCRC及び/又はポリープを有する相対的リスクの指標として、FITレベル及び他の因子(1又は複数)と組み合わせて、(b)でもたらされた低酸素誘導因子結果を使用することと
を含む前記方法が提供される。
【0061】
本発明者らは、併用検査の性能が、CEAのリスクが低いスクリーニングされるFIT陽性対象の亜群を特定するために使用されるいかなる個々の検査の性能も凌ぐことを、本明細書で示す。本発明者らは、本発明の方法を使用して、20μg Hb/g(便)というカットオフ閾値でFITについて陽性と判定された599人の対象の中から、CRCのリスクが低い150人の対象(25%)の亜群を特定した。599人の対象のうち、118人の対象が、CRCと診断された。FITレベル単独によって特定された低リスク群の150人の対象には、6症例のCRCが含まれており、これは、カットオフレベルを単純に上げて、大腸内視鏡検査の25%を排除することが、118のCRC症例のうちの見逃されている6例をもたらしたのであろうことを示していた。年齢、CEAレベル、又はフェリチンレベルのいずれかによって特定された低リスク群の150人の対象には、それぞれ、11、18、又は12症例のCRCが個々に含まれていた。FITレベルと年齢の両方を含む併用検査は、6例のみのCRC症例を含む低リスク群の150人の対象を特定した。しかし、FITレベル、年齢、フェリチン、及びCEAを含む併用検査は、2例のみのCRC症例を含む低リスク群の150人の対象を特定した。したがって、本発明のこの実施態様を使用して、2%未満のCRC症例を見逃すだけで、大腸内視鏡検査紹介をおよそ25%減少させることができる。この併用検査では、前癌性腺腫の数も減少した。
【0062】
FIT検査は、定性的に(ここでは、結果は、陽性若しくは陰性のいずれかである)、又は定量的に(ここでは、便中ヘモグロビン濃度が推定するされる)使用することができる。定量的免疫学的便潜血検査は、数値的な便中ヘモグロビンレベルを提供し、エンドユーザーが、患者をフォローアップ大腸内視鏡検査について特定するために使用することができるカットオフ便中ヘモグロビン濃度を選択するのを可能にする。
【0063】
好ましい実施態様では、患者が大腸癌、又は大腸腺腫若しくはポリープを有しないことを決定する方法は、アルゴリズムにおける他の患者データの使用をさらに含む。このデータには、限定はされないが、FIT又はFOBT検査において判明した患者の数値的な便中ヘモグロビンレベル(単なる陽性/陰性結果とは異なる)、患者の年齢、性別、肥満度指数(BMI)、喫煙状況、及び食習慣が含まれ得る。細胞外遊離ヌクレオソーム及び/又は鉄代謝バイオマーカー、及び/又は低酸素誘導因子及び/又はCRCに対する他の公知のバイオマーカーに関する患者データ及び分析データは、アルゴリズム(その出力が、CRC又はポリープの存在又は非存在の指標である、又はCRC又はポリープの存在又は非存在の確率の指標である、又は大腸内視鏡検査に対する患者の適合性の指標である)を使用して分析される。
【0064】
一実施態様では、対象における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープの存在又は非存在を決定するために、患者の臨床データ(特に患者の年齢及び/又は性別)が、アルゴリズムにおける数値的なFIT又はFOBT結果と共に使用される。この実施態様は、便試料中の便潜血について陽性であると判明した対象における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(i)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(ii)対象が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性の指標として、便中ヘモグロビンレベル及び他の患者データを使用することと
を含む前記方法を提供する。
【0065】
一実施態様では、大腸癌、又は大腸腺腫若しくはポリープを有しない患者を決定する方法は、アルゴリズムにおける他の分析データの使用をさらに含む。このデータには、限定はされないが、患者の血中又は便中の癌胎児抗原(CEA)レベル、C反応性タンパク質(CRP)レベル、フェリチンレベル、血中ヘモグロビンレベル、鉄代謝バイオマーカーレベル、低酸素誘導因子レベル、及び/又はCRCに対する他の公知のバイオマーカーを含めた、妥当であると判明したあらゆる検査結果が含まれ得る。これらの検査結果は、本明細書に記載した細胞外遊離ヌクレオソーム分析に加えて、又は代わりに使用することができる。
【0066】
本発明のさらなる態様によれば、便試料中の便潜血について陽性であると判明した患者が、大腸内視鏡検査の必要があるかどうかを決定するための方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した対象を特定することと;
(b)該対象の年齢及び便中ヘモグロビンレベルを使用して、該対象を、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い又は低いと割り当てることと
を含む前記方法が提供される。
【0067】
高い可能性は、患者が、大腸内視鏡検査の必要があることを特定する。したがって、一実施態様では、方法は、(c)大腸内視鏡検査に対する患者の適合性の指標として、ステップ(b)でもたらされた結果を使用することをさらに含む。
【0068】
(対象の年齢及び便中ヘモグロビンレベルを使用して、該対象を、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い又は低いと割り当てるための)本発明のこの態様のステップ(b)は、線形又は非線形アルゴリズムを使用して実施することができる。一実施態様では、便中ヘモグロビン(Hb)レベル(μg Hb/g(便))、及び患者の年齢(年)を、一次式:
0.0129×FITレベル(μg Hb/g(便))+0.0688×年齢(年)
に入力した。
【0069】
この式の出力値は、所望される出力に応じた多くの様式で使用することができる。特に、この式を使用して、対象を、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い又は低いと割り当てるために、あらかじめ決定されたカットオフ値と比較することができる値を提供することができる。例えば、所望される出力が、およそ25%の大腸内視鏡検査の減少を達成するべきであるならば、およそ5のカットオフ値を使用することができ、その結果、式の出力値が5を超えるならば、患者は、CRCについて高リスクであると割り当てられ、大腸内視鏡検査で調べられるべきである。同様に、式の出力値が5よりも小さいならば、患者は、CRCについて低リスクであると割り当てられ、大腸内視鏡検査で調べられる必要がない。一実施態様では、カットオフ値は、約5.0、例えば5.0から4.5、又は4.9から4.7である。さらなる実施態様では、カットオフ値は、約4.8である。
【0070】
式に使用される単位は、変わる可能性がある(例えば、年齢を、日、週、月などで表すことができる、又は、Hbレベルを、溶液及び/又は希釈後の濃度として、若しくは任意単位(AU)で表すことができる)こと、また、これによって、該方法の基本原理を変えずに、式中の用語が変わることとなることが当業者に理解されよう。
【0071】
20μg Hb/g(便)のカットオフ閾値及び4.8のカットオフ値を使用するFIT検査において陽性と判定された1907人の対象のコホートにおいてこの方法を使用して、本発明者らは、大腸内視鏡検査に対する、CRCを有する患者についての96.6%の割合の紹介を維持しながら、大腸内視鏡検査の25%減少を達成することができた。同様に、高リスク腺腫を有する患者についての88.1%の紹介率を維持した。したがって、わずか3.4%のCRC症例及び11.9%の高リスク腺腫症例を見逃しながら、大腸内視鏡検査を、25%減少させることができる。
【0072】
一実施態様では、本発明のアルゴリズムは、任意の所与の年齢に対する可変のFITカットオフレベルを確立するために、事前に使用される。例えば、先の式を、表1に示す通りの、年齢上昇と共に変動するFITカットオフレベルの表に変換することができる。1907人の対象のコホートでは、1907人の対象すべてが、20μg Hb/g(便)閾値でFIT陽性であったので、20μg Hb/g(便)未満の可変のカットオフは可能ではなかった。したがって、20μg Hb/g(便)の最小カットオフを用いる表1中の列を使用した。それにもかかわらず、より小さい最小閾値が使用される可能性があり、本発明者らは、限定はされないが、表1に、10及び16μg Hb/g(便)という閾値を用いて、これを例示している。ゼロμg Hb/g(便)でのより小さい閾値を設定することも可能であろう。同様に、より高い最大閾値が使用される可能性があり、本発明者らは、限定はされないが、表1に、10μg Hb/g(便)という、より小さい閾値と共に、表1に、80μg Hb/g(便)という最大閾値を用いて、これを例示している。当然、いかなるレベルの最小及び/又は最大閾値を使用することもできるし、何も使用しなくてもよい。
表1.
【表1】
【0073】
本発明者らは、20μg Hb/g(便)の、より小さいカットオフレベルを用いる、表1に示した可変のFITカットオフレベルの使用が、CRC及び高リスク腺腫を有する患者についてのそれぞれ96.6%及び88.1%の紹介率を維持しながら、大腸内視鏡検査紹介の25%減少をもたらすことを示している。
【0074】
現在の臨床診療では、FIT検査に対する20μg Hb/g(便)カットオフ閾値が、最も一般的に使用される閾値であり、製造業者によって推奨されている。この閾値は、およそ95%の特異度で、70〜75%の感度という許容し得る精度を与え、見逃されるCRC症例の数と、病変を有しない対象に実施される不必要な大腸内視鏡検査の数とのトレードオフに対する妥協点に相当する。このトレードオフは、約5%の大腸内視鏡検査紹介率と共に、CRC症例のおよそ25〜30%を、検出されないものとして残す。大腸内視鏡検査で調べられる対象のうち、約5%は、CRCと診断されることとなり(スクリーニングされたものの1%超)、別のおよそ30%は、潜在的に前癌性の腺腫(ポリープ)と診断されることとなる。したがって、大腸内視鏡検査の過半数は、恩恵を受けない対象に実施される。先述の動的なカットオフ閾値を使用することにより、CRC症例が発見される大腸内視鏡検査の割合を、ほぼ7%に増大させ、かつ潜在的に前癌性の腺腫症例が発見される大腸内視鏡検査の割合を、34%に増大させながら、大腸内視鏡検査紹介の数の25%減少がもたらされる。
【0075】
CRCスクリーニングプログラムが、不適切に使用される20μg Hb/g(便)カットオフに内在するトレードオフを発見した場合、そのプログラムは、必ず、(i)大腸内視鏡検査紹介率を低下させるためにカットオフを増大させ、それに随伴する見逃される癌の数の増加を許容する;又は(ii)見逃される癌の数を減少させるためにカットオフ減少させ、それに随伴する大腸内視鏡検査紹介率の増大を許容する。FIT検査に対する20μg Hb/g(便)カットオフ閾値は、他のいずれの患者パラメータにもかかわらず使用される、単純な一定の閾値である。同様に、他の上昇又は低下させる閾値は、単純な一定の閾値である。しかし、CRC発生率及び数値的なFIT結果のパターンは、年齢及び性別などの他の患者パラメータに伴って一定ではない。実際には、本発明の可変の又は動的なカットオフを使用して達成されることは、CRCのリスクがより高い高齢のFIT陽性対象を大腸内視鏡検査で調べることを継続しながら、比較的に低い(が20μg Hb/g(便)を超える)数値的なFIT結果を有する、CRCのリスクが低い若い患者から、大腸内視鏡検査を排除することである。
【0076】
さらに、先に言及した1907人の対象はすべて、20μg Hb/g(便)を超える数値的なFITレベルを有していたが、線形の動的なカットオフの下限を、このレベル未満に拡張することが可能である。例えば、CRCの発生率がより高い、66歳を超える対象に対する20μg Hb/g(便)未満の、より小さいFITカットオフ閾値レベルの使用は、CRCの発生率がより低い、中程度に上昇したFITレベルを有する若い対象における大腸内視鏡検査を回避することによって全体的な大腸内視鏡検査率を最小限にしながら、検査の全体的な感度を増大させるであろう。同様に、上限は、表1に示した通りに、FITのために使用される最大のカットオフとして適用することができる。
【0077】
本発明者らは、10μg Hb/g(便)という、より低いFITカットオフ閾値でFIT陽性と判定されている、50歳を超える年齢の対象(CRCを有する4人の対象、潜在的に前癌性の進行した腺腫を有する8人の対象、及び20人の健康な対象が含まれる)のコホートを研究した。これらの対象の中で、癌を有する4人の対象のうちの2人、腺腫を有する8人の対象のうちの3人、及び20人の健康な対象のうちの1人が、16μg Hb/g(便)を超えるFIT値を有していた。これらのデータは、表1に示した通りに、16μg Hb/g(便)という、より低いカットオフレベルを用いる本発明の方法を使用して、より小さい最小閾値を(例えば16μg Hb/g(便)に)低下させることによって、FITの全体的な感度を増大させ、より多くのCRC症例を検出することができ、同時に、20〜105μg Hb/g(便)のFITレベルを有する、より少ない若い対象の紹介によって、高齢の対象からの大腸内視鏡検査の増大を相殺することによって、大腸内視鏡検査紹介率を最小限にすることを示す。
【0078】
本発明の実施態様として、非線形アルゴリズムも使用することができる。本発明者らは、log[FIT]又は[FIT]-0.1(FITレベルが、-0.1の累乗に上昇される)を含む非線形アルゴリズムが、本発明の特に有用な実施態様であることを発見した。一実施態様では、便中ヘモグロビン(Hb)レベル(μg Hb/g(便))、及び患者の年齢(年)が、式:
0.063×年齢(年)-19.2×(5×FITレベル)-0.1
に入力される。
【0079】
本発明の別の実施態様では、便中ヘモグロビン(Hb)レベル(μg Hb/g(便))、及び患者の年齢(年)が、2を底とする対数の式:
0.063×年齢(年)-1.58×LOG(FITレベル)
に入力される。
【0080】
これらの式の出力値は、所望される出力に応じた多くの様式で使用することができる。特に、この式を使用して、対象を、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い又は低いと割り当てるために、あらかじめ決定されたカットオフ値と比較することができる値を提供することができる。例えば、所望される出力が、およそ25%の大腸内視鏡検査の減少を達成するべきであるならば、(5×FITレベル)-0.1又はLOG(FITレベル)式に対して、それぞれ、およそ7.4又は9.5のカットオフ値を使用することができ、その結果、式の出力値がそれぞれ7.4又は9.5を超えるならば、患者は、CRCについて高リスクであると割り当てられ、大腸内視鏡検査で調べられるべきである。同様に、式の出力値がそれぞれ7.4又は9.5よりも小さいならば、患者は、CRCについて低リスクであると割り当てられ、大腸内視鏡検査で調べられる必要がない。非一次式を、一次式について先に示した通りに年齢特異的なFITカットオフレベルに変換することもできることが、当業者には明らかであろう。
【0081】
本発明のこれらの実施態様のいずれかが、20μg Hb/g(便)というカットオフでFITについて陽性と判定された7943人の対象の集団に使用された場合、対象の25%の低リスク群が特定され、これには、わずか5%のCRC症例(430のCRC症例のうちの23)のみが含まれていた。
【0082】
一実施態様では、本明細書に記載した方法は、患者についての少なくとも1つの臨床的パラメータを測定することと、これを結果の解釈におけるパラメータとして使用することとをさらに含む。追加のパラメータには、あらゆる関連する臨床情報、例えば、限定はされないが、性別、体重、肥満度指数(BMI)、喫煙状況、及び食習慣が含まれ得る。したがって、さらなる実施態様では、臨床的パラメータは、性別及び肥満度指数(BMI)から選択される。
【0083】
一実施態様では、該方法は、ステップ(b)において、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い対象と特定された対象に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって、治療することをさらに含む。
【0084】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、動物又はヒト対象における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを治療する方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該対象の年齢及び便中ヘモグロビンレベルを使用して、該対象を、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い又は低いと割り当てることと;
(d)ステップ(c)において、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い対象と特定された対象に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって、治療することと
を含む前記方法が提供される。
【0085】
一実施態様では、ステップ(b)は、本明細書に記載した通りのアルゴリズムを使用することを含む。
【0086】
一実施態様では、該方法は、患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中のヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルを検出又は測定することをさらに含む。
【0087】
一実施態様では、本明細書に記載した方法は、ヌクレオソームそれ自体のレベルを検出又は測定することを含む。ヌクレオソームそれ自体のレベルは、例えば、当技術分野で公知の方法と同様の、ヌクレオソームのためのイムノアッセイ方法を使用して推定できることを理解されたい。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)及びいくつかの方法は、Salgameらの文献、1997;Holdenriederらの文献、2001;及びvan Nieuwenhuijzeらの文献、2003に報告されている。これらの分析は、典型的には、捕捉抗体として、抗ヒストン抗体(例えば、抗H2B、抗H3、又は抗H1、H2A、H2B、H3、及びH4)、また、検出抗体として、抗DNA又は抗H2A-H2B-DNA複合体抗体を用いる。
【0088】
一実施態様では、細胞外遊離ヌクレオソームは、モノヌクレオソーム、オリゴヌクレオソーム、又は他の染色体断片である。
【0089】
ヌクレオソームは、クロマチン構造の基本の繰り返し単位であり、8つの高度に保存されたコアヒストンのタンパク質複合体からなる(ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4のそれぞれの対から構成される)。この複合体の周囲には、およそ146塩基対のDNAが巻き付けられている。別のヒストン、H1又はH5は、リンカーとして働き、クロマチン凝縮に関与する。DNAは、「糸でつながれたビーズ」に似ているとしばしば言われる構造で、連続したヌクレオソームの周囲に巻き付けられ、これは、オープン又はユークロマチンという基本構造を形成する。凝縮されたクロマチン又はヘテロクロマチンでは、この糸は、コイル化及びスーパーコイル化されて、閉じられた複合体構造となる(Herranz及びEstellerの文献、2007)。
【0090】
細胞性クロマチンにおけるヌクレオソームの構造は、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾(PTM)によって、また、バリアントヒストンタンパク質の包含によって変わり得る。ヒストンタンパク質のPTMは、8つのコアヒストンのテールで最も一般的に起こるが、それらのみではなく、一般的な修飾としては、リジン残基のアセチル化、メチル化、又はユビキチン化、並びにアルギニン残基のメチル化、及びセリン残基のリン酸化が挙げられる。ヒストン修飾は、遺伝子発現のエピジェネティック調節に関与することが公知である(Herranz及びEstellerの文献、2007)。ヌクレオソームの構造はまた、異なる遺伝子又はスプライス産物であり、かつ異なるアミノ酸配列を有する、代替ヒストンアイソフォーム又はバリアントの包含によって変わり得る。ヒストンバリアントは、いくつかのファミリー(これは、個々の型に細分類される)に分類することができる。多くのヒストンバリアントのヌクレオチド配列は、公知であり、例えば、米国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute)NHGRIヒストンデータベース(http://genome.nhgri.nih.gov/histones/complete.shtml)、GenBank (NIH遺伝子配列)データベース、EMBLヌクレオチド配列データベース、及び日本DNAデータバンク(DNA Data Bank of Japan)(DDBJ)において、公的に利用可能である。
【0091】
健康な細胞と病気の細胞に存在するヒストンバリアント及びヒストン修飾パターンは異なることが、多数の(大部分は免疫組織化学的)研究において示されている(Herranz及びEstellerの文献、2007)。
【0092】
ヌクレオソーム構造はまた、DNAのメチル化状態を含めた、そのDNA構成成分の化学修飾によって変わる(Herranz及びEstellerの文献、2007)。DNAが、シトシンヌクレオチドの第5位でメチル化されて、5-メチルシトシンが形成される可能性があることが、当技術分野で以前から公知であり、また、DNAメチル化の癌における関与が、早くも1983年には報告された(Feinberg及びVogelsteinの文献、1983)。癌細胞において観察されるDNAメチル化パターンは、健康な細胞のDNAメチル化パターンとは異なる。特に動原体周囲領域周辺の反復エレメントが、健康な細胞と比較して、癌において低メチル化されることが報告されているが、特定の遺伝子のプロモーターは、癌において過剰メチル化されることが報告されている。これらの2つの効果の収支が、癌における全体的なDNAの低メチル化をもたらすことが報告されており、これは、癌細胞の特徴である(Estellerの文献、2007、Hervouetらの文献、2010、Rodriguez-Paredes及びEstellerの文献、2011)。
【0093】
ヌクレオソーム構造はまた、クロマチンに存在する多数の他のタンパク質のいずれかへのヌクレオソーム結合によって変わり、ヌクレオソーム付加物が形成される。クロマチンは、転写因子、転写増強因子、転写抑制因子、ヒストン修飾酵素、DNA損傷修復タンパク質、核内ホルモン受容体、及びさらに多くのものを含めた様々な機能を有する、非常に様々な種類の多くの非ヒストンタンパク質を含む。クロマチン結合タンパク質の研究は、主にクロマチン免疫沈降(ChIP)方法によって行われている。これらの方法は、当技術分野で周知であるが、複雑、かつ労力を要し、かつ費用がかかる。
【0094】
本発明者らは、特定のヒストン修飾、特定のヒストンバリアント、及び特定のDNA修飾、並びに特定のヌクレオソーム付加物を含有するヌクレオソームを含めた、特定のエピジェネティックシグナルを含有するヌクレオソームについてのELISA分析を、以前に報告している(WO 2005/019826、WO 2013/030579、WO 2013/030577、WO 2013/084002)。本発明者らは、以前に、これらの分析を使用して、後成的に変化した循環細胞外遊離ヌクレオソームを、疾患のある患者の血液中に検出することができることを示している。したがって、一実施態様では、(例えばステップ(b)における)検出又は測定は、
(i)試料を、細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成成分と結合する第1の結合剤と接触させることと;
(ii)試料又は細胞外遊離ヌクレオソームを、前記細胞外遊離ヌクレオソーム内のエピジェネティック特徴物と結合する第2の結合剤と接触させることと;
(iii)試料中の前記細胞外遊離ヌクレオソーム内のエピジェネティック特徴物に対する前記第2の結合剤の結合を検出又は定量化することと
を含む。
【0095】
代替実施態様では、ステップ(b)における検出又は測定は、
(i)試料を、前記細胞外遊離ヌクレオソーム内のエピジェネティック特徴物と結合する第1の結合剤と接触させることと;
(ii)試料又は細胞外遊離ヌクレオソームを、細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成成分と結合する第2の結合剤と接触させることと;
(iii)試料中の細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成成分に対する前記第2の結合剤の結合を検出又は定量化することと
を含む。
【0096】
一実施態様では、該方法は、後成的に変化した又は他の方法で修飾された細胞外遊離ヌクレオソームを検出又は測定することを含む。したがって、例えば、ステップ(b)は、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物を検出することを含む。
【0097】
一実施態様では、エピジェネティック特徴物は、翻訳後ヒストン修飾、ヒストンバリアント若しくはアイソフォーム、DNA修飾、又はヌクレオソームに付加されるタンパク質から選択される。
【0098】
さらなる実施態様では、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物は、1以上のヒストン翻訳後修飾を含む。多くのこうしたヒストン修飾が、当技術分野で公知であり、この数は、新たに特定される修飾と共に増加している。例えば、限定はされないが、ヒストンは、ヒストンH2、H3、及びH4におけるリジン、セリン、アルギニン、及びトレオニン残基、並びにそのアイソフォーム又は配列バリアントを含めて、複数の位置に様々なアミノ酸残基を含有する。これらは、例えば、限定はされないが、リジン残基のアセチル化、ユビキチン化、ビオチン化、又はモノ、ジ、若しくはトリ-メチル化を含めた、複数の様式で修飾される可能性がある。いかなるヒストン修飾も、例えばクロマトグラフ法、質量分光光度、バイオセンサー、クロマチン免疫沈降(ChIP)、イムノアッセイ、又は他の検出の方法を使用して、個々の修飾されたヒストン部分として検出又は測定されるのであろうとなかろうと、又は、細胞外遊離モノヌクレオソーム、オリゴヌクレオソーム、又は他のクロマチン断片のヒストン成分として検出又は測定されるのであろうとなかろうと、本発明における使用に適した特徴物であり得る。好ましい実施態様では、ヌクレオソーム関連の修飾されたヒストンは、ヌクレオソームエピトープに対するある抗体又は他の選択的結合剤と、対象となる特定のヒストン修飾に対する別の抗体又は他の選択的結合剤とを利用する2部位(2-site)イムノアッセイ(免疫測定)法を用いて測定される。
【0099】
本発明の一実施態様では、(単一の修飾ではなく)あるグループ又はクラスの関連するヒストン修飾が検出される。この実施態様の典型的な例は、限定はされないが、ヌクレオソームに結合するように誘導されるある抗体又は他の選択的結合剤と、そのグループの問題のヒストン修飾と結合するように誘導される、ある抗体又は他の選択的結合剤とを用いる2部位イムノアッセイを伴うであろう。あるグループのヒストン修飾に結合するように誘導されるこうした抗体の例としては、限定はされないが例示目的として、抗汎アセチル化抗体(例えば;汎アセチルH4抗体)、抗シトルリン化抗体、又は抗ユビキチン化抗体が挙げられるであろう。
【0100】
一実施態様では、翻訳後ヒストン修飾は、H2AK119Ub、pH2AX、H3K9Me3、H3K9Ac、H3K27Me3、H3K36Me3、H3S10Ph、H4K16Ac、H4K20Me3、ユビキチル-H2A、及びH4PanAc(汎アセチル化H4)から選択される。さらなる実施態様では、翻訳後ヒストン修飾は、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、H3S10Ph、及びH4PanAcから選択される。一層さらなる実施態様では、翻訳後ヒストン修飾は、H2AK119Ub、pH2AX、及びH3K36Me3から選択される。
【0101】
代替実施態様では、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物は、1以上のヒストンバリアント又はアイソフォームを含む。多くのヒストンバリアントが、当技術分野で公知であり(例えば、ヒストンH2のバリアントとしては、H2A1、H2A2、mH2A1、mH2A2、H2AX、及びH2AZが挙げられる)、この数は、新たに特定されるアイソフォームと共に増加している。ヒストンアイソフォームバリアントのタンパク質構造はまた、翻訳後修飾を受けやすい。例えば、H2AバリアントH2AXは、セリン139が翻訳後にリン酸化される可能性があり、この部分はしばしば、γ-H2AXと呼ばれる。修飾されたあらゆるバリアントを含めたいかなるヒストンバリアントも、例えばイムノアッセイ、クロマトグラフ法、質量分光光度、ChIP、バイオセンサー、又はヒストンアイソフォーム部分の検出のための他の方法を使用して、個々のヒストンバリアント部分として検出又は測定されるのであろうとなかろうと、又は、ヒストンバリアントが組み込まれた細胞外遊離モノヌクレオソーム、オリゴヌクレオソーム、又は他のクロマチン断片のヒストン成分として検出又は測定されるのであろうとなかろうと、本発明における使用に適した特徴物であり得る。好ましい実施態様では、ヌクレオソーム関連ヒストンバリアントは、ヌクレオソームエピトープに対するある抗体又は他の選択的結合剤と、対象となる特定のヒストンバリアント又はアイソフォームに対する別の抗体又は他の選択的結合剤とを利用する2部位イムノアッセイを用いて測定される。
【0102】
一実施態様では、ヒストンバリアント又はアイソフォームは、mH2A1.1、H2AZ、及びγ-H2AXから選択される。
【0103】
代替実施態様では、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物は、1以上のDNA修飾を含む。いくつかの特定のDNA修飾が、当技術分野で公知であり(例えば;シトシンのメチル化、ヒドロキシメチル化、及びカルボキシメチル化)、この数は、新たに特定される修飾と共に増加している。いかなる修飾されたヌクレオチドもしくはヌクレオシド又はいかなるDNA修飾も、例えばイムノアッセイ、クロマトグラフ法、質量分光光度、ChIP、バイオセンサー、又は修飾された核酸部分の検出のための他の方法を使用して、単離されたDNA、核酸、ヌクレオチド、又はヌクレオシド部分内に検出又は測定されるのであろうとなかろうと、又は、特定のDNA修飾が組み込まれた細胞外遊離モノヌクレオソーム、オリゴヌクレオソーム、又は他のクロマチン断片のためのいずれかの方法によって検出又は測定されるのであろうとなかろうと、本発明における使用に適した特徴物であり得る。好ましい実施態様では、ヌクレオソーム関連DNA修飾は、ヌクレオソームエピトープに対するある抗体又は他の選択的結合剤と、対象となる特定のDNA修飾に対する別の抗体又は他の選択的結合剤とを利用する2部位イムノアッセイを用いて測定される。
【0104】
一実施態様では、DNA修飾は、5-メチルシトシン又は5-ヒドロキシメチルシトシンから選択される。
【0105】
好ましい実施態様では、クロマチン断片において測定される、後成的に修飾されたヌクレオチドは、5-メチルシトシン又はメチル化DNAである。明確にするために記すと、本発明のこの態様は、例えばCologuard方法に使用されている通りの、ある特定の遺伝子又はDNA配列のシトシンメチル化状態の調査を含む遺伝子メチル化試験のための方法と混同されるべきではない。対照的に、本発明は、遺伝子配列に無関係の、5-メチルシトシンの全体的レベルの決定を含む。
【0106】
代替実施態様では、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物は、1以上のタンパク質-ヌクレオソーム付加物又は複合体を含む。多くのタンパク質-ヌクレオソーム付加物又は複合体が、クロマチン内に存在することが公知であり(例えば、転写因子、HMGB1、EZH2、及び核内ホルモン受容体-ヌクレオソーム付加物)、この数は、クロマチンと結合している新たに特定されるタンパク質と共に増加している。いかなるタンパク質-ヌクレオソーム付加物も、特定のタンパク質が組み込まれた細胞外遊離モノヌクレオソーム付加物、オリゴヌクレオソーム付加物、又は他のクロマチン断片付加物のためのいずれかの方法、例えば、ヌクレオソームエピトープに対するある抗体又は他の選択的結合剤と、該付加物に含まれる特定のタンパク質に対する別の抗体又は他の選択的結合剤とを利用する2部位イムノアッセイによって検出又は測定されるのであろうとなかろうと、本発明における使用に適した特徴物であり得る。
【0107】
一実施態様では、ヌクレオソームに付加されるタンパク質は、転写因子、高移動度タンパク質、又はクロマチン修飾酵素から選択される。「転写因子」に対する言及は、DNAと結合し、転写を促進する(すなわち活性化因子)又は抑制する(すなわち抑制因子)ことによって遺伝子発現を調節するタンパク質を指す。転写因子は、それが調節する遺伝子に隣接するDNAの特定の配列に付着する1以上のDNA結合ドメイン(DBD)を含有する。
【0108】
一実施態様では、ヌクレオソーム付加物には、高移動度タンパク質、ポリコームタンパク質、クロマチン修飾酵素 、又は核内ホルモン受容体が含まれる。
【0109】
一実施態様では、ヌクレオソームに付加されるタンパク質は、HMGB1及びEZH2から選択される。
【0110】
一実施態様では、ステップ(b)における検出又は測定は、イムノアッセイ、免疫化学的方法、質量分析法、クロマトグラフ法、クロマチン免疫沈降法、又はバイオセンサー法を含む。
【0111】
一実施態様では、該方法は、ヌクレオソーム特徴物のパネルとして実施される、細胞外遊離ヌクレオソームそれ自体及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームエピジェネティック特徴物の2以上の測定を含む。
【0112】
一実施態様では、ヌクレオソーム特徴物のパネルは、5-メチルシトシン、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、H2AZ、及びHMGB1から選択される、2以上のヌクレオソーム特徴物を含む。さらなる実施態様では、ヌクレオソーム特徴物のパネルは、5-メチルシトシン、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、及びHMGB1を含む。ヌクレオソーム特徴物のパネルは、ヌクレオソームそれ自体のレベルを測定することをさらに含むことができる。
【0113】
さらなる実施態様では、該方法は、ヌクレオソーム、1以上の特定のヒストン修飾、若しくはある特定のヒストン修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、ヒストンバリアント、若しくはある特定のヒストンバリアントを含む細胞外遊離ヌクレオソーム、DNA修飾、若しくはある特定のDNA修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、又はヌクレオソーム付加物のレベルから選択されるヌクレオソームバイオマーカーのパネルを測定することを含む。異なる集団は、後成的に同一又は類似ではない可能性があるので、異なる動物又は異なる集団から選択される最適パネルは、異なる可能性がある。したがって、(例えば)ヒトにおけるCRCに含める又は除外するための使用のために選択される、こうしたバイオマーカーのパネルは、別の種(例えばネコ又はイヌ)における使用のために選択されるパネルと同じではない可能性がある。同様に、男性及び女性のヒト(又はあらゆる他の動物)におけるCRCに含める又は除外するための使用のための最適なパネルは、異なり得る。同様に、異なるヒト亜集団又は人種におけるCRCに含める又は除外するための使用のための最適なパネルは、異なり得る。或いは、同じパネルを、異なる集団において(例えば男性及び女性において)使用することができるが、パネル分析メンバーに対して、異なる重み付けが使用される。例えば、分析「A」、「B」、及び「C」を含む3つの分析及び患者データパラメータパネルの試験値の結果は、男性では「X」というカットオフ値を用いて「試験値=A+2B+3C」などの数式から、また、女性では「Y」という別のカットオフ値を用いて「試験値=3A+2B+C」などの別の数式から算出することができる。
【0114】
一実施態様では、試料における細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物を検出又は定量化するための方法は、
(i)該対象から試料を得ることと;
(ii)該試料を、第1及び第2の結合剤(ここでは、前記結合剤のうちの一方は、細胞外遊離ヌクレオソーム又はその構成成分と結合し、前記結合剤のうちの他方は、前記細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物と結合する)と接触させることと;
(iii)該試料中の前記結合剤の一方又は両方の結合を検出又は定量化することと
を含む。
【0115】
本明細書に記載するエピジェネティック特徴物はまた、ヌクレオソーム内のその包含物、又はそれ以外のものとは独立して分析することもできることを理解されたい。したがって、一実施態様では、試料における細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物を検出又は測定するための方法は、
(i)該対象から試料を得ることと;
(ii)該試料におけるある特定のヒストンバリアント、ヒストンアイソフォーム、ある特定の翻訳後修飾を含有するヒストン、又はヌクレオソーム付加物のレベルを検出又は測定することと
を含む。
【0116】
本発明の好ましい実施態様では、固定化された抗ヌクレオソーム結合剤を、標識された抗ヒストン修飾又は抗ヒストンバリアント又は抗DNA修飾又は抗タンパク質付加物の検出結合剤と組み合わせてインサイチュで用いる、ヌクレオソームに組み込まれたエピジェネティック特徴物の測定のための、2部位イムノアッセイ方法が提供される。本発明の別の実施態様では、標識された抗ヌクレオソーム検出結合剤を、固定化された抗ヒストン修飾又は抗ヒストンバリアント又は抗DNA修飾又は抗タンパク質付加物の結合剤と組み合わせて用いる、2部位イムノアッセイが提供される。
【0117】
便潜血について陽性と特定される人は、患者から得られた便試料中の便潜血について検査することによって特定することができることが理解されよう。一実施態様では、便潜血検査は、免疫学的便潜血検査(Fecal Immunochemical Test)(FIT、免疫学的便潜血検査(immunochemical fecal occult test)又はiFOBTとしても公知である)、便潜血に対する便グアヤック検査(gFOBT)、又は便中ポルフィリン定量化(HemoQuantなど)から選択される。さらなる実施態様では、便潜血検査は、免疫学的便潜血検査である。FIT製品は、グロビンを検出するための特異的な抗体を利用し、現在、最も一般的に使用される大腸癌スクリーニング検査の1つである。
【0118】
便試料材料の採取のための装置は、例えば、市販品として入手可能なFIT検査内で、市販品として入手可能である。この装置は、少量の便材料をすくい取るために使用される採取スティックを含む。その後、このプローブは、それのチューブに挿入され、ここでは、過剰な試料がスティックから除去され、10mgの便試料が、2mlの緩衝液に添加される。チューブは、分析のために液体試料の部分が取り出される場合、固体を除去するためのフィルター系も含有する。希釈、濾過、分離、精製、又は分析のために別途調製されている、便由来のいかなる試料も、本発明のために使用することができることが、当業者には明らかであろう。
【0119】
患者からの便試料に対して便潜血検査が実施されるが、ヌクレオソームのレベルなどの1つ又は部分について検査するために、同じ又は別のタイプの試料を使用することができることが理解されよう。一実施態様では、試料は、体液試料、例えば、血液又は血清又は血漿から選択される試料(特に、血液試料)である。体液におけるヌクレオソーム付加物の検出は、生検を必要としない最小限に侵襲的な方法であるという利点を有することが、当業者には明らかであろう。
【0120】
一実施態様では、疾患は、癌、例えば、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープから選択される。
【0121】
さらに、その臨床的精度を高めるために、本発明の方法と共に、例えば、ヘモグロビンに関する検査、癌胎児抗原(CEA)を含めた他の公知の腫瘍マーカー、及び/又は特定の変異した若しくはメチル化された遺伝子配列を含めたさらなる検査が含まれ得る。したがって、一実施態様では、該方法は、患者から得られた試料中の癌胎児抗原(CEA)のレベルを検出又は測定することをさらに含む。
【0122】
一実施態様では、該方法は、特定の変異した若しくはメチル化された遺伝子配列について検査することをさらに含む。例えば、ヘモグロビンの分析に加えて、便中のDNA配列の分析を含む、CRC検出のための便検査が、現在、存在する。これらの方法では、DNAは、便から抽出され、癌に関連する配列変異及び/又は遺伝子特異的なDNAメチル化変化を特定するために分析される。この手法の例は、Exact Sciences社によって製造されるCologuard検査によって提供される。この検査は、ヘモグロビン、7つのDNA配列変異、2つのDNA配列メチル化、及び(結果の正規化のための対照としての)βアクチンに対するDNA配列を含めた、便中のCRCに関する11種のマーカーのパネルを含む。この検査では、患者の便試料は、研究室で処理されて、便からDNAが単離される。次いで、DNAが増幅され、NDRG4及びBMP3遺伝子メチル化が、定量的アレル特異的リアルタイム標的及びシグナル増幅によって研究される。癌に関連するKRAS変異も、これらの分析を使用して研究され、すべて、βアクチン増幅によって評価される全DNAのレベルに関して評価される。DNAメチル化、変異、及びヘモグロビンの結果が組み合わせられて、陽性又は陰性の結果が提供される。Cologuard検査は、単純なFOBT又はFIT検査よりも正確であり、87%の特異度で、癌の92%及びポリープの42%を検出する(The Medical Letter、2014)。この検査を、本発明に関して記載したヌクレオソーム分析と組み合わせることは、これらの検査の精度をさらに高めるであろう。
【0123】
一実施態様では、該方法は、患者に関する少なくとも1つの臨床的パラメータを測定することをさらに含む。追加のパラメータとしては、あらゆる関連する臨床情報、例えば、限定はされないが、年齢、性別、肥満度指数(BMI)、喫煙状況、及び食習慣が含まれ得る。したがって、さらなる実施態様では、臨床的パラメータは、年齢、性別、及び肥満度指数(BMI)から選択される。
【0124】
一実施態様では、1以上の結合剤は、細胞外遊離ヌクレオソーム若しくはその構成部分、又はヌクレオソーム若しくはその構成部分の構造的/形状的模倣体に特異的なリガンド又は結合剤を含む。
【0125】
本発明の一実施態様では、抗ヌクレオソーム結合剤として選択された抗体又は他の選択的結合剤は、腫瘍起源のヌクレオソームの濃縮に対して選択的である。好ましい実施態様では、使用される抗体又は他の抗ヌクレオソーム選択的結合剤は、ヒストンH3.1及び/又はH3.2及び/又はH3tに結合するように誘導される。腫瘍起源のヌクレオソームに対して選択的な結合剤は、(腫瘍起源の)ヌクレオソームそれ自体、いずれかの特定のヒストン修飾、又はある特定のヒストン修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、ヒストンバリアント、又はある特定のヒストンバリアントを含む細胞外遊離ヌクレオソーム、DNA修飾、又はある特定のDNA修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、又はヌクレオソーム付加物のレベルに関する分析を含めた、あらゆる分析において使用することができる。
【0126】
試料中のバイオマーカーとして、ヒストン修飾、及び/又はある特定のヒストン修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、及び/又はヒストンバリアント、及び/又はある特定のヒストンバリアントを含む細胞外遊離ヌクレオソーム、及び/又はDNA修飾、及び/又はある特定のDNA修飾を含む細胞外遊離ヌクレオソーム、及び/又はヌクレオソーム付加物、及び/又はヌクレオソームそれ自体を単離する、及び/又は検出する、又はこれらのレベルを測定するためのあらゆる方法を、本発明のために使用することができる。これらの分析物の検出又は測定のための方法の例としては、クロマトグラフ法、分光法(特に質量分析法)、バイオセンサー、ChIP、及び免疫化学的方法が挙げられる。いくつかの検出又は測定方法は、例えば、選択的な抗体結合剤又は他の特異的な分析物結合剤を使用するクロマトグラフィー又はアフィニティ精製/単離を含めた方法による、試料からのこれらの分析物の事前の濃縮又は単離を伴うことができる。DNA修飾の単離又は精製は、当技術分野で公知のDNA抽出方法によって達成することができる。
【0127】
本発明のあらゆる態様に関する用語「抗体」、「結合剤」、又は「リガンド」が、限定的ではなく、特定の分子又は実体と結合することが可能なあらゆる結合剤を含むことが意図されること、また、本発明の方法において、あらゆる好適な結合剤を使用できることが、当業者には明らかであろう。用語「ヌクレオソーム」が、モノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソーム、並びに流体媒質中の分析することができるあらゆるこうしたクロマチン断片を含むことが意図されることも明らかであろう。
【0128】
一実施態様では、本発明のリガンド又は結合剤には、所望の標的に特異的に結合することが可能な、天然に存在する又は化学的に合成された化合物が含まれる。リガンド又は結合剤は、所望の標的に特異的に結合することが可能な、ペプチド、抗体若しくはその断片、又はプラスチック抗体などの合成のリガンド、又はアプタマー、又はオリゴヌクレオチドを含むことができる。抗体は、モノクローナル抗体又はその断片であり得る。リガンドは、発光、蛍光、酵素、又は放射性マーカーなどの検出可能なマーカーで標識することができる;或いは又はさらに、本発明によるリガンドは、アフィニティタグ、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、又はHis(例えばヘキサ-His)タグで標識することができる。或いは、リガンド結合は、ラベルフリー技術、例えばForteBio社の技術を使用して決定することができる。
【0129】
本明細書で使用する場合の用語「検出すること」及び「診断すること」は、疾患状態の特定、確認、及び/又は特徴付けを包含する。本発明による検出、モニタリング、及び診断の方法は、疾患の存在を確認するために、又は発症及び進行を評価することによって疾患の発生をモニタリングするために、又は疾患の改善若しくは退縮を評価するために有用である。検出、モニタリング、及び診断の方法はまた、臨床スクリーニングの評価、予後、治療法の選択、治療的利益の評価のための、すなわち、薬物スクリーニング及び薬物開発のための方法において有用である。
【0130】
本発明のイムノアッセイには、ヌクレオソームに、又はヌクレオソーム成分に、又はヌクレオソームのエピジェネティック特徴物に結合するように誘導される1以上の抗体又は他の特異的な結合剤を用いる、あらゆる方法が含まれる。イムノアッセイとしては、2部位イムノアッセイ又は免疫測定分析(酵素検出法(例えばELISA)、蛍光標識免疫測定分析、時間分解蛍光標識免疫測定分析、化学発光免疫測定分析、免疫比濁分析、又は粒子標識免疫測定分析、及び免疫放射分析を用いる)、並びに単一部位イムノアッセイ、試薬限定イムノアッセイ、競合的イムノアッセイ方法(標識された抗原及び標識された抗体を含む)、単一抗体イムノアッセイ方法(放射性、酵素、蛍光、時間分解蛍光、及び粒子による標識を含めた様々な標識型を用いる)が挙げられる。前記イムノアッセイ方法はすべて、当技術分野で周知であり、例えば、Salgameらの文献、1997、及びvan Nieuwenhuijzeらの文献、2003を参照されたい。
【0131】
特定及び/又は定量化は、対象からの生体試料中の特定のタンパク質の存在及び/又は量を特定するのに適したあらゆる方法、又は生体試料の精製若しくは抽出、又はその希釈によって実施することができる。本発明の方法では、定量化は、試料(単数)又は試料(複数)中の標的の濃度を測定することによって実施することができる。本発明の方法で検査することができる生体試料としては、先に定義した通りのものが挙げられる。これらの試料は、調製し、例えば適切な場合には希釈又は濃縮し、通常の方式で保管することができる。
【0132】
バイオマーカーの特定及び/又は定量化は、バイオマーカーの、又はその断片、例えば、C末端切断を有する又はN-末端切断を有する断片の検出によって実施することができる。断片は、適切には、長さが4アミノ酸超、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20アミノ酸の長さである。ヒストンテールの配列と同じ又は関連する配列のペプチドが、ヒストンタンパク質の特に有用な断片であることに特に留意されたい。
【0133】
例えば、検出及び/又は定量化は、SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1-Dゲルに基づく解析、2-Dゲルに基づく解析、質量分析(MS)、逆相(RP)LC、サイズ浸透(ゲル濾過)、イオン交換、親和性、HPLC、UPLC、及び他のLC又はLC MSに基づく技術からなる群から選択される1以上の方法によって実施することができる。適切なLC MS技術としては、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems社、CA, USA)、又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems社、CA, USA)が挙げられる。液体クロマトグラフィー(例えば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィー(LPLC))、薄層クロマトグラフィー、NMR(核磁気共鳴)分光法も、使用できるであろう。
【0134】
本発明のさらなる態様によれば、動物又はヒト対象における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを治療する方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該対象から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
(c)該対象が大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものとして、(b)でもたらされた結果を使用することと;
(d)ステップ(c)において、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い対象と特定された対象に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって、治療することと
を含む前記方法が提供される。
【0135】
本発明のさらなる態様によれば、動物又はヒト対象における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを治療する方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該対象から得られた血液、血清、又は血漿試料中のヌクレオソームそれ自体のレベル及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルを検出又は測定することと;
(c)該対象が大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものとして、(b)でもたらされた細胞外遊離ヌクレオソームの結果を使用することと;
(d)ステップ(c)において、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性が高い対象と特定された対象に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって治療することと
を含む前記方法が提供される。
【0136】
本発明のさらなる態様によれば、それを必要とする患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを治療する方法であって、(i)便試料中の便潜血について陽性と判定された;及び(ii)試料中のヌクレオソームそれ自体、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝、又は低酸素誘導因子から選択される1つ又は部分のレベルが、対照被験者からの前記部分のレベルと比較した場合に異なる又は同様である患者に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって治療するステップを含む前記方法が提供される。
【0137】
本発明のさらなる態様によれば、それを必要とする患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを治療する方法であって、(i)便試料中の便潜血について陽性と判定された;及び(ii)試料中のヌクレオソームそれ自体及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物のレベルが、対照被験者からのヌクレオソーム、及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームの前記エピジェネティック特徴物のレベルと比較した場合に異なる又は同様である患者に対して、大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって治療するステップを含む前記方法が提供される。
【0138】
一実施態様では、対照被験者は、健康な/疾患のない対象である。したがって、この実施態様では、試料中のヌクレオソームそれ自体及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物の異なるレベルが、患者が、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する高い可能性を有し、したがって、治療されるべきであることを示すことが理解されよう。代替実施態様では、対照被験者は、CRC(すなわち「真のCRC」対象)、大腸腺腫、又はポリープと診断された対象である。この実施態様では、試料中のヌクレオソームそれ自体及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物の異なるレベルが、患者が、大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する低い可能性を有し、したがって、治療される必要はないことを示すことが理解されよう。
【0139】
患者に対して、例えば大腸内視鏡検査によって、及び/又は外科的に、及び/又は治療薬を投与することによって大腸癌を治療するための、多くの方法が存在する。手術による治療は、直腸癌のための腹腔鏡下手術又は人工肛門形成術を含むことができる。治療は、外部照射療法又は術中照射療法(すなわち手術中に施与される)などの放射線療法も含むことができる。一実施態様では、治療薬は、化学療法、例えば、カペシタビン(ゼローダ)、フルオロウラシル(5-FU、アドルシル(Adrucil))、イリノテカン(カンプトサル(Camptosar))、オキサリプラチン(エロキサチン)、ベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)、パニツムマブ(ベクティビックス)、ラムシルマブ(サイラムザ)、レゴラフェニブ(スチバーガ)、Ziv-アフリベルセプト(ザルトラップ)、又はその組み合わせ(例えば、オキサリプラチンとカペシタビンとの組み合わせであるゼロックス(Xelox))から選択される化学療法を含むことができる。抗血管新生療法又は上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤などの標的療法も使用することができる。
【0140】
疾患状態の診断及び存在のモニタリングのための診断キットは、本明細書に記載している。したがって、本発明のさらなる態様によれば、
(a)便潜血検査(FOBT)及び/又は免疫学的便潜血検査(FIT);及び
(b)細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝、又は低酸素誘導因子から選択される1以上の部分に特異的なリガンド又は結合剤
を含む、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを診断することに使用するためのキットが提供される。
【0141】
本発明のさらなる態様によれば、
(a)便潜血検査(FOBT)及び/又は免疫学的便潜血検査(FIT);及び
(b)細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームそれ自体の検出に特異的なリガンド又は結合剤
を含む、大腸癌、大腸腺腫、又はポリープを診断することに使用するためのキットが提供される。
【0142】
適切には、本発明によるキットは、任意に本明細書に定義した方法のいずれかに従うキットの使用のための説明書と共に、以下の群:細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物及び/又は細胞外遊離ヌクレオソームそれ自体又はその構造的/形状的模倣体に対して特異的なリガンド結合剤又はリガンド、1種以上の対照、1種以上の試薬、及び1種以上の消耗品;から選択される1以上の構成成分を含有することができる。
【0143】
本明細書に記載した実施態様は、本発明のすべての態様に適用することができることが理解されよう。さらに、本明細書に引用した、限定はされないが特許及び特許出願を含めたすべての刊行物を、あたかも完全に記載するかのように、参照によって本明細書に組み込む。
【0144】
本発明を、これから、次の非限定的な実施例に関して説明することとする。
【実施例】
【0145】
(実施例1)
FIT(便潜血)検査において陽性と判定され、この理由から大腸内視鏡検査で調べられた1907人に、血液試料を提供することについての、及び患者データの匿名使用についてのインフォームドコンセントを与えた。大腸内視鏡検査の前に血液試料を採取し、ヌクレオソームそれ自体、及び5-メチルシトシン修飾DNA、ヒストンバリアントH2AZ及びmH2A1.1、ヒストン修飾pH2AX、H2AK119Ub、H3K36Me3、H4K20Me3、H4PanAc、及びH3S10Ph、並びにヌクレオソーム付加物・ヌクレオソーム-HMGB1及びヌクレオソーム-EZH2のエピジェネティック特徴物を含有するヌクレオソームを含めた細胞外遊離ヌクレオソームに関するいくつかの分析を使用して分析した。
【0146】
これらのヌクレオソーム分析はすべて、本発明の方法にとって有用であった。5つのヌクレオソーム分析(5-メチルシトシン、H2AK119Ub、pH2AX、H3K36Me3、及びヌクレオソーム-HMGB1付加物)を含むあるパネルについての結果を、大腸内視鏡検査での所見を有しない症例に対するCRC症例の特定のための、人の数値的なFITレベル及び年齢と共に、図1にROC曲線で示す。ROC曲線は、25%の特異度で、パネル検査の感度が、100%である(CRCと診断された118人のうち118人が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に特定された)ことを示す。これは、対象のこれらの25%が、大腸内視鏡検査を必要としないこと、また、これらの対象をさらなる調査にかけないことが、いかなる見逃されるCRC症例ももたらさないこととなることを意味する。したがって、対象のこれらの25%は、大腸内視鏡検査の前に特定することができる1907人の対象のFIT陽性群の中で、非常に低いCRCリスク亜群に相当する。さらに、97.4%の感度を維持しながら、特異度を33%に増大させることができる(CRCと診断された118人のうち115人が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に特定された)。したがって、大腸内視鏡検査に対する紹介を、いかなるCRC症例も見逃さずに4分の1減少させる、又は、CRC症例の2.6%を見逃しながら3分の1減少させることができる。これは、FIT/FOBT検査閾値カットオフレベルを増大させることによるCRC症例の最大10%の喪失に匹敵する。
【0147】
(実施例2)
FIT(便潜血)検査において陽性と判定され、この理由から大腸内視鏡検査で調べられた1907人に、患者データの匿名使用についてのインフォームドコンセントを与えた。それぞれの人について、その便中ヘモグロビン(Hb)レベル(μg Hb/g(便))、及び患者の年齢(年)を、式:
0.0129×FITレベル(μg Hb/g(便))+0.0688×年齢(年)
に入力した。
【0148】
この式の出力値が、4.8を超えていたならば、患者は、CRCについて高リスクであるかつ大腸内視鏡検査の必要があると割り当てられた。同様に、この式の出力値が、4.8未満であったならば、患者は、CRCについて低リスクであるかつ大腸内視鏡検査の必要がないと割り当てられた。
【0149】
118のCRCの診断された症例のうち、この方法を使用して、114例が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に割り当てられた。同様に、高リスク腺腫の252症例のうちの222(88.1%)が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に割り当てられた。ROC曲線は、25%の特異度で、CRCに対する方法の感度が、95%超であることを示す。これは、これらの対象をさらなる調査にかけないことが、5%未満の見逃されるCRC症例をもたらしたであろうということを意味する。したがって、対象のこれらの25%は、大腸内視鏡検査の前に特定された1907人の対象のFIT陽性群の中で、低いCRCリスク亜群に相当する。これは、FIT/FOBT検査閾値カットオフレベルを増大させることによるCRC症例の最大10%の喪失に匹敵する。
【0150】
(実施例3)
FIT(便潜血)検査において陽性と判定され、この理由から大腸内視鏡検査で調べられた599人に、血液試料を提供することについての、及び患者データの匿名使用についてのインフォームドコンセントを与えた。大腸内視鏡検査の前に血液試料を採取し、フェリチン及びCEAについて分析した。患者の年齢及び数値的なFIT結果と組み合わせた分析結果を、式:
0.51×年齢(年)+0.17×CEA(ng/ml)-17.85×(5×FIT)-0.1(μg Hb/g(便))-0.17×フェリチン(ng/ml)
に入力した。
【0151】
この式は、大腸内視鏡検査紹介の25%減少をもたらすように設定された。この式の出力値が、-8.6を超えていたならば、患者は、CRCについて高リスクであるかつ大腸内視鏡検査の必要があると割り当てられた。同様に、この式の出力値が、-8.6未満であったならば、患者は、CRCについて低リスクであるかつ大腸内視鏡検査の必要がないと割り当てられた。118例のCRCの診断された症例のうち、この方法を使用して、116例が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に割り当てられ、これは、癌症例の2%未満を見逃しながら、大腸内視鏡検査の25%を回避することができることを実証した。同様に、高リスク腺腫の87症例のうちの79例が、大腸内視鏡検査の必要があると正確に割り当てられ、これは、高リスク腺腫症例の9%が見逃されたことを実証した。
【0152】
この式、及び本明細書の他の式が、大腸内視鏡検査紹介の、ある特定の減少を与えるためにもたらされたことが当業者に理解されよう。これらの式は、他の目的のために修正することができるが、こうした式はすべて、本明細書に組み込まれる。
【0153】
(参考文献)
【化1】
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
患者における大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを検出及び/又はスクリーニングする方法であって:
(a)便潜血について陽性であると判明した患者を特定することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオマーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
を含み、
ステップ(b)で得られた結果が、患者が大腸癌(CRC)、大腸腺腫、又はポリープを有する可能性を示すものである、前記方法。
(態様2)
大腸内視鏡検査に対する患者の適合性を評価するための方法であって:
(a)該患者から得られた便試料中の便潜血について検査することと;
(b)該患者から得られた血液、血清、又は血漿試料中の1以上の部分(ここでは、該部分は、細胞外遊離ヌクレオソーム、細胞外遊離ヌクレオソームのエピジェネティック特徴物、癌胎児抗原、鉄代謝バイオマーカー、又は低酸素誘導因子から選択される)のレベルを検出又は測定することと;
(c)大腸内視鏡検査に対する該患者の適合性の指標として、(b)で得られた結果を使用することと
を含む前記方法。
(態様3)
ステップ(b)において、パラメータとしての数値的な便潜血結果の使用をさらに含む、態様1から2のいずれか1項記載の方法。
(態様4)
ステップ(b)において、臨床的パラメータの使用をさらに含む、態様1から3のいずれか1項記載の方法。
(態様5)
前記臨床的パラメータが、年齢、性別、及び肥満度指数(BMI)から選択される、態様4記載の方法。
図1