【氏名又は名称】サントル・ダンヴェスティガスィヨン・クリニーク・プリュリテマティック・ピエール・ドルアン−インセルム・シュ・ドゥ・ナンシー−アンスティテュ・ロラン・デュ・クール・エ・デ・ヴェッソー・ルイ・マテュー
【文献】
D B Ojji et al.,The effect of left venticular remodelling on soluble ST2 in a cohort of hypertensive subjects,Journal of Human Hypertention,2014年,Vol.28,pp.432-437
【文献】
Dike B. Ojji et al.,Relationship Between Left Venticular Geometry and Soluble ST2 in a Cohort of Hypertensive Patients,The Journal of Clinical Hypertention,2013年,Vol.15, No.12,pp.899-904
【文献】
Jozef Bartunek et al.,Nonmyocardial Production of ST2 Protein in Human Hypertrophy and Failure Is Related to Diastolic Load,Journal of the American college of Cardiology,2008年,Vol.52, No.25,pp.2166-2174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
参照より高いsST2の量および参照より高いBNP型の量が、LVHに進行する短期リスクがある被験体の指標であり、そして/または参照より高いsST2の量および参照より低いBNP型の量が、LVHに進行する短期リスクがない被験体の指標である、請求項12の方法。
LVHに進行する長期リスクがある被験体を同定するための、被験体にLVHに進行する長期リスクがあるかどうかを予測するための、LVHに進行する短期リスクがある被験体を同定するための、または被験体にLVHに進行する短期リスクがあるかどうかを予測するための、被験体由来の試料における、i)sST2(可溶性ST2)およびBNP型ペプチド、ならびに/あるいはii)sST2に特異的に結合する剤およびBNP型ペプチドに特異的に結合する剤の使用。
【発明を実施するための形態】
【0002】
心不全(HF)は、主要なそして増大しつつある公衆衛生上の問題である。米国では、およそ500万人の患者がHFを有し、毎年、50万人を超える患者が初めてHFと診断され、そして毎年、米国で25万人を超える患者が主因としてHFで死亡すると概算される。HFは、先進国における罹患率および死亡率の主因の1つである。集団が加齢し、そして心臓血管疾患を持つ患者の寿命がより長くなっているため、HFの発生率および罹患率は増加しつつある。
【0003】
HFはしばしば、潜在的に収縮および拡張機能両方を変化させる左心室形状の変化から始まる(左心室機能不全、LVD)。LVDは収縮期LVDおよび拡張期LVDに細分される。LVDは、心室の壁を厚くさせる左心室肥大(LVH)に発展しうる。
【0004】
上昇した全身血管耐性に関連した後負荷増加に対する反応としての肥大は、必要なものであり、そして特定の時点までは防御性である。その時点を過ぎると、より低い冠動脈血管拡張能、抑圧された左心室壁機構、および異常な左心室拡張充填パターンを含め、LVHには多様な機能不全が付随する。LVHは、最終的に、末期HFの最終段階を伴う慢性HFを導きうる。
【0005】
リスク被験体を可能な限り早期に同定することが望ましい。特に、LVHに進行する前に、適切な防止手段が開始可能であるため、LVHに進行するリスクがある被験体を可能な限り早期に同定することが重要である(例えば、DiezおよびFrohlich; Hypertension. 2010;55:1−8を参照されたい)。防止手段は、例えば、特により若い被験体において、LVHへの進行を防止する指針にしたがった、ライフスタイル変更および抗高血圧剤の投与を含む。
【0006】
「インターロイキン1受容体様1」としてもまた知られるST2は、機械的ストレスの条件下で、心臓線維芽細胞および心筋細胞によって産生されるIL−1受容体ファミリーのメンバーである。ST2は、インターロイキン−1受容体ファミリーメンバーであり、そして膜結合型アイソフォームおよび可溶性アイソフォーム(sST2)で存在する。
【0007】
可溶性ST2は、心臓バイオマーカーとして提唱されてきており、例えば可溶性ST2上昇は、心臓血管疾患がすでに存在している患者において、より悪い予後と関連付けられてきている(Weinberg EOら Circulation 2003;107:721−726、Sabatine MSら Circulation 2008;117:1936−1944)。
【0008】
コミュニティに基づく3つの研究において、可溶性ST2は、心臓血管転帰およびすべての原因の死亡率について調べられてきている。
Framingham心臓研究において、参加者は、平均11.3年間に渡って、追跡された。可溶性ST2の濃度上昇が、偶発的心不全およびすべての原因の死亡率の予測因子であることが見出された(Wang TJら Circulation 2012;126:1596−1604)。
【0009】
Dallas心臓研究において、ベースライン可溶性ST2は、すべての原因の死亡率の予測因子であることが見出された。研究参加者は、平均8.3年間に渡って追跡された(Chen LQら Clin Chem 2013;59:536−546)。
【0010】
平均13.6年間に渡って追跡された心臓血管健康調査の3,915人の参加者において、ベースラインでの可溶性ST2の濃度は、偶発的HF事象(低駆出率)および心臓血管死亡を予測した(Ginsberg E. J Am Coll Cardiol 2014; 63: A768)。
【0011】
可溶性ST2はまた、療法指針のマーカーとしても提唱されてきている。Weirらは、ST2およびアルドステロンレベルの間の関連を見出し、そして心筋梗塞後の患者において、アルドステロン・アンタゴニスト療法に関する患者選択のためのST2の使用を提唱する(Weir RAら J Am Coll, Cardiol. 2010 Jan 19;55(3):243−50)。
【0012】
Hoらは、一般集団における可溶性ST2試験を扱う科学文献を概説する(Am J Cardiol 2015;115[補遺]:22B−25B)。該文書は、後期心臓血管転帰(死亡率など)に焦点を当てる。さらに、これは左心室肥大を扱わない。著者らは、心臓血管転帰の予測のための現在のリスク層別化戦略を改善する際に可溶性ST2が役割を果たしうると述べる。しかし、一般集団における可溶性ST2試験の役割は、なお決定的に確立されてはいない。
【0013】
可溶性ST2は、左心室肥大(LVH)の発展のためのリスク予測因子として関連付けられると示されてきていない。これまでに、LVHに進行しうる個体のリスクを早期に予測する信頼可能な方法はない。したがって、LVHに進行するリスクがある被験体を同定するための手段および方法が非常に必要とされる。本発明は、こうした手段および方法を提供する。
【0014】
好適には、本発明の根底にある研究の背景において、被験体由来の試料における可溶性ST2の決定は、LVHに進行するリスクがある一般集団中の個体の信頼可能な同定を可能にする。特に、該方法は、臨床症状開始のずっと前に、そして高齢集団だけでなく、好適にはまたより若い個体においても、リスクがある個体の同定を可能にする。
【0015】
したがって、本発明は、左心室肥大(LVH)に進行するリスクがある被験体を同定するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、バイオマーカー、可溶性ST2の量を測定し、そして
(b)可溶性ST2の量を参照に比較する
工程を含む、前記方法に関する。
【0016】
本発明の1つの態様において、左心室肥大に進行するリスクがある被験体は、左心室肥大に進行するリスクがある被験体を同定するさらなる工程(c)を実行することによって同定される。前記同定は、工程(b)で行った比較の結果に基づくものとする。
【0017】
さらに、本発明は、被験体が左心室肥大(LVH)に進行するリスクを予測するための方法であって:
(a)被験体由来の試料において、バイオマーカー、可溶性ST2の量を測定し、
(b)可溶性ST2の量を参照に比較し、そして場合によって
(c)工程(b)の結果に基づいて、被験体がLVHに進行するリスクを予測する
工程を含む、前記方法に関する。
【0018】
本発明の方法は、好ましくはin vitro法である。さらに、明確に上述したものに加え、工程を含むことも可能である。例えば、さらなる工程は、試料の前処理、または方法によって得られる結果の評価に関連することも可能である。
【0019】
本発明の方法をまた、被験体の監視、確認、および細分類に使用することも可能である。方法を手動で実施してもよいし、または自動化によって補助してもよい。好ましくは、工程(a)、(b)および/または(c)は、全体でまたは部分的に、自動化によって、例えば工程(a)における決定のため、適切なロボットおよび感覚装置によって、または工程(b)においてコンピュータ実装計算によって、補助されることも可能である。
【0020】
用語「被験体を同定すること」は、本明細書において、被験体の試料における可溶性ST2の量と関連して生成される情報またはデータを用いて、LVHに進行するリスクがあるまたはリスクがない被験体を同定することを指す。好ましくは、被験体は、被験体がLVHに進行するリスクがある(またはリスクがない)ために同定される。1つの態様において、LVHに進行するリスクがない、特に特定のウィンドウ期間内でリスクがない被験体を同定する。本発明の方法または使用に言及した際の実際の同定、予測または区別は、同定、予測または区別の確認などのさらなる工程を含みうる。したがって、同定、予測または区別は、好ましくは、同定、予測または区別の補助と理解される。
【0021】
用いられるまたは生成される情報またはデータは、書面、口頭または電子の任意の型であることも可能である。いくつかの態様において、生成される情報またはデータの使用には、通信、提示、報告、保存、送達、移動、供給、伝達、分配、またはその組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、通信、提示、報告、保存、送達、移動、供給、伝達、分配、またはその組み合わせは、計算デバイス、アナライザー装置またはその組み合わせによって実行される。いくつかの態様において、情報またはデータには、参照量に対する、バイオマーカーの量の比較が含まれる。いくつかの態様において、情報またはデータには、被験体がLVHに進行する可能性がより高いかまたはより低い指標が含まれる。
【0022】
本発明の方法を実行することによって、被験体は、LVHに進行するリスクがある被験体群、またはLVHに進行するリスクがない被験体群のいずれかに割り当てられる。リスクがある被験体は、好ましくは、(特に特定の予測ウィンドウ内に)LVHに進行するリスクが上昇している被験体である。好ましくは、前記リスクは、被験体のコホート(すなわち被験体群)における平均リスクに比較した際に上昇している。リスクがない被験体は、好ましくは、(特に特定の予測ウィンドウ内に)LVHに進行するリスクが減少している被験体である。好ましくは、前記リスクは、被験体のコホート(すなわち被験体群)における平均リスクに比較した際に減少している。したがって、本発明の方法は、上昇したリスクまたは減少したリスクの間を区別することが可能である。LVHに進行するリスクがある被験体は、好ましくは約5年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%またはそれより多い、あるいはより好ましくは約5〜12%またはそれより多い、あるいは最も好ましくは約20%またはそれより多い、LVHに進行するリスクを有する。リスクがない被験体は、好ましくは約5年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%未満、より好ましくは約4%未満、または最も好ましくは約1%未満のLVHに進行するリスクを有する。
【0023】
LVHに進行するリスクがある被験体は、好ましくは約10年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%またはそれより多い、あるいはより好ましくは約5〜12%またはそれより多い、あるいは最も好ましくは約20%またはそれより多い、LVHに進行するリスクを有する。リスクがない被験体は、好ましくは約10年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%未満、より好ましくは約4%未満、または最も好ましくは約1%未満のLVHに進行するリスクを有する。
【0024】
LVHに進行するリスクがある被験体は、好ましくは約17年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%またはそれより多い、あるいはより好ましくは約5〜12%またはそれより多い、あるいは最も好ましくは約20%またはそれより多い、LVHに進行するリスクを有する。リスクがない被験体は、好ましくは約17年の予測ウィンドウ内で、好ましくは約5%未満、より好ましくは約4%未満、または最も好ましくは約1%未満のLVHに進行するリスクを有する。
【0025】
当業者に理解されるであろうように、同定(または予測)は、通常、被験体の100%に関して正しいとは意図されない。しかし、該用語は、適切でそして正しい方式で、被験体の統計的に有意な部分に関して、同定を行うことが可能であることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マン−ホイットニー検定等を用いて、当業者によって、さらなる面倒を伴わずに決定可能である。詳細は、DowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0026】
本発明にしたがって、左心室肥大(
left
ventricular
hypertrophy)(LVH)のリスクがある被験体が同定されるものとする。用語「左心室肥大」は、当該技術分野に周知である。本明細書において、該用語は、好ましくは、心室壁の肥厚に関連する。LVHは、心臓に対する慢性に増加した作業負荷に対する反応であることが知られる。動脈性高血圧(すなわち高血圧)を患う患者において見出されるLVHは、治療が必要な疾患である。
【0027】
左心室肥大に関する詳細な概観は、例えば標準的な教科書に見出されうる(Swamy Curr Cardiol Rep(2010)12:277−282を参照されたい)。LVHは、心電図、心エコー、または心磁気共鳴画像法(MRI)によって、検出可能である。好ましくは、LVHは心エコーによって検出される。さらに、LVH診断基準が当該技術分野に周知である(Manciaら, European Heart J. 2007, 28: 1462, Die Innere Medizin: Referenzwerk fuer den Facharzt −Wolfgang Gerok− 2007, 293ページ, Swamy Curr Cardiol Rep(2010)12:277−282を参照されたい)。
【0028】
左心室重量そしてしたがってLVHの評価には、好ましくは、当該技術分野に知られる公式にしたがった左心室重量の計算とともに、隔壁直径、左心室後壁厚および拡張終期直径の測定が含まれる。LVHを診断するための特に好ましい基準が、例えば、指針に開示される(Manciaら, European Heart J. 2007, 28: 1462)。やはり好ましくは、基準は、成人における慢性心不全の評価および管理のためのACC/AHA指針から採られることも可能である(J. Am. Coll. Cardiol. 2001;38;2101−2113)。
【0029】
好ましい態様において、左心室重量は、ASE等式によって決定される。ASE等式は、左心室重量概算のための公式であり、そして回転楕円(prolate ellipse of revolution)としての左心室のモデリングに基づく。公式は、左心室拡張終期直径、拡張期後壁厚、および拡張期隔壁厚に基づく。
【0030】
1つの態様において、ASE等式の公式は以下のとおりである:
左心室重量=0.8x(1.04x(LVEDD+PWTd+SWTd)
3−(LVEDD)
3)+0.6、式中、LVEDDは左心室拡張終期直径であり、PWTdは拡張期後壁厚であり、そしてSWTdは拡張期隔壁厚である。
【0031】
この公式は、一般的にM−モードに適用されるが、心エコーの2D測定にもまた適用可能である。
やはり好ましくは、心室重量は、以下の公式によって決定可能である:
LV重量=0.8x1.04[(IVS+LVID+PWT)
3−(LVID)
3]+06g、式中、IVSは心室間隔壁厚であり、LVIDはLV内径であり、そしてPWTは下外側壁厚である。
【0032】
好ましくは、左心室重量は、身長によって、またはとくに体表面積によって規準化される。体表面積に対する左心室重量の比は、左心室重量指数(LVMIと略される)である。好ましくは、LVMIは、実施例セクションに記載されるように決定される。やはり好ましくは、LVMIは、Langら(Recommendations for chamber quantification. Eur J Echocardiogr 2006;7:79−108)に開示されるように決定される。
【0033】
好ましくは、左心室重量指数(そしてしたがって、体表面積に対する左心室重量の比、略してLVMI)が116g/m
2より大きい場合、男性被験体はLVHを患う。好ましくは、LVMIが96g/m
2より大きい場合、女性被験体はLVHを患う。
【0034】
したがって、試験しようとする被験体が男性である場合、LVHに進行するリスクがある被験体は、116g/m
2より大きい左心室重量指数に進行するリスクがある被験体である。したがって、試験しようとする被験体が女性である場合、LVHに進行するリスクがある被験体は、96g/m
2より大きい左心室重量指数に進行するリスクがある被験体である。
【0035】
本発明にしたがって、LVHに進行するリスクがある被験体を同定するものとする(またはLVHに進行するリスクを予測するものとする)。表現「LVHに進行する」は当業者に周知である。LVHに進行するリスクがある被験体は、(試料が得られた後)特定の予測ウィンドウ内でLVHに進行するリスクがある被験体である。好ましくは、前記予測ウィンドウは、試験しようとする試料が得られた時点から計算される。好ましい予測ウィンドウを本明細書の以下に提供する。
【0036】
好ましい態様において、期間は、約5年(または5年未満)の期間である。したがって、約5年の期間以内(または5年未満)にLVHに進行するリスクがある被験体を同定するか、または約5年の期間以内(または5年未満)にLVHに進行するリスクを予測する。
【0037】
別の好ましい態様において、予測ウィンドウは約10年の期間である。
別の好ましい態様において、予測ウィンドウは約15年の期間である。
別の好ましい態様において、予測ウィンドウは約17年の期間である。
【0038】
別の好ましい態様において、予測ウィンドウは約20年の期間である。
約3〜約20年、特に約5〜約20年の間隔以内の予測は、長期リスクの予測と見なされる。
【0039】
(試料が得られた後)約1ヶ月〜約3年の間隔以内の予測は、短期リスクの予測と見なされる。さらに、予測ウィンドウが、約1ヶ月〜2年、または1ヶ月〜約18ヶ月の間隔であることが想定される。短期リスクの予測に関するさらに好ましい間隔は、本明細書の別の箇所に開示される。1つの態様において、短期リスクは、sST2およびBNP型ペプチドの量を測定し、そしてこうして測定された量を参照量に比較することによって予測される。
【0040】
好ましくは、用語「約」は、本明細書において、特定の値、量、濃度、レベル等に対して+および−20%の範囲を含み、例えば「約100」の値の表示は、100+/−20%の数値範囲の値、すなわち80〜120の範囲の値を含むよう意味される。好ましくは、該用語は、特定の値、量、濃度、レベル等に対して+および−10%の範囲、そしてより好ましくは、特定の値、量、濃度、レベル等に対して+および−5%の範囲を含む。最も好ましくは、用語「約」は、正確な値、量、濃度、レベル等を指す。
【0041】
本明細書で言及するような「被験体」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物には、限定されるわけではないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えばヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル(monkey))、ウサギ、および齧歯類(例えばマウスおよびラット)が含まれる。好ましくは、被験体はヒトである。上に示すように、被験体は男性または女性である。
【0042】
好ましくは、試験しようとする被験体は、年齢30歳より上または40歳より上である。より好ましくは、被験体は、年齢30〜50歳の間である。さらにより好ましくは、被験体は、年齢40〜50歳の間である。最も好ましくは、被験体は、年齢40〜45歳の間である。
【0043】
本発明の背景において、試験しようとする被験体が見かけ上健康であることが特に想定される。見かけ上健康である被験体は、根底にある疾患の明らかな徴候を示さない。本発明にしたがって、見かけ上健康である被験体は、好ましくは、心不全の症状を示さない被験体である。特に、見かけ上健康である被験体は、心不全を患わない。
【0044】
用語「心不全」は、本明細書において、心臓の損なわれた収縮期および/または拡張期機能に関する。前記の心臓の損なわれた収縮期および/または拡張期機能には、当業者に知られるような心不全の明白な徴候が付随してもまたはしなくてもよい。好ましくは、本明細書に言及する心不全はまた、慢性心不全である。本発明記載の心不全には、明白でそして/または進行した心不全が含まれる。明白な心不全において、被験体は当業者に知られるような心不全の症状を示す。したがって、被験体が明白なおよび/または進行した心不全を患わないことが特に想定される。ACC/AHA分類の心不全病期CおよびDは、進行した心不全と見なされる。
【0045】
用語「心不全」は、本明細書において、ACC/AHA分類の病期CおよびDを、そしてより好ましくは、ACC/AHA分類の病期A、B、CおよびDを指す。
したがって、好ましい態様において、試験しようとする被験体は、ACC/AHA分類にしたがって、病期CまたはDと分類される心不全を患わないものとする。したがって、i)被験体は心不全をまったく患わないか、またはii)被験体はACC/AHA分類にしたがって病期AまたはBと分類される心不全を患うと想定される。
【0046】
別の好ましい態様において、試験しようとする被験体は、ACC/AHA分類にしたがって、病期A、B、CまたはDと分類される心不全を患わない。したがって、被験体は心不全をまったく患わないものとする。
【0047】
ACC/AHA分類は、米国心臓病学会および米国心臓協会によって発展された心不全の分類である(分類に関しては、J. Am. Coll. Cardiol. 2001;38;2101−2113, 2005年改訂を参照されたい。本明細書にその全体が援用されるJ. Am. Coll. Cardiol. 2005;46;e1−e82を参照されたい)。ACC/AHA分類はまた、ACCF/AHA分類とも称される(ACC:
American
College of
Cardiology、ACCF:
American
College of
Cardiology
Foundation、AHA:
American
Heart
Association)。
【0048】
分類はまた、やはり本明細書に援用されるMuredduら, European Journal of Heart Failure (2012) 14, 718−729にも記載される。4つの病期、A、B、CおよびDが定義される。病期AおよびBはHF(心不全)ではないが、「真の」HFを発展させる前の患者の早期同定を補助すると見なされる。病期AおよびBの患者は、HFを発展させるリスク要因を持つ患者と定義するのが最適である。例えば、左心室(LV)機能障害、肥大、または幾何学的心室変形をいまだ示さない、冠動脈疾患、高血圧、または糖尿病を有する患者は、病期Aと見なされるであろうし、一方、無症候性であるが、LV機能障害を示す患者は、病期Bと指定されるであろう。次いで、病期Cは、根底にある構造的心臓疾患に関連したHFの現在のまたは過去の症状を伴う患者(HF患者の大部分)を示し、そして病期Dは、真性の難治性HFの患者を指定する。ACC/AHA分類はまた、その全体が本明細書に援用される、WO 2012/025355にも説明される。
【0049】
ACCF/AHA分類にしたがった心不全の病期A〜Dはまた、やはり本明細書に援用されるJessupら(Circulation. 2013;128:e240−e327)に記載される。
【0050】
多様な病期の定義は、好ましくは以下のとおりである。以下には、それぞれの病期に分類されるであろう個体における病理生理学的状態に関する病期の説明および例が含まれる。
【0051】
病期A:
説明:HFの発展に強く関連する状態が存在するため、HFを発展させる高いリスクがある患者。こうした患者は、心膜、心筋、冠動脈循環または心臓弁の同定される構造的または機能的異常を持たず、そしてHFの徴候または症状を示したことがない。
【0052】
例:全身高血圧;冠動脈疾患;糖尿病;心臓毒性薬剤療法歴またはアルコール濫用歴;リウマチ熱の個人歴:心筋疾患の家族歴。
病期B:
説明:HFの発展と強く関連する構造的心疾患を発展させているが、HFの徴候または症状を示したことがない患者。
【0053】
例:左心室肥大または線維症;左心室拡張または低収縮性;無症候性弁心疾患;以前の心筋梗塞。
病期C:
説明:根底にある構造的心疾患と関連するHFの現在のまたは以前の症状を有する患者。
【0054】
例:左心室収縮期機能不全による呼吸困難または疲労;HFの以前の症状に関する治療を受けている無症候性患者。
病期D:
説明:進行した構造的心疾患、および最大限の医学療法にもかかわらず、休息時にHFの顕著な症状を伴い、そして特殊化介入を必要とする患者。
【0055】
例:HFのため頻繁に入院しているか、または病院から安全に退院することが不可能である患者;心移植を待っている入院中の患者;症状緩和のため、連続的静脈内補助を受けているか、または機械的循環補助デバイスで補助されている在宅患者;HF管理のためホスピスセッティングにある患者。
【0056】
さらに、被験体が、糖尿病、代謝性症候群、高血圧および/または損なわれた腎機能を患わないことが想定される。
したがって、好ましい態様において、試験しようとする被験体は高血圧を患わない。用語「高血圧」は当該技術分野に周知である。好ましくは、これは、動脈中の血圧が持続して上昇している、長期医学的状態である。したがって、血圧が正常よりも高いものとする。正常血圧は、好ましくは100〜140ミリメートル水銀(mmHg)収縮期および60〜90mmHg拡張期である。したがって、高血圧を患う被験体は、好ましくは140mmHgと等しいかまたはそれより高い収縮期血圧および/または90mmHgと等しいかまたはそれより高い拡張期血圧を有する。したがって、高血圧を患わない被験体は、好ましくは140mmHg未満の収縮期血圧、および/または90mmHgより低い拡張期血圧を有する。
【0057】
好ましくは、試験しようとする被験体はアスリートではない。
さらに、被験体が妊娠していないこともまた想定される。
用語「試料」は、体液試料、分離された細胞の試料、あるいは組織または臓器由来の試料を指す。体液試料は周知の技術によって得られることも可能であり、そしてこれには、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、または任意の他の体性分泌物あるいはこれらの派生物の試料が含まれる。組織または臓器試料は、例えば生検によって、任意の組織または臓器から得られうる。分離された細胞は、分離技術、例えば遠心分離または細胞ソーティングによって、体液または組織または臓器から得られうる。例えば、細胞、組織または臓器試料は、バイオマーカーを発現するかまたは産生する細胞、組織または臓器から得られうる。試料は、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、および/または包埋(例えばパラフィン包埋)等がされていてもよい。細胞試料は、もちろん、試料中のマーカーの量を評価する前に、多様な周知の収集後調製および保存技術(例えば核酸および/またはタンパク質抽出、固定、保存、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離等)に供されてもよい。
【0058】
好ましい態様において、試料は、血液、血清、または血漿試料である。したがって、試料が全血、血清または血漿試料であることが想定される。
血清は、血液の凝固を可能にした後に得られる、全血の液体分画である。血清を得るために、血餅を遠心分離によって取り除き、そして上清を収集する。血漿は、血液の無細胞液体部分である。血漿試料を得るため、全血を抗凝固剤処理試験管(例えばクエン酸処理、またはEDTA処理試験管)中に収集する。遠心分離によって試料から細胞を取り除き、そして上清(すなわち血漿試料)を得る。
【0059】
本明細書において、用語、バイオマーカーの量を「測定すること」は、本明細書の別の箇所に記載する適切な検出法を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを決定するためのバイオマーカーの定量化を指す。用語「測定すること」および「決定すること」は、本明細書において、交換可能に用いられる。
【0060】
1つの態様において、バイオマーカーの量は、試料を、バイオマーカーと特異的に結合する剤と接触させ、それによって剤および前記バイオマーカーの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、そしてそれによって前記バイオマーカーの量を測定することによって、測定される。
【0061】
本明細書に言及するようなバイオマーカーは、当該技術分野に一般的に知られる方法を用いて検出可能である。検出法は、一般的に、試料中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を含む。一般的に、当業者は、以下の方法のいずれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適切であるかを知っている。試料は、例えばウェスタン、およびELISA、RIA、蛍光に基づくイムノアッセイのようなイムノアッセイを用いて、タンパク質に関して好適にアッセイ可能であり、これらは商業的に入手可能である。バイオマーカーを検出するためのさらなる適切な方法には、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えばその正確な分子量またはNMRスペクトルの測定が含まれる。前記方法は、例えば、バイオセンサー、イムノアッセイにカップリングした光学デバイス、バイオチップ、分析デバイス、例えば質量分析器、NMRアナライザー、またはクロマトグラフィデバイスを含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化またはロボットイムノアッセイ(例えばElecsys
TMアナライザー装置上で利用可能)、CBA(例えば、Roche−Hitachi
TMアナライザー上で利用可能な、酵素的コバルト結合アッセイ)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche−Hitachi
TMアナライザー上で利用可能)が含まれる。
【0062】
本明細書に言及するようなバイオマーカータンパク質の検出に関して、こうしたアッセイ形式を用いた広範囲のイムノアッセイ技術が利用可能である。例えば米国特許第4,016,043号、第4,424,279号、および第4,018,653号を参照されたい。これらには、非競合型の片側および両側または「サンドイッチ」アッセイ、ならびに伝統的な競合結合アッセイの両方が含まれる。これらのアッセイにはまた、ターゲットバイオマーカーに対する標識抗体の直接結合も含まれる。
【0063】
サンドイッチアッセイは、最も有用なイムノアッセイの1つである。
電気化学発光現象を測定するための方法が周知である。こうした方法は、特別な金属錯体が、酸化によって、励起状態を達成して、そこから基底状態に減衰して、電気化学発光を放出する能力を利用する。概説に関しては、Richter, M.M., Chem. Rev. 104 (2004) 3003−3036を参照されたい。
【0064】
1つの態様において、バイオマーカーの量を測定するために用いる抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)はルテニウム標識を含むものとする。1つの態様において、前記ルテニウム標識は、ビピリジン−ルテニウム(II)複合体である。
【0065】
ポリペプチド(例えば可溶性ST2)の量の測定は、好ましくは、(a)ポリペプチドと、前記ポリペプチドに特異的に結合する剤を接触させ、(b)(場合によって)結合していない剤を除去し、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された剤の複合体の量を測定する工程を含むことも可能である。好ましい態様にしたがって、接触し、除去し、そして測定する前記工程は、アナライザー装置によって実行されてもよい。いくつかの態様にしたがって、前記工程は、前記系の単一のアナライザー装置によって、または互いに機能可能な通信がある1より多いアナライザー装置によって、実行可能である。例えば、特定の態様にしたがって、本明細書に開示する前記系には、接触させ、そして除去する前記工程を実行するための第一のアナライザー装置、および輸送装置(例えばロボットアーム)によって前記の第一のアナライザー装置に機能可能であるように連結されている、測定する前記工程を実行する、第二のアナライザー装置が含まれることも可能である。
【0066】
結合した剤、すなわち、剤または剤/ペプチド複合体は、強度シグナルを生じるであろう。本発明にしたがった結合には、共有および非共有結合の両方が含まれる。
バイオマーカーに特異的に結合する剤(本明細書において、「結合剤」とも称される)を、共有的にまたは非共有的に、結合剤の検出および測定を可能にする標識にカップリングすることも可能である。標識を、直接または間接的方法によって行ってもよい。直接標識は、標識を結合剤に直接(共有的または非共有的に)カップリングする工程を含む。間接的標識は、第一の結合剤に二次結合剤を(共有的または非共有的に)結合させる工程を含む。二次結合剤は、第一の結合剤に特異的に結合しなければならない。前記の二次結合剤を、適切な標識にカップリングさせてもよいし、そして/または前記の二次結合剤は該二次結合剤に結合する三次結合剤のターゲット(レセプター)であってもよい。適切な二次およびより高次の結合剤には、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれることも可能である。結合剤または基質はまた、当該技術分野に知られるような1またはそれより多いタグで、「タグ付け」されていてもよい。こうしたタグは次いで、より高次の結合剤のターゲットであることも可能である。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。適切な標識は、適切な検出法によって検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的活性標識、放射性標識、磁気標識(例えば常磁性および超常磁性標識を含む「磁気ビーズ」)、および蛍光標識が含まれる。酵素的活性標識には、例えばセイヨウワサビ(horseradish)ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に適した基質には、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(Roche Diagnosticsから既製ストック溶液として入手可能な、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド、および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート)、CDP−Star
TM(Amersham Biosciences)、ECF
TM(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組み合わせは、着色反応産物、蛍光または化学発光を生じることも可能であり、これらは当該技術分野に知られる方法にしたがって(例えば感光フィルムまたは適切なカメラ系を用いて)測定可能である。酵素反応の測定に関しては、上述の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(例えばGFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が含まれる。さらなる蛍光標識は、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。蛍光標識としての量子ドットの使用もまた意図される。放射性標識は、既知のおよび適切な任意の方法、例えば感光フィルムまたはホスホイメージャーによって、検出可能である。
【0067】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下のように測定可能である:(a)本明細書の別の箇所に記載するようなポリペプチドに対する結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させ、そして(b)支持体に結合しているペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。支持体を製造するための材料は、当該技術分野に周知であり、そしてとりわけ、これには、商業的に入手可能なカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブ等が含まれる。
【0068】
さらなる側面において、形成された複合体の量を測定する前に、結合剤および少なくとも1つのマーカーの間で形成された複合体から、試料を取り除く。したがって、1つの側面において、検出剤を固体支持体上に固定してもよい。さらなる側面において、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上に形成された複合体から試料を除去することも可能である。形成された複合体は、試料中に存在する少なくとも1つのマーカーの量に比例するはずである。適用しようとする検出剤の特異性および/または感度は、特異的に結合可能な試料に含まれる少なくとも1つのマーカーの割合の度合いを定義することが理解されるであろう。測定を実行しうる方法のさらなる詳細もまた、本明細書の別の箇所に見出される。形成された複合体の量を、試料中に実際に存在する量を反映する少なくとも1つのマーカーの量に変換するものとする。こうした量は、1つの側面において、本質的に、試料中に存在する量であることも可能であるし、または別の側面において、形成される複合体および元来の試料中に存在する量の間の関連により、その特定の比率である量であることも可能である。
【0069】
用語「結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する剤」は、本明細書において、交換可能に用いられる。好ましくは、結合部分を含む剤は、対応するそれぞれのバイオマーカーに特異的に結合する。「結合剤」または「剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学的化合物である。好ましい剤は、測定しようとするバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。用語「抗体」は、本明細書において、最も広い意味で用いられ、そして限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および望ましい抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含む、多様な抗体構造を含む。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
【0070】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、結合対分子が、他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合を示す、結合反応を指す。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、バイオマーカーとしてタンパク質またはペプチドを指す場合、結合剤が、少なくとも10
−7Mのアフィニティで、対応するバイオマーカーに結合する、結合反応を指す。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、好ましくは、ターゲット分子に対して少なくとも10
−8Mまたはさらにより好ましくは少なくとも10
−9Mのアフィニティを指す。用語「特異的」または「特異的に」は、試料中に存在する他の分子が、ターゲット分子に特異的な結合剤に有意には結合しないことを示すよう用いられる。
【0071】
「インターロイキン1受容体様1」としてもまた知られるST2は、機械的ストレスの条件下で、心臓線維芽細胞および心筋細胞によって産生されるIL−1受容体ファミリーのメンバーである。ST2は、インターロイキン−1受容体ファミリーメンバーであり、そして膜結合型アイソフォームおよび可溶性アイソフォーム(sST2)で存在する。本発明の背景において、可溶性ST2の量を測定するものとする(Dieplingerら(Clinical Biochemistry, 43, 2010:1169−1170)を参照されたい)。インターロイキン1受容体様1またはIL1RL1としてもまた知られるST2は、ヒトにおいてIL1RL1遺伝子によってコードされる。ヒトST2ポリペプチドの配列は当該技術分野に周知であり、そして例えば、GenBankを通じてアクセス可能である。NP_003847.2 GI:27894328を参照されたい。
【0072】
用語「量」は、本明細書において、本明細書に言及するようなバイオマーカーの絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、ならびにこれらに相関するかまたはこれらから派生しうる任意の値またはパラメータを含む。こうした値またはパラメータは、直接測定によって前記ペプチドから得られるすべての特異的物理的または化学的特性由来の強度シグナル値、例えばマススペクトルまたはNMRスペクトルの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所に明記する間接的な測定によって得られるすべての値またはパラメータ、例えばペプチドに反応して生物学的読み取り系から測定される反応量、または特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルが含まれる。前述の量またはパラメータに相関する値はまた、すべての標準的な数学演算によっても得られうることが理解されるものとする。
【0073】
用語「比較すること」は、本明細書において、被験体由来の試料におけるバイオマーカーの量を、本明細書の別の箇所に明記するバイオマーカーの参照量と比較することを指す。本明細書において、比較することは、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指し、例えば絶対量を絶対参照量に比較する一方、濃度を参照濃度に比較するか、または試料中のバイオマーカーから得られる強度シグナルを参照試料から得られる同じタイプの強度シグナルに比較すると理解されるものとする。比較を、手動で、またはコンピュータに補助されて実行することも可能である。したがって、比較は計算デバイスによって実行してもよい。被験体由来の試料におけるバイオマーカーの測定量または検出量の値、および参照量を、例えば、互いに比較して、そして比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムによって、前記比較を自動的に実行してもよい。前記評価を実行するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で所望の評価を提供するであろう。コンピュータ補助比較に関しては、測定される量の値を、コンピュータプログラムによってデータベース中に記憶されている適切な参照に対応する値に比較することも可能である。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに評価することも可能であり、すなわち適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供する。コンピュータ補助比較に関しては、測定される量の値を、コンピュータプログラムによってデータベース中に記憶されている適切な参照に対応する値に比較することも可能である。コンピュータプログラムは、比較の結果をさらに評価することも可能であり、すなわち適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供する。
【0074】
本発明にしたがって、バイオマーカー、可溶性ST2の量(あるいはBNP型ペプチドまたは心臓トロポニンの量)を参照に比較するものとする。参照は、好ましくは参照量である。用語「参照量」は、本明細書において、(i)LVHに進行するリスクがある群または(ii)LVHに進行するリスクがない群のいずれかへの被験体の割り当てを可能にする量を指す。試験試料と一緒に、すなわち同時にまたは続いて、分析しようとする参照試料から、適切な参照量を決定することも可能である。
【0075】
参照量は、原則的に、標準的統計法を適用することによって、所定のバイオマーカーに関する平均値に基づいて、上に明記するような被験体のコホートに関して計算されうる。特に、試験、例えば被験体を同定することを目的とする方法の正確性は、受信者操作特性(ROC)によって最適に記載される(特に、Zweig 1993, Clin. Chem. 39:561−577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されるデータの全範囲に渡って決定閾値を連続して変化させることから生じる感度対特異性のすべてのプロットである。方法の臨床的成績は、その正確性、すなわち特定の予後または診断に被験体を正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うために適した閾値の完全な範囲に関して、1−特異性に対して感度をプロットすることによる、2つの分布間の重複を示す。y軸にあるのは感度であるかまたは真の陽性分画であり、これは真の陽性の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真の陽性試験結果の数の比として定義される。これはまた、疾患または状態の存在における陽性とも称されてきている。これは、もっぱら、罹患した下位群から計算される。x軸にあるのは、偽陽性分画、または1−特異性であり、真の陰性の数および偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比として定義される。これは、特異性の指標であり、そして完全に、罹患していない下位群から計算される。真の陽性および偽陽性分画は、完全に別個に計算されるため、2つの異なる下位群からの試験結果を用いることによって、ROCプロットは、コホートにおける事象の有病率からは独立である。ROCプロット上の各ポイントは、特定の決定閾値に対応する、感度/特異性対に相当する。完全な区別(結果の2つの分布に重複がない)を伴う試験は、上部左隅を通るROCプロットを有し、ここで、真の陽性分画は、1.0、または100%(完全感度)であり、そして偽陽性分画は0(完全特異性)である。区別なしの試験の理論的プロット(2つの群に関する結果の同一の分布)は、下部左隅から上部右隅を通る、45°の対角線である。大部分のプロットは、これらの2つの極値の間に属する。ROCプロットが45°対角線の完全に下にある場合、これは「陽性」に関する基準を「より大きい」から「未満である」に逆転させるか、またはその逆を行うことによって、容易に修正される。定性的には、プロットが上部左隅に近くなればなるほど、試験の全体の正確性が高くなる。望ましい信頼区間に応じて、閾値をROC曲線から得て、感度および特異性、それぞれの適切なバランスで、所定の事象の診断を可能にすることも可能である。したがって、本発明の前述の方法に用いられるべき参照値、すなわち被験体コホート(本明細書の別の箇所に記載するようなもの)の中で、LVHに進行するリスクがある被験体またはLVHに進行するリスクがないものの間の区別を可能にする閾値を、好ましくは、上述のような前記コホートに関するROCを確立し、そしてそこから閾値量を得ることによって、生成することも可能である。診断法の望ましい感度および特異性に応じて、ROCプロットは、適切な閾値を得ることを可能にする。LVHに進行するリスクがある被験体を排除するために、最適な感度が望ましい(すなわち除外(rule out))一方、LVHに進行するリスクがあると評価されるべき被験体に関しては、最適な特異性が望ましい(すなわち包含(rule in))。
【0076】
参照量が年齢特異的参照量であることが想定される。これは、特にBNP型ペプチドに当てはまる。本明細書の別の箇所に示すように、本発明の方法は、好ましくは、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチド、例えばBNPまたはNT−プロBNPの量の測定、および参照量に対する比較を含む。一般集団におけるBNP型ペプチドの量の中央値は、年齢とともに増加し、BNP型ペプチドの参照量は好ましくは年齢特異的であり、すなわち試験しようとする被験体の年齢に応じることが、当該技術分野において周知である。
【0077】
特定の態様において、用語「参照量」は、本明細書において、あらかじめ決定された値を指す。前記のあらかじめ決定された値は、LVHに進行するリスクがある被験体またはLVHに進行するリスクがない被験体の間を区別することを可能にするものとする。
【0078】
好ましくは、参照量より高い、試験被験体の試料における可溶性ST2の量は、被験体にLVHに進行するリスクがあることを示す。やはり好ましくは、参照量より低い、試料における可溶性ST2の量は、被験体にLVHに進行するリスクがないことを示す。
【0079】
したがって、本発明の方法は、LVHに進行するリスクがある被験体の同定、またはLVHに進行するリスクがない被験体の同定を可能にする。
1つの態様において、参照量は、i)LVHに進行するリスクがないことが知られる被験体またはその群、あるいはii)LVHに進行するリスクがあることが知られる被験体またはその群に由来する。好ましくは、参照量は、用語「被験体」またはその群と関連して、本明細書において上に定義するように、被験体から得られる。
【0080】
i)参照量が、LVHに進行するリスクがないことが知られる被験体またはその群に由来する場合、参照量と本質的に同じであるか、または参照量に比較して減少している、被験体試料におけるバイオマーカー、可溶性ST2の量は、LVHに進行するリスクがない被験体の指標である。
【0081】
ii)参照量が、LVHに進行するリスクがあることが知られる被験体またはその群に由来する場合、参照量と本質的に同じであるか、または参照量に比較して増加している、被験体試料におけるバイオマーカー、可溶性ST2の量は、LVHに進行するリスクがある被験体の指標である。
【0082】
本発明の方法は、試験しようとする被験体における少なくとも1つのさらなるパラメータの評価をさらに含むことも可能である。好ましくは、前記の少なくとも1つのさらなるパラメータは、以下より選択される
・eGFR、
・被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量、
・被験体由来の試料における心臓トロポニンの量、および
・被験体の血圧(すなわち血圧値)。
【0083】
好ましい態様において、以下のパラメータを評価する:被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量、および/または被験体由来の試料における心臓トロポニンの量。したがって、BNP型ペプチドの量および/または心臓トロポニンの量を測定する。続いて、量(単数または複数)を、参照量(単数または複数)に比較する。
【0084】
別の好ましい態様において、以下のパラメータを評価する:eGFR、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量、および血圧。
別の好ましい態様において、本発明の方法は、上に言及するような4つのパラメータすべての評価を含む:eGFR、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量、被験体由来の試料における心臓トロポニンの量、および血圧。
【0085】
パラメータ、「BNP型ペプチド」および「心臓トロポニン」
好ましい態様において、方法は、少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、すなわちBNP型ペプチドおよび/または心臓トロポニンの量の測定をさらに含むことも可能である。好ましくは、方法は、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPの量の測定をさらに含む。やはり好ましくは、方法は、心臓トロポニンの量の測定をさらに含む。さらに、方法が心臓トロポニンおよびBNP型ペプチドの量の測定をさらに含むことが想定される。さらなる工程において、量(単数または複数)を参照と比較する。1つの態様において、前記参照は、本明細書の別の箇所で明記されるような参照量である。
【0086】
用語「心臓トロポニン」は、心臓の細胞、そして好ましくは心内膜下細胞において発現されるすべてのトロポニン・アイソフォームを指す。これらのアイソフォームは、例えば、Anderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4:681−686およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44:487−493に記載されるように、当該技術分野において、よく特徴付けられる。好ましくは、用語「心臓トロポニン」はトロポニンI、およびより好ましくはトロポニンTである。
【0087】
脳ナトリウム利尿ペプチド型ペプチド(
Brain
Natriuretic
Peptide type peptide)(本明細書においてBNP型ペプチドともまた称される)は、好ましくはプレプロBNP、プロBNP、NT−プロBNP、およびBNPからなる群より選択される。プレプロペプチド(プレプロBNPの場合は134アミノ酸)は、短いシグナルペプチドを含み、該シグナルペプチドは、酵素的に切断されて、プロペプチドを放出する(プロBNPの場合は108アミノ酸)。プロペプチドは、さらに切断されてN末端プロペプチド(NT−プロペプチド、NT−プロBNPの場合は76アミノ酸)となり、そして活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸)となる。好ましくは、本発明にしたがった脳ナトリウム利尿ペプチドは、NT−プロBNP、BNP、およびその変異体である。BNPは活性ホルモンであり、そしてそれぞれの不活性対応物NT−プロBNPよりも短い半減期を有する。好ましくは、脳ナトリウム利尿ペプチド型ペプチドは、BNP(脳ナトリウム利尿ペプチド)であり、そしてより好ましくはNT−プロBNP(プロホルモン脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端)である。
【0088】
BNP型ペプチド(例えばNT−プロBNPまたはBNP)の量のさらなる測定は、sST2レベルが増加した被験体において(すなわち、試料におけるsST2の量が、参照量より高い被験体において)特に好適である。上に示すように、これらの被験体は、LVHに進行するリスクがある。これらの被験体における(すなわちこれらの被験体由来の試料における)BNP型ペプチドの量のさらなる決定は、被験体がLVHに進行する短期リスクまたは長期リスクがあるかどうかを区別することを可能にする。sST2およびBNP型ペプチドレベルが増加した被験体は、LVHに移行中である。したがって、(BNP型タイプに関する)参照量より高い、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量は、好ましくは、LVHに進行する短期リスクがある被験体の指標である。(BNP型タイプに関する)参照量より低い、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量は、好ましくは、LVHに進行する長期リスクがある被験体の指標である。したがって、参照量より低い、被験体由来の試料におけるBNP型の量は、LVHに進行する短期リスクがない被験体の指標である。
【0089】
したがって、本発明の方法は、sST2およびBNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの測定、ならびに(sST2に関する)参照量に対するsST2の量および(BNP型ペプチドに関する)参照量に対するBNP型ペプチドの量の比較を含む。好ましくは、参照より高いsST2の量および(すなわちそれと組み合わされた)参照より高いBNP型の量は、LVHに進行する短期リスクがある被験体の指標であり、そして/または参照より低いsST2の量および(すなわちそれと組み合わされた)参照より低いBNP型の量は、LVHに進行する短期リスクがない被験体の指標である。しかし、LVHに進行する短期リスクがある被験体は、LVHに進行する長期リスクがある。
【0090】
LVHに進行する短期リスクがある被験体は、(特に試料が得られた後)短い間隔内でLVHに進行するリスクがある被験体と見なされる。こうした被験体は、LVHに進行する即時のリスクがある。LVHに進行する長期リスクがある被験体は、(特に試料が得られた後)長い間隔内でLVHに進行するリスクがある被験体と見なされる。好ましくは、長期リスクがある被験体は短期リスクはない。したがって、被験体は、LVHに進行する即時のリスクがなく、そしてその結果、(試料が得られた後)短い間隔内でLVHに進行する可能性は低い。
【0091】
本発明の意味の短い間隔(または短期)は、好ましくは、(好ましくは試料が得られた後)約1ヶ月〜約3年の間隔、より好ましくは約1ヶ月〜約2年、特に約1ヶ月〜約18ヶ月の間隔である。
【0092】
本明細書の意味の長い間隔(または長期)は、好ましくは、約3年〜約20年の間隔、より好ましくは約5年〜約20年、最も好ましくは約5年〜約17年の間隔である。
本発明の意味のさらに長い間隔(長期)は、約5年〜約15年、または約7年〜約12年の間隔であることも可能である。
【0093】
本明細書において、上に示す定義は、本発明の以下の方法および使用に準用される。
上に示すように、BNP型ペプチドの測定は、sST2が増加している被験体に、LVHに進行する長期リスクまたは短期リスクがあるかどうかの評価を可能にする。
【0094】
したがって、本発明は、好ましくは血液、血清または血漿試料において、sST2レベルが増加している被験体において、LVHに進行する短期リスクおよびLVHに進行する長期リスク(すなわち短期リスクがない)の間を区別するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの量を測定し、そして
(b)こうして測定した量を参照量に比較し、そして場合によって
(c)LVHに進行する短期リスクおよびLVHに進行する長期リスクの間を区別する
工程を含む、前記方法に関する。
【0095】
好ましくは、参照量より高い、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量は、LVHに進行する短期リスクがある被験体の指標である。好ましくは、参照量より低い、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量は、LVHに進行する短期リスクがない被験体の指標である。しかし、LVHに進行する短期リスクがない被験体は、LVHに進行する長期リスクがある。
【0096】
1つの態様において、sST2レベルが増加している被験体は、試料、例えば血液、血清または血漿試料において、参照量より高いsST2のレベル、すなわち量を示す。好ましい態様において、sST2のレベルは、被験体のコホートにおいて、例えば一般集団の被験体のコホートにおいて、バイオマーカーに関して、90%パーセンタイルより高い。好ましくは、コホートに含まれる被験体は、試験しようとする被験体とほぼ同じ年齢である。
【0097】
さらに、本発明は、LVHに進行する長期リスクがある被験体を同定するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの量およびsST2の量を測定し、そして
(b)こうして測定した量を参照量に比較し、そして場合によって
(c)LVHに進行する長期リスクがある被験体を同定する
工程を含む、前記方法に関する。
【0098】
さらに、本発明は、被験体に、LVHに進行する長期リスクがあるかどうかを予測するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの量およびsST2の量を測定し、そして
(b)こうして測定した量を参照量に比較し、そして場合によって
(c)被験体に、LVHに進行する長期リスクがあるかどうかを予測する
工程を含む、前記方法に関する。
【0099】
好ましくは、参照量より低いBNP型ペプチドの量と組み合わされた、参照量より高いsST2の量は、LVHに進行する長期リスクがある被験体の指標である。
さらに、本発明は、LVHに進行する短期リスクがある被験体を同定するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの量およびsST2の量を測定し、そして
(b)こうして測定した量を参照量に比較し、そして場合によって
(c)LVHに進行する短期リスクがある被験体を同定する
工程を含む、前記方法に関する。
【0100】
さらに、本発明は、被験体に、LVHに進行する短期リスクがあるか(またはないか)を予測するための方法であって、
(a)被験体由来の試料において、BNP型ペプチド、例えばNT−プロBNPまたはBNPの量およびsST2の量を測定し、そして
(b)こうして測定した量を参照量に比較し、そして場合によって
(c)被験体に、LVHに進行する短期リスクがあるか(またはないか)を予測する
工程を含む、前記方法に関する。
【0101】
好ましくは、参照量より高いBNP型ペプチドの量と組み合わされた、参照量より高いsST2の量は、LVHに進行する短期リスクがある被験体の指標である。さらに、参照量より低いBNP型ペプチドの量と組み合わされた、参照量より高いsST2の量は、LVHに進行する短期リスクがない被験体の(そしてしたがって長期リスクがある被験体の)指標である。さらに、参照量より低いBNP型ペプチドの量と組み合わされた、参照量より低いsST2の量は、LVHに進行する短期リスクがない被験体の指標である。
【0102】
前述の方法の工程(b)において、BNP型ペプチドの量をBNP型ペプチドの参照量に比較し、そしてsST2の量をsST2の参照量に比較することが想定される。
パラメータ「eGFR」
パラメータeGFRは、好ましくは、被験体由来の試料におけるeGFR(概算糸球体濾過率)を決定することによって評価される。eGFRは、概算糸球体濾過率である。該用語は、当該技術分野に周知であり、そして例えば、本明細書に援用されるChowdhury(American Journal of Hypertension, 2015, 28(3):380ff)に記載される。これは、腎臓を通じて濾過される液体の流速の概算、すなわち単位時間あたりに、腎(腎臓)糸球体毛細血管からボウマン嚢内に濾過される液体の体積の概算である。eGFRは、被験体の血清試料中のクレアチニンの量に基づく。公式の数値は、血清クレアチニンレベルに基づいて、GFR値を概算するために考案されている。
【0103】
パラメータ「血圧」
本発明の方法はまた、被験体の血圧の評価を含むことも可能である。血圧は、収縮期または拡張期血圧であることも可能である。特に、用語「血圧」は、収縮期血圧を指す。したがって、方法は、血圧値の提供を含むことも可能である。血圧を評価する方法は、当該技術分野に周知である。好ましくは、血圧は、血圧を決定することによって評価される。
【0104】
1つの態様において、血圧の評価は、ヒトまたは動物の身体に対して実施されない。例えば、被験体の医学的記録から血圧を評価することが想定される。したがって、本発明の方法は、被験体の医学的記録に基づいて、被験体の血圧値を提供する工程を含むことも可能である。
【0105】
本発明の方法の態様において、少なくとも1つのさらなるパラメータを適切な参照に比較する。したがって、BNP型ペプチドの量を(BNP型ペプチドに関する)参照量に比較し、心臓トロポニンの量を(心臓トロポニンに関する)参照量に比較し、eGFR値を参照eGFR値に比較し、そして/または血圧値を参照血圧値に比較することが意図される。本発明にしたがって行った比較の結果に基づいて、被験体を同定する。
【0106】
前記参照量または参照値を、例えば上述のような被験体または被験体群(例えばLVHに進行するリスクがあることが知られる被験体またはLVHに進行するリスクがないことが知られる被験体)から、可溶性ST2に関する参照量と関連して上述するように得ることも可能である。
【0107】
以下において、さらなるパラメータに関する変化の方向の種類を示し、そしてしたがって、参照より高いまたは低い量または値が、リスクがある(またはリスクがない)被験体の指標であるかどうかを示す。
【0108】
好ましくは、参照量より高い、試験被験体の試料における心臓トロポニンおよび/またはBNP型ペプチドの量は、被験体に、LVHに進行するリスクがあることを示す。やはり好ましくは、参照量より低い、試料における心臓トロポニンおよび/またはBNP型ペプチドの量は、被験体に、LVHに進行するリスクがないことを示す。
【0109】
好ましくは、参照血圧値より高い、試験被験体における血圧値は、被験体に、LVHに進行するリスクがあることを示す。やはり好ましくは、参照血圧値より低い、試験被験体における血圧値は、被験体に、LVHに進行するリスクがないことを示す。
【0110】
好ましくは、参照eGFR値より低い、試験被験体におけるeGFR値は、被験体に、LVHに進行するリスクがあることを示す。やはり好ましくは、参照eGFR値より高い、試験被験体におけるeGFR値は、被験体に、LVHに進行するリスクがないことを示す。
【0111】
パラメータ(単数または複数)は、sST2の量に加えて評価されるものとする。したがって、診断アルゴリズムは、上に提供したパラメータに関する方向の種類から明らかである。例えば、参照量より高い試験被験体の試料における心臓トロポニンおよび/またはBNP型ペプチドの量と組み合わされた、参照量より高いsST2の量は、被験体に、LVHに進行するリスクがあることを示す。
【0112】
1つの態様において、sST2の量、および少なくとも1つのさらなるパラメータに関する値(単数または複数)(例えばBNP型ペプチドの量)、および適切な参照スコアに対する比較に基づいて、スコアを計算する。
【0113】
本発明の方法の1つの態様において、前記方法は、比較結果にしたがって、少なくとも1つの患者管理手段を推奨し、そして/または開始する工程をさらに含む。好ましくは、前記の少なくとも1つの患者管理手段は、被験体が左心室肥大に進行するリスクがある場合に、推奨されるかまたは開始される。
【0114】
用語「推奨する」は、本明細書において、被験体に適用可能な適切な対症療法の提案を確立することを意味する。患者管理手段は、LVHへの進行を回避するかまたは遅延させるため、LVHに進行するリスクがある被験体に適用可能なすべての手段を指す。例えば、患者管理手段には、薬剤治療またはライフスタイル推奨を監視する度合い(例えば緊密な、定期的なまたは弱い監視)が含まれる。特に、前記の少なくとも1つの患者管理手段は:緊密な監視、抗高血圧薬剤の投与、およびライフスタイル変更からなる群より選択される。1つの態様において、被験体に、LVHに進行する短期リスクがある場合、薬剤治療、例えば抗高血圧薬剤の投与が推奨される(または開始される)。
【0115】
好ましい抗高血圧薬剤は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン−II受容体遮断剤(ARB)、アルドステロンアンタゴニスト、およびベータ遮断剤からなる群より選択される。
【0116】
ベータ遮断剤は、好ましくは、プロプレノロール(proprenolol)、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、ブシンドロールおよびネビボロールより選択される。
【0117】
ACE阻害剤は、好ましくは、エナラプリル、カプトプリル、ラミプリルおよびトランドラプリルより選択される。
アルドステロンアンタゴニストは、好ましくは、エプレロン、スピロノラクトン、カンレノン、メクスレノンおよびプロレノンより選択される。
【0118】
推奨されるかまたは開始されるライフスタイル変更は、好ましくは、禁煙、アルコール消費の軽減、身体活動の増加、減量およびナトリウム(塩)制限より選択される。
本明細書において、上記に提供する定義は、以下に準用される。
【0119】
したがって、本発明は、被験体がLVHに進行するリスクを予測するための方法であって:
(a)被験体由来の試料において、バイオマーカー、可溶性ST2の量を測定し、そして
(b)可溶性ST2の量を参照に比較する
工程を含む、前記方法に関する。
【0120】
好ましくは、リスクは、リスクを予測するか、または被験体がLVHに進行するリスクの予測を提供する、さらなる工程(c)を実行することによって予測される。前記工程は、工程(b)の結果に基づく。
【0121】
本発明にしたがって、被験体がLVHに進行するリスクを予測するものとする。したがって、LVHに進行するリスクがある被験体またはリスクがない被験体を同定することも可能である。用語「リスクを予測する」は、本明細書において、好ましくは、被験体がLVHに進行するであろう可能性を評価することを指す。より好ましくは、特定の時間ウィンドウ内のリスク/可能性を予測する。好ましい予測ウィンドウを、本明細書において、上記に、LVHに進行するリスクがある被験体を同定する方法と関連して提供する。本発明の好ましい態様において、予測ウィンドウは、好ましくは、少なくとも約5年の期間、または特に少なくとも約10年の期間である。本発明の特に好ましい態様において、予測ウィンドウは、好ましくは、約17年の(またはそれより長い)期間である。さらに、予測ウィンドウは、約20年の期間であることも可能である。好ましくは、前記予測ウィンドウを、試験しようとする試料を得た時点から計算する。
【0122】
したがって、約5年、約10年、約17年または約20年以内に、LVHに進行するリスクを予測することが、本発明に特に想定される。
さらに、被験体に短期リスクがあるか(またはないか)、あるいは被験体に、LVHに進行する短期または長期リスクがあるかどうかを予測することが想定される。長期および短期予測の好ましい間隔を、LVHに進行するリスクがある被験体を同定する方法と関連して、上に開示する。好ましい診断アルゴリズムもまた、上に開示する。
【0123】
当業者に理解されるであろうように、こうした予測は、通常、被験体の100%に関して正しいことは意図されない。しかし、該用語は、適切なそして正しい方式で、予測が、被験体の統計的に有意な部分に関してなされうることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マン・ホイットニー検定等を用いて、当業者により、さらなる面倒を伴わずに決定可能である。詳細は、DowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。好ましくは、本発明によって想定される可能性は、増加した、正常のまたは減少したリスクの予測が、所定のコホートまたは集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%に関して正しいことを可能にする。該用語は、好ましくは、被験体集団における平均リスクに比較した際、被験体に、上昇したリスクまたは減少したリスクがあるかどうかを予測することに関する。用語「上昇したリスク」および「減少したリスク」は、リスクがある被験体を同定する方法と関連して定義されてきている。
【0124】
用語「リスクを予測すること」は、本明細書において、本発明の方法によって分析しようとする被験体が、LVHに進行するリスクがある被験体の群、またはLVHに進行するリスクがない被験体の群のいずれかに割り当てられることを意味する。
【0125】
用語「試料」、「被験体」、「LVH」、および「参照量」を、上に定義している。さらに、好ましい診断アルゴリズムを上に示す。定義および説明は、リスク予測の方法に適宜当てはまる。
【0126】
本発明の方法は、上述のように、試験しようとする被験体において、少なくとも1つのさらなるパラメータの評価をさらに含むことも可能である。好ましくは、前記の少なくとも1つのさらなるパラメータは、eGFR、被験体由来の試料におけるBNP型ペプチドの量、被験体由来の試料における心臓トロポニンの量、および被験体の血圧より選択される。好ましい組み合わせは、本明細書において上に記載される。本発明の方法の1つの態様において、少なくとも1つのさらなるパラメータを適切な参照に比較する。したがって、BNP型ペプチドの量を(BNP型ペプチドに関する)参照量に比較し、心臓トロポニンの量を(心臓トロポニンに関する)参照量に比較し、eGFR値を参照eGFR値に比較し、そして/または血圧値を参照血圧値に比較することが意図される。本発明にしがたって行われる比較の結果に基づいて、リスクを予測する。
【0127】
さらに、LVHに進行する短期リスクまたは長期リスクを予測することが意図される。1つの態様において、被験体に短期リスクがあるかまたはLVHに進行するか(またはしないか)を予測する。別の態様において、被験体に長期リスクがあるか(またはないか)を予測する。この予測は、好ましくは、BNP型ペプチドの量およびsST2の量の測定、ならびに(BNP型ペプチドに関する)参照量に対するBNP型ペプチドの量の比較および(sST2に関する)参照量に対するsST2の量の比較に基づく。好ましい診断アルゴリズムは、本明細書の別の箇所に開示される。
【0128】
本発明の方法の1つの態様において、前記方法は、比較結果にしたがって、少なくとも1つの患者管理手段を推奨し、そして/または開始する工程をさらに含む。好ましくは、被験体に、左心室肥大に進行するリスクがある場合、前記の少なくとも1つの患者管理手段が推奨されるかまたは開始される。好ましい患者管理手段を上に記載する。
【0129】
本発明はさらに、左心室肥大(LVH)に進行するリスクがある被験体を同定するための、被験体の試料におけるsST2またはsST2に特異的に結合する剤の使用に関する(上に定義する通り)。
【0130】
本発明はさらに、LVHに進行する被験体のリスクを予測するための、被験体の試料におけるsST2またはsST2に特異的に結合する剤の使用に関する(上に定義する通り)。
【0131】
用語「バイオマーカーに特異的に結合する剤」は、本明細書において交換可能に用いられる。好ましくは該用語は、対応するバイオマーカーに特異的に結合する結合部分を含む剤に関する。「結合剤」または「剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学的化合物である。好ましい剤は、測定しようとするバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。用語「抗体」は、本明細書において、最も広い意味で用いられ、そして限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および望ましい抗原結合活性を示す限り、抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含む、多様な抗体構造を含む。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
【0132】
前述の使用は、被験体の試料におけるBNP型ペプチド(またはこれに特異的に結合する剤)、心臓トロポニン(またはこれに特異的に結合する剤)の使用をさらに含むことも可能である。さらに、これは、eGFRおよび/または血圧を決定するための手段の使用を含むことも可能である。
【0133】
好ましい態様において、前述の使用は、BNP型ペプチドまたはこれに特異的に結合する剤の使用をさらに含む。BNP型ペプチドまたはこれに特異的に結合する剤のさらなる使用は、被験体における長期リスクおよび短期リスクの間の区別を可能にする。
【0134】
したがって、本発明は、a)LVHに進行する長期リスクがある被験体を同定するための、被験体にLVHに進行する長期リスクがあるかどうかを予測するための、LVHに進行する短期リスクがある被験体を同定するための、または被験体にLVHに進行する短期リスクがあるかどうかを予測するための、本明細書に定義するような被験体由来の試料における
(i)sST2(可溶性ST2)およびBNP型ペプチド、および/または
(ii)sST2に特異的に結合する剤およびBNP型ペプチドに特異的に結合する剤
の使用に関する。
【0135】
最後に、本発明は、(好ましくは血液、血清または血漿試料における)sST2のレベルが増加した被験体由来の試料における、BNP型ペプチド(例えばBNPまたはNT−プロBNP)の、前記被験体において、LVHに進行する短期リスクおよびLVHに進行する長期リスクの間を区別するための使用に関する。また、本発明は、(好ましくは血液、血清または血漿試料における)sST2のレベルが増加した被験体由来の試料における、BNP型ペプチド(例えばBNPまたはNT−プロBNP)の、LVHに進行する短期リスクがある被験体およびLVHに進行する短期リスクがない被験体の間を区別するための使用に関する。
【0136】
上に言及するすべての参考文献は、その全開示内容に関して、ならびに上記説明に明確に言及される特定の開示内容に関して、本明細書に援用される。
【実施例】
【0137】
以下の実施例は、本発明を例示するものとする。しかし、これらは、本発明の範囲を限定するとは見なされないものとする。
実施例1:Stanislas研究由来の試料を用いた、LVH転帰症例対照研究の設計
表1:LVH症例対照研究における患者の特性
レジェンド:Stanislasコホートの参加者由来の試料を用いて、LVH転帰症例対照研究を設計した。Stanislasコホートの参加者は、2人の生物学的な親および少なくとも2人の子供を含む家族である(Siestら、2008)。Stanislasコホートは、最初の検査、受診1(V1)から5年後の受診2(V2)、10年後の受診3(V3)および17年後の受診4(V4)での3回の健康診断および血液サンプリングで追跡された。
【0138】
LVH症例対照研究のサイズは、202人の被験体由来の4回の受診(V1〜4)の連続試料を含み、このうち、101人の被験体が、V4でLVHに進行した。V1での最初の検査時には、症例対照研究の202人の被験体すべてに関して、LVHが存在しないことが示された。LVH転帰症例は、受診4(V4)中に同定されたLVHの存在または非存在に関して、101人の対照にマッチングされた。マッチングには、年齢、性別および最初の受診時の収縮期血圧が含まれ、これはこれらの変数が、入手可能な文献において、LV質量と強く関連するためである。転帰変数LV質量は、ASE法を用いて計算され、体表面積に対してインデックス化され(Duboisの公式)、二分された(Langら 2015のカットオフにしたがう)。V4でのマッチングプロセスは以下を含んだ:LVHを伴わない(女性において、<96g/m
2、そして男性において、116g/m
2)1人の患者を、以下の必要条件で、LVHを伴う(女性において、>=96g/m
2、そして男性において、116g/m
2)1人の患者にマッチングさせた:
1/同じ性別
2/同じ年齢(1年の正確さ)
3/近いLV質量の患者のマッチングを回避するため、>20g/m2のインデックス化LV質量における差
4/最初の受診時に<=10mmHgの収縮期BPにおける差
患者特性を、V4およびベースライン(V1)で、LVHおよび非LVH患者の間で比較した。
【0139】
【表1-1】
【0140】
【表1-2】
【0141】
説明:
ベースライン(V1)でLVHを持たないStanislasコホートの101人の参加者が、V4でLVHに進行した。V1またはV4のいずれでもLVHを示さなかった、101人の年齢、性別およびSBPマッチ対照を選択した。病歴、生物学、血行動態および人口統計のいくつかの他の変数に関しては有意な相違は見られなかった。
【0142】
結論:
→LVH転帰症例対照研究は、5、10または17年以内に、迅速にLVHに進行するリスクと関連するバイオマーカーの同定に適している。
【0143】
実施例2:一般集団における、LVHへの進行のリスクと、循環ST2レベルの関連
表2:V4でのLVHおよびV1またはV2でのバイオマーカーの間の関連に関する未処理および調整オッズ比。
【0144】
レジェンド:V1(n=100 非LVH群、n=100 LVH群)、V2(n=99 非LVH群、n=94 LVH群)、V3(n=57 非LVH群、n=67 LVH群)でのバイオマーカーレベル(ST2、cTNThs、Mimecan、NTプロBNP)間の関連に関して、未処理、ならびにSBPおよびeGFR調整オッズ比を概算した。
【0145】
【表2】
【0146】
説明:
LVH転帰と関連して有意なオッズ比で循環ST2レベルの上昇が見られた。循環ST2のオッズ比は、LVH転帰変数と関連して、異なる初期の時点(V1およびV2)で、統計的有意性に到達したが、循環Mimecanはそうではなかった。少なくとも1つの時点(V2)で、LVH転帰と関連して有意なオッズ比で循環cTNThsレベルの上昇が見られた。ST2のベースラインレベルは、5、10および17年以内のLVHへの進行に関して、最適な予後値を示した。cTNThsレベルのベースラインは、10年以内のLVHへの進行に関して、中程度の予後情報を示した。対照的に、mimecanのベースラインレベルは、LVHへの進行に関して予後値を示さなかった。
【0147】
結論:
→循環ST2レベルの上昇は、5、10または17年以内の、LVHへの迅速な進行のリスクがある患者を同定することを補助しうるが、Mimecanはそうではない。
【0148】
実施例3:一般集団における、収縮期血圧およびeGFRと組み合わされた循環ST2レベルの、LVHに進行するリスクとの関連
表3:V4でのLVH、およびNTプロBNPを伴わない、V1、V2またはV3でのバイオマーカーの間の入れ子モデルの比較
レジェンド:LVH転帰症例対照研究の202人の被験体の試料において、MimecanおよびST2を測定した。P値および尤度比統計を報告して、NTプロBNPを伴わないV1およびV2での各バイオマーカーに関する入れ子モデルを比較した。
【0149】
【表3】
【0150】
説明:モデルM5がモデルM0より優れていることが示された。循環ST2レベル上昇は、NTプロBNP単独に比較して、LVH転帰およびNTプロBNPの間の関連を改善することが見出された。対照的に、モデルM2では、モデルM0の改善は見られなかった。Mimecanは、LVH転帰およびNTプロBNP単独の間の関連を改善しないことが見出された。
【0151】
結論:
→5、10または17年以内にLVHに進行するリスクがある被験体を同定するため、好ましいマーカー組み合わせはNTプロBNP、収縮期血圧、eGFRおよびST2を含む。
【0152】
実施例4:5、10または17年以内のLVH転帰に対する循環バイオマーカーレベルの関連
表4:V4でのLVH、およびV1またはV2でのバイオマーカーの間の関連に関するバイオマーカーレベル
【0153】
【表4】
【0154】
レジェンド:NTプロBNP、Mimecan、シスタチンCおよびST2をLVH転帰症例対照研究の202人の被験体の試料において測定した。中央値を報告して、V1(n=100 非LVH群、n=100 LVH群)、V2(n=99 非LVH群、n=94 LVH群)、V3(n=57 非LVH群、n=67 LVH群)およびV4(n=101 非LVH群、n=101 LVH群)の各バイオマーカーレベルの上昇を比較した。
【0155】
説明:
循環ST2レベルの上昇は、V1で統計的有意性に到達したが、循環Mimecan、シスタチンCまたはNTプロBNPはそうではなかった(それぞれ、p=0.08、0.21、0.23または0.85)。LVH転帰の17年前であるV1では、循環NTプロBNP、シスタチンCまたはMimecanレベルの上昇は見られなかった。V3のLVH転帰の前の最初の10年で、NTプロBNPレベルのわずかな上昇が観察された。NTプロBNPレベルの上昇は、LVHが明らかになったV4で有意性に到達した(p<0.0001)。
【0156】
ST2のベースラインレベルは、5、10および17年以内のLVHへの進行に関して最適な予後値を示した。NTプロBNPのベースラインレベルは、5または10年以内のLVHへの進行に関して、中程度の予後情報を示した。NTプロBNPは、V4の明らかなLVHに関連して最適な診断値を示した。対照的に、シスタチンCまたはMimecanのベースラインレベルは、5、10または17年以内にLVHへの進行に関していかなる予後値も示さなかった。
【0157】
結論:
→循環ST2レベルの上昇は、5、10または17年以内にLVHに進行するリスクがある患者の同定を補助しうる。循環NTプロBNPレベルの上昇は、10または5または3年以内にLVHに迅速に進行するリスクがある患者の同定を補助しうる。
【0158】
→5、10または17年以内にLVHに進行するリスクがある被験体を同定するために、好ましいマーカーの組み合わせはST2およびNTプロBNPを含む。
→5、10または17年以内にLVHに進行するリスクがある若年齢(約40歳)の被験体を同定するために、好ましいマーカーの組み合わせはST2およびNTプロBNPである。
【0159】
→循環NTプロBNPまたはcTNThsレベルの上昇は、LVHが明らかになる際のリスクの区別を補助しうる。