特許第6983356号(P6983356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983356電解銅箔、集電体、電極、及びそれを含むリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983356
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】電解銅箔、集電体、電極、及びそれを含むリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20211206BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   H01M4/66 A
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2021-506268(P2021-506268)
(86)(22)【出願日】2020年1月15日
(65)【公表番号】特表2021-524661(P2021-524661A)
(43)【公表日】2021年9月13日
(86)【国際出願番号】CN2020072158
(87)【国際公開番号】WO2020156159
(87)【国際公開日】20200806
【審査請求日】2021年2月5日
(31)【優先権主張番号】62/800,263
(32)【優先日】2019年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/429,921
(32)【優先日】2019年6月3日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】黄慧芳
(72)【発明者】
【氏名】頼庭君
(72)【発明者】
【氏名】鄭桂森
(72)【発明者】
【氏名】周瑞昌
(72)【発明者】
【氏名】頼耀生
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/207786(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/081041(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/027174(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/132987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D1/04
H01M4/64 − 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈積面と、前記沈積面の反対側にあるドラム面と、を含む電解銅箔であって、
前記沈積面及び前記ドラム面は各々残留応力を有し、
前記沈積面と前記ドラム面との間の前記残留応力の差の絶対値は、最大95MPaであり、
前記沈積面は、0.15μm3/μm2〜1.35μm3/μm2の範囲の空隙容積(Vv)を示し、
前記電解銅箔の沈積面は、1.5〜6.5の範囲の尖度(Sku)を有することを特徴とする、
電解銅箔。
【請求項2】
前記電解銅箔の沈積面は、1.6〜6.2の範囲のSkuを有することを特徴とする、請求項に記載の電解銅箔。
【請求項3】
前記電解銅箔の沈積面は、1.7〜5.8の範囲のSkuを有することを特徴とする、請求項に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記電解銅箔のドラム面は、1.5〜6.5の範囲のSkuを有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項5】
前記電解銅箔の沈積面は、0.15μm3/μm2〜1.30μm3/μm2の範囲のVvを示すことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項6】
前記電解銅箔の沈積面は、0.16μm3/μm2〜1.18μm3/μm2の範囲のVvを示すことを特徴とする、請求項に記載の電解銅箔。
【請求項7】
前記電解銅箔の沈積面は、0.17μm3/μm2〜1.11μm3/μm2の範囲のVvを示すことを特徴とする、請求項に記載の電解銅箔。
【請求項8】
前記電解銅箔の沈積面とドラム面との間の残留応力の差の絶対値は、最大85MPaであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項9】
前記電解銅箔の沈積面とドラム面との間の残留応力の差の絶対値は、5MPa〜95MPaの範囲であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項10】
前記電解銅箔の沈積面とドラム面との間の残留応力の差の絶対値は、5MPa〜60MPaであることを特徴とする、請求項に記載の電解銅箔。
【請求項11】
前記電解銅箔の沈積面は、0.14μm3/μm2〜1.15μm3/μm2の範囲のコア空隙容積(Vvc)を示すことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項12】
前記電解銅箔の沈積面は、最大0.15μm3/μm2の谷部空隙容積(Vvv)を示すことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項13】
前記電解銅箔のドラム面は、0.15μm3/μm2〜1.30μm3/μm2の範囲のVvを示すことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項14】
前記電解銅箔は、裸銅箔と、前記裸銅箔の上に配置された表面処理層とを含み、前記ドラム面及び前記沈積面は、前記電解銅箔の最外面に位置することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の電解銅箔を含む、
リチウムイオン二次電池用の集電体。
【請求項16】
請求項15に記載の集電体と、前記集電体上にコーティングされた活物質と、を含む、
リチウムイオン二次電池用の電極。
【請求項17】
請求項16に記載の電極を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解銅箔、特にリチウムイオン二次電池のための電解銅箔に関する。更に、本開示は、集電体、電極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギーと高パワー密度とを兼備することから、携帯電話及びタブレットなどの携帯型電子機器(PED)、電動工具、電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、宇宙飛行用途、軍事用途及び鉄道の分野で最も選択される電源製品である。電気自動車(EV)には、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、及び純粋なバッテリ電気自動車(BEV)が含まれる。EVが、化石燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル燃料など)を動力とする輸送の大部分の代わりになれば、リチウムイオン二次電池が温室効果ガス排出量を著しく削減することになる。更に、リチウムイオン二次電池は、その高エネルギー効率により、様々な配電網用途に使用でき、風力、太陽エネルギー、地熱などの再生可能資源から得られるエネルギーの品質を改善し、それによりエネルギー持続可能な社会の幅広い構築を促進する可能性がある。
【0003】
このため、政府及び学術的研究所だけでなく商業企業も総じて、リチウムイオン二次電池の基礎研究を強い興味を持って実施している。近年、この分野における研究開発は多くなっており、リチウムイオン二次電池は現在市販されているが、様々な分野で更に応用できるようにリチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善することが依然として必要とされている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが正極と負極の間を行き来することを利用して充放電を完了する。リチウムイオン二次電池は、通常、負極活物質が沈積された金属箔の負極集電体を含む。銅は優れた導電性を有することから、銅箔は負極集電体としての使用に特に好適である。更に、リチウムイオン二次電池の容量を増大するために、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、及びスズ(Sn)などの物質を高容量活物質と混合して、リチウムイオン二次電池に充填して、活物質の膨張と収縮を増強し、活物質が接触している銅箔への応力を増加させる。更に、最近の改良製品の一部では、リチウムイオン二次電池の容量を増大するために、電極用の銅箔が折畳まれ、又は屈曲され、かつ巻回されている。銅箔が電池の使用中の活物質の膨張と収縮に耐えられずに亀裂した場合、又はリチウムイオン二次電池の製造プロセス中に折畳みと巻回に耐えられない場合には、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪影響を受ける。
【0005】
したがって、銅箔の特徴及び特性を改善すること、及びリチウムイオン二次電池の性能を強化することへの要求が依然として存在する。例えば、高い充放電サイクル下での銅箔と活物質との間の分離又は銅箔の破断から生じる不良の問題、及び最終的にリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の短縮の問題は、まだ解決が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−136736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本開示の目的は、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命性能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の態様では、本開示は、沈積面と、沈積面の反対側にあるドラム面と、を含む電解銅箔を提供し、この沈積面及びドラム面は各々残留応力(RS)を有し、電解銅箔は下記の特徴を有する。
(a)沈積面とドラム面との間の残留応力の差の絶対値(差分値とも略され、下記のΔRSで表される)が、最大約95メガパスカル(MPa)である。
(b)沈積面は、約0.15立方マイクロメートル毎平方マイクロメートル(μm/μm)〜約1.35μm/μmの範囲の空隙容積(Vv)を示す。
【0009】
本開示によると、第1の態様の電解銅箔の沈積面及びドラム面は、電解銅箔の相対する2つの最外面を指す。すなわち、沈積面及びドラム面は、電解銅箔の最外面に位置する。ΔRS及び沈積面のVvが適切である場合、本開示の電解銅箔は卓越した品質を示し、集電体として好適となる。その結果、電解銅箔は性能を改善でき、リチウムイオン二次電池として使用したときに充放電サイクル寿命を延長できる。
【0010】
上記目的を達成するため、第2の態様では、本開示は、沈積面と、沈積面の反対側にあるドラム面と、を含む電解銅箔を提供し、この電解銅箔は下記の特徴を有する。
(a)沈積面は、約1.5〜約6.5の範囲の尖度(Sku)を有する。
(b)沈積面は、約0.15μm/μm〜約1.35μm/μmの範囲の空隙容積(Vv)を示す。
【0011】
上記のように、第2の態様の電解銅箔の沈積面及びドラム面は、電解銅箔の相対する2つの最外面を指す。沈積面のSku及びVvが適切である場合、本開示の電解銅箔はまた、卓越した品質を示し、集電体として好適となる。その結果、電解銅箔は性能を改善でき、リチウムイオン二次電池として使用したときに充放電サイクル寿命を延長できる。
【0012】
本発明で用いるとき、「残留応力」とは、すべての印加外力が取り除かれた後に、物体、構成要素又は構造内に存在する応力である。残留応力が圧縮応力である場合、残留応力はマイナスであり、その値は、値の前にマイナス記号「−」をつけて表される。残留応力が引張応力である場合、残留応力はプラスであり、必要に応じてその数値の前にプラス記号「+」を使用してもよい。
【0013】
必要に応じて、電解銅箔のΔRSは、約5MPa〜約95MPaの範囲であってもよい。上記の範囲は連続的であり、下記の値(その単位はMPaである)のいずれかとして表され得るが、これらに限定されないことを理解されたい。
5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95。
上記の値の各々は、別の数値範囲の端点を示し得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、電解銅箔のΔRSを低下させることは、かかる電解銅箔を組み込んだリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の延長に有益である。すなわち、ΔRSがより大きい電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池は、ΔRSがより小さい電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池と比べて、使用寿命が短くなる。ΔRSが大きすぎる(例えば、95MPaを超える)場合、この電解銅箔の沈積面とドラム面との間の残留応力の差が過剰な電解銅箔は、ΔRSが95MPa未満の場合よりも容易に破断し得る。つまり、電解銅箔のΔRSが高すぎると、充放電サイクル中に過度の膨張収縮によって引き起こされる電解銅箔の破損により、電池性能が悪影響を受けることになる。したがって、電解銅箔のΔRSが大きすぎると、充放電サイクル試験中の過度の膨張収縮により電解銅箔が容易に破断することから、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命が短くなる。
【0015】
いくつかの実施形態において、電解銅箔のΔRSは出来るだけ最小化される。必要に応じて、電解銅箔のΔRSは、最大約85MPaである。必要に応じて、電解銅箔のΔRSは、最大約81MPaである。好ましくは、電解銅箔のΔRSは、5MPa〜約60MPaの範囲であってもよい。この電解銅箔は、リチウムイオン二次電池に適用したときに、充放電サイクル寿命を950回以上に改善し得る。より好ましくは、電解銅箔のΔRSは約5MPa〜約50MPaの範囲であってもよく、その結果、電解銅箔は、リチウムイオン二次電池に適用したときに、充放電サイクル寿命を1000回以上に改善し得る。更により好ましくは、電解銅箔のΔRSは約5MPa〜約20MPaの範囲であってもよく、その結果、電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池は、1200回以上の充放電サイクル寿命を有し得る。
【0016】
必要に応じて、沈積面の残留応力は、その電解銅箔のドラム面の残留応力よりも基本的に大きい。必要に応じて、電解銅箔の沈積面の残留応力は、約−40MPa〜約100MPaであってもよい。必要に応じて、電解銅箔のドラム面の残留応力は、約−47MPa〜約42MPaであってもよい。
【0017】
本明細書で使用するとき、「空隙容積」は、負荷面積率曲線で囲まれた面積を特定の負荷率(material ratio:mr)の高さにおいて積分することで計算され、この負荷面積率曲線は、標準方法ISO25178−2:2012に基づいて得られる。Vvは、電解銅箔の特定の面における単位面積当たりの空隙の総容積を表す。図1の左側には、電解銅箔の沈積面又はドラム面の三次元画像が示されている。対応する負荷面積率曲線を引くことが可能であり、それは図1の右側に示すようなものである。最も高いピークの頂部をmr0%に設定し、最も低い谷をmr100%に設定する。Vvは、特定の水平切断面(その高さは、0%〜100%の特定の負荷率に対応する)の下、かつ谷の底部のすべてよりも上の囲まれた空隙の容積を積分することによって計算される。例えば、mrが100%のとき、対応するVvはゼロであり、mrが0%のとき、対応するVvは最大である。特記のない限り、本明細書に記載されるVvは、mrが10%の空隙容積を指し、これは図1でVvとして表示された領域である。
【0018】
図2には、異なる種類の容積空隙パラメータの関係が図示されている。コア空隙容積(Vvc)は、第1の負荷率(mr1)と第2の負荷率(mr2)との間の空隙容積の差である。特記のない限り、本明細書に記載のVvcは、第1の負荷率10%と第2の負荷率80%との間の空隙容積の差、すなわち、図2にVvcとして表示されている領域である。更に、谷部空隙容積(谷の空隙容積(Vvv)とも呼ばれる)は、第2の負荷率における空隙容積である。特記のない限り、本明細書に記載されるVvvは、mr80%における空隙容積であり、すなわち、この領域は図2でVvvとして表示されている。換言すると、VvはVvcとVvvの合計である。
【0019】
本開示によると、電解銅箔の沈積面は、約0.15μm/μm〜1.35μm/μmの範囲のVvを示し得、電解銅箔のドラム面は約0.15μm/μm〜約1.35μm/μmの範囲のVvを示し得る。換言すると、約0.15μm/μm〜約1.35μm/μmの範囲に入るVvは、電解銅箔の沈積面のVv又は電解銅箔のドラム面のVvである。沈積面及びドラム面のVvは、独立して値をとり得る。上記の範囲は連続的であり、下記の値(その単位はμm/μmである)のいずれかとして表せるが、これらに限定されないことを理解されたい。
0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.50、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57、0.58、0.59、0.60、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1.00、1.01、1.02、1.03、1.04、1.05、1.06、1.07、1.08、1.09、1.10、1.11、1.12、1.13、1.14、1.15、1.16、1.17、1.18、1.19、1.20、1.21、1.22、1.23、1.24、1.25、1.26、1.27、1.28、1.29、1.30、1.31、1.32、1.33、1.34、1.35。
上記の値の各々は、別の数値範囲の端点を示し得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、電解銅箔は、特定の上限及び下限内(例えば、下限0.15μm/μm及び上限1.35μm/μm内)の制御された範囲にVvを有し得る。Vvが小さすぎる、例えば0.15μm/μm未満である場合、アンカー効果が弱いため、活物質への電解銅箔の密着力が弱い。すなわち、活物質が電解銅箔の表面に上手く固定できず、そのため密着強度が不十分となる。逆に、Vvが高すぎる、例えば1.35mm/μmである場合、Vvが高いことは電解銅箔のその面の空隙容積が大きいことを示し、活物質は電解銅箔のその面を均一にコーティングできず、かつこれらの空隙の全てを充填できないため、電解銅箔と活物質との間にいくつかの未被覆の空隙と被覆された空隙とが残る。結果として、Vvが高すぎる又は低すぎる場合、電解銅箔と活物質との密着力が弱い。つまり、上記の電解銅箔を用いて製造したリチウムイオン二次電池は、適切な範囲にVvを有さず、より短い充放電サイクル寿命と低い電池性能を示すこととなる。
【0021】
必要に応じて、電解銅箔の沈積面及びドラム面は、それぞれ独立して約0.15μm/μm〜1.30μm/μmの範囲のVvを示し得る。必要に応じて、電解銅箔の沈積面及びドラム面は、それぞれ独立して約0.16μm/μm〜1.18μm/μmの範囲のVvを示し得る。一実施形態では、電解銅箔の沈積面及びドラム面は、それぞれ独立して約0.17μm/μm〜1.11μm/μmの範囲のVvを示し得る。別の実施形態において、電解銅箔の沈積面及びドラム面は、それぞれ独立して約0.25μm/μm〜1.00μm/μmの範囲のVvを示し得る。
【0022】
電解銅箔の沈積面に関して、Vvcは0.14μm/μm〜1.15μm/μmの範囲であってもよい。必要に応じて、電解銅箔の沈積面は、0.15μm/μm〜1.10μm/μmの範囲のVvcを示し得る。必要に応じて、電解銅箔の沈積面は、最大約0.15μm/μmのVvvを示し得る。具体的には、電解銅箔の沈積面は、約0.01μm/μm〜約0.15μm/μmの範囲、又は約0.01μm/μm〜約0.10μm/μmの範囲のVvvを示し得る。
【0023】
電解銅箔のドラム面に関して、Vvcは0.14μm/μm〜1.15μm/μmの範囲であってもよい。必要に応じて、電解銅箔のドラム面は、0.15μm/μm〜1.10μm/μmの範囲のVvcを示し得る。必要に応じて、電解銅箔のドラム面は、0.15μm/μm〜0.75μm/μmの範囲のVvcを示し得る。必要に応じて、電解銅箔のドラム面は、最大約0.15μm/μmのVvvを示し得る。具体的には、電解銅箔のドラム面は、約0.01μm/μm〜約0.15μm/μmの範囲、約0.01μm/μm〜約0.10μm/μmの範囲、又は約0.01μm/μm〜約0.05μm/μmの範囲のVvvを示し得る。
【0024】
本明細書で使用するとき、「尖度」は、標準方法ISO25178−2:2012に従って表面の高さ分布の鋭さを決定するための尺度である。低いSkuは、表面の高さ分布がより平坦であることを表すのに対し、高いSkuは、表面のピーク又は谷の鋭さがより大きいことを表し、これはより急峻なピーク及び谷が存在することを意味する。
【0025】
約1.5〜約6.5の範囲に入るSkuは、電解銅箔の沈積面のSku又は電解銅箔のドラム面のSkuであり得る。換言すると、電解銅箔の沈積面のSkuを制御することに加え、電解銅箔の沈積面のSku及びドラム面のSkuの両方を制御できる。沈積面のSku及びドラム面のSkuは、独立した値であってもよい。上記の範囲は連続的であり、下記の値のいずれかとして表され得るが、これらに限定されないことを理解されたい。
1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5。
上記の値の各々は、別の数値範囲の端点を示し得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、電解銅箔の沈積面及び/又はドラム面のSkuを制御することも、かかる電解銅箔を組み込んだリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の延長に有益である。電解銅箔の沈積面及び/又はドラム面のSkuが低すぎる(例えば1.5未満)、又は高すぎる(例えば6.5超)場合、活物質と電解銅箔の沈積面及び/又はドラム面との密着が弱い。Skuを適切な範囲内に制御できない電解銅箔で製造した電池は、充放電サイクル寿命が短くなり、電池性能が低くなる。
【0027】
必要に応じて、電解銅箔の沈積面のSku及び/又はドラム面のSkuは、独立して1.5〜6.5の範囲であってもよい。必要に応じて、電解銅箔の沈積面のSku及び/又はドラム面のSkuは、独立して1.6〜6.2の範囲であってもよい。必要に応じて、電解銅箔の沈積面のSku及び/又はドラム面のSkuは、独立して1.7〜5.8の範囲であってもよい。実施形態の1つでは、電解銅箔の沈積面のSku及び/又はドラム面のSkuは、独立して1.5〜3.7の範囲であってもよい。別の実施形態において、電解銅箔の沈積面のSku及び/又はドラム面のSkuは、独立して4.0〜6.5の範囲であってもよい。
【0028】
必要に応じて、電解銅箔は約3μm〜約20μmの厚さを有し得るが、これに限定されない。当業者は、電解銅箔の厚さを個別の必要性に従って正しく調節できることを理解できる。
【0029】
本明細書で使用するとき、電解銅箔の沈積面及びドラム面の定義は、電解銅箔の製造プロセス中のその相対的位置に関係する。一実施形態では、電解銅箔は、電着工程の後に製造された裸銅箔(bare copper foil)であってもよく、これはいかなる表面処理も行われていない、むきだしの銅箔である。電着工程の間、裸銅箔は、硫酸銅及び硫酸を主成分として含む銅電解質溶液と、寸法安定性アノード(DSA)としてイリジウム含有成分又は酸化イリジウムでコーティングされたチタンプレートと、カソードドラムとしてチタンドラムを使用し、この2つの電極間に直流電流を流して銅電解質溶液内の銅イオンをチタンカソードドラム上に電着させ、次いで、裸銅箔をチタンカソードドラムから剥がして巻き取ることによって、調製されてもよい。
本明細書において、銅電解質溶液に近い裸銅箔の面を「沈積面」と呼び、チタンカソードドラムの表面に近い裸銅箔の面を「ドラム面」と呼ぶ。沈積面及びドラム面はいずれも電解銅箔の最外面である。別の実施形態において、電解銅箔は、電着工程の後に表面処理加工された銅箔であってもよい。つまり、電解銅箔は、裸銅箔と、該裸銅箔の上に配置された表面処理層とを含み、沈積面及びドラム面は、電解銅箔の最外面である。換言すれば、表面処理で更に加工された裸銅箔を有する電解銅箔の場合、沈積面及びドラム面はいずれも、電解銅箔の相対する最外面である。
【0030】
必要に応じて、表面処理層は、防錆層であってもよいが、これに限定されない。防錆層は、裸銅箔を、例えば腐食によって生じる変色から保護できる。必要に応じて、電着工程後に、調製された裸銅箔を、防錆材を含有する溶液に浸漬又は通過させ、電気めっきを実施して、その上に防錆層を形成できる。例えば、防錆材は、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)又はこれらの任意の組み合わせを含み、あるいは、防錆材はアゾール化合物のような有機化合物を含んでもよい。表面処理は、連続的で、電解銅箔を製造するプロセス全体の一部であってもよい。
【0031】
上記の目的を達成するため、第3の態様において、本開示は上記電解銅箔を含む集電体を提供する。第1又は第2の態様に述べたように、電解銅箔が上記の2つの特徴を有する場合、例えば、適切に制御されたΔRS及び沈積面のVvを有する、又は適切に制御された沈積面のSku及びVvを有する場合、第1及び第2の態様の電解銅箔は、集電体に好適である。
【0032】
必要に応じて、集電体を負極集電体又は正極集電体として使用できる。
【0033】
上記の目的を達成するため、第4の態様において、本開示は電極を提供し、該電極は上記集電体と活物質とを含み、該活物質は集電体上にコーティングされていてもよい。
【0034】
必要に応じて、活物質は、正極活物質でも負極活物質でもよい。一実施形態では、正極活物質は、電解銅箔の面上にコーティングされて、正極を調製し得る。別の実施形態において、負極活物質は、電解銅箔の面上にコーティングされて、負極を調製し得る。
【0035】
負極活物質は、炭素含有物質、ケイ素含有物質、炭化ケイ素複合材、金属、金属酸化物、金属合金、又はポリマーであってもよい。炭素含有物質又はケイ素含有物質が好ましいが、これらに限定されない。具体的には、炭素含有物質は、非黒鉛化炭素、コークス、黒鉛、ガラス状カーボン、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック、又は高分子焼成物質であってもよいがこれらに限定されない。
コークスは、ピッチコークス、ニードルコークス、又は石油コークスを含み得る。高分子焼成物質は、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂又はフラン樹脂を炭酸化に適した温度で焼成することで得られ得る。ケイ素含有物質は、リチウムイオンとの合金を形成する卓越した能力、及びリチウム合金からリチウムイオンを抽出する卓越した能力を有する。ケイ素含有物質がリチウムイオン二次電池に適用された場合、高エネルギー密度の二次電池が得られる。ケイ素含有物質は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ルテニウム(Ru)、又はこれらの組合せと組み合わせて合金を形成し得る。金属又は金属合金の元素は、Co、Fe、Sn、Ni、Cu、Mn、Zn、In、Ag、Ti、Ge、Bi、Sb、Cr、Ru、及びMoからなる群から選択され得るが、これらに限定されない。上記の金属酸化物は、酸化第二鉄、四酸化三鉄、二酸化ルテニウム、二酸化モリブデン、及び三酸化モリブデンであり得るが、これらに限定されない。上記のポリマーの例としては、ポリアセチレン及びポリピロールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
必要に応じて、正極活物質は、複数の選択肢を有し得る。正極活物質の違いに応じて、リチウムイオン二次電池は、LiCoO二次電池、LiNiO二次電池、LiMn二次電池、及びLiFePO二次電池などであり得るが、これらに限定されない。
【0037】
上記の目的を達成するため、第5の態様において、本開示は、上記の電極を含むリチウムイオン二次電池を提供する。具体的には、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び電解質溶液を含む。
【0038】
必要に応じて、第1又は第2の態様の電解銅箔は、リチウムイオン二次電池の負極の調製に特に好適である。少なくとも2つの上記特徴、例えば、適切に制御されたΔRS及び沈積面のVv、又は適切に制御されたSku及び沈積面のVvを有する場合、第1又は第2の態様の電解銅箔は、卓越した加工性、耐久性、低いシワ発生性及び低い亀裂性を有することが可能であり、これは、活物質と接触している電解銅箔の密着性の改善、及び活物質が電解銅箔から脱離する分離から生じる破損、又はリチウムイオン二次電池が高サイクルの充放電を行った後の電解銅箔の破壊の防止に寄与する。簡潔に述べると、第1又は第2の態様の電解銅箔は、リチウムイオン二次電池の性能を大幅に改善し、かかる電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池が900回〜1200回又はそれ以上の充放電サイクル寿命を少なくとも示すことを可能にする。したがって、リチウムイオン二次電池は、卓越した使用寿命性能を有する。
【0039】
本開示によると、電解質溶液は、溶媒、電解質、又は個別の条件に応じて添加された添加剤を含み得る。電解質溶液の溶媒は、非水性溶媒、例えば、エチレンカーボネート(EC)又はプロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)又はエチルメチルカーボネート(EMC)などの直鎖カーボネート、又はスルトンが挙げられるがこれらに限定されない。上記の溶媒は、単独で使用されてもよく、又は2種類以上の溶媒の組み合わせで使用されてもよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、リチウムイオン二次電池の正極及び負極は、セパレータフィルムで分離できる。いくつかの実施形態において、電解銅箔を使用してリチウムイオン二次電池を製造でき、その例としては、積層型リチウムイオン二次電池又はコイン型リチウムイオン二次電池などがあるがこれらに限定されない。
【0041】
他の態様において、本開示は、リチウムイオン二次電池を含むデバイスを提供できる。本明細書において、デバイスは、その動作に電力を必要とする任意の部品又は構成要素を含む。例えば、軽量、携帯型、独立型、及び移動可能な構成要素及びデバイスは、すべて小型で軽量の電池を必要とする。デバイスは、輸送手段(例えば、自動車、路面電車、バス、トラック、船、潜水艦、飛行機)、コンピューター(例えば、マイクロコントローラ、ラップトップ、タブレット用)、電話(例えば、スマートフォン、無線固定電話)、個人用の健康モニタリング装置(例えば、グルコースモニター、ペースメーカー)、電動工具(例えば、電気ドリル、チェーンソー)、照明器具(例えば、懐中電灯、非常灯、サイン)、ハンドヘルド測定デバイス(例えば、pHメーター、空気モニタリングデバイス)及び住居単位(例えば、宇宙船、トレーラー、家屋、飛行機、潜水艦)を含み得るが、これらに限定されない。また、本開示の電解銅箔は、軽量リチウムイオン二次電池に適用できることから、電気自動車、携帯型電子機器、及び宇宙製品などへの使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】表面の3D構造に対応する負荷面積率のプロットを描いた図である。
図2】Vv、Vvc、及びVvvの関係を示す負荷面積率のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書で以後、本開示の電解銅箔、集電体、電極、及びリチウムイオン二次電池の実施形態を例証するためにいくつかの実施例を記載し、更に比較のため数例の比較例を与える。以下の実施例と比較例の比較から、当業者は、集電体として使用した各実施例の電解銅箔は、沈積面とドラム面との間の残留応力の差分値が小さく、適切に制御されたVvを有すること又は適切に制御されたSku及びVvを有することから、良好な性能を示し得ることを容易に理解できる。良好な性能とは、例えば、活物質が実施例の各々の電解銅箔に十分に密着できることであり、良好な充放電サイクル寿命を提供するためのリチウムイオン二次電池の負極の調製に使用される。
【0044】
本明細書で提案する記載は、単なる例示目的でしかなく、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。本開示を実施又は適用するために、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更を実施できる。
【0045】
《電解銅箔》
実施例1〜5(E1〜E5)及び比較例1〜5(C1〜C5):電解銅箔
電解銅箔を調製するシステムは、金属カソードドラムと、不溶性金属アノードと、を含む。金属カソードドラムは、回転可能であり、研磨面を有する。このシステムにおいて、不溶性金属アノードは、金属カソードドラムの下半部をほぼ囲む。カソードドラムとアノードプレートとは間隔が空いており、銅電解質溶液が供給管を通って導入できる。表面処理デバイスは、防錆処理タンクと、その中に配置された電極板とを有する。加えて、システムは、裸銅箔、防錆処理された銅箔、及び最終製品を輸送するための複数のガイドローラーを備え、最終的に電解銅箔はガイドローラー上に巻き取られる。
【0046】
電解銅箔が連続電着を用いて製造されるプロセスの間、銅電解質溶液は、イリジウム含有成分又は酸化イリジウムでコーティングされたチタンプレート(不溶性アノードとして)とチタンカソードドラムとの間に供給され、これら2つの電極間に直流電流を印加して、銅電解質溶液中の銅イオンをチタンカソードドラムに連続的に電着させ、その後、所定の厚さが得られたら裸銅箔をガイドローラーから剥がして巻き取った。所定の厚さの裸銅箔が得られた後、ガイドローラーを用いて裸銅箔を輸送して、防錆溶液を満たした防錆処理タンクに浸漬して防錆処理を実施し、電極板を用いて裸銅箔の両面に連続電気めっきを適用することで、裸銅箔の両面にそれぞれ付着した2つの表面処理層(すなわち、防錆層)を形成した。
【0047】
電解銅箔の製造条件は下記の通りである。
(1)銅電解質溶液の組成
硫酸銅(CuSO・5HO):約280グラム毎リットル(g/L)
濃度50重量%の硫酸:約80g/L
塩化物イオン(HCl由来、RCI Labscan Ltd.から購入):約30mg/L
ポリエチレンイミン(略称PEI、直鎖、数平均分子量(Mn)=5000、Sigma−Aldrich Companyから購入):約4.0mg/L〜17mg/L
サッカリン(1,1−ジオキソ−1,2−ベンゾチアチアゾール−3−オン、Sigma−Aldrich Companyから購入):約2.3mg/L〜8.3mg/L
(2)裸銅箔の製造のパラメータ
銅電解質溶液の温度:約45℃
電流密度:約40アンペア毎平方デシメートル(A/dm
(3)防錆溶液の組成
クロム酸(CrO、Sigma−Aldrich Companyから購入):約1.5g/L
(4)防錆処理のパラメータ
防錆溶液の温度:約25℃
電流密度:約0.5A/dm
加工時間:約2秒
【0048】
最後に、防錆処理した銅箔をエアナイフに通して、余分な防錆層を除去し、乾燥した。その後、厚さ約6マイクロメートル(μm)の電解銅箔をガイドローラーに巻き取った。
【0049】
実施例1〜5と比較例1〜5の電解銅箔の製造プロセスの違いは、銅電解質溶液中のPEI及びサッカリンの量であった。パラメータを下記の表1に記載した。
【0050】
上記の電解銅箔の製造方法は、本開示における電解銅箔を得る方法の例示にすぎず、本開示の、例えば実施例1〜5の電解銅箔は、上記方法で製造する必要がある電解銅箔に限定されないことに注意されたい。
【0051】
裸銅箔が電着工程の後に表面処理加工されるか否かにかかわらず、本明細書で使用される電解銅箔の相対する2つの最外面は、電着工程中の裸銅箔とチタンカソードドラムとの間及び裸銅箔と銅電解質溶液との間の相対的位置によって画成されることに注意されたい。
一実施形態では、電着工程後に表面処理が実施されない製造プロセスの場合、電解銅箔は、電着工程の後に巻き取られた裸銅箔であり、銅電解質溶液に近い裸銅箔の面を「沈積面」と呼び、もう一方のチタンカソードドラムに近い裸銅箔の面を「ドラム面」と呼び、ドラム面及び沈積面は、電解銅箔の最外面に位置する。別の実施形態において、電着工程後に裸銅箔の片面に表面処理が実施される製造プロセスの場合、電解銅箔は、裸銅箔と、裸銅箔上の1つの表面処理層と、を含む。説明のため、裸銅箔のチタンカソードドラムに近い片面を表面処理する場合を例として取り上げると、「ドラム面」は裸銅箔の一方の面に相対する表面処理層の外面であり、「沈積面」は電着中に銅電解質溶液に近い裸銅箔の面であり、沈積面及びドラム面は、電解銅箔の最外面に位置する。更なる実施形態において、電着工程後に裸銅箔の両面に表面処理が実施される製造プロセスの場合、電解銅箔は、裸銅箔と、裸銅箔上の2つの表面処理層と、を含む。この場合、「沈積面」は、表面処理層の1つの外面で、電着中に銅電解質溶液に近い裸銅箔の面の反対側にあり、「ドラム面」は別の表面処理層の外面で、電着中にチタンカソードドラムに近い裸銅箔のもう一方の面の反対側にある。本明細書において、沈積面及びドラム面は、両方とも電解銅箔の最外面に位置する。
【0052】
【表1】
【0053】
試験例1:表面テクスチャー分析
実施例1〜5及び比較例1〜5の電解銅箔の各々の表面テクスチャーを、レーザー顕微鏡で観察し、それぞれ得られた画像をキャプチャした。更に、実施例1〜5及び比較例1〜5の各々について、電解銅箔の沈積面及びドラム面のそれぞれのVv、Vvc、Vvv、及びSkuを、標準方法ISO25178−2:2012に従って分析し、結果を表2及び表3に示した。
【0054】
ここで、表面テクスチャー分析の機器及び条件は下記の通りであった。
(1)機器
レーザー顕微鏡:LEXT OLS5000−SAF(オリンパス社製)
対物レンズ:MPLAPON−100xLEXT
(2)分析条件
光源の波長:405nm
対物レンズ倍率:100倍(100×)
光学ズーム:1.0倍(1.0×)
解像度:1024ピクセル×1024ピクセル
画像領域:129μm×129μm
条件:自動チルト除去(auto tilt removal)
フィルター:フィルター無し
温度:24±3℃
相対湿度:63±3%
【0055】
VvはVvcとVvvの合計であった。単位はμm/μmである。Vvは、負荷率10%で計算した空隙容積であり、Vvvは、負荷率80%で計算した空隙容積であり、Vvcは負荷率10%と80%との空隙容積の差であった。
【0056】
【表2】
【0057】
試験例2:残留応力
本試験例において、実施例1〜5及び比較例1〜5の電解銅箔の沈積面及びドラム面の残留応力は、X線装置を用いて測定し、その結果を表3に示した。
【0058】
本明細書において、残留応力分析の機器及び条件は下記の通りであった。
(1)機器
X線装置:Empyrean(PANalytical社製)
X線管:銅ターゲット(λ=1.54184Å)
入射ビームにおけるミラー:X線ハイブリッドミラー
回折ビームにおけるコリメーター:0.27平行板コリメーター
検出器:比例検出器
(2)条件
管電圧:45kV
管電流:20mA
かすめ入射角:1°
【0059】
下記の表3において、残留応力の差分値は、沈積面とドラム面との間の残留応力の差(ΔRS)の絶対値を指す。電解銅箔の沈積面の残留応力は、ドラム面の残留応力よりも大きいことから、両面間の差分値は、沈積面の残留応力からドラム面の残留応力を減算することによって計算される差とまったく同じである。
【0060】
《電極》
実施例1A〜5A及び比較例1A〜5A:負極
実施例1〜5及び比較例1〜5の上記電解銅箔を集電体として使用できた。各電解銅箔の相対する2つの最外面(すなわち、上記のドラム面及び沈積面)を、負極活物質を含有する負極スラリーで更にコーティングして、リチウムイオン二次電池用の負極を調製できた。
【0061】
具体的には、負極は実質的にはその後の工程によって調製できた。
【0062】
最初に、100:60の固体−液体比で、100gの負極活物質を60gの溶媒(N−メチルピロリドン(NMP))と混合して、負極スラリーを調製した。ここで、負極活物質の組成(各成分の含有量は、100重量%としての全負極活物質に基づく)は下記の通りであった。
93.9重量%の負極活物質(メソフェーズ黒鉛粉末、MGP)
1重量%の導電性添加剤(導電性カーボンブラック粉末、Super P(登録商標))
5重量%の溶媒結合剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF6020)
0.1重量%のシュウ酸
【0063】
次に、この負極スラリーを電解銅箔の沈積面及びドラム面上にコーティングし、次いで溶媒蒸発後にプレスして好適なサイズに切断し、負極を得た。したがって、実施例1A〜5A及び比較例1A〜5Aの負極はそれぞれ実施例1〜5及び比較例1〜5の電解銅箔を用いて上記方法により調製できた。
【0064】
《リチウムイオン二次電池》
実施例1B〜5B及び比較例1B〜5B:リチウムイオン二次電池
実施例1A〜5A及び比較例1A〜5Aの上記の負極を、更に正極と合わせて実施例1B〜5B及び比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池を調製できた。
【0065】
具体的には、リチウムイオン二次電池の正極は、下記の工程によって実質的に調製できた。
【0066】
最初に、100:195の固体−液体比で、100gの正極活物質を195gのNMPと混合して、正極スラリーを調製した。ここで、正極活物質の組成(各成分の含有量は、100重量%としての全正極活物質に基づく)は下記の通りであった。
89重量%の正極活物質(LiCoO
5重量%の導電性添加剤(鱗状黒鉛、KS6)
1重量%の導電性添加剤(導電性カーボンブラック粉末、Super P)
5重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF1300)
【0067】
次に、正極スラリーをアルミニウム箔上にコーティングし、溶媒を蒸発させた後、正極及び負極を特定のサイズに切断し、次いで、正極と負極とを交互に積み重ね、微多孔性セパレータ(Celgard Co.,Ltd.社製)をその間に挟み、次いで電解質溶液を満たしたプレス型に入れ、密閉してリチウムイオン二次電池を形成した。リチウムイオン二次電池は41mm×34mm×53mmのサイズであった。
【0068】
試験例3:充放電サイクル寿命性能
本試験例において、実施例1B〜5B及び比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池を、試験サンプルとして、充放電サイクル試験に供した。充放電サイクル試験の分析条件は下記の通りであった。
充電モード:定電流−定電圧(CCCV)
放電モード:定電流(CC)
充電電圧:4.2ボルト(V)
充電電流:5C
放電電圧:2.8V
放電電流:5C
試験温度:約55℃
【0069】
リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は、一連の充放電のサイクルの後、電池の容量が初期容量の80%まで低下したときにリチウムイオン二次電池が実施した充放電サイクルの数として定義した。実施例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池(それぞれ実施例1〜5の電解銅箔を含む)及び比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池(それぞれ比較例1〜5の電解銅箔を含む)の充放電サイクル寿命性能試験の結果も、下記の表3に示した。
【0070】
上記の製造方法によると、実施例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池と比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池との差は、負極に使用した電解銅箔の使用のみから生じることから、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命性能は、主に各電解銅箔の特徴に起因した。
【0071】
【表3】


【0072】
《実験結果の考察》
表3に示すように、実施例1〜5の電解銅箔は、最大95MPaのΔRS及び0.15μm/μm〜1.35μm/μmの範囲の沈積面のVvという2つの特徴を少なくとも有したが、対照的に、比較例1〜5の電解銅箔は、これら2つの特徴の両方を有していなかった。
リチウムイオン二次電池に適用した実施例1〜5及び比較例1〜5の電解銅箔の性能を比較すると、実施例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命はすべて900回以上に到達できたが、比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は最大で815回であった。上記の実験結果は、電解銅箔のΔRS及び沈積面のVvを制御することは、電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池の使用寿命時間の延長及び性能改善に実際に有益であることを実証した。
【0073】
実験結果から、電解銅箔のΔRS及び沈積面のVvの両方がリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命に大きな影響を持ち、両方とも不可欠であることが明らかである。つまり、電解銅箔のΔRS及び沈積面のVvを制御することは、リチウムイオン二次電池の性能改善に実際に有益である。対照的に、比較例2〜4の電解銅箔を例にとると、これらの電解銅箔は制御されたΔRSを有するが、沈積面のVvが適切に制御されておらず、その結果、比較例2B〜4Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の性能は不十分であった。更に、比較例5の電解銅箔を例にとると、沈積面のVvは適切に制御されていたがΔRSは制御されておらず、その結果、比較例5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は800回に到達できなかった。
【0074】
上記表3の実験結果を別の方法で更に分析すると、実施例1〜5の電解銅箔は、1.5〜6.5の範囲の沈積面のSku並びに0.15μm/μm〜1.35μm/μmの範囲の沈積面のVvという2つの特徴を少なくとも有したが、対照的に、比較例1〜5の電解銅箔は、これら2つの特徴の両方を有していなかった。
リチウムイオン二次電池に適用した実施例1〜5と比較例1〜5の電解銅箔の性能の比較から、実施例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命はすべて900回以上に到達できたが、比較例1B〜5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は最大で815回であった。上記の実験結果は、電解銅箔の沈積面のSku並びにVvを制御することは、電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池の使用寿命時間の延長及び性能改善に実際に有益であることがわかった。
【0075】
電解銅箔の沈積面のSku及びVvの両方がリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命に大きな影響を持ち、両方とも不可欠である。つまり、電解銅箔の沈積面のSku及びVvを適切な範囲に制御することは、リチウムイオン二次電池の性能改善に実際に有益である。例えば、比較例2及び3の電解銅箔は沈積面のSkuが制御されていたが、沈積面のVvは適切に制御されておらず、その結果、比較例2B及び3Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命の性能は不十分であった。更に、比較例5の電解銅箔を例にとると、沈積面のVvは適切に制御されていたが沈積面のSkuは制御されておらず、その結果、比較例5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は800回に到達できなかった。
【0076】
電解銅箔を改善するための上記2つの技術的手段(すなわち、電解銅箔のΔRS及び沈積面のVvの両方を制御すること、又は電解銅箔の沈積面のSku及びVvの両方を制御すること)に加え、当業者は、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命を延長するように、ΔRS、沈積面のSku、及び沈積面のVvを条件に応じて制御できる。
【0077】
更に、実施例1〜5の電解銅箔のΔRS及び該電解銅箔を含むリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命を分析すると、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は、ΔRSが60MPa以下まで出来る限り低下されたときに更に延長でき、実施例2B、3B、及び5Bのリチウムイオン二次電池の充放電サイクル寿命は950回以上に達した。同様に、ΔRSを45MPa以下まで出来る限り低下することで、実施例3B及び5Bのリチウムイオン二次電池は、1100回以上の充放電サイクル寿命に到達できた。更に、電解銅箔のΔRSを20MPa以下まで出来る限り低下することで、実施例5Bのリチウムイオン二次電池は、1200回以上の充放電サイクル寿命に到達できた。
【0078】
以上をまとめると、電解銅箔の特徴を制御する複数の技術的手段が、本開示で提供されている。例えば、電解銅箔のΔRS及び沈積面のVvという2つの特徴を制御する技術的手段、電解銅箔の沈積面のSku及び沈積面のVvという2つの特徴を制御する技術的手段、並びに電解銅箔のΔRS及び沈積面のSku及び沈積面のVvという3つの特徴を制御する技術的手段は、実際に電解銅箔の品質を大幅に改善し、リチウムイオン二次電池に適用したときに充放電サイクル寿命の延長という有益効果を発揮し、更にはリチウムイオン二次電池の使用寿命及び性能を改善する。上記の有益効果の全てが実験結果によって実証された。
図1
図2