特許第6983231号(P6983231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983231
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能診断用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20211206BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20211206BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C12Q1/6876 Z
   G01N33/53 D
   G01N33/15 Z
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-517005(P2019-517005)
(86)(22)【出願日】2017年8月17日
(65)【公表番号】特表2019-530451(P2019-530451A)
(43)【公表日】2019年10月24日
(86)【国際出願番号】KR2017008955
(87)【国際公開番号】WO2018062683
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2020年6月5日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0124663
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ウィ ドン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ビョン ベ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, キュ ハン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ミン シク
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ウン−ギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ, テ リョン
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−501503(JP,A)
【文献】 特表2012−508006(JP,A)
【文献】 特開2016−037470(JP,A)
【文献】 Busse, D. et al.,"A synthetic sandalwood odorant induces wound-healing processes in human keratinocytes via the olfactory receptor OR2AT4",J. Invest. Dermatol.,2014年,Vol. 134,pp. 2823-2832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
G01N 33/48−33/98
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検出する試薬を含む皮膚バリア機能診断用組成物。
【請求項2】
前記試薬は、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子のmRNAに特異的に結合するプローブ又はプライマー対;及びOR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記プローブは、前記遺伝子のポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片、又は前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片に相補的なポリヌクレオチドを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記プライマー対は、前記遺伝子のポリヌクレオチドの10〜20個の連続ヌクレオチド断片;及び前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的な10〜20個の連続ヌクレオチド断片を含む、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗体は、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子によってコードされるタンパク質に対するモノクローナル抗体である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記遺伝子の発現量が正常値に比べて増加したとき、皮膚バリア機能に優れると診断する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記遺伝子の発現量が正常値に比べて減少したとき、皮膚バリア機能が損傷されたと診断する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記皮膚バリア機能改善は、表皮細胞分化の増進、皮膚保湿又は表皮細胞のタイトジャンクション(Tight junction)の改善の少なくとも一方を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物を含む皮膚バリア機能診断用キット。
【請求項10】
前記キットは、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子のmRNAに特異的に結合する一つ以上のポリヌクレオチド;及び前記一つ以上のポリヌクレオチドを表面に結合させた固相支持体を含み、前記OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子のmRNAに特異的に結合するポリヌクレオチドは、前記遺伝子のポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片、又は前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片に相補的なポリヌクレオチドを含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記キットは、検体における前記遺伝子の発現量が正常値に比べて増加したとき、皮膚バリア機能に優れると診断し、且つ前記遺伝子の発現量が正常値に比べて減少したとき、皮膚バリア機能が損傷されたと診断する、請求項9又は10に記載のキット。
【請求項12】
ヒトから分離された角化細胞を試験物質で処理し;そして、前記試験物質で処理した角化細胞から前記試験物質による処理前後のOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の相対的発現程度を確認することを含
前記相対的発現程度は、前記試験物質による処理前の発現程度に対する前記試験物質による処理後の発現程度の比である、
皮膚バリア機能改善物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記試験物質で処理した角化細胞において試験物質による処理前に比べて前記遺伝子の相対的発現程度が高いとき、皮膚バリア機能改善物質と判定することをさらに含む、請求項12に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記遺伝子の相対的発現程度が試験物質による処理前に比べて1.1倍以上であるとき、皮膚バリア機能改善物質と判定する、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記皮膚バリア機能改善は、表皮細胞分化の増進、皮膚保湿又は表皮細胞のタイトジャンクション(Tight junction)の改善の少なくとも一方を含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、皮膚バリア機能診断用バイオマーカー組成物、皮膚バリア機能診断用キット、及び皮膚バリア機能改善物質のスクリーニング方法に関して記述する。
【背景技術】
【0002】
表皮の最表層である角質層は、外的な湿度・温度の変化、紫外線及び微生物のような外的要素による皮膚バリアの損傷防止や皮膚中の水分が外に蒸発することを抑えるバリア機能を担う。皮膚バリアを細分化すると、角質層バリア(barrier)と角質層の下の細胞間結合による水分蒸発を抑えるタイトジャンクション(Tight junction)部とに分けられる。アトピー患者の皮膚水分量の減少は、表皮分化異常による角質層の細胞間脂質減少及びクローディン(claudin)の減少によるタイトジャンクション(Tight junction)の弱化に関連することが知られている(非特許文献1)。したがって、表皮分化異常やタイトジャンクション(Tight junction)に対する評価法は皮膚バリア(barrier)の損傷を評価する代表的な方法である。
【0003】
近年、鼻に存在する嗅覚受容体は、各種の臓器をはじめとして皮膚にも存在することが知られている。このとき、鼻ではなく臓器や皮膚に存在する嗅覚受容体の機能は鼻にあるときとは異なると知られているが、鼻以外の部位における機能が明らかにされていない種々の嗅覚受容体の具体的な機能の全てについては知られておらず、それは各受容体によって相違するものと予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】De Benedetto A, et al., “Tight junction defects in patients with atopic dermatitis.”, J Allergy Clin Immunol. 2011 Mar;127(3):773-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一観点において、本発明が解決しようとする課題は、皮膚バリア機能を客観的に診断する手段を提供することである。
【0006】
他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、表皮細胞分化の増進の有無を客観的に評価する手段を提供することである。
【0007】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、皮膚保湿の増進の有無を客観的に評価する手段を提供することである。
【0008】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、タイトジャンクションの改善の有無を客観的に評価する手段を提供することである。
【0009】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、皮膚バリア改善物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【0010】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、表皮細胞分化物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【0011】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、皮膚保湿増進物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【0012】
また他の観点において、本発明が解決しようとする課題は、タイトジャンクション改善物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一観点において、本発明は、検体におけるOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定することを含む皮膚バリア機能の診断方法に関する。
【0014】
他の観点において、本発明は、検体におけるOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定する皮膚バリア機能診断用バイオマーカー組成物に関する。
【0015】
また他の観点において、本発明は、検体におけるOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定する皮膚バリア機能診断用キットに関する。
【0016】
また他の観点において、本発明は、表皮細胞を試験物質で処理し;そして、前記試験物質で処理した表皮細胞から試験物質による処理前後のOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の相対的発現程度を確認することを含む皮膚バリア機能改善物質のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
一観点において、本発明は、皮膚バリア機能を客観的に診断する手段を提供することができる。
【0018】
他の観点において、本発明は、表皮細胞分化の増進の有無を客観的に評価する手段を提供することができる。
【0019】
また他の観点において、本発明は、皮膚保湿の増進の有無を客観的に評価する手段を提供することができる。
【0020】
また他の観点において、本発明は、タイトジャンクションの改善の有無を客観的に評価する手段を提供することができる。
【0021】
また他の観点において、本発明は、皮膚バリア改善物質をスクリーニングする方法を提供することができる。
【0022】
また他の観点において、本発明は、表皮細胞分化物質をスクリーニングする方法を提供することができる。
【0023】
また他の観点において、本発明は、皮膚保湿増進物質をスクリーニングする方法を提供することができる。
【0024】
また他の観点において、本発明は、タイトジャンクション改善物質をスクリーニングする方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】角化細胞における経時的(2日目、4日目、及び6日目)なOR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子の発現量を確認した図である。
図2】角化細胞から紫外線(UVB 25mJ/cm)を照射した後のOR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子の発現量を確認した図である。
図3】それぞれOR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子をノックダウン(Knock−down)させた結果を示すグラフである。
図4】OR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子をノックダウン(Knock−down)させた場合の表皮分化関連遺伝子のKRT1、KRT10、LORの発現量の変化を確認した図である。
図5】OR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子をノックダウン(Knock−down)させた場合の保湿関連遺伝子のBH、FLG、Caspase14の発現量の変化を確認した図である。
図6】OR6M1遺伝子とOR6V1遺伝子をノックダウン(Knock−down)させた場合のタイトジャンクション関連遺伝子のOccludin、Claudin1、TJP1の発現量の変化を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例についてより詳細に説明することにする。なお、本出願に開示された技術はここで説明される実施例に限定されず、他の形態に具体化することもできる。ここで紹介される実施例は、単に、開示された内容が徹底且つ完全になるようにし、また当業者に本出願の思想が十分に伝達できるようにするために提供されるものであるに過ぎない。また、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本出願の技術的思想を逸脱しない範囲内で本出願の思想を多様な他の形態に具現することができるであろう。
【0027】
本明細書において「プローブ(probe)」とは、遺伝子の標的部位と相補的に結合することができる配列の塩基を有するオリゴヌクレオチ、その変異体、又はオリゴヌクレオチとこれに結合された標識物質を含むものを意味する。
【0028】
本明細書において「プライマー(primer)」とは、遺伝子の標的部位に該当する特定領域をPCRを用いて増幅するために用いる遺伝子特定領域の末端に相補的に結合することができる配列の塩基を有するオリゴヌクレオチ又はその変異体のことを意味する。前記プライマーは、特定領域の末端と完全に相補的であることを要求せず、前記末端にハイブリダイズして二本鎖構造を形成するほどに相補的なものであれば用いられ得る。
【0029】
本明細書において「ハイブリダイゼーション(hybridization)」とは、2個の一本鎖核酸が相補的な塩基配列のペアリング(pairing)によってデュープレックス構造(duplex structure)を形成することを意味する。ハイブリダイゼーションは、一本鎖核酸配列間の相補性が完全な場合(perfect match)だけでなく、一部のミスマッチ(mismatch)塩基が存在しても生じ得る。
【0030】
本明細書において「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」とは、複数個のヌクレオチドの重合体を意味するものであり、通常的な意味の数十個のヌクレオチドの重合体であるオリゴヌクレオチドを含む広義のポリヌクレオチドのことを意味する。
【0031】
本明細書において「正常値」とは、損傷されていない皮膚の正常な分化状態における発現量のことを意味する。
【0032】
一実施例において、本発明は、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定することを含む皮膚バリア機能診断方法に関する。
ヒトOR6M1(Olfactory receptor family 6 subfamily M member 1)遺伝子は、嗅細胞の嗅覚受容体6M1(olfactory receptor 6M1)タンパク質をコードし、OF6M1遺伝子のNCBI accession IDはNM_001005325.1である。本発明者らは、前記遺伝子が表皮細胞から発現するときに皮膚バリア機能を改善する役割をすることを見出した。したがって、OR6M1遺伝子は、表皮細胞におけるこれらの遺伝子が皮膚バリア機能の診断、評価のためのバイオマーカーとして用いられ得、発現量の検定によって客観的な皮膚バリア機能の診断、評価が可能である。
【0033】
ヒトOR6V1(Olfactory receptor family 6 subfamily V member 1)遺伝子は、嗅細胞衣嗅覚受容体6V1(olfactory receptor 6V1)タンパク質をコードし、OR6V1遺伝子のNCBI accession IDはNM_001001667.1である。本発明者らは、前記遺伝子が表皮細胞から発現するときに皮膚バリア機能を改善する役割をすることを見出した。したがって、OR61遺伝子は、表皮細胞におけるこれらの遺伝子が皮膚バリア機能の診断、評価のためのバイオマーカーとして用いられ得、発現量の検定によって客観的な皮膚バリア機能の診断、評価が可能である。
【0034】
一例において、前記皮膚バリア機能診断方法は、検体におけるOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定することを含むものであってよい。
【0035】
前記検体は、ヒトから分離された表皮細胞であってよく、例えば、角化細胞又はメラニン形成細胞の少なくとも一方であってよい。
【0036】
検体におけるOR6M1又はOR6V1遺伝子の発現量が高いと、皮膚バリア機能に優れ、表皮細胞分化が促進し、皮膚保湿が増進し、角質層の下の顆粒層、有棘層の細胞間タイトジャンクション(Tight junction)を改善して表皮細胞を堅く結合させることで表皮細胞組織を堅固にすることができ、また、これによってタイトジャンクション部を介した水分蒸発を防止することができる。逆に、検体におけるOR6M1又はOR6V1遺伝子の発現量が低いと、皮膚バリア機能が乏しく、表皮細胞分化が低下し、皮膚保湿が低くなり、タイトジャンクション(Tight junction)が緩んでしまい水分蒸発を有効に阻止することができず、表皮細胞組織が緩むようになる。
【0037】
したがって、検体におけるOR6M1又はOR6V1遺伝子の発現量が損傷されていない表皮の正常対照群に比べて増加したとき、皮膚バリア機能に優れ、表皮細胞分化が促進し、皮膚保湿が増進し、タイトジャンクション(Tight junction)を改善して表皮細胞を堅く結合させることで、表皮細胞組織が堅固なものと診断することができる。
【0038】
前記OR6M1又はOR6V1遺伝子の発現量の検定は、当該技術分野において周知の通常の方法を用いて行ってよく、例えば、検体におけるOR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNA、又はOR6M1又はOR6V1遺伝子によってコードされるタンパク質の少なくとも一方の水準を測定することを含むものであってよい。
【0039】
一具体例において、OR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNAの水準の測定は、当該mRNAの全部又は一部に特異的に結合するポリヌクレオチドを用いて行うことができるが、これに制限されない。
【0040】
例えば、前記OR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNAの水準の測定は、OR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNA検定用プローブを用いるか、又はOR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNAを増幅させることができるプライマー対を用いて行うことができる。
【0041】
前記プローブを用いる場合、OR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNAの水準の測定は、前記検体中の前記プローブとハイブリダイズした転写体の量を測定して行うことができる。
【0042】
前記プローブは、OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子に特異的に結合するポリヌクレオチドであって、前記遺伝子のポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片、又は前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片に相補的なポリヌクレオチドであってよい。
【0043】
前記プライマー対を用いる場合、OR6M1又はOR6V1遺伝子のmRNAの水準の測定は、OR6M1又はOR6V1遺伝子の少なくとも一方のmRNAを増幅することができるプライマー対を用いて増幅されたポリヌクレオチドの量を測定して行うことができる。
【0044】
前記プライマー対は、前記遺伝子のポリヌクレオチドの10〜20個の連続ヌクレオチド断片;及び前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的な10〜20個の連続ヌクレオチド断片を含んでいてよい。
【0045】
他の具体例において、前記OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子によってコードされるタンパク質の水準の測定は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて行うことができる。
【0046】
前記抗体を用いる場合、OR6M1又はOR6V1遺伝子によってコードされるタンパク質の水準の測定は、前記抗体とハイブリダイズしたタンパク質の量を測定して行うことができる。
【0047】
前記抗体は、OR6M1又はOR6V1遺伝子の少なくとも一方の遺伝子によってコードされるタンパク質のモノクローナル抗体であってよい。
【0048】
前記OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量の検定は、PCR(polymerase chain reaction)、RT−PCR(reverse transcriptase polymerase chain reaction)、ノーザンブロッティング(northern blot analysis)、ウェスタンブロッティング(western blot analysis)、ドットブロット(dot blot assay)、ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)、及びマイクロアレイ、例えば、アレル特異的ハイブリダイゼーション(Allele−specific hybridization)を用いたTaqMan(商標)プローブ法、重合反応によるアレル特異的ハイブリダイゼーション(Allele−specific hybridization)を用いたプローブ法、制限酵素を用いた制限酵素断片長多型(RFLP、Restriction Fragment Length Polymorphism)法、溶融温度(Tm、melting temperature)を用いた動的アレル特異的ハイブリダイゼーション(DASH、Dynamic Allele−Specific Hybridization)法、重合反応を用いたパイロシーケンシング(pyrosequencing)、アレル特異的伸長(Allele−Specific Extension)を用いたマイクロアレイ方法などを用いてよいが、これらに制限されない。
【0049】
一具体例において、OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量が、正常値(正常対照群の発現量)に対し、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、3.1倍以上、3.2倍以上、3.3倍以上、3.4倍以上、3.5倍以上、3.6倍以上、3.7倍以上、3.8倍以上、3.9倍以上、4.0倍以上、4.1倍以上、4.2倍以上、4.3倍以上、4.4倍以上、4.5倍以上、4.6倍以上、4.7倍以上、4.8倍以上、4.9倍以上、又は5.0倍以上であり、且つ20.0倍以下、19.5倍以下、19.0倍以下、18.5倍以下、18.0倍以下、17.5倍以下、17.0倍以下、16.5倍以下、16.0倍以下、15.5倍以下、15.0倍以下、14.5倍以下、14.0倍以下、13.5倍以下、13.0倍以下、12.5倍以下、12.0倍以下、11.5倍以下、11.0倍以下、10.5倍以下、10.0倍以下、9.5倍以下、9.0倍以下、8.5倍以下、8.0倍以下、7.5倍以下、7.0倍以下、6.5倍以下、6.0倍以下、5.5倍以下、又は5.0倍以下であってよく、例えば、1.1〜20.0倍、例えば、1.5〜10.0倍、例えば、2倍〜8倍であるとき、皮膚バリア機能に優れると診断することができる。
【0050】
本発明の一実施例によると、OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定する皮膚バリア機能診断用バイオマーカー組成物を提供することができる。本実施例に係る組成物を用いて、検体におけるOR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定し皮膚バリア機能を診断することができる。
【0051】
前記バイオマーカー組成物は、mRNAに特異的に結合するプローブ又はプライマー対及びOR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体の少なくとも一方を含んでいてよい。
【0052】
前記検体、遺伝子、プローブ、プライマー対、及び抗体は、前記本発明の一実施例に係る診断方法に関して説明したところと同様であるため、これらについての記述を省略する。
【0053】
本発明の一実施例によると、OR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定する皮膚バリア機能診断用キットを提供することができる。本実施例に係るキットを用いて、検体におけるOR6M1又はOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を検定し皮膚バリア機能を診断することができる。
【0054】
前記キットは、前述した本発明の一実施例に係るバイオマーカー組成物を含んでいてよく、これに関しては前述したところと同様であるため、これについての記述を省略する。
【0055】
一具体例において、前記キットは、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子に特異的に結合する一つ以上のポリヌクレオチド;及び前記一つ以上のポリヌクレオチドを表面に結合させた固相支持体を含み、
【0056】
前記OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子に特異的に結合するポリヌクレオチドは、前記遺伝子のポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片、又は前記遺伝子のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド又は前記遺伝子の10個以上の連続ヌクレオチドを含む断片に相補的なポリヌクレオチドを含んでいてよい。
【0057】
他の具体例において、前記キットは、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子のポリヌクレオチドのmRNAを増幅することができるプライマー対を含んでいてよい。
【0058】
また他の具体例において、前記キットは、OR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子からコードされるタンパク質に対するモノクローナル抗体を含んでいてよい。
【0059】
本発明の一実施例によると、試験物質がOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の発現量を変化させることによる皮膚バリア機能改善物質のスクリーニング方法を提供することができる。
【0060】
前記スクリーニング方法は、表皮細胞を試験物質で処理し;そして、前記試験物質で処理した表皮細胞から試験物質による処理前後のOR6M1及びOR6V1の少なくとも一方の遺伝子の相対的発現程度を確認することを含んでいてよい。
【0061】
前記試験物質による処理前後の遺伝子の相対的発現程度を比べて、試験物質による処理前よりも試験物質による処理後の前記遺伝子の相対的発現程度が高いとき、皮膚バリア機能改善物質と判定することができる。
【0062】
例えば、前記遺伝子の相対的発現程度が、試験物質による処理前に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、3.1倍以上、3.2倍以上、3.3倍以上、3.4倍以上、3.5倍以上、3.6倍以上、3.7倍以上、3.8倍以上、3.9倍以上、4.0倍以上、4.1倍以上、4.2倍以上、4.3倍以上、4.4倍以上、4.5倍以上、4.6倍以上、4.7倍以上、4.8倍以上、4.9倍以上、又は5.0倍以上であり、且つ20.0倍以下、19.5倍以下、19.0倍以下、18.5倍以下、18.0倍以下、17.5倍以下、17.0倍以下、16.5倍以下、16.0倍以下、15.5倍以下、15.0倍以下、14.5倍以下、14.0倍以下、13.5倍以下、13.0倍以下、12.5倍以下、12.0倍以下、11.5倍以下、11.0倍以下、10.5倍以下、10.0倍以下、9.5倍以下、9.0倍以下、9.0倍以下、8.5倍以下、8.0倍以下、7.5倍以下、7.0倍以下、6.5倍以下、6.0倍以下、5.5倍以下、又は5.0倍以下であってよく、例えば、1.1〜20.0倍、例えば、1.5〜10.0倍、例えば、2〜8倍であるとき、皮膚バリア機能改善物質と判定することができる。
【0063】
以下、実施例、比較例、及び試験例を参照して本発明を詳しく説明する。なお、これらは単に本発明をより具体的に説明するために例示したものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例、比較例及び試験例によって制限されないことは当業者にとって自明であろう。
【0064】
[試験例1]表皮細胞からの嗅覚受容体遺伝子の発現様相の確認
新生児の正常ヒト表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:P988、ロンザ)を、角化培地(KGM)を用いて60mm細胞培養ディッシュ(cell culture dish)に1.25×10cells/dishの密度で分注した後、37℃、5%のCO培養器で80%程度の培養密度(confluency)まで培養した。次いで、6日間培養しながら経時的な嗅覚受容体の発現変化を確認し、その結果を図1に示した。発現変化は、細胞成長培地を除去しトリゾール(Trizol)(Invitrogen)1mlを添加し、invitrogen社のRNA分離法によってRNAを分離してから、紫外線検定器(HEWLETT PACKARD)を用いて260nmでRNAを定量した後、RT−PCR(Reverse transcription−polymerase chain reaction)を実施した。各サンプルに対するOR6M1とOR6V1に係る遺伝子分析のためにtaqman probe(Hs02339286_s1、Hs01073030_s1)を用い、相補的な遺伝子であるRPL13Aを基準に補正した。
【0065】
図1の結果から、OR6M1とOR6V1遺伝子は培養日が経過するにつれて発現が増加し、6日目までも増加した発現量で存在しており、表皮細胞の分化によって発現が増加する遺伝子であることを確認した。
【0066】
[試験例2]紫外線の照射による表皮細胞からの嗅覚受容体遺伝子の発現
新生児の正常ヒト表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:P988、ロンザ)を、角化培地(KGM)を用いて60mm細胞培養ディッシュ(cell culture dish)に1.25×10cells/dishの密度で分注した後、37℃、5%のCO培養器で80%程度の培養密度(confluency)まで培養した。培養した細胞を紫外線(UVB 25mJ/cm)で処理し、2日間培養してから発現変化を確認し、その結果を図2に示した。発現変化は、前記試験例1と同様な方法にて測定した。対照群としては、赤外線無処理群を用いた。
【0067】
図2の結果から、紫外線の照射によってOR6M1とOR6V1遺伝子の発現量は顕著に低下したことを確認することができる。
【0068】
[試験例3]嗅覚受容体(OR6M1、OR6V1)遺伝子のノックダウン(knock−down)
OR6M1とOR6V1の遺伝子機能を表皮細胞から確認するために、実施例1と同様な方法にて細胞を培養した後、OR6M1とOR6V1遺伝子のそれぞれに対するsiRNA(50nM、ダーマコン社から購入、商品名:ON−TARGET plus siRNA Reagents)とリポフェクトアミンを用いて角化細胞にトランスフェクションし、選択的にOR6M1とOR6V1をノックダウンさせた後、2日後に二つの遺伝子のノックダウン(knock−down)程度を、ノックダウンさせていないもの(Non−target;非ターゲット)と比較し、その結果を図3に示す。
【0069】
図3の結果から、OR6M1とOR6V1の遺伝子の発現量は、いずれも50%以下に減少したことを確認することができる。
【0070】
[試験例4]嗅覚受容体(OR6M1、OR6V1)遺伝子の機能喪失による表皮分化への影響
前記試験例3と同様な方法にてOR6M1とOR6V1の遺伝子のそれぞれをノックダウンさせた角化細胞において、表皮分化マーカーであるkeratin 1(KRT1、Hs01549614_g1)、keratin 10(KRT10、Hs01043114_g1)及びloricrin(LOR、Hs01894962_s1)遺伝子の発現量をOR6M1とOR6V1の遺伝子をノックダウンさせていない場合(Non−target;非ターゲット)と比較した。これらの遺伝子の発現量の確認はReal−Time RT−PCR(RT−PCR)を用いて試験例1と同様に施して確認し、その結果を図4に示す。
【0071】
図4の結果から、OR6M1及びOR6V1遺伝子の発現抑制によってkeratin 1、keratin 10及びloricrin遺伝子の発現が顕著に低下したことを確認することができ、OR6M1及びOR6V1の機能が表皮分化に大きく影響を及ぼすことが分かる。
【0072】
[試験例5]嗅覚受容体(OR6M1、OR6V1)遺伝子の機能喪失による角質層の保湿因子への影響
前記試験例3と同様な方法にてOR6M1とOR6V1の遺伝子をそれぞれノックダウン(knock−down)させた角化細胞において、角質層の保水(water holding)代謝因子であるブレオマイシンヒドロラーゼ(bleomycin hydrolase)(BLMH;BHと略称し、Hs00166071_m1)、フィラグリン(filaggrin)(FLG、Hs00856927_g1)及びカスパーゼ14(caspase 14)(CSAP14、Hs00201637_m1)遺伝子の発現量を、OR6M1とOR6V1の遺伝子をノックダウンさせていない場合(Non−target;非ターゲット)と比較した。これらの遺伝子の発現量の確認は、Real−Time RT−PCR(RT−PCR)を用いて試験例1と同様に施して確認し、その結果を図5に示す。
【0073】
図5の結果から、OR6M1及びOR6V1遺伝子の発現抑制によってブレオマイシンヒドロラーゼ(BH)、フィラグリン(FLG)及びカスパーゼ14遺伝子の発現が50%以下に低下したことを確認することができ、OR6M1及びOR6V1の機能低減によって最表層の角質層の変形を誘発し、保湿代謝機能低減を生じさせることが分かる。
【0074】
[試験例6]嗅覚受容体(OR6M1、OR6V1)遺伝子の機能喪失によるタイトジャンクション(Tight junction)の変化
前記試験例3と同様な方法にてOR6M1とOR6V1の遺伝子のそれぞれをノックダウン(knock−down)させた角化細胞において、タイトジャンクション(Tight junction)関連因子であるオクルディン(occuldin)(OCLN、Hs00170162_m1)、クローディン1(claudin1(CLDN1、Hs00221623_m1)及びTJP1(Hs01551861_m1)遺伝子の発現量を、OR6M1とOR6V1の遺伝子をノックダウンさせていない場合(Non−target;非ターゲット)と比較した。これらの遺伝子の発現量の確認は、Real−Time RT−PCR(RT−PCR)を用いて試験例1と同様に施して確認し、その結果を図6に示す。
【0075】
図6の結果から、OR6M1及びOR6V1遺伝子の発現抑制によってオクルディン、クローディン1及びTJP1遺伝子の発現が50%以下に低下したことを確認することができ、OR6M1及びOR6V1の機能低減によって角質層の下の顆粒層、有棘層の細胞間接着(adhesion)に変形を誘発することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6