(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983336
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】乾燥粉末の製造のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/18 20060101AFI20211206BHJP
B01J 2/16 20060101ALI20211206BHJP
F26B 3/12 20060101ALI20211206BHJP
C13B 40/00 20110101ALI20211206BHJP
C13B 50/00 20110101ALI20211206BHJP
【FI】
B01D1/18
B01J2/16
F26B3/12
C13B40/00
C13B50/00
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-553651(P2020-553651)
(86)(22)【出願日】2018年5月10日
(65)【公表番号】特表2021-511819(P2021-511819A)
(43)【公表日】2021年5月13日
(86)【国際出願番号】AU2018050436
(87)【国際公開番号】WO2019213685
(87)【国際公開日】20191114
【審査請求日】2020年10月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519389339
【氏名又は名称】バイオマス テクノロジーズ ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】スコット マックスウェル
(72)【発明者】
【氏名】ブランウン ロドニー
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/093309(WO,A1)
【文献】
特開平04−320670(JP,A)
【文献】
米国特許第03746554(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0312281(US,A1)
【文献】
米国特許第03185580(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0212476(US,A1)
【文献】
米国特許第03320074(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0045434(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0143010(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0367950(US,A1)
【文献】
米国特許第03222193(US,A)
【文献】
国際公開第2017/093302(WO,A1)
【文献】
特開2006−055167(JP,A)
【文献】
特表2001−518391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/18
B01D 1/14
B01J 2/04
A23L 27/00
A23L 29/00
A23L 33/00
C13B 40/00
C13B 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状態の糖質リッチ産物からの均一な粉末生成物の製造方法であって、前記糖質リッチ産物は、その総固形分量の少なくとも60%として糖質を有し、
前記糖質リッチ産物を1bar超15bar未満の圧力まで加圧する工程と、
空気の不存在下で、前記糖質リッチ産物をガスと混合して、前記糖質リッチ産物が前記ガスで飽和している混合物を形成する工程と、
前記混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、前記輸送ガスと接触した際に、前記混合物からの水が蒸発して前記均一な粉末生成物が残るようにする工程と
を備え、
前記ガスが、二酸化炭素、亜酸化窒素、窒素、又は、二酸化炭素、亜酸化窒素、窒素の1つ以上の混合物であり、
前記糖質リッチ産物が前記ガスで飽和している混合物を形成するために前記糖質リッチ産物に混合される前記ガスの体積による量が、前記糖質リッチ産物の乾燥質量に対して、常温常圧条件下で表される10ノルマルリットル・kg−1・mn−1超であり、
前記輸送ガスは50℃超の温度であり、
前記ガスと前記糖質リッチ産物との混合の前又は混合の間、前記糖質リッチ産物が30℃未満であるが5℃未満ではない温度に冷却される方法。
【請求項2】
前記ガスと前記糖質リッチ産物との混合の前又は混合の間、前記糖質リッチ産物が15℃未満に冷却される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糖質リッチ産物が濃縮されたサトウキビ絞り汁である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記輸送ガスが、空気、酸素、及び二酸化炭素のうちの1以上を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ガスと前記糖質リッチ産物との混合の前又は混合の間、前記糖質リッチ産物を、粉乳、ビタミン、ミネラル、香料及びアロマからなる群から選択される少なくとも1つのさらなる産物と混合する工程
をさらに備える請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物が大気圧に又は真空に脱気される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、流動床乾燥機、噴霧塔、向流縦型乾燥機、及びコンベヤー乾燥機からなる群から選択される乾燥デバイスへと脱気される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記均一な粉末生成物の乾燥物濃度が96%超である請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記糖質リッチ産物が、300センチポアズ超の粘度を有し、その総固形分量の少なくとも85%として糖質を有する濃縮されたサトウキビ絞り汁であり、
前記糖質リッチ産物が4bar超の圧力まで加圧され、
前記ガスが二酸化炭素であり、
前記糖質リッチ産物が前記二酸化炭素で飽和している混合物を形成するために前記糖質リッチ産物に混合される前記二酸化炭素の体積による量が、前記糖質リッチ産物の乾燥質量に対して、常温常圧条件下で表される10ノルマルリットル・kg−1・mn−1超である請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年5月12日出願のオーストラリア国仮特許出願第2017901770号の優先権を主張する。この仮特許出願の内容は、参照によりその全体を援用する。
【0002】
本開示は、高糖質濃度、低ガラス転移の液体から乾燥粉末を製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
サトウキビ、野菜類及び果実等の天然物から抽出された高糖質濃度、低ガラス転移(T
g)の液体は、豊富な量のビタミン並びにカルシウム、クロム、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム及び亜鉛等のミネラルを含有する。これらのエキスのうちのいくつかは、高濃度の植物栄養素、抗酸化物質及び他の健康増進性化合物と共に鉄分並びにビタミンA、C、B1、B2、B3、B5及びB6も含有する。
【0004】
これらのエキスのうちのいくつかをその液体形態から乾燥粉末生成物へと変換するための一般的な技法には、煮沸による脱水が関与し、これにより乾燥した結晶性の糖質リッチの産物がもたらされる。しかしながら、この煮沸プロセスは、摂取されたときに有益な健康上の恩恵をもたらすことが判明しているこれらのエキスの中の成分の除去又は破壊につながる。
【0005】
乾燥状態で健康増進性化合物を維持しようとして、当該技術分野で公知の従来の噴霧乾燥機を使用して、高糖質、低T
gのエキスを噴霧乾燥する試みがなされてきた。これらの従来の技法には、液体エキスを、その液体が乾燥機の中へと噴霧されたときにその液体の中の水が水蒸気に変換される温度に加熱することを伴う。この加熱は最終生成物にとって有害であるだけでなく、この加熱は、乾燥されている生成物の高糖質濃度及び低T
gに起因して乾燥機において問題を引き起こす。従来の乾燥機における温度はとても高く、その高温に起因して糖結晶が乾燥機の壁に生成する。これは、製造業者が、乾燥前に、液体エキスに高T
gの糖質、例えばラクトース(乳糖)又はマルトデキストリンを添加し、その混合物が噴霧乾燥機の壁と衝撃した際に融解することなく成功裏に乾燥されることができるところまで混合物の全体のT
gを上昇させることにつながってきた。混合物の乾燥を成し遂げるために必要とされるマルトデキストリンの量は、最終生成物の50%を超えることがある。加えて、最終の粉末生成物は、このようなプロセスを使用して50%程度の総固形分量までしか乾燥されることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高糖質含有量の低T
gの液体エキスから高い総固形分量の粉末生成物を製造するための費用効率が高い方法であって、最終生成物がそのもとの液体形態で見出された健康増進性成分のいくつか又はすべてを維持する方法に対するニーズがある。
【0007】
本明細書に含まれる文献、行為、材料、装置、物品等のあらゆる議論は、これらの事項のいずれか又はすべてが先行技術の基礎の一部を形成するということ、又は添付の請求項の各々の優先日前に存在したから本開示に関連する分野における共通一般知識であろうということを認めるものと解釈されてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、液体状態の出発産物からの均一な粉末生成物の製造方法であって、この出発産物は、その総固形分量の少なくとも60%として糖質を有し、当該方法は、空気の不存在下で、上記出発産物を1barを超える圧力まで加圧する工程と、空気の不存在下で、ガスを上記出発産物に注入して、この出発産物が上記ガスで実質的に飽和している混合物を形成する工程と、この混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、その輸送ガスと接触した際に、上記混合物からの水が蒸発して上記均一な粉末生成物が残るようにする工程とを備える方法が提供される。いくつかの実施形態では、実質的な飽和を成し遂げるために、上記出発産物の乾燥質量に対するガスの体積による注入速度は、10ノルマルリットルパーキログラムパー分(nl・kg
−1・mn
−1)超であってもよく、ガスの体積は、常温常圧条件下で表される。
【0009】
本開示の別の態様によれば、液体状態の出発産物からの均一な粉末生成物の製造方法であって、このサトウキビエキスは、300センチポアズ超の粘度を有し、その総固形分量の少なくとも85%として糖質を有し、当該方法は、空気の不存在下で、上記サトウキビエキスを4bar超の圧力まで加圧する工程と、空気の不存在下で、二酸化炭素を上記出発産物に注入して、炭酸及びこの出発産物を含む溶液を形成するように、この出発産物が上記二酸化炭素で実質的に飽和している混合物を形成する工程と、この混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、その輸送ガスと接触した際に、上記混合物からの水が蒸発して上記均一な粉末生成物が残るようにする工程とを備える方法が提供される。上記出発産物の乾燥質量に対する二酸化炭素の体積による注入速度は、10nl・kg
−1・mn
−1超であることが好ましく、ガスの体積は、常温常圧条件下で表される。
【0010】
本開示の別の態様によれば、液体状態の出発産物からの均一な粉末生成物の製造装置であって、この出発産物は、その総固形分量の少なくとも60%として糖質を有し、当該装置は、ガスを上記出発産物と混合して、この出発産物が上記ガスで実質的に飽和している混合物を形成するように構成されている熱機械的処理デバイスと、この混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、その輸送ガスと接触した際に、上記混合物からの水が蒸発して上記均一な粉末生成物が残るように構成されている脱気デバイスとを備える装置が提供される。上記出発産物の乾燥質量に対するガスの体積による注入速度は、10nl・kg
−1・mn
−1超であることが好ましく、ガスの体積は、常温常圧条件下で表される。
【0011】
本開示の別の態様によれば、液体状態の出発産物からの均一な粉末生成物の製造方法であって、この出発産物は、その総固形分量の少なくとも60%として糖質を有し、当該方法は、空気の不存在下で、上記出発産物を1barを超える圧力まで加圧する工程と、空気の不存在下で、ガスを上記出発産物に注入して、この出発産物の中の水100gあたり35g超の量の二酸化炭素を含む混合物を形成する工程と、この混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、その輸送ガスと接触した際に、上記混合物からの水が蒸発して上記均一な粉末生成物が残るようにする工程とを備える方法が提供される。
【0012】
本開示の別の態様によれば、液体状態の出発産物からの均一な粉末生成物の製造装置であって、この出発産物は、その総固形分量の少なくとも60%として糖質を有し、当該装置は、ガスを上記出発産物と混合して、この出発産物の中の水100gあたり35g超の量の二酸化炭素を含む混合物を形成するように構成されている混合デバイスであって、上記出発産物は上記ガスで実質的に飽和している混合デバイスと、この混合物を輸送ガスの連続流れの中へ脱気して、その輸送ガスと接触した際に、上記混合物からの水が蒸発して上記均一な粉末生成物が残るように構成されている脱気デバイスとを備える装置が提供される。
【0013】
本明細書全体にわたって、語句「comprise(を含む、備える)」、又は「comprises」」若しくは「comprising」等の変化形は、記載された要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の群を含むことを含意するが、いかなる他の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の群の排除も含意しないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかる糖質ベースの産物の乾燥方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る方法を使用して形成された生成物を示す、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る方法を使用して形成された生成物を示す、走査型電子顕微鏡によって撮影された画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態は、液体形態の糖質リッチの産物からの粉末生成物の連続製造方法に関する。特に、本明細書に記載される方法は、主に、総固形分量(TS)の90%超が糖質で構成され、60℃未満のガラス−液体転移(T
g)を有する水溶液からの乾燥粉末生成物の製造に関する。上記の特性を有する天然に存在する産物の例としては、サトウキビエキス(絞り汁及びシロップ)、ハチミツ、果物エキス(例えば、マンゴー、パイナップル、並びにバナナの絞り汁及び濃縮物等)、野菜エキス(絞り汁及び濃縮物)並びに天然甘味料及び人工甘味料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本開示の特定の実施形態は、一般的な糖質ベースの産物を参照して説明される。しかしながら、本明細書に記載される方法が、上に列挙されたもの等の高糖質含有量及び低T
gを有する多くの天然及び人工の水性産物から、乾燥粉末生成物を製造するために使用されてもよいということは分かるであろう。
【0017】
図1〜
図3を参照して本明細書に記載される方法は、液体状態にある産物からの粉末生成物の連続製造を可能にする。第1工程の間に、液体形態にある糖質リッチの産物は、例えば蒸発によって高粘度状態へと変換される。この高粘度状態にある糖質リッチ産物は、次いで熱機械的処理及びガス飽和(エアレーション)を含む乾燥工程を経る。
【0018】
図1は、液体状態の糖質リッチ産物を粉末形態の糖質リッチ産物へと変換するためのプロセスを示すフロー
図100である。第1の濃縮工程102において、液体状態の糖質リッチ産物、通常は8°Bx〜30°Bxのブリックス濃度を有する液体状態の糖質リッチ産物、が処理されて、50°Bx超、好ましくは70°Bx〜80°Bxのブリックス濃度を有する高粘度状態の糖質リッチ産物が得られる。蒸発のための温度は、必要な蒸発を成し遂げつつも、液体産物へのダメージを限定するように選ばれる。例としては、蒸発装置は、40〜45℃、45〜50℃、55〜60℃、60〜65℃、又は65〜70℃で稼動してもよい。蒸発の間の水の蒸発温度を下げるために、蒸発は、真空下で行われてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、薄膜降下式蒸発缶(好ましくは、多重効用薄膜降下式蒸発缶)等の蒸発装置が使用されてもよい。その場合、蒸発装置の効用に加えて温度勾配が存在してもよい。例えば、三重効用薄膜降下式蒸発缶が、第1の効用では約70℃、第2の効用では約60℃、そして第3の効用では約50℃の温度で稼動してもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、蒸発装置から捕捉された蒸気が、上記糖質リッチ産物からの精油の製造において使用されてもよい。あるいは、又は加えて、蒸気は、より詳細に後述されるように、蒸発装置から捕捉されて、後の製造工程において高粘度の糖質リッチシロップと混合されてもよい。
【0021】
他の実施形態では、上記糖質リッチ産物は、蒸発以外の技法を使用して濃縮されてもよい。例えば、糖質リッチ産物は、当該技術分野で公知の膜技術を使用して濃縮されてもよい。
【0022】
濃縮された(高粘度の)糖質リッチ産物は、次いで、少なくとも1つの熱機械的処理工程104に供されて、濃縮された糖質リッチ産物と二酸化炭素等のガスとの混合物が得られてもよい。この熱機械的処理工程は、押出機等の熱機械的処理デバイスの中で実施されることが好ましい。この押出機は、当該技術分野で公知の2以上の同方向回転、かみ合い型スクリューを含んでもよい。熱機械的処理デバイスの他の例としては、パドルミキサー又はスクリューミキサー等の混合機、並びにブレンダー、ニーダー及びポンプが挙げられる。
【0023】
熱機械的処理デバイスは、一方で、上記のとおりの蒸発(又は他の濃縮)工程に由来する高粘度状態の糖質リッチ産物、並びに、他方で、所定の割合の二酸化炭素及び/又は所定の割合の液体若しくは粉末の添加剤、例えば液体エキスアロマ及び他の原材料の同時導入のためのゾーンを備える。他の原材料としては、粉乳、ビタミン、ミネラル及び他の添加剤をを挙げてもよい。
【0024】
上記に加えて、蒸発装置で捕捉される蒸気は、この時点での糖質リッチ産物と混合されて、そうしないと蒸発の間に失われる揮発性のアロマを捕捉してもよい。糖質リッチ産物と混合されるいずれの添加剤も上記糖質リッチ産物のpH及び濃度に耐えることができる必要があるということは分かるであろう。
【0025】
熱機械的処理デバイスとして押出機を使用することにより、投入された糖質リッチ産物の連続処理が可能になる。熱機械的可塑化/混合が、高粘度の糖質リッチ産物に対して実施されてもよく、これは、次には、二酸化炭素及び/又は任意の上記の他の添加剤と高粘度の糖質リッチ産物との混合、ブレンド、せん断及び冷却(すべて、制御された圧力及び温度のもとで)を可能にする。
【0026】
いくつかの実施形態では、この熱機械的処理工程は、5barを超え、好ましくは15bar以下の加圧下で行われる。しかしながら、熱機械的処理工程が行われる圧力は、パイプ長さ、ノズル背圧等が挙げられるがこれらに限定されないいくつかの設備パラメータに依存する。
【0027】
熱機械的処理工程は、例えば30℃未満、より好ましくは15℃未満の低温で行われることが好ましい。糖質リッチ産物の温度が下がると、水性の糖質リッチ産物に溶け込むことができる二酸化炭素の量及び速度が上昇する。この段階での二酸化炭素の注入は、糖質リッチ産物の粘度も下げ、溶液が熱機械的処理デバイスをより簡単に出ることができるようになる。他方、温度が下がると、糖質リッチ産物の粘度も上昇する。従って、上記温度は、5℃よりも低くはされないことが好ましい。
【0028】
熱機械的処理工程104の結果の生成物は、60°Bx〜90°Bxのブリックス濃度を有する高粘度の糖質リッチ産物である。
【0029】
この高粘度の糖質リッチ産物は、直接かつ連続的に、雰囲気に曝すことなく、工程106でそれがガス飽和される場所であるガス飽和デバイスへと移されることが可能である。このガス飽和デバイスは、二酸化炭素を含む糖質リッチ産物を切断して発泡体を形成するように構成されている複数の撹拌翼を備えるデバイスを備えてもよい。あるいは、サトウキビ産物を二酸化炭素(又は、大気条件のもとでの他のガス)に導入するために、ヘリカルミキサーが使用されてもよい。
【0030】
ガス飽和工程106の間、上記糖質リッチ産物は、炭酸及び糖質リッチ産物の少なくともいくらかを含む溶液を形成するように、糖質リッチ産物を実質的に飽和させるのに十分な量の大量の二酸化炭素(又は、大気条件のもとでの他のガス)と混合される。二酸化炭素を使用して飽和を達成するために、熱電処理工程104及びガス飽和工程106の中で注入される二酸化炭素の量は、熱機械的処理工程でのサトウキビ産物投入量の乾燥質量に対して、常温常圧条件下で表される10nl・kg
−1・mn
−1超のガスであることが好ましい。いくつかの実施形態では、注入される二酸化炭素の量は、20nl・kg
−1・mn
−1超、又は25nl・kg
−1・mn
−1超、又は30nl・kg
−1・mn
−1超、又は35nl・kg
−1・mn
−1超、又は40nl・kg
−1・mn
−1超、又は45nl・kg
−1・mn
−1超、又は50nl・kg
−1・mn
−1超である。いくつかの実施形態では、注入される二酸化炭素の量は、使用される高粘度の糖質リッチ産物の中に存在する水100gあたり35g超である。飽和を達成するために必要とされる二酸化炭素(又は、大気条件のもとでの他のガス)の量は、高粘度の糖質リッチ産物の中の水の量及び熱機械的処理デバイスの中の温度及び圧力に依存することになる。いくつかの実施形態では、上記のレベルの量のいずれかで二酸化炭素を注入する間、糖質リッチ産物は、30℃以下、好ましくは15℃以下の温度で保持される。いくつかの実施形態では、上記のレベルの量のいずれかで二酸化炭素を注入する間、糖質リッチ産物は5bar以上の圧力で保持される。
【0031】
ガス飽和工程106に引き続いて、脱気工程108が実施される。脱気工程108の間、ガス飽和された糖質リッチ産物は、突然の圧力低下に供される。この圧力低下は、炭酸の二酸化炭素及び水への分離、並びにその中に含有される水のほぼ瞬間的な蒸発を引き起こし、糖質リッチ産物の均質な固体粒子からなる粉末の糖質リッチ産物が残る。
【0032】
必要な脱気を成し遂げるために、圧力が大気圧又は真空まで下げられてもよい。
【0033】
脱気工程108と同時又は脱気工程108のすぐ後に、糖質リッチ産物は工程110で乾燥されてもよい。いくつかの実施形態では、ガス飽和された糖質リッチ産物は、ガス飽和デバイスから1以上のノズルを介して輸送ガスの流れの中へと出力(排出)されてもよい。この輸送ガスは、空気、酸素又は二酸化炭素のうちの1以上から選択されてよく、好ましくは50℃よりも高い温度にある。
【0034】
上記輸送ガスは、ガス飽和された糖質リッチ産物を乾燥デバイスへと輸送するように構成されている。乾燥デバイスは、流動床乾燥機、噴霧塔(霧化塔)、向流縦型乾燥機、及びコンベヤー乾燥機のうちの1以上の形態であってもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、乾燥後、サトウキビ産物は、96%超、好ましくは98%以上の乾燥物の濃度を有する。
【0036】
上記のとおりの熱機械的処理工程104の間に、二酸化炭素(又は、大気圧の他のガス)を加えることが好ましいが、いくつかの実施形態では、ガス飽和工程106の間だけ二酸化炭素が加えられてもよい。他の実施形態では、上記二酸化炭素のすべてが、熱機械的処理工程104の間に加えられてもよい。糖質リッチ産物が上記のガスで飽和されるところまでその産物がガス飽和される限りは、上記二酸化炭素は、固体、液体又は加圧下のガスとしてどの段階で導入されてもよい。
【0037】
上記の実施形態では、糖質リッチ産物は二酸化炭素と混合されるが、他の実施形態では、二酸化炭素に加えて又は二酸化炭素の代わりに、二酸化炭素と同様の特徴を有する他のガスが使用されてもよい。そのようなガスは、水に対する良好な溶解性を示すことが好ましい。さらに、そのような溶解性は、熱機械的処理工程104及び/又はガス飽和工程106のあいだ糖質リッチ産物が低温で維持されることができるように、温度の下降と共に向上することが好ましい。これらの特徴を呈するガスの一例は、亜酸化窒素である。別の例はブタノールであるが、ブタノールは食品等級の製品の製造での使用には好適ではない。他の例としては、アルゴン、エチレン、エタン、一酸化炭素、水素、ヘリウム、及び窒素が挙げられる。これらのガスのうちの2以上が組み合わされて、本明細書に記載されるプロセスにおいて使用されてもよい。
【0038】
亜酸化窒素が上記糖質リッチ産物と混合される場合、飽和を達成するために、水100mLあたり55mL超の量が使用されることが好ましい。
【0039】
異なる糖質リッチ産物が、含有される糖質が異なることに起因して異なるガラス転移温度を有してもよいということは分かるであろう。例えば、サトウキビエキス(絞り汁又は濃縮物)に含有される糖質は、およそ95%スクロース(ショ糖)であり、これは約54℃のT
gを有する。対照的に、果物の絞り汁中の糖質は50%超のフルクトースからなる傾向があり、これは、およそ26℃のより低いT
gを有する。マルトデキストリン及びラクトース等の他の糖質は、ガラス転移温度を高めるために糖質リッチ産物に添加されることが多いが、これらは100℃の領域のT
gを有する。
【0040】
このため、糖質リッチ産物のTgは、乾燥されるときのその挙動に影響を及ぼす。例えば、比較的高いガラス転移を有するサトウキビシロップは、サトウキビ絞り汁が乾燥機の壁に固着するリスクなしに、比較的高い百分率総固形分量(>70%)で乾燥機に注入されることができる。
【0041】
対照的に、高レベルのフルクトースを有し、従ってサトウキビシロップのTgと比べて比較的低いTgを有する蜂蜜及び果物ベースの糖質産物は、乾燥機を循環する輸送ガス及び乾燥ガスによってそれらが加熱されるにつれて、乾燥機の壁で結晶化する可能性がある。従って、好ましくは、大量の低T
gの糖質、例えばフルクトースを含有する糖質リッチ産物を加工するとき、乾燥機の壁及び他の表面は、例えば冷却ジャケットを使用して冷却されてもよい。しかしながら、乾燥機の表面は過度に冷却されてはならない。というのも、そのような冷却は、乾燥機の中に存在するあらゆるガス状の水を壁上で凝縮させる可能性があるからである。乾燥機の壁の上の凝縮物は、それ自体で、乾燥機の壁の上での糖質粒子の結晶化につながりうる。
【0042】
この目的のために、乾燥機内の相対湿度をできるだけ低く維持して、最終の粉末生成物の百分率総固形分量を最大にすることも好ましい。好ましくは、乾燥機からの排ガスの相対湿度は、12%未満に維持される。これは、乾燥機に入るガスが乾燥機に入るガスについて3g/m
3未満の水分含量を有することを確保することにより成し遂げられてもよい。いくつかの地理的位置においては、周囲の空気はこれらの特徴を示す可能性がある。しかしながら、他の地域では、乾燥機に入る時のガスから水を除去するように、乾燥機のガス(例えば空気)入力のところに乾燥剤が準備されてもよい。
【実施例】
【0043】
以下の実施例では、オーストラリア国仮特許出願第2017901576号及び国際特許出願第PCT/AU2018/050338号に記載された方法を使用して、サトウキビから抽出したサトウキビ産物から均一な糖質リッチ産物を生成した。これらの各特許出願の内容は、参照によりその全体を本明細書に援用したものとする。
【0044】
濃縮されたサトウキビ絞り汁(バージョン1)
以下の実施例では、工程102での濃縮の後かつ工程104での熱機械的処理の前に1.4の比重を有する高粘度のサトウキビ溶液を、工程106でのガス飽和後にその比重が0.4未満に下がるように、二酸化炭素でガス飽和処理した。このサトウキビ溶液の加工の仕様は以下のとおりである。
【0045】
出発産物:
総固形分量(TS) 70%
比重:0.4
注入したガスの量:
常温常圧条件下で表され、かつ熱機械的処理工程での出発産物投入量の乾燥質量に対して、10nl・kg
−1・mn
−1超の二酸化炭素。
熱機械的加工:
5bar超の圧力;
ビタミン/ミネラルとの任意の混合;
二酸化炭素の注入;
産物の温度:15℃未満。
ガス飽和:
二酸化炭素の注入;
産物の温度:15℃未満。
脱気:
ノズル圧力:>4bar;
乾燥機の注入口:>80℃。
得られた生成物(
図2及び
図3に示すとおり):
均一;
50μm未満;
乾燥物の濃度96%超。
【0046】
上記の方法によって得られた内部構造の特徴を判定するために、走査型電子顕微鏡を使用して、本出願人は、得られた粉末サトウキビ生成物の測定を行った。走査型電子顕微鏡によって得られた画像を、それぞれ50μm及び10μmで
図2及び
図3に示す。この粉末生成物が、実質的に均質の球体を構成する中実の内部構造を有することがわかる。これは、サトウキビ生成物の単独粒子を描写する
図3においてより明瞭に示されている。得られた生成物は、極度に制限された多孔性を示し、各粒子が中実の糖質成分で構成されていることをさらに実証する。
【0047】
最終生成物は、乾燥工程110の出力の時点で0.11の水分活性を有していた。
【0048】
濃縮されたサトウキビ絞り汁(バージョン2)
以下の実施例では、工程102での濃縮の後かつ工程104での熱機械的処理の前に1.4の比重を有する高粘度のサトウキビ溶液を、工程106でのガス飽和後にその比重が0.5未満に下がるように、二酸化炭素でガス飽和処理した。サトウキビ溶液の加工の仕様は以下のとおりである。
【0049】
出発産物:
総固形分量(TS) 70%
比重:0.5
注入したガスの量:
常温常圧条件下で表され、かつ熱機械的処理工程での出発産物投入量の乾燥質量に対して、10nl・kg
−1・mn
−1超の二酸化炭素。
熱機械的加工:
5bar超の圧力;
ビタミン/ミネラルとの任意の混合;
二酸化炭素の注入;
産物の温度:15℃未満。
ガス飽和:
二酸化炭素の注入;
産物の温度:15℃未満。
脱気:
ノズル圧力:>4bar;
乾燥機の注入口:>80℃。
得られた生成物(
図2及び
図3に示すとおり):
均一;
50μm未満;
乾燥物の濃度96%超。
【0050】
乾燥機から出力した粉末サトウキビ生成物の水分活性は、およそ0.3であることがわかった。
【0051】
本開示の幅広い全体範囲から逸脱しない範囲で上記の実施形態に対して多くの変更及び/又は変形がなされうるということは、当業者には分かるであろう。それゆえ本実施形態は、あらゆる点で、例示的なものであり限定するものではないと考えられるべきである。