(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合成部は、前記合成を行う際に、前記参照信号検出部が推定した前記希望信号の受信タイミングに基づいて、前記アンテナのそれぞれで受信する前記希望信号の受信タイミング誤差を補償する、
ことを特徴とする請求項2に記載の受信装置。
前記希望信号を送信する送信アンテナと前記アンテナとの位置関係に基づいて、前記希望信号のドップラ周波数および遅延時間のそれぞれが取り得る範囲を特定する位置情報管理部、
を備え、
前記ウェイト補正部は、前記位置情報管理部が特定した範囲の前記ドップラ周波数に基づいて前記ウェイトを補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
前記合成部は、前記合成を行う際に、前記位置情報管理部が特定した範囲の前記遅延時間に基づいて、前記アンテナのそれぞれで受信する前記希望信号の受信タイミング誤差を補償する、
ことを特徴とする請求項4に記載の受信装置。
前記レプリカ除去部で前記希望信号の成分が除去された後の信号に対して、前記ウェイト生成部がウェイトを生成する処理と、前記ウェイト補正部がウェイトを補正する処理と、前記合成部が信号を合成する処理と、前記復調部が希望信号を復調する処理と、前記レプリカ生成部がレプリカを生成する処理と、前記レプリカ除去部が希望信号の成分が除去された信号を生成する処理と、を繰り返し実行することを特徴とする請求項7に記載の受信装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施の形態にかかる受信装置、通信システム、受信方法、制御回路および記憶媒体を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる受信装置を適用する対象の通信システムの一例を示す図である。
【0014】
図1に示す通信システム100は、受信機101Aおよび101Bと、管制局103とを含む。
【0015】
受信機101Aおよび101Bは、それぞれの受信カバーエリアに存在する送信機104から送信された無線信号を、図示を省略したアンテナで受信する。通信システム100においては、受信機101Aの受信カバーエリア102Aと受信機101Bの受信カバーエリア102Bの一部が重なり合っており、この重なり合っているエリアに4台の送信機104が存在している。これら4台の送信機104のうち、複数の送信機104が同時に送信処理を行う場合、受信機101Aおよび101Bは、同時に送信処理を行う複数の送信機104から送信された複数の無線信号が重畳した状態の信号を受信することになる。
【0016】
なお、送信機104の数は一例であり、送信機104は5台以上でもよいし、3台以下でもよい。また、
図1に示す例では、説明を簡単化するため、受信カバーエリア102Aの受信カバーエリア102Bと重なり合っていないエリア、および、受信カバーエリア102Bの受信カバーエリア102Aと重なり合っていないエリアには送信機104が存在しないものとしているが、これらのエリアに送信機104が存在していてもよい。
【0017】
また、以下の説明では、受信機101Aと受信機101Bとを区別する必要がない場合、例えば、受信機101Aおよび受信機101Bに共通の事項を説明する場合、受信機101Aと受信機101Bとをまとめて受信機101と記載する。
【0018】
通信システム100においては、各受信機101と各送信機104の相対位置関係は時間変動する。各受信機101が各送信機104から受信した信号は、何らかの別の通信手段で管制局103に伝送される。この通信手段は、通常は送信機104から受信する無線信号とは別の通信帯域を利用するが、受信信号をアナログで増幅および再生して得られる信号を伝送してもよいし、受信信号をデジタルでベースバンドに変換したサンプル列を観測データとしてデジタル伝送してもよい。このような環境としては、AIS(Automatic Identification System:自動船舶識別システム)において船舶に搭載された送信機が送信する信号を移動体の一例である衛星に搭載された受信機で受信する場合などが想定できる。この場合、通信システム100は、衛星に搭載された受信機101と、船舶に搭載された送信機104とで構成される。送受信機間の距離や相対速度が異なることから多くの送信信号を受信する際に電力、周波数、時刻、位相がそれぞれ異なる値を持ち非同期に受信される。特にAISシステムでは非特許文献1にあるとおり、複数の船舶が送信した信号が、衛星−船舶間での距離により異なる伝搬遅延を持ちながら非同期に多数重畳する。本実施の形態では、受信機101のそれぞれが異なる衛星に搭載され、送信機104のそれぞれが異なる船舶に搭載されているものとして説明を行う。なお、衛星の個数を2として説明を行うが、3以上としてもかまわない。
【0019】
以下で説明する信号処理方式は主に
図1の管制局103で行うことが適切であるが、衛星間通信によりある特定の衛星が、別の衛星に搭載された受信機101が受信した信号を集約し、衛星内で信号処理を実施してもよい。すなわち、本実施の形態にかかる受信装置は管制局103に搭載されることが適切であるが、いずれかの衛星に搭載されてもよい。
【0020】
図2は、実施の形態1にかかる受信装置が実施する信号処理の全体構造の一例を示す図である。
図2では、実施の形態1にかかる受信装置105が管制局103に搭載される場合の例を示している。
【0021】
受信装置105の受信信号生成部201および202は、受信アンテナに直結された、通常の受信信号をベースバンドに変換するモジュール、または、前述した物理的な場所(例えば、衛星)にある受信アンテナで観測した観測データの受信モジュールで構成される。すなわち、受信信号生成部201および202は、対応する受信アンテナで受信された無線信号からベースバンドの受信信号を生成する。受信装置105は、受信信号生成部201および202で生成した受信信号に対して受信ステージ203−1,203−2,…,203−N(Nは2以上の整数)を順番に実行することにより、受信データを復調する。各受信ステージの処理は、受信処理部300−1,300−2,…,300−Nが行う。なお、
図2では、受信ステージごとに受信処理部を設ける構成としたが、受信ステージ数よりも少ない数の受信処理部で各受信ステージを実現する構成としてもよい。例えば、単一の受信処理部が、各受信ステージでの処理結果を再入力して後段の受信ステージを順次実行する構成としてもよい。
【0022】
図2に示す例では受信アンテナ数(受信ブランチ数)を2としているが、3以上としてもかまわない。また、
図2の構成では、SICに基づく復調処理を行う受信ステージ(受信ステージ203−1,203−2,…,203−N)ごとに一つの信号を分離することを想定している。ステージの数は任意であり、受信信号や、受信信号を一度に処理する観測時間幅に応じ変化してもよい。後述する適当な終了判定により一連の復調処理を完了するものとする。
【0023】
図3を用いて、受信ブランチ数が2のときの各受信ステージの構成を説明する。
図3は、実施の形態1にかかる受信装置105が実行する受信ステージの構成を説明するための図である。一例として、
図2に示す受信ステージ203−1の構成について説明する。なお、他の受信ステージ(受信ステージ203−2,…,203−N)の構成も同様である。
【0024】
受信ステージ203−1を実現する受信処理部300−1は、参照信号検出部301、ウェイト生成部302、ウェイト補正部303、合成部304、復調部305、レプリカ生成部306およびレプリカ除去部307を備える。
【0025】
参照信号検出部301は、受信信号生成部201および202から入力される受信信号に含まれる参照信号を検出し、検出した参照信号に基づいて、受信信号の到来時刻すなわち受信タイミングと、周波数とを推定する。詳細には、参照信号検出部301は、複数の送信機104から送信された複数の信号の中の1つを対象として、到来時刻および周波数を推定する。ここで、AISにおいて送信機が送信する信号のように、通常、通信波にはプリアンブルなどの既知系列(参照信号)が付与されている。そのため、参照信号検出部301は、受信装置105内部で作成した参照信号と受信信号との相関をとることにより、受信信号の到来時刻および周波数を推定することができる。具体的には、たとえば参照信号に対して複数の候補周波数を想定した位相回転パターンを乗算した信号を用いて時間方向のスライディング相関をとることで、上述の推定処理を実現できる。
【0026】
ウェイト生成部302は、参照信号検出部301による受信信号の到来時刻および周波数の推定結果に基づき、参照信号検出部301が到来時刻および周波数を推定した信号である希望信号(以下では希望波と称する場合もある)を復調しやすくするウェイトを生成する。ウェイト生成部302は、例えば、前述の相関処理による推定結果に基づいて受信信号の位相情報を算出し、位相情報に基づき、両受信ブランチの受信信号の位相を合わせこむような複素係数を各受信ブランチの受信信号に乗算し合成することで、合成後の受信SNRが向上するようにするウェイトを生成する。受信SNRは受信品質の一例である。また、ウェイト生成部302は、同様に、相関結果のピークタイミングの電力情報とその周辺の時間および周波数における電力の大きさに基づき、合成前の受信SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)が低いと思われる受信ブランチの重みを小さくすることで干渉やノイズの影響を低減できるようなウェイトを生成してもよい。
【0027】
ウェイト補正部303は、参照信号検出部301が推定した受信信号の周波数を示す周波数情報に基づき、ウェイト生成部302が生成したウェイトを補正する。ウェイトの補正処理について式を用いて説明する。2つの受信ブランチを使い、4つの送信信号があるとき、受信信号r
0およびr
1と送信信号s
0、s
1、s
2およびs
3との関係は、雑音の影響を除くと式(1)のようになる。
【0029】
式(1)において、行列の部分が伝搬路を示しており、h
00〜h
13が各送受信機間の複素数の伝搬路係数である。exp()の項が各受信機間で異なるドップラシフトの影響を表す。式(1)を行列とベクトルで表すと次式(2)のようになり、線形変換により受信信号を得ることを示す。
【0031】
本実施の形態にかかる受信装置では、次式(3)に示すように、受信信号ベクトルrにウェイト行列Wを乗算して合成後の受信信号yを得る。
【0033】
受信ブランチ数2の場合、ウェイトwの数は2であり、式(3)を展開すると式(4)のようになる。
【0035】
伝搬路係数hは、単一送信パケットを受信中に一定(静的)であることが見込まれるが、ドップラシフトにより位相回転が発生し、ウェイト合成時にフェージングに類似した受信電力変動が発生してしまう。そこで、送信信号s
0を受信したい場合には、各受信アンテナに対するドップラシフトを表すドップラ項ω
00、ω
01を推定して、その逆回転系列を静的なウェイトに乗算することでビーム合成後の希望波のレベルを安定させる。つまり、式(5)に示す新たなウェイト行列W’をウェイト補正部303が生成し、実際の合成に使用できるようにする。
【0037】
式(5)により、推定処理が正しく動作すれば希望波s
0に対する振幅は一定となるが、希望波s
1以外は異なるドップラシフトが付与されるので、フェージングに類似する現象が発生し、時変する干渉が混入する。そのため、このビーム形成ではs
0だけを受信することにし、後段の受信ステージでs
1以降を同様の手法で分離していく。以上のように、各受信ステージで信号を合成する際に希望波に対応したドップラシフトを補償するためのドップラ補正項をウェイト補正部303で付与することで、
図1のようなシステムにおいて希望波を逐次分離するSIC処理が実現可能になる。
【0038】
ここで、式(5)において受信信号に2つのドップラ補正項を乗算する方法を説明したが、実際に用意する補正用のドップラ補正項は(受信ブランチ数−1)だけあればよい、すなわち、式(4)は、次式(6)に書き換えられることに注意する。
【0040】
式(6)では、特定の基準となる受信信号のドップラ項をくくりだしたことで、くくりだした後の信号を新たなs
0と定義すれば、他方の受信信号にかけるウェイトは、基準となる受信信号のドップラ項との間の相対値を設定することで、振幅がフェージングのように上下する問題は回避できる。もともとのs
0には、発振器の安定度が不完全なことによる周波数誤差成分も含まれているので、その成分と基準信号のドップラ成分を、合成後の信号に対して復調部305において、公知の1ブランチ受信用アルゴリズム(例えば、遅延検波、同期検波、非特許文献1に示されている方法)を用いて補正しながら復調を行えばよい。このようにして、推定対象変数を減らすことで、より少ない計算量で、周波数推定誤差の影響を軽減することが可能になる。
【0041】
上述の説明ではs
0をどのように特定するか触れていなかったが、参照信号検出部301において相関ピークが最も大きいものを選定する方法が考えられる。
【0042】
合成部304は、補正されたウェイト行列W’を用いて、たとえば式(5)のような合成処理を行い単一の受信信号の時間サンプル列を取得する。このとき、2つの受信ブランチ間で、受信機同士の距離が離れている等の理由で受信タイミングにずれがあると思われる場合、参照信号検出部301で得た受信ピークタイミングをもとに合成時の信号タイミングを補正して合成してもよい。これにより、周波数誤差だけでなく時間誤差に伴うブランチ合成(各受信ブランチの受信信号の合成)の不完全性を回避して、希望波をより高品質に復調可能になる。合成部304は、補正されたウェイト行列W’を用いて各受信ブランチの受信信号を合成して得られた信号を、合成後受信信号として復調部305に出力する。
【0043】
また、参照信号検出部301での相関処理による電力、周波数、位相およびタイミングの検出では、近接する異なる時間および周波数で干渉となるような強い電力で別の信号を受信している場合は相関精度が出ない場合がある。その場合、荒い精度で推定を行い、ウェイト生成部302およびウェイト補正部303では、複数のウェイト候補およびドップラ推定値を用いて復調処理まで試行して、CRC(Cyclic Redundancy Check)等の誤り検出が発生しなくなるまで処理を繰り返し実施してもよい。これにより、推定精度が十分でない場合も、細かい精度誤差の部分についての計算を繰り返し試行することにより、復調可能な信号数を増加させることが可能になる。合成部304においても同様にタイミング候補を変化させながら合成してもよい。
【0044】
復調部305は、合成部304が出力する合成後受信信号から希望信号を復調する。復調部305は、合成後受信信号を対象として、例えば、遅延検波、同期検波、または、非特許文献1に示されているようなシングルアンテナ用受信方式を用いて復調処理を行う。このとき、復調部305は、受信信号にCRCなどの誤り検出機能があれば、1パケット分の復調ビットパターンとともに誤り検出結果を出力する。
【0045】
レプリカ生成部306は、合成前の各受信ブランチの受信信号に対して、再度、CRCチェック済みなど信頼できるビットパターンを使った相関処理などにより伝搬路係数、周波数偏差、到来時刻などを算出し、復調済みの希望信号の影響を各受信ブランチの受信信号から除去するためのレプリカを生成する。このとき、受信信号に送信機104の位相雑音等の影響があり、パケット内の位相時変動が無視できない場合、復調済みビットパターンを参照信号として位相変動追従パターンを同時に推定し、位相変動を補償してレプリカの精度を改善するようにしてもよい。
【0046】
レプリカ除去部307は、上述したBLAST等の既存技術と同様に、レプリカ生成部306が生成したレプリカを使用して、各受信ブランチの受信信号から復調済み希望信号の影響をキャンセルする。具体的には、レプリカ除去部307は、入力された各受信信号からレプリカを減算して、復調済みの希望信号の成分が除去された各ブランチの受信信号を生成する。
【0047】
レプリカ除去部307が生成した復調済みの希望信号の成分が除去された受信信号は、後段の受信ステージの処理を実行する受信処理部300−n(n=2,3,4,…)に入力される。後段の受信ステージの処理を実行する受信処理部300−nは、前段の受信ステージから入力された受信信号に対して、受信処理部300−1を構成する各部と同様の処理を実行し、入力された受信信号に含まれる希望信号を復調するとともに、復調した希望信号の成分を入力された受信信号から除去する。
【0048】
以上のようにして、本実施の形態にかかる受信装置105は、受信ステージ203−1〜203−Nを構成する受信処理部300−1〜300−Nのそれぞれにおいて、一つの希望信号にターゲットを絞り、ドップラシフトおよび時間誤差の補償処理により、その希望信号の復調に適した、各受信ブランチの受信信号の合成を行う。また、受信処理部300−1〜300−Nのそれぞれは、合成後の受信信号から希望信号を復調し、さらに、復調済みの希望信号を受信信号から除去して出力する。すなわち、各受信ステージでは、受信信号が入力されると、1つの希望信号の復調性能を向上させるための合成処理を各受信ブランチの受信信号に対して行い、合成後の受信信号から希望信号を復調するとともに、復調済みの希望信号を受信信号から除去して後段の受信ステージに出力する。このようにして、複数の受信ブランチを利用可能な場合に復調可能な信号数を増加させる。本実施の形態によれば、送信アンテナと受信アンテナとの相対位置関係が変動する通信システムにおける通信品質を改善可能な受信装置を実現できる。
【0049】
ここで、復調部305は復調されたデータ列を出力するとしたが、復調データ列に加えてCRCの計算結果、復調に使用したドップラ周波数または周波数偏差、到来時間、ウェイトの情報等を出力し、その後同一送信機からの信号を取得したいときの復調補助情報として利用してもよい。
【0050】
実施の形態2.
図4を用いて実施の形態2にかかる受信装置を説明する。実施の形態2にかかる受信装置を適用する対象の通信システムの構成は実施の形態1と同様である(
図1参照)。また、実施の形態2にかかる受信装置が実施する信号処理の全体構造も実施の形態1と同様である(
図2参照)。ただし、信号処理の各受信ステージの構成、すなわち、各受信ステージを実現する受信処理部の構成が実施の形態と一部異なる。本実施の形態では実施の形態1と共通の部分については説明を省略し、異なる部分について説明を行う。
【0051】
図4は、実施の形態2にかかる受信装置が実行する最初の受信ステージを実現する受信処理部300a−1の構成例を示す図である。なお、他の受信ステージを実現する受信処理部の構成も同様である。
【0052】
受信処理部300a−1は、実施の形態1で説明した受信処理部300−1の参照信号検出部301およびウェイト生成部302に代えてブラインドウェイト生成部308を備え、また、ウェイト補正部303および合成部304をそれぞれウェイト補正部303aおよび合成部304aに置き換え、位置情報管理部309を追加した構成である。
【0053】
受信処理部300a−1においては、ブラインドウェイト生成部308がウェイトを生成する。ブラインドウェイト生成部308は、
図3に示すウェイト生成部302に対応する、実施の形態2にかかる受信装置のウェイト生成部である。ブラインドウェイト生成部308は、参照信号を必要としない、CMA(Constant Modulus Amplitude)などのブラインドアルゴリズムを用いてウェイトを生成する。CMAを使う場合、通常、受信ブランチ数が同時に到来する信号の数よりも多い必要があるので、多くの場合3受信ブランチ以上が必要である。しかし、
図4に示すような、受信ブランチ数が2の構成であっても1受信信号を合成するウェイトを生成することは可能である。他の手法として、受信ブランチ数が少ない場合、たとえば受信ブランチ数が2の場合、ウェイトの数も2つのスカラー値であるので、計算量が十分にある場合、到来信号の想定される受信SNRの組み合わせや位相から想定される値域の範囲内で適当なウェイトを生成してもよい。この場合、必ずしも受信信号とブラインドウェイト生成部308を接続する必要はない。1回目に作ったウェイトで受信できる可能性は高くないが、複数回繰り返しブラインドウェイト生成部308から復調部305までの処理を、CRCでエラー検出しなくなるまで繰り返し試行してもよい。
【0054】
位置情報管理部309は、複数の受信アンテナと、希望する信号を送信するアンテナとの位置関係から、ドップラ周波数および遅延時間のそれぞれが取りうる範囲を特定し、ウェイト補正部303aおよび合成部304aに補正用ドップラ周波数および到来時間情報を与える。ここでの遅延時間とは、各受信アンテナに希望信号が到来する時間の差を意味する。すなわち、遅延時間は、各受信ブランチの受信アンテナが希望信号を受信するタイミングのずれを示す。
【0055】
たとえば、AISにおいて送信機104が送信する信号を衛星に搭載された受信機101が受信する場合、位置情報管理部309は、衛星の軌道情報と、送信機104が存在する位置または海域(緯度経度情報など)とに基づいてドップラ周波数および遅延時間を推定する。ドップラ周波数および遅延時間の推定結果に基づき、ウェイト補正部303aおよび合成部304aのそれぞれがウェイト補正および合成処理を行うことで、送信機104が存在する位置または海域からの信号について、ビーム合成時の希望波を安定して受信することが可能になり、取得したい信号をピンポイントに取得できる可能性が高くなる。
【0056】
なお、上記の送信機の存在する位置に関して、SAR(Synthetic Aperture Radar)画像等で確認した船舶が所在する位置等としてもよい。これにより、計算量の節約の都合で興味対象外の海域からの信号を復調したくない場合に、SAR画像で確認した船舶とAISの照合を効率的に行うことが可能になる。
【0057】
本実施の形態では、ブラインドでのウェイト生成および位置情報管理に基づく補償用パラメータの推定方法を説明したが、この2つの要素を同時に適用する必要はなく、片方の処理を実施の形態1に基づくものとしたり、組み合わせを差し替えたりすることが可能である。また、位置情報管理の方法は実施の形態1での参照信号に基づく手法とハイブリッド型にしても差し支えない。例えば、参照信号の相関結果から得た受信SINRの推定値が良好でない場合に限り位置情報を利用する、などとしてもかまわない。
【0058】
本実施の形態で説明した構成を適用した場合にも実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、参照信号を用いることなくウェイトを生成することができる。
【0059】
実施の形態3.
図5を用いて実施の形態3にかかる受信装置を説明する。実施の形態3にかかる受信装置を適用する対象の通信システムの構成は実施の形態1と同様である(
図1参照)。本実施の形態では実施の形態1と共通の部分については説明を省略し、異なる部分について説明を行う。
【0060】
図5は、実施の形態3にかかる受信装置が実行する受信ステージを実現する受信処理部の構成例を示す図である。
図5では、1段目の受信ステージを実現する第1の受信処理部300b−1と、2段目の受信ステージを実現する第2の受信処理部300b−2とを記載している。第2の受信処理部300b−2は、実施の形態1で説明した
図3に示す受信処理部300−1と同様である。第1の受信処理部300b−1は、レプリカ生成部306、レプリカ除去部307および復調部310を備える。第1の受信処理部300b−1では、2受信ブランチの受信信号を合成することなく復調部310が受信データを復調する。
【0061】
受信した際に、一方の受信ブランチのみの受信信号を使えば、合成を行わなくても十分に復調できる場合が存在する。例えば一方の受信ブランチで十分良好な受信SINRを得た場合である。この場合、各受信ブランチの受信信号の合成をして復調する必要はなく、逆に合成を行って周波数推定値や遅延推定値に問題があると、本来正しく復調できる信号が、合成の不完全性によって復調できなくなる場合もありうる。つまり、受信ステージの一部において、各受信ブランチの受信信号の合成を行わなくてもよい。換言すれば、各受信ステージでは、例えば、受信SINRが予め定められた閾値よりも大きい受信ブランチの受信信号が存在しない場合に各受信ブランチの受信信号を合成し、復調を行うようにしてもよい。
【0062】
このように、受信ステージの一部で、
図3を用いて説明した一部の処理を行わなくてもよい。これにより、状況に応じて無駄なウェイト計算を回避して、復調効率を改善することができる。本実施の形態では、復調部310は、それぞれの受信ブランチを個別に合成済み信号とみなして復調を行えばよく、一つの受信パケットを誤り検出なく受信できれば、その後、これまで説明した処理と同様の処理を行ってもよい。
【0063】
また、レプリカの生成および除去についても、そのレプリカ除去品質に問題がある場合等があるため、一部の受信ステージで実施しなくてもよい。すなわち、レプリカ除去品質に問題がある受信ステージではレプリカの生成および除去を行わないようにしてもよい。
【0064】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができ、また、受信データの復調に関する処理負荷が必要以上に増大するのを防止できる。
【0065】
実施の形態4.
つづいて、実施の形態4にかかる受信装置を説明する。実施の形態4にかかる受信装置を適用する対象の通信システムの構成は実施の形態1と同様である(
図1参照)。また、実施の形態4にかかる受信装置が実施する信号処理の全体構造および信号処理の各受信ステージを実現する受信処理部の構成も実施の形態1と同様である(
図2および
図3参照)。
【0066】
実施の形態4にかかる受信装置は、
図6に示すフローチャートに従って信号処理を行う。なお、
図6は、実施の形態4にかかる受信装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0067】
実施の形態4にかかる受信装置105は、まず、実施の形態1で説明した受信信号生成部201および202が受信信号を生成する(ステップS11)。このとき、受信信号生成部201および202は、時間的に1パケット以上の時間幅のサンプル列を取得して処理を行う。受信装置105は、次に、ステップS11で生成した受信信号を復調する(ステップS12)。このステップS12では、各ステージの受信信号を合成することなく、復調部305がそれぞれの受信ブランチの受信信号の復調を試行する。このとき、各受信信号は合成部304経由で復調部305に入力してもよいし、復調部305に直接入力する構成としてもよい。受信装置105は、次に、復調が成功したか否かを確認し(ステップS13)、復調が成功した場合、すなわち、復調部305が誤りを検出しなかった場合(ステップS13:Yes)、レプリカ生成部306が、復調済みの信号のレプリカを生成する(ステップS21)。なお、ステップS13では、少なくとも1つの受信ブランチの受信信号を復調できた場合に復調が成功したと判断する。次に、レプリカ除去部307が、受信信号からレプリカを除去し(ステップS22)、レプリカ除去後の受信信号を対象として再度復調処理を行う(ステップS12)。
【0068】
一方、復調に失敗した場合(ステップS13:No)、参照信号を検出できるか、すなわち、参照信号検出のための相関処理において十分な受信電力の相関ピークが存在するかを確認する(ステップS14)。参照信号を検出できなかった場合(ステップS14:No)、受信装置105は処理を終了する。参照信号を検出できた場合(ステップS14:Yes)、ウェイト生成部302が、各受信ブランチの受信信号を合成するためのウェイトを生成する(ステップS15)。次に、ウェイト補正部303が、ウェイト生成部302で生成されたウェイトを補正する(ステップS16)。ウェイトの生成および補正は実施の形態1で説明した方法で行う。次に、補正後のウェイトを用いて合成部304が、各受信ブランチの受信信号を合成し(ステップS17)、合成後の受信信号を復調部305が復調する(ステップS18)。
【0069】
受信装置105は、次に、ステップS18における復調が成功したか否かを確認し(ステップS19)、復調が成功した場合(ステップS19:Yes)、レプリカ生成部306が、復調済みの信号のレプリカを生成し(ステップS21)、レプリカ除去部307が、受信信号からレプリカを除去して(ステップS22)、ステップS12に戻って再度復調処理を行う。
【0070】
ステップS18における復調が失敗の場合(ステップS19:No)、受信装置105は、処理を終了するかを判定する(ステップS20)。例えば、上述したステップS15〜ステップS18の繰り返し回数が定められた上限値に達した場合に処理を終了すると判定し、繰り返し回数が上限値に達していない場合は処理を継続すると判定する。処理を終了しないと判定した場合(ステップS20:No)、受信装置105は、参照信号検出部301による参照信号検出結果に誤差があると想定して、受信信号の到来時刻および周波数の推定値として、前回またはそれ以前に用いた値とは別の値を用いて、ステップS15〜ステップS18の処理を再度実行して復調を試みる。一方、処理を終了すると判定した場合(ステップS20:Yes)、受信装置105は処理を終了する。なお、ステップS15〜ステップS18の繰り返し回数の上限値は1以上とし、上限値が1の場合はステップS18における復調が失敗すると、そのまま処理が終了となる。
【0071】
また、図示はしていないが、受信装置105は、ステップS12における復調に成功した後、および、ステップS18における復調に成功した後、十分な数の復調データが得られたかを確認し、十分な数の復調データが得られたと判断した場合は、ステップS21のレプリカ生成に進まず、そのまま処理を終了してもよい。
【0072】
以上のように、本実施の形態にかかる受信装置105は、まず、各受信ブランチの受信信号をそのまま復調し、復調に失敗した場合に、各受信信号を合成し、合成後の受信信号を復調する。これにより、実施の形態1と同様の効果、すなわち、送信アンテナと受信アンテナとの相対位置関係が変動する通信システムにおける通信品質を改善可能な受信装置を実現できるという効果を得ることができ、また、受信データの復調に関する処理負荷が必要以上に増大するのを防止できる。
【0073】
なお、
図6に示すフローチャートではステップS14で参照信号を検出できない場合に処理を終了することとしたが、CMAなどのブラインドアルゴリズムを用いてウェイトを生成するようにしてもよい。このとき、実施の形態2で説明した位置情報管理部309を備え、ドップラ周波数および遅延時間を限定した上でブラインドアルゴリズムによるウェイト生成を行うようにしてもよい。
【0074】
つづいて、本開示にかかる受信装置のハードウェア構成について説明する。
図7は、各実施の形態にかかる受信装置を実現するハードウェア構成の第1の例を示す図、
図8は、各実施の形態にかかる受信装置を実現するハードウェア構成の第2の例を示す図である。
【0075】
本開示にかかる受信装置は、例えば、
図7に示す受信データ生成回路401と、処理回路402と、受信結果格納装置403とで実現される。具体的には、各実施の形態で説明した受信信号生成部201および202は受信データ生成回路401で実現される。また、実施の形態1で説明した受信処理部300−1〜300−N、実施の形態2で説明した受信処理部300a−1、実施の形態3で説明した第1の受信処理部300b−1および第2の受信処理部300b−2は、処理回路402で実現される。ここで、処理回路402は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。なお、受信結果格納装置403は、受信装置が実行する各受信ステージで得られる復調ビット系列を格納するために用いられる。
【0076】
また、本開示にかかる受信装置は、
図8に示す受信データ生成回路401と、制御回路であるプロセッサ404と、メモリ405と、ディスプレイ406とで実現することも可能である。ここで、プロセッサ404は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、システムLSI(Large Scale Integration)などである。メモリ405は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などである。
【0077】
実施の形態1で説明した受信処理部300−1〜300−N、実施の形態2で説明した受信処理部300a−1、実施の形態3で説明した第1の受信処理部300b−1および第2の受信処理部300b−2は、これらの各部として動作するためのプログラムをメモリ405に格納しておき、このプログラムをプロセッサ404が読み出して実行することにより、受信処理部300−1〜300−N,300a−1、第1の受信処理部300b−1、第2の受信処理部300b−2が実現される。
【0078】
また、メモリ405は、受信装置が実行する各受信ステージで得られる復調ビット系列を格納するためにも用いられる。ディスプレイ406は、受信装置による処理結果を表示する場合に用いられる。
【0079】
実施の形態1で説明した受信処理部300−1〜300−N、実施の形態2で説明した受信処理部300a−1、実施の形態3で説明した第1の受信処理部300b−1および第2の受信処理部300b−2がプロセッサ404およびメモリ405で実現される場合、メモリ405に格納されるプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROMなどの記憶媒体に書き込まれた状態でユーザ等に提供される形態であってもよいし、ネットワークを介して提供される形態であってもよい。
【0080】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
複数の無線信号が重畳した状態の信号を複数のアンテナで受信する受信装置であって、アンテナのそれぞれで受信した信号の受信タイミングおよび周波数に基づいて、複数の無線信号の中の一つである希望信号の受信品質を向上させるためのビーム形成用のウェイトを生成するウェイト生成部(302)と、アンテナのそれぞれで受信した信号の周波数に基づいて、アンテナのそれぞれで受信した信号間のドップラシフトを補償するための補正をウェイトに対して行うウェイト補正部(303)と、アンテナのそれぞれで受信した信号を補正後のウェイトを使用して合成する合成部(304)と、を備える。